特許第6707426号(P6707426)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6707426-Sbの除去方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6707426
(24)【登録日】2020年5月22日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】Sbの除去方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 7/06 20060101AFI20200601BHJP
   C25C 1/12 20060101ALI20200601BHJP
   C22B 30/02 20060101ALN20200601BHJP
【FI】
   C25C7/06 301A
   C25C1/12
   !C22B30/02
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-177023(P2016-177023)
(22)【出願日】2016年9月9日
(65)【公開番号】特開2018-40049(P2018-40049A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】古賀 敬太郎
(72)【発明者】
【氏名】笹岡 英俊
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭54−022921(JP,B2)
【文献】 特開2011−219785(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/147033(WO,A1)
【文献】 特開昭57−005884(JP,A)
【文献】 特開昭54−119327(JP,A)
【文献】 特開平08−217444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
C25C 1/00− 7/08
C01G 28/00−28/02
C01G 30/00−30/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチモン(Sb)を含有する酸性溶液に、錫(Sn)メタル、又は、SnSO、SnCl、SnClおよびSnOのいずれか1つ以上の錫化合物、のいずれか1つ以上を添加し、Sbを沈殿除去することを特徴とする、Sbの除去方法。
【請求項2】
前記酸性溶液は、硫酸溶液であることを特徴とする、請求項1に記載のSbの除去方法。
【請求項3】
前記硫酸溶液は、銅電解精製工程で発生する銅電解液、または、その後工程である浄液工程の対象となる脱銅電解液であることを特徴とする、請求項2に記載のSbの除去方法。
【請求項4】
前記酸性溶液を撹拌しながら前記Sbを沈殿除去することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のSbの除去方法。
【請求項5】
前記Sbを除去した処理後液に対して酸化処理を行うことにより、該処理後液中に溶存したSnをSnOとして不溶解性の化合物を生成させて、除去することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のSbの除去方法。
【請求項6】
アンチモン(Sb)を含有する酸性溶液に、錫(Sn)メタル、又は、酸化第二錫を除く錫(Sn)化合物、のいずれか1つ以上を添加し、Sbを沈殿除去し、
前記Sbを除去した処理後液に対して酸化処理を行うことにより、該処理後液中に溶存したSnをSnOとして不溶解性の化合物を生成させて、除去することを特徴とする、Sbの除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Sbの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅精錬の銅電解後液等の酸性溶液にはSb(アンチモン)が多く含まれる。銅電解澱物は銅製錬に繰り返されることから、銅電解後液のSbをできるだけ除去しておくことが好ましい。例えば、銅電解後液のようにSbを含有する酸性溶液をキレート樹脂に接触させることで、Sbを除去する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−062551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、キレート樹脂を用いたSbの除去ではコストがかかる。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑み、コストを抑制しつつ、Sb含有酸性溶液からSbを除去することができるSbの除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るSbの除去方法は、アンチモン(Sb)を含有する酸性溶液に、錫(Sn)メタル、又は、SnSO、SnCl、SnClおよびSnOのいずれか1つ以上の錫化合物、のいずれか1つ以上を添加し、Sbを沈殿除去することを特徴とする。
