(54)【発明の名称】熱伝導シート用複合粒子およびその製造方法、熱伝導一次シートおよび熱伝導二次シートの製造方法、熱伝導一次シート付き発熱体の製造方法、並びに、積層シート付き発熱体の製造方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱伝導シート用複合粒子、または請求項5に記載の製造方法で得られた熱伝導シート用複合粒子を加圧してシート状に成形する工程を含む、熱伝導一次シートの製造方法。
請求項6に記載の製造方法で得られた熱伝導一次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、請求項6に記載の製造方法で得られた熱伝導一次シートを折畳または捲回して、積層体を得る工程と、
前記積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、熱伝導二次シートを得るスライス工程と、
を含む、熱伝導二次シートの製造方法。
発熱体の少なくとも一面に、請求項6に記載の製造方法で得られた熱伝導一次シートと請求項7に記載の製造方法で得られた熱伝導二次シートとを有する積層シートを接着する工程を含む、積層シート付き発熱体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をその実施形態に基づき詳細に例示説明する。
本発明の熱伝導シート用複合粒子は、例えば、本発明の熱伝導シート用複合粒子の製造方法に従って製造することができ、熱伝導シートを製造する際に使用することができる。
また、本発明の熱伝導一次シートの製造方法および熱伝導二次シートの製造方法は、例えば、本発明の熱伝導シート用複合粒子を使用し、熱伝導シートを製造する際に使用することができる。そして、本発明の熱伝導一次シートの製造方法で得られる熱伝導一次シートおよび本発明の熱伝導二次シートの製造方法で得られる熱伝導二次シートは、例えば、発熱体に直接接着させて使用することもできるし、発熱体に放熱体を取り付ける際に発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用することもできる。このとき、熱伝導一次シートおよび熱伝導二次シートは、1種を単独で使用してもよく、2種または複数枚を併用してもよい。具体的には、例えば、本発明の製造方法で得られる熱伝導一次シートを用いて発熱体と共に本発明の熱伝導一次シート付き発熱体を構成してもよい。また、例えば、本発明の製造方法で得られる熱伝導一次シートおよび熱伝導二次シートが積層された積層シートを用いて発熱体と共に本発明の積層シート付き発熱体を構成してもよい。加えて、本発明の製造方法で得られる熱伝導一次シートおよび熱伝導二次シートは、発熱体と、ヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体と共に放熱装置を構成することもできる。
そして、熱伝導一次シート付き発熱体は、例えば、本発明の熱伝導一次シート付き発熱体の製造方法を用いて製造することができ、積層シート付き発熱体は、例えば、本発明の積層シート付き発熱体の製造方法を用いて製造することができる。
【0023】
(熱伝導シート用複合粒子)
本発明の熱伝導シート用複合粒子は、粒子状炭素材料と樹脂とを含み、SE値が6.0mJ/g以上16.0mJ/g以下であることを特徴とする。熱伝導シート用複合粒子が粒子状炭素材料を含有しない場合には、当該複合粒子を用いて得られる熱伝導シートに十分な熱伝導率を与えることができない。また、熱伝導シート用複合粒子が樹脂を含有しない場合には、当該複合粒子を用いて得られる熱伝導シートに十分な柔軟性を与えることができず、発熱体から熱伝導シートへの伝熱が不十分となる。そして、熱伝導シート用複合粒子のSE値が上記所定範囲内でなければ、当該複合粒子を用いて得られる熱伝導シート中の粒子状炭素材料を良好に配向させ、熱伝導シートに面内方向および厚み方向等の所望の方向における高い熱伝導性を発揮させることができない。
【0024】
<組成>
[粒子状炭素材料]
ここで、本発明の熱伝導シート用複合粒子が含む粒子状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック;などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
中でも、粒子状炭素材料としては、膨張化黒鉛を用いることが好ましい。膨張化黒鉛を使用すれば、熱伝導シートの熱伝導性を向上させることができるからである。
【0025】
[[膨張化黒鉛]]
ここで、粒子状炭素材料として好適に使用し得る膨張化黒鉛は、例えば、鱗片状黒鉛などの黒鉛を硫酸などで化学処理して得た膨張性黒鉛を、熱処理して膨張させた後、微細化することにより得ることができる。そして、膨張化黒鉛としては、例えば、伊藤黒鉛工業株式会社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0026】
[[粒子状炭素材料の性状]]
ここで、本発明の熱伝導シート用複合粒子に含まれている粒子状炭素材料の粒子径は、体積基準モード径で100μm以上であることが好ましく、150μm以上であることがより好ましく、300μm以下であることが好ましく、250μm以下であることがより好ましい。粒子状炭素材料の粒子径が上記下限以上であれば、当該複合粒子を用いて得られる熱伝導シート中で粒子状炭素材料同士が接触して良好な伝熱パスを形成するため、熱伝導シートにより高い熱伝導性を発揮させることができるからである。また、粒子状炭素材料の粒子径が上記上限以下であれば、当該複合粒子を用いて得られる熱伝導シートにより高い柔軟性を与え、発熱体と接した際の発熱体から熱伝導シートへの伝熱をより良好にすることができるからである。
また、本発明の熱伝導シート用複合粒子に含まれている粒子状炭素材料のアスペクト比(長径/短径)は、1以上10以下であることが好ましく、1以上5以下であることがより好ましい。
【0027】
なお、本発明において「体積基準モード径」は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて、本明細書の実施例に記載した方法に従って求めることができる。
また、本発明において、「粒子状炭素材料のアスペクト比」は、熱伝導シート用複合粒子中の樹脂を溶媒中で溶解除去して得られる粒子状炭素材料をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の粒子状炭素材料について、最大径(長径)と、最大径に直交する方向の粒子径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0028】
[[粒子状炭素材料の含有割合]]
そして、本発明の熱伝導シート用複合粒子中の粒子状炭素材料の含有割合は、40体積%以上であることが好ましく、45体積%以上であることがより好ましく、60体積%以下であることが好ましく、55体積%以下であることがより好ましい。熱伝導シート用複合粒子中の粒子状炭素材料の含有割合が上記下限以上であれば、当該複合粒子を用いて得られる熱伝導シート中で粒子状炭素材料同士がより接触して良好な伝熱パスを形成する。その結果、熱伝導シートに、所望方向におけるより高い熱伝導性を発揮させることができるからである。また、粒子状炭素材料の含有割合が上記上限以下であれば、当該複合粒子を用いて得られる熱伝導シートにより高い柔軟性を与え、発熱体と接した際の発熱体から熱伝導シートへの伝熱をより良好にすることができると共に、粒子状炭素材料の粉落ちを十分に防止することができるからである。また、熱伝導シート用複合粒子中の粒子状炭素材料の含有割合が上記範囲内であれば、当該複合粒子がロール圧延等の加圧による力を受け易くなるため、結果として、熱伝導シート中で粒子状炭素材料が所望方向により良好に配向することができるからである。
なお、本発明において、「含有割合(体積%)」は、本明細書の実施例に記載した方法に従って理論値として求めることができる。
【0029】
[繊維状炭素材料]
本発明の熱伝導シート用複合粒子は、任意に繊維状炭素材料を更に含有してもよい。任意に含有される繊維状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、有機繊維を炭化して得られる炭素繊維、およびそれらの切断物などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
そして、本発明の熱伝導シート用複合粒子に繊維状炭素材料を含有させれば、当該複合粒子を用いて得られる熱伝導シートの熱伝導性を更に向上させることができると共に、粒子状炭素材料の粉落ちを防止することもできる。なお、繊維状炭素材料を配合することで粒子状炭素材料の粉落ちを防止することができる理由は、明らかではないが、繊維状炭素材料が三次元網目構造を形成することにより、熱伝導性や強度を高めつつ粒子状炭素材料の脱離を防止しているためであると推察される。
【0030】
