【文献】
FELBER B.K.et al.,HIV DNA Vaccine: Stepwise Improvements Make a Difference,Vaccines,2014年 5月,Vol.2,p.354-379
【文献】
YANG Y.et al.,Protective immune response induced by co-immunization with the Trichinella spiralis recombinant Ts87,Veterinary Parasitology,2013年,Vol.194,p.207-210
【文献】
ISHIKAWA T.et al.,Co-immunization with West Nile DNA and inactivated vaccines provides synergistic increases in their,Microbes and Infection,2007年,Vol.9,p.1089-1095
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を誘導するための組み合わせ製剤であって、
(I) 当該抗原性ペプチド、及び
(II) 当該抗原性ペプチドが挿入又は付加されたキメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードする発現ベクターであって、該抗原性ペプチドが、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基74〜87又は130〜138の領域内に挿入されているか、或いはB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのN末端又はC末端に付加されている、発現ベクター
を含む、製剤を提供するものである。
【0015】
抗原性ペプチドとは、投与対象の免疫系により認識され、当該ペプチドに対する特異的免疫応答、好ましくは、当該ペプチドに対する特異的液性免疫応答(即ち、当該ペプチドを特異的に認識する抗体の産生)を誘導する活性を有するペプチドをいう。
【0016】
抗体による抗原Xへの「特異的認識」とは、抗原抗体反応における、抗体の抗原Xに対する結合親和性が、非特異的な抗原(例、BSA)に対する結合親和性よりも高いことを意味する。
【0017】
本発明において用いられる抗原性ペプチドの種類は、抗原性を有する限り特に限定されないが、好ましくは、本発明の製剤の適用対象の自己抗原タンパク質又はその部分ペプチドである。本発明においては、抗原性ペプチドが挿入されたキメラB型肝炎ウイルスコア(HBc)抗原ポリペプチドをコードする発現ベクターであって、該抗原性ペプチドが、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基80と81の間に挿入されている、発現ベクターが用いられる。HBc抗原タンパク質は、自己集合して球状のコア粒子を構成する。このコア粒子は非常に免疫原性が高い。このHBc抗原タンパク質のアミノ酸残基80と81の間に、所望のペプチドを挿入すると、自己集合により形成される粒子の表面に当該ペプチドが提示される。そのため、このキメラHBc抗原ポリペプチドを用いると、挿入したエピトープが免疫系に認識され易くなり、当該ペプチドを特異的に認識する抗体産生を効率的に誘導することができる。そこで、このHBc抗原タンパク質をワクチンのプラットフォームとして利用して、免疫系に認識されにくい自己抗原タンパク質やその部分ペプチドに対する抗体産生を誘導することができる(D. C. Whitacre et al., Expert Rev. Vaccines, vol.8, no.11, pp.1565-1573, 2009;B. E. Clarke et al., Nature, vol.330, pp.381-384, 1987;特許第3228737号公報)。
【0018】
自己抗原タンパク質とは、本発明の製剤の適用対象の動物自身の遺伝子上にコードされる抗原タンパク質を意味する。本発明の製剤の適用対象は、哺乳動物である。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ等のウサギ目、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄目、イヌ、ネコ等のネコ目、ヒト、サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来る。哺乳動物は、好ましくはネコ目(イヌ、ネコ等)又は霊長類(ヒト等)である。従って、例えば、本発明の製剤をヒトへ適用する場合、好適にはヒト自己抗原タンパク質又はその部分ペプチドの使用が意図されるが、これに限定されない。また、本発明の製剤をイヌへ適用する場合、好適にはイヌ自己抗原タンパク質又はその部分ペプチドの使用が意図されるが、これに限定されない。さらに、本発明の製剤をネコへ適用する場合、好適にはネコ自己抗原タンパク質又はその部分ペプチドの使用が意図されるが、これに限定されない。
【0019】
本明細書において、特定の因子X(ポリペプチド又はポリヌクレオチド)について、「生物Y由来の因子X」又は「生物Y因子X」とは、該因子Xのアミノ酸配列又は核酸配列が、生物Yにおいて天然に発現している該因子Xのアミノ酸配列又は核酸配列と同一のアミノ酸配列又は核酸配列を有することを意味する。
【0020】
自己抗原タンパク質の種類は、特に限定されないが、一態様において、疾患の増悪に寄与する抗原である。本態様において、本発明の製剤を対象に投与すると、当該自己抗原タンパク質又はその部分ペプチドに対する特異的免疫応答、好ましくは、当該ペプチドに対する特異的液性免疫応答(即ち、当該ペプチドを特異的に認識する抗体の産生)が誘導され、当該自己抗原タンパク質の活性が抗体によって中和されることにより、当該自己抗原タンパク質が増悪に関与する疾患を予防又は治療することができる。
【0021】
一態様において、自己抗原タンパク質は、生活習慣病の増悪に寄与する抗原(生活習慣病関連因子)である。本明細書において生活習慣病とは、食生活や運動習慣、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣によって引き起こされる病気の総称である。生活習慣病としては、高血圧症、高脂血症、糖尿病、インスリン抵抗性、動脈硬化症(閉塞性動脈硬化症等)、虚血性疾患(心筋梗塞、脳卒中等)、肥満、糖尿病性網膜症、高LDL血症等を挙げることができる。本発明の製剤において、抗原性ペプチドとして生活習慣病関連因子又はその部分ペプチドを用いることにより、生活習慣病関連因子に対する抗体産生を誘導し、その抗体が生活習慣病関連因子を中和することにより生活習慣病を治療又は改善し得る。
【0022】
一態様において、自己抗原タンパク質は、液性因子である。自己抗原タンパク質として、細胞内タンパク質や細胞表面タンパク質ではなく、液性因子のタンパク質を用いることにより、当該液性因子に対する液性免疫が優勢に誘導され、誘導された免疫(細胞性免疫及び液性免疫、特に細胞性免疫)による正常な組織への悪影響を避けつつ、当該液性因子の活性を効果的に中和することが出来る。
【0023】
疾患(例、生活習慣病)の増悪に寄与する、液性因子である自己抗原タンパク質としては、特に限定されないが、例えば、アンギオテンシンII、アンギオテンシンI、ACE、レニン、コレステリル・エステル転送蛋白(CETP)、VEGF(VEGF−A、B、C、D又はE、PLGF−1、或いはPLGF−2)、アンギオポエチン−2、アポリポプロテイン(a)、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)、DPP4(Dipeptidyl Peptidase-4)、IL−17(インターロイキン17)等を挙げることが出来る。アンギオテンシンII、アンギオテンシンI、ACE及びレニンは、心不全、高血圧症、高脂血症、腎不全の増悪に寄与する。CETPは、高脂血症の増悪に寄与する。VEGF及びアンギオポエチン−2は、腫瘍血管新生を促進し、癌(特に固形癌)の増悪に寄与する。アポリポプロテイン(a)は、動脈硬化症(特に、アテローム性動脈硬化症)の増悪に寄与する。PCSK9は高LDL血症に関与する。DPP4は糖尿病及びインスリン抵抗性に関与する。IL−17はリウマチ、SLE、潰瘍性大腸炎などの自己免疫性疾患・炎症性疾患、および癌に関与する。
【0024】
本発明において用いられる抗原性ペプチドの大きさは、通常5〜30アミノ酸、好ましくは6〜25アミノ酸、より好ましくは10〜18アミノ酸、更により好ましくは11〜16アミノ酸である。該ペプチドが小さすぎると抗原性が失われる可能性ある。またペプチドが長すぎると、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドが自己集合によりコア粒子を形成し難くなり、結果として当該ペプチドを特異的に認識する抗体の産生が効果的に誘導されなくなるおそれがある。
【0025】
本発明において、抗原性ペプチドとして、自己抗原タンパク質の部分ペプチドを用いる場合、当該部分ペプチドは、好適には、当該自己抗原タンパク質に特異的である。「特異的」とは、当該自己抗原タンパク質が由来する哺乳動物において天然に発現している当該自己抗原タンパク質以外の遺伝子産物(但し、イムノグロブリンおよびT細胞受容体の可変領域を除く)が当該部分ペプチドを含まないことを意味する。
【0026】
本発明において、抗原性ペプチドとして、自己抗原タンパク質の部分ペプチドを用いる場合、使用される部分ペプチドは、当該部分ペプチドを認識する抗体が、当該自己抗原タンパク質中の該部分ペプチドに結合した場合に、当該自己抗原タンパク質の活性が阻害される位置にあるものが好適に選択される。そのような部分ペプチドは、例えば、受容体結合部位、2価イオン結合部位、特異的酵素により認識される部位等の機能的部位にあり得る。シグナル配列等、タンパク質の成熟過程で除去される部位に含まれる部分ペプチドは、好ましくは、本発明において使用する部分ペプチドから除外される。当業者であれば、自己抗原タンパク質の立体構造等に基づき、適切な部分ペプチドを選択することができる。
【0027】
本発明において、抗原性ペプチドとして、自己抗原タンパク質の部分ペプチドを用いる場合、当該部分ペプチドの具体例として、以下のものを挙げることができる。
【0028】
(VEGF)(WO 2014/034735 A1)
a)IMRIKPHQSQHIG(配列番号1)
b)MRIKPHQ(配列番号2)
c)MQIMRIKPHQSQHIGEM(配列番号3)
