【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
なお、下記実施例において、実施例8〜10は、それぞれ、参考例1〜3と読み替えるものとする。
【0032】
実施例1、比較例1
VEGFプロモーター領域中で形成されるGq構造のVEGFへの結合能の解析
【0033】
実験方法
G-quadruplex構造を含むことが公知であるVEGFプロモーター(Sun, D., Guo, K., Rusche, J. J. & Hurley, L. H. Facilitation of a structural transition in the polypurine/polypyrimidine tract within the proximal promoter region of the human VEGF gene by the presence of potassium and G-quadruplex-interactive agents. Nucleic Acids Res. 33, 6070-6080 (2005))をプロモーターとして選出した。VEGFプロモーター領域(ゲノム上の位置:chr6:43,737,633-43,739,852)内で形成されるG-quadruplex(以下、「Gq」と略記することがある)構造形成配列(VEGF promoter Gq(配列番号1)、実施例1)及び、Gq形成に関与するG塩基をT塩基に置換しGqを形成しないように設計したオリゴDNA (VEGF promoter Gq-(配列番号2)、比較例1)のVEGFに対する結合能の評価を行った。各オリゴDNAは、市販のDNA自動合成機により合成した。なお、すべての塩基番号はHuman Feb. 2009 (GRCh37/hg19) Assemblyに対応している。
【0034】
評価はゲルシフトアッセイ及びSPR測定により行った。評価に用いたDNA配列を下記表1に示す。アプタマーは全てTBS バッファー(10 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 5 mM KCl, pH 7.4)を用いて1μMに希釈し、フォールディングした後に使用した。
【0035】
【表1】
【0036】
ゲルシフトアッセイ
VEGF
165(GenBank Accession No.: NP_001165097)及び各アプタマー(5'-FITC修飾)を、それぞれ終濃度1.3μM又は500 nMとなるように混合し、30 分間室温で振とうした。その後、各サンプルを12%未変性ポリアクリルアミドゲルにアプライし、室温、20mA(定電流)で25 分間泳動を行った。泳動した後、Typhoon 8600(商品名、GE Healthcare社製)により各アプタマーのFITCの蛍光を検出した。また、銀染色によりVEGFを染色した。
【0037】
SPR測定
ランニングバッファーにはTBS バッファーを用いた。アミンカップリング法により4700 RU程度のVEGF
165が固定化されたセンサーチップCM5(商品名、GE Healthcare社製)を用いて、7.8〜1000 nMに調製した各アプタマーを注入し、センサーチップ上のVEGF
165と各アプタマーの結合をSPR測定により観察した。
【0038】
結果及び考察
ゲルシフトアッセイの結果、VEGF
165を混合したサンプルのレーンにおいてVEGFの位置にVEap121(配列番号3)の蛍光バンドのシフトが見られた。また、VEGF promoter GqにおいてもVEGFの位置にバンドのシフトが観察された。これにより、VEGF promoter領域のGq構造はVEGFに結合することが示された。VEGF promoter Gq配列のSPR測定を行った結果を
図1に示す。
【0039】
VEGF promoter Gq-を注入した場合にはSPRシグナルの上昇が見られなかったのに対し、VEap121又は VEGF promoter Gqを用いた場合、アプタマー濃度依存的なSPRシグナルの上昇が観察された。カーブフィッティングにより各アプタマーの解離定数を算出した結果、VEap121 : 510 nM, VEGF promoter Gq : 240 nMと算出された。
【0040】
実施例2、比較例2
SPRによるPDGFプロモーター領域中で形成されるGq構造のPDGFへの結合能の解析
【0041】
実験方法
