特許第6705441号(P6705441)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6705441粘着フィルム、粘着層付き透明面材、および表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6705441
(24)【登録日】2020年5月18日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】粘着フィルム、粘着層付き透明面材、および表示装置
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/00 20180101AFI20200525BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20200525BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   C09J7/00
   C09J201/00
   B32B27/00 M
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-502033(P2017-502033)
(86)(22)【出願日】2016年2月5日
(86)【国際出願番号】JP2016053566
(87)【国際公開番号】WO2016136436
(87)【国際公開日】20160901
【審査請求日】2018年7月26日
(31)【優先権主張番号】特願2015-33448(P2015-33448)
(32)【優先日】2015年2月24日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大河原 淳夫
(72)【発明者】
【氏名】尾形 雄一郎
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−057550(JP,A)
【文献】 特開2007−063082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(c)の要件を備える粘着層を1層以上有することを特徴とする粘着フィルム。
(a)測定温度25℃、圧力100kPaにおける窒素ガスの拡散係数が1.5×10−6cm/秒以上3.0×10−6cm/秒以下
(b)測定温度25℃、周波数1Hzにおけるせん断弾性率G’(1Hz)が5×10〜1.0×10Pa。
(c)赤外線吸収スペクトルにおいて、800〜820cm−1に吸収ピークを有し、1000〜1020cm−1に吸収ピークを有さない。
【請求項2】
前記粘着層のガラス転移温度が−65℃以下である請求項1に記載の粘着フィルム。
【請求項3】
前記粘着層の測定温度25℃、周波数1Hzにおけるtanδが0.01〜1.4である請求項1または2に記載の粘着フィルム。
【請求項4】
透明面材と、下記(a)〜(c)の要件を備える粘着層を1層以上有することを特徴とする粘着層付き透明面材。
(a)測定温度25℃、圧力100kPaにおける窒素ガスの拡散係数が1.5×10−6cm/秒以上3.0×10−6cm/秒以下
(b)測定温度25℃、周波数1Hzにおけるせん断弾性率G’(1Hz)が5×10〜1.0×10Pa。
(c)赤外線吸収スペクトルにおいて、800〜820cm−1に吸収ピークを有し、1000〜1020cm−1に吸収ピークを有さない。
【請求項5】
前記粘着層のガラス転移温度が−65℃以下である請求項4に記載の粘着層付き透明面材。
【請求項6】
前記粘着層の測定温度25℃、周波数1Hzにおけるtanδが0.1〜1.4である請求項4または5に記載の粘着層付き透明面材。
【請求項7】
透明面材が、表示装置の保護板である請求項4〜6のいずれか1項に記載の粘着層付き透明面材。
【請求項8】
透明面材と表示パネルとが、請求項1〜3のいずれか1項に記載の粘着フィルムを介して積層されていることを特徴とする表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着フィルム、粘着層付き透明面材、および表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表示パネルと保護板とを粘着フィルムを介して貼合してなる表示装置が知られている(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−263502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の粘着フィルムで、表示パネルと保護板とを貼合すると、粘着フィルムと保護板または表示パネルとの界面に気泡が発生し、表示パネルの表示画像品質を損ねるおそれがあった。そして、従来は気泡を消失させるために、粘着フィルムを介して貼合した後に高温加圧下に置く処理(以下、オートクレーブ処理という。)がなされていた。
【0005】
しかし、オートクレーブ処理を行うと、製造工程の時間が長くなり、表示パネルが熱損傷を受けるなどの問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、粘着フィルムを貼合に用いた場合に、貼合界面で発生した気泡が、常温常圧下で消失しやすい粘着フィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の粘着フィルムは、下記(a)〜(c)の要件を備える粘着層を1層以上有することを特徴とする。
(a))測定温度25℃、圧力100kPaにおける窒素ガスの拡散係数が1.5×10−6cm/秒以上3.0×10−6cm/秒以下
(b)測定温度25℃、周波数1Hzにおけるせん断弾性率G’(1Hz)が5×10〜1.0×10Pa。
(c)赤外線吸収スペクトルにおいて、800〜820cm−1に吸収ピークを有し、1000〜1020cm−1に吸収ピークを有さない。
【0008】
本発明の粘着層付き透明面材は、透明面材の一主面上に、下記(a)〜(c)の要件を備える粘着層を1層以上有することを特徴とする。
(a)測定温度25℃、圧力100kPaにおける窒素ガスの拡散係数が1.5×10−6cm/秒以上3.0×10−6cm/秒以下
(b)測定温度25℃、周波数1Hzにおけるせん断弾性率G’(1Hz)が5×10〜1.0×10Pa。
(c)赤外線吸収スペクトルにおいて、800〜820cm−1に吸収ピークを有し、1000〜1020cm−1に吸収ピークを有さない。
また、本発明の表示装置は、透明面材と表示パネルとが上記粘着フィルムを介して積層されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、面材同士の貼合時に用いた際に、貼合界面に気泡が発生しても常圧下で気泡が消失する粘着フィルム、および粘着層付き透明面材が提供される。また、気泡の発生が抑制された表示装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の粘着層を1層有する粘着フィルムを示す平面図。
