(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記被着体層の引張弾性係数が前記ポリプロピレン樹脂発泡体シートの引張弾性係数よりも大きく、前記被着体層の線膨張係数が前記ポリプロピレン樹脂発泡体シートの線膨張係数と異なる、請求項7又は8記載の積層体。
【背景技術】
【0002】
汎用のオレフィン樹脂であるポリプロピレン樹脂は非極性樹脂であり、ロンドン力と言われる力は働くものの、極性基をもたないため接着力が弱く、金属表面などとの接着性が悪いことで知られている。この接着性改善のために官能基として水酸基を付与したポリオレフィン樹脂で変性したポリプロピレン樹脂とすることで接着性や印刷性などを改善することが行われている。
【0003】
また、ポリプロピレン樹脂を変性樹脂との共重合体として、共重合体中の変性樹脂部分の量を増加させることで、接着性は向上するものの、一般的には変性樹脂の分子量が小さい場合が多く、変性樹脂との共重合体にすることで共重合体の破断伸びが低下する傾向がある。他方、ポリプロピレン樹脂に無水カルボン酸基をグラフト重合させた変性ポリプロピレン樹脂を、ポリプロピレン樹脂に加えた樹脂組成物として接着性を向上させることも行なわれているが、この場合にも同様に表面粗さや伸び値が低下する問題がある。
【0004】
一方、発泡樹脂は、軽量で、断熱性、緩衝性等に優れるため、断熱材や包装材として用いられ、また自動車部材等としても広く用いられている。また、発泡樹脂の機能性を高めたり、発泡樹脂層を有する積層体の機能性を高めたりする目的で、発泡樹脂に関する種々の改良技術が報告されている。
【0005】
例えば特許文献1には、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し無機フィラーを0.5〜33質量部含有させた発泡層と、無機フィラーを3〜70質量部含有させたポリオレフィン系の非発泡補強層と、ポリオレフィン系非発泡表面層とを積層してなる積層シートにおいて、発泡層の厚みと連続気泡率、補強層の厚みを特定範囲とし、表面層の表面粗さRzを15μm以下として、さらに積層シート全体の厚みと密度を特定の範囲に調整することにより、シートの断熱性、耐熱性、耐油性、剛性、及び表面平滑性を改善したことが記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、発泡剤を含むポリスチレン系樹脂組成物が押出発泡されてなるポリスチレン系樹脂発泡シートにおいて、少なくとも一方の表面の粗さをJIS B0601:2001の輪郭曲線の最大高さが30μm以上100μm以下となるようにし、また当該表面から厚み方向0.2mmの深さまでの平均密度を特定範囲とすることにより、この発泡シートの樹脂フィルムへの接着性を改善したことが記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、ポリオレフィン系樹脂からなり、表面粗さが30〜60μmの、独立気泡の放射線架橋発泡体が、表皮材との接着に必要な溶剤型接着剤の量を低減しても高い接着力を実現できたことが記載されている。
【0008】
また、特許文献4には、多数の合成樹脂発泡粒状物が熱硬化性樹脂の硬化反応物で一体化された、特定の見掛密度の板状物において、その表面の算術平均粗さRaを2.5μm以上とし、最大高さ(Ry)を10.0μm以上とすることにより、当該表面に接着剤を使用して表面材を接着一体化させた場合に、充分な接着強度が得られたことが記載されている。
【0009】
また、特許文献5には、無水物官能化した熱可塑性樹脂と、アミン官能化した潜在的硬化剤と、潜在的発泡剤を含有する固体膨張性組成物が記載され、この発泡可能な組成物が、車両などの中空構造の充填又は封止に好適であり、防音・防振硬化に優れることが記載されている。
【0010】
さらに、特許文献6には、熱可塑性樹脂を含み、特定方向へのせん断破壊に著しい異方性を付与した樹脂発泡体が記載され、この樹脂発泡体が柔軟性を有し、加工性に優れることが記載されている。
【0011】
また、特許文献7には、ポリオレフィン樹脂を主成分として、酸変性樹脂を含むフラットパネルディスプレイ用基板やフラットパネルディスプレイのディスプレイの運搬組立時になどに使用する保護用のクッション材として用いられる樹脂発泡体が開示されている。この場合には、クッション材として、対象物に付着することで、対象物の表面に異物が付着しないようにすることを目的にしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
樹脂製品の材料としてポリプロピレン樹脂が種々の用途に適用されている。しかし、上述のようにポリプロピレン樹脂は極性基を有さず、他の樹脂や金属等と接着剤を使用せずに直接積層した場合には、層間の十分な接着力を得ることが難しい。
この接着性を改善するために、ポリプロピレン樹脂に水酸基等の極性基を導入することが知られている。ポリプロピレン樹脂への極性基の導入は、例えば、プロピレンと、極性基を有するモノマーとを共重合することにより行われることがある。このような方法であると、伸び値の低下が大きく、コストも高くなる。
【0014】
ポリプロピレン樹脂発泡体は原料コストが安く、また、軽量で機械強度や弾性反発力にも優れること等から、ポリプロピレン樹脂発泡体を用いた部材が種々の用途において実用化されている。また、ポリプロピレン樹脂発泡体シートに関しては、通常、他の樹脂シートや金属等との積層体の形態であり、このような部材として例えば、土木建材用サンドイッチパネル、OA機器、電気・電子部品。自動車部品などが挙げられる。
【0015】
