特許第6706138号(P6706138)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706138
(24)【登録日】2020年5月19日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】撮像装置
(51)【国際特許分類】
   H04N 5/374 20110101AFI20200525BHJP
【FI】
   H04N5/374
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-94224(P2016-94224)
(22)【出願日】2016年5月10日
(65)【公開番号】特開2017-204680(P2017-204680A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2019年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100143568
【弁理士】
【氏名又は名称】英 貢
(72)【発明者】
【氏名】安江 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】北村 和也
(72)【発明者】
【氏名】島本 洋
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 恭志
【審査官】 橘 高志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−258202(JP,A)
【文献】 特開2008−042305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 5/374
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像装置であって、
固体撮像素子と、
前記固体撮像素子にて電荷転送ゲートによりフォトダイオードから電荷電圧変換部へ電荷転送する際に、該フォトダイオード内に所定の電荷量を残すべく前記電荷電圧変換部における基準ポテンシャルに対し前記電荷転送ゲートのチャネルの電位が深くなるポテンシャル勾配を生じさせるよう、前記固体撮像素子を駆動する駆動手段と、を備え
前記駆動手段は、当該電荷転送の際に前記ポテンシャル勾配により前記電荷転送ゲートのチャネルに電荷が残るようにしたことを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記駆動手段は、前記フォトダイオードにおける残像成分を除去するための、画素信号の読み出しに寄与しない前記電荷転送ゲートのオン・オフ及び前記電荷電圧変換部のリセット動作の組み合わせによる所定のダミーシャッター動作を1回以上前記画素信号の読み出し前に行う機能を更に備えることを特徴とする、請求項に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記駆動手段は、前記所定のダミーシャッター動作を前記画素信号の読み出し前に複数回行う機能を更に備えることを特徴とする、請求項に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記駆動手段は、今回の画素信号の読み出し前であって、前回の画素信号の読み出し期間中に、複数回前記電荷転送ゲートのオン・オフ動作を行う機能を更に備えることを特徴とする、請求項又はに記載の撮像装置。
【請求項5】
前記ポテンシャル勾配を生じさせる電荷転送ゲートのチャネルの電位に対応する電荷転送ゲート用駆動電圧が、前記基準ポテンシャルに対応するリセット電圧より大きい値となるよう構成されていることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体撮像素子におけるフォトダイオードから電荷電圧変換部への電荷転送に起因する残像を除去するよう駆動制御する撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のカメラ等の撮像装置において広く使われているCMOS型固体撮像素子においては、フォトダイオード(PD)において光によって誘起される電荷を一定時間蓄積し、電荷転送ゲートを通じて電荷電圧変換部(FDA:フローティングディフュージョンアンプ)に転送し、電圧として読み出すものが多い。そして、通常、固体撮像素子は、PDから電荷電圧変換部までは電荷が全て転送されるように、電荷転送ゲートのオン時のポテンシャル勾配が設計されている。しかしながら、設計通りのポテンシャル勾配が得られずに、電荷が転送されずPDに残ってしまう場合があり、そのような電荷は動画撮影においては、次回以降の読み出し時に転送され、残像となって映像に現れる。
