特許第6707460号(P6707460)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6707460
(24)【登録日】2020年5月22日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】漂白された木材繊維物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21B 1/16 20060101AFI20200601BHJP
   D21C 9/00 20060101ALI20200601BHJP
   B27N 3/04 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
   D21B1/16
   D21C9/00
   B27N3/04 Z
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-558601(P2016-558601)
(86)(22)【出願日】2015年3月13日
(65)【公表番号】特表2017-510725(P2017-510725A)
(43)【公表日】2017年4月13日
(86)【国際出願番号】EP2015055275
(87)【国際公開番号】WO2015144455
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2018年3月13日
(31)【優先権主張番号】14161583.1
(32)【優先日】2014年3月25日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン エレン
(72)【発明者】
【氏名】ディーター シェーンハーバー
(72)【発明者】
【氏名】マーティン シャハトル
(72)【発明者】
【氏名】パヴェル ヴァシリエヴィチ オシポフ
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−221648(JP,A)
【文献】 特開平06−220788(JP,A)
【文献】 特開2003−027385(JP,A)
【文献】 特開2009−144314(JP,A)
【文献】 特開平02−068377(JP,A)
【文献】 特開昭63−303189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
漂白された木材繊維物質の製造方法であって、
a)木材粒子を層状剥離させることで、改質木材粒子を得るステップ、
b)ステップa)で得られた改質木材粒子を1つ以上の叩解機において磨砕するステップ、
c)任意に、ステップb)で得られた物質を酸化型漂白剤または還元型漂白剤で処理するステップ、
を含む前記製造方法において、
ステップa)および/またはステップb)を、組成物Zの存在下で実施し、ここで該組成物Zは、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の炭酸塩または炭酸水素塩と、以下の成分(Z1)〜(Z3):亜ジチオン酸H224の塩(Z1)、亜ジチオン酸または亜ジチオン酸誘導体を生成する化合物(Z2)、亜硫酸の塩(亜硫酸塩)とテトラヒドロホウ酸ナトリウム(Z3)、のうちの1種以上を含有し、任意に添加剤(Z4)を含有すること、並びに、ステップa)において、前記木材粒子を、まず(i)機械的圧力および/または剪断応力にさらし、次に(ii)相対的に穏やかな条件下で叩解機において磨砕すること、を特徴とする、前記製造方法。
【請求項2】
前記組成物Zは、亜ジチオン酸H224の塩(Z1)を含有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記亜ジチオン酸H224の塩は、亜ジチオン酸H224のアルカリ金属塩であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記亜ジチオン酸H224の塩は、亜ジチオン酸ナトリウムであることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記木材粒子は、薬品および/または水で前処理されたものであることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
漂白された木材繊維物質を請求項1からまでのいずれか1項に定義される方法に従って製造し、該物質を紙へと更に加工する、紙の製造方法。
【請求項7】
漂白された木材繊維物質を請求項1からまでのいずれか1項に定義される方法に従って製造し、該物質を、任意に白色顔料を添加しつつサイジングし、そして木質材料へと圧縮する、木質材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1からまでのいずれか1項で定義される方法に従って得られる漂白された木材繊維物質。