このような要求を踏まえ本発明者らが検討を重ねたところ、積層体の層間接着性を高めるために、ポリプロピレン樹脂発泡体シートの原料として極性基を導入した変性ポリプロピレン樹脂を用いると、得られる発泡体シートの破断伸び値が低下したり、表面粗さが増大したりして、熱圧着等により形成した積層体間に所望の十分な密着性を付与するのが難しい問題があることが確認された。
【0016】
そのため、ポリプロピレン樹脂発泡体シートを、極性基を有するように変性した樹脂を用いる場合でも、これと被着体との接着に際しては、樹脂発泡体シートのみでは接着性が不十分で接着剤を使用する場合がほとんどであった。そこで本発明は、ポリプロピレン樹脂を用いた発泡体シートであって、被着体との接着を、接着剤を使用せずに接着可能な接着性に優れた発泡体シート、及びこの発泡体シートと被着体とを接着剤を使用せずに直接接着してなる積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
ポリプロピレン樹脂は結晶性樹脂であり、その発泡体シートの製造には押出発泡プロセスが適用される。本発明者らは、ポリプロピレン樹脂に対し、特定の極性基で変性した樹脂と気泡核剤とを特定量混合して得た樹脂組成物を用いて、押出発泡プロセスにより発泡体シートを製造するに当たり、発泡後に所定の圧延処理に付すことにより、発泡体シート表面の粗さを効果的に所定範囲に低減することができると同時に、MD方向(押出方向)の引張破断伸びを十分に大きくすることができ、この発泡体シートを種々の被着体に対して直接加熱圧着させた場合に、被着体に対して優れた接着性を示すことを見出した。
【0018】
つまり、接着性の向上に一定の表面粗さによるアンカー効果を必要とする上記特許文献2〜4記載の技術等とは異なり、特定の極性基で変性したPP樹脂発泡シートの表面粗さを十分に低減した上で、さらに所定の引張破断伸びを示す特性とすることにより、得られる発泡体シートの加熱圧着時の被着体に対する密着性を効果的に高め、その結果PP樹脂発泡シートを、接着剤を使用せずに被着体に接着させるPP発泡体樹脂シートと積層体の発明を完成させた。
【0019】
上記の知見は本発明者らが初めて見出したものである。例えば、上記特許文献1記載の技術では、発泡層と非発泡層とをポリオレフィン樹脂で形成し、両層に対する無機フィラーの配合量を変え、さらにその表面に非発泡のポリオレフィン保護層を設けて、当該保護層の表面粗さを規定している。しかし特許文献1は、発泡層が無機フィラーを含有することを規定するものであるし、発泡層表面の粗さを低減することや、発泡層表面の粗さと被着体との接着性に関して特許文献1は何も記載していない。
【0020】
また、特許文献2記載の技術では、発泡剤を含むポリスチレン系樹脂組成物が押出発泡されてなるポリスチレン系樹脂発泡シートにおいて、少なくとも一方の表面の粗さをJIS B0601:2001の輪郭曲線の最大高さが30μm以上100μm以下となるようにすること、すなわち、発泡シート表面に一定以上の表面粗さをもたせることを特徴としている。しかし、極性基で変性したポリプロピレンを用いて発泡シートを作製すること、当該発泡シートの表面粗さを抑えて被着体との密着性を高めて接着性を向上させることについて特許文献2は何も記載していない。
【0021】
また、特許文献3は、独立気泡の放射線架橋発泡体の表面粗さを30μm以上と一定程度大きくして、この発泡体と被着体とを接着剤を用いて接着する技術を記載するに過ぎず、極性基で変性したポリプロピレンを用いて作製した発泡シートの表面粗さを抑え、これにより当該表面と被着体とを接着剤を使用せずに直接接着させることについて、特許文献3は記載していない。
【0022】
また、特許文献4記載の技術も発泡粒状物を含む板状物表面の算術平均粗さRaを2.5μm以上、最大高さ(Ry)を10.0μmとし、当該表面に一定の凹凸を形成することを規定するものである。極性基で変性したポリプロピレンを用いて作製した発泡シートの表面粗さを抑え、これにより当該表面と被着体とを接着剤を使用せずに直接接着させることについて、特許文献4は記載していない。
【0023】
また、特許文献5には、膨張率1000%以上の高膨張樹脂材料に関する発明であり、焼き付け伸び値が150〜203%の高伸びを示すことが記載されている。しかし、発泡体シート表面の粗さを抑え、また引張伸び値を特定の範囲として、接着剤を使用せずに被着体と直接接着させる技術について、特許文献5は記載していない。
【0024】
また、特許文献6記載の技術は、樹脂発泡体の所定の強度を維持しながら、引張破断強度と引張破断伸びを所定範囲に制御するものである。しかし、発泡体シート表面の粗さを抑え、また引張伸び値を特定の範囲として、接着剤を使用せずに被着体と直接接着させる技術について、特許文献6は記載していない。
【0025】
特許文献7は、クッション性以外に接着性を改善することを目標にしているが、本願発明のように、各種被着体を、接着剤を使用せずにポリプロピレン樹脂発泡体シートに接着するために、発泡体の表面粗さと引張破断伸びを所定範囲に制御したシートを得ることに関する記載や示唆もなく、逆に、押出機を通過させた後の溶融張力や破断点速度を規定し、さらに発泡シートにアニーリング処理などを行うことを規定しているに過ぎない。
【0026】
上記のように、特許文献1から特許文献7に記載のいずれの文献にも、特定の極性基で変性したPP発泡樹脂シートの表面粗さを所定の範囲に低く抑えると同時に、引張破断伸びを所定範囲とすることで、発泡体シートと被着体を、接着剤を用いずに加熱圧着する技術に関しては記載も示唆もない。本発明は、本発明者らが見出した上述した知見に基づき、さらに検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0027】
すなわち、本発明の上記課題は下記の手段により解決された。
〔1〕
成分(A)
としてポリプロピレン樹脂と、
