【文献】
QU Jian-Bo, et al.,An Effective Way To Hydrophilize Gigaporous Polystyrene Microspheres as Rapid Chromatographic Separa,Langmuir,2008年,24,p.13646-13652,ISSN 0743-7463
【文献】
QU Jian-Bo, et al.,A novel stationary phase derivatized from hydrophilic gigaporous polystyrene-based microspheres for,Journal of Chromatography A,2009年,1216,p.6511-6516,ISSN 0021-9673
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水銀圧入法により測定される当該分離材の細孔容積分布における細孔容積の最大値が、細孔径0.05〜0.7μmの範囲にある、請求項1〜4のいずれか一項に記載の分離材。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態を説明するが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。
【0022】
本発明に係る分離材は、多孔質ポリマ粒子と、被覆層と、リンカー基と、を備える。多孔質ポリマ粒子は架橋高分子を含む。被覆層は、水酸基を有する高分子と、これを架橋している架橋剤とを含み、多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部を被覆する。リンカー基は、架橋高分子と結合しているチオ基を有し、架橋高分子及び架橋剤と結合している。本明細書中、「多孔質ポリマ粒子の表面」とは、多孔質ポリマ粒子の外側の表面のみでなく、多孔質ポリマ粒子の内部における細孔の表面も含むものとする。
【0023】
多孔質ポリマ粒子中の架橋高分子は、2以上の二重結合を有する架橋性モノマを含むモノマの重合体であることができる。架橋高分子は二重結合を有することができる。
【0024】
多孔質ポリマ粒子は、例えば、水性媒体中に分散させたモノマ及び多孔質化剤を含む液滴を重合させることによって得られるものである。重合方法としては、例えば、従来の懸濁重合及び乳化重合が挙げられる。2以上の二重結合を有する架橋性モノマとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル系及びスチレン系等のビニルモノマが挙げられる。2以上の二重結合を有する架橋性モノマの具体例としては、以下のような多官能性モノマ及び単官能性モノマが挙げられる。
【0025】
多官能性モノマとしては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル及びジビニルナフタレン等のジビニル化合物;(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート及び(ポリ)テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコール系ジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレート及び1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリアクリレート等の3官能以上の(メタ)アクリレート;エトキシ化ビスフェノールA系ジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールA系ジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレート及びエトキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート;ジアリルフタレート及びその異性体;トリアリルイソシアヌレート及びその誘導体が挙げられる。これらモノマの中でも、株式会社新中村化学工業製のNKエステル(A−TMPT−6P0、A−TMPT−3E0、A−TMM−3LMN、A−GLYシリーズ、A−9300、AD−TMP、AD−TMP−4CL、ATM−4E、A−DPH)等が、商業的に入手可能である。これらの多官能性モノマは、1種又は2種以上組み合わせることができる。これらの中でも、耐久性、膨潤性の観点から、ジビニルベンゼンが好ましい。すなわち、架橋高分子は、ジビニルベンゼンに由来するモノマ単位を含有することが好ましい。モノマ全量に占めるジビニルベンゼンの割合は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味し、類似の化合物においても同様である。
【0026】
単官能性モノマとしては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、o−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、及び3,4−ジクロロスチレン等のスチレン並びにその誘導体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−クロロエチル、アクリル酸フェニル、α−クロロアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ラウリル及びメタクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸エステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル及び酪酸ビニル等のビニルエステル;N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール及びN−ビニルピロリドン等のN−ビニル化合物;フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、アクリル酸トリフルオロエチル及びアクリル酸テトラフルオロプロピル等の含フッ素化モノマ;ブタジエン及びイソプレン等の共役ジエンが挙げられる。これらの単官能性モノマは、1種又は2種以上組み合わせることができる。これらの中でも、耐酸性及び耐アルカリ性に優れるという観点から、スチレンが好ましい。
