特許第6703738号(P6703738)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703738
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】ダイカスト用スリーブ
(51)【国際特許分類】
   B22D 17/20 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
   B22D17/20 F
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-142542(P2015-142542)
(22)【出願日】2015年7月17日
(65)【公開番号】特開2017-24020(P2017-24020A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小川 衛介
(72)【発明者】
【氏名】清水 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】久鍋 英史
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−246449(JP,A)
【文献】 実開平02−087552(JP,U)
【文献】 特開平05−050205(JP,A)
【文献】 特開2002−283029(JP,A)
【文献】 実開平03−004350(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の外筒内にセラミックス製の内筒を焼嵌めしてなるスリーブ部材の先端部の外周面に金属製の先端リングを設けたダイカスト用スリーブであって、前記外筒の先端側端面を、前記内筒の先端側端面より全周にわたって突出させるとともに、前記先端リングにスリーブ部材側に突出する内周側凸部および外周側凸部を形成し、前記先端リングの外周側凸部で前記スリーブ部材の先端部の外周面を焼嵌めされているとともに、前記先端リングの外周側凸部の内周面と前記外筒の先端側外周面、または前記先端リングの内周側凸部の外周面と前記外筒の先端側内周面を螺合し、前記内筒の先端側端面と前記先端リングの内周側凸部とが当接していることを特徴とするダイカスト用スリーブ。
【請求項2】
前記外筒の先端側端面を、前記内筒の先端側端面より5mm〜60mm突出させることを特徴とする請求項1に記載のダイカスト用スリーブ。
【請求項3】
前記外筒の突出部分の厚みが、前記先端リングの内周側凸部の厚みより大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載のダイカスト用スリーブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金等の非鉄金属の溶湯をダイカスト金型に射出するためのダイカスト用スリーブに関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカストマシンでは、スリーブに溶融金属(溶湯)を溶湯の供給口から供給し、スリーブ内を摺動するプランジャチップによりスリーブと連通する金型キャビティに溶湯を射出し、溶湯を冷却固化させて製品を製造する(ダイカスティング)。このため、スリーブの内面には、溶湯により溶損が生じたり、プランジャチップの摺動により摩耗が生じたりする。スリーブの内面が溶損や摩耗により損傷すると、スリーブとプランジャチップとの間に溶湯が侵入してスリーブの摺動抵抗が増大し、射出速度が低下するため製品品質と生産性が低下する。スリーブとプランジャチップとの摺動抵抗を低減したり焼付きを防止したりするために多量の潤滑剤を使用すると、溶湯へのガス巻込み等の不純物混入が起こり易くなり、製品品質の低下を招く。
【0003】
スリーブ内面の溶損及び摩耗を低減するために、従来から金属からなる外筒内に、セラミックス製内筒を焼嵌めにより嵌着した複合構造のダイカスト用スリーブが提案されている。
【0004】
