(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
セラミックス板の一方の主面に島状の回路銅板と、このセラミックス板の他方の主面にベタ状の放熱銅板とを有してなるパワーモジュール用基板は、パワーIC(Integrated Circuit)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のようなパワー系半導体素子や、コンデンサー等の受動素子を実装する基板として使用されている。近年、パワー系半導体素子の消費電力が大きくなっていることから、半導体素子から発生する熱量が大きくなる傾向にある。このため、パワーモジュール用基板にはより高い耐熱性、放熱性、絶縁性が要求されている。
【0003】
パワーモジュール用基板には、耐熱性、絶縁性を確保するためにセラミックス板が用いられている。また、パワーモジュール用基板には、放熱性を確保するためにセラミックス板と銅板の接合体が用いられている。一般的にパワーモジュール用基板は、回路銅板に搭載された半導体素子から発生する熱を回路銅板、セラミックス板、放熱銅板を介して下方に放熱させる構造となっている。しかしながら、このセラミックス板と銅板の接合体からなるパワーモジュール用基板は、セラミックスの熱伝導率が低いためセラミックス板で熱放散性が低下するという問題と、セラミックスと銅の熱膨張係数差によるセラミックス板と銅板の接合界面での熱応力で、銅板端部がセラミックス板から剥離したり、セラミックス板にクラックが発生するという問題を抱えている。
【0004】
パワーモジュール用基板の放熱性を高める方策としては、セラミックス板に高熱伝導率のセラミックス、例えば、窒化アルミニウムを用いることが挙げられるが、窒化アルミニウムからなるセラミックス板は非常に高価であるという問題を抱えている。また、パワーモジュール用基板の放熱性を高める方策としては、セラミックス板の薄肉化が挙げられるが、セラミックスに例えばアルミナを用いる場合には、セラミックス板の薄肉化によって、セラミックス板の強度が低下するという問題がある。これに対して、セラミックスに例えば、強度の高い窒化ケイ素を用いることが挙げられるが、窒化ケイ素からなるセラミックス板は、非常に高価であるという問題がある。更には、パワーモジュール用基板の放熱性を高める方策としては、セラミックス板に接合される銅板の厚肉化が挙げられるが、セラミックスと銅の熱膨張係数差によるセラミックス板と銅板の接合界面での熱応力の増加によって、銅板端部の剥離や、セラミックス板へのクラックが発生するという問題がある。そこで、最近では、アルミナセラミックスにジルコニアを添加して強度を向上させ、薄肉化して放熱性を向上させたセラミックス板が実用化されている。そして、このセラミックス板に比較的厚みの厚い銅板を接合してもセラミックスと銅の熱膨張係数差によるセラミックス板と銅板の接合界面での熱応力によって発生する銅板端部の剥離やセラミックス板へのクラックをできるだけ抑える方策がなされている。
【0005】
通常、セラミックス板と銅板の接合体は、セラミックス板の両主面のそれぞれに銅板を活性金属ろう材によるろう付け接合法や、セラミックス板と銅板を直接接合する加熱直接接合法(DCB:Direct Copper Bonding)で作成される。活性金属ろう材によるろう付け接合法では、セラミックス板と銅板との間にAg−Cu−Ti層のような活性金属ろう材層が存在するので、ろう材層に熱応力の緩衝層としての働きが期待できる。しかしながら、活性金属ろう材層が存在することで、放熱性が若干低下するという問題がある。アルミナ等の酸化物セラミックス板と銅板の接合方法としては、加熱直接接合法が好ましい形態として挙げられる。この加熱直接接合法とは、酸化物セラミックス板と銅板の面同士を直接接触させ、加熱して界面にCu−Cu2O共晶体を生成せしめ、その後冷却することによって接合する方法である。この加熱直接接合法で作成されたパワーモジュール用基板は、銅板とセラミックス板が直接、あるいはごく薄い銅酸化物層を介して接合されるので、セラミックス板と銅板との界面での熱伝導、すなわち放熱性では優れている。しかしながら、セラミックス板と銅板端部の接合界面の応力を緩和するために、セラミックス板、あるいは銅板に何らかの措置を講じる必要があった。
【0006】
上記セラミックス板と銅板の接合体の銅板面には、所望パターンのエッチングレジストによるマスキングを施し、マスキングされていない銅板部分を化学的に腐食除去(エッチング)することにより、所望の形状の回路銅板が形成される。なお、パワーモジュール用基板は、通常、複数のパワーモジュール用基板領域が配置された集合体基板を作成し、パワーモジュール用基板の境界に形成された分割溝にそって分割することにより形成される。
【0007】
従来のパワーモジュール用基板には、銅板の表面を凹凸状に形成してセラミックス板と銅板端部の接合界面での応力の緩和を図ったり、半導体素子の半田付け位置決めや、半田流れの防止を図ったりするものが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0008】
また、従来のパワーモジュール用基板の製造方法には、金属回路パターンを形成する工程が、(1)金属板に対して回路パターン形状にハーフエッチングを施す工程、(2)エッチング面をセラミックス板に接合する工程、(3)金属板の非接合面にエッチングレジストを塗布し、ハーフエッチングを施して段差を形成する工程からなる製造方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。ここで用いられるエッチングレジスト膜は、公知の紫外線硬化型や熱硬化型のレジストペーストを金属板にスクリーン印刷法で塗布した後、硬化させて形成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前述したようなパワーモジュール用基板及びパワーモジュール用基板の製造方法は、未だ解決すべき次のような問題がある。
【0011】
電子部品、特に高温を発する半導体素子からの発熱を速やかに放熱するためには、半導体素子載置部の銅板厚みをできるだけ厚くしてセラミックス板への伝熱拡散範囲を広げるのがよいが、半導体素子載置部の銅板厚みを厚くすることで島状に設けられる全ての回路銅板の厚みが厚くなり、セラミックスと銅の熱膨張係数差によるセラミックス板と銅板の接合界面での熱応力が増大してしまう。逆に、銅板厚みを薄くすればセラミックス板と銅板の接合界面での熱応力を小さくできるが、半導体素子載置部の銅板厚みも薄くなり、半導体素子からの発熱を速やかに放熱させるのが難しくなる。
