【実施例1】
【0010】
実施例1の構成を
図1に示す。荷電粒子線装置の荷電粒子光学系は、荷電粒子線を発生する荷電粒子線源101と、荷電粒子線源101から放出された荷電粒子線を集束する第1、第2のコンデンサーレンズ103、104と、荷電粒子線源101から放出された荷電粒子の一部を遮蔽する荷電粒子線絞り120と、荷電粒子線絞り120を支持する荷電粒子線絞りユニット121と、荷電粒子線を試料に集束する対物レンズ105とを有している。荷電粒子光学系からの荷電粒子線が照射される観察試料114は試料室115に配置される。荷電粒子線が観察試料114に照射されると、荷電粒子線と観察試料との相互作用により荷電粒子が生じる。
【0011】
観察試料との相互作用により生じる荷電粒子(二次荷電粒子)を検出するため、
図1の構成例では、荷電粒子線絞り120の中心部にその検出面が配置された荷電粒子検出素子108及び試料室に配置された試料室検出器118とを有している。このように複数の検出器を設けているのは、エネルギーや放出角度の異なる荷電粒子を別個に検出するためである。荷電粒子線として電子線を用いた場合を例に説明する。入射電子により試料内の電子が励起され真空中に放出された電子が二次電子(狭義)であり、そのエネルギーは一般的に50eV以下として定義される。一方、入射電子が試料内で散乱されて再び試料表面から真空に放出された電子が後方散乱電子であり、そのエネルギーは高く、一般的には50eV以上のエネルギーをもつ。エネルギーの低い二次電子は、荷電粒子光学系が配置される荷電粒子線カラム外に配置される試料室検出器118により、また、エネルギーの高い後方散乱電子は、荷電粒子線カラム内に配置される荷電粒子検出素子108により検出する。
【0012】
荷電粒子光学系、試料室、検出器の各構成を制御するための制御器がそれぞれ設けられている。すなわち、荷電粒子線源101を制御する荷電粒子線源制御器151、第1のコンデンサーレンズ103を制御する第1のコンデンサーレンズ制御器153、第2のコンデンサーレンズ104を制御する第2のコンデンサーレンズ制御器154、荷電粒子線絞りユニット121を制御する荷電粒子線絞りユニット制御器181、対物レンズを制御する対物レンズ制御器155、荷電粒子検出素子108を制御する荷電粒子検出素子制御器158、試料室検出器118を制御する試料室検出器制御器168が設けられている。これら制御器は、荷電粒子線装置全体の動作を制御および検出器から検出された荷電粒子信号から荷電粒子線像の構築を行う統合コンピュータ170により制御される。また、統合コンピュータ170には、各制御器の他にも、オペレータが照射条件や電極の電圧条件や位置条件といった各種指示等を入力するコントローラ(キーボード、マウスなど)171と、取得した荷電粒子線像や荷電粒子線装置の制御画面をオペレータに表示するディスプレイ172とが接続されている。
【0013】
なお、
図1に示したのは荷電粒子線装置の要部のみであり、例えば、荷電粒子線源101から放出される荷電粒子線を観察試料114上で走査、シフトするための偏向系や、観察試料114を戴置するステージ機構などが装置の機能に応じて設けられる。また、
図1の例では2つのコンデンサーレンズを備えるが、対物レンズに入射する荷電粒子をコントロールする目的とするものであり、コンデンサーレンズの数に制限はない。また、対物レンズは、磁路の外に磁場を漏らさないタイプのレンズであっても、磁路の外に磁場を漏らすタイプのレンズでもよく、また磁場を漏らすタイプと漏らさないタイプの両方を備える複合対物レンズでもよい。試料に荷電粒子線を集束する目的においてレンズのタイプに制限はないので、コンデンサーレンズおよび対物レンズは、磁界レンズに限られず、静電レンズであってもよい。ただし、特に観察試料114に接近して配置される対物レンズ105は、観察試料114から放出される荷電粒子を加速または減速するといった作用を及ぼす場合があるので、その作用を考慮して、観察条件を設定する必要がある。さらに、荷電粒子線装置が備える荷電粒子線カラムは1つに限られず、複数の荷電粒子線カラムを備える複合荷電粒子線装置であってもよい。