d)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列を含む、配列番号3で表されるアミノ酸配列の部分配列からなるペプチド
e)IMRIKPHQGQHIG(配列番号4)
f)MRIKPHQ(配列番号5)
g)MQIMRIKPHQGQHIGEM(配列番号6)
h)配列番号4又は5で表されるアミノ酸配列を含む、配列番号6で表されるアミノ酸配列の部分配列からなるペプチド
【0029】
配列番号1、2及び3は、マウスVEGF-Aの部分アミノ酸配列である。配列番号4、5及び6はヒトVEGF-Aの部分アミノ酸配列である。
【0030】
上記d)及びh)において、部分配列の長さは8、9、10、11、12、13、14、15又は16アミノ酸である。
【0031】
(アンギオポエチン−2)(WO 2014/034735 A1)
a)PQRQNTNKFNGIKWYY(配列番号7)
b)YYPQRQNTNKE(配列番号8)
【0032】
配列番号7及び8は、ヒトアンギオポエチン−2の部分アミノ酸配列である。
【0033】
(アンギオテンシンII)(WO2003/031466及びJournal of Hypertension, vol.25, no.1, pp.63-72, 2007)
a)CGGDRVYIHPF(配列番号9)
b)CGGDRVYIHPFHL(配列番号10)
c)DRVYIHPFHLGGC(配列番号11)
d)CDRVYIHPFHL(配列番号12)
e)CHPFHL(配列番号13)
f)CGPFHL(配列番号14)
g)CYIHPF(配列番号15)
h)CGIHPF(配列番号16)
i)CGGHPF(配列番号17)
j)CRVYIGGC(配列番号18)
k)DRVYGGC(配列番号19)
l)DRVGGC(配列番号20)
m)DRVYIHPF(配列番号21)
a)〜l)は、アンギオテンシンIIの部分アミノ酸配列を含むペプチドである。m)は、アンギオテンシンIIの全長ペプチドである。好ましくはDRVYIHPF(配列番号21)を抗原性ペプチドとして用いる。該ペプチドを用いるとアンギオテンシンIよりもアンギオテンシンIIに特異性の高い抗体が誘導される。尚、アンギオテンシンIIのアミノ酸配列は、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、及びラットにおいて共通しているので、a)〜m)の各ペプチドは、ヒトのみならず、イヌ、ネコ、マウス、及びラットへも適用可能である。
【0034】
(コレステリル・エステル転送蛋白(CETP))(Vaccine, vol.24, pp.4942-4950, 2006)
a)RDGFLLLQMDFGFPEHLLVDFLQSL(配列番号22)
a)は、ヒト、マウス及びラビットのCETPの部分ペプチドである。
【0035】
(アポリポプロテイン(a))
a)EAPSEQAPTEQR(配列番号23)
【0036】
配列番号23は、ヒトアポリポプロテイン(a)の部分アミノ酸配列である。
【0037】
(DPP4)(Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Apr 1;111(13):E1256-63)
a)SKDEAAADSRRT(配列番号33)
b)KSTFRVKSYS(配列番号34)
c)ENSTFESFG(配列番号35)
a)〜c)は、マウスDPP4の部分ペプチドである(a:29−40aa、b:48−57aa、c:89−97aa)。
【0038】
(IL−17)(Immunotherapy, vol. 4, no. 12, 1799-1807, 2012)
a)SSACPNTEAKD(配列番号36)
b)KVSSRRPSDYLNRSTS(配列番号37)
c)HRNEDPDRYPSVIWE(配列番号38)
d)KREPESCPFT(配列番号39)
e)EKMLVGVGCTCVASI(配列番号40)
a)〜e)は、マウスIL−17の部分ペプチドである。
【0039】
上述の非ヒト哺乳動物のタンパク質の部分ペプチドに対応する、ヒトオルソログタンパク質の部分ペプチドも、抗原性ペプチドとして有用であり得る。そのような抗原性ペプチドは、非ヒト哺乳動物のタンパク質のアミノ酸配列と、ヒトオルソログタンパク質のアミノ酸配列とをアラインし、注目する部分ペプチドに対応するヒトオルソログタンパク質アミノ酸配列中の領域を特定することにより、当業者であれば容易に同定することができる。
【0040】
本発明の製剤において、(I)の抗原性ペプチドは、好ましくは単離されている。「単離」とは、目的とする細胞や成分以外の因子を除去する操作がなされ、天然に存在する状態を脱していることを意味する。「単離された抗原性ペプチドX」の純度(総ペプチド量に占める抗原性ペプチドX量の百分率(重量/重量))は、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは99%以上、最も好ましくは100%である。
【0041】
本発明の製剤において、(I)の抗原性ペプチドは、免疫系により認識されやすくするため、ウシ血清アルブミン、KLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)、VLP(Virus like particle)等のキャリアータンパク質に架橋した複合体として、本発明の製剤に含まれていても良い。この場合、「単離された抗原性ペプチドX」の純度は、単離された複合体の純度に置き換えて計算する。
【0042】
抗原性ペプチドのキャリアータンパク質への架橋方法は、特に限定されず、周知のタンパク質架橋剤を用いて行うことができる。タンパク質架橋剤としては、例えば、アルデヒド(例、グルタルアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ホルムアルデヒド等)、ヘテロ二価反応性クロスリンカー(ANB-NOS, BMPS, EMCS, GMBS, LC-SPDP, MBS, PDPH, SBA, SIA, SMCC, SMPB, SMPH, SPDP, Sulfo-LC-SPDP, Sulfo-MBS, Sulfo-SANPAH, Sulfo-SMCC等)、ホモ二価反応性クロスリンカー(BS2G, BS3, DSG, DSP, DSS, DSSeb, DST, DTSSP, EGS, Sulfo-EGS等)、スペーサーアームの長さがゼロのクロスリンカー(CDI, DCC, EDC-HCL, NHS, Sulfo-NHS等)、重水素化クロスリンカー(BS2G-d4, BS3-d4, ESG-d4, DSP-d8, DSS-d4等)等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくはタンパク質架橋剤はアルデヒド(グルタルアルデヒド等)である。
【0043】
抗原性ペプチドがシステイン残基を含まない場合、架橋を容易にするため、該抗原性ペプチドの末端にシステインを付加することにより、スルフヒドリル基を導入してもよい。
【0044】
また、抗原性ペプチドをその構造を維持しながら複合体上に安定に提示し、抗体の抗原性ペプチドへの接近を容易にするため、抗原性ペプチドの末端にスペーサー配列を導入してもよい。スペーサー配列の長さは、抗原性ペプチドの抗原性が失われない限り特に限定されないが、通常1〜10アミノ酸、好ましくは1〜5アミノ酸、より好ましくは1〜3アミノ酸である。
【0045】
一態様において、抗原性ペプチドの末端に、スペーサー配列を付加せずに、該抗原性ペプチドとキャリアータンパク質(KLH等)とをアルデヒド(グルタルアルデヒド等)により固定する。
【0046】
本発明において使用されるB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドは、
(1)配列番号24で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、又は
(2)配列番号24で表されるアミノ酸配列と90%以上(好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、更に好ましくは99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ自己集合によりコア粒子を形成する活性を有するポリペプチド
である。
【0047】
自己集合とは、溶液中に溶けている分子が会合することによって集合体を形成する現象をいう。コア粒子とは、固有の反復性の構成を有する剛性構造をいう。本明細書中のコア粒子は合成工程の産物又は生物的工程の産物であってよい。
【0048】
(2)の態様のポリペプチドとして、WO2003/031466に開示された配列番号25で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられる。配列番号25で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドの位置48、61、107及び185に対応する位置の1つ又は複数のシステイン残基を欠失させた、又は他のアミノ酸残基(例えば、セリン残基)で置換したポリペプチドも、(2)の態様のポリペプチドとして好ましい。当業者が認識しているように、配列番号25に示されているものと異なるアミノ酸配列を有するポリペプチドにおける同様な位置にあるシステイン残基も欠失させ、又は他のアミノ酸残基で置換することができ、これらの欠失、置換により得られるポリペプチドも(2)の態様のポリペプチドに包含される。
【0049】
また、(2)の態様のポリペプチドには、配列番号25における位置97に対応する位置のイソロイシン残基がロイシン残基又はフェニルアラニン残基で置換されている変異体ポリペプチドが包含される(Yuanら、J.Virol.第73巻、10122〜10128頁(1999))。また、多くのHBcAg変異体ならびに数種のB型肝炎コア抗原前駆変異体のアミノ酸配列がGenBank報告AF121240、AF121239、X85297、X02496、X85305、X85303、AF151735、X85259、X85286、X85260、X85317、X85298、AF043593、M20706、X85295、X80925、X85284、X85275、X72702、X85291、X65258、X85302、M32138、X85293、X85315、U95551、X85256、X85316、X85296、AB033559、X59795、X8529、X85307、X65257、X85311、X85301、X85314、X85287、X85272、X85319、AB010289、X85285、AB010289、AF121242、M90520、P03153、AF110999及びM95589に開示されており(この開示のそれぞれが参照により本明細書に組込まれる)、これらの変異体のアミノ酸配列を含むポリペプチドも(2)の態様のポリペプチドに包含される。上記変異体は、配列番号25における位置12、13、21、22、24、29、32、33、35、38、40、42、44、45、49、51、57、58、59、64、66、67、69、74、77、80、81、87、92、93、97、98、100、103、105、106、109、113、116、121、126、130、133、135、141、147、149、157、176、178、182及び183に存在するアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基を含む多くの位置におけるアミノ酸配列が異なっている。