図2】本実施形態の粘着フィルムの図1におけるI−I断面図。
図3】本実施形態の粘着層を2層有する粘着フィルムを示す断面図。
図4】本実施形態の粘着層を1層有する粘着フィルムの製造するための製造装置を示す概略構成図。
図5】本実施形態の粘着層を2層有する粘着フィルムの製造するための製造装置を示す概略構成図。
図6】本実施形態の粘着層を1層有する粘着層付き透明面材の断面図。
図7】本実施形態の粘着層を2層有する粘着層付き透明面材の断面図。
図8】本実施形態の粘着層を有する表示装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。
なお、本発明の範囲は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更できる。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等が異なる場合がある。
【0012】
本実施形態の説明においては、下記説明する(a)〜(c)の要件を備える粘着層を粘着層Iと呼び、その他の粘着層を粘着層IIという。また、粘着層Iおよび粘着層IIの両方を指す場合には、単に粘着層という。
【0013】
(粘着フィルム)
本実施形態の粘着フィルムは、粘着層Iを1層以上有する。粘着フィルムは、取り扱い易さの観点から、1対の保護フィルムで粘着層が挟持された構成、または、1枚の保護フィルム上に粘着層を有しロール状に巻き取られた構成等で取り扱われる。これにより、粘着層に触れることなく粘着層の切り出しや搬送を行える。
【0014】
[粘着層I]
本発明の粘着層Iは、下記(a)〜(c)の要件、すなわち(a)〜(c)の特性を備える。
(a)窒素ガスの拡散係数が1.5×10−6cm/秒以上。
(b)測定温度25℃、周波数1Hzにおけるせん断断弾性率G’(1Hz)が5×10〜1.0×10Pa。
(c)赤外線吸収スペクトルにおいて、800〜820cm−1に吸収ピークを有し、1000〜1020cm−1に吸収ピークを有さない。
【0015】
粘着層Iの窒素ガスの拡散係数は、1.5×10−6cm/秒以上であるため、貼合界面に気泡が発生しても、気泡は短時間で消失する。
【0016】
粘着フィルムを対象物に貼り付けると、貼合界面に気泡が発生する場合がある。本発明者らは、数あるガスの中で窒素ガスの拡散係数を上記範囲に制御することで、粘着フィルムを貼合物に貼合した際の貼合界面に発生する気泡が短時間に消失することを見出した。
【0017】
粘着層Iの窒素ガスの拡散係数は、気泡の消失特性に優れる点で、1.55×10−6cm/秒以上が好ましく、1.6×10−6cm/秒以上が特に好ましい。一方、粘着層Iの窒素ガスの拡散係数は、3.0×10−6cm/秒以下であることが好ましい。粘着層Iの窒素ガスの拡散係数が3.0×10−6cm/秒を超えると、粘着層Iと貼合物との貼合界面に気泡が入りやすくなり、貼合界面での密着力が低下するおそれがある。
【0018】
粘着層Iの窒素ガスの拡散係数は、高温高圧気体透過率測定装置(例えば、ツクバリカセイキ社製、装置名K−315−H)を用いて、下記条件1にて測定される非定常状態での遅れ時間tと粘着層の厚さから式1により算出する。
【0019】
(条件1)
・厚さ30μmの延伸ポリプロピレン基材の片面に粘着層を貼り付けたものを試料とする。
・試料をセルに挟み、基材側から窒素ガスを導入する。
・セルに挟んだ試料を介して透過してきた窒素ガスの質量を質量分析器で分析し、質量の時間経過を測定する。
・窒素ガスは高純度品を使用し、測定温度は25℃、圧力は100kPa、セルはφ50mmを用いる。
・式1:窒素ガスの拡散係数DN2=L/(6×t
ただし、遅れ時間tは、試料の透過曲線の非定常状態での遅れ時間tから、基材のみの透過曲線の非定常状態での遅れ時間tを引いた値(t=t−t)であり、Lは粘着層の膜厚(単位:cm)である。
【0020】
粘着層Iにおける、空気の拡散係数は、1.7×10−6cm/秒以上であることが好ましい。空気の拡散係数が1.7×10−6cm/秒以上であれば、粘着層I中での空気の拡散速度が速くなる。その結果、粘着フィルムと貼合物との界面で気泡が発生しても、常圧下において気泡がより短時間で消失する。空気の拡散係数は、1.8×10−6cm/秒以上であることがより好ましく、2×10−6cm/秒以上であることがさらに好ましい。一方で、粘着層Iの空気の拡散係数は3×10−6cm/秒以下が好ましい。粘着層Iの空気の拡散係数が3×10−6cm/秒を超えると、粘着層Iの貼合界面での密着力が低下するおそれがある。
【0021】
空気の拡散係数は、窒素ガスの拡散係数の測定に用いたものと同様の装置を用いて、下記条件2を用いること以外は窒素ガスの拡散係数を測定した条件と同様の条件で測定する。
(条件2)
・空気を使用し、測定温度は25℃、圧力は100kPa、セルはφ50mmを用いる。
【0022】
粘着層Iは、酸素ガスの拡散係数が1.9×10−6cm/秒以上であることがより好ましい。酸素の拡散係数が1.9×10−6cm/秒以上であれば、空気中のガスのほとんどが粘着層I中を素早く拡散するため、粘着フィルムと貼合物との界面で気泡が発生しても、常圧下において短時間で気泡が消失する。粘着層Iの酸素の拡散係数は、2×10−6cm/秒以上であることがさらに好ましく、2.1×10−6cm/秒以上であることが特に好ましい。一方で、粘着層Iの酸素ガスの拡散係数は、3×10−6cm/秒以下が好ましい。粘着層Iの酸素ガスの拡散係数が3×10−6cm/秒を超えると、粘着層Iの貼合界面での密着力が低下するおそれがある。
【0023】
酸素ガスの拡散係数は、窒素ガスの拡散係数と同様の装置を用いて、下記条件3を用いること以外は窒素ガスの拡散係数を測定した条件と同様の条件で測定する。
(条件3)
・酸素ガスは高純度品を使用し、測定温度は25℃、圧力は100kPa、セルはφ50mmを用いる。
【0024】
粘着層Iの、測定温度25℃、周波数1Hzにおけるせん断弾性率G’(1Hz)は、5×10〜1×10Paである。粘着層Iのせん断弾性率G’(1Hz)が上記範囲にあるため、本実施形態の粘着フィルムを用いて貼合すると、粘着層Iの形状が維持され、貼合物を固定できる。前記せん断弾性率G’(1Hz)が、5×10Pa未満では、粘着層Iが変形しやすく、粘着フィルムを使用して貼合しても、貼合物を固定できないおそれがある。一方で、粘着層Iのせん断弾性率G’(1Hz)が1×10Paを超えると、粘着層Iが硬すぎるため、例えば、貼合物に段差等の凹凸がある場合に、粘着層Iが凹凸を追従できず、凹凸に気泡が残るおそれがある。
【0025】
