(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ノート型パソコンや携帯電話、PDAなどの小型電子機器の電源にはリチウムイオン二次電池が多く用いられ、さらに、近年自動車用途にもリチウムイオン二次電池が用いられている。リチウムイオン二次電池の使用範囲が広がるに従い、リチウムイオン二次電池(以下、単に電池ということがある)の性能と安全性に対する要求は高まっている。そしてこれらの電池は、通常、充放電操作によって繰り返し使用されるが、充放電の繰り返しにより、充放電による電極の体積変動や発熱のため電池内部の圧力が上昇し電解液が外部に漏液することがある。この場合、電池特性の低下が起こるばかりでなく、電解液が減少することで発熱したり、電解液により機器が腐食するなどの問題が生じる。例えば、リチウムイオン二次電池に電解液を用いる場合に、電解液は有機系であり、極端に水を嫌うため、このようなリチウムイオン二次電池では、電池内部への水の浸入を完全に防止し、かつ電解液の液漏れをも完全に防止する高い密閉性が要求される。
【0003】
例えば、リチウムイオン二次電池は、その発電要素を密閉するために金属容器に収納してなるが、正極と負極の短絡を防止するために、正極端子と負極端子の間を絶縁する必要がある。通常、正−負極間の絶縁及び密閉のため、発電要素を収納した金属容器の開口部に絶縁材料からなるガスケットが使用されている。絶縁材料としては、樹脂製絶縁ガスケットを使用することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような絶縁ガスケットによる密閉をさらに強化するため、絶縁ガスケットとシール剤とを併用することも提案されている(例えば、特許文献2〜4など参照)。このシール剤を絶縁ガスケットまたは金属容器に塗布し、絶縁ガスケットを金属容器に装着することで、絶縁ガスケットと金属容器との間の密閉性を高めている。
【0005】
このようなシール剤としては、コールタール、アスファルト等のピッチ系材料、ピッチ系材料にポリマーを改質剤として添加した材料があり(例えば、特許文献5参照)、このほかピッチ系材料以外に、ブチルゴム(例えば、特許文献6参照)、所定の重量平均分子量を有するジエン系ゴム(例えば、特許文献7参照)、ジエン系モノマーを含むブロックポリマー(例えば、特許文献8参照)などが提案されている。
【0006】
ところで、近年、揮発性有機化合物(VOC(volatile organic compounds))の環境への影響が問題になっている。上記のシール剤は、VOCである有機溶媒に溶解または分散させたシール剤組成物として用いられる。そこで、VOCを用いないシール剤組成物が求められている。
【0007】
特許文献9では、水系のシール剤組成物が提案されているが、水系のシール剤組成物により形成されるシール剤層の強度が、有機溶媒を用いたシール剤組成物により得られるシール剤層と比べて十分でない等、シール剤に求められる性能が十分ではなかった。また、特許文献10では、VOCを用いない水系のシール剤組成物が提案されているが、水系電解液を用いた電池を対象としており、非水電解液電池については考慮されていなかった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の非水電解液電池用水系シール剤組成物について説明する。本発明の非水電解液電池用水系シール剤組成物(以下、「水系シール剤組成物」ということがある。)は、共役ジエン系ポリマーを主成分とする水系分散体を固形分の重量で70〜97wt%含む。
【0014】
(共役ジエン系ポリマーを主成分とする水系分散体)
水系分散体に主成分として含まれる共役ジエン系ポリマーとしては、ジエン系モノマーを重合することにより得られる共役ジエン単量体単位を含むポリマーであれば格別に限定はされないが、共役ジエンホモポリマー及び共役ジエン系共重合ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種が好適に用いられる。ここで、共役ジエン系ポリマーは、水系分散体中に固形分の重量で20wt%以上含まれることが好ましく、30wt%以上含まれることがより好ましい。
【0015】
共役ジエンホモポリマーは、ジエン系モノマーのみを重合してなる重合体であれば良く、工業的に一般に用いるものを格別な限定なく用いることができる。共役ジエンホモポリマーの共役ジエン単量体単位を形成するジエン系モノマーとしては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンクロロプレン、シアノブタジエンなどが挙げられる。これらのなかでも、1,3−ブタジエンやイソプレンが好ましく、1,3−ブタジエンがより好ましい。これらジエン系モノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
