(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6706013
(24)【登録日】2020年5月19日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】銅張積層板および銅張積層板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20200525BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20200525BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
B32B15/08 J
H05K1/09 C
H05K3/00 R
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-182353(P2019-182353)
(22)【出願日】2019年10月2日
【審査請求日】2019年11月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 純一
(72)【発明者】
【氏名】丹波 裕規
【審査官】
塩屋 雅弘
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−301781(JP,A)
【文献】
特開2012−211218(JP,A)
【文献】
特開2014−070085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
H05K1/03
1/09
3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなるベースフィルム(芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類とを反応させて得られるポリイミドフィルムであって、残存溶媒量が0.1〜100ppm以下であるポリイミドフィルムを除く)と、
乾式めっき法により前記ベースフィルムの表面に成膜された下地金属層と、
前記下地金属層の表面に成膜された銅層と、を備え、
前記下地金属層は、平均膜厚が0.3〜1.9nmである
ことを特徴とする銅張積層板。
【請求項2】
前記下地金属層は、平均膜厚が0.3〜1.5nmである
ことを特徴とする請求項1記載の銅張積層板。
【請求項3】
前記下地金属層は、ニッケル、クロム、バナジウム、チタン、モリブデンおよび銅からなる群から選択される少なくとも2種の元素を含む合金からなる
ことを特徴とする請求項1または2記載の銅張積層板。
【請求項4】
前記ベースフィルムは、全体または表層が、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、フッ素樹脂または熱可塑性ポリイミドからなるフィルムである
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の銅張積層板。
【請求項5】
乾式めっき法により熱可塑性樹脂からなるベースフィルム(芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類とを反応させて得られるポリイミドフィルムであって、残存溶媒量が0.1〜100ppm以下であるポリイミドフィルムを除く)の表面に下地金属層を成膜する工程と、
前記下地金属層の表面に銅層を成膜する工程と、を備え、
前記下地金属層は、平均膜厚が0.3〜1.9nmである
ことを特徴とする銅張積層板の製造方法。
【請求項6】
前記下地金属層は、平均膜厚が0.3〜1.5nmである
ことを特徴とする請求項5記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項7】
前記下地金属層は、ニッケル、クロム、バナジウム、チタン、モリブデンおよび銅からなる群から選択される少なくとも2種の元素を含む合金からなる
ことを特徴とする請求項5または6記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項8】
前記ベースフィルムは、全体または表層が、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、フッ素樹脂または熱可塑性ポリイミドからなるフィルムである
ことを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の銅張積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅張積層板および銅張積層板の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、フレキシブルプリント配線板(FPC)などの製造に用いられる銅張積層板、およびその銅張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話など電子機器には、樹脂フィルムの表面に配線パターンが形成されたフレキシブルプリント配線板が用いられる。フレキシブルプリント配線板は樹脂フィルムに銅泊を積層した銅張積層板から製造される。