【請求項9】
請求項1からまでのいずれか1項に定義される方法に従って得られる漂白された木材繊維物質の、紙または木質材料の製造のための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれ特許請求の範囲に定義されている、漂白された木材繊維物質の製造方法、紙もしくは明色の木質材料の製造方法、漂白された木材繊維物質および紙もしくは木質材料の製造のための漂白された木材繊維物質の使用に関する。
【0002】
木材繊維物質(当業界と本明細書においては、「木材パルプ」とも呼ばれる)は、新聞用紙、雑誌用紙のような特定の紙種の製造のために、またはボール紙製造のために多量に製造される重要な出発材料である。
【0003】
木材繊維物質(当業界では「パルプ」とも呼ばれる)の製造方法自体は公知であり、例えば抄紙の科学と技術(Papermaking Science and Technology)、第5巻「機械的パルプ化(Mechanical Pulping)」、第2版、2009、紙技術者協会(Paper Engineers’ Association)、Bruno Loennberg編(ISBN 978−952−5216−36−6)(以下、「Loennberg」とも呼ぶ)に記載されている。
【0004】
簡潔に言うと、通常は、硬材もしくは広葉樹材または軟材もしくは針葉樹材は剥皮されて、比較的小さな、通常は約5cm×5cm大の小片(当業界と本明細書においては、「細断チップ」とも呼ぶ)へと破砕され、次に磨砕機(当業界と本明細書においては「叩解機」とも呼ぶ)において、通常は、例えば100℃から160℃までの高められた温度で磨砕される。そのような適切な硬材または広葉樹材と適切な軟材または針葉樹材は、例えばLoennbergのチャプター5、特に項目2.もしくは項目2.1.1(軟材(Softwoods))に、例えばトウヒ、モミの木、カサマツ、マツが記載され、または項目2.1.2(硬材(Hardwoods))に、例えばポプラ、例えばヨーロッパヤマナラシ(Populus tremula)、アメリカヤマナラシ(Populus tremuloides)が記載されている。
【0005】
こうして得られた木材繊維物質は、当業界と本明細書において、「熱機械的パルプ(thermomechanical pulp)」(「TMP」)とも呼ばれており、例えばLoennbergのチャプター5の項目2.2.1と項目2.2.2に記載されている。相応する方法は、通常は「TMP法」と呼ばれている。
【0006】
通常、後続ステップにおいて、前記熱機械的パルプ(TMP)は、引き続いての加工でできる限り白色の紙を得るために漂白薬で漂白される。漂白薬としては、例えば酸化的作用のある物質、例えば過酸化水素、無機過酸もしくは有機過酸の塩、例えば過炭酸塩または還元的作用のある物質、例えばスルフィン酸、亜硫酸の塩(亜硫酸塩)もしくは亜ジチオン酸の塩(亜ジチオン酸塩)が使用される。
【0007】
幾つかのTMP法が、Loennbergの、特にチャプター7(TMP)およびチャプター8(化学的機械的パルプ化(Chemimechanical Pulping、例えばCTMP等)において詳細に記載されている。
【0008】
叩解機における細断ウッドチップの磨砕は、製紙において特にエネルギーを要する作業過程の一つであり、従って製紙の経済性に大きな影響を及ぼす。従って、特に叩解機のエネルギー消費量を減らす努力が続けられている。
【0009】
J.Melzer、W.Auhornは、製紙に関する週報(Wochenblatt fuer Papierfabrikation)における記事「叩解機における還元型漂白薬による木材パルプの処理(Behandlung des Holzstoffs mit reduktiven Bleichchemikalien im Refiner)」、114、1986年、第8号、第257頁〜第260頁において、木材含有印刷用紙のための二段階TMP装置の一番目のTMP叩解機への亜ジチオン酸ナトリウムの添加は、エネルギー削減と良好な漂白作用をもたらすことを記載している。叩解機ステップ前の細断チップの層状剥離される前処理はそこには開示されていない。
【0010】
木材繊維物質の製造に際してのエネルギー削減も漂白作用も、依然として改善の余地がある。
【0011】
本発明の課題は、漂白された木材パルプの製造に際しての、好ましくは叩解機におけるエネルギー消費量を減らすと同時に、該木材パルプから作製される紙の他の重要な特性、例えば機械的特性に不利な変化を与えることなく、該木材パルプの白色度をできる限り高めることであった。
【0012】
前記課題は、特許請求の範囲において規定される方法、特許請求の範囲において規定される漂白された木材繊維物質、および特許請求の範囲において規定される該漂白された木材繊維物質の使用により解決された。
