(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炭素材料の含有割合が、前記フッ素樹脂および前記炭素材料の合計含有量100質量%に対して70質量%以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の複合シート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の複合シートは、例えば、加熱装置および固定具を用いて材料同士を接合・接着させる熱圧着方式において、材料と固定具との間に介在させる熱圧着用シートとして使用することができる。具体的には、本発明の複合シートは、例えば、加熱装置および固定具の間で、第一の材料と第二の材料とを任意に接着剤を介して熱圧着する際に、加熱装置および固定具の間に配置された、第一の材料、任意の接着剤および第二の材料を有する積層体と、固定具との間に介在される熱圧着用シートとして好適に使用することができる。換言すれば、本発明の複合シートは、例えば、加熱装置/第一の材料、第二の材料および任意の接着剤を有する積層体/熱圧着用シート/固定具、の構造体において、当該熱圧着用シートとして好適に使用することができる。なお、本発明の複合シートは、上記用途に限定されることはない。例えば、本発明の複合シートは、半導体素子等の熱源とヒートシンク等の放熱部材との間に配置される熱伝導シートとして使用することができる。
そして、本発明の複合シートは、フッ素樹脂および炭素材料を含み所定の硬度および熱伝導率を有すれば特に限定されず、任意の方法により製造することができる。
また、本発明の熱圧着方法は、例えば、本発明の複合シートを、被熱圧着物である材料と固定具との間に介在させて行うことができる。
【0019】
(複合シート)
本発明の複合シートは、フッ素樹脂および炭素材料を含み、所定範囲内の硬度および厚み方向における所定以上の熱伝導率を有することを特徴とする。複合シートがフッ素樹脂を含まなければ、例えば、複合シートを熱圧着用シートとして使用する際の繰り返し耐久性が十分に得られない。また、複合シートが炭素材料を含まない、および/または、所定以上の熱伝導率を有さなければ、複合シートが優れた放熱性を発揮することができず、例えば、複合シートを熱圧着用シートとして用いた際に、被熱圧着物である材料からの放熱を良好にして材料表面の変色等を防止することができない。更に、複合シートの硬度が所定超と高すぎると、例えば、振動を伴う加熱を施して固定具よりも低い硬度を有する材料同士を熱圧着する際の熱圧着用シートとして用いた場合に、固定具との衝突による材料表面の損傷を防止することができない。加えて、複合シートの硬度が所定以下と低すぎると、複合シートが過度に柔らかくなり、例えば、複合シートを熱圧着用シートとして用いた場合に、被熱圧着物である材料表面に複合シートが溶解付着して汚染する虞がある。
【0020】
<フッ素樹脂>
ここで、フッ素樹脂としては、特に限定されることなく、例えば、フッ素含有モノマーを重合して得られるエラストマーなどの、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂;常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂;などが挙げられる。また、これらのフッ素樹脂は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよいが、耐久性を確保しつつ、複合シートに柔軟性を付与してより適度な硬度に調節する観点からは、少なくとも常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂を用いることが好ましく、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂および常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂を併用することがより好ましい。
なお、本明細書において、「常温」とは23℃を指し、「常圧」とは、1atm(絶対圧)を指す。
また、本発明において、ゴム及びエラストマーは、「樹脂」に含まれるものとする。
【0021】
[常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂]
より具体的には、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソール共重合体、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレンのアクリル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエステル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエポキシ変性物およびポリテトラフルオロエチレンのシラン変性物等が挙げられる。
これらの中でも、加工性の観点から、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレンのアクリル変性物、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体が好ましい。また、これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
市販されている常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、ダイキン工業株式会社製のダイエル(登録商標)G−300シリーズ/G−700シリーズ/G−7000シリーズ(ポリオール加硫・ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン2元系共重合体)、ダイエルG−550シリーズ/G−600シリーズ(ポリオール加硫・ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン3元系共重合体)、ダイエルG−800シリーズ(パーオキサイド加硫・ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン2元系共重合体)、ダイエルG−900シリーズ(パーオキサイド加硫・ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン3元系共重合体);ALKEMA社製のKYNAR(登録商標)シリーズ(フッ化ビニリデン系フッ素樹脂)、KYNAR FLEX(登録商標)シリーズ(ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン3元系共重合体);などが挙げられる。
【0023】
[常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂]
また、市販されている常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、ダイキン工業株式会社製のダイエル(登録商標)G−101(2元系フッ素ゴム)等が挙げられる。
そして、混練性、流動性、架橋反応性が良好で、成形性にも優れるという点からは、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂の粘度は、特には限定されないが、105℃における粘度が、500mPa・s〜30,000mPa・sであることが好ましく、550mPa・s〜25,000mPa・sであることがより好ましい。
なお、本明細書において、「粘度」は、温度105℃、1atmの環境下、回転数6rpmの条件にて、粘度計を用いて測定することができる。
【0024】
[配合比]