【0012】
特開平4−103150号公報、特開平10−242330号公報、特開平10−242331号公報で開示されるようなパワーモジュール用基板は、回路銅板の表面を凹凸状に形成した形態で、凹部に半導体素子を半田で接合するので半田の流れ出しを防止することができるものの、半導体素子が載置される部位の厚みが外周辺部の厚みと同等か、むしろ外周辺部の厚みの方が厚い形態なので、半導体素子からの発熱を速やかに放熱させることと、セラミックスと銅の熱膨張係数差によるセラミックス板と銅板の接合界面での熱応力を小さくし銅板端部のセラミックス板からの剥離やセラミックス板へのクラックの発生を回避すること、の両方を満足させることが難しい。
【0013】
特開2007−134563号公報で開示されるようなパワーモジュール用基板は、予め回路パターン形状にハーフエッチングが施された銅板をセラミックス板に接合するので、回路銅板とセラミックス板との位置ずれを起こしやすいという問題がある。特に、個片体のパワーモジュール用基板を、複数のパワーモジュール用基板領域が配置された大型のセラミックス板から形成する場合には、大型のセラミックス板に接合される複数個の回路銅板全てが相対的にずれることとなり、歩留まりの低下を引き起こすこととなる。
【0014】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、半導体素子からの発熱を速やかに放熱させることができると共に、セラミックスと銅の熱膨張係数差によるセラミックス板と銅板の接合界面での熱応力による銅板端部のセラミックス板からの剥離や、セラミックス板へのクラックの発生を回避することができるパワーモジュール用基板を提供することを目的とする。
また、本発明は、半導体素子からの発熱を速やかに放熱させることができると共に、セラミックスと銅の熱膨張係数差によるセラミックス板と銅板の接合界面での熱応力の発生を回避することができる精緻な凹凸状の回路銅板の形成を可能にするパワーモジュール用基板の製造方法を提供することを目的とする。
併せて、本発明は、半導体素子の半田付け接合時の半田流れ止め部を併せ持つ精緻な凹凸状の回路銅板の形成を可能にするパワーモジュール用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的に沿うような第1の発明であるパワーモジュール用基板は、セラミックス板と、セラミックス板の主面に形成された回路銅板と、セラミックス板の主面の反対の面に形成された放熱銅板と、を有し、回路銅板は、少なくとも1の第1の回路銅板と、第1の回路銅板以外の少なくとも1の第2の回路銅板と、からなり、第1の回路銅板は、半導体素子が載置される第1のエリア部と、第1のエリア部の外側で第1のエリア部を囲むように配され第1のエリア部より厚みが薄い第2のエリア部と、を具備していることを特徴とするものである。
【0016】
上記第1の発明であるパワーモジュール用基板の第1の回路銅板は、第1のエリア部と第2のエリア部との間に形成され、第2のエリア部より厚みが薄い第3のエリア部を具備した第2の発明としても良い。
【0017】
さらに、上記第1又は第2の発明であるパワーモジュール用基板おいて、第2の回路銅板の厚みは、第1の回路銅板の第1のエリアの厚みより薄い第3の発明としても良い。
【0018】
加えて、上記第1乃至第3の発明のそれぞれを碁盤目状に配置して、一体化してなるパワーモジュール用基板集合体(第4の発明)としても良い。
【0019】
上記目的に沿う本発明に係るパワーモジュール用基板の製造方法(第5の発明)は、セラミックス板の両面に加熱直接接合法または活性金属ろう材によるろう付け接合法により大型銅板を接合する工程と、大型銅板に第1のエッチングレジスト膜を形成する工程と、第1のエッチングレジスト膜が形成されていない部分の大型銅板の厚みをエッチングによって薄くする工程と、第1のエッチングレジスト膜を剥離する工程と、大型銅板のうち一つに対して第2のエッチングレジスト膜を形成するとともに、他の一つに対して第3のエッチングレジスト膜を形成する工程と、第2のエッチングレジスト膜および第3のエッチングレジスト膜が形成されていない部分の大型銅板をエッチングによって除去しセラミックス板を露出させる工程と、第2のエッチングレジスト膜を剥離する工程と、第3のエッチングレジスト膜を剥離する工程と、セラミックス板の表面に分割用のレーザースクライブラインを形成する工程と、を有し、第2のエッチングレジスト膜は、インクジェット方式により形成されることを特徴とするものである。
【0020】
さらに、上記第5のパワーモジュール用基板の製造方法は、第2のエッチングレジスト膜を剥離する工程と、第3のエッチングレジスト膜を剥離する工程と、の間に、第2のエッチングレジスト膜を剥離した大型銅板に対してインクジェット方式により第4のエッチングレジスト膜を形成する工程と、第4のエッチングレジスト膜が形成されていない部分の大型銅板の厚みを第1のエッチングレジスト膜が形成されていない部分の大型銅板のエッチング後の厚みよりエッチングによって薄くする工程とを備えていても良い。
【発明の効果】
【0021】
第1の発明であるパワーモジュール用基板は、回路銅板が第1の回路銅板と第1の回路銅板以外の第2の回路銅板からなり、第1の回路銅板は半導体素子が載置される第1のエリア部と、第1のエリア部の外側で第1のエリア部を囲むように配され第1のエリア部より厚みが薄い第2のエリア部を有することで、半導体素子が載置される第1のエリア部の回路銅板の厚みを厚くすることができる。これにより、第1のエリア部の伝熱拡散範囲を広げることができる。この結果、半導体素子からの発熱をセラミックス板の下に形成された放熱銅板に速やかに伝達することができる。
これと共に、本発明は、第2のエリア部の回路銅板の厚みを、第1のエリア部の回路銅板の厚みより薄くすることで、セラミックス板と銅板の接合界面におけるセラミックスと銅の熱膨張係数差による熱応力を緩和することができる。これにより、回路銅板端部のセラミックス板からの剥離や、セラミックス板へのクラックの発生を回避することができる。
【0022】
