(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態について説明するが、本発明がこれらの実施形態に限定されることはない。
【0016】
<有機エレクトロニクス材料>
本実施形態の有機エレクトロニクス材料は、電荷輸送性の構造単位と特定の環状置換基を有する電荷輸送性ポリマーを含むことを特徴とする。
[電荷輸送性ポリマー]
電荷輸送性ポリマーは、電荷輸送性の構造単位を含み、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキニル基、ポリマー鎖と共役しないアリール基、及びポリマー鎖と共役しないヘテロアリール基からなる群から選ばれる少なくとも1種の環状置換基を有する電荷輸送性ポリマーである。なお、本明細書において「ポリマー」は、重合度の低い重合体を指す「オリゴマー」も含む概念である。
【0017】
本発明者らは、ポリマーがこれらの特定の環状置換基を有することにより、ポリマー膜の表面自由エネルギーの非極性成分を高くすることができることを見いだした。これは、特定の環状構造の置換基を導入することで、ポリマー間の環状構造の置換基同士が配向して膜の結晶性が向上し、膜の結晶性が上がることで、表面自由エネルギーが向上するためであると考える。また、芳香系の環は、ポリマー鎖と共役系で繋がらないため、共役長が長くなりすぎず、ポリマーのバンドギャップを維持することができる。
【0018】
さらに、本発明者らは、非極性成分を41mJ/m
2以上にすることで、ポリマー膜上に滴下するインクのぬれ性を改善できることを見出した。
ここで、ポリマー膜は、ポリマーを用いて得られる乾燥膜又は硬化膜を意味する。すなわち、ポリマーを構成する構造単位が重合性官能基を含む場合は硬化膜を、重合性官能基を含まない場合は乾燥膜を、それぞれ意味する。本明細書においては、硬化膜と乾燥膜をまとめてポリマー膜又は膜と記す。
【0019】
(表面自由エネルギー)
本実施形態において規定する表面自由エネルギーは、次の式(1)のとおり、Owens−Weldt法に基づき、極性成分と非極性成分の二成分の和として表される表面自由エネルギーである。
表面自由エネルギー(γ)=極性成分(γ
p)+非極性成分(γ
d) (1)
【0020】
Youngの式により、接触角と表面自由エネルギーの関係は、次の式(2)で表すことができる。ここで添え字Lは溶液を、添え字Sは固体を示し、θは接触角を示す。
γ
S = γ
LS + γ
Lcosθ (2)
【0021】
液体と固体のように2つの物質が接触する結果、減少するそれぞれの表面自由エネルギーは、下記式(3)で表されるように、対応する表面自由エネルギーの幾何平均の和として表すことができると仮定する。添え字p及びdは、それぞれ表面自由エネルギーの極性成分及び非極性成分を表す。
【数1】
上記式(2)と(3)からγ
LSを消去すると、下記式(4)が得られる。
【数2】
【0022】
そこで、表面自由エネルギーが既知の溶媒の接触角を測定して、上記式(4)を用いて膜の表面自由エネルギーを計算することができる。すなわち、ポリマー膜上に水とジヨードメタンの2種類の液滴を滴下し、それぞれの接触角を測定する。水は極性成分が51.0mJ/m
2、非極性成分が21.8mJ/m
2であり、ジヨードメタンは極性成分が1.3mJ/m
2、非極性成分が49.5mJ/m
2である。したがって、2つの接触角を入れて連立方程式を解くことで、ポリマー膜の表面自由エネルギー(極性成分、非極性成分)を算出することができる。
【0023】
より詳細には、連立方程式は次の式(5)と(6)に示される。
【数3】
ただし、式(5)及び式(6)中、
【数4】
をそれぞれ表す。
【0024】
有機EP素子の多層化に用いられるインクには、一般に、アルコール、環状アルカン、芳香族炭化水素、脂肪族又は芳香族エーテル、脂肪族又は芳香族エステル、アミド系溶媒等の有機溶媒が用いられ、より具体的にはトルエン、アニソール、テトラリン等が使用される。したがって、ポリマー膜の非極性成分が41mJ/m
2以上であると、これらの有機溶媒のぬれ性が非常に良好なものとなる。
【0025】
(環状構造の置換基)
前記の環状置換基(以下、「XR基」とも記す。)は、特定の非芳香属系環状置換基、又は芳香属系環状置換基である。非芳香属系環状置換基は、飽和炭化水素環基と不飽和炭化水素環基を含み、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、及びシクロアルキニル基のなかから選ばれる。これらの基の炭素数は、3以上20以下が好ましい。炭素数は5以上であることがより好ましく、また、12以下であることがより好ましい。したがって、炭素数は3以上12以下であることがより好ましく、さらに好ましくは炭素数5以上12以下である。
具体的には、シクロアルキル基は、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、ノルボルナン(ビシクロ[2.2.1]ヘプタン)、ビシクロ[3.1.0]ヘキサン、ビシクロ[2.2.2]オクタン、ピナン(6,6-トリメチルビシクロ[3.1.1]ヘプタン)、ノルカラン、ハウサン、アダマンタン(トリシクロ[3.3.1.1
3,7]デカン)、ツイスタン(トリシクロ[4.4.0.0
3,8]デカン)、等のシクロアルカンから誘導される1価の基である。すなわち、シクロアルキル基は、モノシクロアルキル基の他に、ポリシクロアルキル基、例えば、ビシクロアルキル基、トリシクロアルキル基等も包含する。下記のシクロアルケニル基、シクロアルキニル基においても同様に、モノシクロ環化合物とポリシクロ環化合物の双方が含まれる。
【0026】
シクロアルケニル基は、シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロヘキサジエン(1,3−シクロヘキサジエン、1,4−シクロヘキサジエン等)、シクロオクタジエン(1,5−シクロオクダジエン等)、シクロヘプタトリエン、シクロオクタトリエン、シクロドデカトリエン、ノルボルネン(ビシクロ[2.2.1]ヘプテン)等のシクロアルケンから誘導される1価の基である。
シクロアルキニル基は、シイクロオクチン等のシクロアルキンから誘導される1価の基である。
【0027】
これらの環状置換基は、環の水素の一部がアミノ基等により置換されていても良く、例えば、アマンタジン、メマンチン、アダマンチン(1−アダマンタンアミン塩酸塩)等も好ましく使用できる。