G-quadruplex構造を含むことが公知であるPDGF-Aプロモーター(Qin, Y., Rezler, E. M., Gokhale, V., Sun, D. & Hurley, L. H. Characterization of the G-quadruplexes in the duplex nuclease hypersensitive element of the PDGF-A promoter and modulation of PDGF-A promoter activity by TMPyP4. Nucleic Acids Res. 35, 7698-7713 (2007)) をプロモーターとして選出した。PDGF-Aプロモーター領域(ゲノム上の位置:chr7:556,612-562,845)内で形成されるGq構造形成配列(PDGF promoter Gq(配列番号4)、実施例2)及び、Gq形成に関与するG塩基をT塩基に置換しGqを形成しないように設計した配列(PDGF promoter Gq-(配列番号5)、比較例2)のPDGF-AAに対する結合能の評価をSPR測定により行った。これらの配列を表2に示す。なお、すべての塩基番号はHuman Feb. 2009 (GRCh37/hg19) Assemblyに対応している。
【0042】
【表2】
【0043】
ランニングバッファーにはTBS バッファーを用いた。アミンカップリング法により9000 RU程度のPDGF-AAが固定化されたセンサーチップCM5を用いて、7.8〜1000 nMに調製した各アプタマーを注入し、センサーチップ上のPDGF-AA(GenBank Accession No.: P04085)と各アプタマーの結合をSPR測定により観察した。
【0044】
結果及び考察
PDGF promoter Gq配列のSPR測定を行った結果を
図2に示す。PDGF promoter Gq-を注入した場合にはSPRシグナルの上昇が見られなかったのに対し、PDGF promoter Gqを用いた場合、アプタマー濃度依存的なSPRシグナルの上昇が観察された。カーブフィッティングにより各アプタマーの解離定数を算出した結果、VEGF promoter Gq : 18nMと算出された。
【0045】
実施例3、比較例3
RB-1のプロモーター領域中に存在するGq構造のRB-1への結合能の解析
【0046】
実験方法
G-quadruplex構造を含むことが公知であるRB-1プロモーター(Xu, Y. & Sugiyama, H. Formation of the G-quadruplex and i-motif structures in retinoblastoma susceptibility genes (Rb). Nucleic Acids Res. 34, 949-954 (2006))をプロモーターとして選出した。RB-1プロモーター領域(ゲノム上の位置:chr13:48877460-48878501)内で形成されるGq構造形成配列(RB-1_Gq promoter Gq(配列番号6)、実施例3)及び、Gq形成に関与するG塩基をT塩基に置換しGqを形成しないように設計した配列(RB-1_Gq_Mut(配列番号7)、比較例3)のRB-1に対する結合能をゲルシフトアッセイで調べた。なお、すべての塩基番号はHuman Feb. 2009 (GRCh37/hg19) Assemblyに対応している。RB-1(終濃度0nM or 470nM) (GenBank Accession No.: P06400)及び1000nM各DNA(5'-TAMRA修飾、下記表3に配列を示す)を混合し、30分間室温で振とうした。その後、各サンプルを12%未変性ポリアクリルアミドゲルにアプライし、室温、20 mA(定電流)で20分間泳動を行った。泳動した後、Typhoon 8600(商品名)により各DNAのTAMRAの蛍光を検出した。また、銀染色によりRB-1を染色した。
【0047】
【表3】
【0048】
結果及び考察
泳動後、Typhoon(商品名)により蛍光を検出した結果及び銀染色によりRB-1タンパク質を検出した結果を
図3に示す。470 nM RB-1と1000 nM RB-1_Gqを混合したレーンにおいて、RB-1のバンドが観察される位置にTAMRAの蛍光が観察された。他のレーンではこのバンドは観察されなかった。このことから、RB-1プロモーター中で形成されるGq構造がRB-1タンパク質に結合することが示された。
【0049】
実施例4〜7
ヘパリン結合性ドメインを有するタンパク質に対するアプタマーの創製
1.方法
