特許第6706257号(P6706257)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706257
(24)【登録日】2020年5月19日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】液圧転写用ベースフィルム
(51)【国際特許分類】
   B44C 1/175 20060101AFI20200525BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20200525BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   B44C1/175 D
   C08K7/00
   C08L29/04 A
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-525231(P2017-525231)
(86)(22)【出願日】2016年6月14日
(86)【国際出願番号】JP2016067615
(87)【国際公開番号】WO2016204133
(87)【国際公開日】20161222
【審査請求日】2019年4月1日
(31)【優先権主張番号】特願2015-119914(P2015-119914)
(32)【優先日】2015年6月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】特許業務法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西見 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】高藤 勝啓
(72)【発明者】
【氏名】練苧 喬士
(72)【発明者】
【氏名】藤田 聡
【審査官】 廣田 健介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/082522(WO,A1)
【文献】 特開2002−275339(JP,A)
【文献】 特開2002−53674(JP,A)
【文献】 特開2011−46188(JP,A)
【文献】 特開2003−104436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B44C 1/175
C08J 5/00−5/02
C08J 5/12−5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール100質量部に対して、平均粒子径が2〜14μmでありアスペクト比が4〜60である板状または針状のフィラーを1.5〜15質量部含む単層の液圧転写用ベースフィルム。
【請求項2】
ポリビニルアルコールのけん化度が80〜99モル%である、請求項1に記載の液圧転写用ベースフィルム。
【請求項3】
ポリビニルアルコールの平均重合度が500〜3,000である、請求項1または2に記載の液圧転写用ベースフィルム。
【請求項4】
ポリビニルアルコール100質量部に対して、平均粒子径が2〜14μmでありアスペクト比が4〜60である板状または針状のフィラーを1.5〜15質量部含む製膜原液を用いて製膜する工程を有する、液圧転写用ベースフィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の液圧転写用ベースフィルムが巻き取られてなるロール。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の液圧転写用ベースフィルムの表面に印刷を施してなる液圧転写用フィルム。
【請求項7】
請求項5に記載のロールから液圧転写用ベースフィルムを繰り出す工程と、繰り出された液圧転写用ベースフィルムの表面に印刷を施す工程とを有する液圧転写用フィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の液圧転写用フィルムを印刷が施された面を上にして液面に浮かべる工程と、浮かべた液圧転写用フィルムの上方から被転写体を押し付ける工程とを有する液圧転写方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹凸のある立体面や曲面を有する成形体などの被転写体に印刷を施す際に使用される液圧転写用フィルムを製造するための液圧転写用ベースフィルムに関する。また、当該液圧転写用ベースフィルムの製造方法、当該液圧転写用ベースフィルムが巻き取られてなるロール、当該液圧転写用ベースフィルムの表面に印刷を施してなる液圧転写用フィルムおよびその製造方法ならびに当該液圧転写用フィルムを用いる液圧転写方法に関する。
【背景技術】
【0002】
