特許第6706513号(P6706513)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6706513ホエイタンパク質を含む飲食物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706513
(24)【登録日】2020年5月20日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】ホエイタンパク質を含む飲食物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/04 20060101AFI20200601BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20200601BHJP
   G01N 3/08 20060101ALI20200601BHJP
   G01N 3/40 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
   G01N33/04
   A23L5/00 M
   G01N3/08
   G01N3/40 E
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-38057(P2016-38057)
(22)【出願日】2016年2月29日
(65)【公開番号】特開2017-156163(P2017-156163A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2019年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】堀本 智仁
【審査官】 倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06119509(US,A)
【文献】 特開平08−247916(JP,A)
【文献】 特表2001−518194(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/085059(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101750473(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第102519838(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0112121(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/04,
G01N 3/00,
G01N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホエイタンパク質を評価した後、上記ホエイタンパク質と同じ種類のホエイタンパク質を用い、かつ、該ホエイタンパク質以外の材料の種類を選択しかつその配合割合を調整することによって、所望の粘度を有する液状物である飲食物を製造する、ホエイタンパク質を含む飲食物の製造方法であって、
上記ホエイタンパク質の評価は、
所定の濃度の上記ホエイタンパク質を含む水溶液を、上記水溶液中のホエイタンパク質が変性するまで加熱して、昇温された所定の温度を有する水溶液を得る加熱工程と、
上記加熱工程で得られた上記水溶液を、所定の温度まで冷却してゲル化させて、かたさの測定用の被測定物を得る被測定物調製工程と、
上記被測定物調製工程で得られた上記被測定物のかたさを測定して、上記ホエイタンパク質が有する粘性付与能力を評価するかたさ測定工程、
を含む評価方法によって行われ、
上記かたさ測定工程におけるかたさの測定は、上記被測定物の圧縮時の応力の測定として行われることを特徴とするホエイタンパク質を含む飲食物の製造方法
【請求項2】
上記加熱工程における上記所定の温度が、57〜75℃であり、かつ、上記被測定物調製工程における上記所定の温度が、30℃以下である請求項1に記載のホエイタンパク質を含む飲食物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホエイタンパク質の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホエイタンパク質は、ナチュラルチーズの製造時に産生する甘性ホエイや、カゼインを酸沈殿させる際の副産物である酸ホエイに含まれているタンパク質である。本来は廃棄物として処分されることの多いホエイを利用することは、経済的な面や環境的な面から、有益である。さらに、ホエイタンパク質はアミノ酸スコアが高く、栄養面からも利用価値が高い。そこで、ホエイタンパク質を飲食物の原料などとして有効活用すべく、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)やホエイタンパク質精製物(WPI)が、食品製造業で流通し用いられている。
