特許第6704540号(P6704540)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6704540メタルマスク材料及びその製造方法とメタルマスク
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6704540
(24)【登録日】2020年5月14日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】メタルマスク材料及びその製造方法とメタルマスク
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20200525BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20200525BHJP
   C22C 38/10 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   C22C38/00 302R
   C21D9/46 P
   C22C38/10
【請求項の数】14
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2019-559127(P2019-559127)
(86)(22)【出願日】2019年9月27日
(86)【国際出願番号】JP2019038416
【審査請求日】2020年1月10日
(31)【優先権主張番号】特願2018-182993(P2018-182993)
(32)【優先日】2018年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2018-182992(P2018-182992)
(32)【優先日】2018年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2018-183002(P2018-183002)
(32)【優先日】2018年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2018-183007(P2018-183007)
(32)【優先日】2018年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2018-183001(P2018-183001)
(32)【優先日】2018年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2018-183006(P2018-183006)
(32)【優先日】2018年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126848
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】米村 光治
(72)【発明者】
【氏名】藤本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 圭太
(72)【発明者】
【氏名】海野 裕人
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−214447(JP,A)
【文献】 特開2014−101543(JP,A)
【文献】 特開2017−088914(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/043641(WO,A1)
【文献】 国際公開第2018/043642(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 − 38/60
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%にて、Ni:35.0〜37.0%、Co:0.00〜0.50%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
板厚が5.00μm以上50.00μm以下であるメタルマスク材料であって、
一辺が100mmの正方形の前記メタルマスク材料の試料を、当該試料の板厚が2/5になるまでその片側からエッチングをし、エッチングをした前記試料を定盤に載置した時の、前記試料の4角の浮き上がり量のうち最大値である反り量が5.0mm以下であることを特徴とするメタルマスク材料。
【請求項2】
更に、質量%にて、C:0.05%以下、Ca:0.0005%以下を含有することを特徴とする、請求項1に記載のメタルマスク材料。
【請求項3】
前記不純物は、Si:0.30%以下、Mn:0.70%以下、Al:0.01%以下、Mg:0.0005%以下、P:0.030%以下、S:0.015%以下に制限されることを特徴とする、請求項1又は2に記載のメタルマスク材料。
【請求項4】
表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均格子面間隔が下記(1−1)式および(1−2)式を満足することを特徴とする、請求項1〜3のうちいずれか1項に記載のメタルマスク材料。
ΔD≦0.00030・・・(1−1)
ΔD=|DM−DL|・・・(1−2)
但し、上記式中のDM及びDLの定義は、下記の通りである。
M:斜角入射X線回折法によって得られる{111}面の平均格子面間隔(単位:nm);
L:{111}面の格子面間隔の基準値(単位:nm)又はバルクの平均の格子定数から算出される{111}面の平均格子面間隔(単位:nm)
【請求項5】
下記(2−1)式を満足することを特徴とする、請求項1〜3のうちいずれか1項に記載のメタルマスク材料。
【数1】
但し、上記式中のHw111は、斜角入射X線回折法によって得られる、表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均半値幅であり、tはメタルマスク材料の板厚(μm)である。
【請求項6】
下記(3−1)式又は(3−2)式のいずれかを満足することを特徴とする、請求項1〜3のうちいずれか1項に記載のメタルマスク材料。
max<9.5・・・(3−1)
max≧20 ・・・(3−2)
r=I111/I200・・(3−3)
但し、I111は、斜角入射X線回折法によって得られる、表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の積分強度;
200は、斜角入射X線回折法によって得られる、表面下1.45μmから7.11μmまでの{200}面の積分強度;
maxは、(3−3)式で定義される積分強度比の最大値である。
【請求項7】
下記(4−1)式〜(4−3)式を満足することを特徴とする、請求項1〜3のうちいずれか1項に記載のメタルマスク材料。

0.385≦I200/{I111+I200+I220+I311}・・・(4−1)
311/{I111+I200+I220+I311}≦0.08・・・(4−2)
0.93≦{I220+I200}/{I111+I200+I220+I311}・・・(4−3)
但し、上記式中のI200は、集中法X線回折によって得られる{200}面の回折強度であり、I111は{111}面の回折強度であり、I220は{220}面の回折強度であり、I311は前記{311}面の回折強度である。
【請求項8】
X線応力測定法を用いて残留応力を測定した際に算出される誤差が、下記(5−1)式を満足することを特徴とする、請求項1〜3のうちいずれか1項に記載のメタルマスク材料。
σ≦α+β×R+γ×R2・・・(5−1)
但し、α=211.1;β=5.355;γ=0.034886;上記式中のRは、前記X線応力測定法を用いて測定された残留応力値であり、σは前記X線応力測定法を用いて残留応力値を測定した際に算出される誤差である。
【請求項9】
X線応力測定法を用いて応力を測定した時に、前記メタルマスク材料の面法線と{220}面法線との成す角度(Ψ(deg))と、前記角度Ψにおける{220}面の回折ピーク位置(2θ(deg))との関係が下記(6−5)式で表され、且つ前記(6−5)式の係数であるb、c、d、eが下記(6−1)式〜(6−4)式を満たすことを特徴とする、請求項1〜3のうちいずれか1項に記載のメタルマスク材料。
b/I≦0.09・・・(6−1)
0.02≦|c|・・・(6−2)
d/I≦12・・・(6−3)
2≧|e|/I・・・(6−4)
2θ=a+b×sin2Ψ+c×sin(d×sin2Ψ+e)・・・(6−5)
但し、I=(z×t3)/12
t:板厚(μm)
z:0.000768
【請求項10】
オージェ電子分光法により測定された酸化皮膜厚が4.5nm以下であることを特徴とする、請求項4〜9のうちいずれか1項に記載のメタルマスク材料。
【請求項11】
0.2%耐力が330MPa以上850MPa以下であることを特徴とする、請求項4〜10のうちいずれか1項に記載のメタルマスク材料。
【請求項12】
圧延方向と直角方向の平均算術表面粗さRaが0.02μm以上0.10μm以下であることを特徴とする、請求項4〜11のうちいずれか1項に記載のメタルマスク材料。
【請求項13】
請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の組成を有する合金を溶製する工程と、
前記溶製された合金から鋼片を得る工程と、
前記鋼片を熱間圧延して巻取ることにより熱間圧延板を得る巻取工程と、
前記巻取工程後に前記熱間圧延板に対して冷間圧延と焼鈍とを少なくとも1回ずつ交互に行うことによって板厚5.00〜50.00μmの鋼箔を得る工程と、
テンションアニール工程とを含み、
前記テンションアニール工程は最終圧延工程後に行われ、最終圧延工程での圧下率は30.0%以上95.0%以下であって、前記テンションアニール工程は焼鈍温度が300〜900℃であって、還元雰囲気で行われることを特徴とする、請求項1〜12のうちいずれか1項に記載のメタルマスク材料の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜12のうちいずれか1項に記載のメタルマスク材料を用いたことを特徴とする、メタルマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELディスプレイ(OLED)の製造等で使用されるメタルマスク材料とメタルマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
RGB素子を個別にパターニングする塗り分け方式でOLEDをカラー表示する場合、メタルマスクを使用し、RGB毎に他の色の電極開口部をマスキングして蒸着する。すなわち、OLED用のメタルマスクは、窓枠形状のフレームにゆがみやたるみの無いようにテンションを付加した状態で固定され、図18に示すように、有機EL発光材料3aをマスク孔1aからガラス基板又はフィルム基板等の基板2上に蒸着させる。
【0003】
前記メタルマスクは、OLEDの画素のRGBに対して1:1で対応するようにマスク孔が形成され、前記OLEDのサイズと同程度のサイズを有するマスク部を等間隔で複数備える。前記メタルマスクは、製造されるOLEDの画素のRGBに対して1:1で対応するようにマスク孔を形成する必要があるため、マスク孔1a間のピッチ間隔は少なくともOLEDの画素密度と同程度になり、前記マスク孔1aの孔径もそれに伴って微細化される。