例えば、本出願人が提案した特許文献1(特開平7-246449号)は、Fe-Ni-Co系合金のような高強度低熱膨張性金属からなる外筒内に、窒化珪素、サイアロン等のセラミックスからなる内筒を焼嵌めしたダイカスト用スリーブにおいて、前記高強度低熱膨張性金属の20〜300℃の平均熱膨張係数が1×10-6/℃〜5×10-6/℃であり、20〜600℃の平均熱膨張係数が5×10-6/℃以上であるダイカスト用スリーブを開示している。このダイカスト用スリーブは、外筒を形成する高強度低熱膨張性金属材料と内筒を形成するセラミックス材料の材質の改良を図ることにより、外内筒間の焼嵌め効果をさらに向上させると共に、優れた射出安定性(耐溶損性、耐摩耗性、耐熱性、溶湯保温性及び耐焼付き性)を有するだけでなく、潤滑剤を低減できるので、溶湯にガス等の不純物が混入しにくくなり、製品品質の低下を抑制できる。また、外筒の両端部に固定リングを設け、かつこの固定リングを介して内筒を軸方向にボルト等で押圧保持することにより軸方向及び円周方向に外内筒のずれを防止できるものである。金型側の固定リングを先端リング、それと反対側の固定リングを後端リングと言う。
【0005】
しかしながら、例えば、大型の製品を鋳造する際に、スリーブ内に供給される溶湯の充填率が50%を超える等の熱負荷の大きい条件下で、特許文献1に記載したダイカスト用スリーブを使用した場合、まれに内筒の先端側端面にクラックもしくは欠損が発生することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-246449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、金属製の外筒内に、セラミックス製の内筒を焼嵌めにより嵌着し、先端に金属製の先端リングを具備する複合構造のダイカスト用スリーブにおいて、スリーブ内に供給される溶湯の充填率が50%を超える等の熱負荷の大きい条件下で、ダイカスティングを繰り返してもセラミックス製の内筒の先端側端面にクラックや欠損が発生するのを十分に防止できるダイカスト用スリーブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、前記セラミックス製内筒の先端側端面のクラックや欠損の原因が、ダイカストマシンの型締め力やプランジャチップとの摺動抵抗力等により発生する内筒内面の軸方向応力によるものと考え、当該部分に軸方向の圧縮応力を予め十分に付与できれば、この問題が解消できることを突き止め、本発明に想到した。
【0009】
本発明のダイカスト用スリーブは、金属製の外筒内にセラミックス製の内筒を焼嵌めしてなるスリーブ部材の先端部の外周面に金属製の先端リングを設けたダイカスト用スリーブであって、前記外筒の先端側端面を、前記内筒の先端側端面より全周にわたって突出させるとともに、前記先端リングにスリーブ部材側に突出する内周側凸部および外周側凸部を形成し、前記先端リングの外周側凸部で前記スリーブ部材の先端部の外周面を焼嵌めするとともに、前記先端リングの外周側凸部の内周面と前記外筒の先端側外周面、または前記先端リングの内周側凸部の外周面と前記外筒の先端側内周面を螺合し、前記内筒の先端側端面と前記先端リングの内周側凸部とが当接していることを特徴とする。
【0010】
前記外筒の先端側端面を、前記内筒の先端側端面より5mm〜60mm突出させることが好ましい。
【0011】
前記外筒の突出部分の厚みが、前記先端リングの内周側凸部の厚みより大きいことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のダイカスト用スリーブは、セラミックス製の内筒に軸方向圧縮力を十分に付与できるので、例えばスリーブ内に供給される溶湯の充填率が50%を超える等の熱負荷の大きい条件下で、ダイカスティング中に内筒に必要以上の軸方向応力が作用してもセラミックス製の内筒の端面にクラックや欠損が発生するのを十分に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のダイカスト用スリーブの一例を示す概略断面図である。
図2図1に示すスリーブ部材1と先端リング2を組立てる前の状態を示す説明図である。
図3図1中のA部の拡大図である。
図4図1中のA部の他の形態の拡大図である。
図5】FEM解析により得られた外筒の突出長さLを変化させたときの、内筒12の距離位置と、内筒の先端側端面の内面の円周方向応力(σt)および軸方向応力(σz)の関係を示す図である。
