特許第6705623号(P6705623)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6705623
(24)【登録日】2020年5月18日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】カチオン重合性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/68 20060101AFI20200525BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20200525BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20200525BHJP
   C09J 171/00 20060101ALI20200525BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   C08G59/68
   C08L63/00
   C09J163/00
   C09J171/00
   C09J11/06
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-123116(P2015-123116)
(22)【出願日】2015年6月18日
(65)【公開番号】特開2017-8165(P2017-8165A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年4月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(74)【代理人】
【識別番号】100143856
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 廣己
(74)【代理人】
【識別番号】100161698
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 知子
(74)【代理人】
【識別番号】100171217
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 望
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(74)【代理人】
【識別番号】100155206
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 源一
(72)【発明者】
【氏名】岩島 智幸
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】松土 和彦
【審査官】 尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−144693(JP,A)
【文献】 特開2012−107123(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/005210(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00− 59/72
C08L 63/00− 63/10
C09J 163/00−163/10
C09D 163/00−163/10
C08L 71/00− 71/14
C08L 33/00− 33/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式エポキシ化合物(1A)及びグリシジル基を有するエポキシ化合物(ただし、(1A)を除く。)(1B)を必須成分とするカチオン重合性モノマー混合物(1)及び重量平均分子量5000〜50000の、オルガノシリル基を少なくとも1つ有する重合体(2)を含有し、
上記カチオン重合性モノマー混合物(1)100質量部に対し、上記重量平均分子量5000〜50000の、オルガノシリル基を少なくとも1つ有する重合体(2)5〜30質量部を含有し、且つ
上記カチオン重合性モノマー混合物(1)100質量部中、上記脂環式エポキシ化合物(1A)の量が20〜80質量部であり、上記グリシジル基を有するエポキシ化合物(ただし、(1A)を除く。)(1B)の量が80質量部以下であり、且つ上記カチオン重合性モノマー混合物(1)100質量部中にグリシジル基を有する単官能芳香族エポキシ化合物を20質量部以上含有し、更に、上記グリシジル基を有するエポキシ化合物(ただし、(1A)を除く。)(1B)100質量部中に前記単官能芳香族エポキシ化合物の量が100質量部以下である、ことを特徴とするカチオン重合性組成物。
【請求項2】
上記重量平均分子量5000〜50000の、オルガノシリル基を少なくとも1つ有する重合体(2)が、下記構造単位(I)を有することを特徴とする請求項に記載のカチオン重合性組成物。
【化1】
(式中、R1、R2及びR3は水素原子であり、R4は、炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。)
【請求項3】
上記重量平均分子量5000〜50000の、オルガノシリル基を少なくとも1つ有する重合体(2)が、下記構造単位(II)を有することを特徴とする請求項に記載のカチオン重合性組成物。
【化2】

(式中、R5及びR6は水素原子であり、R7及びR8は、炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。)
【請求項4】
上記重量平均分子量5000〜50000の、オルガノシリル基を少なくとも1つ有する重合体(2)が、下記構造単位(III)を有することを特徴とする請求項に記載のカチオン重合性組成物。
【化3】

(式中、R9及びR10は水素原子であり、R11は、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、R12は、炭素原子数1〜10のアルコキシ基を表す。)
【請求項5】
上記カチオン重合性モノマー混合物(1)100質量部中、更に、オキセタン化合物(1C)10〜30質量部を含有することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のカチオン重合性組成物。
【請求項6】
上記カチオン重合性モノマー混合物(1)100質量部に対して、更に、エネルギー線感受性酸発生剤(3)0.1〜20質量部を含むことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のカチオン重合性組成物。
【請求項7】
上記エネルギー線感受性酸発生剤(3)が、下記一般式
[A]r+[B]r-(式中、Aは陽イオン種であり、Bは陰イオン種であり、rはイオンの価数を示す)
で表される陽イオンと陰イオンの塩である請求項1〜のいずれか一項に記載のカチオン重合性組成物。
【請求項8】