【0027】
水性媒体としては、例えば、水及び水と水溶性溶媒(例えば、低級アルコール)との混合溶媒が挙げられる。水性媒体は、界面活性剤を含むことができる。界面活性剤としては、例えば、アニオン系、カチオン系、ノニオン系及び両性イオン系の界面活性剤が挙げられる。
【0028】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム及びヒマシ油カリ等の脂肪酸油、ラウリル硫酸ナトリウム及びラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩、アルケルニルコハク酸塩(ジカリウム塩)、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩及びポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩が挙げられる。
【0029】
カチオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミンアセテート及びステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩並びにラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩が挙げられる。
【0030】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルアリールエーテル、ポリエチレングリコールエステル、ポリエチレングリコールソルビタンエステル、ポリアルキレングリコールアルキルアミン及びアミド等の炭化水素系ノニオン界面活性剤、シリコンのポリエチレンオキサイド付加物及びポリプロピレンオキサイド付加物等のポリエーテル変性シリコン系ノニオン界面活性剤並びにパーフルオロアルキルグリコール等のフッ素系ノニオン界面活性剤が挙げられる。
【0031】
両性イオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミンオキサイド等の炭化水素界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤及び亜リン酸エステル系界面活性剤が挙げられる。
【0032】
界面活性剤は、1種又は2種以上を組み合わせることができる。これら界面活性剤の中でも、モノマ重合時の分散安定性の観点から、アニオン系界面活性剤が好ましい。
【0033】
多孔質化剤としては、例えば、重合時に相分離を促し、粒子の多孔質化を促進する有機溶媒である、脂肪族又は芳香族の炭化水素、エステル、ケトン、エーテル及びアルコールが挙げられる。具体的には、例えば、トルエン、ジエチルベンゼン、キシレン、シクロヘキサン、オクタン、酢酸ブチル、フタル酸ジブチル、メチルエチルケトン、ジブチルエーテル、1−ヘキサノール、イソアミルアルコール、2−オクタノール、デカノール、ドデカノール、ラウリルアルコール及びシクロヘキサノールが挙げられる。これらの多孔質化材は、1種又は2種以上組み合わせることができる。
【0034】
多孔質化剤は、モノマ全質量に対して0〜200質量%であることができる。多孔質化剤の量によって、多孔質ポリマ粒子及び分離材の粒子の空孔率をコントロールできる。多孔質化剤の種類によって、多孔質ポリマ粒子及び分離材の細孔径及び形状をコントロールすることができる。
【0035】
多孔質化剤として、水性媒体である水を使用することができる。水を多孔質化剤とする場合は、水に油溶性界面活性剤(乳化剤)を添加することができる。
【0036】
油溶性界面活性剤としては、例えば、炭素数16〜24の分岐脂肪酸、炭素数16〜22の鎖状不飽和脂肪酸又は炭素数12〜14の鎖状飽和脂肪酸のソルビタンモノエステル(例えば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノミリステート又はヤシ脂肪酸から誘導されるソルビタンモノエステル);炭素数16〜24の分岐脂肪酸、炭素数16〜22の鎖状不飽和脂肪酸又は炭素数12〜14の鎖状飽和脂肪酸のジグリセロールモノエステル(例えば、炭素数18で二重結合数1である脂肪酸のジグリセロールモノエステル等のジグリセロールモノオレエート);ジグリセロールモノミリステート、ジグリセロールモノイソステアレート又はヤシ脂肪酸のジグリセロールモノエステル;炭素数16〜24の分岐アルコール、炭素数16〜22の鎖状不飽和アルコール又は炭素数12〜14の鎖状飽和アルコール(例えば、ヤシ脂肪アルコール)のジグリセロールモノ脂肪族エーテル;並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0037】
これらのうち、ソルビタンモノラウレート(例えば、SPAN(登録商標)20、好ましくは純度40%以上、より好ましくは純度50%以上、さらに好ましくは純度70%以上のソルビタンモノラウレート);ソルビタンモノオレエート(例えば、SPAN(登録商標)80、好ましくは純度40%以上、より好ましくは純度50%以上、さらに好ましくは純度70%以上のソルビタンモノオレエート);ジグリセロールモノオレエート(例えば、好ましくは純度40%以上、より好ましくは純度50%以上、さらに好ましくは純度70%以上のジグリセロールモノオレエート);ジグリセロールモノイソステアレート(例えば、好ましくは純度40%以上、より好ましくは純度50%以上、さらに好ましくは純度70%以上のジグリセロールモノイソステアレート);ジグリセロールモノミリステート(例えば、好ましくは純度40%以上、より好ましくは純度50%以上、さらに好ましくは純度70%以上のソルビタンモノミリステート);ジグリセロールのココイル(例えば、ラウリル及びミリストイル)エーテル;又はこれらの混合物が好ましい。
【0038】