【0003】
ホエイタンパク質は、同じく牛乳に由来するカゼインタンパク質と比較して、加熱凝固(ゲル化)しやすい性質(ゲル化能力)を有する。この性質を利用して、ホエイタンパク質を含む種々のゲル状食品(ゲル化させた食品)が製造されている。これらのゲル状食品は、主に、嚥下困難で栄養補給を必要とする高齢者向けのものである。
このようなゲル状食品の製造方法として、例えば、特許文献1に、ホエイタンパク質と脂肪分とを含み、ホエイタンパク質の濃度が4〜12重量%、脂肪分のホエイタンパク質に対する重量比が5倍以下である処理液を、二段階の加熱条件により加熱処理してゲル状食品を製造する方法であって、二段階の加熱条件の一段階目では、加熱温度を65〜75℃として前記処理液の全体がほぼ均一な温度で65〜75℃になるように保持し、二段階の加熱条件の二段階目では、加熱温度を90℃以下であって75℃を超える温度として前記処理液の全体がほぼ均一な温度で90℃以下であって75℃を超える温度になるように保持することを特徴とするゲル状食品の製造方法が記載されている。
【0004】
一方、ホエイタンパク質を含む飲食物の粘度を調整して、該飲食物の状態として、所望の状態(例えば、とろみのある液状)を得ることが知られている。
例えば、特許文献2に、タンパク質と、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよびマグネシウムから選択される2種以上のミネラルを含むミネラル群とを含んでなる栄養組成物の製造方法であって、ホエイタンパク質由来のタンパク質量が2〜12g/100mlとなる量でホエイタンパク質を含むタンパク質濃厚水溶液に、a)水溶液中で2価イオンとなるいずれか一種のミネラルの粉体もしくは水溶液、またはb)水溶液中で2価イオンとなるいずれか一種のミネラルと、ミネラル群に含まれる他の1種以上のミネラルとからなるミネラル粉体混合物を投入して混合し、ミネラル群に残りの種のミネラルが存在する場合には、得られた混合液にさらに残りの種のミネラルの粉体を同時または逐次投入して混合することを含む、製造方法が記載されている。
特許文献2の製造方法によれば、ホエイタンパク質を含む栄養組成物の粘度の過度の増加を抑制して、ミネラルが均一に混合した、液状、とろみのある液状等の状態を有する栄養組成物を得ることができる。
【0005】
ホエイタンパク質を構成するα−ラクトアルブミンおよびβ−ラクトグロブリンの各含有率と、ホエイタンパク質のゲル化能力の関係についても、知られている。
例えば、非特許文献1に、6%のα−ラクトアルブミンを単独で用いた場合と、2%のβ−ラクトグロブリンを単独で用いた場合のいずれにおいても、ゲルを形成しなかったものの、6%のα−ラクトアルブミンと2%のβ−ラクトグロブリンを併用した場合には、ゲル強度が著しく増大したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2008/020568号パンフレット
【特許文献2】特許第5373227号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Enhanced Heat-induced Gelation of β-Lactoclobulin by α-Lactoalbumin., Naotoshi Matsudomi et al., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, Volume 56, Issue 11, pp. 1697-1700, 1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ホエイタンパク質を含むゲル状食品を製造する場合、ホエイタンパク質の原料となる生乳の成分組成が、生乳の産地、季節等によって変動することから、ホエイタンパク質のゲル化能力(粘性付与能力)にも、ばらつきが生じ、それゆえ、ゲル状食品の製造ロット毎に、ゲル状食品のかたさ(ゲル強度)にばらつきが発生し、ゲル状食品の品質を常に一定にすることが困難であるという問題がある。
この点、ゲル状食品の製造前にホエイタンパク質のゲル化能力を予め評価することができれば、当該評価の対象となったホエイタンパク質と同じ種類のホエイタンパク質を用いて製造されるゲル状食品のゲル強度の大きさを予測または制御することができる。
【0009】