上記カチオン重合性モノマー混合物(1)の100質量部に対して、更に、シランカップリング剤(4)1〜40質量部を含有することを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のカチオン重合性組成物。
【請求項9】
水分を0.01〜3質量%含むことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のカチオン重合性組成物。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか一項に記載のカチオン重合性組成物から得られることを特徴とする接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン重合性組成物及び該カチオン重合性組成物に活性エネルギー線を照射することによって得られる硬化物に関する。該カチオン重合性組成物は、特に接着剤に有用である。
【背景技術】
【0002】
カチオン重合性組成物は、インキ、塗料、各種コーティング剤、接着剤、光学部材等の分野において用いられている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、両末端に脂環式エポキシ官能基を有するポリオルガノシロキサンを含有する紫外線硬化型樹脂組成物が開示されており、下記特許文献2には、分子内にシリル基を有するビニルエーテル化合物を含有するカチオン重合性の硬化性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−143248号公報
【特許文献2】特開2004−284221公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のカチオン重合性組成物は、塗工性、硬化性及び接着性の両立という点で十分なものでなかった。
本発明の目的は、塗工性、硬化性及び接着性に優れるカチオン重合性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、脂環式エポキシ化合物(1A)及びグリシジル基を有するエポキシ化合物(ただし、(1A)を除く。)(1B)を必須成分とするカチオン重合性モノマー混合物(1)及び重量平均分子量5000〜50000の、オルガノシリル基を少なくとも1つ有する重合体(2)を含有することを特徴とするカチオン重合性組成物を提供することで、上記目的を達成したものである。
【0007】
また、本発明は、上記カチオン重合性組成物から得られる接着剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のカチオン重合性組成物は、塗工性、硬化性及び接着性に優れるため、接着剤用途として特に有用なものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のカチオン重合性組成物及び該カチオン重合性組成物から得られる接着剤について詳細に説明する。
【0010】
本発明に使用する前記カチオン重合性モノマー混合物(1)において、該混合物を構成するカチオン重合性モノマーは、光照射により活性化したエネルギー線感受性カチオン重合開始剤により高分子化または、架橋反応を起こす化合物であり、エポキシ化合物、オキセタン化合物、環状ラクトン化合物、環状アセタール化合物、環状チオエーテル化合物、スピロオルトエステル化合物、ビニルエーテル等を用いることができ、中でも、均一な混合物の得やすさや硬化性、接着性、密着性の観点から、脂環式エポキシ化合物(1A)及びグリシジル基を有するエポキシ化合物(ただし、(1A)を除く。)(1B)を含有していることが必須である。これに加えて、オキセタン化合物(1C)が好ましく用いられる。
【0011】
上記脂環式エポキシ化合物(1A)としては、少なくとも1個の脂環式環を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテルまたはシクロヘキセンやシクロペンテン環含有化合物を酸化剤でエポキシ化することによって得られるシクロヘキセンオキサイドやシクロペンテンオキサイド含有化合物が挙げられる。具体的には、シクロへキセンオキシド、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、3,4−エポキシ−1−メチルシクロヘキシル−3,4−エポキシ−1−メチルヘキサンカルボキシレート、6−メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−6−メチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−3−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−3−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルカルボキシレート、メチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、プロパン−2,2−ジイル−ビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、2,2−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロパン、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、1−エポキシエチル−3,4−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシ−2−エポキシエチルシクロヘキサン、α−ピネンオキシド、リモネンジオキシド等が挙げられ、中でも二官能以上のものを用いるのが、密着性の点から好ましい。これらは1種単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0012】
上記脂環式エポキシ化合物(1A)としては、上記脂環式エポキシ化合物(1A)を主成分とする市販品のものを用いることができ、例えば、セロキサイド2021P、セロキサイド2081、セロキサイド2000、セロキサイド3000(ダイセル社製)等が挙げられる。
【0013】
