(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記樹脂組成物において任意の断面を三次元X線顕微鏡で観察した場合、かかる断面の任意に選択した200μm×200μmの正方形中に、樹脂組成物中のEVOH(A)及びPO(B)のうち含有量が少ない方の樹脂で構成される相が、長手方向の長さが20μm以上であり長手方向長さと短手方向長さの比率(短手長さ/長手長さ)が0.5以下である相として5つ以上観察され、かつ、かかる断面の垂直方向の任意の断面を三次元X線顕微鏡で観察した場合、かかる垂直方向の断面の任意に選択した200μm×200μmの正方形中に、樹脂組成物中のEVOH(A)及びPO(B)のうち含有量が少ない方の樹脂相で構成される相が、長手方向の長さが20μm以上であり長手方向長さと短手方向長さの比率(短手長さ/長手長さ)が0.5以下である相として5つ以上観察される相分離構造を有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)とポリオレフィン(B)の質量比(A)/(B)が13/87〜47/53である、請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のMFRとポリオレフィン(B)のMFRの比MFR(EVOH)/MFR(PO)が6.0〜100である、請求項6又は7に記載の樹脂組成物。
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)とポリオレフィン(B)の質量比(A)/(B)が53/47〜87/13である、請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のMFRとポリオレフィン(B)のMFRの比MFR(EVOH)/MFR(PO)が0.010〜0.17である、請求項11又は12に記載の樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)、ポリオレフィン(B)及び変性ポリオレフィン(C)を含み、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)、前記ポリオレフィン(B)及び前記変性ポリオレフィン(C)が三次元網目構造を形成する。本発明の樹脂組成物は、三次元網目構造を形成することによって、当該樹脂組成物を含む成形体及び多層構造体が、ガスバリア性及び機械物性が優れたものになる。なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能であり、「上限」「下限」を指定した場合はその境界値を含むものとする。
【0013】
[EVOH(A)]
EVOH(A)は、エチレン単位とビニルアルコール単位とを有する共重合体である。EVOH(A)は、例えば、エチレンと酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル及びバーサティック酸ビニル等のビニルエステルとの共重合体を、アルカリ触媒等を用いてケン化して得られる。また、EVOH(A)は、本発明の目的が阻害されない範囲で、エチレンとビニルエステル以外の他の単量体由来の構造単位を有していてもよい。前記他の単量体は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和酸又はその無水物、塩、又はモノ若しくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等ビニルシラン化合物;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0014】
EVOH(A)は、本発明の目的が阻害されない範囲で、下記式(I)で表される構造単位(I)又は下記式(II)で表される構造単位(II)を有してもよい。EVOH(A)がこのような構造単位を有することで、得られる成形体及び多層構造体の耐屈曲性等をより高めることができる。
【0016】
前記式(I)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。また、R
1、R
2及びR
3のうちの任意の2つが結合していてもよい。また、前記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基が有する水素原子、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基が有する水素原子及び炭素数6〜10の芳香族炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部は、水酸基、カルボキシ基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0017】
前記式(II)中、R
4、R
5、R
6及びR
7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。R
4とR
5、又はR
6とR
7は、結合していてもよい。また、前記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基が有する水素原子、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基が有する水素原子及び炭素数6〜10の芳香族炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部は、水酸基、アルコキシ基、カルボキシ基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0018】
EVOH(A)が前記構造単位(I)又は(II)を有する場合、EVOH(A)の全構造単位に対する前記構造単位(I)又は(II)の含有量の下限は0.5モル%が好ましく、1.0モル%がより好ましく、1.5モル%がさらに好ましい。一方、前記構造単位(I)又は(II)の含有量の上限は30モル%が好ましく、15モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましい。EVOH(A)が前記(I)又は(II)に示す構造単位を前記範囲の割合で有することによって、樹脂組成物の柔軟性及び加工特性が向上する結果、得られる成形体及び多層構造体の延伸性及び熱成形性等を向上させることができる。
【0019】
前記構造単位(I)又は(II)において、前記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基としてはアルキル基、アルケニル基等が挙げられ、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基としてはシクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられ、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基としてはフェニル基等が挙げられる。
【0020】
前記構造単位(I)において、得られる成形体及び多層構造体の延伸性及び熱成形性をさらに向上させる観点から、前記R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立して水素原子、メチル基、エチル基、水酸基、ヒドロキシメチル基及びヒドロキシエチル基であることが好ましく、これらの中でも、それぞれ独立して水素原子、メチル基、水酸基及びヒドロキシメチル基であることがさらに好ましい。
【0021】
