【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、化学量論組成において酸化ニオブ(V)からなる焼結体の製造プロセスについて鋭意検討を行った結果、常圧焼結法の手法を用いて高強度な焼結体を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は
(1)焼結体密度が95%以上であり、焼結体粒径が5.5μm以下であり、X線回折でNbO
2相に帰属される酸化ニオブ(IV)が存在しないことを特徴とする酸化ニオブ焼結体。
(2)抗折強度が100MPa以上であることを特徴とする(1)に記載の酸化ニオブ焼結体。
(3)形状が円筒形であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の酸化ニオブ焼結体。
(4)形状が平板形であり、ターゲット間の面積が1000cm
2以上であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の酸化ニオブ焼結体。
に関するものである。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明は、酸化ニオブからなる焼結体であって、焼結体密度が95%以上であり、焼結体粒径が5.5μm以下であり、X線回折で酸化ニオブ(IV)が存在しないことを特徴とする酸化物焼結体である。
【0012】
本発明の焼結体密度は、相対密度で95%以上であることを特徴とする。焼結体密度が95%より低いと、強度が減少する。さらに、スパッタリングターゲットとして用いた場合にアーキング発生の頻度が高くなるため、好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上である。
【0013】
また、本発明の焼結体粒径は、5.5μm以下であることを特徴とする。5.5μmより大きくなると、結晶方位の熱膨張率の異方性から粒界に応力が加わりマイクロクラックが入るため、強度が急激に減少する。安定的に高い強度を得るためには、焼結体粒径は5μm以下が好ましく、4.5μm以下がより好ましい。
【0014】
さらに、本発明の結晶相は、XRDで酸化ニオブ(IV)相が存在しないことを特徴とする。酸化ニオブ(V)(密度4.542g/cm
3)と酸化ニオブ(IV)(密度5.916g/cm
3)は密度差が大きく、酸化ニオブ(IV)が生成されると体積変化で焼結体中に内部応力やマイクロクラックが内在し、特に大型の焼結体では割れ易く、歩留りよく焼結体を製造することができない。また、このような焼結体を用いて、スパッタリングで高パワーを投入した場合、放電中に割れが発生し易く、成膜工程の生産性を低下させる原因となるため、好ましくない。
【0015】
本発明の抗折強度は100MPa以上であることが好ましい。焼結体の強度が高ければ研削加工、ボンディング工程においても割れが発生しにくく、歩留りが高いために生産性が良い。特に形状が円筒形の場合、バッキングチューブの材質やハンダの厚みにもよるが、ボンディング工程で50〜80MPaの応力が加わるため、抗折強度が100MPa未満であると焼結体にクラックが入る可能性が高い。更に、スパッタリング中に高いパワーが投入した場合においても、割れの問題が発生しにくい。
【0016】
また、本発明の酸化物焼結体は、HP法を使用しないために、そのターゲット面の面積が500cm
2以上とすることが可能である。ここで言うターゲット面の面積とは、スパッタリングされる側の焼結体表面の面積を言う。なお、複数の焼結体から構成される多分割ターゲットの場合、それぞれの焼結体の中でスパッタリングされる側の焼結体表面の面積が最大のものを多分割ターゲットにおけるターゲット面の面積とする。焼結体の形状は特に制限はなく、平板形状、円筒形状のいずれであっても問題ない。平板形状の焼結体であれば、ターゲット面の面積が1000cm
2以上のものも製造可能であり、2000cm
2以上のものも製造可能である。
【0017】
本発明の酸化ニオブ焼結体は、電磁波加熱を用いて焼成することが可能である。
【0018】
電気炉のような外部加熱の場合、焼結体の外表面から焼結が進行するために、焼結体の中心部でクローズドポアとなりポアが残り易く、特に酸化ニオブのように単一組成の材料では、結晶粒子同士の焼結が早く粒成長しやすいため、高密度で微細な組織を持つ焼結体が得られ難い。
【0019】
一方、電磁波加熱による自己発熱の場合、焼結体自身が内部から加熱され、オープンポアの状態で焼結体の中心部から均一に焼結が進行し、ポアが焼結体の外に吐き出される理想的な焼結が可能である。また、電磁波加熱は、急速に加熱しても焼結体自身の内部から自己発熱により加熱されるため、大型品でも温度分布が少なく、焼成において割れ難く、さらに、自己発熱により均一に加熱されるために、焼結体中の熱拡散を考慮する必要がなく、焼成時間を短くすることができ、結晶粒子の粒成長を抑制することが可能である。
【0020】
しかし、電磁波加熱は、どのような材料にも適用できるものではなく、被加熱材料の電磁波吸収特性に依存する。電磁波吸収特性は、誘電損失が大きい物質ほど良く、誘電損失の小さい物質では電磁波を吸収せず、電磁波加熱ができない。誘電損失は個々の物質により決まるが、誘電損失には温度依存性があり、物質によっては温度により電磁波吸収特性が大きく異なり、酸化ニオブもその1つである。酸化ニオブは高温域では酸素欠損型構造が安定相となり、酸素欠損により物質内部の双極子が振動・回転・衝突・摩擦を引き起こしやすくなり、自己発熱によって加熱される。また、酸化ニオブは室温から600℃までは焼結が起きないため、上述したクローズドポアの生成は起きない。
【0021】
