(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706521
(24)【登録日】2020年5月20日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】渦巻ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 7/04 20060101AFI20200601BHJP
F04D 29/70 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
F04D7/04 H
F04D29/70 G
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-59831(P2016-59831)
(22)【出願日】2016年3月24日
(65)【公開番号】特開2016-188641(P2016-188641A)
(43)【公開日】2016年11月4日
【審査請求日】2018年9月25日
(31)【優先権主張番号】特願2015-67140(P2015-67140)
(32)【優先日】2015年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】川井 政人
(72)【発明者】
【氏名】坂頂 浩美
(72)【発明者】
【氏名】大渕 真志
(72)【発明者】
【氏名】打田 博
(72)【発明者】
【氏名】磯野 美帆
(72)【発明者】
【氏名】東海林 健太
【審査官】
岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】
スイス国特許発明第00063412(CH,A)
【文献】
米国再発行特許発明第00014988(US,E)
【文献】
国際公開第2014/086473(WO,A1)
【文献】
特開2007−205167(JP,A)
【文献】
英国特許出願公告第00408159(GB,A)
【文献】
特開平11−201087(JP,A)
【文献】
実開昭54−067303(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 7/04
F04D 29/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼を有する羽根車と、
前記羽根車を収容する羽根車ケーシングとを備え、
前記羽根車ケーシングは、ボリュート室と、前記ボリュート室に連通する吸込口および吐出口と、前記ボリュート室の巻き始め部を構成する舌部とを備え、
前記翼は、外端を有し、かつ前記羽根車が固定された回転軸の端部が挿入されたハブから螺旋状に延びる前縁部と、前記前縁部から螺旋状に延びる後縁部とを有しており、
前記羽根車ケーシングの内面には、前記吸込口から前記ボリュート室まで延び、かつ前記後縁部に対向する位置に配置された溝が形成されており、
前記羽根車の軸方向から見て前記翼の終端が前記溝を横切る交点は、前記羽根車の中心点に関して前記舌部の反対側に位置しており、
前記前縁部は、前記羽根車が回転したときに、前記外端が前記溝の入口を横切って移動する位置に配置されており、
前記前縁部は、
前記前縁部の最も前側の面であり、かつ前記外端まで、一定の曲率半径で形成された前側曲面と、
前記前縁部の最も後側の面であり、かつ前記外端まで、一定の曲率半径で形成された後側曲面と、を有しており、
前記前縁部は、前記ハブからの距離に従って徐々に減少する厚さを有しており、
前記翼は、前記ハブから前記羽根車の回転方向と逆方向に延びる螺旋形状を有していることを特徴とする渦巻ポンプ。
【請求項2】
前記羽根車の中心点と前記舌部とを結ぶ基準線と、前記羽根車の中心点と前記交点とを結ぶ線分とのなす角度は、90度から270度の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の渦巻ポンプ。
【請求項3】
前記基準線と、前記線分とのなす角度は、135度から225度の範囲内であることを特徴とする請求項2に記載の渦巻ポンプ。
【請求項4】
前記交点は前記基準線の延長線上に位置していることを特徴とする請求項3に記載の渦巻ポンプ。
【請求項5】
前記外端は、前記溝の入口に対向するように配置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の渦巻ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は渦巻ポンプに関し、特に繊維状物質を含む液体を移送する渦巻ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、下水管を流れる汚水などの液体を移送するために、渦巻ポンプが用いられている。このような汚水には、紐または布などの繊維状物質が含まれていることがある。この繊維状物質が羽根車の翼に堆積すると、ポンプを閉塞するおそれがある。そこで、繊維状物質の羽根車への堆積を防ぐために、後退翼を有する羽根車を備えた渦巻ポンプがある(特許文献1参照)。