【0028】
芳香族系環状置換基は、アリール基又はヘテロアリール基であり、どちらも、ポリマー鎖の共役系とは繋がらないように結合されている。つまり、アリール基又はヘテロアリール基は、ポリマー鎖の共役系を断ち切る連結基を介してポリマー鎖に結合している。
アリール基は、芳香族炭化水素から水素原子1個を除いた原子団であり、ヘテロアリール基とは、ヘテロ原子を有する芳香族化合物から水素原子1個を除いた原子団である。
単環構造、縮合多環構造のどちらでもよいが、縮合多環芳香族置換基は、ポリマー合成上の立体障害となることを避けるために、環の数は4個以下であることが好ましい。
また、芳香族炭化水素には、独立した単環及び縮合環から選択される2個以上が、直接(単結合)又はビニレン等の基を介して結合したものが含まれる。
【0029】
アリール基としては、例えば、フェニル、ビフェニル−イル、ターフェニル−イル、トリフェニルベンゼン−イル、ナフタレン−イル、アントラセン−イル、テトラセン−イル、フルオレン−イル、フェナントレン−イル等が挙げられる。
ヘテロアリール基としては、例えば、ピリジン−イル、ピラジン−イル、キノリン−イル、イソキノリン−イル、アクリジン−イル、フェナントロリン−イル、フラン−イル、ピロール−イル、チオフェン−イル、カルバゾール−イル、オキサゾール−イル、オキサジアゾール−イル、チアジアゾール−イル、トリアゾール−イル、ベンゾオキサゾール−イル、ベンゾオキサジアゾール−イル、ベンゾチアジアゾール−イル、ベンゾトリアゾール−イル、ベンゾチオフェン−イル等が挙げられる。
【0030】
共役系を断ち切る連結基は、特に限定はされないが、代表的にはアルキレン基である。アルキレン基が長い場合は、ポリマー間の配向性が低下する恐れがあるため、アルキレン基は短い方が好ましい。したがって、アルキレン基の炭素数は1以上5以下であることが好ましく、3以下であること(すなわち、メチレン基、ブチレン基、プロピレン基)がより好ましい。
ポリマー鎖と共役しないアリール基は、好ましくは、アリールアルキル基(アラルキル基)であり、ポリマー鎖と共役しないヘテロアリール基は、好ましくは、ヘテロアリールアルキル基である。
【0031】
芳香族系環状置換基とポリマー鎖との間に、共役系を断ち切る連結基が一つ存在し、それにより芳香族系環状置換基がポリマー鎖と共役しない構造である限り、該連結基と芳香族系環状置換基との間に、その他の結合構造(例えば、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−NH−等)が含まれていても良い。
その他の結合構造が含まれるXR基の具体例は、アリール基の場合であれば、アリールカルボニルアルキル基、アリールオキシアルキル基、アリールチオアルキル基等である。
【0032】
電荷輸送性ポリマーは、種類の異なる複数の環状置換基を含んでいてもよい。
表面自由エネルギーの非極性成分を高めるために、全モノマー中の、上記環状置換基を有するモノマーのモル比率は、0.1%以上であることが好ましく、より好ましくは、5%以上であり、最も好ましくは10%以上である。
【0033】
上記環状置換基(XR基)は、ポリマー鎖の末端に存在してもよいし、ポリマーの主鎖あるいは側鎖の置換基であってもよく、その導入位置は特に限定されない。
以下に、電荷輸送性ポリマーの構造を構造単位に分けて具体的に説明するが、各構造単位に任意で含まれる置換基Rの少なくとも一部が、上記XR基を含んでいればよい。すなわち、後述する構造単位LのR、及び/又は、構造単位TのRとして、少なくとも一部には「XR基を含む置換基」が含まれる。
ここで、「XR基を含む置換基」とは、XR基にさらに2価の連結基が結合していてもよい1価の置換基を意味する。この連結基は、特に限定はされず、例えばメチレン基、エチレン基等のアルキレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、−O−、−S−、−COO−等を例示することができる。
【0034】
次に、上記環状置換基を有する電荷輸送性ポリマーについて説明する。
このポリマーは、電荷を輸送する能力を有するポリマーであり、その構造は、直鎖状であっても、又は、分岐構造を有していてもよい。該ポリマーは、好ましくは、少なくとも電荷輸送性を有する2価の構造単位Lと、末端部を構成する1価の構造単位Tとを含み、更に分岐部を構成する3価以上の構造単位Bを含んでもよい。これらの各構造単位は、それぞれ1種のみが含まれてもよいし、又は、それぞれ複数種が含まれてもよい。電荷輸送性ポリマーにおいて、各構造単位は、「1価」〜「3価以上」の結合部位において互いに結合している。
なお、上記XR基を除いた部分の電荷輸送性ユニットは、市販のものでも良いし、当業者公知の方法により合成したものであってもよい。
【0035】
(構造)
電荷輸送性ポリマーに含まれる部分構造の例として、以下が挙げられる。電荷輸送性ポリマーは、以下の部分構造を有するものに限定されない。部分構造中、「L」は構造単位Lを、「T」は構造単位Tを、「B」は構造単位Bを表す。本明細書において式中の「*」は、他の構造単位との結合部位を表す。以下の部分構造中、複数のLは、互いに同一の構造単位であっても、互いに異なる構造単位であってもよい。T及びBについても、同様である。
【0036】
直鎖状の電荷輸送性ポリマー
【化1】
【0037】
分岐構造を有する電荷輸送性ポリマー
【化2】
【0038】
(構造単位L)
構造単位Lは、電荷輸送性を有する2価の構造単位である。構造単位Lは、電荷を輸送する能力を有する原子団を含んでいればよく、特に限定されない。例えば、構造単位Lは、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、ベンゼン構造、ビフェニレン構造、ターフェニレン構造、ナフタレン構造、アントラセン構造、テトラセン構造、フェナントレン構造、ジヒドロフェナントレン構造、ピリジン構造、ピラジン構造、キノリン構造、イソキノリン構造、キノキサリン構造、アクリジン構造、ジアザフェナントレン構造、フラン構造、ピロール構造、オキサゾール構造、オキサジアゾール構造、チアゾール構造、チアジアゾール構造、トリアゾール構造、ベンゾチオフェン構造、ベンゾオキサゾール構造、ベンゾオキサジアゾール構造、ベンゾチアゾール構造、ベンゾチアジアゾール構造、ベンゾトリアゾール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択される。一実施形態において、構造単位Lは、優れた正孔輸送性を得る観点から、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、ベンゼン構造、ピロール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることが好ましく、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることがより好ましい。他の実施形態において、構造単位Lは、優れた電子輸送性を得る観点から、置換又は非置換の、フルオレン構造、ベンゼン構造、フェナントレン構造、ピリジン構造、キノリン構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることが好ましい。構造単位Lの具体例として、以下が挙げられる。