【0004】
有機EL発光材料3aを前記マスク孔1aから通過させて前記基板2上に蒸着させる際、メタルマスクの板厚によって有機EL発光材料3aが前記基板2上に蒸着することが阻害され、RGBを構成するサブ画素の一部が所望の厚さよりも薄く形成されてしまうことがある。このようなシャドウイング効果を防止するため、前記メタルマスク1には、前記ピッチ間隔と同程度の板厚を有する金属板が用いられる。また、図18に示すように、前記マスク孔1aの孔径が前記基板2側から前記有機EL発光材料3aの蒸着源3側に向かって拡がる断面形状を有するように、前記金属板の片方の面から板厚の30〜70%程度エッチングすること(以下、「ハーフエッチング」という。)によって、メタルマスク1が製造される。
【0005】
このようなメタルマスクを製造するため、特許文献1、2のようにインバー合金を用いることが提案されている。インバー合金は、温度によって寸法が変化しないので、カラーテレビジョン用ブラウン管やコンピュータモニタ用ブラウン管のシャドウマスクを製造するために、特許文献3〜5に示すように従来から利用されてきた。
【0006】
しかし、インバー合金からなるメタルマスク材料をハーフエッチングすると、メタルマスク材料の中央部が凹むように縁部側が反り返る変形(以下、「エッチング後の反り」という。)が生じる場合がある。このようなエッチング後の反りによって、前記基板2とのアライメントの精度が損なわれ、基板2上の画素パターンとメタルマスク1のパターンとの間に位置ずれが生じるため、有機EL素子の有機化合物層の微細なパターニングを行うことができないという問題が生じる。
【0007】
メタルマスク材料の反りは当該メタルマスク材料の残留応力に起因する。特許文献6は、アニール工程によって金属板の内部応力を除去し、アニール工程後の前記金属板から取り出したサンプルをエッチングして、反りの曲率kが0.008mm−1以下であるか否かを検査する工程を含む製造方法を開示する。しかし、前記検査工程は、製造された複数の長尺金属板の中から良好な蒸着特性を有する蒸着マスクを得るための長尺金属板を選択する工程に過ぎず、特許文献5は、長尺金属板の金属組織を特定する方法を開示しない。そのため、特許文献6に開示された製造方法では、金属板の残留応力を適切な範囲に制御するための製造条件を長尺金属板の製造前に特定することが困難である。
【0008】
また、残留応力が熱処理によって除去された場合、残留応力で保持されていた材料形状はひずみがなくなるように変化するため、金属板の寸法が短くなることがある。蒸着マスクを構成する金属板の寸法が熱によって変化すれば、蒸着マスクに形成された貫通孔の位置も変化するという課題がある。特許文献7は、このような技術的課題を解決するため、製造された長尺金属板から取り出されたサンプルに熱処理を施す前後での熱復元の程度を検査する検査工程を含む製造方法を開示する。しかし、特許文献7に開示された前記検査工程は、蒸着マスクの元となる長尺金属板として残留歪の程度及びそのばらつきが小さなものを用いることを基本としており、長尺金属板の金属組織を特定する方法を開示しない。そのため、特許文献7に開示された製造方法では、金属板の残留応力を適切な範囲に制御するための製造条件を長尺金属板の製造前に特定することが困難である。
【0009】
特許文献8は、結晶方位によりエッチング速度に差異があることを考慮して、圧延面の主要な結晶方位(111)、(200)、(220)、(311)のX線回折強度が一定範囲の関係を満たすFe−Ni系合金からなるメタルマスク材料を開示する。特許文献8に開示されたメタルマスク材料は特定方位にのみ強く配向しないので、均一且つ精度良くエッチングできることを特徴としている。特許文献8には、メタルマスク材料の(200)、(220)、(311)の配向度は、最終再結晶焼鈍前の冷間圧延加工度、最終再結晶焼鈍の結晶粒度番号、及び最終冷間圧延の加工度によって大きく影響を受けることが開示されている。しかし、後述するように、表面から板厚方向における格子面間隔の不均一性に起因して板厚方向にひずみの分布が生じる。特許文献8に開示されたメタルマスク材料は、格子面間隔の不均一性が意図的に制御されていないので、板厚方向のひずみの分布が必ずしも十分に制御されたものではない。そのため、エッチングによるメタルマスク材料の変形は確実には低減できない。
【0010】
特許文献9は、長さ150mm、幅30mmの試料を切り出し、前記試料を片側からエッチングし、前記試料の板厚の60%を除去したときの反り量が15mm以下であり、板厚が0.01mm以上0.10mm未満であるメタルマスク材料を開示する。しかし、特許文献には、メタルマスクの微細構造の観点から前記反り量を低減することを開示しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−183023号公報
【特許文献2】特開2017−88915号公報
【特許文献3】国際公開第00/70108号
【特許文献4】特開2003−27188号公報
【特許文献5】特開2004−115905号公報
【特許文献6】特開2014−101543号公報
【特許文献7】特開2015−78401号公報
【特許文献8】特開2014−101543号公報
【特許文献9】国際公開第2018/043641号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Ono, F.; Kittaka, T.; Maeta, H.,Physica B+C, Volume 119, Issue 1, p. 78−83
【非特許文献2】第5版鉄鋼便覧第4章1.4.7X線回折分析
【非特許文献3】X線応力測定法標準(2002年版)鉄鋼編、p.81、社団法人 日本材料学会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような問題に鑑みて成されたものであり、反り量が低減されるOLED用のメタルマスク材料とその製造方法とメタルマスクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する本発明の要旨は、次の通りである。
(1)質量%にて、Ni:35.0〜37.0%、Co:0.00〜0.50%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
板厚が5.00μm以上50.00μm以下であるメタルマスク材料であって、
一辺が100mmの正方形の前記メタルマスク材料の試料を、当該試料の板厚が2/5になるまでその片側からエッチングをし、エッチングをした前記試料を定盤に載置した時の、前記試料の4角の浮き上がり量のうち最大値である反り量が5.0mm以下であることを特徴とするメタルマスク材料。
(2)更に、質量%にて、C:0.05%以下、Ca:0.0005%以下を含有することを特徴とする、(1)に記載のメタルマスク材料。
(3)前記不純物は、Si:0.30%以下、Mn:0.70%以下、Al:0.01%以下、Mg:0.0005%以下、P:0.030%以下、S:0.015%以下に制限されることを特徴とする、(1)又は(2)に記載のメタルマスク材料。
(4)表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均格子面間隔が下記(1−1)式および(1−2)式を満足することを特徴とする(1)〜(3)のうちいずれかに記載のメタルマスク材料。
ΔD≦0.00030・・・(1−1)
ΔD=|DM−DL|・・・(1−2)
但し、上記式中のDM及びDLの定義は、下記の通りである。
M:斜角入射X線回折法によって得られる{111}面の平均格子面間隔(単位:nm);
L:{111}面の格子面間隔の基準値(単位:nm)又はバルクの平均の格子定数から算出される{111}面の平均格子面間隔(単位:nm)
(5)下記(2−1)式を満足することを特徴とする(1)〜(3)のうちいずれかに記載のメタルマスク材料。
【数1】
但し、上記式中のHw111は、斜角入射X線回折法によって得られる、表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均半値幅であり、tはメタルマスク材料の板厚(μm)である。
(6)下記(3−1)式又は(3−2)式のいずれかを満足することを特徴とする(1)〜(3)のうちいずれかに記載のメタルマスク材料。
max<9.5・・・(3−1)
max≧20・・・(3−2)
r=I111/I200・・(3−3)
但し、I111は、斜角入射X線回折法によって得られる、表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の積分強度;
200は、斜角入射X線回折法によって得られる、表面下1.45μmから7.11μmまでの{200}面の積分強度;
maxは、(3−3)式で定義される強度比rの最大値である。
(7)下記(4−1)式〜(4−3)式を満足することを特徴とする(1)〜(3)のうちいずれかに記載のメタルマスク材料。
0.385≦I200/{I111+I200+I220+I311}・・・(4−1)
311/{I111+I200+I220+I311}≦0.08・・・(4−2)
0.93≦{I220+I200}/{I111+I200+I220+I311}・・・(4−3)
但し、上記式中のI200は、集中法X線回折によって得られる{200}面の回折強度であり、I111は{111}面の回折強度であり、I220は{220}面の回折強度であり、I311は前記{311}面の回折強度である。
(8)X線応力測定法を用いて残留応力を測定した際に算出される誤差が、下記(5−1)式を満足することを特徴とする(1)〜(3)のうちいずれかに記載のメタルマスク材料。
σ≦α+β×R+γ×R2・・・(5−1)
但し、α=211.1;β=5.355;γ=0.034886;上記式中のRは、前記X線応力測定法を用いて測定された残留応力値であり、σは前記X線応力測定法を用いて残留応力値を測定した際に算出される誤差である。
(9)X線応力測定法を用いて応力を測定した時に、前記メタルマスク材料の面法線と{220}面法線との成す角度(Ψ(deg))と、前記角度Ψにおける{220}面の回折ピーク位置(2θ(deg))との関係が下記(6−5)式で表され、且つ前記(6−5)式の係数であるb、c、d、eが下記(6−1)式〜(6−4)式を満たすことを特徴とする(1)〜(3)のうちいずれかに記載のメタルマスク材料。
b/I≦0.09・・・(6−1)
0.02≦|c|・・・(6−2)
d/I≦12・・・(6−3)
2≧|e|/I・・・(6−4)
2θ=a+b×sin2Ψ+c×sin(d×sin2Ψ+e)・・・(6−5)
但し、I=(z×t3)/12
t:板厚(μm)
z:0.000768
(10)オージェ電子分光法により測定された酸化皮膜厚が4.5nm以下であることを特徴とする(4)〜(9)のうちいずれかに記載のメタルマスク材料。
(11)0.2%耐力が330MPa以上850MPa以下であることを特徴とする(4)〜(10)のうちいずれかに記載のメタルマスク材料。
