特許第6705182号(P6705182)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6705182インフレーション成形用樹脂組成物およびそれからなるフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6705182
(24)【登録日】2020年5月18日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】インフレーション成形用樹脂組成物およびそれからなるフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/06 20060101AFI20200525BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20200525BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   C08L23/06
   C08L23/08
   C08J5/18CES
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-13386(P2016-13386)
(22)【出願日】2016年1月27日
(65)【公開番号】特開2017-132882(P2017-132882A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西尾 省治
(72)【発明者】
【氏名】幸田 真吾
【審査官】 今井 督
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−106846(JP,A)
【文献】 特開昭62−039648(JP,A)
【文献】 特開昭62−039647(JP,A)
【文献】 米国特許第05714547(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0000134(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00− 23/36
C08J 5/00− 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS K6922−1(1997年)で測定したメルトマスフローレートが0.01〜0.05g/10分以上であり、190℃、21.6kg荷重のメルトマスフローレートが4〜20g/10分である高密度ポリエチレン100重量部に対し、190℃、2160g荷重で測定したメルトマスフローレートが0.1〜10g/10分であるエチレン−酢酸ビニル共重合体のみ10.0〜15.0重量部添加することを特徴とするインフレーション成形用樹脂組成物。
【請求項2】
高密度ポリエチレンの密度が945〜970kg/mであることを特徴とする請求項1に記載のインフレーション成形用樹脂組成物。
【請求項3】
エチレン−酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有率が3〜30重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載のインフレーション成形用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか一項に記載のインフレーション成形用樹脂組成物からなることを特徴とするフィルム。
【請求項5】
フィルムの厚みが5〜100μmであることを特徴とする請求項に記載のフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム強度を損なわずに偏肉が少ないインフレーション成形用樹脂組成物およびそれを用いたインフレーションフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インフレーション成形により成膜される各種包装用ポリエチレンフィルムは、高生産性を確保するため、高速成形化が求められ、さらには低偏肉性が要求されている。
【0003】
しかしながら、高速成形を行うと、インフレーション成形機のダイス内部にてポリエチレンの流動ムラが生じて、溶融樹脂を空気で膨張させたときにフィルムの厚みムラ、すなわち偏肉が多くなる。そのため、フィルムにしわやたるみが発生し、フィルムの外観不良や、後工程での印刷、製袋不良等の問題が生じて、フィルムの製品価値が低下する。
【0004】
このような問題の改良方法として、ダイス内部での樹脂の流動ムラを改良する目的で、ポリエチレンにステアリン酸カルシウムとステアリン酸亜鉛を添加する方法(特開平4−10638号公報)が提案されている。しかし、成膜時にフィルムがロールを通過する際に擦れたステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛がロールに堆積し、堆積物がフィルムに付着してしまう問題がある。
【0005】
また、ポリエチレンを特定の酸素濃度下で造粒する方法やポリエチレンに低分子量のポリエチレンを添加する方法が提案されているが、フィルムにゲルが発生したり、ダイス出口に滲出して溜まった低分子量ポリエチレンがフィルムを汚染する問題がある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−71427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、フィルム成形時にゲルの発生が少なく、汚染のないインフレーションフィルムを与え、かつ、フィルム強度を損なわずに、偏肉の少ないオレフィン系重合体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、オレフィン系重合体にエチレン−酢酸ビニル共重合体を添加することで、偏肉が少なく、高速成形が可能なインフレーションフィルムを与えることが出来ることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