また、ホエイタンパク質を材料の一つとして用いて、粘性を有する飲料(液状物)を製造する場合においても、当該飲料の製造前にホエイタンパク質の粘性付与能力の大きさを予め評価することができれば、当該評価の対象となったホエイタンパク質と同じ種類のホエイタンパク質を用いて製造される飲料の粘性の大きさを予測または制御することができる。
本発明の目的は、ゲル状食品、飲料等の飲食物の製造に用いられるホエイタンパク質について、その粘性付与能力の大きさ(例えば、ゲル状食品の材料として用いる場合、ゲル化能力の大きさ)を簡易かつ迅速に評価するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、所定の濃度(例えば、10〜30重量%の範囲内で予め定めた濃度)のホエイタンパク質を含む水溶液を、上記水溶液中のホエイタンパク質が変性するまで加熱して、昇温された所定の温度(例えば、60℃)を有する水溶液を得る加熱工程と、上記加熱工程で得られた上記水溶液を、所定の温度(例えば、20℃)まで冷却してゲル化させ、または、液状の状態を保つ温度(例えば、60℃)に維持して、かたさの測定用の被測定物を得る被測定物調製工程と、上記被測定物調製工程で得られた上記被測定物のかたさを測定して、上記ホエイタンパク質が有する粘性付与能力を評価するかたさ測定工程、を含むホエイタンパク質の評価方法によれば、ホエイタンパク質の粘性付与能力の大きさを簡易かつ迅速に評価することができることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明は、以下の[1]〜[3]を提供するものである。
[1] 所定の濃度のホエイタンパク質を含む水溶液を、上記水溶液中のホエイタンパク質が変性するまで加熱して、昇温された所定の温度を有する水溶液を得る加熱工程と、上記加熱工程で得られた上記水溶液を、所定の温度まで冷却してゲル化させ、または、液状の状態を保つ温度に維持して、かたさの測定用の被測定物を得る被測定物調製工程と、上記被測定物調製工程で得られた上記被測定物のかたさを測定して、上記ホエイタンパク質が有する粘性付与能力を評価するかたさ測定工程、を含むことを特徴とするホエイタンパク質の評価方法。
[2] 上記かたさ測定工程におけるかたさの測定が、上記被測定物の圧縮時の応力の測定、上記被測定物の伸長時の抵抗力の測定、および、上記被測定物の水平方向の回転時の抵抗力の測定、の中から選択される一つ以上の測定として行われる、上記[1]に記載のホエイタンパク質の評価方法。
[3] 上記[1]又は[2]に記載のホエイタンパク質の評価方法によって、上記ホエイタンパク質を評価した後、上記ホエイタンパク質と同じ種類のホエイタンパク質を用いて、所望のゲル強度または粘度を有する飲食物を製造することを特徴とする、ホエイタンパク質を含む飲食物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ホエイタンパク質の粘性付与能力の大きさを簡易かつ迅速に評価することができる。また、その評価結果を利用して、評価の対象となったホエイタンパク質と同じ種類のホエイタンパク質を用いて製造される飲食物のゲル強度(固形物)または粘度(液状物)を予測または制御することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のホエイタンパク質の評価方法は、(A)所定の濃度のホエイタンパク質を含む水溶液を、上記水溶液中のホエイタンパク質が変性するまで加熱して、昇温された所定の温度を有する水溶液を得る加熱工程と、(B)上記加熱工程で得られた上記水溶液を、所定の温度まで冷却してゲル化させ、または、液状の状態を保つ温度に維持して、かたさの測定用の被測定物を得る被測定物調製工程と、(C)上記被測定物調製工程で得られた上記被測定物のかたさを測定して、上記ホエイタンパク質が有する粘性付与能力を評価するかたさ測定工程、を含む。
以下、各工程を詳しく説明する。
【0014】
[(A)加熱工程]
加熱工程は、所定の濃度のホエイタンパク質を含む水溶液を、上記水溶液中のホエイタンパク質が変性するまで加熱して、昇温された所定の温度を有する水溶液を得る工程である。
本発明において、「ホエイタンパク質」は、ホエイタンパク質精製物(WPI)、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質加水分解物(WPH)等を包含する概念を有する。
水溶液中のホエイタンパク質の濃度は、ホエイタンパク質の粘性付与能力の大きさの評価の精度を高める観点から、好ましくは10〜30重量%、より好ましくは15〜25重量%である。該濃度は、本発明の評価方法を実施するに際し、予め、特定の一つの値(例えば、20重量%)に定めておく。
【0015】
本発明で用いるホエイタンパク質は、例えば、ゲル状食品の材料の一つとして用いる場合には、好ましくは、α−ラクトアルブミン(α−La)の含有率が11〜20重量%で、かつ、β−ラクトグロブリン(β−Lg)の含有率が30〜60重量%のものである。
