特許第6707794号(P6707794)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人広島大学の特許一覧 ▶ 積水化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6707794-ジチエノゲルモール化合物 図000008
  • 特許6707794-ジチエノゲルモール化合物 図000009
  • 特許6707794-ジチエノゲルモール化合物 図000010
  • 特許6707794-ジチエノゲルモール化合物 図000011
  • 特許6707794-ジチエノゲルモール化合物 図000012
  • 特許6707794-ジチエノゲルモール化合物 図000013
  • 特許6707794-ジチエノゲルモール化合物 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6707794
(24)【登録日】2020年5月25日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】ジチエノゲルモール化合物
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/30 20060101AFI20200601BHJP
【FI】
   C07F7/30 FCSP
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-46320(P2016-46320)
(22)【出願日】2016年3月9日
(65)【公開番号】特開2017-160162(P2017-160162A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2018年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】灰野 岳晴
(72)【発明者】
【氏名】大下 浄治
(72)【発明者】
【氏名】池田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】大鷲 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】中壽賀 章
(72)【発明者】
【氏名】石丸 維敏
【審査官】 佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−162514(JP,A)
【文献】 特開2014−221871(JP,A)
【文献】 特開2013−060415(JP,A)
【文献】 特開2003−137888(JP,A)
【文献】 Inorganic Chemistry, 2016, Vol.55, No.5, p.7432-7441,2016年
【文献】 Dalton Transactions, 2015, Vol.44, No.29, p.13156-13162,2015年
【文献】 Chem.Commun. 2019, Vol.55, p.10607-10610,2019年
【文献】 Polymer 2017, Vol.128, p.243-256,2017年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とするジチエノゲルモール化合物。
【化1】
一般式(1)中、R及びRの両方又はいずれか一方は不斉中心を有する基であり、Rは水素又はORである。が不斉中心を有する基である場合、Rは、不斉中心を有する2−エチルへキシル基、シトロネリル基、ペリリル基又はメンチル基である。Rが不斉中心を有する基である場合、Rは、不斉中心を有するアルキル基、不斉中心を有するアミノ酸誘導体又は不斉中心を有するコレステロール誘導体である。Rは、直鎖アルキル基、不斉中心を有するアルキル基、不斉中心を有するアミノ酸誘導体又は不斉中心を有するコレステロール誘導体である。一般式(1)中の複数のRは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、複数のRは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、複数のRは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、複数のRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己集合してらせん状の集積体を形成し、円偏光発光性を示すジチエノゲルモール化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
第14族メタロールの1つであるシロールは、シクロペンタジエンの1つの炭素をケイ素で置き換えた構造をもつ有機金属化合物である。シロール骨格を有する化合物は、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子等に用いられる発光材料として注目されており、自己集合特性及び発光特性が盛んに研究されてきた(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