上述した中でも、繊維状炭素材料としては、カーボンナノチューブなどの繊維状の炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、カーボンナノチューブを含む繊維状の炭素ナノ構造体を用いることがより好ましい。カーボンナノチューブなどの繊維状の炭素ナノ構造体を使用すれば、熱伝導シート用複合粒子を用いて得られる熱伝導シートの熱伝導性および強度を更に向上させることができるからである。
【0031】
[[カーボンナノチューブを含む繊維状の炭素ナノ構造体]]
ここで、繊維状炭素材料として好適に使用し得る、カーボンナノチューブを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)のみからなるものであってもよいし、CNTと、CNT以外の繊維状の炭素ナノ構造体との混合物であってもよい。
なお、繊維状の炭素ナノ構造体中のCNTとしては、特に限定されることなく、単層カーボンナノチューブおよび/または多層カーボンナノチューブを用いることができるが、CNTは、単層から5層までのカーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。単層カーボンナノチューブを使用すれば、多層カーボンナノチューブを使用した場合と比較し、熱伝導シート用複合粒子を用いて得られる熱伝導シートの熱伝導性および強度を更に向上させることができるからである。
【0032】
また、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体としては、平均直径(Av)に対する、直径の標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)の比(3σ/Av)が0.20超0.60未満の炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、3σ/Avが0.25超の炭素ナノ構造体を用いることがより好ましく、3σ/Avが0.50超の炭素ナノ構造体を用いることが更に好ましい。3σ/Avが0.20超0.60未満のCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体を使用すれば、炭素ナノ構造体の配合量が少量であっても、熱伝導シート用複合粒子を用いて得られる熱伝導シートの熱伝導性および強度を十分に高めることができるからである。従って、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体の配合により熱伝導シートの硬度が上昇する(即ち、柔軟性が低下する)のを抑制して、熱伝導シートの熱伝導性および柔軟性を十分に高いレベルで並立させることができるからである。
なお、「繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)」および「繊維状の炭素ナノ構造体の直径の標準偏差(σ:標本標準偏差)」は、それぞれ、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した繊維状の炭素ナノ構造体100本の直径(外径)を測定して求めることができる。そして、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)および標準偏差(σ)は、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体の製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られたCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体を複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0033】
そして、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体としては、前述のようにして測定した直径を横軸に、その頻度を縦軸に取ってプロットし、ガウシアンで近似した際に、正規分布を取るものが通常使用される。
【0034】
更に、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、ラマン分光法を用いて評価した際に、Radial Breathing Mode(RBM)のピークを有することが好ましい。なお、三層以上の多層カーボンナノチューブのみからなる繊維状の炭素ナノ構造体のラマンスペクトルには、RBMが存在しない。
【0035】
また、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることが更に好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が0.5nm以上であれば、繊維状の炭素ナノ構造体の凝集を抑制して炭素ナノ構造体の分散性を高めることができるからである。また、繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が15nm以下であれば、熱伝導シート用複合粒子を用いて得られる熱伝導シートの熱伝導性および強度を十分に高めることができるからである。
【0036】
更に、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体のBET比表面積は、600m
2/g以上であることが好ましく、800m
2/g以上であることが更に好ましく、2500m
2/g以下であることが好ましく、1200m
2/g以下であることが更に好ましい。更に、繊維状の炭素ナノ構造体中のCNTが主として開口したものにあっては、BET比表面積が1300m
2/g以上であることが好ましい。CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体のBET比表面積が600m
2/g以上であれば、熱伝導シート用複合粒子を用いて得られる熱伝導シートの熱伝導性および強度を十分に高めることができるからである。また、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体のBET比表面積が2500m
2/g以下であれば、繊維状の炭素ナノ構造体の凝集を抑制して熱伝導シート中のCNTの分散性を高めることができるからである。
なお、本発明において、「BET比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
【0037】
そして、上述した性状を有するCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、例えば、カーボンナノチューブ製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物およびキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)に準じて、効率的に製造することができる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
【0038】
ここで、スーパーグロース法により製造したCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTに加え、例えば、非円筒形状の炭素ナノ構造体等の他の炭素ナノ構造体が含まれていてもよい。
【0039】
[[繊維状炭素材料の性状]]
そして、熱伝導シートに含まれ得る繊維状炭素材料の平均繊維径は、1nm以上であることが好ましく、3nm以上であることがより好ましく、2μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。繊維状炭素材料の平均繊維径が上記範囲内であれば、熱伝導シート用複合粒子を用いて得られる熱伝導シートの熱伝導性、柔軟性および強度を十分に高いレベルで並立させることができるからである。
ここで、繊維状炭素材料のアスペクト比は、10を超えることが好ましい。
【0040】
なお、本発明において、「平均繊維径」は、熱伝導シート用複合粒子中の樹脂を溶媒中で溶解除去して得られる繊維状炭素材料をSEM(走査型電子顕微鏡)又はTEM(透過型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の繊維状炭素材料について繊維径を測定し、測定した繊維径の個数平均値を算出することにより求めることができる。特に、繊維径が小さい場合は、同様の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)にて観察することが好適である。
また、本発明において「繊維状炭素材料のアスペクト比」は、熱伝導シート用複合粒子中の樹脂を溶解除去して得られる繊維状炭素材料をTEM(透過型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の繊維状炭素材料について、最大径(長径)と、最大径に直交する方向の粒子径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0041】