上述の特許文献3の記載によれば、ホエイタンパク質について、α−ラクトアルブミンおよびβ−ラクトグロブリンの各含有率を測定すれば、このホエイタンパク質の粘性付与能力の大きさ(ゲル化能力の大きさ)をある程度、予測することができると考えられる。この点、本発明では、α−ラクトアルブミンおよびβ−ラクトグロブリンの各含有率を測定しなくても、ホエイタンパク質の粘性付与能力の大きさを、高い精度で予測することができる。
【0016】
ホエイタンパク質を含む水溶液は、水、ホエイタンパク質、および、必要に応じて配合される他の物質を含む。
必要に応じて配合される他の物質としては、pH調整剤、抑泡剤、安定剤、糖類、香料等が挙げられる。これら他の物質の配合量は、通常、ホエイタンパク質を含む水溶液の全量(100重量%)中の割合で、10質量%以下である。
加熱前のホエイタンパク質を含む水溶液の温度は、通常、室温(35℃以下)である。
加熱温度は、水溶液中のホエイタンパク質を変性させうる温度であればよく、好ましくは50℃以上、より好ましくは50〜90℃、さらに好ましくは55〜80℃、さらに好ましくは57〜75℃、特に好ましくは60〜70℃である。加熱温度が90℃以下であれば、ホエイタンパク質の過度の変性による本発明における評価の精度の低下を避けることができる。また、加熱に要するエネルギーを節減することができる。
【0017】
加熱時間は、ホエイタンパク質の変性が不十分であることによる本発明における評価の精度の低下を避ける観点から、好ましくは1分間以上、より好ましくは3〜60分間、特に好ましくは5〜30分間である。加熱時間が60分間以下であれば、本発明の評価方法を短時間で効率的に行うことができる。
加熱によって得られる水溶液における「昇温された所定の温度」とは、上述の加熱温度の好ましい範囲と同じであり、好ましくは50℃以上、より好ましくは50〜90℃、さらに好ましくは55〜80℃、さらに好ましくは57〜75℃、特に好ましくは60〜70℃である。この「昇温された所定の温度」は、本発明の評価方法を実施するに際し、予め、特定の一つの値(例えば、60℃)に定めておく。
【0018】
[(B)被測定物調製工程]
被測定物調製工程は、加熱工程(A)で得られた水溶液を、所定の温度(冷却温度)まで冷却してゲル化させ、または、液状の状態を保つ温度(液状維持温度)に維持して、かたさの測定用の被測定物を得る工程である。
冷却温度は、後述のかたさ測定工程で、被測定物の圧縮時の応力の測定の際に必要なゲル状の状態が得られるものであればよく、好ましくは40℃以下、より好ましくは35℃以下、特に好ましくは30℃以下である。冷却温度の下限値は、水溶液が凍結しない温度であればよく、特に限定されないが、本発明の評価方法を短時間で効率的に行うなどの観点から、好ましくは5℃、より好ましくは10℃である。
冷却温度は、本発明の評価方法の精度を高める観点から、本発明の評価方法を実施するに際し、予め、特定の一つの値(例えば、20℃)に定めておくことが、最も好ましい。また、冷却温度は、特定の一つの値(例えば、20℃)に定めない場合であっても、本発明の評価方法の精度の低下を避ける観点から、特定の数値範囲内(例えば、10〜25℃)に収まるように調整することが好ましい。
【0019】
液状維持温度は、後述のかたさ測定工程で、上記被測定物の伸長時の抵抗力の測定、および、被測定物の水平方向の回転時の抵抗力の測定の際に、液状の状態を維持しうるものであればよく、好ましくは50℃以上、より好ましくは55℃以上、特に好ましくは60℃以上である。液状維持温度の上限値は、上記加熱工程における加熱温度の上限値と同じであり、好ましくは90℃、より好ましくは80℃、さらに好ましくは75℃、特に好ましくは70℃である。
液状維持温度は、本発明の評価方法の精度を高める観点から、本発明の評価方法を実施するに際し、予め、特定の一つの値(例えば、60℃)に定めておくことが、最も好ましい。また、液状維持温度は、特定の一つの値(例えば、60℃)に定めない場合であっても、本発明の評価方法の精度の低下を避ける観点から、特定の数値範囲内(例えば、60〜70℃)に収まるように調整することが好ましい。
【0020】
[(C)かたさ測定工程]
かたさ測定工程は、被測定物調製工程(B)で得られた被測定物のかたさを測定して、ホエイタンパク質が有する粘性付与能力(ゲル化能力)を評価する工程である。
ここで、「被測定物のかたさ」とは、被測定物がゲル状である場合における固形物としての硬さと、被測定物が液状である場合における液状物としての粘性の高さ(例えば、とろみの有無)の両方を包含する概念を有する。
被測定物のかたさの測定は、例えば、上記被測定物の圧縮時の応力の測定、上記被測定物の伸長時の抵抗力の測定、および、上記被測定物の水平方向の回転時の抵抗力の測定、の中から選択される一つ以上の測定として行うことができる。