【0050】
更に、全部が参照により本明細書に組込まれる国際公開第01/98333号、国際公開第01/77158号及び国際公開第02/14478号に記載されたHBcAg変異体のアミノ酸配列を含むポリペプチドも、(2)の態様のポリペプチドに包含される。
【0051】
Pumpens et al. Intervirology 2001; 44:98-114において、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチド中の各アミノ酸残基における置換可能なアミノ酸の種類が記載されている。当業者であれば、この情報に基づき、配列番号24で表されるアミノ酸配列における1つ又は複数のアミノ酸を他のアミノ酸に置換することにより、(2)の態様のポリペプチドを容易にデザインすることができる。
【0052】
本明細書において、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸配列のアミノ酸残基の位置は、特にことわりのない限り、配列番号24で表されるアミノ酸配列を基準として特定される。配列番号24で表されるアミノ酸配列を含まないポリペプチドの場合には、当該ポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号24で表されるアミノ酸配列と並び合わせ、対応するアミノ酸残基の位置が採用される。
【0053】
本発明において使用されるB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドは、好ましくは、配列番号24で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドである。
【0054】
本発明の製剤において、(II)の発現ベクターにコードされるキメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドにおいては、抗原性ペプチドが、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基74〜87又は130〜138の領域内に挿入されているか、或いはB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのN末端又はC末端に付加されている。B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基74〜87及び130〜138の領域は、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのB細胞エピトープであるので(Pumpens et al. Intervirology 2001; 44:98-114)、この領域内に抗原性ペプチドを挿入することにより、当該抗原性ペプチドに対する抗体の産生が効率的に誘導されることが期待される。好適には、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドにおいて、抗原性ペプチドが、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基80と81の間に挿入されている。
【0055】
キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドにおいて、抗原性ペプチドが、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基74〜87又は130〜138領域内に挿入されている態様においては、本発明に用いられるキメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドは、以下の(a)〜(c)の構成要素:
(a)B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのN末端部分ポリペプチド残基(B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのN末端からアミノ酸残基Xまでの連続する部分アミノ酸配列からなる)(ここで、Xは74〜86及び130〜137からなる群から選択されるいずれかの整数であり、好ましくは80である)、
(b)抗原性ペプチド残基、及び
(c)B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのC末端部分ポリペプチド残基(B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基YからC末端までの連続する部分アミノ酸配列からなる)(ここで、YはXに1を加えた整数であり、好ましくは81である)
をN末端側から(a)、(b)、(c)の順序で含む。
【0056】
本発明に用いられるキメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドは、上記構成により、自己集合によりコア粒子を形成し、その粒子の外側に抗原性ペプチド残基が提示される。
【0057】
構成要素(a)と構成要素(c)との間の挿入アミノ酸配列には、構成要素(b)(抗原性ペプチド残基)に加えて、更に1以上(好ましくは1〜3個、より好ましくは1個)の他の抗原性ペプチド残基が含まれていてもよい。更なる抗原性ペプチド残基は、構成要素(a)と構成要素(b)の間、構成要素(b)と構成要素(c)の間のいずれの位置に挿入されてもよい。更なる抗原性ペプチド残基の長さは、通常5〜30アミノ酸、好ましくは6〜25アミノ酸、より好ましくは10〜18アミノ酸、更により好ましくは11〜16アミノ酸である。
【0058】
構成要素(a)と構成要素(c)との間に、複数個の抗原性ペプチド残基が挿入される場合、抗原性ペプチド残基間は、直接共有結合により連結されていてもよいし、スペーサー配列を介して連結されていてもよい。スペーサー配列とは、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドに含まれる2つの近接した構成要素の間に挿入される1以上のアミノ酸残基を含むアミノ酸配列を意味する。複数の抗原性ペプチド残基がその構造を維持しながら安定に提示され得るように、抗原性ペプチド残基間は、スペーサー配列を介して連結されていることが好ましい。スペーサー配列の長さは、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドが自己集合によりコア粒子を形成し、その粒子の外側に挿入された全ての抗原性ペプチド残基が提示される限り限定されないが、通常1〜10アミノ酸、好ましくは1〜5アミノ酸、より好ましくは1〜3アミノ酸、最も好ましくは2又は3アミノ酸である。
【0059】
構成要素(a)と構成要素(c)との間の最もN末端側の抗原性ペプチド残基と、構成要素(a)とは、直接共有結合により連結されていてもよいし、スペーサー配列を介して連結されていてもよい。キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドが自己集合して形成するコア粒子の外側に、抗原性ペプチドがその構造を維持しながら安定に提示され得るように、構成要素(a)と最もN末端側の抗原性ペプチド残基とは、スペーサー配列を介して連結されていることが好ましい。スペーサー配列の長さは、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドが自己集合によりコア粒子を形成し、その粒子の外側に抗原性ペプチドが提示される限り限定されないが、通常1〜10アミノ酸、好ましくは1〜5アミノ酸、より好ましくは1〜3アミノ酸、最も好ましくは2又は3アミノ酸である。スペーサー配列の種類も、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドが自己集合によりコア粒子を形成し、その粒子の外側に抗原性ペプチドが提示される限り限定されない。好ましいスペーサー配列として、IT、GAT、CGG等を例示することができるが、これらに限定されない。
【0060】
構成要素(a)と構成要素(c)との間の最もC末端側の抗原性ペプチド残基と、構成要素(c)とは、直接共有結合により連結されていてもよいし、スペーサー配列を介して連結されていてもよい。キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドが自己集合して形成するコア粒子の外側に、抗原性ペプチドがその構造を維持しながら安定に提示され得るように、最もC末端側の抗原性ペプチド残基と構成要素(c)とは、スペーサー配列を介して連結されていることが好ましい。スペーサー配列の長さは、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドが自己集合によりコア粒子を形成し、その粒子の外側に抗原性ペプチドが提示される限り限定されないが、通常1〜10アミノ酸、好ましくは1〜5アミノ酸、より好ましくは1〜3アミノ酸、最も好ましくは2又は3アミノ酸である。スペーサー配列の種類も、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドが自己集合によりコア粒子を形成し、その粒子の外側に抗原性ペプチドが提示される限り限定されない。好ましいスペーサー配列として、IT、GAT、CGG等を例示することができるが、これらに限定されない。
【0061】