【0014】
図2A〜Cを用いて荷電粒子検出素子108の構成を説明する。荷電粒子検出素子108は、3つの検出素子支持部110によって、荷電粒子線絞り120の開口部の中心位置に配置される。荷電粒子線絞り120は、開口絞り120aでもよいし(
図2A,C)、円環絞り120bでもよい(
図2B)。円環絞り120bは、開口絞りの開口部の中心位置にも荷電粒子線を遮蔽する遮蔽部が設けられている絞りである。円環絞り120bの中心位置の遮蔽部の形状や大きさは荷電粒子検出素子108とほぼ同等とするため、円環絞り120bに荷電粒子検出素子108を設けた場合の上面図は
図2Aの上面図とほぼ同等のものとなる。荷電粒子検出素子108、荷電粒子線絞り120の大きさは特に限定するものではないが、荷電粒子検出素子の直径が60μm程度、荷電粒子線絞りの開口部の内径が80〜100μm程度である。
【0015】
また、荷電粒子検出素子108を、シンチレータ109を積層した光検出素子107で構成することもできる(
図2C)。この場合、電子を直接検出するのではなく、シンチレータ109によって光(シンチレータ光)に一旦変換し、変換された光(シンチレータ光)を光検出素子107で検出する。荷電粒子検出素子108(または光検出素子107)は小型である必要があるため、半導体素子(CCD(Charge-Coupled Device)、フォトダイオード、フォトダイオードアレイ)、シリコン光電子増倍管(SiPM)などの固体検出器を用いる。例えば、CMOSイメージセンサの分野では2μm以下の画素サイズのセンサ構造も報告されており、これらの技術が活用できる。
【0016】
さらに、荷電粒子検出素子108を、荷電粒子線絞り120の開口部の中心位置に配置される第1の荷電粒子検出素子に加えて、荷電粒子線絞り120の開口部の周辺に第2の荷電粒子検出素子を配置して、複数の荷電粒子検出素子で構成してもよい。複数の荷電粒子検出素子を用いることで、試料からの荷電粒子を検出する検出面積を増やすことができる。この場合は、第1の荷電粒子検出素子の信号出力と第2の荷電粒子検出素子の信号出力とは分離し、第1の荷電粒子検出素子のみの信号出力も出力できるように構成することが望ましい。第2の荷電粒子検出素子の信号出力は光軸からやや離れた荷電粒子を検出するため、後述する荷電粒子間の干渉を検出する場合のように、第1の荷電粒子検出素子のみの信号出力で観察することが望ましい場合があるためである。
【0017】
また、荷電粒子検出素子108(または光検出素子107)から検出信号を外部に引き出すための検出素子信号線111が検出素子支持部110の一つに配置されている。信号を引き出す目的からは、検出素子信号線111を検出素子支持部110とは別に配置してもよいが、荷電粒子線源101からの荷電粒子線への影響を最小限にするために検出素子信号線111を検出素子支持部110に配置することが望ましい。また、シンチレータ109に高電圧を印加する構成とする場合には、そのための電圧供給配線も検出素子支持部110の一つに配置することが望ましい。なお、
図2Aの例では、支持部110のたわみや回転を考慮して、3つの支持部によって荷電粒子検出素子108を支持しているが、支持部の数は3に限定されるものではない。また、荷電粒子線絞り120により支持するのではなく、荷電粒子線絞りを備える荷電粒子線絞りユニット121とは別に、荷電粒子検出素子108を支持する荷電粒子検出器ユニットを設けても構わない。この場合は、荷電粒子線絞り120をもたない荷電粒子光学系や、荷電粒子検出素子108を荷電粒子線絞り120から離して配置する荷電粒子光学系(
図4を参照)においても、本実施例の荷電粒子検出素子108の適用が可能になる。
【0018】
