特許第6705245号(P6705245)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6705245抗サイログロブリン抗体測定免疫反応試薬の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6705245
(24)【登録日】2020年5月18日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】抗サイログロブリン抗体測定免疫反応試薬の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/531 20060101AFI20200525BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20200525BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   G01N33/531 A
   G01N33/53 N
   G01N33/543 545D
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-62541(P2016-62541)
(22)【出願日】2016年3月25日
(65)【公開番号】特開2017-173266(P2017-173266A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河合 信之
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−028558(JP,A)
【文献】 特許第3558645(JP,B2)
【文献】 特許第3162438(JP,B2)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0181883(US,A1)
【文献】 J Clin Lab Anal 2:209-214 (1988)
【文献】 J Clin Lab Anal 4:224-230 (1990)
【文献】 ホルモンと臨床 58(7):629-638 (2010)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/531
G01N 33/53
G01N 33/543
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト由来サイログロブリンをアフィニティー精製し、得られたサイログロブリンを使用して抗サイログロブリン抗体測定免疫反応試薬を製造する方法であって、アフィニティー精製がProtein A、Protein G及びProtein Lから選ばれた1種類又は2種類以上の組み合わせで行われるものであり、アフィニティー精製して得られたサイログロブリンを固相に固定化する工程を有し、かつ、抗サイログロブリン抗体測定免疫反応試薬が、固相に固定化されたサイログロブリンと酵素標識抗ヒトIgG抗体を有することを特徴とする、免疫反応試薬の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体外診断薬等に使用される抗サイログロブリン抗体測定免疫反応試薬の製造方法であって、固相に固定化するサイログロブリンを精製することにより、測定再現性及び測定感度を向上させるものである。
【背景技術】
【0002】
サイログロブリン(以下、Tg)は分子量約66万の糖蛋白質で甲状腺ホルモンの合成の場として機能している。このTgに対する自己抗体すなわち抗サイログロブリン抗体(以下、TgAb)がバセドウ病や橋本病等の自己免疫性甲状腺疾患に関係することは従来から知られており、TgAbの測定は抗マイクロゾーム抗体とともにこれらの疾患の診断、治療の指標として広く用いられている。またTgAbは甲状腺疾患以外の自己免疫疾患に対して陽性を示すという報告もある。TgAbの測定には凝集法を測定原理とした半定量法が行われていたが、感度や特異性の点で十分ではなかった。そこで、ラジオイムノアッセイ(RIA法)やエンザイムイムノアッセイ(EIA法)、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)、化学発光免疫測定法(CLIA法)等の定量法が報告されTgAb定量の有用性が明らかとなってきた。
【0003】
この免疫測定法の測定原理は固相法であり、ヒトTg抗原と抗ヒトIgG抗体を用いた2ステップサンドイッチ法である。固相に固定化されたTgと検体にて第一免疫反応が開始される。一定時間・一定温度でインキュベートした後、洗浄水で未反応の検体成分を除去する(B/F分離)。B/F分離後、酵素標識抗ヒトIgG抗体を加えることにより第二免疫反応が開始される。一定時間・一定温度でインキュベートした後、洗浄水で未反応の酵素標識抗体を除去する(B/F分離)。この後、固相に結合した酵素活性を測定するために基質を添加し、蛍光物質や発光物質の生成速度もしくは蛍光強度や発光強度を測定することにより、検体中のTgAb濃度を知ることができる。
【0004】
この固相抗原に使用されるTg抗原は、遺伝子組み換え(リコンビナント)蛋白質ではなく、ヒト由来の蛋白質が用いられている。
【0005】
ヒトTg抗原提供者がTgに対する自己抗体(TgAb)を有している場合、免疫反応試薬として作製する以前からTgにTgAbが結合していることとなる。固相抗原の原料として、このTgAbが結合したTgを用いると、本来の測定値よりも高値に測定されてしまう、もしくはバックグラウンド上昇により高感度に測定ができないといった現象が発生する。
【0006】
更に抗原提供者毎や提供時期毎にTgAb保有量が異なる場合、固相抗原の原料としてのTgの品質が一定しない。その結果、ロット間差や測定再現性の悪化といった現象が発生する。