共役ジエンホモポリマーの具体例としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリシアノブタジエン、及びポリペンタジエンなどが挙げられる。これらのなかでも、ポリブタジエンやポリイソプレンが好ましく、ポリブタジエンがより好ましい。共役ジエンホモポリマーの重合様式としては、特に限定されず、使用目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0017】
また、共役ジエン系共重合ポリマーとしては、共役ジエン単量体単位を少なくとも含む共重合ポリマーであれば格別な限定はない。共役ジエン系共重合ポリマーの共役ジエン単量体単位を形成するジエン系モノマーとしては、上述した共役ジエンホモポリマーと同様のものを用いることができる。
【0018】
また、共役ジエン系共重合ポリマーの共役ジエン単量体単位以外の単量体単位を形成するモノマーとしては、ジエン系モノマーと共重合可能なモノマーであれば格別な限定はないが、例えば、シアノ基含有ビニル単量体、アミノ基含有ビニル単量体、ピリジル基含有ビニル単量体、アルコキシル基含有ビニル単量体、芳香族ビニル単量体などが挙げられる。これらの中でもシアノ基含有ビニル単量体や芳香族ビニル単量体が好ましく、芳香族ビニル単量体がより好ましい。これらの、ジエン系モノマーと共重合可能なモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、N,N−ジメチルアミノエチルスチレン、N,N−ジエチルアミノエチルスチレンなどが挙げられる。これらのなかでも、スチレンやα−メチルスチレンが特に好ましい。
これら芳香族ビニル単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
共役ジエン系共重合ポリマー中における、ジエン系モノマーと、ジエン系モノマーと共重合可能なモノマーとの割合は、使用目的に応じて適宜選択すれば良く、「共役ジエン単量体単位/共重合可能なモノマーの単位」の重量比で、通常5/95〜95/5、好ましくは10/90〜90/10、より好ましくは20/80〜80/20の範囲である。
【0021】
また、共役ジエン系共重合ポリマーは、ランダム共重合ポリマー及びブロック共重合ポリマーのいずれをも用いることができるが、ランダム共重合ポリマーが好ましい。
【0022】
本発明においては、共役ジエン系ポリマーとして、上述の共役ジエンホモポリマー、及び共役ジエン系共重合ポリマーを、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0023】
本発明で用いる共役ジエン系ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−30℃未満、より好ましくは−40℃未満、さらに好ましくは−60℃未満である。ガラス転移温度の範囲が上記範囲であると、ガラス転移温度が過度に高すぎるために、水系シール剤組成物から得られるシール剤層の低温におけるシール性能が低下する、という現象を抑えることができる。
【0024】
本発明で用いる共役ジエン系ポリマーの共役ジエン部の1,2−ビニル結合量は、特に限定されず、使用目的に応じて適宜選択すれば良いが、通常5モル%以上、好ましくは40モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上である。
また、本発明で用いる共役ジエン系ポリマーは、1,4−シス含有量(シス体含量)が90%以上であるポリブタジエンであることが好ましい。
【0025】
本発明で用いる共役ジエン系ポリマーの分子量は、特に限定されず、使用目的に応じて適宜選択すれば良いが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(ポリスチレン換算、トルエン溶離液)で測定される重量平均分子量で、通常500〜5,000,000、好ましくは1,000〜1,000,000の範囲である。
【0026】
また、共役ジエン系ポリマーとして、共役ジエンホモポリマーと共役ジエン系共重合ポリマーとを組み合わせて用いる場合における、共役ジエンホモポリマーの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(ポリスチレン換算、トルエン溶離液)で測定される重量平均分子量で、通常500〜500,000、好ましくは1,000〜10,000、より好ましくは1,000〜5,000の範囲である。一方、共役ジエン系共重合ポリマーの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(ポリスチレン換算、トルエン溶離液)で測定される重量平均分子量で、通常1,000〜1,000,000、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜300,000の範囲である。
