【実施例】
【0029】
以下、実施例によって本発明を説明する。以下の実施例は、本発明を限定するものではなく、本発明は、特許請求の範囲を外れない限りにおいて、種々の実施形態をとることができる。
[実施例1]
(a)ホエイタンパク質を含む水溶液の調製
ホエイタンパク質として、α−ラクトアルブミン(本明細書中、「α−LA」と略記することがある。)の含有率が17.3重量%で、かつ、β−ラクトグロブリン(本明細書中、「β−LG」と略記することがある。)の含有率が48.9重量%である、ロットA(特定の製造時期のロット)のホエイタンパク質(デンマーク製;以下、ホエイタンパク質Aという。)を用いた。
イオン交換水(液温:20℃)400gに、「ホエイタンパク質A」100gを加えて、混合した。得られたホエイタンパク質水溶液を、60℃の湯浴中で、60℃の温度が15分間維持されるように加熱して、60℃に昇温されたホエイタンパク質水溶液を得た。次いで、このホエイタンパク質水溶液を室温(20℃)に冷却し、ゲル状の固形物Aを得た。
【0030】
得られたゲル状の固形物Aについて、クリープメーター「RE2−33005C」を用いて、圧縮時の応力を測定したところ、圧縮時の応力は、3,200(N/m
2)であった。
また、冷却前の液温60℃のホエイタンパク質水溶液について、「Physica MCR 301」を用いて、伸長時の抵抗力を測定したところ、伸長時の抵抗力は、−2.16E−01(N)であった。
さらに、冷却前の液温60℃のホエイタンパク質水溶液について、「Physica MCR 301」を用いて、水平方向の回転時の抵抗力(表2中、「水平回転時の抵抗力」と略記した。)を測定したところ、水平方向の回転時の抵抗力は、−6.20E−02(N)であった。
ここで、これら3つの測定の条件は、以下のとおりである。
【0031】
[圧縮時の応力]
使用機器:クリープメーター RE2−33005C(山電社製)
測定温度:20℃
測定歪率:66.67%
測定速度:10mm/秒
戻り距離:8.00mm
サンプル厚さ:15.00mm(専用セル使用)
プランジャー:直径20mm・厚
【0032】
[伸長時の抵抗力、および、水平方向の回転時の抵抗力]
使用機器:Physica MCR 301(Anton Paar社製)
測定治具:ST24−2D/2V/2V−30(Physica MCR 301専用治具;Anton Paar社製)
測定容器:STANDARD MEASURING SYSTEMvCC27/T200/SS(Physica MCR 301専用治具;Anton Paar社製)
サンプル量:40g
測定値:以下の表1に示す「STEP 1」〜「STEP 5」の一連の操作における「STEP 3」中の試料の撹拌時の抵抗力(後で詳述する。)、および「STEP 5」中の治具にかかる法線力(後で詳述する。)を、各々、「水平方向の回転時の抵抗力」、「伸長時の抵抗力」と称する。
【0033】
【表1】
【0034】
表1中、「STEP 1」〜「STEP 5」の各操作について説明する。
「STEP 1」は、温度を25℃に保持しつつ、撹拌によって試料を均一にする工程である。
「STEP 2」は、昇温速度(単位:℃/秒(s))を一定にして、20℃から60℃に昇温する工程である。
「STEP 3」は、温度を60℃に保持して、試料を変性させる工程である。その際、試料の撹拌時の治具による抵抗力を検出する。この抵抗力のピーク値(最大値)を、上述の「水平方向の回転時の抵抗力」と称する。
「STEP 4」は、撹拌を止めて、試料を安定化させる工程である。
「STEP 5」は、治具を鉛直上向きに引き上げて、その際に治具にかかる法線力(Normal Force)を検出する工程である。この法線力のピーク値を、上述の「伸長時の抵抗力」と称する。
【0035】
(b)ホエイタンパク質を含む飲食物A−1(ゲル状;ホエイタンパク質:4重量%)の製造
前記(a)のホエイタンパク質Aを用いて、以下のようにして、飲食物A−1を製造した。