【0007】
以上のことから、ヒト由来Tgを固相抗原の原料とすることに起因して、TgAb測定にて高精度に測定することが妨げられることが問題となっていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
臨床検査の分野において、TgAbを高精度に測定するために、測定時におけるバックグラウンド上昇の抑制、ロット間差の抑制、測定再現性が同時に求められている。
【0009】
そこで本発明の目的は、効果的にバックグラウンド上昇を抑制することができ、ロット間差を抑制することができ、かつ測定再現性が良好となる体外診断薬等に使用されるTgAb測定免疫反応試薬の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、ヒト由来Tgに結合している抗体を除去することによってTgを精製することにより、バックグラウンド上昇の抑制とロット間差の抑制と測定再現性が共に良好であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち本発明は以下のとおりである。
(1)ヒト由来Tgをアフィニティー精製し、得られたTgを使用してTgAb測定免疫反応試薬を製造することを特徴とする、免疫反応試薬の製造方法。
(2)アフィニティー精製がProtein A、Protein G及びProtein Lから選ばれた1種類又は2種類以上の組み合わせで行われる、(1)に記載の製造方法。
(3)アフィニティー精製して得られたTgを固相に固定化する工程を有する、(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)ヒト由来Tgを固相に固定化した後にアフィニティー精製する、(1)又は(2)に記載の製造方法。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明に用いられるヒト由来Tgは、ヒトから提供されたものである。そのため、Tgに対する自己抗体であるTgAbが結合している場合がある。
【0014】
本発明において、ヒト由来Tgに結合している抗体の除去は、Protein A、Protein G、Protein L等が結合した樹脂や磁気ビーズを用いたアフィニティー精製により行われる。Protein A、Protein G、Protein L等の中から1種類を選択して使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。このとき先にヒト由来Tgの精製を行い、次いで得られたTgの固相への固定化を行う場合には、アフィニティー精製は樹脂と磁気ビーズのいずれも使用することができる。磁性体を含むビーズや微粒子にヒト由来Tgを固定化した後に精製を行う場合には、アフィニティー精製は磁性体を含まない樹脂を使用することができる。磁性体を含まないビーズや微粒子にヒト由来Tgを固定化した後に精製を行う場合には、アフィニティー精製は磁気ビーズを使用することができる。
【0015】
このようにして精製されたTgを用いてTgAb測定免疫反応試薬を製造する。この試薬は例えば固相に固定化されたTgと酵素標識抗ヒトIgG抗体を有するものである。この免疫測定試薬の測定原理は固相法であり、ヒトTg抗原と抗ヒトIgG抗体を用いた2ステップサンドイッチ法である。固相に固定化されたTgと検体にて第一免疫反応が開始される。一定時間・一定温度でインキュベートした後、洗浄水で未反応の検体成分を除去する(B/F分離)。B/F分離後、酵素標識抗ヒトIgG抗体を加えることにより第二免疫反応が開始される。一定時間・一定温度でインキュベートした後、洗浄水で未反応の酵素標識抗体を除去する(B/F分離)。この後、固相に結合した酵素活性を測定するために基質を添加し、蛍光物質や発光物質の生成速度もしくは蛍光強度や発光強度を測定することにより、検体中のTgAb濃度を知ることができる。
【0016】
本発明において固相に固定化されたTgは、ビーズや微粒子などの固相担体に固定化したTgで、抗原抗体反応を行う溶液に不溶性のものを指すが、固相に直接Tgが結合していなくても、アビジン−酵素複合体を結合するためのビオチンを結合したTgで可溶性のものも含まれる。
【0017】
固相担体としては、ビーズや微粒子を使用することできる。特に微粒子が好ましく、ガラス、金属、セラミツクス等の無機物であってもよく、また高分子ポリマー等の有機物であってもよい。またそれらの微粒子は磁性体を含むものであってもよい。微粒子の粒子径は0.1から50μmが好ましく、さらには1から10μmが好ましい。
【0018】
酵素標識抗ヒトIgG抗体は、酵素を結合した抗ヒトIgG抗体で、抗原抗体反応を行う溶液に可溶性のものを指すが、酵素を直接抗体に結合していなくても、アビジン−酵素複合体を結合するためのビオチンを結合した抗体で可溶性のものも含まれる。
【0019】
本発明における抗ヒトIgG抗体はポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよく、抗体を産生する実際上任意の動物種、例えばウサギ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウマ、マウスまたはラットなど由来の抗体が使用できる。抗体の形態には完全抗体や、それを酵素処理や化学処理により切断したF(ab’)やFab’等のような抗体断片であってもよい。
【0020】
酵素としては特に限定されるものではないが、例えばアルカリ性ホスファターゼ、パーオキシダーゼ等があげられる。
【0021】
