(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
円相当直径が0.2μm以上の炭素相当領域内での前記触媒成分及び前記電解質材料の濃度が、円相当直径が0.2μm以上の炭素相当領域外での前記触媒成分及び前記電解質材料の濃度よりも低いことを特徴とする、請求項1または2に記載の燃料電池用触媒層。
任意の5μm×5μm角の視野内で円相当直径が0.2μm以上の炭素相当領域の個数が5個以下であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の燃料電池用触媒層。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の一種である固体高分子形燃料電池は、固体高分子電解質膜の両面に配置される一対の触媒層と、各触媒層の外側に配置されるガス拡散層と、各ガス拡散層の外側に配置されるセパレータとを備える。一対の触媒層のうち、一方の触媒層は固体高分子形燃料電池のアノードとなり、他方の触媒層は固体高分子形燃料電池のカソードとなる。なお、通常の固体高分子形燃料電池では、所望の出力を得るために、上記構成要素を有する単位セルが複数個スタックされている。
【0003】
アノード側のセパレータには、水素等の還元性ガスが導入される。アノード側のガス拡散層は、還元性ガスを拡散させた後、アノードに導入する。アノードは、触媒成分と、触媒成分を担持する触媒担体と、プロトン伝導性を有する電解質材料とを含む。触媒担体は、炭素材料で構成されることが多い。触媒成分上では、還元性ガスの酸化反応が起こり、プロトンと電子が生成される。例えば、還元性ガスが水素ガスとなる場合、以下の酸化反応が起こる。
H
2→2H
++2e
− (E
0=0V)
【0004】
この酸化反応で生じたプロトンは、アノード内の電解質材料、及び固体高分子電解質膜を通ってカソードに導入される。また、電子は、触媒担体、ガス拡散層、及びセパレータを通って外部回路に導入される。この電子は、外部回路で仕事をした後、カソード側のセパレータに導入される。そして、この電子は、カソード側のセパレータ、カソード側のガス拡散層を通ってカソードに導入される。
【0005】
固体高分子形電解質膜は、プロトン伝導性を有する電解質材料で構成されている。固体高分子電解質膜は、上記酸化反応で生成したプロトンをカソードに導入する。
【0006】
カソード側のセパレータには、酸素ガスあるいは空気等の酸化性ガスが導入される。カソード側のガス拡散層は、酸化性ガスを拡散させた後、カソードに導入する。カソードは、触媒成分と、触媒成分を担持する触媒担体と、プロトン伝導性を有する電解質材料とを含む。触媒担体は、炭素材料で構成されることが多い。触媒成分上では、酸化性ガスの還元反応が起こり、水が生成される。例えば、酸化性ガスが酸素ガスあるいは空気となる場合、以下の還元反応が起こる。
O
2+4H
++4e
−→2H
2O (E
0=1.23V)
【0007】
還元反応で生じた水は、未反応の酸化性ガスとともに燃料電池の外部に排出される。このように、固体高分子形燃料電池では、酸化反応と還元反応とのエネルギー差(電位差)を利用して発電する。言い換えれば、酸化反応で生じた電子が外部回路で仕事を行う。
【0008】
ところで、近年、特許文献1〜6に開示されているように、MCND(メソポーラスカーボンナノデンドライト)を触媒担体として使用する技術が提案されている。MCNDは、他の炭素材料には認められない特徴的な構造を有する。具体的には、MCNDは、非常に発達した細孔構造(多孔質構造)と大きなスケールの樹状構造を両立させた構造を有する。つまり、MCNDを構成する担体粒子は、その内部に触媒成分を担持可能な気孔を多数有しており、かつ、大きな樹状構造を有している。
【0009】
なお、触媒担体用炭素材料として一般的なカーボンブラックにも、細孔構造が発達したものが存在する。しかし、細孔構造が発達したカーボンブラックでは、一次粒子が小さく樹状構造のスケールが小さくなる傾向にある。また、一次粒子が大きく樹状構造のスケールが大きいカーボンブラックも存在するが、このようなカーボンブラックでは、細孔構造が発達していない傾向にある。従って、発達した細孔構造と樹状構造を両立させたカーボンブラックは存在しなかった。これに対し、MCNDは、非常に発達した細孔構造と大きなスケールの樹状構造を両立しているため、燃料電池に優位な以下の二つの特徴を併せ持つことができる。
【0010】
第一に、MCNDは非常に発達した細孔構造を有するため、極めて多数の触媒成分が細孔内部に担持される。このため、触媒利用率が極めて高くなる傾向がある。具体的には、MCNDを触媒担体として用いた触媒層(以下、MCNDを触媒担体として用いた触媒層を「MCND触媒層」とも称する)の断面を電子顕微鏡で観察すると、担体粒子の断面で多くの触媒成分が観察される。そして、MCND触媒層を用いた固体高分子形燃料電池では、触媒利用率が非常に高くなる。すなわち、触媒成分の使用量が少なくても高い性能が発揮される。この理由として、細孔内部に担持された触媒成分は、電解質材料により被覆されにくいことが考えられる。すなわち、触媒成分が電解質材料に覆われた場合、そのような触媒成分に還元性ガスまたは酸化性ガスが届きにくくなる。したがって、電解質材料に覆われた触媒成分は、酸化還元反応に使用されにくくなる。MCNDを触媒担体として使用した場合、電解質材料に覆われる触媒成分の量を低減することができるので、触媒利用率が向上すると考えられる。
【0011】
一方で、細孔構造がほとんど発達していない(すなわち、細孔が担体粒子内にほとんど存在しない)炭素材料を触媒層の触媒担体として使用した場合、触媒成分は担体粒子の外部表面のみに担持される。具体的には、触媒層の断面を電子顕微鏡で観察すると、担体粒子の断面には触媒成分がほとんど観察されない。そして、このような触媒層を用いた固体高分子形燃料電池では、触媒利用率が非常に低くなる。すなわち、固体高分子形燃料電池の性能は、触媒成分の使用量によって期待される性能よりも低くなりやすい。
【0012】
この理由として、担体粒子の外部表面に担持された触媒成分が電解質材料に被覆されることが挙げられる。上述したように、電解質材料に覆われた触媒成分には、還元性ガスまたは酸化性ガスが届きにくくなる。つまり、触媒成分へのガス拡散抵抗が大きくなり、触媒成分が酸化還元反応に使用されにくくなる。このため、触媒利用率が低下すると考えられる。
【0013】
第二に、MCNDの発達した樹状構造によって、一般に用いられるカーボンブラックでは認められない非常に大きな空隙がMCND内に形成される。したがって、MCND触媒層内に大きな空隙が形成される。MCND触媒層内の空隙は、還元性ガスまたは酸化性ガスの拡散経路として働く。空隙が大きいほどガスの拡散効率が高まるので、大きな空隙は、触媒利用率の向上や、特に高負荷性能の改善や限界電流密度の向上に大きく貢献する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、本発明者がMCNDについて詳細に検討したところ、MCND触媒層の性能は、MCND触媒層のロット毎にバラつくという問題があった。具体的には、本発明者は、触媒成分の担持率、触媒成分の粒子径、及び触媒成分の目付量のばらつきを5%以内に抑えて複数の固体高分子形燃料電池を作製したところ、これらの限界電流密度が10%以上バラつくことが判明した。また、近年では、MCNDに対するさらなる性能向上が強く求められていた。
【0016】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、MCND触媒層の性能のバラ付きを抑制し、ひいては、MCND触媒層の性能を向上させることが可能な、新規かつ改良された燃料電池用触媒層、触媒担体用炭素材料、及び触媒担体用炭素材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述したように、MCNDは触媒担体として非常に高い性能を発揮することができる。しかし、MCNDを触媒担体として用いた燃料電池は、ロットごとに性能にバラ付きが生じる。本発明者は、その原因を探るため、触媒担体としてMCNDを使用し、かつ、触媒成分の担持率、触媒成分の粒子径、及び触媒成分の目付量のばらつきを5%以内に抑えて複数のMCND触媒層を作製した。この結果、MCND触媒層の厚みに10%程度のバラ付きが生じることが明らかとなった。MCND触媒層の厚みが小さくなると、フラッディングが生じやすくなる。ここで、フラッディングとは、カソード側のMCND触媒層内で生じる現象であり、還元反応で生じた水分及び酸化性ガスに含まれる水分によって担体粒子間の空隙が閉塞する現象である。したがって、フラッディングが生じると、MCND触媒層内のガス拡散経路が分断されることとなる。そして、ガス拡散経路が分断されると、限界電流密度の減少等が生じうる。したがって、本発明者は、このようなフラッディングにより性能のバラ付きが生じていると推定した。
【0018】
