(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703878
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】チタン銅箔および、その製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 9/00 20060101AFI20200525BHJP
C22F 1/08 20060101ALI20200525BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20200525BHJP
G03B 17/02 20060101ALN20200525BHJP
【FI】
C22C9/00
C22F1/08 B
!C22F1/00 602
!C22F1/00 622
!C22F1/00 630A
!C22F1/00 630F
!C22F1/00 630K
!C22F1/00 661A
!C22F1/00 682
!C22F1/00 683
!C22F1/00 685Z
!C22F1/00 686A
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691C
!C22F1/00 692A
!C22F1/00 694A
!G03B17/02
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-73378(P2016-73378)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-179570(P2017-179570A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2016年11月28日
【審判番号】不服2018-14128(P2018-14128/J1)
【審判請求日】2018年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】岸本 諒太
(72)【発明者】
【氏名】田内 智
(72)【発明者】
【氏名】小池 健志
【合議体】
【審判長】
粟野 正明
【審判官】
土屋 知久
【審判官】
中澤 登
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−37613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C9/00-9/10
C22F1/00-3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tiを1.5〜5.0質量%で含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなり、箔厚が0.018mm以上かつ0.1mm以下であり、圧延方向と平行な方向に60mmの間隔で並んで位置する5つの測定点での箔厚の変動が0.0μm〜1.0μmであるチタン銅箔。
【請求項2】
圧延方向に平行な方向での引張強さが1100MPa以上である請求項1に記載のチタン銅箔。
【請求項3】
Al、Ag、B、Co、Fe、Mg、Mn、Mo、Ni、P、Si、Cr及びZrから選択される1種以上の元素を、総量で0〜1.0質量%さらに含有する請求項1又は2に記載のチタン銅箔。
【請求項4】
Tiを1.5〜5.0質量%で含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなるインゴットを鋳造し、前記インゴットに対し、熱間圧延と、第一冷間圧延と、平均結晶粒径を100〜160μmに調整する溶体化処理と、溶体化処理後の引張強さに対する引張強さの増量を100〜240MPaに調整する溶体化後加熱処理と、第二冷間圧延と、200〜450℃の温度で2時間〜20時間にわたって加熱する時効処理とをこの順序で行うことを含み、
箔厚が0.018mm以上かつ0.1mm以下であるチタン銅箔を製造する、チタン銅箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートフォーカスカメラモジュール等の導電性ばね材に用いることに好適な、優れた強度を備えたCu−Ti系合金箔に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話のカメラレンズ部には、オートフォーカスカメラモジュールと呼ばれる電子部品が使用される。携帯電話のカメラのオートフォーカス機能は、オートフォーカスカメラモジュールに使用される材料のばね力により、レンズを一定方向に動かすとともに、周囲に巻かれたコイルに電流を流すことで発生する電磁力により、レンズを材料のばね力が働く方向とは反対方向へ動かす。このような機構でカメラレンズが駆動してオートフォーカス機能が発揮される(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