【0003】
残像の原因となるポテンシャル勾配の不備は、本質的には画素の設計や製造条件を見直す必要があり、一般的には、画素設計や製造条件の調整によって残像を発生するポテンシャル勾配の不備を防いでいる。
【0004】
一方で、撮像装置としては、その装置仕様による駆動条件などで残像が発生しうる固体撮像素子を使用することが余儀なくされることもある。
【0005】
そこで、残像が発生しうる固体撮像素子を使用しその残像の影響を軽減するために、バイアスライトを使用する技法がある。この技法は、カメラの機構により撮像素子の撮像面に常に一定光量の光を当てて、常にフォトダイオードに一定量の電荷量のオフセットを発生させることで、フォトダイオードに残る電荷の映像への影響を抑制するものである。
【0006】
また、残像の影響を軽減する他の技法として、電荷電圧変換部に対しリセットゲートを介してドレインに接続される固体撮像素子において、電荷転送ゲート及びリセットゲートを開いた状態(オン状態)でそのドレインの電位を変動させて、そのドレインから電荷を注入してPD内に常に一定の電荷量を残すことにより残像の発生を抑制する技法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−309243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
固体撮像素子におけるフォトダイオード(PD)から電荷電圧変換部への電荷転送に起因する残像が発生することは、撮像装置の画像品質上好ましくない。
【0009】
そこで、上述したようにカメラの機構により発生させるバイアスライトを使用して残像の影響を軽減する技法が知られているが、そのバイアスライトの光を当てることにより生じるショットノイズの影響で画質が劣化する点、カメラの設計上撮像面に一定の光量を当てることが難しい点などの懸念点が存在する。
【0010】
また、特許文献1の技法のように電荷電圧変換部に対しリセットゲートを介してドレインに接続される固体撮像素子に対し、そのドレインの電位を変動させるには非常に大きな負荷を駆動することになる。このため、動画撮影に必要なフレーム周波数に対応する周期で一定の電荷量を残すようドレイン電位を変動させる駆動回路を実現することは容易ではない。
【0011】
従って、固体撮像素子の駆動回路における駆動負荷を容易に実現可能な程度に抑え、残像が発生しうる固体撮像素子を使用しても、その残像の影響を除去又は軽減する技法が望まれる。
【0012】
本発明の目的は、上述の問題に鑑みて、残像が発生しうる固体撮像素子に対しその残像の影響を除去又は軽減させる撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る撮像装置は、残像が発生しうる固体撮像素子に対しその残像の影響を除去又は軽減させるため、固体撮像素子にて電荷転送ゲートによりフォトダイオード(PD)から電荷電圧変換部への電荷転送する際に、PD内に所定の電荷量(原理的には常に一定)の電荷量を残すべくその電荷電圧変換部の基準ポテンシャルに対し電荷転送ゲート(TX)のチャネルのポテンシャル(チャネル電位)が深くなるポテンシャル勾配を生じさせ、更には、PDの残像成分を除去するための画素信号の読み出しに寄与しない所定のダミーシャッター動作を行う駆動回路を備えるよう構成する。
【0014】
即ち、本発明に係る撮像装置は、固体撮像素子と、前記固体撮像素子にて電荷転送ゲートによりフォトダイオードから電荷電圧変換部へ電荷転送する際に、該フォトダイオード内に所定の電荷量を残すべく前記電荷電圧変換部における基準ポテンシャルに対し前記電荷転送ゲートのチャネルの電位が深くなるポテンシャル勾配を生じさせるよう、前記固体撮像素子を駆動する駆動手段と、を備え、前記駆動手段は、当該電荷転送の際に前記ポテンシャル勾配により前記電荷転送ゲートのチャネルに電荷が残るようにしたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る撮像装置において、前記駆動手段は、前記フォトダイオードにおける残像成分を除去するための、画素信号の読み出しに寄与しない前記電