EVOH(A)中に前記構造単位(I)を含有させる方法については、例えば、前記エチレンとビニルエステルとの重合において、構造単位(I)に誘導されるモノマーを共重合させる方法等が挙げられる。この構造単位(I)に誘導されるモノマーとしては、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン;3−ヒドロキシ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−メチル−1−ブテン、4−アシロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−アシロキシ−3−メチル−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−ヒドロキシ−1−ペンテン、5−ヒドロキシ−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン、4−アシロキシ−1−ペンテン、5−アシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4−ヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5−ヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセン、4−ヒドロキシ−1−ヘキセン、5−ヒドロキシ−1−ヘキセン、6−ヒドロキシ−1−ヘキセン、4−アシロキシ−1−ヘキセン、5−アシロキシ−1−ヘキセン、6−アシロキシ−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン等の水酸基又はエステル基を有するアルケンが挙げられる。中でも、共重合反応性、及び得られる成形体及び多層構造体のガスバリア性の観点からは、プロピレン、3−アセトキシ−1−プロペン、3−アセトキシ−1−ブテン、4−アセトキシ−1−ブテン及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましい。エステルを有するアルケンの場合は、ケン化反応の際に、前記構造単位(I)に誘導される。
【0022】
前記構造単位(II)において、R
4及びR
5は共に水素原子であることが好ましい。特に、R
4及びR
5が共に水素原子であり、前記R
6及びR
7のうちの一方が炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、他方が水素原子であることがより好ましい。この脂肪族炭化水素基は、アルキル基及びアルケニル基が好ましい。得られる成形体及び多層構造体のガスバリア性を特に重視する観点からは、R
6及びR
7のうちの一方がメチル基又はエチル基、他方が水素原子であることが特に好ましい。また、前記R
6及びR
7のうちの一方が(CH
2)
hOHで表される置換基(但し、hは1〜8の整数)、他方が水素原子であることも特に好ましい。この(CH
2)
hOHで表される置換基において、hは、1〜4の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
【0023】
EVOH(A)中に前記構造単位(II)を含有させる方法については、EVOH(A)に一価エポキシ化合物を反応させることにより含有させる方法等が用いられる。一価エポキシ化合物としては、下記式(III)〜(IX)で示される化合物が好適に用いられる。
【0025】
前記式(III)〜(IX)中、R
8、R
9、R
10、R
11及びR
12は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基等)、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基、シクロアルケニル基等)又は炭素数6〜10の脂肪族炭化水素基(フェニル基等)を表す。また、i、j、k、p及びqは、それぞれ独立して、1〜8の整数を表す。
【0026】
前記式(III)で表される一価エポキシ化合物としては、例えばエポキシエタン(エチレンオキサイド)、エポキシプロパン、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、3−メチル−1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、3−メチル−1,2−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、2,3−エポキシヘキサン、3,4−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシヘプタン、4−メチル−1,2−エポキシヘプタン、1,2−エポキシオクタン、2,3−エポキシオクタン、1,2−エポキシノナン、2,3−エポキシノナン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシドデカン、エポキシエチルベンゼン、1−フェニル−1,2−プロパン、3−フェニル−1,2−エポキシプロパン等が挙げられる。
【0027】
前記式(IV)で表される一価エポキシ化合物としては、各種アルキルグリシジルエーテル等が挙げられる。前記式(V)で表される一価エポキシ化合物としては、各種アルキレングリコールモノグリシジルエーテルが挙げられる。前記式(VI)で表される一価エポキシ化合物としては、各種アルケニルグリシジルエーテルが挙げられる。前記式(VII)で表される一価エポキシ化合物としては、グリシドール等の各種エポキシアルカノールが挙げられる。前記式(VIII)で表される一価エポキシ化合物としては、各種エポキシシクロアルカンが挙げられる。前記式(IX)で表される一価エポキシ化合物としては、各種エポキシシクロアルケンが挙げられる。
【0028】
前記一価エポキシ化合物の中でも炭素数が2〜8のエポキシ化合物が好ましい。特に、化合物の取り扱いの容易さ及び反応性の観点から、一価エポキシ化合物の炭素数としては、2〜6がより好ましく、2〜4がさらに好ましい。また、一価エポキシ化合物は前記式のうち式(III)で表される化合物及び(IV)で表される化合物が特に好ましい。具体的には、EVOH(A)との反応性及び得られる成形体及び多層構造体のガスバリア性等の観点からは、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、エポキシプロパン、エポキシエタン及びグリシドールが好ましく、中でもエポキシプロパン及びグリシドールが特に好ましい。
【0029】
EVOH(A)のエチレン含有量の下限は20モル%が好ましく、25モル%がより好ましく、27モル%がさらに好ましい。EVOH(A)のエチレン含有量の上限は60モル%が好ましく、55モル%がより好ましく、50モル%がさらに好ましい。エチレン含有量が前記下限未満では、樹脂組成物の溶融成形性が低下する傾向となる。逆に、エチレン含有量が前記上限を超えると、樹脂組成物のガスバリア性が低下する傾向となる。エチレン含有量の測定方法及び測定条件は後記する実施例に記載のとおりである。
【0030】
また、樹脂組成物のガスバリア性を維持する観点からEVOH(A)のけん化度の下限は90モル%が好ましく、95モル%がより好ましく、99モル%がさらに好ましい。けん化度の測定方法及び測定条件は後記する実施例に記載のとおりである。なお、EVOH(A)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0031】
本発明の樹脂組成物において、EVOH(A)とPO(B)の質量比(A)/(B)が1未満である場合、EVOH(A)のMFR(以下、「MFR(EVOH)」ともいう。)の下限は1.0g/10分が好ましく、1.5g/10分がより好ましく、2.5g/10分がさらに好ましく、5.0g/10分が特に好ましい。一方、MFR(EVOH)の上限は100g/10分が好ましく、50g/10分がより好ましく、30g/10分がさらに好ましい。このようなMFRのEVOH(A)を用いることで、樹脂組成物の成形性、加工性等が良好となり、EVOH(A)、PO(B)及び変性ポリオレフィン(C)が容易に三次元網目構造を形成できるため好ましい。
【0032】
本発明の樹脂組成物において、EVOH(A)とPO(B)の質量比(A)/(B)が1以上である場合、MFR(EVOH)の下限は0.05g/10分が好ましく、0.07g/10分がより好ましく、0.1g/10分がさらに好ましい。一方、MFR(EVOH)の上限は5.0g/10分が好ましく、3.0g/10分がより好ましく、2.0g/10分がさらに好ましく、1.0g/10分が特に好ましい。このようなMFRのEVOH(A)を用いることで、樹脂組成物の成形性、加工性等が良好となり、EVOH(A)、PO(B)及び変性ポリオレフィン(C)が容易に三次元網目構造を形成できるため好ましい。
【0033】
本発明の樹脂組成物におけるEVOH(A)の含有量の下限は10質量%が好ましく、15質量%がより好ましく、20質量%がさらに好ましい。樹脂組成物におけるEVOH(A)の含有量の上限は90質量%が好ましく、85質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましい。樹脂組成物におけるEVOH(A)の含有量が前記範囲内であると、EVOH(A)、PO(B)及び変性ポリオレフィン(C)が容易に三次元網目構造を形成でき、ガスバリア性と機械物性の両立を達成できるため好ましい。