本発明において、本発明の評価の精度を高める観点から、被測定物のかたさの測定として、被測定物の圧縮時の応力を測定することが好ましい。
【0021】
被測定物の圧縮時の応力は、例えば、クリープメーター(製品名;山電社製)を用いて、被測定物の試料(特定の寸法を有するゲル状のもの)を、特定の治具(プランジャー)を用いて試料の面に対して垂直な方向にかつ一定の圧縮速度で、プランジャーの進入距離が特定の値になるまで圧縮し、進入距離が特定の値に達するまでにプランジャーの受けた荷重が最大となった時点における応力(単位:N/m)として測定することができる。
被測定物の圧縮時の応力の測定に用いる機器の例としては、「クリープメーター RE2−33005C」(山電社製)、「テクスチャーアナライザ EZTest」(島津製作所社製)、「テクスチャーアナライザー TA−XT2i」(Stable Micro Systems社製)、「テクスチャーアナライザー CT3」(BEOOKFIELD社製)「Physica MCR 301」(Anton Paar社製)等が挙げられる。
【0022】
被測定物の伸長時の抵抗力は、例えば、被測定物である試料(昇温によって変性させるとともに、変性時の高温を維持している液状のもの)に挿入させた治具を、鉛直上向きに引き上げて、その際に治具にかかる法線力(Normal Force)のピーク値(単位:N)として測定することができる。
被測定物の伸長時の力の測定に用いる機器の例としては、「Physica MCR 301」(Anton Paar社製)、「クリープメーター RE2−33005C」(山電社製)、「テクスチャーアナライザ EZTest」(島津製作所社製)、「テクスチャーアナライザー TA−XT2i」(Stable Micro Systems社製)、「テクスチャーアナライザー CT3」(BEOOKFIELD社製)等が挙げられる。
【0023】
被測定物の水平方向の回転時の抵抗力は、例えば、被測定物である水平方向に回転させている試料(昇温によって変性させるとともに、変性時の高温を維持している液状のもの)に挿入させた治具について、撹拌の抵抗力のピーク値(単位:N)として測定することができる。
被測定物の水平方向の回転時における、被測定物に挿入した治具の抵抗力の測定に用いる機器の例としては、「Physica MCR 301」(Anton Paar社製)、「TV25形粘度計」(東機産業社製)、「TPE−100形粘度計」(東機産業社製)、「デジタル粘度計DV2T」(BEOOKFIELD社製)、「デジタル粘度計DV1M」(BEOOKFIELD社製)等が挙げられる。
【0024】
[本発明のホエイタンパク質を含む飲食物の製造方法]
本発明のホエイタンパク質を含む飲食物の製造方法(以下、本発明の製造方法と略すことがある。)は、上述のホエイタンパク質の評価方法によって、ホエイタンパク質を評価した後、該ホエイタンパク質と同じ種類のホエイタンパク質を用いて、所望のゲル強度(固形物)または粘度(液状物)を有する飲食物を製造する方法である。
本発明の製造方法で得られる飲食物が、ゲル状である場合、このゲル状の飲食物のまとまりやすさ(ゲル強度)は、例えば、同心円法によるLST値によって評価することができる。この場合、LST値が小さいほど、強いまとまり感を有する。
【0025】
同心円法によるLST値の測定は、例えば、以下の手順で行われる。
(a)水平な場所に敷設したシートの上に、内径30mmの円筒管を置く。
(b)測定対象物であるゲル状の固形物を、前記(a)の円筒管の中に、すり切り一杯(20mL)まで収容した後、30秒間静置する。
(c)前記(a)の円筒管を鉛直方向に持ち上げ、次いで、30秒間経過後の時点におけるゲル状の固形物の広がり距離を、60度の間隔を空けて計6点の地点で測定する。
(d)前記(c)で得られた6つの測定値(測定の温度:20℃)の平均値を、LST(Line Spread Test)値とする。
【0026】
本発明において、嚥下困難な高齢者向けの飲食物を調製する場合、LST値は、好ましくは15〜50、より好ましくは17〜45、特に好ましくは20〜40である。
本発明において、嚥下困難な高齢者向けのゲル状食品を調製する場合、LST値は、好ましくは15〜25、より好ましくは20〜23である。LST値が20以上であると、離水などの影響により適度な口腔内における付着感を有し、飲み込みやすい物性である。LST値が25以下であると、口腔内の舌の上での適度なまとまりを有しており、飲み込みやすい物性である。一方、LST値が25を超えると、嚥下困難な高齢者向けのゲル状食品を調製する場合には、口腔内の舌の上でのまとまりが不足するものの、嚥下困難な高齢者向けの飲料を調製する場合には、好ましい流動性を得ることができる。