成分(B)
として酸無水物構造を有するポリエチレン又は酸無水物構造を有するポリプロピレンのいずれかのポリオレフィン樹脂あるいは、カルボキシ基及び/又は酸無水物構造を有する変性ポリプロピレン樹脂と、成分(C)
として気泡核剤とを含有するポリプロピレン樹脂発泡体シートであって、
前記ポリプロピレン樹脂発泡体シートは成分(A)100質量部に対し成分(B)を6〜30質量部含有し、また成分(A)及び(B)の合計100質量部に対し成分(C)を4〜10質量部含有し、
前記ポリプロピレン樹脂発泡体シートの表面のMD方向の表面粗さのRaが1.2μm以下で、MD方向の表面粗さRaのTD方向の表面粗さRaに対する比(MD/TD)が0.6以上で1.0より小さく、MD方向の引張破断伸び値が40〜80%の範囲にある、ポリプロピレン樹脂発泡体シート。
〔
2〕
成分(B)が酸無水物構造を有する変性ポリプロピレン樹脂である、〔
1〕記載のポリプロピレン樹脂発泡体シート。
〔
3〕
成分(C)として、クエン酸金属塩、炭酸水素ナトリウム、及び/又はタルク粉末を含む、〔1〕
または〔2〕記載のポリプロピレン樹脂発泡体シート。
〔
4〕
前記ポリプロピレン樹脂発泡体シートの気泡密度が1.0×10
3〜3.0×10
3個/mm
3である、〔1〕〜〔
3〕のいずれか記載のポリプロピレン樹脂発泡体シート。
〔
5〕
前記ポリプロピレン樹脂発泡体シートの発泡倍率が1.5〜4倍である、〔1〕〜〔
4〕のいずれか記載のポリプロピレン樹脂発泡体シート。
〔
6〕
前記ポリプロピレン樹脂発泡体シートが、積層体部材の心材として用いられる、〔1〕〜〔
5〕のいずれか記載のポリプロピレン樹脂発泡体シート。
〔
7〕
〔1〕〜〔
6〕のいずれか記載のポリプロピレン樹脂発泡体シートと、該ポリプロピレン樹脂発泡体シートの一方の表面に直接接着された被着体層とを有する積層体。
〔
8〕
〔1〕〜〔
6〕のいずれか1項記載のポリプロピレン樹脂発泡体シートと、該ポリプロピレン樹脂発泡体シートの両表面に直接接着された被着体層とを有する積層体。
〔
9〕
前記被着体層の引張弾性係数が前記ポリプロピレン樹脂発泡体シートの引張弾性係数よりも大きく、前記被着体層の線膨張係数が前記ポリプロピレン樹脂発泡体シートの線膨張係数と異なる、〔
7〕又は〔
8〕記載の積層体。
〔
10〕
前記被着体層が構成材料として金属シート、樹脂シート、及び、樹脂シートで被覆された金属シートのいずれかを含む、〔
7〕〜〔
9〕のいずれか記載の積層体。
〔
11〕
前記被着体層が構成材料としてアルミニウム、ステンレス又は銅の金属シートを含み、又は、アルミニウム、ステンレス及び銅から選ばれる金属の合金シートを含む、〔
7〕〜〔
10〕のいずれか記載の積層体。
〔
12〕
前記積層体が、土木建築用、OA機器用、電気・電子機器用、又は自動車部品用の積層体部材である、〔
7〕〜〔
11〕のいずれか記載の積層体。
【0028】
本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0029】
本発明のポリプロピレン樹脂発泡体シートは、ポリプロピレン樹脂と、特定の極性基で変性した
酸無水物構造を有するポリエチレン又は酸無水物構造を有するポリプロピレンのいずれかのポリオレフィン樹脂あるいは、カルボキシ基及び/又は酸無水物構造を有する変性ポリプロピレン樹脂と、気泡核剤とを特定量有し、被着体と直に積層した場合に、被着体と強固に接着することができる。また、本発明の積層体は、本発明のポリプロピレン樹脂発泡体シートと、このシートに直に積層された被着体層とを有し、ポリプロピレン樹脂発泡体シートと被着体との接着性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[ポリプロピレン樹脂発泡体シート]
本発明のポリプロピレン樹脂発泡体シート(以下、「PP発泡シート」とも称す。)は、(A)ポリプロピレン樹脂と、(B)
酸無水物構造を有するポリエチレン又は酸無水物構造を有するポリプロピレンのいずれかのポリオレフィン樹脂あるいは、カルボキシ基及び/又は酸無水物構造を有する変性ポリプロピレン樹脂と、(C)気泡核剤とを含有する。すなわち、本発明のPP発泡シートは、成分(A)〜(C)を含有する樹脂組成物を用いて形成される発泡体シートである。
【0031】
<(A)ポリプロピレン樹脂>
本発明のPP発泡シートを構成する成分(A)はポリプロピレン樹脂である。成分(A)として用いるポリプロピレン樹脂に特に制限はなく、良好な発泡性を担保する観点からは、メルトフローレート(MFR)が0.5〜5.0g/10minが好ましく、0.8〜3.0g/10minがより好ましい。MFRは、温度:230℃、荷重2.16kgfの条件で、JIS−K7210に準拠して決定される。
成分(A)のポリプロピレン樹脂はプロピレンをモノマーとして用い、常法により重合して得ることができる。成分(A)のポリプロピレン樹脂は市場から入手することもできる。例えば、プライムポリプロ(商品名、プライムポリマー社製)、ノバテックPP(商品名、日本ポリプロ製)等を用いることができる。
【0032】
<(B)カルボキシ基及び/又は酸無水物を有する
ポリオレフィン樹脂>
本発明のPP発泡シートを構成する成分(B)はカルボキシ基及び/又は酸無水物構造[−C(=O)−O−C(=O)−]を有するポリエチレンまたはポリプロピレンのいずれかのポリオレフィン樹脂、
あるいはカルボキシ基及び/又は酸無水物構造を有する変性ポリプロピレン樹脂である。成分(B)の樹脂は、樹脂を合成するに当たり、原料の少なくとも一部にカルボキシ基含有モノマーを用いたり、酸無水物構造を有するモノマーを用いたりして得ることができる。
【0033】
