【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記発光性ナノカーボンの発光スペクトルの発光強度が最大となる発光波長が、波長320〜460nmの励起光を用いた場合に、400〜525nmの範囲内である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
本実施形態の樹脂組成物は、脂肪族ポリカーボネート樹脂とカーボン材料とを含む。本実施形態においては、カーボン材料が脂肪族ポリカーボネート樹脂に対して均一に分散しやすいため、このような樹脂組成物を基材樹脂に混合させることで基材樹脂にフィラーとしてのカーボン材料が均一に分散した複合材料を形成することができる。
【0016】
<脂肪族ポリカーボネート樹脂>
脂肪族ポリカーボネート樹脂の種類は特に限定的ではなく、例えば、ポリアルキレンカーボネート樹脂が挙げられる。
【0017】
ポリアルキレンカーボネート樹脂としては、例えば、アルキレンオキシドと二酸化炭素とを重合反応させて得られる重合体、すなわち、アルキレンオキシドと二酸化炭素の共重合体、あるいは、環状カーボネートを開環重合させて得られる重合体が挙げられる。これらの中でも、アルキレンオキシドと二酸化炭素との共重合で得られるポリアルキレンカーボネート樹脂が好ましく用いられ、この場合、フィラーであるカーボン材料が脂肪族ポリカーボネート樹脂に含まれても凝集が起こりにくく、より均一に分散させやすいとい利点がある。なお、アルキレンオキシドと二酸化炭素との重合反応は金属触媒の存在下で好ましく行うことができる。
【0018】
アルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ペンテンオキシド、2−ペンテンオキシド、1−ヘキセンオキシド、1−オクテンオキシド、1−デセンオキシド、シクロペンテンオキシド、シクロヘキセンオキシド、スチレンオキシド、ビニルシクロヘキセンオキシド、3−フェニルプロピレンオキシド、3,3,3−トリフルオロプロピレンオキシド、3−ナフチルプロピレンオキシド、3−フェノキシプロピレンオキシド、3−ナフトキシプロピレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、3−ビニルオキシプロピレンオキシドおよび3−トリメチルシリルオキシプロピレンオキシドなどが挙げられる。これらのアルキレンオキシドの中でも、二酸化炭素との高い重合反応性を有する観点から、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドが好ましく、プロピレンオキシドがさらに好ましい。アルキレンオキシドがエチレンオキシドであれば、脂肪族ポリカーボネート樹脂はポリエチレンカーボネート、アルキレンオキシドがプロピレンオキシドであれば、脂肪族ポリカーボネート樹脂はポリプロピレンカーボネートである。なお、上記アルキレンオキシドは、それぞれ単独で使用してもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
前記金属触媒としては、例えば、アルミニウム触媒、亜鉛触媒などが挙げられる。これらの中でも、アルキレンオキシドと二酸化炭素との重合反応において高い重合活性を有することから、亜鉛触媒が好ましく用いられる。
【0020】
前記亜鉛触媒としては、例えば、酢酸亜鉛、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛などの有機亜鉛触媒や、あるいは、一級アミン、2価のフェノール、2価の芳香族カルボン酸、芳香族ヒドロキシ酸、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族モノカルボン酸などの化合物と亜鉛化合物とを反応させることにより得られる有機亜鉛触媒などが挙げられる。これらの有機亜鉛触媒の中でも、より高い重合活性を有することから、亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させて得られる有機亜鉛触媒が好ましく用いられる。有機亜鉛触媒としては、具体的には、例えばジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジフェニル亜鉛が好ましく例示できる。
【0021】
重合反応に用いられる前記金属触媒の使用量は、アルキレンオキシド100質量部に対して、好ましい下限は0.001質量部、好ましい上限は20質量部であり、より好ましい下限は0.01質量部、より好ましい上限は10質量部である。金属触媒の使用量が0.001質量部以上であると、重合反応が速やかに進行し得る。また、金属触媒の使用量が20質量部以下であると、使用量に見合う効果が好ましく得られる。
【0022】
アルキレンオキシドと二酸化炭素とを金属触媒の存在下で重合反応させる方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、オートクレーブに、前記アルキレンオキシド、金属触媒および必要に応じて反応溶媒を加え、混合した後、二酸化炭素を圧入して、反応させる方法が挙げられる。
【0023】
前記重合反応において必要に応じて用いられる反応溶媒としては、特に限定されるものではなく、種々の有機溶媒を用いることができる。前記有機溶媒としては、具体的には、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、デカン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、エチルクロリド、トリクロロエタン、1−クロロプロパン、2−クロロプロパン、1−クロロブタン、2−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルプロパン、クロロベンゼン、ブロモベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒などが挙げられる。
【0024】
前記反応溶媒の使用量は、反応を円滑にさせる観点から、アルキレンオキシド100質量部に対して、100〜10,000質量部であることが好ましい。
【0025】
前記重合反応において用いられる二酸化炭素の使用圧力は、特に限定されないが、通常、好ましい下限は0.1MPa、好ましい上限は20MPaであり、より好ましい下限は0.2MPa、より好ましい上限は10MPaであり、さらに好ましい下限は0.5MPa、さらに好ましい上限は5MPaである。
