特許第6706417号(P6706417)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706417
(24)【登録日】2020年5月20日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】アプタマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/115 20100101AFI20200601BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20200601BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20200601BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200601BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
   C12N15/115 ZZNA
   A61K31/7105
   A61K31/711
   A61P43/00 111
   A61K48/00
【請求項の数】18
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-181861(P2017-181861)
(22)【出願日】2017年9月22日
(62)【分割の表示】特願2014-524844(P2014-524844)の分割
【原出願日】2013年7月10日
(65)【公開番号】特開2018-29601(P2018-29601A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2017年10月17日
(31)【優先権主張番号】特願2012-155095(P2012-155095)
(32)【優先日】2012年7月10日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-79998(P2013-79998)
(32)【優先日】2013年4月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池袋 一典
(72)【発明者】
【氏名】吉田 亘
【審査官】 井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/030849(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/056113(WO,A1)
【文献】 Curr Med Chem,2009年,Vol.16,p.1248-1265
【文献】 Biochimie,2011年,Vol.93,p.1219-1230
【文献】 J Sep Sci,2009年,Vol.32,p.1654-1664
【文献】 Nucleic Acids Res,2005年,Vol.33,p.6070-6080
【文献】 Nucleic Acids Res,2007年,Vol.35,p.7698-7713
【文献】 Nucleic Acids Res,2006年,Vol.34,p.949-954
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/115
A61K 31/7105
A61K 31/711
A61K 48/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基配列が、標的タンパク質(インシュリンを除く)をコードする遺伝子配列若しくはその制御配列中に存在するG-quadruplex構造を含む領域と同一の塩基配列から成り、前記標的タンパク質若しくは前記遺伝子配列の関連遺伝子産物と結合するアプタマー(ただし、塩基配列が配列番号4、6、15又は18で表されるものを除く)又は該アプタマーの塩基配列と95%以上の配列同一性を有し、かつ、G-quadruplex構造を含み、前記アプタマーが結合する前記標的タンパク質又は前記関連遺伝子産物に結合するアプタマーを化学合成することを含む、アプタマーの製造方法。
【請求項2】
塩基配列が、プロモーター中に存在するG-quadruplex構造を含む領域と同一の塩基配列から成り、該プロモーターが制御する構造遺伝子の遺伝子産物若しくは該遺伝子産物の関連遺伝子産物と結合するアプタマー又は該アプタマーの塩基配列と95%以上の配列同一性を有し、かつ、G-quadruplex構造を含み、前記アプタマーが結合する遺伝子産物に結合するアプタマーを化学合成することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
製造される前記アプタマーは、前記プロモーターが制御する前記構造遺伝子の前記遺伝子産物と結合する請求項2記載の方法。
【請求項4】
サイズが15mer〜100merである請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
前記プロモーターが、血管内皮増殖因子プロモーター、血小板由来成長因子プロモーター又は網膜芽細胞腫関連タンパク質プロモーターである請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
製造されたアプタマーを、コンピューター内進化法により標的物質との親和性をさらに高める工程をさらに含む請求項2〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
塩基配列が、配列番号1で示される塩基配列、又は該塩基配列との配列同一性が95%以上である塩基配列から成り、かつ、G-quadruplex構造を含み、血管内皮増殖因子と結合するアプタマー。
【請求項8】
前記遺伝子産物が、ヘパリン結合ドメインを有する請求項2〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記遺伝子産物が、肝細胞増殖因子、ヘパリン結合性EGF、血小板由来成長因子又はアネキシンIIである請求項記載の方法。
【請求項10】
塩基配列が、配列番号8、9若しくは10で示される塩基配列、又はこれらの各塩基配列との配列同一性が95%以上である塩基配列から成り、かつ、G-quadruplex構造を含み、肝細胞増殖因子と結合するアプタマー。
【請求項11】
塩基配列が、配列番号11若しくは12示される塩基配列、又はこれらの各塩基配列との配列同一性が95%以上である塩基配列から成り、かつ、G-quadruplex構造を含み、ヘパリン結合性EGFと結合するアプタマー。
【請求項12】
塩基配列が、配列番号13、14、16、17、19及び20のいずれかで示される塩基配列、又はこれらの各塩基配列との配列同一性が95%以上である塩基配列から成り、かつ、G-quadruplex構造を含み、血小板由来成長因子と結合するアプタマー。
【請求項13】
塩基配列が、配列番号21で示される塩基配列、又は該塩基配列との配列同一性が95%以上である塩基配列から成り、かつ、G-quadruplex構造を含み、アネキシンIIと結合するアプタマー。
【請求項14】
前記遺伝子産物が、アポリポタンパク質E4である請求項記載の方法。
【請求項15】
塩基配列が、配列番号56で示される塩基配列、又は該塩基配列との配列同一性が95%以上である塩基配列から成り、かつ、G-quadruplex構造を含み、アポリポタンパク質E4と結合するアプタマー。
【請求項16】