そこで、本発明者は、MCND触媒層の厚みにバラ付きが生じる原因について特定すべく、まず、MCND触媒層の断面形状に着目した。具体的には、本発明者は、MCND触媒層をイオンミリングすることで、MCND触媒層の断面を切り出した。そして、本発明者は、MCND触媒層の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察した。これにより得られた二次電子像の一例を
図11に示す。
図11は、加速電圧5kV、倍率1万倍の二次電子像である。MCND触媒層の断面の二次電子像からは、MCND特有の樹状構造及び空隙を確認することができたが、厚みのバラ付きの原因となりうる構造については明確に特定できなかった。
【0019】
そこで、次に、本発明者は、超高性能EDX(エネルギー分散型X線分析)検出器を用いて、MCND触媒層の断面をEDX分析した。ここで、超高性能EDX検出器としては、株式会社堀場製作所製EMAX 100mm
2Windowless仕様を使用した。これにより、炭素原子のEDXマッピング像、すなわち炭素マッピング像を作製した。炭素マッピング像の一例を
図12に示す。
図12は、加速電圧5kV、倍率1万倍の炭素マッピング像である。この炭素マッピング像によれば、炭素原子は概ねMCND触媒層の断面上に一様に分布していることが確認できた。しかし、炭素原子が濃化した領域、すなわち炭素濃化領域100も点在していた。
【0020】
そこで、つぎに、本発明者は、二次電子像のうち、炭素濃化領域100に対応する部分を拡大して観察した。さらに、炭素マッピング像中の炭素濃化領域100を拡大して観察した。二次電子像の拡大画像を
図13に、炭素マッピング像の拡大画像を
図14にそれぞれ示す。
【0021】
図13から明らかな通り、
図14で炭素が濃化している領域100では、周囲とは異なる大きな粒子が形成されている。以下、このような炭素が濃化している粒子を「炭素濃化粒子」とも称する。このように、本発明者は、超高性能EDXを用いることで、MCND触媒層、すなわちMCND内に炭素濃化粒子が存在することを突き止めた。つぎに、本発明者は、炭素濃化粒子の内外の元素分布を確認するために、上記と同様のEDX検出器を用いて、フッ素原子及び白金原子のEDXマッピング像を作製した。ここで、フッ素原子は、電解質材料に由来するものであり、白金原子は、触媒成分に由来するものである。フッ素原子のEDXマッピング像、すなわちフッ素マッピング像の一例を
図15及び
図16に、白金原子のEDXマッピング像、すなわち白金マッピング像の一例を
図17及び
図18に示す。なお、
図15及び
図17は、加速電圧5kV、倍率1万倍のEDXマッピング像であり、
図12と同一の領域内の画像となっている。
図16及び
図18は、炭素濃化粒子を拡大した加速電圧5kV、倍率5万倍のEDXマッピング像であり、
図13及び
図14と同一の領域内の画像となっている。
図13〜
図18から明らかな通り、炭素濃化粒子内には触媒成分を担持可能な気孔はほとんど存在せず、結果として、炭素濃化粒子内には、触媒成分である白金原子がほとんど存在しない。さらに、炭素濃化粒子内には、電解質材料もほとんど存在しない。これらの結果から、炭素濃化粒子は、気孔がほとんど存在しない粒子であって、MCND粒子に比べて比重が高いと考えられ、以下の影響が生じる可能性が高いと推定された。
【0022】
(A)炭素濃化粒子の数は、MCND全体、すなわちMCND触媒層全体の比重に影響を与える。すなわち、炭素濃化粒子の数が多いほど、MCND触媒層の比重が大きくなる。そして、炭素濃化粒子は、MCNDの製造過程で生じ、その数はMCNDのロット毎にばらつく。このため、触媒成分の担持率、触媒成分の粒子径、及び触媒成分の目付量のばらつきを5%以内に抑えてMCND触媒層を作製しても、MCND触媒層のロット毎に厚さがバラつくことになる。
【0023】
(B)炭素濃化粒子の内部には、触媒成分がほとんど存在しないので、MCND触媒層内の触媒成分は、炭素濃化粒子の外部に集中して存在することになる。このため、触媒成分同士の距離が小さくなるので、燃料電池の駆動中の電位変動によって触媒成分同士が凝集しやすくなる。このため、MCND触媒層の耐久性が低下する。
【0024】
(C)炭素濃化粒子の比重が高いため、炭素濃化粒子が多いロットでは、比表面積が小さくなり、炭素濃化粒子が少ない場合、比表面積は大きくなる。従って、あるロットでMCND触媒層の最適なI/C(電解質材料と触媒担体との混合比率)を決定しても、このロットより炭素濃化粒子が多いロットでは、同じI/Cを適用すると電解質材料が担体粒子を厚く覆い、触媒成分へのガス拡散抵抗が大きくなり限界電流密度が低下する。一方で、炭素濃化粒子が少ないロットでは、電解質材料が薄くなり、プロトン伝導抵抗が増大し、発電性能が低下する。
【0025】
したがって、炭素濃化粒子は、MCND触媒層の性能をバラつかせるだけでなく、その性能自体を低下させる原因であることが示唆された。本発明者は、以上のような推定に基づき、炭素濃化粒子を含んだMCNDと、同じロットで比重の重い粒子を取り除いたMCNDの発電性能を比較したところ、比重の重い粒子を取り除いたMCNDの発電性能が優れること、比重の重い粒子を取り除いたMCND触媒層には、炭素濃化粒子が少なくなっていたことが明らかとなった。したがって、炭素濃化粒子はMCND粒子(すなわち、担体粒子)よりも比重が高く、上記推定が正しいことが確認できた。なお、本発明者は、他の種類の触媒担体用炭素材料(すなわち、カーボンブラック等)の断面についても同様の方法で解析したが、炭素濃化粒子は発見されなかった。したがって、炭素濃化粒子は、MCND特有の構成であると言える。そこで、本発明者は、MCNDから炭素濃化粒子を除去した上でMCND触媒層を作製すると課題を解決できることを見出し、この結果、本発明を完成させた。
【0026】
本発明のある観点によれば、触媒成分と、触媒成分を担持する触媒担体と、電解質材料とを含む燃料電池用触媒層であって、燃料電池用触媒層をイオンミリングすることで得られる断面を電子顕微鏡で観察した場合に、触媒担体の断面内の少なくとも一部で触媒成分が観察され、断面の倍率5万倍の二次電子像を、二次電子像を構成する各画素の明るさで二値化した場合に、任意の2.5μm×1.75μm角の視野内で、燃料電池用触媒層の空隙に相当する空隙相当領域の個数が500個以下であり、かつ、空隙相当領域の円相当直径の平均値が0.04μm以上であり、断面をEDX分析することで得た倍率1万倍の炭素マッピング像を、炭素マッピング像を構成する各画素の明るさで二値化した場合、任意の5μm×5μm角の視野内で、燃料電池用触媒層の炭素部分に相当する炭素相当領域のうち、円相当直径が0.2μm以上の炭素相当領域の個数が10個以下であることを特徴とする、燃料電池用触媒層が提供される。
【0027】
ここで、「燃料電池用触媒層をイオンミリングすることで得られる断面を電子顕微鏡で観察した場合に、触媒担体の断面内の少なくとも一部で触媒成分が観察され、断面の倍率5万倍の二次電子像を、二次電子像を構成する各画素の明るさで二値化した場合に、任意の2.5μm×1.75μm角の視野内で、燃料電池用触媒層の空隙に相当する空隙相当領域の個数が500個以下であり、かつ、空隙相当領域の円相当直径の平均値が0.04μm以上であり、」という構成は、MCNDが有する特徴構成である。
【0028】
したがって、本発明は、MCNDに、「断面をEDX分析することで得た倍率1万倍の炭素マッピング像を、炭素マッピング像を構成する各画素の明るさで二値化した場合、任意の5μm×5μm角の視野内で、燃料電池用触媒層の炭素部分に相当する炭素相当領域のうち、円相当直径が0.2μm以上の炭素相当領域の個数が10個以下である」という特徴構成を追加したものである。ここで、「円相当直径が0.2μm以上の炭素相当領域」が炭素濃化粒子に相当する。したがって、本発明では、炭素濃化粒子の数が減少している。なお、ある領域の円相当直径とは、当該領域と同じ面積を有する円の直径を意味する。
【0029】
ここで、任意の2.5μm×1.75μm角の視野内で空隙相当領域の個数が400個以下であってもよい。
【0030】
また、円相当直径が0.2μm以上の炭素相当領域内での触媒成分及び電解質材料の濃度が、円相当直径が0.2μm以上の炭素相当領域外での触媒成分及び電解質材料の濃度よりも低くてもよい。
【0031】
また、任意の5μm×5μm角の視野内で円相当直径が0.2μm以上の炭素相当領域の個数が5個以下であってもよい。
【0032】
また、ラマン分光法により測定されるGバンドの半値幅が70cm
−1未満であり、BET法で評価されるBET比表面積S
BET(m
2/g)が300〜1200m
2/gであり、2600℃以上で熱処理された炭素材料を標準物質としたtプロット解析で評価される外部比表面積が100m
2/g未満であってもよい。
【0033】