【0003】
電子機器が処理する情報量は年々増加している。そのため、電子機器に搭載されるフレキシブルプリント配線板には高周波信号の処理が要求されているものがある。フレキシブルプリント配線板の樹脂フィルムに用いられる絶縁樹脂には熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とがある。このうち、熱可塑性樹脂は、種類によっては、低誘電率、低誘電損失という性質を付与することができる。この種の熱可塑性樹脂からなるフィルムは高周波用のフレキシブルプリント配線板に適している。
【0004】
特許文献1には、熱可塑性樹脂フィルムである液晶ポリマーフィルムに下地層と銅層とを積層しためっき積層体が開示されている。下地層はスパッタリング法で厚さ2〜30nmに成膜された、ニッケル、クロム、ニッケルを含む合金またはクロムを含む合金からなる層である。下地層を設けることで、樹脂フィルムと導体層との密着性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−233891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、熱可塑性樹脂フィルムは熱硬化性樹脂フィルムほどの耐熱性を有していないため、下地層の成膜中にフィルムの温度が高くなり、フィルムが変化してシワが発生することがある。これにより生産性が低下する。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、樹脂フィルムと導体層との密着性を維持しつつ、シワの発生が抑制された銅張積層板、およびその銅張積層板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の銅張積層板は、熱可塑性樹脂からなるベースフィルムと、乾式めっき法により前記ベースフィルムの表面に成膜された下地金属層と、前記下地金属層の表面に成膜された銅層と、を備え、前記下地金属層は、平均膜厚が0.3〜1.9nmであることを特徴とする。
第2発明の銅張積層板は、第1発明において、前記下地金属層は、平均膜厚が0.3〜1.5nmであることを特徴とする。
第3発明の銅張積層板は、第1または第2発明において、前記下地金属層は、ニッケル、クロム、バナジウム、チタン、モリブデンおよび銅からなる群から選択される少なくとも2種の元素を含む合金からなることを特徴とする。
第4発明の銅張積層板は、第1〜第3発明のいずれかにおいて、前記ベースフィルムは、全体または表層が、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、フッ素樹脂または熱可塑性ポリイミドからなるフィルムであることを特徴とする。
第5発明の銅張積層板の製造方法は、乾式めっき法により熱可塑性樹脂からなるベースフィルムの表面に下地金属層を成膜する工程と、前記下地金属層の表面に銅層を成膜する工程と、を備え、前記下地金属層は、平均膜厚が0.3〜1.9nmであることを特徴とする。
第6発明の銅張積層板の製造方法は、第5発明において、前記下地金属層は、平均膜厚が0.3〜1.5nmであることを特徴とする。
第7発明の銅張積層板の製造方法は、第5または第6発明において、前記下地金属層は、ニッケル、クロム、バナジウム、チタン、モリブデンおよび銅からなる群から選択される少なくとも2種の元素を含む合金からなることを特徴とする。
第8発明の銅張積層板の製造方法は、第5〜第7発明のいずれかにおいて、前記ベースフィルムは、全体または表層が、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、フッ素樹脂または熱可塑性ポリイミドからなるフィルムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、下地金属層の平均膜厚が0.3nm以上であるので、ベースフィルムと導体層との密着性を維持できる。また、下地金属層の平均膜厚が1.9nm以下であるので、下地金属層の成膜中におけるフィルムの温度上昇を抑制でき、シワの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る銅張積層板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る銅張積層板1は、ベースフィルム10と、ベースフィルム10の表面に成膜された導体層20とからなる。導体層20は下地金属層21と、銅層22とからなる。下地金属層21と銅層22とはベースフィルム10の表面にこの順に積層されている。
