【文献】
Tomas Hallberg,Enhanced oxygen precipitation in electron irradiated silicon,Journal of Applied Physics,1992年,Vol.72 No.11,Page.5130-5138
【文献】
FALSTER R,On the Properties of the Intrinsic Point Defects in Silicon: A Perspective from Crystal Growth and W,Phys Status Solidi B,2000年,Vol.222,Page.219-244
【文献】
AKATSUKA M,Effect of Rapid Thermal Annealing on Oxygen Precipitation Behavior in Silicon Wafers,Jpn. J. Appl. Phys.,2001年,Vol.40,Page.3055-3062
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1においては、本文献の
図12〜
図21の写真から明らかなように、酸素析出物の析出評価を赤外散乱トモグラフ装置を用いて行っており、この評価結果に基づいて、酸素析出物が存在しないDZ幅を規定している。ところが、この赤外散乱トモグラフ装置によって検出できるのはサイズが約25nm以上の酸素析出物であり、これよりも小さいサイズの酸素析出物は検出することが困難である。例えば、イメージセンサ用のデバイスにおいては、赤外散乱トモグラフ装置の検出下限以下のサイズの酸素析出物が、白キズと呼ばれるイメージセンサの画素不良の原因になる可能性があることが分かっており、赤外散乱トモグラフ装置では検出できない微小な酸素析出物の抑制が一層重要になっている。
【0008】
そこで、この発明は、DZ層における酸素析出物の析出を抑制するとともに、バルク層における高いゲッタリング能を確保することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、この発明においては、空孔と酸素の複合体である空孔酸素複合体の濃度が、1.0×10
12/cm
3未満の最表層のデヌーデッドゾーンと、前記デヌーデッドゾーンのウェーハ深さ方向内側に隣り合って形成され、前記デヌーデッドゾーン側から厚さ方向内側に向かって、前記空孔酸素複合体の濃度が1.0×10
12/cm
3以上、5.0×10
12/cm
3未満の範囲で次第に増加する、前記デヌーデッドゾーンの幅t
DZに対応して幅t
Iが決められる中間層と、前記中間層のウェーハ深さ方向内側に隣り合って形成され、前記空孔酸素複合体の濃度が、5.0×10
12/cm
3以上のバルク層と、を備えたシリコンウェーハを構成した。
【0010】
空孔酸素複合体(以下において、VOxと略称する。)は、酸素析出物の析出挙動と密接に関連しており、VOx濃度を1.0×10
12/cm
3未満とすることにより、デバイス特性に悪影響を及ぼし得る酸素析出物の析出を確実に抑制することができる。さらに、中間層のVOx濃度をDZ層側から厚さ方向内側に向かって、1.0×10
12/cm
3から5.0×10
12/cm
3まで次第に変化させて、VOx濃度が5.0×10
12/cm
3以上のバルク層まで連続的かつ速やかに変化する層を構成することにより、DZ層の表面に付着した重金属をバルク層まで速やかに導き、このバルク層で確実にゲッタリングすることができる。VOx濃度のウェーハ深さ方向分布は、計算機シミュレーションや白金拡散処理後のDLTS測定等の種々の手法により推定又は測定することができるが、実験的に測定するのは非常に手間を要する。
【0011】
前記構成においては、前記デヌーデッドゾーンの幅t
DZと前記中間層の幅t
Iとの間に、前記デヌーデッドゾーンの幅t
