特許第6705354号(P6705354)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6705354
(24)【登録日】2020年5月18日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】光変調器モジュール
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/01 20060101AFI20200525BHJP
   H01R 12/52 20110101ALI20200525BHJP
【FI】
   G02F1/01 F
   G02F1/01 C
   H01R12/52
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-194750(P2016-194750)
(22)【出願日】2016年9月30日
(65)【公開番号】特開2018-55072(P2018-55072A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年2月14日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/(高い臨時設営性を持つ有無線両用高速光伝送技術の研究開発)」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】坂井 猛
(72)【発明者】
【氏名】市川 潤一郎
【審査官】 野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−070130(JP,A)
【文献】 特開2015−055840(JP,A)
【文献】 特開2015−170729(JP,A)
【文献】 特開2016−142855(JP,A)
【文献】 特開2009−181108(JP,A)
【文献】 特開2016−040641(JP,A)
【文献】 特開2016−071250(JP,A)
【文献】 特開平08−213678(JP,A)
【文献】 米国特許第07160368(US,B1)
【文献】 中国特許出願公開第101945544(CN,A)
【文献】 特開2010−134115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12−6/14
G02F 1/00−1/125
1/21−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を制御するための制御電極とが形成された導波路基板と、
該導波路基板の近傍に配置され、該制御電極に対してDCバイアス電圧を供給するDCバイアス配線が形成された中継基板と、
該導波路基板と該中継基板とを収容する筐体とを備えた光変調器モジュールにおいて、
該DCバイアス配線の一部に、該中継基板から該導波路基板の上面より高い位置に立ち上がる空中線が接続され
該空中線は、該筐体内のいずれかの半田の使用箇所から10mm以内の位置に配置されており、
該空中線は、該DCバイアス配線と該導波路基板上の該制御電極の配線とを電気的に接続する空中配線であると共に、該導波路基板上の該制御電極の配線との接続部よりも該中継基板から遠い位置に、該導波路基板の上方に張り出す部分を有することを特徴とする光変調器モジュール。
【請求項2】
光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を制御するための制御電極とが形成された導波路基板と、
該導波路基板の近傍に配置され、該制御電極に対してDCバイアス電圧を供給するDCバイアス配線が形成された中継基板と、
該導波路基板と該中継基板とを収容する筐体とを備えた光変調器モジュールにおいて、
該DCバイアス配線の一部に、該中継基板から該導波路基板の上面より高い位置に立ち上がる空中線が接続され、
該空中線は、該筐体内のいずれかの半田の使用箇所から10mm以内の位置に配置されており、
該空中線は、該DCバイアス配線と該導波路基板上の該制御電極の配線とを電気的に接続する空中配線とは別に設けられると共に、該導波路基板の上方に張り出す部分を有し且つ該導波路基板上の該制御電極の配線とは接続されないことを特徴とする光変調器モジュール。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の光変調器モジュールにおいて、
該空中線は、該DCバイアス配線のプラス線とマイナス線の両方に設けられることを特徴とする光変調器モジュール。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の光変調器モジュールにおいて、
該空中線の表面積が、9400μm2以上であることを特徴とする光変調器モジュール。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の光変調器モジュールにおいて、
該空中線は、被覆されていないことを特徴とする光変調器モジュール。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の光変調器モジュールにおいて、
該DCバイアス電圧は、20V以上であることを特徴とする光変調器モジュール。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の光変調器モジュールにおいて、