本発明の他の観点によれば、上記の触媒担体に使用可能な触媒担体用炭素材料の製造方法であって、金属アセチリドを作製する金属アセチリド作製工程と、金属アセチリドを加熱することで、炭素ナノ構造中間体を作製する第1の加熱工程と、炭素ナノ構造中間体から金属成分を除去することで、炭素ナノ構造体を作製する金属成分除去工程と、炭素ナノ構造体を真空または不活性ガス雰囲気中で1600〜2400℃で加熱する第2の加熱工程と、第2の加熱工程後の炭素ナノ構造体から円相当直径が0.2μm以上の炭素相当領域を除去する炭素濃化粒子除去工程と、を含む触媒担体用炭素材料の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0034】
以上説明したように本発明によれば、触媒担体であるMCND中の炭素濃化粒子の数を減少させることができるので、MCND触媒層の性能のバラ付きを抑制し、ひいては、MCND触媒層の性能を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0037】
<1.本実施形態に係るMCND触媒層の構成>
まず、本実施形態に係るMCND触媒層(燃料電池用触媒層)の構成について説明する。本実施形態に係るMCND触媒層は、燃料電池、好ましくは固体高分子形燃料電池に使用される触媒層であり、触媒成分と、触媒成分を担持する触媒担体と、電解質材料とを有する。触媒成分及び電解質材料は、従来の触媒層で使用されるものと同様であってもよい。例えば、触媒成分は白金等であってもよく、電解質材料は、リン酸基、スルホン酸基等を導入した高分子、例えば、パーフルオロスルホン酸ポリマーやベンゼンスルホン酸が導入されたポリマー等が挙げられる。もちろん、本実施形態に係る電解質材料は他の種類の電解質材料であってもよい。このような電解質材料としては、例えば、無機系、無機−有機ハイブリッド系等の電解質材料等が挙げられる。
【0038】
一方、触媒担体は、本実施形態に特有のものであり、概略的には、上述した炭素濃化粒子が低減したMCNDである。すなわち、後述する製造方法により作製されたMCNDである。以下、本実施形態に係るMCNDを、「炭素濃化粒子低減MCND」(触媒担体用炭素材料)とも称する。すなわち、触媒担体は、炭素濃化粒子低減MCNDとなっている。本実施形態に係るMCND触媒層は、炭素濃化粒子低減MCNDを有するため、以下の要件を満たす。
【0039】
(1−1.要件1)
MCND触媒層をイオンミリングすることで得られる断面を電子顕微鏡で観察した場合に、触媒担体の断面内の少なくとも一部で触媒成分が観察される(要件1)。
【0040】
触媒担体は、炭素濃化粒子低減MCNDとなっている。したがって、触媒担体は、MCNDが有する特徴構成を当然に有する。すなわち、触媒担体は、非常に発達した細孔構造(多孔質構造)と大きなスケールの樹状構造を両立させた構造を有する。つまり、触媒担体を構成する担体粒子は、その内部に触媒成分を担持可能な気孔を多数有しており、かつ、大きな樹状構造を有している。したがって、担体粒子内には、多数の触媒成分が存在する。このため、触媒担体の断面、すなわち担体粒子の断面の少なくとも一部で触媒成分が観察される。
【0041】
(1−2.要件2)
MCND触媒層の断面の倍率5万倍の二次電子像を、二次電子像を構成する各画素の明るさで二値化した場合に、任意の2.5μm×1.75μm角の視野内で、MCND触媒層の空隙に相当する空隙相当領域の個数が500個以下であり、かつ、空隙相当領域の円相当直径の平均値が0.04μm以上である(要件2)。
【0042】
要件2の具体的な確認方法は以下の通りである。すなわち、まず、MCND触媒層の断面の加速電圧5kV、倍率5万倍の二次電子像を取得する。具体的には、加速電圧5kV、倍率5万倍の二次電子像の約2.5μm×約1.875μmの視野を1280ピクセル×960ピクセルの解像度で取得する。二次電子像を構成する各画素の一辺は、約0.00195μm相当となり、かつ、各画素は、256段階に区分される明るさを有する。つまり、各画素は、明るさを示す数値として0〜255のいずれかの数値を有する。明るさの階層の数値が小さいほど、画素が暗くなる。二次電子像の一例を
図1に示す。なお、
図1に示す二次電子像は、後述する実施例1に対応する。ついで、取得した二次電子像から任意の約2.5μm×約1.75μm角の視野を選択し、選択した視野内の画像をモノクロ化する。モノクロ化は、画像解析ソフトを用いて行えば良い。ついで、明るさの標準化を行うため、ヒストグラム平均輝度が129階層目(=128)の明るさになるように、視野内のモノクロ画像を補正する。モノクロ画像の補正は、画像解析ソフトを用いて行えば良い。
【0043】
ついで、画像解析ソフトを用いて、0〜108の範囲内の明るさ(つまり、最も暗い階層から109階層目までの明るさ)を有する画素を黒色で表示し、109〜255の範囲内の明るさを有する画素を白色で表示する。これにより、モノクロ画像を二値化する。ただし、このままでは、黒色領域が島状に孤立した点が多数発生する。そこで、目的とする範囲を明確化するために、円相当直径0.01μm以下の黒色領域を削除し、各黒色領域に対して1画素分の膨張処理を1度行う。これにより、隣り合った黒色領域同士を解析ソフトに認識させる。更に、各黒色領域に対して1画素分のクロージング処理を1度実行して、黒色領域中の微細な空白部分(すなわち、二画素以下で構成される白色領域)を穴埋めする。最後に、膨張した分を元に戻す1画素分の縮退処理(収縮処理)を1度行うことで、目的とする範囲を明確化させる。以上の処理により、任意の2.5μm×1.75μm角の視野における二値化画像を得る。二値化画像の一例を
図2に示す。
図2の二値化画像は、
図1に示す二次電子像を二値化したものである。
【0044】
以上の画像処理の結果得られる黒色領域のほとんどは、触媒層に存在する空隙に相当する箇所である。すなわち、黒色領域は、触媒層の空隙に相当する空隙相当領域となる。そして、本実施形態では、2.5μm×1.75μm角の視野に存在するひと塊の黒色領域の個数は、500個以下である。また、ひと塊の黒色領域の2.5μm×1.75μm角の視野内での円相当直径の平均値は、0.04μm以上となる。円相当直径とは、ひと塊の黒色領域の面積と同じ面積の円の直径である。
図2に示す円210に囲まれる黒色領域200がひと塊の黒色領域に相当する。このような円相当直径の算術平均値が0.04μm以上となる。
【0045】
なお、他の種類の触媒担体用炭素材料は、要件2を満たさない。一例として、
図5にケッチェンブラックEC600JDを用いた触媒層の二次電子像を示す。また、
図6に、
図5の二次電子像の二値化画像を示す。
図5及び
図6は、後述する比較例4に対応する。
図6から明らかな通り、2.5μm×1.75μm角の視野に存在するひと塊の黒色領域の個数は、500個超であり、かつ、ひと塊の黒色部分の2.5μm×1.75μm角の視野内での円相当直径の平均値は、0.04μm未満となる。
【0046】
本実施形態では、2.5μm×1.75μm角の視野に存在するひと塊の黒色領域の個数が、500個以下であり、かつ円相当直径の平均値が0.04μm以上となる。このため、MCND触媒層は、ガス拡散性に優れるので、大電流密度の電流を燃料電池から取り出したときの電圧降下が抑制され、最大電流密度(限界電流密度)が大きくなる傾向がある。2.5μm×1.75μm角の視野に存在する黒色領域の個数は好ましくは400個以下である。黒色領域の個数の下限値は特に制限されないが、100個超であることが好ましく、200個超であることがより好ましい。また、円相当直径の平均値の上限値は特に制限されないが、0.07μm未満であってもよい。
【0047】
(1−3.要件3)
MCND触媒層の断面をEDX分析することで得た倍率1万倍の炭素マッピング像を、炭素マッピング像を構成する各画素の明るさで二値化した場合、任意の5μm×5μm角の視野内で、MCND触媒層の炭素部分に相当する炭素相当領域のうち、円相当直径が0.2μm以上の炭素相当領域の個数が10個以下である(要件3)。
【0048】
この構成は従来のMCNDにはない本実施形態特有の構成である。要件3の具体的な確認方法は以下の通りである。すなわち、MCND触媒層の断面を電子顕微鏡で観察し、さらに、超高性能EDX検出器を用いて、加速電圧5kV、1万倍の倍率で当該断面の炭素マッピング像を取得する。具体的には、加速電圧5kV、1万倍の倍率で炭素原子のマッピング像を約12.5μm×約9.38μmの視野を512ピクセル×384ピクセルの解像度で取得する。ここで、炭素マッピング像を構成する各画素の一辺は約0.024μm相当となり、かつ、各画素は、256段階に区分される明るさを有する。つまり、各画素は、明るさを示す数値として0〜255のいずれかの数値を有する。明るさの階層の数値が小さいほど、画素が暗くなる。
図3に炭素マッピング像の一例を示す。