(12)圧延方向と直角方向の平均算術表面粗さRaが0.02μm以上0.10μm以下であることを特徴とする、(4)〜(11)に記載のメタルマスク材料。
(13)(1)〜(3)のうちいずれかに記載の組成を有する合金を溶製する工程と、
前記溶製された合金から鋼片を得る工程と、
前記鋼片を熱間圧延して巻取ることにより熱間圧延板を得る巻取工程と、
前記巻取工程後に前記熱間圧延板に対して冷間圧延と焼鈍とを少なくとも1回ずつ交互に行うことによって板厚5.00〜50.00μmの鋼箔を得る工程と、
テンションアニール工程とを含み、
前記テンションアニール工程は最終圧延工程後に行われ、最終圧延工程での圧下率は30.0%以上95.0%以下であって、前記テンションアニール工程は焼鈍温度が300〜900℃であって、還元雰囲気で行われることを特徴とする、(1)〜(12)のうちいずれかに記載のメタルマスク材料の製造方法。
(14)(1)〜(12)のうちいずれかのメタルマスク材料を用いたことを特徴とする、メタルマスク。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、反り量が少なく、OLEDの高画素密度化に対応した精密なエッチングが可能なメタルマスク材料と、当該メタルマスク材料を用いたメタルマスクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】製造例のメタルマスク材料の表面から7μmまでの深さと、当該深さ位置における{111}面の格子面間隔の測定結果を示すグラフである。
図2】製造例のメタルマスク材料の表面下1μmから7μmまでの深さと、当該深さ位置における{111}面の格子面間隔の測定結果を示すグラフである。
図3】製造例のメタルマスク材料の表面から10.0μmまでの{111}面の平均格子面間隔と、メタルマスク材料の反り量の関係を示すグラフである。
図4】製造例のメタルマスク材料の表面から7.0μmまでの深さと、当該深さ位置における{111}面における回折ピークの半値幅の測定結果を示すグラフである。
図5】製造例のメタルマスク材料の表面から7.0μmまでの{111}面における回折ピークの半値幅の平均値と、メタルマスク材料の反り量の関係を示すグラフである。
図6】均一ひずみがX線回折ピークにおける回折角に与える影響と、不均一ひずみがX線回折ピークの半値幅に与える影響を説明する概略図である。
図7】(A)、(B)は、メタルマスク材料の表面に対するX線の入射角度を変えることにより、斜角入射X線回折法を用いて測定されたX線回折パターンである。
図8】(A)は、集中法光学系のX線回折法に基づいて観測された、メタルマスク材料のX線回折パターンであり、(B)は、集中法光学系のX線回折法による測定結果から得られた{200}面の平均間隔と、前記反り量との関係のグラフである。
図9】各製造例に関し、メタルマスク材料の表面から7.0μmまでの深さと、{200}面の積分強度I200に対する{111}面の積分強度I111の比r(r=I111/I200)との関係を示すグラフである。
図10】rmaxと、メタルマスク材料の反り量との関係を示すグラフである。
図11】(A)は、各製造例のr(1)の値と反り量との関係を示すグラフであり、(B)は、各製造例のr(2)の値と反り量との関係を示すグラフであり、(C)は、各製造例のr(3)の値と反り量との関係を示すグラフである。
図12-1】(a)、(b)は、試料No.a、bのそれぞれについて、集中法光学系のX線回折法を用いて、縦軸を「2θ(deg)」の値とし、横軸を「sinΨ」の値とするグラフ上に、各Ψ角における{220}面の回折ピーク位置(2θ(deg))及び当該Ψ角におけるsinΨの値を座標としてプロットしたグラフと最小二乗近似直線である。
図12-2】(c)〜(e)は、試料No.c〜eのそれぞれについて、集中法光学系のX線回折法を用いて、縦軸を「2θ(deg)」の値とし、横軸を「sinΨ」の値とするグラフ上に、各Ψ角における{220}面の回折ピーク位置(2θ(deg))及び当該Ψ角におけるsinΨの値を座標としてプロットしたグラフと最小二乗近似直線である。
図13】試料No.a〜eのそれぞれについて、集中法光学系のX線回折法を用いて{220}面のX線回折ピークから算出された残留応力値と、残留応力値の誤差とをプロットしたグラフである。
図14-1】(a)、(b)は、試料No.a、bのそれぞれについて、集中法光学系のX線回折法を用いて、縦軸を「2θ(deg)」の値とし、横軸を「sinΨ」の値とするグラフ上に、各Ψ角における{220}面の回折ピーク位置(2θ(deg))及び当該Ψ角におけるsinΨの値を座標としてプロットしたグラフである。
図14-2】(c)〜(e)は、試料No.c〜eのそれぞれについて、集中法光学系のX線回折法を用いて、縦軸を「2θ(deg)」の値とし、横軸を「sinΨ」の値とするグラフ上に、各Ψ角における{220}面の回折ピーク位置(2θ(deg))及び当該Ψ角におけるsinΨの値を座標としてプロットしたグラフである。
図15-1】試料No.a〜eのそれぞれについて、近似曲線(6−5)のパラメータb,cと、反り量との関係を示すグラフである。
図15-2】試料No.a〜eのそれぞれについて、近似曲線(6−5)のパラメータd、eと、反り量との関係を示すグラフである。
図16】製造例のメタルマスク材料のそれぞれの最終焼鈍温度と酸化皮膜厚との関係を示すグラフである。
図17】オージェ電子分光装置を用いて測定された、メタルマスク材料の表面からの酸素濃度の深さプロファイルを示すグラフである。
図18】有機EL発光材料を基板に蒸着させる工程と、当該工程におけるメタルマスクの使用状態を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のメタルマスク材料及びメタルマスクについて詳述する。まず、本発明のメタルマスク材料の組成について説明する。元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
【0018】
[メタルマスク材料の化学組成]
本発明のメタルマスク材料は、以下の成分を含有し、残部は鉄及び不純物からなる。
【0019】
[Ni:35.0〜37.0%]
ニッケル(Ni)は合金の熱膨張係数を低く抑えるための主要成分であり、そのためにはNi含有量を35.00%以上に調整することが必要である。しかしながら、Ni含有量が高すぎれば、熱間圧延後又は熱間鍛造後において、鋼中にベイナイト組織が生成しやすくなる。したがって、Ni含有量は37.0%以下である。
【0020】
[Co:0.00〜0.50%]
Ni量との関連でその添加量を増していくと合金の熱膨張係数を一段と低下させることができる成分である。しかし、非常に価格の高い元素であるため、Co含有量の上限を 0.50%とする。
【0021】
[その他の成分]
本発明のメタルマスク材料の組成は、スピネル等の介在物を低減する観点から、鉄の一部を以下の組成に変えても良い。C、Ca、Mn、Si、Mg及びAlの含有量は0%であっても良い。
【0022】
[C:0.05%以下]
炭素(C)は、メタルマスク材料の強度を高める。しかしながら、Cが過剰に含有されれば、合金の炭化物由来の介在物が増加する。したがって、メタルマスク材料に含有しても良いC含有量は、0.05%以下にするとよい。
【0023】
[Ca:0〜0.0005%]
カルシウム(Ca)は、硫化物に固溶して、硫化物を微細分散させ、硫化物の形状を球状化する。Ca含有量が低すぎれば、つまりS含有量に対するCa含有量が低すぎれば、Caが硫化物に固溶しにくく、硫化物が球状化されにくい。一方、Caが大きすぎれば、S含有量に対するCa含有量が高すぎ、硫化物に固溶しなかったCaが粗大な酸化物を形成し、エッチング不良を生じるおそれがある。このため、Ca量は0.0005%以下とすることが好ましい。Ca量の好ましい範囲は、0.0001%以下にするとよい。
【0024】
[Mn:0〜0.70%]
マンガン(Mn)は、スピネルの生成を避けるため、Mg及びAlの代わりに脱酸剤として積極的に用いられる。しかし、Mn含有量が高すぎれば、粒界に偏析して粒界破壊を助長して、耐水素脆化性がかえって悪くなる。したがって、Mn含有量は、0.70%以下にすることが好ましい。Mn含有量の好ましい範囲は0.30%以下にするとよい。
【0025】
[Si:0〜0.30%]
珪素(Si)は、スピネルの生成を避けるために、Mg、Alによる脱酸の代わりにMn、Siによる脱酸が積極的に行われる。しかし、Siは合金の熱膨張係数を増加させる。メタルマスク材料は、蒸着源から放出された有機EL発光材料がマスク孔を通過できるように、200℃程度の温度環境下で使用される場合がある。そのため、本発明のメタルマスク材料は、Siは0.30%以下に制限される。脱酸生成物のMnO−SiOはガラス化した軟質の介在物であり、熱間圧延中に延伸及び分断されて微細化される。そのため、耐水素脆化特性が高まる。一方、Si含有量が0.30%を超えれば、強度が高くなり過ぎる。この場合、合金の加工性が低下する。Si含有量の好ましい範囲は0.01%以下にするとよい。
【0026】
[Mg:0〜0.0005%]
マグネシウム(Mg)は鋼を脱酸する。しかし、Mg含有量が0.0005%を超えれば、粗大な介在物が生成してエッチング不良を生じるおそれがある。また、スピネルの生成を避けるためにMgの含有量は低い方が好ましい。したがって、Mg含有量は0.0001%以下とすることが好ましい。
【0027】
[Al:0〜0.010%]
アルミニウム(Al)は鋼を脱酸する。一方、Al含有量が0.010%を超えれば、粗大な介在物が生成してエッチング不良を生じるおそれがある。また、スピネルの生成を避けるためにAlの含有量は少ない方が好ましい。したがって、Al含有量の好ましい範囲は0.001%以下にするとよい。
【0028】
[不純物]
本発明のメタルマスク材料の組成は、不純物として、P、S等の成分が挙げられる。不純物の含有量は、以下の範囲内に制限される。
【0029】
[P:0.030%以下;S:0.015%以下]
P、Sは、メタルマスク材料中にMn等の合金元素と結合して介在物を生成する元素であるので、P:0.030%以下、S:0.015%以下に制限される。好ましくは、P:0.003%以下、S:0.0015%以下にすると良い。
【0030】
[板厚]
本発明は、通常のマスク材料と同様に板厚50.00μm以下のメタルマスク材料に適用することができる。高精細のパターンを形成することが求められているため、板厚は薄くなる傾向にある。すなわち、板厚が30.00μm以下、25.00μm以下、20.00μm以下、15.00μm以下、10.00μm以下のメタルマスク材料に適用することができる。下限は、特に限定されないが、圧延による製造上の理由から5.00μmとしてよい。
【0031】
[反り量]
メタルマスク材料から、1辺100mmの正方形の試料を切り出し、当該試料の片側の面からエッチングすることにより前記試料の板厚の3/5を除去した後、エッチング後の試料を定盤上に載置する。前記載置された試料の4角の定盤からの浮き上がり量のうち最大値を、そのメタルマスク材料の反り量とする。エッチング方法は特に限定しないが、前記サンプルの一方の面をレジストで保護した後、塩化第二鉄水溶液等のエッチング液中に前記サンプルを浸漬してもよい。