図6】FEM解析により得られた外筒11の突出長さLと軸方向応力(σz)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を添付図面を参照して以下詳細に説明するが、本発明は勿論それらに限定されるものではない。
【0015】
図1は本発明のダイカスト用スリーブの一例を示す概略断面図である。ダイカスト用スリーブは、金属製の外筒11内にセラミックス製の内筒12を焼嵌めしてなる複合構造のスリーブ部材1と、スリーブ部材1の先端部(溶湯が射出される側の先端部)の外周面に焼嵌めされた金属製の中空状の先端リング2を具備する。外筒11の後端面には複数のボルト15により固定された金属製の中空状の後端リング3を設ける。スリーブ部材1は、外筒11が後端付近の外周に開口部13を有し、内筒12が外筒11の開口部13と整合する位置に開口部14を有する。連通する外筒11及び内筒12の両開口部13、14は溶湯の供給口7を構成する。先端リング2はダイカストマシンの金型(図示せず)側に固定される。
【0016】
図2図1に示すスリーブ部材1と先端リング2を組立てる前の状態を示す説明図である。スリーブ部材1は、外筒11の先端側端面16が内筒12の先端側端面17より全周にわたって軸方向に長さL(これを外筒11の突出長さLと呼ぶ)突出するように、外筒11内に内筒12を焼嵌めして構成する。このように外筒11の先端側端面16を内筒12の先端側端面17より突出させることにより、内筒12の先端側端部に軸方向圧縮応力(σz)を付与できる。
【0017】
先端リング2は、スリーブ部材1と対向する側に全周にわたってリング状に突出する内周側凸部21および外周側凸部22を有する。図2のように別個に用意したスリーブ部材1と先端リング2を用いて両者を焼嵌め、螺合して組立て、図1のダイカスト用スリーブとする。詳細には先端リング2の外周側凸部22の少なくとも一部の内周面29と、外筒11の先端部の少なくとも一部の外周面23を焼嵌めるとともに、先端リング2の外周側凸部22の少なくとも一部の内周面24と外筒11の少なくとも一部の先端側外周面25を螺合して、または先端リング2の内周側凸部21の少なくとも一部の外周面27と外筒11の少なくとも一部の先端側内周面28を螺合することにより、内筒12の先端側端面17と先端リング2の内周側凸部21が当接するように、組立て一体化する。内筒12の先端側端面17と先端リング2の内周側凸部21とを当接させ、かつスリーブ部材1に先端リング2を、焼嵌め、螺合することにより、内筒12の先端側端部に軸方向圧縮応力(σz)をより確実に付与できる。このため、スリーブ内に供給される溶湯の充填率が50%を超えるような熱負荷の大きい条件下で、ダイカスティング中に内筒に必要以上の軸方向応力が作用してもセラミックス製の内筒の端面にクラックや欠損が発生するのを防止できる。
【0018】
内筒12の先端側端面17と先端リング2の内周側凸部21とを当接させるのは、当接により内筒12の先端側端部に軸方向圧縮応力(σz)を付与する効果と共に、内筒12の先端側端面17と先端リング2の内周側凸部21の間に溶湯が侵入、凝固して内筒12の先端側端面に欠けが発生することを防ぐためである。
【0019】
図3図1中のA部の拡大図を示す。スリーブ部材1は外筒11内に内筒12を焼嵌めた構造であり、外筒11の先端側端面16が、内筒12の先端側端面17より全周にわたって突出長さLで突出する。先端リング2はスリーブ部材1側に突出する内周側凸部21および外周側凸部22を有する。外筒11の先端側端面16と先端リング2の間に隙間30、および先端リング2の外周側凸部22の先端面と外筒11の間に隙間31が形成されるようにした先端リング2を用いて、内筒12の先端側端面17と先端リング2の内周側凸部21が当接するように、先端リング2の外周側凸部22の内周面24と外筒11の先端側外周面25を螺合させると共に、先端リング2の外周側凸部22で外筒11の先端側外周面23を焼嵌めて、スリーブ部材1と先端リング2を固定する。
【0020】
