(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
試料の表面に接触又は近接させる探針が設けられたカンチレバーと、前記カンチレバーの変位を示す信号を検出する変位検出器と、前記信号に基づいて前記カンチレバーと前記試料の表面との間の所定の物理量を一定に維持させながら、前記探針を前記試料の表面に沿って相対的に走査させたときに得られた測定データを取得する走査プローブ顕微鏡において、
前記測定データを取得する前に、前記探針を粗く走査させたプリスキャンを行ったとき、前記信号の最大値と最小値から、測定幅=(前記最大値−前記最小値)と、オフセット量=(前記測定幅/2)+前記最小値を算出する測定レンジ算出手段と、
前記プリスキャンを行ったときの、前記試料の表面の同一位置での前記信号の経時変化量に基づき、前記オフセット量又は前記測定幅のうち少なくともいずれか一方を補正する算出データ補正手段と、
前記信号に基づいて、前記測定データを取得する測定データ取得手段と、
をさらに備えたことを特徴とする走査プローブ顕微鏡。
試料の表面に接触又は近接させる探針が設けられたカンチレバーの変位を示す信号を検出し、前記信号に基づいて前記カンチレバーと前記試料の表面との間の所定の物理量を一定に維持させながら、前記探針を前記試料の表面に沿って相対的に走査させたときに得られた測定データを取得する走査プローブ顕微鏡を用い、
前記測定データを取得する前に、前記探針を粗く走査させたプリスキャンを行ったとき、前記信号の最大値と最小値から、測定幅=(前記最大値−前記最小値)と、オフセット量=(前記測定幅/2)+前記最小値を算出する測定レンジ算出過程と、
前記プリスキャンを行ったときの、前記試料の表面の同一位置での前記信号の経時変化量に基づき、前記オフセット量又は前記測定幅のうち少なくともいずれか一方を補正する算出データ補正過程と、
前記信号に基づいて、前記測定データを取得する測定データ取得過程と、
を有する走査プローブ顕微鏡の測定レンジ調整方法。
試料の表面に接触又は近接させる探針が設けられたカンチレバーの変位を示す信号を検出し、前記信号に基づいて前記カンチレバーと前記試料の表面との間の所定の物理量を一定に維持させながら、前記探針を前記試料の表面に沿って相対的に走査させたときに得られた測定データを取得する走査プローブ顕微鏡を用い、
前記測定データを取得する前に、前記探針を粗く走査させたプリスキャンを行ったとき、前記信号の最大値と最小値から、測定幅=(前記最大値−前記最小値)と、オフセット量=(前記測定幅/2)+前記最小値を算出する測定レンジ算出過程と、
前記プリスキャンを行ったときの、前記試料の表面の同一位置での前記信号の経時変化量に基づき、前記オフセット量又は前記測定幅のうち少なくともいずれか一方を補正する算出データ補正過程と、
前記信号に基づいて、前記測定データを取得する測定データ取得過程と、
をコンピュータに実行させる走査プローブ顕微鏡の測定レンジ調整プログラム。
【背景技術】
【0002】
走査プローブ顕微鏡は、探針を試料表面に近接又は接触させ、試料の表面形状や物性を測定するものである。走査プローブ顕微鏡の測定モードとしてはSTM(走査トンネル顕微鏡)AFM(走査原子間力顕微鏡)など多くの種類が存在する。もっとも良く使用されるAFMは、(1)探針と試料の間の原子間力をカンチレバーのたわみとして検出し、一定に保って試料の表面形状を測定するコンタクト・モードの他、(2)カンチレバーをピエゾ素子等によって共振周波数近傍で強制振動させ、探針を試料に接触又は近接させた時に、両者の間にはたらく間欠的な力によって探針の振幅が変化するのを利用して試料の形状を測定する方法(以下、適宜「ダイナミック・フォース・モード(DFM測定モード)」という)などが知られている(特許文献1参照)。