【0032】
反り量は小さければ小さいほどよく、5.0mm以下であればよい。好ましくは、反り量の上限を4.5mm、4.0mm、3.5mm、3.0mm、2.5mm、2.0mm、1.5mm、1.0mm、0.5mmとしてもよい。
【0033】
反り量は、定盤上に載置して測定することが、実際のマスク製造時のエッチングの状態に最も近い状態で評価することができる。従来は、短冊状のカットサンプルの上端を垂直定盤に接する状態で吊り下げ、カットサンプルの下端が垂直定盤から離れた距離(水平距離)を反り量としている例もある(特許文献9)。しかし、これでは長さ方向の曲がり量しか評価(2次元評価)していないため、面での反り量の評価(3次元評価)はできない。本発明で採用する面での反り量評価により、実際のマスク製造時に近い状態である3次元での反り量評価ができる。
【0034】
以下、本発明のメタルマスク材料及びその製造方法とメタルマスクについて、図面を参照しながら具体的実施形態を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれらの具体的実施形態に限定されるものではない。
【0035】
ハーフエッチング前では、メタルマスク材料は平坦であり変形箇所は無いが、ハーフエッチング後、前述した反りが生じる。一方、メタルマスク材料をハーフエッチングする前後で前記メタルマスク材料の板厚が変化してメタルマスク材料の残留応力のバランスが変化するので、板厚方向のひずみの分布と、反り量は、関連する。
【0036】
本発明者らは、メタルマスク材料の板厚方向のひずみに直接的または間接的に関係するパラメータを特定すれば、そのパラメータを制御することによってメタルマスク材料の残留応力を制御できると考えた。従って、本発明の実施形態は、メタルマスク材料の板厚方向のひずみに直接的または間接的に関係するパラメータを制御することによって、反り量を抑制することを特徴とする。
【0037】
[第1実施形態]
まず、前記第1の態様の一例であるメタルマスク材料の第1実施形態について詳述する。
【0038】
メタルマスク材料の結晶構造は面心立方格子(fcc)であるので、すべり面は{111}面である。このことから、本発明者らは、メタルマスク材料の板厚方向の{111}面間隔は、板厚方向の均一ひずみの分布と関連すると考え、メタルマスク材料の板厚方向の{111}面間隔と、ハーフエッチング後の反り量との関係について鋭意研究を行った。
【0039】
その結果、板厚方向において斜角入射X線回折法にて測定される{111}面の平均格子面間隔と、バルクの平均の格子定数から算出される{111}面の平均格子面間隔との差が小さくなるように、メタルマスク材料を製造し、前記メタルマスク材料を用いることにより、反り量を低減できることを本発明者らは見出した。第1実施形態は、この知見に基づく。
【0040】
[{111}面の平均格子面間隔とハーフエッチング後の反り量との関係]
メタルマスク材料の板厚方向の{111}面間隔と、反り量との関係を以下の通り説明する。
【0041】
表1に示す製造条件にて、冷間圧延の圧下率と焼鈍温度を調整することにより、試料No.a〜eのメタルマスク材料を製造した。これらのメタルマスク材料のそれぞれについて、下記の条件にて、厚さ方向の{111}面の格子面間隔を測定した。尚、試料No.a〜eの組成は、Ni含有量が36.0%、残部は鉄及び不純物である。また、Al、Mg、Mn、Si、P、S等の不純物の含有量は、いずれも検出限界以下であった。表1の「最終焼鈍温度(℃)」とは、最終圧延工程後に行われるテンションアニール工程の焼鈍温度である。以下、特に断りが無い限り、最終圧延工程後に行われるテンションアニール工程の焼鈍温度を「最終焼鈍温度(℃)」という。
【0042】
表1の試料No.a〜eのそれぞれを100mm角にカットして、前記カットされた試料の片面をレジストで覆い、次いで、板厚が2/5になるまで塩化第二鉄水溶液中に浸漬することによりハーフエッチングを行った。次いで、ハーフエッチング後の試料を定盤上に載置し、その試料の四隅の定盤からの浮き上がり高さの最大値を測定した。前記測定された最大値を、試料No.a〜eのそれぞれのハーフエッチング後の反り量とした。
【0043】
【表1】
【0044】
前記厚さ方向の{111}面の格子面間隔の測定は、斜角入射X線回折法により行った。尚、前記X線回折装置の対陰極はCoであり、測定時の管電圧及び電流はそれぞれ40kV及び135mAとした。また、斜角入射X線回折法は、リガク製SmartLabの平行ビーム光学系を用いて行い、入射X線の光軸が試料の表面に対して角度(θ)0.2°、0.4°、0.6°、0.8°、1.0°、2.0°、3.0°、4.0°、5.0°、6.0°、8.0°、10.0°、12.0°、15.0°、20.0°のそれぞれになるようにX線を試料の表面に入射させた際における、前記試料へのX線質量吸収係数を計算し、算出されたX線質量吸収係数を表面垂直方向の侵入深さを換算した。入射側に5.0°のソーラースリット、受光側にソーラースリット5.0°を設置し、平行スリットアナライザー(PSA)なし、受光スリット1(RS1)=受光スリット2(RS2)=1.0mmとして測定した。
【0045】
図1に、平行ビーム光学系の前記入射角度毎に測定された表面垂直方向の侵入深さ(表面からの深さ)及び当該深さ位置における{111}面の格子面間隔の測定結果を示す。図1に示すように、表面から1μm深さまでの領域において、{111}面の格子面間隔の変化は大きいが、試料No.a〜eのメタルマスク材料のいずれも同様の変化をしている。一方、表面から1μmの深さから7μmまでの領域において、{111}面の格子面間隔は、表面から1μm深さまでの領域における{111}面の格子面間隔の変化に比べて安定しているが、図2に示されるように、試料によって異なる変化をしている。
【0046】
斜角入射X線回折法によって得られる{111}面の平均格子面間隔(単位:nm)は、表面下1.0μm以上の深さの領域における{111}面の格子面間隔を、斜角入射X線回折法により深さ毎に直接測定して平均化することによって求める。尚、斜角入射X線回折法によって{111}面の格子面間隔を測定する深さは、表面下1.45μmから7.11μmまでとすることが好ましい。
【0047】
図3は、試料No.a、b、c、d、eのメタルマスク材料のそれぞれについて、表面から10.0μmまでを斜角入射X線回折法を用いて測定して得られる{111}面の平均格子面間隔と、反り量との関係を示すグラフである。図3から分かるように、斜角入射X線回折法を用いて測定して得られる{111}面の平均格子面間隔が増加するに従って、反り量が減少している。
【0048】
試料No.a、b、c、d、eのメタルマスク材料(Fe−36mass%Ni)の{111}面の格子面間隔の基準値は、ハーフエッチング後の反り量が0となる{111}面の格子面間隔とした。前記{111}面の格子面間隔の基準値は、{111}面の平均格子面間隔をパラメータとする指数関数によりこれらの試料の反り量の測定値を近似して得られる。この近似曲線の縦軸の値(反り量)が0となる横軸の値が、前記{111}面の格子面間隔の基準値である。前記試料No.a、b、c、d、eのメタルマスク材料の{111}面の格子面間隔の基準値は、0.20763nmである。このように、前記斜角入射X線回折法によって得られる{111}面の平均格子面間隔と、前記{111}面の格子面間隔の基準値(0.20763nm)との差の絶対値(ΔD)が0.00030nm以下で、反り量が5.0mm以下に減少する。
【0049】
尚、前記{111}面の格子面間隔の基準値として、試料No.a、b、c、d、eのメタルマスク材料を集中法により測定して得られたそれぞれのバルクの平均の格子定数から算出した{111}面の平均格子面間隔を用いても良い。但し、バルクの結晶配向に起因して、集中法を用いたX線回折法では{111}面の回折パターンを直接観測できない。そこで、集中法を用いたX線回折法を用いて、メタルマスク材料を構成する合金のバルクの平均の格子定数を測定し、以下の手段により、バルクの平均の格子定数から{111}面の平均格子面間隔(D(単位:nm))が算出される。
【0050】
まず、X線回折の集中法により測定した前記入射角度(2θ)からNelson−Riley関数1/2×{cosθ/sinθ+(cosθ)/θ}の値を算出し、得られた値をx座標に、Braggの回折条件から得られた{111}面の平均格子面間隔をy座標にしてプロットする。次に、最小二乗法によって得られる直線のy切片の値を求め、この値を{111}面の平均格子面間隔として算出し、この値を「{111}面の格子面間隔の基準値」として用いても良い。
【0051】
第1実施形態に係るメタルマスク材料は、この知見に基づくものであって、表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均格子面間隔が下記(1−1)および(1−2)式を満足することを特徴とする。
ΔD≦0.00030・・・(1−1)
ΔD=|D−D|・・・(1−2)
但し、上記式中のD及びDの定義は、下記の通りである。
:斜角入射X線回折法によって得られる{111}面の平均格子面間隔(単位:nm);
:{111}面の格子面間隔の基準値(単位:nm)又はバルクの平均の格子定数から算出される{111}面の平均格子面間隔(単位:nm)
【0052】
尚、Nelson−Riley関数以外に、Rietvelt法、又は非特許文献1等の文献値を用いて前記{111}面の格子面間隔の基準値を算出して、その算出された平均格子面間隔を前記Dの値としても良い。また、ヴェガード則(Vegard’s law)を用いて、Ni含有量が35.0〜37.0%の間にあるメタルマスク材料の{111}面の格子面間隔の基準値を算出しても良い。具体的には、Ni含有量(35.0%以上37.0%以下)が互いに異なるメタルマスク材料の{111}面の平均格子面間隔を測定し、前記測定された{111}面の平均格子面間隔から内挿又は外挿することによって、メタルマスク材料の{111}面の格子面間隔の基準値を算出しても良い。
【0053】
前述したように、前記斜角入射X線回折法によって得られる{111}面の平均格子面間隔Dと、前記{111}面の格子面間隔の基準値(0.20763nm)との差の絶対値(ΔD)は、前記反り量に関係しており、前記ΔDは小さい程好ましい。従って、エッチング精度を更に高めるため、前記ΔDは0.00020以下にすることが好ましく、更に好ましくは、0.00015以下にすると良い。
【0054】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について詳述する。
【0055】
格子ひずみには均一ひずみと不均一ひずみがあり、このうち、不均一ひずみは転位密度に関係する量である。非特許文献2に開示されるように、均一ひずみはX線回折ピークにおける回折角をシフトさせるのに対し、不均一ひずみはX線回折ピークの半値幅を拡げる効果がある(図6)。均一ひずみは、被測定物の微細構造を明らかにするものであって、微細構造は被測定物の残留応力に影響を与える。
【0056】