カルボキシ基含有モノマーは、カルボキシ基を有する重合性化合物(本明細書において「重合性化合物」とは、重合性基、好ましくはエチレン性不飽和結合を有する化合物である。)であれば特に制限はない。例えば、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、アコニット酸、クロトン酸、イソクロトン酸、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート等を用いることができる。カルボキシ基含有モノマーとして、マレイン酸、シトラコン酸、及び/又はメタクリル酸を用いることが好ましい。
【0034】
酸無水物構造を有するモノマーとしては、酸無水物構造を有する重合性化合物であれば特に制限はない。例えば、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水アコニット酸、無水イタコン酸等を挙げることができ、無水マレイン酸が好ましい。
【0035】
成分(B)の樹脂は、
カルボキシ基及び/又は酸無水物構造を有する
ポリオレフィン樹脂であることが好ましい。
また、成分(B)の樹脂は、カルボキシ基及び/又は酸無水物構造を有する変性ポリプロピレン樹脂(カルボン酸変性及び/又は無水カルボン酸変性されたポリプロピレン樹脂)であることも好ましく、より好ましくは酸無水物構造を有する変性ポリプロピレン樹脂である。
ここで、カルボキシ基及び/又は酸無水物構造を有する変性ポリプロピレン樹脂とは、原料としてプロピレンに加え、カルボキシ基含有モノマー及び/又は酸無水物構造を有するモノマーを用いて合成される
ポリプロピレン樹脂である。
また、成分(B)の樹脂として、カルボキシ基及び/又は酸無水物構造を有する変性ポリプロピレン樹脂と共に、又は当該変性ポリプロピレン樹脂に代えて、カルボキシ基及び/又は酸無水物構造を有する変性ポリエチレン樹脂を用いることもできる。
成分(B)の樹脂の酸価は、小さいと層間の接着力を充分に発揮できず、大きすぎると成分(A)との相溶性が著しく低下して発泡性が悪化する。その為、酸化は0.5〜100が好ましく、さらに好ましくは0.5〜10である。また、MFRは2〜20g/10minが好ましく、3〜10g/10minがより好ましい。酸価は、JIS K 0070に準拠して決定する。
【0036】
成分(B)の樹脂は市場から入手することもできる。例えば、成分(B)として、変性ポリプピレン樹脂を用いる場合は、アドマー(商品名、三井化学社製)、OREVAC(商品名、アルケマ社製)等を用いることができる。
また、成分(B)として、変性ポリエチレン樹脂を用いる場合は、アドマー(商品名、三井化学社製)LF128(MFR2.7)などを用いることができる。
【0037】
<(C)気泡核剤>
本発明のPP発泡シートは気泡核剤を含有する。この気泡核剤は、シートの製造工程において、樹脂が発泡する際に気泡核の形成を促すものであり、気泡の微細化と均一分散性を向上させる。
成分(C)の気泡核剤に特に制限はなく、例えば、重炭酸ソーダ、重炭酸アンモニウム、重曹クエン酸、アゾジカーボンアミド、タルク等を成分(C)として用いることができる。なお、本発明はこれらに限定されるものではなく、樹脂の発泡において一般的に用いられているものを広く適用することができる。
【0038】
本発明のPP発泡シートは、成分(A)〜(C)を特定比で含有する。すなわち、成分(A)のポリプロピレン樹脂100質量部に対し、成分(B)の
酸無水物構造を有するポリエチレン又は酸無水物構造を有するポリプロピレンのいずれかのポリオレフィン樹脂、あるいはカルボキシ基及び/又は酸無水物構造を有する変性ポリプロピレン樹脂を6〜30質量部含有する。また、成分(A)及び(B)の合計100質量部に対し、成分(C)を4〜10質量部含有する。
【0039】
〔PP発泡シートの表面粗さRa〕
また、本発明のPP発泡シートは、MD方向の表面粗さRaが1.2μm以下である。本発明において、Raは、後述する[実施例]に記載の方法で決定される。MD方向のRaは、工業的には、少なくとも0.3μm以上であり、実際的には、本発明のように0.5μm以上の値を取ることが多いものと考えられる。また、本発明のPP発泡シートは、MD方向の表面粗さRaが1.2μm以下の表面において、MD方向の表面粗さRaに対するTD方向の表面粗さRaの比(MD/TD)が0.6以上で1.0より小さい必要がある。望ましくは、MD方向の表面粗さは、MD方向の表面粗さRaが1.0μm以下の表面粗さを満足し、さらにMD方向の表面粗さRaに対するTD方向の表面粗さRaの比(MD/TD)が0.6以上で1.0未満の範囲を満足することが望ましい。
【0040】
すなわち、TD方向の表面粗さがMD方向の表面粗さより粗く設定される。この理由は、成形ロールダイによる圧延による張力により、MD方向に冷却されながら延伸されるが、この際に表面粗さが大きく改善されるためである。ここで、ロールの圧縮力により、TD方向にも気泡が扁平化するため、TD方向の粗さも改善されるが、延伸による気泡の扁平化の効果が大きいMD方向の表面粗さより、TD方向の改善効果の方が少ないため、TD方向の表面粗さはMD方向より大きくなる。
【0041】
ここで、本発明においては、PP発泡シート表面の連続的な形状変化を測定する必要があるため、表面粗さとしては、断面曲線の山部谷部に関係した指標値であるRz(最大高さ)やRzjis(十点平均粗さ)でなく、断面曲線の中心線によって得られる曲線を使用した算術平均粗さRaを用いた。MD方向とは、PP発泡シートの押出成形における押出方向(圧延方向)を意味し、TD方向は発泡シート面内におけるMD方向に対して垂直な方向を意味する。
【0042】