【0003】
図22は後退翼を有する羽根車を備えた渦巻ポンプを示す断面図である。
図22に示すように、羽根車100は複数の後退翼101を備えている。羽根車100は回転軸102に固定されており、羽根車ケーシング105内に収容されている。羽根車100は図示しない駆動装置(モータ等)によって回転軸102と一体に
図22に示す実線矢印方向に回転する。液体は、羽根車100の回転により羽根車ケーシング105内に形成されたボリュート室113に周方向に吐出される。ボリュート室113を流れる液体は吐出口107を通って外部に排出される。
【0004】
後退翼101は、螺旋状に延びる前縁部101aと、前縁部101aから螺旋状に延びる後縁部101bとを有する。後退翼101は、前縁部101aがその基端から羽根車100の回転方向と逆方向に延びる螺旋形状を有している。このような形状により、繊維状物質109は前縁部101aに引っかかりづらくなる。
【0005】
羽根車ケーシング105にはボリュート室113の巻き始め部を構成する舌部110が設けられている。ボリュート室113を流れる液体は舌部110で分流され、液体の大部分は羽根車ケーシング105の吐出口107に流れ、液体の一部はボリュート室113内を循環する(
図22に示す点線矢印参照)。
【0006】
図23は羽根車100を収容する羽根車ケーシング105を吸込口106側から見た図であり、
図24は、羽根車ケーシング105の内面を駆動装置側から見た図である。
図24では羽根車100の図示は省略されている。
図23および
図24に示すように、羽根車ケーシング105の内面には吸込口106からボリュート室113まで螺旋状に延びる溝108が形成されている。この溝108は、液体に含まれる繊維状物質を、回転する羽根車100によって吸込口106からボリュート室113に移動させるために設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭64−11390号公報
【0008】
図25乃至
図29は、繊維状物質109が溝108を通じてボリュート室113に移送される様子を示す図である。
図25乃至
図29において、溝108は二点鎖線で表示されている。
図25に示すように、液体に含まれる繊維状物質109は、回転する羽根車100の前縁部101aによって溝108の入口に運ばれ、溝108内に押し込まれる。繊維状物質109は、溝108と羽根車100の後縁部101bとの間に挟まれた状態で、回転する羽根車100の後縁部101bにより押されて溝108に沿って移動する(
図26乃至
図28参照)。そして、
図29に示すように、繊維状物質109はボリュート室113に放出される。
【0009】
しかしながら、ボリュート室113に放出された繊維状物質109は、突出した形状を有した舌部110に引っかかることがある。
図30は舌部110に引っかかった繊維状物質109を示す図である。
図30に示すように、繊維状物質109の引っかかりが継続して発生すると、舌部110上に堆積した繊維状物質109が羽根車100に接触し、羽根車100の回転を妨げるおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、液体に含まれる繊維状物質の羽根車ケーシングの舌部への堆積を防止することができる渦巻ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するために、本発明の一態様は、翼を有する羽根車と、前記羽根車を収容する羽根車ケーシングとを備え、前記羽根車ケーシングは、ボリュート室と、前記ボリュート室に連通する吸込口および吐出口と、前記ボリュート室の巻き始め部を構成する舌部とを備え、前記翼は、外端を有
し、かつ前記羽根車が固定された回転軸の端部が挿入されたハブから螺旋状に延びる前縁部と、前記前縁部から螺旋状に延びる後縁部とを有しており、前記羽根車ケーシングの内面には、前記吸込口から前記ボリュート室まで延び、かつ前記後縁部に対向する位置に配置された溝が形成されており、前記羽根車の軸方向から見て前記翼の終端が前記溝を横切る交点は、前記羽根車の中心点に関して前記舌部の反対側に位置しており、前記前縁部は、前記羽根車が回転したときに、前記外端が前記溝の入口を横切って移動する位置に配置されて
おり、前記前縁部は、前記前縁部の最も前側の面であり、かつ前記外端まで、一定の曲率半径で形成された前側曲面と、前記前縁部の最も後側の面であり、かつ前記外端まで、一定の曲率半径で形成された後側曲面と、を有しており、前記前縁部は、前記ハブからの距離に従って徐々に減少する厚さを有しており、前記翼は、前記ハブから前記羽根車の回転方向と逆方向に延びる螺旋形状を有していることを特徴とする渦巻ポンプである。