【0034】
ある実施形態では、本発明の樹脂組成物においてEVOH(A)とPO(B)の質量比(A)/(B)が1未満であると、機械物性がより良好になる観点から好ましい。その場合、本発明の樹脂組成物におけるEVOH(A)の含有量の下限は10質量%が好ましく、15質量%がより好ましく、20質量%がさらに好ましい。また、機械物性がより良好になる観点からEVOH(A)の含有量の上限は47質量%が好ましく、45質量%がより好ましく、41質量%がさらに好ましい。
【0035】
他の実施形態では、本発明の樹脂組成物においてEVOH(A)とPO(B)の質量比(A)/(B)が1以上であると、ガスバリア性がより良好になる観点から好ましい。その場合、本発明の樹脂組成物におけるEVOH(A)の含有量の下限は40質量%が好ましく、45質量%がより好ましく、50質量%がさらに好ましい。また、ガスバリア性がより良好になる観点からEVOH(A)の含有量の上限は90質量%が好ましく、85質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましい。
【0036】
[PO(B)]
PO(B)は、EVOH(A)と反応可能な部位を有していないポリオレフィンを意味し、未変性のポリオレフィンであることが好ましい。PO(B)としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン等の単独重合体又は共重合体が挙げられる。中でも、エチレンを主体とする共重合体又はエチレンの単独重合体が好ましく、エチレンの単独重合体、即ちポリエチレンがより好ましい。ポリエチレンとしては、超低密度ポリエチレン、(直鎖状)低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等挙げられる。
【0037】
本発明の樹脂組成物において、EVOH(A)とPO(B)の質量比(A)/(B)が1未満である場合、PO(B)のMFR(以下、「MFR(PO)」ともいう。)の下限は、0.05g/10分が好ましく、0.07g/10分がより好ましく、0.1g/10分がさらに好ましい。MFR(PO)の上限は、3.0g/10分が好ましく、2.0g/10分がより好ましく、1.0g/10分がさらに好ましい。MFR(PO)が前記範囲内であると、溶融成形性を良好に保ちつつ、EVOH(A)、PO(B)及び変性ポリオレフィン(C)が容易に三次元網目構造を形成できるため好ましい。
【0038】
本発明の樹脂組成物において、EVOH(A)とPO(B)の質量比(A)/(B)が1以上である場合、MFR(PO)の下限は1.0g/10分が好ましく、2.5g/10分がより好ましく、5.0g/10分がさらに好ましい。一方、MFR(PO)の上限は100g/10分が好ましく、50g/10分がより好ましく、30g/10分がさらに好ましい。MFR(PO)が前記範囲内であると、樹脂組成物の成形性、加工性等が良好となり、EVOH(A)、PO(B)及び変性ポリオレフィン(C)が容易に三次元網目構造を形成できるため好ましい。
【0039】
本発明の樹脂組成物におけるPO(B)の含有量の下限は10質量%が好ましく、15質量%がより好ましく、20質量%がさらに好ましい。樹脂組成物におけるPO(B)の含有量の上限は90質量%が好ましく、85質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましい。樹脂組成物におけるPO(B)の含有量が前記範囲内であると、EVOH(A)、PO(B)及び変性ポリオレフィン(C)が容易に三次元網目構造を形成でき、ガスバリア性と機械物性の両立を達成できるため好ましい。
【0040】
ある実施形態では、本発明の樹脂組成物においてEVOH(A)とPO(B)の質量比(A)/(B)が1未満であると、機械物性がより良好になる観点から好ましい。その場合、本発明の樹脂組成物におけるPO(B)の含有量の下限は40質量%が好ましく、45質量%がより好ましく、50質量%がさらに好ましい。また、PO(B)の含有量の上限は90質量%が好ましく、85質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましい。
【0041】
他の実施形態では、本発明の樹脂組成物においてEVOH(A)とPO(B)の質量比(A)/(B)が1以上であると、ガスバリア性がより良好になる観点から好ましい。その場合、本発明の樹脂組成物におけるPO(B)の含有量の下限は10質量%が好ましく、15質量%がより好ましく、20質量%がさらに好ましい。また、PO(B)の含有量の上限は47質量%が好ましく、45質量%がより好ましく、41質量%がさらに好ましい。
【0042】
本発明の樹脂組成物において、EVOH(A)とPO(B)の質量比(A)/(B)が1未満である場合、ガスバリア性と機械物性とのバランスに優れる点から、MFR(EVOH)がMFR(PO)より大きいことが好ましい。例えば、MFR(EVOH)とMFR(PO)の比MFR(EVOH)/MFR(PO)の下限は6.0が好ましく、8.0がより好ましく、11がさらに好ましく、15が特に好ましい。MFR(EVOH)/MFR(PO)の上限は100が好ましく、70がより好ましく、60がさらに好ましく、50が特に好ましく、40が最も好ましい。MFR(EVOH)/MFR(PO)が前記数値範囲内であることによって、EVOH(A)、PO(B)及び変性ポリオレフィン(C)が容易に三次元網目構造を形成できるため好ましい。
【0043】
本発明の樹脂組成物において、EVOH(A)とPO(B)の質量比(A)/(B)が1以上である場合、ガスバリア性と機械物性とのバランスに優れる点から、MFR(EVOH)がMFR(PO)より小さいことが好ましい。MFR(EVOH)/MFR(PO)の下限は0.010が好ましく、0.014がより好ましく、0.017がさらに好ましく、0.020が特に好ましく、0.025が最も好ましい。MFR(PO)/MFR(EVOH)の上限は0.17が好ましく、0.13がより好ましく、0.09がさらに好ましく、0.06が特に好ましい。MFR(PO)/MFR(EVOH)が前記数値範囲内であることによって、EVOH(A)、PO(B)及び変性ポリオレフィン(C)が容易に三次元網目構造を形成できるため好ましい。
【0044】
本発明の樹脂組成物において、EVOH(A)とPO(B)の質量比(A)/(B)が1未満である場合、質量比(A)/(B)の下限は13/87が好ましく、15/85がより好ましく、18/82がさらに好ましく、20/80が特に好ましく、25/75が最も好ましい。また、質量比(A)/(B)が1未満である場合、質量比(A)/(B)の上限は47/53が好ましく、45/55がより好ましい。質量比(A)/(B)が前記数値範囲内であることによって、EVOH(A)、PO(B)及び変性ポリオレフィン(C)が容易に三次元網目構造を形成できるため好ましい。
【0045】
本発明の樹脂組成物において、EVOH(A)とPO(B)の質量比(A)/(B)が1以上である場合、質量比(A)/(B)の下限は53/47が好ましく、55/45がより好ましい。また、質量比(A)/(B)が1以上である場合、質量比(A)/(B)の上限は87/13が好ましく、85/15がより好ましく、82/18がさらに好ましく、80/20が特に好ましく、75/25が最も好ましい。質量比(A)/(B)が前記数値範囲内であることによって、EVOH(A)、PO(B)及び変性ポリオレフィン(C)が容易に三次元網目構造を形成できるため好ましい。
【0046】
[変性ポリオレフィン(C)]
本発明の樹脂組成物に含まれる変性ポリオレフィン(C)は、EVOH(A)と反応可能な変性基を有するポリオレフィンであり、変性基としては極性基が好ましい。極性基としては、スルホン酸基、スルフェン酸基、スルフィン酸基等の硫黄含有基;水酸基;エポキシ基、グリシジル基、ケトン基、エステル基、アルデヒド基、カルボキシ基、酸無水物基等のカルボニル基含有基;ニトロ基、アミド基、ウレア基、イソシアナート基等の窒素含有基;ホスホン酸基、ホスホン酸エステル基、ホスフィン酸基、ホスフィン酸エステル基等のリン含有基;ボロン酸基、ボロン酸エステル基、ボロン酸無水物基等のホウ素含有基が挙げられる。また、例えば、カルボキシ基含有ポリオレフィンとしては、カルボン酸変性ポリオレフィン等が挙げられる。変性ポリオレフィン(C)を構成する単量体単位としては、前記PO(B)で例示されたものが使用できる。カルボン酸変性ポリオレフィン(C)に用いられるカルボン酸としては、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等が挙げられる。中でも無水マレイン酸が好適に用いられる。