【0013】
木材繊維物質および該物質の製造は公知であり、例えばLoennbergの、特にチャプター4、6、7、8および15に記載されている。
【0014】
本発明による木材繊維物質のための出発物質は、硬材または広葉樹材と軟材または針葉樹材である。これらの樹材は、例えばLoennbergのチャプター5、特に項目2.もしくは項目2.1.1(軟材(Softwoods))に、例えばトウヒ、モミの木、カサマツ、マツが記載され、または項目2.1.2(硬材(Hardwoods))に、例えばブナ、シラカバ、ユーカリまたはポプラ、例えばヨーロッパヤマナラシ(Populus tremula)、アメリカヤマナラシ(Populus tremuloides)が記載されており、それらは、本発明による方法のために非常に適している。
【0015】
本発明による方法は、以下のようにして実施される。
【0016】
通常は、比較的大きな木材粒子、好ましくは剥皮された広葉樹材または針葉樹材からなる木材粒子は、一般的に約(15〜50)mm×(15〜50)mm×約(6〜12)mmの大きさで、通常の機械的方法を用いて、例えば切り刻むことによって製造される。これらの比較的大きな木材粒子は、当業界と本明細書においては、「細断チップ」または「チップ」とも呼ばれる。前記細断チップまたはチップは、更なる加工の前に化学薬品で、例えば亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO3)、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)および/または水で前処理されてよい。
【0017】
次いで該細断チップは、ステップa)において層状剥離される。層状の剥離に際して、前記細断チップは、通常はまず(i)機械的圧力および/または剪断応力にさらされ、次に(ii)相対的に穏やかな条件下で、通常は叩解機において磨砕される。
【0018】
この手順において、前記チップから「改質木材粒子」(本明細書でもこのように呼ぶ)が得られ、これは緩んだ繊維束であり、通常は5cmから0.3cmまでの範囲の長手方向寸法を有するものであって、また、通常では、一般に使用されたチップと比較してかなり増大した表面積を有する。
【0019】
叩解機は、通常は、回転刃または好ましくは回転ディスクと、任意に固定刃または好ましくは固定ディスクを備えた繊維物質の磨砕のための磨砕装置であり、好ましくは、放射状の起伏が設けられた1または2つの金属ディスクからなり、それらのディスクは互いに密接していて、その間に隙間を形成している。ダブルディスク型の叩解機においては、一方のディスクだけ、または両方のディスクが回転でき、その際に通常は反対方向に回転できる。通常は、該叩解機においては大気圧で、または正圧で作業される。叩解機は公知であり、Loennbergの、特にチャプター6および7に詳細に記載されている。上述のステップa)の(i)は、通常は、スクリュープレス中で実施され、そのスクリュープレスは、一般的に脱水と同時に、比較的大きな木材粒子の予備解繊するために用いられる。先に挙げたステップa)の(i)の実施のために非常に適した装置は、例えばAndritz AG社(オーストリア)の「Impressafiner」である。
【0020】
上述のステップa)の(ii)は、通常は、叩解機または別の適切な磨砕装置において相対的に穏やかな条件下で、例えばシングルディスク型叩解機において1800回転/分のディスク回転数および2.4バールの圧力で実施される。通常は、ステップa)の(ii)の叩解機における入力エネルギーおよび/または圧力は、ステップb)における叩解機のための相応のパラメーターよりも低い。叩解機における入力エネルギーは、一般的にとりわけ、叩解機のディスク回転数と叩解機のディスク間の間隙幅とによって決まる。先に挙げたステップa)の(ii)の実施のために非常に適した装置は、Andritz AG社(オーストリア)のAndritz 36−1CPシングルディスク型叩解機である。
【0021】
ステップb)において、次にステップa)からの改質木材粒子は、叩解機において、通常はより厳しい条件下で、例えばステップa)の(ii)より高い投入エネルギーおよび/またはより高いディスク回転数および/またはより高い圧力で磨砕される。
【0022】
ステップb)は、通常は叩解機において以下の条件下で、例えばシングルディスク型叩解機において2300回転/分のディスク回転数および5.2バールの圧力で実施される。通常は、ステップb)の叩解機における入力エネルギーおよび/または圧力は、ステップa)の(ii)における叩解機のための相応のパラメーターよりも高い。叩解機における入力エネルギーは、一般的にとりわけ、叩解機のディスク回転数と叩解機のディスク間の間隙幅とによって決まる。先に挙げたステップb)の実施のために非常に適した装置は、Andritz AG社(オーストリア)のAndritz 36−1 CPシングルディスク型叩解機である。