第2の発明であるパワーモジュール用基板は、第1のエリア部の周囲に第2のエリア部よりも厚みの薄い第3のエリア部を有することで、第1のエリア部に半導体素子を、接合材(例えば、半田等)を介して接合するときに、第1のエリア部からはみ出た接合材を、第2のエリア部と第3のエリア部の間に形成される段差部において堰き止めることができる。これにより、第1の回路銅板と第2の回路銅板間との短絡を防止することができる。
【0023】
第3の発明であるパワーモジュール用基板は、第2の回路銅板の厚みを第1のエリア部の回路銅板の厚みよりも薄くすることで、セラミックス板と第2の回路銅板の接合界面におけるセラミックスと銅の熱膨張係数差による熱応力を緩和することができる。これにより、第2の回路銅板の端部のセラミックス板からの剥離や、セラミックス板へのクラックの発生を回避することができる。
しかも、第1の回路銅板が第3のエリア部を有する場合は、第1のエリア部に半導体素子を、接合材を介して接合するときに、第1のエリア部からはみ出した接合材を、第2のエリア部と第3のエリア部の間に形成される段差部において堰き止めることができる。これにより、第1の回路銅板と第2の回路銅板との間の短絡を防止することができる。
【0024】
第4の発明であるパワーモジュール用基板集合体では、半導体素子を搭載するための第1のエリア部が規則正しく配置されるため、第1のエリア部への半導体素子の搭載作業を効率的に行うことができる。
この結果、第4の発明であるパワーモジュール用基板集合体を用いた最終製品の生産性を向上することができる。
【0025】
第5の発明であるパワーモジュール用基板の製造方法は、上述の第1の発明及び第4の発明の製造方法を特定したものである。このような第5の発明によれば、半導体素子からの発熱を速やかに放熱させることができるパワーモジュール用基板の製造を可能にすると共に、製造されたパワーモジュール用基板においてセラミックス板と銅板の接合界面におけるセラミックスと銅の熱膨張係数差による熱応力を緩和して、回路銅板端部のセラミックス板からの剥離や、セラミックス板へのクラックの発生を回避することができる。
また、第5の発明であるパワーモジュール用基板の製造方法では、特に、第2のエッチングレジスト膜をインクジェット方式で形成することで、第2のエッチングレジスト膜の断面形状を大型銅板面の凹凸形状に追随させることができる。つまり、大型銅板面上が凹凸形状であったとしても、所望の位置に高精度に第2のエッチングレジスト膜を形成することができる。これにより、破れや欠損のない第2のエッチングレジスト膜を大型銅板面の凹凸面上に容易に形成することができる。したがって、エッチングにより大型銅板面に精緻な凹凸形状を形成することができる。
【0026】
第6の発明であるパワーモジュール用基板の製造方法によれば、第4のエッチングレジスト膜をインクジェット方式で形成するので、第4のエッチングレジスト膜の断面形状を大型銅板面の凹凸形状に追随させることができる。つまり、大型銅板面上が凹凸形状であったとしても、所望の位置に高精度に第4のエッチングレジスト膜を形成することができる。これにより、破れや欠損のない第4のエッチングレジスト膜を大型銅板面の凹凸面に形成できる。したがって、エッチングにより大型銅板面に精緻な凹凸形状を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1(A)、(B)を参照しながら、本発明の実施の形態に係るパワーモジュール用基板について説明する。
図1(A)、(B)に示すように、本発明に係るパワーモジュール用基板10は、セラミックス板11の一方の主面に回路銅板12が島状に接合され、この回路基板12全体で電気回路を形成している。また、このパワーモジュール用基板10は、セラミックス板11の他方の主面に、その全体(略全体の概念を含む)を覆うようにベタ状の放熱銅板13が接合されている。この放熱銅板13は、回路銅板12上に搭載される電子部品(例えば、半導体素子14等)から発生する熱を下方に(他方の主面側に)放熱させるために設けられている。
さらに、回路銅板12は、半導体素子14等の電子部品を搭載する第1の回路銅板12aと、それ以外の第2の回路銅板12bとにより構成されている。
なお、本実施の形態においては、セラミックス板11の一方の主面側に第1の回路銅板12aを1つのみ設ける場合を例に挙げて説明しているが、セラミックス板11の一方の主面に形成する第1の回路銅板12aの数は2以上でもよい。
さらに、本実施の形態においては、セラミックス板11の一方の主面側に第2の回路銅板12bを複数設ける場合を例に挙げて説明しているが、第2の回路銅板12bは単数でもよい。
また、
図1乃至
図5では、本発明に係るパワーモジュール用基板の作用効果が理解されやすいよう、第1の回路銅板12a上に電子部品の一例としての半導体素子14を搭載した状態を示しているが、本発明の概念は、半導体素子14等の電子部品を必須の構成要素として含まなくても良い。
【0029】
本発明に係るパワーモジュール用基板10は、第1の回路銅板12aのそれぞれに、個別に半導体素子14等の電子部品が半田等の接合剤を介して接合された状態で用いられる。そして、半導体素子14の上面に設けられている接続端子と第2の回路銅板12bとがボンディングワイヤ(図示せず)で電気的に接続され、第2の回路銅板12bと外部回路が金属リードで電気的に接続されるのが一般的である。また、本発明に係るパワーモジュール用基板10では、パワーICや、IGBT等のようなパワー系半導体素子14からの発熱を速やかに回路銅板12から下方(セラミックス板11の他方の主面側)の放熱銅板13に伝熱させ、更に放熱銅板13に取り付けられるフィン方式や、水冷方式等からなるヒートシンク(図示せず)に伝えて放熱することで機器の性能が維持される。
【0030】
このようなパワーモジュール用基板10の放熱性の向上には、銅板(回路銅板12や放熱銅板13)の厚みが大きく関係している。ここで、
図2(A)、(B)を参照しながら、銅板(第1の回路銅板12a)の厚みの違いによる放熱性について説明する。回路銅板12(第1の回路銅板12a)上に搭載される半導体素子14からの発熱は、熱伝導率に優れる回路銅板12の上面から下面に向かって速やかに略一定角度αで下方に広がりながら伝えられる。次に、回路銅板12の下面に達した熱は、セラミックス板11の上面から下面に向かって略垂直に伝えられる。更に、セラミックス板11の下面に達した熱は、熱伝導率に優れる放熱銅板13の上面から下面に向かって速やかに略一定角度αで下方に広がりながら伝えられる。そして、放熱銅板13の下面に達した熱は、放熱フィンやヒートシンク板等による図示しない空冷方式や、循環水を当接させる水冷方式等(図示せず)を介して排出される。上記の放熱銅板13の下面に達する伝熱範囲は、