凹凸のある立体面や曲面を有する成形体の表面に意匠性を付与したり表面物性を向上させたりするための印刷層を形成する手段として、水溶性または水膨潤性のフィルム表面に転写用の印刷層が形成された液圧転写用フィルムを用いる方法が知られている。例えば、特許文献1には液圧転写用フィルムの印刷面を上にして水に代表される液体の液面に浮かべた後、被転写体である各種の成形体をその上方から押し入れることで、液圧を利用して被転写体の表面に印刷層を転写する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭54−33115号公報
【特許文献2】特開2002−146053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、液圧転写用フィルムの製造に使用される液圧転写用ベースフィルムは、長尺のフィルムの形態に連続的に製膜された後にロール状に巻き取られ、ロールの形態で梱包されて二次加工メーカー等へ運搬され、その後、開梱されたロールは繰り出し装置に装着され、そこから繰り出された液圧転写用ベースフィルムに印刷等の二次加工が施されて液圧転写用フィルムとされることが多い。
【0005】
このような場合、繰り出し装置から液圧転写用ベースフィルムが繰り出される際に、液圧転写用ベースフィルムが破断することが問題となっている。この問題は、高速印刷が施される場合に特に顕著に生じる。連続方式の加工ラインでは、加工装置に液圧転写用ベースフィルムを導紙し直すために時間を要することから、液圧転写用ベースフィルムの破断は大きな生産ロスとなる。
【0006】
液圧転写用ベースフィルムの破断を防止するための手段としては液圧転写用ベースフィルムの機械強度を向上させることが考えられ、そのための方法としてフィラーを配合する方法が挙げられる。フィラーが配合されたPVAフィルムとしては、フィラーを特定量含み表面粗さが特定範囲にあるPVAフィルムなどが知られている(特許文献2を参照)。しかしながら、単純にフィラーを配合しても、液圧転写用ベースフィルムをロールから繰り出す際の破断を低減するためには、更なる改良の余地があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ロールから繰り出す際に破断しにくい液圧転写用ベースフィルムおよびその製造方法、当該液圧転写用ベースフィルムが巻き取られてなるロール、当該液圧転写用ベースフィルムの表面に印刷を施してなる液圧転写用フィルムおよびその製造方法ならびに当該液圧転写用フィルムを用いる液圧転写方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の平均粒子径およびアスペクト比を有する板状または針状のフィラーを配合した液圧転写用ベースフィルムによれば、膜面同士の密着が抑制され、且つ、フィルム自体の機械強度も高くなり、その結果、ロールから繰り出す際の破断の発生が大幅に低減することを見出した。本発明者らは当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1]ポリビニルアルコール(以下、「ポリビニルアルコール」を「PVA」と略記することがある)100質量部に対して、平均粒子径が2〜14μmでありアスペクト比が4〜60である板状または針状のフィラーを1.5〜15質量部含む単層の液圧転写用ベースフィルム、
[2]PVAのけん化度が80〜99モル%である、上記[1]の液圧転写用ベースフィルム、
[3]PVAの平均重合度が500〜3,000である、上記[1]または[2]の液圧転写用ベースフィルム、
[4]PVA100質量部に対して、平均粒子径が2〜14μmでありアスペクト比が4〜60である板状または針状のフィラーを1.5〜15質量部含む製膜原液を用いて製膜する工程を有する、液圧転写用ベースフィルムの製造方法、
[5]上記[1]〜[3]のいずれか1つの液圧転写用ベースフィルムが巻き取られてなるロール、
[6]上記[1]〜[3]のいずれか1つの液圧転写用ベースフィルムの表面に印刷を施してなる液圧転写用フィルム、
[7]上記[5]のロールから液圧転写用ベースフィルムを繰り出す工程と、繰り出された液圧転写用ベースフィルムの表面に印刷を施す工程とを有する液圧転写用フィルムの製造方法、
[8]上記[6]の液圧転写用フィルムを印刷が施された面を上にして液面に浮かべる工程と、浮かべた液圧転写用フィルムの上方から被転写体を押し付ける工程とを有する液圧転写方法、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ロールから繰り出す際に破断しにくい液圧転写用ベースフィルムおよびその製造方法、当該液圧転写用ベースフィルムが巻き取られてなるロール、当該液圧転写用ベースフィルムの表面に印刷を施してなる液圧転写用フィルムおよびその製造方法ならびに当該液圧転写用フィルムを用いる液圧転写方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の液圧転写用ベースフィルムはPVAを含む。当該PVAとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸イソプロペニル等のビニルエステルの1種または2種以上を重合して得られるポリビニルエステルをけん化することにより得られるものを使用することができる。上記のビニルエステルの中でも、PVAの製造の容易性、入手容易性、コスト等の点から、酢酸ビニルが好ましい。