DZが3μm以上10μm未満の範囲で、t
I≦(2.6t
DZ+64)μmの関係が成立する構成とするのが好ましい。
【0012】
さらに、前記構成においては、前記デヌーデッドゾーンの幅t
DZと前記中間層の幅t
Iとの間に、前記デヌーデッドゾーンの幅t
DZが10μm以上100μm未満の範囲で、t
I≦(0.3t
DZ+87)μmの関係が成立する構成とするのが好ましい。
【0013】
このように、中間層の幅t
Iの上限を決めて、デヌーデッドゾーン(DZ層)とバルク層を近接させる(つまり、中間層におけるVOx濃度の立ち上がりを急峻にする)ことによって、バルク層に析出した酸素析出物による重金属のゲッタリングを効率的に行うことができる。これにより、DZ層に形成した半導体デバイスの電気特性の向上を図ることができる。
【0014】
前記構成においては、前記デヌーデッドゾーンの幅t
DZが10μm以上100μm以下の範囲で、43μm≦t
Iの関係が成立する構成とするのが好ましい。
【0015】
このように、中間層の幅の下限を決めることにより、ゲッタリング能を確保しつつ、DZ層からバルク層にかけて酸素析出物の密度が急増して歪み応力が生じ、デバイス特性に不具合が生じるのを防止することができる。
【0016】
前記各構成においては、前記中間層における前記空孔酸素複合体の濃度のウェーハ深さ方向変化量の最大値が、5.0×10
11/cm
3・μm以上である構成とするのが好ましい。
【0017】
このように、空孔酸素複合体の濃度の深さ方向変化量の最大値を上記の値以上とすることにより、中間層における空孔酸素複合体の濃度の立ち上がりを急峻にして、DZ層の直下におけるゲッタリングを有効に機能させることができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明では、空孔と酸素の複合体である空孔酸素複合体(VOx)の濃度が、1.0×10
12/cm
3未満の表層のデヌーデッドゾーン(DZ層)と、前記デヌーデッドゾーンのウェーハ深さ方向内側に隣り合って形成され、前記デヌーデッドゾーン側から厚さ方向内側に向かって、前記空孔酸素複合体の濃度が1.0×10
12/cm
3以上、5.0×10
12/cm
3未満の範囲で次第に増加する、前記デヌーデッドゾーンの幅t
DZに対応して幅t
Iが決められる中間層と、前記中間層のウェーハ深さ方向内側に隣り合って形成され、前記空孔酸素複合体の濃度が、5.0×10
12/cm
3以上のバルク層と、を備えたシリコンウェーハを構成した。
【0019】
このように、DZ層のVOx濃度を所定範囲内に限定して、DZ層における酸素析出物の析出を抑制するとともに、バルク層のVOx濃度を所定値以上とし、高い密度の酸素析出物を析出させて高いゲッタリング能を確保することにより、DZ層に形成した半導体デバイスのデバイス特性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明に係るシリコンウェーハ(ウェーハ)の縦断面図を
図1に示す。このウェーハは、チョクラルスキー法で育成されたインゴットから切り出され、両面が鏡面研磨された上で、後述する熱処理シーケンス(
図4参照)からなる急速昇降温熱処理(RTP)が施されたものである。このウェーハの最表層には、空孔と酸素の複合体である空孔酸素複合体(VOx)濃度が、1.0×10
12/cm
3未満のデヌーデッドゾーン10(DZ層)が形成されている。このDZ層10の幅は、ウェーハに形成する半導体デバイスの種類に対応して決められ、3〜100μmの範囲内とされることが多い。
【0022】
DZ層のVOx濃度は、上記のように1.0×10
12/cm
3未満に限定されている。このように、VOx濃度を限定することにより、デバイス特性を低下させる虞のある酸素析出物がデバイス製造プロセス中にDZ層10内に析出せず、半導体デバイスの高い特性を確保することができる。