【0023】
ステップb)に続いて、ステップb)と同様の叩解機において、更なる1回の磨砕ステップを行ってよく、または複数回の磨砕ステップを行ってよい。
【0024】
ステップb)で得られた物質は、任意に、後続のステップc)において、還元型漂白剤または酸化型漂白剤を用いるが、それ以外は木材繊維製造から公知の通常の方法のもと、例えば漂白塔において処理される。木材繊維物質の製造における漂白剤および漂白法は、例えばLoennbergの、特にチャプター11に詳細に記載されている。
【0025】
非常に適した酸化型漂白剤としては、本発明による方法については、ペルオキソ基を有する漂白剤、例えば過酸化水素、アルカリ金属過酸化物が該当する。
【0026】
本発明による方法のステップc)のために非常に適した還元型漂白剤は、例えば亜ジチオン酸H224の塩、亜硫酸の塩等、有利には組成物Z、特に有利には成分Z1またはZ2またはZ3である。
【0027】
ステップa)および/またはステップb)は、組成物Zの存在下で実施される。ここで、前記組成物Zは、以下の成分(Z1)〜(Z3)の1つ以上を含有する:亜ジチオン酸H224の塩(Z1)、亜ジチオン酸または亜ジチオン酸誘導体を生成する化合物、例えば二酸化チオ尿素(ホルムアミジンスルフィン酸とも呼ばれる、HN=C(NH2)SO2H)とアルカリ液、例えば苛性ソーダ液(水中のNaOH)との組み合わせ(Z2)と、亜硫酸(H2SO3)の塩(亜硫酸塩)とテトラヒドロホウ酸ナトリウム(NaBH4)(Z3)と、任意に添加剤(Z4)。
【0028】
亜ジチオン酸の塩(Z1)としては、好ましくは亜ジチオン酸のアルカリ金属塩、好ましくはリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩もしくはアルカリ土類金属塩、好ましくはカルシウム塩、マグネシウム塩またはそれらの混合物が該当し、ここで前記形態には結晶水または類似の付加物がもちろん含まれている。特に有利には亜ジチオン酸ナトリウム(Na224)であり、ここで前記形態には結晶水または類似の付加物がもちろん含まれている。
【0029】
亜ジチオン酸または亜ジチオン酸の誘導体を生成する化合物(Z2)としては、例えば二酸化チオ尿素(ホルムアミジンスルフィン酸とも呼ばれる、HN=C(NH2)SO2H)とアルカリ液、例えば苛性ソーダ液(水中のNaOH)との組み合わせが該当する。
【0030】
成分(Z3)としては、亜硫酸(H2SO3)の塩、好ましくはアルカリ金属塩、好ましくはリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩もしくはアルカリ土類金属塩、好ましくはカルシウム塩、マグネシウム塩、つまり亜硫酸塩またはそれらの混合物が、それぞれテトラヒドロホウ酸ナトリウムとの組み合わせにおいて該当し、ここで前記形態には結晶水または類似の付加物がもちろん含まれている。特に有利には亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)[ここで前記形態には結晶水または類似の付加物がもちろん含まれている]と、テトラヒドロホウ酸ナトリウム(NaBH4)との組み合わせである。
【0031】
成分(Z4)は、以下の成分(1)〜(4)の1つ以上と、任意に更なる添加物質である:(1)錯形成剤、例えばEDTA、ポリリン酸塩、例えばトリポリリン酸ナトリウムおよび/またはトリポリリン酸カリウム;(2)塩基性化合物、好ましくは塩基性塩、例えば炭酸塩もしくは炭酸水素塩、例えばアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩基性塩、例えば炭酸塩もしくは炭酸水素塩、好ましくは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムもしくはアルカリ土類金属炭酸塩、好ましくは炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、特に有利には炭酸ナトリウム(Na2CO3)[ここで前記形態には結晶水または類似の付加物がもちろんそれぞれ含まれている];(3)二亜硫酸(H225)のアルカリ金属塩、好ましくはリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩またはアルカリ土類金属塩、好ましくはカルシウム塩、マグネシウム塩;(4)亜硫酸(H2SO3)のアルカリ金属塩、好ましくはリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩またはアルカリ土類金属塩、好ましくはカルシウム塩、マグネシウム塩、特に有利には亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)。