メタルマスク材料の結晶構造は面心立方格子(fcc)であるので、すべり面は{111}面である。このことから、本発明者らは、メタルマスク材料の板厚方向の{111}面におけるX線回折ピークの半値幅は、板厚方向の均一ひずみ及び不均一ひずみの分布と関連すると考え、メタルマスク材料の板厚方向の{111}面におけるX線回折ピークの半値幅と、前記反り量との関係について鋭意研究を行った。
【0057】
その結果、板厚方向において{111}面の平均半値幅を小さくなるようにメタルマスク材料を製造し、前記メタルマスク材料を用いることにより、前記反り量を低減できることを本発明者らは見出した。
【0058】
但し、{111}面の平均半値幅には、メタルマスク材料の板厚による影響を考慮する必要があると考えられる。何故なら、メタルマスク材料は微視的には「剛体」であり、メタルマスク材料の均一ひずみ及び不均一ひずみは、剛体としての変形ともいえる。また、{111}面の平均半値幅が同一であるメタルマスク材料であっても、曲げモーメントが大きければ変形の程度も少ないと考えられる。
【0059】
そこで、発明者らは、前記反り量は、{111}面の平均半値幅の大きさを曲げモーメントの逆数で補正した値を用いた方が、前記反り量をより適切に判定できると考えた。また、長方形のような板状体の曲げモーメントは板厚tに比例することから、発明者らは、前記反り量と、{111}面の平均半値幅の大きさとメタルマスク材料の板厚の逆数との関係を鋭意研究した結果、前記反り量は、前記メタルマスク材料の板厚の平方根の逆数に比例することを見出した。第2実施形態は、この知見に基づく。
【0060】
[{111}面の平均半値幅とハーフエッチング後の反り量との関係]
メタルマスク材料の板厚方向の{111}面の平均半値幅と、ハーフエッチング後の反り量との関係を以下の通り説明する。
【0061】
表1の試料No.a〜eのメタルマスク材料のそれぞれについて、斜角入射X線回折法により板厚方向の{111}面の半値幅の測定を行った。
尚、斜角入射X線回折法の測定条件は、第1実施形態と同じ条件とした。また、前記半値幅の測定後、第1実施形態と同様にハーフエッチングを行い、表1のメタルマスク材料の試料No.a〜eのそれぞれの反り量を測定した。
【0062】
図4に、平行ビーム光学系の前記入射角度毎に測定された表面垂直方向の侵入深さ(表面からの深さ)及び当該深さ位置における{111}面の半値幅の測定結果を示す。図4に示すように、表面から1.45μm深さまでの領域において、{111}面の半値幅の変化は大きいが、試料No.a〜eのメタルマスク材料のいずれも同様の変化をしている。一方、表面下1.45μmの深さから7.11μmまでの領域において、{111}面の半値幅は、表面下1.45μm深さまでの領域における{111}面の格子面間隔の変化に比べて安定しているが、試料によって異なる変化をしている。
【0063】
図5は、試料No.a、b、c、d、eのメタルマスク材料のそれぞれについて、表面下1.45μmの深さから7.11μmまでの{111}面の平均半値幅と、前記反り量との関係を示すグラフである。但し、横軸の値は、{111}面の平均半値幅に板厚が考慮された値であって、下記の式で与えられる。
【数2】
【0064】
このグラフに示されるように、半値幅が減少するほど、反り量は減少することが分かる。すなわち、メタルマスク材料の転位密度の減少が進むほど、反り量が減少することが分かる。尚、本発明のメタルマスクは、メタルマスク材料と同一の材料で構成されるので、上記X(Hw111,t)のtは、メタルマスクの板厚(μm)である。
【0065】
また、図5において、X(Hw111,t)の値が0.550未満から反り量が急激に減少して反り量が6.0mm未満となり、X(Hw111,t)の値が0.545以下で反り量が5.0mm以下になる。
【0066】
第2実施形態に係るメタルマスク材料は、この知見に基づくものであって、下記(2−1)式を満足することを特徴とするメタルマスク材料である。
【数3】
但し、上記式中のHw111は、斜角入射X線回折法によって得られる、表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均半値幅であり、tはメタルマスク材料及びメタルマスクの板厚(μm)である。
【0067】
尚、X(Hw111,t)の値が0.540以下になると前記反り量は3.0mm以下に減少しており、X(Hw111,t)の値が0.530以下になると前記反り量は2.0mm未満に減少している。このように、表面下1.45μmの深さから7.11μmまでのX(Hw111,t)の値は0.545以下であり、好ましくは0.540以下、更に好ましくは、0.530以下である。
【0068】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態について詳述する。
【0069】
メタルマスク材料の結晶構造は面心立方格子(fcc)であるので、すべり面は{111}面である。このことから、本発明者らは、メタルマスク材料の板厚方向の{111}面間隔は、板厚方向の均一ひずみの分布と関連すると考え、メタルマスク材料の板厚方向の{111}面間隔と、前記反り量との関係について鋭意研究を行った。
【0070】
平行ビーム光学系のX線回折法である斜角入射X線回折法の場合、集中法光学系のX線回折法である対称反射型疑似集中法による測定と異なり、{111}面のX線回折ピークを測定することができ、その強度は、メタルマスク材料の表面に対するX線の入射角によって異なる。また、{111}面の積分強度は、図7(A)、(B)に示すように{200}面のX線回折の積分強度に比べてX線の入射角度による変化が大きいことを、本発明者らは見出した。
【0071】
【表2】
【0072】
尚、表2は、図7(A)の符号a〜iの斜角入射X線回折パターンa〜iの表面に対する入射角(°)及び図7(B)の符号a’〜i’ の斜角入射X線回折パターンa〜iの表面に対する入射角(°)(試料の表面に対する入射X線の光軸の角度(θ)と、表面からの入射X線の侵入深さ(μm)を示す。
【0073】
また、斜角入射X線回折法により、{111}面の積分強度と{200}面の積分強度との比を、板厚方向に測定して比較したところ、メタルマスク材料の反り量が大きいほど、2〜3μm深さ付近の{111}面の積分強度と{200}面の積分強度との比の変化は小さく、前記反り量が小さいほど、{111}面の積分強度と{200}面の積分強度との比の変化は大きいことを、本発明者らは見出した。
【0074】
また、2〜3μm深さ付近の{111}面の積分強度と{200}面の積分強度との比の変化が極めて大きい場合、メタルマスク材料の反り量が小さくなることを、本発明者らは見出した。第3実施形態は、この知見に基づく。
【0075】
[r(=I111/I200)とハーフエッチング後の反り量との関係]
メタルマスク材料の板厚方向におけるr(=I111/I200)値と、ハーフエッチング後の反り量との関係を以下の通り説明する。
【0076】
表1の試料No.a〜eのそれぞれについて、集中法光学系のX線回折法により{200}面のX線回折ピークを測定した。その結果を図8(A)に示す。また、集中法光学系のX線回折法による測定結果から得られた{200}面の平均間隔と、前記反り量との関係のグラフを図8(B)に示す。
【0077】
図8(B)からは、{200}面の平均間隔と前記反り量との間には、相関関係が存在しないと考えられる。
【0078】
前記厚さ方向の{111}面の格子面間隔、{111}面の積分強度I111、{200}面の積分強度I200の測定は、斜角入射X線回折法により行った。
尚、前記X線回折装置の対陰極はCoであり、測定時の管電圧及び電流はそれぞれ40kV及び135mAとした。また、斜角入射X線回折法は、リガク製SmartLabの平行ビーム光学系を用いて行い、入射X線の光軸が試料の表面に対して角度(θ)0.2°、0.4°、0.6°、0.8°、1.0°、2.0°、3.0°、4.0°、5.0°、6.0°、8.0°、10.0°、12.0°、15.0°、20.0°のそれぞれになるようにX線を試料の表面に入射させた際における、前記試料へのX線質量吸収係数を計算し、算出されたX線質量吸収係数を表面垂直方向の侵入深さを換算した。入射側に5.0°のソーラースリット、受光側にソーラースリット5.0°を設置し、平行スリットアナライザー(PSA)なし、受光スリット1(RS1)=受光スリット2(RS2)=1.0mmとして測定した。その結果を表3及び図9に示す。
【0079】
【表3】
【0080】
{200}面の積分強度I200を基準とする{111}面の積分強度I111の大きさ(r値)は、{111}面の間隔と反り量との関係を反映すると予想される。尚、前記積分強度は、X線回折装置の評価ソフトを用いて、X線回折ピークのバックグラウンドを除去し、バックグラウンド除去後のX線回折ピークに分割型Voigt関数を用いてフィッティングすることによって得られる。
また、表3及び図9の結果に基づいて、表1のメタルマスク材料の試料No.a〜eのそれぞれについて、表面から1.00μmの深さから7.00μmまでの領域における{111}面の平均格子面間隔(ave−d)、rの最大値(rmax)を測定した。また、表1のメタルマスク材料の試料No.a〜eのそれぞれについて引張強度(TS)を測定した後、第1実施形態と同様にハーフエッチングを行い、反り量を測定した。その結果を表4に示す。
【0081】
【表4】
【0082】
図9に示すように、試料No.c、dは、表面下1.45μmから7.11μmまでの深さにおいて、試料No.a、b、eに比べて、rmax値が大きく変化している。一方、表4によれば、試料No.c、dのメタルマスク材料は、ハーフエッチング後、No.a、bに比べて、反り量が少なかったことがわかる。
【0083】
図10は、rmaxと、前記反り量との関係を示すグラフである。試料b、eは強加工の影響を有しており、その分布をGauss関数で近似した。また、試料a、b、c、dはランダムなミクロ組織を有しており、rmax値が試料eに近づくに従い反り量が増える。このことから、試料a、b、c、dのランダムなミクロ組織と強加工によるミクロ組織とがハーフエッチング後の反り量に対して協同的に作用していると考えられるので、試料a、b、c、dのrmax値と反り量との関係をHw111の式で近似した。試料a、bは、強加工成分とランダム成分の両方を有しており、つまり中間の組織は不均一性が大きいため本発明の範囲から外れる。図10に示されるように、rmaxが以下の式(3−1)又は(3−2)を満たす場合、反り量が5.0mm未満になることが分かる。
max<9.5・・・(3−1)
max≧20 ・・・(3−2)
【0084】
第3実施形態に係るメタルマスク材料は、この知見に基づくものであって、下記(3−1)式又は(3−2)式のいずれかを満足することを特徴とする。
max<9.5・・・(3−1)
max≧20 ・・・(3−2)
r=I111/I200・・(3−3)
但し、I111は、斜角入射X線回折法によって得られる、表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の積分強度;
200は、斜角入射X線回折法によって得られる、表面下1.45μmから7.11μmまでの{200}面の積分強度;