【0023】
DZ層10のウェーハ深さ方向(
図1中に示す矢印の方向。以下においても同じ。)内側には、このDZ層10と隣り合うように、DZ層10側から厚さ方向内側に向かって、VOx濃度が1.0×10
12/cm
3以上、5.0×10
12/cm
3未満の範囲で次第に増加する中間層11が形成されている。後述するように、この中間層11の幅t
Iは、DZ層10の幅t
DZに対応して決められる。
【0024】
この中間層11は、DZ層10から後述するバルク層12にかけて、VOx濃度が次第に変化する遷移領域である。デバイス製造プロセス中においてウェーハの表面に付着した重金属(汚染元素)は、この中間層11を通ってDZ層10からバルク層12まで拡散し、バルク層12内の酸素析出物によって捕獲(ゲッタリング)されて、DZ層10(デバイス活性領域)から除去される。重金属が速やかにバルク層12まで拡散してゲッタリングが効率的に行われるために、中間層11内のVOx濃度をDZ層10側からバルク層12側にかけて急峻に立ち上げて、この中間層11の幅をできるだけ小さくするのが基本的に好ましい。特にこの効果は、シリコン結晶中での拡散係数が小さいため、デバイス製造プロセス中にDZ層10からバルク層12まで拡散で移動することが困難な重金属(例えば、モリブデン、タングステン、コバルト等)に対して有効になる。
【0025】
中間層11のウェーハ深さ方向内側には、この中間層11と隣り合うように、VOx濃度が5.0×10
12/cm
3以上のバルク層12が形成されている。ウェーハにデバイス製造プロセスが行なわれると、バルク層12内には、重金属のゲッタリングを行うのに十分な密度の酸素析出物が析出する。このバルク層のVOx濃度は、ゲッタリングの観点からは高いほど好ましいが、VOx濃度が高すぎて酸素析出物が析出過多となると、この酸素析出物がスリップ源となってウェーハの強度の点で問題が生じる虞があるため、その濃度を1.0×10
14/cm
3以下とするのが好ましい。
【0026】
DZ層10の幅t
DZと中間層11の幅t
Iの関係を
図2に示す。中間層11の幅t
Iは、DZ層10の幅t
DZに対応して決められ、後述するように、DZ層10の幅t
DZの増加に伴って増加させるのが好ましい。
【0027】
図2に示す関係においては、DZ層10の幅t
DZと中間層11の幅t
Iとの間に、DZ層10の幅t
DZが3μm以上10μm未満の範囲で、43μm≦t
I≦(2.6t
DZ+64)の関係(本図中の丸数字1及び3参照)が成立するとともに、DZ層10の幅t
DZが10μm以上の範囲で、43μm≦t
I≦(0.3t
DZ+87)μm(本図中の丸数字1及び2参照)の関係が成立している。
【0028】
このように、DZ層10の幅t
DZに対応して中間層11の幅t
Iの上限を限定することにより、DZ層10とバルク層12を近接させる(すなわち、中間層11におけるVOx濃度の立ち上がりを急峻にする)ことができ、酸素析出物による重金属のゲッタリングを効率的に行うことができる。さらに、中間層11の幅t
Iの下限を限定することにより、DZ層10からバルク層12にかけて酸素析出物の密度が急増して歪み応力が生じ、デバイス特性に不具合が生じるのを防止することができる。
【0029】
図2中のデータ点は、ウェーハに半導体デバイスを作成したときに、良好な電気特性が得られたものについて、そのウェーハに対して行われたRTPのシーケンス(RTPの処理温度が1250〜1350℃、昇温速度が75℃/秒、降温速度が20〜150℃/秒、酸素分圧が4〜50%の範囲内)と同じ条件で後述するシミュレーションを行い、そのシミュレーションによって得られたDZ層10の幅t
DZと中間層11の幅t
Iとの関係をプロットしたものであり、各データ点は、DZ層10の幅t
DZによって決まる中間層11の幅t