粘着層Iのせん断弾性率G’(1Hz)は、1×10〜8×10Paがより好ましく、5×10〜5×10Paがさらに好ましい。粘着層Iのせん断弾性率G’(1Hz)がこの範囲にあれば、粘着層Iの変形を抑制できるとともに、貼合時に対象物と粘着層との界面に気泡が発生することも抑制できる。
【0026】
粘着層Iは、赤外線吸収スペクトルにおいて、800〜820cm−1に吸収ピークを有し、1000〜1020cm−1に吸収ピークを有さない。赤外線吸収スペクトルにおいて、800〜820cm−1の吸収ピークは、ビニル基C−Hの面外変角振動の吸収バンドである。また、1000〜1020cm−1の吸収ピークは、Si−O−Siの伸縮振動の吸収バンド(典型的には、吸収ピークは1010cm−1)である。粘着層IがSi−O−Si結合を有すると、湿気のある空気または水に触れた際に、粘着層Iが白濁するおそれがある。例えば、表示パネルと透明面材を貼り合わせた際に、粘着層が白濁すると表示装置の品質が低下する。
なお、上記800〜820cm−1の吸収、及び1000〜1020cm−1の吸収は、例えば粘着層Iを試料フォルダに貼付した試料を用いて赤外線吸収スペクトル測定を行うことで確認できる。
【0027】
粘着層Iのガラス転移温度は、−65℃以下が好ましい。粘着層Iのガラス転移温度がこの範囲にあれば、常温において貼合物との密着力が高くなる。粘着層Iのガラス転移温度は、−70℃以下がより好ましい。
【0028】
粘着層Iは、測定温度25℃、周波数1Hzにおけるtanδが0.01〜1.4であることが好ましい。tanδがこの範囲にあれば、貼合物を垂直に配置しても貼合物同士を充分に固定できる。そして、貼合物の自重によって粘着層Iが塑性変形するなどして、経時的に貼合界面がずれることを防止できる。tanδは、0.05〜1がより好ましく、0.1〜0.8がさらに好ましい。
【0029】
粘着層Iは、厚さは特に限定されず、粘着フィルムの用途に応じて自由に設計できる。例えば、粘着フィルムを用いて、保護板と表示装置の表示パネルとを貼合する際には、その厚さは、0.1〜2mm程度が好ましく、0.15〜1.5mmがより好ましい。粘着層Iの厚さが0.1mm以上であれば、保護板と表示装置の表示パネルとを貼合した際に、保護板側からの外力による衝撃等を粘着層が効果的に緩衝し、表示装置本体を保護できる。また、保護板と表示装置の表示パネルとの間に粘着層の厚さを超えない異物が混入しても、粘着層の厚さが大きく変化することがなく、光透過性能への影響が少ない。粘着層の厚さが2mm以下であれば、粘着層を介して保護板を表示装置の表示パネルに貼合しやすく、表示装置の全体の厚さを薄くできる。なお、上記した保護板と表示装置の表示パネルとを貼合するとは、上記した保護板と表示装置の表示パネルの表示面、すなわち画像表示面とを貼合することを意味し、以下本明細書において同様である。
【0030】
[樹脂組成物]
粘着層Iは、以下で説明する樹脂組成物を硬化して形成されることが好ましい。以下に、樹脂組成物の成分について説明する。
樹脂組成物は、光硬化性を有する硬化性成分Iを必須成分として含む。硬化性成分Iは、ビニル基C−Hの面外変角振動の吸収バンドに相当する800〜820cm−1に吸収ピークを有する化合物を必須化合物として含む。
樹脂組成物は、下記する非硬化性成分IIおよび光重合開始剤IIIを含むことが好ましい。
【0031】
(硬化性成分I)
硬化性成分Iは、硬化性基を有し、数平均分子量が1000〜100000であるポリマーA1の1種以上と、硬化性基を有し分子量が125〜600であるモノマーA2の1種以上とを含むことが好ましい。このような硬化性成分Iを用いると、樹脂組成物の粘度を好ましい範囲に調整しやすく、粘着層Iを製造しやすい。
【0032】
ポリマーA1または前記モノマーA2の硬化性基としては、付加重合性の不飽和基(アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等)、不飽和基とチオール基との組み合わせ等が挙げられる。硬化速度が速い点および透明性の高い粘着層Iが得られる点から、硬化性基は、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基が好ましい。
【0033】
ポリマーA1における硬化性基と、モノマーA2における硬化性基とは互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
硬化反応に必要な時間を短縮させるため、ポリマーA1とモノマーA2の硬化性基を反応性の高いアクリロイルオキシ基とすることが好ましい。
【0034】
(ポリマーA1)
ポリマーA1の数平均分子量は、1000〜100000が好ましく、10000〜70000がより好ましい。ポリマーA1の数平均分子量がこの範囲であると、樹脂組成物の粘度を前記範囲に調整しやすい。ポリマーA1の数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)の測定によって得られた、ポリスチレン換算の数平均分子量である。なお、GPCの測定において、未反応の低分子量成分(モノマー等)のピークが現れる場合は、ピークを除外して数平均分子量を求める。
【0035】
ポリマーA1は、樹脂組成物の硬化性、粘着層Iの機械的特性を制御する観点から、硬化性基を1分子あたり平均して2個〜4個有するものが好ましい。
ポリマーA1としては、ウレタン結合を有するウレタンポリマー、ポリオキシアルキレンポリオールのポリ(メタ)アクリレート、ポリエステルポリオールのポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。ウレタン鎖の分子設計等によって硬化後の樹脂の機械的特性、貼合物との密着性等を幅広く調整できる点から、ウレタンポリマーが好ましい。
【0036】
ウレタンポリマーは、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させてイソシアネート基を有するプレポリマーを得た後、プレポリマーのイソシアネート基に、モノマーを反応させる方法で合成できる。ポリオール、ポリイソシアネートとしては、公知の化合物、たとえば国際公開第2009/016943号パンフレットに記載のウレタン系ポリマーaの原料として記載されたポリオールi、ジイソシアネートii等が挙げられ、本明細書中に組み入れられる。
【0037】
硬化性成分I中のポリマーA1の含有割合は、1〜90質量%が好ましく、5〜80質量%がより好ましい。ポリマーA1の割合が1質量%以上であると、粘着層Iの耐熱性が良好となる。ポリマーA1の割合が90質量%以下であると、樹脂組成物の硬化性、貼合物と粘着層Iとの密着性が良好となる。
【0038】
(モノマーA2)