別の第14族メタロールとして、ゲルモールがある。ゲルモールは、シクロペンタジエンの1つの炭素をゲルマニウムで置き換えた構造をもつ有機金属化合物である。ゲルモール骨格を有する化合物もまた、発光性を示すことが知られているが、自己集合特性及び発光特性についてはこれまで報告例が少なかった。例えば、特許文献3にはジチエノゲルモール骨格を有する有機ヘテロ高分子が記載されているが、自己集合特性及び発光特性についての詳細な記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−60415号公報
【特許文献2】特開2013−20996号公報
【特許文献3】特開2014−221871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、自己集合してらせん状の集積体を形成し、円偏光発光性を示すジチエノゲルモール化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記一般式(1)で表されるジチエノゲルモール化合物である。以下に本発明を詳述する。
【0007】
【化1】
【0008】
一般式(1)中、R及びRの両方又はいずれか一方は不斉中心を有する基であり、Rは水素又はORである。
【0009】
本発明者らは、ジチエノゲルモール骨格を複数のフェニルイソオキサゾールで修飾した構造をもち、該構造中に不斉中心を有する上記一般式(1)で表されるジチエノゲルモール化合物の製造に成功した。更に、本発明者らは、得られたジチエノゲルモール化合物が自己集合してらせん状の集積体を形成すること、及び、該らせん状の集積体が円偏光発光性を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明は、下記一般式(1)で表されるジチエノゲルモール化合物である。
【0011】
【化2】
【0012】
一般式(1)中、R及びRの両方又はいずれか一方は不斉中心を有する基であり、Rは水素又はORである。
【0013】
及びRは、その両方又はいずれか一方が不斉中心を有する基である。なお、上記一般式(1)中の複数のRは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、複数のRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
が不斉中心を有する基である場合、Rとして、例えば、不斉中心を有する2−エチルへキシル基、シトロネリル基、ペリリル基、メンチル基等が挙げられる。なかでも、2−エチルへキシル基が好ましい。
が不斉中心を有する基である場合、Rは特に限定されず、不斉中心を有していても有していなくてもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シトロネリル基、ゲラニル基、ファルネシル基、メンチル基、3,7−ジメチルオクチル基、3,7−ジメチルデカニル基等が挙げられる。なかでも、3,7−ジメチルオクチル基が好ましい。
【0014】
が不斉中心を有する基である場合、Rは特に限定されず、不斉中心を有していても有していなくてもよく、例えば、立体障害の少ないアルキル基等が挙げられる。上記立体障害の少ないアルキル基として、例えば、直鎖アルキル基等が挙げられ、該直鎖アルキル基として、n−オクチル基、n−ブチル基等の炭素数2〜12の直鎖アルキル基が好ましい。
が不斉中心を有する基である場合、Rとして、例えば、不斉中心を有するアルキル基、不斉中心を有するアミノ酸誘導体、不斉中心を有するコレステロール誘導体等が挙げられる。なかでも、製造の容易さ、立体障害、集積能等の観点から、不斉中心を有するアルキル基が好ましい。上記不斉中心を有するアルキル基として、例えば、3,7−ジメチルオクチル基、3,7−ジメチルデカニル基等が挙げられる。
【0015】
及びRは、その両方又はいずれか一方が不斉中心を有する基であればよいが、製造の容易さ、立体障害、集積能等の観点から、Rが上記立体障害の少ないアルキル基等の不斉中心を有さない基であり、かつ、Rが上記不斉中心を有するアルキル基等の不斉中心を有する基であることがより好ましい。
【0016】
は、水素又はORである。Rは特に限定されず、例えば、直鎖アルキル基、不斉中心を有するアルキル基、不斉中心を有するアミノ酸誘導体、不斉中心を有するコレステロール誘導体等が挙げられる。なかでも、直鎖アルキル基が好ましい。この場合、上記一般式(1)中のR及びRの両方をアルキル基とすることができ、即ち、上記一般式(1)中のフェニルイソオキサゾール部分に複数のアルキル基を導入することができ、ジチエノゲルモール化合物の集積能をより向上させることができる。なお、上記一般式(1)中の複数のRは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、複数のRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0017】
本発明のジチエノゲルモール化合物を製造する方法は特に限定されないが、ジチエノゲルモール骨格を製造した後、該ジチエノゲルモール骨格を複数のフェニルイソオキサゾールで修飾する方法が好ましい。
より具体的には、臭素又はヨウ素で置換されたジチエノゲルモール骨格とエチニル基を有するフェニルイソオキサゾールの均等カップリング反応を用いて修飾する方法が好ましい。
【0018】
本発明のジチエノゲルモール化合物は、自己集合してらせん状の集積体を形成する。本発明のジチエノゲルモール化合物の自己集合特性を評価する方法は特に限定されず、例えば、プロトンNMR測定、紫外可視吸収スペクトル、円二色性(CD)スペクトル等が挙げられる。