[樹脂]
ここで、本発明の熱伝導シート用複合粒子が含む樹脂としては、特に限定されることなく、熱伝導シート製造に使用され得る既知の樹脂、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂を用いることができる。中でも、本発明の熱伝導シート用複合粒子には、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。熱可塑性樹脂を用いれば、使用時(放熱時)の高温環境下で、熱伝導シートの柔軟性を更に向上させ、熱伝導シートと発熱体とを、または熱伝導シートを介して発熱体と放熱体とを良好に密着させることができるからである。
なお、本発明において、ゴムおよびエラストマーは、「樹脂」に含まれるものとする。
【0042】
[[熱可塑性樹脂]]
熱伝導シートの製造に使用され得る既知の熱可塑性樹脂としては、常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂、常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂などが挙げられる。中でも、本発明の熱伝導シート用複合粒子には、熱可塑性樹脂として、常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂を用いることが好ましく、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂を用いることがより好ましい。常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂を用いれば、使用時(放熱時)の高温環境下においては、当該複合粒子を用いて得られる熱伝導シートの柔軟性をより向上させ、熱伝導シートと発熱体とをより良好に密着させつつ、取り付け時などの常温環境下においては、熱伝導シートのハンドリング性を高めることができるからである。また、常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂が熱可塑性フッ素樹脂であれば、上記効果に加え、熱伝導シートの耐熱性、耐油性、および耐薬品性を向上させることができるからである。
なお、本明細書において、「常温」とは23℃を指し、「常圧」とは、1atm(絶対圧)を指す。
【0043】
−常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂−
ここで、常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ(アクリル酸2−エチルヘキシル)、アクリル酸とアクリル酸2−エチルヘキシルとの共重合体、ポリメタクリル酸またはそのエステル、ポリアクリル酸またはそのエステルなどのアクリル樹脂;シリコーン樹脂;フッ素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;エチレン−プロピレン共重合体;ポリメチルペンテン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;エチレン−酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール;ポリアセタール;ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンナフタレート;ポリスチレン;ポリアクリロニトリル;スチレン−アクリロニトリル共重合体;アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(ニトリルゴム);アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂);スチレン−ブタジエンブロック共重合体またはその水素添加物;スチレン−イソプレンブロック共重合体またはその水素添加物;ポリフェニレンエーテル;変性ポリフェニレンエーテル;脂肪族ポリアミド類;芳香族ポリアミド類;ポリアミドイミド;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルニトリル;ポリエーテルケトン;ポリケトン;ポリウレタン;液晶ポリマー;アイオノマー;などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
上述した中でも、常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂は、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂であることが好ましい。
常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、フッ化ビニリデン系フッ素樹脂、テトラフルオロエチレン−プロピレン系フッ素樹脂、テトラフルオロエチレン−パープルオロビニルエーテル系フッ素樹脂等、フッ素含有モノマーを重合して得られるエラストマーなどが挙げられる。より具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソール共重合体、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレンのアクリル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエステル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエポキシ変性物およびポリテトラフルオロエチレンのシラン変性物等が挙げられる。これらの中でも、加工性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレンのアクリル変性物、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体が好ましい。
【0045】
また、市販されている、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、ダイキン工業株式会社製のダイエル(登録商標)G−300シリーズ/G−700シリーズ/G−7000シリーズ(ポリオール加硫・ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン2元系共重合体)、ダイエルG−550シリーズ/G−600シリーズ(ポリオール加硫・ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン3元系共重合体)、ダイエルG−800シリーズ(パーオキサイド加硫・ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン2元系共重合体)、ダイエルG−900シリーズ(パーオキサイド加硫・ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン3元系共重合体);ALKEMA社製のKYNAR(登録商標)シリーズ(フッ化ビニリデン系フッ素樹脂)、KYNAR FLEX(登録商標)シリーズ(ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン3元系共重合体);ケマーズ社製のA−100(ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン2元系共重合体);などが挙げられる。
【0046】
−常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂−
また、本発明の効果を著しく損なわない限り、常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂に、常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂を組み合わせて用いることもできる。常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂の粘度は、特には限定されないが、混練性、流動性、架橋反応性が良好で、成形性にも優れるという点からは、105℃における粘度が、500mPa・s〜30,000mPa・sであることが好ましく、550mPa・s〜25,000mPa・sであることがより好ましい。
【0048】
[[熱硬化性樹脂]]
また、熱硬化性樹脂としては、例えば、天然ゴム;ブタジエンゴム;イソプレンゴム;ニトリルゴム;水素化ニトリルゴム;クロロプレンゴム;エチレンプロピレンゴム;塩素化ポリエチレン;クロロスルホン化ポリエチレン;ブチルゴム;ハロゲン化ブチルゴム;ポリイソブチレンゴム;エポキシ樹脂;ポリイミド樹脂;ビスマレイミド樹脂;ベンゾシクロブテン樹脂;フェノール樹脂;不飽和ポリエステル;ジアリルフタレート樹脂;ポリイミドシリコーン樹脂;ポリウレタン;熱硬化型ポリフェニレンエーテル;熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