荷転送ゲートのオン・オフ及び前記電荷電圧変換部のリセット動作の組み合わせによる所定のダミーシャッター動作を1回以上前記画素信号の読み出し前に行う機能を更に備えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る撮像装置において、前記駆動手段は、前記所定のダミーシャッター動作を前記画素信号の読み出し前に複数回行う機能を更に備えることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る撮像装置において、前記駆動手段は、今回の画素信号の読み出し前であって、前回の画素信号の読み出し期間中に、複数回前記電荷転送ゲートのオン・オフ動作を行う機能を更に備えることを特徴とする。

【0019】
また、本発明に係る撮像装置において、前記ポテンシャル勾配を生じさせる電荷転送ゲートのチャネルの電位に対応する電荷転送ゲート用駆動電圧が、前記基準ポテンシャルに対応するリセット電圧より大きい値となるよう構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、残像が発生しうる固体撮像素子を使用しても、その残像の影響を除去又は軽減させた映像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明による一実施形態の撮像装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】本発明による一実施形態の撮像装置における固体撮像素子の画素構造を概略的に例示する図である。
図3】(a)乃至(e)は、残像が発生しない固体撮像素子における従来の信号読み出し動作によるポテンシャルの変化を示す図である。
図4】(a)乃至(i)は、残像が発生する固体撮像素子における従来の信号読み出し動作による残像発生時のポテンシャルの変化を示す図である。
図5】(a)乃至(g)は、本発明による一実施形態の撮像装置における駆動回路により、残像が発生する固体撮像素子に対する実施例1の信号読み出し動作で残像の影響を除去する際のポテンシャルの変化を示す図である。
図6】(a)乃至(h)は、本発明による一実施形態の撮像装置における駆動回路により、残像が発生する固体撮像素子に対する実施例2の信号読み出し動作で残像の影響を除去する際のポテンシャルの変化を示す図である。
図7】本発明による一実施形態の撮像装置における駆動回路による駆動信号のタイミングチャートの一例を示す図である。
図8】本発明による一実施形態の撮像装置における駆動回路による駆動信号のタイミングチャートの別例を示す図である。
図9】本発明による一実施形態の撮像装置における実施例2の効果を示す測定データのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明による一実施形態の撮像装置1について説明する。
【0023】
〔撮像装置〕
図1は、本発明による一実施形態の撮像装置1の概略構成を示すブロック図である。撮像装置1は、既存の典型的なCMOS撮像素子として構成される固体撮像素子2と、制御部3とを備える。制御部3は、駆動回路31及び信号処理回路32を備える。本実施形態の撮像装置1は、動画撮影可能なカメラとして構成することができる。
【0024】
撮像装置1は、駆動回路31によって駆動する固体撮像素子2に対し被写体を撮像レンズによって結像させ固体撮像素子2の画素信号を出力させ、この画素信号を信号処理回路32により画像処理して動画像などを画像出力する。
【0025】
〔固体撮像素子〕
図2は、本発明による一実施形態の撮像装置1における固体撮像素子2の画素構造を概略的に例示する図である。図2では、固体撮像素子2としてCMOS撮像素子で一般的に用いられる4トランジスタ構造をより簡潔に例示した模式図を示している。フォトダイオード(PD)21において入射光が電荷(ここでは電子)に変換され、露光時間の間に蓄積される。PD21に蓄積された電荷は、転送信号(TX信号)により転送トランジスタ22(ここではNMOSとする)の電荷転送ゲート(TX)のゲート電圧をロー(L)からハイ(H)に制御することで電荷電圧変換部におけるフローティングディフュージョン(FD)23に転送される。FD23は容量CFDAを持つキャパシタとしてふるまい、電荷電圧変換部は転送された電荷に応じて電圧を生じさせる電荷電圧変換部として機能する。
【0026】