構成要素(a)と構成要素(c)との間の挿入アミノ酸配列の長さは、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドが自己集合によりコア粒子を形成し、その粒子の外側に抗原性ペプチドが提示され、該抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を誘導できる限り特に限定されないが、通常5〜80アミノ酸である。挿入アミノ酸配列が短すぎるとエピトープとしての抗原性が失われる可能性ある。また挿入アミノ酸配列が長すぎると、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドが自己集合によりコア粒子を形成し難くなり、結果として挿入した抗原性ペプチドを特異的に認識する抗体が産生されなくなる可能性がある。
【0062】
標的とする抗原性ペプチドがB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのN末端又はC末端に付加される態様においては、該抗原性ペプチドとB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドとは、直接共有結合により連結されていてもよいし、スペーサー配列を介して連結されていてもよい。キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドが自己集合して形成するコア粒子の外側に、抗原性ペプチドがその構造を維持しながら安定に提示され得るように、該抗原性ペプチドとB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドとは、スペーサー配列を介して連結されていることが好ましい。スペーサー配列の長さは、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドが自己集合によりコア粒子を形成し、その粒子の外側に抗原性ペプチドが提示される限り限定されないが、通常1〜10アミノ酸、好ましくは1〜5アミノ酸、より好ましくは1〜3アミノ酸、最も好ましくは2又は3アミノ酸である。スペーサー配列の種類も、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドが自己集合によりコア粒子を形成し、その粒子の外側に抗原性ペプチドが提示される限り限定されない。
【0063】
本発明の製剤において、(II)の発現ベクターは、上記キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを組込んだ組換えベクターである。当該発現ベクターを対象哺乳動物に投与すると、当該対象哺乳動物の細胞内に該発現ベクターが取り込まれ、該細胞が上記キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドを発現する。キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを挿入する発現ベクターとしてはプラスミド、ウイルス、ファージ、コスミド、及び、当分野において従来用いられるその他のベクターを例示することができる。プラスミドベクターとしては、pCAGGS(Gene 108:193〜199(1991))、pCR-X8(Vaccine 24:4942〜4950(2006))、pcDNA3.1(商品名、Invitrogen)、pZeoSV(商品名、Invitrogen)、及びpBK-CMV(商品名、Stratagene)、pVAX1(商品名、Life Technologies)等を例示することができるがこれらに限定されない。ウイルスベクターは、DNAウイルス又はRNAウイルスである。ウイルスベクターとしては、無毒化レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス(HVJ)、SV40、及びヒト免疫不全ウイルス(HIV)等を例示することができるがこれらに限定されない。さらにセンダイウイルスエンベロープ(HVJ-E)
等も利用できる。
【0064】
上記発現ベクターにおいては、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(好ましくはDNA)が、投与対象である哺乳動物(好ましくはヒト、イヌ、又はネコ)の細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されている。
【0065】
使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物の細胞内で機能し得るものであれば特に制限はない。プロモーターとしては、polI系プロモーター、polII系プロモーター、polIII系プロモーター等を使用することができる。具体的には、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR等のウイルスプロモーター、β−アクチン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーター、並びにtRNAプロモーター等のRNAプロモーター等が用いられる。
【0066】
上記発現ベクターは、好ましくはキメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有することもできる。
【0067】
一態様において、上記発現ベクターは、免疫効果を増強するため、免疫刺激性配列(ISS)(CpGともいう)を含んでいてもよい。免疫刺激性配列は、細菌の非メチル化CpGモチーフを含むDNAであり、特定の受容体(Toll-like receptor 9)のリガンドとして働くことが知られている(詳細はBiochim. Biophys. Acta 1489, 107-116 (1999) 及び Curr. Opin. Microbiol. 6, 472-477 (2003)参照)。免疫刺激性配列の好適な例として、以下を挙げることができる。
CpG-B1018 22bp
5’-tga ctg tga acg ttc gag atg a-3’(配列番号26)
CpG-A D19 20bp (D type)
5’-ggt gca tcg atg cag ggg gg-3’(配列番号27)
CpG-CC274 21bp
5’-tcg tcg aac gtt cga gat gat-3’(配列番号28)
CpG-CC695 25bp
5’-tcg aac gtt cga acg ttc gaa cgt t-3’(配列番号29)
【0068】
或いはこれらのISSのうちの2、3又は4個を連結して使用してもよい。連結したISS配列の好適な例として以下を挙げることができる。
5’-ggt gca tcg atg cag ggg gg tga ctg tga acg ttc gag atg a tcg tcg aac gtt cgagat gat tcg aac gtt cga acg ttc gaa cgt t-3’(配列番号30)
【0069】
当業者であれば、例えば、“edit. Sambrook et al., Molecular Cloning A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory (1989) N.Y.”、及び、“edit. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology (1987) John Wiley & Sons” 等に記載の周知の遺伝子工学的技術により上述の発現ベクターを構築することが可能である。
【0070】
本発明の製剤は、(I)の抗原性ペプチドと(II)の発現ベクターとを同時に製剤化して得られる単一の製剤であっても、(I)の抗原性ペプチドと(II)の発現ベクターとを別々に製剤化して得られる2種の製剤の組み合わせであってもよい。好ましい態様において、本発明の製剤は、(I)の抗原性ペプチドと(II)の発現ベクターとを同時に製剤化して得られる単一の製剤である。
【0071】
本発明の製剤は、有効量の(I)の抗原性ペプチド及び/又は(II)の発現ベクターに加え、任意の担体、例えば医薬上許容される担体を含む医薬組成物として提供することができる。
【0072】
医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑沢剤、クエン酸、メントール、グリチルリチン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0073】
本発明の製剤は、経口的に又は非経口的に、適用対象の哺乳動物に対して投与することが可能であるが、本発明の製剤は、好ましくは、非経口的に哺乳動物へ投与される。
【0074】
非経口的な投与(例えば、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射、局所注入、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプル、バイアル、注射器のカートリッジのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容される担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。一態様において、本発明の製剤は、有効量の(I)の抗原性ペプチド及び(II)の発現ベクター、並びに医薬上許容される担体を、単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入した製剤として、提供される。別の態様において、本発明の製剤は、有効量の(I)の抗原性ペプチド及び医薬上許容される担体を、単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入した製剤と、有効量の(II)の発現ベクター及び医薬上許容される担体を、単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入した製剤との組み合わせとして提供される。
【0075】
本発明の製剤は、抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を増強するため、アジュバントを更に含有してもよい。アジュバントとしては、水酸化アルミニウム、完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント、百日咳菌アジュバント、ポリ(I:C)、CpG−DNA等が挙げられる。尚、(II)の発現ベクター内に免疫刺激性配列(ISS)が含まれる場合、当該ISSは、ここにいうアジュバントには包含されない。