【0012】
本発明の好ましい態様は、前記羽根車の中心点と前記舌部とを結ぶ基準線と、前記羽根車の中心点と前記交点とを結ぶ線分とのなす角度は、90度から270度の範囲内であることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記基準線と、前記線分とのなす角度は、135度から225度の範囲内であることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記交点は前記基準線の延長線上に位置していることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記外端は、前記溝の入口に対向するように配置されていることを特徴とす
る。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、繊維状物質は、舌部とは反対側の位置でボリュート室に放出される。その後、繊維状物質は、遠心力を受けながら流れる液体によってボリュート室内を運ばれる。つまり、繊維状物質は、舌部から離れる方向に作用する遠心力を受けながらボリュート室内を移送される。したがって、繊維状物質が舌部に引っかかることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る渦巻ポンプの概略断面図である。
【
図4】羽根車ケーシングの内面をモータ側から見た図である。
【
図5】繊維状物質が溝を通じてボリュート室に移送される様子を示す図である。
【
図6】繊維状物質が溝を通じてボリュート室に移送される様子を示す図である。
【
図7】繊維状物質が溝を通じてボリュート室に移送される様子を示す図である。
【
図8】繊維状物質が溝を通じてボリュート室に移送される様子を示す図である。
【
図9】繊維状物質が溝を通じてボリュート室に移送される様子を示す図である。
【
図10】ボリュート室内を流れる液体によって運ばれる繊維状物質を示す図である。
【
図12】舌部と溝との位置関係の他の例を示す図である。
【
図13】舌部と溝との位置関係のさらに他の例を示す図である。
【
図14】
図1に示した渦巻ポンプの羽根車の斜視図である。
【
図15】
図1に示した渦巻ポンプのケーシングライナの断面図である。
【
図16】
図14に示した後退翼の前縁部のC−C線断面図である。
【
図17】
図14に示した後退翼の前縁部のD−D線断面図である。
【
図18】
図14に示した後退翼の前縁部のE−E線断面図である。
【
図19】
図19(a)は、後退翼の前縁部に繊維状物質が載った状態を示す模式図であり、
図19(b)は、後退翼の回転に伴って、繊維状物質が前縁部の外端に向かって円滑に移動する様子を示す模式図であり、
図19(c)は、後退翼の回転に伴って、繊維状物質が前縁部の外端に到達した様子を示す模式図である。
【
図20】前縁部の外端まで導かれた繊維状物質が前縁部の前側曲面によってケーシングライナの内面に形成された溝に押し込まれる状態を示す模式図である。
【
図21】前縁部の厚さに対する前側曲面の曲率半径の比と、前縁部の厚さに対する後側曲面の曲率半径の比が1/2であり、前側曲面が後側曲面に接続されている前縁部の断面図である。
【
図22】後退翼を有する羽根車を備えた渦巻ポンプを示す断面図である。
【
図23】羽根車を収容する羽根車ケーシングを吸込口側から見た図である。
【
図24】羽根車ケーシングの内面を駆動装置側から見た図である。
【
図25】繊維状物質が溝を通じてボリュート室に移送される様子を示す図である。
【
図26】繊維状物質が溝を通じてボリュート室に移送される様子を示す図である。
【
図27】繊維状物質が溝を通じてボリュート室に移送される様子を示す図である。
【
図28】繊維状物質が溝を通じてボリュート室に移送される様子を示す図である。
【
図29】繊維状物質が溝を通じてボリュート室に移送される様子を示す図である。
【
図30】舌部に引っかかった繊維状物質を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1乃至
図21において、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
図1は本発明の一実施形態に係る渦巻ポンプの概略断面図である。
図1に示される渦巻ポンプは、例えば、下水管を流れる汚水などの液体を移送するために用いられる。