[[ムーニー粘度]]
なお、本発明の熱伝導シート用複合粒子が含む樹脂(2以上の樹脂を用いた場合は樹脂混合物)は、ムーニー粘度(ML
1+4、100℃)が10以上であることが好ましく、15以上であることがより好ましく、100以下であることが好ましく、90以下であることがより好ましく、40以下であることが更に好ましい。一般に、ムーニー粘度が低いほど樹脂の粘り気が低く、ムーニー粘度が高いほど樹脂の粘り気が高くなる。従って、ムーニー粘度が上記上限以下である樹脂を用いると熱伝導シート用複合粒子同士の結着性といった相互作用が高まり、SE値も高まる。その結果、当該複合粒子を用いて得られる熱伝導シートの所望の方向における熱伝導率をより高めることができるからである。また、ムーニー粘度が上記下限以上であれば、樹脂の粘度が過度に低くなることを防止し、熱伝導シート用複合粒子および熱伝導シートを容易に製造することができるからである。
なお、本明細書において、「ムーニー粘度(ML
1+4、100℃)」は、JIS K6383に準拠して温度100℃で測定することができる。
【0050】
[[樹脂の含有割合]]
そして、本発明の熱伝導シート用複合粒子中の樹脂の含有割合は、30体積%以上であることが好ましく、40体積%以上であることがより好ましく、45体積%以上であることが更に好ましく、60体積%以下であることが好ましく、55体積%以下であることがより好ましい。熱伝導シート用複合粒子中の樹脂の含有割合が上記下限以上であれば、当該複合粒子を用いて得られる熱伝導シートにより高い柔軟性を与え、発熱体と接した際の発熱体から熱伝導シートへの伝熱をより良好にすることができるからである。また、熱伝導シート用複合粒子中の樹脂の含有割合が上記上限以下であれば、当該複合粒子を用いて得られる熱伝導シートにより高い熱伝導性を発揮させることができるからである。
【0051】
[添加剤]
本発明の熱伝導シート用複合粒子には、必要に応じて、熱伝導シートの製造に使用され得る既知の添加剤を配合することができる。そして、熱伝導シートに配合し得る添加剤としては、特に限定されることなく、例えば、脂肪酸エステルなどの可塑剤;赤リン系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤などの難燃剤;フッ素オイル(ダイキン工業株式会社製のデムナムシリーズ)のように可塑剤と難燃剤とを兼ねる添加剤;ウレタンアクリレートなどの靭性改良剤;酸化カルシウム、酸化マグネシウムなどの吸湿剤;シランカップリング剤、チタンカップリング剤、酸無水物などの接着力向上剤;ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などの濡れ性向上剤;無機イオン交換体などのイオントラップ剤;等が挙げられる。
【0052】
<性状>
[SE値]
そして、本発明の熱伝導シート用複合粒子のSE値は、6.0mJ/g以上16.0mJ/g以下であることが必要である。また、本発明の熱伝導シート用複合粒子のSE値は、8.0mJ/g以上であることが好ましく、10.0mJ/g以上であることがより好ましく、15.5mJ/g以下であることが好ましい。熱伝導シート用複合粒子のSE値が上記範囲内であれば、当該複合粒子を用いて、面内方向および厚み方向などの所望の方向における熱伝導率が高い熱伝導シートを製造することができる。なお、上記所定範囲内のSE値を有する熱伝導シート用複合粒子を用いて製造した熱伝導シートの熱伝導率が、所望の方向、例えば、面内方向に高まる理由は明らかではないが、以下の通りであると推察する。
即ち、通常、高いSE値を有する複合粒子ほど流動しにくい。従って、例えば、複合粒子が加圧によりシート状に成形される際に受け取るエネルギーは、高いSE値を有する複合粒子ほど大きくなる。そして、より大きなエネルギーを受け取った複合粒子に含まれている粒子状炭素材料は、より加圧方向に略直交する方向(シートの面内方向)に配向する。その結果、加圧されて得られたシート中では、粒子状炭素材料同士がよりシート面内方向に沿って接触しながら、特に面内方向に良好な伝熱パスを形成する。つまり、ある程度高いSE値を有する複合粒子を用いて熱伝導シートを製造することにより、得られる熱伝導シートの面内方向における熱伝導率を高めることができる。
一方、複合粒子のSE値が高すぎると複合粒子が過度に流動しにくくなる。従って、例えば、複合粒子を加圧しても各粒子が均一に大きなエネルギーを受け取ることができず、複合粒子に含まれている粒子状炭素材料同士も一方向に揃って良好に配向、接触することができない。その結果、得られたシート中に良好な伝熱パスが形成されず、熱伝導シートとして高い熱伝導性を発揮することができない。
また、複合粒子のSE値が低すぎると、圧延等の加圧時における複合粒子の流動性が過度に高くなるため、複合粒子が加圧によるエネルギーを十分に受けることができない。従って、複合粒子を加圧したとしても、シート状に成形することができない、または、得られるシートが十分な密度および強度を有さずに、いわゆるボソボソ状態となり、良好なシート状に成形することができない。その結果、得られるシートの熱伝導率が低く、熱伝導シートとして高い熱伝導性を発揮することができない。
【0053】
なお、熱伝導シート用複合粒子のSE値は、熱伝導シート用複合粒子の組成および形態を調節することにより制御できる。具体的には、熱伝導シート用複合粒子のSE値は、例えば、熱伝導シート用複合粒子に含まれる粒子状炭素材料および樹脂の種類、性状、配合量;熱伝導シート用複合粒子の粒子径;等を調節することにより適宜制御できる。また、熱伝導シート用複合粒子のSE値は、例えば、後述する複合粒子を得る工程における複合混合物の粉砕条件および分級条件を調節することによっても適宜制御できる。
【0054】
[粒子径]
また、後述する分級方法にてふるい分法を行うことにより熱伝導シート用複合粒子の粒子群の粒子径を調節する場合は、用いるふるいの目開きサイズを100μm以上としてふるい上を採用することが好ましく、150μm以上としてふるい上を採用することがより好ましく、1000μm以下としてふるい下を採用することが好ましく、850μm以下としてふるい下を採用することがより好ましく、500μm以下としてふるい下を採用することが更に好ましい。熱伝導シート用複合粒子の粒子群の粒子径を上記上限以下に調節すれば、SE値が高まり、当該複合粒子を用いて得られる熱伝導シート中の粒子状炭素材料がより良好に配向して所望方向における熱伝導率がより高まるからである。また、熱伝導シート用複合粒子の粒子群の粒子径を上記下限以上に調節すれば、複合粒子の粒子径を過度に小さくすることなく、複合粒子に含まれている粒子状炭素材料同士がより低い界面抵抗で接触して良好な伝熱パスを確保できるからである。
【0055】
(熱伝導シート用複合粒子の製造方法)
本発明の熱伝導シート用複合粒子の製造方法は、粒子状炭素材料および樹脂を含有する複合混合物を準備する工程と、得られた複合混合物を粉砕して所定範囲内のSE値を有する複合粒子を得る工程とを含む。また、本発明の熱伝導シート用複合粒子の製造方法に従えば、例えば、上述した本発明の熱伝導シート用複合粒子を得ることができる。
【0056】
<複合混合物を準備する工程>
複合混合物を準備する工程では、粒子状炭素材料および樹脂を含有する複合混合物を準備する。具体的には、複合混合物を準備する工程では、特に制限されることなく、粒子状炭素材料および樹脂と、任意の繊維状炭素材料および/または添加剤とを、既知の手法で複合化することにより複合混合物を準備してもよい。また、複合混合物を準備する工程では、粒子状炭素材料および樹脂を含有する市販品の複合混合物を購入することにより準備してもよい。上記複合化することにより複合混合物を準備する場合には、より具体的には、例えば、以下の(I)〜(III)の方法を用いることができる。
(I)粒子状炭素材料と、樹脂と、任意の繊維状炭素材料および/または添加剤とを混合、混練して複合混合物を得る。
(II)粒子状炭素材料と、樹脂と、任意の繊維状炭素材料および/または添加剤とを含む分散液を乾燥造粒して複合混合物を得る。
(III)粒子状炭素材料および任意の繊維状炭素材料に樹脂などを噴霧して複合混合物を得る。
中でも、作業の容易性の観点から(I)の方法を用いることが望ましい。
なお、複合混合物を準備する工程で用いる粒子状炭素材料、樹脂、任意の繊維状炭素材料および/または添加剤としては、上述の熱伝導シート用複合粒子が含み得る粒子状炭素材料、樹脂、任意の繊維状炭素材料および/または添加剤と同じ成分を用いることができ、好適な含有割合も同様とすることができる。
【0057】
[混合、混練方法]
混合、混練方法としては、特に限定されることなく、ニーダー、ロール、ヘンシェルミキサー、ホバートミキサー等の既知の混合装置を用いて行うことができる。そして、混合、混練時間は、例えば5分以上6時間以下とすることができる。また、混合、混練温度は、例えば5℃以上150℃以下とすることができる。