したがって、オートフォーカスカメラモジュールに使用される銅合金箔には、電磁力による材料変形に耐えるほどのばね強度が必要になる。ばね強度が低いと、電磁力による変位に材料が耐えることができず、永久変形(へたり)が発生し電磁力を除荷したあと初期の位置に戻らない。へたりが生じると、一定の電流を流したとき、レンズが所望の位置に移動できずオートフォーカス機能が発揮されない。
【0004】
オートフォーカスカメラモジュールには、箔厚0.1mm以下で、1100MPa以上の引張強さまたは0.2%耐力を有するCu−Ni−Sn系銅合金箔が使用されてきた。しかし、近年のコストダウン要求により、Cu−Ni−Sn系銅合金より比較的材料価格が安いチタン銅箔が使用されるようになり、その需要は増加しつつある。
【0005】
一方で、チタン銅箔の強度はCu−Ni−Sn系銅合金箔より低く、へたりが生じる問題があるため、その高強度化が望まれている。チタン銅の強度を改善する技術としては、特許文献3〜6に記載されたもの等がある。特許文献3では最終再結晶焼鈍にて平均結晶粒径を調整し、その後、冷間圧延、時効処理を順次行う方法が記載されている。特許文献4では固溶化処理後に、冷間圧延、時効処理、冷間圧延を順次行う方法が記載されている。特許文献5では、熱間圧延及び冷間圧延を行った後、750〜1000℃の温度域で5秒〜5分間保持する溶体化処理を行い、次いで、圧延率0〜50%の冷間圧延、300〜550℃の時効処理、及び圧延率0〜30%の仕上げ冷間圧延を順次行うことにより板面における{420}のX線回折強度を調整する方法が記載されている。特許文献6では、第一溶体化処理、中間圧延、最終の溶体化処理、焼鈍、最終の冷間圧延、及び時効処理を所定の条件で順次行うことにより圧延面における{220}のX線回折強度の半価幅を調整する方法が提案されている。
【0006】
さらに、強度を高くすることに加え、へたりの発生を抑制するため、特許文献7では表面粗さを小さくすること、特許文献8では結晶方位を調整すること、特許文献9ではヤング率を小さくすることがそれぞれ提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−280031号公報
【特許文献2】特開2009−115895号公報
【特許文献3】特許第4001491号公報
【特許文献4】特許第4259828号公報
【特許文献5】特開2010−126777号公報
【特許文献6】特開2011−208243号公報
【特許文献7】特許第5723849号公報
【特許文献8】特許第5526212号公報
【特許文献9】特開2014−074193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3〜6の明細書中に記載された実施例及び比較例の中には、1100MPa以上の0.2%耐力をもつチタン銅も幾つか見受けられる。しかしながら、これらの特許文献3〜6で提案された従来技術では、材料に荷重を加え変形させたのち荷重を除去すると、へたりが生じるため、単に高強度であるだけではオートフォーカスカメラモジュール等の導電性ばね材として使用できないことが分かった。
【0009】
また、特許文献7〜9はそれぞれ、へたりの課題に着目し、このへたりの発生を抑制する方法を提案している。しかしながら、箔厚が0.1mm以下と薄いものについては、特許文献7〜9の提案技術では、その効果が所期するほどには発揮されないことが分かった。すなわち、特許文献7〜9の提案技術は、箔厚が0.1mmを超えるものには大きな効果が発揮されるものの、箔厚が0.1mmを超えるものには、箔厚が0.1mmを超えるものから予測されるほどの十分な効果が発揮されないことが分かった。
【0010】
本発明は、このような問題を解決することを課題とするものであり、箔厚が0.1mm以下の薄いものであってもばねとして用いた際のへたりが小さく、オートフォーカスカメラモジュール等の電子機器部品に使用される導電性ばね材として好適に用いることのできるチタン銅箔およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は、従来技術のような、へたりを抑制する手段を用いても、箔厚が薄いチタン銅箔でのへたりの発生の有無は箔厚そのものの影響を受けることから、そのような手段により発揮される効果は厚みが厚いものに比べて小さくなることを見出した。そして、厚みの薄いチタン銅箔であっても、箔厚の変動を小さくすることにより、ばねとして用いた際にへたりの発生が最小限にとどまることを見出した。
さらに、かかる箔厚変動の小さいチタン銅箔は、従来と同様にして熱間圧延、第一冷間圧延、溶体化処理および第二冷間圧延を順次に行う際において、溶体化処理で結晶粒を粗大化するとともに、溶体化処理につづいて溶体化後加熱処理を行い適度に硬化させたのち第二冷間圧延を行うことにより得ることができるとの知見を得た。