【0026】
前記重合反応における重合反応温度は、特に限定されないが、好ましい下限は30℃、好ましい上限は100℃であり、より好ましい下限は40℃、より好ましい上限は80℃である。重合反応温度が30℃以上であると、重合反応がより速やかに進み得る。また、重合反応温度が100℃以下であると、副反応が起こりづらく、重合体の収率がより向上し得る。重合反応時間は、重合反応温度、触媒量、アルキレンオキシドの種類により異なるために一概には言えないが、通常、2〜40時間であることが好ましい。
【0027】
重合反応終了後は、ろ過などによりろ別し、必要により溶媒などで洗浄後、乾燥させることにより、ポリアルキレンカーボネート樹脂を得ることができる。
【0028】
上記樹脂組成物を構成する脂肪族ポリカーボネート樹脂は、1種単独であってもよいし、2種以上が組み合わせられていてもよい。
【0029】
脂肪族ポリカーボネート樹脂の質量平均分子量の好ましい下限は10,000、好ましい上限は2,000,000であり、より好ましい下限は30,000、より好ましい上限は1,000,000であり、さらに好ましい下限は50,000、さらに好ましい上限は750,000である。脂肪族ポリカーボネート樹脂の質量平均分子量が10,000以上であると、樹脂組成物を基材樹脂と混合して形成される複合材料の機械強度が好ましく向上し得る。また、脂肪族ポリカーボネート樹脂の質量平均分子量が2,000,000以下であると、上記基材樹脂への分散性がより向上し得る。なお、当該質量平均分子量は、脂肪族ポリカーボネート樹脂の濃度が0.5%のN,N−ジメシルホルムアミド溶液を調製し、高速液体クロマトグラフを用いて測定し、同一条件で測定した質量平均分子量が既知のポリスチレンと比較することにより算出した値である。測定条件は、次の通りである。
【0030】
カラム:GPCカラム
(昭和電工株式会社の商品名、Shodex OHPac SB−800シリーズ)
カラム温度:40℃
溶出液:0.03mol/L 臭化リチウム‐N,N−ジメチルホルムアミド溶液
流速:0.65mL/min
樹脂組成物に含まれる脂肪族ポリカーボネート樹脂は、1種類のみであってもよいし、あるいは、2種以上が含まれていてもよい。例えば、樹脂組成物に含まれる脂肪族ポリカーボネート樹脂は、ポリアルキレンカーボネート樹脂のみであってもよいし、あるいは、これと他の脂肪族ポリカーボネート樹脂の混合物であってもよい。
【0031】
<カーボン材料>
カーボン材料は、少なくとも炭素を含有して構成される。カーボン材料としては、樹脂のフィラーとして使用した場合に、発光性、機械的強度、電気的特性、導電性、光吸収性、電磁波吸収性等の性能を付与できる性質を有していることが好ましい。
【0032】
具体的なカーボン材料の種類としては、カーボンドット、カーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛、炭素繊維、ダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンマイクロコイル、グラフェン等が例示されるが、もちろんこれらに限定されない。
【0033】
上記カーボン材料の一種であるカーボンドットは、発光性を示すことが知られている材料であり、毒性の懸念がある半導体量子ドットの代替となりうる新規な発光材料として注目されている。
【0034】
上記カーボンドットは、発光性を示す上に、そのサイズがナノオーダーであることから、発光性ナノカーボンと名付けられている。発光性ナノカーボンは、ススの中から発見された新規な炭素ナノ材料であり、グラフェンや他のナノカーボン材料とは異なり、強い発光性を示すという特徴がある。また、発光性ナノカーボンは、半導体量子ドットのように、硫化カドミウム(CdS)やセレン化カドミウム(CdSe)など毒性の高いカドミウム化合物やユーロピウムなどの希少金属を原料としないで製造されるので、毒性の懸念も少ない材料である。
【0035】
発光性ナノカーボンは、励起光の波長によらず、略同じ波長の光を発光する性質を有し得る。例えば、発光性ナノカーボンは、発光スペクトルの発光強度が最大となる発光波長が、波長320〜460nmの励起光を用いた場合に、400〜525nmの範囲内となり得る。この場合、発光性ナノカーボンは、優れた発光性(量子効率)を示すようになる。
【0036】
上記のような発光性ナノカーボンを製造する方法は特に限定されず、例えば、公知の方法で製造することができる。
【0037】
例えば、発光性ナノカーボンは、炭素源化合物および窒素源化合物を含有する原料水溶液を加熱することにより前記カーボン材料を得るステップを経て製造することができる。以下、当該ステップを経て発光性ナノカーボンを製造する方法について説明する。
【0038】
原料水溶液に含まれる炭素源化合物は、ヒドロキシ酸、糖酸等の有機酸、糖(グルコース)、ポリビニルアルコール等を用いることができる。ヒドロキシ酸としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、ガラクタル酸(2,3,4,5−テトラヒドロキシアジピン酸)、キナ酸、グリセリン酸、グルコン酸、グルクロン酸、アスコルビン酸、没食子酸等が挙げられる。
【0039】
原料水溶液に含まれる窒素源化合物は、脂肪族アミン、芳香族アミン、ヒドロキシアミン、ポリアミン、複素環式アミン等のアミン化合物等を用いることができる。脂肪族アミンとしては、ヘキシルアミン等のモノアミン、エチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン等のジアミンが挙げられる。芳香族アミンとしては、フェニレンジアミン等が挙げられる。これらの中では、発光強度の高い発光性ナノカーボンを合成できるという観点から、脂肪族アミンであるエチレンジアミンが好ましい。また、エチレンジアミンの濃度を変化させて炭素源化合物に対する比率を調整することにより、合成される発光性ナノカーボンの発光特性を容易に制御することができる。
【0040】
上記発光性ナノカーボンの製造方法は、具体的には、上記原料水溶液を反応容器中で加熱し、温度100〜500℃で反応させる反応ステップと、反応ステップにおいて生成された反応生成物を冷却する冷却ステップと、を備えている。
【0041】
原料水溶液は、炭素源化合物および窒素化合物を溶解する溶媒として水を含有している。水以外の溶媒としては、例えば、アルコール等が挙げられる。原料水溶液は水を溶媒として含有しているから、炭素源化合物と窒素化合物とを反応させる反応ステップは、高温高圧の水の存在下で化合物を合成する水熱合成となる。