【0027】
さらに、共役ジエンホモポリマーと共役ジエン系共重合ポリマーとを組み合わせて用いる場合における、これらのポリマーの割合は特に限定されず、使用目的に応じて適宜選択すれば良いが、「共役ジエンホモポリマー/共役ジエン系共重合ポリマー」の重量比で、通常5/95〜90/10、好ましくは10/90〜90/10、より好ましくは30/70〜80/20の範囲である。
【0028】
共役ジエン系ポリマーは、例えば、上述したモノマーを含む単量体組成物を水系溶媒中で重合することにより製造される。
【0029】
水系溶媒は共役ジエン系ポリマーが分散可能なものであれば格別限定されることはなく、常圧における沸点が好ましくは80〜350℃、より好ましくは100〜300℃の水系溶媒から選ばれる。
【0030】
具体的には、水系溶媒としては、可燃性がなく、共役ジエン系ポリマーの分散体が容易に得られやすいという観点から、水が好ましい。なお、主溶媒として水を使用し、本発明の効果を損なわず、さらに、共役ジエン系ポリマーの分散状態が確保可能な範囲において上記の水以外の水系溶媒を混合して用いてもよい。
【0031】
共役ジエン系ポリマーの重合方法は、特に限定されず、例えば溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。重合方法としては、例えばイオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの方法も用いることができる。なお、高分子量体が得やすいこと、並びに、共役ジエン系ポリマーがそのまま水に分散したラテックスの状態で得られるので再分散化の処理が不要であり、そのまま共役ジエン系ポリマーを主成分とする水系分散体として、本発明の水系シール剤組成物に用いることができることなど、製造効率の観点からは、乳化重合法が特に好ましい。なお、乳化重合は、常法に従い行うことができる。また、乳化重合するに際しては、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤又は連鎖移動剤等の通常用いられる重合副資材を使用することができる。
【0032】
乳化剤としては、所望のポリマーが得られる限り任意のものを用いることができ、たとえば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。これらのなかでも、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、高級アルコールの硫酸エステル塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤が好ましく使用できる。
【0033】
より具体的には、アニオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。また、例えば、不飽和結合を有する反応性乳化剤を用いてもよい。中でもドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。また、乳化剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0034】
乳化剤の量は、所望のポリマーが得られる限り任意であり、モノマー組成物100重量部に対して、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは1重量部以上であり、好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下である。
【0035】
また、重合反応に際して用いる重合開始剤としては、所望のポリマーが得られる限り任意のものを用いることができ、例えば、過硫酸ナトリウム(NaPS)、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸カリウム(KPS)等が挙げられる。
【0036】
また、重合させる際に、その重合系には、分子量調整剤又は連鎖移動剤が含まれていてもよい。分子量調整剤又は連鎖移動剤としては、例えば、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン;ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物;ターピノレン;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物;アリルアルコール等のアリル化合物;ジクロロメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物;チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート、ジフェニルエチレン、α−メチルスチレンダイマー;などが挙げられる。中でも、副反応抑制という観点から、アルキルメルカプタンが好ましく、t−ドデシルメルカプタンがより好ましい。また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0037】