【0012】
このような知見に基き、本発明のチタン銅箔は、Tiを1.5〜5.0質量%で含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなり、箔厚が
0.018mm以上かつ0.1mm以下であり、圧延方向と平行な方向に60mmの間隔で並んで位置する5つの測定点での箔厚の変動が0.0μm〜1.0μmであるものである。
【0013】
そしてまた、上記のチタン銅箔は、圧延方向に平行な方向での引張強さが1100MPa以上であることが好ましい。
【0014】
なお、上記のチタン銅箔は、Al、Ag、B、Co、Fe、Mg、Mn、Mo、Ni、P、Si、Cr及びZrから選択される1種以上の元素を、総量で0〜1.0質量%さらに含有するものとすることができる。
【0015】
また、本発明のチタン銅箔の製造方法は、Tiを1.5〜5.0質量%で含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなるインゴットを鋳造し、前記インゴットに対し、熱間圧延と、第一冷間圧延と、平均結晶粒径を100〜160μmに調整する溶体化処理と、溶体化処理後の引張強さに対する引張強さの増量を100〜240MPaに調整する溶体化後加熱処理と、第二冷間圧延と、200〜450℃の温度で2時間〜20時間にわたって加熱する時効処理とをこの順序で行うことを含
み、箔厚が0.018mm以上かつ0.1mm以下であるチタン銅箔を製造するものである。
【0016】
また、この製造方法では、第二冷間圧延での圧下率を55%以上とすることが好ましい。
【0017】
そしてまた、この製造方法は、時効処理の後、圧下率を35%以上とする第三冷間圧延をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、圧延方向と平行な方向に60mmの間隔で並んで位置する5つの測定点での箔厚の変動を0.0μm〜1.0μmとすることにより、箔厚が0.1mm以下の薄いものであってもばねとして用いた際のへたりが小さいチタン銅箔を提供することができる。このようなチタン銅箔は、オートフォーカスカメラモジュール等の電子機器部品に使用される導電性ばね材として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例のへたり量を測定する方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の一の実施形態のチタン銅箔は、Tiを1.5〜5.0質量%で含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなるものであり、圧延方向と平行な方向に60mmの間隔で並んで位置する5つの測定点での箔厚の変動が0.0μm〜1.0μmである。
【0021】
(Ti濃度)
本発明に係るチタン銅箔においては、Ti濃度を1.5〜5.0質量%とする。チタン銅は、溶体化処理によりCuマトリックス中へTiを固溶させ、時効処理により微細な析出物を合金中に分散させることにより、強度及び導電率を上昇させる。
Ti濃度が1.5質量%未満になると、析出物の析出が不充分となり所望の強度が得られない。Ti濃度が5.0質量%を超えると、加工性が劣化し、圧延の際に材料が割れやすくなる。強度及び加工性のバランスを考慮すると、好ましいTi濃度は2.9〜3.5質量%である。
【0022】
(その他の添加元素)
本発明に係るチタン銅箔においては、Al、Ag、B、Co、Fe、Mg、Mn、Mo、Ni、P、Si、CrおよびZrのうち1種以上を総量で0〜1.0質量%含有させることにより、強度を更に向上させることができる。これら元素の合計含有量は0、つまり、これら元素は含まなくてもよい。これら元素の合計含有量の上限を1.0質量%としたのは、1.0質量%を超えると、加工性が劣化し、熱間圧延の際に材料が割れやすくなるからである。
【0023】
(引張強さ)
オートフォーカスカメラモジュールの導電性ばね材等として好適なチタン銅箔に必要な引張強さは1100MPa以上であり、より好ましくは1300MPa以上である。本発明においては、チタン銅箔の圧延方向に平行な方向の引張強さを測定し、引張強さはJIS Z2241(金属材料引張試験方法)に準拠して測定する。
【0024】
(箔厚変動)
本発明のチタン銅箔では、圧延方向と平行な方向に、60mmの間隔をおいて連続する5つの測定点を設定し、当該5つの測定点の箔厚を測定した場合、その箔厚変動が、0.0μm〜1.0μmである。