【0076】
本発明の製剤は、(I)の抗原性ペプチドと(II)の発現ベクターとを組み合わせることにより、抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を誘導する効果が増強されているので、上述の様なアジュバントを要さずに、十分な、抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を誘導することができる。従って、一態様において、本発明の製剤はアジュバントを含まない。本態様においては、抗原提示細胞への(I)の抗原性ペプチド及び(II)の発現ベクターの取り込みを上昇させ、抗原提示細胞による抗原性ペプチドの提示を促進し、抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を強力に誘導する観点から、本発明の製剤を、皮内、皮下、又は筋肉内に投与(注射)することが好ましい。
【0077】
(II)の発現ベクターの細胞内への導入を促進するために、本発明の製剤は、核酸導入用試薬を更に含有してもよい。核酸導入用試薬としては、リポフェクチン(商品名、Invitrogen)、リポフェクタミン(商品名、Invitrogen)、トランスフェクタム(商品名、Promega)、DOTAP(商品名、Roche Applied Science)、dioctadecylamidoglycyl spermine(DOGS)、L-dioleoyl phosphatidyl-ethanolamine(DOPE)、dimethyldioctadecyl-ammonium bromide(DDAB)、N,N-di-n-hexadecyl-N,N-dihydroxyethylammonium bromide(DHDEAB)、N-n-hexadecyl-N,N-dihydroxyethylammonium bromide(HDEAB)、ポリブレン、あるいはポリ(エチレンイミン)(PEI)等の陽イオン性脂質、を用いることが出来る。また、(II)の発現ベクターを静電気的リポソームのような脂質二重層で構成される任意の既知のリポソームに封入してもよい。該リポソームは、不活化センダイウイルス(Hemagglutinating virus of Japan;HVJ)のようなウイルスに融合させてもよい。HVJ-リポソームは、通常のリポソームと比較して細胞膜に対して非常に高い融合活性を有する。また、発現ベクターとしてレトロウイルスを用いる場合には、導入試薬としてレトロネクチン、ファイブロネクチン、ポリブレン等を用いることができる。
【0078】
本発明の製剤は、(I)の抗原性ペプチドと(II)の発現ベクターとを組み合わせることにより、抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を誘導する効果が増強されているので、上述の様な核酸導入用試薬を要さずに、十分な、抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を誘導することができる。従って、一態様において、本発明の製剤は核酸導入用試薬を含まない。本態様においては、抗原提示細胞への(I)の抗原性ペプチド及び(II)の発現ベクターの取り込みを上昇させ、抗原提示細胞による抗原性ペプチドの提示を促進し、抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を強力に誘導する観点から、本発明の製剤を、皮内、皮下、又は筋肉内に投与(注射)することが好ましい。
【0079】
当該医薬組成物中の、(I)の抗原性ペプチドの含有量は、特に限定されず広範囲に適宜選択されるが、通常、医薬組成物全体の約0.00001ないし99重量%である。当該医薬組成物中の、(II)の発現ベクターの含有量は、特に限定されず広範囲に適宜選択されるが、通常、医薬組成物全体の約0.00001ないし99重量%である。上記数値範囲は、本発明の製剤が、(I)の抗原性ペプチドと(II)の発現ベクターとを同時に製剤化して得られる単一の製剤であっても、(I)の抗原性ペプチドと(II)の発現ベクターとを別々に製剤化して得られる2種の製剤の組み合わせであっても、適用可能である。
【0080】
本発明の製剤においては、(I)の抗原性ペプチドと、(II)の発現ベクターとが、適用対象に対して、実質的に同時に投与される。
【0081】
「実質的に同時」とは、(I)の抗原性ペプチド又は(II)の発現ベクターの一方を投与することにより当該抗原性ペプチド特異的な獲得免疫応答が誘導される前に、他方を追加投与することを意味する。(I)の抗原性ペプチドの投与と(II)の発現ベクターの実質的同時投与においては、(I)の抗原性ペプチドの投与と(II)の発現ベクターの投与の時間差が、通常24時間以内、好ましくは12時間以内、6時間以内、2時間以内、1時間以内、30分以内、15分以内、5分以内、又は1分以内、最も好ましくは0分(同時)である。(I)の抗原性ペプチド及び(II)の発現ベクターの一方を投与することにより当該抗原性ペプチド特異的な獲得免疫応答が誘導した後に、他方を追加投与することにより当該免疫応答反応を増強する「ブースト」は、「実質的に同時」に投与することには含まれない。
【0082】
(I)の抗原性ペプチドと(II)の発現ベクターの投与形態は、(I)の抗原性ペプチドと(II)の発現ベクターとが、実質的に同時に適用対象に投与される限り、特に限定されない。このような投与形態としては、例えば、(1)(I)の抗原性ペプチドと(II)の発現ベクターとを同時に製剤化して得られる単一の製剤の投与、(2)(I)の抗原性ペプチドと(II)の発現ベクターとを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での同時投与、(3)(I)の抗原性ペプチドと(II)の発現ベクターとを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での時間差をおいての投与、(4)(I)の抗原性ペプチドと(II)の発現ベクターとを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での同時投与、(5)(I)の抗原性ペプチドと(II)の発現ベクターとを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での時間差をおいての投与(例えば、(II)の発現ベクター→(I)の抗原性ペプチドの順序での投与、あるいは逆の順序での投与)等が挙げられる。
【0083】
好ましい態様において、(I)の抗原性ペプチドと(II)の発現ベクターとを同時に製剤化して得られる単一の製剤を、適用対象に対して投与する。
【0084】
本発明の製剤は、投与対象哺乳動物に、抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を誘導する限り、いかなる方法により投与してもよい。好ましくは、本発明の製剤は非経口的に、適用対象に抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を誘導するのに十分な量が投与される。例えば、皮内、皮下、筋肉内、静脈内、腹腔内、脂肪組織内、又は乳腺組織内の経路を介しての投与;ガス誘導性粒子衝撃法(電子銃等による);無針注射器(バネ式(例、シマジェット等)、火薬式(例、ダイセル等)を含む)による投与;点鼻薬等の形態での粘膜経路を介する方法等が投与方法として例示される。抗原提示細胞への(I)の抗原性ペプチド及び(II)の発現ベクターの取り込みを上昇させ、抗原提示細胞による抗原性ペプチドの提示を促進し、抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を強力に誘導する観点から、本発明の製剤は、好ましくは皮内、皮下、又は筋肉内に投与(注射)される。
【0085】
(I)の抗原性ペプチドと、(II)の発現ベクターとを別々に投与する際には、それぞれの投与方法は同一であっても、異なっていてもよいが、好ましくは同一の方法により投与される。本態様においては、好ましくは、(I)の抗原性ペプチド及び(II)の発現ベクターを、それぞれ、適用対象の皮内、皮下、又は筋肉内に投与する。この際、(I)の抗原性ペプチドと(II)の発現ベクターの投与部位は、同一であっても異なっていても良いが、好ましくは同一部位に投与する。
【0086】
好ましい態様において、(I)の抗原性ペプチドと(II)の発現ベクターとを同時に製剤化して得られる単一の製剤を、適用対象に対して、皮内、皮下、又は筋肉内に投与する。
【0087】
一実施態様において、本発明の製剤は、針無注射器により皮内、皮下又は筋肉内に投与される。針無注射器は、好ましくは圧力注射器である。針無注射器としては、シマジェット(商品名、島津製作所)、ツインジェクターEZII(商品名、日本ケミカルリサーチ)、シリジェット(商品名、キーストン)、ZENEO(商品名、クロスジェクト)等を挙げることができるが、これらに限定されない。この場合、本発明の製剤は、(I)の抗原性ペプチド、(II)の発現ベクター及び針無注射器を含み、(I)の抗原性ペプチド及び(II)の発現ベクターが該針無注射器に封入された、注射製剤として提供することができる。
【0088】
一実施態様において、本発明の製剤は、遺伝子銃により皮下、皮内又は筋肉内へ投与される。この場合、(I)の抗原性ペプチド及び(II)の発現ベクターを、生体内に導入されるコロイド金粒子等の担体粒子上に被覆して、投与に用いることができる。ポリヌクレオチドで担体粒子をコートする技術は公知である(例えば、WO93/17706参照)。
【0089】
本発明の製剤は、(I)の抗原性ペプチドと(II)の発現ベクターとを組み合わせることにより、抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を誘導する効果が増強されているので、上述の様な、針無注射器、遺伝子銃等の特殊な器具や装置を要さずに、投与対象に投与することによって、十分に抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を誘導することができる。例えば、(I)の抗原性ペプチドと(II)の発現ベクターを、通常の注射器(針有)により、適用対象に対して、皮内、皮下、又は筋肉内に投与する。
【0090】
本発明の製剤を、投与対象の複数個所(例えば、2〜10か所)に分けて実質的に同時に投与してもよい。本発明の製剤を、複数個所に投与することにより、良好な免疫応答を得ることができる。
【0091】