【0012】
上記のポリビニルエステルは、単量体として1種または2種以上のビニルエステルのみを用いて得られたものが好ましく、単量体として1種のビニルエステルのみを用いて得られたものがより好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、1種または2種以上のビニルエステルと、これと共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
【0013】
上記のビニルエステルと共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数2〜30のα−オレフィン;(メタ)アクリル酸またはその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N−メチロール(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体等の(メタ)アクリルアミド誘導体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン等のN−ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;不飽和スルホン酸などを挙げることができる。上記のポリビニルエステルは、前記した他の単量体の1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0014】
上記のポリビニルエステルに占める前記した他の単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステルを構成する全構造単位のモル数に基づいて、25モル%以下であることが好ましく、15モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましい。当該割合が25モル%を超えると、液圧転写用ベースフィルムと印刷層との親和性などが低下する傾向がある。
【0015】
上記のPVAは、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、1種または2種以上のグラフト共重合可能な単量体によって変性されたものであってもよい。当該グラフト共重合可能な単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸またはその誘導体;不飽和スルホン酸またはその誘導体;炭素数2〜30のα−オレフィンなどが挙げられる。PVAにおけるグラフト共重合可能な単量体に由来する構造単位の割合は、PVAを構成する全構造単位のモル数に基づいて、5モル%以下であることが好ましい。
【0016】
上記のPVAは、その水酸基の一部が架橋されていてもよいし架橋されていなくてもよい。また上記のPVAは、その水酸基の一部がアセトアルデヒド、ブチルアルデヒド等のアルデヒド化合物などと反応してアセタール構造を形成していてもよいし、これらの化合物と反応せずアセタール構造を形成していなくてもよい。
【0017】
上記のPVAの重合度は500〜3,000の範囲内であることが好ましく、700〜2,800の範囲内であることがより好ましく、1,000〜2,500の範囲内であることがさらに好ましい。PVAの重合度が上記下限以上であることにより、得られる液圧転写用ベースフィルムの機械強度が向上し、ロールから繰り出す際により破断しにくくなる。一方、PVAの重合度が上記上限以下であることにより、液圧転写用ベースフィルムを製造する際の生産効率が向上し、また、液圧転写用ベースフィルム、ひいては液圧転写用フィルムの水溶性が向上してより経済的な工程速度で液圧転写を行いやすくなる。なお、本明細書でいうPVAの重合度はJIS K6726−1994の記載に準じて測定した平均重合度を意味する。
【0018】
上記のPVAのけん化度は80〜99モル%の範囲内であることが好ましく、83〜96モル%の範囲内であることがより好ましく、85〜90モル%の範囲内であることがさらに好ましい。PVAのけん化度が上記範囲内にあることにより、液圧転写用ベースフィルム、ひいては液圧転写用フィルムの水溶性が向上してより経済的な工程速度で液圧転写を行いやすくなる。なお、本明細書におけるPVAのけん化度とは、PVAが有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。けん化度はJIS K6726−1994の記載に準じて測定することができる。