また、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂および常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂を併用する場合の配合比(常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂:常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂)は、質量比で、30以上:70以下であることが好ましく、40以上:60以下であることがより好ましく、80以下:20以上であることが好ましく、70以下:30以上であることがより好ましく、60以下:40以上であることが更に好ましい。常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂の配合比を上記下限以上にして常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂の配合比を上記上限以下にすれば、例えば、熱圧着用シートとしての複合シートを過度に柔らかくせず、適度な硬度および繰り返し耐久性をより良好にできるからである。また、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂の配合比を上記下限以上にして常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂の配合比を上記上限以下にすれば、例えば、熱圧着用シートとしての複合シートの繰り返し耐久性を確保しつつ、熱圧着に伴う振動等によって被熱圧着物である材料の表面が損傷されることを防止し得る適度な硬度を得られるからである。
【0025】
[フッ素樹脂の含有割合]
そして、複合シート中のフッ素樹脂の含有割合は、フッ素樹脂および後述する炭素材料の合計含有量100質量%に対して、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。フッ素樹脂の含有割合が上記下限以上であれば、例えば、複合シートを熱圧着用シートとして用いた際の繰り返し耐久性がより向上し、耐熱性、耐油性および耐薬品性も良好になるからである。加えて、複合シートの柔軟性が高まるため、例えば、複合シートを熱圧着用シートとして用いた際に、熱圧着に伴う振動等によって被熱圧着物である材料表面が損傷されることを防止できるよう硬度を容易に調整し得るからである。なお、フッ素樹脂の含有割合が30質量%未満であると、以下の通り複合シートの熱伝導率自体は向上するものの、後述する炭素材料を複合シート内に留める力が弱くなるため、例えば、粒子状炭素材料等の炭素材料の粉落ちが生じる。
また、フッ素樹脂の含有割合が上記上限以下であれば、複合シートの熱伝導率がより向上すると共に、例えば、複合シートを熱圧着用シートとして用いた際に、被熱圧着物である材料の表面が加熱で溶解された複合シートによって汚染されることを防止できるからである。
【0026】
<その他の樹脂>
また、本発明の複合シートは、上記フッ素樹脂に加え、本発明の目的を損なわない範囲でフッ素樹脂以外の任意のその他の樹脂を更に含んでいてもよい。
そして、複合シートがその他の樹脂を更に含む場合は、その他の樹脂の含有割合は、複合シートに含まれている全樹脂(フッ素樹脂およびその他の樹脂)の合計100質量%中、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。
【0027】
<炭素材料>
炭素材料としては、特に限定されることなく、既知の炭素材料を用いることができる。具体的には、炭素材料としては、粒子状炭素材料、繊維状炭素材料などを用いることができる。なお、粒子状炭素材料および繊維状炭素材料は、何れか一方を単独で使用してもよいし、両方を併用してもよいが、複合シートの熱伝導性を容易に高める観点からは、少なくとも粒子状炭素材料を使用することが好ましい。つまり、炭素材料が少なくとも粒子状炭素材料を含有することが好ましい。また、複合シートの熱伝導性をより高めつつ、複合シートから粒子状炭素材料が粉落ちすることを防止する観点からは、粒子状炭素材料および繊維状炭素材料を併用することがより好ましい。つまり、炭素材料が粒子状炭素材料に加え繊維状炭素材料を更に含有することがより好ましい。
【0028】
[炭素材料の含有割合]
そして、複合シート中の炭素材料の含有割合は、上述したフッ素樹脂および炭素材料の合計含有量100質量%に対して、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。複合シート中の炭素材料の含有割合が上記下限以上であれば、複合シート中で炭素材料がより良好に配向し、炭素材料同士が接触して良好な伝熱パスを形成する。その結果、複合シートにより高い熱伝導性を発揮させることができるからである。また、炭素材料の含有割合が上記上限以下であれば、複合シートに柔軟性を付与することで硬度をより容易に調整できるからである。
【0029】
[粒子状炭素材料]
粒子状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック;などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
中でも、粒子状炭素材料としては、膨張化黒鉛を用いることが好ましい。膨張化黒鉛を使用すれば、複合シートの熱伝導性を更に向上させることができるからである。
なお、本発明において、複合シートに含まれている粒子状炭素材料のアスペクト比(長径/短径)は通常、1以上10以下であり、1以上5以下であることが好ましい。なお、本発明において、「アスペクト比」は、複合シートの厚み方向における断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の粒子状炭素材料について、最大径(長径)と、最大径に直交する方向の粒子径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0030】
[[膨張化黒鉛]]
ここで、粒子状炭素材料として好適に使用し得る膨張化黒鉛は、例えば、鱗片状黒鉛などの黒鉛を硫酸などで化学処理して得た膨張性黒鉛を、熱処理して膨張させた後、微細化することにより得ることができる。そして、本発明の複合シートに配合する膨張化黒鉛としては、例えば、伊藤黒鉛工業社製の、EC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0031】
[[粒子状炭素材料の粒子径]]
複合シート中の粒子状炭素材料の粒子径は、体積基準のモード径が100μm以上であることが好ましく、150μm以上であることがより好ましく、300μm以下であることが好ましい。粒子状炭素材料の粒子径が上記下限以上であれば、複合シート中で粒子状炭素材料同士が接触して良好な伝熱パスを形成するため、複合シートにより高い熱伝導性を発揮させることができるからである。また、粒子状炭素材料の粒子径が上記上限以下であれば、複合シートに柔軟性を付与することで硬度をより容易に調整できるからである。
なお、本発明において、「体積基準のモード径」は、例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することができる。複合シートに含まれている粒子状炭素材料の体積基準のモード径を測定するには、具体的には、複合シートをメチルエチルケトン溶媒に溶解させて粒子状炭素材料を含有する懸濁液を得る。そして、得られた懸濁液中に含まれる粒子状炭素材料の粒子径を測定し、横軸を粒子径、縦軸を粒子状炭素材料の存在比率(体積基準)とした粒子径分布曲線を得ることにより、当該粒子径分布曲線の極大値における粒子径を体積基準のモード径として求めることができる。
【0032】
[[粒子状炭素材料の含有割合]]
そして、炭素材料中の粒子状炭素材料の含有割合は、0質量%超であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、99.5質量%以上であることが一層好ましく、100質量%以下とすることができ、99.9質量%以下であることが好ましい。炭素材料中の粒子状炭素材料の含有割合が上記下限以上であれば、複合シート中で粒子状炭素材料がより良好に配向し、粒子状炭素材料同士が接触して良好な伝熱パスを形成する。その結果、複合シートにより高い熱伝導性を発揮させることができるからである。また、粒子状炭素材料の含有割合が99.9質量%以下であれば、複合シートからの粒子状炭素材料の粉落ちを防止し得るからである。
【0033】
[繊維状炭素材料]
本発明の複合シートは、炭素材料が繊維状炭素材料を含有することが好ましく、上述した粒子状炭素材料と共に繊維状炭素材料を併用することがより好ましい。