上記グリシジル基を有するエポキシ化合物(ただし、(1A)を除く。)(1B)の具体例としては、例えば、脂肪族アルコールのグリシジルエーテル化物、アルキルカルボン酸のグリシジルエステル、フェノール・クレゾール・ブチルフェノール等少なくとも1個の芳香族環を有する1価フェノール又は、そのアルキレンオキサイド付加物のモノグリシジルエーテル化物、レゾルシノールやハイドロキノン、カテコール等の2個以上のフェノール性水酸基を有する芳香族化合物のモノグリシジルエーテル化物等の単官能エポキシ化合物や、ビスフェノールA・ビスフェノールF等の少なくとも2個の芳香族環を有する多価フェノール又は、そのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテル化物、又はこれらに更にアルキレンオキサイドを付加した化合物のグリシジルエーテル化物やエポキシノボラック樹脂;レゾルシノールやハイドロキノン、カテコール等の2個以上のフェノール性水酸基を有する芳香族化合物のポリグリシジルエーテル化物;ベンゼンジメタノールやベンゼンジエタノール、ベンゼンジブタノール等のアルコール性水酸基を2個以上有する芳香族化合物のグリシジルエーテル化物;フタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸等の2個以上のカルボン酸を有する多塩基酸芳香族化合物のグリシジルエステル;脂肪族長鎖多塩基酸のポリグリシジルエステル等の多官能エポキシ化合物、安息香酸のグリシジルエステル、ジビニルベンゼンのジエポキシ化物等の多官能脂肪族多価アルコールまたはそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテル化物、トルイル酸、ナフトエ酸のグリシジルエステル等の安息香酸のグリシジルエステル類;スチレンオキサイドやアルキル化スチレンオキサイド、ビニルナフタレンのエポキシ化物等のスチレンオキサイド類等の単官能芳香族エポキシ化合物や、ビスフェノールA・ビスフェノールF少なくとも2個の芳香族環を有する多価フェノール又は、そのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテル化物、又はこれらに更にアルキレンオキサイドを付加した化合物のグリシジルエーテル化物やエポキシノボラック樹脂;レゾルシノールやハイドロキノン、カテコール等の2個以上のフェノール性水酸基を有する芳香族化合物のポリグリシジルエーテル化物;ベンゼンジメタノールやベンゼンジエタノール、ベンゼンジブタノール等のアルコール性水酸基を2個以上有する芳香族化合物のグリシジルエーテル化物;フタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸等の2個以上のカルボン酸を有する多塩基酸芳香族化合物のグリシジルエステル;脂肪族長鎖多塩基酸のポリグリシジルエステル等の多官能エポキシ化合物、安息香酸のグリシジルエステル、ジビニルベンゼンのジエポキシ化物等の多官能エポキシ化合物等が挙げられる。具体的には、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、C12〜13混合アルキルグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ソルビトールのテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールのヘキサグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールのジグリシジルエーテルなどの多価アルコールのグリシジルエーテル、またプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン等の脂肪族多価アルコールに1種または2種以上のアルキレンオキサイドを付加することによって得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル化物、脂肪族長鎖二塩基酸のジグリシジルエステル、脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテルやこれらにアルキレンオキサイドを付加することによって得られるポリエーテルアルコールのモノグリシジルエーテル、高級脂肪酸のグリシジルエステル等が挙げられる。これらは1種単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
上記グリシジル基を有するエポキシ化合物(ただし、(1A)を除く。)(1B)としては、市販品のものを用いることができ、例えば、デナコールEX−121、デナコールEX−171、デナコールEX−192、デナコールEX−211、デナコールEX−212、デナコールEX−313、デナコールEX−314、デナコールEX−321、デナコールEX−411、デナコールEX−421、デナコールEX−512、デナコールEX−521、デナコールEX−611、デナコールEX−612、デナコールEX−614、デナコールEX−622、デナコールEX−810、デナコールEX−811、デナコールEX−850、デナコールEX−851、デナコールEX−821、デナコールEX−830、デナコールEX−832、デナコールEX−841、デナコールEX−861、デナコールEX−911、デナコールEX−941、デナコールEX−920、デナコールEX−931、デナコールEX−145、デナコールEX−146、デナコールEX−147、デナコールEX−201、デナコールEX−711、デナコールEX−721、オンコートEX−1020、オンコートEX−1030、オンコートEX−1040、オンコートEX−1050、オンコートEX−1051、オンコートEX−1010、オンコートEX−1011、オンコート1012(ナガセケムテックス社製);エポライトM−1230、エポライト40E、エポライト100E、エポライト200E、エポライト400E、エポライト70P、エポライト200P、エポライト400P、エポライト1500NP、エポライト1600、エポライト80MF、エポライト100MF(共栄社化学社製)、オグソールPG−100、オグソールEG−200、オグソールEG−210、オグソールEG−250(大阪ガスケミカル社製)、HP4032、HP4032D、HP4700(DIC社製)、ESN−475V(新日鉄住金化学社製);152、154、157S70、YX8800(三菱化学社製)、アデカグリシロールED−503、アデカグリシロールED−503G、アデカグリシロールED−506、アデカグリシロールED−523T、アデカレジンEP−4100、アデカレジンEP−4100G、アデカレジンEP−4100E、アデカレジンEP−4100L、アデカレジンEP−4100TX、アデカレジンEP−4000、アデカレジンEP−4005、アデカレジンEP−4080E、アデカレジンEP−4082HT、アデカレジンEP−4901、アデカレジンEP−4901E、アデカグリシロールED−501、アデカグリシロールED−509E、アデカグリシロールED−509S、アデカグリシロールED−529(ADEKA社製)等が挙げられる。
【0015】
上記グリシジル基を有するエポキシ化合物(ただし、(1A)を除く。)(1B)は、分子中のグリシジル基の数が1つである、つまり単官能の芳香族エポキシ化合物を含有することが粘度と塗工性の観点から好ましい。具体的には、本発明のカチオン重合性組成物は、上記グリシジル基を有するエポキシ化合物(ただし、(1A)を除く。)(1B)100質量部中、単官能芳香族エポキシ化合物を20〜100質量部含有することが好ましく、30〜100質量部含有することがより好ましく、40〜100質量部含有することが更に好ましい。