【0019】
液圧転写用ベースフィルムにおける上記PVAの含有率は、液圧転写用ベースフィルムとしての基本物性を確保するなどの観点から、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましい。当該含有率の上限は本発明の規定を満たす限り特に制限はないが、当該含有率は98質量%以下であることが好ましく、97質量%以下であることがより好ましい。
【0020】
本発明の液圧転写用ベースフィルムは、平均粒子径が2〜14μmでありアスペクト比が4〜60である板状または針状のフィラーを含む。ここで針状とは、長軸端部が比較的尖鋭になっているもの(このものは一般には紡錘状と呼ばれる)から、長軸端部が半球または平坦に近いものまでを含む広い概念のものである。当該フィラーの材質は特に限定されず、無機系フィラーでも有機系フィラーでもよく、例えば、クレー、タルク、アルミナ等が挙げられる。当該フィラーとしては無機系フィラーが好ましく、タルクがより好ましい。
【0021】
上記フィラーの平均粒子径は2〜14μmの範囲内であることが必要である。当該平均粒子径が2μm未満では十分なスリップ性が得られず膜面同士が密着しやすくなって、液圧転写用ベースフィルムをロールから繰り出す際に破断しやすくなる。一方、当該平均粒子径が14μmより大きいと、液圧転写用ベースフィルムをロールから繰り出す際にフィラー添加部分を起点として液圧転写用ベースフィルムに穴が開いて破断しやすくなる。このような観点から、当該平均粒子径は3μm以上であることが好ましく、4μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましく、また、13μm以下であることが好ましく、12μm以下であることがより好ましい。なおフィラーの平均粒子径はレーザー回折・散乱法により求めることができ、具体的には測定対象となるフィラーの2質量%水分散液を調製し、これを株式会社堀場製作所製のレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置「Partica LA−950」を用いて測定することにより求めることができる。
【0022】
また、上記フィラーのアスペクト比は4〜60であることが必要である。当該アスペクト比が4より小さい、又は60より大きくなると、十分なスリップ性が得られず膜面同士が密着しやすくなって、液圧転写用ベースフィルムをロールから繰り出す際に破断しやすくなる。このような観点から、当該アスペクト比の下限が10以上であることが好ましい。同様の観点から、当該アスペクト比の上限については50以下であることが好ましく、48以下であることがより好ましく、45以下であることがさらに好ましい。なお、フィラーのアスペクト比とはフィラーの長軸を短軸で除したものであり、板状のフィラーの場合には、長軸を上記平均粒子径とし、短軸をフィラーの平均厚みとすればよく、針状のフィラーの場合には、長軸をフィラーの平均長さとし、短軸をフィラーの平均幅とすればよい。ここで上記平均厚み、平均長さおよび平均幅は、いずれも走査型電子顕微鏡(SEM)による写真から求めることができ、写真内に存在する任意の100個のフィラーの厚み、長さおよび幅のそれぞれを平均することにより求めることができる。なお、フィラーの幅については、個々のフィラーの長さの中間部分における幅を測定すればよい。
【0023】
本発明の液圧転写用ベースフィルムにおける上記フィラーの含有量は、PVA100質量部に対して1.5〜15質量部の範囲内である。当該含有量が1.5質量部未満では十分なスリップ性が得られず膜面同士が密着しやすくなって、液圧転写用ベースフィルムをロールから繰り出す際に破断しやすくなる。一方、当該含有量が15質量部より多くなると液圧転写用ベースフィルムが脆くなって繰り出す際に破断しやすくなる。このような観点から、当該含有量はPVA100質量部に対して、2質量部以上であることが好ましく、また、当該含有量は12質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。
【0024】
本発明の液圧転写用ベースフィルムは単層であることが必要である。液圧転写用ベースフィルムが、フィラーを含まないPVAフィルム上にフィラーとPVAを含むコート層をコートした多層フィルムである場合には、得られるフィルムにスリップ性を付与することはできるが、フィルムの剛性が十分ではない。この場合、液圧転写用ベースフィルム製造工程や印刷工程の流れ方向への搬送張力によって多層の液圧転写ベースフィルムにシワが発生しやすくなる。
【0025】