また、本発明においては、MD方向、TD方向の表面粗さの下限値を規定していない。これは、PP発泡シートの表面粗さは、低ければ低いほど望ましいことは、明らかであるためである。ここで、PP発泡シートの表面層の表面粗さRaは、表面近傍の気泡の形状や大きさの影響を受けるため、表面粗さが零になることはなく、上記のように工業的には、0.3μm程度が限界と考えられる。
【0043】
〔PP発泡シートの引張破断伸び値〕
また、本発明のPP発泡シートは、MD方向の引張破断伸び値が40〜80%である。ここで、引張破断伸び値が40%であるとは、引張試験を行う前の試験片の引張方向の長さを100%とし、140%の長さまで引っ張った状態において破断することを意味する。同様に、引張破断伸び値が80%であるとは、引張試験を行う前の試験片の引張方向の長さを100%とし、180%の長さまで引張った状態において破断することを意味する。本発明において「表面粗さRa」及び「引張破断伸び値」は、後述する実施例に記載の方法により決定される。
【0044】
ここで、引張破断伸びが40%より小さいと、加熱圧着時のPP発泡シートの押圧力による変形が不十分で、PP発泡シートと被着体とのミクロ界面において、十分な接触状態が得られずに接着が不十分で、所定の接着強度を満たさない場合がある。一方、引張破断伸び値は発泡シートの密度と正の相関関係を示す傾向があるため、本発明範囲の密度の発泡シートを得ようとする場合、引張破断伸び値の上限値は80%となる。それ以上の引張破断伸び値を得ようとしても、所望の密度の発泡シートが得られない。
【0045】
気泡径が大きく、引張試験時に、巨大気泡同士が合体すると、気泡が合体した部分の引張試験片の断面に応力集中することにより、材料は気泡が合体した部分の近傍の応力集中度がさらに高まることにより局部変形が進行して、材料の伸びが低下する。これに対して、例えば、比較的気泡核が均一で、所定量の気泡密度が存在すると、多数のセル壁で引張軸方向の応力を受けるために、伸び値が向上する。また、MD方向とTD方向の引張破断伸び値は、ロール成形による単位断面積当たりの樹脂分の分量や樹脂の配向による影響を反映してMD方向の伸び値がTD方向の伸び値より大きくなる。ここで、本発明において、MD方向の引張破断伸び値のみを規定したのは、MD方向の引張破断伸び値を所定範囲とすることで、PP樹脂発泡シートと被着体を加熱圧着する場合の密着性を十分確保できることが確認されているためである。
【0046】
このように、本発明のPP発泡シートが、MD方向の表面粗さRaが1.2μm以下の表面を有し、かつ、MD方向の引張破断伸び値が40〜80%の範囲にあることにより、この表面に後述する被着体を直に加熱圧着させて積層体とした場合に、PP発泡シートと被着体との接着性を効果的に高めることができる。この理由は定かではないが、PP発泡シート表面のRaが1.2μm以下という平滑性が高い表面であることにより、加熱圧着時の当該表面と被着体とのミクロ界面において、加圧によりPP発泡シートの表面粗さがさらに改善され、PP発泡シートと被着体の両表面における互いの距離を、カルボキシ基及び/又は酸無水物構造が吸引力を及ぼすことが可能な距離とすることができること、また、PP発泡シートの引張破断伸び値が一定程度大きいために、熱プレス等による加熱圧着の際に、PP発泡シートの変形能が高く、被着体の表面性状に適合した変形を付与することが可能になりPP発泡シートを密着させることが可能になる。また、PP発泡シートの両表面のミクロ界面の接触面積が増加して、ミクロ界面におけるPP発泡シートと被着体の間の吸引力が増加し、さらに極性基同志が反応しやすくなると同時に、シートの破断等を効果的に抑制できることなどが複合的に作用しているものと考えられる。
本発明のPP発泡シートは、シート表面に一定の凹凸を形成し、アンカー効果により接着性を高めるという従来技術とは発想を異にするものである。
【0047】
本発明のPP発泡シートの厚さは目的に応じて適宜に設計される、例えば、0.5〜2.0mm厚の発泡シートとすることができる。
【0048】
〔気泡形状と気泡密度〕
本発明のPP発泡シートの気泡は圧延により、MD方向に延伸され、シートの厚さ方向に縮径されるため気泡形状がMD方向に伸びた扁平形状となる。そのため、厚さ方向の気泡径が縮小して、厚さ方向の気泡密度が増加するが、気泡径は測定位置によるばらつきが大きく、さらに気泡核剤や注入発泡ガス量によっても変動することから、本発明では、気泡径ではなく、気泡密度を測定した。
【0049】
本発明のPP発泡シートは気泡密度(セル密度)が1.0×10
3〜3.0×10
3個/mm
3であることが好ましい。気泡径が大きい場合、PP発泡シート製造時における気泡同士の合体も生じやすい。合体した気泡部分近傍には応力が集中し、局部変形が生じやすく、引張破断伸び値が低下する傾向にある。上記気泡密度(1.0×10
3〜3.0×10
3個/mm
3)は、気泡径は一定程度小さい状態にあることを意味する。
【0050】
〔発泡倍率〕
本発明のPP発泡シートは、発泡倍率が1.5〜4倍であることが好ましい。発泡倍率を1.5〜4倍とすることにより、加熱圧着時のPP発泡シート表面におけるミクロ表面の適度な変形と応力の伝播を可能とすることができる。この発泡倍率は、より好ましくは1.5〜3倍である。ここで、本願のような低発泡倍率のPP発泡シートを成形ロールダイにより圧延を行った発泡シート材の場合の伸び値は、樹脂分の影響が大きいが、これに加えて樹脂の配向も影響する。
【0051】
〔連続気泡率〕
また、本発明のPP発泡シートは、連続気泡率が15%以下であることも好ましい。連続気泡率を15%以下とすることにより、積層体の形成の際の熱圧着において、シートの潰れをより抑えることで所定の圧縮強度を得ることが可能となる。したがって、シートの潰れを極力避けて、所定の圧縮強度を付与したい場合には、PP発泡シートの連続気泡率は一定程度小さいことが好ましく、連続気泡率10%以下とすることが望ましい。ここで、連続気泡率が15%を超えると、加熱圧着時のPP発泡体表面の変形が不均一になる場合がある。