ここで、繊維状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、有機繊維を炭化して得られる炭素繊維、およびそれらの切断物などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
そして、本発明の複合シートに繊維状炭素材料を含有させれば、複合シートの熱伝導性を更に向上させることができると共に、粒子状炭素材料と併用した際に粒子状炭素材料の粉落ちをより防止することもできる。なお、繊維状炭素材料を配合することで粒子状炭素材料の粉落ちを防止することができる理由は、明らかではないが、繊維状炭素材料が三次元網目構造を形成することにより、熱伝導性や強度を高めつつ粒子状炭素材料の脱離を防止しているためであると推察される。
【0034】
上述した中でも、繊維状炭素材料としては、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体を用いることがより好ましい。カーボンナノチューブなどの繊維状炭素ナノ構造体を使用すれば、本発明の複合シートの熱伝導性および強度を更に向上させることができるからである。
【0035】
[[カーボンナノチューブを含む繊維状の炭素ナノ構造体]]
ここで、繊維状炭素材料として好適に使用し得る、カーボンナノチューブを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)のみからなるものであってもよいし、CNTと、CNT以外の繊維状の炭素ナノ構造体との混合物であってもよい。
なお、繊維状の炭素ナノ構造体中のCNTとしては、特に限定されることなく、単層カーボンナノチューブおよび/または多層カーボンナノチューブを用いることができるが、CNTは、単層から5層までのカーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。単層カーボンナノチューブを使用すれば、多層カーボンナノチューブを使用した場合と比較し、複合シートの熱伝導性および強度を更に向上させることができるからである。
【0036】
また、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体としては、平均直径(Av)に対する、直径の標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)の比(3σ/Av)が0.20超0.60未満の炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、3σ/Avが0.25超の炭素ナノ構造体を用いることがより好ましく、3σ/Avが0.50超の炭素ナノ構造体を用いることが更に好ましい。3σ/Avが0.20超0.60未満のCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体を使用すれば、炭素ナノ構造体の配合量が少量であっても、複合シートの熱伝導性および強度を十分に高めることができるからである。従って、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体の配合により複合シートの硬度が上昇する(即ち、柔軟性が低下する)のを抑制して、複合シートの熱伝導性および適度な硬度を十分に高いレベルで並立させることができるからである。
なお、「繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)」および「繊維状の炭素ナノ構造体の直径の標準偏差(σ:標本標準偏差)」は、それぞれ、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した繊維状の炭素ナノ構造体100本の直径(外径)を測定して求めることができる。そして、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)および標準偏差(σ)は、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体の製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られたCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体を複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0037】
そして、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体としては、前述のようにして測定した直径を横軸に、その頻度を縦軸に取ってプロットし、ガウシアンで近似した際に、正規分布を取るものが通常使用される。
【0038】
更に、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、ラマン分光法を用いて評価した際に、Radial Breathing Mode(RBM)のピークを有することが好ましい。なお、三層以上の多層カーボンナノチューブのみからなる繊維状の炭素ナノ構造体のラマンスペクトルには、RBMが存在しない。
【0039】
また、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)が1.0以上20以下であることが好ましい。G/D比が1.0以上20以下であれば、繊維状の炭素ナノ構造体の配合量が少量であっても複合シートの熱伝導性および強度を十分に高めることができる。従って、繊維状の炭素ナノ構造体の配合により複合シートの柔軟性が大きく低下するのを抑制して、複合シートの熱伝導性および適度な硬度を十分に高いレベルで並立させることができる。
【0040】
更に、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることが更に好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が0.5nm以上であれば、繊維状の炭素ナノ構造体の凝集を抑制して炭素ナノ構造体の分散性を高めることができるからである。また、繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が15nm以下であれば、複合シートの熱伝導性および強度を十分に高めることができるからである。
【0041】
また、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、合成時における構造体の平均長さが100μm以上5000μm以下であることが好ましい。なお、合成時の構造体の長さが長いほど、分散時にCNTに破断や切断などの損傷が発生し易いので、合成時の構造体の平均長さは5000μm以下であることが好ましい。
【0042】
更に、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体のBET比表面積は、600m
2/g以上であることが好ましく、800m
2/g以上であることが更に好ましく、2500m
2/g以下であることが好ましく、1200m
2/g以下であることが更に好ましい。更に、繊維状の炭素ナノ構造体中のCNTが主として開口したものにあっては、BET比表面積が1300m
2/g以上であることが好ましい。CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体のBET比表面積が600m
2/g以上であれば、複合シートの熱伝導性および強度を十分に高めることができるからである。また、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体のBET比表面積が2500m
2/g以下であれば、繊維状の炭素ナノ構造体の凝集を抑制して複合シート中のCNTの分散性を高めることができるからである。
なお、本発明において、「BET比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
【0043】
更に、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、後述のスーパーグロース法によれば、カーボンナノチューブ成長用の触媒層を表面に有する基材上に、基材に略垂直な方向に配向した集合体(配向集合体)として得られるが、当該集合体としての、繊維状の炭素ナノ構造体の質量密度は、0.002g/cm