PD21からFD23へ電荷転送される前には、リセット信号(RT信号)によりリセットトランジスタ24(ここではNMOSとする)のゲート電圧をロー(L)からハイ(H)に制御することでFD23はリセット電圧RTVDDに接続され、定電圧に(即ちFD23の基準ポテンシャルに)リセットされる。電荷電圧変換部に生じた電圧信号は信号読出回路(図示せず)により画素信号として出力され、固体撮像素子2に一体に設けられるAD変換回路(図示せず)を通じて図1に示す制御部3の信号処理回路32へと伝送される。
【0027】
尚、AD変換回路(図示せず)の前段に、雑音除去回路(相関二重サンプリング回路)を設け、PD21からFD23への電荷転送前のリセットレベルの信号と電荷転送後の蓄積電荷の信号との間で差分を取り低ノイズ化させるよう構成することもできる。その後、当該AD変換回路によってデジタル値へと変換されて、制御部3の信号処理回路32へと伝送される。
【0028】
この一連の動作を繰り返すことにより、撮像装置1は動画の撮影が可能となる。
【0029】
また、上記の一連の動作で、PD21の露光時間を任意に制御するために、TX信号により転送トランジスタ22のゲート電圧をローからハイに制御してPD21からFD23へ電荷を転送し、当該信号読出回路による信号電圧の読み出しを行わずに、RT信号によりリセットトランジスタ24のゲート電圧をローからハイに制御しFD23のポテンシャルをリセットする動作を、当該信号読出回路による信号読み出しの間の任意のタイミングで行うことができる。この動作を行うことにより、それまでにPD21に蓄積された電荷は廃棄されるため、PD21の露光時間を調整することが可能である。この画素信号の読み出しに寄与しない転送トランジスタ22及びリセットトランジスタ24の動作を電子シャッター動作と定義する。このような電子シャッター動作は、駆動回路31によって制御することができ、従来から一般的に行われている。
【0030】
(従来の信号読み出し動作)
ここで、本発明の理解を高めるために、従来の信号読み出し動作についてまず説明する。図3(a)乃至(e)は、残像が発生しない固体撮像素子2における従来の信号読み出し動作によるポテンシャルの変化を示す図である。
【0031】
図3において、横軸は画素上の平面座標を表し、“PD”(PD21の領域)、“TX” (転送トランジスタ22のTXチャネルの領域)、“FD”(FD23の領域)、“RT”(リセットトランジスタ24のRTチャネルの領域)、“RTVDD”(リセット電圧に対応するポテンシャル領域)の各領域に分けられている。各座標でのポテンシャルは太線により模式的に表されており、下方がポテンシャルの低い(深い)状態を表している。即ち、図2にてTX信号やRT信号がハイ(H)のときポテンシャルは下方へと低い(深い)状態となり、TX信号やRT信号がロー(L)のときポテンシャルは上方へと変化するものとし、このため電荷は、図上で、ポテンシャルがより深い方向へ向かうものとする。
【0032】
図3(a)に示す初期状態は、“PD”、“TX”、“FD”、“RT”、“RTVDD”の各領域に保持される電荷が存在しない状態を表している。図3(b)に示す露光後は、入射光量に応じて、PD21に電荷が蓄積されている状態を表している。このとき、PD21の細線で示すポテンシャルまでPD21に電荷が蓄積されているものとする。
【0033】
図3(c)に示すリセット動作では、RT信号のロー(L)からハイ(H)の動作で、FD23に蓄積した不要電荷を排出し、FD23を基準ポテンシャル(リセット電圧RTVDDに対応するポテンシャル)にする。その後、図3(d)に示す電荷転送動作を行う。即ち、TX信号のロー(L)からハイ(H)の動作で転送トランジスタ22のゲート電圧をオンにすることで、PD21に比較してFD23のポテンシャルが低くなり、PD21に蓄積されていた電荷は、FD23に転送される。
【0034】
ここで、残像が発生しない固体撮像素子2における従来の信号読み出し動作では、図3(d)に示すように、TX信号がハイ(H)の時(TX信号(H))のTXチャネルのポテンシャルを基準ポテンシャル(リセット電圧RTVDDに対応するポテンシャル)より高い(浅い)状態とし、PD21からFD23への電荷転送時にTXチャネルには電荷が残らないようにしている。当該電荷転送時にTXチャネルに電荷が残ると、後述するがTX信号がロー(L)の時にPD21へ電荷の戻りが発生し残像の原因になるためである。
【0035】
図3(e)の信号読み出しでは、FD23のポテンシャルが図3(c)での基準ポテンシャルから図3(d)での転送電荷で変化する分の電圧信号を画素信号として読み出す。