【0047】
変性ポリオレフィン(C)の含有量は、例えば、EVOH(A)とPO(B)の合計100質量部に対して0.3質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましく、3.0質量部以上が特に好ましい。また変性ポリオレフィン(C)の含有量は前記合計100質量部に対して22質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、17質量部以下がさらに好ましく、12質量部以下が特に好ましく、8質量部以下が最も好ましい。変性ポリオレフィン(C)の含有量が前記合計100質量部に対して0.3質量部以上であると、本発明の樹脂組成物が容易に三次元網目構造を形成できるため好ましい。また、変性ポリオレフィン(C)の含有量が前記合計100質量部に対して22質量部より多いと、本発明の樹脂組成物のモルフォロジーが微分散状態となるため好ましくない。
【0048】
本発明の樹脂組成物において、EVOH(A)とPO(B)の質量比(A)/(B)が1未満である場合、EVOH(A)と変性ポリオレフィン(C)の質量比(A)/(C)は1.7以上が好ましく、2.5以上がより好ましく、3.5以上がさらに好ましい。また、質量比(A)/(B)が1未満である場合、質量比(A)/(C)は100以下が好ましく、50以下がより好ましく、20以下がさらに好ましく、15以下が特に好ましく、10以下が最も好ましい。質量比(A)/(C)が上記範囲内にあることによって、EVOH(A)とPO(B)が適度な相溶性を示し、EVOH(A)、PO(B)及び変性ポリオレフィン(C)が容易に三次元網目構造を形成できるため好ましい。
【0049】
本発明の樹脂組成物において、EVOH(A)とPO(B)の質量比(A)/(B)が1以上である場合、EVOH(A)と変性ポリオレフィン(C)の質量比(A)/(C)は2.6以上が好ましく、3.8以上がより好ましく、5.3以上がさらに好ましい。また、質量比(A)/(B)が1以上である場合、質量比(A)/(C)は150以下が好ましく、75以下がより好ましく、30以下がさらに好ましく、23以下が特に好ましく、15以下が最も好ましい。質量比(A)/(C)が上記範囲内にあることによって、EVOH(A)とPO(B)が適度な相溶性を示し、EVOH(A)、PO(B)及び変性ポリオレフィン(C)が容易に三次元網目構造を形成できるため好ましい。
【0050】
本発明の樹脂組成物におけるEVOH(A)、PO(B)及び変性ポリオレフィン(C)の合計含有量の下限は80質量%が好ましく、85質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。本発明の樹脂組成物におけるEVOH(A)、PO(B)及び変性ポリオレフィン(C)の合計含有量の上限は100質量%であっても、95質量%であっても、90質量%であってもよい。
【0051】
[その他の成分]
本発明の樹脂組成物は、上記化合物(EVOH(A)、PO(B)、変性ポリオレフィン(C))の他に熱安定性又は粘度調整の観点で、種々の酸又は金属塩等の化合物を含有していてもよい。この化合物としては、カルボン酸、リン酸化合物、ホウ素化合物等が挙げられ、具体例は後述する。なお、これらの化合物は、あらかじめEVOH(A)と混合して用いてもよい。
【0052】
(カルボン酸及び/又はカルボン酸イオン)
カルボン酸及び/又はカルボン酸イオンは、本発明の樹脂組成物に含有されることで、当該樹脂組成物の溶融成形時の耐着色性を向上させる。カルボン酸は、分子内に1つ以上のカルボキシ基を有する化合物である。また、カルボン酸イオンは、カルボン酸のカルボキシ基の水素イオンが脱離したものである。本発明の樹脂組成物に含有されるカルボン酸は、モノカルボン酸でもよく、分子内に2つ以上のカルボキシ基を有する多価カルボン酸化合物でもよく、これらの組み合わせであってもよい。なお、この多価カルボン酸には、重合体は含まれない。また、多価カルボン酸イオンは、多価カルボン酸のカルボキシ基の水素イオンの少なくとも1つが脱離したものである。カルボン酸のカルボキシ基はエステル構造であってもよく、カルボン酸イオンは金属と塩を形成していてもよい。
【0053】
モノカルボン酸としては、特に限定されず、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、カプリン酸、アクリル酸、メタクリル酸、安息香酸、2−ナフトエ酸等が挙げられる。これらのカルボン酸は、ヒドロキシル基又はハロゲン原子を有していてもよい。また、カルボン酸イオンとしては、前記各カルボン酸のカルボキシ基の水素イオンが脱離したものが挙げられる。モノカルボン酸(モノカルボン酸イオンを与えるモノカルボン酸も含む)のpKaは、組成物のpH調整能及び溶融成形性の点から3.5以上が好ましく、4以上がさらに好ましい。このようなモノカルボン酸としてはギ酸(pKa=3.68)、酢酸(pKa=4.74)、プロピオン酸(pKa=4.85)、酪酸(pKa=4.80)等が挙げられ、取扱い容易性等の観点からは酢酸が好ましい。
【0054】
また、多価カルボン酸としては、分子内に2個以上のカルボキシ基を有している限り特に限定されず、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸等の脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;アコニット酸等のトリカルボン酸;1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、エチレンジアミン四酢酸等の4以上のカルボキシ基を有するカルボン酸;酒石酸、クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、ムチン酸、タルトロン酸、シトラマル酸等のヒドロキシカルボン酸;オキサロ酢酸、メソシュウ酸、2−ケトグルタル酸、3−ケトグルタル酸等のケトカルボン酸;グルタミン酸、アスパラギン酸、2−アミノアジピン酸等のアミノ酸等が挙げられる。なお、多価カルボン酸イオンとしては、これらの陰イオンが挙げられる。この中でもコハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸が入手容易である点から特に好ましい。
【0055】
カルボン酸及びカルボン酸イオンの含有量は、溶融成形時の耐着色性の観点から、樹脂組成物に対する上限としてカルボン酸根換算で20μmol/gが好ましく、15μmol/gがより好ましく、10μmol/gがさらに好ましい。前記含有量の下限はカルボン酸根換算で0.01μmol/gが好ましく、0.05μmol/gがより好ましく、0.5μmol/gがさらに好ましい。
【0056】
(リン酸化合物)
本発明の樹脂組成物はさらにリン酸化合物を含有していてもよい。リン酸化合物が本発明の樹脂組成物に含有されると、当該樹脂組成物の溶融成形時のロングラン性を向上できる。リン酸化合物としては特に限定されず、例えば、リン酸、亜リン酸等の各種のリンの酸素酸若しくはその塩等が挙げられる。リン酸塩としては、例えば第1リン酸塩、第2リン酸塩、第3リン酸塩のいずれの形で含まれていてもよく、その対カチオン種としては、例えば、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が好ましく、アルカリ金属塩がさらに好ましい。具体的には、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム又はリン酸水素二カリウムが、溶融成形時のロングラン性改善の点で好ましい。
【0057】
リン酸化合物の含有量(乾燥樹脂組成物中のリン酸根換算含有量)の下限は1ppmが好ましく、5ppmがより好ましく、8ppmがさらに好ましい。一方、リン酸化合物の含有量の上限は500ppmが好ましく、200ppmがより好ましく、50ppmがさらに好ましい。リン酸化合物の含有量が前記下限より小さいと、溶融成形時のロングラン性改善効果が十分に発揮されない場合がある。逆に、リン酸化合物の含有量が前記上限を超えると、成形物のゲル又はブツ(溶融押出等を経て得られた成形物の外観に生じる欠陥)が発生し易くなる傾向となる。本明細書において、ppmは質量ppmを表す。