【0042】
原料水溶液における炭素源化合物と窒素源化合物との配合割合の好ましい範囲は、炭素源化合物1モルに対し窒素源化合物が0.1モル以上10モル以下であり、0.5モル以上5モル以下がより好ましく、1モル以上3モル以下が特に好ましい。窒素源化合物の配合割合によって発光波長を制御することが出来る。
【0043】
上記反応ステップは、原料水溶液を反応容器中に密閉した状態で加熱して、反応温度100℃以上500℃以下で反応させた反応生成物として発光性ナノカーボンを合成する工程である。好ましくは、反応容器中に原料水溶液が均一に存在する条件、すなわち、気液平衡よりも高い圧力とした均一状態の反応溶液中で、炭素源化合物と窒素源化合物とを反応させる。均一状態とは、気相と液相の定常的な界面が存在しない状態、すなわち気相と液相とが混然一体となっており界面が存在しない状態、または、界面は存在するものの位置が一定ではなく変動する状態をいう。
【0044】
例えば、反応容器中の原料水溶液が気体の拡散性と液体の溶解性とを併せもつ超臨界相(超臨界流体)を形成した状態は、均一状態のうち、界面が存在しない状態の一例である。反応容器中を臨界温度以上かつ臨界圧力以上とすることにより、原料水溶液の超臨界相を形成することができる。
【0045】
また、反応容器内の反応溶液中に、少量の気泡が存在する場合などは、界面の位置が一定ではなく変動する状態の一例である。発光性ナノカーボンの合成反応の副反応等によって気体が発生した場合等に反応溶液中に少量の気泡が存在する状態となることがある。
【0046】
反応ステップにおける反応容器内の温度(反応温度)は、100℃以上500℃以下とする。反応温度を100℃以上とすることにより、水熱反応を促進することができる。また、反応ステップにおいて原料水溶液が発光性ナノカーボンに転化する転化率を向上させる観点から、反応温度は150℃以上とすることがより好ましく、200℃以上とすることがさらに好ましい。
【0047】
反応温度は一般に500℃以下であり、反応ステップにおける転化反応がさらに進行し、不溶性成分の生成を抑制するために、300℃以下とすることが好ましく、250℃以下とすることがより好ましい。
【0048】
反応ステップを回分式反応(バッチ式)とする場合、反応容器内の原料水溶液が反応ステップにおいて気液平衡状態よりも高い密度となる量の原料水溶液を仕込む。また、流通式(連続式)反応で製造する場合、反応ステップにおける反応容器内の原料水溶液が気液平衡状態よりも高い密度となる温度、圧力となるように原料水溶液の量を調整する。これにより、反応ステップにおける原料水溶液を均一な状態、すなわち反応容器中で気体と液体が混然一体となった状態とすることができるから、原料水溶液に含有される炭素源化合物と窒素源化合物として、塩を形成する組み合わせとする必要がなくなる。したがって、クエン酸とアミンのような塩を形成する原料に限らず、例えば、ブドウ糖(グルコース)とアミンのような塩を形成しない原料の組み合わせを用いることが可能になる。また、効率よく反応を進行させることができる。
【0049】
反応ステップにおける反応容器は、高温、高圧条件に対する耐圧性を備えたものを用いることができる。
【0050】
反応ステップを回分式反応とする場合、原料水溶液が仕込まれた反応容器全体を加熱して反応容器内部の全体を所定温度および圧力として、反応容器内全体で反応ステップを進行させる。例えば、反応容器として管型高圧容器を用い、所定の温度に設定した電気炉内に投入することにより、反応ステップを進行させる。
【0051】
反応ステップが完了した後、管型高圧容器を室温空気中に取り出して空冷することにより反応生成物を含有する反応溶液を冷却する(冷却ステップ)。
【0052】
反応ステップを回分式(バッチ式)反応とする場合、反応容器内の原料水溶液は、気液平衡状態よりも高い密度となる量を仕込むことが好ましい。例えば、水の飽和密度(液相)は、反応温度150℃、200℃、250℃および300℃で、この順に0.917g/cm
3、0.864g/cm
3、0.799g/cm
3および0.712g/cm
3である。したがって、反応温度を200℃〜250℃とする場合、反応容器の容積の約90%以上となる量の原料水溶液を仕込むことが好ましい。このような量の原料水溶液を仕込むことにより、反応ステップにおいて原料水溶液が均一な状態で存在することとなって反応効率がよくなる。
【0053】
反応ステップを連続反応とする場合、細長い管のように連続した長い内部空間を備えた耐圧性の反応容器を用いる。細長い管の一方端から原料水溶液を供給しつつ、十分な長さを備えた反応容器の一部を加熱することにより、当該一部の領域で反応を連続的に進行させて反応ステップを行うことができる。反応ステップでは、原料水溶液の濃度が気液平衡となる飽和蒸気圧よりも高くなるように、反応容器内の圧力を調整する。水の飽和蒸気圧は、150℃、200℃、250℃、300℃および350℃で、この順に0.48MPa、1.55MPa、3.98MPa、8.59MPaおよび16.53MPaである。そこで、反応容器内の圧力が反応温度における飽和蒸気以上となるように調整する。これにより、反応ステップにおいて原料水溶液が均一な状態で存在することとなるから反応効率がよくなる。
【0054】
反応ステップを行う部分と連通している他の部分を冷却することで(冷却ステップ)、反応溶液から発光性ナノカーボンが得られる。冷却ステップは、例えば、氷浴または水浴を用いて、反応容器である細長い管の一部を急激に冷却することにより行う。
【0055】
反応ステップと冷却ステップとを反応容器の異なる部分において進行させ、反応ステップが進行する部分と冷却ステップが進行する部分とが連通された構成とすれば、原料水溶液および反応溶液が反応容器内を移動することによって反応ステップと冷却ステップとが連続的かつ同時に進行する。
【0056】
上述した反応容器を用いて、一部の領域で反応ステップを行い、他の領域で冷却ステップを行えば、反応ステップと冷却ステップとが連続的かつ同時に進行するから、短時間で、効率よく大量の発光性ナノカーボンを製造することができる。
【0057】
上記発光性ナノカーボンの製造方法では、原料水溶液および製造条件の少なくとも一方を異ならせた複数の発光性ナノカーボンを製造し、当該複数の発光性ナノカーボンの発光特性を評価し、調整する工程(調整ステップ)を有していてもよい。この調整ステップでは、所望の発光特性を備えた発光性ナノカーボンを製造するために、異なる原料や異なる製造条件を用いて複数の発光性ナノカーボンを製造し、評価する。