【0052】
<その他の成分>
本発明のPP発泡シートは、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、帯電防止剤、顔料、難燃剤等を含有してもよい。
【0053】
本発明のPP発泡シートは、土木建築用、OA機器用、電気・電子機器用、又は自動車部品用の積層体部材の心材として好適に用いることができる。すなわち、本発明のPP発泡シートは、後述する積層体の形態として、各種部材として好適に用いることができる。
【0054】
<ポリプロピレン樹脂発泡体シートの製造>
本発明のPP発泡シートは、押出発泡プロセスにより製造することができる。具体的には、成分(A)〜(C)を混合して溶融混練する工程、ガス注入工程、押出工程、放圧工程、圧延工程の各工程を経て製造することができる。例えば、押出機に成分(A)〜(C)を本発明で規定する含有量となるように投入し、また押出機の途中に設けたシリンダー部からは炭酸ガス等のガスを圧入し、T型発泡ダイスの先端から押出し、当該先端の中心から水平方向に設置された二組の成形ロールダイの間を通過させることにより、所望の厚みのPP発泡シートを得ることができる。
【0055】
押出温度は所望する発泡状態により適宜に設定すればよく、通常は160〜195℃程度の温度で押出成形する。また、押出成形後、成形ロールダイによる圧延を行なう。ここで、成形ロールダイによる圧延による延伸は、例えば、押出方向(MD方向)における圧延により延伸率を20〜90%となるように延伸することができる。ここで、延伸率20%とは、圧延により圧延方向の長さを120%(1.2倍)に延伸することを意味し、同様に延伸率90%とは、圧延により圧延方向の長さを190%(1.9倍)に延伸することを意味する。
【0056】
上記押出発泡プロセスにおいて、圧延率が低すぎると、ロールダイによる冷却効果が不足し、樹脂の溶融粘度が低下する。結果、気泡の成長、破泡、気泡の合体が進行し、これにより発泡ガスの離脱が加速し、また表面粗さも粗くなり、所望の発泡体を得ることが難しくなる。逆に、圧延率が高すぎると、気泡の成長以上に気泡壁を延伸してしまい、結果、破泡が促進されてしまうため、所望の表面粗さを実現することが難しくなる。成形ロールダイによる圧延を適切に制御して、PP発泡シート適切に延伸することにより、成長した気泡が合一する機会を少なくして、気泡数を増やして気泡を微細化することで、本発明で規定する表面性状、引張破断伸び値を有するPP発泡シートを得ることが可能になる。
【0057】
[積層体]
本発明の積層体は、本発明のPP発泡シートと、このPP発泡シートの、表面粗さRaが1.2μm以下の表面に対して直に圧着された被着体層とを有する。この積層体は、PP発泡シートの両面の表面粗さRaがいずれも1.2μm以下であり、当該両面に対して、直に圧着された被着体層を有する形態(すなわち、PP発泡シートを心材として、その両面に被着体層が配された形態)が好ましい。
【0058】
上記被着体層の引張弾性係数は前記PP発泡シートの引張弾性係数よりも大きく、また、上記被着体層の線膨張係数は上記PP発泡体シートの線膨張係数と異なっていてもよい。このように、被着体層とPP発泡シートの物性が異なる場合であっても、熱プレスによる圧着の際にPP発泡シートが十分に伸びることで、PP発泡シートの表面が被着体の表面と適合するよう変形することができ、PP発泡シートのRaが所定値以下であるという表面性状と相俟って、積層体の層間に所望の十分な密着性を付与することができる。
【0059】
<被着体>
本発明の積層体を構成する被着体は特に制限されず、被着体の構成材料としては、例えば、金属シート、樹脂シート、樹脂シートで被覆された金属シートのいずれかを挙げることができる。被着体の構成材料とする金属シートとしては、アルミニウム、ステンレス、銅等の金属シートあるいはこれらの合金シートを挙げることができる。また、樹脂としては、極性基(好ましくはエステル基、エーテル基、水酸基、カルボキシ基、酸無水物基、アミノ基、チオール基等)を有する樹脂(例えばポリエステル樹脂、ポリオール樹脂、エポキシ樹脂等)が好ましい。また、樹脂は繊維で強化されたものでもよく、このような繊維強化樹脂複合材としては、ガラス繊維強化複合材(GFRP)を挙げることができる。
被着体の厚さは目的に応じて適宜に設計すればよく、例えば、積層体の種類や用途に応じて、1μm〜5.0mmとすることができる。望ましくは、被着体厚さは5μm〜2.0mmである。また、本発明の積層体の厚さも目的に応じて適宜に設計される。例えば、PP発泡シートの厚さは、前記のように0.5〜2.0mm程度であるから、積層体の厚さは、心材と上下の被着体厚さを加えて、約0.5〜12mmとすることができる。
【0060】
本発明の積層体の製造方法に特に制限はない。例えば、本発明のPP発泡シートの表面粗さRaが1.2μm以下の表面に、被着体を直に(すなわち、PP発泡シート表面に接して)積層し、熱プレスにより圧着することにより得ることができる。また、被着体は、PP発泡シートに塗布した後に硬化させる形態とすることもできる。
【0061】
本発明の積層体は、土木建築用、OA機器用、電気・電子機器用、又は自動車部品用の積層体部材として好適である。
【0062】
本発明の実施の形態を下記実施例に基づきより詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0063】
[測定方法]
<表面粗さRa>
JIS B0601 2001に準拠し、算術平均粗さを決定した。この測定には、ハンディサーフE−30A(東京精密社製)を用いた。各測定において、基準長さを2.5mmとした。