3以上0.2g/cm
3以下であることが好ましい。質量密度が0.2g/cm
3以下であれば、繊維状の炭素ナノ構造体同士の結びつきが弱くなるので、複合シート中で繊維状の炭素ナノ構造体を均質に分散させることができる。また、質量密度が0.002g/cm
3以上であれば、繊維状の炭素ナノ構造体の一体性を向上させ、バラけることを抑制できるためハンドリングが容易になる。
【0044】
そして、上述した性状を有するCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、例えば、カーボンナノチューブ製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物およびキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)に準じて、効率的に製造することができる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
【0045】
ここで、スーパーグロース法により製造したCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTに加え、例えば、非円筒形状の炭素ナノ構造体等の他の炭素ナノ構造体が含まれていてもよい。
【0046】
[[繊維状炭素材料の性状]]
そして、複合シートに含まれ得る繊維状炭素材料の平均繊維径は、1nm以上であることが好ましく、3nm以上であることがより好ましく、2μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。繊維状炭素材料の平均繊維径が上記範囲内であれば、複合シートの熱伝導性、適度な硬度および強度を十分に高いレベルで並立させることができるからである。
【0047】
なお、本発明において、「平均繊維径」は、複合シートの厚み方向における断面をSEM(走査型電子顕微鏡)又はTEM(透過型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の繊維状炭素材料について繊維径を測定し、測定した繊維径の個数平均値を算出することにより求めることができる。特に、繊維径が小さい場合は、同様の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)にて観察することが好適である。
【0048】
[[繊維状炭素材料の含有割合]]
そして、炭素材料中の繊維状炭素材料の含有割合は、0質量%とすることができ、0.1質量%以上であることが好ましく、100質量%未満であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、0.5質量%以下であることが一層好ましい。炭素材料中の繊維状炭素材料の含有割合が上記下限以上であれば、複合シートの熱伝導性および強度を十分に向上させることができると共に、粒子状炭素材料と併用した際に粒子状炭素材料の粉落ちを十分に防止することができるからである。また、繊維状炭素材料の含有割合が上記上限以下であれば、繊維状炭素材料の配合により複合シートの硬度が過度に上昇する(即ち、柔軟性が過度に低下する)のを抑制して、例えば、本発明の複合シートを材料同士の熱圧着用シートとして使用した際に、材料の表面の損傷を十分に防止することができるからである。
【0049】
<添加剤>
本発明の複合シートには、必要に応じて、複合シートの形成に使用され得る既知の添加剤を配合することができる。そして、複合シートに配合し得る添加剤としては、特に限定されることなく、例えば、セバシン酸エステルといった脂肪酸エステルなどの可塑剤;赤りん系難燃剤、りん酸エステル系難燃剤などの難燃剤;ウレタンアクリレートなどの靭性改良剤;酸化カルシウム、酸化マグネシウムなどの吸湿剤;シランカップリング剤、チタンカップリング剤、酸無水物などの接着力向上剤;ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などの濡れ性向上剤;無機イオン交換体などのイオントラップ剤;等が挙げられる。
また、本発明の目的を損なわない範囲で既知の架橋剤および/または重合開始剤を配合してもよい。
【0050】
上述した中でも、複合シートの硬度を容易に調節する観点からは、可塑剤としては脂肪酸エステルを配合することが好ましく、セバシン酸エステルを配合することがより好ましい。
【0051】
<硬度>
本発明の複合シートは、25℃におけるアスカーC硬度が40超70以下である必要がある。また、本発明の複合シートは、25℃におけるアスカーC硬度が43以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましく、69以下であることが好ましい。複合シートの硬度が上記下限超であれば、複合シートに物理的強度を与えると共に、例えば、本発明の複合シートを熱圧着用シートとして使用した際に、加熱および加圧に伴って被熱圧着物である材料の表面に複合シートの成分が付着して汚染することを防止し得る。また、複合シートの硬度が上記上限以下であれば、複合シートに柔軟性を与えると共に、例えば、本発明の複合シートを熱圧着用シートとして使用した際に、固定具よりも低い硬度を有する材料と固定具との衝突によって材料表面に損傷が生じることを防止し得る。
【0052】
因みに、被熱圧着物である材料の表面に複合シートの成分が付着する由来は明らかではないが、熱圧着における加熱と加圧を受けた複合シート中の樹脂成分が溶解等して当該複合シートの表面から漏れ出し、付着物として材料表面に付着することが推察される。このような付着物は、通常、不定形の面状であり、当該不定形の面状の長軸が2mm以上であることが多い。そして、付着物で汚染された複合シート表面上の部位は、付着物で汚染されていない正常面と比較して光沢が変化するため、複合シート表面上の付着物は目視で観察することができる。
【0053】
また、本発明の複合シートを固定具および固定具よりも低い硬度を有する材料の間に介在させる熱圧着用シートとして使用する場合において、熱源に超音波などの振動エネルギーを利用する際には、被熱圧着物である材料表面の損傷を良好に防止する観点から、複合シートの硬度は、少なくとも当該固定具の硬度よりも低いことが好ましい。
【0054】
<熱伝導率>
また、本発明の複合シートは、厚み方向の熱伝導率が、25℃において、15W/m・K以上である必要がある。そして、本発明の複合シートの厚み方向における熱伝導率は、25℃において、20W/m・K以上であることが好ましく、25W/m・K以上であることがより好ましい。熱伝導率が上記下限以上であれば、複合シートとしての熱伝導性が十分に高く、例えば、本発明の複合シートを熱圧着用シートとして使用した際に、被熱圧着物である材料からの放熱をより良好にして、材料表面が変色および溶解等することを防止し得る。換言すれば、熱伝導率が上記下限未満であると、例えば、本発明の複合シートを熱圧着用シートとして使用した際に、熱源からの熱が被熱圧着物である材料と複合シートとの間に滞留してしまい、材料表面が過度に加熱されるため、材料表面に変色および溶解等が生じる虞がある。
【0055】
<厚み>
更に、本発明の複合シートは、厚みが1.3mm未満であることが好ましく、1.0mm以下であることがより好ましく、0.3mm超であることが好ましい。複合シートの厚みが上記上限未満であれば、複合シートの薄膜化により適度な可撓性と適度な強度を実現できるため、熱圧着用シートとしてより良好に使用し得るからである。なお、複合シートの厚みが過度に大きいと、例えば、複合シートを熱圧着用シートとして使用した際に、熱圧着における加圧による複合シートの変形幅が大きくなる。そして、複合シートの変形幅が大きいと、複合シートの表面と被熱圧着物である材料の表面との間に生じ得る摩擦も大きくなる。従って、熱圧着において、加熱のみならず、より大きな摩擦を受けた複合シートおよび材料間では、複合シート中の樹脂成分が材料に付着して汚染する虞が高まる。