【0036】
図3(e)に示されたFD23から得られる画素信号は、ソースフォロワアンプなどにより、外部に設けられた当該信号読出回路(図示せず)に伝送される。
【0037】
一方、図4(a)乃至(i)は、残像が発生する固体撮像素子2における従来の信号読み出し動作による残像発生時のポテンシャルの変化を示す図である。図4(a)の初期状態、図4(b)の露光後の状態、及び図4(c)のリセット後の状態は、図3と同様であるためその説明を割愛する。
【0038】
図4(d)の電荷転送時においては、図3と同様に、TX信号のロー(L)からハイ(H)の動作で転送トランジスタ22のゲート電圧をオンにすることで、PD21に比較してFD23のポテンシャルが低くなり、PD21に蓄積されていた電荷は、FD23に転送される。ただし、残像が発生する画素においては、PD21及びTXチャネルのポテンシャル勾配の不備により、一部の電荷は転送されずにPD21内に残留する。図4(e)の信号読み出しでは図3(e)と同様に画素信号が読み出される。
【0039】
動画像撮像で、明るいシーンの後に暗いシーンが続くような場合、明るいシーンの時にこのPD21に電荷が残留した状態にて暗いシーンを撮影すると、図4(f)露光後の状態図で示すように、PD21内の露光による蓄積電荷が少ない状況が生じる。この状態にて図4(g)のリセット後、図4(h)の電荷転送を行うと、露光により生じた電荷に加えて、明るいシーンの時に残留していた電荷の一部も熱励起などによりFD23に転送される。その結果、図4(i)に示す次の信号読み出し時においては、入射光により生じた電圧よりも大きな電圧の画素信号が出力される。この電荷転送後に残留する電荷は、明るいシーンにより発生し、暗いシーンが連続すると徐々に読みだされて減少していくため、映像には尾を引く残像となって現れる。このような残像は、信号処理などによる除去が困難であり、映像信号の品質を著しく悪化させる。尚、この場合の残留電荷はある光量以上で光量に依存せずほぼ一定となる。また、この場合の残留電荷は、後述の「分配残像電荷」と称する除去対象の残像とは異なる点に留意する。
【0040】
そこで、以下、本発明による一実施形態の撮像装置1では、駆動回路31により、残像が発生する固体撮像素子2に対する実施例1,2の信号読み出し動作で残像の影響を除去するよう構成される。以下、各実施例について順に説明する。尚、駆動回路31の動作として本発明に係る駆動信号(TX信号及びRT信号)についてのみ説明する。
【0041】
〔駆動回路の動作〕
(本発明に係る実施例1の信号読み出し動作)
図5(a)乃至(g)は、本発明による一実施形態の撮像装置1における駆動回路31により、残像が発生する固体撮像素子2に対する実施例1の信号読み出し動作で残像の影響を除去する際のポテンシャルの変化を示す図である。図5(a)の初期状態、図5(b)の露光後の状態、及び図5(c)のリセット後の状態は、図3と同様であるためその説明を割愛する。
【0042】
実施例1では、図5(c)のリセット後に、以下の図5(d−1)から図5(g)までの動作を行うことで残像の影響を抑制した信号読み出しを行う。
【0043】
図5(d−1)の初回TXオン動作では、図3図4に示す従来技法とは異なり、TX信号がハイ(H)の時(TX信号(H))のTXチャネルのポテンシャルを基準ポテンシャル(リセット電圧RTVDDに対応するポテンシャル)より低い(深い)状態とし、PD21からFD23への電荷転送時にTXチャネルには意図的に電荷が残るようにする。尚、図6(d−1)に示す“RTVDDに対応するポテンシャル>TX信号(H)に対応するポテンシャル”となるようにするには、本例では、入力電圧として“TX信号(H)>RTVDD”とする。
【0044】
そして、図5(d−1)に示す初回TXオン動作では、図4の場合と同様、残像が発生する画素においては、PD21及びTXチャネルのポテンシャル勾配の不備により、一部の電荷は転送されずにPD21内に残留する。従って、図5(c)の時点でPD21に蓄積される光電変換による電荷をQsとすると、PD21には電荷ΔQsが残留するため、FD23にはQs−ΔQsが転送される。
【0045】
次いで、図5(d−2)に示す初回TXオフ動作で、TX信号がロー(L)となる際に(TX信号(L))、TXチャネルに残留していた電荷の一部αはPD21に戻る。その結果、PD21には電荷ΔQs+α、FD23にはQs−ΔQs−αの電荷が残る。
【0046】