【0007】
前記酸性溶液は、硫酸溶液としてもよい。前記硫酸溶液は、銅電解精製工程で発生する銅電解液、または、その後工程である浄液工程の対象となる脱銅電解液としてもよい。前記酸性溶液を撹拌しながら前記Sbを沈殿除去してもよい。前記Sbを除去した処理後液に対して酸化処理を行うことにより、該処理後液中に溶存したSnをSnOとして不溶解性の化合物を生成させて、除去してもよい。本発明に係る他のSbの除去方法は、アンチモン(Sb)を含有する酸性溶液に、錫(Sn)メタル、又は、酸化第二錫を除く錫(Sn)化合物、のいずれか1つ以上を添加し、Sbを沈殿除去し、前記Sbを除去した処理後液に対して酸化処理を行うことにより、該処理後液中に溶存したSnをSnOとして不溶解性の化合物を生成させて、除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コストを抑制しつつ、Sb含有酸性溶液からSbを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】銅電解液に対してSnを添加する場合のフローを例示する図である。
図2】実施例および比較例の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。
【0011】
まず、本実施形態においてSbの除去対象とするのは、酸性溶液である。当該酸性溶液は、Sbを含有する酸性溶液であれば特に限定されるものではない。酸性溶液は、硫酸溶液、塩酸溶液などである。本実施形態においては、一例として、Sbを含有する酸性溶液として、銅電解精錬工程で発生する銅電解後液、銅電解精錬工程の後工程である浄液工程の脱銅電解後液などのような硫酸酸性溶液を対象とする。
【0012】
本発明者らの鋭意研究の結果、Sb含有酸性溶液においてSn(錫)を用いてSb−Snの複合酸化物を生成することによってSbが沈殿することがわかった。そこで、本実施形態においては、SnメタルまたはSn化合物を用いてSb−Snの複合酸化物を生成する。
【0013】
Sn化合物におけるSnの価数は、特に限定されるものではない。例えば、2価(Sn2+)または4価(Sn4+)のSn化合物を用いることができる。例えば、4価のSn化合物として、SnClなどを用いることができる。ただし、酸性溶液に溶解しないSn化合物は用いない。したがって、本実施形態においては、SnOを用いない。2価のSn化合物として、SnSO、SnCl、SnOなどを用いることができる。例えば、Snメタルおよび各Sn化合物のうち、いずれか1つを単独でSb含有酸性溶液に添加してもよく、2つ以上を混合してSb含有酸性溶液に添加してもよい。なお、Sb含有酸性溶液に異なる成分が蓄積されないことが好ましいため、Sb含有酸性溶液が硫酸酸性溶液である場合にはSnSOを用いることが好ましく、Sb含有酸性溶液が塩酸酸性溶液である場合にはSnClまたはSnClを用いることが好ましい。なお、2価のSn2+を加えることで、溶液中の5価のAs5+が3価のAs3+に還元され、溶液中の5価のSb5+と溶解度の低いSbAsO4を形成し、溶液中のSb濃度が減少すると考えられる。4価のSn4+を加えた場合、3価のSb3+を酸化し、生成した2価のSn2+が同様の反応をするが、これらの反応に時間がかかるので、同じ時間で考えた場合の除去率は、2価の方が好ましいと推定される。
【0014】
例えば、Sb−Snの複合酸化物の生成を促進する観点から、Sb含有溶液にSnメタルおよびSn化合物のいずれか1つ以上を添加した上で、攪拌することが好ましい。Sb含有溶液の温度は、特に限定されるものではなく、室温であってもよい。撹拌時間も特に限定されるものではないが、十分に撹拌することが好ましい。
【0015】
SnメタルおよびSn化合物の合計の添加量は、特に限定されるものではないが、Sb−Snの複合酸化物を十分に生成できる量であることが好ましい。例えば、Sn単体として換算した場合に、Sb含有酸性溶液中のSb濃度に対して2.6倍以上のモル当量で、SnメタルおよびSn化合物の少なくともいずれか一方を添加することが好ましい。例えば、Sn化合物としてSnSOを用いる場合には、Sn単体として換算した場合に、Sb含有酸性溶液中のSb濃度に対して2.6倍以上のモル当量で、SnSOを添加することが好ましい。Sn化合物としてSnCl、SnClまたはSnOを用いる場合には、Sn単体として換算した場合に、Sb含有酸性溶液中のSb濃度に対して15倍以上のモル当量で、Sn化合物を添加することが好ましい。
【0016】
一度にSnの全部を添加すると、Sbとの反応に寄与せずに、溶存酸素や高い酸化還元電位などでSnが酸化物となる割合が多くなるおそれがある。そこで、所定量のSnを添加してSb−Snの複合酸化物を生成してから、再度所定量のSnを添加することを繰り返すことで、Sb−Snの複合酸化物を十分に生成することができる。したがって、Sb含有酸性溶液に対して、SnメタルおよびSn化合物を一度に添加するのではなく、複数回に分けて添加することが好ましい。各添加の間隔は、特に限定されるものではないが、例えば、5分以上1時間以内の時間間隔を空けることが好ましい。