また、複合シートの厚みが上記下限超であれば、複合シートを過度に薄くすることなく、熱圧着用シートとしての耐久性により優れるからである。具体的には、複合シートの厚みが0.3mm以下であると、複合シートが薄すぎるため、熱圧着用シートとして繰り返し使用した際の衝撃に耐えられない。一方、複合シートの厚みが0.3mm超であれば、通常の条件にて、熱圧着用シートとして少なくとも10回使用した場合であっても、複合シートが破れないことを確認している。
【0056】
<ムーニー粘度>
更に、本発明の複合シートは、ムーニー粘度(ML
1+4、100℃)が100以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましく、25以下であることが更に好ましく、15以下であることが特に好ましく、5以上であることが好ましく、9以上であることがより好ましい。複合シートのムーニー粘度が上記下限以上であれば、例えば、本発明の複合シートを熱圧着用シートとして使用した際に、加熱および加圧に伴って被熱圧着物である材料の表面に複合シートの成分が付着して汚染することをより防止し得るからである。また、複合シートの硬度が上記上限以下であれば、複合シートに柔軟性を与えると共に、例えば、本発明の複合シートを熱圧着用シートとして使用した際に、固定具よりも低い硬度を有する材料と固定具との衝突によって材料表面に損傷が生じることをより防止し得るからである。
なお、本発明において、「ムーニー粘度(ML
1+4、100℃)」は、JIS K6383に準拠して温度100℃で測定することができる。
【0057】
<製造方法>
そして、上述した複合シートは、特に限定されることなく、例えば、フッ素樹脂および炭素材料を含む複合材料を加圧してシート状に成形し、プレ複合シートを得る工程(プレ複合シート成形工程)と、プレ複合シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、プレ複合シートを折畳または捲回して、積層体を得る工程(積層体形成工程)と、得られた積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、複合シートを得る工程(スライス工程)と、を含む製造方法により製造することができる。
【0058】
[プレ複合シート成形工程]
プレ複合シート成形工程では、フッ素樹脂および炭素材料を含み、任意に添加剤を更に含有する複合材料を加圧してシート状に成形し、プレ複合シートを得ることができる。なお、フッ素樹脂および炭素材料を含む複合材料は任意の方法で調製して準備してもよいし、市販品を購入して準備してもよい。
【0059】
[[複合材料の調製]]
複合材料を調製する場合は、フッ素樹脂および炭素材料と、任意の添加剤とを撹拌、混合して準備することができる。そして、フッ素樹脂、炭素材料および添加剤としては、本発明の複合シートに含まれ得るフッ素樹脂、炭素材料および添加剤として上述したものを用いることができる。
【0060】
因みに、複合シートに含まれるフッ素樹脂等の樹脂を架橋型の樹脂とする場合には、架橋型の樹脂を含む複合材料を用いてプレ複合シートを形成してもよいし、架橋可能な樹脂と架橋剤とを含有する複合材料を用いてプレ複合シートを形成し、プレ複合シート成形工程後に架橋可能な樹脂を架橋させることにより、複合シートに架橋型の樹脂を含有させてもよい。
【0061】
なお、撹拌混合は、特に限定されることなく、ニーダー、ロール、ヘンシェルミキサー、ホバートミキサー、ハイスピードミキサー、二軸混錬機等の既知の混合装置を用いて行うことができる。また、撹拌混合は、酢酸エチルやメチルエチルケトン等の溶媒の存在下で行ってもよい。撹拌混合条件としては、例えば、後述の実施例を参照して適宜設定することができる。また、撹拌混合温度は、例えば5℃以上150℃以下とすることができる。
【0062】
[[複合材料の成形]]
そして、上述のようにして調製した複合材料は、任意に脱泡及び解砕した後に、加圧してシート状に成形することができる。なお、混合時に溶媒を用いている場合には、溶媒を除去してからシート状に成形することが好ましく、例えば真空脱泡を用いて脱泡を行えば、脱泡時に溶媒の除去も同時に行うことができる。
【0063】
ここで、複合材料は、圧力が負荷される成形方法であれば特に限定されることなく、プレス成形、圧延成形または押し出し成形などの既知の成形方法を用いてシート状に成形することができる。中でも、複合材料は、圧延成形によりシート状に形成することが好ましく、保護フィルムに挟んだ状態でロール間を通過させてシート状に成形することがより好ましい。なお、保護フィルムとしては、特に限定されることなく、離型性に優れた離型ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムやサンドブラスト処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム等を用いることができる。また、ロール温度は5℃以上150℃とすることができる。
【0064】
そして、複合材料を加圧してシート状に成形してなるプレ複合シートでは、炭素材料が主として面内方向に配列し、特にプレ複合シートの面内方向の熱伝導性が向上すると推察される。また、炭素材料が繊維状炭素材料を含有する場合には、プレ複合シート中において繊維状炭素材料が配向するため、プレ複合シートの熱伝導性は一層向上すると推察される。
【0065】
なお、プレ複合シートの厚みは、特に限定されることなく、例えば0.05mm以上2mm以下とすることができる。また、複合シートの熱伝導性を更に向上させる観点からは、プレ複合シートの厚みは、0.10mm以上であることが好ましく、0.80mm以下であることが好ましい。
【0066】
[積層体形成工程]
積層体形成工程では、プレ複合シート成形工程で得られたプレ複合シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、プレ複合シートを折畳または捲回して、積層体を得ることができる。ここで、プレ複合シートの折畳による積層体の形成は、特に限定されることなく、折畳機を用いてプレ複合シートを一定幅で折り畳むことにより行うことができる。また、プレ複合シートの捲回による積層体の形成は、特に限定されることなく、プレ複合シートの短手方向または長手方向に平行な軸の回りにプレ複合シートを捲き回すことにより行うことができる。
【0067】
ここで、通常、積層体形成工程で得られる積層体において、プレ複合シートの表面同士の接着力は、プレ複合シートを積層する際の圧力や折畳または捲回する際の圧力により充分に得られる。しかし、接着力が不足する場合や、積層体の層間剥離を十分に抑制する必要がある場合には、プレ複合シートの表面を溶剤で若干溶解させた状態で積層体形成工程を行ってもよいし、プレ複合シートの表面に接着剤を塗布した状態またはプレ複合シートの表面に接着層を設けた状態で積層体形成工程を行ってもよい。
【0068】
なお、プレ複合シートの表面を溶解させる際に用いる溶剤としては、特に限定されることなく、プレ複合シート中に含まれている樹脂成分を溶解可能な既知の溶剤を用いることができる。
【0069】
また、プレ複合シートの表面に塗布する接着剤としては、特に限定されることなく、市販の接着剤や粘着性の樹脂を用いることができる。中でも、接着剤としては、プレ複合シート中に含まれている樹脂成分と同じ組成の樹脂を用いることが好ましい。そして、プレ複合シートの表面に塗布する接着剤の厚みは、例えば、10μm以上1000μm以下とすることができる。
更に、プレ複合シートの表面に設ける接着層としては、特に限定されることなく、両面テープなどを用いることができる。
【0070】
なお、層間剥離を抑制する観点からは、得られた積層体は、積層方向に0.05MPa以上1.0MPa以下の圧力で押し付けながら、20℃以上100℃以下で1〜30分プレスすることが好ましい。
【0071】
なお、プレ複合シートを積層、折畳または捲回して得られる積層体においては、粒子状炭素材料および/または繊維状炭素材料等の炭素材料が積層方向に略直交する方向に配列していると推察される。
【0072】
[スライス工程]