塩基配列が、配列番号57で示される塩基配列から成り、肝細胞増殖因子と結合するアプタマー。
【請求項17】
塩基配列が、配列番号58、60〜68、70、72、77、78、84、90、99、100、102、104、107、108、111若しくは115で示される塩基配列、又はこれらの各塩基配列との配列同一性が95%以上である塩基配列から成り、かつ、G-quadruplex構造を含み、肝細胞増殖因子と結合するアプタマー。
【請求項18】
塩基配列が、配列番号111で示される塩基配列から成る請求項17記載のアプタマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アプタマーの製造方法及びそれにより製造されたアプタマーに関する。
【背景技術】
【0002】
任意の分子と特異的に結合する核酸分子であるアプタマーが知られている。アプタマーは、所望の標的分子と特異的に結合するので、アプタマーを利用して該標的分子の検出や定量を行うことが提案されている。これまでに、インスリン、ルシフェラーゼ、チログロブリン、C反応性タンパク質、血管内皮細胞増殖因子(特許文献1)等に特異的に結合するアプタマーが報告されている。
【0003】
所望の標的分子と特異的に結合するこれらのアプタマーは、基本的にSELEX (Systematic Evolution of Ligands by EXponential Enrichment)と呼ばれる方法により作出されている (非特許文献1)。この方法では、標的分子を担体に固定化し、これに膨大な種類のランダムな塩基配列を有する核酸から成る核酸ライブラリを添加し、標的分子に結合する核酸を回収し、これをPCRにより増幅して再び標的分子を固定化した担体に添加する。この工程を10回程度繰り返すことにより、標的分子に対して結合力の高いアプタマーを濃縮し、その塩基配列を決定して、標的分子を認識するアプタマーを取得する。なお、上記核酸ライブラリーは、核酸の自動化学合成装置により、ランダムにヌクレオチドを結合していくことにより容易に調製可能である。このように、ランダムな塩基配列を有する核酸ライブラリーを用いた、偶然を積極的に利用する方法により、任意の標的物質と特異的に結合するアプタマーを作出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−92138号公報
【特許文献2】WO 2005/049826
【特許文献3】特開2010-30999号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Tuerk, C. and Gold L. (1990), Science, 249, 505-510
【非特許文献2】Kazunori Ikebukuro et al., Nucleic Acids Research, 33(12), e108
【非特許文献3】Nasa Savory et al., Biosensors and Bioelectronics, Volume 26, Issue 4, 15 December 2010, Pages 1386-1391
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SELEXは、任意の標的物質と特異的に結合するアプタマーを作出できる優れた方法ではあるが、アプタマーを作出するためにかなり手間のかかる作業を必要とする。また、偶然を利用する方法であるので、かなりの時間に亘りSELEXを適用しても、満足できる親和性で標的物質と特異的に結合するアプタマーが得られない場合もある。
【0007】
本発明の目的は、SELEXを用いることなく、標的物質と特異的に結合するアプタマーを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
G-quadruplex構造がゲノミックDNA中に存在して四重らせん構造をとることが知られており、G-quadruplex構造を含むプロモーターも知られている。本願発明者らは、プロモーター中にG-quadruplex構造が含まれる場合、該プロモーターが制御する構造遺伝子の遺伝子産物又は該遺伝子産物が包含されるカスケードの下流の遺伝子産物が、該G-quadruplex構造に結合してフィードバック阻害がかかるのではないか考えた。そして、プロモーター中に含まれるG-quadruplex構造含有領域と同じ塩基配列を有する一本鎖核酸は、そのままで、該プロモーターが結合する物質と特異的に結合するアプタマーとして利用可能であるという新知見を得て本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、塩基配列が、標的タンパク質(インシュリンを除く)をコードする遺伝子配列若しくはその制御配列中に存在するG-quadruplex構造を含む領域と同一の塩基配列から成り、前記標的タンパク質若しくは前記遺伝子配列の関連遺伝子産物と結合するアプタマー(ただし、塩基配列が配列番号4、6、15又は18で表されるものを除く)又は該アプタマーの塩基配列と95%以上の配列同一性を有し、かつ、G-quadruplex構造を含み、前記アプタマーが結合する前記標的タンパク質又は前記関連遺伝子産物に結合するアプタマーを化学合成することを含む、アプタマーの製造方法を提供する。ここで、「制御配列」は、プロモーターやエンハンサー、サイレンサー、インスレーター等、標的タンパク質をコードする遺伝子の発現を制御する遺伝子配列を意味する。また、「標的タンパク質をコードする遺伝子配列」は、cDNA配列のみならず、ゲノミックDNAの場合にはイントロンをも包含する遺伝子配列を意味する。また、「転写産物」には、mRNAのみならず、スプライシング前のmRNA前駆体も包含される。また、周知の通り、DNA中のチミンとRNA中のウラシルは、共にアデニンと特異的に対合するものであるから、本発明において、DNA中のチミンとRNA中のウラシルは「同一の塩基」と解する。従って、本発明において、あるDNA配列と、このDNA配列中のチミンがウラシルに置き換わったRNA配列は、「同一の塩基配列を有する」と解する。
【0010】
本発明によれば、プロモーター中に存在するG-quadruplex構造を含む領域と同一の塩基配列を有し、該プロモーターが制御する構造遺伝子の遺伝子産物若しくは該遺伝子産物の関連遺伝子産物と結合するアプタマー又は該アプタマーの塩基配列と9%以上の配列同一性を有し、かつ、G-quadruplex構造を含み、前記アプタマーが結合する遺伝子産物に結合するアプタマーを化学合成することを含む、アプタマーの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、手間のかかる操作が必要なSELEXを用いることなく所望の標的物質と結合するアプタマーを製造する方法が初めて提供された。本発明の方法によれば、SELEXを用いることなく、所望の標的タンパク質をコードする遺伝子のプロモーター中のG-quadruplex構造含有領域の塩基配列と同じ塩基配列を持つ核酸を市販の核酸合成機により化学合成することで標的物質と結合するアプタマーを製造することができるので、所望の標的タンパク質と結合するアプタマーを、従来法に比べて遙かに容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】下記実施例1及び比較例1で作製したアプタマーと、血管内皮増殖因子との結合性を示すSPR測定の結果を示す図(左側が実施例1、右側が比較例1)である。