(1)HGF、HBEGF、PDGFB、Annexin II遺伝子の各転写開始点近傍配列をUSCS Genome Browserを用いて取得した。HGFに対しては転写開始点±1kbpの配列を、HBEGF、PDGFB及びAnnexin IIに対しては転写開始点近傍に存在するCpGアイランドの配列を取得した。配列はプラスストランド及びマイナスストランドの両配列を取得した。
【0050】
(2)各配列の内、四重らせん構造を形成しうる配列を下記条件で抽出した。
HGF:2連続以上のGを4箇所以上含み、連続したGと連続したGの間の配列は7 mer以内であり、全長が40 mer以内の配列を抽出した。
PDGFB, HBEGF, Annexin II :3連続以上のGを4箇所以上含み、連続したGと連続したGの間の配列は7 mer以内であり、全長が30 mer以内の配列を抽出した。上記条件に該当する配列が存在しない場合は、2連続以上のGを4箇所以上含み、連続したGと連続したGの間の配列は7 mer以内であり、全長が30 mer以内の配列を抽出した。
【0051】
(3)上記(2)で抽出した配列を合成し、HGF, HBEGFに対してはSPRを用いて、PDGFB, Annexin IIに対してはゲルシフトアッセイにより解析した。
【0052】
(4) SPRは下記の方法で実施した。
HGF及びHBEGFをPBSバッファー (Na
2HPO
4 8.1 mM, KH
2PO
4 1.47 mM, NaCl 137 mM, KCl 2.68 mM, pH7.4)に溶解し、アミンカップリング法によりセンサーチップCM5上に固定化した。その後、合成したオリゴヌクレオチドをTBSK バッファー (10 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 100 mM KCl)中でフォールディングさせた(95℃5分の後25℃まで30分かけて冷却)。各オリゴヌクレオチドを種々の濃度に希釈し、センサーチップ上にインジェクションし、SPRシグナルの変化を観察した。添加時間120秒、解離時間120秒、流速30μl/minで行った。解離定数(Kd)は、Curve fitting解析によって算出した。
【0053】
(5) ゲルシフトアッセイは下記の方法で実施した。
5’末端をFITCで修飾した各オリゴヌクレオチドをTBSK バッファー (10 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 100 mM KCl, pH 7.4)中でフォールディングさせた。その後、250 ngのタンパク質と5 pmolのオリゴヌクレオチドを混合し、室温で30分間振とうした。その後、各サンプルを12%未変性ポリアクリルアミドゲルにアプライし、室温、20 mA(定電流)で泳動を行った。泳動した後、Typhoon 8600により各アプタマーの蛍光を検出した。
【0054】
(6) HGF及びHBEGFプロモーター中に存在するDNA四重らせん構造を形成しうる配列については、CDスペクトル測定を行った。各オリゴヌクレオチドを、終濃度2 μMとなるようにTBSK バッファー (10 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 100 mM KCl pH 7.4)またはTBS バッファー(10 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl pH 7.4)で調製し、フォールディング(95℃5分の後25℃まで30分かけて冷却)を行った。調製したサンプルを光路長10 mmの石英セルに入れ、J-820型円二色性分散計を用いてCDスペクトルを測定した。尚、感度は1000 mdeg、波長領域は220 nmから320 nm、データ取り込み間隔は1 nm、走査速度は500 nm/min、レスポンスは1 sec、バンド幅は5.0 nm、積算回数は10回の条件で測定を行った。
【0055】
2.結果
(1)各プロモーター領域からDNA四重らせん構造を形成しうる配列を検索したところ、HGFプロモーターからは9配列、HBEGFプロモーターからは14配列、PDGFBプロモーターからは8配列、Annexin IIプロモーターからは7配列、抽出することができた(表4)。
【0056】
【表4】
【0057】
(2)HGFに対して各オリゴヌクレオチドが結合するかSPRにより解析したところ、HGF-PQS1(配列番号8)、HGF-PQS7(配列番号9)、HGF-PQS8(配列番号10)の3つの配列においてDNA濃度依存的なSPRシグナルの増加が観察された、これらがHGFのアプタマーであることが示された(
図4)。HGF-PQS1、HGF-PQS7、HGF-PQS8のHGFに対する解離定数はそれぞれ73 nM、45 nM、110 nMであった。