本発明で表面粗さRaが1.2μm以下という場合、PP発泡シート表面において、所定の方向に測定ラインを無作為に5箇所決定し、各測定ラインにおける算術平均粗さを測定し、得られた5つの測定値の平均が1.2μm以下であることを意味する。
すなわち、MD方向の表面粗さRaは、PP発泡シート表面において、MD方向に無作為に5箇所、算術平均粗さを測定し、5つの値の平均を、MD方向の表面粗さRaとした。TD方向の表面粗さRaは、PP発泡シート表面において、TD方向に無作為に5箇所、算術平均粗さを測定し、5つの値の平均を、TD方向の表面粗さRaとした。
【0064】
<引張破断伸び値>
JIS K 6767に準拠して引張破断伸び値を決定した。より詳細には、試験片として2号ダンベル試験片(厚さ1mm)を用い、引張速度を100mm/minとして、試験片が破断するまで引張試験を行い、破断後の伸び値(%)を測定した。
【0065】
<気泡密度>
PP発泡シートの縦断面のSEM写真を撮影し、このSEM写真上において、100μm×100μmの領域を無作為に5箇所選抜し、各領域に存在する気泡数を計数した。各計数値から、各領域に基づく1mm
2当たりの気泡数を算出し、得られた1mm
2当たりの気泡数を3/2乗することにより、各領域に基づく1mm
3当たりの気泡数とした。5つの各領域に基づく1mm
3当たりの気泡数の平均値を算出し、気泡密度(個/mm
3)とした。
【0066】
<発泡倍率>
発泡倍率は、発泡前の樹脂の比重を、水中置換法(JIS K 7112)にて測定した発泡体の比重で割った値である。発泡体の比重の測定には、メトラードレド社製の電子天秤AG204を使用した。測定値は、小数点以下第2位を四捨五入した値を発泡倍率とした。
【0067】
<引張弾性係数>
本発明において引張弾性係数は、インストロン型引張試験機を用いて、JIS K7113に準拠して測定を行なった。引張弾性係数は、引張応力―歪み曲線の初めの直線部分を用いて次の式により計算した。
Em=Δσ/Δε
ここで、Em:引張弾性係数(MPa)
Δσ:直線上の2点のもとの平均断面積による応力の差
Δε:同じ2点間のひずみの差
【0068】
<線膨張係数(1/K)>
線膨張係数とは、定圧下で温度を変えたときに物体の空間的広がりの増加する割合をいう。温度をT、その固体の長さをLとすると、線膨張係数αは以下の式で与えられる。
α=(1/L)・(∂L/∂T)
本発明においては、線膨張係数は、JIS K7197に準拠して測定を行なった。
線膨張係数αは、長さ10mm、幅5mm、厚さ100μmの試験片を、シートMD方向を高さ方向として切り出した試験片を用いて、株式会社リガク製のTMA 8310によってTMA曲線の測定を窒素雰囲気にて行った。この時の測定は、−40〜100℃の温度範囲で、昇温速度は5℃/minで行い平均線膨張係数を求めた。
なお、データ採取の前に一度試験片を今回の試験範囲の上限温度である100℃まで昇温し、成形によるひずみを緩和させた。
【0069】
<連続気泡率>
連続気泡率(連通率)は、ASTM D−2856−87に記載の方法に準じて決定した。具体的には、空気比較式比重計1000型(東京サイエンス社製)を用いた測定値を下記式に当てはめ、連続気泡率を決定した。
[連続気泡率(%)]=100×[(見掛け体積−空気比較式比重計による体積値)/見掛け体積]
【0070】
[製造例] PP発泡シートの製造
シリンダー径65mmの押出機にMFR=0.5g/10mmのポリプロピレン樹脂(成分(A)、商品名:ノバテックPP EA9、日本ポリプロ社製)と、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(成分(B)、商品名:アドマーQE800、メルトフロレイト:9.1g/10分、酸価4.3、三井化学社製)と、気泡核剤(成分(C)、ポリスレン、永和化成工業社製)とを、下表に示す比で投入し、混練した。押出機途中のシリンダー部から炭酸ガスを7kg/cm
2の圧力で圧入し、幅400mmのT型発泡ダイスの先端の中心から混練物を押出し、水平方向に設置された2組の成形ロールダイの間を通過させた。こうして圧延率を調整することで、厚さ1.0mmのPP発泡シートを得た。このPP発泡シートは、押出温度は160〜195℃、成形ロールダイによるMD方向の圧延を圧延率20〜90%として製造した。
【0071】
[試験例] 接着性試験
下表に示す板厚0.1mmの被着体(シート)を2枚用いて、板厚1mmのPP発泡シートを挟み込み、高温プレス機を用いて、180℃×0.5MPaの条件で2分間保持した。次いで2分間放冷し、被着体/PP発泡シート/被着体 の3層構成からなる積層体を得た。各PP発泡シートについて、同じ条件で積層体を5つ作製した。
得られた積層体について、JIS K 6854−2に準拠して180°ピール強度を測定した。5つの積層体すべてにおいて、ピール強度が0.5N/mm以上であったものを合格(○)、ピール強度が0.5N/mm未満のものが1つでもあれば、不合格(×)とした。
結果を下表に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
表1、表2には、本発明で用いた実施例材と比較例材の試験結果を示す。表1、表2では、各実施例材、各比較例材についての、MD方向の延伸率、MD方向の表面粗さRaと、MD方向とTD方向の表面粗さの比、引張破断伸び値、発泡倍率、連続気泡率、気泡密度の値と、さらにこれらの材料を被着体と所定の条件で加熱接着により接着して積層体として、ピール試験により接着強度を求めた結果を示す。
【0075】
表1には、本発明の実施形態である実施例1〜実施例11の結果を示す。表1の各実施例において、実施例1〜実施例9は、押出発泡後、延伸率60%の延伸を圧延により行なったものであり、また、実施例10と実施例11は、実施例2と同じ組成の材料を用いて、それぞれ押出発泡後に延伸率40%、延伸率80%の延伸を圧延により行ったものである。