【0032】
成分(Z4)の更なる添加物質としては、表面活性物質、例えば、通常は組成物Zに対して1質量%から10質量%までの範囲の割合における、アニオン系、カチオン系もしくは非イオン系の界面活性剤またはグルコース含有界面活性剤が該当し、また、組成物Zに対して1質量%から10質量%までの範囲の割合における、スケール減少物質もしくはスケール抑制物質、例えばポリアクリレートが該当する。
【0033】
有利な一実施形態(I)においては、前記組成物Zは、亜ジチオン酸H224の塩(Z1)、好ましくは亜ジチオン酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩[ここでこれらの塩の混合物も含まれている]、特に有利には亜ジチオン酸ナトリウム、つまり上記の成分(Z1)を、それぞれ組成物Zに対して、それぞれ特に有利には20質量%から95質量%までの範囲において、更に特に有利には60質量%から95質量%の範囲において含有する。
【0034】
更に有利な一実施形態(II)においては、前記組成物Zは、一方では、亜ジチオン酸H224の塩(Z1)、好ましくは亜ジチオン酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩[ここでこれらの塩の混合物も含まれている]、特に有利には亜ジチオン酸ナトリウム、つまり上記の成分(Z1)を、それぞれ組成物Zに対して、それぞれ特に有利には60質量%から95質量%までの範囲において含有し、もう一方では、成分(Z4)、特に有利には(1)錯形成剤のポリリン酸塩、(2)アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩基性塩、例えば炭酸塩もしくは炭酸水素塩、例えば炭酸ナトリウム、(3)二亜硫酸(H225)のアルカリ金属塩、(4)亜硫酸(H2SO3)のアルカリ金属塩を含有し、ここで有利には(Z1)は、それぞれ組成物Zに対して、60質量%から95質量%までの範囲で含まれており、かつ(Z4)は、それぞれ組成物Zに対して、5質量%から40質量%までの範囲で含まれている。
【0035】
更に有利な一実施形態(III)においては、前記組成物Zは、それぞれ組成物Zに対して、60質量%〜95質量%のナトリウム塩(Z1)、好ましくは亜ジチオン酸ナトリウム、1質量%〜25質量%の亜硫酸塩Z4(4)、好ましくは亜硫酸ナトリウム、1質量%〜10質量%の炭酸塩および/もしくは炭酸水素塩、それぞれのアルカリ金属塩Z4(2)、好ましくは炭酸ナトリウム、0質量%〜10質量%の錯形成剤Z4(1)、好ましくはトリポリリン酸ナトリウムを含有し、ここで上述の成分の合計は足して100%となる。
【0036】
更なる有利な一実施形態(IV)においては、前記組成物Zは、前記成分(Z1)〜(Z3)の1つ以上と1つ以上の成分Z4(1)、Z4(3)およびZ4(4)の他に、塩基性化合物Z4(2)、好ましくは塩基性塩、例えば炭酸塩もしくは炭酸水素塩、例えばアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩基性塩、例えば炭酸塩もしくは炭酸水素塩、好ましくは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムまたはアルカリ土類金属炭酸塩、好ましくは炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、特に有利には炭酸ナトリウムを、これらの塩基性化合物が酸緩衝剤として作用するような量で含有する。
【0037】
更なる有利な一実施形態(V)においては、前記組成物Zは、前記成分(Z1)[好ましくは亜ジチオン酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、ここでこれらの塩の混合物も含まれ、特に有利には亜ジチオン酸ナトリウム]と1つ以上の成分Z4(1)、Z4(3)およびZ4(4)の他に、塩基性化合物Z4(2)、好ましくは塩基性塩、例えば炭酸塩もしくは炭酸水素塩、例えばアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩基性塩、例えば炭酸塩もしくは炭酸水素塩、好ましくは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムまたはアルカリ土類金属炭酸塩、好ましくは炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、特に有利には炭酸ナトリウムを、これらの塩基性化合物が酸緩衝剤として作用するような量で含有する。
【0038】