【0058】
(3)HBEGFに対して各オリゴヌクレオチドが結合するかSPRにより解析したところ、HBEGF-PQS8、HBEGF-PQS9の2つの配列においてDNA濃度依存的なSPRシグナルの増加が観察され、これらがHBEGFのアプタマーであることが示された(
図5)。HBEGF-PQS8(配列番号11)、HBEGF-PQS9(配列番号12)のHBEGFに対する解離定数はそれぞれ110nM、9μMであった。
【0059】
(4)PDGF-BBに対して各オリゴヌクレオチドが結合するかゲルシフトアッセイにより解析したところ、8配列(表4中の上から順に配列番号13〜20)すべてのオリゴヌクレオチドがPDGF-BBに結合することが示され、これらがPDGF-BBに結合するアプタマーであることが示された(
図6)。なお、
図6中、+はPDGF-BB存在下、-はPDGF-BB非存在下のレーンを示している。
【0060】
(5)Annexin IIに対して各オリゴヌクレオチドが結合するかゲルシフトアッセイにより解析したところ、Annexin II-PQS6(配列番号21)がAnnexin IIに結合することが示され、これがAnnexin IIに結合するアプタマーであることが示された(
図7)。なお、
図7中、+はAnnexin II存在下、-はAnnexin II非存在下のレーンを示している。
【0061】
(6)HGF-PQS1からPQS9のCDスペクトル測定したところ、HGFに結合が観察されたHGF-PQS1及びHGF-PQS7のみ、カリウム存在下で260 nm付近に正のピーク、240 nm付近に負のピークを示した(
図8)。これは、パラレル型のDNA四重らせん構造特有のCDスペクトルであることから、HGF-PQS1及びHGF-PQS7はパラレル型のDNA四重らせん構造を形成して、HGFに結合していることが示された。
【0062】
HBEGF-PQS1からPQS14のCDスペクトル測定したところ、HBEGFに結合が観察されたHBEGF-PQS8及びHBEGF-PQS9のみ、カリウム存在下で260 nm付近に正のピーク、240 nm付近に負のピークを示した(
図9)。つまり、HBEGF-PQS8及びHBEGF-PQS9はパラレル型のDNA四重らせん構造を形成して、HBEGFに結合していることが示された。
【0063】
実施例8〜10
1.方法
(1)VEGFA、PDGFA、PDGFB遺伝子から転写されるRNAの全長配列をUSCS Genome Browserを用いて取得した。
【0064】
(2)各配列の内、RNA四重らせん構造を形成しうる配列を下記条件で抽出した。
2連続以上のGを4箇所以上含み、連続したGと連続したGの間の配列は14 mer以内であり、全長が40 mer以内の配列を抽出した。
【0065】
(3)PDGF-AA及びPDGF-BBは10 mM HEPES バッファー(pH7.0)に、VEGFAは10 mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH6.0)に溶解し、アミンカップリング法によりセンサーチップCM5上に固定化した。その後、合成したオリゴヌクレオチドをPBS バッファー(Na
2HPO
4 8.1 mM, KH
2PO
4 1.47 mM, NaCl 137 mM, KCl 2.68 mM, pH7.4)中でフォールディングさせた(65℃5分の後25℃まで30分かけて冷却)。各オリゴヌクレオチドを種々の濃度に希釈し、センサーチップ上にインジェクションし、SPRシグナルの変化を観察した。添加時間120秒、解離時間120秒、流速30μl/minで行った。解離定数(Kd)は、Curve fitting解析によって算出した。
【0066】
2.結果
(1)各遺伝子の転写されるRNA配列中から四重らせんRNA構造を形成しうる配列を探索したところ、VEGFA遺伝子からは159配列、PDGFA遺伝子からは247配列、PDGFB遺伝子からは194配列のRNAを抽出することができた。この内から下記の配列をそれぞれ選択し合成した(表5)。
【0067】
【表5】
【0068】
(2)VEGFAに対して各オリゴヌクレオチドが結合するかSPRにより解析したところ、すべての配列においてRNA濃度依存的なSPRシグナルの増加が観察され、これらがVEGFAに結合するRNAアプタマーであることが示された。VEGFA RNA1(配列番号22)は約140 nM、VEGFA RNA2(配列番号23)は約31 nM、 VEGFA RNA3(配列番号24)は約300 nMの解離定数でそれぞれVEGFAに結合した。(