図1に示すようにベースフィルム10の片面のみに導体層20が成膜されてもよいし、ベースフィルム10の両面に導体層20が成膜されてもよい。
【0012】
ベースフィルム10は熱可塑性樹脂からなる。熱可塑性樹脂として、低誘電率、低誘電損失という性質を有するものが好ましい。この場合、銅張積層板1を用いて製造されたフレキシブルプリント配線板は高周波用に適している。
【0013】
熱可塑性樹脂として、特に限定されないが、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、フッ素樹脂(PTFE、PFA、FEP、ETFE、PCTFE)、熱可塑性ポリイミド(PI)が挙げられる。したがって、ベースフィルム10として、その全体が、前記熱可塑性樹脂からなるフィルムを用いることができる。また、ベースフィルム10として、芯材が熱硬化性ポリイミドなどの熱硬化性樹脂からなり、表層が前記熱可塑性樹脂からなるフィルムを用いてもよい。
【0014】
熱可塑性樹脂には、ベースフィルム10および銅張積層板1としての物性を損なわない範囲内で、その他の成分が含まれてもよい。例えば、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテルなどの重合体、酸化防止剤、帯電防止剤などの添加剤が熱可塑性樹脂に含まれてもよい。また、フィルムとしての取り扱い性の向上などを目的として、シリカ、クレーなどの無機質材料、繊維などの充填材を熱可塑性樹脂に配合してもよい。
【0015】
ベースフィルム10の厚さは、特に限定されないが、10μm以上が好ましい。ベースフィルム10の厚さが10μm以上であれば、下地金属層21の成膜時にシワが発生しにくい。
【0016】
ベースフィルム10は脱水処理を行なうことが好ましい。脱水処理により樹脂に含まれる水分を除去する。これにより、樹脂に含まれる水分に起因してベースフィルム10と下地金属層21との密着性が低下することを抑制できる。
【0017】
ベースフィルム10の下地金属層21と接する表面は、表面改質処理をすることが好ましい。表面改質処理は、例えば、プラズマ処理、イオンビーム照射、紫外線照射により行なわれる。表面改質処理により、樹脂表面が清浄状態になるとともに脆弱な層が除去される。また、樹脂表面に極性基を導入することで下地金属層21との界面の密着力を高めることができる。
【0018】
下地金属層21は乾式めっき法によりベースフィルム10の表面に成膜される。乾式めっき法として、特に限定されないが、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法が挙げられる。これらのなかでもスパッタリング法が好ましい。
【0019】
例えば、ロールツーロール方式のスパッタリング装置を用いてベースフィルム10の表面に下地金属層21を成膜できる。より詳細には、長尺帯状のベースフィルム10をスパッタリング装置内の巻出ロールおよび巻取ロールの間に装着する。スパッタリング装置内を真空排気した後、アルゴンガスを導入して0.13〜1.3Pa程度に維持する。この状態でベースフィルム10を1〜20m/分程度の速さで搬送しながら、カソードに電力供給してスパッタリング放電を行ない、ベースフィルム10の表面に下地金属層21を連続的に成膜する。
【0020】
下地金属層21は、ニッケル、クロム、バナジウム、チタン、モリブデンおよび銅からなる群から選択される少なくとも2種の元素を含む合金から形成される。下地金属層21にはスパッタリングターゲットに含まれる1重量%以下の不可避不純物が存在していてもよい。通常、スパッタリングターゲットと成膜された金属薄膜とで組成はほぼ同じである。下地金属層21として所望の組成を有するスパッタリングターゲットを用いれば、同様の組成を有する下地金属層21を成膜できる。
【0021】
下地金属層21の平均膜厚を0.3〜1.9nmとすることが好ましい。スパッタリング法により下地金属層21を成膜する場合、ベースフィルム10の搬送速度およびスパッタリング条件により下地金属層21の平均膜厚を調整できる。
【0022】
下地金属層21の平均膜厚を0.3nm以上とすれば、ベースフィルム10と導体層20との密着性を維持できる。これに対し、下地金属層21の平均膜厚が0.3nm未満であると、配線加工を行なう際のエッチング液が染み込み、配線部が浮いてしまうため、配線ピール強度が低下する。
【0023】
また、下地金属層21の平均膜厚を1.9nm以下とすれば、下地金属層21の成膜中におけるフィルムの温度上昇を抑制できる。そのため、熱硬化性樹脂ほどの耐熱性を有していない熱可塑性樹脂からなるベースフィルム10でもシワの発生を抑制できる。
【0024】
ベースフィルム10のシワの発生を抑制するには、下地金属層21が薄いほど好ましい。したがって、下地金属層21の平均膜厚は1.5nm以下がより好ましく、1.0nm以下がさらに好ましく、0.5nm以下が特に好ましい。
【0025】