これらの各種モードで動作する走査プローブ顕微鏡は、カンチレバーの変位を示す信号を検出し、この信号に基づいてカンチレバーと試料の表面との間の物理量(力や振動振幅)を一定に維持させながら、探針を試料の表面に沿って相対的に走査させ、試料表面形状や、カンチレバーと試料が相互作用した物理的な測定データを取得する。この際、信号を適宜増幅して測定データの取得に用いている。
【0003】
ところで、上記信号を検出する場合、試料の表面凹凸が大きければ信号も大きくなるので、信号を取りこぼさないよう、その信号を取り込むレンジである測定幅(最大値と最小値)を大きくする必要がある。一方、微小な凹凸を検出する場合、測定幅が大き過ぎると、信号の取りこぼしは生じないが、微小な信号が取りきれなかったり、信号を増幅後のダイナミックレンジやS/N比が劣化するおそれがある。
このようなことから、測定データを取得する前に、予め試料の代表的な表面を走査検出した上記信号の最大値と最小値とから、本測定での測定幅を手動で設定することが行われている。
又、本出願人は、予め試料の表面を粗く走査させた際の上記信号(カンチレバーの変位信号や、カンチレバーと試料が相互作用した物理的な信号)を、公知の自動利得制御(AGC:Automatic Gain Control )回路を用いて増幅し、信号の出力を適切に調整する走査プローブ顕微鏡を販売している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、走査プローブ顕微鏡で測定を行う際、周囲の温度が変化したり、カンチレバーを走査するピエゾ素子の歪み量が一定とならないクリープ現象が生じる等により、増幅前の信号が測定中にドリフトすることがある。
特に、微小な凹凸や上記物理的な信号を検出する際には、S/N比を高くする目的で測定幅を小さく設定するため、ドリフトが生じて信号が測定幅を逸脱すると、信号の検出ができなくなる「取りこぼし」が発生する。又、上記ドリフトは、測定時間が長くなるほど大きくなる傾向にあるため、長い測定時間が必要な大面積の試料の測定になるにつれ、ドリフトの影響が大きくなるという問題がある。
【0006】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、周囲の温度等が変化して測定中に信号がドリフトしても、このドリフトを補正し、測定データの取得を精度よく行える走査プローブ顕微鏡、走査プローブ顕微鏡の測定レンジ調整方法及び測定レンジ調整プログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の走査プローブ顕微鏡は、試料の表面に接触又は近接させる探針が設けられたカンチレバーと、前記カンチレバーの変位を示す信号を検出する変位検出器と、前記信号に基づいて前記カンチレバーと前記試料の表面との間の所定の物理量を一定に維持させながら、前記探針を前記試料の表面に沿って相対的に走査させたときに得られた測定データを取得する走査プローブ顕微鏡において、前記測定データを取得する前に、前記探針を粗く走査させたプリスキャンを行ったとき、前記信号の最大値と最小値から、測定幅=(前記最大値−前記最小値)と、オフセット量=(前記測定幅/2)+前記最小値を算出する測定レンジ算出手段と、前記プリスキャンを行ったときの、前記試料の表面の同一位置での前記信号の経時変化量に基づき、前記オフセット量又は前記測定幅のうち少なくともいずれか一方を補正する算出データ補正手段と、前記信号に基づいて、前記測定データを取得する測定データ取得手段と、をさらに備えたことを特徴とする。
この走査プローブ顕微鏡によれば、周囲の温度等が変化して測定中に信号がドリフトしても、プリスキャンを行ったときの記試料の表面の同一位置での信号の経時変化量に基づいてドリフトを補正するので、測定データの取得を精度よく行える。
なお、この信号としては、試料表面形状や、カンチレバーと試料が相互作用した物理的な信号が挙げられる。
【0008】