即ち、オレフィン系重合体100重量部に対し、エチレン−酢酸ビニル共重合体を2.0〜15.0重量部添加することを特徴とするインフレーション成形用樹脂組成物およびそれを用いたインフレーションフィルムである。
【0010】
本発明のオレフィン系重合体は、エチレン、プロピレン、1−ブテンなど炭素数2〜12のα−オレフィンの単独重合体もしくはエチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンの共重合体(エチレン・α−オレフィン共重合体)が挙げられる。例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・1−へキセン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体、エチレン・4−メチル−1−ペンテン共重合体等のエチレン系重合体が挙げられ、これらオレフィン系重合体は、1種単独又は2種以上の組み合わせで用いてもよい。このようなオレフィン系重合体の中では、フィルム成形性やコストパフォーマンスに優れるため、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・1−へキセン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体が好ましく、フィルム強度、高速成形性の観点から高密度ポリエチレンが特に好ましい。
【0011】
また、本発明を構成するオレフィン系重合体は、JIS K6922−1(1997年)で測定したメルトマスフローレートが0.01g/10分以上の場合、成膜時の機械負荷が少なく好ましい。また、メルトマスフローレートが0.2g/10分以下の場合は樹脂の溶融張力が高く、溶融した樹脂を空気で膨張させたバブルの安定性が良好で好ましい。また、本発明を構成するオレフィン系重合体の密度は945kg/m以上ではフィルムの耐熱性、剛性が高く好ましく、密度が970kg/m以下の場合はフィルムの耐衝撃強度が高く好ましい。
【0012】
また、本発明を構成するオレフィン系重合体のゲルパーミエーション・クロマトフラフィー(GPC)より求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比Mw/Mnは20〜30が好ましい。Mw/Mnが20以上であれば流動性が良好であり、またMw/Mnが30以下であればフィルムの衝撃強度が高く良好である。なお、上記MwおよびMnの測定方法は下記の条件で測定した値である。
【0013】
検出器 : ウォーターズ社製150C、ALC/GPC
カラム : 東ソー製GMHHR−H(S)
溶媒 : 1,2,4−トリクロロベンゼン
校正 : ユニバーサルキャリブレーション法
また、オレフィン系重合体の190℃、21.6kg荷重のメルトマスフローレート(HLMFRと記す)は、4〜20g/10分が好ましい。HLMFRが4g/10分以上であれば流動性が良好であり、20g/10分以下であればフィルムの衝撃強度が高く良好である。
【0014】
このようなオレフィン系重合体の製造方法は、特に制限されるものではないが、チーグラー・ナッタ触媒やフィリップス触媒、メタロセン触媒を用いた高・中・低圧イオン重合法などを例示することができ、このような樹脂は、市販品の中から便宜選択することができる。例えば東ソー株式会社からニポロンハード、ニポロン−L、ニポロン−Zの商品名で各々市販されている。
【0015】
本発明を構成するエチレン−酢酸ビニル共重合体は、190℃、2160g荷重で測定したメルトマスフローレート(以下、MFRという。)が0.1〜10g/10分であることが好ましい。MFRが0.1g/10分以上の場合、成膜時の押出負荷が低く好ましく、また、MFRが10g/10分以下の場合はフィルム強度が高く好ましい。
【0016】
本発明を構成するエチレン−酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニル含有量が3〜30重量%であることが好ましい。酢酸ビニル含有量が3重量%以上の場合、成膜したフィルムの偏肉が小さく好ましい。また、酢酸ビニル含有率が30重量%以下の場合は、成膜したフィルムのべたつきが少なく、フィルム同士の密着がないため好ましい。
【0017】
本発明を構成する樹脂組成物は、オレフィン系重合体100重量部に対し、エチレン−酢酸ビニル共重合体の添加量は2.0〜15重量部である。エチレン−酢酸ビニル共重合体の添加量が1.0重量部より少ないとフィルムの偏肉が大きく好ましくなく、15重量部を超えるとフィルム強度の低下が大きく好ましくない。
【0018】
このようなエチレン−酢酸ビニル共重合体の製造方法は、特に制限されるものではなく、公知の高圧ラジカル重合法やイオン重合法を例示することができる。
【0019】
さらに、本発明に用いられるオレフィン系重合体およびエチレン−酢酸ビニル共重合体には、必要に応じて酸化防止剤、滑剤、中和剤、ブロッキング防止剤、界面活性剤、スリップ剤等、通常ポリオレフインに使用される添加剤を添加しても構わない。
【0020】
本発明のオレフィン系重合体とエチレン−酢酸ビニル共重合体との混合は、通常用いられる樹脂の混合装置により行うことができる。例えば、単軸押出機、二軸押出機、バンバリ−ミキサー、加圧ニーダ−、回転ロールなどの溶融混練装置、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーなどが挙げられる。溶融混練装置を用いる場合、溶融温度はオレフィン系重合体の融点〜250℃程度が好ましい。
【0021】