通常は、前記組成物Zは、本発明による方法において溶液または懸濁液の形で使用されるが、該組成物は、他の溶剤または希釈剤を用いることなく純粋物質として使用することもできる。
【0039】
適切な溶剤または分散媒は、前記組成物Zを、その1種以上の作用物質、特に成分Z1を分解または何らかの方法で効力を無くすことなく、またはその作用を大きく減らすことなく溶解または分散させる。例は、含水の溶剤または分散媒、例えば水とプロトン性もしくは非プロトン性の有機溶剤、例えばアルコールもしくはエーテル、ケトンからなる混合物である。有利な一つの溶剤または分散媒は水である。
【0040】
そのような溶液または分散液中の組成物Zの濃度は、それぞれ該溶液または分散液の質量に対して、一般的に1質量%から30質量%までの範囲であり、好ましくは5質量%から20質量%までの範囲である。
【0041】
処理されるべき木材、例えばチップまたは改質木材粒子1キログラム当たりの、成分(Z1)または(Z2)または(Z3)の、好ましくは成分(Z1)の、特に有利には亜ジチオン酸ナトリウムの量は、1グラムから50グラムまでの範囲であり、好ましくは5グラムから20グラムまでの範囲である。
【0042】
好ましくは、上記の溶液または分散液は、それらの有利な実施形態を含め、できる限り製造および使用されたばかりであるか、しかしながらそうでなければ酸化性媒体、例えば空気酸素をできる限り十分に排除しながら貯蔵される。
【0043】
前記組成物Zは、通常は、ステップa)の(i)の前に、もしくはステップa)の(ii)の前に、またはステップa)の(i)および/またはステップa)の(ii)の実施の間に、および/またはステップb)の前に、および/またはステップb)の実施の間に、相応の木材粒子または改質木材粒子と接触される。
【0044】
通常そのためには、先に詳細に記載された、その有利な実施形態を含めた組成物Zの溶液または分散液、好ましくは水中の組成物Zの溶液または分散液は、ステップa)の(i)、ステップa)の(ii)またはステップb)が実施される相応の装置への木材粒子用の導入部へと、好ましくは木材粒子または改質木材粒子の流れ方向で、相応の装置の直前で計量供給される。これらの措置に加えて、またはこれらの措置に代えて、先に詳細に記載された組成物Zの溶液または分散液を、通常は、ステップa)の(i)、ステップa)の(ii)またはステップb)が実施される相応の装置の空間中に直接的に計量供給することができる。
【0045】
非常に適した一実施形態においては、例えば先に詳細に記載された、その有利な実施形態を含めた水中の組成物Zの溶液または分散液は、ステップa)の(ii)の叩解機中に、および/またはステップb)の叩解機中に計量供給される。
【0046】
本発明の主題は、また、紙、好ましくはティッシュペーパー、新聞用紙、雑誌用紙またはボール箱製造用の紙の製造方法であって、本明細書に記載されるようにして漂白された木材繊維物質を製造し、該物質を、通常は公知の製紙法によって、紙、好ましくはティッシュペーパー、新聞用紙、雑誌用紙またはボール箱製造用の紙へと更に加工する、前記製造方法である。
【0047】
本発明の主題は、また、明色の木質材料、好ましくはHDF木質材料またはMDF木質材料の製造方法であって、本明細書に記載されるようにして漂白された木材繊維物質を製造し、該物質を、任意に白色顔料を添加しつつサイジングし、そして前記木質材料へと圧縮する、前記製造方法である。
【0048】
本発明の主題は、また、本明細書に記載される方法により得られる漂白された木材繊維物質である。
【0049】
本発明の主題は、また、本明細書に記載される方法により得られる漂白された木材繊維物質の、紙または木質材料の製造のための使用である。
【0050】
本発明による方法は、叩解機における入力エネルギーが低減されている点と、本発明による方法で得られる木材繊維物質の漂白度が、同等の先行技術よりも高い点において卓越している。叩解機における入力エネルギー、木材繊維物質の漂白度、および他の物理量は、実施例に記載される方法で測定した。
【0051】
実施例
木材として、クロトウヒ(ピセア・マリアナ(Picea mariana))およびテーダマツ(テレビン松(Terpentin−Kiefer)とも呼ばれる)(ピヌス・タエダ(Pinus taeda))を使用した。
【0052】
相応の木材を剥皮し、通常の機械的方法により切り刻むことで、約5cm×5cm×1cmのチップとした。
【0053】
A)ATMP変法(本発明による)
前記原材料を、Andritz AG社(オーストリア)のいわゆるATMP法において、以下に記載されるようにして更に加工した。
【0054】