【0016】
上記オキセタン化合物(1C)としては、3,7−ビス(3−オキセタニル)−5−オキサ−ノナン、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、1,2−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]エタン、1,3−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]プロパン、エチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、1,4−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)ブタン、1,6−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)ヘキサン等の二官能脂肪族オキセタン化合物、3―エチル―3−[(フェノキシ)メチル]オキセタン、3―エチル―3−(ヘキシロキシメチル)オキセタン、3―エチル―3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3―エチル―3−(ヒドロキシメチル)オキセタン、3―エチル―3−(クロロメチル)オキセタン等の一官能オキセタン化合物等が挙げられ、二官能脂肪族オキセタン化合物を用いるのが、硬化性及び反応性の点から好ましい。これらは1種単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
上記オキセタン化合物(1C)としては、カチオン重合性モノマーを主成分とする市販品のものを用いることができ、例えば、アロンオキセタンOXT−121、OXT−221、EXOH、POX、OXA、OXT−101、OXT−211、OXT−212(東亞合成社製)、エタナコールOXBP、OXTP(宇部興産社製)等が挙げられる。
【0018】
上記カチオン重合性モノマー混合物(1)において、上記脂環式エポキシ化合物(1A)、グリシジル基を有するエポキシ化合物(ただし、(1A)を除く。)(1B)及びオキセタン化合物(1C)の混合割合は、上記カチオン重合性モノマー混合物(1)100質量部中、上記脂環式エポキシ化合物(1A)が、20〜80質量部、上記グリシジル基を有するエポキシ化合物(ただし、(1A)を除く。)(1B)が、20〜80質量部、上記オキセタン化合物(1C)が、0〜30質量部であることが好ましい。上記カチオン重合性モノマー混合物(1)100質量部中の上記脂環式エポキシ化合物(1A)のより好ましい量は20〜60質量部であり、更に好ましい量は25〜55質量部であり、更に一層好ましい量は30〜50質量部である。上記カチオン重合性モノマー混合物(1)100質量部中の上記グリシジル基を有するエポキシ化合物(ただし、(1A)を除く。)(1B)のより好ましい量は20〜60質量部であり、更に好ましい量は25〜55質量部であり、更に一層好ましい量は30〜50質量部である。上記オキセタン化合物(1C)を含有する場合、上記カチオン重合性モノマー混合物(1)100質量部中における上記オキセタン化合物(1C)のより好ましい量は10〜30質量部であり、更に好ましい量は15〜25質量部である。
【0019】
本発明のカチオン重合性組成物は、上記カチオン重合性モノマー混合物(1)をカチオン重合性組成物中、70〜95質量%含有することが好ましく、75〜95質量%含有することがより好ましく、80〜95質量%含有することが特に好ましい。70質量%以上含有することは低粘度の観点から好ましく、95質量%以下含有することは密着性の観点から好ましい。
【0020】
本発明に使用する上記重量平均分子量5000〜50000の、オルガノシリル基を少なくとも1つ有する重合体(2)としては、重縮合、重付加、付加重合、開環重合、カチオン重合、アニオン重合、ラジカル重合等各種反応により得られる重合体を用いることができ、特にラジカル重合又は開環重合により得られる単量体又は共重合体が、合成が容易なので好ましい。
【0021】
上記重量平均分子量5000〜50000の、オルガノシリル基を少なくとも1つ有する重合体(2)としては、特に、下記構造単位(I)〜(III)から選ばれる少なくとも1の構造単位を有するものを用いるのが、合成が容易なので好ましい。
【0022】
【化1】
(式中、R1、R2及びR3は水素原子であり、R4は、炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。)
【0023】
【化2】
(式中、R5及びR6は水素原子であり、R7及びR8は、炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。)
【0024】
【化3】
(式中、R9及びR10は水素原子であり、R11は、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、R12は、炭素原子数1〜10のアルコキシ基を表す。)
【0025】
上記一般式(I)におけるR4、上記一般式(II)におけるR7及びR8、並びに上記一般式(III)におけるR11で表される炭素原子数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t-ブチル、2エチルヘキシル等が挙げられる。
【0026】
上記一般式(III)におけるR12で表される炭素原子数1〜10のアルコキシ基としては、メチルオキシ、エチルオキシ、プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、ブチルオキシ、イソブチルオキシ、t-ブチルオキシ、ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、2−エチルヘキシルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ等が挙げられる。
【0027】
オルガノシリル基とは、ケイ素上に少なくとも1つの有機基を有する基であり、例えば下記式(a)で表されるものを用いることができる。オルガノシリル基は、重合体の側鎖にあっても末端にあってもよい。オルガノシリル基が末端にない場合、重合体の末端は、置換もしくは無置換の炭素原子数1〜20のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニル基、アクリル基又はメタクリル基であるものを用いるのが好ましい。
【0028】
【化4】