図4図1中のA部の他の形態の拡大図を示す。スリーブ部材1は外筒11内に内筒12を焼嵌めた構造であり、外筒11の先端側端面16が、内筒12の先端側端面17より全周にわたって突出長さLで突出する。先端リング2はスリーブ部材1側に突出する内周側凸部21および外周側凸部22を有する。外筒11の先端側端面16と先端リング2の間に隙間30、および先端リング2の外周側凸部22の先端面と外筒11の間に隙間31が形成されるようにした先端リング2を用いて、内筒12の先端側端面17と先端リング2の内周側凸部21が当接するように、先端リング2の内周側凸部21の外周面27と外筒11の先端側内周面28を螺合させると共に、先端リング2の外周側凸部22で外筒11の先端側外周面23を焼嵌めて、スリーブ部材1と先端リング2を固定する。
【0021】
外筒11の先端側端面16が内筒12の先端側端面17から突出した突出長さLと、内筒の先端側端面の内面に発生する応力の関係についてFEM解析を行い調べた。図5は、FEM解析により得られた外筒11の突出長さLを変化させたときの、内筒12の距離位置と、内筒12の先端側端面17の内面の円周方向応力(σt)および軸方向応力(σz)の関係を示す図である。FEM解析条件として、外筒11は高強度低熱膨張性金属(ヤング率138GPa、ポアソン比0.29、20℃から300℃までの平均熱膨張係数:3.6×10-6/℃、20℃から600℃までの平均熱膨張係数:9.5×10-6/℃)、内筒12はサイアロン焼結体(ヤング率300GPa、ポアソン比0.27、20℃から600℃までの平均熱膨張係数:3.0×10-6/℃)を用いた。また、内筒12の外径185mm、内筒12の内径150mm、外筒11の外径230mmとし、外筒11と内筒12との間の焼嵌め率([嵌合部における内筒12の外径−嵌合部における外筒11の内径]/嵌合部における外筒11の内径で表わされる)を2/1000、外筒11と内筒12との間の摩擦係数を0.1とした。
【0022】
図5において、外筒11の突出長さLが0mmの場合の解析結果をL0(点線)、外筒11の突出長さLが20mmの場合の解析結果をL20(実線)で表わす。図5から判るように、外筒11の突出長さLが0mmの場合、内筒12の先端部では軸方向応力(σz)が引張応力になる。一方、外筒11の突出長さLが20mmの場合、円周方向圧縮応力(σt)が増すとともに、内筒12の先端部近傍では軸方向応力(σz)が引張応力になる領域がなくなり、内筒12の先端部を含めて内筒12の全領域にわたって軸方向の圧縮応力を付与できる。
【0023】
また、図6は、前記と同じFEM解析により得られた外筒11の突出長さLと軸方向応力(σz)の関係を示す図である。外筒11の先端側端面16が内筒12の先端側端面17から突出した突出長さLが5mm以上になると軸方向圧縮応力の付与効果が得られる。外筒11の突出長さLが5mm未満では、軸方向圧縮応力の付与効果が不十分である。一方、外筒11の突出長さLが60mmを超えると、軸方向圧縮応力の付与効果が飽和するとともに、ダイカスト用スリーブの全長はマシンにより限定されることから、相対的にセラミックス製の内筒が短くなって、セラミックス製内筒の特徴である耐溶損性、溶湯保温性などが低下することになり好ましくない。したがって、外筒11の突出長さLは5mm〜60mmが好ましい。外筒11の突出長さLは10mm以上であると、軸方向圧縮応力の付与効果がより大きくなるため、より好ましい。同様の理由から突出長さLは20mm以上が、更に好ましい。また、外筒11の突出長さLは50mm以下であると、上記セラミックス製内筒の特徴をより生かせるため、より好ましい。同様の理由から、突出長さLは40mm以下が、更に好ましい。
【0024】
図3に示すように、外筒11の突出部分の厚みをd1、先端リング2の内周側凸部21の厚みをd2とすると、外筒11の突出部分の厚みd1が先端リング2の内周側凸部21の厚みd2より大きいと、軸方向の圧縮応力の付与効果がいっそう高まるので好ましい。外筒11の突出部分の厚みd1/先端リング2の内周側凸部21の厚みd2で表す比d1/d2は、1.0を超え3.0以下がより好ましい。1.5〜2.0がさらに好ましい。また先端リング2の外周側凸部22の厚みをd3とすると、d3が0.2以上であると、焼嵌め効果が高まるので好ましい。先端リング2の外周側凸部22の厚みd3/外筒11の突出部分の厚みd1で表す比d3/d1は、0.2〜1.0がより好ましい。0.3〜0.5がさらに好ましい。