本発明の製剤の投与回数は、抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を誘導する限り、特に限定されず、1回のみ投与してもよいし、複数回投与してもよい。尚、本発明の製剤を、分割して、実質的に同時に複数回投与する場合は、実質的に同時に投与された複数回の投与をまとめて、本発明の製剤の1回の投与とカウントする。例えば、(I)の抗原性ペプチドと、(II)の発現ベクターとを、別々に実質的に同時に投与する態様においては、(I)の抗原性ペプチドの1回の投与と、(II)の発現ベクターの1回の投与とを併せて、本発明の製剤の1回の投与とカウントする。また、本発明の製剤を、投与対象の複数個所に実質的に同時に投与する場合、実質的に同時に投与された複数回の投与をまとめて、1回の投与とカウントする。一態様において、良好な免疫応答を誘導するため、本発明の製剤を、一定の間隔をあけて複数回投与する。該回数は、免疫応答の強さをモニターしながら適宜設定することができるが、通常2〜10回、好ましくは2〜6回である。投与頻度は、通常1週間〜1年に1回、好ましくは1〜6ヶ月に1回である。
【0092】
本発明の製剤は、(I)の抗原性ペプチドと(II)の発現ベクターとを組み合わせることにより、抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を誘導する効果が増強されているので、一態様において、1回のみの投与によっても、十分に抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を誘導することができる。
【0093】
本発明の製剤は、適用対象である哺乳動物の組織(又は細胞)内への(II)の発現ベクターの導入により、上記キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのin vivo発現を誘導し、この発現したキメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドと投与した(I)の抗原性ペプチドによる感作の結果、当該抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答(好ましくは、当該抗原性ペプチドを特異的に認識する抗体産生)を誘導するものである。発現ベクター等の核酸を生体内へ導入する種々の方法が知られており(T.Friedman,Science 244:1275−1281(1989))、上記キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのin vivo発現を誘導し、抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答(好ましくは、当該抗原性ペプチドを特異的に認識する抗体産生)を誘導する限り、どのような導入方法を採用することも可能である。
【0094】
in vivoで哺乳動物の組織(又は細胞)内に発現ベクターを導入する方法としては、内部型リポソーム法、静電気型リポソーム法、HVJ-リポソーム法、HVJ-AVEリポソーム法、受容体媒介遺伝子導入、パーティクルガン法、裸のDNA(naked DNA)法、陽性荷電ポリマーによる導入法、エレクトロポレーション法等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0095】
本発明の製剤は、(I)の抗原性ペプチドと(II)の発現ベクターとを組み合わせることにより、抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を誘導する効果が増強されているので、一態様において、裸のDNA(naked DNA)法のような比較的緩和な導入方法によっても、十分に抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を誘導することができる。本態様においては、抗原提示細胞への(I)の抗原性ペプチド及び(II)の発現ベクターの取り込みを上昇させ、抗原提示細胞による抗原性ペプチドの提示を促進し、抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を強力に誘導する観点から、本発明の製剤を、好ましくは皮内、皮下、又は筋肉内に投与(注射)する。
【0096】
本発明の製剤の投与量に関して、有効量(抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を誘導する量)の(I)の抗原性ペプチド及び(II)の発現ベクターが投与される。投与量は、投与方法、投与対象者の状況(性別、年齢、体重など)、抗原性ペプチドの投与対象哺乳動物における免疫原性、発現ベクターに含まれるプロモーター等の制御配列の強さ等に依存するが、一定量の(I)の抗原性ペプチド及び(II)の発現ベクターを投与対象である哺乳動物に投与し、ELISA等の検定法により抗原性ペプチドに特異的な抗体価を測定して、免疫応答を観察することにより当業者であれば良好な免疫応答に必要な用量を決定することができる。(I)の抗原性ペプチドの投与量は、注射により哺乳動物(例、ヒト、イヌ、ネコ)へ皮下、皮内又は筋肉内投与する場合、抗原性ペプチド量として、1回の投与あたり、例えば1μg〜1mg、好ましくは、5μg〜50μg程度であるが、これに限定されない。(II)の発現ベクターの投与量は、注射により哺乳動物(例、ヒト、イヌ、ネコ)へ皮下、皮内又は筋肉内投与する場合、発現ベクター量として、1回の投与あたり、例えば1μg〜200μg、好ましくは、5μg〜100μg程度であるが、これに限定されない。
【0097】
一態様において、本発明の製剤は、相乗的な「抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を誘導する」作用を有する。ここで「相乗的な抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を誘導する作用」とは、「(I)の抗原性ペプチド単独投与による抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を誘導する作用」と、「(II)の発現ベクター単独投与による抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を誘導する作用」との和を上回る「抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を誘導する作用」を意味する。本態様においては、相乗的有効量の(I)の抗原性ペプチド及び(II)の発現ベクターが適用対象に投与される。
【0098】
上述の通り、本発明の製剤において、抗原性ペプチドとして、特定の疾患(例、生活習慣病)の増悪に寄与する抗原である、自己抗原タンパク質又はその部分ペプチドを用いると、当該自己抗原タンパク質又はその部分ペプチドに対する特異的免疫応答、好ましくは、当該ペプチドに対する特異的液性免疫応答(即ち、当該ペプチドを特異的に認識する抗体の産生)が誘導され、当該自己抗原タンパク質の活性が抗体によって中和されることにより、当該自己抗原タンパク質が増悪に関与する疾患(例、生活習慣病)を予防又は治療することができる。従って、本発明の製剤は、そのような疾患の予防又は治療剤として用いることが出来る。
【0099】
例えば、抗原性ペプチドとして、アンギオテンシンII、アンギオテンシンI、ACE、レニンや、それらの部分ペプチドを用いた場合、本発明の製剤は、腎不全、心不全、高血圧症、高脂血症、動脈硬化(閉塞性動脈硬化症等)、心筋梗塞、脳梗塞、認知症等の予防又は治療剤として用いることが出来る。抗原性ペプチドとして、CETPを用いた場合、本発明の製剤は、高脂血症の予防又は治療剤として用いることが出来る。抗原性ペプチドとして、VEGF又はアンギオポエチン−2を用いた場合、本発明の製剤は、癌(特に固形癌)、糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症、未熟児網膜症等の予防又は治療剤として用いることが出来る。抗原性ペプチドとして、アポリポプロテイン(a)を用いた場合、本発明の製剤は、動脈硬化症(特に、アテローム性動脈硬化症)の予防又は治療剤として用いることが出来る。抗原性ペプチドとして、PCSK9やその部分ペプチドを用いた場合、本発明の製剤は、高LDL血症の予防又は治療剤として用いることが出来る。抗原性ペプチドとして、DPP4やその部分ペプチドを用いた場合、本発明の製剤は、糖尿病及びインスリン抵抗性の予防又は治療剤として用いることが出来る。抗原性ペプチドとして、IL−17を用いた場合、本発明の製剤は、リウマチ、SLE、潰瘍性大腸炎などの自己免疫性疾患・炎症性疾患;及び癌の予防又は治療剤として用いることが出来る。
【0100】
特に、抗原性ペプチドとして、アンギオテンシンIIやその部分ペプチドを用いた場合、本発明の製剤は、イヌ心不全の予防又は治療剤として優れた効果を奏する。ヒトの心不全では、多くの場合、高血圧により左心室が肥厚し、硬くなることにより拡張機能障害を起こすが、イヌの心不全では、多くの場合、弁膜症により僧房弁がきちんと閉じなくなることにより、血液の送り出しが悪くなり、心臓への負担が増すことがその原因である。本発明者らは、このような弁膜症(僧房弁閉鎖不全症)に起因する心不全に、本発明の製剤が極めて有効であることを見出した。例えば、僧房弁閉鎖不全症を発症した対象(例、イヌ)は心不全を発症するリスクが高いので、このような対象に、抗原性ペプチドとして、アンギオテンシンIIやその部分ペプチドを用いた本発明の製剤の有効量を投与することにより、僧房弁閉鎖不全症に起因する心不全症を予防することができる。また、僧房弁閉鎖不全症に起因する心不全症を発症した対象(例、イヌ)に対して、アンギオテンシンIIやその部分ペプチドを用いた本発明の製剤の有効量を投与することにより、当該心不全症を治療することができる。
【0101】
また、腎不全(特にネコの腎不全)においては、アンギオテンシンIIによる糸球体の血圧の増加と糸球体の肥大が主要な原因の1つと考えられているので、抗原性ペプチドとして、アンギオテンシンIIやその部分ペプチドを用いた本発明の製剤の有効性が期待できる。
【0102】