maxは、(3−3)式で定義される強度比rの最大値である。
【0085】
式(3−1)の場合、すなわち、rmax<9.5の場合は、均一に結晶配向が進み、エッチングによって除去された部分の応力を補えるほどの大きな残留応力が導入され、逆に反り難くなる効果がある(図10中の「強配向」と記した部分)。これは、強配向の効果である。他方、式(3−2)の場合、すなわち、rmax≧20の場合は、回折強度比がよりランダムに近づくことを意味しており、組織がランダム化することにより、エッチング後の残留応力のバランスの崩れを抑制する効果がある(図10 符号「ランダム化」)。そのため、式(2)の場合も、反り難くなる効果がある。
【0086】
[第4実施形態]
次に、第4実施形態について詳述する。
【0087】
一般に、結晶方位によりエッチング速度に差異があることが知られており、材料が特定方位に強く配向していない場合に均一にエッチングされる。材料が特定方位に強く配向した場合は、特定方位が優先的にエッチングされ易くなる、又はエッチングされ難くなることで、エッチングが不均一になることで、エッチング精度が低下する。
【0088】
メタルマスク材料はFe−Ni系の合金であり、その主要な結晶面は(111)面、(200)面、(220)面、(311)面である。そこで、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面のそれぞれの回折強度が板厚方向の均一ひずみの分布と関連すると考え、メタルマスク材料の(111)面、(200)面、(220)面、(311)面のそれぞれの回折強度と、ハーフエッチング後の反り量との関係について鋭意研究を行った。
【0089】
本発明者が各方位の配向度とエッチング性の関係を鋭意調査した結果、(200)面の回折強度が一定範囲以上であり、(311)面の回折強度が一定範囲以下かつ、(200)面及び(220)面の合計の回折強度が一定値以上の場合に、良好なエッチング性を示すことを見出した。すなわち、メタルマスク材料を均一かつ精度良くエッチングするためには、以下の式(4−1)〜式(4−3)を満たすような、回折強度を有する材料を使用すれば良いことを見出した。さらに、以下の式(4−1)〜式(4−3)につき、いずれか1つ以上の要件が満たされない場合、エッチング速度が部分的に不均一となり、エッチング精度が劣化することを見出した。第4実施形態は、この知見に基づく。
【0090】
0.385≦I200/{I111+I200+I220+I311}・・・(4−1)
311/{I111+I200+I220+I311}≦0.08・・・(4−2)
0.93≦{I220+I200}/{I111+I200+I220+I311}・・・(4−3)
【0091】
[回折強度(I111,I200,I220,I311)とハーフエッチング後の反り量との関係]
メタルマスク材料の{111}面、{220}面、{311}面及び{200}面の回折強度と、ハーフエッチング後の反り量との関係を以下の通り説明する。
【0092】
前述したように、{111}面、{200}面、{220}面、{311}面のそれぞれの回折強度は、板厚方向の均一ひずみの分布と関連すると考えられる。そこで、表1の試料No.a〜eのそれぞれについて、{111}面における回折強度I111、{200}面における回折強度I200、{220}面における回折強度I220、{311}面における回折強度I311の合計を基準としたときの回折強度I111、I200、I220及びI311のそれぞれの割合と、反り量との関係を下記のように調査した。
【0093】
尚、回折強度I111、I200、I220及びI311は、それぞれ、X線回折装置の評価ソフトを用いて、集中法X線回折によって得られたX線回折ピークからバックグラウンドを除去し、バックグラウンド除去後のX線回折ピークに分割型Voigt関数を用いてフィッティングすることによって得られる。
【0094】
尚、前記X線回折装置の対陰極はCoであり、測定時の管電圧及び電流はそれぞれ40kV及び135mAとした。
【0095】
また、表1のメタルマスク材料の試料No.a〜eのそれぞれについて、以下の式で与えられるr(1)、r(2)及びr(3)の値をそれぞれ測定した。
r(1)=I200/{I111+I200+I220+I311
r(2)=I311/{I111+I200+I220+I311
r(3)={I220+I200}/{I111+I200+I220+I311
また、表1のメタルマスク材料の試料No.a〜eのそれぞれについて引張強度(TS)を測定した後、第1実施形態と同様にハーフエッチングを行い、反り量を測定した。その結果を表5に示す。
【0096】
【表5】
【0097】
図11(A)は、r(1)の値とメタルマスク材料のハーフエッチング後の反り量との関係を示すグラフであり、図11(B)は、r(2)の値とメタルマスク材料のハーフエッチング後の反り量との関係を示すグラフであり、図11(C)は、r(3)の値とメタルマスク材料のハーフエッチング後の反り量との関係を示すグラフである。図11(A)〜(C)に示されるように、反り量が5.0mm以下の試料No.c〜eは、いずれも以下の式(4−1)〜(4−3)の条件を満たすことが分かる。
0.385≦r(1)=I200/{I111+I200+I220+I311}・・・(4−1)
r(2)=I311/{I111+I200+I220+I311}≦0.08・・・(4−2)
0.93≦r(3)={I220+I200}/{I111+I200+I220+I311}・・・(4−3)
【0098】
[第5実施形態]
次に、第5実施形態について詳述する。
【0099】
前述したように、メタルマスク材料の主要な結晶面は(111)面、(200)面、(220)面、(311)面である。そこで、発明者らは、これらの結晶面の回折強度がメタルマスク材料の残留応力のバランスと関連すると考えた。
【0100】
X線応力測定法(sinΨ法)を用いて残留応力を測定する場合、低角のピークは光学的誤差などの影響があるため、残留応力は、通常、高角の回折ピークを用いて測定される。そこで、本発明者らは、X線応力測定法(sinΨ法)を用いて、メタルマスク材料の{220}面の回折ピークと残留応力との関係を鋭意研究した。
【0101】
その結果、{220}面の回折ピークに基づいてX線応力測定法を用いて残留応力を測定した際、残留応力のみならず算出される誤差との組み合わせが、ハーフエッチング後の反り量と関係することを見出した。第5実施形態は、この知見に基づく。
【0102】
[残留応力値および誤差と反り量との関係]
メタルマスク材料の残留応力値の誤差σと、ハーフエッチング後の反り量との関係を以下の通り説明する。
【0103】
表1の試料No.a〜eのそれぞれについて、表6の条件にてX線応力測定法(sinΨ法)を用いて残留応力値(R)を測定した。
【0104】
まず、集中法光学系のX線回折法を用いて、試料面の法線方向と{220}面法線との成す角度(Ψ(deg))と、前記角度Ψにおける{220}面の回折ピーク位置(2θ(deg))を測定した。
【0105】
次いで、縦軸を「2θ(deg)」の値とし、横軸を「sinΨ」の値とするグラフ上に、角度Ψにおける{220}面の回折ピーク位置(2θ(deg))及び当該角度ΨにおけるsinΨの値を座標としてプロットした。試料No.a〜eのそれぞれについて、前記座標がプロットされたグラフを図12−1及び図12−2に示す。
【0106】
各Ψ角の全ての座標から最小二乗近似直線を求め、その直線の傾き(Slope)に応力定数Kを乗じた値を応力の値とした。尚、残留応力値(R)の算出式は、下記の式(5−2)の通りである。残留応力値(R)の算出に用いた各定数を表7に示す。尚、図12−1及び図12−2の「近似直線(5−2)」は、試料No.a〜eのそれぞれのグラフにおける式(5−2)に定義される最小二乗近似直線である。
R=Slope×K=Slope×{−E/(2×(1+ν))}×cotθ0×π/100・・・(5−2)
【0107】
表1の試料No.a〜eについて、前述のX線応力測定法(sinΨ)により算出された残留応力値と、前記式(5−2)を用いて残留応力値を算出する際の誤差を表8に示す。尚、前記「誤差」とは、集中法光学系のX線回折法を用いて、試料面の法線方向と{220}面法線との成す角度(Ψ(deg))と、前記角度Ψにおける{220}面の回折ピーク位置(2θ(deg))との関係を最小二乗法により前記式(5−2)で近似することに生じる誤差である。また、表1のメタルマスク材料の試料No.a〜eのそれぞれについて引張強度(TS)を測定した後、第1実施形態と同様にハーフエッチングを行い、反り量を測定した。その結果を表8に示す。
【0108】
【表6】
【0109】
【表7】
【0110】
【表8】
【0111】
縦軸を「誤差(MPa)」の値とし、横軸を「残留応力(MPa)」の値とするグラフ上に、試料No.a〜eの残留応力値(MPa)及び誤差(MPa)をプロットすると、図13に示されるようになる。試料No.c、d、eは、反り量が5.0mm未満であり、以下の式(5−1)を満たしている。これに対して、反り量が5.0mm超になった試料No.a、bは、式(5−1)を満たしていない。第5実施形態に係るメタルマスク材料は、この知見に基づくものであって、下記(5−1)式を満足することを特徴とする。
【0112】
σ≦α+β×R+γ×R・・・(5−1)
但し、α=211.1;β=5.355;γ=0.034886;上記式中のRは、集中法X線回折によって得られる残留応力値であり、σは前記集中法X線回折によって得られる残留応力値の誤差である。
【0113】
σは、非特許文献3に開示された方法により算出することができる。具体的には、下記式に示されるように、前記集中法X線回折の測定点数nから2を減じた自然数(n−2)を自由度とするt分布における信頼率(1−k)の値を用いて、σを算出しても良い。
【0114】
【数4】
【数5】
【数6】
【0115】
上記式において、t(n−2,k)は、前記集中法X線回折の測定点数nから2を減じた自然数(n−2)を自由度とするt分布における信頼率(1−k)の値である。尚、本発明において、前記信頼率(1−k)は、1信頼区間とすることが好ましい。
【0116】
このように、表1の試料No.a〜eについて、前述のX線応力測定法(sinΨ)により算出された残留応力値と、前記X線応力測定法を用いて残留応力値を算出する際の誤差との関係が前記式(5−1)を満たさない場合、そのメタルマスク材料は、前記反り量が5.0mm超となる。
【0117】
[第6実施形態]
次に、第6実施形態について詳述する。
【0118】
前述したように、メタルマスク材料の主要な結晶面は(111)面、(200)面、(220)面、(311)面である。そこで、発明者らは、これらの結晶面の回折強度がメタルマスク材料の残留応力のバランスと関連すると考えた。
【0119】
X線応力測定法(sinΨ法)を用いて残留応力を測定する場合、低角のピークは光学的誤差などの影響があるため、残留応力は、通常、回折角を精度よく測定可能な高角の回折ピークを用いて測定される。そこで、本発明者らは、X線応力測定法(sinΨ法)を用いて、メタルマスク材料の{220}面の回折ピークと残留応力との関係を鋭意研究した。
【0120】