スライス工程では、積層体形成工程で得られた積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、積層体のスライス片よりなる複合シートを得ることができる。ここで、積層体をスライスする方法としては、特に限定されることなく、例えば、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法等が挙げられる。中でも、複合シートの厚みを均一にし易い点で、ナイフ加工法が好ましい。ナイフ加工法にて用いるナイフの形状は片刃、両刃、非対称刃いずれでもよいが、厚み精度を出す観点から片刃が好ましい。また、積層体をスライスする際の切断具としては、特に限定されることなく、スリットを有する平滑な盤面と、このスリット部より突出した刃部とを有するスライス部材(例えば、鋭利な刃を備えたカンナやスライサー)を用いることができる。
【0073】
なお、複合シートの熱伝導性を高める観点からは、積層体をスライスする角度は、積層方向に対して30°以下であることが好ましく、積層方向に対して15°以下であることがより好ましく、積層方向に対して略0°である(即ち、積層方向に沿う方向である)ことが好ましい。
【0074】
また、積層体を容易にスライスする観点からは、スライスする際の積層体の温度は−20℃以上40℃以下とすることが好ましく、10℃以上30℃以下とすることがより好ましい。更に、同様の理由により、スライスする積層体は、積層方向とは垂直な方向に圧力を負荷しながらスライスすることが好ましく、積層方向とは垂直な方向に0.1MPa以上0.5MPa以下の圧力を負荷しながらスライスすることがより好ましい。このようにして得られた複合シート内では、粒子状炭素材料および/または繊維状炭素材料等の炭素材料が厚み方向に配列していると推察される。
【0075】
(熱圧着方法)
本発明の熱圧着方法では、加熱装置および固定具の間で、第一の材料と第二の材料とを熱圧着する。具体的には、本発明の熱圧着方法では、加熱装置および固定具の間に、第一の材料および前記第二の材料を有する積層体と、上述したいずれかの複合シートとを所定の位置関係をもって配置する工程Aと、加熱装置を用いて積層体を加熱し、第一の材料と第二の材料とを熱圧着する工程Bとを含む。
そして、本発明の熱圧着方法では、例えば、本発明の複合シートを用いて上記工程AおよびBを行っているため、熱圧着される材料の硬度が固定具の硬度よりも低く、且つ、材料に振動を与えて加熱している場合であっても、材料表面、とりわけ、複合シートを介して固定具に固定される側の材料表面の傷付きを防止することができる。加えて、当該材料表面への付着汚染も防止することができる。また、熱圧着される材料自体の熱伝導性が不十分であっても、加熱装置から固定具へと良好に熱が伝わり、材料表面の変色および溶解等を防止することができる。そして、複合シートが繰り返しの熱圧着に耐え得るため、作業性に優れる。
【0076】
<工程A>
工程Aでは、加熱装置および固定具の間に、被熱圧着物である第一の材料および第二の材料を有する積層体と、上述したいずれかの複合シートとを、所定の位置関係をもって配置する。
【0077】
[配置方法]
ここで、工程Aでは、加熱装置および固定具の間に、第一の材料および第二の材料を有する積層体と上述したいずれかの複合シートとを配置するに際し、当該複合シートを固定具および積層体の間に介在させることを必要とする。換言すれば、工程Aでは、加熱装置/第一の材料および第二の材料を有する積層体/複合シート/固定具、の順に配置する。このとき、積層体において、第一の材料が加熱装置側に配置され第二の材料が固定具側に配置されてもよく、第二の材料が加熱装置側に配置され第一の材料が固定具側に配置されてもよく、第一の材料および第二の材料が加熱装置側および固定具側の両側と対面するように(即ち、積層体の積層方向と加熱装置および固定具を結ぶ方向とが略直交するように)配置されてもよい。また、積層体が有する第一の材料および第二の材料の間に、任意で接着剤を更に配置してもよい。
【0078】
[第一の材料および第二の材料]
ここで、第一の材料および第二の材料は、被圧着させたい任意の材料とすることができる。また、第一の材料および第二の材料は、互いに同一の材質であってもよく、異なる材質であってもよく、互いに同一の形状および/または大きさを有していてもよく、異なる形状および/または大きさを有していてもよい。
また、第一の材料および第二の材料の材質としては、特に限定されることなく、金属、樹脂等が挙げられる。更に、例えば、固定具に第一の材料および/または第二の材料を固定して熱圧着を行う場合には、第一の材料および第二の材料の材質としては、固定具の構成材質よりも低い硬度を有する材質が挙げられ、樹脂が好ましく、プラスチック等の合成樹脂がより好ましい。
【0079】
[加熱装置]
加熱装置としては、熱圧着させたい材料に熱を加えることができれば特に制限されず、既知の加熱装置を用いることができる。既知の加熱装置が用いる熱源としては、超音波などの音波並びにマイクロ波及び赤外線等の電磁波といった振動エネルギーを生じるもの;ニクロム線などの通常の電熱線;等が挙げられる。中でも、効率的に熱を伝える観点から、熱源としては、振動エネルギーを生じるものが好ましく、超音波がより好ましい。つまり、加熱装置としては超音波発振器を用いることが好ましい。
また、加熱装置は、特に制限されることなく、熱圧着において熱圧着させたい材料を加圧する加圧装置として機能してもよい。更に、加熱装置は、特に制限されることなく、熱圧着させたい材料を固定する固定具として機能してもよい。例えば、加熱装置として既知の超音波発振器を用いれば、第一の材料および第二の材料を有する積層体を、他の固定具と共に固定しつつ、固定された材料に振動を伝えながら加熱と加圧を同時に行うことができる。
【0080】
[固定具]
固定具としては、熱圧着させたい材料を加熱および加圧するために固定することができれば特に制限されることなく、既知の固定具、例えば、冶具、冶具を有する板および台座等を挙げることができる。また、固定具の材質としては、金属および樹脂等が挙げられるが、通常、金属製である。
【0081】
<工程B>
そして、工程Bでは、加熱装置を用いて積層体を加熱し、第一の材料と前記第二の材料とを熱圧着する。工程Bで用いる加熱装置としては、上述した加熱装置と同様の装置を用いることができる。また、例えば、加熱装置として超音波発振器を用いる場合は、超音波周波数、超音波処理時間、出力、プレス圧等の、加熱および加圧のための条件は適宜選択することができる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、実施例および比較例において、複合シートのアスカーC硬度、熱伝導率および粉落ち防止性;複合シートを合成樹脂材料同士の熱圧着で用いる熱圧着用シートとして使用した際の、合成樹脂材料の表面の傷付き防止性、合成樹脂材料の表面への複合シートの付着防止性および複合シートの繰り返し耐久性;は、それぞれ以下の方法に従って測定または評価した。
【0083】
<アスカーC硬度>
複合シートのアスカーC硬度は、日本ゴム協会規格(SRIS 0101)のアスカーC法に準拠し、硬度計を使用して、温度25℃の環境下で行った。
具体的には、得られた複合シートを、実施例1、実施例4および比較例1〜2では、縦30mm×横50mm×厚み1.0mmのサイズに切り取って30枚重ね合わせた。また、実施例2〜3では縦30mm×横50mm×厚み0.5mmのサイズに切り取って60枚重ね合わせた。そして、重ね合わせた複合シートを温度25℃に保たれた恒温室内に48時間以上静置することにより試験体を得た。次に、指針が95〜98となるようにダンパー高さを調整し、試験体とダンパーとを衝突させた。そして、当該衝突から60秒後の試験体のアスカーC硬度を、硬度計(高分子計器社製、製品名「ASKER CL−150LJ」)を用いて2回測定し、測定結果の平均値を採用した。一般に、アスカーC硬度が小さいほど柔軟性が高いことを示す。
【0084】
<熱伝導率>
複合シートについて、厚み方向の熱拡散率α(m
2/s)、定圧比熱Cp(J/g・K)及び密度ρ(g/m
3)を以下の方法で測定した。なお、各種測定の温度は25℃とした。
[熱拡散率]
熱物性測定装置(株式会社ベテル製、製品名「サーモウェーブアナライザTA35」)を使用して測定した。
[定圧比熱]
示差走査熱量計(Rigaku製、製品名「DSC8230」)を使用し、10℃/分の昇温条件下、比熱を測定した。
[複合シートの密度]
自動比重計(東洋精機社製、商品名「DENSIMETER−H」)を用いて測定した。