前記補正されたオフセット量及び/又は前記測定幅から前記信号を増幅するための利得を決定する利得決定手段と、前記利得決定手段によって決定された利得により、前記信号を増幅して増幅信号を生成する増幅手段と、を更に備え、前記測定データ取得手段は、前記増幅手段が増幅した前記増幅信号に基づいて、前記測定データを取得するとよい。
この走査プローブ顕微鏡によれば、ドリフトが補正された信号を適切に増幅できるので、測定データの取得をさらに精度よく行える。
【0009】
前記増幅手段は、自動利得制御回路であってもよい。
この走査プローブ顕微鏡によれば、公知の自動利得制御回路を用いて適切に増幅できる。
【0010】
本発明の走査プローブ顕微鏡の測定レンジ調整方法は、試料の表面に接触又は近接させる探針が設けられたカンチレバーの変位を示す信号を検出し、前記信号に基づいて前記カンチレバーと前記試料の表面との間の所定の物理量を一定に維持させながら、前記探針を前記試料の表面に沿って相対的に走査させたときに得られた測定データを取得する走査プローブ顕微鏡を用い、前記測定データを取得する前に、前記探針を粗く走査させたプリスキャンを行ったとき、前記信号の最大値と最小値から、測定幅=(前記最大値−前記最小値)と、オフセット量=(前記測定幅/2)+前記最小値を算出する測定レンジ算出過程と、前記プリスキャンを行ったときの、前記試料の表面の同一位置での前記信号の経時変化量に基づき、前記オフセット量又は前記測定幅のうち少なくともいずれか一方を補正する算出データ補正過程と、前記信号に基づいて、前記測定データを取得する測定データ取得過程と、を有する。
【0011】
本発明の走査プローブ顕微鏡の測定レンジ調整プログラムは、試料の表面に接触又は近接させる探針が設けられたカンチレバーの変位を示す信号を検出し、前記信号に基づいて前記カンチレバーと前記試料の表面との間の所定の物理量を一定に維持させながら、前記探針を前記試料の表面に沿って相対的に走査させたときに得られた測定データを取得する走査プローブ顕微鏡を用い、前記測定データを取得する前に、前記探針を粗く走査させたプリスキャンを行ったとき、前記信号の最大値と最小値から、測定幅=(前記最大値−前記最小値)と、オフセット量=(前記測定幅/2)+前記最小値を算出する測定レンジ算出過程と、前記プリスキャンを行ったときの、前記試料の表面の同一位置での前記信号の経時変化量に基づき、前記オフセット量又は前記測定幅のうち少なくともいずれか一方を補正する算出データ補正過程と、前記信号に基づいて、前記測定データを取得する測定データ取得過程と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、周囲の温度等が変化して測定中に信号がドリフトしても、このドリフトを補正し、測定データの取得を取りこぼすことなく精度よく行える。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
図1は本発明の実施形態に係る走査プローブ顕微鏡200のブロック図である。なお、
図1(a)が走査プローブ顕微鏡200の全体図であり、
図1(b)はカンチレバー1近傍の部分拡大図である。
図1(a)において、走査プローブ顕微鏡200は、先端に探針99を有するカンチレバー1と、試料300が載置される試料台10と、カンチレバー1に振動を与えるカンチレバー加振部3と、カンチレバー加振部3を駆動させるための加振電源(加振信号発生器)21と、カンチレバー1の変位を示す信号を検出する変位検出器5と、交流−直流変換機構6と、制御手段(プローブ顕微鏡コントローラー24、コンピュータ40)等とを有する。
プローブ顕微鏡コントローラー24は周波数・振動特性検出機構7を有している。さらに、周波数・振動特性検出機構7は、信号の利得を制御する自動利得制御(AGC:Automatic Gain Control )回路7aを搭載している。
コンピュータ40は、走査プローブ顕微鏡200の動作を制御するための制御基板、CPU(中央制御処理装置)、ROM、RAM、ハードディスク等の記憶手段、インターフェース、操作部等を有する。