図2(A)に示すように、回路銅板12及び放熱銅板13の厚みが厚い場合をXとし、
図2(B)に示すように、回路銅板12及び放熱銅板13の厚みが薄い場合をYとすると、X>Yとなる。従って、放熱性は銅板(回路銅板12や放熱銅板13)の厚みが厚い程優れ、銅板(回路銅板12や放熱銅板13)の厚みが薄いと劣ることがわかる。
【0031】
しかしながら、通常、パワーモジュール用基板10の製造工程において、セラミックス板11に回路銅板12や放熱銅板13を接合する際に必要な温度は少なくとも800℃以上になり、場合によっては1000℃を超える場合がある。そして、この温度は、樹脂と銅で構成されるプラスチック回路基板の製造工程における双方の接合温度に比べて一際高い。このような製造工程を経て製造されるパワーモジュール用基板10では、放熱性を向上しようとしてセラミックス板11に接合される回路銅板12や放熱銅板13の厚みを厚くすると、セラミックス板11と銅板(回路銅板12や放熱銅板13)の接合界面において、セラミックスと銅の熱膨張係数差による熱応力によって、セラミックス板11から回路銅板12や放熱銅板13の端部の剥離が発生したり、セラミックス板11にクラックが発生するという問題が生じる。なお、セラミックス板11に回路銅板12や放熱銅板13を接合する際に、セラミックスと銅の熱膨張係数差によって、回路銅板12と放熱銅板13のそれぞれにはひずみが生じる。そして、回路銅板12と放熱銅板13のひずみ量が不均一である場合は、パワーモジュール用基板に反りが生じる。従って、このようなパワーモジュール用基板における反りの発生を抑えるためには、回路銅板12と放熱銅板13の体積がほぼ一致するように回路銅板12や放熱銅板13の厚みを設定する必要がある。
【0032】
そこで、本発明に係るパワーモジュール用基板10では、半導体素子14が搭載される第1の回路銅板12aを、目的に応じて回路銅板12における所望の領域の厚みを変えたエリア部15により構成している。
また、このエリア部15は、最も厚みの厚い第1のエリア部15aと、この第1のエリア部15aの外側で、第1のエリア部15aを囲むように配され、第1のエリア部15aより厚みが薄い第2のエリア部15bと、により構成されている。そして、本発明に係るパワーモジュール用基板10は、最も厚みの厚い第1のエリア部15a上に、接合材(例えば、半田等)を介して電子部品(例えば、半導体素子14等)が接合された状態で使用される。
【0033】
本発明に係るパワーモジュール用基板10では、第1の回路銅板12aの厚みが最も厚い第1のエリア部15aに半導体素子14を載置することで、半導体素子14からの発熱を、略一定角度αで伝熱拡散範囲を下方に広げながら速やかに下面(他の主面側)に向かって伝えることができる。さらに、半導体素子14からの発熱はセラミックス板11の下に設けられる放熱銅板13中を、略一定角度αで伝熱拡散範囲を下方に広げながら速やかに下面に向かって伝えることができる。この結果、半導体素子14からの発熱は、放熱銅板13に接合される図示しないヒートシンクを介して効率的に外部に放熱される。その一方で、本発明に係るパワーモジュール用基板10では、第1の回路銅板12aにおける第2のエリア部15bの厚みを第1のエリア部15aよりも薄くすることで、セラミックス板11と第2の回路銅板12bの接合界面におけるセラミックスと銅の熱膨張係数差による熱応力を緩和することができる。この結果、回路銅板12端部のセラミックス板11からの剥離の発生や、セラミックス板11へのクラックの発生を回避することができる。
【0034】
なお、パワーモジュール用基板の反りを抑えるために、セラミックス板11の下面に設けられる放熱銅板13の厚みは、第1のエリア部15aの厚みと、第2のエリア部15bの厚みの間の値になるよう設定することが望ましい。また、第2の回路銅板12bの厚みは特に限定されないが、その厚みが第1のエリア部15aの厚みよりも大きいと、セラミックス板11と第2の回路銅板12bの接合界面におけるセラミックスと銅の熱膨張係数差による熱応力が増大し、第2の回路銅板12b端部のセラミックス板11からの剥離や、セラミックス板11へのクラック発生による破壊の発生を回避するのが難しくなる。
【0035】
上記の本発明に係るパワーモジュール用基板10に使用されるセラミックス板11は、特にその材質を限定するものではないが、アルミナ、アルミナ−ジルコニア等のアルミナを主体とする酸化物や、窒化ケイ素、窒化アルミニウムが望ましい。これらのセラミックスの純度は100%である必要はなく、セラミックスの焼結を助けるためのケイ素、マグネシウム、希土類元素等の成分が5重量%以下含まれていても良い。上記のパワーモジュール用基板10に使用されるセラミックス板11の厚さは、0.2mmから1.0mmの範囲内とするのが典型的であるが、放熱性を高めるためには、セラミックス板11の強度、絶縁性が確保される限り、薄いほうが望ましい。なお、セラミックス板11に回路銅板12や放熱銅板13を加熱直接接合法により接合する場合は、セラミックス板11として、アルミナ、アルミナ−ジルコニア等のアルミナを主体とする酸化物セラミックスを用いることが望ましい。この場合、上記酸化物セラミックスの焼結を助けるためのケイ素、マグネシウム、希土類元素等の成分が5重量%以下含まれる窒化ケイ素、窒化アルミニウムの窒化物セラミックスを用いることもできる。また、上記のパワーモジュール用基板10を構成するセラミックス板11として、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の窒化物セラミックスを用いる場合は、活性金属ろう材によるろう付け接合法により回路銅板12や放熱銅板13をセラミックス板11に接合することができる。
【0036】