ここで、混合、混練は、酢酸エチル等の溶媒の存在下で行ってもよいが、混合、混練時に溶媒を用いる場合には、後述する複合混合物の解砕/粉砕に先立って溶媒を除去することが好ましい。溶媒の除去は既知の乾燥方法にて行ってもよく、複合混合物を任意に脱泡しながら行ってもよい。例えば、真空脱泡を用いて脱泡を行えば、脱泡時に溶媒の除去も同時に行うことができる。
【0058】
[複合混合物]
そして、得られる複合混合物は粒子状炭素材料および樹脂を含み、任意に繊維状炭素材料および添加剤を更に含む。また、複合混合物は、通常、直径1mm〜200mm程度の塊状体である。
【0059】
<複合粒子を得る工程>
複合粒子を得る工程では、得られた複合混合物を任意の方法で粉砕して複合粒子を得る。また、複合粒子を得る工程では、得られた複合混合物を粉砕した後に任意の方法で分級を行って複合粒子を得てもよい。そして、複合粒子を得る工程を経て製造される熱伝導シート用複合粒子は、所定のSE値を有する必要がある。熱伝導シート用複合粒子が所定のSE値を有しなければ、当該複合粒子を用いて得られる熱伝導シートに、面内方向および厚み方向等の所望の方向における高い熱伝導性を発揮させることができない。
【0060】
[粉砕方法]
複合混合物の粉砕は、得られる複合粒子が複合混合物の塊状体よりも粉流体となっていれば特に限定されることなく、既知の方法で行うことができる。また、粉砕に先立ち、塊状体をほぐす解砕などを行っても良い。そして、複合混合物の解砕/粉砕は、例えば、せん断作用や摩砕作用を利用した既知の解砕/粉砕機または撹拌式の既知の解砕/粉砕機等を用いて行うことができる。上述した既知の解砕/粉砕機としては、例えば、ハンマークラッシャー、カッターミル、ハンマーミル、ビーズミル、振動ミル、流星型ボールミル、サンドミル、ボールミル、ロールミル、三本ロールミル、ジェットミル、高速回転式粉砕機、微粉砕機・解砕整粒機、ナノジェットマイザー等を挙げることができる。
これらの解砕/粉砕機の種類、解砕/粉砕に際してのエネルギー、時間などの条件は、複合混合物の塊状体の状態、複合粒子の粒子径などの所望の粉流体状態に合わせて適宜選択、調整すればよい。
【0061】
ここで、複合混合物は、特に制限されることなく、1000μm未満の粒子径にまで粉砕されることが好ましい。
【0062】
[分級方法]
また、複合粒子を得る工程では、複合混合物を粉砕した後に、粉砕された複合混合物をより所望の粒子径範囲の粒子群に選り分けて複合粒子を得るために、分級を行ってもよい。ここで、分級方法としては、特に限定されることなく、例えば、ふるい分法、強制渦流型遠心分級機(ミクロンセパレーター、ターボプレックス、ターボクラシファイアー、スーパーセパレーター)、慣性分級機(改良型バーチュウアルインパクター、エルボジェット)等の気流分級機を使用することができる。また、湿式の沈降分離法、遠心分級法等も使用可能である。また、分級は、上述の解砕/粉砕機の一機能として解砕/粉砕作業と同時に行っても良く、解砕/粉砕作業とは別に行ってもよい。解砕/粉砕作業と同時に行う場合には、例えば、用いる機器に所望のメッシュサイズのスクリーン等を設置して行うことができる。また、解砕/粉砕作業とは別に行う場合には、例えば、作業の簡便性の観点より、所望の目開きを有するふるい分法を行うことができる。
なお、分級温度は、例えば、25℃とすることができる。
【0063】
<熱伝導シート用複合粒子>
[SE値]
そして、複合混合物を準備する工程および複合粒子を得る工程を経て製造される熱伝導シート用複合粒子、つまり、本発明の熱伝導シート用複合粒子の製造方法に従って得られる熱伝導シート用複合粒子は、SE値が6.0mJ/g以上16.0mJ/g以下である必要がある。また、本発明の熱伝導シート用複合粒子の製造方法に従って得られる熱伝導シート用複合粒子の好適なSE値およびその効果は、上述した本発明の熱伝導シート用複合粒子の好適なSE値およびその効果と同様である。
【0064】
[粒子径]
また、本発明の熱伝導シート用複合粒子の製造方法に従って得られる熱伝導シート用複合粒子の好適な粒子径およびその効果も、上述した本発明の熱伝導シート用複合粒子の好適な粒子径およびその効果と同様とすることができる。
ここで、上述した通り、とりわけ、複合粒子を得る工程にて分級を行った場合には、分級後の複合粒子の粒子群の粒子径がある程度小さいほど熱伝導シート用複合粒子のSE値が大きくなり、当該複合粒子を用いて得られる熱伝導シートの熱伝導率も高まる傾向となる。このように、分級後の複合粒子の粒子群の粒子径がある程度小さいほど複合粒子のSE値が大きくなる理由は明らかではないが、より小さな粒子径を有する複合粒子同士では加圧時の相互衝突が増大するため、結果として流動性が低くなるためであると推察される。
【0065】
(熱伝導一次シートの製造方法)
本発明の熱伝導一次シートの製造方法は、上述したいずれかの熱伝導シート用複合粒子、または上述した熱伝導シート用複合粒子の製造方法で得られた熱伝導シート用複合粒子を加圧してシート状に成形する工程を含む。そして、本発明の熱伝導一次シートの製造方法に従って得られる熱伝導一次シートは、粒子状炭素材料および樹脂を含み、且つ所定のSE値を有する熱伝導シート用複合粒子をシート状に加圧することにより成形されているため、シート面内方向(加圧方向と略直交する方向)の熱伝導性に優れている。
【0066】
<複合粒子を加圧してシート状に成形する工程>
複合粒子を加圧してシート状に成形する工程では、上述したいずれかの熱伝導シート用複合粒子、または上述した熱伝導シート用複合粒子の製造方法で得られた熱伝導シート用複合粒子を任意の方法で加圧してシート状に成形することにより、熱伝導一次シートを得る。
【0067】
[加圧方法]
熱伝導シート用複合粒子の加圧方法は、圧力が負荷される成形方法であれば特に限定されない。熱伝導シート用複合粒子は、例えば、プレス成形、圧延成形または押し出し成形などの既知の成形方法を用いてシート状に成形することができる。中でも、熱伝導シート用複合粒子は、圧延成形によりシート状に成形することが好ましく、保護フィルムに挟んだ状態でロール間を通過させてシート状に成形することがより好ましい。なお、保護フィルムとしては、特に限定されることなく、サンドブラスト処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等を用いることができる。また、ロール温度は5℃以上150℃とすることができる。
【0068】
<熱伝導一次シート>
そして、熱伝導シート用複合粒子を加圧してシート状に成形してなる熱伝導一次シートは、粒子状炭素材料および樹脂を含み、且つ、所定のSE値を有する複合粒子を用いて成形しているため、粒子状炭素材料および任意の繊維状炭素材料が主としてシート面内方向に配向し、特に面内方向の熱伝導性が向上すると推察される。従って、例えば、発熱体と熱伝導一次シートとを良好に密着させることにより、発熱体から生じた熱を熱伝導一次シートの面内方向へと効率的に放散させることができる。
【0069】
[熱伝導率]
ここで、熱伝導一次シートの面内方向の熱伝導率は、25℃において、30W/m・K以上であることが好ましく40W/m・K以上であることがより好ましく、50W/m・K以上であることが更に好ましい。熱伝導一次シートの熱伝導率が上記下限以上であれば、例えば、熱伝導一次シートと発熱体とを密着させて使用した場合、発熱体から熱を効率的に放散させることができるからである。また、熱伝導一次シートの熱伝導率が上記下限以上であれば、例えば、後述の通り、熱伝導一次シートを用いて熱伝導二次シートを製造した場合、熱伝導二次シートにより高い熱伝導率を与えることができるからである。
【0070】
[厚み]
なお、熱伝導一次シートの厚みは、特に限定されることなく、例えば、0.05mm以上2mm以下とすることができる。また、熱伝導一次シートの熱伝導性を更に向上させる観点からは、熱伝導一次シートの厚みは、粒子状炭素材料の平均粒子径の5000倍以下であることが好ましい。
【0071】
(熱伝導二次シートの製造方法)
本発明の熱伝導二次シートの製造方法は、本発明の熱伝導一次シートの製造方法に従って得られた熱伝導一次シートを用いて熱伝導シートを製造する方法であり、後述する積層体を得る工程およびスライス工程を含む。そして、本発明の熱伝導二次シートの製造方法に従って得られる熱伝導二次シートは積層体を得る工程およびスライス工程を経ることにより成形されているため、シートの厚み方向(積層方向と略直交する方向)の熱伝導性に優れている。
【0072】
<積層体を得る工程>
積層体を得る工程では、上述した熱伝導一次シートの製造方法で得られた熱伝導一次シートを、熱伝導一次シートの厚み方向に複数枚積層して、或いは、上述した熱伝導一次シートの製造方法で得られた熱伝導一次シートを折畳または捲回することにより、積層体を形成する。
【0073】
[積層方法]