図10)。
【0069】
(3)PDGF-AAに対して各オリゴヌクレオチドが結合するかSPRにより解析したところ、すべての配列においてRNA濃度依存的なSPRシグナルの増加が観察され、これらがPDGF-AAに結合するRNAアプタマーであることが示された。PDGFA RNA1(配列番号25)は約29 nM、PDGFA RNA2(配列番号26)は約30 nMの解離定数でそれぞれPDGFAに結合した。(
図11)。
【0070】
(4)PDGF-BBに対して各オリゴヌクレオチドが結合するかSPRにより解析したところ、すべての配列においてRNA濃度依存的なSPRシグナルの増加が観察され、これらがPDGF-BBに結合するRNAアプタマーであることが示された。PDGFB RNA1(配列番号27)は約42 nM、PDGFB RNA2(配列番号28)は約30 nM、PDGFB RNA3(配列番号29)は約59 nM、PDGFB RNA4(配列番号30)は約35 nM、PDGFB RNA5(配列番号31)は約34 nMの解離定数でそれぞれPDGFAに結合した(
図12)。
【0071】
実施例11
1. 標的タンパク質遺伝子のプロモーター領域におけるG4形成予測配列の探索
ヘパリン結合ドメインを持つタンパク質であるApoE4をコードする遺伝子の転写開始点から±1 kbpの配列をGenome Browser (http://genome.ucsc.edu/cgi-bin/hgGateway)を用いて抽出した。抽出した配列中からQGRS Mapper (http://bioinformatics.ramapo.edu/QGRS/index.php) を用いて以下の条件を満たす配列を探索した。
(i)全長30 mer 以内 (ii) 2連続以上のGを7 mer 以内の間隔で含んでいる
なお得られた配列をApoE4に対するアプタマー候補配列とした。
【0072】
2. 表面プラズモン共鳴(SPR)測定によるアプタマー候補配列と標的タンパク質の結合評価
ApoE4を10 mM 酢酸 buffer (pH 4.0) を用いて希釈し、アミンカップリング法によりセンサーチップCM4上に約900 RU固定化した。その後、TBS buffer(10 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 100 mM KCl, pH 7.4)中でフォールディングを行ったアプタマー候補配列(Table.)を種々の濃度に希釈し、センサーチップに添加した際のSPRシグナルの変化を測定した。測定後、カーブフィッティングにより解離定数(K
d)を算出した。
【0073】
結果及び考察
1. ApoE4をコードする遺伝子のプロモーター領域から、G4構造を形成する可能性を持つ配列が8本得られた(ApoE4_1〜8と命名)。これらのうち、ApoE4_1(配列番号56)においてDNA濃度依存的なSPRシグナルの上昇が観察された。これよりApoE4_1はApoE4に結合していると考えられる。カーブフィッティングにより解離定数を算出したところ、60 nMであった。
【0074】
実施例12
獲得した3つのHGFアプタマーを、HGFap1, HGFap2, HGFap3、2つのHBEGFアプタマーをHBEGFap1, HBEGFap2と呼称する。またHGFアプタマーのin silico maturationにおいて、評価した配列のHGFに対する結合特異性(Sp
(HGF))は、Sp
(HGF)=[HGFを標的とした場合の結合定数K
a]/[HBEGFを標的とした場合の結合定数K
a] (Sp
(HGF) =K
a(HGF) / K
a(HBEGF))と定義した。
【0075】
第1世代配列の作製と特異性評価
まず第1世代親配列であるHGFap1, HGFap2, HGFap3についてSp
(HGF)を求め、Sp
(HGF)の値の比に基づいて各配列を複製し、合計20本の配列を作製した。続いて20本の配列の中でランダムに2本ずつ組を作り、任意の1点で交叉(crossover)させた。その後各20本の配列に10%の突然変異を位置、塩基の種類ともにランダムに導入し、第1世代配列とした(1R01〜1R20)。1R01〜1R20の塩基配列を、この順に配列番号58〜77に示す。
【0076】
HGF及びHBEGFをPBS buffer (Na
2HPO
4 8.1 mM, KH
2PO