液圧転写用ベースフィルムに可塑剤を含有させることで柔軟性を付与することができる。可塑剤としては多価アルコールが好ましく、具体例としては、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパンなどを挙げることができる。液圧転写用ベースフィルムにおける可塑剤の含有量はPVA100質量部に対して20質量部以下であるのが好ましく、15質量部以下であるのがより好ましい。可塑剤の含有量が20質量部を超えると、液圧転写用ベースフィルムにブロッキングが生じる場合がある。
【0026】
また、液圧転写用ベースフィルムに印刷層を形成する際に必要な機械強度を付与し、液圧転写用ベースフィルムを取り扱う際の耐湿性を維持し、あるいは印刷層が形成された液圧転写用フィルムを液面に浮かべた際の液体の吸収による柔軟化の速度、液面での延展性、液体中への拡散に要する時間、液圧転写工程における変形のしやすさ等を調節することなどを目的として、上記の液圧転写用ベースフィルムにPVA以外の水溶性高分子を含有させることができる。
【0027】
PVA以外の水溶性高分子としては、例えば、デキストリン、ゼラチン、にかわ、カゼイン、シェラック、アラビアゴム、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルメチルエーテル、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸の共重合体、酢酸ビニルとイタコン酸の共重合体、ポリビニルピロリドン、セルロース、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。液圧転写用ベースフィルムにおけるPVA以外の水溶性高分子の含有量はPVA100質量部に対して15質量部以下であるのが好ましく、10質量部以下であるのがより好ましい。PVA以外の水溶性高分子の含有量が15質量部を超えると、液圧転写時における液圧転写用フィルムの溶解性および分散性が低下する場合がある。
【0028】
また、印刷層が形成された液圧転写用フィルムを液面に浮かべた際の液体の吸収による柔軟化の速度、液面での延展性、液体中への拡散に要する時間等を調節する目的で、上記の液圧転写用ベースフィルムにホウ素系化合物を含有させることができる。
【0029】
ホウ素系化合物としては、ホウ酸や硼砂が好ましい。液圧転写用ベースフィルムにおけるホウ素系化合物の含有量はPVA100質量部に対して5質量部以下であるのが好ましく、1質量部以下であるのがより好ましい。ホウ素系化合物の含有量が5質量部を超えると、液圧転写用ベースフィルムや液圧転写用フィルムの水溶性が低下し経済的な工程速度で液圧転写を行うのが困難になる場合がある。
【0030】
また、液圧転写用ベースフィルムは界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤の種類に特に制限はなく、公知のアニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤などを用いることができる。液圧転写用ベースフィルムが界面活性剤を含む場合において、液圧転写用ベースフィルムにおける界面活性剤の含有量は、PVA100質量部に対して4質量部以下であるのが好ましい。界面活性剤の含有量が4質量部を超えるとブリードアウトして取り扱い性が低下する場合がある。
【0031】
液圧転写用ベースフィルムには、上記した成分以外にも、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤等の他の成分を含有させることができる。これらの他の成分の含有量は、その種類にもよるが、通常、PVA100質量部に対して10質量部以下であるのが好ましく、5質量部以下であるのがより好ましい。他の成分の含有量が10質量部を超えると、液圧転写用ベースフィルムの耐衝撃性が悪化する場合がある。
【0032】
本発明の液圧転写用ベースフィルムの厚みは、水溶性と工程通過性のバランスを勘案して適宜選択すればよいが、通常、10〜100μmの範囲内、好ましくは20〜80μmの範囲内、より好ましくは30〜50μmの範囲内であるのがよい。当該厚みが上記下限以上であることにより、液圧転写用ベースフィルムの工程通過性が向上する。一方、当該厚みが上記上限以下であることにより、液圧転写用ベースフィルム、ひいては液圧転写用フィルムの水溶性が向上してより経済的な工程速度で液圧転写を行いやすくなる。
【0033】
一般的な液圧転写用ベースフィルムは、長尺のフィルムである場合もあれば、矩形のフィルムである場合もあり、長尺のフィルムの場合にはロール状に巻かれたものを連続的に繰り出しながらその表面に印刷を施して液圧転写用フィルムとし、そのまま、あるいは一旦ロール状に巻き取った後に再度繰り出して連続的に液圧転写に供することができる。本発明の液圧転写用ベースフィルムにおいても、その形状は、長尺のフィルムであっても、比較的長さの短い(例えば一辺の長さがいずれも1m未満の)矩形のフィルムであっても、いずれでもよく、さらには三角形、五角形等の多角形状や、円形状であってもよいが、液圧転写時の取り扱い性などの観点から長尺のフィルムおよび矩形のフィルムが好ましく、印刷や液圧転写を連続的に行うことが可能となる点などを考慮すると長尺のフィルムがより好ましい。