モノマーA2の分子量は、125〜600が好ましい。モノマーA2の分子量がこの範囲にあれば、密着性が良好な粘着層Iが得られる。モノマーA2の分子量は、140〜400が好ましい。モノマーA2は、樹脂組成物の硬化性、粘着層Iの機械的特性を制御する観点から、硬化性基を1分子あたり1個〜3個有するものが好ましい。
硬化性成分I中のモノマーA2の含有割合は、10〜99質量%が好ましく、20〜95質量%がより好ましい。
【0039】
モノマーA2は、硬化性基および水酸基を有するモノマーA2’と硬化性基を有するが水酸基を有さないモノマーA2’ ’に大別できる。
硬化性基を有するが水酸基を有さないモノマーA2’ ’としては、炭素数8〜22のアルキル基を有するアルキルアクリレート、およびアルキルメタクリレートから選ばれる1種以上が好ましい。モノマーA2としては、具体的に、n−デシルアクリレート、n−ドデシルアクリレート、n−ドデシルメタクリレート、イソオクタデシルアクリレート、n−オクタデシルメタクリレート、n−ベヘニルメタクリレート等が挙げられ、n−デシルアクリレート、n−ドデシルアクリレート、n−ドデシルメタクリレートが好ましい。
【0040】
本実施形態において、モノマーA2は、硬化性基および水酸基を有するモノマーA2’を含有することが好ましい。硬化性成分I中にモノマーA2’を含むと、樹脂組成物中に後述する非硬化性成分IIを含む場合に、非硬化性成分IIの相溶性を高くできる。さらに、モノマーA2’を含めば、貼合物がガラスの場合に、粘着層Iとガラスとの密着力が向上するため好ましい。
モノマーA2’としては、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、6−ヒドロキシヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、6−ヒドロキシヘキシルメタクリレートなどが挙げられる。その中でも、炭素数2〜8のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアクリレートが好ましく、4−ヒドロキシブチルアクリレートが特に好ましい。
【0041】
硬化性成分I中のモノマーA2’の含有割合は、10〜60質量%が好ましく、20〜50質量%がより好ましい。モノマーA2’の含有割合が10質量%以上であると、樹脂組成物の安定性向上、および粘着層Iと貼合物との密着性向上の効果が充分に得られやすい。
また、硬化性成分I中のモノマーA2’ ’の含有割合は、10〜60質量%が好ましく、20〜50質量%がより好ましい。モノマーA2’ ’の含有割合が10質量%以上であると、樹脂組成物の安定性向上、および粘着層Iのせん断弾性率G´を5×10〜1×10Paの範囲にしやすい。
【0042】
(非硬化性成分II)
非硬化性成分IIは、樹脂組成物の硬化性成分Iを硬化させる時に硬化性化合物Iと硬化反応しない成分である。本実施形態においては、非硬化性成分IIは、水酸基を含有するポリマーBであることが好ましい。
ポリマーBの1分子当たりの水酸基数は、0.8〜3個が好ましく、1.8〜2.3個がより好ましい。ポリマーBの数平均分子量は、400〜8000が好ましく、800〜6000がより好ましい。
ポリマーBの数平均分子量が400〜8000であれば、樹脂組成物中の硬化性成分Iとの相溶性を高くできる。その結果、樹脂組成物を硬化して得られる粘着層Iを透明にできる。
ポリマーBは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0043】
ポリマーBの例としては、高分子量のポリオールなどが挙げられ、ポリオキシアルキレンポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールが好ましい。ポリオキシアルキレンポリオールとしては、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、分枝構造を有するポリオキシプロピレングリオール、ポリオキシテトラメチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコールが挙げられる。
【0044】
ポリオキシアルキレンポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどの脂肪族ジオールの残基とグルタル酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸の残基とを有する脂肪族系ポリエステルジオールが挙げられる。
ポリカーボネートポリオールとしては、1,6−ヘキサンジオールなどのジオール残基を有する脂肪族ポリカーボネートジオール、脂肪族環状カーボネートの開環重合体などの脂肪族ポリカーボネートジオールが挙げられる。
【0045】
硬化後の粘着層Iのせん断弾性率G’をより低くする点で、ポリマーBとしてポリオキシアルキレンポリオールを用いることが好ましく、特にポリオキシプロピレンポリオールが好ましい。また、ポリオキシプロピレンポリオールのオキシプロピレン基の一部をオキシエチレン基で置換してもよい。たとえば、ポリマーA1が、ポリオキシアルキレンポリオールおよびポリイソシアネートを原料に用いて合成されたウレタンポリマーであり、ポリマーBがポリオキシアルキレンポリオールであると、これらの相溶性を高くできる点で好ましい。
【0046】
樹脂組成物中に非硬化性成分IIを含有すると、常圧下において粘着層Iと貼合物との貼合界面に生じた気泡が消失する時間がより短縮する効果を奏する。樹脂組成物中の非硬化性成分IIの含有割合は、硬化性成分Iの合計質量(100質量部)に対して、10〜70質量部が好ましい。樹脂組成物中の非硬化性成分IIの含有量がこの範囲にあれば、気泡の消失する効果が充分に得られ、かつ、粘着層Iの硬化を充分にできる。なお、非硬化性成分IIを2種以上使用する場合には、前記含有割合は、非硬化性成分IIの合計量の割合である。
【0047】
(光重合開始剤III)
樹脂組成物に含まれる光重合開始剤IIIとしては、アセトフェノン系、ケタール系、ベンゾインまたはベンゾインエーテル系、フォスフィンオキサイド系、ベンゾフェノン系、チオキサントン系、キノン系等の光重合開始剤が挙げられる。これらの中でも、フォスフィンオキサイド系、チオキサントン系の光重合開始剤が好ましく、光重合反応後に着色を抑える面ではフォスフィンオキサイド系が特に好ましい。高強度の光照射による光重合反応を行う場合には、アセトフェノン系の光重合開始剤を用いると、硬化速度を高めることができるため好ましい。樹脂組成物における光重合開始剤IIIの含有量は、硬化性成分Iの合計質量(100質量部)に対して、0.01〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましい。
【0048】