本発明において、嚥下困難な高齢者向けの飲料を調製する場合、LST値は、好ましくは25〜50、より好ましくは25〜45、特に好ましくは25〜40である。この場合、嚥下困難な高齢者向けの飲料の粘度は、好ましくは50〜300mPa・s、より好ましくは80〜230mPa・s、特に好ましくは100〜180mPa・sである。
【0027】
本発明の製造方法において、ホエイタンパク質は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
ホエイタンパク質として、一種を単独で使用する場合と、二種以上を組み合わせて使用する場合のいずれにおいても、ホエイタンパク質以外の材料の種類および配合割合を選択または調整することによって、最終目的物である飲食品のゲル強度(固形物)または粘度(液状物)を、予測または所望の値に調整することができる。
この場合、本発明のホエイタンパク質を含む飲食物は、例えば、ロットの違いによるゲル強度や粘度のばらつきの少ない飲食物として提供されることができる。
【0028】
二種以上のホエイタンパク質を組み合わせて使用する場合、例えば、特定の低い粘度(例えば、とろみのない液状の飲食物を調製可能な粘度)を与えることのできるホエイタンパク質(低粘度ホエイタンパク質)100重量部に対して、特定の高い粘度(例えば、ゲル状の食品を調製可能な粘度)を与えることのできるホエイタンパク質(高粘度ホエイタンパク質)を所定の量(例えば、10〜100重量部の間で定められる任意の量)だけ配合することによって、所望の粘度(例えば、とろみのある液状の粘度)を有する飲食物を製造することができる。
この場合、本発明のホエイタンパク質を含む飲食物は、例えば、高齢者の介護用の食品の分野において、高齢者の嚥下機能の程度に応じた最適な粘度を有する複数の種類の食品として供されることができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例によって本発明を説明する。以下の実施例は、本発明を限定するものではなく、本発明は、特許請求の範囲を外れない限りにおいて、種々の実施形態をとることができる。
[実施例1]
(a)ホエイタンパク質を含む水溶液の調製
ホエイタンパク質として、α−ラクトアルブミン(本明細書中、「α−LA」と略記することがある。)の含有率が17.3重量%で、かつ、β−ラクトグロブリン(本明細書中、「β−LG」と略記することがある。)の含有率が48.9重量%である、ロットA(特定の製造時期のロット)のホエイタンパク質(デンマーク製;以下、ホエイタンパク質Aという。)を用いた。
イオン交換水(液温:20℃)400gに、「ホエイタンパク質A」100gを加えて、混合した。得られたホエイタンパク質水溶液を、60℃の湯浴中で、60℃の温度が15分間維持されるように加熱して、60℃に昇温されたホエイタンパク質水溶液を得た。次いで、このホエイタンパク質水溶液を室温(20℃)に冷却し、ゲル状の固形物Aを得た。
【0030】
得られたゲル状の固形物Aについて、クリープメーター「RE2−33005C」を用いて、圧縮時の応力を測定したところ、圧縮時の応力は、3,200(N/m)であった。
また、冷却前の液温60℃のホエイタンパク質水溶液について、「Physica MCR 301」を用いて、伸長時の抵抗力を測定したところ、伸長時の抵抗力は、−2.16E−01(N)であった。
さらに、冷却前の液温60℃のホエイタンパク質水溶液について、「Physica MCR 301」を用いて、水平方向の回転時の抵抗力(表2中、「水平回転時の抵抗力」と略記した。)を測定したところ、水平方向の回転時の抵抗力は、−6.20E−02(N)であった。
ここで、これら3つの測定の条件は、以下のとおりである。
【0031】
[圧縮時の応力]
使用機器:クリープメーター RE2−33005C(山電社製)
測定温度:20℃
測定歪率:66.67%
測定速度:10mm/秒
戻り距離:8.00mm
サンプル厚さ:15.00mm(専用セル使用)
プランジャー:直径20mm・厚
【0032】
[伸長時の抵抗力、および、水平方向の回転時の抵抗力]
使用機器:Physica MCR 301(Anton Paar社製)
測定治具:ST24−2D/2V/2V−30(Physica MCR 301専用治具;Anton Paar社製)
測定容器:STANDARD MEASURING SYSTEMvCC27/T200/SS(Physica MCR 301専用治具;Anton Paar社製)
サンプル量:40g
測定値:以下の表1に示す「STEP 1」〜「STEP 5」の一連の操作における「STEP 3」中の試料の撹拌時の抵抗力(後で詳述する。)、および「STEP 5」中の治具にかかる法線力(後で詳述する。)を、各々、「水平方向の回転時の抵抗力」、「伸長時の抵抗力」と称する。