すなわち、室温から低温の範囲ではSiCなどの電磁波吸収がよく自己発熱し易い物質で外部加熱により焼成を行い、高温では酸化ニオブの自己発熱により加熱する方法を用いて焼成することが可能となる。高密度化に必要な十分な焼成温度であるにも関わらず、急速加熱と短い保持時間で、結晶粒子の成長を抑制し、高密度・高強度な焼結体を得ることができる。
【0022】
本発明で用いる電磁波としてはマグネトロンまたはジャイロトロン等から発生する連続またはパルス状の2.45GHz等のマイクロ波、28GHz等のミリ波、またはサブミリ波が利用できる。電磁波の周波数の選択は、被焼成物の電磁波吸収特性から適切なものを選択することができるが、発振器のコスト等の経済性を考慮すると2.45GHzのマイクロ波が好ましい。
【0023】
以下、本発明の酸化ニオブ焼結体の製造方法について、工程毎に説明する。
【0024】
(1)原料調整工程
原料粉末は酸化ニオブ(V)粉末を用いる。原料粉末の純度は99.9%以上が好ましく、より好ましくは99.99%以上である。不純物が含まれると、焼成工程における異常粒成長の原因となる。
【0025】
原料粉末は成形性の改善のため、圧密、粉砕や造粒処理することが好ましい。圧密、粉砕処理としては特に限定されるものではないが、ジルコニア、アルミナ、ナイロン樹脂等のボールやビーズを用いた乾式、湿式のメディア撹拌型ミルや機械撹拌式ミル等の方法が例示される。具体的には、ボールミル、ビーズミル、アトライタ、振動ミル、遊星ミル、ジェットミル、二軸遊星撹拌式混合機等が挙げられる。湿式法のボールミルやビーズミル、アトライタ、振動ミル、遊星ミル、ジェットミル等を用いる場合には、粉砕後のスラリーを乾燥する必要がある。この乾燥方法は特に限定されるものではないが、例えば、濾過乾燥、流動層乾燥、噴霧乾燥等が例示でき、乾燥と同時に造粒することもできる。
【0026】
最終的に得られる酸化ニオブ(V)粉末としては、BET比表面積が4〜15m
2/gのものを使用することが好ましい。BET比表面積が4m
2/g未満であると焼結体密度が上がり難く、15m
2/gを超えると成形性が悪化し、凝集等により粉末の取り扱いも困難になる。なお、成形性を考慮して、ポリビニルアルコール、アクリル系ポリマー、メチルセルロース、ワックス類、オレイン酸等の成形助剤を原料粉末に添加しても良い。
【0027】
(2)成形工程
成形方法は、原料粉末を目的とした形状に成形できる成形方法を適宜選択することが可能であり、特に限定されるものではない。プレス成形法、鋳込み成形法、射出成形法等が例示できる。
【0028】
成形圧力は成形体にクラック等の発生がなく、取り扱いが可能な強度を有する成形体であれば特に限定されるものではないが、成形密度は可能な限り高めた方が好ましい。そのために冷間静水圧プレス(CIP)成形等の方法を用いることも可能である。CIP圧力は充分な圧密効果を得るため1ton/cm
2以上が好ましく、さらに好ましくは2ton/cm
2以上、とりわけ好ましくは2〜3ton/cm
2である。
【0029】
(3)焼成工程
次に得られた成形体を電磁波焼成炉内に投入して焼成を行う。使用される焼成炉としては、バッチ式、連続式、外部加熱式とのハイブリット式等の種々の焼成炉を使用することができる。
【0030】
電磁波による焼成の場合、成形体はセッターの上に置かれ、断熱材で囲まれる。この際、断熱材の内側に等温熱障壁を設置することも可能である。セッターや等温熱障壁の材質は焼成温度にて耐熱性や各材質の電磁波吸収特性を考慮して適宜選択すればよく、アルミナ、ムライト、ジルコニア、SiC等が挙げられる。セッターとしては特に低温で電磁波吸収がよいSiCが好ましい。
【0031】
被焼成物の昇温速度については特に限定されないが、高強度の焼結体を得るために、400〜800℃/時間、好ましくは500〜800℃/時間、より好ましくは600〜800℃/時間とする。電磁波による焼成は自己発熱による加熱であるため、被焼成物内の温度分布が小さく、特に大型焼成物を速い昇温速度で加熱しても割れの発生が非常に少ない。なお水分やバインダーを含む成形体の場合、特に大型の成形体では水分やバインダー成分が揮発する際に、急激な体積膨張を伴うと成形体が割れることがある。このため、水分やバインダー成分が揮発している温度領域、例えば100〜400℃の温度域においては昇温速度を20〜100℃/時間とすることが好ましい。
【0032】
焼成温度は、1320℃〜1400℃とする。焼成温度での保持時間は1時間以内で十分であるが、焼成温度を1370〜1400℃で行う場合は、保持時間は10〜30分程度とすることが好ましい。また、降温速度は特に限定されず、焼結炉の容量、焼結体のサイズ及び形状、割れ易さなどを考慮して適宜決定することができる。
【0033】
焼成時の雰囲気としては特に制限されないが、大気または酸素雰囲気とすることが好ましい。また、焼結体表面の色むらの抑制や焼結体の比抵抗を下げる目的で、焼成温度からの降温時に、窒素等の非酸化性雰囲気とすることも可能である。
【0034】
(4)ターゲット化工程
得られた焼結体は、平面研削盤、円筒研削盤、旋盤、切断機、マシニングセンター等の機械加工機を用いて、板状、円状、円筒状等の所望の形状に研削加工する。さらに、必要に応じて無酸素銅やチタン等からなるバッキングプレート、バッキングチューブにインジウム半田等を用いて接合(ボンディング)することにより、本発明の焼結体をターゲット材としたスパッタリングターゲットを得ることができる。
【0035】
本発明によれば従来から知られた常圧焼結法を利用して焼結体を製造できるため、大型のターゲットを製造することが可能となる。平板型スパッタリングターゲットの場合、ターゲット面の面積1000cm
2以上の大型の焼結体を作製することができ、さらに複雑な形状である円筒型スパッタリングターゲットも作製することができる。