該導波路基板と該中継基板の少なくとも一方に、気相輸送物質を吸着するゲッター材が半田接続されたことを特徴とする光変調器モジュール。
【請求項8】
請求項1乃至請求項のいずれかに記載の光変調器モジュールにおいて、
該中継基板は、該導波路基板と半田の使用箇所との間に配置され、
該DCバイアス配線は、枝分かれ線を有することを特徴とする光変調器モジュール。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の光変調器モジュールにおいて、
該空中線の長さが、200μm以上であることを特徴とする光変調器モジュール。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の光変調器モジュールにおいて、
該半田の使用箇所として、コネクタと該筐体との接続部、光ファイバと該筐体との封止接続部、該コネクタと該DCバイアス配線の接続部の少なくとも1つを含むことを特徴とする光変調器モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調器モジュールに関し、特に、導波路基板と、該導波路基板の近傍に配置され中継基板と、該導波路基板と該中継基板とを収容する筐体とを備えた光変調器モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
電子配線を用いる業界では、錫(スズ)ウィスカが時間とともにゆっくり成長し、やがてプリント配線基板上の端子に接触して短絡事故を起こすことが知られている。2000年代前半まで錫に鉛を添加し、ウィスカの発生を抑えていたが、現在は、RoHS(Restriction on Hazardous Substances)など電子機器の環境対応により、鉛フリーの半田をはじめとする鉛フリーの素材が使用されるようになり、再びウィスカによる短絡が問題視されるようになった。
【0003】
ニオブ酸リチウム(LiNbO)を導波路基板に用いたLN光変調器においては、金錫半田に含まれる錫に起因する別の問題が起こっている。コネクタと筐体の接続部、光ファイバと筐体の封止接続部などの半田から、錫がLN光変調器の電極間に気相輸送され、電極間に析出成長し、バイアス安定の劣化を引き起こす。鉛フリー化に加えて、DP−BPSK(Dual Polarization - Binary Phase Shift Keying)変調器やDP−QPSK(Dual Polarization - Quadrature Phase Shift Keying)変調器などの電気配線部が増大したこと、筐体内部の自由空間が狭まったこと、変調器内部の集積密度の上昇等が原因である。更に、2波長対応DP−QPSKにおいては、電気配線数のほか、光ファイバとの接続数も倍増するため、特にその問題が顕著となっている。
【0004】
また、DP−BPSK変調器やDP−QPSK変調器などの偏波多重方式の光変調器モジュールでは、各変調器の光導波路出力ポートと光ファイバとの接続において、バットジョイントではなくレンズ結合を行うことが一般的である。また、偏波多重に使用される光学部品やレンズ結合の構造のモジュールにおいては、パーティクルによる光軸遮りによって起こるエラーバーストを防止するために、クリーンな環境でのモジュール組み立てが行われる。また、ミスト、ゾルなどの気相輸送される物質の光導波路端面への付着や焼き付きによって起こる光透過特性の経年劣化(光損失の増大)を防止するために、各部品が徹底して洗浄され、また乾燥窒素を封止した筐体構造が用いられる。本明細書では、パーティクル、ミスト、ゾルなどの、気体の状態にある物質や空間内に浮遊して輸送される物質を総称して、「気相輸送物質」という。
【0005】
また、近年では、下記(1)〜(3)が進んでいる。
(1)筐体の小型化による筐体内部空間の大幅な減少
(2)高度集積化による部品点数の増大による気相輸送物質の源となる材料・部材の増大
(3)伝送距離延長、OSNR(Optical Signal to Noise Ratio;光信号雑音比)改善のための光量の増大
【0006】
そのため、パーティクルが光軸と会合する確率が劇的に増大しており、光軸遮りによって起こるエラーバーストが深刻な問題になっている。また、気相輸送物質の劇的な増大のために、それらの付着や焼き付きによって起こる光透過特性の経年劣化(光損失の増大)も顕著となった。更に、光量が増大したことにより、気相輸送物質が光導波路端に近付かなくとも光軸上をよぎるだけでレーザートラップされ、光軸上に固定されたり、導波路端面に付着や焼き付けを起こしたりすることも顕著になった。
【0007】
また、LN結晶自体が強い焦電効果を有し、温度変化により結晶表面が強く帯電する。つまり、帯電した気相輸送物質がLN結晶表面に引き付けられやすい特性がある。LN光変調器の基板には、動作安定性確保のため、光導波路の端部を有する面(導波路端部面)を除き、帯電防止膜や金属膜などの導電膜を形成するのが一般的である(例えば、特許文献1,2参照)。一方、導波路端部面には、反射防止膜を形成することはあるが、多くの場合は裸のままであり、導電膜は形成されない。そのため、帯電したパーティクルなどは、導波路端部面に引き付けられやすい。特に、温度環境変化が激しい環境で使用される場合(例えば、RoF(Radio over Fiber)システム、車載NW(ネットワーク)など)では、LN結晶が帯電するため深刻な問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62−173428号公報