図1に示すように、渦巻ポンプは、回転軸11の端部に固定された羽根車1と、羽根車1を収容する羽根車ケーシング5とを有する。回転軸11は、モータ20によって回転され、羽根車1は羽根車ケーシング5内で回転軸11と一体に回転する。モータ20と羽根車1との間には、メカニカルシール21が配置されている。このメカニカルシール21により、液体がモータ20に浸入することが防止される。
【0016】
羽根車ケーシング5は、羽根車1の周囲に配置されたケーシング本体6と、ケーシング本体6に接続されたケーシングライナ8とを有している。ケーシングライナ8には、円筒状の吸込口3が形成されている。ケーシング本体6の内部には、ボリュート室(渦室)7が形成され、ボリュート室7は、羽根車1の周囲を囲む形状を有している。ケーシング本体6には、吐出口4が形成される。
【0017】
羽根車1を回転させると、液体は吸込口3から吸い込まれる。液体には羽根車1の回転により速度エネルギーが付与され、さらに、液体がボリュート室7を通ることによって速度エネルギーが圧力エネルギーに変換され、液体が昇圧される。昇圧された液体は、吐出口4から吐出される。羽根車1の翼(後退翼)2は、羽根車ケーシング5のケーシングライナ8の内面8aと僅かな隙間をあけて対向している。
【0018】
図2は
図1のA−A線断面図である。
図2に示すように、羽根車1は複数(本実施形態では2枚)の後退翼2と、円筒状のハブ13とを備えている。羽根車1は、回転軸11に固定されており、モータ(駆動装置)20によって回転軸11と一体に実線矢印方向に回転する。回転軸11の端部はハブ13に挿入され、羽根車1は締結具(図示しない)によって回転軸11の端部に固定される。
【0019】
後退翼2は、ハブ13から螺旋状に延びる前縁部2aと、前縁部2aから螺旋状に延びる後縁部2bとを有している。後退翼2は、ハブ13から羽根車1の回転方向と逆方向に延びる螺旋形状を有している。
【0020】
図2に示すように、羽根車ケーシング5にはボリュート室7の巻き始め部を構成する舌部10が設けられている。ボリュート室7は、羽根車1の周方向に沿って延びつつ、断面積が徐々に拡大する形状を有している。ボリュート室7を流れる液体は舌部10で分流され、液体の大部分は吐出口4に流れる一方で、液体の一部はボリュート室7内を循環する(
図2に示す点線矢印参照)。
【0021】
図3は
図1のB線矢視図である。
図3に示すように、羽根車ケーシング5には、吸込口3および吐出口4が形成されている。吸込口3および吐出口4はボリュート室7に連通している。吸込口3はケーシングライナ8に形成されており、吐出口4はケーシング本体6に形成されている。吸込口3から流入した液体は羽根車1の回転によりボリュート室7に周方向に吐出される。ボリュート室7を流れる液体は吐出口4を通って外部に排出される。
【0022】
図4は羽根車ケーシング5の内面をモータ20側から見た図である。
図4では羽根車1の図示は省略されている。
図4に示すように、羽根車ケーシング5の内面、より具体的にはケーシングライナ8の内面8aには、吸込口3からボリュート室7まで螺旋状に延びる溝18が形成されている。この溝18は、液体に含まれる繊維状物質を、回転する羽根車1によって吸込口3からボリュート室7に移動させるために設けられている。溝18は、後退翼2の後縁部2bに対向する位置に配置されている。
【0023】
図5乃至
図9は、繊維状物質9が溝18を通じてボリュート室7に移送される様子を示す図である。
図5乃至
図9において、溝18は二点鎖線で表示されている。
図5に示すように、液体に含まれる繊維状物質9は、回転する羽根車1の前縁部2aによって溝18の入口に運ばれ、前縁部2aによって溝18内に押し込まれる。繊維状物質9は、溝18と羽根車1の後縁部2bとの間に挟まれた状態で、回転する羽根車1の後縁部2bにより押されて溝18に沿って移動する(
図6乃至
図8参照)。そして、
図9に示すように、繊維状物質9は、羽根車1の軸方向から見て後退翼2の終端が溝18を横切る交点Bにおいて、溝18からボリュート室7に放出される。後退翼2の終端は、後縁部2bの外側端部である。
【0024】
図10はボリュート室7内を流れる液体によって運ばれる繊維状物質9を示す図である。
図10に示すように、交点Bは、羽根車1の中心点に関して舌部10の反対側に位置している。交点Bでボリュート室7に放出された繊維状物質9は、半径方向外側の方向に作用する遠心力を受けながら流れる液体によってボリュート室7内を運ばれる。つまり、繊維状物質9は、舌部10から離れる方向に作用する遠心力を受けながらボリュート室7内を移送される。したがって、繊維状物質9は、舌部10に引っかかることなく、吐出口4を通って外部に排出される。
【0025】
図11は舌部10と交点Bとの位置関係を示す図である。
図11において、基準線RLは、羽根車1の中心点Pと舌部10(より具体的には舌部10の先端)とを結ぶ線分であり、角度線ALは、羽根車1の中心点Pと交点Bとを結ぶ線分である。角度θは基準線RLと角度線ALとのなす角度を表している。本実施形態では、交点Bは基準線RLの延長線上に位置しており、角度θは180度である。つまり、本実施形態の交点Bは舌部10から最も離れた位置にある。