【0034】
長尺のフィルムにおいてその長さおよび幅に特に制限はないが、印刷時の生産性の観点から、長さは1m以上であるのが好ましく、100m以上であるのがより好ましく、1000m以上であるのがさらに好ましい。また長さの上限としては例えば10,000mが挙げられる。一方、幅は、印刷時の生産性向上の観点から、50cm以上であるのが好ましく、80cm以上であるのがより好ましく、100cm以上であるのがさらに好ましい。また当該幅は、均一な厚みを有する液圧転写用ベースフィルムの生産が容易であることなどから、4m以下であるのが好ましく、3m以下であるのがより好ましい。
【0035】
本発明の液圧転写用ベースフィルムの製膜方法に特に制限はないが、工程通過性に優れるフィルムを容易に製造することができることから、PVA100質量部に対して上記フィラーを1.5〜15質量部含む製膜原液を用いて製膜することが好ましい。フィラーの含有量は2質量部以上であることがより好ましい。また、フィラーの含有量は12質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましい。このような製膜原液の具体例としては、PVA、上記フィラーおよび液体媒体を含み、PVAが溶解ないし溶融した製膜原液などが挙げられる。
【0036】
製膜原液の調製に使用される液体媒体としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。そのうちでも、環境に与える負荷や回収性の点から水が好適に使用される。
【0037】
製膜原液の揮発分率(製膜時に揮発や蒸発によって除去される液体媒体などの揮発性成分の含有割合)は、製膜方法、製膜条件などによっても異なるが、一般的には、50〜95質量%、さらには55〜90質量%、特に60〜85質量%であることが好ましい。製膜原液の揮発分率が低すぎると、製膜原液の粘度が高くなり過ぎて、製膜原液調製時の濾過や脱泡が困難となり、異物や欠点の少ない液圧転写用ベースフィルムの製造が困難になる傾向がある。一方、製膜原液の揮発分率が高すぎると、製膜原液の濃度が低くなり過ぎて、工業的な液圧転写用ベースフィルムの製造が困難になる傾向がある。
【0038】
上記した製膜原液を用いて液圧転写用ベースフィルムを製膜する際の製膜方法としては、例えば、湿式製膜法、ゲル製膜法、流延製膜法、押出製膜法などを採用することができる。また、これらの組み合わせによる方法などを採用することもできる。以上の製膜方法の中でも流延製膜法または押出製膜法が、膜の厚さおよび幅が均一で、物性の良好な液圧転写用ベースフィルムが得られることから好ましく採用される。
【0039】
具体的な製膜方法としては、T型スリットダイ、ホッパープレート、I−ダイ、リップコーターダイなどを用いて、製膜原液を最上流側に位置する回転する加熱したロール(あるいはベルト)の周面上に均一に吐出または流延し、このロール(あるいはベルト)上に吐出または流延された膜の一方の面から揮発性成分を蒸発させて乾燥し、続いてその下流側に配置した1個または複数個の回転する加熱したロールの周面上でさらに乾燥するか、または熱風乾燥装置の中を通過させてさらに乾燥した後、巻き取り装置により巻き取る方法を工業的に好ましく採用することができる。加熱したロールによる乾燥と熱風乾燥装置による乾燥とは、適宜組み合わせて実施してもよい。
【0040】
製膜後の液圧転写用ベースフィルムは無延伸のものでもよいし、液面転写時の転写条件などに合わせて機械特性を改善する目的で、1軸延伸または2軸延伸が施されていてもよい。
【0041】
本発明の液圧転写用ベースフィルムの表面に印刷を施すことにより液圧転写用フィルムとすることができる。当該印刷方法に特に制限はなく、公知の印刷方式を採用することによって印刷層を形成することができ、例えば、グラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、ロールコート等を採用することができる。当該印刷は、液圧転写用ベースフィルムに印刷インクによって直接行ってもよいし、印刷層を他のフィルム上に一旦形成した後で、それを液圧転写用ベースフィルムに転写することによって印刷を行うこともできる。前者のように液圧転写用ベースフィルムに印刷インクによって直接印刷を行う場合には印刷インクの組成の制限や乾燥工程の問題、多色印刷の際の色ずれの問題などが発生することがあるため、後者のように印刷層を他のフィルム上に一旦形成した後で、それを液圧転写用ベースフィルムに転写することによって印刷を行うのが好ましい。印刷に使用される印刷インクとしては従来公知のものを用いることができる。
【0042】