このように、特定の疾患の予防又は治療を目的として本発明の製剤を用いる場合、適用対象は、当該疾患の患者、当該疾患の罹患歴を有する者、又は当該疾患の発症リスクを有する当該疾患に罹患していない者であり得る。本発明の剤を、特定の疾患の患者に投与することにより、当該疾患の増悪に寄与する抗原に対する中和抗体を誘導し、当該疾患を治療する。本発明の剤を、特定の疾患の罹患歴を有する者に投与することにより、当該疾患の増悪に寄与する抗原に対する中和抗体を誘導し、当該疾患の再発を抑制することが出来る。本発明の剤を、特定の疾患の発症リスクを有する当該疾患に罹患していない者に投与することにより、当該疾患の増悪に寄与する抗原に対する中和抗体を誘導し、当該疾患の発症を予防することが出来る。
【0103】
このように、特定の疾患の予防又は治療を目的として本発明の製剤を用いる場合、本発明の製剤は、当該疾患の予防又は治療的有効量(好ましくは、相乗的予防又は治療的有効量)が、適用対象に対して投与される。
【0104】
刊行物、特許文献等を含む、本明細書に引用されたすべての参考文献は、引用により、それらが個々に具体的に参考として援用されかつその内容全体が具体的に記載されているのと同程度まで、本明細書に援用される。
【0105】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0106】
[参考例1]
ワクチン投与によるアンギオテンシンIIに対する抗体価の上昇
(方法)
PCR及びライゲーションにより、HBcのアミノ酸残基80と81の間に、スペーサー配列およびアンギオテンシンIIのアミノ酸配列DRVYIHPF(配列番号21)が挿入された、改変HBcをコードするDNA断片を得た。このDNA断片をpcDNA 3.1/V5-His TOPO TA Expression Kit (Invitrogen)にTAクローニングすることによりpcDNA3.1-HBc-AngII ベクターを得た。
6匹の犬を3群に分け(1群あたりn=2)、pcDNA3.1-HBc-AngIIにより、以下の3つのプロトコールで免疫し、免疫開始日を0日目として、0日目、4週間後、及び6週間後に、末梢血のアンギオテンシンIIに対する抗体価を測定した。
(I)100μg/100μlに調製したpcDNA3.1-HBc-AngIIを、1回の投与につき、4箇所、針無注射器 シマジェット(商品名、島津製作所)を用いてイヌの皮内に投与した。投与量は0.4 mg/time/匹である。この投与を0日目及び14日目の2回行った。
(II)150μg/100μlに調製したpcDNA3.1-HBc-AngIIを、CpG DNA(総投与量 160μg/time/匹)と共に、1回の投与につき、8箇所、シマジェットを用いてイヌの皮内に投与した。pcDNA3.1-HBc-AngIIの投与量は1.2 mg/time/匹である。この投与を0日目及び14日目の2回行った。使用したCpG DNAは、以下の2つの配列からなる1本鎖DNAの1:1混合物である。
No. 2006: TCGTCGTTTTGTCGTTTTCTCGTT(配列番号31)
No. YW07: TCGTCGTTAACGTTAACGCTA (配列番号32)
(III)3mg/2mlに調製したpcDNA3.1-HBc-AngIIを、CpG DNA(総投与量 160μg/time/匹)と共に、イヌの筋肉内に1箇所注射した。pcDNA3.1-HBc-AngIIの投与量は3.0 mg/time/匹である。この投与を0日目及び14日目の2回行った。
【0107】
(結果)
pcDNA3.1-HBc-AngIIの筋肉内投与によっては、アンギオテンシンIIに対する抗体価はほとんど上昇しなかった。シマジェットによる投与の6週間後において、アンギオテンシンIIに対する抗体価の若干の上昇を認めた。
【0108】
[実施例1]
DNA+ペプチド併用ワクチンによる抗体価の上昇
8匹の犬を4群に分け(1群あたりn=2)、pcDNA3.1-HBc-AngII及びアンギオテンシンIIの部分ペプチドとKLHとのコンジュゲート(AngII-KLH)により、以下の4つのプロトコールで免疫し、経時的に、末梢血のアンギオテンシンIIに対する抗体価を測定した。
(I)250μg/100μlに調製したpcDNA3.1-HBc-AngIIを、CpG DNA(総投与量 40μg/time/匹)と共に、1回の投与につき、4箇所、シマジェットを用いてイヌの皮内に投与した。pcDNA3.1-HBc-AngIIの投与量は1.0 mg/time/匹である。この投与を0日目、14日目及び42日目の3回行った。(DNA単独投与群1)
(II)12.5μg/250μlに調製したAngII-KLHを、CpG DNA(総投与量 40μg/time/匹)と共に、1回の投与につき、2箇所、イヌの皮内に投与した。AngII-KLHの投与量は25 μg/time/匹である。この投与を0日目、14日目及び42日目の3回行った。(ペプチド単独投与群)
(III)pcDNA3.1-HBc-AngII終濃度250μg/100μl、及びAngII-KLH終濃度6.25μg/100μlに調製した溶液を、CpG DNA(総投与量 40μg/time/匹)と共に、1回の投与につき、4箇所、シマジェットを用いてイヌの皮内に投与した。pcDNA3.1-HBc-AngIIの投与量は1.0 mg/time/匹であり、AngII-KLHの投与量は25 μg/time/匹である。この投与を0日目、14日目及び42日目の3回行った。(DNA+ペプチド併用群)
(IV)250μg/100μlに調製したpcDNA3.1-HBc-AngIIを、CpG DNA(総投与量 80μg/time/匹)と共に、1回の投与につき、8箇所、シマジェットを用いてイヌの皮内に投与した。pcDNA3.1-HBc-AngIIの投与量は2.0 mg/time/匹である。この投与を0日目、14日目、28日目及び42日目の4回行った。(DNA単独投与群2)
【0109】
(結果)
ペプチド単独投与群(II)及びDNA+ペプチド併用群(III)において、アンギオテンシンIIに対する抗体価の上昇を認めた(
図1)。特に、併用群(III)において、抗体価の上昇が顕著であった。
【0110】
DNA+ペプチド併用群(III)において、投与開始から2〜10週のおよそ2ヶ月間にわたり、アンギオテンシンIIに対する高い抗体価が維持されることが確認された(
図2)。
【0111】
DNA+ペプチド併用群(III)においては、投与開始から20週後においても、アンギオテンシンIIに対する有意な抗体価が確認された(
図3)。投与開始から20週後に追加投与を行うと、ペプチド単独投与群(II)(No. 4)及びDNA+ペプチド併用群(III)(No. 5, 6)のいずれにおいてもブースター効果が認められたが、併用群(III)の方がその効果が強かった(
図3)。
【0112】
高希釈倍率(1250倍希釈)で観察すると、20週目における追加免疫により上昇した抗体価は、3回投与後のピークよりは低かった。併用群(III)の方がペプチド単独投与群(II)よりもブースター効果が強かった。
【0113】
追加免疫による抗体価の上昇は、DNA+ペプチド併用群(III)(No. 5, 6)の方がペプチド単独投与群(II)(No. 4)よりも長期間持続した(
図4)。
【0114】
[実施例2]
イヌ心不全モデルに対するDNA+ペプチド併用ワクチンの効果
(方法)
以下のプロトコールでDNA+ペプチド併用ワクチンの効果を検討した。
・イヌ:n=3
・心不全モデル:ワクチン投与開始の4週間前に、僧房弁の腱索断裂手術を施行して僧房弁閉鎖不全症を生じさせることによりイヌ心不全モデルを作成した。
・ワクチン:pcDNA3.1-HBc-AngII+AngII-KLH
・投与スケジュール
(I)ワクチン投与群
[(pcDNA3.1-HBc-AngII終濃度250μg/100μl+AngII-KLH 終濃度6.25μg/100μl)×4箇所(DNA 1 mg +ペプチド 25μg)+CpG(投与量 40μg/time/匹)]×3回(0日目、14日目、及び42日目)(シマジェット)
(II)コントロール群
生理食塩水×4箇所×3回(0日目、14日目、及び42日目)(シマジェット)
・評価項目
末梢血のアンギオテンシンIIに対する抗体価の経時変化を測定した。
また、心不全のパラメーターとして、平均血圧の変化量(dMAP)、左房圧の変化量(dLAP)、体血管抵抗の変化量(dSVR)及び心拍出量の変化量(dCO)の経時変化を測定した。血圧、LAPはテレメトリーにより測定した。COは心エコーにより計測した。
【0115】
(結果)
ワクチン投与群(No. 2, 4, 6)において、アンギオテンシンIIに対する抗体価の有意な上昇を認めた(
図5)。
ワクチン投与群において、血圧低下傾向とともに、心不全パラメーターの改善傾向を認めた(
図6)。
【0116】
[実施例3]
SHRラットに対するDNA+ペプチド併用ワクチンの効果
以下のプロトコールでDNA+ペプチド併用ワクチンの効果を検討した。
・SHRラット(高血圧自然発症ラット):n=3
・ワクチン:pcDNA3.1-HBc-AngII及び/又はAngII-KLH
コントロールベクターとして、AngIIペプチドの挿入を含まないpcDNA3.1-HBcを用いた。
・試験群
(I) pcDNA3.1-HBc-AngII + AngII-KLH (シマジェット、皮内)
(II) pcDNA3.1-HBc + AngII-KLH (シマジェット、皮内)
(III) AngII-KLH (シマジェット、皮内)
(IV) pcDNA3.1-HBc-AngII + AngII-KLH (筋肉内)
(V) フロイントアジュバント + AngII-KLH (皮下)
いずれも、0日目、14日目、及び28日目に投与
・評価項目
末梢血のアンギオテンシンIIに対する抗体価の経時変化を測定した。
【0117】
(結果)
pcDNA3.1-HBc-AngIIとAngII-KLHとの併用により、AngII-KLH単独投与時よりもアンギオテンシンIIに対する抗体価が顕著に上昇した。DNA+ペプチド併用ワクチンは、シマジェット(皮内投与)のみならず、筋肉内投与でも有効であった。抗体価の上昇は、DNA+ペプチド併用ワクチンの方が、ペプチド単独投与群よりも長期間持続する傾向が認められた(
図7)。
【0118】
[実施例4]
DNA+ペプチド併用ワクチン単回投与の免疫効果
(方法)
以下のプロトコールでDNA+ペプチド併用ワクチンの単回投与による免疫効果を検討した。
・SHRラット(高血圧自然発症ラット):n=3
・ワクチン:pcDNA3.1-HBc-AngII+AngII-KLH
・試験群
(I) pcDNA3.1-HBc-AngII + AngII-KLH(1μg) (シマジェット、皮内)
(II) pcDNA3.1-HBc-AngII + AngII-KLH(5μg) (シマジェット、皮内)
(III) pcDNA3.1-HBc-AngII + AngII-KLH(20μg)(シマジェット、皮内)