また、上記の本発明に係るパワーモジュール用基板10に使用される回路銅板12や放熱銅板13の材質は、高い電気伝導性と熱伝導性を有しかつ高価でない、無酸素銅、タフピッチ銅、リン脱酸銅が望ましい。この回路銅板12や放熱銅板13は、材料組織上の特徴を阻害するものでなければ、多少の不純物を含有していても良い。不純物の含有量は、例えば銀や錫であれば、0.05重量%までは許容できる。また、上記のパワーモジュール用基板10に使用される回路銅板12や放熱銅板13の厚さは、0.2mmから0.6mmの範囲内とするのが典型的であるが、放熱性を要求される用途では、1.0mm 以上になる場合もある。
【0037】
第1のエリア部15aに半導体素子14が半田で接合されるとき、溶融した半田(接合材)が第1のエリア部15aから第2のエリア部15bに、更には、第2のエリア部15bからセラミックス板11に流れ出す場合がある。そして、この流れ出した半田(接合材)が隣接する第2の回路銅板12bに達して回路銅板12aと回路銅板12bの間が短絡するという不具合が起きる場合がある。このような課題に対しては、例えば、特許文献3(特開平10−242331号公報)の
図2,3に示されるように、半田の流れ出しを防止するために回路銅板の表面に、土手状の突起を設けて、この突起により半導体素子の周囲を囲んでおくという技術内容が開示されている。この場合、半導体素子を半田で回路銅板の表面に接合する場合の半田の流れ出しを土手状の突起により妨げることができる。しかしながらこの場合は、半導体素子からの発熱の放熱性が何ら考慮されてはいない。つまり、特許文献3に開示される発明の場合は、半導体素子下面側における回路板(2)の厚みが一様であるため、放熱性を向上しようとしてこの回路板(2)の厚みを厚くすると、回路板(2)の端部がセラミック基板(1)から剥離するという課題が起こり易くなる。他方、回路板(2)の端部のセラミック基板(1)からの剥離を防止しようとして、回路板(2)の厚みを薄くすると、今度は半導体素子からの発熱の放熱性が低下するという課題が生じることが予想される。
【0038】
上述のような課題に対処する目的で発明されたのが
図3(A)、(B)に示す本発明の変形例に係るパワーモジュール用基板である。
ここで、
図3(A)、(B)を参照しながら、半田の流れ出しを防止できる本発明の変形例に係るパワーモジュール用基板について説明する。
図3(A)、(B)に示すように、本発明の変形例に係るパワーモジュール用基板10aは、セラミックス板11の一方の主面に第1の回路銅板12aと第2の回路銅板12bとからなる島状の回路銅板12を有し、セラミックス板11の他方の主面にはベタ状の放熱銅板13を有している。また、本発明の変形例に係るパワーモジュール用基板では、半導体素子14が搭載される第1の回路銅板12aは、目的に応じて所望の領域の厚みを変えたエリア部15により構成されている。より具体的には、このエリア部15は、
図3に示すように、第1のエリア部15aと第2のエリア部15bとの間に、第2のエリア部15bよりも回路銅板12の厚みが薄い第3のエリア部15cを備えてなるものである。つまり、本発明の変形例に係るパワーモジュール用基板10aのエリア部15では、回路銅板12の厚みが、第1のエリア部15a、第2のエリア部15b、第3のエリア部15cの順で薄くなっている。なお、
図3に示すパワーモジュール用基板10aは、先の
図1に示すパワーモジュール用基板10と同様に、第2の回路銅板12bの厚みを限定するものではない。しかしながら、第2の回路銅板12bの厚みが第1のエリア部15aの厚みよりも大きいと、セラミックス板11と第2の回路銅板12bの接合界面においてセラミックスと銅の熱膨張係数差による熱応力が増大し、第2の回路銅板12b端部のセラミックス板11からの剥離や、セラミックス板11へのクラックの発生を回避するのが難しくなる。このため、本発明の変形例に係るパワーモジュール用基板10aにおいても、第2の回路銅板12bの厚みを、第1のエリア部15aの厚みよりも小さく設定しておくことが望ましい。
【0039】
上記の本発明の変形例に係るパワーモジュール用基板10aによれば、半導体素子14からの発熱を速やかに放熱させることができ、回路銅板12や放熱銅板13の端部のセラミックス板11からの剥離や、セラミックス板11へのクラックの発生を回避することができる。これと共に、本発明の変形例に係るパワーモジュール用基板10aによれば、半導体素子14等の電子部品を第1のエリア部15aに半田(接合材)で接合する時に、第1のエリア部15aの外に流れ出た半田(接合材)を第3のエリア部15cに落とし込んで、半田が第2のエリア部15bの外に流れ出ないようにすることができる。これにより、第1の回路銅板12aとそれに隣接する第2の回路銅板12bとの短絡の発生を防止することができる。
【0040】
図4(A)、(B)に示すように、本発明にかかるパワーモジュール用基板10は、第2の回路銅板12bの厚みを、第1のエリア部15aの厚みより薄くした、あるいは、第2のエリア部15bの厚みと同じ(略同一の概念を含む)の厚みである、パワーモジュール用基板10bとしてもよい。
また、
図5(A)、(B)に示すように、上記の本発明の変形例に係るパワーモジュール用基板10aは、第2の回路銅板12bの厚みを、第1のエリア部15aの厚みより薄くした、あるいは、第2のエリア部15bの厚みと同じ(略同一の概念を含む)の厚みである、パワーモジュール用基板10cとしてもよい。
特に、
図4、5に示すパワーモジュール用基板10b、10cにおいて、第2の回路銅板12bの厚みを、第2のエリア部15bの厚みと同じ(略同一の概念を含む)にした場合は、その製造工程をシンプルにできるので(後段において説明する本発明に係るパワーモジュール用基板の製造方法を参照)、その生産性を向上することができる。
更に、
図4、5に示すパワーモジュール用基板10b、10cは、セラミックス板11の下面に設けられた放熱銅板13の厚みがパワーモジュール用基板10b、10cの反りバランスを考慮した厚みに設定されている。具体的には、放熱銅板13の厚みが、第1の回路銅板12aの第1のエリア部15aの厚みと、第2のエリア部15bの厚み又は第2の回路銅板12bの厚み、の間の値になるように設定されている。
【0041】
従って、
図4、5に示すパワーモジュール用基板10b、10cでは、第1の回路銅板12aにおいて厚みが最も厚い第1のエリア部15aに半導体素子14を載置することで、半導体素子14からの発熱を、第1の回路銅板12aにおいて略一定角度αで伝熱拡散範囲を下方に広げながら速やかにその下面に向かって伝えることができる。更に、半導体素子14からの発熱は、セラミックス板11の下面側に設けられた放熱銅板13中を、略一定角度αで伝熱拡散範囲を下方に広げながら速やかに下面に向かって伝達される。このように