Iの範囲内に含まれている。
【0030】
なお、
図2において示した、DZ層10の幅t
DZが10μm以上の範囲における中間層11の幅t
Iの上限(本図中の丸数字2参照)、及び、DZ層10の幅t
DZが3μm以上の範囲における中間層11の幅t
Iの下限(本図中の丸数字3参照)は必須ではなく、DZ層10の幅t
DZが3μm以上10μm未満の範囲においてのみ上限、又は、上限及び下限の両方を決めてもよい。
【0031】
図3にVOx濃度のウェーハ深さ方向分布のイメージ図を示す。本図(a)はこの発明に係るウェーハ、(b)は従来発明に係るウェーハにおける分布である。従来発明に係るウェーハにおいては、半導体デバイスを形成するDZ層内にVOx濃度が1.0×10
12/cm
3よりも高い領域(
図3(b)中に「NG」と示した領域)が存在していた。この領域では、デバイス製造プロセス中に微小な酸素析出物が析出し、この酸素析出物によって、高性能デバイスのライフタイム等の電気特性が低下する虞があった。
【0032】
これに対し、この発明に係るウェーハにおいては、DZ層10の深さ方向の全範囲に亘って、VOx濃度を1.0×10
12/cm
3未満としたので、DZ層10での酸素析出物の析出が抑制される。しかも、VOx濃度が中間層11で急峻に立ち上がっており、この中間層11よりもウェーハ深さ方向の内側に位置するバルク層12で、効率的にゲッタリングを行うことができる。このため、半導体デバイスの高い特性を確保することができる。
【0033】
この発明に係るウェーハの熱処理シーケンス(RTP)の一例を
図4に示す。このRTPは、急速昇降温が可能なランプアニール炉を用いて行われる。まず、所定温度T
1(例えば700℃)から処理温度T
2まで、所定の昇温速度R
1で昇温し、この処理温度T
2で所定時間保持(例えば15秒間)した。さらに、保持後に所定の降温速度R
2で所定温度T
3(例えば700℃)まで降温した。この一連のRTPは、酸素含有雰囲気中(酸素分圧が1%以上100%以下の範囲)で行われた。このように、酸素含有雰囲気中でRTPを行うことにより、このRTP中にウェーハの表面に酸化膜が形成され、この酸化膜とウェーハの界面からウェーハの内部に格子間シリコン原子が注入される。この格子間シリコン原子は、RTPによってウェーハに導入された空孔と対消滅し、ウェーハ表層のVOx濃度を低下させる作用を有している。
【0034】
さらに、このシーケンスでウェーハ内に形成されたVOx濃度分布と、実際の酸素析出物の析出状態との関係を評価するために、上記のシーケンス後に、RTP後のウェーハに酸素析出物の顕在化熱処理(780℃3時間+1000℃16時間の2段階熱処理)を行った。この顕在化熱処理後に、酸素析出物のウェーハ深さ方向分布を赤外散乱トモグラフ装置(MO441(株式会社レイテックス製))を用いて評価した。
【0035】
ウェーハを
図4に示すシーケンス(処理温度T
2=1350℃、昇温速度R
1=75℃/秒、降温速度R
2=120、50、25℃/秒、酸素分圧100%)で処理した後に、上記の顕在化熱処理を行ったときの酸素析出物のウェーハ深さ方向評価結果を
図5に示す。本図(a)は降温速度R
2が120℃/秒のとき、(b)は降温速度R
2が50℃/秒のとき、(c)は降温速度R
2が25℃/秒のときの結果である。上記のシーケンスでウェーハを熱処理すると、ウェーハの表層に、酸素析出物が観察されないDZ層10が形成された。このDZ層10の幅は、降温速度R
2を大きくするほど狭くなった。このDZ層10に半導体デバイスを形成してライフタイム等の電気特性を評価したところ、本図(a)から(c)に示すいずれのウェーハも、良品基準以上の良好な特性を有していることが確認できたが、(a)、(b)、(c)の順で(すなわち、降温速度R
2が小さくなるほど)その特性は若干低下する傾向があった。これは、降温速度R
2が小さくなるほどDZ層10の幅t