図3に示す炭素マッピング像は、後述する実施例1に対応する。ついで、取得した炭素マッピング像から任意の約12μm×約9μm角の視野を選択し、選択した視野内の画像をモノクロ化する。モノクロ化は、画像解析ソフトを用いて行えば良い。ついで、明るさの傾斜を補正するため、画像の縦方向と横方向について水平補正を行い、さらに明るさの標準化を行うため、ヒストグラム平均輝度が129階層目(=128)の明るさになるように、視野内のモノクロ画像を補正する。
【0049】
ついで、画像解析ソフトを用いて、160〜255の範囲内の明るさ(つまり、161階層目から256階層目までの明るさ)を有する画素を黒色で表示し、0〜159の範囲内の明るさ(つまり、1階層目〜160階層目までの明るさ)を有する画素を白色で表示する。つまり、炭素原子が濃化した領域が黒色領域となるように炭素マッピング像を二値化する。ただし、このままでは、黒色領域が島状に孤立した点が多数発生する。そこで、目的とする範囲を明確化するために、円相当直径0.1μm以下の黒色領域を削除し、残った黒色領域について1画素分のクロージング処理を1度実行する。最後に、円相当直径0.2μm未満の黒色領域を削除し、目的とする範囲を明確化させる。以上の処理により、任意の12.5μm×9.3μm角の視野における二値化画像を得る。二値化画像の例を
図4に示す。
図4に示す二値化画像は
図3に示す炭素マッピング像を二値化したものである。
【0050】
二値化画像中の黒色領域は、すべて円相当直径0.2μm以上であり、MCND触媒層に含まれる炭素濃化粒子に相当する。そこで、5μm×5μm角の視野のうち、内部に円相当直径0.2μm以上の黒色領域が最も多く存在する視野を探索する。
図4の例では、視野310内に円相当直径0.2μm以上の黒色領域300が最も多く(この例では、8個)存在する。本実施形態では、当該視野内に存在する円相当直径0.2μm以上の黒色領域の数が10個以下となる。なお、
図3及び
図4は後述する実施例1に対応する。
【0051】
つまり、本実施形態では、任意の5μm×5μm角の視野内に存在する炭素濃化粒子の数が10個以下となる。上述したように、炭素濃化粒子は、MCND触媒層の品質をバラつかせるのみならず、MCND触媒層の品質自体を低下させる要因となる。具体的には、炭素濃化粒子は、MCND触媒層の比重を高めるので、MCND触媒層の厚さをバラつかせる。さらに、炭素濃化粒子内での触媒成分及び電解質材料の濃度は、炭素濃化粒子外での触媒成分及び電解質材料の濃度よりも低くなる傾向がある。このため、炭素濃化粒子外で触媒成分が凝集しやすくなり、かつ、担体粒子を覆う電解質材料が厚くなる。これらの要因により、炭素濃化粒子は、MCND触媒層の品質をバラつかせるのみならず、MCND触媒層の品質自体を低下させる。本実施形態では、このような炭素濃化粒子の数を低減させることができるので、精度よく狙い通りの触媒層を作製することができる。したがって、安定してMCNDの特徴である高い触媒利用率と高いガス拡散性を引き出すことができる。また、MCND触媒層の性能自体も向上する。なお、任意の5μm×5μm角の視野内に存在する炭素濃化粒子の数が10個を超える場合、ロット毎の性能差が大きくなる。さらに、MCND触媒層のロットのみならず、触媒層の内部には、炭素濃化粒子の多い部分、少ない部分が存在するので、この点でもMCND触媒層の性能が不安定となる。このため、安定してMCNDの長所を引き出すことができなくなる。任意の5μm×5μm角の視野内に存在する炭素濃化粒子の数は、5個以下であることが好ましい。この場合、MCND触媒層の性能がさらに向上するのみならず、ロット毎のばらつき範囲を非常に小さくすることができる。
【0052】
本実施形態では、後述する炭素濃化粒子除去処理を行うことで、MCND触媒層内の炭素濃化粒子の数を低減させることができる。このような炭素濃化粒子除去処理を行わないMCND触媒層、すなわち従来のMCND触媒層には、非常に多くの炭素濃化粒子が残留し、かつ、その数もロット毎にバラつく。一例として、
図7に従来のMCND触媒層の二次電子像を示す。また、
図8に、
図7の二次電子像の二値化画像を示す。
図8から明らかな通り、視野320内に円相当直径0.2μm以上の黒色領域300が最も多く(この例では13個)存在する。
図7及び
図8は、後述する比較例5に対応する。
【0053】
本実施形態に係るMCND触媒層は、上述した要件1〜3の要件を満たす。MCND触媒層を構成する炭素濃化粒子低減MCNDは、さらに以下の要件4〜6の要件を満たすことが好ましい。
【0054】
(1−4.要件4(ラマン))
ラマン分光法により測定されるGバンドの半値幅が70cm
−1未満であることが好ましい(要件4)。ここで、Gバンドは、ラマン分光スペクトルの1550〜1650cm
−1の範囲で検出されるバンドである。Gバンドの半値幅が70cm
−1未満となる場合、炭素濃化粒子低減MCNDの黒鉛化度が高くなる。このため、MCND触媒層は、固体高分子形燃料電池の起動停止を繰り返しても、酸化消耗しにくくなる。すなわち、MCND触媒層の耐久性が向上する。
【0055】
ここで、Gバンドの半値幅は、30cm
−1超であることが好ましい。Gバンドの半値幅が30cm
−1以下となる場合、担体粒子中の細孔が少なくなるので、細孔内に担持される触媒成分の数が少なくなる可能性がある。また、Gバンドの半値幅が70m
−1以上となる場合、耐久性が期待できない。
【0056】
なお、炭素濃化粒子低減MCNDのGバンドの半値幅を上記範囲内に調整する方法としては、例えば、炭素濃化粒子低減MCNDを黒鉛化処理する処理が挙げられる。具体的には、炭素濃化粒子低減MCNDを1600℃以上の高温環境に曝す。炭素濃化粒子低減MCNDを黒鉛化処理することで、炭素濃化粒子低減MCNDを構成する結晶子が大きく成長する。この結果、炭素材料のGバンドの半値幅が上述した範囲内の値となりうる。黒鉛化処理の加熱温度は、好ましくは、1800〜2400℃である。
【0057】
(1−5.要件5(BET比表面積))
BET法で評価されるBET比表面積S
BET(m
2/g)が300〜1200m
2/gであることが好ましい(要件5)。BET比表面積S
BETがこの範囲内の値となる場合、担体粒子の外部表面に多数の細孔が形成されるので、より多くの触媒成分を細孔内に担持させることができる。BET比表面積S
BETが300m
2/g未満となる場合、担体粒子の外部表面に形成される細孔の数が減少するので、触媒成分の担持性が低下する可能性がある。この結果、20〜60質量%程度の実用性のある触媒担持率でMCND触媒層を作製した場合に、触媒成分が凝集しやすくなる。したがって、触媒成分の粒径が大きくなり、触媒成分の利用率が低下する可能性がある。ここで、触媒担持率は、触媒担持粒子(炭素濃化粒子低減MCNDに触媒成分を担持させた粒子)の総質量に対する触媒成分の質量%である。BET表面積が1200m
2/g超であると、黒鉛化度とBET比表面積との両立が難しくなり耐久性が劣る傾向にある。
【0058】
(1−6.要件6(外部比表面積))
2600℃以上で熱処理された炭素材料を標準物質としたtプロット解析で評価される外部比表面積が100m
2/g未満であることが好ましい(要件6)。この場合、担体粒子の外部表面により多くの細孔が形成される(すなわち、細孔構造がより発達する)ので、より多くの触媒成分を担体粒子に担持させることができる。外部比表面積の下限値は特に制限されないが、40m
2/g超であってもよい。
【0059】
ここで、外部比表面積は、炭素材料の全比表面積のうち、ミクロ孔比表面積以外の比表面積である。すなわち、全比表面積S
total=ミクロ孔比表面積S
micro+外部比表面積S
outである。ミクロ孔は直径2nm以下の細孔であるが、その分類は、IUPACの分類に従うものとする。
【0060】
また、tプロット解析は、窒素ガスの液体窒素温度での窒素吸着測定によって得られる窒素吸着等温線の解析評価法の一種である。すなわち、tプロット解析は、測定試料と同種の材料であって、ミクロ孔が存在しない標準物質の窒素吸着等温線を基準にして、測定試料の窒素吸着等温線の直線性からのずれを解析する比較プロットの一種である(日本化学会編 コロイド化学I(株)東京化学同人1995年発行)。
【0061】
ミクロ孔比表面積は、tプロット解析では、測定試料の全比表面積と外部比表面積の差として得られる。ここで、外部比表面積は、炭素材料の全比表面積のうち、ミクロ孔比表面積以外の比表面積である。すなわち、全比表面積S
total=ミクロ孔比表面積S
micro+外部比表面積S
outである。ミクロ孔を有する測定試料のtプロット解析では、以下の傾向が見られる。すなわち、ごく低圧では、窒素ガスは、ミクロ孔の表面を含んだ測定試料の全表面(すなわち、ミクロ孔の表面、及びミクロ孔以外の外部表面)に吸着する。このため、t(すなわち、吸着厚み)の小さい領域では吸着量がミクロ孔を持たない標準物質に対して上方にずれる。すなわち、tプロットの傾きが標準物質に対して大きくなる。この傾きから、測定試料の全比表面積が算出される。
【0062】