なお、重合に際しては、シード粒子を採用してシード重合を行ってもよい。また、重合条件も、重合方法および重合開始剤の種類などにより任意に選択することができる。
【0038】
共役ジエン系ポリマーを主成分とする水系分散体中の固形分濃度は、好ましくは20〜70wt%、より好ましくは30〜65wt%である。
【0039】
なお、共役ジエン系ポリマーを主成分とする水系分散体は、共役ジエン系ポリマー以外の成分を含んでいてもよい。共役ジエン系ポリマー以外の成分としては、本発明のシール剤組成物のシール性能を損なわない限り特に限定されないが、例えば、変性ポリオレフィンの水分散体、ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステルの水分散体などを用いることができる。
【0040】
共役ジエン系ポリマー以外の成分の含有量は、水系分散体中、固形分の重量で好ましくは40wt%以下、より好ましくは30wt%以下である。
【0041】
(水系シール剤組成物)
本発明の水系シール剤組成物は、上記の共役ジエン系ポリマーを主成分とする水系分散体を固形分の重量で70〜97wt%、好ましくは80〜95wt%、より好ましくは85〜93wt%含む。水系シール剤組成物中の上記水系分散体の含有割合が多すぎると、シール剤組成物の濡れ性が低下する。また、水系シール剤組成物中の上記水系分散体の含有割合が少なすぎると、水系シール剤組成物を用いて得られるシール剤層の柔軟性が低下する。即ち、シール性能が低下する。
【0042】
また、本発明の水系シール剤組成物は、上記の共役ジエン系ポリマーを主成分とする水系分散体の他に、水溶性ポリマーを含むことが好ましい。水溶性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸等が挙げられるが、ポリビニルアルコールが好ましく、完全ケン化型といわれるケン化率98モル%以上のポリビニルアルコールを用いることが特に好ましい。
【0043】
また、水溶性ポリマーは、4%水溶液の粘度が4〜500mPa・sであることがより好ましい。なお、本発明における粘度は、ブルックフィールド粘度計(B型粘度計)を用いて測定された、液温が20℃での粘度の値である。
【0044】
水系シール剤組成物中の水溶性ポリマーの含有割合は、固形分の重量で好ましくは3〜30wt%である。
【0045】
また、本発明の水系シール剤組成物の固形分濃度は、好ましくは5〜70wt%、より好ましくは20〜60wt%、さらに好ましくは30〜50wt%である。固形分濃度が上記範囲であると、固形分濃度が過度に高すぎるために、所望の膜厚のシール剤層が得られ難くなる、という現象を抑えることができ、また、固形分濃度が過度に低すぎるために、シール剤層を形成する際に乾燥時間が長くなる、という現象を抑えることができる。シール剤組成物の固形分濃度は、ロータリーエバポレーターを用いた濃縮など、公知の方法を用いて調整することができる。
【0046】
さらに本発明の水系シール剤組成物には、必要に応じて着色剤などの添加剤を添加してもよい。添加可能な着色剤としては、電解液と反応せず、また電解液に溶解しないものであるのが望ましく、各種の有機系・無機系の顔料が挙げられる。なかでもカーボンブラック、特にファーネスブラック、チャンネルブラック等の粒径0.1μm以下のカーボンブラックが好ましい。このような着色剤を添加する場合、組成物中で十分均一に溶解または分散させる必要があり、造粒されているものや凝集構造を持ったものを用いる場合は、ボールミル、サンドミルや超音波などで分散させるのがよい。このような着色剤などの添加剤の添加量は、必要に応じ任意の量でよいが、共役ジエン系ポリマーの量に対して通常0.01wt%〜20wt%、好ましくは0.01wt%〜5wt%、より好ましくは0.02wt%〜3wt%である。添加剤の添加量が上記範囲であると、添加量が過度に多すぎるために、シール剤層の柔軟性が小さくなり、ひび割れの原因となる、という現象を抑えることができる。
【0047】
本発明の水系シール剤組成物の調製方法としては、共役ジエン系ポリマーを主成分とする水分散液に、水溶性ポリマー、添加剤等のその他の成分を加える方法;共役ジエン系ポリマーを主成分とする水分散液、水溶性ポリマーの水溶液を各々作製し、これらを混合し、次いで添加剤等その他の成分を加える方法などが挙げられる。
【0048】
(非水電解液電池)