図2】下記実施例2及び比較例2で作製したアプタマーと、血小板由来成長因子との結合性を示すSPR測定の結果を示す図(左側が比較例2、右側が実施例2)である。
図3】下記実施例3及び比較例3で作製したアプタマーと、網膜芽細胞腫関連タンパク質との結合性を示すゲルシフトアッセイの結果を示す図である。
図4】下記実施例4〜7において行った、HGFとHGF-PQS1、HGF-PQS7、HGF-PQS8の結合をSPRにより解析した結果を示す図である。図4のいずれの図においても、各曲線は、上から5000nM、3000nM、1000nM、500nM、250nM、125nM、62.5nMの結果を示す。
図5】下記実施例4〜7において行った、HBEGFとHBEGF-PQS8、HBEGF-PQS9の結合をSPRにより解析した結果を示す図である。図5のいずれの図においても、各曲線は、上から5000nM、3000nM、1000nM、500nM、250nM、125nM、62.5nMの結果を示す。
図6】下記実施例4〜7において行った、PDGF-BBと各オリゴヌクレオチドの結合をゲルシフトアッセイにより解析した結果を示す図である。
図7】下記実施例4〜7において行った、Annexin IIと各オリゴヌクレオチドの結合をゲルシフトアッセイにより解析した結果を示す図である。
図8】下記実施例4〜7において得られた、HGF-PQS1からPQS9のCDスペクトルを示す図である。
図9】下記実施例4〜7において得られた、HBEGF-PQS1からPQS14のCDスペクトルを示す図である。
図10】下記実施例8〜10において行った、VEGFA遺伝子から抽出したRNA配列のVEGFAへの結合をSPR測定により解析した結果を示す図である。図10のいずれの図においても、各曲線は、上から1000nM、500nM、100nM、50nM、10nMの結果を示す。
図11】下記実施例8〜10において行った、PDGFA遺伝子から抽出したRNA配列のPDGFAへの結合をSPR測定により解析した結果を示す図である。図11の右側の図において、各曲線は、上から1000nM、500nM、100nM、50nM、10nMの結果を示す。
図12】下記実施例8〜10において行った、PDGFB遺伝子から抽出したRNA配列のPDGFBへの結合をSPR測定により解析した結果を示す図である。図12のいずれの図においても、各曲線は、上から1000nM、500nM、100nM、50nM、10nMの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
G-quadruplex(Gカルテット、G4、グアニン四重鎖等とも呼ばれる)構造は、核酸中のグアニン塩基が4つ接近して水素結合により四量体を形成している面が2〜3面重なった構造であり、四重らせん構造をとることで知られている。G-quadruplex構造は、ヒトテロメアやプロモーター中に存在することが知られている。
【0015】
本願発明者らは、プロモーター中に含まれるG-quadruplex構造を含む領域(「G-quadruplex構造含有領域」と呼ぶ)と同一の塩基配列を有する一本鎖ポリヌクレオチドが、そのままでアプタマーとして機能し、該アプタマーは、そのプロモーターが制御する構造遺伝子の遺伝子産物又は該遺伝子産物の関連遺伝子産物と結合することを見出した。本発明は、この新知見を基礎とする。ここで、ある「遺伝子産物の関連遺伝子産物」は、例えば、その遺伝子産物が包含されるカスケードの上流又は下流の遺伝子産物や、その遺伝子産物と協働して機能するタンパク質等である。ある遺伝子産物の関連遺伝子産物は、例えば、文献における共起性解析により調べることができる。この共起性解析は、例えば、国立情報学研究所、国立遺伝学研究所等が公開しているJabionのウェブサイトで行うことができる。このウェブサイトで提供されている方法によれば、共起性スコアもわかるので、ある遺伝子産物と共起性の強い遺伝子産物が、関連性の高い遺伝子産物であると考えることができる。例えば、下記実施例において具体的に試験した血管内皮増殖因子(VEGF)と共起性の高いタンパク質は、KDR、FLT1、HIF1Aの順で共起性が高く、血小板由来成長因子(PDGF)では、PDGFB、 PDGFRAの順、網膜芽細胞腫関連タンパク質(RB-1)では、E2F1、 CDKN2A、TP53の順で共起性が高い。これらの遺伝子のプロモーター中のG-quadruplex形成配列を後述する方法で探し、その配列を合成して結合能を確認することができる。
【0016】
本発明の方法は、例えば次のように実施することができる。先ず、G-quadruplex構造を含むプロモーターを選出する。ヒトゲノムは既に解読されており、各種構造遺伝子のプロモーター配列も公知である。これらの各種プロモーターのうち、G-quadruplex構造を含むものが本発明の方法において利用可能である。G-quadruplex構造を含むことが公知であるプロモーターは、本発明の方法において利用可能である。G-quadruplex構造を含むことが公知であるプロモーターの例としては、c-Kit遺伝子のプロモーターであるc-Kit87up、c-Myb遺伝子プロモーター、Rb遺伝子プロモーター、c-myc遺伝子プロモーターであるc-myc-23456、BCL-2遺伝子プロモーター、HIF1α遺伝子プロモーター、PDGFRβ遺伝子プロモーター、KRAS遺伝子プロモーター、TERT遺伝子プロモーター、MYB遺伝子プロモーター等を挙げることができる。また、後述の実施例では、プロモーターとして、血管内皮増殖因子(VEGF)プロモーター、血小板由来成長因子(PDGF-A)プロモーター及び網膜芽細胞腫関連タンパク質(RB-1)プロモーター中を選出したが、これらのプロモーター中にG-quadruplex構造が含まれることも公知である。
【0017】
G-quadruplex構造を含むことが知られていないプロモーターが、G-quadruplex構造を含むか否かは、次のようにして調べることができる。プロモーター配列がG-quadruplex構造を含むためには、グアニンの2連続配列が4箇所以上含まれることが必要である。この要件を満足するプロモーター配列がG-quadruplex構造を含むか否かは、コンピューターソフトによる解析(例えば、http://bioinformatics.ramapo.edu/QGRS/analyze.phpで公開されているRAMAPO COLLEGEのMapper(Nucleic Acids Research 2006 July; 34 (Web Server issue):W676-W682)や、実際にG-quadruplex構造含有領域を化学合成し、それが例えば特許文献3に記載されている公知のG-quadruplex構造検出試薬と反応させて結合するか否かを調べることにより容易に調べることができる。
【0018】
本願発明者らはまた、本発明の方法が、ヘパリン結合性ドメインを持つタンパク質に結合するアプタマーの創製にも有用であることを見出した。下記実施例では、このようなヘパリン結合性ドメインを持つタンパク質である肝細胞増殖因子(HGF(hepatocyte growth factor))、ヘパリン結合性EGF(HBEGF(Heparin-binding EGF-like growth factor))及び血小板由来成長因子、アネキシンII(Annexin II)又はアポリポタンパク質E4(ApoE4)について実験を行い、これらのいずれに対しても本願発明の方法により、これらのそれぞれに結合するアプタマーの創製に成功している。
【0019】