また、配線に流れるパルスが高周波領域になると、表皮効果により配線の表面に多くの電流が流れる。下地金属層21は銅層22に比べて電気伝導率が低いため、下地金属層21が厚いほど伝送損失が大きくなる。逆にいえば、下地金属層21が薄いほど伝送損失を低減できる。下地金属層21の平均膜厚が1.9nm以下であれば、十分に伝送損失を低減できると考えられる。
【0026】
銅層22は下地金属層21の表面に成膜される。特に限定されないが、銅層22の厚さは、10nm〜18μmが一般的である。銅層22は乾式めっき法で成膜してもよいし、湿式めっき法で成膜してもよいし、乾式めっき法と湿式めっき法とを組み合わせて成膜してもよい。
【0027】
厚さが50nm以下の比較的薄い銅層22を成膜する場合、乾式めっき法のみにより銅層22を成膜すればよい。乾式めっき法として、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法が挙げられる。例えば、スパッタリング装置内に、下地金属層21用のターゲットと銅ターゲットとを設ければ、下地金属層21と銅層22とを連続的に成膜できる。
【0028】
比較的厚い銅層22を成膜するには、乾式めっき法により銅薄膜層を成膜した後、湿式めっき法により銅めっき被膜を積層すればよい。これにより、所望の厚さを有する銅層22を経済的に形成できる。湿式めっき法により銅めっき被膜を成膜する際に、電解めっきのみを行なってもよいし、無電解めっきにより一次めっきをした後、電解めっきにより二次めっきをしてもよい。
【実施例】
【0029】
つぎに、実施例を説明する。
(共通の条件)
・脱水処理
長尺帯状のベースフィルムを、ロールツーロール機構を有する真空装置内に設置した。真空ポンプで装置内の圧力を1Pa以下とした状態で、ベースフィルムを搬送しつつ赤外線ヒーターで加熱して脱水した。
【0030】
・表面改質処理
真空装置内の圧力を1×10
-4Pa以下にした後、酸素ガスを導入して圧力を2.5Paとした。この状態で直流放電プラズマをベースフィルムの表面に数秒間照射した。
【0031】
・スパッタリング
スパッタリング装置内の圧力を1×10
-4Pa以下にした後、アルゴンガスを導入して圧力を0.3Paとした。この状態でベースフィルムの片面に下地金属層および銅薄膜層を成膜した。ここで銅薄膜層の厚さを100nmとした。
【0032】
・電解めっき
めっき液として硫酸銅溶液を用い、電流密度2A/dm
2で電解めっきを行なって、銅薄膜層の表面に厚さ12μmの銅めっき被膜を成膜した。これにより銅張積層板を得た。
【0033】
・特性評価
ベースフィルムと導体層との初期密着力の測定として、IPC−TM−650、NUMBER2.4.9に準拠した方法でピール強度を測定した。ここで、銅張積層板の一部にドライフィルムをラミネートして感光性レジスト膜を形成した後、露光現像し、塩化第2鉄溶液で導体層をエッチングにより除去した。その後、レジストを除去してピール強度評価用の1mm幅のリードを形成した。また、ピールの角度は90°とした。
【0034】
(実施例1)
ベースフィルムとして厚さ50μmの液晶ポリマーフィルム(株式会社クラレ製、ベクスターCTZ、以下同じ)を用いた。下地金属層は20質量%Cr−Ni合金ターゲットを用いたスパッタリングにより成膜した。ここで、下地金属層の平均膜厚を0.3nmとした。得られた銅張積層板のピール強度は344N/mであった。また、スパッタリング後のベースフィルムにシワは観察されなかった。
【0035】
(実施例2)
ベースフィルムとして厚さ50μmのポリエーテルエーテルケトンフィルム(倉敷紡績株式会社製、エクスピーク)を用いた。下地金属層は20質量%Cr−Ni合金ターゲットを用いたスパッタリングにより成膜した。ここで、下地金属層の平均膜厚を0.3nmとした。得られた銅張積層板のピール強度は328N/mであった。また、スパッタリング後のベースフィルムにシワは観察されなかった。
【0036】
(実施例3)
ベースフィルムとして厚さ50μmのポリエチレンナフタレートフィルム(帝人フィルムソリューション株式会社製、テオネックスQ83)を用いた。下地金属層は20質量%Cr−Ni合金ターゲットを用いたスパッタリングにより成膜した。ここで、下地金属層の平均膜厚を0.3nmとした。得られた銅張積層板のピール強度は323N/mであった。また、スパッタリング後のベースフィルムにシワは観察されなかった。
【0037】
(実施例4)
ベースフィルムとして厚さ50μmのフッ素樹脂フィルム(AGC株式会社製、フルオンプラスEA−2000)を用いた。下地金属層は20質量%Cr−Ni合金ターゲットを用いたスパッタリングにより成膜した。ここで、下地金属層の平均膜厚を0.3nmとした。得られた銅張積層板のピール強度は309N/mであった。また、スパッタリング後のベースフィルムにシワは観察されなかった。
【0038】
(実施例5)