これらの油溶性界面活性剤は、粒子を多孔質化する観点から、モノマ全質量に対して、5〜80質量%の範囲で用いることが好ましい。油溶性界面活性剤の含有量が5質量%以上であると、粒子の多孔質化が良好であるため好ましい。油溶性界面活性剤の含有量が80質量%以下であると、重合後に多孔質ポリマ粒子が形状をより保持し易くなる。
【0039】
モノマ及び多孔質化剤を含む液滴は、さらに溶解性粒子を含むことができる。溶解性粒子としては、例えば、酸、アルカリ、溶剤等によって溶解させることが可能な粒子が挙げられる。具体的な溶解性粒子としては、例えば、炭酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、シリカ、ポリマ及び金属コロイドが挙げられる。中でも、溶解性粒子の除去のし易さの観点より、炭酸カルシウム及び第三リン酸カルシウムが好ましい。溶解性粒子の平均粒径は0.6〜5μmであることが好ましく、溶解性粒子の通液性を向上させる観点より、溶解性粒子の平均粒径は1〜5μmであることがより好ましい。
【0040】
必要に応じて、水性媒体に、重合開始剤をさらに添加することができる。重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート及びジ−tert−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;並びに2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物が挙げられる。重合開始剤の量は、モノマ100質量部に対して、0.1〜7.0質量部であることができる。
【0041】
重合温度は、モノマ及び重合開始剤の種類に応じて、適宜選択することができる。重合温度は、25〜110℃が好ましく、50〜100℃がより好ましい。
【0042】
粒子の分散安定性を向上させるために、水性媒体中に、さらに高分子分散安定剤を添加することができる。高分子分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸、セルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びメチルセルロース)及びポリビニルピロリドンが挙げられる。これらのうち、高分子分散安定剤としては、ポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンが好ましい。トリポリリン酸ナトリウム等の無機系水溶性高分子化合物を併用することもできる。高分子分散安定剤の添加量は、モノマ100質量部に対して1〜10質量部が好ましい。
【0043】
モノマが単独で乳化重合することを抑えるために、例えば、亜硝酸塩、亜硫酸塩、ハイドロキノン、アスコルビン酸、水溶性ビタミンB、クエン酸及びポリフェノール等の水溶性の重合禁止剤を用いることができる。
【0044】
多孔質ポリマ粒子及び分離材の平均粒径は、タンパク質の吸着量と分離性能の観点から、300μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。多孔質ポリマ粒子及び分離材の平均粒径は、多孔質ポリマ粒子及び分離材が充填されたカラムのカラム圧の上昇を抑える観点から、10μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましい。
【0045】
多孔質ポリマ粒子及び分離材の平均粒径は、以下の測定法により求めることができる。
1)粒子を、超音波分散装置によって水(界面活性剤等の分散剤を含む)に分散させ、1質量%の多孔質ポリマ粒子を含む分散液を調製する。
2)粒度分布計(シスメックスフロー、株式会社シスメックス製)を用いて、上記分散液中の粒子約1万個の画像により平均粒径を測定する。
【0046】
多孔質ポリマ粒子及び分離材の粒子の細孔容積は、それぞれ多孔質ポリマ粒子及び分離材の全体積基準で30〜70体積%であることが好ましく、50〜70体積%であることがより好ましい。
【0047】
多孔質ポリマ粒子及び分離材は、マクロポアー(マクロ孔)を有することが好ましい。多孔質ポリマ粒子及び分離材の細孔径分布におけるモード径(細孔径分布の最頻値、最大頻度細孔径)は、0.01〜0.6μmであることが好ましく、0.1〜0.6μmであることがより好ましい。モード径が0.01μm以上であると、細孔内に物質が入り易くなる傾向にあり、モード径が0.6μm以下であると、粒子の比表面積が充分なものになる。多孔質ポリマ粒子及び分離材の細孔容積及び細孔径分布におけるモード径は、多孔質化剤により調整できる。
【0048】
多孔質ポリマ粒子及び分離材の細孔容積分布において、細孔容積の最大値は細孔径0.05〜0.7μmの範囲内であることが好ましく、0.05〜0.6μmの範囲内であることがより好ましい。細孔容積の最大値が上記範囲内にあると、粒子の比表面積が大きくなり、タンパク質吸着量が多くなる傾向がある。
【0049】
多孔質ポリマ粒子及び分離材の粒子の比表面積は、分離する物質の吸着量を向上させる観点から、20m
2/g以上であることが好ましく、実用性を向上させる観点から、35m
2/g以上であることがより好ましく、40m
2/g以上であることがさらに好ましい。
【0050】
多孔質ポリマ粒子及び分離材の粒子の、細孔径分布におけるモード径、細孔容積分布、比表面積は、水銀圧入測定装置(オートポア:株式会社島津製作所製)を用いて以下のように測定することができる。試料0.05gを、標準5mL粉体用セル(ステム容積0.4mL)に加え、初期圧を21kPa(約3psia、細孔直径約60μm相当)とする。水銀パラメータは、水銀接触角130度及び水銀表面張力485dynes/cmとする。平均細孔径0.05〜5μmの範囲に限定して、多孔質ポリマ粒子及び分離材の粒子の、細孔径分布におけるモード径、細孔容積分布及び比表面積を算出する。
【0051】
本実施形態の被覆層は、水酸基を有する高分子と、これを架橋している架橋剤とを含み、多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部を被覆する。
【0052】