【0058】
(ホウ素化合物)
ホウ素化合物が本発明の樹脂組成物に含有されると、当該樹脂組成物の溶融成形時のロングラン性を改善でき、その結果、ゲル又はブツ等の発生を抑制し外観特性を向上できる。詳細には、当該樹脂組成物にホウ素化合物が配合された場合、EVOH(A)とホウ素化合物との間にホウ酸エステルを生成すると考えられ、かかる樹脂組成物によってロングラン性を改善できる。
【0059】
ホウ素化合物としては特に限定されず、例えば、オルトホウ酸(H
3BO
3)、メタホウ酸、四ホウ酸等のホウ酸類;ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチル等のホウ酸エステル;前記各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂等のホウ酸塩;水素化ホウ素類等が挙げられる。中でもオルトホウ酸が好ましい。
【0060】
ホウ素化合物の含有量(乾燥樹脂組成物中のホウ素化合物のホウ素元素換算含有量)の下限は5ppmが好ましく、10ppmがより好ましく、50ppmがさらに好ましい。一方、ホウ素化合物の含有量の上限は2,000ppmが好ましく、1,000ppmがより好ましく、500ppmがさらに好ましく、300ppmが特に好ましい。ホウ素化合物の含有量が前記下限より小さいと、ホウ素化合物の添加による溶融成形時のロングラン性改善効果が得られにくい。逆に、ホウ素化合物の含有量が前記上限を超えると、溶融成形時のロングラン性改善効果が低下する傾向となる。
【0061】
金属イオンはアルカリ金属イオンを含むものが好ましい。アルカリ金属イオンとしてはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のイオンが挙げられ、工業的入手の点からはナトリウム又はカリウムのイオンが好ましい。本発明の樹脂組成物がアルカリ金属イオンを含むと、ロングラン性と多層構造体とした際の層間接着力が向上する。
【0062】
アルカリ金属イオンを与えるアルカリ金属塩としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム等の脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸塩、リン酸塩、金属錯体等が挙げられ、具体的には、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸二水素リチウム、リン酸三リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、エチレンジアミン四酢酸のナトリウム塩等が挙げられる。中でも、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸二水素ナトリウムが、入手容易である点から特に好ましい。
【0063】
アルカリ金属イオンの含有量(乾燥樹脂組成物中の含有量)の下限は2.5μmol/gが好ましく、3.5μmol/gがより好ましく、4.5μmol/gがさらに好ましい。一方、アルカリ金属イオンの含有量の上限は22μmol/gが好ましく、16μmol/gがより好ましく、10μmol/gがさらに好ましい。アルカリ金属イオンの含有量が前記下限より小さいと、多層構造体を成形した場合に、層間接着力が低下する傾向となる。逆に、アルカリ金属イオンの含有量が前記上限を超えると、樹脂組成物の外観特性が低下する傾向となる。
【0064】
金属イオンがアルカリ土類金属イオンを含むことも好ましい。アルカリ土類金属イオンとしてはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のイオンが挙げられ、工業的入手の点からはマグネシウム又はカルシウムのイオンがより好ましい。金属イオンがアルカリ土類金属イオンを含むと、多層構造体を繰返し再利用した際の樹脂組成物の劣化が抑制され、ゲル又はブツといった欠点の減少により成形物の外観が向上する。
【0065】
また、本発明の樹脂組成物には、本発明の効果が阻害されない範囲で、前記以外の酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、充填剤等の各種添加剤を配合してもよい。酸化防止剤としては、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4'−チオビス−(6−t−ブチルフェノール、2,2'メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール、テトラキス−[メチレン−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、オクタデシル−3−(3',5−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4'−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)等が挙げられる。紫外線吸収剤としては、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2−(2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2'ヒドロキシ−3'−t−ブチル−5'−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン等が挙げられる。可塑剤としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、ワックス、流動パラフィン、リン酸エステル等が挙げられる。帯電防止剤としては、ペンタエリスリットモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化オレイン酸、ポリエチレンオキシド、カーボワックス等が挙げられる。滑剤としては、エチレンビスステアリルアミド、ブチルステアレート、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等が挙げられる。着色剤としては、カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、酸化チタン、ベンガラ等が挙げられる。充填剤としては、グラスファイバー、マイカ、バラストナイト等が挙げられる。
【0066】
また、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、当該樹脂組成物にEVOH(A)、PO(B)及び変性ポリオレフィン(C)以外の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂等を配合してもよい。前記熱可塑性樹脂としては、例えば、EPR(エチレン−プロピレン系ゴム)、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン系ゴム)、NR(天然ゴム)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、IIR(ブチルゴム)等のゴム;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリアミド、熱可塑性ポリエステル等の樹脂等が挙げられる。前記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、熱硬化性ポリエステル、これら樹脂の変性物の単品又は混合物等が挙げられる。
【0067】
本発明の樹脂組成物中のその他の成分の含有量は、EVOH(A)、PO(B)及び変性ポリオレフィン(C)の合計100質量部に対して10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、1質量部以下がさらに好ましい。なお、樹脂組成物は、樹脂として、EVOH(A)、PO(B)及び変性ポリオレフィン(C)のみを実質的に含有していてもよい。本発明において、実質的にある成分のみを含有するとは、それ以外の成分の含有量が5.0質量%未満であることを意味し、1.0質量%未満が好ましく、0.5質量%未満がより好ましい。