熱伝導一次シートの積層による積層体の形成は、特に限定されることなく、積層装置を用いて行ってもよく、手作業にて行ってもよい。また、熱伝導一次シートの折畳による積層体の形成は、特に限定されることなく、折畳機を用いて熱伝導一次シートを一定幅で折り畳むことにより行うことができる。さらに、熱伝導一次シートの捲回による積層体の形成は、特に限定されることなく、熱伝導一次シートの短手方向または長手方向に平行な軸の回りに熱伝導一次シートを捲き回すことにより行うことができる。
【0074】
ここで、通常、積層体を得る工程において、熱伝導一次シートの表面同士の接着力は、熱伝導一次シートを積層する際の圧力や折畳または捲回する際の圧力により充分に得られる。しかし、接着力が不足する場合や、積層体の層間剥離を十分に抑制する必要がある場合には、熱伝導一次シートの表面を溶剤で若干溶解させた状態で積層体を形成してもよいし、熱伝導一次シートの表面に接着剤を塗布した状態または熱伝導一次シートの表面に接着層を設けた状態で積層体を形成してもよい。
【0075】
なお、熱伝導一次シートの表面を溶解させる際に用いる溶剤としては、特に限定されることなく、熱伝導一次シート中に含まれている樹脂成分を溶解可能な既知の溶剤を用いることができる。
【0076】
また、熱伝導一次シートの表面に塗布する接着剤としては、特に限定されることなく、市販の接着剤や粘着性の樹脂を用いることができる。中でも、接着剤としては、熱伝導一次シート中に含まれている樹脂成分と同じ組成の樹脂を用いることが好ましい。そして、熱伝導一次シートの表面に塗布する接着剤の厚みは、例えば、10μm以上1000μm以下とすることができる。
更に、熱伝導一次シートの表面に設ける接着層としては、特に限定されることなく、両面テープなどを用いることができる。
【0077】
なお、層間剥離を抑制する観点からは、得られた積層体は、積層方向に0.05MPa以上1.0MPa以下の圧力で押し付けながら、20℃以上150℃以下で1分以上30分以下の間プレスすることが好ましい。
【0078】
なお、熱伝導一次シートを積層、折畳または捲回して得られる積層体では、粒子状炭素材料および任意の繊維状炭素材料が積層方向に略直交する方向に配向していると推察される。
【0079】
<スライス工程>
また、スライス工程では、上述の工程で得られた積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスすることにより、積層体のスライス片よりなる熱伝導二次シートを得る。
【0080】
[スライス方法]
積層体をスライスする方法としては、特に限定されることなく、例えば、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法等が挙げられる。中でも、熱伝導二次シートの厚みを均一にし易い点で、ナイフ加工法が好ましい。また、積層体をスライスする際の切断具としては、特に限定されることなく、スリットを有する平滑な盤面と、このスリット部より突出した刃部とを有するスライス部材(例えば、鋭利な刃を備えたカンナやスライサー)を用いることができる。
【0081】
なお、熱伝導二次シートの熱伝導性を高める観点からは、積層体をスライスする角度は、積層方向に対して30°以下であることが好ましく、積層方向に対して15°以下であることがより好ましく、積層方向に対して略0°である(即ち、積層方向に沿う方向である)ことが好ましい。
【0082】
また、積層体を容易にスライスする観点からは、スライスする際の積層体の温度は−20℃以上40℃以下とすることが好ましく、10℃以上30℃以下とすることがより好ましい。更に、同様の理由により、スライスする積層体は、積層方向とは垂直な方向に圧力を負荷しながらスライスすることが好ましく、積層方向とは垂直な方向に0.1MPa以上0.5MPa以下の圧力を負荷しながらスライスすることがより好ましい。
【0083】
<熱伝導二次シート>
そして、上述の通り、本発明の熱伝導二次シートの製造方法に従って得られる熱伝導二次シートは、積層体を得る工程およびスライス工程を経て成形されているため、粒子状炭素材料および任意の繊維状炭素材料が熱伝導二次シートの厚み方向に配向していると推察される。従って、例えば、発熱体と熱伝導二次シートとを良好に密着させることにより、発熱体から生じた熱を熱伝導二次シートの厚み方向へと効率的に放散させることができる。
【0084】
また、上述のように製造した熱伝導二次シートを厚み方向に更に複数枚重ね合わせて、所定の時間静置することによって一体化させたものを、熱伝導二次シートとして使用してもよい。このようにして得られた熱伝導二次シート内では、粒子状炭素材料および任意の繊維状炭素材料が熱伝導二次シートの厚み方向に配向したままであると推察される。従って、上述のように製造した熱伝導二次シートを厚み方向に複数枚重ね合わせて一体化させることにより、厚み方向の熱伝導性を損なうことなく、使用目的に応じて所望の厚みの熱伝導二次シートを得ることができる。
【0085】
[厚み]
また、熱伝導二次シートに高い熱伝導性を発揮させる観点からは、熱伝導二次シートの厚みは、特に限定されることなく、例えば、0.05mm以上10mm以下とすることができる。一般に、熱伝導シートの厚みを大きくし過ぎると熱伝導シートの熱抵抗が高まるため熱伝導性が低下し、また、熱伝導シートの厚みを小さくし過ぎると熱伝導シートが有する熱伝導率を十分に活用することができなくなるからである。
【0086】
(熱伝導シートの用途)
そして、本発明の製造方法に従って得られる熱伝導一次シートおよび熱伝導二次シートは熱伝導性に優れ、通常、強度および導電性にも優れている。従って、当該熱伝導一次シートおよび熱伝導二次シートは、例えば、各種機器および装置などにおいて使用される放熱材料、放熱部品、冷却部品、温度調節部品、電磁波シールド部材、電磁波吸収部材、被圧着物を加熱圧着する場合に被圧着物と加熱圧着装置との間に介在させる熱圧着用ゴムシートとして好適である。
ここで、各種機器および装置などとしては、特に限定されることなく、サーバー、サーバー用パソコン、デスクトップパソコン等の電子機器;ノートパソコン、電子辞書、PDA、携帯電話、ポータブル音楽プレイヤー等の携帯電子機器;液晶ディスプレイ(バックライトを含む)、プラズマディスプレイ、LED、有機EL、無機EL、液晶プロジェクタ、時計等の表示機器;インクジェットプリンタ(インクヘッド)、電子写真装置(現像装置、定着装置、ヒートローラ、ヒートベルト)等の画像形成装置;半導体素子、半導体パッケージ、半導体封止ケース、半導体ダイボンディング、CPU、メモリ、パワートランジスタ、パワートランジスタケース等の半導体関連部品;リジッド配線板、フレキシブル配線板、セラミック配線板、ビルドアップ配線板、多層基板等の配線基板(配線板にはプリント配線板なども含まれる);真空処理装置、半導体製造装置、表示機器製造装置等の製造装置;断熱材、真空断熱材、輻射断熱材等の断熱装置;DVD(光ピックアップ、レーザー発生装置、レーザー受光装置)、ハードディスクドライブ等のデータ記録機器;カメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、顕微鏡、CCD等の画像記録装置;充電装置、リチウムイオン電池、燃料電池等のバッテリー機器等が挙げられる。
【0087】
(熱伝導一次シート付き発熱体の製造方法)
本発明の熱伝導一次シート付き発熱体の製造方法は、発熱体の少なくとも一面に、本発明の熱伝導一次シートの製造方法で得られた熱伝導一次シートを接着する工程を含む。そして、本発明の熱伝導一次シート付き発熱体の製造方法に従って得られる熱伝導一次シート付き発熱体は、上述した熱伝導一次シートを備えているため、良好な放熱特性を発揮することができる。具体的には、本発明の熱伝導一次シート付き発熱体の製造方法に従って得られる熱伝導一次シート付き発熱体では、発熱体から生じた熱を熱伝導一次シートの主に面内方向に効率的に放散することができる。
【0088】
また、本発明の熱伝導一次シート付き発熱体の製造方法に従って得られる熱伝導一次シート付き発熱体では、熱伝導一次シートの発熱体と接していない方の面に、既知の放熱体を更に接着することができる。換言すれば、本発明の熱伝導一次シート付き発熱体の製造方法に従って得られる熱伝導一次シート付き発熱体は、熱伝導一次シートを介して発熱体と放熱体とが密着された、放熱装置の一部を構成することができる。そして、当該放熱装置は、本発明の熱伝導一次シート付き発熱体の製造方法に従って得られる熱伝導一次シート付き発熱体を備えているため、発熱体から放熱体へと良好に放熱させることができる。
【0089】
<熱伝導一次シートを接着する工程>
熱伝導一次シートを接着する工程では、発熱体の少なくとも一面に、上述した熱伝導一次シートの製造方法で得られた熱伝導一次シートを接着することにより、熱伝導一次シート付き発熱体を得る。
【0090】
[発熱体]
発熱体としては、電子機器などの各種機器および装置において熱を発すれば特に制限されず、例えば、上述した熱伝導シートの用途にて例示した各種機器および装置、並びにこれらの機器および装置が有する各種発熱部分が挙げられる。
【0091】
[接着方法]