【0058】
異なる原料とは、原料水溶液が含有する炭素源化合物と、窒素源化合物との比率および/または種類(組み合わせ)が異なるものをいう。異なる原料を用いることにより、種々の発光特性を備えた発光性ナノカーボンが製造できる。例えば、炭素源化合物としてキナ酸、窒素源化合物としてエチレンジアミンを含有する原料水溶液を用いれば、励起光の波長によらず、略同じ波長の光を発光する発光性ナノカーボン、具体的には、波長320〜460nmの励起光を用いた場合、発光スペクトルの発光強度が最大となる発光波長が400〜525nmの範囲内である発光性ナノカーボンを製造できる。
【0059】
また、製造条件とは、例えば、反応容器の形状、反応溶液の流量(供給量)、加熱温度、加熱時間、圧力などといった反応ステップの条件や、冷却温度、冷却速度などといった冷却ステップの条件などをいう。これらの調整によっても種々の異なる発光特性を備えた発光性ナノカーボンを製造できる。
【0060】
発光性ナノカーボンを製造する方法としては上記の他、例えば、公知のマイクロ波熱分解法を採用してもよい。この方法では、上記炭素源化合物及び窒素化合物を混合し、マイクロ波による加熱で熱分解させた後、適宜の手段で精製することで発光性ナノカーボンを製造できる。マイクロ波による加熱は、例えば、市販の家庭用電子レンジを使用できる。
【0061】
カーボン材料が、発光性ナノカーボンであれば、各種樹脂のフィラーとして使用された場合に当該樹脂に発光性を付与することができ、しかも、発光性ナノカーボンは紫外線吸収効果もあるので、樹脂の耐候性をも付与することができる。
【0062】
上記のような利点を有するという観点から、本実施形態の樹脂組成物にあっては、カーボン材料が発光性ナノカーボンを含むことが特に好ましい。加えて発光性ナノカーボンが上記詳述したように、炭素源化合物および窒素源化合物を含有する原料水溶液又は混合物を加熱することにより前記カーボン材料を得るステップを経て製造されたものであれば、分散性により優れると共に優れた発光性も付与することが可能となる。
【0063】
カーボン材料の形状は、特に限定されない。カーボン材料の形状は、粒子状、薄片状、鱗片状、チューブ状、コイル状、ホーン状等が例示される。カーボン材料が発光性ナノカーボンであれば、球状、楕円球状、その他の異形状、薄片状等のいずれであってもよい。
【0064】
カーボン材料のサイズも特に限定されない。例えば、カーボン材料が発光性ナノカーボンであれば、樹脂に混合された際の分散性に優れるという観点から、1.0nm以上5.0nm以下の平均粒子径を有していることが好ましい。なお、ここでいう平均粒子径とは、透過型電子顕微鏡による直接観察によって測定された円相当径の算術平均値をいう。
【0065】
本実施形態の樹脂組成物において、カーボン材料の含有量としては、脂肪族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましい下限は0.1質量部、好ましい上限は10質量部であり、より好ましい下限は0.5質量部、より好ましい上限は8質量部であり、さらに好ましい下限は1質量部、さらに好ましい上限は5質量部である。カーボン材料の含有量が前記範囲内であると、脂肪族ポリカーボネート樹脂に分散性に優れ、カーボン材料保有の性質も発揮されやすい。
【0066】
本実施形態に係る樹脂組成物は、カーボン材料は、脂肪族ポリカーボネート樹脂中に分散した状態で存在していることが好ましい。これにより、カーボン材料が有する機能が発揮されやすくなり、樹脂組成物に対し、あるいはこの樹脂組成物を含む樹脂に対し、カーボン材料が有する機能を付与しやすくなる。ここでいう「分散した状態」とは、カーボン材料が脂肪族ポリカーボネート樹脂において偏在、すなわち、一部分のみに凝集した状態で存在しているのではなく、ポリカーボネート樹脂全体にわたってカーボン材料が分布している状態をいう。最も好ましくは、カーボン材料が一次粒子の形態、又はこれに近い形態で脂肪族ポリカーボネート樹脂全体に均一に分布していることである。この場合、特にカーボン材料の機能が発現しやすくなる。
【0067】
本実施形態に係る樹脂組成物に含まれるカーボン材料は、1種類のみであってもよいし、あるいは、2種以上が含まれていてもよい。例えば、樹脂組成物に含まれるカーボン材料は、発光性ナノカーボンのみであってもよいし、あるいは、これと他のカーボン材料の混合物であってもよい。
【0068】
本実施形態に係る樹脂組成物は、必要に応じて、カーボン材料以外の他の添加剤が含まれていてもよい。他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの安定剤、難燃剤、帯電防止剤、抗菌剤、核剤、滑剤、アンチブロッキング剤、着色剤、充填剤などが挙げられる。
【0069】
本実施形態に係る樹脂組成物を調製する方法は特に限定されない。例えば、樹脂組成物は、下記の各ステップを具備する方法よって製造することができる。
【0070】
炭素源化合物および窒素源化合物を含有する原料水溶液を加熱することによりカーボン材料を得るステップA、
アルキレンオキシドと二酸化炭素とを重合反応することにより前記脂肪族ポリカーボネート樹脂を製造するステップB、及び、
前記各々のステップで得られたカーボン材料と前記脂肪族ポリカーボネート樹脂とを混合して前記樹脂組成物を得るステップC。
【0071】
ステップAについては、上述の<カーボン材料>の項で説明した方法と同様である。
【0072】
ステップBについては、上述の<脂肪族ポリカーボネート樹脂>の項で説明した方法と同様であり、上述した金属触媒の存在下で行うことができる。
【0073】
ステップA及びステップBの順序は限定されない。
【0074】
ステップCでは、上記ステップA及びステップBでそれぞれ得られたカーボン材料と前記脂肪族ポリカーボネート樹脂とを混合して前記樹脂組成物を得る。例えば、脂肪族ポリカーボネート樹脂の溶液をあらかじめ調製し、この溶液にカーボン材料を添加し、得られた混合溶液を適宜の温度で加熱して溶媒を除去することで、カーボン材料及び脂肪族ポリカーボネート樹脂を含有する樹脂組成物を、例えばフィルムとして得ることができる。あるいは、上記混合溶液又はこの濃縮液からのキャストフィルムとして樹脂組成物を得てもよい。
【0075】