その結果、縦軸を「2θ(deg)」の値とし、横軸を「sinΨ」の値とするグラフ上に、各Ψ角における{220}面の回折ピーク位置(2θ(deg))及び当該Ψ角におけるsinΨの値を座標としてプロットすると、実際には深さ方向の応力の分布が得られる。このグラフの近似式のパラメータは、ハーフエッチング後の反り量と関係することを見出した。
【0121】
また、たわみは、断面二次モーメントに反比例する。この点に着目して、メタルマスク材料の断面二次モーメントで前記近似式のパラメータを除算したところ、厚みの変動に大きく影響を受けないで、ハーフエッチング後の反り量を予測できることを見出した。
【0122】
[残留応力値の誤差と反り量との関係]
メタルマスク材料の残留応力値の誤差σと、ハーフエッチング後の反り量との関係を以下の通り説明する。
【0123】
表8の試料No.a〜eの残留応力は、それぞれ、図12−1(a)、(b)及び図12−2(c)〜(e)のそれぞれにプロットされた座標を直線近似することにより算出された。
【0124】
しかし、実際には、前記プロット点はうねりを持っている。これは深さ方向の残留応力の分布として考えられる。これを曲線近似することにより、深さ方向の残留応力の分布を、曲線から定量的に議論、比較することができる。
【0125】
図14−1及び図14−2に示されたように、図12−1(a)、(b)及び図12−2(c)〜(e)のそれぞれにプロットされた座標は、以下の曲線によって近似できることを本発明者らは見出した。尚、図14−1及び図14−2の「近似曲線(6−5)」は、試料No.a〜eのそれぞれのグラフにおける下記(6−5)式に定義される近似曲線である。図14−1及び図14−2の「近似曲線(6−5)」のパラメータa〜eの値は、表9に示す通りである。
【0126】
2θ=a+b×sinΨ+c×sin(d×sinΨ+e)・・・(6−5)
【0127】
【表9】
【0128】
図15−1及び図15−2に、ハーフエッチング後の反り量と、前記パラメータb〜eとの関係を示す。これらのグラフから分かるように、前記近似曲線(6−5)のパラメータb〜eが以下の条件(6−1)〜(6−4)を満たすときに、ハーフエッチング後の反り量が5.0mmになる。尚、Iは断面形状が長方形の場合の断面二次モーメントに比例するパラメータであって、t=25μmでI=1となるように、zの値を決定し規格化した。尚、試料No.eのパラメータIの値は、1.728である。
【0129】
b/I≦0.09・・・(6−1)
0.02≦|c|・・・(6−2)
d/I≦12・・・(6−3)
2≧|e|/I・・・(6−4)
但し、I=(z×t)/12
t:試料厚み(μm)
z:0.000768
【0130】
第6実施形態に係るメタルマスク材料は、このような知見に基づくものであって、下記(6−5)式のb、c、d、eが下記条件(6−1)〜(6−4)の条件を満たすことを特徴とする。
b/I≦0.09・・・(6−1)
0.02≦|c|・・・(6−2)
d/I≦12・・・(6−3)
2≧|e|/I・・・(6−4)
2θ=a+b×sin2Ψ+c×sin(d×sin2Ψ+e)・・・(6−5)
但し、I=(z×t)/12
t:板厚(μm)
z:0.000768
【0131】
式(6−5)は、表6の条件によるX線残留応力測定で得られる、面法線と{220}面法線とが成す角度Ψにおける{220}面の回折ピーク位置(2θ(deg))のデータを用い、横軸をsin2Ψ、縦軸を2θ(deg)としたときの近似曲線である。近似曲線は、最小二乗法によって求める。
【0132】
[酸化皮膜厚]
前述した第1実施形態〜第6実施形態を含む本発明のメタルマスク材料は、オージェ電子分光法により測定された酸化皮膜厚が4.5nm以下であることが好ましい。ここで、「オージェ電子分光法により測定された酸化皮膜厚」とは、オージェ電子分光法によってメタルマスク材料の表面(深さ位置0)から深さ方向に検出された酸素濃度の最大値の1/2となる深さ位置をいう。表面からの深さは、スパッタリングレートとスパッタリング時間との積より換算して得られる。前記スパッタリングレートは、既知の酸化皮膜厚の標準試料であるシリコン熱酸化膜を用いて、使用するオージェ電子分光装置のイオン銃によるイオンスパッタリングを行い、酸素濃度が1/2となる時点をSiOとSiとの界面に到達した時間とし、既知の酸化皮膜厚と前記界面に到達した時間から、算出されたものである。
【0133】
オージェ電子分光法により測定された酸化皮膜厚が4.5nm超の場合、エッチング時の生産性が低下し、エッチング精度が落ちるため不適である。一方、酸化皮膜厚が4.5nm以下とすることによって、エッチング時の生産性が上がり、エッチング精度も良くなる点で好適である。前記酸化皮膜厚が薄い程好ましいが、酸化皮膜を完全に無くすことは困難なので、酸化皮膜厚は0.5nm以上あっても良い。酸化皮膜厚は、好ましくは3.0nm以下、より好ましくは、2.8nm以下である。
【0134】
[0.2%耐力]
本発明のメタルマスク材料及び本発明のメタルマスクの0.2%耐力は、330MPa以上850MPa以下であることが好ましい。なお、0.2%耐力は、常温での測定値である。0.2%耐力が330MPa未満では、エッチング工程や搬送の取り扱いによる皺や折れの発生により、生産性が低下する問題が起きる可能性がある。なお、鋼箔の0.2%耐力は、JIS Z2241に規定する金属材料引張試験方法に準拠する試験方法に基づいて測定される。試験片の形状は13B号、引張方向は圧延方向とする。鋼箔の皺や折れを防止する観点からは、特に、0.2%耐力の上限を限定する必要はない。しかしながら、取り扱いの容易性、及び工業的な圧延による加工硬化によって強度を得る際の安定性やエッチング後の反りとの相関を考慮すると、850MPaが鋼箔の0.2%耐力の実質的な上限となる。
【0135】
[平均算術表面粗さ]
また、本発明のメタルマスク材料は、圧延方向に対して直角方向の平均算術表面粗さRaが0.02μm以上0.10μm以下であることが好ましい。エッチング前にレジスト塗布を行う際、表面粗度が細かい方がレジストと材料の密着性が良くなり、非エッチング箇所へエッチング液が浸透し難くなる。そのため、エッチング後の部品寸法のバラつきを抑えることが可能になる。Ra:0.02μm以上0.10μm以下に調整するには、円周方向と直角方向のロール表面粗さRa:0.01μm以上0.30μm以下のロールを使用し、圧延速度を1.5m/s以上にて冷間圧延する等の方法を用いることができる。
【0136】
[本発明のメタルマスク材料の製造方法]
本発明のメタルマスク材料の製造方法に関する実施形態を説明する。但し、その製造方法は以下に示す第7実施形態に係る製造方法に限定されることを意図しない。
【0137】
[第7実施形態]
まず、真空度が10−1(Torr)以下の真空雰囲気中で原料を溶解し、目的とするメタルマスク材料の組成の溶湯を得る。この時、Mn、Si、Mg、Al等の脱酸剤を加えて溶湯の清浄度を高めてからスラブに鋳造する。尚、スラブの鋳造工程は、前述した鋼組成を有するFe−Ni合金を電気炉で溶製し、前記溶湯を精錬した後、連続鋳造により、厚さが150mm〜250mmのスラブを製造する工程としても良い。また、エレクトロスラグ再溶解(Electro−Slag−Remelting)或いは真空アーク再溶解(Vacuum electro−Slag−Remelting)にて、鋳造工程を行っても良い。
【0138】
メタルマスク材料のスラブを熱間鍛造して鋼片を製造し、前記鋼片を3.0mm〜200mm厚になるまで熱間圧延した後、コイリング(巻取工程)をする。コイリングされた前記熱間圧延板は、冷間圧延と焼鈍とを交互に行うことによって、板厚5.00μm以上50.00μm以下のメタルマスク材料に形成される。熱間鍛造工程及び熱間圧延工程における温度は、介在物の凝集を防ぐためにメタルマスク材料の融点未満の温度であり、好ましくは、メタルマスク材料の融点温度−500℃以上、メタルマスク材料の融点温度−200℃以下の範囲とすることが好ましい。
【0139】
冷間圧延の回数及び圧下率は特に制限されないが、最終圧延工程の圧下率が30.0%以上95.0%以下の範囲内になるように圧延を行うことが好ましい。また、複数回の冷間圧延において、最終圧延に向け圧下率を下げていくことが好ましい。エッチング後の反りは、圧延により導入された材料内部の残留ひずみに起因すると考えられ、このような残留ひずみは、冷間圧延後の焼鈍工程、特に最終焼鈍工程によって、冷間圧延で導入されたひずみが解放される。そのため、冷間圧延後に300〜900℃の温度範囲で、4.0秒以上保定することが好ましい。最終焼鈍工程の好ましい温度範囲は、650〜900℃である。
【0140】
前記温度範囲で保定する時間の長さ、昇温速度及び冷却速度は特に制限されないが、水素、一酸化炭素及び炭化水素(CH、C等)ガス等の還元雰囲気化で行い、酸化皮膜厚を低減することが好ましい。
【0141】
冷間圧延での各段(各回の圧延)の圧下率および最終圧延の圧下率及び最終焼鈍温度を前述の範囲内で調整することにより、前述した第1実施形態〜第6実施形態のメタルマスク材料のうちの少なくともいずれかを製造することができる。
【0142】
[本発明のメタルマスク]
本発明のメタルマスク材料は、エッチングによる反り量が低減されるため、本発明に係るメタルマスク材料は精度の高いエッチングが可能であって、この材料を用いて製造されるメタルマスクは、高精細な解像度のOLEDの製造等に好適に使用できる。
【0143】
[本発明のメタルマスクの製造方法]
本発明のメタルマスクの製造方法は、一般的な方法が適用でき、特に限定されるものではない。すなわち、本発明のメタルマスク材料の両面にレジストを形成した後、露光、現像する。その後、一方の面をウェットエッチングした後、レジストを除去し、エッチングされない保護層を形成する。その後、他方の面を上記と同様にウェットエッチングした後、レジストを除去することで、メタルマスク部が得られる。さらに、上記メタルマスク部に必要に応じてフレームを溶接することが可能である。レジストやエッチング液、保護層は一般的なものが適用できる。具体的には、レジストは、ドライフィルムの貼り付け、感光材の塗布等から選ばれる手法が使用できる。エッチング液は、塩化第二鉄液等の酸性溶液を浸漬またはスプレーする手法が適用できる。保護層は上記エッチング液に対する化学的耐性を有するものであればよい。
【実施例】
【0144】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0145】
[実施例1]
表10、11の条件にて、冷間圧延の圧下率と焼鈍温度を調整することにより、試料No.1〜6のメタルマスク材料を製造した。表10に記載された元素成分は、試料No.1〜6のメタルマスク材料の組成であり、表10の”CC”は連続鋳造によってスラブが製造されたことを示す。また、最終焼鈍は、水素ガス雰囲気化で4.0秒以上保定することにより行った。
【0146】
【表10】
【0147】
【表11】
【0148】
オージェ電子分光装置(アルバック・ファイ社製:型式SAM670X)を用いて、試料No.1〜6のメタルマスク材料の酸化皮膜厚を測定した。前記試料は、図17に示すような酸素濃度の深さプロファイルを有する。各試料No.1〜6の酸素濃度の深さプロファイルにおいて、酸素濃度の最大値に対して、1/2の酸素濃度になった深さを、当該試料の酸化皮膜厚とした。