【0025】
また、内筒12の厚みをD、先端リング2の内周側凸部21の厚みをd2とすると、内筒12の厚みDに対して先端リング2の内周側凸部21の厚みd2が小さすぎる場合、内筒12の先端側端面17と先端リング2の内周側凸部21との当接による軸方向圧縮応力の付与効果が不足し、また先端リング2の内周側凸部21の強度が不十分となるので好ましくない。また、外筒11の突出部分の内径Rと、外筒11と内筒12との焼嵌め径rは、R/r=0.9〜1.1であることが好ましい。R/rが0.9未満、またR/rが1.1を超えた場合共に、内筒12の先端側端部の軸方向圧縮応力の付与効果が不足するためである。R/rは1.0を超え1.05以下が更に好ましい。R/rが1.0を超えることにより、外筒11と内筒12を焼嵌めた後に、内筒の先端側端面17を加工できるため、加工により内筒の先端側端面と先端リング2の内周側凸部21の端面との当接を確実にすることができる。R/rは1.01〜1.03が更に好ましい。
【0026】
先端リング2の外周面には、ダイカスティング中に先端リング2を冷却する冷却手段を設けるのが好ましい。例えば、図1図4に示すように、冷媒(水など)を流すための冷却路33を設ける方法がよい。前記冷却路33は、先端リング2の外周面に形成した環状の溝部34にリング状のカバー部材35で覆い溶接で一体化することによって形成することができる。これにより先端リング2の熱膨張による緩みを効果的に抑えることができる。
【0027】
また、先端リング2の外周側凸部22でスリーブ部材1の先端部の外周面23を焼嵌めするとともに、先端リング2の外周側凸部22の内周面と外筒11の先端側外周面23、または先端リング2の内周側凸部21の外周面27と外筒11の先端側内周面28を螺合し、内筒12の先端側端面17と先端リング2の内周側凸部21とを当接させた後、先端リング2の外周側凸部22の内周面24と外筒11の先端側外周面25をボルト26で固定してもよい。
【0028】
スリーブ部材1は、金属製の外筒11内にセラミックス製の内筒12を焼嵌めしてなる。外筒11を形成する金属は、20℃から300℃までの平均熱膨張係数が1×10-6/℃〜5×10-6/℃であり、20℃から600℃までの平均熱膨張係数が5×10-6/℃以上である、いわゆる高強度低熱膨張性金属であるのが好ましい。このような金属の一例は、Fe-Ni-Co系合金に1種以上の析出強化元素を添加したものであり、析出強化元素としてはAl、Ti、Nb等が挙げられる。このような金属の好ましい組成例は、Ni:30〜35質量%、Co:12〜17質量%、Al:0.5〜1.5質量%、Ti:1.5〜3質量%、残部Feである。Al及びTiは析出強化元素として作用する。
【0029】
外筒11を形成する金属は、20℃から500℃までの引張強さが590MPa以上であるのが好ましく、690MPa以上であるのがより好ましい。これにより、スリーブ部材1内に注入された溶湯を射出する際の内部応力に対してセラミックス製の内筒12を十分に保護することができる。また、外筒11は室温で、15%以上(特に20%以上)の伸び、20W/m・K以下の熱伝導率、及び130GPa以上のヤング率を有するのが好ましい。また外筒11の寸法は、例えば内径90〜180mm、外径150〜300mm、軸方向の全長600〜1300mmとすることができる。
【0030】
内筒12を形成するセラミックスとしては、耐溶損性、耐摩耗性、耐熱性、溶湯保温性及び耐焼付き性に優れた窒化珪素又はサイアロン等の窒化珪素質焼結体が好ましい。前記窒化珪素質焼結体の組織は、窒化珪素粒子又はサイアロン粒子と、希土類元素を含む粒界相により構成されている。例えば20℃から600℃までの窒化珪素の平均熱膨張係数は3×10-6/℃〜3.5×10-6/℃である。
【0031】
高強度低熱膨張性金属製の外筒11と窒化珪素質焼結体製の内筒12を焼嵌めする際、焼嵌め温度は550〜600℃が好ましく、550〜600℃の焼嵌め温度において、外筒11と内筒12の熱膨張係数の差が大きいので、焼嵌め作業を容易に行うことができる。また、ダイカスト用スリーブ部材1内にアルミニウム溶湯を注入した場合、外筒11の内周は約300℃まで加熱されることもあるが、その温度範囲では金属と窒化珪素との熱膨張係数の差が小さいので、外筒11と内筒12との間に円周方向及び径方向のずれが発生しない。外筒11と内筒12との間の焼嵌め率は1/1000〜2.5/1000が好ましい。