(IV) AngII-KLH(1μg) (シマジェット、皮内)
(V) AngII-KLH(5μg) (シマジェット、皮内)
(VI) AngII-KLH(20μg)(シマジェット、皮内)
いずれも、単回投与(0日目)。
・評価項目
末梢血のアンギオテンシンIIに対する抗体価の経時変化を測定した。
【0119】
(結果)
DNA+ペプチド併用ワクチンは、単回投与でも、ペプチド単独投与群よりも高い、抗アンギオテンシンII抗体価の上昇を認めた。抗体価の上昇は、DNA+ペプチド併用ワクチンの方が、ペプチド単独投与群よりも長期間持続した(
図8〜10)。
【0120】
[実施例5]
DNA+ペプチド併用ワクチンの免疫効果
(方法)
以下のプロトコールでDNA+ペプチド併用ワクチンの免疫効果を検討した。
・Balb/caマウス(雌、6週齢(ワクチン投与開始時において)):n=6
・ワクチン:pcDNA3.1-HBc-mVEGF+-mVEGF-KLH
WO 2014/034735 A1を参照のこと。
mVEGFペプチド:IMRIKPHQSQHIG(配列番号1)
・試験群
(I) pcDNA3.1-HBc-mVEGF(2mg/ml, 60μl)+mVEGF-KLH(1mg/ml, 10μl) (足筋肉内投与、各足35μl)(エレクトロポレーションあり)
(II) 生理食塩水(60μl)+mVEGF-KLH(1mg/ml, 10μl) (足筋肉内投与、各足35μl)(エレクトロポレーションあり)
(III) pcDNA3.1-HBc-mVEGF(2mg/ml, 60μl)+mVEGF-KLH(1mg/ml, 10μl) (足筋肉内投与、各足35μl)(エレクトロポレーションなし)
0日目及び14日目に計2回投与。
・評価項目
末梢血のVEGFに対する抗体価の経時変化を測定した。
【0121】
(結果)
DNA+ペプチド併用ワクチンを用いることにより、エレクトロポレーションを用いることなく、VEGFに対する抗体価の上昇を認めた。エレクトロポレーションなしの群(III)の方が、エレクトロポレーションありの群(I)よりも、むしろVEGFに対する抗体価が高かった(
図11)。
【0122】
以上の結果から、DNA+ペプチド併用ワクチンを用いることにより、エレクトロポレーションやシマジェット(針無注射器)のような特殊な装置を用いずに、目的とする抗原性ペプチドに対する特異的免疫応答を効果的に誘導し得ることが示された。
【0123】
[実施例6]
DNA+ペプチド併用ワクチンの免疫効果
(方法)
以下のプロトコールでpVAX1ワクチンとpcDNA3.1ワクチンの薬効を比較した。
・SHRラット:n=5〜6
・各群共に薬剤(200μl)を大腿筋肉に単回筋肉内投与し、投与日(投与直前)、投与2、4、8、12週後に採血を行った。
・試験群
1群:pcDNA3.1-HBc-AngII(200μg)+AngII-KLH(5μg)
2群:pVAX1-HBc-AngII(200μg)+AngII-KLH(5μg)
3群:pVAX1-HBc-AngII(40μg)+AngII-KLH(5μg)
4群:pVAX1-HBc-AngII(8μg)+AngII-KLH(5μg)
・評価項目
末梢血のAngIIに対する抗体価を測定した。
【0124】
(結果)
DNA+ペプチド併用ワクチンにおいて、ベクターとして、pVAX1を用いた場合でも、pcDNA3.1を用いた場合と同程度の抗体価の上昇が認められた(
図12)。ベクター投与量を200μgよりも少なくすることができる可能性が示された。投与後の早い段階(2、4週)では、各群の抗体価に大きな違いはないが、DNAワクチンの投与量が多い程、高い抗体価がより長い期間持続することが示唆された。
【0125】
[実施例7]
DNA+ペプチド併用ワクチンにおける、AngIIペプチドのKLHへのコンジュゲートの態様の比較
3種類のAngII-KLHコンジュゲートを用いて、以下のプロトコールでDNA+ペプチド併用ワクチン接種を行い、末梢血のアンギオテンシンIIに対する抗体価への効果を比較した。
【0126】
・使用動物
SDラット(雄性、8週齢(投与時)、日本エスエルシー株式会社):n=6
【0127】
・試験材料
(1)被検物質1:アンギオテンシンIIワクチン1
KLH-AngIIコンジュゲート(グルタルアルデヒド法により調製)及びpVAX1-HBc-AngIIを含有する溶液(生理食塩水)。
(2)被検物質2:アンギオテンシンIIワクチン2
KLH-Cys-AngIIコンジュゲート(Sulpho-GMBS法により調製)及びpVAX1-HBc-AngIIを含有する溶液(生理食塩水)。
(3)被検物質3:アンギオテンシンIIワクチン3
KLH-Cys-Gly-Gly-AngIIコンジュゲート(Sulpho-GMBS法により調製)及びpVAX1-HBc-AngIIを含有する溶液(生理食塩水)。
【0128】
・被検物質投与液濃度
【0129】
【表1】
【0130】
・試験群
(1)アンギオテンシンIIワクチン1、低用量、n=6。
(2)アンギオテンシンIIワクチン1、高用量、n=6。
(3)アンギオテンシンIIワクチン2、低用量、n=6。
(4)アンギオテンシンIIワクチン2、高用量、n=6。
(5)アンギオテンシンIIワクチン3、低用量、n=6。
(6)アンギオテンシンIIワクチン3、高用量、n=6。
【0131】
・投与
各ワクチン溶液を、200μL/匹の用量で、ポリプロピレン製注射筒及び27G注射針を用いて、ラットの大腿筋肉内へ単回投与した。
【0132】
・採血
(1)プラスミドDNA濃度測定用血液
被検物質投与約4時間後に、3.0%イソフルラン吸入麻酔下で頸静脈より血液を約0.4mL採血した。予め100mmol/L EDTAを60μL添加したチューブに血液300μLを採取した。血液は液体窒素により直ちに凍結し、測定時まで-80℃にて冷凍保存した。
(2)抗体価測定用血清
被検物質投与前日、被検物質投与2及び4週間後に3.0%イソフルラン吸入麻酔下で頸静脈より血液約500μLを微量採血管(キャピジェクト、テルモ株式会社)に採取し、遠心機を用いて遠心分離(1800g、室温、10分)し、血清を得た。血清は測定時まで-80℃にて冷凍保存した。
【0133】
・評価項目
(1)抗体価測定
ワクチン投与前、投与後2週間及び4週間の血清中のAngIIペプチドに対する抗体価を酵素免疫測定法により測定した。
(2)プラスミドDNA濃度測定
ワクチン投与後4時間の血液中プラスミド濃度を定量的PCRにより測定した。定量的PCRには、プラスミドを特異的に検出する、69bpを増幅領域とするプライマーセットを用いた。
【0134】
・結果
(1)抗体価
ワクチン投与2週間及び4週間の血清中のAngIIペプチドに対する抗体価は、いずれの群においても投与前よりも上昇が認められた。アンギオテンシンIIワクチン1の低用量群及び高用量群で有意な高値を示した(p<0.01、
図13-1、13-2、14-1及び14-2)。
【0135】
(2)プラスミドDNA濃度
ワクチン投与後4時間の血液中プラスミド濃度(コピー/μL血液)を、以下の表に示す。いずれの群においても、顕著な差は認められなかった。
【0136】
【表2】
【0137】
[実施例8]
SHRラットの血圧に対するDNA+ペプチド併用ワクチンの効果(テレメトリーによる測定)
以下のプロトコールに沿って、SHR/Izmラットに血圧測定用のテレメトリー送信機を埋め込み、DNA+ペプチド併用ワクチン投与の血圧に対する影響を評価した。
【0138】
・試験スケジュール
図15に記載したスケジュールに沿って、試験を実施した。
【0139】
・使用動物
SHR/Izmラット(雄性、21週齢(ワクチン投与時)、日本エスエルシー株式会社) 3匹。
【0140】
・ワクチン
KLH-AngIIコンジュゲート(50μg/200μL)及びHBc-AngII発現ベクター(pVAX1-HBc-AngII:200μg/200μL)を含有する溶液。
【0141】
・投与
ワクチン溶液を、200μL/匹の用量で、ポリプロピレン製注射筒及び27G注射針を用いて、ラットの大腿筋肉内へ単回投与した。
【0142】
・テレメトリー送信機の埋め込み手術
塩酸ケタミン及びキシラジン筋肉内投与により、ラットに麻酔を施した。大腿動脈を露出し、テレメトリー送信機(TA11PA-C40、DSI社)のカテーテルを血管内に留置した。テレメトリー送信機本体を腹腔内に留置し、傷口を縫合した。
【0143】
・血圧及び心拍数測定
測定期間:ワクチン投与1週前(10日前)から5週後(35日後)まで。
測定項目:収縮期血圧、拡張期血圧、平均血圧、心拍数(血圧脈波より算出)
測定方法:ラットに埋め込んだテレメトリー送信器から送られてくる血圧の信号を受信ボード(RPC-1、Data Sciences International)で受信し、慢性実験テレメトリー自動計測システム(Ponemah Physiology Platform 5.0)に取り込んだ。
データの取り込み:測定期間中は連続的にデータを取り込み、適時データを保存した。
サンプリング時間:血圧及び心拍数は1時間毎の平均値を算出した。
【0144】
・採血
採血時期:ワクチン投与前(センサー埋め込み時)、ワクチン投与2週後及び5週後
採血方法:イソフルラン吸入麻酔下で、ラット頸静脈より約0.5 mL採血し、EDTA入りの採血管に入れて撹拌した。血液を遠心分離(3000 rpm、10分、4℃)して血漿を回収した。回収した血漿は、-80℃にて凍結保存した。
【0145】
・抗体価測定
ワクチン投与前、投与後2週間及び5週間後の血漿中のAngIIペプチドに対する抗体価を酵素免疫測定法により測定した。
【0146】
・結果
(1)血圧に対する効果
ワクチン投与前及びワクチン投与2週間後における、各個体の、活動期(夜間)及び非活動期(昼間)において10分間抽出した血圧及び心拍数の連続データを
図16-1〜
図16-3に示す。
【0147】
No.1およびNo.2の個体において、ワクチン投与により、有意に、収縮期血圧、拡張期血圧、平均血圧、心拍数が低下した。No. 3の個体においても、ワクチン投与により、夜間(活動期)における収縮期血圧、及び心拍数の低下傾向が確認できた。
【0148】
(2)抗体価
250倍希釈した血漿を用いて、AngIIペプチドに対する抗体価(吸光度)を酵素免疫測定法により測定した結果を
図17に示す。いずれの個体においても、ワクチン投与2週間及び5週間後において、AngIIペプチドに対する抗体価の上昇が認められた。血圧低下効果の低かったNo.3の個体では、AngIIペプチドに対する抗体価も低く、血圧低下効果とAngIIペプチドに対する抗体価との間の相関が認められた。