そして、ミクロ孔のポアフィリングが終了すると、窒素ガスの吸着はミクロ孔以外の外部表面に対してのみ進行する。したがって、吸着厚みの大きな領域ではtプロットの傾きが小さくなる。この傾きから、測定試料の外部比表面積(測定試料のミクロ孔を除いた外部表面の表面積)が算出される。そのため、ミクロ孔を有する測定試料のtプロットは、上に凸の形状となる。一方、測定試料にミクロ孔が無い場合は、tプロットは、原点を通る一本の直線となる。
図9に一例を示す。
図9の横軸は窒素ガスの吸着厚み(nm)を示し、縦軸は窒素ガスの吸着量(molg
−1やcm
3(STP)g
−1など)を示す。tプロットLは上に凸の形状となっており、傾きの大きなtプロットL1と、傾きの小さいtプロットL2とに区分される。tプロットL1は、ミクロ孔への吸着を反映したグラフとなっている。一方、tプロットL2は、窒素ガスのミクロ孔以外の外部表面への吸着を反映したグラフとなっている。したがって、tプロットL2の傾きから、測定試料の外部比表面積が求まり、窒素吸着等温線L1の傾きから、測定試料の全比表面積が求まる。そして、これらの差からミクロ孔の表面積が求まる。なお、tプロットL2の切片(Y)から、ミクロ孔の容積も求まる。
【0063】
ところで、本発明者らが本発明の検討を進める過程で、上述した黒鉛化処理を行った測定試料を準備した。そして、本発明者は、一般的に公開されている標準物質の窒素吸着等温線を用いて測定試料のtプロット解析を試みた。この結果、測定試料の窒素吸着等温線が下に凸の形状になる場合があるという問題が生じた。この場合、測定試料が本実施形態の触媒担体用炭素材料の条件を満たすかどうかを判定できない。
【0064】
本発明者は、この原因は、一般に公開されている炭素材料の標準物質には、本実施形態で使用される触媒担体用炭素材料よりも多くの微細なミクロ孔が存在することであると推定した。そして、本発明者は、測定試料(あるいは測定試料と同種の試料)を不活性雰囲気下、2600℃以上の温度で熱処理することによってミクロ孔を極力少なくした炭素材料を作製し、これを標準物質とした。ここで、同種の試料とは、測定試料と同様の物性を示す材料を意味する。同様の試料は、例えば炭素材料であれば、炭素材料であり、より好ましくは、炭素材料の種類を同一にすることである。すなわち、カーボンブラックであればカーボンブラック、活性炭であれば活性炭である。さらに好ましくは、銘柄、ロットまで同一にすることである。これにより、本発明者は、上記の問題を解決した。すなわち、この標準物質を用いて上述した測定試料のtプロット解析を行ったところ、上に凸の窒素吸着等温線を得ることに成功した。従って、触媒担体用炭素材料として使用可能な炭素材料を判別するためのtプロット解析では、まず、測定試料を不活性雰囲気下、2600℃以上の温度で熱処理することで標準物質を作製する。そして、この標準物質を用いて、tプロット解析を行えば良い。このような標準物質では、ミクロ孔は、無視できる程度に少なくなる。このため、tプロット解析を正しく行うことができる。なお、熱処理の時間は特に制限されない。熱処理の時間が長いほどミクロ孔の数が少なくなるので、所望の窒素吸着等温線が得られるようになるまで、熱処理を行えば良い。
【0065】
<2.炭素濃化粒子低減MCNDの製造方法>
つぎに、炭素濃化粒子低減MCNDの製造方法について説明する。炭素濃化粒子低減MCNDの製造方法は、金属アセチリド作製工程、第1の加熱工程、金属成分除去工程、第2の加熱工程、及び炭素濃化粒子除去工程を含む。以下、各工程について詳細に説明する。
【0066】
(2−1.金属アセチリド作製工程)
この工程では、金属塩の溶液に超音波を照射しながらアセチレンを添加することで、金属アセチリドを作製する。本工程により、金属塩の溶液中に金属アセチリド(例えば、銀アセチリド、銅アセチリド等)の沈殿物が生成する。
【0067】
ここで、金属塩としては、例えば硝酸銀、塩化第一銅等が挙げられる。また、金属塩を溶解する溶媒としては、アンモニア等が挙げられる。また、超音波照射は、例えば、超音波振動子や超音波洗浄器等を用いて行うことができる。
【0068】
アセチレンを金属塩の溶液に添加する方法としては、例えば、金属塩の溶液にアセチレンガスを吹き込む方法、金属塩の溶液にアセチレン溶液を添加する方法等が挙げられる。アセチレン溶液は、飽和アセチレン溶液であることが好ましい。また、アセチレンを飽和状態で溶解する溶媒としては、例えば、水、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶剤等が挙げられる。アセチレンを金属塩の溶液に添加する際には、金属塩の溶液に超音波を照射すると同時に溶液を撹拌することが好ましい。
【0069】
飽和アセチレン溶液を金属塩の溶液に添加する方法では、金属塩とアセチレンとの反応時にアセチレン濃度を高く設定することができるので、金属アセチリドの反応が促進される。このため、アセチレンガスを金属塩の溶液に添加する方法によって生成される炭素材料とは異なる性状の炭素材料を形成することができる。
【0070】
なお、飽和アセチレン溶液を用いた際の炭素材料形成の詳細は不明ではある。ただ、例えば銀アセチリドの形成反応は、吹き込まれたアセチレンが瞬時に消耗する程非常に速い。このため、アセチレンの液中濃度を向上させることにより、反応系内に多くの銀アセチリド分子性結晶の核が発生する。そして、この核の存在量が増えて核同士の接触、融合が頻繁に繰返されるようになり、銀アセチリドの成長が促されると考えられる。その結果、得られる銀アセチリドの枝が太く、長くなり、かつ多くの分岐を有することになる。したがって、得られる銀アセチリドは、立体的な樹枝状構造が発達した樹状結晶体となると考えられる。
【0071】
(2−2.第1の加熱工程)
第1の加熱工程では、金属アセチリドを加熱することで、炭素ナノ構造中間体を作製する。具体的には、金属アセチリドの沈殿物を、溶媒を含んだ状態で試験管に小分けし、真空電気炉又は真空高温槽中に入れる。その後、各試験管内の金属アセチリドを加熱することで、金属アセチリド中の金属成分を噴出させる。金属成分の噴出に必要な加熱条件は金属成分の種類ごとに異なる。例えば銀アセチリドを加熱する場合、例えば銀アセチリドを60〜80℃の温度で数時間乾燥させた後、160〜200℃で加熱すればよい。また、銅アセチリドを加熱する場合、例えば銅アセチリドを90〜120℃で数時間乾燥させた後、210〜250℃で加熱すれば良い。
【0072】
上記乾燥及び加熱は、同じ真空電気炉又は真空高温槽中で連続して行うことができる。また、乾燥工程を省略してもよい。第1の加熱工程では、金属アセチリドが爆発的な相分離を起こし、ナノスケールでの爆発が起こって金属が噴出する。この爆発の際の発熱により、詳細は不明ではあるものの、アセチリド成分が1000℃以上の熱履歴を受ける。これにより、炭素材料の形成及びその結晶性の成長が起こる。また、金属を内包した構造で炭素化が起こるため、孔径が数ナノ(nm)の多数の細孔を有する炭素ナノ構造中間体が形成される。
【0073】
(2−3.金属成分除去処理)
金属成分除去処理では、炭素ナノ構造中間体から金属成分を除去することで、炭素ナノ構造体(すなわち、MCND)を作製する。具体的には、例えば、硝酸(あるいは硝酸水溶液)で炭素ナノ構造中間体を洗浄する。これにより、炭素ナノ構造中間体中の金属成分及び不安定な炭素化合物が硝酸水溶液中に溶出する。これにより、炭素ナノ構造中間体から金属成分のみならず不安定な炭素化合物も除去することができる。なお、この工程により、金属成分が存在した箇所が空隙になるので、炭素ナノ構造体は、大きな比表面積を持つ三次元構造を有する。
【0074】
(2−4.第2の加熱工程)
第2の加熱工程では、MCNDを真空または不活性ガス雰囲気中で1600〜2400℃で加熱する。加熱温度は、好ましくは1800〜2400℃である。この第2の加熱工程における加熱温度が1600℃より低いと、MCNDの結晶性が向上せず、燃料電池使用環境下の耐久性が担保できない可能性がある。また、加熱温度が2400℃を超えるとMCNDのBET比表面積が低下し、触媒成分の分散性が悪くなる可能性がある。
【0075】
ここで、MCNDの加熱方法は、MCNDを上記温度で加熱することができる方法であれば、特に制限されない。加熱方法としては、例えば、抵抗加熱、マイクロ波加熱、高周波加熱、炉形式の加熱方法などが挙げられる。炉形式についてはバッチ式炉、トンネル炉等、不活性又は減圧雰囲気を達成できれば制限はない。本実施形態では、第2の加熱工程後のMCNDに対してさらに以下の炭素濃化粒子除去工程を行うことで、MCNDから炭素濃化粒子を除去する。
【0076】
なお、上述した第2の加熱工程によってMCNDの親水性が損なわれる可能性がある。MCNDの親水性が過剰に低下すると、例えば低加湿環境下で電解質材料を湿潤状態に維持することが難しくなり、ひいては、燃料電池の性能が低下する可能性がある。そこで、第2の加熱工程を行ったMCNDに親水化処理を行っても良い。この親水化処理は、MCNDに親水基を導入する処理である。親水化処理では、例えば、MCNDを粉砕した後、酸性水溶液(例えば、硝酸水溶液等)に浸漬する。これにより、MCNDに親水基を導入することができる。