【0032】
外筒11の溶湯射出側の先端部に焼嵌めされる先端リング2は、ダイカストマシンの金型とスリーブ部材1とを連結し、アルミニウム等の溶湯が通過するので、高強度であるとともに優れた耐熱性及び耐摩耗性を有する金属である必要がある。先端リング2を形成する金属は、SKD61のような熱間金型用鋼や、外筒11を形成する金属同様の高強度低熱膨張性金属からなるのが好適である。なかでも製作コストを比較的安価に抑えることができ、強度に優れる熱間金型用鋼を選定しさらに内面の射出されるアルミニウム溶湯等と接触する部分に、窒化処理による窒化層を形成することが好ましい。
【0033】
先端リング2を高強度低熱膨張性金属で形成する場合は、20℃から300℃までの平均熱膨張係数が1×10-6/℃〜5×10-6/℃であり、20℃から600℃までの平均熱膨張係数が5×10-6/℃以上である高強度低熱膨張性金属からなるのが好ましい。高強度低熱膨張性金属製の先端リング2は、射出されるアルミニウム等の溶湯と接触する先端リング2内面に、耐溶損性を高めるために窒化処理により窒化層を形成する、あるいは耐溶損性材料からなる肉盛層を形成するのが好ましい。
【0034】
スリーブ部材1と先端リング2を焼嵌めする際、焼嵌め温度は100〜300℃が好ましい。また、スリーブ部材1と先端リング2との間の焼嵌め率は0.3/1000〜0.8/1000が好ましい。焼嵌め率が0.3/1000未満ではスリーブ部材1と先端リング2との間に円周方向及び径方向の緩みを生じやすくなり、内筒12の先端側端部の軸方向圧縮応力の付与効果が不足する。焼嵌め率が0.8/1000を超えると割れる可能性が高まるので好ましくない。
【0035】
スリーブ部材1に焼嵌めされる先端リング2は、材質に関わらず、先端リング2を冷却する冷却手段は必ずしも必要ではない。特に、先端リング部材2を外筒11と同じ高強度低熱膨張性金属で形成した場合(熱膨張係数が同じ場合)は、冷却手段を設けなくても温度上昇による焼嵌部のゆるみがほとんど生じないので冷却手段が不要となる。従って、このような高強度低熱膨張性金属の使用は、先端リング部材2に冷却手段を形成できない構成に適している。ただし、そのような場合でも、先端リング部材の温度300℃以下で使用することが望ましい。
【0036】
(実施形態1)
図1に示す構造のダイカスト用スリーブは、Ni:32.7質量%、Co:14.8質量%、Al:0.8質量%、及びTi:2.3質量%、残部Fe及び不可避的不純物からなる高強度低熱膨張性金属(20℃から300℃までの平均熱膨張係数:3.6×10-6/℃、20℃から600℃までの平均熱膨張係数:9.5×10-6/℃、20℃の引張強さ1203MPa及び300℃の引張り強さ940MPa)製の外筒11(外筒11の突出部分を除く本体部の外径135mm、内径95mm、外筒11の長さ370mm、外筒11の突出部分の外径120mm)と、Si3N4:87質量%、Y2O3:6質量%、Al2O3:4質量%、及びAlN:3質量%の組成の原料粉末を焼結してなるサイアロン製の内筒12(外径95mm、内径75mm(厚み10mm)、長さ345mm)と、SKD61(熱間金型用鋼)製の先端リング2(外径135mm、内径75mm、全長200mm、内周側凸部21の厚み14mmおよび長さ25mm、外周側凸部22の厚み7.5mmおよび長さ70mm)と、SKD61(熱間金型用鋼)製の後端リング3で構成する。外筒11の突出長さLは、外筒11の長さ−内筒12の長さで25mmである。
【0037】