このように、荷電粒子線の光軸上に荷電粒子検出素子108を配置することで、荷電粒子線の光量が低下するためS/Nが低下する一方、荷電粒子線が絞られることにより分解能は向上するため、その間のバランスで観察条件を求めればよい。荷電粒子線の光軸上に荷電粒子検出素子108の検出面を配置することの利点については後述する。
【0019】
また、
図3に示すように、荷電粒子線絞りユニット121は、荷電粒子検出素子108が支持される絞りとは別に1つ以上の開口絞りを備えてもよい。
図3の例は、開口径が異なる複数の開口絞り120c〜eを備えた例である。これにより、荷電粒子検出素子の挿入状態と退避状態とを選択できることになり、一般的な照射条件と本実施例の照射条件とを選択でき、観察の幅を広げることができる。また、荷電粒子検出素子を支持する荷電粒子検出器ユニットを設ける場合には、荷電粒子検出素子の挿入状態と退避状態を選択できるように、荷電粒子検出器ユニットに駆動機構を設けることで、同様の効果を得ることができる。
【0020】
図4は荷電粒子線絞り120と荷電粒子検出素子108とを離して配置した例である。荷電粒子検出素子108を、荷電粒子線の光軸上、または対物レンズ105の中心軸上に、かつ荷電粒子線絞り120とは離れた位置に配置することで、荷電粒子線カラムの下部(対物レンズ105に近い側)に配置でき、観察の幅が広がる。かかる配置により、試料に照射される荷電粒子線の電流量や開き角などの照射条件と、荷電粒子線と観察試料との相互作用により生じた荷電粒子の検出とを分離して最適化することができる。
【0021】
図5に別の変形例を示す。
図5の例では、荷電粒子線の光軸(対物レンズ105の中心軸)上にはシンチレータ109を配置し、シンチレータ109の上部にミラー106および光検出素子107を配置している。なお、シンチレータ109は荷電粒子線源101からの荷電粒子線からは遮蔽された構造とする。光検出素子107を制御する光検出素子制御器157も設けられ、統合コンピュータ170により制御される。ミラー106は、荷電粒子線の光軸上を通すように開口を持ち、シンチレータから広がった光(シンチレータ光)を検出する構成となっている。なお、光軸上にミラーを支持する構成としてもよいし、円環形状のミラーを用いても構わない。特にシンチレータ109とミラー106とが近接して配置されている場合には、荷電粒子線の光軸上にミラーを設けることでシンチレータ光の検出効率を上げることができ有効である。また、ミラーの代わりにプリズムを用いてもよい。さらに、ミラーやプリズムはシンチレータ面に対する角度を変更するための機構を備えていてもよい。また、シンチレータ109とミラー106(またはプリズム)との間、またはミラー106(またはプリズム)と光検出素子107との間に伝送損失を減少させるためにライトガイドや光学レンズ、光ファイバーなどを配置してもよい。また、光ファイバーのみを用いて、シンチレータ光を光検出素子に導く構成としてもよい。
【0022】
荷電粒子検出素子の検出面を荷電粒子線の光軸(対物レンズの中心軸)上に配置することにより、光軸上または光軸近傍を進む二次荷電粒子を検出することができる。なお、二次荷電粒子という場合は、荷電粒子線と試料との相互作用により生じる荷電粒子を広くさすものとする。例えば、二次電子(狭義)も後方散乱電子も二次荷電粒子である。ここで、二次荷電粒子として後方散乱電子を検出する場合を例にとると、後方散乱電子は試料を構成する元素により発生量が異なるため、試料中の組成分布を確認するために後方散乱電子像が用いられる。従来のように荷電粒子検出器が荷電粒子線の光軸に対して所定の角度をもって配置される場合、後方散乱電子の検出信号には、組成の情報に加え、試料表面の凹凸情報も含んだ情報になってしまう。これに対して、荷電粒子線の光軸上に配置された荷電粒子検出素子により後方散乱電子を検出することにより、試料表面の凹凸情報が排除され、組成情報をより選択的に取得することができる。
【0023】