これに対して、表2には、本発明の実施形態ではない比較例1から比較例6の結果を示す。比較例1〜比較例4は、実施例1から実施例9と同様に、いずれも押出発泡後、延伸率約60%の延伸を圧延により行なったものである。また、比較例5,比較例6の材料は、実施例2と同様の組成の材料を押出発泡直後に、それぞれ延伸率20%、延伸率90%の延伸を圧延により行なったものである。
【0076】
表1の実施例1〜実施例5には、ポリプロピレン樹脂100質量部に対して、成分(B)の無水マレイン酸変性樹脂を6から30質量部の範囲内で用い、また成分(C)の気泡核剤として、ポリスレンを、4.0〜10.0質量部の範囲で加えて、押出直後に所定の倍率で発泡させたものである。ここで、実施例1から実施例5のPP発泡シートは、成分(B)の無水マレイン酸変性樹脂の配合量、成分(C)の気泡核剤の配合量、MD方向の表面粗さRa、引張破断伸び値がいずれも本発明の規定範囲を満たし、MD方向の表面粗さとTD方向の表面粗さの比、発泡倍率と気泡密度がともに所望の範囲を満たすことになった。
実施例1から実施例5のPP発泡シートにアルミ箔を両面に接着した積層体の接着性評価結果を見ると、いずれの材料も接着性結果は良好であった。この理由は、発泡材に対する成分(B)の酸変性樹脂の配合量、成分(C)の気泡核剤の配合量ともに、本発明の規定範囲にあり、さらに発泡材の表面粗さRaや引張破断伸びが、本発明の規定範囲にあること、これにより、発泡樹脂シート表面が加熱圧着時の押圧力により、金属表面と発泡樹脂シートの表面が両者間の分子間力が強く作用するような状態になるように変形して、両者が強く密着することで、PP発泡シートとアルミ箔の表面でのミクロ界面における接着が起こり易くなり、さらには、金属表面とPP発泡シート表面に化学結合も生じるなどしたためと考えられる。
【0077】
また、実施例6、実施例7は、それぞれ実施例2、実施例3と同一のPP発泡シートを用いており、被着体としてアルミ箔の代わりに、ステンレス箔、銅箔を用いて積層体を形成し、評価したものである。したがって、実施例6、実施例7に示すPP発泡シートの、MD方向の表面粗さRa、MD方向の表面粗さとTD方向の表面粗さの比率、引張破断伸び値、発泡倍率と気泡密度は、それぞれ実施例2、実施例3と同じである。実施例6、実施例7に記載のPP発泡シートに板厚0.1mmのステンレス箔、銅箔を貼り付けて積層体とした場合の接着性試験の結果はいずれも優れていた。
【0078】
実施例8、実施例9は、無水マレイン酸変性樹脂を6質量部含み、さらに気泡核剤を10質量部含むPP発泡シートである。無水マレイン酸変性樹脂の配合量、気泡核剤の配合量ともに、本発明の範囲を満足し、成分(C)としての気泡核剤として、実施例1〜7とは異なりタルクや炭酸水素ナトリウムを用いている。成分(C)の気泡核剤の種類の違いによる影響は認められずに、MD方向の表面粗さRaと、引張破断伸び値は本発明の範囲を満足した。さらに、MD方向の表面粗さとTD方向の表面粗さの比、発泡倍率、気泡密度についても、核剤をポリスレンから、タルクや炭酸水素ナトリウムに変えた場合においても、所望の範囲を満たすことが確認された。実施例8,9のPP発泡シートの両面に、アルミ箔を接着して積層体とした場合、この積層体はピール強度に優れていた。
【0079】
実施例10、実施例11は、実施例2と同様の組成の材料を用いて、押出発泡直後に、それぞれ延伸率40%、80%で延伸を圧延により行ったものである。実施例10、11もまた、表面粗さ、引張破断伸び値が本発明の規定内にあった。この実施例10、実施例11のPP発泡シートに板厚0.1mmのアルミ箔を貼り付けた積層体は、優れた接着性を示した。これらの結果は、本発明で規定する成分組成の材料を用いれば、少なくとも延伸率40%〜80%の範囲では、所望の特性を示すPP発泡シートが得られることを示す。特に、延伸率40%の場合が、MD方向の表面粗さと引張破断伸び値が共に優れていた。
【0080】
以上のように、実施例1〜実施例11のPP発泡シートは、いずれの特性も本発明の範囲を満足し、これを用いた積層体は被着体との接着性に優れることがわかった。
【0081】
これに対して、表2に示される比較例1、比較例2のように成分(C)の量が本発明で規定するよりも少ないと、表面粗さを所望の範囲に抑えることができず、また引張破断伸び値にも劣る結果となった。これは、気泡核の発生量が少なく、気泡が成長し、気泡密度が低下したためと考えられる。この比較例1及び2のPP発泡シートは被着体との接着性に劣っていた。
また、比較例3のように、成分(B)の量が本発明で規定するよりも少ないと、接着性に劣り、逆に、比較例4のように成分(B)の量が本発明で規定するよりも多いと、表面粗さが粗く、引張破断伸び値にも劣る結果となり、極性基の量が多いにもかかわらず、被着体との接着性に劣る結果となった。
【0082】
また、PP発泡シートのMD方向の延伸率が小さい比較例5の場合や延伸率が大きい比較例6の場合にも、表面粗さが粗く、引張破断伸び値にも劣る結果となり、被着体との十分な接着性を得ることはできなかった。以上より、比較例1〜比較例6の場合は、いずれも接着性に劣る結果となった。
【0083】
上記のように、所定の材料組成で、押出発泡条件に対応して、所定のロール成形ダイによる圧延による延伸を組み合わせることで本発明のPP発泡シートを得ることができる。なお、本実施例において採用した圧延による延伸率の範囲は上記のようなものであったが、この延伸率の設定範囲は絶対的なものでなく、使用する樹脂組成、気泡核材の種類と量、押出条件(押出温度、押出圧力、押出速度)などにより変動するものである。