次に、選出したプロモーターのG-quadruplex構造含有領域と同一の塩基配列を有するアプタマーを化学合成する。なお、G-quadruplex構造はプロモーター中に存在するが、G-quadruplex構造含有領域はプロモーター以外の部分に跨がるものであってもよい。アプタマーのサイズは特に限定されないが、通常、15merないし100mer程度、好ましくは30merないし70mer程度である(merはヌクレオチド数を示す)。また、アプタマーは、DNAでもRNAでもよいが、化学的に安定なDNAが好ましい。なお、DNAやRNAの化学合成は、市販の自動合成装置を用いて容易に行うことができる。また、所定の塩基配列を持つDNAやRNAの化学合成を請け負っている業者も種々存在するので、これらの業者に依頼することもできる。なお、in vitro transcriptionによるRNA合成や、PCR等の核酸増幅法によるDNA合成等、無細胞系で核酸を合成することも本発明における「化学合成」に包含される。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「塩基配列を有する」という語は、塩基がそのように並んでいることを意味し、例えば、「配列番号1で示される塩基配列を有するアプタマー」とは、塩基配列が配列番号1の通りに並んでいる34merのアプタマーを意味する。
【0020】
次に製造したアプタマーが、当該プロモーターにより制御される構造遺伝子の遺伝子産物と結合することを確認する。これは、下記実施例に具体的に記載するゲルシフトアッセイやSPR測定により行うことができる。すなわち、ゲルシフトアッセイでは、アプタマーの末端に蛍光標識等の標識を結合し、遺伝子産物と混合後、ゲル電気泳動にかけ、標識を検出すると共に銀染色によりタンパク質を検出し、標識と銀染色とが共に陽性であれば、アプタマーと遺伝子産物とが結合していることが確認できる。SPR測定では、SPR測定用のチップ上に遺伝子産物を固定化し、遺伝子産物とアプタマーを接触させ、アプタマーが遺伝子産物に結合するか否かを市販のSPR測定装置で測定することによりアプタマーと遺伝子産物とが結合するか否かを確認することができる。
【0021】
アプタマーが遺伝子産物と結合することが確認できた場合には、化学合成によりそのアプタマーを製造する。なお、一般に、標的物質と結合するアプタマーの塩基配列をわずかに変更しても該標的物質との結合性を維持できる場合が少なからず存在することが知られているので、遺伝子産物と結合することが確認されたアプタマーの塩基配列を、該遺伝子産物との結合性を維持したまま修飾してもよい。修飾後のアプタマーの塩基配列は、元の塩基配列と9%以上の配列同一性を有するものである。この場合、修飾後のアプタマーもG-quadruplex構造を有している必要がある。G-quadruplex構造が遺伝子産物と結合すると考えられるので、G-quadruplex構造以外の部分を修飾することが好ましく、G-quadruplex構造以外の部分を修飾しても遺伝子産物との結合性は維持される可能性が高い。このような修飾アプタマーを化学合成により製造することもできる。なお、ここで、「配列同一性」は、配列を比較する2つの塩基配列の塩基ができるだけ多く一致するように2つの配列を整列させ(必要に応じてギャップを挿入する)、一致する塩基の数を全塩基数で除し、百分率で表した数値を意味する。両者の塩基数が異なる場合には、長い方の塩基数で除す。配列同一性を算出するソフトは周知であり、インターネット上でも無料公開されている。なお、上記の通り、本発明では、DNA中のチミンとRNA中のウラシルは、「同一の塩基」と解するので、DNA配列とRNA配列の配列同一性を比較する場合、チミンとウラシルは同一の塩基として計算する。
【0022】
G-quadruplex構造含有領域と同一の塩基配列を有するアプタマーを、公知のコンピューター内進化(in silico maturation)法に付して、その塩基配列を改変することにより、遺伝子産物との親和性をさらに高めることが可能である。コンピューター内進化法は、本願共同発明者により発明された方法で、非特許文献2、非特許文献3や特許文献2に記載されており、下記実施例12にも具体的に記載されている。この方法を、遺伝子産物と結合することが確認されたアプタマーに適用する場合には、例えば、G-quadruplex構造の維持に不可欠ではない、例えば3〜5mer程度の複数の領域を、得られた各アプタマーの対応する各領域どうしの間でランダムに交換したり(シャフル)、遺伝的アルゴリズムによる交差を行う。そして、さらにシャフル又は交差後の上記各領域に、ランダムな一塩基置換を導入する。これらのシャフル又は交差及び一塩基置換の導入はコンピューターで行なう。そして、コンピューターにより作出された新たな塩基配列を有するアプタマーを化学合成して核酸ライブラリーとし、SELEXのサイクルに付す。1サイクル目終了後の第2の核酸ライブラリーを作製する際、結合能の順序の高かったアプタマーに由来する領域を有するアプタマーの量を最も多くし、以下、順序が下がるにつれてその比率を少なくする。以上のように、コンピューター内でのシャフル又は交差及び一塩基置換により人為的に変異を導入することにより、SELEXによる進化の効率を高めることができる。
【0023】
このコンピューター内進化法は、コンピューターの支援を利用してSELEXを行うものであるが、元になるアプタマーが既に遺伝子産物との結合能を有するものであるので、全くのゼロから出発するSELEXとは難易度が異なり、高い確率で遺伝子産物との結合能をさらに高めることができる。なお、コンピューター内進化法は、遺伝子産物との結合能を実験で確かめながら行うものであるので、塩基配列が元の塩基配列とかなり異なるものとなっても遺伝子産物との結合能が確保されているので、配列同一性は、必ずしも9%以上に限定されるものではない。もっとも、コンピューター内進化法は、上記の通り、G-quadruplex構造以外の部分に変異を導入するものであるので、G-quadruplex構造は維持されている。さらに、下記実施例12に具体的に記載する通り、コンピューター内進化法において、各世代で得られたアプタマーのうち、目的の遺伝子産物との結合能が高いアプタマーの配列を調べることにより、目的の遺伝子産物との結合能を発揮する配列モチーフが明らかになる場合がある。例えば、下記実施例12では、下記実施例4で得られたHGF結合性アプタマーを親配列として、コンピューター内進化法を行い、第2世代まで行った時点で、第1世代と第2世代のアプタマーのうち、HGFとの結合能が高いアプタマーの塩基配列を調べたところ、多くの配列がggtggagggg(配列番号57)という配列モチーフを共通して持っていることがわかった。そこで、この配列モチーフの部分を固定して第3世代を行ったところ、HGFに対する結合特異性(Sp(HGF))が親配列の実に約240倍ものアプタマーを得ることができた。このように、コンピューター内進化法によれば、途中段階で、高い結合能を発揮する配列モチーフが判明する場合があり、この場合には、この配列モチーフを固定して、それ以降の世代を行うことにより、一層効率的に高い結合能を持つアプタマーを得ることが可能になる。
【0024】
上記の通り、本発明の方法によれば、所望の標的タンパク質の構造遺伝子のプロモーター配列を利用して、SELEXを行うことなく、所望の標的タンパク質に結合するアプタマーを容易に製造することができるという優れた効果が奏される。
【0025】