なお、走査プローブ顕微鏡200は、カンチレバー1が固定され、試料300側をスキャンするサンプルスキャン方式となっている。
【0016】
プローブ顕微鏡コントローラー24は、後述するZ制御回路20、周波数・振動特性検出機構7、加振電源21、X,Y,Z出力アンプ22、粗動制御回路23を有する。プローブ顕微鏡コントローラー24はコンピュータ40に接続されてデータの高速通信が可能である。コンピュータ40は、プローブ顕微鏡コントローラー24内の回路の動作条件を制御し、測定されたデータを取り込み制御し、カンチレバー1のQ値及び共振周波数の測定、Qカーブ測定(周波数・振動特性)、表面形状測定、表面物性測定、フォースカーブ測定、などを実現する。
【0017】
又、コンピュータ40は、測定レンジを算出し、周波数・振動特性検出機構7へ入力される信号の利得の決定を行う。
コンピュータ40が、特許請求の範囲の「測定レンジ算出手段」、「利得決定手段」、「算出データ補正手段」に相当する。
プローブ顕微鏡コントローラー24からスキャナ11cへ出力されるZスキャナ信号や;プリアンプ50からZ制御手段20へ出力されるカンチレバー1の変位信号や;プリアンプ50から交流-直流変換機構6を経てZ制御回路20へ出力される振幅の信号や;周波数・振動特性検出機構7で検出される位相信号、特定の周波数でのねじれ振幅(摩擦)信号、特定の周波数でのたて振幅(粘弾性)信号や;周波数・振動特性検出機構7から探針と試料間にバイアス電圧を印加するためのバイアス電源回路29へ出力されるオフセットの電位信号など、走査プローブ顕微鏡200で検出する信号が、特許請求の範囲の「信号」に相当する。又、これらの信号がプローブ顕微鏡コントローラー24に入力される部分(
図1でプローブ顕微鏡コントローラー24に入る矢印)には、それぞれ増幅回路が設けられている。
【0018】
上記したプローブ顕微鏡コントローラー24に入力される部分に配置された各増幅回路が、特許請求の範囲の「増幅手段」に相当する。なお、これらの増幅回路は、例えば、マイコン等からなるプローブ顕微鏡コントローラー24の回路基板上に搭載することができる。
また、周波数・振動特性検出機構7に設けられた自動利得制御回路7aも、特許請求の範囲の「増幅手段」に相当する。なお、自動利得制御回路7aは、位相信号検出回路、ねじれ振幅検出回路、縦振幅検出回路、などを有すると共に、その入力段に増幅器が設けられており、実際には自動利得制御回路7aの増幅器が「増幅手段」として機能する。
そして、コンピュータ40は、プローブ顕微鏡コントローラー24の各増幅回路に入力された信号、及び自動利得制御回路7aの入力段に入力された信号を検出し、間口(測定幅とオフセット)を決定し、これらの増幅回路及び自動利得制御回路7aをコントロールする、これにより、信号の増幅が実施される。なお、上述の増幅回路も自動利得制御(AGC:Automatic Gain Control )を行っても良い。
【0019】
増幅された信号に基づいて試料表面形状や、カンチレバーと試料が相互作用した物理量を取得するプローブ顕微鏡コントローラー24が、特許請求の範囲の「測定データ取得手段」に相当する。試料表面形状や、カンチレバーと試料が相互作用した物理量が特許請求の範囲の「測定データ」に相当する。
なお、バイアス電源回路29は、試料台10へ直接バイアス電圧を印加し、探針99と試料300間の表面電位を測定するKFMなどでも使用する。
【0020】
粗動機構12は、アクチュエータ11及びその上方の試料台10を大まかに3次元移動させるものであり、粗動制御回路23によって動作が制御される。