【0041】
Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。Rとして、少なくとも一部に上記「XR基を含む置換基」を含みうることは、上述のとおりである。
この「XR基を含む置換基」以外の置換基Rとしては、例えば、それぞれ独立に、−R
1、−OR
2、−SR
3、−OCOR
4、−COOR
5、−SiR
6R
7R
8、ハロゲン原子、及び、後述する重合性官能基を含む基からなる群から選択される。R
1〜R
8は、それぞれ独立に、水素原子;炭素数1〜22個の直鎖又は分岐アルキル基を表す。Arは、炭素数2〜30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。Arは、好ましくはアリーレン基であり、より好ましくはフェニレン基である。
【0042】
(構造単位T)
構造単位Tは、電荷輸送性ポリマーの末端部を構成する1価の構造単位である。構造単位Tは、特に限定されず、例えば、置換又は非置換の、芳香族炭化水素構造、芳香族複素環構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択される。一実施形態において、構造単位Tは、電荷の輸送性を低下させずに耐久性を付与するという観点から、置換又は非置換の芳香族炭化水素構造であることが好ましく、置換又は非置換のベンゼン構造であることがより好ましい。また、他の実施形態において、後述するように、電荷輸送性ポリマーが末端部に重合性官能基を有する場合、構造単位Tは重合可能な構造(すなわち、例えば、ピロール−イル基等の重合性官能基)であってもよい。構造単位Tの具体例として、以下が挙げられる。
【0043】
【化5】
Rは、構造単位LにおけるRと同様であり、上述の通り、少なくとも一部に上記「XR基を含む置換基」を含みうる。電荷輸送性ポリマーが末端部に重合性官能基を有する場合、好ましくは、Rのいずれか少なくとも1つが、重合性官能基を含む基である。
【0044】
(構造単位B)
構造単位Bは、電荷輸送性ポリマーが分岐構造を有する場合に、分岐部を構成する3価以上の構造単位である。構造単位Bは、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、好ましくは6価以下であり、より好ましくは3価又は4価である。構造単位Bは、電荷輸送性を有する単位であることが好ましい。例えば、構造単位Bは、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、置換又は非置換の、トリフェニルアミン構造、カルバゾール構造、縮合多環式芳香族炭化水素構造、及び、これらの1種又は2種以上を含有する構造から選択される。構造単位Bの具体例として、以下が挙げられる。
【0046】
Wは、3価の連結基を表し、例えば、炭素数2〜30個のアレーントリイル基又はヘテロアレーントリイル基を表す。Arは、それぞれ独立に2価の連結基を表し、例えば、それぞれ独立に、炭素数2〜30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。Arは、好ましくはアリーレン基、より好ましくはフェニレン基である。Yは、2価の連結基を表し、例えば、構造単位LにおけるR(ただし、重合性官能基を含む基を除く。)のうち水素原子を1個以上有する基から、更に1個の水素原子を除いた2価の基が挙げられる。Zは、炭素原子、ケイ素原子、又はリン原子のいずれかを表す。構造単位中、ベンゼン環及びArは、置換基を有していてもよく、置換基の例として、構造単位LにおけるRが挙げられる。
【0047】
(重合性官能基)
電荷輸送性ポリマーは、重合反応により硬化させ、溶剤への溶解度を変化させる観点から、重合性官能基を少なくとも1つ有していてもよい。本明細書において「重合性官能基」とは、熱及び/又は光を加えることにより、互いに結合を形成し得る官能基であって、上記環状置換基以外の官能基を意味する。
【0048】
重合性官能基としては、炭素−炭素多重結合を有する基(例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、エチニル基、アクリロイル基、アクリロイルオキシ基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイル基、メタクリロイルオキシ基、メタクリロイルアミノ基、ビニルオキシ基、ビニルアミノ基等)、小員環を有する基(例えば、エポキシ基(オキシラニル基)、オキセタン基(オキセタニル基)等の環状エーテル基;ジケテン基;エピスルフィド基;ラクトン基;ラクタム基等)などが挙げられる。重合性官能基としては、特に、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基、及びオキセタン基が好ましく、反応性及び有機エレクトロニクス素子の特性の観点から、ビニル基、オキセタン基、又はエポキシ基がより好ましく、オキセタン基が最も好ましい。
【0049】