ホエイタンパク質精製物(WPI;Whey Protein Isolate)4.5重量%(飲食物の全量100重量%中の割合;以下、同じ)、糖類14.2重量%、食用油2.5重量%、ミネラル類1.4重量%、ゲル化剤0.8重量%、pH調整剤0.4重量%、ビタミン類0.2重量%、香料0.2重量%、消泡剤0.2重量%、乳化剤0.05重量%、および、イオン交換水(残余の量;液温:60℃)を混合して、飲食物A−1(ホエイタンパク質:4重量%)を得た。
なお、飲食物A−1の製造は、より詳しくは、イオン交換水(液温:60℃)に、ホエイタンパク質精製物(WPI)、糖類、食用油、ゲル化剤、pH調整剤、ビタミン類、香料、消泡剤、および乳化剤を添加して混合し、液温60℃の混合物を得た後、この混合物と、ミネラル類(粉体)を混合し、均一になるまで撹拌し、次いで、20℃まで冷却することによって行った。
得られた飲食物A−1について、同心円法によるLST値を測定したところ、LST値は、22.0であった。
【0036】
(c)ホエイタンパク質を含む飲食物A−2(ゲル状;ホエイタンパク質:6重量%)の製造
前記(a)のホエイタンパク質Aを用いて、以下のようにして、飲食物A−2を製造した。
ホエイタンパク質精製物(WPI)6.2重量%(飲食物の全量100重量%中の割合;以下、同じ)、ホエイタンパク質加水分解物(WPH;Whey Protein Hydrolyzed)0.7重量%、糖類14.2重量%、食用油2.5重量%、ミネラル類1.4重量%、ゲル化剤0.7重量%、pH調整剤0.4重量%、ビタミン類0.2重量%、香料0.2重量%、消泡剤0.2重量%、乳化剤0.05重量%、および、イオン交換水(残余の量;液温:60℃)を混合して、飲食物A−2(ホエイタンパク質:6重量%)を得た。
なお、飲食物A−2の製造のより詳しい手順は、飲食物A−1(ホエイタンパク質:4重量%)と同様であった。
得られた飲食物A−2について、同心円法によるLST値を測定したところ、LST値は、21.1であった。
飲食物A−1および飲食物A−2は、嚥下困難な高齢者向けのゲル状食品として好ましい物性(LST値)を有する。
【0037】
(d)ホエイタンパク質を含む飲食物A−3(液状;ホエイタンパク質:7重量%)の製造
前記(a)のホエイタンパク質Aを用いて、以下のようにして、飲食物A−3を製造した。
ホエイタンパク質精製物(WPI)7.0重量%(飲食物の全量100重量%中の割合;以下、同じ)、糖類5.0重量%、pH調整剤0.05重量%、香料0.2重量%、消泡剤0.1重量%、安定剤0.3重量%、および、イオン交換水(残余の量;液温:60℃)を混合して、混合物を得た後、該混合物について90℃、10分間の殺菌を行い、得られた殺菌済の混合物を20℃まで冷却して、飲食物A−3(液状;ホエイタンパク質:7重量%)を得た。
飲食物A−3の粘度を以下の条件で測定した。その結果、粘度は、789mPa・sであった。この粘度の値は、どろどろすぎて、飲み込みにくいことを示す。
(条件)
使用機器:B型粘度計(製品名:VISCOMETER TVB−10、東機産業社製)
液温:20℃
測定条件:60rpm
測定時間:30秒後の粘度を測定
【0038】
[実施例2]
(a)ホエイタンパク質を含む水溶液の調製
ホエイタンパク質として、α−ラクトアルブミンの含有率が14.3重量%で、かつ、β−ラクトグロブリンの含有率が46.2重量%である、ロットB(ロットAとは異なる製造時期のロット)のホエイタンパク質(以下、ホエイタンパク質Bという。)を用いた。
ホエイタンパク質Aに代えてホエイタンパク質Bを用いた以外は実施例1と同様にして、ホエイタンパク質水溶液を得た。次いで、このホエイタンパク質水溶液を室温(20℃)に冷却し、ゲル状の固形物Bを得た。
得られたゲル状の固形物Bについて、クリープメーターを用いて、圧縮時の応力を測定したところ、圧縮時の応力は、1,485(N/m
2)であった。
また、冷却前の液温60℃のホエイタンパク質水溶液について、「Physica MCR 301」を用いて、伸長時の抵抗力を測定したところ、伸長時の抵抗力は、−7.52E−02(N)であった。
さらに、冷却前の液温60℃のホエイタンパク質水溶液について、「Physica MCR 301」を用いて、水平方向の回転時の抵抗力を測定したところ、水平方向の回転時の抵抗力は、−5.60E−03(N)であった。