アプタマーは、標的タンパク質と特異的に結合する性質を有しているので、その標的タンパク質の定量や検出に用いることができる(例えば特許文献2)。この場合にはアプタマーを標識して用いることができる。標識としては、蛍光標識、放射標識、酵素標識、化学発光標識等、周知の標識を挙げることができる。これらの標識を直接又はスペーサー配列を介してアプタマーの末端に結合しても、標的物質に対する結合親和性は維持されることは周知であり、下記実施例でも蛍光標識であるFITCを結合したアプタマーを用いている。これらの標識を付加したアプタマーは、遺伝子産物の測定(検出又は定量)に用いることができる。標識アプタマーを用いた標的物質の測定方法自体はこの分野において周知であり、例えば標識抗体を用いる免疫測定法と同様に行うことができる。
【0026】
また、標的タンパク質が疾患に関する何らかの生理活性を有しており、その発現を促進することがその疾患の治療につながる場合には、本発明の方法により製造されたアプタマーは、核酸医薬として利用することができる。すなわち、生体に該アプタマーを投与すると、細胞内で生産された遺伝子産物の一部がアプタマーと結合し、プロモーターと結合できなくなるので、遺伝子産物による転写抑制が低減される。また、アプタマーが、遺伝子産物と結合してその活性を中和できる場合には、遺伝子産物の活性を阻害することも可能であり、遺伝子産物の阻害がその疾患の治療につながる場合にも核酸医薬として用いることができる。アプタマーを核酸医薬として用いる場合、例えば、耐ヌクレアーゼ性向上のために例えばポリエチレングリコール(PEG)鎖のような、他の構造を付加することができる。PEG鎖をアプタマーの末端に結合することにより、アプタマーの耐ヌクレアーゼ性を高めることは周知であり、既に実用化されている。PEG鎖のサイズは、特に限定されないが、通常、分子量1万〜3万程度、好ましくは分子量15000〜25000程度であり、また、PEG鎖の数は1本でも2本でもよいが2本が好ましい。このようなPEG鎖は、アプタマーの末端に周知のアミノリンカーを付加し、これを介して結合することができる。PEG鎖を2本結合する場合には、リジン化したアミノリンカー等の複数のアミノ基を持つアミノリンカーを用い、各アミノ基にPEG鎖を結合することができる。
【0027】
さらに、標的タンパク質が疾患に関する何らかの生理活性を有しており、その発現を促進することがその疾患の治療につながる場合には、本発明の方法により製造されたアプタマーに対する結合性を指標とした新薬スクリーニングを行うことも可能である。新薬スクリーニングにより見出された物質を投与することにより、遺伝子産物によりプロモーターの阻害が低減されるので、該物質は、薬理効果を発揮する。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、下記実施例において、実施例8〜10は、それぞれ、参考例1〜3と読み替えるものとする。
【0032】
実施例1、比較例1
VEGFプロモーター領域中で形成されるGq構造のVEGFへの結合能の解析
【0033】
実験方法
G-quadruplex構造を含むことが公知であるVEGFプロモーター(Sun, D., Guo, K., Rusche, J. J. & Hurley, L. H. Facilitation of a structural transition in the polypurine/polypyrimidine tract within the proximal promoter region of the human VEGF gene by the presence of potassium and G-quadruplex-interactive agents. Nucleic Acids Res. 33, 6070-6080 (2005))をプロモーターとして選出した。VEGFプロモーター領域(ゲノム上の位置:chr6:43,737,633-43,739,852)内で形成されるG-quadruplex(以下、「Gq」と略記することがある)構造形成配列(VEGF promoter Gq(配列番号1)、実施例1)及び、Gq形成に関与するG塩基をT塩基に置換しGqを形成しないように設計したオリゴDNA (VEGF promoter Gq-(配列番号2)、比較例1)のVEGFに対する結合能の評価を行った。各オリゴDNAは、市販のDNA自動合成機により合成した。なお、すべての塩基番号はHuman Feb. 2009 (GRCh37/hg19) Assemblyに対応している。
【0034】
評価はゲルシフトアッセイ及びSPR測定により行った。評価に用いたDNA配列を下記表1に示す。アプタマーは全てTBS バッファー(10 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 5 mM KCl, pH 7.4)を用いて1μMに希釈し、フォールディングした後に使用した。
【0035】
【表1】
【0036】
ゲルシフトアッセイ
VEGF165(GenBank Accession No.: NP_001165097)及び各アプタマー(5'-FITC修飾)を、それぞれ終濃度1.3μM又は500 nMとなるように混合し、30 分間室温で振とうした。その後、各サンプルを12%未変性ポリアクリルアミドゲルにアプライし、室温、20mA(定電流)で25 分間泳動を行った。泳動した後、Typhoon 8600(商品名、GE Healthcare社製)により各アプタマーのFITCの蛍光を検出した。また、銀染色によりVEGFを染色した。
【0037】
SPR測定
ランニングバッファーにはTBS バッファーを用いた。アミンカップリング法により4700 RU程度のVEGF165が固定化されたセンサーチップCM5(商品名、GE Healthcare社製)を用いて、7.8〜1000 nMに調製した各アプタマーを注入し、センサーチップ上のVEGF165と各アプタマーの結合をSPR測定により観察した。
【0038】
結果及び考察
ゲルシフトアッセイの結果、VEGF165を混合したサンプルのレーンにおいてVEGFの位置にVEap121(配列番号3)の蛍光バンドのシフトが見られた。また、VEGF promoter GqにおいてもVEGFの位置にバンドのシフトが観察された。これにより、VEGF promoter領域のGq構造はVEGFに結合することが示された。VEGF promoter Gq配列のSPR測定を行った結果を図1に示す。
【0039】
VEGF promoter Gq-を注入した場合にはSPRシグナルの上昇が見られなかったのに対し、VEap121又は VEGF promoter Gqを用いた場合、アプタマー濃度依存的なSPRシグナルの上昇が観察された。カーブフィッティングにより各アプタマーの解離定数を算出した結果、VEap121 : 510 nM, VEGF promoter Gq : 240 nMと算出された。
【0040】
実施例2、比較例2
SPRによるPDGFプロモーター領域中で形成されるGq構造のPDGFへの結合能の解析
【0041】
実験方法