樹脂組成物は、硬化性成分I、非硬化性成分II、および光重合開始剤III以外に必要に応じて連鎖移動剤、重合禁止剤、光硬化促進剤、光安定剤(紫外線吸収剤、ラジカル捕獲剤等)、酸化防止剤、難燃化剤、接着性向上剤(シランカップリング剤等)、顔料、染料等の各種添加剤を含んでいてもよい。中でも、重合禁止剤、酸化防止剤等を含むことが好ましい。これらの添加剤の合計質量は、硬化性成分Iの合計質量(100質量部)に対して、0〜10質量部が好ましく、0〜5質量部がより好ましい。
【0049】
連鎖移動剤は、ラジカル重合によって成長するポリマーからラジカルを受け取り、ポリマーの伸長を抑制する働きをする化合物である。そのため、樹脂組成物の添加剤として連鎖移動剤を含有し、連鎖移動剤の含有量を調整することで、硬化後の硬化性成分の分子量を調節できる。
【0050】
連鎖移動剤としては、たとえば、チオール基を有する化合物(n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)等が挙げられる。
【0051】
重合禁止剤は、ラジカル重合によって成長するポリマーからラジカルを受け取り、反応を停止させる働きをする化合物である。樹脂組成物の添加剤として、重合禁止剤を含み、その含有量を重合開始剤より少ない量とすることで、樹脂組成物の安定性を改善でき、硬化後の分子量も調整できる。
重合禁止剤としては、例えば、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、モノ−t−ブチルヒドロキノン、p−t−ブチルカテコール等が挙げられる。
【0052】
樹脂組成物の添加剤として、酸化防止剤を含むと、硬化後の樹脂組成物の安定性を高めることができる。樹脂組成物に添加できる市販の酸化防止剤としては、BASF社製のIrganox1010、Irganox1035、Irganox1076、Irgastab PUR68、ADEKA社製のアデカスタブ、PEP−8、PEP−36/36A等があげられる。
【0053】
以下に本発明の粘着フィルムの一形態を、図を用いて説明する。図1および図2に、粘着層Iを単層で有する粘着フィルムの一形態を示す。図1は、粘着層20を保護フィルム30、31で挟持した形態の粘着フィルム10の正面図であり、図2は、図1のI−I断面図である。
本発明の粘着フィルムは、粘着層は少なくとも1層が粘着層Iであればよく、粘着層を2層以上有してもよい。粘着層を2層以上設ける構成にすると、例えば、粘着層の表層と裏層とで密着力等の物性が異なる粘着フィルムが得られる。図3は、粘着層を2層有する形態の断面図であり、粘着層21、22を保護フィルム30、31で挟持した形態の粘着フィルム11を示す。この場合、粘着層21および22の少なくとも一方が粘着層Iであればよく、両方が粘着層Iであることが好ましい。
【0054】
2層以上粘着層を有する場合、粘着層の全体の厚みは、粘着フィルムを用いて貼合する用途に応じて自由に設定できる。例えば、粘着フィルムを用いて、保護板と表示装置の表示パネルとを貼合する際には、粘着層全体の厚みは、0.15〜2mmが好ましく、0.3〜1.5mmがより好ましい。粘着層全体の厚さが0.15mm以上であれば、保護板と表示装置の表示パネルとを貼合した際に、保護板側からの外力による衝撃等を粘着層が効果的に緩衝し、表示装置本体を保護できる。また、保護板と表示装置の表示パネルとの間に粘着層全体の厚さを超えない異物が混入しても、粘着層の厚さが大きく変化することがなく、光透過性能への影響が少ない。粘着層全体の厚さが2mm以下であれば、粘着層を介して保護板を表示装置の表示パネルに貼合しやすく、表示装置の全体の厚さを薄くできる。
(保護フィルム)
本発明の粘着フィルムにおいて、粘着層は、保護フィルムと接した形態又は粘着層が保護フィルムで挟持された形態とすることが好ましい。これにより、例えば粘着層の加工、搬送および保管が容易になる。
【0055】
保護フィルムは、基材の粘着層と接する面に離型剤を有することが好ましい。離型剤としては、シリコーン樹脂等が挙げられる。粘着層の積層体の表層と裏層とに接する保護フィルムは、互いに同一でもよく、別のものでもよい。粘着フィルムを貼合する際に、所望の表層側を剥離するために、保護フィルムを別のものを使用し、保護フィルムと粘着層との密着力に差をつけることが好ましい。
【0056】
密着力に差を持たせる方法としては、保護フィルムの離型層の厚さをかえる方法、保護フィルムの離型剤の種類を変える方法が挙げられる。これらは、粘着フィルムを用いる用途等に応じて自由に設計できる。
【0057】
保護フィルムの基材としては、PET(Polyethylene Terephthalate)、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂等のフィルムを使用できる。
【0058】
保護フィルムの基材厚みは、用いる樹脂により異なり、PETフィルムを用いる場合には、0.025mm〜0.175mmが好ましく、0.038mm〜0.125mmがさらに好ましい。ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムを用いる場合には0.04mm〜0.2mmが好ましく、0.06mm〜0.1mmがさらに好ましい。
【0059】
保護フィルムは、外部から気体(酸素ガス、窒素ガス、水蒸気等)を透過しないことが好ましい。保護フィルムのガス透過度は、100cc/m・day・atm以下が好ましい。例えば、基材にアルミナ等の無機化合物膜のバリア層を設けることで、気体の透過を低減できる。
【0060】
<粘着フィルムの製造方法>
本実施形態の粘着フィルムの製造方法は、1種の樹脂組成物を用いて単層の粘着層Iを製造する方法、2種以上の樹脂組成物を用いて少なくとも1層の粘着層Iを有する2層以上の粘着層を製造する方法等が挙げられる。
【0061】
粘着層は、例えば、保護フィルムに樹脂組成物を塗布し、光を照射して、樹脂組成物を硬化して製造できる。粘着フィルムの製造例として、粘着層Iを1層有する粘着フィルム10を、図4に示す製造装置100を用いて製造する方法を説明する。
【0062】
製造装置100は、図4に示すように、第1の巻出しロール50、第2の巻出しロール51、塗工ダイ40、貼合ロール53、硬化部60、および第1の巻取りロール52を備える。
【0063】
巻出しロール50から保護フィルム30を順次巻き出し、塗工ダイ40で保護フィルム30に第1の樹脂組成物を連続して塗布する。そして、巻出しロール51から保護フィルム31を順次巻き出し、貼合ロール53により第1の樹脂組成物に保護フィルム31を貼合する。
【0064】
次いで、硬化部60で光照射して第1の樹脂組成物を硬化し、粘着層(図6における粘着層20に相当する粘着層)を形成する。これにより、粘着層20が保護フィルム30および保護フィルム31によって挟持された粘着フィルム10のロールが製造される。
【0065】