以上の動作は動画撮影のフレームごとに繰り返されることから、数フレームを経た定常状態後では、図5(a)の状態においてQo=ΔQs+αと置くことにより図5(f)の状態となり、図5(g)の定常状態後の信号読み出し時には、それまでの入射光量に関係なくPD21には一定の電荷ΔQs+αが残り、FD23には正味の光電荷Qsのみが残るようになる。
【0047】
このように、実施例1に係る撮像装置1は、残像が発生する(又は発生しうる)固体撮像素子2に対しその残像の影響を除去又は軽減させるために、駆動回路31により、固体撮像素子2内のPD21から電荷電圧変換部のFD23への電荷転送する際に、そのFD23の基準ポテンシャルに対し電荷転送ゲートのチャネルのポテンシャル(TXチャネル電位)が深くなるようポテンシャル勾配を生じさせ、フォトダイオード(PD21)内に所定の(原理的には常に一定の)電荷量を残すようにした。これにより、実施例1に係る撮像装置1は、残像が発生しうる固体撮像素子2を使用しても、その残像の影響を除去又は軽減させた映像を得ることができる。
【0048】
(本発明に係る実施例2の信号読み出し動作)
図6(a)乃至(h)は、本発明による一実施形態の撮像装置1における駆動回路31により、残像が発生する固体撮像素子2に対する実施例2の信号読み出し動作で残像の影響を除去する際のポテンシャルの変化を示す図である。図6(a)の初期状態、図6(b)の露光後の状態、及び図6(c)のリセット後の状態は、図3と同様であるためその説明を割愛する。ただし、ここでは、入射光が強く、PD21には図5の例より大きな電荷Qmsが蓄積した場合を想定する。
【0049】
図6(d−1)の初回TXオン動作では、図5に示す実施例1と同様に、TX信号がハイ(H)の時(TX信号(H))のTXチャネルのポテンシャルを基準ポテンシャル(リセット電圧RTVDDに対応するポテンシャル)より低い(深い)状態とし(TX信号(H)>RTVDD)、PD21からFD23への電荷転送時にTXチャネルには意図的に電荷が残るようにする。ただし、本例では、FD23内に転送される信号電荷の電荷量が多いときの例である。
【0050】
次いで、図6(d−2)に示す初回TXオフ動作で、TX信号がロー(L)となる際に(TX信号(L))、当該信号電荷の内、電荷Q1がPD21に残留する。これを分配残像電荷と称することにする。この電荷Q1は従来技法の動作であれば、次のフレームの信号読出し動作時に別の残像として現れることになる。このように、初回TXオン時にPD21まで溢れる程の電荷量では無くても、FD23内の信号が大きいとTXオフ時にPD21に分配される電荷量が多くなることもある。
【0051】
一方、本発明に係る実施例2では、図6(e)の初回読み出し動作後に、画素信号の読み出しに寄与しないリセット動作間で、TX信号のハイ(H)からロー(L)及びロー(H)からハイ(H)の動作を1回以上行う図6(f)乃至(h)に示すダミーシャッター動作を行う。ここで、前述のように定義した電子シャッター動作では露光制御を目的とするものであるが、これと同様な駆動を行うものの、PD21の残像成分を除去するための画素信号の読み出しに寄与しない動作であることから「ダミーシャッター動作」として区別して定義する。
【0052】
即ち、当該分配残像電荷Q1は、図6(f)乃至(h)におけるダミーシャッター動作により、画素信号としては読み出さず排出されるため、分配残像電荷は画像には現れない。また、この動作による次のフレームの露光前の状態は、図6(h)に示すように、前述した図5(g)の場合と同じになる。従って、尾を引く残像は現れない。尚、一般にQms>>Q1であり、その影響は微小である。更に、当該ダミーシャッター動作を複数回行うことが有効であり、より確実に分配残像電荷を排出することができるようになる。
【0053】
このように、実施例2に係る撮像装置1は、駆動回路31により、実施例1の動作に加えて、分配残像電荷によるPD21の残像成分を除去するための画素信号の読み出しに寄与しないダミーシャッター動作を行い、その露光電荷量に関わらず、フォトダイオード(PD21)内に常に一定の電荷量を残すようにした。これにより、実施例2に係る撮像装置1は、残像が発生しうる固体撮像素子2を使用しても、その露光電荷量に関わらず、その残像の影響を除去又は軽減させた映像を得ることができる。
【0054】