【0068】
本発明の樹脂組成物においては、EVOH(A)、PO(B)及び変性ポリオレフィン(C)が三次元網目構造を形成している。ここで、「三次元網目構造を形成している」とは、相分離したEVOH(A)相及びPO(B)相がそれぞれ三次元網目状の連続相を形成していることをいう。また、EVOH(A)とPO(B)とが互いに連続相を形成している場合のみならず、EVOH(A)とPO(B)とが互いに連続相を形成しており、かつEVOH(A)の連続相の中にPO(B)の島相がある領域があると同時に、PO(B)の連続相の中にEVOH(A)の島相がある領域がある場合をも含む。いずれの場合においても、変性ポリオレフィン(C)はEVOH(A)相及びPO(B)相の内部または界面に存在していると推定している。なお、三次元網目構造は、走査型電子顕微鏡(SEM)または三次元X線顕微鏡を用いて確認できる。
【0069】
本発明の樹脂組成物が有する三次元網目構造とは、具体的には以下に示す相分離構造を有することが好ましい。すなわち、本発明の樹脂組成物において任意の断面を三次元X線顕微鏡で観察した場合、かかる断面の任意に選択した200μm×200μmの正方形中に、樹脂組成物中のEVOH(A)及びPO(B)のうち含有量が少ない方の樹脂で構成される相が、長手方向の長さが20μm以上であり長手方向長さと短手方向長さの比率(短手長さ/長手長さ)が0.5以下である相として5つ以上観察され、かつ、かかる断面の垂直方向の任意の断面を三次元X線顕微鏡で観察した場合、かかる垂直方向の断面の任意に選択した200μm×200μmの正方形中に、樹脂組成物中のEVOH(A)及びPO(B)のうち含有量が少ない方の樹脂相で構成される相が、長手方向の長さが20μm以上であり長手方向長さと短手方向長さの比率(短手長さ/長手長さ)が0.5以下である相として5つ以上観察される相分離構造を有していることが好ましい。
図3は、実施例5で得られる単層フィルムの三次元X線顕微鏡写真であり、低含有量側であるEVOH(A)相(
図3の白い部分)の長手長さと短手長さの関係性について上記条件を満たす相分離構造を有する。
【0070】
本発明の樹脂組成物によれば、機械物性に優れた成形体及び多層構造体が得られる。樹脂組成物の機械物性の指標としては、前記樹脂組成物からフィルムを製膜し、引張破断伸度を求めることで評価できる。引張破断伸度の測定方法は、後記する実施例に記載のとおりである。本発明の樹脂組成物から製膜されたフィルムの引張破断伸度の下限としては、100%が好ましく、300%がより好ましく、400%がさらに好ましく、420%が特に好ましい。一方、前記フィルムの引張破断伸度の上限は、1,200%であってもよい。
【0071】
本発明の樹脂組成物を用いたフィルムの酸素透過度は、800ml・20μm/(m
2・day・atm)以下が好ましく、550ml・20μm/(m
2・day・atm)以下がより好ましく、300ml・20μm/(m
2・day・atm)以下がさらに好ましい。本発明のフィルムの酸素透過度の測定方法及び測定条件は後記する実施例に記載のとおりである。
【0072】
本発明の樹脂組成物を用いたフィルムの酸素透過度(OTR)は下記式を満たすことが好ましい。なお、式中のEtは樹脂組成物中のEVOH(A)及びPO(B)の重量の合計100質量部に対するEVOH(A)の質量部の数値を意味する。また、式中の[Et]はEVOH(A)のエチレン単位含有量の数値を意味し、本発明の樹脂組成物が複数のEVOH(A)を含有する場合は、その質量比から算出されるエチレン単位含有量の平均値を意味する。
(数1)
(−20Et+870)×e
(0.1531[Et])/1554.33 < OTR < (−20Et+1900)×e
(0.1531×[Et])/1554.33
酸素透過度が上記式を満たす場合、本発明の樹脂組成物を用いたフィルムの酸素透過度は(−20Et+870)×e
(0.1531[Et])/1554.33より大きいことが好ましく、(−20Et+880)×e
(0.1531[Et])/1554.33より大きいことがより好ましい。また、本発明の樹脂組成物を用いたフィルムの酸素透過度は(−20Et+1900)×e
(0.1531×[Et])/1554.33未満が好ましく、(−20Et+1700)×e
(0.1531×[Et])/1554.33未満がより好ましく、(−20Et+1500)×e
(0.1531×[Et])/1554.33未満がさらに好ましく、(−20Et+1300)×e
(0.1531×[Et])/1554.33未満が特に好ましい。酸素透過度が(−20Et+870)×e
(0.1531[Et])/1554.33より大きいと、より機械物性に優れたフィルムが得られる。また、酸素透過度が(−20Et+1900)×e
(0.1531×[Et])/1554.33未満であると、より良好なガスバリア性を有するフィルムが得られる。
【0073】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明の樹脂組成物の製造方法は、例えば、EVOH(A)とPO(B)と変性ポリオレフィン(C)と必要に応じてその他添加剤とを溶融条件下で十分に混合又は混練することによって製造される。溶融条件下における混合又は混練は、例えば、ニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー等の既知の混合装置又は混練装置を使用して行うことができる。混合又は混練の温度は、使用するEVOH(A)の融点等に応じて適宜調節すればよいが、通常160℃以上300℃以下の温度範囲内の温度を採用すればよく、180℃以上290℃以下であってもよく、200℃以上280℃以下であってもよい。
【0074】
本発明の樹脂組成物は、ペレット、粉末等の任意の形態に加工し、成形材料として使用でき、ガスバリア性と機械物性とのバランスに優れる成形品が得られる。
【0075】
<成形体>
本発明の成形体は、前記樹脂組成物を含む。本発明の樹脂組成物は、熱可塑性を有するため、一般の熱可塑性重合体に対して用いられている通常の成形加工方法や成形加工装置を用いて成形加工できる。成形加工法としては、例えば、射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形、カレンダー成形、真空成形、コンプレッションモールディング成形等の任意の方法を採用できる。このような方法で製造される樹脂組成物を含む成形体の形状としては、型物、パイプ、シート、フィルム、円板、リング、袋状物、びん状物、紐状物、繊維状物等の多種多様の形状のものが包含され、フィルム状が好ましい。前記成形体は、前記樹脂組成物のみを実質的に含有していてもよい。
【0076】
本発明の成形体は、例えば単層のフィルム状の構造体として用いることができる。前記成形体の好適な用途は、飲食品用包装材、容器用パッキング材、医療用輸液バッグ材、ガソリンタンク材、タイヤ用チューブ材、化粧品用包装材、医薬用包装材、歯磨き粉用包装材、及び靴用クッション材である。
【0077】
<多層構造体>
本発明の多層構造体は、前記樹脂組成物を含む層を有する。前記樹脂組成物を含む層は前記樹脂組成物のみを実質的に含有する層であってもよい。本発明の多層構造体は、前記樹脂組成物を含む層を有することによって、耐湿性、機械的特性等を向上させることが可能である。前記多層構造体を構成する層の層数としては、2層以上であれば特に限定されないが、例えば、2層以上10層以下が好ましく、3層以上5層以下がより好ましい。
【0078】
本発明の多層構造体は、例えば、前記樹脂組成物を含む少なくとも1つの層(前記樹脂組成物層)と他の素材から構成される少なくとも1つの層とを有する。他の素材は、要求される特性、予定される用途等に応じて適宜好適なものを選択でき、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレン等のポリオレフィン;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリスチレン、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂等の熱可塑性重合体;アイオノマー等が挙げられる。
【0079】