重合性官能基の自由度を上げ、重合反応を生じさせやすくする観点からは、電荷輸送性ポリマーの主骨格と重合性官能基とが、例えば炭素数1〜8のアルキレン鎖で連結されていることが好ましい。また、例えば、電極上に有機層を形成する場合、ITO等の親水性電極との親和性を向上させる観点からは、エチレングリコール鎖、ジエチレングリコール鎖等の親水性の鎖で連結されていることが好ましい。さらに、重合性官能基を導入するために用いられるモノマーの調製が容易になる観点からは、電荷輸送性ポリマーは、アルキレン鎖及び/又は親水性の鎖の末端部、すなわち、これらの鎖と重合性官能基との連結部、及び/又は、これらの鎖と電荷輸送性ポリマーの骨格との連結部に、エーテル結合又はエステル結合を有していてもよい。前述の「重合性官能基を含む基」とは、重合性官能基それ自体、又は、重合性官能基とアルキレン鎖等とを合わせた基を意味する。重合性官能基を含む基として、例えば、国際公開第WO2010/140553号に例示された基を好適に用いることができる。
【0050】
重合性官能基は、電荷輸送性ポリマーの末端部(すなわち、構造単位T)に導入されていても、末端部以外の部分(すなわち、構造単位L又はB)に導入されていても、末端部と末端以外の部分の両方に導入されていてもよい。硬化性の観点からは、少なくとも末端部に導入されていることが好ましく、硬化性及び電荷輸送性の両立を図る観点からは、末端部のみに導入されていることが好ましい。また、電荷輸送性ポリマーが分岐構造を有する場合、重合性官能基は、電荷輸送性ポリマーの主鎖に導入されていても、側鎖に導入されていてもよく、主鎖と側鎖の両方に導入されていてもよい。
【0051】
重合性官能基は、溶解度の変化に寄与する観点からは、電荷輸送性ポリマー中に多く含まれる方が好ましい。一方、電荷輸送性を妨げない観点からは、電荷輸送性ポリマー中に含まれる量が少ない方が好ましい。重合性官能基の含有量は、これらを考慮し、適宜設定できる。
【0052】
例えば、電荷輸送性ポリマー1分子あたりの重合性官能基数は、十分な溶解度の変化を得る観点から、2個以上が好ましく、3個以上がより好ましい。また、重合性官能基数は、電荷輸送性を保つ観点から、1,000個以下が好ましく、500個以下がより好ましい。
【0053】
電荷輸送性ポリマー1分子あたりの重合性官能基数は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、重合性官能基の仕込み量(例えば、重合性官能基を有するモノマーの仕込み量)、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を用い、平均値として求めることができる。また、重合性官能基の数は、電荷輸送性ポリマーの
1H NMR(核磁気共鳴)スペクトルにおける重合性官能基に由来するシグナルの積分値と全スペクトルの積分値との比、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を利用し、平均値として算出できる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、好ましくは、仕込み量を用いて求めた値を採用する。
【0054】
(数平均分子量)
電荷輸送性ポリマーの数平均分子量は、溶剤への溶解性、成膜性等を考慮して適宜、調整できる。数平均分子量は、電荷輸送性に優れるという観点から、500以上が好ましく、1,000以上がより好ましく、2,000以上が更に好ましい。また、数平均分子量は、溶媒への良好な溶解性を保ち、インク組成物の調製を容易にするという観点から、1,000,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、50,000以下が更に好ましい。
【0055】
(重量平均分子量)
電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量は、溶剤への溶解性、成膜性等を考慮して適宜、調整できる。重量平均分子量は、電荷輸送性に優れるという観点から、1,000以上が好ましく、2,000以上、4,000以上、5,000以上がこの順でより好ましく、10,000以上が更に好ましい。また、重量平均分子量は、溶媒への良好な溶解性を保ち、インク組成物の調製を容易にするという観点から、1,000,000以下が好ましく、700,000以下がより好ましく、400,000以下が更に好ましい。
【0056】
数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。
【0057】
(構造単位の割合)
電荷輸送性ポリマーに含まれる構造単位Lの割合は、十分な電荷輸送性を得る観点から、全構造単位を基準として、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Lの割合は、構造単位T及び必要に応じて導入される構造単位Bを考慮すると、95モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、85モル%以下が更に好ましい。
【0058】
電荷輸送性ポリマーに含まれる構造単位Tの割合は、有機エレクトロニクス素子の特性向上の観点、又は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点から、全構造単位を基準として、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、15モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Tの割合は、十分な電荷輸送性を得る観点から、60モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。
【0059】
電荷輸送性ポリマーが構造単位Bを含む場合、構造単位Bの割合は、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、全構造単位を基準として、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Bの割合は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点、又は、十分な電荷輸送性を得る観点から、50モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、30モル%以下が更に好ましい。
【0060】
電荷輸送性ポリマーが重合性官能基を有する場合、重合性官能基の割合は、電荷輸送性ポリマーを効率よく硬化させるという観点から、全構造単位を基準として、0.1モル%以上が好ましく、1モル%以上がより好ましく、3モル%以上が更に好ましい。また、重合性官能基の割合は、良好な電荷輸送性を得るという観点から、70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。なお、ここでの「重合性官能基の割合」とは、重合性官能基を有する構造単位の割合をいう。