本発明の水系シール剤組成物を用いる非水電解液電池は、発電要素を収納した金属容器の開口部に装着された絶縁ガスケットと金属容器との間、および/又は絶縁ガスケットと封口体との間に、上述の水系シール剤組成物で形成されたシール剤層が設けられてなる。非水電解液電池に用いる金属容器の素材、発電要素、絶縁ガスケットは、一般に使用されているものでよい。この非水電解液電池は、その発電要素を金属容器に収納され密閉されたものである。
【0049】
発電要素とは、電解質、正極用および負極用の活物質、セパレーターなどである。電解質としては、支持電解質と有機系電解液溶媒とからなる電解質溶液(電解液)が用いられる。
【0050】
非水電解液電池において、電解液を構成する支持電解質は、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4などのリチウム系化合物などのような水と反応して加水分解しやすい化合物が用いられている。また非水電解液溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)等の可燃性有機化合物が用いられている。絶縁ガスケットとしては、一般に耐電解液性が高いと言われるポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン共重合ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂を用いることが好ましい。さらに、ポリオレフィン樹脂は、JIS K7207により測定される熱変形温度が90〜200℃、好ましくは90〜150℃、より好ましくは95〜130℃であるものを用いるのがよい。熱変形温度が上記範囲であると、熱変形温度が高すぎるために、常温での曲げ弾性率が高くなる結果、絶縁ガスケット装着時の変形が起こり、亀裂や割れの原因となる、という現象を抑えることができ、熱変形温度が低すぎるために、高温での絶縁ガスケットの耐性が劣り、密閉性が低下する、という現象を抑えることができる。
【0051】
非水電解液電池のシール剤層は、例えば次の手順により形成することができる。まず、シール剤組成物を、金属容器表面および/または絶縁ガスケット表面に、エアー駆動の定量ディスペンサー、ローラーポンプ、ギアポンプ等の定量ポンプで所定量を送液し塗布する。塗布後、シール剤組成物が片寄らないよう水平を維持した状態で自然乾燥を行い、水系溶媒を除去し薄層を形成する。
【0052】
なお、塗布に際しては、定量ポンプを用いる方法に限定されることはなく、少量であれば刷毛を用いて人手で行うことも可能である。また、乾燥に際しては、自然乾燥に代えて、加熱装置を用いた強制乾燥を行ってもよく、この場合には短時間での乾燥が可能となり工業的により適した工程とすることができる。
【0053】
上述の方法で形成されるシール剤層の厚さは、金属容器と絶縁ガスケットの大きさにより任意に選択すれば良く、通常0.1μm〜1000μmである。層の厚さが上記範囲であると、層の厚さが過度に不足するために、電解液の液漏れや水分の侵入の問題が生じたり、層が切断されてしまう、という現象を抑えることができ、また、層の厚さが過度に厚いために、シール剤層の形成が困難となる、という現象を抑えることができる。
【0054】
本発明の水系シール剤組成物を用いる非水電解液電池としては、リチウムイオン二次電池が好ましい。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本実施例における部および%は、特記しない限り重量基準である。実施例及び比較例において、濡れ性、塗膜外観、剥離強度および柔軟性の評価は、以下のように行った。
【0056】
(濡れ性)
実施例及び比較例で調製したシール剤組成物をそれぞれ幅100mm、ギャップ100μmのドクターブレードを用いてポリプロピレン製のフィルムに塗工し、80℃のホットプレートで乾燥した。乾燥後の塗膜の幅をノギスで測定し、ドクターブレードの幅に対する塗膜の幅の割合を算出した。結果を表1に示す。塗膜の幅が95%以上であると、濡れ性は良好であると判断できる。
【0057】
(塗膜外観)
実施例及び比較例で得られた試験片のシール剤層表面の外観を目視で判断した。シール剤層表面に亀裂、ピンホール等の欠陥が観察されなかった場合を「優」、シール剤層表面に亀裂、ピンホール等の欠陥が観察された場合を「劣」として評価した。結果を表1に示す。
【0058】
(剥離強度)
実施例及び比較例で得られた、アルミ箔及びポリプロピレン製のフィルムにシール剤層を形成した試験片それぞれについての剥離強度をJIS Z0237に準拠して180°剥離法により測定した。具体的には、幅20mmのリボン状に切断した試験片に、粘着剤付きのアルミテープを貼り合せて、引っ張り試験器を用い、引っ張り速度300mm/分、23℃で剥離強度を測定した。結果を表1に示す。