DZが広くなり、ゲッタリング能が低下するためと考えられる。
【0036】
昇温速度R
1は、50℃/秒以上とするのが好ましく、75℃/秒以上とするのがさらに好ましい。このようにすれば、RTPの昇温中に、RTP前からウェーハ中に存在している酸素析出物の核(結晶製造時に発生)が成長して、RTPの処理温度での保持中に成長した酸素析出物が完全に溶け切らずにDZ層10に残留するのを防止することができる。
【0037】
次に、
図4に示すシーケンス(処理温度T
2=1300、1275、1250℃、昇温速度R
1=75℃/秒、降温速度R
2=120、25℃/秒、酸素分圧0%)で処理した後に上記の顕在化熱処理を行ったときの酸素析出物のウェーハ深さ方向評価結果を
図6、
図7に示す。
図6は降温速度R
2がいずれも25℃/秒で、(a)は処理温度T
2が1300℃のとき、(b)は処理温度T
2が1275℃のとき、(c)は処理温度T
2が1250℃のときの結果であり、
図7は降温速度R
2がいずれも120℃/秒で、(a)は処理温度T
2が1300℃のとき、(b)は処理温度T
2が1275℃のとき、(c)は処理温度T
2が1250℃のときの結果である。
図6、
図7においても、ウェーハの表層に、酸素析出物が観察されないDZ層10が形成された。
【0038】
このDZ層10に半導体デバイスを形成してライフタイム等の電気特性を評価したところ、ライフタイムの低下等の不具合が判明した。これは、一見良好に見えるDZ層10内に、赤外散乱トモグラフ装置等の一般的な検知手段では測定困難な微小酸素析出物(サイズが25nm程度以下)が存在しており、この微小酸素析出物が半導体デバイスの不具合を引き起こしたためと考えられる。
【0039】
図4に示すシーケンスでRTPを行った後のVOx濃度のウェーハ深さ方向分布と、酸素析出物の析出状態及びデバイス特性との関係を評価するために、RTP後のVOx濃度のウェーハ深さ方向分布のシミュレーションを行った。このシミュレーションは、高温における空孔と格子間シリコン原子の生成、拡散、対消滅、窒素と空孔の複合体の形成等を考慮に入れた物理モデルに基づくものであって、シリコン結晶育成中の空孔及び格子間シリコン原子の挙動を精度よく説明できる空孔及び格子間シリコン原子の熱平衡濃度及び拡散定数を採用している。
【0040】
図5から
図7に対応する熱処理条件で熱処理を行ったときのVOx濃度のウェーハ深さ方向分布のシミュレーション結果を
図8に示す。本図中のVを付したシミュレーション結果は
図5に、VIを付したシミュレーション結果は
図6に、VIIを付したシミュレーション結果は
図7にそれぞれ対応する。
【0041】
図8中においてVI及びVIIを付したシミュレーション結果から、処理温度T
2が高いほどVOx濃度が高くなることが分かった。これは、高温ほど空孔の熱平衡濃度が高くなり、RTPによって多くのVOxがウェーハ内に凍結されることに起因する。
【0042】
また、
図8中においてVを付したシミュレーション結果から、降温速度R
2が大きくなるほどDZ層10の幅が狭くなるとともに、VOx濃度が急峻に立ち上がることが分かる。これは、降温速度R
2が大きくなるほど、空孔がRTP中にウェーハの表面側に外方拡散するための十分な時間が与えられず、ウェーハの表面近傍まで空孔(つまりVOx)の濃度が高い領域が残存することに起因する。
【0043】
さらに、
図8中のVとVI及びVIIのシミュレーション結果の対比から、酸素を含有する雰囲気(酸素分圧100%)とすると、酸素を含有しない雰囲気(酸素分圧が0%)のときと比較して、DZ層10の幅が広くなることが分かった。これは、酸素含有雰囲気においては、ウェーハの表面に酸化膜が形成されて、この酸化膜とウェーハの界面から格子間シリコン原子がウェーハ表層に注入され、空孔とこの格子間シリコン原子が対消滅してVOx濃度が下がることに起因する。