【0061】
電荷輸送性、耐久性、生産性等のバランスを考慮すると、構造単位L及び構造単位Tの割合(モル比)は、L:T=100:1〜70が好ましく、100:3〜50がより好ましく、100:5〜30が更に好ましい。また、電荷輸送性ポリマーが構造単位Bを含む場合、構造単位L、構造単位T、及び構造単位Bの割合(モル比)は、L:T:B=100:10〜200:10〜100が好ましく、100:20〜180:20〜90がより好ましく、100:40〜160:30〜80が更に好ましい。
【0062】
構造単位の割合は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量を用いて求めることができる。また、構造単位の割合は、電荷輸送性ポリマーの
1H NMRスペクトルにおける各構造単位に由来するスペクトルの積分値、各構造単位の重量平均分子量等を利用し、算出することができる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、好ましくは、仕込み量を用いて求めた値を採用する。
【0063】
(製造方法)
電荷輸送性ポリマーは、種々の合成方法により製造でき、特に限定されない。例えば、鈴木カップリング、根岸カップリング、園頭カップリング、スティルカップリング、ブッフバルト・ハートウィッグカップリング等の公知のカップリング反応を用いることができる。鈴木カップリングは、芳香族ボロン酸誘導体と芳香族ハロゲン化物の間で、Pd触媒を用いたクロスカップリング反応を起こさせるものである。鈴木カップリングによれば、所望とする芳香環同士を結合させることにより、電荷輸送性ポリマーを簡便に製造できる。
【0064】
カップリング反応では、触媒として、例えば、Pd(0)化合物、Pd(II)化合物、Ni化合物等が用いられる。また、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、酢酸パラジウム(II)等を前駆体とし、ホスフィン配位子と混合することにより発生させた触媒種を用いることもできる。電荷輸送性ポリマーの合成方法については、例えば、国際公開第WO2010/140553号の記載を参照できる。
【0065】
[ドーパント]
有機エレクトロニクス材料は、任意の添加剤を含むことができ、例えばドーパントを更に含有してよい、ドーパントは、有機エレクトロニクス材料に添加することでドーピング効果を発現させ、電荷の輸送性を向上させ得るものであればよく、特に制限はない。ドーピングには、p型ドーピングとn型ドーピングがあり、p型ドーピングではドーパントとして電子受容体として働く物質が用いられ、n型ドーピングではドーパントとして電子供与体として働く物質が用いられる。正孔輸送性の向上にはp型ドーピング、電子輸送性の向上にはn型ドーピングを行うことが好ましい。有機エレクトロニクス材料に用いられるドーパントは、p型ドーピング又はn型ドーピングのいずれの効果を発現させるドーパントであってもよい。また、1種のドーパントを単独で添加しても、複数種のドーパントを混合して添加してもよい。
【0066】
p型ドーピングに用いられるドーパントは、電子受容性の化合物であり、例えば、ルイス酸、プロトン酸、遷移金属化合物、イオン化合物、ハロゲン化合物、π共役系化合物等が挙げられる。具体的には、ルイス酸としては、FeCl
3、PF
5、AsF
5、SbF
5、BF
5、BCl
3、BBr
3等;プロトン酸としては、HF、HCl、HBr、HNO
5、H
2SO
4、HClO
4等の無機酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、1−ブタンスルホン酸、ビニルフェニルスルホン酸、カンファスルホン酸等の有機酸;遷移金属化合物としては、FeOCl、TiCl
4、ZrCl
4、HfCl
4、NbF
5、AlCl
3、NbCl
5、TaCl
5、MoF
5;イオン化合物としては、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドイオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、AsF
6−(ヘキサフルオロ砒酸イオン)、BF
4−(テトラフルオロホウ酸イオン)、PF
6−(ヘキサフルオロリン酸イオン)等のパーフルオロアニオンを有する塩、アニオンとして前記プロトン酸の共役塩基を有する塩など;ハロゲン化合物としては、Cl
2、Br
2、I
2、ICl、ICl
3、IBr、IF等;π共役系化合物としては、TCNE(テトラシアノエチレン)、TCNQ(テトラシアノキノジメタン)等が挙げられる。また、特開2000−36390号公報、特開2005−75948号公報、特開2003−213002号公報等に記載の電子受容性化合物を用いることも可能である。好ましくは、ルイス酸、イオン化合物、π共役系化合物等である。
【0067】
n型ドーピングに用いられるドーパントは、電子供与性の化合物であり、例えば、Li、Cs等のアルカリ金属;Mg、Ca等のアルカリ土類金属;LiF、Cs
2CO
3等のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩;金属錯体;電子供与性有機化合物などが挙げられる。
【0068】
電荷輸送性ポリマーが重合性官能基を有する場合は、有機層の溶解度の変化を容易にするために、ドーパントとして重合性官能基に対する重合開始剤として作用し得る化合物を用いることが好ましい。
【0069】
[含有量]
ドーパントを含有する場合、その含有量は、有機エレクトロニクス材料の電荷輸送性を向上させる観点から、有機エレクトロニクス材料の全質量に対して、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましい。また、成膜性を良好に保つ観点から、有機エレクトロニクス材料の全質量に対して、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。
【0070】
<インク組成物>
本発明の実施形態であるインク組成物は、前記実施形態の有機エレクトロニクス材料と溶媒とを含有する。インク組成物を用いることによって、塗布法といった簡便な方法によって有機層を容易に形成できる。
【0071】