(式中、X1及びX2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルコキシ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニル基、置換もしくは無置換の炭素数1 〜20のアルケニルオキシ基、置換もしくは無置換の炭素数6〜24のアリール基、置換もしくは無置換の炭素数6〜24のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアシロキシ基を示す。R13は、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルコキシ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニルオキシ基、置換もしくは無置換の炭素数6〜24のアリール基、置換もしくは無置換の炭素数6〜24のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアシロキシ基を示す。)
【0029】
上記オルガノシリル基としては、例えば、トリメトキシシリル、トリエトキシシリル、ジメトキシメチルシリル、メトキシジメチルシリル、ジメトキシフェニルシリル等のアルコキシシリル基;トリクロロシリル、メチルジクロロシリル、ジメチルクロロシリル、トリメチルシロキシジクロロシリル等のハロゲン化シリル基;メチルジアセトキシシリル、トリメチルシロキシメチルアセトキシシリル等のアシロキシシリル;ジメチルシリル、トリメチルシロキシメチルシリル等の分子中にSi−H結合を2個以上有するハイドロシリル基;メチルジ(イソプロペニルオキシ)シリル等のアルケニルオキシシリル基等が挙げられる。
【0030】
上記重量平均分子量5000〜50000の、オルガノシリル基を少なくとも1つ有する重合体(2)としては、他のモノマーの重合体、例えば他のエチレン性不飽和モノマーの重合体を用いることもでき、例えば、カチオン重合性置換基で置換されていないメチル基又は炭素原子数2〜7の分岐アルキル基、炭素原子数6〜12のアリール基、炭素原子数6〜10の脂環式炭化水素基又はエポキシ基、オキセタン基、ビニルエーテル基等のカチオン重合性置換基で置換されたエチレン性不飽和単量体の重合体を用いることができる。
【0031】
上記オルガノシリル基を少なくとも1つ有する重合体(2)の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で5000〜50000であるのが好ましく、更に好ましくは7000〜40000である。
【0032】
上記カチオン重合性モノマー混合物(1)に対する重量平均分子量5000〜50000の、オルガノシリル基を少なくとも1つ有する重合体(2)の使用割合は特に限定されず、本発明の目的を阻害しない範囲内で概ね通常の使用割合で使用すればよいが、例えば、カチオン重合性モノマー混合物(1)100質量部に対して、5〜30質量部とすることが好ましく、10〜25質量部とすることがより好ましい。
【0033】
本発明のカチオン重合性組成物には、更に、エネルギー線感受性酸発生剤(3)を用いることができる。該エネルギー線感受性酸発生剤(3)としては、エネルギー線照射により酸を発生することが可能な化合物であればどのようなものでも差し支えないが、入手容易性及び感度の観点から、好ましくは、エネルギー線の照射によってルイス酸を放出するオニウム塩である複塩、またはその誘導体である。具体的には、下記一般式、
[A]r+[B]r-(式中、Aは陽イオン種であり、Bは陰イオン種であり、rはイオンの価数を示す)
で表される陽イオンと陰イオンの塩を挙げることができる。
【0034】
ここで陽イオン[A]r+はオニウムであることが好ましく、その構造は、例えば、下記一般式、
[(R1aQ]r+
で表すことができる。
【0035】
更にここで、R1は炭素原子数が1〜60であり、炭素原子以外の原子をいくつ含んでいてもよい有機の基である。aは1〜5なる整数である。a個のR1は各々独立で、同一でも異なっていてもよい。また、少なくとも1つは、芳香環を有する上記の如き有機の基であることが好ましい。QはS,N,Se,Te,P,As,Sb,Bi,O,I,Br,Cl,F,N=Nからなる群から選ばれる原子あるいは原子団である。また、陽イオン[A]r+中のQの原子価をqとしたとき、r=a−qなる関係が成り立つことが必要である(但し、N=Nは原子価0として扱う)。
【0036】
また、陰イオン[B]r-は、ハロゲン化物錯体であることが好ましく、その構造は、例えば、下記一般式、
[LXbr-
で表すことができる。
【0037】
更にここで、Lはハロゲン化物錯体の中心原子である金属または半金属(Metalloid)であり、B,P,As,Sb,Fe,Sn,Bi,Al,Ca,In,Ti,Zn,Sc,V,Cr,Mn,Co等である。Xはハロゲン原子である。bは3〜7なる整数である。また、陰イオン[B]r-中のLの原子価をpとしたとき、r=b−pなる関係が成り立つことが必要である。
【0038】
上記一般式の陰イオン[LXbr-の具体例としては、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラ(3,5−ジフルオロ−4−メトキシフェニル)ボレート、テトラフルオロボレート(BF4-、ヘキサフルオロフォスフェート(PF6-、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF6-、ヘキサフルオロアルセネート(AsF6-、ヘキサクロロアンチモネート(SbCl6-等を挙げることができる。
【0039】
また、陰イオン[B]r-は、下記一般式、
[LXb-1(OH)]r-
で表される構造のものも好ましく用いることができる。L,X,bは上記と同様である。また、その他用いることのできる陰イオンとしては、過塩素酸イオン(ClO4-、トリフルオロメチル亜硫酸イオン(CF3SO3-、フルオロスルホン酸イオン(FSO3-、トルエンスルホン酸陰イオン、トリニトロベンゼンスルホン酸陰イオン、カンファースルフォネート、ノナフルオロブタンスルフォネート、ヘキサデカフルオロオクタンスルフォネート、テトラアリールボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等を挙げることができる。
【0040】
本発明では、このようなオニウム塩の中でも、下記の(イ)〜(ハ)の芳香族オニウム塩を使用することが特に有効である。これらの中から、その1種を単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0041】
(イ) フェニルジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、4−メトキシフェニルジアゾニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−メチルフェニルジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート等のアリールジアゾニウム塩