【0033】
【表1】
【0034】
表1中、「STEP 1」〜「STEP 5」の各操作について説明する。
「STEP 1」は、温度を25℃に保持しつつ、撹拌によって試料を均一にする工程である。
「STEP 2」は、昇温速度(単位:℃/秒(s))を一定にして、20℃から60℃に昇温する工程である。
「STEP 3」は、温度を60℃に保持して、試料を変性させる工程である。その際、試料の撹拌時の治具による抵抗力を検出する。この抵抗力のピーク値(最大値)を、上述の「水平方向の回転時の抵抗力」と称する。
「STEP 4」は、撹拌を止めて、試料を安定化させる工程である。
「STEP 5」は、治具を鉛直上向きに引き上げて、その際に治具にかかる法線力(Normal Force)を検出する工程である。この法線力のピーク値を、上述の「伸長時の抵抗力」と称する。
【0035】
(b)ホエイタンパク質を含む飲食物A−1(ゲル状;ホエイタンパク質:4重量%)の製造
前記(a)のホエイタンパク質Aを用いて、以下のようにして、飲食物A−1を製造した。
ホエイタンパク質精製物(WPI;Whey Protein Isolate)4.5重量%(飲食物の全量100重量%中の割合;以下、同じ)、糖類14.2重量%、食用油2.5重量%、ミネラル類1.4重量%、ゲル化剤0.8重量%、pH調整剤0.4重量%、ビタミン類0.2重量%、香料0.2重量%、消泡剤0.2重量%、乳化剤0.05重量%、および、イオン交換水(残余の量;液温:60℃)を混合して、飲食物A−1(ホエイタンパク質:4重量%)を得た。
なお、飲食物A−1の製造は、より詳しくは、イオン交換水(液温:60℃)に、ホエイタンパク質精製物(WPI)、糖類、食用油、ゲル化剤、pH調整剤、ビタミン類、香料、消泡剤、および乳化剤を添加して混合し、液温60℃の混合物を得た後、この混合物と、ミネラル類(粉体)を混合し、均一になるまで撹拌し、次いで、20℃まで冷却することによって行った。
得られた飲食物A−1について、同心円法によるLST値を測定したところ、LST値は、22.0であった。
【0036】
(c)ホエイタンパク質を含む飲食物A−2(ゲル状;ホエイタンパク質:6重量%)の製造
前記(a)のホエイタンパク質Aを用いて、以下のようにして、飲食物A−2を製造した。
ホエイタンパク質精製物(WPI)6.2重量%(飲食物の全量100重量%中の割合;以下、同じ)、ホエイタンパク質加水分解物(WPH;Whey Protein Hydrolyzed)0.7重量%、糖類14.2重量%、食用油2.5重量%、ミネラル類1.4重量%、ゲル化剤0.7重量%、pH調整剤0.4重量%、ビタミン類0.2重量%、香料0.2重量%、消泡剤0.2重量%、乳化剤0.05重量%、および、イオン交換水(残余の量;液温:60℃)を混合して、飲食物A−2(ホエイタンパク質:6重量%)を得た。
なお、飲食物A−2の製造のより詳しい手順は、飲食物A−1(ホエイタンパク質:4重量%)と同様であった。
得られた飲食物A−2について、同心円法によるLST値を測定したところ、LST値は、21.1であった。
飲食物A−1および飲食物A−2は、嚥下困難な高齢者向けのゲル状食品として好ましい物性(LST値)を有する。
【0037】
(d)ホエイタンパク質を含む飲食物A−3(液状;ホエイタンパク質:7重量%)の製造
前記(a)のホエイタンパク質Aを用いて、以下のようにして、飲食物A−3を製造した。
ホエイタンパク質精製物(WPI)7.0重量%(飲食物の全量100重量%中の割合;以下、同じ)、糖類5.0重量%、pH調整剤0.05重量%、香料0.2重量%、消泡剤0.1重量%、安定剤0.3重量%、および、イオン交換水(残余の量;液温:60℃)を混合して、混合物を得た後、該混合物について90℃、10分間の殺菌を行い、得られた殺菌済の混合物を20℃まで冷却して、飲食物A−3(液状;ホエイタンパク質:7重量%)を得た。
飲食物A−3の粘度を以下の条件で測定した。その結果、粘度は、789mPa・sであった。この粘度の値は、どろどろすぎて、飲み込みにくいことを示す。
(条件)
使用機器:B型粘度計(製品名:VISCOMETER TVB−10、東機産業社製)
液温:20℃
測定条件:60rpm
測定時間:30秒後の粘度を測定
【0038】
[実施例2]
(a)ホエイタンパク質を含む水溶液の調製
ホエイタンパク質として、α−ラクトアルブミンの含有率が14.3重量%で、かつ、β−ラクトグロブリンの含有率が46.2重量%である、ロットB(ロットAとは異なる製造時期のロット)のホエイタンパク質(以下、ホエイタンパク質Bという。)を用いた。
ホエイタンパク質Aに代えてホエイタンパク質Bを用いた以外は実施例1と同様にして、ホエイタンパク質水溶液を得た。次いで、このホエイタンパク質水溶液を室温(20℃)に冷却し、ゲル状の固形物Bを得た。