図4、5に示すパワーモジュール用基板10b、10cでは、半導体素子14からセラミックス板11までの距離を局所的に大きくすることにより、図示しないヒートシンクを介して効率的に、半導体素子14からの発熱を外部に放熱させることができる。
これと共に、
図4、5に示すパワーモジュール用基板10b、10cでは、第2のエリア部15bの厚みと、第2の回路銅板12bの厚みを、第1のエリア部15aの厚みよりも薄くしている。これにより、セラミックス板11と第2の回路銅板12bの接合界面における、並びに、セラミックス板11と放熱銅板13の接合界面における、セラミックスと銅の熱膨張係数差による熱応力を緩和して、全ての回路銅板12の端部、及び、放熱銅板13の端部、のセラミックス板11からの剥離や、セラミックス板11へのクラックの発生を回避することができる。
【0042】
なお、
図1,
図3−5に示す本発明に係るパワーモジュール用基板10,10a−10cでは、第2のエリア部15b、第3のエリア部15c及び第2の回路銅板12bの厚みが、第1のエリア部15aの厚み又は第2のエリア部15bの厚みよりも小さく設定されていれば、第2のエリア部15b、第3のエリア部15c及び第2の回路銅板12bの厚みは、必ずしも均一でなくてもよい。
【0043】
上述のような本発明に係るパワーモジュール用基板10,10a−10cは、
図1(A)、
図3(A)、
図4(A)及び
図5(A)のそれぞれに示されるような個片状のものとして提供してもよいが、複数のパワーモジュール用基板10,10a−10cのそれぞれを碁盤目状に配置したものを、一体化してなるパワーモジュール用基板集合体として提供してもよい。
このようなパワーモジュール用基板集合体では、半導体素子14を搭載する第1のエリア部15aが、セラミックス板11上に規則正しく配置されるので、第1のエリア部15a上に効率良く半導体素子14を搭載することができる。
この場合、パワーモジュール用基板集合体を用いて最終製品である、例えば、エアコン等の家庭用や業務用電子機器、ロボットやエレベータ等の制御用電子機器、電気自動車や電車等の電子機器等を生産する場合に、その生産性を向上することができる。
【0044】
次いで、
図6(A)〜(I)を参照しながら、先の
図4に示す本発明に係るパワーモジュール用基板10bの製造方法について説明する。より具体的には、第1のエリア部15aと第2のエリア部15bの間に、第3のエリア部15cを備えないエリア部15(第1の回路銅板12a)を有するパワーモジュール用基板の製造方法を
図6を参照しながら説明する。
【0045】
セラミックス板11の一方の主面に島状の回路銅板12を設けるとともに、他方の主面にベタ状の放熱銅板13が設けられた本発明に係るパワーモジュール用基板10、10a、10b、10cの製造方法は、概ね2種類に大別することができる。個片体状のパワーモジュール用基板10、10a、10b、10cを個別に作製する方法と、大型のセラミックス板11に個片体状のパワーモジュール用基板10、10a、10b、10cを複数配列してなるパワーモジュール用基板集合体を作製した後に、このパワーモジュール用基板集合体を分割個・片化する方法である。
ここでは、大型のセラミックス板を用いる製造方法(後者の場合)を例に挙げて説明する。
本発明に係るパワーモジュール用基板の製造方法は主に、大型のセラミックス板を作製する工程[
図6(A)に示す第1の工程に対応]と、この大型のセラミックス板の一方の主面と他の主面の両方に大型の銅板を接合する工程[
図6(A)に示す第1の工程に対応]と、大型のセラミックス板に接合された大型の銅板から、分割・個片化した際に回路銅板12や放熱銅板13となるパターンを形成してパワーモジュール用基板集合体を作製する工程[
図6(B)−(I)に示す第2−第5の工程に対応]と、必要に応じて、パワーモジュール用基板集合体を個片体状のパワーモジュール用基板10、10a,10b、10cに分割・個片化する工程(図示せず)とにより構成されている。
【0046】
図6(A)に示すように、第1工程では、個片体状のパワーモジュール用基板10bにおけるセラミックス板11を複数個配列してなる平板状の大型セラミックス板21が作製される。この大型セラミックス板21は、セラミックグリーンシートを所望の大きさの四角形状に切断した後、焼成して作成される。セラミックグリーンシートが酸化物セラミックスの場合には、大気中において、1500℃以上の高温で焼成して作製される。また、セラミックグリーンシートが窒化物セラミックスの場合には、窒素雰囲気中において、1600℃以上の高温で焼成して作製される。
次に、焼成済みの大型セラミックス板21の一方の主面には、回路銅板12となる平板状の大型銅板22を、また、大型セラミックス板21の他方の主面には、放熱銅板13となる平板状の大型銅板23を、加熱直接接合法(大型セラミックス板21が酸化物セラミックスの場合)により、又は、活性金属ろう材によるろう付け接合法(大型セラミックス板21が酸化物セラミックスでない場合)により、接合する。
【0047】
上記の加熱直接接合法とは、大型セラミックス板21の一方の主面に大型銅板22を、また、大型セラミックス板21の他方の主面に大型銅板23を配して、互いに対向する面同士を接触させた後、Cu−Cu
2O共晶体が生じる1065−1083℃(銅の融点)の範囲内の温度に加熱して、大型セラミックス板21と、大型銅板22,23のそれぞれの界面にCu−Cu
2O共晶体を生成させた後、これらを冷却することにより、大型セラミックス板21に大型銅板22,23を接合材を介することなしに直接接合する方法である。
また、活性金属ろう材によるろう付け接合法とは、大型セラミックス板21の一方の主面と大型銅板22の間、及び、大型セラミックス板21の他方の主面と大型銅板23の間に、金属ろう材(例えば、TiやZrの活性化金属を含む銅より融点の低いAg−Cu合金等)を介設した後、800℃程度の温度で加熱して大型セラミックス板21と大型銅板22,23とを液相接合する方法である。
なお、回路銅板12用の大型銅板22と、放熱銅板13用の大型銅板23の厚みは、いずれも特に限定する必要ははないが、放熱銅板13用の大型銅板23の厚みは、後述するように、第2のエリア部15bの厚みに近似させておくことが好ましい。