アクチュエータ(スキャナ)11は、試料台10(及び試料300)を3次元に移動(微動)させるものであり、試料台10をそれぞれxy(試料300の平面)方向に走査する2つの(2軸の)圧電素子11a、11bと、試料台10をz(高さ)方向に走査する圧電素子11cと、を備えた円筒になっている。圧電素子は、電界を印加すると結晶がひずみ、外力で結晶を強制的にひずませると電界が発生する素子であり、圧電素子としては、セラミックスの一種であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)を一般に使用することができるが、粗動機構12の形状や動作方法はこれに限られない。
圧電素子11a〜11cはX,Y,Z出力アンプ22に接続され、X,Y,Z出力アンプ22から所定の制御信号(電圧)を出力して圧電素子11a、11bをそれぞれxy方向へ駆動し、圧電素子11cをz方向へ駆動する。圧電素子11cへ出力される電気信号は、プローブ顕微鏡コントローラー24の中で検出され、上述の「測定データ」として取り込まれる。 試料台10上に試料300が載置され、試料300は探針99に対向配置されている。
【0021】
カンチレバー1は、カンチレバーチップ部8の側面に接し、片持ちバネの構造を構成している。カンチレバーチップ部8は、カンチレバーチップ部押さえ9により斜面ブロック2に押さえつけられ、斜面ブロック2は、加振器3に固定されている。そして、加振機3は加振電源21からの電気信号により振動し、カンチレバー1及びその先端の探針99を振動させる。カンチレバーの加振方法として、圧電素子、電場や磁場、光照射、電流の通電なども含まれる。
【0022】
そして、レーザ光源30からレーザ光がダイクロックミラー31に入射されカンチレバー1の背面に照射され、カンチレバー1から反射されたレーザ光はミラー32で反射されて変位検出器5で検出される。変位検出器5は、例えば4分割光検出器であり、カンチレバー1の上下(z方向)の変位量は、カンチレバー1から反射されたレーザの光路の変化(入射位置)として変位検出器5で検出される。つまり、カンチレバー1の振動振幅は、変位検出器5の電気信号の振幅に対応する。
変位検出器5の電気信号の振幅は、プリアンプ50を通過して適宜増幅され、交流−直流変換機構6により振幅の大きさに対応した直流のレベル信号に変換される。なお、プリアンプ50は信号を一定の利得で予備的に増幅するものに過ぎず、本発明の「増幅手段」や「増幅信号」には相当しない。
【0023】
交流−直流変換機構6の直流レベル信号は、Z制御回路20へ入力される。Z制御回路20は、DFM測定モードにおける探針99の目標振幅と一致するように、Z出力アンプ22のZ信号部へ制御信号を伝達し、Z信号部は圧電素子11cをz方向へ駆動する制御信号(電圧)を出力する。すなわち、試料300と探針99の間に働く原子間力によって生じるカンチレバー1の変位を上述の機構で検出し、探針99(カンチレバー1)の振動振幅が目標振幅となるようにアクチュエータ11cを変位させ、探針99と試料300の接する力を制御する。そして、この状態で、X,Y,Z出力アンプ22にてxy方向にアクチュエータ11a、11bを変位させて試料300のスキャンを行い、表面の形状や物性値をマッピングする。
【0024】
又、交流−直流変換機構6の直流レベル信号は、プローブ顕微鏡コントローラー24の周波数・振動特性検出機構7へ入力される。又、加振電源21からの電気信号も、周波数・振動特性検出機構7へ入力される。周波数・振動特性検出機構7は、交流−直流変換機構6及び加振電源21からの入力に基づいて演算した所定の周波数・振動特性信号を処理してロックイン検出によるsin、cos、振幅信号等を取得し、コンピュータ40へ伝達する。
そして、試料台10のxy面内の変位に対して、(i) 試料台10の高さの変位から3次元形状像を、(ii)共振状態の位相の値から位相像を、(iii)振動振幅の目標値との差により誤差信号像を、(iv)探針試料間の物性地から多機能測定像を、コンピュータ40上に表示し、解析や処理を行うことにより、プローブ顕微鏡として動作させる。
【0025】
次に、本発明の特徴部分である、測定レンジを算出して利得を決定し、測定データを取得する方法について説明する。