上記の液圧転写用フィルムを印刷が施された面を上にして水等の液体の液面に浮かべ、その上方から各種成形体などの被転写体を押し付けることにより液圧転写を行うことができる。より詳細な液圧転写方法としては、例えば、液圧転写用フィルムを印刷が施された面を上にして液面に浮かべると共にインク活性剤を吹き付けるなどして印刷層を活性化させる第1工程、液面に浮かべた液圧転写用フィルムの上方から被転写体を被転写面が下方になるようにして降下させて押し付ける第2工程、液圧転写用フィルムの印刷層が被転写体の表面に十分に固着した後で該液圧転写用フィルムにおける液圧転写用ベースフィルム部分を除去する第3工程、被転写面に印刷層が転写させた被転写体を十分に乾燥させる第4工程の各工程からなる液圧転写方法が挙げられる。
【0043】
被転写体の種類に特に制限はなく、例えば、木、合板、パーティクルボード等の木質基材;各種プラスチック類;石膏ボード;パルプセメント板、スレート板、石綿セメント板等の繊維セメント板;珪酸カルシウム板;珪酸マグネシウム板;ガラス繊維補強セメント;コンクリート;鉄、ステンレス、銅、アルミニウム等の金属の板;これらの複合物などが挙げられる。被転写体は、その表面の形状が平坦であっても、粗面であっても、凹凸形状を有していても、いずれでもよいが、凹凸のある立体面や曲面を有する被転写体であることが、液圧転写の利点をより効果的に活用することができることから好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、液圧転写用ベースフィルムの算術平均粗さ(Ra)および破断伸度の各測定方法を以下に記す。
【0045】
液圧転写用ベースフィルムの算術平均粗さ(Ra)の測定
KEYENCE社製形状測定レーザマイクロスコープ「VK−X200」を用いて測定した。具体的には、液圧転写用ベースフィルムの一方の面上で任意に5箇所を測定位置として定め(個々の測定位置の面積は20mm)、各測定位置において個々の算術平均粗さ(Ra)を測定し、その平均値を算出して液圧転写用ベースフィルムの算術平均粗さ(Ra)とした。算術平均粗さ(Ra)が0.030μm以上のときに膜面同士が密着しにくくなるため、「A」(良好)と判定し、算術平均粗さ(Ra)が0.030μm未満であるときに膜面同士が密着しやすくなるため、「B」(不良)と判定した。
【0046】
液圧転写用ベースフィルムの破断伸度の測定
幅15mmにカットした液圧転写用ベースフィルムを、15℃、40%RHの雰囲気のもとで1週間調湿した後、オリエンテック社製テンシロンUTM−4Lで引張り試験を行い、破断伸度を求めた。なお、チャック間隔は150mm、引張り速度は1,000mm/分とした。破断伸度が10%以上の場合を「A」(良好)と判定し、破断伸度が10%未満である場合を「B」(不良)と判定した。
【0047】
液圧転写用ベースフィルムのヤング率の測定
上記の破断伸度の測定と同じ操作を行い、ヤング率が4400MPa以上の場合を「A」(良好)と判定し、ヤング率が4400MPa未満である場合を「B」(不良)と判定した。
【0048】
[実施例1]
けん化度88モル%、重合度1,700のPVA(酢酸ビニルの単独重合体のけん化物)100質量部、グリセリン2質量部、板状フィラーとして平均粒子径5μmでアスペクト比17のタルク2質量部を含みPVAの濃度が18質量%の水溶液を製膜原液として用い、これを温度95℃のステンレス製ベルト上に流延し、2分間乾燥して、厚み40μmの液圧転写用ベースフィルムを得た。得られた液圧転写用ベースフィルムについて、上記の方法に従って、算術平均粗さ(Ra)、破断伸度およびヤング率を測定した。結果を表1に示した。
【0049】
[実施例2]
板状フィラーとして、平均粒子径8μmでアスペクト比27のタルクを用いるとともに、その使用量をPVA100質量部に対して10質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様に操作して、厚み40μmの液圧転写用ベースフィルムを得た。得られた液圧転写用ベースフィルムについて、上記の方法に従って、算術平均粗さ(Ra)、破断伸度およびヤング率を測定した。結果を表1に示した。
【0050】
[実施例3]
板状フィラーとして、平均粒子径12μmでアスペクト比40のタルクを用いるとともに、その使用量をPVA100質量部に対して10質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様に操作して、厚み40μmの液圧転写用ベースフィルムを得た。得られた液圧転写用ベースフィルムについて、上記の方法に従って、算術平均粗さ(Ra)、破断伸度およびヤング率を測定した。結果を表1に示した。
【0051】
[実施例4]
板状フィラーの代わりに針状フィラーとして平均粒子径5μmでアスペクト比40のアルミナ繊維を用いるとともに、その使用量をPVA100質量部に対して10質量部としたこと以外は、実施例1と同様に操作して、厚み40μmの液圧転写用ベースフィルムを得た。得られた液圧転写用ベースフィルムについて、上記の方法に従って、算術平均粗さ(Ra)、破断伸度およびヤング率を測定した。結果を表1に示した。