4 1.47 mM, NaCl 137 mM, KCl 2.68 mM, pH7.4)を用いて、アミンカップリング法によりセンサーチップCM5上に固定化した。タンパク質の希釈bufferとして、HGFには10 mM HEPES buffer (pH6.5)を、HBEGFには10 mM 酢酸buffer (pH5.0)を用いた。その後、TBS buffer (10 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 100 mM KCl)中でフォールディングを行った各第1世代配列を、TBS bufferを用いて種々の濃度(f.c. 1000 nM, 500 nM, 100 nM, 50 nM, 0 nM)に希釈し、HGFまたはHBEGFを固定化したセンサーチップに添加した際のSPRシグナルの変化を測定した。相互作用測定時のRunning bufferにはTBS bufferを使用し、添加時間120秒、解離時間200秒、流速30μL/minで測定を行った。測定後カーブフィッティングによってK
a(HGF)及びK
a(HBEGF)を求め、Sp
(HGF)を算出した。
【0077】
第2世代配列の作製と特異性評価
第1世代配列から(i)親配列のSp
(HGF) (最低値: 1.9)を下回る配列、(ii)K
a(HGF)が親配列のK
a(HGF) (最低値: 9.1E+06)の1/10以下である配列を除外し、残りの配列を第2世代配列作製のための親配列とした。得られた第2世代親配列について、第1世代親配列と同様に複製、交叉、変異導入を行い第2世代配列を得た(2R01〜2R20)。2R01〜2R20の塩基配列を、この順に配列番号78〜97に示す。HGF及びHBEGFに対する結合の評価とSp
(HGF)の算出は、第1世代配列と同様に行った。
【0078】
第3世代モチーフ固定配列の作製と特異性評価
第1世代配列及び第2世代配列を、高いSp
(HGF)を持つ配列グループ、低いSp
(HGF)を持つ配列グループ、HGF及びHBEGFに結合しなかった配列グループに分類し配列を比較したところ、高いSp
(HGF)を持つ配列グループの多くの配列がGGTGGAGGGGという配列モチーフを共通して持っていた。そこで第1世代配列及び第2世代配列の中の、GGTGGAGGGG配列モチーフを有する配列で高いSp
(HGF)を持つもの(1R01, 1R05, 1R08, 1R09, 2R07)を、第3世代モチーフ固定配列作製のための親配列とした。得られた第3世代モチーフ固定親配列について、第1世代親配列及び第2世代親配列と同様に複製、交叉、変異導入を行い、第3世代モチーフ固定配列を得た(3R01mfix〜3R20mfix)。3R01mfix〜3R20mfixの塩基配列を、この順に配列番号98〜117に示す。HGF及びHBEGFに対する結合の評価とSp
(HGF)の算出は、第1世代配列及び第2世代配列と同様に行った。
【0079】
結果及び考察
第1世代配列において、親配列と比較して高いSp
(HGF)の値を持つ配列が複数得られた(表6)。第2世代配列において、親配列のSp
(HGF) (最低値: 1.9)のおよそ13倍のSp
(HGF)を示す特異性の高い配列が得られた(表7、2R07)。さらに第3世代モチーフ固定配列においては、親配列のSp
(HGF)のおよそ50倍のSp
(HGF)を示す配列(3R02mfix)、また親配列のSp
(HGF)のおよそ240倍のSp
(HGF)を示す配列(3R14mfix)が得られた(表8)。これより、コンピューター内進化法によって本発明の方法で獲得されたHGFアプタマーの特異性を向上させることができた。
【0080】
【表6】
K
d(HGF):HGFに対する解離定数
K
d(HBEGF):HBEGFに対する解離定数
K
a(HGF):HGFに対する結合定数
K
a(HBEGF):HBEGFに対する結合定数
Sp
(HGF):HGFに対する結合定数をHBEGFに対する結合定数で割った値(K
a(HGF) /K
a(HBEGF))
【0081】
【表7】
K
d(HGF):HGFに対する解離定数
K
d(HBEGF):HBEGFに対する解離定数
K
a(HGF):HGFに対する結合定数
K
a(HBEGF):HBEGFに対する結合定数
Sp
(HGF):HGFに対する結合定数をHBEGFに対する結合定数で割った値(K
a(HGF) /K
a(HBEGF))
【0082】
【表8】
K
d(HGF):HGFに対する解離定数
K
d(HBEGF):HBEGFに対する解離定数
K
a(HGF):HGFに対する結合定数
K
a(HBEGF):HBEGFに対する結合定数
Sp
(HGF):HGFに対する結合定数をHBEGFに対する結合定数で割った値(K
a(HGF) /K
a(HBEGF))