まず、コンピュータ40は、プローブ顕微鏡コントローラー24を制御してプリスキャンを行う。プリスキャンは、測定データを取得する前に探針99を粗く走査させたスキャンであり、例えば、測定データを取得する本測定の走査数が256である場合に、走査数を8として短時間で測定を行って測定レンジを算出する。具体的には、X,Y,Z出力アンプ22にてxy方向にアクチュエータ11a、11bを変位させる際、(仮想の)走査線上の往復の信号(探針の往復走査であり、
図1の紙面上で試料を左に(探針を右に移動させる方向の往復)を走査数1として取得することにより走査数が8の信号を取得するように、走査数を設定する。測定方法自体は上述の通りである。
そして、コンピュータ40は、周波数・振動特性検出機構7へ入力される信号(直流レベル信号)の最大値と最小値から、測定幅=(最大値−最小値)と、オフセット量=(測定幅/2)+最小値を算出する。さらにコンピュータ40は、プリスキャンを行ったときの、試料の表面の同一の位置での信号の経時変化量に基づき、オフセット量又は測定幅のうち少なくともいずれか一方を補正する。
図2は、測定幅W、オフセット量OFF1の一例を示す。
まず、コンピュータ40は、試料の表面(例えばx方向)に沿って第1回目のスキャンを行い、信号のプロファイルS1を得る。そして、コンピュータ40は、S1の最大値Amaxと最小値Aminを取得し、測定幅Wとオフセット量OFF1を算出する。
図2の例では、Amax=+2.5V、Amin=+0.5V、W=+2.0V,OFF1=+2.0/2+0.5=+1.5Vである。
【0026】
次に、コンピュータ40は、第2回目のスキャンを行い、信号のプロファイルS2を得る。次いで、コンピュータ40は、試料の表面の同一位置PでのS1とS2の信号の経時変化量Cに基づき、オフセット量OFF1を補正する。
本来、試料の表面状態(形状や物性値)はプリスキャンのような短時間の間に変化することはなく、試料の表面の同一の位置で信号が経時変化した場合、それは温度変化等によるドリフトとみなすことができる。そこで、この経時変化量Cをドリフト量とみなしてオフセット量OFF1を補正するのである。具体的には、
図2では、経時変化量C=−0.1Vである。ここで、C<0である場合は、信号がマイナス側へドリフトして測定から漏れることになるので、Aminを補正する。これにより、信号がドリフトしてもすべて測定できることになる。一方、C>0の場合は、信号がプラス側へドリフトして測定から漏れることになるので、Amaxを補正する。
【0027】
但し、経時変化量Cはプリスキャンで得られた値であり、プリスキャンよりも走査数が多い本測定では、ドリフト量Dも走査数(つまり、測定時間)に応じて増えることが予測される。そこで、本測定で増えると予測される増分を経時変化量Cに反映させる。
例えば、本実施形態では、上述のようにプリスキャンの走査数は8であり、本測定ではその32倍の走査数256で測定を行っている。そこで、本測定ではドリフト量Dが32倍に増えると予想し、経時変化量Cに32を乗じた−3.2Vをドリフト量Dとして採用する。
なお、プリスキャンに対する本測定でのドリフト量Dの増分の見積もり方法は上記に限定されるものではない。
【0028】
そして、このドリフト量Dに基づいて、Aminを補正し、補正後の新たなオフセット量OFF2を得る。
具体的には、
図2の例では、ドリフト量D=−3.2Vを用いて最小値Aminの補正を行い、補正後の最小値Amin2に基づいてオフセット量OFF2を得る。具体的には、Amin2=Amin+ドリフト量D=0.5+(−3.2)=−2.7Vとなる。従って、オフセット量OFF2=Amax−((Amax−Amin2)/2)=(2.5+(−2.7))/2)=−0.1Vとなる。また、測定幅は、Amax−Amin2=2.5−(−2.7)=5.2Vとなる。