【0044】
図5に示した降温速度R
2が120℃/秒(本図(a)参照)、50℃/秒(本図(b)参照)、25℃/秒(本図(c)参照)の各条件でRTPを行ったウェーハに半導体デバイスを形成してその電気特性を評価したところ、いずれのウェーハにおいてもその表面に近い領域(約60μmよりも浅い領域)に形成した半導体デバイスの電気特性は非常に良好であった。これに対し、降温速度R
2が120℃/秒でRTPを行ったウェーハは約60μmよりも深い領域、降温速度R
2が50℃/秒でRTPを行ったウェーハは約90μmよりも深い領域、降温速度R
2が25℃/秒でRTPを行ったウェーハは約130μmよりも深い領域(
図8中に「NG」と示した領域)に半導体デバイスを形成した場合、電気特性の低下傾向が確認できた。これは、その領域に、赤外散乱トモグラフ装置では検知できない微小酸素析出物が存在し、この微小酸素析出物に起因して電気特性が低下しているためと考えられる。この電気特性の結果から、VOx濃度が1.0×10
12/cm
3未満の領域を電気特性の低下の虞がないDZ層10と定めることができる。
【0045】
また、
図5から
図7に示す酸素析出物のウェーハ深さ方向評価結果と、
図8に示すシミュレーション結果を対比すると、VOx濃度が5.0×10
12/cm
3以上の領域で、酸素析出物が高密度に析出しており、酸素析出物の析出状態とVOx濃度の深さ方向分布が対応していることが確認できた。この酸素析出物の析出状態の結果から、VOx濃度が5.0×10
12/cm
3以上の領域を酸素析出物が高密度に析出したバルク層12と定めることができる。そして、DZ層10とバルク層12との間のVOx濃度が1.0×10
12/cm
3以上、5.0×10
12/cm
3未満の領域を、VOx濃度がバルク層12側に向けて立ち上がる中間層11と定めることができる。
【0046】
さらに、処理温度T
2を1350〜1150℃(50℃ピッチ)の5条件、昇温速度R
1を75℃/秒、降温速度R
2を120、50、25、5℃/秒の4条件、酸素分圧を100、50、30、10、8、6、4、2、1、0%の10条件で変化させたときの(全ての条件を組み合わせると計200条件)VOx濃度のウェーハ深さ方向分布のシミュレーション結果を
図9に、このシミュレーションにおけるVOx濃度のウェーハ深さ方向変化量(VOxの深さ微分)のウェーハ深さ方向分布のシミュレーション結果を
図10にそれぞれ示す。
【0047】
図9のシミュレーション結果によると、
図8にて説明したのと同様に、降温速度R
2及び酸素分圧が一定の条件の下では、一部に例外はあるが、処理温度T
2が高くなるほどVOx濃度は高くなった。また、処理温度T
2及び酸素分圧が一定の条件の下では、降温速度R
2が大きくなるほどVOx濃度は高くなった。さらに、処理温度T
2及び降温速度R
2が一定の条件の下では、酸素分圧が高くなるほどVOx濃度は低くなった。
【0048】
上記のように、VOx濃度が1.0×10
12/cm
3未満の領域をDZ層10、1.0×10
12/cm
3以上5.0×10
12/cm
3未満の領域を中間層11、5.0×10
12/cm
3以上の領域をバルク層12と定めた場合、RTPによってこれらの各層10、11、12が形成されるかどうか、及び、形成された場合の各層10、11、12の厚さは、RTPの処理条件によって大きく変わる。
【0049】
図9に示すように、例えば、処理温度T
2=1350℃、昇温速度R
1=75℃/秒、降温速度R
2=120℃/秒、酸素分圧30%の条件でRTPを行うと、ウェーハには約15μmの厚さのDZ層10が形成されるとともに、約50μmの厚さの中間層11が形成される。また、処理温度1350℃、昇温速度75℃/秒、降温速度50℃/秒、酸素分圧10%の条件でRTPを行うと、ウェーハには約4μmのDZ層10が形成されるとともに、約59μmの厚さの中間層11が形成される。