水酸基を有する高分子は、親水性高分子であることが好ましい。水酸基を有する高分子としては、例えば、多糖類、ポリビニルアルコール及びこれらの変性体が挙げられる。多糖類としては、例えば、アガロース、デキストラン、セルロース及びキトサンが挙げられる。ここで、変性体とは、分子中に疎水性基が導入されたものを指す。
【0053】
水酸基を有する高分子は、タンパク質の非特異吸着を低減する観点から、多糖類であることが好ましく、分離材の界面吸着能を向上させる観点から、多糖類の変性体であることが好ましい。なかでも、アガロース又はその変性体であることがより好ましい。水酸基を有する高分子の重量平均分子量は、1万〜20万であることができる。
【0054】
水酸基を有する高分子は、架橋剤によって架橋されている。架橋剤は、2以上の架橋性基(例えば、エポキシ基)を有する化合物であることができる。本明細書では、便宜上、水酸基を有する高分子及びリンカー化合物の少なくともいずれか一方と反応した後の架橋剤も、架橋剤と呼ぶこととする。
【0055】
架橋剤としては、例えば、エピクロルヒドリン等のエピハロヒドリン、グルタルアルデヒド等のジアルデヒド化合物、メチレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物及びエチレングリコールジグリシジルエーテル等のジグリシジル化合物のように、水酸基に対して反応性を示す官能基を2以上有する化合物が挙げられる。水酸基を有する高分子として、キトサンのようにアミノ基を有する化合物を使用する場合には、例えば、ジクロロオクタン等のジハライド化合物を架橋剤とすることができる。
【0056】
被覆層の量は、多孔質ポリマ粒子1gに対して30〜400mgであることが好ましく、50〜400mgであることがより好ましく、100〜400mgであることがさらに好ましい。被覆層の量が上記上限値以下であると、被覆層を薄膜とすることができ、カラムとして用いたときの通液性がより向上する傾向にある。被覆層の量が上記下限値以上であると、タンパク質等の吸着量及び動的吸着量がより高まる傾向にある。被覆層の量は、例えば、分離材の熱分解の重量減少で測定できる。すなわち、まず、所定量の多孔質ポリマ粒子を、熱重量分析法で30℃から600℃まで昇温(10℃/min)し、多孔質ポリマ粒子の5%熱重量減少温度Tを測定する。次に、所定量の分離材を、30℃から昇温速度10℃/minで昇温し、温度Tにおける分離材の単位質量当たりの熱重量減少量を測定する。また、別途、温度Tにおける所定量の被覆層の熱重量減少量を測定し、温度Tにおける被覆層の単位質量当たりの熱重量減少量を算出する。ここで、温度Tにおける多孔質ポリマ粒子の重量減少の割合を5%として、これらの値から分離材の被覆量を計算することができる。
【0057】
架橋された水酸基を有する高分子を含む被覆層で多孔質ポリマ粒子を被覆することにより、分離材が充填されたカラムに液体を通したときのカラム内部の圧力(カラム圧)の上昇を抑制することができる。また、分離材へのタンパク質の非特異吸着を抑制するとともに、優れたタンパク質吸着性が得られる傾向にある。
【0058】
本実施形態のリンカー基は、架橋高分子と結合しているチオ基(−S−)を有し、架橋高分子及び架橋剤と結合している。リンカー基によって架橋高分子と架橋剤とが結合されることによって、多孔質ポリマ粒子上に被覆層が良好に保持されるため、分離材の耐久性が向上する。リンカー基は、リンカー化合物を架橋高分子及び架橋剤と反応させることにより形成されることができる。便宜上、架橋高分子と反応した後に、架橋剤とは反応してないリンカー化合物も、リンカー基と呼ぶこととする。
【0059】
リンカー化合物は、チオール基、及び、架橋剤の架橋性基と反応する反応性官能基を有する化合物であることができる。架橋剤の架橋性と反応する反応性官能基としては、例えば、カルボキシ基、アミノ基、水酸基及びチオール基が挙げられる。リンカー化合物は、チオール基以外の反応性官能基を有していなくてもよい。
【0060】
反応性官能基としてカルボキシ基を有するリンカー化合物としては、例えば、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、2−メルカプト−5−ベンゾイミダゾールカルボン酸、メルカプト安息香酸、3−メルカプトへキシルアセテート、4−メルカプトヒドロけい皮酸、3−メルカプトイソ酪酸、2−メルカプトニコチン酸及びチオリンゴ酸が挙げられる。
【0061】
反応性官能基としてアミノ基を有するリンカー化合物としては、例えば、アミノベンゼンチオール、アミノエタンチオール、5−アミノ−2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−アミノ−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール、3−アミノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、2,5−ジアミノ−1,4−ベンゼンジチオール二塩酸塩、4,6−ジアミノピリミジン−2−チオール、7−アミノ−1−ヘプタンチオール、2−プロピルアミノエタンチオール、2−[[3−(エチルアミノ)プロピル]アミノ]エタンチオール及び8−アミノ−3−アザオクタン−1−チオールが挙げられる。
【0062】
反応性官能基として水酸基を有するリンカー化合物としては、例えば、ジチオエリトリトール、ヒドロキシベンゼンチオール、1−(4−ヒドロキシフェニル)−5−メルカプト−1H−テトラゾール及びα−チオグリセロールが挙げられる。
【0063】
反応性官能基としてチオール基を有するリンカー化合物としては、例えば、トルエン−3,4−ジチオール、ベンゼンジチオール、4,4−ビフェニルジチオール、1,2−ブタンジチオール、1,10−デカンジチオール、1,5−ジメルカプトナフタレン、3,6−ジオキサ−1,8−オクタンジチオール、3,7−ジチア−1,9−ノナンジチオール、ジチオエリトリトール、1,2−エタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,8−オクタンジチオール、1,5−ペンタンジチオール、1,3−プロパンジチオール、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル及びカレンズMT(登録商標)BD1(株式会社昭和電工製)等の多官能チオールが挙げられる。