ベースフィルムとして厚さ50μmの熱可塑性ポリイミドフィルム(株式会社カネカ製、ピクシオ)を用いた。下地金属層は20質量%Cr−Ni合金ターゲットを用いたスパッタリングにより成膜した。ここで、下地金属層の平均膜厚を0.3nmとした。得られた銅張積層板のピール強度は349N/mであった。また、スパッタリング後のベースフィルムにシワは観察されなかった。
【0039】
(実施例6)
ベースフィルムとして厚さ50μmの液晶ポリマーフィルムを用いた。下地金属層は7質量%Cr−Ni合金ターゲットを用いたスパッタリングにより成膜した。ここで、下地金属層の平均膜厚を0.5nmとした。得られた銅張積層板のピール強度は356N/mであった。また、スパッタリング後のベースフィルムにシワは観察されなかった。
【0040】
(実施例7)
ベースフィルムとして厚さ50μmの液晶ポリマーフィルムを用いた。下地金属層は35質量%Cu−Ni合金ターゲットを用いたスパッタリングにより成膜した。ここで、下地金属層の平均膜厚を1.5nmとした。得られた銅張積層板のピール強度は382N/mであった。また、スパッタリング後のベースフィルムにシワは観察されなかった。
【0041】
(実施例8)
ベースフィルムとして厚さ50μmの液晶ポリマーフィルムを用いた。下地金属層は7質量%V−Ni合金ターゲットを用いたスパッタリングにより成膜した。ここで、下地金属層の平均膜厚を0.8nmとした。得られた銅張積層板のピール強度は365N/mであった。また、スパッタリング後のベースフィルムにシワは観察されなかった。
【0042】
(実施例9)
ベースフィルムとして厚さ50μmの液晶ポリマーフィルムを用いた。下地金属層は28質量%Mo−Ni合金ターゲットを用いたスパッタリングにより成膜した。ここで、下地金属層の平均膜厚を1.0nmとした。得られた銅張積層板のピール強度は391N/mであった。また、スパッタリング後のベースフィルムにシワは観察されなかった。
【0043】
(実施例10)
ベースフィルムとして厚さ50μmの液晶ポリマーフィルムを用いた。下地金属層は7.5質量%Ti−Ni合金ターゲットを用いたスパッタリングにより成膜した。ここで、下地金属層の平均膜厚を0.9nmとした。得られた銅張積層板のピール強度は370N/mであった。また、スパッタリング後のベースフィルムにシワは観察されなかった。
【0044】
(実施例11)
ベースフィルムとして厚さ50μmの液晶ポリマーフィルムを用いた。下地金属層は10質量%Ni−Cu合金ターゲットを用いたスパッタリングにより成膜した。ここで、下地金属層の平均膜厚を1.9nmとした。得られた銅張積層板のピール強度は317N/mであった。また、スパッタリング後のベースフィルムにシワは観察されなかった。
【0045】
(比較例1)
ベースフィルムとして厚さ50μmの液晶ポリマーフィルムを用いた。下地金属層は20質量%Cr−Ni合金ターゲットを用いたスパッタリングにより成膜した。ここで、下地金属層の平均膜厚を0.2nmとした。得られた銅張積層板のピール強度は291N/mであった。また、スパッタリング後のベースフィルムにシワは観察されなかった。
【0046】
(比較例2)
ベースフィルムとして厚さ50μmの液晶ポリマーフィルムを用いた。下地金属層は20質量%Cr−Ni合金ターゲットを用いたスパッタリングにより成膜した。ここで、下地金属層の平均膜厚を2.0nmとした。得られた銅張積層板のピール強度は400N/mであった。また、スパッタリング後のベースフィルムにシワが観察された。
【0047】
以上の実施例1〜11および比較例1、2を表1にまとめる。
【表1】
【0048】
下地金属層の平均膜厚が0.3nm以上の実施例1〜11は、いずれも、ピール強度が300N/m以上であり、ベースフィルムと導体層との初期密着力が十分である。これに対して、下地金属層の平均膜厚が0.2nmの比較例は、ピール強度が291N/mと弱い。これより、下地金属層の平均膜厚を0.3nm以上とすれば、ベースフィルムと導体層との初期密着力を維持できることが確認できた。
【0049】
また、下地金属層の平均膜厚を2.0nmとした比較例2では、スパッタリング後のベースフィルムにシワが観察された。これより、シワの発生を抑制するには、下地金属層の平均膜厚を1.9nm以下にすればよいことが確認できた。
【符号の説明】
【0050】
1 銅張積層板
10 ベースフィルム
20 導体層
21 下地金属層
22 銅層
【要約】
【課題】樹脂フィルムと導体層との密着性を維持しつつ、シワの発生が抑制された銅張積層板を提供する。
【解決手段】銅張積層板1は、熱可塑性樹脂からなるベースフィルム10と、乾式めっき法によりベースフィルム10の表面に成膜された下地金属層21と、下地金属層21の表面に成膜された銅層22とを備える。下地金属層21は、平均膜厚が0.3〜1.9nmである。下地金属層21の平均膜厚が0.3nm以上であるので、ベースフィルム10と導体層20との密着性を維持できる。下地金属層21の平均膜厚が1.9nm以下であるので、下地金属層21の成膜中におけるフィルムの温度上昇を抑制でき、シワの発生を抑制できる。
【選択図】
図1