【0050】
これに対し、例えば、処理温度T
2=1350℃、昇温速度R
1=75℃/秒、降温速度R
2=120℃/秒、酸素分圧10%の条件でRTPを行うとDZ層10が形成されず、処理温度T
2=1350℃、昇温速度R
1=75℃/秒、降温速度R
2=5℃/秒、酸素分圧30%の条件でRTPを行うと中間層11及びバルク層12が形成されず、いずれの場合も半導体デバイスの基板としては使用することができない。
【0051】
このように、RTPの処理条件(処理温度T
2、昇温速度R
1、降温速度R
2、酸素分圧)をパラメータとしてシミュレーションを行うことにより、直接評価することが非常に困難なVOx濃度のウェーハ深さ方向分布を簡便に導出することができ、所望の厚さのDZ層10及び中間層11を備えたウェーハの処理条件を簡便に見極めることができる。
【0052】
また、
図10のシミュレーション結果によると、降温速度R
2及び酸素分圧が一定の条件の下では、一部に例外はあるが、処理温度T
2が高くなるほど、VOx濃度のウェーハ深さ方向変化量(微分値)の最大値は高くなり、かつ、その最大値の位置はウェーハの表面近傍側に移動した。また、処理温度T
2及び酸素分圧が一定の条件の下では、降温速度R
2が大きくなるほど微分値の最大値は大きくなり、かつ、その最大値はウェーハの表面近傍側に移動した。さらに、処理温度T
2及び降温速度R
2が一定の条件の下では、酸素分圧が10%前後のときに微分値の最大値は最も大きくなり、約10%よりも低分圧側及び高分圧側のいずれに向かっても、その最大値は小さくなった。また、酸素分圧が高くなるほどその最大値はウェーハの厚さ中心側に移動した。
【0053】
中間層11におけるVOx濃度の立ち上がりは、微分値の最大値の大きさが大きいほど急峻となり、中間層11を介してDZ層10とバルク層12を近接させることができる。このように、両層10、12を近接させることにより重金属の拡散距離を短縮することができ、ゲッタリングを効率的に行うことが可能となる。また、最大値の位置をウェーハの表面近傍とすることにより、前述のように拡散係数が小さくゲッタリングが困難な重金属に対しても、上記と同様にゲッタリングを効率的に行うことが可能となる。この最大値の大きさは、5.0×10
11/cm
3・μm以上の範囲とするのが好ましい。上述したように、微分値の最大値の大きさを5.0×10
11/cm
3・μm以上とすることにより、近接ゲッタリングを有効に機能させることができるためである。
【0054】
なお、
図9、
図10に示したシミュレーション結果は、乾燥酸素含有雰囲気(ドライ酸素雰囲気)でウェーハにRTPを行った場合のものであるが、湿潤酸素含有雰囲気(ウェット酸素雰囲気)の場合でも、シミュレーションにおける酸化膜形成速度を適切に調節することにより、自在にシミュレーションを行うことができる。
【0055】
上記においては、
図4に示したシーケンスの昇温工程から降温工程まで、同一の雰囲気(上記においては、所定分圧の酸素を含む酸素含有雰囲気)で行ったものについて説明したが、このシーケンスは一例に過ぎず、例えば、昇温まで不活性ガス雰囲気とし、処理温度での保持工程以降を酸素含有雰囲気としたり、処理中に酸素分圧を変化させたりする等、シーケンスの途中で熱処理雰囲気を適宜変更することもできる。また、処理温度での保持中に、その処理温度を変化させ、この変化のタイミングで熱処理の雰囲気を変化させることもできる。
【0056】
上記において説明した実施形態はあくまでも例示であって、シリコンウェーハのDZ層10における酸素析出物の析出を抑制するとともに、バルク層12における高いゲッタリング能を確保する、というこの発明の課題を解決し得る限りにおいて、例えば、RTPに先立ってウェーハの表面に酸化膜等の膜形成を行う等、ウェーハの層構成に変更を加えることも許容される。