脂肪族ポリカーボネート樹脂の溶液を調製する際の溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド、アセトン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0076】
また、脂肪族ポリカーボネート樹脂の溶液に、カーボン材料を添加するにあたっては、カーボン材料を媒体に分散させてもよい。この媒体としては、例えば、水、アルコール等であるが、これらに限定されない。
【0077】
カーボン材料と脂肪族ポリカーボネート樹脂との配合割合も任意であり、得られる樹脂組成物におけるカーボン材料の含有量が、脂肪族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して上述した範囲となるように、カーボン材料と脂肪族ポリカーボネート樹脂との配合割合を調整すればよい。
【0078】
樹脂組成物を製造する方法は、上記のようなステップA、ステップB及びステップC以外のステップをさらに含んでいてもよい。
【0079】
上記のようなステップA、ステップB及びステップCを備える方法よって得られる樹脂組成物は、例えば、フィルム状、粉末状、板状、塊状等の形態で得ることができる。
【0080】
本実施形態に係る樹脂組成物は、脂肪族ポリカーボネート樹脂をいわゆるマトリックスとしているものであり、該マトリックス中にカーボン材料が均一に分散した状態で存在しやすくなる。特に、カーボン材料が上述した発光性ナノカーボンである場合にはその傾向が顕著である。この要因の一つとしては、発光性ナノカーボンと脂肪族ポリカーボネート樹脂との相溶性又は親和性が優れていることが挙げられる。
【0081】
上記のようにカーボン材料は、脂肪族ポリカーボネート樹脂中に均一に分散しやすいため、このような樹脂組成物を基材樹脂に混合させることで基材樹脂にフィラーとしてのカーボン材料が均一に分散した複合材料を形成することができる。従って、上記樹脂組成物は、カーボン材料による機能が発現されやすい複合材料を得るための原料として適した材料である。
【0082】
カーボン材料が発光性ナノカーボンである場合、この発光性ナノカーボンが脂肪族ポリカーボネート樹脂に均一分散すると、脂肪族ポリカーボネート樹脂が特定波長の光照射によって発光を示すようになり、脂肪族ポリカーボネート樹脂だけでは見られなかった発光性が付与される。また、発光性ナノカーボンが脂肪族ポリカーボネート樹脂に均一分散すると、発光性のみならず、発光性ナノカーボンによる紫外光吸収効果によって、材料の光劣化が抑制され、耐候性も向上する。加えて、発光性ナノカーボンを含有することで材料の機械的強度が向上し、レジリエンスの低下も抑制され得る。
【0083】
<複合材料>
本実施形態の複合材料は、上述した脂肪族ポリカーボネート樹脂とカーボン材料とを含む樹脂組成物が基材樹脂中に含まれてなる。特に、複合材料にあっては、樹脂組成物を構成する脂肪族ポリカーボネート樹脂が基材樹脂中に分散した状態で存在していることが好ましい。この場合、特にカーボン材料の機能が発現しやすくなる。脂肪族ポリカーボネート樹脂が基材樹脂中に分散して存在するとは、脂肪族ポリカーボネート樹脂のドメインが基材樹脂中において偏在、すなわち、一部分のみに凝集した状態で存在しているのではなく、基材樹脂全体にわたってドメインが分布している状態をいう。
【0084】
上記基材樹脂を構成する樹脂の種類は特に限定されず、上記樹脂組成物と混合可能であれば、種々の樹脂が選択され得る。
【0085】
中でも、加工の容易さの観点から、基材樹脂は熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
【0086】
熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、(メタ)アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリウレタンエラストマー、ポリカーボネート、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂等が例示される。
【0087】
上記基材樹脂は、ポリオレフィン系樹脂を含むことが好ましい。この場合、基材樹脂は脂肪族ポリカーボネート樹脂との相容性に優れるので、脂肪族ポリカーボネート樹脂が基材樹脂中に分散して存在しやすく、カーボン材料の効果も発揮されやすい。
【0088】
上記ポリオレフィン系樹脂とは、オレフィンに由来する単量体単位を含有する重合体を指し、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、エチレン−カルボン酸アルケニルエステル共重合体樹脂、エチレン−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)系樹脂などが挙げられる。
【0089】
上記ポリエチレン系樹脂としては、ポリエチレンが好ましく例示できる。ポリエチレンとしては特に限定されず、例えば、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどを用いることができる。
【0090】
ポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレン、あるいはプロピレンと他のオレフィンとの共重合体が好ましい。ここでの「他のオレフィン」としては、例えば、エチレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテンなどが好ましく挙げられる。これら「他のオレフィン」は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。共重合体の場合、ブロック共重合体、ランダム共重合体及び交互共重合体のいずれの態様であってもよい。
【0091】
ポリプロピレン系樹脂としては、より具体的には、ポリプロピレン、あるいはプロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、プロピレン−ヘキセン共重合体、プロピレン−オクテン共重合体などが好ましく、ポリプロピレンがより好ましい。ポリプロピレンとしては特に限定されず、イソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレンなどを用いることが出来る。
【0092】