外筒11内にサイアロン製の内筒12を焼嵌めしてスリーブ部材1を製作した。外筒11と内筒12を焼嵌め温度は550℃、焼嵌め率2/1000で焼嵌めた。また、先端リング2にスリーブ部材1側に突出する内周側凸部21および外周側凸部22を形成した。そして、図3に示すように、外筒11の先端側端面16と先端リング2の間に隙間30、および先端リング2の外周側凸部22の先端面と外筒11の間に隙間31が形成されるようにした先端リング2を用いて、内筒12の先端側端面17と先端リング2の内周側凸部21が当接するように、先端リング2の外周側凸部22の内周面24と外筒11の先端側外周面25を螺合させると共に、先端リング2の外周側凸部22で外筒11の先端側外周面23を焼嵌め温度200℃、焼嵌め率0.5/1000で焼嵌めて、スリーブ部材1と先端リング2を固定した。次いで先端リング2の外周側凸部22の内周面24と外筒11の先端側外周面25をボルト26で固定した。
【0038】
上記構成のダイカスト用スリーブを型締力350トンの横型ダイカストマシンの溶湯射出装置に装着して、スリーブ内を摺動するプランジャチップとして耐摩耗性、潤滑性に優れたSKD61からなるプランジャチップを使用し、スリーブ内に供給される溶湯の充填率が50%を超えるアルミニウム合金のダイカストに使用した結果、内筒のクラックや欠損が発生は見られず、約50万ショットの安定した射出を行なうことができた。
【0039】
(実施形態2)
図1に示す構造のダイカスト用スリーブは、Ni:32.8質量%、Co:14.7質量%、Al:0.8質量%、及びTi:2.3質量%、残部Fe及び不可避的不純物からなる高強度低熱膨張性金属(20℃から300℃までの平均熱膨張係数:3.6×10-6/℃、20℃から600℃までの平均熱膨張係数:9.5×10-6/℃、20℃の引張強さ1205MPa及び300℃の引張り強さ940MPa)製の外筒11(外筒11の突出部分を除く本体部の外径135mm、内径95mm、外筒11の長さ400mm、外筒11の突出部分の外径120mm)と、Si3N4:87質量%、Y2O3:6質量%、Al2O3:4質量%、及びAlN:3質量%の組成の原料粉末を焼結してなるサイアロン製の内筒12(外径95mm、内径75mm(厚み10mm)、長さ345mm)と、Ni:32.8質量%、Co:14.7質量%、Al:0.8質量%、及びTi:2.3質量%、残部Fe及び不可避的不純物からなる高強度低熱膨張性金属(20℃から300℃までの平均熱膨張係数:3.6×10-6/℃、20℃から600℃までの平均熱膨張係数:9.5×10-6/℃、20℃の引張強さ1205MPa及び300℃の引張り強さ940MPa)製の先端リング2(外径135mm、内径75mm、全長200mm、内周側凸部21の厚み8mmおよび長さ55mm、外周側凸部22の厚み7.5mmおよび長さ100mm)と、SKD61(熱間金型用鋼)製の後端リング3で構成する。外筒11の突出長さLは、外筒11の長さ−内筒12の長さで55mmである。また先端リング2の内面の射出されるアルミニウム等の溶湯と接触する部分に、窒化処理による窒化層を形成した。
【0040】
上記構成のダイカスト用スリーブは、実施形態1同様に組立て、ダイカストマシンの溶湯射出装置に装着して使用した結果、内筒のクラックや欠損が発生は見られず、約50万ショットの安定した射出を行なうことができた。
【0041】
以上、本発明の実施形態について、スリーブ内に供給される溶湯の充填率が50%を超える熱負荷の大きい条件下での例を用いて説明したが、本発明のダイカスト用スリーブは、スリーブ内に供給される溶湯の充填率が50%未満の熱負荷の小さな条件下でも、使用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0042】
1・・・スリーブ部材、11・・・外筒、12・・・内筒、2・・・先端リング、
3・・・後端リング、13・・・開口部、14・・・開口部、7・・・溶湯の供給口、
16・・・外筒の先端側端面、17・・・内筒の先端側端面、21・・・先端リングの内周側凸部、
22・・・先端リングの外周側凸部、23・・・外筒の先端側外周面、
24・・・先端リングの外周側凸部の内周面、25・・・外筒の先端側外周面
26・・・ボルト、27・・・先端リングの内周側凸部の外周面、28・・・外筒の先端側内周面、
29・・・先端リングの外周側凸部の内周面、30・・・隙間、31・・・隙間、33・・・冷却路、
34・・・溝部、35・・・カバー部材、
L・・・突出長さ、d1・・・外筒の突出部分の厚み、d2・・・先端リングの内周側凸部の厚み、
d3・・・先端リングの外周側凸部の厚み
図1
図2
図3
図4
図5
図6