【0026】
交点Bを基準線RLの延長線上に位置させることにより、繊維状物質9は舌部10から最も離れた位置でボリュート室7に放出される。したがって、繊維状物質9が羽根車ケーシング5内に流入しても、繊維状物質9は舌部10に引っかかることなく、吐出口4を通って外部に排出される。ただし、繊維状物質9の長さによっては、角度θは180度でなくてもよい。例えば、比較的短い繊維状物質が羽根車ケーシング5内に流入した場合、繊維状物質は
図11に示す位置Bよりも舌部10に近い位置でボリュート室7に放出されても、舌部10に引っかかることなく、吐出口4を通って外部に排出される。
【0027】
図12および
図13は、溝18の他の配置例を示す図である。
図12に示す例では、角度θは180度よりも小さく、
図13に示す例では、角度θは180度よりも大きい。いずれの例でも、交点Bは、羽根車1の中心点に関して舌部10の反対側に位置している。
【0028】
角度線ALと基準線RLとのなす角度θは、好ましくは、90度から270度の範囲であり、さらに好ましくは、135度から225度の範囲である。角度θがこの範囲内にあれば、繊維状物質は舌部10に引っかかることなく、吐出口4を通って外部に排出される。
【0029】
図14は、
図1に示した渦巻ポンプの羽根車1の斜視図である。
図14に示されるように、羽根車1は、回転軸11が固定されるハブ13を有する円板状のシュラウド12と、ハブ13から螺旋状に延びる後退翼2と、を有する。ハブ13には、回転軸11の端部が挿入される貫通孔13aが形成されている。後退翼2の全体は、ハブ13から羽根車1の回転方向と逆方向に延びる螺旋形状を有している。
【0030】
後退翼2は、ハブ13から螺旋状に延びる前縁部2aと、前縁部2aから螺旋状に延びる後縁部2bを有する。前縁部2aは、ハブ13から羽根車1の回転方向と逆方向に延びている。したがって、前縁部2aの外端2dは、回転軸11の回転方向において、前縁部2aの内端2cよりも後方に位置される。後縁部2bは、ケーシングライナ8の内面8aと僅かな隙間をあけて対向している。羽根車1が回転したときに、前縁部2aの外端2dは、溝18の入口18a(
図15参照)を横切って移動する。
図15は
図1に示した渦巻ポンプのケーシングライナの断面図である。
【0031】
図16は、
図14に示した後退翼2の前縁部2aのC−C線断面図である。
図17は、
図14に示した後退翼2の前縁部2aのD−D線断面図である。
図18は、
図14に示した後退翼2の前縁部2aのE−E線断面図である。
図16、
図17、および
図18に示されるように、前縁部2aは、該前縁部2aの内端2cから外端2dにわたって形成される前側曲面2eを有する。前側曲面2eは、前縁部2aの最も前側の表面である。すなわち、前側曲面2eは、前縁部2aの回転方向(すなわち、羽根車1の回転方向)において最も前側に位置する、前縁部2aの表面であり、前縁部2aの内端2cから外端2dにわたって形成される。
【0032】
前側曲面2eの断面は、曲率半径r1の円弧である。本実施形態では、曲率半径r1は、
図16、
図17、および
図18に示されるように、前縁部2aの内端2cから外端2dにわたって一定である。前側曲面2eの曲率半径r1は、前縁部2aの内端2cから外端2dにわたって異なっていてもよい。例えば、前側曲面2eの曲率半径r1は、ハブ13からの距離に従って徐々に大きくなってもよいし、徐々に小さくなってもよい。
【0033】
前縁部2aは、その内端2cから外端2dにわたって形成される前側曲面2eを有しているので、
図19(a)に示されるように、前縁部2a上に載った繊維状物質9は、
図19(b)に示されるように、前縁部2aに引っかかることなく、円滑に前縁部2aの外端2dに向かって移動し、
図19(c)に示されるように、前縁部2aの外端2dに到達する。したがって、前縁部2aは、繊維状物質9を、溝18の入口18a(
図15参照)まで円滑に導くことができる。
【0034】
図20は、前縁部2aの外端2dまで導かれた繊維状物質9が前側曲面2eによって溝18に押し込まれる状態を示す模式図である。上述したように、羽根車1が回転したときに、後退翼2の前縁部2aの外端2dは、ケーシングライナ8の内面8aに形成された溝18(
図15および
図4参照)を通過する。
図20に示されるように、外端2dまで導かれた繊維状物質9は、該外端2dが溝18上方を通過する時に、前側曲面2eによって溝18に押し込まれる。前側曲面2eは、前縁部2aの外端2dまで形成されているので、繊維状物質9は、前縁部2aの外端2dに引っかかることなく、前側曲面2eによって溝18に押し込まれる。その結果、繊維状物質9を溝18内に確実に移動させることができる。