G-quadruplex構造を含むことが公知であるPDGF-Aプロモーター(Qin, Y., Rezler, E. M., Gokhale, V., Sun, D. & Hurley, L. H. Characterization of the G-quadruplexes in the duplex nuclease hypersensitive element of the PDGF-A promoter and modulation of PDGF-A promoter activity by TMPyP4. Nucleic Acids Res. 35, 7698-7713 (2007)) をプロモーターとして選出した。PDGF-Aプロモーター領域(ゲノム上の位置:chr7:556,612-562,845)内で形成されるGq構造形成配列(PDGF promoter Gq(配列番号4)、実施例2)及び、Gq形成に関与するG塩基をT塩基に置換しGqを形成しないように設計した配列(PDGF promoter Gq-(配列番号5)、比較例2)のPDGF-AAに対する結合能の評価をSPR測定により行った。これらの配列を表2に示す。なお、すべての塩基番号はHuman Feb. 2009 (GRCh37/hg19) Assemblyに対応している。
【0042】
【表2】
【0043】
ランニングバッファーにはTBS バッファーを用いた。アミンカップリング法により9000 RU程度のPDGF-AAが固定化されたセンサーチップCM5を用いて、7.8〜1000 nMに調製した各アプタマーを注入し、センサーチップ上のPDGF-AA(GenBank Accession No.: P04085)と各アプタマーの結合をSPR測定により観察した。
【0044】
結果及び考察
PDGF promoter Gq配列のSPR測定を行った結果を図2に示す。PDGF promoter Gq-を注入した場合にはSPRシグナルの上昇が見られなかったのに対し、PDGF promoter Gqを用いた場合、アプタマー濃度依存的なSPRシグナルの上昇が観察された。カーブフィッティングにより各アプタマーの解離定数を算出した結果、VEGF promoter Gq : 18nMと算出された。
【0045】
実施例3、比較例3
RB-1のプロモーター領域中に存在するGq構造のRB-1への結合能の解析
【0046】
実験方法
G-quadruplex構造を含むことが公知であるRB-1プロモーター(Xu, Y. & Sugiyama, H. Formation of the G-quadruplex and i-motif structures in retinoblastoma susceptibility genes (Rb). Nucleic Acids Res. 34, 949-954 (2006))をプロモーターとして選出した。RB-1プロモーター領域(ゲノム上の位置:chr13:48877460-48878501)内で形成されるGq構造形成配列(RB-1_Gq promoter Gq(配列番号6)、実施例3)及び、Gq形成に関与するG塩基をT塩基に置換しGqを形成しないように設計した配列(RB-1_Gq_Mut(配列番号7)、比較例3)のRB-1に対する結合能をゲルシフトアッセイで調べた。なお、すべての塩基番号はHuman Feb. 2009 (GRCh37/hg19) Assemblyに対応している。RB-1(終濃度0nM or 470nM) (GenBank Accession No.: P06400)及び1000nM各DNA(5'-TAMRA修飾、下記表3に配列を示す)を混合し、30分間室温で振とうした。その後、各サンプルを12%未変性ポリアクリルアミドゲルにアプライし、室温、20 mA(定電流)で20分間泳動を行った。泳動した後、Typhoon 8600(商品名)により各DNAのTAMRAの蛍光を検出した。また、銀染色によりRB-1を染色した。
【0047】
【表3】
【0048】
結果及び考察
泳動後、Typhoon(商品名)により蛍光を検出した結果及び銀染色によりRB-1タンパク質を検出した結果を図3に示す。470 nM RB-1と1000 nM RB-1_Gqを混合したレーンにおいて、RB-1のバンドが観察される位置にTAMRAの蛍光が観察された。他のレーンではこのバンドは観察されなかった。このことから、RB-1プロモーター中で形成されるGq構造がRB-1タンパク質に結合することが示された。
【0049】
実施例4〜7
ヘパリン結合性ドメインを有するタンパク質に対するアプタマーの創製
1.方法
(1)HGF、HBEGF、PDGFB、Annexin II遺伝子の各転写開始点近傍配列をUSCS Genome Browserを用いて取得した。HGFに対しては転写開始点±1kbpの配列を、HBEGF、PDGFB及びAnnexin IIに対しては転写開始点近傍に存在するCpGアイランドの配列を取得した。配列はプラスストランド及びマイナスストランドの両配列を取得した。
【0050】
(2)各配列の内、四重らせん構造を形成しうる配列を下記条件で抽出した。
HGF:2連続以上のGを4箇所以上含み、連続したGと連続したGの間の配列は7 mer以内であり、全長が40 mer以内の配列を抽出した。
PDGFB, HBEGF, Annexin II :3連続以上のGを4箇所以上含み、連続したGと連続したGの間の配列は7 mer以内であり、全長が30 mer以内の配列を抽出した。上記条件に該当する配列が存在しない場合は、2連続以上のGを4箇所以上含み、連続したGと連続したGの間の配列は7 mer以内であり、全長が30 mer以内の配列を抽出した。
【0051】
(3)上記(2)で抽出した配列を合成し、HGF, HBEGFに対してはSPRを用いて、PDGFB, Annexin IIに対してはゲルシフトアッセイにより解析した。
【0052】
(4) SPRは下記の方法で実施した。
HGF及びHBEGFをPBSバッファー (Na2HPO4 8.1 mM, KH2PO4 1.47 mM, NaCl 137 mM, KCl 2.68 mM, pH7.4)に溶解し、アミンカップリング法によりセンサーチップCM5上に固定化した。その後、合成したオリゴヌクレオチドをTBSK バッファー (10 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 100 mM KCl)中でフォールディングさせた(95℃5分の後25℃まで30分かけて冷却)。各オリゴヌクレオチドを種々の濃度に希釈し、センサーチップ上にインジェクションし、SPRシグナルの変化を観察した。添加時間120秒、解離時間120秒、流速30μl/minで行った。解離定数(Kd)は、Curve fitting解析によって算出した。
【0053】
(5) ゲルシフトアッセイは下記の方法で実施した。
5’末端をFITCで修飾した各オリゴヌクレオチドをTBSK バッファー (10 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 100 mM KCl, pH 7.4)中でフォールディングさせた。その後、250 ngのタンパク質と5 pmolのオリゴヌクレオチドを混合し、室温で30分間振とうした。その後、各サンプルを12%未変性ポリアクリルアミドゲルにアプライし、室温、20 mA(定電流)で泳動を行った。泳動した後、Typhoon 8600により各アプタマーの蛍光を検出した。
【0054】
(6) HGF及びHBEGFプロモーター中に存在するDNA四重らせん構造を形成しうる配列については、CDスペクトル測定を行った。各オリゴヌクレオチドを、終濃度2 μMとなるようにTBSK バッファー (10 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 100 mM KCl pH 7.4)またはTBS バッファー(10 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl pH 7.4)で調製し、フォールディング(95℃5分の後25℃まで30分かけて冷却)を行った。調製したサンプルを光路長10 mmの石英セルに入れ、J-820型円二色性分散計を用いてCDスペクトルを測定した。尚、感度は1000 mdeg、波長領域は220 nmから320 nm、データ取り込み間隔は1 nm、走査速度は500 nm/min、レスポンスは1 sec、バンド幅は5.0 nm、積算回数は10回の条件で測定を行った。