前記チップを、チッププレス(Andritz AG社(オーストリア)のスクリュー装置「Impressafiner」)において約1.4バールの圧力で処理した。こうして処理された材料を、該スクリュー装置を出た後に水で処理し、叩解機(Andritz AG社(オーストリア)のAndritz 36−1CP)、つまり唯一の磨砕ディスク(直径0.91m)を備えたいわゆる「ファイバライザー」に供給した。そこで前記材料は、1800回転/分の磨砕ディスク速度と2.4バールの圧力で繊維質材料へと変換された。
【0055】
こうして解繊された材料を、1番目のメイン叩解機(Andritz 36−1CP)中に供給し、そこで2300回転/分の磨砕ディスク速度と5.2バールの圧力で組成物Zの存在下に、以下に記載されるようにして木材繊維物質へと変換した。
【0056】
水中の組成物Zの溶液であってそれぞれ該溶液の質量に対して10質量%の亜ジチオン酸ナトリウムおよび2質量%の炭酸ナトリウムの含有率を有する実施形態(III)の特性を有する溶液を、事実上直接的に1番目のメイン叩解機の磨砕機中に、解繊された材料(炉内乾燥(Oven Dry)「OD」)1キログラム当たり15グラムの純粋な亜ジチオン酸ナトリウムの量で計量供給した。
【0057】
この木材繊維物質を、2つの磨砕ディスクを有する2番目のメイン叩解機(Andritz 401)において大気圧で更に磨砕した。
【0058】
B)TMP変法(比較のため)
比較試験(従来のTMP法)を、本発明による試験(変法A)と同様にして実施したが、本発明によるステップa)は実施せずに、チップ(上述)を、直接的に1番目のメイン叩解機(Andritz AG社(オーストリア)のAndritz 36−1CP)中に3.45バールの圧力と1800回転/分のディスク速度で、上記A)で記載した水中の組成物Zの溶液の存在下で磨砕して木材繊維物質とした。この木材繊維物質を、2つの磨砕ディスクを有する2番目のメイン叩解機(Andritz AG社(オーストリア)のAndritz 401)において大気圧で更に磨砕した。
【0059】
C)一般的事項
具体的な入力エネルギーについての全ての値は、kWh毎トン(OD)(to)の大きさであり、ここでODは「Ovendry」(炉内乾燥)を意味する。具体的な入力エネルギーは、以下のようにして測定した:ある時間内での叩解機の入力電力を量り、それを解繊された炉内乾燥(OD)された材料の質量で割った。
【0060】
木材繊維物質試料の機械的特性値および白色度(明度(Brightness))を、標準的TAPPI試験法で試験した(http://www.tappi.org)。
【0061】
白色度(明度)は、Tappi T 452で測定した。
比引張強さは、Tappi T 456で測定した。
比引裂強さは、Tappi T 414で測定した。
引張エネルギー吸収量(TEA)は、Tappi T 494で測定した。
光散乱係数は、ISO 9416で測定した。
【0062】
木材繊維物質の分別は、Bauer Mc Nett型分級機(Classifier)で実施した。
木材細片(結束繊維)についての分析は、0.10mmの篩板を備えたPulmac Shive Analyzerで実施した。
【0063】
実施例1
クロトウヒの木材を用いたATMP変法A)および比較変法B)
上記の変法A)に従ってクロトウヒの木材を用いて製造された木材繊維物質を、規格TAPPI T 205に準じて標準型研究室用シートマシン(Standard−Laborblattbildner)によって試験紙へと加工し、それについて測定される機械的特性を調べ、そして光学的特性(例えば白色度)を、規格TAPPI T 218に準じて製造されたシート紙について調べた。
【0064】
比較のために、上記の変法B)に従って得られた木材繊維物質を、上記のようにして試験紙へと加工し、そして上記の方法で調査した。
【0065】
それらの結果は、第1表に示されている。
木材繊維物質特性は、200mlの水性木質繊維粥状物の濾水挙動(英語の学術用語「濾水性(Freeness)」)に標準化した。
【0066】
第1表
【表1】
【0067】
実施例2
テーダマツの木材を用いたATMP変法A)および比較変法B)
上記の変法A)に従ってテーダマツの木材を用いて製造された木材繊維物質から、実施例1に記載されるようにして試験紙を製造し、それについて実施例1に記載される方法で具体的な特性を調査した。
【0068】
比較のために、上記の変法B)に従ってテーダマツの木材から得られた木材繊維物質を、実施例1に記載されるようにして試験紙へと加工し、そして実施例1に記載される方法で調査した。
【0069】
それらの結果は、第2表に示されている。
木材繊維物質特性は、200mlの水性木質繊維粥状物の濾水挙動(英語の学術用語「濾水性(Freeness)」)に標準化した。
【0070】
【表2】
【0071】
前記実施例は、本発明による方法がよりエネルギー削減的な方法であると同時に、より高い白色度およびより良好な機械的特性を有する漂白された木材繊維物質をもたらすことを示している。