エチレン−カルボン酸アルケニルエステル共重合体樹脂の「カルボン酸アルケニルエステル」としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、酢酸イソプロペニル、酢酸アリルなどが例示される。これらの中でも酢酸ビニルが好ましい。エチレン−カルボン酸アルケニルエステル共重合体樹脂としては、具体的には、エチレン−酢酸ビニル共重合体が特に好ましい。
【0093】
エチレン−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体樹脂の「不飽和カルボン酸アルキルエステル」としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピルなどが例示される。これらの中でも、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルが好ましい。エチレン−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体樹脂としては、具体的には、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体が特に好ましい。
【0094】
基材樹脂がポリオレフィン系樹脂を含む場合、このポリオレフィン系樹脂は、上記ポリプロピレン系樹脂を含むことが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびプロピレンと他のオレフィンとの共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましく、ポリプロピレンが特に好ましい。この場合、基材樹脂は脂肪族ポリカーボネート樹脂との相容性に特に優れるので、脂肪族ポリカーボネート樹脂が基材樹脂であるポリプロピレン中に分散して存在しやすく、カーボン材料の効果、特に発光性ナノカーボンの効果も発揮されやすい。
【0095】
複合材料に含まれる基材樹脂は、1種類のみであってもよいし、あるいは、2種以上が含まれていてもよい。
【0096】
基材樹脂の製造方法としては、特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、基材樹脂がポリオレフィン系樹脂であれば、過酸化物などの開始剤を使用してオレフィンをラジカル重合する方法、重合触媒の存在下において気相法、溶液法などによりオレフィンを重合する方法などを挙げることができる。重合触媒としては、チーグラー・ナッタ触媒、フィリップス触媒、メタロセン触媒などを用いることができる。
【0097】
基材樹脂の分子量は、特に制限されないが、例えば、質量平均分子量の好ましい下限は20,000、好ましい上限は6,000,000であり、より好ましい下限は50,000、より好ましい上限は3,000,000であり、さらに好ましい下限は100,000、さらに好ましい上限は1,000,000である。基材樹脂の質量平均分子量が20,000以上であると、得られる複合材料の機械強度がより好ましく向上し、実用に足りる。また、基材樹脂の質量平均分子量が6,000,000以下であると、得られる複合材料の成形加工がより容易になり得る。
【0098】
なお、当該質量平均分子量は、基材樹脂の濃度が0.5%の1,2−ジクロロベンゼン溶液を調製し、高速液体クロマトグラフを用いて測定し、同一条件で測定した質量平均分子量が既知のポリスチレンと比較することにより算出した値である。ここで、測定条件は
カラム:GPCカラム
(東ソー株式会社の商品名、TSKgel GMH
HR−H HT)
カラム温度:140℃
溶出液:1,2−ジクロロベンゼン
流速:1mL/min
とできる。
【0099】
基材樹脂の流動性は、例えば、JIS K 7210:1999に規定された方法で測定されるメルトフローレート(MFR、単位:g/10分)によって表される。上記基材樹脂では、当該方法により、温度230℃、荷重2.16kgで測定されたMFR値の下限が0.5であることが好ましく、上限が100であることが好ましい。より好ましい上記MFR値の下限は1、より好ましい上記MFR値の上限は50(g/10分)である。基材樹脂のMFRの値が0.5以上であると、得られる複合材料の流動性が低すぎることがなく、押出成形法、ブロー成形法などによって好ましく成形することができる。また、基材樹脂のMFRの値が100以下であると、射出成形法などによって好ましく成形することができる。
【0100】
複合材料において、脂肪族ポリカーボネート樹脂の含有量は任意の割合とすることができる。例えば、複合材料における脂肪族ポリカーボネート樹脂の含有量としては、基材樹脂100質量部に対して、好ましい下限は0.05質量部、好ましい上限は20質量部である。この場合、肪族ポリカーボネート樹脂が基材樹脂中に分散した状態で存在しやすく、カーボン材料の効果が十分に発揮され得るものであり、加えて、複合材料の機械強度や破断ひずみも向上しやすい。脂肪族ポリカーボネート樹脂の含有量としては、基材樹脂100質量部に対して、より好ましい下限は0.5質量部、より好ましい上限は10質量部であり、さらに好ましい下限は1質量部、さらに好ましい上限は5質量部である。
【0101】
本実施形態の複合材料は、脂肪族ポリカーボネート樹脂とカーボン材料とを含む樹脂組成物が基材樹脂中に含まれる限りは、その他の添加剤が含まれていてもよい。その他の添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの安定剤、難燃剤、帯電防止剤、抗菌剤、核剤、滑剤、アンチブロッキング剤、着色剤、充填剤などが例示される。このような他の添加剤は、1種単独又は2種以上が組み合わせられていてもよい。
【0102】
複合材料の製造方法としては、特に限定されない。例えば、上述のように製造した樹脂組成物と、基材樹脂とを任意の量で混合することで複合材料を製造することができる。この混合は、例えば、混錬機等によって溶融混錬することができる。溶融混練する方法としては、特に限定されないが、1軸押出機、2軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、混練ロールなどを用いる方法が挙げられる。溶融混練温度としては、脂肪族ポリカーボネート樹脂の熱分解を防ぐ観点から、好ましい上限は300℃であり、より好ましい上限は250℃であり、さらに好ましい上限は200℃である。
【0103】
複合材料の形状に制約はなく、ストランド状、シート状、平板状又はペレット状などの任意の形状が可能である。複合材料を成形させるのであれば、成形加工機への供給を容易であるという観点から、ペレット状とするのが好ましい。なお、