得られたゲル状の固形物Bについて、クリープメーターを用いて、圧縮時の応力を測定したところ、圧縮時の応力は、1,485(N/m)であった。
また、冷却前の液温60℃のホエイタンパク質水溶液について、「Physica MCR 301」を用いて、伸長時の抵抗力を測定したところ、伸長時の抵抗力は、−7.52E−02(N)であった。
さらに、冷却前の液温60℃のホエイタンパク質水溶液について、「Physica MCR 301」を用いて、水平方向の回転時の抵抗力を測定したところ、水平方向の回転時の抵抗力は、−5.60E−03(N)であった。
【0039】
[実施例3]
(a)ホエイタンパク質を含む水溶液の調製
ホエイタンパク質として、α−ラクトアルブミンの含有率が10.6重量%で、かつ、β−ラクトグロブリンの含有率が56.6重量%である、ロットC(ロットA〜Bとは異なる製造時期のロット)のホエイタンパク質(以下、ホエイタンパク質Cという。)を用いた。
ホエイタンパク質Aに代えてホエイタンパク質Cを用いた以外は実施例1と同様にして、ホエイタンパク質水溶液を得た。次いで、このホエイタンパク質水溶液を室温(20℃)に冷却し、ゲル状の固形物Cを得た。
得られたゲル状の固形物Cについて、クリープメーターを用いて、圧縮時の応力を測定したところ、圧縮時の応力は、500(N/m)であった。
また、冷却前の液温60℃のホエイタンパク質水溶液について、「Physica MCR 301」を用いて、伸長時の抵抗力を測定したところ、伸長時の抵抗力は、−6.13E−02(N)であった。
さらに、冷却前の液温60℃のホエイタンパク質水溶液について、「Physica MCR 301」を用いて、水平方向の回転時の抵抗力を測定したところ、水平方向の回転時の抵抗力は、−5.37E−03(N)であった。
【0040】
(b)ホエイタンパク質を含む飲食物C−3(液状;ホエイタンパク質:7重量%)の製造
ホエイタンパク質Aに代えてホエイタンパク質Cを用いた以外は実施例1の飲食物A−1と同様にして、飲食物C−1を製造した。
得られた飲食物C−1について、実施例1の飲食物A−1と同様にして、同心円法によるLST値を測定したところ、LST値は、25.5であった。
また、ホエイタンパク質Aに代えてホエイタンパク質Cを用いた以外は実施例1の飲食物A−3と同様にして、飲食物C−3を製造した。
得られた飲食物C−3について、実施例1の飲食物A−3と同様にして、粘度を測定したところ、粘度は、130mPa・sであった。この粘度の値は、適度なとろみを有し、飲み心地が良いことを示す。
飲食物C−3は、嚥下困難な高齢者向けの飲料として好ましい物性(粘度)を有する。
以上の結果を表2(ホエイタンパク質を含む水溶液を用いたかたさの測定)、および表3(ホエイタンパク質を材料の一つとして用いて製造した飲食物の物性)に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
表2および表3中、実施例1、3の結果から、本発明の評価方法で測定して得られた被測定物(例えば、ホエイタンパク質を含む水溶液を用いて得られたゲル状物)のかたさ(特に、圧縮時の応力の値;単位:N/m)と、この被測定物に含まれるホエイタンパク質を用いて製造された飲食物の物性(ゲル状物のLST値、または、液状物の粘度)は、相関関係があることがわかる。
例えば、実施例1と実施例3を比較すると、実施例1では、圧縮時の応力が3,200N/m(表2)であり、液状物の粘度が789mPa・s(表3)であるのに対し、実施例3では、圧縮時の応力が500N/m(表2)であり、液状物の粘度が130mPa・s(表3)であるので、実施例1に比べて実施例3では、圧縮時の応力および液状物の粘度の各々について、約1/6の値を得ていることがわかる。つまり、圧縮時の応力(表2)と、液状物の粘度(表3)とは、高い相関関係を有することがわかる。
そして、この相関関係を利用すれば、本発明の評価方法で得られたホエイタンパク質の評価結果(粘性付与能力の大きさ)に基づいて、このホエイタンパク質を用いて製造される飲食物のゲル強度または粘度の大きさを予測または制御しうることがわかる。
【0044】
一方、表2中、例えば、実施例1と実施例2を比較すると、α−ラクトアルブミンの含有率、β−ラクトグロブリンの含有率、α−ラクトアルブミンとβ−ラクトグロブリンの含有率の比のいずれについても、実施例1と実施例2とで大きな差が見られないものの、「物性」の欄の「圧縮時の応力(N/m)」については、実施例1と実施例2とで大きな差が見られる。このことから、α−ラクトアルブミンとβ−ラクトグロブリンの各含有率を用いたのでは、ホエイタンパク質を用いて製造された飲食物の物性について、高精度の予測が困難であることがわかる。