【特許文献2】特開2003−172839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、光変調器モジュールの筐体内の半田(コネクタと筐体の接続部、光ファイバと筐体の封止接続部などの半田)から錫が発生して電極間に気相輸送され、電極間に析出成長し、バイアス安定の劣化を引き起こす問題を軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の光変調器モジュールは、以下のような技術的特徴を有する。
(1) 光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を制御するための制御電極とが形成された導波路基板と、該導波路基板の近傍に配置され、該制御電極に対してDCバイアス電圧を供給するDCバイアス配線が形成された中継基板と、該導波路基板と該中継基板とを収容する筐体とを備えた光変調器モジュールにおいて、該DCバイアス配線の一部に、該中継基板から該導波路基板の上面より高い位置に立ち上がる空中線が接続され、該空中線は、該筐体内のいずれかの半田の使用箇所から10mm以内の位置に配置されており、該空中線は、該DCバイアス配線と該導波路基板上の該制御電極の配線とを電気的に接続する空中配線であると共に、該導波路基板上の該制御電極の配線との接続部よりも該中継基板から遠い位置に、該導波路基板の上方に張り出す部分を有することを特徴とする。
【0011】
(2) 光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を制御するための制御電極とが形成された導波路基板と、該導波路基板の近傍に配置され、該制御電極に対してDCバイアス電圧を供給するDCバイアス配線が形成された中継基板と、該導波路基板と該中継基板とを収容する筐体とを備えた光変調器モジュールにおいて、該DCバイアス配線の一部に、該中継基板から該導波路基板の上面より高い位置に立ち上がる空中線が接続され、該空中線は、該筐体内のいずれかの半田の使用箇所から10mm以内の位置に配置されており、該空中線は、該DCバイアス配線と該導波路基板上の該制御電極の配線とを電気的に接続する空中配線とは別に設けられると共に、該導波路基板の上方に張り出す部分を有し且つ該導波路基板上の該制御電極の配線とは接続されないことを特徴とする。
【0012】
(3) 上記(1)又は(2)に記載の光変調器モジュールにおいて、該空中線は、該DCバイアス配線のプラス線とマイナス線の両方に設けられることを特徴とする。
【0013】
(4) 上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の光変調器モジュールにおいて、該空中線の表面積が、9400μm2以上であることを特徴とする。
【0014】
(5) 上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の光変調器モジュールにおいて、該空中線は、被覆されていないことを特徴とする。
【0015】
(6) 上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の光変調器モジュールにおいて、該DCバイアス電圧は、20V以上であることを特徴とする。
【0016】
(7) 上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の光変調器モジュールにおいて、該導波路基板と該中継基板の少なくとも一方に、気相輸送物質を吸着するゲッター材が半田接続されたことを特徴とする。
【0017】
(8) 上記(1)乃至()のいずれかに記載の光変調器モジュールにおいて、該中継基板は、該導波路基板と半田の使用箇所との間に配置され、該DCバイアス配線は、枝分かれ線を有することを特徴とする。
(9) 上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の光変調器モジュールにおいて、該空中線の長さが、200μm以上であることを特徴とする
(10) 上記(1)乃至(9)のいずれかに記載の光変調器モジュールにおいて、該半田の使用箇所として、コネクタと該筐体との接続部、光ファイバと該筐体との封止接続部、該コネクタと該DCバイアス配線の接続部の少なくとも1つを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の光変調器モジュールは、光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を制御するための制御電極とが形成された導波路基板と、該導波路基板の近傍に配置され、該制御電極に対してDCバイアス電圧を供給するDCバイアス配線が形成された中継基板と、該導波路基板と該中継基板とを収容する筐体とを備えた光変調器モジュールにおいて、該DCバイアス配線の一部に、該中継基板から該導波路基板の上面より高い位置に立ち上がる空中線が設けられ、該空中線は、該筐体内のいずれかの半田の使用箇所から10mm以内の位置に配置されているため、光変調器モジュールの筐体内の半田から錫が発生して電極間に気相輸送され、電極間に析出成長し、バイアス安定の劣化を引き起こす問題を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る光変調器モジュールの実施例を示す平面図である。