【0055】
2.結果
(1)各プロモーター領域からDNA四重らせん構造を形成しうる配列を検索したところ、HGFプロモーターからは9配列、HBEGFプロモーターからは14配列、PDGFBプロモーターからは8配列、Annexin IIプロモーターからは7配列、抽出することができた(表4)。
【0056】
【表4】
【0057】
(2)HGFに対して各オリゴヌクレオチドが結合するかSPRにより解析したところ、HGF-PQS1(配列番号8)、HGF-PQS7(配列番号9)、HGF-PQS8(配列番号10)の3つの配列においてDNA濃度依存的なSPRシグナルの増加が観察された、これらがHGFのアプタマーであることが示された(図4)。HGF-PQS1、HGF-PQS7、HGF-PQS8のHGFに対する解離定数はそれぞれ73 nM、45 nM、110 nMであった。
【0058】
(3)HBEGFに対して各オリゴヌクレオチドが結合するかSPRにより解析したところ、HBEGF-PQS8、HBEGF-PQS9の2つの配列においてDNA濃度依存的なSPRシグナルの増加が観察され、これらがHBEGFのアプタマーであることが示された(図5)。HBEGF-PQS8(配列番号11)、HBEGF-PQS9(配列番号12)のHBEGFに対する解離定数はそれぞれ110nM、9μMであった。
【0059】
(4)PDGF-BBに対して各オリゴヌクレオチドが結合するかゲルシフトアッセイにより解析したところ、8配列(表4中の上から順に配列番号13〜20)すべてのオリゴヌクレオチドがPDGF-BBに結合することが示され、これらがPDGF-BBに結合するアプタマーであることが示された(図6)。なお、図6中、+はPDGF-BB存在下、-はPDGF-BB非存在下のレーンを示している。
【0060】
(5)Annexin IIに対して各オリゴヌクレオチドが結合するかゲルシフトアッセイにより解析したところ、Annexin II-PQS6(配列番号21)がAnnexin IIに結合することが示され、これがAnnexin IIに結合するアプタマーであることが示された(図7)。なお、図7中、+はAnnexin II存在下、-はAnnexin II非存在下のレーンを示している。
【0061】
(6)HGF-PQS1からPQS9のCDスペクトル測定したところ、HGFに結合が観察されたHGF-PQS1及びHGF-PQS7のみ、カリウム存在下で260 nm付近に正のピーク、240 nm付近に負のピークを示した(図8)。これは、パラレル型のDNA四重らせん構造特有のCDスペクトルであることから、HGF-PQS1及びHGF-PQS7はパラレル型のDNA四重らせん構造を形成して、HGFに結合していることが示された。
【0062】
HBEGF-PQS1からPQS14のCDスペクトル測定したところ、HBEGFに結合が観察されたHBEGF-PQS8及びHBEGF-PQS9のみ、カリウム存在下で260 nm付近に正のピーク、240 nm付近に負のピークを示した(図9)。つまり、HBEGF-PQS8及びHBEGF-PQS9はパラレル型のDNA四重らせん構造を形成して、HBEGFに結合していることが示された。
【0063】
実施例8〜10
1.方法
(1)VEGFA、PDGFA、PDGFB遺伝子から転写されるRNAの全長配列をUSCS Genome Browserを用いて取得した。
【0064】
(2)各配列の内、RNA四重らせん構造を形成しうる配列を下記条件で抽出した。
2連続以上のGを4箇所以上含み、連続したGと連続したGの間の配列は14 mer以内であり、全長が40 mer以内の配列を抽出した。
【0065】
(3)PDGF-AA及びPDGF-BBは10 mM HEPES バッファー(pH7.0)に、VEGFAは10 mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH6.0)に溶解し、アミンカップリング法によりセンサーチップCM5上に固定化した。その後、合成したオリゴヌクレオチドをPBS バッファー(Na2HPO4 8.1 mM, KH2PO4 1.47 mM, NaCl 137 mM, KCl 2.68 mM, pH7.4)中でフォールディングさせた(65℃5分の後25℃まで30分かけて冷却)。各オリゴヌクレオチドを種々の濃度に希釈し、センサーチップ上にインジェクションし、SPRシグナルの変化を観察した。添加時間120秒、解離時間120秒、流速30μl/minで行った。解離定数(Kd)は、Curve fitting解析によって算出した。
【0066】
2.結果
(1)各遺伝子の転写されるRNA配列中から四重らせんRNA構造を形成しうる配列を探索したところ、VEGFA遺伝子からは159配列、PDGFA遺伝子からは247配列、PDGFB遺伝子からは194配列のRNAを抽出することができた。この内から下記の配列をそれぞれ選択し合成した(表5)。
【0067】
【表5】
【0068】
(2)VEGFAに対して各オリゴヌクレオチドが結合するかSPRにより解析したところ、すべての配列においてRNA濃度依存的なSPRシグナルの増加が観察され、これらがVEGFAに結合するRNAアプタマーであることが示された。VEGFA RNA1(配列番号22)は約140 nM、VEGFA RNA2(配列番号23)は約31 nM、 VEGFA RNA3(配列番号24)は約300 nMの解離定数でそれぞれVEGFAに結合した。(図10)。
【0069】
(3)PDGF-AAに対して各オリゴヌクレオチドが結合するかSPRにより解析したところ、すべての配列においてRNA濃度依存的なSPRシグナルの増加が観察され、これらがPDGF-AAに結合するRNAアプタマーであることが示された。PDGFA RNA1(配列番号25)は約29 nM、PDGFA RNA2(配列番号26)は約30 nMの解離定数でそれぞれPDGFAに結合した。(図11)。
【0070】
(4)PDGF-BBに対して各オリゴヌクレオチドが結合するかSPRにより解析したところ、すべての配列においてRNA濃度依存的なSPRシグナルの増加が観察され、これらがPDGF-BBに結合するRNAアプタマーであることが示された。PDGFB RNA1(配列番号27)は約42 nM、PDGFB RNA2(配列番号28)は約30 nM、PDGFB RNA3(配列番号29)は約59 nM、PDGFB RNA4(配列番号30)は約35 nM、PDGFB RNA5(配列番号31)は約34 nMの解離定数でそれぞれPDGFAに結合した(図12)。
【0071】
実施例11
1. 標的タンパク質遺伝子のプロモーター領域におけるG4形成予測配列の探索
ヘパリン結合ドメインを持つタンパク質であるApoE4をコードする遺伝子の転写開始点から±1 kbpの配列をGenome Browser (http://genome.ucsc.edu/cgi-bin/hgGateway)を用いて抽出した。抽出した配列中からQGRS Mapper (http://bioinformatics.ramapo.edu/QGRS/index.php) を用いて以下の条件を満たす配列を探索した。