[溶媒]
溶剤は、前記電荷輸送性ポリマーを溶解又は分散し得るものである。溶媒としては、水、有機溶媒、又はこれらの混合溶媒を使用できる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール;ペンタン、ヘキサン、オクタン等のアルカン;シクロヘキサン等の環状アルカン;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン等の芳香族炭化水素;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレンなどが挙げられる。好ましくは、芳香族炭化水素、脂肪族エステル、芳香族エステル、脂肪族エーテル、芳香族エーテル等である。
【0072】
[重合開始剤]
電荷輸送性ポリマーが重合性官能基を有する場合、インク組成物は、好ましくは、重合開始剤を含有する。重合開始剤として、公知のラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤等を使用できる。インク組成物を簡便に調製できる観点から、ドーパントとしての機能と重合開始剤としての機能とを兼ねる物質を用いることが好ましい。そのような物質として、例えば、前記イオン化合物が挙げられる。
【0073】
[添加剤]
インク組成物は、更に、任意成分として添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、重合禁止剤、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、難燃剤、酸化防止剤、還元防止剤、酸化剤、還元剤、表面改質剤、乳化剤、消泡剤、分散剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0074】
[含有量]
インク組成物における溶媒の含有量は、種々の塗布方法へ適用することを考慮して定めることができる。例えば、溶媒の含有量は、溶媒に対し電荷輸送性ポリマーの割合が、0.1質量%以上となる量が好ましく、0.2質量%以上となる量がより好ましく、0.5質量%以上となる量が更に好ましい。また、溶媒の含有量は、溶媒に対し電荷輸送性ポリマーの割合が、20質量%以下となる量が好ましく、15質量%以下となる量がより好ましく、10質量%以下となる量が更に好ましい。
【0075】
<有機層>
本発明の実施形態である有機層は、前記実施形態の有機エレクトロニクス材料、又はインク組成物を用いて形成された層である。インク組成物を用いることによって、塗布法により有機層を良好に形成できる。塗布方法としては、例えば、スピンコーティング法;キャスト法;浸漬法;凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平版印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の有版印刷法;インクジェット法等の無版印刷法などの公知の方法が挙げられる。塗布法によって有機層を形成する場合、塗布後に得られた有機層(塗布層)を、ホットプレート又はオーブンを用いて乾燥させ、溶媒を除去してもよい。
【0076】
電荷輸送性ポリマーが重合性官能基を有する場合、光照射、加熱処理等により電荷輸送性ポリマーの重合反応を進行させ、有機層の溶解度を変化させることができる。溶解度を変化させた有機層を積層することで、有機エレクトロニクス素子の多層化を容易に図ることが可能となる。有機層の形成方法については、例えば、国際公開第WO2010/140553号の記載を参照できる。
【0077】
乾燥後又は硬化後の有機層の厚さは、電荷輸送の効率を向上させる観点から、好ましくは0.1nm以上であり、より好ましくは1nm以上であり、更に好ましくは3nm以上である。また、有機層の厚さは、電気抵抗を小さくする観点から、好ましくは300nm以下であり、より好ましくは200nm以下であり、更に好ましくは100nm以下である。
【0078】
<有機エレクトロニクス素子>
本発明の実施形態である有機エレクトロニクス素子は、少なくとも前記実施形態の有機層を有する。有機エレクトロニクス素子として、例えば、有機EL素子、有機光電変換素子、有機トランジスタ等が挙げられる。有機エレクトロニクス素子は、好ましくは、少なくとも一対の電極の間に有機層が配置された構造を有する。
【0079】
<有機EL素子>
本発明の実施形態である有機EL素子は、少なくとも前記実施形態の有機層を有する。有機EL素子は、通常、発光層、陽極、陰極、及び基板を備えており、必要に応じて、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、電子輸送層等の他の機能層を備えている。各層は、蒸着法により形成してもよく、塗布法により形成してもよい。有機EL素子は、好ましくは、有機層を発光層又は他の機能層として有し、より好ましくは機能層として有し、更に好ましくは正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方として有する。
【0080】
図1は、有機EL素子の一実施形態を示す断面模式図である。
図1の有機EL素子は、多層構造の素子であり、基板8、陽極2、正孔注入層3及び正孔輸送層6、発光層1、電子輸送層7、電子注入層5、並びに陰極4をこの順に有している。以下、各層について説明する。
【0081】
[発光層]
発光層に用いる材料として、低分子化合物、ポリマー、デンドリマー等の発光材料を使用できる。ポリマーは、溶媒への溶解性が高く、塗布法に適しているため好ましい。発光材料としては、蛍光材料、燐光材料、熱活性化遅延蛍光材料(TADF)等が挙げられる。
【0082】
蛍光材料として、ペリレン、クマリン、ルブレン、キナクドリン、スチルベン、色素レーザー用色素、アルミニウム錯体、これらの誘導体等の低分子化合物;ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリビニルカルバゾール、フルオレンーベンゾチアジアゾール共重合体、フルオレン−トリフェニルアミン共重合体、これらの誘導体等のポリマー;これらの混合物等が挙げられる。
【0083】
燐光材料として、Ir、Pt等の金属を含む金属錯体などを使用できる。Ir錯体としては、例えば、青色発光を行うFIr(pic)(イリジウム(III)ビス[(4,6−ジフルオロフェニル)−ピリジネート−N,C