【0064】
リンカー化合物の分子量は、粒子又は架橋剤との反応性の観点から500〜100が好ましく、400〜100がより好ましく、300〜100がさらに好ましい。
【0065】
本実施形態に係る分離材は、架橋高分子にリンカー基を導入する工程と、リンカー基を導入した架橋高分子を含む多孔質ポリマ粒子の少なくとも一部の表面上に、水酸基を有する高分子を吸着させる工程と、水酸基を有する高分子の少なくとも一部を架橋剤で架橋して被覆層を形成するとともに、架橋剤とリンカー基とを結合させる工程と、を有する方法により製造されることができる。
【0066】
架橋高分子にリンカー基を導入する工程は、リンカー化合物中のチオール基と、架橋高分子中の二重結合とのチオールエン反応によって、架橋分子とリンカー化合物とをチオ基を介して結合させる工程を含むことが好ましい。チオールエン反応は、公知の方法で行うことができるが、例えば、リンカー化合物とラジカル重合開始剤とを含む溶液に多孔質ポリマ粒子を分散させた後、該溶液を加熱することによって行うことができる。
【0067】
リンカー基を導入した架橋高分子を含む多孔質ポリマ粒子の少なくとも一部の表面上に、水酸基を有する高分子を吸着させる工程は、例えば、以下のような操作を含むことができる。まず、水酸基を有する高分子を含む溶液を、リンカー基を導入した架橋高分子を含む多孔質ポリマ粒子に含浸させる。その後、この粒子をろ過し、例えば、水及びアルコール等の溶媒で洗浄し、未吸着の高分子を除去する。
【0068】
水酸基を有する高分子の溶液の溶媒は、水酸基を有する高分子を溶解することのできるものであれば特に限定されず、例えば、水であることができる。溶液中の水酸基を有する高分子の濃度は、5〜20mg/mLが好ましい。含浸方法としては、特に限定されないが、水酸基を有する高分子の溶液に多孔質ポリマ粒子を加えて一定時間放置する方法が挙げられる。含浸時間は多孔質体の表面状態にもよるが、通常、一昼夜含浸すれば、高分子濃度が多孔質体の内部と外部とで平衡状態となる。
【0069】
上記水酸基を有する高分子の少なくとも一部を架橋剤で架橋して被覆層を形成するとともに、架橋剤とリンカー基とを結合させる工程は、例えば、以下のような操作を含むことができる。すなわち、水酸基を有する高分子の溶液を含浸させた多孔質ポリマ粒子を、適当な媒体中に分散及び懸濁させ、これに架橋剤を添加する。架橋剤は、多孔質ポリマ粒子表面に溶液状で保持されている、水酸基を有する高分子を架橋し、多孔質ポリマ粒子上に、架橋された水酸基を有する高分子と架橋剤とを有する被覆層が形成される。被覆層は、水酸基を有する3次元架橋網目構造を有する。
【0070】
架橋剤を添加すると、上記のような水酸基を有する高分子の架橋反応とともに、多孔質ポリマ粒子上に導入されたリンカー基と架橋剤との反応も進行し、リンカー基によって多孔質ポリマ粒子中の架橋高分子と架橋剤とが結合される(固定化)。これによって、多孔質ポリマ粒子上に被覆層が良好に保持されるため、分離材の耐久性が向上する。また、被覆層の形成と多孔質ポリマ上への被覆層の固定化を同時に行えることは、生産性向上の面でも好ましい。
【0071】
架橋反応終了後、生成した被覆層を有する多孔質ポリマ粒子をろ別し、次いで、メタノール及びエタノール等の親水性有機溶媒、水又は水溶液で洗浄し、未反応の高分子及び懸濁用媒体等を除去することで、多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部が被覆層により被覆されており、多孔質ポリマ粒子と被覆層とがチオ基を介して結合された分離材が得られる。
【0072】
水酸基を有する高分子の溶液を含浸させた多孔質ポリマ粒子を分散及び懸濁させる媒体は、多孔質ポリマ粒子に含浸させた水酸基を有する高分子及び架橋剤等を抽出してしまうことなく、且つ、架橋反応に不活性なものであることができる。媒体としては、例えば、水、水溶液、及びアルコールが挙げられる。
【0073】
架橋剤の添加量は、水酸基を有する高分子として多糖類を使用した場合、1当量の単糖類に対して0.1〜100当量の範囲内で、分離材の性能に応じて選定することができる。架橋剤の添加量が上記下限値以下であると、被覆層が多孔質ポリマ粒子上に良好に保持される傾向にある。架橋剤の添加量が上記上限値以下であれば、架橋剤と水酸基を有する高分子との反応率が高い場合でも、水酸基を有する高分子の特性が損なわれにくい。
【0074】
架橋反応には触媒を用いることができる。触媒としては、架橋剤の種類に合わせて適宜従来公知のものを用いることができる。例えば、架橋剤がエピクロルヒドリンの場合には、触媒として水酸化ナトリウム等のアルカリが有効であり、ジアルデヒド化合物の場合には塩酸等の鉱酸が有効である。
【0075】
触媒の使用量は、架橋剤の種類にもよるが、例えば、水酸基を有する高分子として多糖類を使用する場合は、1当量の多糖類に対して0.01〜10当量であることが好ましく、0.1〜5当量であることがより好ましい。
【0076】
架橋剤と水酸基を有する高分子との架橋反応が触媒等の添加により制御可能な場合、予め架橋剤を混合した水酸基を有する高分子の溶液を多孔質ポリマ粒子に含浸させ、この多孔質ポリマ粒子を適当な媒体中で分散及び懸濁させ、ここに触媒等を添加することで、架橋剤と水酸基を有する高分子とを架橋反応させることができる。触媒等を用いない場合、温度等の架橋反応条件を変化させることにより、架橋反応を生起させることができる。例えば、水酸基を有する高分子及び架橋剤が溶解された溶液を含浸させた多孔質ポリマ粒子を、適当な媒体に分散及び懸濁させてから、架橋反応条件(例えば温度)を反応が進行する条件に調整することで、架橋剤と水酸基を有する高分子との架橋反応を行うことができる。架橋反応条件を温度条件とした場合、反応系の温度を上げ、その温度が反応温度に達すれば架橋反応が生起する。
【0077】