【0039】
[実施例3]
(a)ホエイタンパク質を含む水溶液の調製
ホエイタンパク質として、α−ラクトアルブミンの含有率が10.6重量%で、かつ、β−ラクトグロブリンの含有率が56.6重量%である、ロットC(ロットA〜Bとは異なる製造時期のロット)のホエイタンパク質(以下、ホエイタンパク質Cという。)を用いた。
ホエイタンパク質Aに代えてホエイタンパク質Cを用いた以外は実施例1と同様にして、ホエイタンパク質水溶液を得た。次いで、このホエイタンパク質水溶液を室温(20℃)に冷却し、ゲル状の固形物Cを得た。
得られたゲル状の固形物Cについて、クリープメーターを用いて、圧縮時の応力を測定したところ、圧縮時の応力は、500(N/m
2)であった。
また、冷却前の液温60℃のホエイタンパク質水溶液について、「Physica MCR 301」を用いて、伸長時の抵抗力を測定したところ、伸長時の抵抗力は、−6.13E−02(N)であった。
さらに、冷却前の液温60℃のホエイタンパク質水溶液について、「Physica MCR 301」を用いて、水平方向の回転時の抵抗力を測定したところ、水平方向の回転時の抵抗力は、−5.37E−03(N)であった。
【0040】
(b)ホエイタンパク質を含む飲食物C−3(液状;ホエイタンパク質:7重量%)の製造
ホエイタンパク質Aに代えてホエイタンパク質Cを用いた以外は実施例1の飲食物A−1と同様にして、飲食物C−1を製造した。
得られた飲食物C−1について、実施例1の飲食物A−1と同様にして、同心円法によるLST値を測定したところ、LST値は、25.5であった。
また、ホエイタンパク質Aに代えてホエイタンパク質Cを用いた以外は実施例1の飲食物A−3と同様にして、飲食物C−3を製造した。
得られた飲食物C−3について、実施例1の飲食物A−3と同様にして、粘度を測定したところ、粘度は、130mPa・sであった。この粘度の値は、適度なとろみを有し、飲み心地が良いことを示す。
飲食物C−3は、嚥下困難な高齢者向けの飲料として好ましい物性(粘度)を有する。
以上の結果を表2(ホエイタンパク質を含む水溶液を用いたかたさの測定)、および表3(ホエイタンパク質を材料の一つとして用いて製造した飲食物の物性)に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
表2および表3中、実施例1、3の結果から、本発明の評価方法で測定して得られた被測定物(例えば、ホエイタンパク質を含む水溶液を用いて得られたゲル状物)のかたさ(特に、圧縮時の応力の値;単位:N/m
2)と、この被測定物に含まれるホエイタンパク質を用いて製造された飲食物の物性(ゲル状物のLST値、または、液状物の粘度)は、相関関係があることがわかる。
例えば、実施例1と実施例3を比較すると、実施例1では、圧縮時の応力が3,200N/m
2(表2)であり、液状物の粘度が789mPa・s(表3)であるのに対し、実施例3では、圧縮時の応力が500N/m
2(表2)であり、液状物の粘度が130mPa・s(表3)であるので、実施例1に比べて実施例3では、圧縮時の応力および液状物の粘度の各々について、約1/6の値を得ていることがわかる。つまり、圧縮時の応力(表2)と、液状物の粘度(表3)とは、高い相関関係を有することがわかる。
そして、この相関関係を利用すれば、本発明の評価方法で得られたホエイタンパク質の評価結果(粘性付与能力の大きさ)に基づいて、このホエイタンパク質を用いて製造される飲食物のゲル強度または粘度の大きさを予測または制御しうることがわかる。
【0044】
一方、表2中、例えば、実施例1と実施例2を比較すると、α−ラクトアルブミンの含有率、β−ラクトグロブリンの含有率、α−ラクトアルブミンとβ−ラクトグロブリンの含有率の比のいずれについても、実施例1と実施例2とで大きな差が見られないものの、「物性」の欄の「圧縮時の応力(N/m
2)」については、実施例1と実施例2とで大きな差が見られる。このことから、α−ラクトアルブミンとβ−ラクトグロブリンの各含有率を用いたのでは、ホエイタンパク質を用いて製造された飲食物の物性について、高精度の予測が困難であることがわかる。