【0077】
(2−5.炭素濃化粒子除去工程)
上述した2−4までの工程で作製されたMCNDには、多くの炭素濃化粒子が含まれており、かつ、その数はMCNDのロット毎に大きくバラつく。このため、MCNDの性能がバラつくのみならず、その性能自体も低下してしまう。そこで、本実施形態では、MCNDから炭素濃化粒子を除去する。
【0078】
MCNDから炭素濃化粒子を除去する方法としては、沈降分離、遠心分離、風力分級等が挙げられる。いずれの方法でも、MCND中の担体粒子と炭素濃化粒子との比重の違いを用いて炭素濃化粒子を除去する。
【0079】
沈降分離では、MCNDを乳鉢等で粉砕した後、水に分散させる。ついで、MCND分散液を撹拌した後、所定時間(例えば、24時間程度)静置する。ついで、沈降したMCNDの上部をポンプ等で吸い取る。ついで、吸いとったMCNDを乾燥させる。以上の工程により、MCNDから炭素濃化粒子を除去する。
【0080】
遠心分離では、MCNDにガラスビーズ、撹拌子、及び水を投入する。ついで、MCND分散液を撹拌することで、MCNDを粉砕する。ついで、MCND分散液からガラスビーズを除去する。ついで、遠心分離器にMCND分散液を投入し、遠心分離を行う。ついで、沈降粒子の上部(例えば、上半分)をポンプ等で吸い取る。ついで、吸いとったMCNDを濾過し、乾燥させる。以上の工程により、MCNDから炭素濃化粒子を除去する。
【0081】
風力分級では、風力分級機を用いてMCNDから炭素濃化粒子を除去する。この際、風力分級機の分級エッジ位置を調整することで、炭素濃化粒子を除去することができる。
【0082】
このように、炭素濃化粒子除去工程を行うことで、MCNDから炭素濃化粒子を除去することができる。また、炭素濃化粒子除去工程の処理条件(例えば、沈降分離での静置時間、遠心分離での回転数、風力分級での分級エッジ位置等)を適宜調整することで、炭素濃化粒子の除去量を調整することができる。したがって、上述した要件3が満たされるように、処理条件を適宜調整すればよい。以上の工程により、炭素濃化粒子低減MCNDを作製する。
【0083】
<3.固体高分子形燃料電池の構成>
本実施形態に係る炭素濃化粒子低減MCNDは、例えば
図10に示す固体高分子形燃料電池1に適用可能である。固体高分子形燃料電池1は、セパレータ10、20、ガス拡散層30、40、触媒層50、60、及び電解質膜70を備える。
【0084】
セパレータ10は、アノード側のセパレータであり、水素等の還元性ガスをガス拡散層30に導入する。セパレータ20は、カソード側のセパレータであり、酸素ガス、空気等の酸化性ガスをガス拡散凝集相に導入する。セパレータ10、20の種類は特に問われず、従来の燃料電池、例えば固体高分子形燃料電池で使用されるセパレータであればよい。
【0085】
ガス拡散層30は、アノード側のガス拡散層であり、セパレータ10から供給された還元性ガスを拡散させた後、触媒層50に供給する。ガス拡散層40は、カソード側のガス拡散層であり、セパレータ20から供給された酸化性ガスを拡散させた後、触媒層60に供給する。ガス拡散層30、40の種類は特に問われず、従来の燃料電池、例えば固体高分子形燃料電池に使用されるガス拡散層であればよい。ガス拡散層30、40の例としては、カーボンクロスやカーボンペーパー等の多孔質炭素材料、金属メッシュや金属ウール等の多孔質金属材料等が挙げられる。なお、ガス拡散層30、40の好ましい例としては、ガス拡散層のセパレータ側の層が繊維状炭素材料を主成分とするガス拡散繊維層となり、触媒層側の層がカーボンブラックを主成分とするマイクロポア層となる2層構造のガス拡散層が挙げられる。
【0086】
触媒層50は、いわゆるアノードである。触媒層50内では、還元性ガスの酸化反応が起こり、プロトンと電子が生成される。例えば、還元性ガスが水素ガスとなる場合、以下の酸化反応が起こる。
H
2→2H
++2e
− (E
0=0V)
【0087】
酸化反応によって生じたプロトンは、触媒層50、及び電解質膜70を通って触媒層60に到達する。酸化反応によって生じた電子は、触媒層50、ガス拡散層30、及びセパレータ10を通って外部回路に到達する。電子は、外部回路内で仕事をした後、セパレータ20に導入される。その後、電子は、セパレータ20、ガス拡散層40を通って触媒層60に到達する。
【0088】
アノードとなる触媒層50の構成は特に制限されない。すなわち、触媒層50の構成は、従来のアノードと同様の構成であってもよいし、触媒層60と同様の構成であってもよいし、触媒層60よりもさらに親水性が高い構成であってもよい。
【0089】
触媒層60は、いわゆるカソードである。触媒層60内では、酸化性ガスの還元反応が起こり、水が生成される。例えば、酸化性ガスが酸素ガスあるいは空気となる場合、以下の還元反応が起こる。酸化反応で発生した水は、未反応の酸化性ガスとともに燃料電池1の外部に排出される。
O
2+4H
++4e
−→2H
2O (E
0=1.23V)
【0090】
このように、燃料電池1では、酸化反応と還元反応とのエネルギー差(電位差)を利用して発電する。言い換えれば、酸化反応で生じた電子が外部回路で仕事を行う。
【0091】
触媒層60には、本実施形態に係る炭素濃化粒子低減MCNDが含まれていることが好ましい。すなわち、触媒層60は、本実施形態に係る炭素濃化粒子低減MCNDと、電解質材料と、触媒成分とを含む。これにより、触媒層60内の触媒利用率を高めることができ、ひいては、固体高分子形燃料電池1の触媒利用率を高めることができる。
【0092】
なお、触媒層60における触媒担持率は特に制限されないが、20〜60質量%であることが好ましい。ここで、触媒担持率は、触媒担持粒子(触媒担体用炭素材料に触媒成分を担持させた粒子)の総質量に対する触媒成分の質量%であることが好ましい。この場合、触媒利用率がさらに高くなる。なお、触媒担持率が20質量%未満となる場合、固体高分子形燃料電池1を実用に耐えるようにするために触媒層60を厚くする必要が生じうる。一方、触媒担持率が60質量%を超える場合、触媒凝集が起こりやすくなる。また、触媒層60が薄くなりすぎて、フラッディングが起こる可能性が生じる。
【0093】
触媒層60における電解質材料の質量I(g)と炭素濃化粒子低減MCNDの質量C(g)との質量比I/Cは特に制限されないが、0.5超5.0未満であることが好ましい。この場合、気孔ネットワークと電解質材料ネットワークとが両立でき、触媒利用率が高くなる。一方、質量比I/Cが0.5以下となる場合、電解質材料ネットワークが貧弱になり、プロトン伝導抵抗が高くなる傾向にある。質量比I/Cが5.0以上となる場合、電解質材料によって気孔ネットワークが分断される可能性がある。いずれの場合にも、触媒利用率が低下する可能性がある。
【0094】
また、触媒層60の厚さは特に制限されないが、5μm超20μm未満であることが好ましい。この場合、触媒層60内に酸化性ガスが拡散しやすく、かつ、フラッディングが生じにくくなる。触媒層60の厚さが5μm以下となる場合、フラッディングが生じやすくなる。触媒層60の厚さが20μm以上となる場合、触媒層60内で酸化性ガスが拡散しにくくなり、電解質膜70近傍の触媒成分が働きにくくなる。すなわち、触媒利用率が低下する可能性がある。
【0095】
電解質膜70は、プロトン伝導性を有する電解質材料で構成されている。電解質膜70は、上記酸化反応で生成したプロトンをカソードである触媒層60に導入する。ここで、電解質材料の種類は特に問われず、従来の燃料電池、例えば固体高分子形燃料電池で使用される電解質材料であればよい。好適な例は固体高分子形燃料電池で使用される電解質材料、すなわち、電解質樹脂である。電解質樹脂としては、例えば、リン酸基、スルホン酸基等を導入した高分子、例えば、パーフルオロスルホン酸ポリマーやベンゼンスルホン酸が導入されたポリマー等が挙げられる。もちろん、本実施形態に係る電解質材料は他の種類の電解質材料であってもよい。このような電解質材料としては、例えば、無機系、無機−有機ハイブリッド系等の電解質材料等が挙げられる。なお、燃料電池1は、常温〜150℃の範囲内で作動する燃料電池であってもよい。
【0096】
<4.固体高分子形燃料電池の製造方法>
固体高分子形燃料電池1の製造方法は特に制限されず、従来と同様の製造方法であればよい。ただし、カソード側の触媒担体には本実施形態に係る炭素濃化粒子低減MCNDを用いることが好ましい。
【実施例】
【0097】
<1.触媒担体用炭素材料の準備>
触媒担体用炭素材料として、EC300(ライオン株式会社製ケッチェンブラックEC300)、EC600JD(ライオン株式会社製ケッチェンブラックEC600JD)、#4500(東海カーボン株式会社製トーカブラック#4500)、AB(デンカ株式会社製デンカブラック)の5種の炭素材料を準備した。
【0098】
<2.MCNDの作製>
以下の製造工程を3回繰り返して行うことで、ロットの異なるMCND A〜Cを作製した。