本実施形態に係る複合材料は、樹脂組成物の脂肪族ポリカーボネート樹脂が基材樹脂に分散した状態で存在し得るので、結果として、脂肪族ポリカーボネート樹脂に分散しているカーボン材料も基材樹脂に分散して存在する。そのため、当該複合材料は、カーボン材料による機能が発現されやすく、優れた性能を有し得る。
【0104】
カーボン材料が発光性ナノカーボンである場合には、複合材料が特定波長の光照射によって発光を示すようになり、基材樹脂だけでは見られなかった発光性が付与される。また、発光性ナノカーボンが基材樹脂に分散することで、発光性のみならず、発光性ナノカーボンによる紫外光吸収によって、光劣化が抑制され、複合材料の耐候性も向上する。加えて、発光性ナノカーボンを含有することで複合材料の機械的強度が向上し、レジリエンスの低下も抑制され得る。
【0105】
上記複合材料は、種々の形状の成形体となり得る。
【0106】
成形体を得る方法としては、例えば、射出成形法、圧縮成形法、射出圧縮成形法、ガス注入射出成形法、発泡射出成形法、インフレーション成形法、Tダイ成形法、カレンダー成形法、ブロー成形法、真空成形法、圧空成形法、回転成形法などが挙げられる。
【0107】
成形体がフィルム又はシートである場合、インフレーション成形法、Tダイ成形法、カレンダー成形法により異なる樹脂との多層構成の少なくとも1層として製膜すること、又は押出ラミネート法、熱ラミネート法、ドライラミネート法などで製膜することにより多層化することができる。また、得られたフィルム又はシートを、ロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法などにより一軸又は二軸に延伸して用いることができる。
【0108】
成形体には、例えば、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、オゾン処理などの表面処理を施してもよい。
【0109】
成形体の大きさは限定されず、所望の用途に応じて適宜決定することができる。
【0110】
上記のような複合材料の成形体は、例えば、電気・電子部品、建築部品、自動車部品、機械部品、日用品、産業資材などとして利用し得る。具体的には、電気・電子部品としては、例えば、コピー機、パソコン、プリンター、電子楽器、家庭用ゲーム機、携帯型ゲーム機などのハウジングや内部部品などが挙げられ、建築部品としては、例えば、カーテン部品、ブラインド部品、ルーフパネル、断熱壁、アジャスター、プラ束、天井吊り具などが挙げられ、自動車部品としては、例えば、フェンダー、オーバーフェンダー、グリルガード、カウルルーバー、ホイールキャップ、サイドプロテクター、サイドモール、サイドロアスカート、フロントグリル、ルーフレール、リアスポイラー、バンパー、インパネロア、トリムなどが挙げられ、機械部品としては、例えば、歯車、ねじ、バネ、軸受、レバー、カム、ラチェット、ローラーなどが挙げられ、日用品としては、例えば、各種カトラリー、各種トイレタリー部品、カートンボックス、包装用フィルム、ラップフィルム、手提げラミネート紙袋、プリペイドカード、家庭用ラップの鋸刃、食品トレイ、ゴミ袋、ラミ袋、パウチ、ラベル、サーモフォーミング成形品、梱包バンド、織り編物(衣料・インテリア)、カーペット、生活衛生資材、包装用フィルム、ケース、食品用カップなどが挙げられ、産業資材としては、例えば、繊維のバインダー、紙のコーティング、接着剤、農業用フィルム、紡績糸、スリットヤーン、ロープ、ネット、フィルター、織り編物(産業資材)、コンポストバッグ、防水シート、土嚢用袋などが挙げられる。
【実施例】
【0111】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0112】
[製造例1](有機亜鉛触媒の製造)
攪拌機、窒素ガス導入管、温度計、ディーンスターク管、還流冷却管を備えた0.3L容の四つ口フラスコに、酸化亜鉛7.73g(95mmol)、グルタル酸12.3g(100mmol)、酢酸0.114g(2mmol)およびトルエン76.0gを仕込んだ。次に、反応系内に50mL/minの流量で窒素を流しながら、55℃まで昇温し、同温度で4時間攪拌して反応させた。その後、110℃まで昇温し、さらに同温度で2時間攪拌して共沸脱水させ水分を除去した後、室温まで冷却して、有機亜鉛触媒を含むスラリー液を得た。
【0113】
[製造例2](脂肪族ポリカーボネート樹脂の製造)
攪拌機、ガス導入管、温度計を備えた1L容のオートクレーブの系内をあらかじめ窒素雰囲気に置換した後、製造例1により得られた有機亜鉛触媒を含むスラリー液39.1g(有機亜鉛触媒を45mmol含む)、炭酸ジメチル192.4g、プロピレンオキシド26.1g(450mmol)を仕込んだ。次に、攪拌下、二酸化炭素を加え、反応系内が1.0MPaとなるまで二酸化炭素を充填した。その後、60℃に昇温し、反応により消費される二酸化炭素を補給しながら10時間重合反応を行なった。反応終了後、オートクレーブを冷却して脱圧し、ろ過した後、減圧乾燥してポリプロピレンカーボネート樹脂40gを得た。得られたポリプロピレンカーボネート樹脂の質量平均分子量は、330,000(Mw/Mn=10.02)であった。
【0114】
なお、当該質量平均分子量は、ポリプロピレンカーボネート樹脂の濃度が0.5%のN,N−ジメチルホルムアミド溶液を調製し、高速液体クロマトグラフを用いて測定し、同一条件で測定した質量平均分子量が既知のポリスチレンと比較することにより算出した値である。なお、測定条件は、
カラム:GPCカラム
(昭和電工株式会社の商品名、Shodex OHPac SB−800シリーズ)
カラム温度:40℃
溶出液:0.03mol/L 臭化リチウム‐N,N−ジメチルホルムアミド溶液
流速:0.65mL/min
とした。
【0115】
[製造例3](カーボン材料の製造)
0.5mol/Lのクエン酸水溶液10gにエチレンジアミン0.34gを混合し、マイクロ波(700W家庭用電子レンジを使用)により3.5分加熱し、熱分解させた。加熱後に得られた固体を少量の水で溶解し、過剰量のエタノール中に注いだ。これにより生じた沈殿物をろ過により除去し、ろ液を減圧留去して発光性ナノカーボンを0.43g、収率32%で得た。
【0116】
(実施例1)