【0059】
(柔軟性(耐屈曲性))
実施例及び比較例で得られた試験片のうち、アルミ箔にシール剤層を形成した試験片を、−30℃のメタノールに1時間浸漬し、取り出した直後にシール剤層を外側にして折り曲げた。曲げた部分を観察し、ひび割れ、剥離等を観察した。ひび割れ、剥離等が観察されなかった場合を「優」、ひび割れ、剥離等が観察された場合を「劣」として評価した。結果を表1に示す。
【0060】
(実施例1)
(1,3−ブタジエン重合体ラテックスの重合)
10リットルの攪拌機付きオートクレーブにイオン交換水2000g、ブタジエン810g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム20gを加え、十分攪拌した後、過酸化カリウム0.27mol、塩化クロム・ピリジン錯体0.6mmolを加え、60℃で60時間攪拌しながら重合した。その後、メタノール100mlを加えて重合を停止した。重合停止後、室温まで冷却した後、重合液を取り出した。得られたポリマーのMwは350,000であった。また、
13C−NMRスペクトルの結果からこのポリマーのシス体含量は94%であった。
【0061】
(水系シール剤組成物)
上記で得られた1,3−ブタジエン重合体の水分散体を、ロータリーエバポレーターを用いて60℃で加熱減圧し濃縮し固形分濃度が50wt%の水分散体を作製した。
【0062】
得られた1,3−ブタジエン重合体の水分散体を固形分の重量で95部に、ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製ポリビニルアルコールJF17)の10wt%水溶液を固形分の重量で5部加え、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮し、シール剤組成物とした。
【0063】
(試験片)
得られたシール剤組成物を、アルミ箔(20μm厚)に、ギャップ200μmのドクターブレードでキャストし、80℃で20分間加熱乾燥させてフィルム状のシール剤層を形成し、アルミ箔にシール剤層を形成した試験片を得た。
【0064】
また、得られたシール剤組成物を、ポリプロピレン製のフィルム(PPフィルム)(20μm厚)に、ギャップ200μmのドクターブレードでキャストし、80℃で20分間加熱乾燥させてフィルム状のシール剤層を形成し、ポリプロピレン製のフィルム上にシール剤層を形成した試験片を得た。
【0065】
(実施例2)
水系シール剤組成物を調製する際に、1,3−ブタジエン重合体の水分散体を固形分の重量で90部に、ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製ポリビニルアルコールJF17)の10wt%水溶液を固形分の重量で10部加えて水系シール剤組成物とした以外は、実施例1と同様に試験片を得た。
【0066】
(実施例3)
(イソプレン重合体ラテックスの重合)
10リットルの攪拌機付きオートクレーブにイオン交換水2000g、イソプレン800gを加え、十分攪拌した後、過酸化カリウム0.27mol、塩化クロム・ピリジン錯体0.6mmolを加え、60℃で12時間攪拌しながら重合した。その後、メタノール100mlを加えて重合を停止した。重合停止後、室温まで冷却した後、重合液を取り出した。得られたポリマーのMwは300,000であった。
【0067】
(水系シール剤組成物)
実施例1で得られた1,3−ブタジエン重合体の水分散体を固形分の重量で80部、上記で得られたイソプレン重合体を固形分の重量で10部、ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製ポリビニルアルコールJF17)の10wt%水溶液を固形分の重量で10部混合し、水系シール剤組成物を得た。
上記で得られた水系シール剤組成物を用いた以外は、実施例1と同様に試験片を得た。
【0068】
(比較例1)
水系シール剤組成物を調製する際に、1,3−ブタジエン重合体の水分散体を固形分の重量で50部に、ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製ポリビニルアルコールJF17)の10wt%水溶液を固形分の重量で50部加えて水系シール剤組成物とした以外は、実施例1と同様に試験片を得た。
【0069】
(比較例2)
水系シール剤組成物として、1,3−ブタジエン重合体の水分散体を固形分の重量で100部を用いた以外は、実施例1と同様に試験片を得た。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示すように、共役ジエン系ポリマーを主成分とする水系分散体を固形分の重量で70〜97wt%含む非水電解液電池用水系シール剤組成物を用いると、濡れ性、塗膜外観、剥離強度および柔軟性に優れたシール剤層を形成することができた。