【0099】
最初に、硝酸銀を1.1mol%の濃度で含むアンモニア水溶液(アンモニア濃度1.9質量%)150mLをフラスコに投入し、アルゴンや乾燥窒素などの不活性ガスを用いてフラスコ内の残留酸素を除去した。ついで、この溶液を攪拌し、かつ、超音波振動子を液体に浸して振動を与えながら、アセチレンガスをこの溶液に対し25mL/minの流速で約4分間吹き入れた。この結果、溶液中に銀アセチリドの固形物が生じた。
【0100】
銀アセチリドが完全に沈殿し終わった後に、沈殿物をメンブレンフィルタで濾過した。ろ過の際に、沈殿物をメタノールで洗浄して若干のエタノールを加え、沈殿物中にメタノールを含浸させた。メタノールを含浸させた状態の銀アセチリド沈殿物を真空乾燥機中で160℃〜200℃の温度まで急速に加熱し、一定温度で20分間保持した。保持中にナノスケールの爆発反応が起こり、銀が噴出して、炭素とその表面に銀が付着した炭素ナノ構造中間体が得られた。
【0101】
この炭素ナノ構造中間体を濃硝酸で1時間洗浄し、その表面などに残存した銀を硝酸銀として溶解除去するとともに、不安定な炭素化合物を溶解除去した。溶解除去を行った中間物を水洗し、MCNDを得た。
【0102】
<3.熱処理>
MCND A〜Cを含め、全ての炭素材料に対して以下の熱処理を行った。すなわち、炭素材料を黒鉛ルツボに入れ、黒鉛化炉でアルゴン雰囲気下、1800℃、2000℃、2200℃のいずれかの温度で、2時間熱処理を行った。なお、MCNDに対して行う熱処理は、上述した第2の加熱工程に相当する。
【0103】
<4.親水化処理>
熱処理後の全ての炭素材料に対して以下の親水化処理を行った。すなわち、炭素材料を乳鉢で粉砕後、5mol/Lの硝酸水溶液中に浸漬し、85℃で2時間保持した。その後、硝酸水溶液を蒸留水で希釈し、炭素材料を濾過した。ついで、炭素材料を110℃で24時間乾燥した。
【0104】
<5.沈降処理>
熱処理及び親水化処理を行ったMCND Aに対して、以下の沈降処理を行った。すなわち、MCND Aを乳鉢で粉砕した後、1Lのトールビーカーに10g計り取った。ついで、このトールビーカーに蒸留水を加えて総体積1LのMCND分散液とした。ついで、MCND分散液を60分撹拌した後、24時間静置した。ついで、沈降したMCNDの上部をポンプで吸い取り、吸い取ったスラリーを濾過、水洗した後、110℃で24時間乾燥した。以上の沈降処理を1回行ったMCND Aを実施例1、3回繰り返して行ったMCND Aを実施例4とした。
【0105】
<6.遠心分離>
熱処理及び親水化処理を行ったMCND A、Bに対して、以下の沈降処理を行った。すなわち、0.5gのMCNDをそれぞれ50mlのサンプル瓶に入れ、さらに各サンプル瓶に直径2mmのガラスビーズを10gと撹拌子を入れた。さらに、各サンプル瓶に蒸留水を加えて50mlのMCND分散液を作製した。ついで、各サンプル瓶に蓋をして、各サンプル瓶中のMCND分散液を600rpmの回転数で24時間撹拌した。得られたスラリー(MCNDと水の混合物)をステンレスメッシュに通すことで、スラリーからガラスビーズを取り除いた。ついで、スラリーを50mlの遠沈管に入れ、遠沈管を遠心分離機(クボタ製テーブルトップ遠心機、型番4200)にセットした。そして、3500回転、24時間の条件で遠心分離を行った。ついで、ポンプを用いて沈降粒子の内、上部半分を吸い取った。吸い取ったMCNDを濾過した後、110℃で24時間乾燥した。遠心分離を行ったMCND Bを実施例2とし、遠心分離を行ったMCND Aを実施例5〜7とした。なお、実施例5〜7に係るMCNDは、上述した熱処理時の温度が異なっている。
【0106】
<7.風力分級>
熱処理及び親水化処理を行ったMCND Cに対して、風力分級を行った。風力分級は、日鉄鉱業株式会社製エルボージェット分級機の分級エッジ位置を調整して行った。風力分級を行ったMCND Cを実施例3とした。なお、分級エッジ位置の調整は、炭素濃化粒子の個数が本実施形態の要件3を満たすように行った。
【0107】
<8.実施例、比較例の区分について>
上述したように、なんらかの炭素濃化粒子低減処理を行ったMCND A〜Cを実施例とした。一方、ABP、#4500、EC300、EC600JD、及び炭素濃化粒子除去処理を行っていないMCND A〜Cをそれぞれ比較例1〜7とした。
【0108】
<9.パラメータの測定>
以下の工程により、各炭素材料について、Gバンドの半値幅、BET比表面積、及び外部比表面積を測定した。
【0109】
(9−1.ラマン(Gバンドの半値幅))
ラマンスペクトルの測定は、NRS−7100型(日本分光(株)製)を用いて行った。測定条件は、励起レーザー波長:532nm、レーザーパワー:100mW(試料照射パワー:0.1mW)、顕微配置:Backscattering、スリット寸法:100μm×100μm、対物レンズ:×100、スポット径:1μm、露光時間:30sec、観測波数:3200〜750cm
−1、積算回数:2回とした。そして、Gバンドと呼ばれる1550〜1650cm
−1の範囲のピーク強度の半値幅(△G)を算出した。
【0110】
(9−2.BET比表面積)
BET比表面積は、マイクロトラック・ベル社製のBELSORPminiを用いて行った。具体的には、自動比表面積測定装置に120℃で真空乾燥した測定試料を設置し、窒素ガスを用いて吸着等温線を作成した。そして、付属のソフトBELMasterを用いてBET比表面積(S
BET)を算出した。
【0111】
(9−3.tプロット解析(外部比表面積))
標準物質として、アルゴン気流中2600℃で2時間熱処理したケッチェンブラックEC600JD(ライオン製)を用意した。そして、この標準物質の窒素吸着等温線をマイクロトラック・ベル社製のBELSORPminiを用いて測定した。この窒素吸着等温線をBELSORPminiに付属のソフトBELMasterの基準データとして登録した。測定物質の窒素吸着等温線をBELSORPminiを用いて測定し、BELMasterを用いて標準試料を基準データとしてtプロット解析を行った。tプロット解析では、tプロット法により外部比表面積S
out(m
2/g)を算出(すなわち、解析)した。
【0112】
<10.MEAの作製>
各炭素材料を用いて固体高分子形燃料電池を作製した。具体的には、以下の工程により、固体高分子形燃料電池を作製した。
【0113】
(10−1.白金担持処理)
各炭素材料に触媒成分として白金を担持させた。すなわち、塩化白金酸水溶液中に、触媒担体用炭素材料を分散した。ついで、分散液を50℃に保温し、分散液を撹拌しながら過酸化水素水を加えた。次いで、分散液にNa
2S
2O
4水溶液を添加することで、触媒前駆体を得た。この触媒前駆体を濾過、水洗、乾燥した後に100%H
2気流中、300℃で3時間、還元処理を行った。以上の工程により、白金が触媒担持粒子の総質量に対して40質量%担持された触媒担持粒子を作製した。
【0114】
(10−2.塗布インクの調整)
触媒担持粒子を容器に取り、これに5質量%ナフィオン溶液(デュポン製DE521)を触媒担体炭素材料1質量部に対して、ナフィオンが0.8質量部の比率になるように加えた。ついで、分散液を軽く撹拌した。その後、超音波で触媒担持粒子を粉砕した。その後、さらに分散液を撹拌することで、塗布インクを得た。
【0115】
(10−3.触媒層の作製)
得られた塗布インクをテフロン(登録商標)シートにスプレーした後、アルゴン中80℃で10分間、続いてアルゴン中120℃で60分間乾燥することで、触媒層を作製した。触媒層の白金目付け量は、0.20mg/cm
2とした。ここで、白金目付け量は以下の工程で測定した。まず、作製したテフロンシート及び触媒層を3cm角の正方形に切り取り、テフロンシート及び触媒層の総質量を測定した。ついで、触媒層をスクレーパーで剥ぎ取った後のテフロンシート質量を測定した。ついで、先の質量と後の質量の差分から触媒層質量を算出した。ついで、触媒インク中の固形分中の白金が占める割合から白金の目付け量を計算により求めた。
【0116】
(10−4.MEAの作製)
次に、作製した触媒層を用いてMEA(膜電極複合体)を作製した。具体的には、ナフィオン膜(デュポン社製N112)をカッターナイフで6cm角の正方形に切り取り、テフロンシート上に塗布された触媒層を、カッターナイフで2.5cm角の正方形に切り取った。これらの触媒層をアノードおよびカソードとしてナフィオン膜の中心部にずれが無いようにはさむことで積層体を作製した。ついで、積層体を120℃、100kg/cm
2で10分間プレスした。プレス後の積層体を室温まで冷却した後、アノード、カソード共にテフロンシートのみを注意深くはがした。これにより、アノードおよびカソードの触媒層をナフィオン膜に定着させた。
【0117】
次にガス拡散層として市販のカーボンクロス(E−TEK社製LT1200W)をカッターナイフで2.5cm角の正方形に切り取った。ついで、切り取ったカーボンクロスをアノードとカソードにずれが無いように積層することで、積層体を作製した。ついで、積層体を120℃、50kg/cm