【0048】
次に、
図6(B)に示すように、第2工程では、大型銅板22において半導体素子14を載置する第1のエリア部15aとなる領域に、第1のエッチングレジスト膜25が形成される。また、放熱銅板13用の大型銅板23上には、その全面を覆うように第1のエッチングレジスト膜25aが形成される。この第1のエッチングレジスト膜25、25aの形成方法についは特に限定する必要はなく、例えば、インクジェット方式や以下に説明するその他の方式を用いて形成することができる。
【0049】
上記のインクジェット方式とは、大型銅板22、23上にフォトレジスト液からなるインクを直接吐出して塗布し、この塗布されたインクを感光硬化させて第1のエッチングレジスト膜25、25aを形成する方式である。
また、インクジェット方式以外の他の方式による第1のエッチングレジスト膜25、25aの形成方法としては、大型銅板22、23上にフォトレジストペーストをスクリーン印刷して、印刷したフォトレジストペーストを感光硬化させる方式がある。あるいは、これ以外の他の方式としては、フォトレジストからなるドライフィルムを大型銅板22、23に貼り付けた後、このドライフィルムにパターンマスクを当接させて、パターンマスクから裸出するパターン部を感光硬化させてから、パターンマスクを取り除いて、パターン部以外の硬化していないドライフィルムを除去して所望個所にパターンを形成するというドライフィルム方式により第1のエッチングレジスト膜25、25aを形成することもできる。更には、上記のドライフィルムに代えてフォトレジスト液を直接大型銅板22、23のそれぞれの上面にロールコーター等で塗布したり、フォトレジスト液中に接合体24自体を浸漬したりすることにより、第1のエッチングレジスト膜25、25aを大型銅板22、23上に形成してから乾燥させ、乾燥後の乾燥膜(第1のエッチングレジスト膜25、25a)にパターンマスクを当接させて、パターンマスクから裸出するパターン部を感光硬化させた後に、パターンマスクを取り除いて感光硬化したパターン部以外の硬化していない乾燥膜を除去することにより、大型銅板22、23上の所望個所に第1のエッチングレジスト膜25、25aを形成することもできる。
【0050】
次に、
図6(C)に示すように、第3工程では、大型銅板22の第1のエッチングレジスト膜25、25aから露出する部分をエッチングして、露出部分の厚みを第1のエリア部15aの厚みより薄く、例えば、第1のエリア部15aの厚みの半分(略半分の概念を含む)の厚みにする。このエッチングは、酸性のエッチング液[例えば、塩化第二鉄(FeCl
3)や塩化第二銅(CuCl
2)等]、又は、アルカリ性のエッチング液[例えば、酸化銅(CuO)に塩化アンモニウム(NH
4Cl)を混ぜ合わせてなるもの]で大型銅板22を腐食させて除去して行われる。この後、
図6(D)に示すように、第3工程では、苛性ソーダ等を使用して第1のエッチングレジスト膜25、25aを大型銅板22、23上から剥離除去する。
【0051】
なお、本実施の形態では、第2の回路銅板12bの厚みを、第2のエリア部15bの厚みと同じにしているが、第2の回路銅板12bの厚みは、第1のエリア部15aや第2のエリア部15bの厚み必ずしもと同じである必要はない。また、エッチングされたエリアの銅板の表面が平坦である必要は必ずしもなく、エッチングされたすべてのエリアの銅板(大型銅板22)の厚みが、エッチングされないエリアの銅板(大型銅板22)の厚みよりも薄くなっていればよい。
【0052】
次に、
図6(E)に示すように、大型銅板22において回路銅板12となる領域に、フォトレジスト液からなるインクを用いてインクジェット方式により第2のエッチングレジスト膜25bを形成する。この時、大型銅板23の放熱銅板13となる領域にも第3のエッチングレジスト膜25cを形成するが、この第3のエッチングレジスト膜25cの形成方式をインクジェット方式に特定する必要はなく、インクジェット方式以外の上述の他の方式により第3のエッチングレジスト膜25cを形成してもよい。
そして、
図6(F)に示すように、第2、第3のエッチングレジスト膜25b、25cから露出する大型銅板22、23を上述の方法と同様の方法によりエッチングして大型セラミックス板21上の所望個所に大型セラミックス板21の表面を露出させることで、個片体状のパワーモジュール用基板における回路銅板12と、放熱銅板13の外形形状が形成される。
【0053】
上述のインクジェット方式では、フォトレジストインクを銅板(大型銅板22、23)の表面に直接吐出してパターンを形成するので、他の方式の場合のように銅板表面が平坦でなくとも銅板の表面に正確にパターンを形成することができる。つまり、インクジェット方式を採用する場合は、塗布対象物の表面が平坦である必要がない。従って、インクジェット方式を採用することで、表面に凹凸が形成された大型銅板22上の所望個所に第2のエッチングレジスト膜25bを高い位置精度を保ちながら密着させることができる。これにより、大型銅板22とエッチングレジスト膜の密着面へのエッチング液の侵入を防止し、正確な形状の回路銅板12を形成することができる。また、上記の第1,第3のエッチングレジスト膜25,25a,25cは、平坦な大型銅板22,23上に形成されるため、その形成方式をインクジェット方式に特定する必要は特にない。
【0054】
次に、
図6(G)に示すように、第5工程では、複数組の回路銅板12と複数組の放熱銅板13の上面から第2、第3のエッチングレジスト膜25b、25cを剥離すると、個片体状のパワーモジュール用基板10bが複数個一体に配列されてなるパワーモジュール用基板集合体26が形成される。
更に、
図6(H)に示すように、第5工程では、パワーモジュール用基板集合体26から個片体状のパワーモジュール用基板10bを得るためのレーザースクライブライン27を大型セラミックス板21に形成している。
なお、レーザースクライブライン27が形成されたパワーモジュール用基板集合体26を製品として出荷する場合もある。このような、レーザースクライブライン27を有するパワーモジュール用基板集合体26によれば、大型セラミックス板21上に規則正しく第1のエリア部15aが配置されるので、第1のエリア部15aへの半導体素子14の搭載作業を効率的に行うことができる。この結果、パワーモジュール用基板集合体26を用いた最終製品の生産性を向上させることができる。また、本発明に係るパワーモジュール用基板の製造方法を、レーザースクライブライン27を有するパワーモジュール用基板集合体26の作製を完了した時点で完了する場合、パワーモジュール用基板集合体26を分割・個片化する工程は、第1のエリア部15に半導体素子14を搭載した後に行うことになる。