そして、得られた測定値を用いて下記式(I):
λ=α×Cp×ρ ・・・(I)
より25℃における複合シートの厚み方向の熱伝導率λ(W/m・K)を求めた。
【0085】
<粉落ち防止性>
複合シートの上にシクロヘキサンを十分に染み込ませたキムワイプを乗せた。更に、キムワイプの上に、均一に圧力がかかるように、2kgの重しを乗せた。そして、重しを乗せてから30秒経過後に重しを外して、キムワイプに付着した物質の有無を目視にて確認し、以下の基準に従って複合シートの粉落ち防止性を評価した。キムワイプに付着物が見られなければ複合シートの粉落ち防止性が優れていることを示す。
○:キムワイプに付着物無し
×:キムワイプに付着物有り
【0086】
<合成樹脂材料の表面の傷付き防止性>
互いに接着させる第一の材料および第二の材料として合成樹脂材料AおよびBを用意した。ここで、合成樹脂材料AおよびBはいずれもポリプロピレン製であり、同様の星形(直径6cmの円の中に収まるサイズ)に成形されていた。次に、合成樹脂材料AおよびBの間に、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合合成樹脂(ABS樹脂)からなる接着剤を、0.20g付与し、合成樹脂材料Aおよび合成樹脂材料Bを、接着剤を介して積層させた。なお、このとき、接着剤は常温で固体の状態であり、合成樹脂材料AおよびBは接着剤により接着はされていなかった。
続いて、得られた合成樹脂材料A/接着剤/合成樹脂材料Bの積層体を、複合シートを介して、超音波溶着機(ハーマンウルトラソニック製、製品名「HiQ VARIO」)に固定した。なお、当該超音波溶着機には、加熱装置としての超音波発振器および固定具が搭載されていた。具体的には、超音波溶着機の下側には、固定具として、金属製の冶具を有する台座があり、超音波溶着機の上側には、加熱装置として、超音波を発生するホーンが取り付けてあり、これらの台座およびホーンの間に、合成樹脂材料Aが上側(ホーンと対面する側)に、合成樹脂材料Bが下側(台座に固定される側)になるように積層体を固定した。また、固定に際しては、積層体のうち合成樹脂材料B側と台座との間に、得られた複合シートを介在させた。つまり、上側から、加熱装置としてのホーン(超音波発振器)/第一の材料としての合成樹脂材料A/接着剤/第二の材料としての合成樹脂材料B/熱圧着用シートとしての複合シート/固定具としての金属製の冶具を有する台座、の順で、積層体を超音波溶着機に固定した。
続いて、上側のホーンから合成樹脂材料A側に対して超音波を照射し、超音波の振動エネルギーから生じる熱を伝えて接着剤を溶解させることにより、合成樹脂材料AおよびBを熱圧着させた。ここで、合成樹脂材料Aとホーンとは、超音波を照射している間接触していた。なお、超音波照射による熱圧着の条件は、プレス圧:180N/mm
2、超音波周波数:30kHz、超音波処理時間:約5秒、出力:1800Wとした。
そして、上述の通り合成樹脂材料AおよびBを熱溶着させた後に、積層体を超音波溶着機から取り外し、積層体のうち合成樹脂材料B側の表面、つまり、複合シートを介して台座に固定されていた側の表面状態を目視で観察し、以下の基準に従って合成樹脂材料の表面の傷付き防止性を評価した。合成樹脂材料の表面に傷が観察されないほど、複合シートが、熱圧着の際に合成樹脂材料の表面が台座との衝突によって損傷することを防ぎ得る適度な硬度を有し、熱圧着用シートとして有用であることを示す。
ここで、本評価基準において、「傷」とは、合成樹脂材料Bのうち複合シートを介して台座に固定されていた側の表面の平面方向において、1mm以上のサイズで発生している損傷部を指す。当該「傷」としては、例えば、任意の線状、一定範囲の面として合成樹脂材料Bの表層が欠けた状態等、形状、状態等を問わない。また、「傷」とは、目視で確認できる損傷部を指し、例えば、電子顕微鏡等の顕微鏡を用いなければ判別できない微小なレベルの損傷部は該当しない。
なお、上記熱圧着において、複合シートを合成樹脂材料Bおよび台座の間に介在させなかった場合は、超音波の振動により合成樹脂材料Bも振動して台座と摩擦を生じることにより、合成樹脂材料Bの表面に傷が発生することを確認した。
○:合成樹脂材料の表面に傷無し
×:合成樹脂材料の表面に傷有り
【0087】
<合成樹脂材料の表面への付着防止性>
上記合成樹脂材料の表面の傷付き防止性の評価方法と同様の手順により、合成樹脂材料AおよびBを熱圧着させた。
そして、積層体を超音波溶着機から取り外し、積層体のうち合成樹脂材料B側の表面、つまり、複合シートを介して台座に固定されていた側の表面状態を目視で観察し、以下の基準に従って合成樹脂材料の表面への付着防止性を評価した。合成樹脂材料の表面に付着物が観察されないほど、熱圧着の際に、複合シートが合成樹脂材料の表面に付着汚染することを防ぎ得る適度な硬度を有し、熱圧着用シートとして有用であることを示す。
ここで、本評価基準において、「付着物」とは、任意の形状、状態等にて目視で確認できる物を指し、例えば、電子顕微鏡等の顕微鏡を用いなければ判別できない微小なレベルの物は該当しない。
○:合成樹脂材料の表面に付着物無し
×:合成樹脂材料の表面に付着物有り
【0088】
<繰り返し耐久性>
上記合成樹脂材料の表面の傷付き防止性の評価方法と同様の手順により、合成樹脂材料AおよびBを熱圧着させるに際し、熱圧着用シートとして20回繰り返し使用した後の複合シートについて、シート表面の状態を目視で観察し、以下の基準に従って複合シートの繰り返し耐久性を評価した。
なお、本評価基準において、「ヒビ」とは、複合シートの少なくとも何れか一方の表面の平面方向において、3mm以上の長さで生じた裂け目のことを指す。また、本評価基準において、「破れ」とは、ヒビが更に複合シートの厚み方向に進行して、複合シートの一面から他面まで貫通した状態を指す。また、「ヒビ」とは、目視で確認できる裂け目を指し、例えば、電子顕微鏡等の顕微鏡を用いなければ判別できない微小なレベルの裂け目は該当しない。
○:複合シートの表面にヒビおよび破れ無し
×:複合シートの表面にヒビおよび/または破れ有り
【0089】
(実施例1)
<CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体の調製>
国際公開第2006/011655号の記載に従って、スーパーグロース法によってSGCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体を得た。
なお、得られた繊維状の炭素ナノ構造体は、G/D比が3.0、BET比表面積が800m
2/g、質量密度が0.03g/cm
3であった。また、透過型電子顕微鏡を用い、無作為に選択した100本の繊維状の炭素ナノ構造体の直径を測定した結果、平均直径(Av)が3.3nm、直径の標本標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)が1.9nm、それらの比(3σ/Av)が0.58、平均長さが100μmであった。また、得られた繊維状の炭素ナノ構造体は、主に単層CNT(以下、「SGCNT」と称することがある。)により構成されていた。
【0090】
<繊維状炭素材料の調製>
[分散液の調製]
繊維状炭素材料としての、上述で得られた繊維状の炭素ナノ構造体を400mg量り取り、溶媒としてのメチルエチルケトン2L中に混ぜ、ホモジナイザーにより2分間撹拌し、粗分散液を得た。次に、湿式ジェットミル(株式会社常光製、製品名「JN−20」)を使用し、得られた粗分散液を湿式ジェットミルの0.5mmの流路に100MPaの圧力で2サイクル通過させて、繊維状炭素ナノ構造体をメチルエチルケトンに分散させた。そして、固形分濃度0.20質量%の分散液を得た。
[溶媒の除去]
その後、上述で得られた分散液をキリヤマろ紙(No.5A)を用いて減圧ろ過し、繊維状炭素材料としてシート状の易分散性集合体を得た。
【0091】
<プレ複合シート成形工程>
[複合材料の調製]