図2】導波路基板と中継基板の接続部分の拡大図である。
図3】DCバイアス配線の一部に設ける空中線の例を示す図である。
図4】DCバイアス配線の一部に設ける空中線の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る光変調器モジュールについて詳細に説明する。
本発明に係る光変調器モジュールは、図1図2に示すように、光導波路21と、該光導波路21を伝搬する光波を制御するための制御電極(信号電極25、DCバイアス電極26,27など)とが形成された導波路基板2と、該導波路基板2の近傍に配置され、該制御電極(DCバイアス電極26,27)に対してDCバイアス電圧を供給するDCバイアス配線42が形成された中継基板4と、該導波路基板2と該中継基板4とを収容する筐体1とを備えた光変調器モジュールにおいて、該DCバイアス配線42の一部に、該中継基板4から該導波路基板2の上面より高い位置に立ち上がる空中線6が設けられ、該空中線6は、該筐体1内のいずれかの半田の使用箇所から10mm以内の位置に配置されていることを特徴とする。
【0021】
図1は、本発明に係る光変調器モジュールの実施例を示す平面図である。
光変調器モジュールは、光導波路や制御電極が形成された基板2と、該基板の近傍に配置される中継基板3,4とを筐体1内に収容した構造となっている。
導波路基板2としては、石英、半導体など光導波路を形成できる基板であれば良く、特に、電気光学効果を有する基板である、LiNbO(ニオブ酸リチウム),LiTaO(タンタル酸リチウム)又はPLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)のいずれかの単結晶が好適に利用可能である。
【0022】
導波路基板2に形成する光導波路21は、例えば、LiNbO基板(LN基板)上にチタン(Ti)などの高屈折率物質を熱拡散することにより形成される。また、光導波路となる部分の両側に溝を形成したリブ型光導波路や光導波路部分を凸状としたリッジ型導波路も利用可能である。また、PLC等の異なる導波路基板に光導波路を形成し、これらの導波路基板を貼り合せ集積した光回路にも、本発明を適用することが可能である。
【0023】
導波路基板2には、光導波路2を伝搬する光波を制御するための制御電極が設けられる。制御電極としては、変調電極を構成する信号電極25やこれを取り巻く接地電極(不図示)、並びにDCバイアスを印加するDCバイアス電極26,27などがある。これら制御電極は、基板表面に、Ti・Auの電極パターンを形成し、金メッキ方法などにより形成することが可能である。さらに、必要に応じて光導波路形成後の基板表面に誘電体SiO等のバッファ層を設けることも可能である。
【0024】
中継基板3は、信号電極25に印加する変調信号(高周波信号)を中継するための高周波信号用中継基板である。
中継基板4は、DCバイアス電極26,27に印加するDCバイアス電圧(低周波信号)を中継するための低周波信号用中継基板である。
【0025】
図2は、導波路基板2と中継基板4の接続部分の拡大図である。
導波路基板2には、DCバイアス電極26や27にDCバイアス電圧を供給するためのDCバイアス配線22(a),22(b)が形成されている。DCバイアス配線22(a)はプラス用の配線であり、中継基板4に形成されたDCバイアス配線42(a)にワイヤー6(a)で接続される。DCバイアス配線22(b)はマイナス用の配線であり、中継基板4に形成されたDCバイアス配線42(b)にワイヤー6(b)で接続される。筐体1には、外部の電気回路からDCバイアス電圧の供給を受けるためのコネクタ(接続端子)11(a),11(b)が設けられており、コネクタ11(a),11(b)を介してDCバイアス配線42(a),42(b)と外部の電気回路が電気的に接続される。
なお、以下の説明では、DCバイアスのプラスとマイナスを区別しない限り、(a)、(b)の表記を省略する。
【0026】
DCバイアス配線42とコネクタ11は半田を使用して接続されており、この半田から錫が発生して電極間に気相輸送され、電極間に析出成長して、バイアス安定の劣化を引き起こす懸念がある。そこで、半田の使用箇所であるコネクタ接続部(DCバイアス配線42とコネクタ11の接続部分)の近傍において、DCバイアス配線42の一部に、中継基板4から導波路基板2の上面より高い位置に立ち上がる空中線を設ける。
【0027】
図3の例では、DCバイアス配線22とDCバイアス配線42とをワイヤー6で電気的に接続した空中配線の構造となっており、このワイヤー6を空中線に兼用している。なお、DCバイアス配線22とDCバイアス配線42とを電気的に接続するために、ワイヤー以外の空中配線(例えばリボン)を用いる場合にも、その空中配線を空中線に兼用できることは言うまでもない。
【0028】
ここで、空中線(ワイヤー6)は、図3のように、中継基板4から導波路基板2の上面より高い位置に立ち上がるように形成される。すなわち、空中線が、導波路基板2の電極形成面の上方に張り出す形状となる。これにより、コネクタ接続部に使用された半田から発生した錫は、導波路基板2上の電極に向かう途中にある空中線で捕集されるので、導波路基板2の電極間に析出成長することを抑制できる。