【0042】
(ロ) ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジ(4−メチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、トリルクミルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等のジアリールヨードニウム塩
【0043】
(ハ)下記群I又は群IIで表されるスルホニウムカチオンとヘキサフルオロアンチモンイオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートイオン等のスルホニウム塩
【0044】
【化5】
【0045】
【化6】
【0046】
また、その他好ましいものとしては、(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)〔(1,2,3,4,5,6−η)−(1−メチルエチル)ベンゼン〕−アイアン−ヘキサフルオロホスフェート等の鉄−アレーン錯体や、トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム、トリス(エチルアセトナトアセタト)アルミニウム、トリス(サリチルアルデヒダト)アルミニウム等のアルミニウム錯体とトリフェニルシラノール等のシラノール類との混合物等も挙げることができる。
【0047】
これらの中でも、実用面と光感度の観点から、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、鉄−アレーン錯体を用いることが好ましい。
【0048】
上記カチオン重合性モノマー混合物(1)に対するエネルギー線感受性酸発生剤(3)の使用割合は特に限定されず、本発明の目的を阻害しない範囲内で概ね通常の使用割合で使用すればよいが、例えば、カチオン重合性モノマー混合物(1)100質量部に対して、好ましくはエネルギー線感受性酸発生剤(3)0.1〜20質量部、より好ましくは0.5〜10質量部とすることができる。少なすぎると硬化が不十分となりやすく、多すぎると硬化物の吸水率や硬化物強度などの諸物性に悪影響を与える場合がある。
【0049】
本発明のカチオン重合性組成物には、更に、シランカップリング剤(4)を用いることができる。シランカップリング剤(4)を用いると、低粘度の観点で好ましい。該シランカップリング剤(4)としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、メチルエチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシランなどのアルキル官能性アルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシランなどのアルケニル官能性アルコキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ官能性アルコキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ官能性アルコキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト官能性アルコキシシラン、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシドなどのチタンアルコキシド類、チタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)などのチタンキレート類、ジルコウニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネートなどのジルコニウムキレート類、ジルコニウムトリブトキシモノステアレートなどのジルコニウムアシレート類、メチルトリイソシアネートシランなどのイソシアネートシラン類等を用いることができる。
【0050】
上記シランカップリング剤(4)の使用量は、特に限定されないが、通常、カチオン重合性モノマー混合物(1)の全量100質量部に対して、0〜40質量部、好ましくは1〜40質量部、より好ましくは1〜30質量部、更に好ましくは1〜20質量部の範囲である。
【0051】
本発明のカチオン重合性組成物には、必要に応じて熱重合開始剤を用いることができる。
熱重合開始剤とは、加熱によりカチオン種又はルイス酸を発生する化合物として、スルホニウム塩、チオフェニウム塩、チオラニウム塩、ベンジルアンモニウム、ピリジニウム塩、ヒドラジニウム塩等の塩;ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン等のポリアルキルポリアミン類;1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノ−3,6−ジエチルシクロヘキサン、イソホロンジアミン等の脂環式ポリアミン類;m−キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ポリアミン類;前記ポリアミン類と、フェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、ビスフェノールF−ジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類又はカルボン酸のグリシジルエステル類等の各種エポキシ樹脂とを常法によって反応させることによって製造されるポリエポキシ付加変性物;前記有機ポリアミン類と、フタル酸、イソフタル酸、ダイマー酸などのカルボン酸類とを常法によって反応させることによって製造されるアミド化変性物;前記ポリアミン類とホルムアルデヒド等のアルデヒド類及びフェノール、クレゾール、キシレノール、第三ブチルフェノール、レゾルシン等の核に少なくとも一個のアルデヒド化反応性場所を有するフェノール類とを常法によって反応させることによって製造されるマンニッヒ化変性物;多価カルボン酸(シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、2−メチルコハク酸、2−メチルアジピン酸、3−メチルアジピン酸、3−メチルペンタン二酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3,7−ジメチルデカン二酸、水添ダイマー酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸類;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸類;トリメリット酸、トリメシン酸、ひまし油脂肪酸の三量体等のトリカルボン酸類;ピロメリット酸等のテトラカルボン酸類等)の酸無水物;ジシアンジアミド、イミダゾール類、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、アミンイミド等を挙げることができる。