図7は、実施例1,2に係る信号読み出し動作を行う駆動回路31の駆動信号(RT信号及びTX信号)に関するタイミングチャートを示している。図7に示す例では、画素信号の読み出し動作(図5(a)乃至(e))の2回と、その間に行われる残像除去のためのダミーシャッター動作(図6(f)乃至(h))の1回を示している。ただし、本タイミングチャートにおいては、TX信号による電荷転送の直前に行われるリセット動作を、その電荷転送と対にした例としている。また、ダミーシャッター動作の最後のTX信号によるPD21のリセット動作は、信号読み出しに係る露光時間開始のためのリセットを兼ねている。実施例1による残像除去では、TX信号(H)の電圧とリセット電圧RTVDDの関係を、前述したようにTX信号(H)>RTVDDとし、PD21に一定量の電荷を残留させるようにしている。
【0055】
そして、実施例2に係る残像除去のためのダミーシャッター動作においては、TX信号のハイ(H)とロー(L)を1回以上(好適には複数回)繰り返し、分配残像電荷を排出するようにしている。この残像除去のためのダミーシャッター動作は、隣接する画素信号の読み出し期間の任意のタイミングで行うことができ、ダミーシャッター動作における最後のTH信号(H)から次の画素信号の読み出しのためのTH信号(H)までの期間が画素信号として読み出される露光時間となる。従って、画素信号の読み出しの直後に当該ダミーシャッター動作を行うことにより、露光時間を殆ど損なうことなく残像を除去することができる。
【0056】
ただし、このような実施例1,2の動作は、図8に示すように、今回の画素信号の読み出し前であって、前回の画素信号の読み出し期間中に複数回のTX信号(H)を駆動させても同様な原理に基づく残像の低減効果を期待できる。
【0057】
図9は本発明による一実施形態の撮像装置1における実施例2の効果を示す測定データのグラフである。横軸は、一定輝度の明るい信号が入射した後の、暗状態での信号読み出しのフレーム数を表し、縦軸は残像量を任意のスケールで示している。従来の信号読み出し動作による駆動を用いた場合には、PD21内に残留した電荷が徐々にPD21から読み出され、5フレーム程度の尾を引く残像となって信号に現れている。これに対して、本発明による実施例2の信号読み出し動作による駆動を行うことにより、残像は雑音レベル以下となり、観測されなくなっていることが分かる。尚、実施例2は、実施例1の動作を含むため、実施例1による作用・効果もある。
【0058】
以上のように、本発明における撮像装置1は、駆動回路31により、電荷電圧変換部に対するリセット電圧及び電荷転送ゲートの駆動電圧を、電荷転送ゲートがオンからオフに遷移するときに、一部の電荷がフォトダイオード(PD)21内に戻されるような電圧値に設定して駆動する(実施例1,2)。尚、固体撮像素子2は、この電圧値に応じたポテンシャル変化を示すものとする。
【0059】
そして、PD21に蓄積された電荷を読み出した後に、次のPD21の信号電荷蓄積が始まるまでの間に、PD21の残像成分を除去するための画素信号の読み出しに寄与しないダミーシャッター動作として、PD21からFD23への電荷転送、及びFD23のリセット動作を行う。このダミーシャッター動作を電荷転送ゲートのオン/オフを1回以上、残像低減効果が得られる回数で行うことで、その露光電荷量に関わらず、その残像の影響を除去又は軽減させた映像を得ることができるようになる。
【0060】
以上の特定の実施形態のおける特定の実施例を例に説明したが、本発明は、上述した例に限定する必要はない。例えば、上述した本発明に係る各実施例では、残像が発生する固体撮像素子2を前提に説明したが、可能性として残像が発生しうる固体撮像素子2に適用することや、全く残像が発生しない固体撮像素子2に適用してもその動作上の不具合を生じさせるものではない。従って、本発明に係る撮像装置1に適用可能な固体撮像素子2の自由度が増大するため、装置の低廉化にも寄与するものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、残像が発生しうる固体撮像素子を使用しても、その残像の影響を除去又は軽減させた映像を得ることができるので、カメラ等の撮像装置の用途に有用である。
【符号の説明】
【0062】
1 撮像装置
2 固体撮像素子
3 制御部
31 駆動回路
32 信号処理回路
21 フォトダイオード(PD)
22 転送トランジスタ
23 フローティングディフュージョン(FD)
24 リセットトランジスタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9