本発明の多層構造体においては、前記樹脂組成物層と他の素材から構成される層との間に接着層又は接着剤を介在させてもよい。接着層又は接着剤を介在させることによって、その両側の2層を強固に接合一体化させることができる。接着層及び接着剤としては、ジエン系重合体の酸無水物変性物、ポリオレフィンの酸無水物変性物、高分子ポリオールとポリイソシアネート化合物との混合物等が挙げられる。但し、他の素材から構成される層がポリオレフィン層である場合には、接着層又は接着剤を介在しなくても層間接着性に優れるため、接着層又は接着剤を介在させなくてもよい。なお、前記多層構造体の多層構造形成のために、共押出、共射出、押出コーティング等の公知の方法を使用することもできる。
【0080】
本発明の多層構造体はガスバリア性と機械物性とがバランスよく優れるため、これらの性質が要求される日用品、包装材、機械部品等として使用できる。前記多層構造体の特長が特に効果的に発揮される用途の例としては、飲食品用包装材、容器用パッキング材、医療用輸液バッグ材、ガソリンタンク材、タイヤ用チューブ材、化粧品用包装材、医薬用包装材、歯磨き粉用包装材、靴用クッション材、容器、バッグインボックス用内袋材、有機液体貯蔵用タンク材、有機液体輸送用パイプ材、暖房用温水パイプ材(床暖房用温水パイプ材等)、樹脂製壁紙等が挙げられる。これらのうち特に好適な用途は、飲食品用包装材、容器用パッキング材、医療用輸液バッグ材、ガソリンタンク材、タイヤ用チューブ材、化粧品用包装材、医薬用包装材、歯磨き粉用包装材、及び靴用クッション材である。
【0081】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、前記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
【実施例】
【0082】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。以下の実施例及び比較例における分析及び評価は次のようにして行った。
【0083】
[EVOH(A)のエチレン含量及びけん化度]
乾燥EVOHペレットを凍結粉砕により粉砕した。得られた粉砕EVOHを、公称目開き1.00mmのふるい(標準ふるい規格JIS−Z8801−1−2006準拠)でふるい分けした。前記のふるいを通過したEVOH粉末5gを、100gのイオン交換水中に浸漬し、85℃で4時間撹拌した後、脱液して乾燥する操作を二回行った。得られた洗浄後の粉末EVOHを用いて、下記の測定条件で
1H−NMRの測定を行い、下記の解析方法でエチレン含量及びけん化度を求めた。
【0084】
測定条件
装置名 :日本電子社製 超伝導核磁気共鳴装置「Lambda500」
観測周波数 :500MHz
溶媒 :DMSO−d
6
ポリマー濃度 :4質量%
測定温度 :40℃及び95℃
積算回数 :600回
パルス遅延時間:3.836秒
サンプル回転速度:10〜12Hz
パルス幅(90°パルス):6.75μsec
【0085】
解析方法
40℃での測定では、3.3ppm付近に水分子中の水素のピークが観測され、EVOHのビニルアルコール単位のメチン水素のピークのうちの、3.1〜3.7ppmの部分と重なった。一方、95℃での測定では、前記40℃で生じた重なりは解消するものの、4〜4.5ppm付近に存在するEVOHのビニルアルコール単位の水酸基の水素のピークが、EVOHのビニルアルコール単位のメチン水素のピークのうちの、3.7〜4.0ppmの部分と重なった。すなわち、EVOHのビニルアルコール単位のメチン水素(3.1〜4.0ppm)の定量については、水又は水酸基の水素のピークとの重複を避けるために、3.1〜3.7ppmの部分については、95℃の測定データを採用し、3.7〜4.0ppmの部分については40℃の測定データを採用し、これらの合計値として当該メチン水素の全量を定量した。なお、水又は水酸基の水素のピークは測定温度を上昇させることで高磁場側にシフトすることが知られている。従って、以下のように40℃と95℃の両方の測定結果を用いて解析した。前記の40℃で測定したスペクトルより、3.7〜4.0ppmのケミカルシフトのピークの積分値(I
1)及び0.6〜1.8ppmのケミカルシフトのピークの積分値(I
2)を求める。一方、95℃で測定したスペクトルより、3.1〜3.7ppmのケミカルシフトのピークの積分値(I
3)、0.6〜1.8ppmのケミカルシフトのピークの積分値(I
4)及び1.9〜2.1ppmのケミカルシフトのピークの積分値(I
5)を求める。ここで、0.6〜1.8ppmのケミカルシフトのピークは、主にメチレン水素に由来するものであり、1.9〜2.1ppmのケミカルシフトのピークは、未けん化の酢酸ビニル単位中のメチル水素に由来するものである。これらの積分値から下記式によりエチレン含有量及びけん化度を計算した。
【0086】
【数2】
【数3】
【0087】
[メルトフローレート(MFR)]
メルトインデクサー(商品名:「TECHNO SEVEN」、L244−2531、株式会社テクノ・セブン製)を用い、ASTM D1238に準拠して、温度190℃、荷重2,160gの条件下で試料の流出速度(g/10分)を測定して求めた。
【0088】
[実施例1]
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)として株式会社クラレ製EVOH『エバール(登録商標)E105B(製品名)』を40部、ポリオレフィン(B)として株式会社プライムポリマー製の高密度ポリエチレン(HDPE)『HY430(製品名)』を60部、及び変性ポリオレフィン(C)としてアルケマ株式会社製無水マレイン酸変性ポリエチレン『LOTADER(登録商標)3210(製品名)』5部をドライブレンドし、ラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所製『50M』二軸異方向)を用いて240℃で20rpmにて3分混練後、50rpmにて7分混練し、ハサミでカットすることにより5mm角の溶融ブレンド品を得た。
【0089】
[フィルム作製]
前記で得られた溶融ブレンド品3gを10cm×10cmのアルミ枠内に入れ、熱プレス(株式会社井本製作所製)『MH−10』を用いて200℃で10MPaの圧力で加圧することにより、厚さ300μmフィルム(以下、試料フィルムという。)を得た。
【0090】
[酸素透過度(OTR)]
上記試料フィルムを用いて、酸素透過度(OTR)の評価を行った。試料フィルムの一部を切り取り、MOCON INC.製酸素透過率測定装置OX−TRAN 2/20型(検出限界値0.01ml・20μm/m
2・day・atm)を用いて65%RH、温度20℃、酸素圧が1気圧、キャリアガス圧力が1気圧の条件下で、JIS K 7126−2:2006(等圧法)に記載の方法に準じて測定した。ここで、「0.01ml・20μm/m
2・day・atm」とは、フィルム厚さ20μmに換算したときに、フィルム1m
2、酸素ガス1気圧の圧力差のもとで、1日当たり0.01mlの酸素が透過することを表す。
【0091】
酸素透過度については、以下の評価基準で評価した。
A:300ml・20μm/m
2・day・atm以下
B:300ml・20μm/m
2・day・atmより大きく、
550ml・20μm/m
2・day・atm以下
C:550ml・20μm/m
2・day・atmより大きく、
800ml・20μm/m
2・day・atm以下
D:800ml・20μm/m
2・day・atmより大きい
【0092】
[引張破断伸度]
試料フィルムをダンベル型に切り取り、試験片とした。試料片のサイズは全長60mm、中央部長さ10mm、中央部幅4mm、厚み300μmであった。精密万能試験機(商品名:オートグラフEZ−Test、JIS B 7721:2009の0.5級及びISO 7500−1(2004)のクラス0.5に対応、株式会社島津製作所製)により、チャック間距離10mm、引張速度20mm/分の条件で、試験片について定速引張試験を行い、引張破断伸度を測定した。
【0093】
引張破断伸度については、以下の評価基準で評価した。
A:400%以上
B:250%以上400%未満
C:100%以上250%未満
D:100%未満
【0094】
[相分離構造の測定]