【0052】
上記熱重合開始剤としては、市販品を用いることもでき、例えば、アデカオプトン CP77、アデカオプトンCP66(ADEKA社製)、CI−2639、CI−2624(日本曹達社製)、サンエイド SI−60L、サンエイドSI−80L、サンエイド SI−100L(三新化学工業社製)などが挙げられる。
【0053】
上記熱重合開始剤の使用量は、特に限定されないが、通常、カチオン重合性モノマー混合物(1)の全量100質量部に対して、0.001〜10質量部の範囲であり、該熱重合開始剤を用いる場合には、本発明のカチオン重合性組成物を硬化させる際に130〜180℃で20分〜1時間加熱するのが好ましい。
【0054】
本発明のカチオン重合性組成物には、必要に応じて熱可塑性有機重合体を用いることによって、硬化物の特性を改善することもできる。該熱可塑性有機重合体としては、例えば、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−エチルアクリレート共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸−メチルメタクリレート共重合体、グリシジル(メタ)アクリレート−ポリメチル(メタ)アクリレート共重合体、ポリビニルブチラール、セルロースエステル、ポリアクリルアミド、飽和ポリエステル等が挙げられる。
【0055】
本発明のカチオン重合性組成物には、特に制限されず通常用いられる上記(1)及び(2)の各成分を溶解または分散しえる溶媒を用いることができ、例えば、メチルエチルケトン、メチルアミルケトン、ジエチルケトン、アセトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、2−ヘプタノン等のケトン類;エチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸シクロヘキシル、乳酸エチル、コハク酸ジメチル、テキサノール等のエステル系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のセロソルブ系溶媒;メタノール、エタノール、イソ−又はn−プロパノール、イソ−又はn−ブタノール、アミルアルコール等のアルコール系溶媒;エチレングリコールモノメチルアセテート、エチレングリコールモノエチルアセテート、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート(PGMEA)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、エトキシエチルプロピオネート等のエーテルエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等のBTX系溶媒;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;テレピン油、D−リモネン、ピネン等のテルペン系炭化水素油;ミネラルスピリット、スワゾール#310(コスモ松山石油(株))、ソルベッソ#100(エクソン化学(株))等のパラフィン系溶媒;四塩化炭素、クロロホルム、トリクロロエチレン、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化脂肪族炭化水素系溶媒;クロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒;プロピレンカーボネート、カルビトール系溶媒、アニリン、トリエチルアミン、ピリジン、酢酸、アセトニトリル、二硫化炭素、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、水等が挙げられ、これらの溶媒は1種又は2種以上の混合溶媒として使用することができる。
【0056】
本発明のカチオン重合性組成物は、硬化性、接着性、液保存安定性の観点から水分量が0.01〜3.0質量%であることが好ましく、0.03〜2.0質量%であることが更に好ましい。水分が多すぎると、白濁したり成分が析出したりする恐れがあるので好ましくない。
【0057】
本発明のカチオン重合性組成物は、25℃で測定した時の粘度が400mPa・s以下であるもの、特に1〜400mPa・sであるものが、硬化性及び塗工性に優れるため好ましい。粘度は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0058】
本発明のカチオン重合性組成物は、ロールコーター、カーテンコーター、各種の印刷、浸漬等の公知の手段で、支持基体上に適用される。また、一旦フィルム等の支持基体上に施した後、他の支持基体上に転写することもでき、その適用方法に制限はない。
【0059】
上記支持基体の材料としては、特に制限されず通常用いられるものを使用することができ、例えば、ガラス等の無機材料;ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース(TAC)、プロピオニルセルロース、ブチリルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース、ニトロセルロース等のセルロースエステル;ポリアミド;ポリイミド;ポリウレタン;エポキシ樹脂;ポリカーボネート;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−1,2−ジフェノキシエタン−4,4'−ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリスチレン;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン;ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル等のビニル化合物;ポリメチルメタクリレート、ポリアクリル酸エステル等のアクリル系樹脂;ポリカーボネート;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリエーテルケトン;ポリエーテルイミド;ポリオキシエチレン、ノルボルネン樹脂、シクロオレフィンポリマー(COP)等の高分子材料が挙げられる。
尚、上記支持基体に、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理等の表面活性化処理を行ってもよい。
【0060】
また、本発明の効果を損なわない限り、カチオン重合性組成物に対し、必要に応じて他のモノマー、他のエネルギー線感受性重合開始剤、無機フィラー、有機フィラー、顔料、染料などの着色剤、光増感剤、消泡剤、増粘剤、界面活性剤、レべリング剤、難燃剤、チクソ剤、希釈剤、可塑剤、安定剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、静電防止剤、流動調整剤、接着促進剤等の各種樹脂添加物等を添加することができる。