架橋反応は、5〜90℃で1〜10時間かけて行うことができる。架橋反応の温度は、30〜90℃が好ましい。
【0078】
本実施形態に係る分離材は、多孔質ポリマ粒子、リンカー基及び被覆層の他に、イオン交換基又はリガンド(例えば、プロテインA)を有していてもよい。イオン交換基又はリガンドは、例えば、分離材表面上の水酸基等を介して導入することができる。分離材がイオン交換基又はリガンドを有することにより、該分離材をイオン交換精製及びアフィニティ精製等に使用することができる。イオン交換基の導入方法として、例えば、ハロゲン化アルキル基含有化合物を用いる方法が挙げられる。
【0079】
イオン交換機としては、例えば、弱塩基性基であるアミノ基、強塩基性基の4級アンモニウム基、弱酸性基であるカルボキシ基及び強酸性基であるスルホン酸基が挙げられる。
【0080】
ハロゲン化アルキル基含有化合物を用いる方法としては、例えば、湿潤状態の分離材の粒子をろ過等により水切りした後、所定濃度のアルカリ性水溶液に一定時間浸漬し、水−有機溶媒混合系で、ハロゲン化アルキル基含有化合物を添加して反応させることが挙げられる。この反応は、40〜90℃で加熱還流下、0.5〜12時間行うことが好ましい。ハロゲン化アルキル基含有化合物の種類により、付与されるイオン交換基が決定される。
【0081】
ハロゲン化アルキル基含有化合物としては、モノハロゲン酢酸、モノハロゲンプロピオン酸等のモノハロゲンカルボン酸及びこれらのナトリウム塩、ジエチルアミノエチルクロライド等のハロゲン化アルキル基を少なくとも1つ有する1級、2級又は3級アミン並びにハロゲン化アルキル基を有する4級アンモニウムの塩酸塩が挙げられる。これらのハロゲン化アルキル基含有化合物は、臭化物又は塩化物であることが好ましい。ハロゲン化アルキル基含有化合物の添加量は、イオン交換基を付与する分離材の全質量に対して0.2質量%以上であることが好ましい。
【0082】
イオン交換基として、弱塩基性基であるアミノ基を導入する場合、ハロゲン化アルキル基含有化合物としては、例えば、アルキル基のうちの少なくとも1つがハロゲン化アルキル基で置換されている、モノ−、ジ−又はトリ−アルキルアミン、モノ−、ジ−又はトリ−アルカノールアミン、モノ−アルキル−モノ−アルカノールアミン、ジ−アルキル−モノ−アルカノールアミン及びモノ−アルキル−ジ−アルカノールアミンが使用できる。
【0083】
イオン交換基として、強塩基性基の4級アンモニウム基を導入する方法としては、例えば、まず、3級アミノ基を導入し、この3級アミノ基にエピクロルヒドリン等のハロゲン化アルキル基含有化合物を反応させ、4級アンモニウム基に変換する方法及び4級アンモニウムの塩酸塩等を分離材に反応させる方法が挙げられる。
【0084】
イオン交換基として、弱酸性基であるカルボキシ基を導入する場合、ハロゲン化アルキル基含有化合物としては、例えば、モノハロゲン酢酸、モノハロゲンプロピオン酸等のモノハロゲンカルボン酸及びこれらのナトリウム塩が使用できる。
【0085】
イオン交換基として、強酸性基であるスルホン酸基を導入する方法としては、例えば、分離材に対してエピクロロヒドリン等のグリシジル化合物を反応させ、亜硫酸ナトリウム若しくは重亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩又は重亜硫酸塩の飽和水溶液に分離材を添加する方法が挙げられる。反応条件は、30〜90℃で1〜10時間であることが好ましい。
【0086】
イオン交換基の導入方法としては、例えば、アルカリ性雰囲気下で、分離材に1,3−プロパンスルトンを反応させる方法も挙げられる。1,3−プロパンスルトンの量は、分離材の全質量に対して0.4質量%以上であることが好ましい。反応条件は、0〜90℃で0.5〜12時間であることが好ましい。
【0087】
イオン交換機のその他の導入法としては、例えば、分離材にスルホプロピルを反応させる方法、及び、分離材にエピハロヒドリンジグリシジル化合物を付加させた後、付加させた化合物中のエポキシ基にイオン交換基を導入する方法も挙げられる。
【0088】
イオン交換基の導入には、反応を促進させるために、有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、1−ペンタノール及びイソペンタノール等のアルコールが挙げられる。
【0089】
本実施形態の分離材は、タンパク質の静電的相互作用による分離又はアフィニティ精製に好適である。例えば、タンパク質を含む溶液の中に本実施形態の分離材を添加し、静電的相互作用によりタンパク質を分離材に吸着させた後、分離材を溶液からろ別し、塩濃度の高い水溶液中に添加すれば、分離材に吸着しているタンパク質を容易に脱離、回収できる。本実施形態の分離材は、カラムクロマトグラフィーにおいて使用することができる。すなわち、本実施形態のカラムは、本実施形態の分離材を備えるものである。
【0090】
本実施形態の分離材をカラムに充填した場合、カラム圧が0.3MPaのときの通液速度は800cm/h以上であることが好ましい。本明細書における通液速度は、本実施形態の分離材が充填された、サイズがφ7.8×300mmのステンレスカラムに、該カラム内の圧力が所定の値となるように水を通液させたときの水の流速を表す。従来一般に使用されている分離材を用いてカラムクロマトグラフィーでタンパク質等の分離を行う場合、タンパク質溶液等の通液速度は、一般的に、400cm/h以下の範囲である。一方、本実施形態の分離材を使用した場合、通液速度が従来のタンパク質分離用の分離材よりも速い800cm/h以上であっても、高い動的吸着量を維持することができる。
【0091】
本実施形態の分離材を用いて分離する生体高分子は、水溶性の物質が好ましい。具体的には、例えば、血清アルブミン及び免疫グロブリン等の血液タンパク質、生体中に存在する酵素、バイオテクノロジーにより生産されるタンパク質生理活性物質、DNA並びに生理活性を有するペプチド等の生体高分子が挙げられる。生体高分子の分子量は、200万以下が好ましく、50万以下がより好ましい。分離材の性質及び条件等は、タンパク質の等電点及びイオン化状態等によって、公知の方法に従い選ぶことができる。公知の方法としては、例えば、特開昭60−169427号公報に記載の方法が挙げられる。