【0052】
[比較例1]
板状フィラーとして、平均粒子径1μmでアスペクト比3のタルクを用いるとともに、その使用量をPVA100質量部に対して5質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様に操作して、厚み40μmの液圧転写用ベースフィルムを得た。得られた液圧転写用ベースフィルムについて、上記の方法に従って、算術平均粗さ(Ra)、破断伸度およびヤング率を測定した。結果を表1に示した。
【0053】
[比較例2]
板状フィラーとして、平均粒子径0.7μmでアスペクト比5のタルクを用いるとともに、その使用量をPVA100質量部に対して10質量部としたこと以外は、実施例1と同様に操作して、厚み40μmの液圧転写用ベースフィルムを得た。得られた液圧転写用ベースフィルムについて、上記の方法に従って、算術平均粗さ(Ra)、破断伸度およびヤング率を測定した。結果を表1に示した。
【0054】
[比較例3]
板状フィラーとして、平均粒子径2μmでアスペクト比3のタルクを用いるとともに、その使用量をPVA100質量部に対して10質量部としたこと以外は、実施例1と同様に操作して、厚み40μmの液圧転写用ベースフィルムを得た。得られた液圧転写用ベースフィルムについて、上記の方法に従って、算術平均粗さ(Ra)、破断伸度およびヤング率を測定した。結果を表1に示した。
【0055】
[比較例4]
板状フィラーとして、平均粒子径5μmでアスペクト比17のタルクを用いるとともに、その使用量をPVA100質量部に対して1質量部としたこと以外は、実施例1と同様に操作して、厚み40μmの液圧転写用ベースフィルムを得た。得られた液圧転写用ベースフィルムについて、上記の方法に従って、算術平均粗さ(Ra)、破断伸度およびヤング率を測定した。結果を表1に示した。
【0056】
[比較例5]
板状フィラーとして、平均粒子径8μmでアスペクト比27のタルクを用いるとともに、その使用量をPVA100質量部に対して20質量部としたこと以外は、実施例1と同様に操作して、厚み40μmの液圧転写用ベースフィルムを得た。得られた液圧転写用ベースフィルムについて、上記の方法に従って、算術平均粗さ(Ra)、破断伸度およびヤング率を測定した。結果を表1に示した。
【0057】
[比較例6]
板状フィラーとして、平均粒子径15μmでアスペクト比50のタルクを用いるとともに、その使用量をPVA100質量部に対して10質量部としたこと以外は、実施例1と同様に操作して、厚み40μmの液圧転写用ベースフィルムを得た。得られた液圧転写用ベースフィルムについて、上記の方法に従って、算術平均粗さ(Ra)、破断伸度およびヤング率を測定した。結果を表1に示した。
【0058】
[比較例7]
板状フィラーとして、平均粒子径7μmでアスペクト比70のタルクを用いるとともに、その使用量をPVA100質量部に対して10質量部としたこと以外は、実施例1と同様に操作して、厚み40μmの液圧転写用ベースフィルムを得た。得られた液圧転写用ベースフィルムについて、上記の方法に従って、算術平均粗さ(Ra)、破断伸度およびヤング率を測定した。結果を表1に示した。
【0059】
[比較例8]
板状フィラーの代わりに球状フィラーとして平均粒子径7μmでアスペクト比1のシリカを用いるとともに、その使用量をPVA100質量部に対して10質量部としたこと以外は、実施例1と同様に操作して、厚み40μmの液圧転写用ベースフィルムを得た。得られた液圧転写用ベースフィルムについて、上記の方法に従って、算術平均粗さ(Ra)、破断伸度およびヤング率を測定した。結果を表1に示した。
【0060】
[比較例9]
けん化度88モル%、重合度1,700のPVA(酢酸ビニルの単独重合体のけん化物)100質量部、グリセリン2質量部を含み、PVAの濃度が18質量%の水溶液を製膜原液として用い、これを温度95℃のステンレス製ベルト上に流延し、2分間乾燥して、厚み40μmのフィルムを得た。次いで、けん化度94モル%、重合度2,000のPVA100質量部、板状フィラーとして平均粒子径5μmでアスペクト比17のタルク2質量部を含有する、PVA濃度12質量%の水溶液をコート液とし、グラビア幅54cmのグラビアロールを用いて上記フィルムに15m/分の速度でコートし、直ちに100℃の熱風で30秒間乾燥し、厚み1.9μmのコート層を有する多層の液圧転写用ベースフィルムを得た。得られた液圧転写用ベースフィルムについて、上記の方法に従って、算術平均粗さ(Ra)、破断伸度およびヤング率を測定した。結果を表1に示した。
【0061】
【表1】
【0062】
実施例1〜4で得られた液圧転写用ベースフィルムは、算術平均粗さ(Ra)が0.030μm以上であって膜面同士が密着しにくく、且つ、フィルム自体の機械強度も高く、ロールから繰り出す際に破断しにくいものであった。