また、光軸付近の二次荷電粒子を検出するために二次荷電粒子を偏向させる従来手法(特許文献2参照)では、この偏向により光軸に対して軸対象に放出された二次荷電粒子を均等に検出するのは困難であったのに対し、光軸上に検出面を配置することにより、光軸に対して同じ角度で放出された電子を均等に検出することができる。偏向させないので、エネルギーの高い二次荷電粒子であっても、荷電粒子線に歪み等の影響を与えることなく、光軸上または光軸近傍を進む二次荷電粒子の検出が可能である。
【0024】
さらに、光軸に対して軸対称に放出された二次荷電粒子と光軸上を進む二次荷電粒子の干渉を検出することができる。これにより、空間分解能の向上を図ることができる。例えば、試料表面から光軸上を進む二次荷電粒子と光軸に対して軸対称に放出された二次荷電粒子との間の干渉を検出することができる。また、光軸上を進む二次荷電粒子を検出素子の下方で遮蔽した場合には、光軸に対して軸対称に放出された二次荷電粒子間の干渉を検出することができる。この場合、干渉縞は、光軸に対して平行に形成されるため二次荷電粒子のエネルギー広がりの影響を受けにくくなる。すなわち、干渉縞の検出感度を向上させることができる。従来、透過型電子顕微鏡(TEM)などにおいて透過電子と散乱電子との間での干渉像の観察などは行われていたが、試料から放出または反射される二次荷電粒子による干渉を検出できる点は、他の検出方法に類を見ない本実施例の特徴である。なお、光軸上を進む二次荷電粒子を検出素子の下方で遮蔽するには、具体的には、荷電粒子検出素子108と観察試料との間に同一形状の別の荷電粒子検出素子を配置する。この場合は、別の荷電粒子検出素子では光軸上を進む二次荷電粒子を検出でき、荷電粒子検出素子108では光軸に対して軸対称に放出された二次荷電粒子間の干渉を検出することが可能になる。あるいは、荷電粒子検出素子と観察試料との間に円環絞りを配置してもよい。円環絞りの開口部の中心位置に設けられた遮蔽部が対物レンズの中心軸上に配置される。
【0025】
また、荷電粒子線の光軸上に配置する荷電粒子検出素子の検出面を調整可能にすることにより、汎用性を向上させることができる。上述した技術的効果を得るためには、荷電粒子検出器の中心が荷電粒子線の光軸(または対物レンズの中心軸)と一致していることが望ましい。したがって、光軸に対して垂直な平面内の位置調整ができることが望まれる。さらに、試料表面から光軸上を進む二次荷電粒子と光軸に対して軸対称に放出された二次荷電粒子との干渉を検出する場合には、光軸方向の位置調整も重要となる。したがって、光軸方向の位置調整もできることが望ましい。
【0026】
加えて、上述した技術的効果は、試料平面が光軸に対して垂直であることが前提になっている。例えば、試料の組成情報をより選択的に取得することができる効果は、試料平面に対して垂直に放出され、したがって試料表面の凹凸の影響を受けない後方散乱電子を検出することによっている。また、二次荷電粒子の干渉の検出も、試料平面に垂直に放出された二次荷電粒子との干渉を想定している。このため、試料平面が傾斜している場合には傾斜した試料平面に対して垂直に放出された荷電粒子の軌道上に荷電粒子検出素子の検出面が調整できるよう、荷電粒子検出素子の検出面と対物レンズの中心軸(または荷電粒子線の光軸)のなす角が調整できるとよい。
【0027】
そのため、荷電粒子素子の検出面を調整するための電動駆動機構を備え、ディスプレイ172に表示される制御画面上で操作できるようにする。さらに、設定した荷電粒子素子の検出面の位置を記憶する記憶領域を統合コンピュータ170に備え、制御画面上の操作で位置を呼び出せると便利である。検出面を駆動する機構は、モータ駆動でもよいし、ピエゾ駆動でもよい。また、両方を備えて調整量によって使い分けてもよい。なお、試料平面が傾斜している場合のみならず、加速電圧や電流量といった荷電粒子線の照射条件を変更することによっても、二次荷電粒子の軌道変化は起こる可能性がある。そのような場合においても、荷電粒子線の光軸、または対物レンズの中心軸に対する荷電粒子素子の検出面の位置や角度を調整する機能を備えていれば、照射条件ごとに調整することが可能である。