製造例2で得られたポリプロピレンカーボネート樹脂100質量部を熱ジメチルホルムアミドに溶解させた。そこに製造例3で得られた発光性ナノカーボンの水分散液(発光性ナノカーボン含有量20質量%)12質量部を添加して攪拌した。得られた混合溶液をシャーレに展開し、真空オーブン1000Paの減圧下、40℃雰囲気で18時間乾燥させることにより、炭素材料として発光性ナノカーボンを含む樹脂組成物のフィルムを得た。発光性ナノカーボンは、ポリプロピレンカーボネート樹脂100質量部に対し2.4質量部含有されていた。
【0117】
(実施例2)
実施例1で得られた発光性ナノカーボンを含む樹脂組成物3質量部と、予め光安定剤を除去したイソタクチックポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製、Mw=380,000、Mw/Mn=4.9)97質量部をDSM Xplore社製マイクロコンパウンダーに投入し、180℃、回転数50rpmで5分間混練を行うことで、複合材料を得た。
【0118】
得られた複合材料を、テクノサプライ社製卓上型ホットプレスを用いて、プレス温度230℃、プレス圧力20MPaで加工することで、厚さ0.1mmのシート状成形体を得た。
【0119】
(比較例1)
発光性ナノカーボンを含む樹脂組成物を使用せず、ポリプロピレンのみを用いて実施例2と同様の条件で加工し、厚さ0.1mmのシート状成形体を得た。
【0120】
(比較例2)
発光性ナノカーボンを含む樹脂組成物の代わりに、製造例2で得られたポリプロピレンカーボネート樹脂3質量部に変更したこと以外は、実施例2と同様の条件で加工し、厚さ0.1mmのシート状成形体を得た。
【0121】
(比較例3)
実施例2で使用したポリプロピレンに製造例3で得られた発光性ナノカーボンを混合させたが、両者は均一に混ざらなかった。
【0122】
[評価法]
実施例および比較例で得られた樹脂組成物のシートについて、吸収スペクトル、一軸引張試験及び暴露試験を、以下の方法により行った。
【0123】
(1)吸収スペクトル
実施例1で得られた発光性ナノカーボンを含む樹脂組成物から形成したフィルムについて、以下の測定装置を用いて、吸収スペクトルを測定した。
測定装置:日本分光株式会社製「紫外可視分光光度計V−550」
測定波長:190nm〜900nm
【0124】
(2)引張試験
JIS K 7161:1994に準拠し、以下の試験片および測定装置を用いて、降伏応力、ネック応力、ネックひずみ、破断応力、破断ひずみおよび弾性率を測定した。また、レジリエンスは応力−ひずみ曲線における、ネックひずみまでの積分値から算出した。降伏応力、ネック応力が大きいほど、強度に優れた硬い材料である。破断応力、破断ひずみが大きいほど、延伸性に優れ、粘り強い材料である。ネックひずみ、レジリエンスが大きいほど靭性に優れた材料である。弾性率が大きいほど、変形しにくい材料である。
試験片:ダンベル型(平行部長さ10mm、平行部幅4mm、厚み0.2mm)
測定機:INSTRON社製引張試験機 MODEL4466
引張速度:20mm/min
測定温度:25℃
【0125】
(3)暴露試験
JIS K 7350:2008に準拠し、以下の測定装置を用いて測定した。
測定機:東洋精機製作所製「卓上キセノン耐光性試験機 SUNTEST cps plus」
光源:キセノンランプ
照度:550W/cm
2
ブラックパネル温度:63℃
照射時間:24時間
【0126】
さらに、試験終了後の試験片を用いて上記(2)の引張試験を行い、紫外線に対する耐性を評価した。
【0127】
図1は、実施例1で得られた発光性ナノカーボンを含む樹脂組成物のフィルムの吸収スペクトルを示している。この結果から、波長365nm付近の紫外領域に発光性ナノカーボンに由来する強い吸収が示されていることがわかる。つまり、ポリプロピレンカーボネート樹脂中に発光性ナノカーボンが含有されていることが示されているといえる。
【0128】
また、図示はしていないが、得られたフィルムは全体にわたって透明であったこと、さらに、実施例1で得られた発光性ナノカーボンを含む樹脂組成物のフィルムに波長365nmのブラックライトを照射すると、フィルム全体から青色発光することが確認された。これらの結果は、ポリプロピレンカーボネート樹脂中に発光性ナノカーボンが均一に分散されていることを示している。
【0129】
図2は、実施例2、比較例1及び比較例2で得られたシート状成形体の光照射前後の応力−ひずみ曲線を示している。具体的に
図2(a)は、シート状成形体に光を照射する前、(b)はシート状成形体に光を照射した後の応力−ひずみ曲線である。
【0130】
図2(a)、(b)の比較から、比較例1のポリプロピレン(PP)のみからなるシート状成形体では、光照射によって破断ひずみが10から0.10へ低下していることがわかる。この結果は、光照射によってPPが劣化し、脆性化したことを示している。また、比較例2は、発光性ナノカーボンを含有せず、PPとポリカーボネート樹脂との複合体(PP/PPC)であるが、この場合、光照射により破断ひずみの低下がPP成形体よりも抑制されているものの、やはり、光劣化して、脆性化していることがわかる。
【0131】
これに対し、実施例2のシート状成形体、すなわち、発光性ナノカーボンを含む樹脂組成物とPPとの複合材料から形成された成形体(PP/PPC+CDs)では、24時間、光が照射されても光照射前後で応力−ひずみ曲線はほとんど変化していないことが
図2(a)、(b)よりわかる。この結果は、発光性ナノカーボンが紫外光を吸収し、PPの劣化を抑制していることを示している。
【0132】
また、比較例3の結果から、脂肪族ポリカーボネート樹脂を使用しない場合は、PPに発光性ナノカーボンを分散させることができないことが明らかであり、脂肪族ポリカーボネート樹脂によって、発光性ナノカーボンを基材樹脂PPに均一に分散できることも示されているといえる。
【0133】
図3は、実施例2、比較例1及び比較例2で得られたシート状成形体の光照射前後の応力−ひずみ曲線を示している。この
図3では、
図2(a)及び(b)の結果をまとめて表示し、かつ、ひずみが0〜0.6である範囲を拡大したものである。この結果から、特に注目すべきことは、実施例2の成形体(PP/PPC+CDs)では、光照射により降伏応力の低下は見られず、むしろ、やや増加していることである。よって、発光性ナノカーボンを含む樹脂組成物を基材樹脂と複合させて得られる複合材料は、上述の光劣化による脆性化が抑制されることに加えて、レジリエンスの低下も抑制されることがわかる。一方、比較例2の成形体(PP/PPC)では、光照射により降伏応力はやや増加しているが、光照射前よりもレジリエンスは低下していることがわかる。