【0017】
なお、銅電解後液、脱銅電解後液などのSb含有酸性溶液には、Asが含まれる。このようなSb含有酸性溶液に対して酸化剤を添加しても、Asの存在によってSb−Snの複合酸化物生成が抑制されるおそれがある。しかしながら、Snは、Asと化合物を形成して沈殿するため、Sb含有酸性溶液中のAs濃度を低減することができる。それにより、Sb−Snの複合酸化物生成を促進することができる。すなわち、Snを添加することで、As濃度の低減およびSb濃度の低減を一度に行うことができる。以上のことから、SnメタルまたはSn化合物は、Asを含有するSb含有酸性溶液に対して特に効果を発揮する。
【0018】
Sbを沈殿させた後の酸性溶液(以下、Sb除去後液と称する。)からSnを除去することが好ましい。そこで、Sb除去後液に対して酸化処理を行うことで、SnをSnOとして不溶解性の化合物を生成させ、Snを除去することが好ましい。例えば、当該酸化処理として、Sb除去後液の電気分解を行うことが好ましい。または、Sb除去後液に対して、空気、酸素、オゾンなどのエアレーションを行うことが好ましい。または、Sb除去後液に対して、過酸化水素等の酸化剤を添加することが好ましい。
【0019】
図1は、銅電解液に対してSnを添加する場合のフローを例示する図である。図1で例示するように、Sn溶解槽10において、Sn化合物を生成する。例えば、硫酸銅(CuSO)と電気スズ(Sn)とを水溶液中で混合することで、イオン化傾向により硫酸銅溶液中にSnイオンが溶解して硫酸スズ(SnSO)を生成することができる。
【0020】
次に、反応槽20に銅電解後液を注ぎ、Sn溶解槽10のSnSOを添加する。ここまでの工程で銅電解後液中のSbの沈殿が開始するが、十分にSbを沈殿させるために、反応槽20において攪拌機21を用いて銅電解後液を攪拌することで、予混合を行う。
【0021】
次に、予混合後の銅電解後液を脱銅電解槽30に注ぎ、脱銅電解を行う。ここまでの工程で十分な時間をかけることができる。したがって、SnによってSb−Snの複合酸化物を十分に生成することができる。さらに、脱銅電解によって電極表面の酸化反応や電極反応によって生成した溶存酸素によりSnをSnO2に酸化して不溶解性の化合物を生成させることができる。次に、固液分離装置40によって固液分離することによって、銅電解後液からSb−Snの複合酸化物を分離することができる。
【実施例】
【0022】
脱銅電解後液にSnメタルまたはSn化合物を添加することで、脱銅電解後液におけるSbの溶解量の変化を測定した。脱銅電解後液におけるORP(酸化還元電位)は464mVであった。Sbの溶解量は、200mg/Lであった。Asの溶解量は、3.3g/Lであった。
【0023】
(実施例1〜5)
この脱銅電解後液に対して、実施例1ではSnメタルを添加し、実施例2ではSnClを添加し、実施例3ではSnClを添加し、実施例4ではSnOを添加し、実施例5ではSnSOを添加した。実施例1〜4では、Sn単体として換算した場合に、Sb含有酸性溶液中のSb濃度に対して15倍のモル当量で、SnメタルまたはSn化合物を添加した。実施例5では、Sn単体として換算した場合に、Sb含有酸性溶液中のSb濃度に対して2.6倍のモル当量で、SnSOを添加した。添加後の放置時間は、実施例1では0.5hとし、実施例2では1hとし、実施例3,4では2hとし、実施例5では10分とした。実施例5においては、その後、電気分解による酸化処理を行った。
【0024】
(比較例)
比較例では、脱銅電解後液に対してSnOを添加した。Sn単体として換算した場合に、Sb含有酸性溶液中のSb濃度に対して15倍のモル当量で、SnOを添加した。添加後の放置時間は、2hとした。
【0025】
(分析)
図2に実施例1〜5および比較例の結果を示す。実施例1〜5のいずれにおいても、酸化還元電位が低下した。これは、脱銅電解後液のSbが酸化されたからであると考えられる。なお、温度や各元素の濃度、溶存酸素などによりORPは多少(±20〜30)の差が生じる。実施例1〜5のいずれにおいても、脱銅電解後液中のSbの溶解量が低下した。SnClとSnClを比較すると、SnClを添加した場合のSb低減率が大きくなった。これは、2価のSnがSb−Snの複合酸化物を生成しやすいからであると考えられる。また、実施例1〜5のいずれにおいても、脱銅電解後液中のAsの溶解量が低下した。これは、SnがAsと化合物を生成して沈殿したからであると考えられる。これに対して、比較例では脱銅電解後液中のSbの溶解量がほとんど変化しなかった。これは、SnOが脱銅電解後液に溶解しなかったからであると考えられる。
【0026】
また、実施例5においては、酸化処理後にSn濃度が大幅に低下し、10mg/L未満となった。これは、酸化処理によってSnがSnO2になって不溶解性の化合物が生成されて除去されたからであると考えられる。
【0027】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0028】
10 Sn溶解槽
20 反応槽
21 攪拌機
30 脱銅電解槽
40 固液分離装置
図1
図2