2]ピコリネート)、緑色発光を行うIr(ppy)
3(ファク トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム)、赤色発光を行う(btp)
2Ir(acac)(ビス〔2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジナート−N,C
3〕イリジウム(アセチル−アセトネート))、Ir(piq)
3(トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム)等が挙げられる。Pt錯体としては、例えば、赤色発光を行うPtOEP(2、3、7、8、12、13、17、18−オクタエチル−21H、23H−フォルフィンプラチナ)等が挙げられる。
【0084】
発光層が燐光材料を含む場合、燐光材料の他に、更にホスト材料を含むことが好ましい。ホスト材料としては、低分子化合物、ポリマー、又はデンドリマーを使用できる。低分子化合物としては、例えば、CBP(4,4’−ビス(9H−カルバゾール−9−イル)ビフェニル)、mCP(1,3−ビス(9−カルバゾリル)ベンゼン)、CDBP(4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)−2,2’−ジメチルビフェニル)、これらの誘導体等が、ポリマーとしては、前記実施形態の有機エレクトロニクス材料、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレン、ポリフルオレン、これらの誘導体等が挙げられる。
【0085】
熱活性化遅延蛍光材料としては、例えば、Adv. Mater., 21, 4802-4906 (2009);Appl. Phys. Lett., 98, 083302 (2011);Chem. Comm., 48, 9580 (2012);Appl. Phys. Lett., 101, 093306 (2012);J. Am. Chem. Soc., 134, 14706 (2012);Chem. Comm., 48, 11392 (2012);Nature, 492, 234 (2012);Adv. Mater., 25, 3319 (2013);J. Phys. Chem. A, 117, 5607 (2013);Phys. Chem. Chem. Phys., 15, 15850 (2013);Chem. Comm., 49, 10385 (2013);Chem. Lett., 43, 319 (2014)等に記載の化合物が挙げられる。
【0086】
[正孔注入層、正孔輸送層]
上記の有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機層を、正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方として使用することが好ましく、少なくとも正孔輸送層として使用することが一層好ましい。有機EL素子が、上記の有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機層を正孔輸送層として有し、さらに正孔注入層を有する場合、正孔注入層には公知の材料を使用できる。また、有機EL素子が、上記の有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機層を正孔注入層として有し、更に正孔輸送層を有する場合、正孔輸送層には公知の材料を使用できる。
【0087】
正孔注入層にトリフェニルアミンからなる材料を用いた場合、正孔の移動に対してエネルギー準位の観点から、正孔輸送層に本実施形態の有機エレクトロニクス材料を用いることが好適である。特に、正孔注入層に重合開始剤を含み、かつ正孔輸送層に、上記の電荷輸送性ポリマーとして、重合性置換基を有する分岐ポリマーを用いた場合、正孔輸送層を硬化可能となり、よって、さらにその上層にインク等からなる発光層を塗布することが可能となる。
【0088】
[電子輸送層、電子注入層]
電子輸送層及び電子注入層に用いる材料としては、例えば、フェナントロリン誘導体、ビピリジン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレン、ペリレンなどの縮合環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、キノキサリン誘導体、アルミニウム錯体等が挙げられる。また、前記実施形態の有機エレクトロニクス材料も使用できる。
【0089】
[陰極]
陰極材料としては、例えば、Li、Ca、Mg、Al、In、Cs、Ba、Mg/Ag、LiF、CsF等の金属又は金属合金が用いられる。
【0090】
[陽極]
陽極材料としては、例えば、金属(例えば、Au)又は導電性を有する他の材料が用いられる。他の材料として、例えば、酸化物(例えば、ITO:酸化インジウム/酸化錫)、導電性高分子(例えば、ポリチオフェン−ポリスチレンスルホン酸混合物(PEDOT:PSS))が挙げられる。
【0091】
[基板]
基板として、ガラス、プラスチック等を使用できる。基板は、透明であることが好ましく、また、フレキシブル性を有することが好ましい。石英ガラス、光透過性樹脂フィルム等が好ましく用いられる。
【0092】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等からなるフィルムが挙げられる。
【0093】
樹脂フィルムを用いる場合、水蒸気、酸素等の透過を抑制するために、樹脂フィルムへ酸化珪素、窒化珪素等の無機物をコーティングして用いてもよい。
【0094】
[封止]
有機EL素子は、外気の影響を低減させて長寿命化させるため、封止されていてもよい。封止に用いる材料としては、ガラス、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のプラスチックフィルム、又は酸化珪素、窒化ケイ素等の無機物を用いることができるが、これらに限定されることはない。
封止の方法も、特に限定されず、公知の方法で行うことができる。
【0095】
[発光色]
有機EL素子の発光色は特に限定されるものではない。白色の有機EL素子は、家庭用照明、車内照明、時計又は液晶のバックライト等の各種照明器具に用いることができるため好ましい。
【0096】