【0061】
本発明のカチオン重合性組成物中、上記脂環式エポキシ化合物(1A)、グリシジル基を有するエポキシ化合物(ただし、(1A)を除く。)(1B)、オキセタン化合物(1C)、上記重量平均分子量5000〜50000の、オルガノシリル基を少なくとも1つ有する重合体(2)、エネルギー線感受性酸発生剤(3)及びシランカップリング剤(4)以外のその他の成分(但し、溶媒を除く)の含有量は、カチオン重合性組成物中10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0062】
本発明のカチオン重合性組成物は活性エネルギー線の照射により硬化するが、活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、X線、放射線、高周波などを挙げることができ、紫外線が経済的に最も好ましい。紫外線の光源としては、紫外線レーザ、水銀ランプ、キセノンレーザ、メタルハライドランプなどが挙げられる。
【0063】
本発明のカチオン重合性組成物の具体的な用途としては、メガネ、撮像用レンズに代表される光学材料、塗料、コーティング剤、ライニング剤、インキ、レジスト、液状レジスト、接着剤、印刷版、絶縁ワニス、絶縁シート、積層板、プリント基板、半導体装置用・LEDパッケージ用・液晶注入口用・有機EL用・光素子用・電気絶縁用・電子部品用・分離膜用等の封止剤、成形材料、パテ、ガラス繊維含浸剤、目止め剤、半導体用・太陽電池用等のパッシベーション膜、層間絶縁膜、保護膜、液晶表示装置のバックライトに使用されるプリズムレンズシート、プロジェクションテレビ等のスクリーンに使用されるフレネルレンズシート、レンチキュラーレンズシート等のレンズシートのレンズ部、またはこのようなシートを用いたバックライト等、マイクロレンズ等の光学レンズ、光学素子、光コネクター、光導波路、光学的造形用注型剤等を挙げることができ、例えばコーティング剤として適用できる基材としては金属、木材、ゴム、プラスチック、ガラス、セラミック製品等を挙げることができる。
【0064】
続いて、本発明のカチオン重合性組成物から得られる接着剤について説明する。
本発明の接着剤は、本発明のカチオン重合性組成物を有するものである。例えば本発明の接着剤は、本発明のカチオン重合性組成物を均一に混合するように調整し、支持基体に塗布して用いる。あるいは光学フィルムに用いる場合には、支持基体に必要に応じて下塗り層、反射防止層、ハードコート層、潤滑層、保護層、液晶層等の各層を設けたものを用い、任意の各層から選択される任意の隣り合う二者間に接着剤層を設けることができ、接着剤層は本発明のカチオン重合性組成物を塗布することにより得られる。接着剤層の厚みは、2〜400μmとすることが好ましい。塗布後、活性エネルギー線を照射して硬化させる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例等を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
以下、本発明のカチオン重合性組成物及び該カチオン重合性組成物を硬化して得られる硬化物に関し、実施例、評価例及び比較例により具体的に説明する。なお、実施例及び比較例では部は質量部を意味する。また水分量の%は質量%を意味する。
【0067】
[実施例1〜7、比較例1〜4]
下記の[表1]に示す配合で各成分を十分に混合して、各々実施組成物1〜7、比較組成物1〜4を得た。実施組成物1〜7、比較組成物1〜4中の水分量を下記[表1]に示す。
【0068】
カチオン重合性モノマーとしては下記の化合物(1A−1)、(1B−1〜3)及び(1C−1)を用いた。
化合物1A−1:セロキサイド2021P(ダイセル社製脂環式エポキシ化合物)
化合物1B−1:アデカグリシロールED−501(ADEKA社製グリシジルエポキシ化合物)
化合物1B−2:1,4ブタンジオールジグリシジルエーテル
化合物1B−3:アデカレジンEP−4100L(ADEKA社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂)
化合物1C−1:アロンオキセタンOXT−221(東亞合成社製オキセタン化合物)
【0069】
重量平均分子量5000〜50000の、オルガノシリル基を少なくとも1つ有する重合体(2)としては、下記の化合物(2−1)〜(2−3)を用いた。
化合物2−1:カネカサイリル SAT350(カネカ社製MSポリマー:重量平均分子量14000)
化合物2−2:カネカサイリル SAT010(カネカ社製MSポリマー:重量平均分子量6000)
化合物2−3:カネカXMAP OR110S(カネカ社製TAポリマー:重量平均分子量18000)
【0070】
エネルギー線感受性酸発生剤(3)としては下記の化合物(3−1)を用いた。
化合物3−1:[化7]で表される化合物
【0071】


【化7】
【0072】
シランカップリング剤(4)としては、下記の化合物(4−1)を用いた。
化合物4−1:β―(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン
【0073】
【表1】
【0074】
[評価例1〜7、比較評価例1〜4]
上記実施例1〜7で得られた実施組成物1〜7及び比較例1〜4で得られた比較組成物1〜4について、下記評価を行った。結果を上記[表1]に示す。
(液状態)均一に混合されているものを○、分離しているものを×として目視により評価した。
(塗工性)厚さ40μmのPETフィルム上に得られた各々実施組成物及び比較組成物を塗布し、ラミネーターを用いて別の厚さ40μmPETフィルムと貼り合わせたときの状態を確認し、フィルム間に気泡が入らず、フィルムにシワや乱れがないものを〇、フィルム間に気泡が入ったり、フィルムにシワや乱れがあるものを×として評価した。
(硬化性)
塗工性試験に用いたフィルムに対し、無電極紫外光ランプを用いて1000mJ/cm2のエネルギーを照射した。照射3分後に2枚のフィルムを剥がし、両方のフィルムの塗布面がタックフリーになっているものを○、タックが残っているものを×として評価した。
(粘度)
得られた実施組成物1〜7、比較組成物1〜4のそれぞれを25℃においてE型粘度計で粘度を測定した。
(接着力)
得られた実施組成物1〜7、比較組成物1〜4のそれぞれを、一枚のコロナ放電処理を施したTAC(トリアセチルセルロース)フィルムに塗布した後、該フィルムを、ラミネーターを用いてコロナ放電処理を施したもう一枚のCOP(シクロオレフィンポリマー)フィルムと貼り合わせ、無電極紫外光ランプを用いて1000mJ/cm2のエネルギーを照射して接着して試験片を得た。得られた試験片の90度ピール試験を行った(N/2cm)。
【0075】
[表1]より、本発明のカチオン重合性組成物は、塗工性、硬化性及び接着性に優れることが明らかである。