ここで、箔厚変動は、60mm間隔で圧延方向に離れて並ぶ5つの測定点で箔厚を測定し、それにより得られる5つの箔厚データの最大値と最小値との差と定義する。箔厚変動を小さくすることにより、耐へたり特性を向上させることが可能になる。このような5つの測定点での箔厚の測定を少なくとも一回行い、その少なくとも一回の測定で、5つの測定点の箔厚変動が0.0μm〜1.0μmの範囲内であれば、本発明に含まれる
【0025】
(銅箔の厚み)
本発明のチタン銅箔の一の実施形態では、箔厚が0.1mm以下であり、典型的な実施形態では箔厚が0.018mm〜0.08mmであり、より典型的な実施形態では箔厚が0.02mm〜0.05mmである。
【0026】
(製造方法)
上述したようなチタン銅箔を製造するには、まず溶解炉で電気銅、Ti等の原料を溶解し、所望の組成の溶湯を得る。そして、この溶湯をインゴットに鋳造する。チタンの酸化磨耗を防止するため、溶解及び鋳造は真空中又は不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。その後、インゴットに対し、典型的には、熱間圧延、第一冷間圧延、溶体化処理、溶体化後加熱処理、第二冷間圧延、時効処理、第三冷間圧延、防錆処理をこの順で実施し、所望の箔厚及び特性を有する箔に仕上げる。
【0027】
熱間圧延及びその後の第一冷間圧延の条件はチタン銅の製造で行われている慣例的な条件で行えば足り、ここでは特段要求される条件はない。また、溶体化処理についても慣例的な条件で構わないが、例えば700〜1000℃で5秒間〜30分間の条件で行うことができる。
【0028】
溶体化処理では、平均結晶粒径を調整するため、好ましくは温度の範囲は800℃〜950℃であり、また、好ましい時間の範囲は120秒(2分)〜300秒(5分)である。但し、平均結晶粒径を調整することができる温度と時間であれば、かかる好ましい範囲を外れるものであってもよい。
溶体化処理で調整する平均結晶粒径は、100〜160μmである。この平均結晶粒径が100μmを下回ると、その後の冷間圧延で箔厚変動が1.0μmを超える。平均結晶粒径が160μmを超えると、その後の冷間圧延における箔厚変動は小さくなるものの、表面に厚い酸化膜及び内部酸化層が生成しその除去が困難になる。なお、箔厚変動の低減の効果は、溶体化処理で調整する平均結晶粒径が160μmを超えると飽和する。
平均結晶粒径は、板面(圧延面)を研磨したのちエッチングし、その面を光学顕微鏡で観察し、100個の結晶粒についてJIS H0501の切断法により測定する。
【0029】
溶体化処理に続いて行う溶体化後加熱処理では、引張強さの増量を調整する。溶体化後加熱処理は、溶体化処理をしたチタン銅合金を加熱し時効硬化させるものである。溶体化後加熱処理は、時効硬化させる目的から、溶体化処理温度より低い温度で行う。溶体化後加熱処理は、好ましい温度の範囲が600〜700℃であり、また好ましい時間の範囲が120秒〜300秒(5分)である。但し、引張強さの増量を調整することができる温度と時間であれば、好ましい範囲を外れるものであってもよい。
【0030】
溶体化後加熱処理で調整する引張強さの増量は、100〜240MPaである。引張強さの増量が100MPaを下回ると、その後の冷間圧延で箔厚変動が1.0μmを超える。引張強さの増量が240MPaを超えると、その後の冷間圧延における箔厚変動は小さくなるものの、加工硬化のために冷間圧延の続行そのものが困難になる。なお、箔厚変動の低減の効果は、溶体化処理後に行う加熱処理で調整する引張強さの増量が240MPaを超えると飽和する。
引張強さの増量は、溶体化後加熱処理の前後における引張強さの増量であり、次式により算出することができる
引張強さの増量=溶体化後加熱処理後の引張強さ−溶体化処理後(溶体化後加熱処理前)の引張強さ
【0031】
上述の強度を得るため、第二冷間圧延の圧下率は55%以上に設定することが好ましい。より好ましくは60%以上、更に好ましくは65%以上である。この圧下率が55%未満になると、1100MPa以上の引張強さを得るのは困難になる。圧下率の上限は、本発明が目的とする強度の点からは特に規定されないが、工業的に99.8%を超えることはない。
【0032】
時効処理の加熱温度は200〜450℃とし、加熱時間は2時間〜20時間とする。加熱温度が200℃未満である場合や450℃を超える場合は、1100MPa以上の引張強さを得ることが困難になる。加熱時間が2時間未満の場合や20時間を越える場合は、1100MPa以上の引張強さを得ることが困難になる。
【0033】
第三冷間圧延の圧下率は35%以上に設定することが好ましい。より好ましくは40%以上、更に好ましくは45%以上である。この圧下率が35%未満になると、1100MPa以上の引張強さを得るのは困難になる。圧下率の上限は、目的とする強度の点からは特に規定されないが、工業的に99.8%を超えることはない。なお、第三冷間圧延は、それほどに高い強度が求められない用途の場合は省略することもできる。
【0034】