熱伝導一次シートを発熱体に接着する方法は特に制限されず、既知の方法を用いることができる。
ここで、熱伝導一次シートを接着させる発熱体の面としては、特に限定されないが、熱伝導一次シートが有する熱伝導性をより効率的に活用する観点からは、発熱体において最も温度が高くなる熱源部位に近い面とすることが好ましい。また、熱伝導一次シートが有する熱伝導性をより効率的に活用する観点からは、接着剤などの媒体を介することなく、熱伝導一次シートを発熱体に直接接着することが好ましい。
また、熱伝導一次シートと発熱体とを良好に接着させる観点からは、熱伝導一次シートおよび発熱体を充分に密着させた状態で固定することが好ましい。良好な密着性を持続させる観点、および作業の簡易性の観点からは、接着方法としては、任意の力で任意の時間、加圧しながら接着する方法を挙げることができる。
そして、接着温度は、例えば、10℃以上100℃以下とすることができる。
【0092】
(積層シート付き発熱体の製造方法)
本発明の積層シート付き発熱体の製造方法は、発熱体の少なくとも一面に、上述の製造方法で得られた熱伝導一次シートおよび上述の製造方法で得られた熱伝導二次シートを有する積層シートを接着する工程を含む。ここで、発熱体は、積層シートのうち熱伝導一次シート側と接していてもよく、積層シートのうち熱伝導二次シート側と接していてもよい。換言すれば、本発明の積層シート付き発熱体の製造方法に従って得られる積層シート付き発熱体は、例えば、発熱体/熱伝導一次シート/熱伝導二次シートの順に接着された構造を有してもよく、発熱体/熱伝導二次シート/熱伝導一次シートの順に接着された構造を有してもよい。そして、本発明の積層シート付き発熱体の製造方法に従って得られる積層シート付き発熱体は、上述した熱伝導一次シートおよび熱伝導二次シートを備えているため、良好な放熱特性を発揮することができる。具体的には、本発明の積層シート付き発熱体の製造方法に従って得られる積層シート付き発熱体では、発熱体から生じた熱を、順番を問わず、熱伝導一次シートの主に面内方向および熱伝導二次シートの主に厚み方向に効率的に伝えて放散することができる。
【0093】
また、本発明の積層シート付き発熱体の製造方法に従って得られる積層シート付き発熱体では、積層シートの発熱体と接していない方の面に、既知の放熱体を更に接着することができる。換言すれば、本発明の積層シート付き発熱体の製造方法に従って得られる積層シート付き発熱体は、熱伝導一次シートおよび熱伝導二次シートを介して発熱体と放熱体とが密着された、放熱装置の一部を構成することができる。そして、当該放熱装置は、本発明の積層シート付き発熱体の製造方法に従って得られる積層シート付き発熱体を備えているため、発熱体から放熱体へと良好に放熱させることができる。
【0094】
<積層シートを接着する工程>
積層シートを接着する工程では、発熱体の少なくとも一面に、上述した熱伝導一次シートの製造方法で得られた熱伝導一次シートおよび上述した熱伝導二次シートの製造方法で得られた熱伝導二次シートを有する積層シートを接着することにより、積層シート付き発熱体を得る。ここで、発熱体への積層シートの接着に際しては、例えば、予め熱伝導一次シートおよび熱伝導二次シートを積層して積層シートを形成し、形成した積層シートを発熱体に接着させてもよいし;発熱体に熱伝導一次シートまたは熱伝導二次シートを先に接着させ、続けて熱伝導二次シートまたは熱伝導一次シートを接着させてもよい。また、積層シートは熱伝導一次シートおよび熱伝導二次シートを1枚ずつ有していてもよいし、任意の積層順で複数枚有していてもよい。
【0095】
[発熱体]
発熱体としては、特に制限されず、例えば、上述した熱伝導一次シート付き発熱体が備える発熱体と同様のものを挙げることができる。
【0096】
[接着方法]
積層シートを発熱体に接着させる方法は特に制限されず、例えば、上述した熱伝導一次シート付き発熱体の製造方法で説明した接着方法と同様の方法を用いることができる。
【実施例】
【0097】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、実施例および比較例において、熱伝導シート用複合粒子中の粒子状炭素材料の含有割合および体積基準モード径;熱伝導シート用複合粒子のSE値;熱伝導一次シートの熱伝導率;は、それぞれ以下の方法を使用して測定、算出した。
【0098】
<粒子状炭素材料の含有割合>
熱伝導シート用複合粒子中の粒子状炭素材料の含有割合には、体積分率での理論値を用いた。具体的には、熱伝導シート用複合粒子に含まれる粒子状炭素材料、樹脂、並びに任意の繊維状炭素材料および添加剤の各成分について、密度(g/cm
3)と配合量(g)とから体積(cm
3)を算出し、熱伝導シート用複合粒子中の粒子状炭素材料の含有割合を体積分率(体積%)で求めた。
【0099】
<熱伝導シート用複合粒子中の粒子状炭素材料の体積基準モード径>
熱伝導シート用複合粒子1gをメチルエチルケトン溶媒中に入れ、樹脂成分を溶解することにより、粒子状炭素材料を分離分散させた懸濁液を得た。次に、得られた懸濁液を試料とし、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製、型式「LA960」)を用いて、懸濁液に含まれる粒子状炭素材料の粒子径を測定した。そして、得られた粒子径を横軸とし、粒子状炭素材料の体積を縦軸とした粒子径分布曲線の極大値における粒子径を体積基準モード径(μm)として求めた。
【0100】
<熱伝導シート用複合粒子のSE値>
まず、粉体流動性分析装置(シスメックス社製、製品名「パウダーレオメータ FT4」、ブレード2枚および200ml容器付き)を用いて、熱伝導シート用複合粒子の流動エネルギー(mJ)を測定した。なお、測定された流動エネルギーは、上記分析装置のブレードが複合粒子中を移動する際にブレードに作用するトルクと加重から算出した仕事量に相当する。そして、得られた流動エネルギーを、測定に用いた熱伝導シート用複合粒子の質量(g)で除することにより、熱伝導シート用複合粒子のSE値(mJ/g)を算出した。算出されたSE値は、主にせん断による仕事量を反映した値となり、SE値が大きいほど熱伝導シート用複合粒子の流動性が低いことを示す。
【0101】
<熱伝導一次シートの熱伝導率>
熱伝導一次シートについて、面内方向の熱拡散率α(m
2/s)、定圧比熱Cp(J/g・K)および比重ρ(g/m
3)を以下の方法で測定した。
[熱拡散率α]
熱物性測定装置(株式会社ベテル製、製品名「サーモウェーブアナライザTA35」)を使用して、温度25℃における熱拡散率を測定した。
[定圧比熱Cp]
示差走査熱量計(Rigaku製、製品名「DSC8230」)を使用し、10℃/分の昇温条件下、温度25℃における比熱を測定した。
[比重ρ]
自動比重計(東洋精機社製、製品名「DENSIMETER−H」)を用いて、温度25℃における比重を測定した。
そして、得られた測定値を用いて下記式(I):
λ=α×Cp×ρ ・・・(I)
より、25℃における熱伝導一次シートの熱伝導率λ(W/m・K)を求めた。
【0102】
(実施例1)
<CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体の調製>
国際公開第2006/011655号の記載に従って、スーパーグロース法によってSGCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体を得た。
得られた繊維状の炭素ナノ構造体はBET比表面積が800m
2/gであった。また、透過型電子顕微鏡を用い、無作為に選択した100本の繊維状の炭素ナノ構造体の直径を測定した結果、平均直径(Av)が3.3nm、直径の標本標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)が1.9nm、それらの比(3σ/Av)が0.58であった。また、得られた繊維状の炭素ナノ構造体は、主に単層CNT(「SGCNT」とも称する)により構成されていた。
【0103】
<繊維状の炭素ナノ構造体の易分散性集合体の調製>
[分散液の調製]
繊維状炭素材料としての、上述で得られた繊維状の炭素ナノ構造体を400mg量り取り、溶媒としてのメチルエチルケトン2L中に混ぜ、ホモジナイザーにより2分間撹拌し、粗分散液を得た。次に、湿式ジェットミル(株式会社常光製、製品名「JN−20」)を使用し、得られた粗分散液を湿式ジェットミルの0.5mmの流路に100MPaの圧力で2サイクル通過させて、繊維状炭素ナノ構造体をメチルエチルケトンに分散させた。そして、固形分濃度0.20質量%の分散液を得た。
[溶媒の除去]
その後、上述で得られた分散液をキリヤマろ紙(No.5A)を用いて減圧ろ過し、シート状の易分散性集合体を得た。
【0104】
<熱伝導シート用複合粒子の製造>
[複合混合物を準備する工程]
粒子状炭素材料としての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業社製、商品名「EC−50」、平均粒子径:250μm)を130部と、繊維状炭素材料としての炭素ナノ構造体の易分散性集合体を1部と、樹脂としての常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業社製、商品名「ダイエルG−912」、ムーニー粘度:87.6ML