【0149】
本発明例のメタルマスク材料の酸化皮膜厚は、図16に示すように3.5nm未満であった。これらの試料No.1〜6のそれぞれを100mm角にカットして、前記カットされた試料の片面をレジストで覆い、次いで、板厚が2/5になるまで塩化第二鉄水溶液中に浸漬することによりハーフエッチングを行った。試料No.2〜6の反り量は、いずれも5.0mm以下であった。これに対して、試料No.1は、反り量が5.0mm超であった。前記反り量の測定結果を表11に示す。尚、図16の符号「a」は、表1の試料No.aの酸化皮膜厚の測定結果を示す。但し、試料No.aの最終焼鈍温度(℃)は、500℃である。試料No.1の酸化皮膜厚は2.9nm、試料No.4〜6の酸化皮膜厚は2.8nm以下であった。
【0150】
試料No.1〜6のそれぞれについて、集中法に基づくX線回折法によってバルクの平均の格子定数を測定し、その測定結果を用いて{111}面の平均格子面間隔D(単位:nm)を算出した。具体的には、試料No.1〜6のそれぞれについて、集中法に基づくX線回折測定を行い、バルクの平均の格子定数を測定した。次いで、集中法に基づくX線回折測定における回折角度(2θ)からNelson−Riley関数1/2×{cosθ/sinθ+(cosθ)/θ}の値を算出し、得られた値をx軸に、Braggの回折条件から得られた{111}面の平均格子面間隔をy軸にプロットし、次いで、最小二乗法によって得られる直線のy切片の値を求め、この値を、バルクの平均の格子定数から算出される{111}面の平均格子面間隔(D)とした。このようにして算出された試料No.1〜6のDは、0.20762nmであった。
【0151】
また、試料No.1〜6のそれぞれについて、斜角入射X線回折法によって{111}面の平均格子面間隔を測定し、下記式(1−2)で定義されるΔDの値を算出した。
ΔD=|D−D|・・・(1−2)
但し、Dは、斜角入射X線回折法によって得られる、表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均格子面間隔(単位:nm)である。
【0152】
試料No.2〜6は、表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均格子面間隔が下記式(1−1)を満たしている。
ΔD≦0.00030・・・(1−1)
【0153】
試料No.1〜6の|ΔD|、D、引張強さ(TS)、降伏強度(YS)、ハーフエッチングの反り量の各測定結果を表12に示す。尚、表12の降伏強度(YS)は、JIS Z2241に規定する金属材料引張試験方法に準拠する試験方法に基づいて測定された0.2%耐力である。
【0154】
【表12】
【0155】
[実施例2]
表10及び表11の試料No.1〜6のそれぞれについて、斜角入射X線回折法を用いて表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均半値幅(Hw111)を測定して、下記式X(Hw111,t)の値を求めた。また、試料No.1〜6のそれぞれについて、引張強さ(TS)、降伏強度(YS)及びハーフエッチングの反り量を測定した。これらの測定結果を表13に示す。尚、表13の降伏強度(YS)は、JIS Z2241に規定する金属材料引張試験方法に準拠する試験方法に基づいて測定された0.2%耐力である。試料No.2〜6は、ハーフエッチングの反り量が5.0mm以下であり、試料No.3〜6は、表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均半値幅が下記式(2−1)を満たしている。
【数7】
【0156】
【表13】
【0157】
[実施例3]
表10及び表11の試料No.1〜6のそれぞれについて、斜角入射X線回折法を用いて表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の積分強度I111及び{200}面の積分強度I200を測定して、{200}面の積分強度I200に対する{111}面の積分強度I111の積分強度比r(=I111/I200)を求めた。前記積分強度比rのうち、最大値rmaxを表14に示す。また、試料No.1〜6のそれぞれについて、引張強さ(TS)、降伏強度(YS)及びハーフエッチングの反り量を測定した。これらの測定結果を表14に示す。表14の降伏強度(YS)は、JIS Z2241に規定する金属材料引張試験方法に準拠する試験方法に基づいて測定された0.2%耐力である。
【0158】
試料No.2〜6は、前記rmaxが下記式(3−1)又は(3−2)のいずれかを満たしている。
max<9.5・・・(3−1);rmax≧20・・・(3−2)
【0159】
【表14】
【0160】
[実施例4]
表10及び表11の試料No.1〜6のそれぞれについて、集中法X線回折により{111}面、{200}面、{220}面、{311}面のそれぞれの回折強度を測定した。また、測定結果を用いて、前述した式で定義されるr(1)〜r(3)のそれぞれの値を求めた。
【0161】
試料No.1〜6のそれぞれのr(1)、r(2)及びr(3)の値を表15に示す。また、試料No.1〜6のそれぞれについて、引張強さ(TS)、降伏強度(YS)及びハーフエッチングの反り量を測定した。これらの測定結果を表15に示す。尚、表15の降伏強度(YS)は、JIS Z2241に規定する金属材料引張試験方法に準拠する試験方法に基づいて測定された0.2%耐力である。試料No.2〜6は、前述した式(4−1)〜式(4−3)をいずれも満たしている。
【0162】
【表15】
【0163】
[実施例5]
表10及び表11の試料No.1〜6のそれぞれについて、表6の条件にて、集中法光学系のX線回折法を用いて、試料面の法線方向と{220}面法線との成す角度(Ψ(deg))と、前記角度Ψにおける{220}面の回折ピーク位置(2θ(deg))を測定した。次いで、縦軸を「2θ(deg)」の値とし、横軸を「sinΨ」の値とするグラフ上に、各Ψ角における{220}面の回折ピーク位置(2θ(deg))及び当該Ψ角におけるsinΨの値を座標としてプロットした。各Ψ角の全ての座標から最小二乗近似直線を求め、X線応力測定法(sinΨ法)を用いて残留応力値を測定した。また、前記最小二乗近似直線を用いた近似により生じる誤差を算出した。前記残留応力の測定値及び前記誤差を表16に示す。尚、残留応力値の算出に用いた各定数として、表7に示された値を用いた。
【0164】
また、試料No.1〜6のそれぞれについて、引張強さ(TS)、降伏強度(YS)及びハーフエッチングの反り量を測定した。これらの測定結果を表16に示す。尚、表16の降伏強度(YS)は、JIS Z2241に規定する金属材料引張試験方法に準拠する試験方法に基づいて測定された0.2%耐力である。
【0165】
試料No.1〜6のそれぞれについて、下記式で求められるY値を算出して、算出されたY値と、前記集中法X線回折によって得られる残留応力値Rの誤差σとを比較した。前記誤差σは、前述したように、前記集中法X線回折の測定点数から2を減じた自然数を自由度とするt分布において、1信頼区間に対する前記t分布の値を用いて算出した。
【0166】
Y=α+β×R+γ×R
但し、α=211.1;β=5.355;γ=0.034886;上記式中のRは、集中法X線回折によって得られる残留応力値である。
【0167】
表16に示されるように、試料No.1のY値は誤差σよりも小さく、試料No.2〜6のY値は誤差σよりも大きい。すなわち、試料No.1は前記式(5−1)を満たしておらず、試料No.2〜6は前記式(5−1)を満たしている。
【0168】
【表16】
【0169】
[実施例6]
表10及び表11の試料No.1〜6のそれぞれについて、表6の条件にて、集中法光学系のX線回折法を用いて、試料面の法線方向と{220}面法線との成す角度(Ψ(deg))と、前記角度Ψにおける{220}面の回折ピーク位置(2θ(deg))を測定した。次いで、縦軸を「2θ(deg)」の値とし、横軸を「sinΨ」の値とするグラフ上に、各Ψ角における{220}面の回折ピーク位置(2θ(deg))及び当該Ψ角におけるsinΨの値を座標としてプロットした。各Ψ角の全ての座標から最小二乗近似直線を求め、X線応力測定法(sinΨ法)を用いて残留応力値を測定した。
【0170】
また、前記最小二乗近似直線を用いた近似により生じる誤差を算出した。前記残留応力の測定値及び前記誤差を表18に示す。前記誤差σは、前述したように、前記集中法X線回折の測定点数から2を減じた自然数を自由度とするt分布において、1信頼区間に対する前記t分布の値を用いて算出した。尚、残留応力値の算出に用いた各定数として、表7に示された値を用いた。
【0171】
また、試料No.1〜6のそれぞれについて、引張強さ(TS)、降伏強度(YS)及びハーフエッチングの反り量を測定した。これらの測定結果を表18に示す。尚、表18の降伏強度(YS)は、JIS Z2241に規定する金属材料引張試験方法に準拠する試験方法に基づいて測定された0.2%耐力である。
【0172】
また、試料No.1〜6のそれぞれについて、前記各Ψ角における{220}面の回折ピーク位置(2θ(deg))及び当該Ψ角におけるsinΨの値からなる座標のグラフを前記(6−5)式に定義される近似曲線で近似した。試料No.1〜6のそれぞれに関する近似曲線(6−5)のパラメータa〜eは、表17の通りである。試料No.2〜6の前記パラメータa〜eは、前記(6−1)式〜(6−4)式を満たしている。尚、試料No.1〜6の板厚は25μmなので、いずれもI=1.0である。
【0173】
【表17】
【0174】
【表18】
【産業上の利用可能性】
【0175】
本発明のメタルマスク材料は、エッチングによる反り量が低減されるので、精度の高いエッチングが可能であって、本発明に係るメタルマスクは、高精細な解像度のOLEDの製造等に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0176】
1・・・メタルマスク
1a・・・マスク孔
2・・・基板
3・・・有機EL発光材料の蒸着源
3a・・・有機EL発光材料
【要約】
エッチングによる反り量が低減されるOLED用のメタルマスク材料とその製造方法とメタルマスクを提供する。本発明のメタルマスク材料及びメタルマスクは、質量%にて、Ni:35.0〜37.0%、Co;0.00〜0.50%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、板厚が5.00μm以上50.00μm以下であり、一辺が100mmの正方形の前記メタルマスク材料の試料を、当該試料の板厚が2/5になるまでその片側からエッチングをし、エッチングをした前記試料を定盤に載置した時の、前記試料の4角の浮き上がり量のうち最大値である反り量が5.0mm以下であることを特徴とする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12-1】
図12-2】
図13
図14-1】
図14-2】
図15-1】
図15-2】
図16
図17
図18