フッ素樹脂としての常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、商品名「ダイエルG−704BP」)40部および常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、商品名「ダイエルG―101」)45部と、粒子状炭素材料としての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC−50」、平均粒子径:250μm)を85部と、繊維状炭素材料としての上述で得られた繊維状の炭素ナノ構造体の易分散性集合体を0.1部と、可塑剤としてのセバシン酸エステル(大八化学工業株式会社製、商品名「DOS」)5部とを、溶媒としての酢酸エチル100部の存在下において、ホバートミキサー(株式会社小平製作所製、製品名「ACM−5LVT型」、容量:5L)を用いて常温にて5分撹拌混合した。次に、得られた撹拌混合物を30分真空脱泡し、脱泡と同時に酢酸エチルの除去を行うことにより、フッ素樹脂、粒子状炭素材料および繊維状炭素材料を含む複合材料を得た。そして、得られた複合材料をワンダークラッシュミル(大阪ケミカル株式会社製、製品名「D3V−10」)に投入して、10秒間解砕した。
[複合材料の成形]
次いで、解砕した複合材料5gを、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのPETフィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙550μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形し、厚み0.5mmのプレ複合シートを得た。
【0092】
<積層体形成工程>
続いて、得られたプレ複合シートを縦60mm×横60mm×厚み0.5mmに裁断し、プレ複合シートの厚み方向に120枚両面テープで積層し、厚み約60mmの積層体を得た。
【0093】
<スライス工程>
その後、得られたプレ複合シートの積層体の積層断面を、0.3MPaの圧力で押し付けながら、木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカ」、スリット部からの刃部の突出長さ:0.11mm)を用いて、積層方向に対して0度の角度でスライス(換言すれば、積層されたプレ複合シートの主面の法線方向にスライス)し、縦60mm×横60mm×厚み1.0mmの複合シートを得た。
そして、得られた複合シートについて、上述の方法に従って、アスカーC硬度、熱伝導率および粉落ち防止性を測定、評価した。また、得られた複合シートを合成樹脂材料同士の熱圧着に用いる熱圧着用シートとして使用した場合において、上述の方法に従って、合成樹脂材料の表面の傷付き防止性、合成樹脂材料の表面への付着防止性および複合シートの繰り返し耐久性を観察、評価した。結果を表1に示す。
【0094】
(実施例2)
複合シートの製造において、スリット部からの刃部の突出長さを調節して複合シートの厚みを0.5mmに変更した以外は実施例1と同様にして複合シートを得た。
そして、実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0095】
(実施例3)
複合材料の調製において、以下の通り複合材料を調製した。また、複合シートの製造において、スリット部からの刃部の突出長さを調節して複合シートの厚みを0.5mmに変更した以外は実施例1と同様にして複合シートを得た。
そして、実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
<複合材料の調製>
フッ素樹脂としての常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、商品名「ダイエルG−101」)を100部と、粒子状炭素材料としての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC−100」、平均粒子径:190μm)を50質量部と、繊維状炭素材料としての上述で得られた繊維状の炭素ナノ構造体の易分散性集合体を0.1質量部とを、ホバートミキサー(株式会社小平製作所製、商品名「ACM−5LVT型」、容量:5L)に投入し、温度80℃まで昇温、維持し、30分間撹拌混合した。当該混撹拌合により、フッ素樹脂、粒子状炭素材料および繊維状炭素材料を含む複合材料を得た。そして、得られた複合材料をワンダークラッシュミル(大阪ケミカル株式会社製、製品名「D3V−10」)に投入して、1分間解砕した。
【0096】
(実施例4)
複合材料の調製において、繊維状炭素材料を用いなかった以外は実施例1と同様にして複合シートを得た。
そして、実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0097】
(比較例1)
複合材料の調製において、以下の通り複合材料を調製した以外は実施例1と同様にして複合シートを得た。
そして、実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
<複合材料の調製>
フッ素樹脂を使用することなく、その他の樹脂として非架橋型アクリル樹脂(坂井化学工業株式会社製、商品名「ユーロック2004」)を100部と、粒子状炭素材料としての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC−50」、平均粒子径:250μm)を200部と、繊維状炭素材料としての上述で得られた繊維状の炭素ナノ構造体の易分散性集合体を0.1部とを、溶媒としての酢酸エチル20部の存在下においてホバートミキサー(株式会社小平製作所製、商品名「ACM−5LVT型」、容量:5L)を用いて常温にて1時間攪拌混合した。次に、得られた撹拌混合物を1時間真空脱泡し、脱泡と同時に酢酸エチルの除去を行うことにより、アクリル樹脂、粒子状炭素材料および繊維状炭素材料を含む複合材料を得た。そして、得られた複合材料をワンダークラッシュミル(大阪ケミカル株式会社製、製品名「D3V−10」)に投入して、1分間解砕した。
【0098】
(比較例2)
複合材料の調製において、非架橋型アクリル樹脂の量を20部に変更した。また、アクリル酸2−エチルヘキシル(和光純薬株式会社製)を80部、有機過酸化物熱重合開始剤(1,6−ビス(t−ブチルペルオキシカルボニルオキシ)ヘキサン)を1.0部、および、架橋剤としての多官能性単量体(共栄社化学株式会社製、商品名「ライトアクリレートPE−3A」、ペンタエリスリトールトリアクリレート:ペンタエリスリトールテトラアクリレート:ペンタエリスリトールジアクリレートを60:35:5の割合で混合)を1.0部添加した以外は比較例1と同様にして複合材料を調製した。なお、比較例2では、得られた複合材料の解砕は行わなかった。
また、複合材料の成形において、解砕を行っていない複合材料5gを、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのPETフィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙550μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形した。更に、圧延成形した複合材料を、温度150℃の環境下において1時間反応させることにより、厚み1.0mmのプレ複合シートを得た以外は比較例1と同様にして、複合シートを得た。
そして、実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
表1より、フッ素樹脂および炭素材料を含み、所定の適度な硬度および高い熱伝導率を有する実施例1〜3の複合シートでは、フッ素樹脂を含まない比較例1〜2の複合シート比べ、当該複合シートを合成樹脂材料同士の熱圧着に用いる熱圧着用シートとして使用した際に、繰り返し耐久性に優れることが分かる。
また、硬度が所定以下である比較例1では、所定範囲内の適度な硬度を有する実施例1〜3に比べ、複合シートを合成樹脂材料同士の熱圧着に用いる熱圧着用シートとして使用した際に、合成樹脂材料の表面に複合シートが付着し、付着防止性に劣ることが分かる。
更に、硬度が所定超である比較例2では、所定範囲内の適度な硬度を有する実施例1〜3に比べ、複合シートを合成樹脂材料同士の熱圧着に用いる熱圧着用シートとして使用した際に、合成樹脂材料の表面に傷が生じ、傷付き防止性に劣ることが分かる。
このように、実施例1〜4の複合シートを用いて行った熱圧着方法では、合成樹脂材料の表面の傷付き防止性および付着防止性に優れ、合成樹脂同士を良好に熱圧着できることが分かる。