なお、半田から発生した錫を効率よく捕集するには、半田の使用箇所から10mm以内の位置に空中線を配置することが好ましい。また、空中線は被覆されていないことが好ましく、特に、錫(Sn)を捕集しやすい裸の金(Au)であることが好ましい。
【0029】
本例では、DCバイアスのプラス側のワイヤー6(a)とマイナス側のワイヤー6(b)の両方を、導波路基板2の電極形成面の上方に張り出す形状の空中線としている。これにより、プラスのコネクタ接続部(コネクタ11(a)側)から発生する錫と、マイナスのコネクタ接続部(コネクタ11(b)側)から発生する錫を効率的に捕集できるようになる。
【0030】
また、本例では、錫(Sn)の捕集について着目しているが、光変調器モジュール内部に含まれる他の含有物質についても効果が得られる。例えば、光導波路基板や偏波多重部に使用される光学部品に含まれる、亜鉛(Zn)、アルミ(Al)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、石英(SiO2)等の成分が余剰に析出されることがある。更には、中継基板と筐体との接続に多用される導電性接着剤(銀ペースト)や外部の光ファイバと筐体との接続の為に、半田によるフラックス(ハロゲン化合物:フッ素(F)、ヨウ素(I)、塩素(Cl)、臭素(Br))、が含まれることがある。これらの物質は元素毎に電気陰性度特性を持ち、一般的には元素周期表の族番号が大きく、属番号が小さい元素ほど電子を引き付ける強さが大きくなる。一例をいうと、上記物質では、クロム(Cr)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)などは、DCバイアスのプラス側に引き寄せられ、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、Ag(銀)、フッ素(F)などは、DCバイアスのマイナス側に引き寄せられる特性をもつ。よって、本実施例において、錫(Sn)のみならず、他のパーティクル物質の捕集についても効果があることがわかる。
【0031】
実験・研究の結果により、空中線の表面積(合計)を9400μm2以上にした方が好ましいことが分かった。また、空中線に印加するDCバイアス電圧を20V以上にした方が好ましいことが分かった。例えば、図2のように、断面形状が円形の空中線を2本用いる場合は、各々の空中線を直径30μm以上、長さ50μm以上にすることが好ましく、また、ワイヤー6(a)には+20V以上、ワイヤー6(b)には−20V以下の電圧を印加することが好ましい。この例の場合には、空中線の表面積は、下記式より9420μm2となる。
空中線の表面積=空中線の直径×π×空中線の長さ×空中線の本数
=30μm×3.14×50μm×2本
=9420μm2
【0032】
また、変調器内部の実装条件においては、空中線の長さを200μm以上にすることで、より信頼性を高めることが可能となり、この場合には、空中線の表面積(合計)を44000μm2以上にすることが望ましい。具体例を挙げると、導波路基板と中継基板と変調器筐体の線膨張係数を考慮すれば、基板間隔が200μmの場合は空中線の長さを236μmとすることが好ましく、この場合の空中線の表面積は、下記式より44462.4μm2となる。
空中線の表面積=30μm×3.14×236μm×2本
=44462.4μm2
【0033】
なお、空中線は、DCバイアス配線22とDCバイアス配線42とを接続する空中配線を兼用する構成に限定されない。すなわち、図4に他の例を示すように、DCバイアス配線41の一部から導波路基板2の電極形成面の上方に張り出し、且つDCバイアス配線21に接続されないワイヤー7を用いてもよい。
【0034】
また、図2の例では、導波路基板2に、気相輸送物質を吸着するゲッター材24が半田接続されており、中継基板4にも、同様のゲッター材44が半田接続されている。そして、これらゲッター材24,44の近傍(10mm以内)の位置に空中線(ワイヤー6(a))を設けることで、錫の捕集効果を高めている。なお、ゲッター材は、導波路基板又は中継基板の一方だけに設けてもよい。
【0035】
また、図2の例では、中継基板4上のDCバイアス配線42(a),42(b)のそれぞれに枝分かれ線43(a)、43(b)を設けてある。このような枝分かれ線43をDCバイアス配線42に設けることで、筐体1内のダストを枝分かれ線43に集める効果が得られる。
【0036】
以上、実施例に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した内容に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上、説明したように、本発明によれば、筐体内の半田から錫が発生して電極間に気相輸送され、電極間に析出成長し、バイアス安定の劣化を引き起こす問題を軽減することが可能な光変調器モジュールを提供することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 筐体
2 導波路基板
3,4 中継基板
6,7 ワイヤー
21 光導波路
22 DCバイアス配線
24 ゲッター材
25 信号電極
26,27 DCバイアス電極
42 DCバイアス配線
43 枝分かれ線
44 ゲッター材
図1
図2
図3
図4