硬化部60は、チャンバー61と、チャンバー61内に配置された光源62を備えている。図4に示す例では、光源は1つであるが、光源の数は、2つ以上でもよい。光源42は、紫外線を照射可能な光源であり、例えば、高圧水銀灯、メタルハライドランプおよびLEDからなる群から選ばれる1以上の光源を使用できる。また、光源62の位置は、保護フィルム30側でもよく、樹脂組成物を塗布した面側でもよい。
【0066】
チャンバー61内の雰囲気は、特に限定されない。チャンバー61内を不活性ガス雰囲気にすれば、上述した樹脂組成物に紫外線を照射(光照射)して硬化反応させる際に、紫外線照射によって樹脂組成物に生じるラジカルが、酸素で失活する副反応を抑制することができるため好ましい。不活性ガス雰囲気としては、例えばチャンバー41内を窒素で充填し、酸素濃度が100ppm以下であることが好ましい。
【0067】
粘着フィルムの他の製造例として、粘着層を2層有する粘着フィルム11を図5に示す製造装置110を用いて製造する方法を説明する。
製造装置110は、図5に示すように、第1の巻出しロール50、第2の巻出しロール51、第1の塗工ダイ40、第1の硬化部60、第2の塗工ダイ41、第2の硬化部63と、第1の巻取りロール52を備える。
【0068】
巻出しロール50から保護フィルム30を順次巻き出し、第1の塗工ダイ40で保護フィルム30に第1の樹脂組成物を帯状に連続して塗工する。そして、第1の硬化部60で光照射して第1の樹脂組成物を硬化し、粘着層(図7における粘着層21に相当する粘着層)を形成する。
【0069】
次いで、第2の塗工ダイ41で粘着層21に第2の樹脂組成物を帯状に連続して塗工する。そして、巻き出しロール51から保護フィルム31を順次巻き出し、貼合ロール53により第2の樹脂組成物に保護フィルム31を貼合する。
【0070】
次いで、第2の硬化部63で光照射して第2の樹脂組成物を硬化し、粘着層(図7における粘着層22に相当する粘着層)を形成する。これにより、粘着層21と粘着層22の積層体(粘着層20)が保護フィルム30および保護フィルム31によって挟持された粘着フィルム11のロールが製造される。
【0071】
製造装置110においては、第1の樹脂組成物と第2の樹脂組成物は、同一の組成の物を使用してもよく、異なる組成の物を使用してもよい。第1および第2の樹脂組成物を同一の組成とすれば、粘着層が厚い粘着フィルムを製造でき、異なる組成を用いれば表層と裏層とで物性が異なる粘着フィルムを製造できる。
また、第1の塗工ダイと第2の塗工ダイで塗工する樹脂組成物の塗工厚みは、同一でもよく、異なってもよい。製造する粘着フィルムの設計により、塗工厚みを適宜調整する。
【0072】
第1の硬化部60および第2の硬化部63の雰囲気および光照射条件は、製造装置100の硬化部と同様である。第1の硬化部60と第2の硬化部63は、雰囲気および光照射条件が同一でもよく別でもよい。また、光源62,65の位置は、保護フィルム30側でもよく、樹脂組成物を塗布した面側でもよい。
【0073】
粘着フィルムのもう一つの製造例として、図4において示した製造装置100で製造した粘着フィルム10を2以上準備し、各粘着フィルム10の一方の保護フィルムを剥離し、これらを積層する方法が挙げられる。準備する粘着フィルムの粘着層の樹脂組成物を同一の組成とすれば、単一の物性で粘着層を厚くでき、異なる組成を用いれば表層と裏層とで物性が異なる粘着フィルムを製造できる。
【0074】
粘着フィルムは、用途に応じて、所望の大きさに切断して使用される。粘着フィルムの切断では、レーザーカッターや回転刃を使用できる。粘着フィルムが柔らかく、せん断弾性率が100kPaより小さいものは、切断後の再付着を防止する観点からレーザーカッターを用いることが好ましい。
【0075】
<粘着層付き透明面材>
本実施形態の粘着層付き透明面材80は、図6または図7に示すように、透明面材81上に粘着層20を1層以上有する。図6および図7は、下記説明する表示装置の保護板として透明面材81を使用する粘着層付き透明面材であり、周縁部に遮光印刷部82を有する透明面材81上に粘着層20を1層以上有し、粘着層20の透明面材81とは逆の面に保護フィルム31を有する形態を示す。
【0076】
本実施形態の粘着層付き透明面材の粘着層は、少なくとも1層が粘着層Iである。粘着層を2層以上設ける場合、少なくとも1層が粘着層Iであればよく、全てが粘着層Iであることが好ましい。また、各粘着層は、同一のものでも、異なるものでもよい。
【0077】
[透明面材]
透明面材は、透明性を有し、平面視形状や断面形状は、限定されない。平面視形状は、矩形、周辺が直線と曲線のものなど、用いる用途に応じて設計される。断面形状は、直線形状(すなわち、矩形状断面形状)、湾曲形状、または、中央部が直線形状で端部が湾曲形状であるような直線形状と湾曲形状の組合せが挙げられる。
【0078】
透明面材の材質は、ガラス、透明樹脂が挙げられる。ガラス材料としては、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス等が挙げられる。ガラスとしては、例えば、高透過ガラスや、強化ガラスを用いることができ、特に薄い透明面材を使用する場合には、化学強化を施したガラスが好ましい。透明樹脂材料としては、透明性の高い樹脂材料(ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂等)が挙げられる。
【0079】
透明面材の厚さは、透明性の点から、ガラス板の場合は、通常0.5〜25mmが好ましく、透明樹脂板の場合は、2〜10mmが好ましい。
【0080】
透明面材には、粘着層の透明面材との界面接着力を向上させるために、表面処理を施してもよい。表面処理の方法としては、透明面材の表面をシランカップリング剤で処理する方法、フレームバーナーによる酸化炎によって酸化ケイ素の薄膜を形成する方法等が挙げられる。
【0081】
[表示装置の保護板]
前記透明面材は、表示装置の表示パネルの保護に使用される保護板として好適に使用できる。保護板として使用する場合、表示パネルからの射出光や反射光に対して透明性を有することに加え、耐光性、低複屈折性、平面精度、耐表面傷付性、高い機械的強度を有する点から、保護板の材質は、ガラス板が好ましい。
【0082】
保護板として使用する場合には、表示画像のコントラストを高めるために、保護板の粘着層が形成された面とは反対の面に反射防止層を設けてもよい。反射防止層は、保護板の表面に低屈折率の無機薄膜を直接形成する方法、反射防止層を設けた透明樹脂フィルムを保護板に貼合する方法が挙げられる。
【0083】
保護板の一部または全体を着色したり、保護板の表面の一部または全体を磨りガラス状にして光を散乱させたり、保護板の表面の一部または全体に微細な凹凸等を形成して透過光を屈折または反射させたりしてもよい。また、着色フィルム、光散乱フィルム、光屈折フィルム、光反射フィルム等を、保護板の表面の一部または全体に貼着してもよい。