【0092】
本実施形態の分離材は、タンパク質等の生体高分子の分離において、天然高分子からなる粒子及び合成ポリマからなる粒子のそれぞれの利点を有し、分離材表面にイオン交換基及びリガンド等を導入することにより、より顕著な効果を得ることができる。本実施形態の分離材は、耐久性及び耐アルカリ性を有し、タンパク質の非特異吸着を低減するとともにタンパク質の吸脱着が起こり易く、また、動的吸着量が大きい、という利点を併せ持つ。さらに、本実施形態の分離材は、分離材をカラムに充填して使用した場合に、溶出液の性質に依らず分離材のカラム内での体積変化が殆どなく、操作性の観点で優れた効果を発揮する。
【0093】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、様々な変形態様が可能である。例えば、イオン交換基を有さない分離材を、ゲルろ過クロマトグラフィーに利用することができる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例に基づき発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
1−1.多孔質ポリマ粒子の合成
500mLの三口フラスコ中、モノマとして純度96%のジビニルベンゼン(株式会社新日鉄住金製、商品名:DVB960)16g、多孔質化剤としてドデカノール16g及びトルエン16g、重合開始剤として過酸化ベンゾイル0.64gを、分散剤を含有するポリビニルアルコール(0.5質量%)水溶液に加えて混合液を調製した。この混合液を、マイクロプロセスサーバーを使用して乳化後、乳化液をフラスコに移し、80℃のウォーターバスで加熱しながら、攪拌機を用いて約8時間撹拌した。モノマの重合により生成した粒子をろ過後、アセトンで洗浄し、多孔質ポリマ粒子1を得た。多孔質ポリマ粒子1の粒径をフロー型粒径測定装置(FPIA−3000、株式会社シスメックス製)で測定し、平均粒径(μm)及び粒径の変動係数C.V.(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0095】
1−2.多孔質ポリマ粒子表面へのリンカー基の導入
10gの多孔質ポリマ粒子1、0.1mmolの4−アミノベンゼンチオール及び1mmolのアゾビスイソブチロニトリルを100mLのN,N−ジメチルホルムアミドに加えた。得られた分散液を温度70℃で12時間攪拌することで多孔質ポリマ粒子の表面に4−アミノベンゼンチオールに由来するリンカー基を導入した。リンカー基が導入された多孔質ポリマ粒子を分散液から取り出し、アセトンで洗浄した。
【0096】
1−3.水酸基を有する高分子への疎水性基の導入
アガロース水溶液(濃度2質量%)100mLに水酸化ナトリウム4g、グリシジルフェニルエーテル0.14gを加えて70℃で12時間反応させ、アガロースにフェニル基を導入した。得られた変性アガロースをイソプロピルアルコールで再沈殿させ、洗浄した。
【0097】
2−1.多孔質ポリマ粒子表面への水酸基を有する高分子の吸着
20mg/mLの変性アガロース水溶液70mLにリンカー基が導入された多孔質ポリマ粒子1を1gの割合で加え、55℃で24時間攪拌して、多孔質ポリマ粒子1に変性アガロースを吸着させた。吸着後、多孔質ポリマ粒子1をろ別して、熱水で洗浄した。
【0098】
2−2.被覆層の形成
多孔質ポリマ粒子1の表面に吸着した変性アガロースを次のようにして架橋した。エチレングリコールジグリシジルエーテル濃度が0.64M及び水酸化ナトリウム濃度が0.4Mの水溶液35mLに、変性アガロースが吸着した粒子を1gの割合で加え、24時間室温で攪拌した。これにより、変性アガロースをエチレングリコールジグリシジルエーテルで架橋するとともに、エチレングリコールジグリシジルエーテルとリンカー基とを結合させた。その後、粒子を2質量%の熱ドデシル硫酸ナトリウム水溶液で洗浄後、純水で洗浄して、分離材を得た。
【0099】
2−3.タンパク質の非特異吸着能の評価
分離材0.5gをBSA(Bovine Serum Albumin)濃度20mg/mLのリン酸緩衝液(pH7.4)に50mLに加え、24時間室温で攪拌を行った。その後、遠心分離で上澄み液をとり、分光光度計で上澄み液の280nmの吸光度を測定することによって求めた上澄み液のBSA濃度より、分離材に吸着したBSA量を算出した。分離材1mLあたりのBSA吸着量が、1mg未満である場合を「○」、1〜10mgである場合を「△」、10mgを超える場合を「×」として、非特異吸着量を評価した。結果を表3に示す。
【0100】
3−1.イオン交換基の導入
架橋後の分離材(乾燥質量20g)を5Mの水酸化ナトリウム水溶液200mLに加え、室温で1時間放置した。この水酸化ナトリウム水溶液に、ジエチルアミノエチルクロライド塩酸塩60gを水200mLに溶解させて得た溶液を加え、70℃で2時間撹拌した。反応終了後、反応液をろ過し、分離材を水で洗浄し、ジエチルアミノエチル(DEAE)基をイオン交換基として有するDEAE変性分離材を得た。以降の評価には、DEAE変性分離材を用いた。得られたDEAE変性分離材を乾燥後、熱重量分析により被覆層の量を測定した。すなわち、まず、所定量の多孔質ポリマ粒子を、熱重量分析法で30℃から600℃まで昇温(10℃/min)し、多孔質ポリマ粒子の5%熱重量減少温度を測定した。次に、所定量の分離材を、30℃から昇温速度10℃/minで昇温し、上記温度における分離材1g当たりの熱重量減少量を測定した。また、別途、上記温度における所定量の被覆層の熱重量減少量を測定し、上記温度における被覆層1g当たりの熱重量減少量を算出した。ここで、上記温度における多孔質ポリマ粒子の重量減少の割合を5%として、これらの値から分離材の被覆量を計算した。
【0101】
3−2.モード細孔径及び比表面積の測定
DEAE変性分離材を乾燥後、水銀圧入法にて細孔径分布におけるモード径及び比表面積を測定した。結果を表2に示す。
【0102】
3−3−1.カラムへの充填