本発明の樹脂組成物を用いたフィルムを得るためにインフレーション成形する方法としては特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。成形条件としては温度150〜250℃、ブローアップ比1.2〜6.0、成形速度20〜120m/分の範囲が好ましい。成形温度が150℃以上では流動性が良好であり、250℃以下であれば成形時のゲル発生が少なく良好である。また、ブローアップ比が1.2以上であればフィルムの引裂強度が良好となり、ブローアップ比が6.0以下であればインフレーション成形時の溶融樹脂を空気で膨張させた部分(以下、バブルと記す)の揺れが少なく安定し、フィルムのシワが少なく良好である。成形速度が20〜120m/分の範囲であれば、成形時のバブルの蛇行が少なく良好である。また、本発明を構成する樹脂組成物を用いたフィルムは、厚みが5μm以上では、成形時にゲルによるフィルム切れが少なく良好である。また、フィルム厚みが100μm以下ではフィルムが硬すぎないために巻き取る際の巻きズレが発生しにくくなり、巻き上がったフィルムの外観が良好である。
【0022】
本発明を構成する樹脂組成物を用いたインフレーションフィルムは、厚みが5〜100μmであることが好ましい。フィルム厚みが5μm以上では、成形時にゲルによるフィルム切れが少なく良好である。また、フィルム厚みが100μm以下ではフィルムが硬すぎないために巻き取る際の巻きズレが発生しにくくなり、巻き上がったフィルムの外観が良好である。
【0023】
このようなインフレーションフィルムは、塗装する際のマスキング、断熱材の防湿包装等の産業用資材や、スーパーのレジ袋等の食品包装資材など広範囲にわたる包装材料として使用できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の範囲で調整した樹脂組成物を用いればフィルムの機械的強度、厚み均一性に優れ、またフィルムの高速成形性に優れたフィルムを得ること示す。
【実施例】
【0025】
以下、本発明について実施例により説明するが、これら実施例に限定されるものではない。
【0026】
以下に、物性、加工性の測定方法と評価方法を示す。
【0027】
(1)メルトマスフローレート(MFR)
JIS K6922−1(1997年)に準拠して測定した。
【0028】
(2)密度
JIS K6922−1(1997年)に準拠して測定した。
【0029】
(3)酢酸ビニル含有量
JIS K6924−1に準拠して測定した。
【0030】
(4)インフレーション成膜条件
以下の条件でインフレーションフィルムを製造した。
【0031】
成膜機 : プラコー(株)製。スクリュー径50mmφ
ダイ : 75mmφスパイラルダイ
ダイギャップ : 1.2mm
成形温度 : 210℃
ブローアップ比 : 6
成形速度 : 70m/分
フィルム厚み : 10μm
(5)フィルムの厚み均一性測定
フィルム厚み測定器により、フィルム円周の厚みを測定し、厚み偏肉度を以下の基準で判断した。
【0032】
○: 10μm±1.0μm
×: 10μm±2.0μm以上
(6)フィルムの衝撃強度
フィルムを15cm×15cmの正方形に切り出し、JIS K7124−1のA法に準拠して、フィルムをクランプで固定し、このフィルムの上から重量の異なる半球状物を自由落下させ、フィルムが50%破壊されるときの半球状の重量からダートインパクト強度を測定した。
【0033】
実施例1
オレフィン系重合体としてメルトマスフローレート0.05g/10分、密度952kg/m、Mw/Mn25、HLMFR11g/10分の高密度ポリエチレン(東ソー(株)製 商品名ニポロンハード7300A、以下、PO−1と記す。)100重量部に、メルトマスフローレート1.5g/10分、酢酸ビニル含有率20%のエチレン−酢酸ビニル共重合体(東ソー(株)製 商品名ウルトラセン631、以下、EVA−1と記す。)を10.0重量部加え、ヘンシェルミキサーにて混合した。得られた混合物を用いて、フィルムの平均厚み10μm、フィルム巾710mmとなるよう、成形温度210℃、ブローアップ比6、成形速度70m/分の条件でインフレーション成形し、フィルムを作製した。フィルムの厚み測定を行い、厚み均一性を評価した。結果を表1に示した。
【0034】
実施例2
エチレン−酢酸ビニル共重合体EVA−1の代わりにメルトマスフローレート1.3g/10分、酢酸ビニル含有率25%のエチレン−酢酸ビニル共重合体(東ソー(株)製 商品名ウルトラセン628、以下、EVA−2と記す。)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインフレーション成膜し、フィルムを得た。結果を表1に示す。
【0035】
実施例3
エチレン−酢酸ビニル共重合体EVA−1の代わりにメルトマスフローレート9.0g/10分、酢酸ビニル含有率10%のエチレン−酢酸ビニル共重合体(東ソー(株)製 商品名ウルトラセン541、以下、EVA−3と記す。)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインフレーション成膜し、フィルムを得た。結果を表1に示す。
【0036】
実施例4
エチレン−酢酸ビニル共重合体EVA−1の添加量を15重量部とした以外は、実施例1と同様にしてインフレーション成膜し、フィルムを得た。結果を表1に示す。
【0037】
比較例1
エチレン−酢酸ビニル共重合体EVA−1の添加量を0重量部とした以外は、実施例1と同様にしてインフレーション成膜し、フィルムを得た。結果を表1に示す。フィルム厚みの偏肉が大きく、フィルム厚み均一性が悪い。
【0038】
比較例2
エチレン−酢酸ビニル共重合体EVA−1の添加量を30重量部とした以外は、実施例1と同様にしてインフレーション成膜し、フィルムを得た。結果を表1に示す。フィルムのダートインパクト強度が大きく低下した。
【0039】
比較例3
エチレン−酢酸ビニル共重合体EVA−1の代わりにEVA−2を0.51重量部添加した以外は、実施例1と同様にしてインフレーション成膜し、フィルムを得た。結果を表1に示す。フィルム厚みの偏肉が大きく、フィルム厚み均一性が悪い。
【0040】
比較例4
エチレン−酢酸ビニル共重合体EVA−1の代わりにメルトマスフローレート1.4g/10分、密度919kg/mの低密度ポリエチレン(以下、PO−2と記す。)を10重量部添加した以外は、実施例1と同様にしてインフレーション成膜し、フィルムを得た。結果を表1に示す。フィルム厚みの偏肉が大きく、フィルム厚み均一性が悪い。
【0041】
【表1】