【0084】
透明面材を保護板として使用する場合の保護板の厚みは、テレビ受像機、PC用ディスプレイ等の用途では、表示装置の軽量化の点から、0.5〜6mmが好ましく、屋外に設置する公衆表示用途では、3〜20mmが好ましい。保護板として、化学強化ガラスを用いる場合は、保護板の厚さは、0.4〜1.5mm程度が好ましい。
【0085】
[遮光印刷部]
保護板には、表示パネルの画像表示領域以外が保護板側から視認できないように、保護板(透明面材)の周縁に遮光部を設けること、すなわち、図6および図7のように、透明面材81の周縁部に遮光印刷部82を設けることが好ましい。これにより、表示パネルに接続されている配線部材等を隠蔽できる。遮光部は、保護板の粘着層が形成される面に形成することが好ましい。
【0086】
遮光部の形成方法としては、黒色顔料を含むセラミック塗料を印刷する方法、遮光部をあらかじめ設けた透明フィルムを貼付する方法等が挙げられる。
【0087】
<粘着層付き透明面材の製造方法>
本実施形態の粘着層付き透明面材の製造方法としては、透明面材に粘着フィルムを転写して製造する方法、透明面材上に樹脂組成物を直接塗工し、これを硬化して粘着層を形成する方法等が挙げられる。
【0088】
透明面材に、粘着フィルムを転写する方法において、透明面材上に複層の粘着層を設ける場合、本実施形態の粘着フィルムを所望の大きさに切り出し、これを透明面材に1以上転写する方法や、あらかじめ本実施形態の粘着フィルムを貼り合わせ、これを所望の大きさに切り出して透明面材に転写する方法等が挙げられる。
【0089】
透明面材上に樹脂組成物を直接塗工して粘着層を形成する方法としては、例えば、ダイコート方式またはディスペンサを用いた方式等が挙げられる。透明面材に樹脂組成物を塗工した後に、樹脂組成物に保護フィルムを貼り合わせ、紫外線を照射して硬化して、粘着層を形成する。紫外線を照射する方法および条件は、本実施形態の粘着フィルムの製造方法における紫外線照射と同様の方法および条件で行うことが好ましい。
【0090】
<積層体>
本発明の粘着フィルムは、面材同士を貼り合わせて積層体を製造する場合に好適に使用される。例えば、粘着フィルムを用いて、一組のガラス板を貼り合わせることで、合わせガラスを製造できる。また、粘着フィルムを用いて保護板と表示パネルとを貼り合わせて、表示装置を製造できる。
また、本発明の粘着層付き透明面材は、例えば、表示パネルに貼り合わせて、表示装置を製造する場合に使用できる。
以下に、粘着フィルムおよび粘着層付き透明面材を使用する例として、表示装置について説明する。
【0091】
図8は、表示装置の実施形態の一例を示す断面図である。
本実施形態の表示装置1000は、表示パネル90と保護板81(すなわち、透明面材)が、粘着層20を介して貼り合わされている。本実施形態の粘着層20は、粘着層Iが使用されている。
【0092】
表示パネル90は、例えば、カラーフィルタを設けた透明基板92と、TFT(薄膜トランジスタ)を設けた透明基板94とを、液晶層96を介して貼合し、これを一対の偏光板98で挟んだ構成の液晶パネルである。
【0093】
表示装置1000を製造する方法としては、例えば、両面に保護フィルムを有する本実施形態の粘着フィルムを準備し、一方の保護フィルムを剥離して、保護板81としての透明面材に貼合し、もう一方の保護フィルムを剥離して表示パネルの表示面に貼合する方法が挙げられる。また、本実施形態の粘着層付き透明面材を準備し、保護フィルムを剥離して、表示パネルの表示面に貼合して製造する方法が挙げられる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例および比較例を用いて本発明の実施形態を説明する。例1〜5が本発明の実施例であり、例6および7が比較例である。
【0095】
(例1)
粘着層を形成する樹脂組成物を以下のようにして製造した。
分子末端をエチレンオキシドで変性した2官能のポリプロピレングリコール(水酸基価より算出した数平均分子量:4000)と、イソホロンジイソシアネートとを、4:5のモル比で混合し、錫化合物の触媒存在下で、70℃で反応させてプレポリマーを得た。このプレポリマーと2−ヒドロキシエチルアクリレートとをほぼ1:2のモル比で混合し、70℃で反応させて、ウレタンアクリレートポリマー(以下、UAと略す。)を得た。UAの硬化性基数は2であり、数平均分子量は約24000であり、25℃における粘度は約830Pa・sであった。
【0096】
ポリマーA1としての上記UA、モノマーA2’としての4−ヒドロキシブチルアクリレート(大阪有機化学工業製、製品名4HBA)およびモノマーA2’ ’としてのn−ドデシルアクリレート(共栄社化学製、製品名ライトアクリレートL−A LA)を準備した。これらを表1に記載の質量部割合で混合し、硬化性成分Iを得た。
【0097】
次いで、光重合開始剤III(表1において重合開始剤IIIと表記)としてのビス(2,4,6)−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(BASF社製、製品名IRGACURE819)、連鎖移動剤としてのn−ドデシルメルカプタン(花王社製、製品名チオカルコール20)、酸化防止剤としてのペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASF社製、製品名IRGANOX1010)、重合禁止剤としての2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン(東京化成社製、DTBHQ)、および紫外線吸収剤(BASF社製、Tinuvin383−2)を準備した。これらを、硬化性成分Iの100質量部に対して表1に記載の質量部割合で、硬化性成分Iに混合した。
【0098】
次いで、非硬化性成分IIとして、分子末端をエチレンオキシドで変性した2官能のポリプロピレングリコール(数平均分子量:4000)、分子末端をエチレンオキシドで変性した2官能のポリプロピレングリコール(数平均分子量:7000)を準備した。これを、硬化性成分Iの100質量部に対して表1に記載の質量部割合で、前記混合物に加えて、混合し、樹脂組成物1を得た。
【0099】
保護フィルムとしての離型PETフィルム(150mm×150mm、厚さ125μm)上に中心部をくりぬいたシリコーンシート(厚さ0.5mm)を載せ、中心部に樹脂組成物1をバーコートにて塗布した。樹脂組成物1の上に離型PETフィルム(150mm×150mm、厚さ75μm)を重ねた。この積層物に、水銀ランプ(積算光量1500mJ/cm)で紫外線を照射して樹脂組成物1を硬化させて、粘着層を1層有する粘着フィルム1を得た。
粘着層の厚みは、0.5mmであった。
【0100】
(例2)