DEAE変性分離材を、水と混合して濃度30質量%のスラリーを得た。このスラリーを、φ7.8mm×300mmのステンレスカラムに、4MPaの圧力下で15分間かけて65mL充填し、以下の通液性及び動的吸着量の評価に用いた。
【0103】
3−3−2.通液性の評価
DEAE変性分離材を充填したカラムに通液速度を変えながら水を通し、通液速度とカラム圧の関係を測定した。カラム圧が0.3MPaであるときの通液速度(流速)を求めた。カラム圧が0.3MPaであるときの通液速度が、1500cm/h以上である場合を「○」、800cm/h以上、1500cm/h未満である場合を「△」、800cm/h未満である場合を「×」とした。結果を表3に示す。
【0104】
3−3−3.動的吸着量の評価
DEAE変性分離材を充填したカラムに、20mmol/LのTris−塩酸緩衝液(pH8.0)を10カラム容量流した。その後、BSA濃度2mg/mLの20mmol/LのTris−塩酸緩衝液を流しながら、UV吸光度測定によってカラム出口での溶出液中のBSA濃度を測定した。通液速度は、上記通液性評価にてカラム圧が0.3MPaとなるときの速度と同様とした。カラム入口と出口のBSA濃度が一致するまで緩衝液を流した後、5カラム容量分の1M NaCl Tris−塩酸緩衝液を流した。10%ブレイクスルーにおける動的吸着量を下記の式を用いて算出した。動的吸着量が50mg/粒子mL以上である場合を「○」、20〜50mg/粒子mLである場合を「△」、20mg/粒子mL以下である場合を「×」として動的吸着量を評価した。結果を表3に示す。10%ブレイクスルーとは、分離材の吸着飽和時のBSA吸着量100質量%に対して、10質量%のBSAが分離材に吸着している状態のことを指す。
・q
10=c
fF(t
10−t
0)/V
B
・q
10:10%ブレイクスルーにおける動的吸着量(mg/分離材mL)
・c
f:注入液のBSA濃度(mg/mL)
・F:流速(mL/min)
・V
B:ベッド体積(mL)
・t
10:10%ブレイクスルーにおける時間(min)
・t
0:BSA注入開始時間(min)
【0105】
3−4.耐久性評価
上記カラム特性の評価における方法と同様の方法でDEAE変性分離材をφ4.6×150mmのカラムに充填した。BSA濃度2mg/mLの20mmol/LのTris−塩酸緩衝液(pH8.0)を、BSAが飽和吸着するまで(カラム溶出液が、サンプル液濃度と同じ程度になるまで)流し、DEAE変性分離材を充填したカラムにBSAを吸着させ、BSAの吸着量を測定した。BSAの吸着量は、溶出液の吸光度を測定することにより測定した。0.5M NaCl/0.05M Tris緩衝液(pH8.0)を6カラム容量分流して、吸着させたBSAを脱離させ、さらに、0.5MのNaOH水溶液を3カラム容量分流して、カラムを洗浄した。このサイクルを100回行い、BSAの吸着量の減少率を算出した。BSA吸着量の減少率が15%以下である場合を「○」、15〜40%である場合を「△」、40%以上である場合を「×」とした。結果を表3に示す。
【0106】
(実施例2)
多孔質化剤としてドデカノール18g及びトルエン14gを使用した以外は多孔質ポリマ粒子1と同様にして、多孔質ポリマ粒子2を合成した。得られた多孔質ポリマ粒子2を実施例1と同様の方法で処理することによって分離材を得た。多孔質ポリマ粒子2及び分離材について実施例1と同様の評価を行った。
(実施例3)
多孔質化剤としてドデカノール22g及びトルエン10gを使用した以外は多孔質ポリマ粒子1と同様にして、多孔質ポリマ粒子3を合成した。得られた多孔質ポリマ粒子3を実施例1と同様の方法で処理することによって分離材を得た。多孔質ポリマ粒子3及び分離材について実施例1と同様の評価を行った。
(実施例4)
リンカー化合物としてビス(2−メルカプトエチル)エーテルを使用した以外は実施例1と同様にして、多孔質ポリマ粒子1及び分離材について実施例1と同様の評価を行った。
(実施例5)
リンカー化合物としてチオグリセロールを使用した以外は実施例1と同様にして、多孔質ポリマ粒子1及び分離材について実施例1と同様の評価を行った。
(実施例6)
リンカー化合物として4−ヒドロキシベンゼンチオールを使用した以外は実施例1と同様にして、多孔質ポリマ粒子1及び分離材について実施例1と同様の評価を行った。
(実施例7)
リンカー化合物としてデカンジチオールを使用した以外は実施例1と同様にして、多孔質ポリマ粒子1及び分離材について実施例1と同様の評価を行った。
(実施例8)
リンカー化合物としてトリメチロールエタントリス(3−メルカプトブチレート)を使用した以外は実施例1と同様にして、多孔質ポリマ粒子1及び分離材について実施例1と同様の評価を行った。
(比較例1)
多孔質ポリマ粒子1の表面に被覆層を形成せず、分離材として官能基及びチオエーテル結合が導入された多孔質ポリマ粒子1を用いたこと以外は実施例1と同様にして、各種評価を行った。
(比較例2)
多孔質ポリマ粒子1にリンカー基を導入しなかったこと以外は実施例1と同様にして、多孔質ポリマ粒子1及び分離材について実施例1と同様の評価を行った。
(比較例3)
リンカー化合物の代わりにベンゼンチオールを使用した以外は実施例1と同様にして、多孔質ポリマ粒子1及び分離材について実施例1と同様の評価を行った。
(比較例4)
多孔質ポリマ粒子1及び分離材の代わりにCaptoDEAE(株式会社GEヘルスケア製)を用いた以外は実施例1と同様にして、各種評価を行った。
(比較例5)
モノマとして2,3−ジヒドロキシプロピルメタクリレート(11.2g)、エチレングリコールジメタクリレート(4.8g)及び油溶性界面活性剤(乳化剤)としてSPAN80(5g)を使用した以外は多孔質ポリマ粒子1と同様にして、多孔質ポリマ粒子4を合成した。多孔質ポリマ粒子4にリンカー基の導入及び被覆層の形成を行わず、多孔質ポリマ粒子4自体を分離材として用いたこと以外は実施例1と同様にして、各種評価を行った。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
【表3】
【0110】
表3に示すように、実施例1〜6の分離材は良好なカラム流速、非特異吸着量、動的吸着量及び耐久性を兼ね備えていることが分かった。