本発明では、免疫反応試薬製造時に蛋白質を共存させてもよく、それらは特に限定されるものではないが、例えばウシ血清アルブミン、コラーゲンペプチド、カゼイン、カゼインナトリウム、スキムミルク等を使用することができる。0.1〜20%(重量/容量)の濃度範囲とすることが好ましく、特に1〜10%(重量/容量)の濃度範囲とすることが好ましい。また糖、緩衝液や塩類を共存させてもよく、それらは特に限定されるものではないが、糖であれば例えばスクロース、マンニトール、トレハロースやイノシトール等を使用することができる。緩衝液としては、例えばTris、MOPSO、MOPSやMES等を使用することができ、塩類としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛等を使用することができる。なお、これら以外にも、必要に応じて他の試薬成分等を共存させることもできる。
【0022】
このようにして、ヒト由来Tgを精製することにより、Tg提供者由来の自己抗体(TgAb)を除去し、その後に精製Tgを固相に固定化し、これを固相抗原とするTgAb測定免疫反応試薬を製造することができる。また、ヒト由来Tgを固相に固定化し、その後に精製することにより、Tg提供者由来の自己抗体(TgAb)を除去し、これを固相抗原とするTgAb測定免疫反応試薬を製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、効果的にバックグラウンド上昇を抑制することができ、ロット間差を抑制することができ、かつ測定再現性が良好となる体外診断薬等に使用されるTgAb測定免疫反応試薬を得ることが可能となる。例えば、本発明で得られたTgAb測定免疫反応試薬は精度よく測定することができるので、本発明によって高精度なTgAb測定も実現できる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例により限定されるものではない。免疫測定装置として全自動エンザイムイムノアッセイ装置(AIA−CL2400、東ソー社製)と免疫測定用試薬として当該装置用免疫反応試薬を用い、2ステップサンドイッチ法により各測定を行った。なお、各免疫反応試薬は後述したようにして調製した。
【0025】
(実施例1)
ヒトTg抗原をProtein G樹脂にてアフィニティー精製を行い、精製Tgを得た。得られたTgを磁性微粒子(2.5μm)に固定化し、Tg固定化磁性微粒子を得た。このTg固定化磁性微粒子をウシ血清、コラーゲンペプチド、スクロース、塩化ナトリウムを含むTris緩衝液に加えて凍結乾燥を行った。一方、アルカリ性ホスファターゼ標識抗ヒトIgG抗体をコラーゲンペプチド、トレハロース、塩化マグネシウム、塩化亜鉛を含むTris緩衝液に加えて凍結乾燥を行った。
【0026】
前記自動免疫測定装置で試薬に対して0濃度サンプル、血漿及び血清を測定し、アルカリ性ホスファターゼの基質である化学発光基質の発光強度を測定した。各サンプルは5回ずつ測定し、その平均値を測定値とした。0濃度サンプルの測定値と2SDを元に、低濃度検出限界(MDC)を算出した。血漿及び血清サンプルに関しては、その測定値を元に、濃度及び測定再現性を算出した。結果を表1に示す。
【0027】
(実施例2)
ロットの異なるヒトTg抗原を使用した以外は、実施例1と同様の方法でTgを精製および試薬の調製を行った。前記自動免疫測定装置で試薬に対して、実施例1と同様の方法でサンプル測定を行った。結果を表1に示す。
【0028】
(比較例1)
TgをProtein G樹脂にてアフィニティー精製を行わなかった以外は、実施例1と同一ロットのTgを用い、実施例1と同様の方法で試薬の調製を行った。前記自動免疫測定装置で試薬に対して、実施例1と同様の方法でサンプル測定を行った。結果を表1に示す。
【0029】
(比較例2)
実施例2と同一ロットのTgを用い、TgをProtein G樹脂にてアフィニティー精製を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法で試薬の調製を行った。前記自動免疫測定装置で試薬に対して、実施例1と同様の方法でサンプル測定を行った。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
0濃度サンプル品の発光強度(Count/sec.)は、比較例1の922に対して実施例1は136と、約800低減させる結果があり、低濃度検出限界(MDC)も0.368(IU/mL)から0.033(IU/mL)と10倍以上良好となる結果であった。また、比較例2の567に対して実施例2は164と、約400低減させる結果があり、低濃度検出限界(MDC)も0.243(IU/mL)から0.108(IU/mL)と2倍以上良好となる結果であった。さらに、比較例1と比較例2にておいては差が400以上ありロット間差が確認されたが、実施例1と実施例2にておいては差が30弱であり、ロット間差を抑制していることがわかる。
【0031】
血漿及び血清サンプルの測定濃度の実施例1と実施例2の比較では、血漿サンプルで38.8(IU/mL)と37.0(IU/mL)、血清サンプルAで511.9(IU/mL)と489.7(IU/mL)、血清サンプルBで1,421.3(IU/mL)と1,443.5(IU/mL)であり、全てにおいて測定値の差は5%以内に収まっており、ロット間差を抑制していることがわかる。
【0032】
血漿及び血清サンプルの測定再現性については、比較例1ではそれぞれ6.7%、4.8%、3.1%であるが、実施例1ではそれぞれ4.6%、1.3%、3.0%と全てのサンプルにおいて向上している結果であった。また、比較例2ではそれぞれ6.2%、2.5%、4.6%であるが、実施例2ではそれぞれ3.5%、2.3%、4.1%と全てのサンプルにおいて向上している結果であった。
【0033】
以上の結果から、ヒト由来Tgを精製してTg提供者由来の自己抗体(TgAb)を除去することにより、免疫反応試薬の性能が向上したことを示している。