樹脂組成物の各成分の質量部割合を表1に記載のとおりとすること以外は例1と同様にして樹脂組成物2を得た。樹脂組成物2を使用して例1と同様の方法で粘着層を1層有する粘着フィルム2を得た。
【0101】
(例3)
重合開始剤IIIを1‐ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製、製品名IRGACURE184)に変更し、酸化防止剤をBASF社製の製品名IRGASTAB PUR68に変更し、紫外線吸収剤と非硬化性成分IIを使用せず、各成分の質量部割合を表1に記載のとおりとすること以外は例1と同様にして、樹脂組成物3を得た。樹脂組成物3を使用して例1と同様の方法で粘着層を1層有する粘着フィルム3を得た。
【0102】
(例4)
非硬化性成分IIを使用し、表1に記載の質量部割合とすること以外は例3と同様にして、樹脂組成物4を得た。樹脂組成物4を使用して例1と同様の方法で粘着層を1層有する粘着フィルム4を得た。
【0103】
(例5)
表1に記載の質量部割合とすること以外は例3と同様にして、樹脂組成物5を得た。樹脂組成物5を使用して例1と同様の方法で粘着層を1層有する粘着フィルム5を得た。
【0104】
(例6)
市販されている厚さ0.175mmの高透明粘着フィルム(3M社製、商品名CEF03A07)を3枚重ねて、粘着層を3層有する粘着フィルム6を得た。
【0105】
(例7)
市販されている厚さ0.175mmの高透明粘着フィルム(3M社製、商品名CEF0507)を3枚重ねて、粘着層を3層有する粘着フィルム7を得た。
【0106】
例1〜7で得られた粘着フィルム1〜7を用いて以下の評価を行った。結果を表2に示す。
【0107】
(ガス拡散係数測定)
高温高圧気体透過率測定装置 (ツクバリカセイキ社製、製品名K−315−H) を用いて、以下の方法により、窒素ガス、酸素ガスおよび空気の透過係数測定を行った。
測定サンプルは、粘着フィルムの離型PETを一枚剥離し、厚さ30μmの延伸ポリプロピレン(OPP)基材に粘着フィルムを貼り合わせ、次に、もう一枚の離型PETを剥離し、φ50mmのセルに挟んで作製した。
測定に当たっては、高純度品の窒素ガスおよび酸素ガスと、空気をそれぞれ使用した。
25℃、100kPaでOPP基材側から、窒素ガス、酸素ガス、または空気を導入し、セルに挟んだ試料を介して透過してきた窒素ガス、酸素ガスおよび空気の圧力の時間変化を質量分析器で測定することにより透過曲線を得た。
得られた透過曲線の非定常状態での遅れ時間tから式2により、窒素、酸素および空気の拡散係数Dをそれぞれ算出した。なお、粘着層に基材をつけた試料での透過曲線の非定常状態での遅れ時間tから、OPP基材のみの試料での透過曲線の非定常状態での遅れ時間tを引いた値(t=t−t)を遅れ時間tとした。
D=L/(6×t) … 式2
ただし、Lは粘着層の膜厚(単位:cm)である。
なお、表2において、各拡散係数(cm/秒)は、「cm/sec」の単位をもって表記されている。
【0108】
(せん断弾性率測定および損失正接測定)
ティー・エイ・インスツルメント社製、商品名ARES−G2レオメータを用いて粘着層のせん断弾性率および損失正接(tanδ)の測定を以下の通りに行った。25℃、周波数0.01−100Hz、歪3%とし、パラレルプレート25mmを用いた。周波数1Hzでのせん断弾性率および損失正接(tanδ)を25℃のせん断弾性率および損失正接(tanδ)とした。なお、せん断弾性率および損失正接(tanδ)の値には、粘着フィルムの厚さは影響しないことから、例6および7は、市販の高透明粘着フィルムを積層せず1枚(厚さ0.175μm)で測定した。
【0109】
(ガラス転移温度測定)
アイティー計測制御社製、商品名DVA−200を用いて粘層フィルム1〜7の粘着層のガラス転移温度を測定した。測定温度は−120〜180℃、昇温速度は3℃/分、周波数は1Hzの条件で行い、引張動的弾性率E’の温度変化のチャートで引張動的弾性率E’の低温側接線と引張動的弾性率E’弾性率が急激に下がる領域の接線の交点をその粘着層のガラス転移温度とした。
【0110】
(泡消え評価)
周辺部に高さ80μmの遮光印刷部を有するガラス板(寸法:55mm×120mm×0.7mm、開口部49mm×90mm)を準備した。これに、粘着フィルム1〜7の離型PETを1枚剥離して貼り付けて、粘着層付きガラス板1〜7を得た。粘着層付きガラス板1〜7から他の離型PETを剥離して、厚さ0.2mmの偏光板付きガラス(53mm×96mm、厚さ0.7mm)の偏光板の面に粘着層を介して、トルクは0.4N・mで貼り付けて評価用サンプルを得た。粘着層と偏光板との界面に発生した気泡が消失する時間を測定し、泡消え特性としてその時間を表記した。気泡が消失する時間は、最大168時間計測した。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
例1〜7の粘着フィルムの粘着層は、表には記載していないが、いずれも赤外線吸収スペクトルにおいて、800〜820cm−1に吸収ピークを有し、1000〜1020cm−1に吸収ピークを有さなかった。
【0114】
例1〜5の粘着フィルムは、粘着層の窒素ガスの拡散係数、せん断弾性率G’(1Hz)が所定の範囲にあり、窒素ガスの拡散係数が高いため、粘着層と偏光板との界面に発生した気泡が短時間で消失した。一方で従来の粘着フィルムを用いた例6は、粘着層のせん断弾性率G’(1Hz)が所定の範囲にあるが、粘着層の窒素ガスの拡散係数が低いため、粘着層と偏光板の界面に発生した気泡が168時間経過した時点で消失しなかった。さらに、例7は、粘着層の窒素ガスの拡散係数が低く、さらに、粘着層のせん断弾性率G’(1Hz)も高いため、粘着層と偏光板の界面に発生した気泡が168時間経過した時点で消失しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明によれば、面材同士の貼合時に用いた際に、貼合界面に気泡が発生しても常圧下で気泡が消失する粘着フィルム、および粘着層付き透明面材を提供することができる。また、気泡の発生が抑制された表示装置を提供することができる。
なお、2015年2月24日に出願された日本特許出願2015−033448号の明細書、特許請求の範囲、図面および要約書の全内容をここに引用し、本発明の開示として取り入れるものである。
【符号の説明】
【0116】
10、11:粘着フィルム、 20、21、22:粘着層、 30、31、32、33:保護フィルム、 40、41:塗工ダイ、 50、51:巻出しロール、 52:巻取りロール、 53:貼合ロール、 60、63:塗工部、 61、64:チャンバー、 62、65:光源、 80:粘着層付き透明面材、 81:透明面材、 82:遮光部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8