2で10分間プレスすることで、MEAを作成した。なお、プレス前の触媒層付テフロンシートの重量とプレス後にはがしたテフロンシートの重量との差から定着した触媒層の重量を求め、触媒層の組成の質量比より白金目付け量を算出し、0.20mg/cm
2であることを確認した。
【0118】
<11.燃料電池発電性能試験>
上述した工程により同じ炭素材料を用いて3種のMEAを作製した。そして、これらのMEAをそれぞれセルに組み込み、燃料電池測定装置を用いて燃料電池の性能を評価した。具体的には、以下の評価を行った。
【0119】
カソードに空気、アノードに純水素を、それぞれ3.4L/min、0.7L/minとなるように供給した。それぞれのガス圧は、セル下流に設けられた背圧弁で圧力調整し、0.1MPaに設定した。セル温度は80℃に設定した。また、燃料電池に供給する空気と純水素を75℃と85℃に保温された蒸留水にそれぞれ通す(すなわち、バブリングを行う)ことで、加湿した。そして、加湿したガスをセルに供給した。このような条件でセルにガスを供給した後、セル電圧が0.6Vになるまで電流密度を徐々に増加してセル電圧を0.6Vで60分間固定した。その後、電流密度を100mA/cm
2に固定し、60分経過後のセル電圧を低負荷発電性能として記録した。続けて、10秒間の定電圧測定を0.75Vから0.05V刻みに0.3Vまで繰り返し、0.3V保持10秒後の電流密度を最大電流密度として記録した。
【0120】
燃料電池発電性能試験は、同じ炭素材料について作製した3種のMEAについて行った。低負荷性能結果は、3種のMEAの内最も低いセル電圧を代表値として、0.86V未満を×、0.86V以上0.87V未満を○、0.87V以上を◎とした。最大電流密度は、3種のMEAの内最も低い電流密度を代表値として、1500mA/cm
2未満を×、1500mA/cm
2以上1700mA/cm2未満を○、1700mA/cm
2以上を◎とした。
【0121】
<11.イオンミリング>
燃料電池発電性能試験を行ったMEAをセルから取り出し、MEAからカーボンクロスを取り除いた。ついで、MEAを断面ミリングホルダにセットし、日立ハイテク製イオンミリング装置IM4000Plusを用いて、アルゴンガス供給速度0.08cm
3/分、加速電圧4.0kV、放電電圧1.5kV、イオンミリング時間5時間の条件で、MEA面と垂直の方向にイオンミリングを行った。これにより、触媒層の断面を形成した。
【0122】
<12.電子顕微鏡観察と二次電子像補正(要件1、2の評価)>
イオンミリングで触媒層断面を形成したMEAのサンプルを断面観察用ホルダーに装着した。ついで、触媒層の断面を電子顕微鏡(日立ハイテクノロジー製SU9000)で観察を行った。電子顕微鏡の加速電圧は5.0kVとした。
【0123】
具体的には、まず、断面を50万倍以上で観察し、担体粒子の断面内の少なくとも一部で白金(触媒成分)が観察されたか否かを評価した。白金が観察された場合を○、観察されなかった場合を×と評価した。
【0124】
次に、触媒層中の空隙形状を解析するために、二次電子像の画像処理を次の手順で行った。全ての画像処理は、画像解析ソフト(三谷商事株式会社製WinROOF)を用いて行った。まず、倍率5万倍の二次電子像を取得した。具体的には、加速電圧5kV、倍率5万倍の二次電子像の約2.5μm×約1.875μmの視野を1280ピクセル×960ピクセルの解像度で取得した。二次電子像を構成する各画素の一辺は、約0.00195μm相当となり、かつ、各画素は、256段階に区分される明るさを有する。つまり、各画素は、明るさを示す数値として0〜255のいずれかの数値を有する。
図1に実施例1に相当する二次電子画像を示す。また、
図5に比較例4に対応する二次電子画像を示す。
【0125】
ついで、取得した二次電子像から任意の2.5μm×1.75μm角の視野を選択し、選択した視野内の画像をモノクロ化した。ついで、明るさの標準化を行うため、ヒストグラム平均輝度が129階層目(=128)の明るさになるように、画像解析ソフトを用いて、視野内のモノクロ画像を補正した。
【0126】
ついで、画像解析ソフトを用いて、0〜108の範囲内の明るさ(つまり、最も暗い階層から109階層目までの明るさ)を有する画素を黒色で表示し、109〜255の範囲内の明るさを有する画素を白色で表示した。これにより、モノクロ画像を二値化した。二値化したモノクロ画像には、黒色領域が島状に孤立した点が多数発生していた。そこで、目的とする範囲を明確化するために、円相当直径0.01μm以下の黒色領域を削除した。ついで、各黒色領域に対して1画素分の膨張処理を1度行った。これにより、隣り合った黒色領域同士を解析ソフトに認識させた。更に、各黒色領域に対して1画素分のクロージング処理を1度実行して、黒色領域中の微細な空白部分(すなわち、白色領域)を穴埋めした。最後に、膨張した分を元に戻す1画素分の縮退処理を1度行うことで、目的とする範囲を明確化させた。以上の処理により、2.5μm×1.75μm角の視野における二値化画像を得た。二値化画像の一例を
図2、
図6に示す。
図2の二値化画像は、
図1に示す二次電子像を二値化したものであり、
図6の二値化画像は、
図5に示す二次電子像を二値化したものである。
【0127】
ついで、2.5μm×1.75μm角の視野内に存在する黒色領域の個数を算出した。さらに、各黒色領域の円相当直径を各黒色領域の面積より算出し、これらの算術平均値を算出した。
【0128】
<13.EDX像補正(要件3の評価)>
EDX検出器(株式会社堀場製作所製EMAX 100mm
2Windowless仕様)と付属のソフトウェア(株式会社堀場製作所製)を用いて、加速電圧5kV、1万倍の倍率で、炭素材料の断面の炭素マッピング像を取得した。具体的には、加速電圧5kV、1万倍の倍率で炭素原子のマッピング像を約12.5μm×約9.38μmの視野を512ピクセル×384ピクセルの解像度で取得した。ここで、炭素マッピングは、バックグラウンド補正を行った質量濃度(質量%)で行い、炭素マッピング像を構成する各画素の一辺は約0.024μm相当となり、かつ、各画素は、かつ濃度に対してリニアな256段階の明るさを有する。つまり、各画素は、明るさを示す数値として0〜255のいずれかの数値を有する。明るさの階層の数値が小さいほど、画素が暗くなる。
図3及び
図7に炭素マッピング像の一例を示す。
図3に示す炭素マッピング像は、実施例1に対応する。
図7に示す炭素マッピング像は、比較例5に対応する。
【0129】
ついで、取得した炭素マッピング像から炭素濃化粒子に相当する部分を抽出するために炭素マッピング像を画像処理した。全ての画像処理は、画像解析ソフト(三谷商事株式会社製WinROOF)を用いて行った。取得した炭素マッピング像から任意の12.5μm×9.3μm角の視野を選択し、選択した視野内の画像をモノクロ化した。ついで、明るさの傾斜を補正するため、画像中の触媒層に相当する部分について縦方向と横方向の水平補正を行い、さらにヒストグラム平均輝度が129階層目(=128)の明るさになるように、視野内のモノクロ画像を補正した。
【0130】
ついで、画像解析ソフトを用いて、160〜255の範囲内の明るさ(つまり、161階層目から256階層目までの明るさ)を有する画素を黒色で表示し、0〜159の範囲内の明るさ(つまり、1階層目〜160階層目までの明るさ)を有する画素を白色で表示した。つまり、炭素原子が濃化した領域が黒色領域となるように炭素マッピング像を二値化した。二値化画像には、黒色領域が島状に孤立した点が多数発生した。そこで、目的とする範囲を明確化するために、円相当直径0.1μm以下の黒色領域を削除し、残った黒色領域について1画素分のクロージング処理を1度実行した。最後に、円相当直径0.2μm未満の黒色領域を削除し、目的とする範囲を明確化させた。以上の処理により、12.5μm×9.3μm角の視野における二値化画像を得た。二値化画像の例を
図4、
図8に示す。
図4に示す二値化画像は
図3に示す炭素マッピング像を二値化したものであり、
図8に示す二値化画像は
図7に示す炭素マッピング像を二値化したものである。
【0131】
以上の画像処理を行った12.5μm×9.3μm角の視野の内、5μm×5μm角の視野内の黒色部分の個数が最大となる場所の黒色部分の個数を、円相当直径0.2μm以上の炭素濃化微粒子の個数とした。触媒層の構成を表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0132】
【表1】
【0133】
【表2】
【0134】
表1及び表2から明らかな通り、本実施形態の要件を満たす実施例では、比較例よりも良好かつバラ付きの少ない評価結果が得られた。なお、比較例5〜7では、最大電流密度はいずれも×となっているが、具体的な値は大きく(10%以上)ばらついていた。
【0135】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。