なお一般に、熱処理後には、表面に生成した酸化皮膜または酸化物層を除去するために、表面の酸洗や研磨等を行う。本発明でも熱処理後に表面の酸洗や研磨等を行うことも可能である。
【0035】
(用途)
本発明のチタン銅箔は、限定的ではないが、スイッチ、コネクタ、ジャック、端子、リレー等の電子機器用部品の材料として好適に使用することができ、とりわけオートフォーカスカメラモジュール等の電子機器部品に使用される導電性ばね材として好適に使用することができる。
【実施例】
【0036】
次に、本発明のチタン銅箔を実際に試作し、その性能を評価したので以下に説明する。但し、ここでの説明は、単なる例示を目的としたものであって、それに限定されることを意図するものではない。
【0037】
のTiを所定の濃度で含有し残部が銅及び不可避的不純物からなる合金を実験材料とし、この材料の特性を調査した。
【0038】
<製造条件>
試作品の製造は次のようにして行った。まず真空溶解炉にて電気銅を溶解し、所定のTi濃度で厚さが30mmであるインゴットを製造した。
このインゴットを950℃で3時間加熱し、厚さ10mmまで圧延する熱間圧延を行った。熱間圧延で生成した酸化スケールをグラインダーで除去して研削を行った。なお、この研削後の厚みは9mmであった。次いで、第一冷間圧延を実施し、厚さ1.5mmまで圧延した。その後の溶体化処理では、800〜950℃に昇温した電気炉に試料を装入し、120秒〜300秒(5分)を保持した後、試料を水槽に入れて急冷却した。溶体化処理につづいて溶体化処理後加熱処理を行った。溶体化処理後加熱処理では、600〜700℃に昇温した電気炉に試料を装入し、120秒〜300秒(5分)を保持した後、試料を水槽に入れて急冷却した。そして、第二冷間圧延を行い、ここでは圧下率98%にて0.03mmの箔厚まで圧延した。その後は、時効処理として、300℃で10時間加熱した。ここで、時効処理のこの温度は、時効後の引張強さが最大になるように選択した。なお、第三冷間圧延は行わなかった。
以上のように作製した試料に対し、次の各評価を行った。
【0039】
<箔厚変動>
60mm間隔で圧延方向に連続する5点について箔厚を測定し、5個のデータの最大値と最小値との差を算出しその値を箔厚変動とした。箔厚を測定する機器として、メーカーが株式会社ニコン、品名がデジマイクロ(DIGIMICRO)、型式がNikon MH−15Mのものを用いた。箔厚は、サブミクロンオーダー(0.1μm単位)で測定した。
【0040】
<へたり>
幅10mmの短冊試料を長手方向が圧延平行方向となるように採取した。短冊試料は、60mm間隔で圧延方向に連続する5か所から採取し5個の短冊試料とした。そして、
図1のように、試料の片端を固定し、この固定端から距離Lの位置に、先端をナイフエッジに加工したポンチを1mm/分の移動速度で押し当て、試料に距離dのたわみを与えた後、ポンチを初期の位置に戻し除荷した。除荷後、へたり量δを求めた。この測定を5個の短冊試料それぞれについて行い5個のへたり量δを得た。5個のへたり量δのうち最も値の高いへたり量δを測定値とした。
試験条件は試料の箔厚が0.05mm以下の場合、L=3mm、d=2mmとし、箔厚が0.05mmより厚い場合、L=5mm、d=4mmとした。また、へたり量は0.01mmの分解能で測定し、へたりが検出されなかった場合は<0.01mmと表記している。
これらの評価結果を、所定の製造条件とともに表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
本発明の範囲内である発明例1〜25は、0.2%耐力が1100MPa以上、箔厚変動が0.0μm〜1.0μmの小さい値であり、へたり量が0.01mm未満の低い値であり、いずれも良好な特性を示した。
【0044】
一方、比較例1〜3は溶体化処理が好ましい範囲を外れたことから、平均結晶粒径が100μm未満であり、箔厚変動の増加に起因して、へたり量が0.02mm以上の高い値を示した。
比較例4〜6は溶体化後加熱処理が好ましい範囲を外れたことから、溶体化後加熱処理前後の引張強さの増量が100MPa未満となり、箔厚変動が1.0μmを超える高い値となり、へたり量が0.02mm以上の高い値を示した。
【0045】
比較例7は、溶体化後加熱処理を行わなかったことから、溶体化後加熱処理前後の引張強さの増量がゼロとなって、箔厚変動が1.0μmを超える高い値となり、へたり量が0.06mmの高い値を示した。
比較例8は、溶体化処理が好ましい範囲を外れたこと、及び、溶体化後加熱処理を行わなかったことから、箔厚変動が1.0μmを超える高い値となり、へたりの量が0.08mmの高い値を示した。
【0046】
比較例9は、Ti成分が下限を外れたため引張強さが低かった。
比較例10及び11は、Ti成分または副成分が上限を外れたため熱間圧延で割れが発生し加工することができなかった。