なお、位置Pは試料の表面のどの場所でも良いが、例えば、最大値Amaxを取得した位置に設定すればよい。又、複数の位置における経時変化量を取得し、それらの平均値をCとしてもよい。又、上記例ではプリスキャンの走査数は8であったが、走査数が3以上の場合には、経時変化量Cは第1回目と第2回目のプロファイルS1,S2の差分に限らず、例えば、第1回目のプロファイルS1と、最後の走査のプロファイルの差分でもよい。
【0029】
次に、コンピュータ40は、測定幅Wから各増幅回路及び自動利得制御回路7aの利得Gを決定すると共に、補正後のオフセット量OFF2から上記オフセット電圧を決定し、この条件で自動利得制御回路7aが動作するよう各増幅回路及び自動利得制御回路7aを制御する。具体的には、オフセット量OFF2をキャンセルするようなオフセット電圧(+0.1V)を各増幅回路及び自動利得制御回路7aへの入力信号に加える。なお、ドリフト量Dは、時間経過での変化なので、オフセット電圧も経時変化を反映した量となる。
なお、利得Gは、各増幅回路及び自動利得制御回路7aのダイナミックレンジ内に抑えるように利得Gを決定される。例えば、
図2の例では、測定幅W=2.0Vであるので、各増幅回路及び自動利得制御回路7aのダイナミックレンジが20.0Vである場合には、利得G(ゲイン)は20.0/2.0=10となる。
【0030】
そして、このオフセット電圧及び利得Gで各増幅回路及び自動利得制御回路7aが動作することで、周囲の温度等が変化して測定中に信号がドリフトしても、このドリフトを補正し、各増幅回路及び自動利得制御回路7aに信号を取りこぼさずに確実に入力できる。
さらに、各増幅回路及び自動利得制御回路7aは信号を適切に増幅して周波数・振動特性検出機構7やプローブ顕微鏡コントローラー24へ入力するので、周波数・振動特性検出機構7やプローブ顕微鏡コントローラー24が周波数・振動特性信号等の各種信号を高精度で演算し、S/N比に優れた高精度の位相像や他の情報を得ることができる。
なお、周波数・振動特性検出機構7が演算した周波数・振動特性信号に基づき、コンピュータ40は位相像の他、上述のように3次元形状像、誤差信号像、多機能測定像等を測定データとして得ることもできる。
又、各増幅回路及び自動利得制御回路7aは、可変ゲインアンプを備えており、電子制御によって利得Gを変えることができる。
【0031】
図3は、上述のコンピュータ40による測定レンジ調整の処理フローを示す。
まず、コンピュータ40は、プローブ顕微鏡コントローラー24を制御してプリスキャンを行い、探針99を粗く走査させる(ステップS2)。次に、コンピュータ40は、得られた信号の最大値Amaxと最小値Aminから、測定幅Wとオフセット量OFF1を算出する(ステップS4)。
次に、コンピュータ40は、試料の表面の同一位置Pでの信号の経時変化量Cを算出する(ステップS6)。そして、コンピュータ40は、経時変化量Cから見積もったドリフト量Dにより、オフセット量OFF1を補正すると共に、測定幅Wから利得Gを決定する(ステップS8)。
次に、コンピュータ40は、ステップS8で得られた利得G、及び補正後のオフセット量OFF2に応じたオフセット電圧で各増幅回路及び自動利得制御回路7aを動作させ(ステップS10)、増幅信号を生成して処理を終了する。
【0032】
本発明の測定レンジ調整プログラムは、上述の
図3で説明した処理フローをコンピュータプログラムとして適宜コンピュータ40の記憶手段に記憶してなり、プローブ顕微鏡コントローラー24及びコンピュータ40が有するCPUによって実行される。
【0033】
本発明は上記実施形態に限定されない。
例えば、上記実施形態では、DFM測定モードについて説明したが、例えばコンタクトモードに、本発明を適用できる。例えば、コンタクトモードで摩擦像を測定する際に、本発明を適用できる。
又、本発明は、走査プローブ顕微鏡のカンチレバー側をスキャンして測定を行うレバースキャン方式にも適用できる。