(i)全長30 mer 以内 (ii) 2連続以上のGを7 mer 以内の間隔で含んでいる
なお得られた配列をApoE4に対するアプタマー候補配列とした。
【0072】
2. 表面プラズモン共鳴(SPR)測定によるアプタマー候補配列と標的タンパク質の結合評価
ApoE4を10 mM 酢酸 buffer (pH 4.0) を用いて希釈し、アミンカップリング法によりセンサーチップCM4上に約900 RU固定化した。その後、TBS buffer(10 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 100 mM KCl, pH 7.4)中でフォールディングを行ったアプタマー候補配列(Table.)を種々の濃度に希釈し、センサーチップに添加した際のSPRシグナルの変化を測定した。測定後、カーブフィッティングにより解離定数(Kd)を算出した。
【0073】
結果及び考察
1. ApoE4をコードする遺伝子のプロモーター領域から、G4構造を形成する可能性を持つ配列が8本得られた(ApoE4_1〜8と命名)。これらのうち、ApoE4_1(配列番号56)においてDNA濃度依存的なSPRシグナルの上昇が観察された。これよりApoE4_1はApoE4に結合していると考えられる。カーブフィッティングにより解離定数を算出したところ、60 nMであった。
【0074】
実施例12
獲得した3つのHGFアプタマーを、HGFap1, HGFap2, HGFap3、2つのHBEGFアプタマーをHBEGFap1, HBEGFap2と呼称する。またHGFアプタマーのin silico maturationにおいて、評価した配列のHGFに対する結合特異性(Sp(HGF))は、Sp(HGF)=[HGFを標的とした場合の結合定数Ka]/[HBEGFを標的とした場合の結合定数Ka] (Sp(HGF) =Ka(HGF) / Ka(HBEGF))と定義した。
【0075】
第1世代配列の作製と特異性評価
まず第1世代親配列であるHGFap1, HGFap2, HGFap3についてSp(HGF)を求め、Sp(HGF)の値の比に基づいて各配列を複製し、合計20本の配列を作製した。続いて20本の配列の中でランダムに2本ずつ組を作り、任意の1点で交叉(crossover)させた。その後各20本の配列に10%の突然変異を位置、塩基の種類ともにランダムに導入し、第1世代配列とした(1R01〜1R20)。1R01〜1R20の塩基配列を、この順に配列番号58〜77に示す。
【0076】
HGF及びHBEGFをPBS buffer (Na2HPO4 8.1 mM, KH2PO4 1.47 mM, NaCl 137 mM, KCl 2.68 mM, pH7.4)を用いて、アミンカップリング法によりセンサーチップCM5上に固定化した。タンパク質の希釈bufferとして、HGFには10 mM HEPES buffer (pH6.5)を、HBEGFには10 mM 酢酸buffer (pH5.0)を用いた。その後、TBS buffer (10 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 100 mM KCl)中でフォールディングを行った各第1世代配列を、TBS bufferを用いて種々の濃度(f.c. 1000 nM, 500 nM, 100 nM, 50 nM, 0 nM)に希釈し、HGFまたはHBEGFを固定化したセンサーチップに添加した際のSPRシグナルの変化を測定した。相互作用測定時のRunning bufferにはTBS bufferを使用し、添加時間120秒、解離時間200秒、流速30μL/minで測定を行った。測定後カーブフィッティングによってKa(HGF)及びKa(HBEGF)を求め、Sp(HGF)を算出した。
【0077】
第2世代配列の作製と特異性評価
第1世代配列から(i)親配列のSp(HGF) (最低値: 1.9)を下回る配列、(ii)Ka(HGF)が親配列のKa(HGF) (最低値: 9.1E+06)の1/10以下である配列を除外し、残りの配列を第2世代配列作製のための親配列とした。得られた第2世代親配列について、第1世代親配列と同様に複製、交叉、変異導入を行い第2世代配列を得た(2R01〜2R20)。2R01〜2R20の塩基配列を、この順に配列番号78〜97に示す。HGF及びHBEGFに対する結合の評価とSp(HGF)の算出は、第1世代配列と同様に行った。
【0078】
第3世代モチーフ固定配列の作製と特異性評価
第1世代配列及び第2世代配列を、高いSp(HGF)を持つ配列グループ、低いSp(HGF)を持つ配列グループ、HGF及びHBEGFに結合しなかった配列グループに分類し配列を比較したところ、高いSp(HGF)を持つ配列グループの多くの配列がGGTGGAGGGGという配列モチーフを共通して持っていた。そこで第1世代配列及び第2世代配列の中の、GGTGGAGGGG配列モチーフを有する配列で高いSp(HGF)を持つもの(1R01, 1R05, 1R08, 1R09, 2R07)を、第3世代モチーフ固定配列作製のための親配列とした。得られた第3世代モチーフ固定親配列について、第1世代親配列及び第2世代親配列と同様に複製、交叉、変異導入を行い、第3世代モチーフ固定配列を得た(3R01mfix〜3R20mfix)。3R01mfix〜3R20mfixの塩基配列を、この順に配列番号98〜117に示す。HGF及びHBEGFに対する結合の評価とSp(HGF)の算出は、第1世代配列及び第2世代配列と同様に行った。
【0079】
結果及び考察
第1世代配列において、親配列と比較して高いSp(HGF)の値を持つ配列が複数得られた(表6)。第2世代配列において、親配列のSp(HGF) (最低値: 1.9)のおよそ13倍のSp(HGF)を示す特異性の高い配列が得られた(表7、2R07)。さらに第3世代モチーフ固定配列においては、親配列のSp(HGF)のおよそ50倍のSp(HGF)を示す配列(3R02mfix)、また親配列のSp(HGF)のおよそ240倍のSp(HGF)を示す配列(3R14mfix)が得られた(表8)。これより、コンピューター内進化法によって本発明の方法で獲得されたHGFアプタマーの特異性を向上させることができた。
【0080】
【表6】
Kd(HGF):HGFに対する解離定数
Kd(HBEGF):HBEGFに対する解離定数
Ka(HGF):HGFに対する結合定数
Ka(HBEGF):HBEGFに対する結合定数
Sp(HGF):HGFに対する結合定数をHBEGFに対する結合定数で割った値(Ka(HGF) /Ka(HBEGF)
【0081】
【表7】
Kd(HGF):HGFに対する解離定数
Kd(HBEGF):HBEGFに対する解離定数
Ka(HGF):HGFに対する結合定数
Ka(HBEGF):HBEGFに対する結合定数
Sp(HGF):HGFに対する結合定数をHBEGFに対する結合定数で割った値(Ka(HGF) /Ka(HBEGF)
【0082】
【表8】
Kd(HGF):HGFに対する解離定数
Kd(HBEGF):HBEGFに対する解離定数
Ka(HGF):HGFに対する結合定数
Ka(HBEGF):HBEGFに対する結合定数
Sp(HGF):HGFに対する結合定数をHBEGFに対する結合定数で割った値(Ka(HGF) /Ka(HBEGF)
図1
図2
図3
図4
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図11
図12
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]