走査型電子顕微鏡S−3000N(株式会社日立製作所製)を用いて断面の観察を行なった。試料を液体窒素中に3分浸して極低温下で破断させ、試料破断面を60℃のDMSOに1時間浸漬し、EVOHのみを溶解させた。測定する樹脂組成物及びフィルムにPtを蒸着させ、加速電圧15.0kVとした。測定は高真空雰囲気下で行なった。また、三次元X線顕微鏡nano3DX(株式会社リガク製)を用いて、試料を任意の断面及びかかる断面の垂直方向から観察を行った。三次元X線顕微鏡による観察は、撮影枚数500枚、解像度0.54μm/pixel、X線源はCrという条件にて行った。三次元X線顕微鏡の観察結果から「三次元網目状構造」であるものを選定し、「三次元網目状構造」に該当しないものはSEM画像から「海島構造」「微分散」に分類した。
【0095】
[実施例2]
実施例1で用いたEVOH(A)を、表1に記載の特性を有する株式会社クラレ製EVOH『エバール(登録商標)G110B(製品名)』に変更した以外は、実施例1と同様の操作及び評価を行なった。結果を表2に示す。
【0096】
[実施例3]
実施例1で用いたEVOH(A)を、表1に記載の特性を有する株式会社クラレ製EVOH『エバール(登録商標)F101B(製品名)』に変更し、PO(B)を株式会社プライムポリマー製の高密度ポリエチレン(HDPE)『2110JH(製品名)』に変更し組成比を表1に示した通りに変更した以外は、実施例1と同様の操作及び評価を行なった。結果を表2に示す。
【0097】
[実施例4]
実施例3で用いたPO(B)を、表1に記載の特性を有する三菱ケミカル株式会社製低密度ポリエチレン(LLDPE)『ノバテック(登録商標)UJ790(製品名)』に変更した以外は、実施例3と同様の操作及び評価を行なった。結果を表2に示す。
【0098】
[実施例5]
実施例1で用いたEVOH(A)を、表1に記載の特性を有する株式会社クラレ製EVOH『エバール(登録商標)G130B(製品名)』に変更し、実施例1と同様の操作及び評価を行なった。結果を表2に示す。また、走査型電子顕微鏡の観察結果を
図1に示す。
【0099】
[実施例6〜実施例13]
表1に示すようにEVOH(A)、PO(B)及び変性ポリオレフィン(C)のブレンド比率を変更した以外は、実施例5と同様の操作及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0100】
[実施例14]
実施例5で用いた変性ポリオレフィン(C)を、アルケマ株式会社製無水マレイン酸変性ポリエチレン『LOTADER(登録商標)3410(商品名)』に変更した以外は、実施例5と同様の操作及び評価を行なった。結果を表2に示す。
【0101】
[実施例15]
実施例5で用いた変性ポリオレフィン(C)を、アルケマ株式会社製無水マレイン酸変性ポリエチレン『BONDINE(登録商標)LX4110(商品名)』に変更した以外は、実施例5と同様の操作及び評価を行なった。結果を表2に示す。
【0102】
[比較例1]
実施例1で用いたEVOH(A)を、表1に記載の特性を有する株式会社クラレ製EVOH『エバール(登録商標)E171B(商品名)』に変更した以外は、実施例1と同様の操作及び評価を行なった。結果を表2に示す。
【0103】
[比較例2]
実施例1で用いたEVOH(A)を、表1に記載の特性を有する株式会社クラレ製『エバール(登録商標)E173B(商品名)』に変更した以外は、実施例1と同様の操作及び評価を行なった。結果を表2に示す。
【0104】
[比較例3]
実施例5で用いたPO(B)を、表1に記載の特性を有する株式会社プライムポリマー製の高密度ポリエチレン(HDPE)『HI−ZEX 2200J(商品名)』に変更し、変性ポリオレフィン(C)を用いなかった以外は、実施例5と同様の操作及び評価を行なった。結果を表2に示す。また、走査型電子顕微鏡の観察結果を
図2に示す。
【0105】
[比較例4]
変性ポリオレフィン(C)としてアルケマ株式会社製無水マレイン酸変性ポリエチレン『LOTADER(登録商標)3210(商品名)』を使用した以外は比較例3と同様の操作及び評価を行なった。結果を表2に示す。
【0106】
[比較例5]
実施例5で用いたアルケマ株式会社製無水マレイン酸変性ポリエチレン『LOTADER(登録商標)3210(商品名)』を使用しなかったこと以外は、実施例5と同様の操作及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0107】
[比較例6]
実施例5で、EVOH(A)『エバール(登録商標)G130B(製品名)』40部とポリオレフィン(B)『HY430(製品名)』を60部、及び変性ポリオレフィン(C)『LOTADER(登録商標)3210(製品名)』5部をドライブレンドし、ラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所製『50M』二軸異方向)を用いて240℃で20rpmにて3分混練後、150rpmにて10分混練し、ハサミでカットすることにより5mm角の溶融ブレンド品を得た以外は実施例5と同様の評価を行なった。結果を表2に示す。
【0108】
[比較例7〜10]
表1に示すようにEVOH(A)、PO(B)及び変性ポリオレフィン(C)のブレンド比率変更した以外は、実施例5と同様の操作及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0109】
[比較例11]
実施例5で用いた変性ポリオレフィン(C)を東ソー株式会社製エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物『メルセン(登録商標)H−6051(商品名)』に変更した以外は、実施例5と同様の操作及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0110】
[比較例12]
実施例5で用いた変性ポリオレフィン(C)を東ソー株式会社製エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物『メルセン(登録商標)H−6410M(商品名)』に変更した以外は、実施例5と同様の操作及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
[溶融状態でのレオロジー特性の評価]
Bohlin Instruments Ltd.製『CVO−100』を用いて、溶融状態におけるレオロジー特性の評価を行なった。実施例5および比較例5で得られた樹脂組成物、並びにそれぞれの原料として用いた株式会社クラレ製EVOH『エバール(登録商標)G130B(製品名)』および株式会社プライムポリマー製の高密度ポリエチレン(HDPE)『HY430(製品名)』を用いて、200℃、周波数範囲0.1〜20Hz(18point)、ギャップ0.1mm、窒素雰囲気の条件で測定を行なった。評価結果を
図5に示す。また、比較例3および比較例4で得られた樹脂組成物、並びにそれぞれの原料として用いた株式会社クラレ製EVOH『エバール(登録商標)G130B(製品名)』および株式会社プライムポリマー製の高密度ポリエチレン(HDPE)『HI−ZEX 2200J(商品名)』を用いて上記と同様の測定を実施した。評価結果を
図6に示す。なお、図中のG’は貯蔵弾性率、G’’は損失弾性率、η’は動的粘度、ωは角速度を表す。実施例5で得られた樹脂組成物のほうが比較例5により得られた樹脂組成物よりも低周波数側で弾性率G’’が上昇した。比較例3及び比較例4で得られた樹脂組成物ではほとんど差が見られなかった。実施例5で得られた樹脂組成物では三次元網目構造による補強効果であると推定される。
【0114】
株式会社ユービーエム製『Rheogel−E4000』を用いて、固体状態におけるレオロジー特性の評価を行なった。実施例5および比較例5で得られた樹脂組成物、並びにそれぞれの原料として用いた株式会社クラレ製EVOH『エバール(登録商標)G130B(製品名)』および株式会社プライムポリマー製の高密度ポリエチレン(HDPE)『HY430(製品名)』を用いて、温度−150〜200℃の範囲で、昇温速度2℃/分、周波数8Hz、引張モード、チャック間距離20mmの条件で測定を行なった。評価結果を
図7に示す。また、比較例3および比較例4で得られた樹脂組成物、並びにそれぞれの原料として用いた株式会社クラレ製EVOH『エバール(登録商標)G130B(製品名)』および株式会社プライムポリマー製の高密度ポリエチレン(HDPE)『HI−ZEX 2200J(商品名)』を用いて上記と同様の測定を実施した。評価結果を
図8に示す。なお、図中のE’は貯蔵弾性率、E’’は損失弾性率、tanδは損失正接を表す。E’、E’’およびtanδにおいて、実施例5と比較例5に大きな差異は見られなかった。また、比較例3と比較例4にも大きな差異は見られなかった。