1+4、100℃)を80部と、難燃剤としてのリン酸エステル(味の素ファインテクノ社製、商品名「レオフォス」)を10部とを、ニーダー(井上製作所製)を用いて、温度50℃にて30分間撹拌しながら混合、混練することにより、粒子状炭素材料、樹脂、繊維状炭素材料および難燃剤を含有する複合混合物を得た。
[複合粒子を得る工程]
次に、上述で得られた複合混合物を粉砕機(三庄インダストリー社製、製品名「ハンマークラッシャーHN34S」)に投入し、10秒間粉砕することにより、粒子状炭素材料、樹脂、繊維状炭素材料および難燃剤を含有する熱伝導シート用複合粒子を得た。
そして、得られた熱伝導シート用複合粒子について、上述の方法に従い、熱伝導シート用複合粒子中の粒子状炭素材料の体積基準モード径、および熱伝導シート用複合粒子のSE値を測定した。結果を表1に示す。
【0105】
<熱伝導一次シートの製造>
[複合粒子を加圧してシート状に成形する工程]
続いて、上述で得られた熱伝導シート用複合粒子5gを、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのPETフィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙550μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形することにより、厚み0.5mmの熱伝導一次シートを得た。
そして、得られた熱伝導一次シートについて、上述の方法に従い、面内方向の熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0106】
<熱伝導二次シートの製造>
[積層体を得る工程]
また、上述で得られた熱伝導一次シートを縦6cm×横6cm×厚み0.5mmに裁断し、厚み方向に120枚積層し、温度120℃で3分間、0.1MPaでプレスすることにより、厚みが約6cmの積層体を得た。
[スライス工程]
そして、上記積層体の積層断面を、0.3MPaの圧力で押し付けながら、木工用スライサー(丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカS」)を用いて、積層方向に対して0度の角度でスライス(換言すれば、積層された熱伝導一次シートの主面の法線方向にスライス)し、縦6cm×横6cm×厚み150μmの熱伝導二次シートを得た。ここで、木工用スライサーのナイフは、2枚の片刃が、切刃の反対側同士で接触し、表刃の刃先の最先端が裏刃の刃先の最先端よりも0.5mm高くスリット部からの突出長さ0.11mmに配置され、表刃の刃角21°である2枚刃のものを用いた。
【0107】
(実施例2)
複合粒子を得る工程において、複合混合物を粉砕した後に、ふるい(東京スクリーン製、目開き:500μmおよび850μm)を用いて分級し、目開き500μmのふるい上および目開き850μmのふるい下からなる熱伝導シート用複合粒子を得た以外は実施例1と同様にして、熱伝導シート用複合粒子、熱伝導一次シートおよび熱伝導二次シートを製造した。
そして、実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0108】
(実施例3)
複合粒子を得る工程において、複合混合物を粉砕した後に、ふるい(東京スクリーン製、目開き:250μmおよび500μm)を用いて分級し、目開き250μmのふるい上および目開き500μmのふるい下からなる熱伝導シート用複合粒子を得た以外は実施例1と同様にして、熱伝導シート用複合粒子、熱伝導一次シートおよび熱伝導二次シートを製造した。
そして、実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0109】
(実施例4)
複合粒子を得る工程において、複合混合物を粉砕した後に、ふるい(東京スクリーン製、目開き:150μmおよび250μm)を用いて分級し、目開き150μmのふるい上および目開き250μmのふるい下からなる熱伝導シート用複合粒子を得た以外は実施例1と同様にして、熱伝導シート用複合粒子、熱伝導一次シートおよび熱伝導二次シートを製造した。
そして、実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0110】
(実施例5)
複合混合物を準備する工程において、樹脂を、実施例1とは異なる種類の常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(ケマーズ製、商品名「A―100」、ムーニー粘度:30.2ML
1+4、100℃)に変更した以外は実施例1と同様にして、熱伝導シート用複合粒子、熱伝導一次シートおよび熱伝導二次シートを製造した。
そして、実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0111】
(実施例6)
複合混合物を準備する工程において、粒子状炭素材料としての膨張化黒鉛の配合量を100部に変更した。また、樹脂を、実施例1とは異なる種類の常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(ケマーズ製、商品名「A―100」、ムーニー粘度:30.2ML
1+4、100℃)に変更した以外は実施例1と同様にして、熱伝導シート用複合粒子、熱伝導一次シートおよび熱伝導二次シートを製造した。
そして、実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0112】
(実施例7)
複合混合物を準備する工程において、粒子状炭素材料としての膨張化黒鉛の配合量を160部に変更した。また、樹脂を、常温常圧下で固体の熱可塑性シリコーンゴム(信越化学工業製、商品名「KE−931−U」、ムーニー粘度:15.0 ML
1+4、100℃)に変更した以外は実施例1と同様にして、熱伝導シート用複合粒子、熱伝導一次シートおよび熱伝導二次シートを製造した。
そして、実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0113】
(比較例1)
複合混合物を準備する工程において、粒子状炭素材料としての膨張化黒鉛の配合量を70部に変更した。また、樹脂を、実施例1とは異なる種類の常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(ケマーズ製、商品名「A―100」、ムーニー粘度:30.2ML
1+4、100℃)に変更した以外は実施例1と同様にして、熱伝導シート用複合粒子、熱伝導一次シートおよび熱伝導二次シートを製造した。
そして、実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0114】
(比較例2)
複合混合物を準備する工程において、樹脂を、常温常圧下で固体の熱可塑性ニトリルゴム(日本ゼオン社製、商品名「Nipol(登録商標) DN3335」、ムーニー粘度:35.0 ML
1+4、100℃)に変更した以外は実施例1と同様にして、熱伝導シート用複合粒子、熱伝導一次シートおよび熱伝導二次シートを製造した。
そして、実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0115】
(比較例3)
複合混合物を準備する工程において、粒子状炭素材料としての膨張化黒鉛の配合量を220部に変更した。また、樹脂を、常温常圧下で固体の熱可塑性ニトリルゴム(日本ゼオン社製、商品名「Nipol(登録商標) DN3335」、ムーニー粘度:35.0 ML
1+4、100℃)に変更した以外は実施例1と同様にして、熱伝導シート用複合粒子、熱伝導一次シートおよび熱伝導二次シートを製造した。
そして、実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
表1より、粒子状炭素材料および樹脂を含み、且つ、SE値が6.0mJ/g以上16.0mJ/g以下である熱伝導シート用複合粒子を用いた実施例1〜7では、熱伝導シート用複合粒子のSE値が上記範囲外である比較例1〜3と比べ、熱伝導一次シートの面内方向における熱伝導率に優れていることが分かる。
また、分級を行って熱伝導シート用複合粒子を準備した実施例2〜4においては、複合粒子の粒子群の粒子径が小さいほどSE値が大きくなり、熱伝導一次シートの面内方向における熱伝導率が高まっている傾向が見られた。
更に、より低いムーニー粘度を有する常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂を用いた実施例5〜6では、より高いムーニー粘度を有する常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂を用いた実施例1〜4と比べ、SE値が大きくなる傾向が見られた。