【0035】
図16、
図17、および
図18に示されるように、前縁部2aは、該前縁部2aの内端2cから外端2dにわたって形成される後側曲面2fを有してもよい。後側曲面2fは、前縁部2aの最も後側の面である。すなわち、後側曲面2fは、前縁部2aの回転方向(すなわち、羽根車1の回転方向)において最も後側に位置する、前縁部2aの表面であり、羽根車1の回転方向において前側曲面2eよりも後方に位置している。後側曲面2fは、前側曲面2eと同様に、前縁部2aの内端2cから外端2dにわたって形成される。
【0036】
後側曲面2fの断面は、曲率半径r2の円弧である。本実施形態では、曲率半径r2は、
図16、
図17、および
図18に示されるように、前縁部2aの内端2cから外端2dにわたって一定である。後側曲面2fの曲率半径r2は、前側曲面2eの曲率半径r1と同じであってもよいし、異なっていてもよい。さらに、後側曲面2fの曲率半径r2は、前縁部2aの内端2cから外端2dにわたって異なっていてもよい。例えば、後側曲面2fの曲率半径r2は、ハブ13からの距離に従って徐々に大きくなってもよいし、徐々に小さくなってもよい。
【0037】
前縁部2aが前側曲面2eだけでなく後側曲面2fも有している場合、繊維状物質9をより円滑に前縁部2a上で滑らせることができる。その結果、前縁部2aは、繊維状物質9を前縁部2aの外端2dにまで円滑に導くことができる。さらに、繊維状物質9は、前縁部2aの外端2dに引っかかりにくくなる。その結果、前縁部2aの前側曲面2eは、繊維状物質9を溝18の入口18a(
図15参照)により確実に押し込むことができる。
【0038】
上述したように、羽根車1の回転に伴って、前側曲面2e上の繊維状物質9は、前縁部2aの外端2dに向かって滑る。前縁部2aの厚さt(
図16、
図17、および
図18参照)に対する前側曲面2eの曲率半径r1の比(すなわち、r1/t)が小さくなるほど、前縁部2aは尖っていく。r1/tが1/7以上のときに、前縁部2aに載った繊維状物質9を、前縁部2aの外端2dに向かってより円滑に導き、かつ溝18により確実に押し込むことができることが確認されている。したがって、r1/tは、好ましくは、1/7以上である。
【0039】
r1/tが、大きくなるほど、渦巻ポンプの吐出性能は低下する。渦巻ポンプの吐出性能の低下を抑制しつつ、繊維状物質9を円滑に前縁部2aの外端2dに滑らせるためのr1/tの最適値は1/4である。したがって、r1/tが1/4以上であるのがより好ましい。
【0040】
図21は、前縁部2aの厚さtに対する前側曲面2eの曲率半径r1の比(r1/t)と、前縁部2aの厚さtに対する後側曲面2fの曲率半径r2の比(r2/t)が1/2であり、前側曲面2eが後側曲面2fに接続されている前縁部2aの断面図である。
図21に示されるように、r1/tおよびr2/tが1/2であり、前側曲面2eが後側曲面2fに接続されている場合、前縁部2aの断面は完全な円弧となる。この場合、前縁部2aが最も丸められた形状を有するので、繊維状物質9は、より円滑に前縁部2a上を外端2dに向かって滑ることができる。したがって、r1/tは、1/2以下であるのが好ましい。
【0041】
図16、
図17、および
図18に示されるように、前縁部2aの厚さtは、ハブ13からの距離に従って徐々に減少している。一方で、前側曲面2eの曲率半径r1と、後側曲面2fの曲率半径r2は、前縁部2aの内端2cから外端2dまで一定である。したがって、r1/tおよびr2/tは、ハブ13からの距離に従って徐々に大きくなる。このような構成によれば、渦巻ポンプの吐出性能の低下を抑えつつ、前縁部2aは、繊維状物質9を、溝18の入口18a(
図15参照)に向かって円滑に導くことができる。
【0042】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲とすべきである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、繊維状物質を含む液体を移送する渦巻ポンプに利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1,100 羽根車
2,101 後退翼
2a,101a 前縁部
2b,101b 後縁部
2c 内端
2d 外端
2e 前側曲面
2f 後側曲面
3,106 吸込口
4,107 吐出口
5,105 羽根車ケーシング
6 ケーシング本体
7,113 ボリュート室
8 ケーシングライナ
9,109 繊維状物質
10,110 舌部
11,102 回転軸
12 シュラウド
13 ハブ
18,108 溝
20 モータ
21 メカニカルシール
RL 基準線
AL 角度線
P 羽根車の中心点