そして、パワーモジュール用基板集合体26をレーザースクライブライン27に沿って分割・個片化することで、容易に個片体状のパワーモジュール用基板10bを得ることができる。なお、レーザースクライブライン27は、通常のYAGレーザーや、CO2レーザー等を用いて容易に形成することができる。
【0055】
上記のような本発明に係るパワーモジュール用基板10bの製造方法によれば、精緻な凹凸面を有する回路銅板12を形成することができるので、回路銅板12における厚みの厚い部分(第1のエリア部15a)に半導体素子14を搭載した際に、半導体素子14からの発熱を外部に速やかに放熱させることができる。それと共に、本発明に係るパワーモジュール用基板の製造方法によれば、パワーモジュール用基板10bにおいて半導体素子14が搭載されない領域の回路銅板12(第2のエリア部15b、第3のエリア部15c、第2の回路銅板12b及び放熱銅板13)の厚みを相対的に薄くすることができるので、セラミックス板11と回路銅板12及び放熱銅板13の接合界面におけるセラミックスと銅の熱膨張係数差による熱応力による、回路銅板12及び放熱銅板13の端部のセラミックス板11からの剥離や、セラミックス板11へのクラックの発生を回避することができる。
【0056】
次いで、
図7(A)〜(D)を参照しながら、本発明の実施の形態に係るパワーモジュール用基板10、10a、10b、10cの内、第1の回路銅板12aにおける第1のエリア部15aと第2のエリア部15bの間に第3のエリア部15cを有するパワーモジュール用基板10c(
図5を参照)の製造方法について説明する。また、本発明の変形例に係るパワーモジュール用基板10cの製造方法では、上記のパワーモジュール用基板10bの製造方法で説明した第1工程[
図6(A)を参照]から第4工程[
図6(F)を参照]が共通している。
【0057】
本発明の変形例に係るパワーモジュール用基板の製造方法では、まず、
図6(F)の第4工程が終了した接合体24から、第2のエッチングレジスト膜25bを剥離する。
次に、
図7(A)に示す工程では、大型銅板22から形成された第1、第2の回路銅板12a、12b上に、インクジェット方式により第4のエッチングレジスト膜25dを形成する。この第4のエッチングレジスト膜25dは、第1の回路銅板12aの第1のエリア部15aの周縁に溝状の開口部を有し、この開口部以外の第1の回路銅板12aの表面を覆っている。
また、第4のエッチングレジスト膜25dは、第2の回路銅板12bの全面を覆っている。また、
図7(B)には示していないが、第1の回路銅板12aの第1のエリア部15aの周縁における断面、第2のエリア部15bの周縁における断面、および、第2の回路銅板12bの周縁における断面にも第4のエッチングレジスト膜25dが形成されている。つまり、
図7(A)に示す工程では、第1の回路銅板12aの上面における第3のエリア部15cの形成予定位置にだけ、第4のエッチングレジスト膜25dが形成されておらず、それ以外の全ての第1の回路銅板12aの表面(上面及び断面)には第4のエッチングレジスト膜25dが形成される。
【0058】
次に、
図7(B)に示すように、第4のエッチングレジスト膜25dの開口部から露出する第1の回路銅板12aの表面をエッチングして、その厚みが第2のエリア部15bの厚みより薄い第3のエリア部15cを形成する。そして、第4のエッチングレジスト膜25dと第3のエッチングレジスト膜25cを剥離する。インクジェット方式は、フォトレジストインクを回路銅板12となる銅板の表面に直接吐出して塗布することによりパターンが形成されるので、先に述べた他の方式を採用する場合のように、位置精度の高いパターンを形成するために回路銅板12となる銅板の表面が平坦である必要がない。従って、回路銅板12となる銅板の表面の所望個所に、より具体的には、表面に凹凸が形成された第1の回路銅板12aの上面、第1の回路
銅板12aの周縁における断面、および、第2の回路
銅板12bの周縁における断面に、第4のエッチングレジスト膜25dを密着させることができる。これにより、第4のエッチングレジスト膜25dとその密着対象である第1の回路
銅板12aの接合面へのエッチング液の侵入を防止して、所望の形状の第1の回路
銅板12aを正確に形成することができる。従って、本発明の変形例に係るパワーモジュール用基板の製造方法(パワーモジュール用基板10cの製造方法)によれば、精緻な凹凸状の第1の回路銅板12aの形成を可能にするとともに、を第1のエリア部15aに半導体素子14搭載する際に、第1のエリア部15aから流出する半田を受け止めることができる第3のエリア部15cを備えたパワーモジュール用基板10cを製造することができる。
【0059】
なお、
図7(C)に示すように、本発明の変形例に係るパワーモジュール用基板の製造方法(パワーモジュール用基板10cの製造方法)では、先に説明したパワーモジュール用基板10bの製造方法と同様に、パワーモジュール用基板集合体26aから個片体状のパワーモジュール用基板10bを得るためのレーザースクライブライン27を大型セラミックス板21に形成している。そして、
図7(D)に示すように、大型セラミックス基板21に形成されるレーザースクライブライン27に沿って分割することで個片体状のパワーモジュール用基板10cを容易に得ることができる。
なお、
図7(c)に示すようなレーザースクライブライン27を備えたパワーモジュール用基板集合体26aを製品として出荷する場合がある。このような、レーザースクライブライン27を備えたパワーモジュール用基板集合体26aでは、大型セラミックス板21上に規則正しく第1のエリア部15aが配置されるので、この第1のエリア部15aへの半導体素子14の搭載作業を効率的に行うことができる。この結果、レーザースクライブライン27を備えたパワーモジュール用基板集合体26aを用いた最終製品の生産性を向上させることができる。
なお、この場合、パワーモジュール用基板集合体26aを分割・個片化する工程は、半導体素子14を第1のエリア部15aに搭載した後に行われることになる。