白色の有機EL素子を形成する方法としては、複数の発光材料を用いて複数の発光色を同時に発光させて混色させる方法を用いることができる。複数の発光色の組み合わせとしては、特に限定されないが、青色、緑色及び赤色の3つの発光極大波長を含有する組み合わせ、青色と黄色、黄緑色と橙色等の2つの発光極大波長を含有する組み合わせなどが挙げられる。発光色の制御は、発光材料の種類と量の調整により行うことができる。
【0097】
<表示素子、照明装置、表示装置>
本発明の実施形態である表示素子は、前記実施形態の有機EL素子を備えている。例えば、赤、緑及び青(RGB)の各画素に対応する素子として、有機EL素子を用いることで、カラーの表示素子が得られる。画像の形成方法には、マトリックス状に配置した電極でパネルに配列された個々の有機EL素子を直接駆動する単純マトリックス型と、各素子に薄膜トランジスタを配置して駆動するアクティブマトリックス型とがある。
【0098】
また、本発明の実施形態である照明装置は、本発明の実施形態の有機EL素子を備えている。さらに、本発明の実施形態である表示装置は、照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えている。例えば、表示装置は、バックライトとして本発明の実施形態である照明装置を用い、表示手段として公知の液晶素子を用いた表示装置、すなわち液晶表示装置とできる。
【実施例】
【0099】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
<Pd触媒の調製>
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、室温下、サンプル管にトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(73.2mg、80μmol)を秤取り、アニソール(15ml)を加え、30分間攪拌した。同様に、サンプル管にトリス(t−ブチル)ホスフィン(129.6mg、640μmol)を秤取り、アニソール(5ml)を加え、5分間攪拌した。これらの溶液を混合し、室温で30分間攪拌して、触媒とした。全ての溶媒は、30分以上窒素バブルにより脱気した後、使用した。
【0100】
<電荷輸送性ポリマー1の合成>
三口丸底フラスコに、下記モノマーA1(2.0mmol)、モノマーB1(5.0mmol)、モノマーC1(4.0mmol)、及びアニソール(20ml)を加え、さらに上記調製のPd触媒溶液(7.5ml)を加えた。30分撹拌した後、10%テトラエチルアンモニウム水酸化物水溶液(20ml)を加えた。全ての溶媒は、30分以上窒素バブルにより脱気した後、使用した。この混合物を2時間加熱・還流した。ここまでの全ての操作は窒素気流下で行った。
【0101】
【化7】
【0102】
反応終了後、有機層を水洗し、有機層をメタノール−水(9:1)に注いだ。生じた沈殿を吸引ろ過し、メタノール−水(9:1)で洗浄した。得られた沈殿をトルエンに溶解し、メタノールから再沈殿した。得られた沈殿を吸引ろ過し、トルエンに溶解し、金属吸着剤(Strem Chemicals社製「Triphenylphosphine, polymer-bound on styrene-divinylbenzene copolymer」、沈殿物100mgに対して200mg)を加えて、一晩撹拌した。撹拌終了後、金属吸着剤と不溶物をろ過して取り除き、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮した。濃縮液をトルエンに溶解した後、メタノール−アセトン(8:3)から再沈殿した。生じた沈殿を吸引ろ過により回収し、メタノール−アセトン(8:3)で洗浄した。得られた沈殿を真空乾燥し、1.3gの電荷輸送性ポリマー1を得た。
【0103】
得られた電荷輸送性ポリマー1の数平均分子量(Mn)と質量平均分子量(Mw)を表1に示す。
数平均分子量及び質量平均分子量は、溶離液にテトラヒドロフラン(THF)を用いたGPC(ポリスチレン換算)により測定した。測定条件は以下のとおりである。
送液ポンプ :L−6050 (株)日立ハイテクノロジーズ
UV−Vis検出器:L−3000 (株)日立ハイテクノロジーズ
カラム :Gelpack(登録商標) GL−A160S/GL−A150S 日立化成(株)
溶離液 :THF(HPLC用、安定剤を含まない) 和光純薬工業(株)
流速 :1mL/min
カラム温度 :室温
分子量標準物質 :標準ポリスチレン
【0104】
電荷輸送性ポリマー1は、構造単位B(モノマーA1に由来)、構造単位L(モノマーB1に由来)、及び構造単位T(モノマーC1に由来)を有し、それぞれの構造単位の割合は、モノマーの仕込みモル比で18.2%、45.5%、36.4%であった。環状置換基を含むモノマーの仕込みモル比は45.5%である。
【0105】
<電荷輸送性ポリマー2〜10の合成>
構造単位Lを構成するモノマーと、構成単位Mを構成するモノマーとを、それぞれ表1に示すものに変更し、上記と同様にして電荷輸送性ポリマー2〜10を合成した。構造単位Tのモノマーとして2種類を組み合わせた場合、モル比で1:1となる量で混合した。
各モノマーの構造を以下に示す。表1において、特定の環状置換基(XR基)を有するモノマーを「*」を付けて表示した。ポリマー7〜10は、XR基を含まない、比較例のポリマーである。ポリマー2〜6において、環状置換基を含むモノマーの仕込みモル比は18.2%である。
【0106】
【化8】
【0107】
【表1】
【0108】
<ポリマー膜の作製:実施例1〜6及び比較例1〜4)
合成した電荷輸送性ポリマー1〜10を用い、各ポリマー10mgを2gのトルエン溶液に溶解させた溶液を、石英基板上に滴下し、3000rpmで60秒間スピンコートを行った。その後、210℃で10分間ベークを行い、各ポリマー膜を作製した。
【0109】
<表面自由エネルギーの測定>
各ポリマー膜に純水、およびジヨウドメタンを滴下し、それぞれの接触角を測定した。測定結果を表2に示す。
これらの測定結果を上記式(5)と(6)に代入し、各ポリマー膜の表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m
2)と非極性成分(mJ/m
2)を計算した。計算結果を、併せて表2に示す。
【0110】
【表2】
【0111】
表2に示されるとおり、特定の環状置換基を含むポリマー1〜6からは、非極性成分が41mJ/m
2以上であるポリマー膜を作製することができた。