例えば、プロトンNMR測定では、ジチエノゲルモール化合物の濃度を変化させたプロトンNMR測定を行ったとき、ジチエノゲルモール化合物の濃度を高くするに従って芳香環の各プロトンのピークが高磁場シフトすることで、ジチエノゲルモール化合物の分子が積層構造を形成していると判断することができる。また、紫外可視吸収スペクトル及びCDスペクトルでは、各スペクトルの温度変化測定において温度に依存した吸収バンド又はCDシグナルの変化を分析することで、ジチエノゲルモール化合物の集積体の形成、らせん構造の存在等を確認することができる。
【0019】
本発明のジチエノゲルモール化合物は、自己集合してらせん状の集積体を形成し、該らせん状の集積体は、円偏光発光性を示す。上記らせん状の集積体の形成及びそれによる円偏光発光性の発現は温度に依存するため、円偏光発光性の発現を温度によって制御することができる。
本発明のジチエノゲルモール化合物の発光特性を評価する方法は特に限定されず、例えば、蛍光スペクトル、円偏光発光(CPL)スペクトル等が挙げられる。
【0020】
本発明のジチエノゲルモール化合物の用途は特に限定されず、円偏光発光性(特に、円偏光発光性の発現が温度によって制御されること)を利用して、例えば、セキュリティインク、3Dメガネ、センサー、発光性中間膜、温度センサー等の発光材料として本発明のジチエノゲルモール化合物を用いることができる。また、本発明のジチエノゲルモール化合物を用いることにより、液晶ディスプレイ(LCD)パネルの構成部材の数を低減させることが期待できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、自己集合してらせん状の集積体を形成し、円偏光発光性を示すジチエノゲルモール化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】化合物12の濃度を変化させたプロトンNMR測定の結果を示す。
図2】化合物12(S体)のメチルシクロヘキサン中での紫外可視吸収スペクトルを示す。
図3】化合物12(S体及びR体)のメチルシクロヘキサン中での円二色性(CD)スペクトルを示す。
図4】得られた紫外可視吸収スペクトル及びCDスペクトルにもとづき、408nmでの温度に対する吸収及び円二色性の変化をプロットした図を示す。
図5】化合物12(S体)のメチルシクロヘキサン中での蛍光スペクトルを示す。
図6】化合物12(S体)の0.0049mMのメチルシクロヘキサン溶液、及び、0.049mMのメチルシクロヘキサン溶液における発光の様子を撮影した写真を示す。
図7】化合物12(S体及びR体)のメチルシクロヘキサン中での円偏光発光(CPL)スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0024】
(実施例1)
下記のスキームに従ってジチエノゲルモール化合物である化合物12を製造した。
【0025】
(1)化合物2の合成
【0026】
【化3】
【0027】
従来公知の方法に従い、Organometallics 2011,30,3233−3236を参考にして化合物2(H−NMR:1.43、1.39−1.25、0.92、0.90、0.88ppm)を合成した。
【0028】
(2)化合物8の合成
【0029】
【化4】
【0030】
従来公知の方法に従い、Organometallics 2011,30,3233−3236を参考にして化合物8(H−NMR:6.97、1.45、1.31−1.04、0.91、0.84、0.79ppm)を合成した。
【0031】
(3)化合物12の合成
【0032】
【化5】
【0033】
従来公知の方法に従い、Dalton Transactions 2015,44,13156−13162を参考にして化合物11(H−NMR:8.24、7.98、7.79、6.99、6.89、4.05、3.24、1.90−1.81、1.75−1.47、1.42−1.10、0.96、0.88ppm)を合成した。
次いで、化合物8(149mg)及び化合物11(425mg)をテトラヒドロフラン(12mL)に溶解させ、ジイソプロピルアミン(0.5mL)、ヨウ化銅(8mg)及びジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム(78mg)を加えた後にアルゴン雰囲気下で11時間還流し、塩化メチレンで抽出、濃縮した後にシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製することで化合物12(H−NMR:8.22、8.03、7.82、7.34、7.01、6.93、4.06、1.85、1.75−1.05、0.96、0.88、0.83ppm)を合成した。
【0034】
<評価>
実施例1で得られたジチエノゲルモール化合物(化合物12)について、以下の方法により評価を行った。
【0035】
(1)自己集合特性1(プロトンNMR測定)
化合物12の重クロロホルム中での自己集合特性を、化合物12の濃度を変化させたプロトンNMR測定によって評価した。化合物12の濃度は、2.40mML−1、3.59mML−1、6.00mML−1及び12.0mML−1とした。
図1に、化合物12の濃度を変化させたプロトンNMR測定の結果を示す。図1に示すように、化合物12の濃度を高くするに従って芳香環の各プロトンのピークが高磁場シフトした。これは化合物12の分子が積層構造を形成し、隣接する分子がもたらす環電流の影響を受け、プロトンが遮蔽されているためだと考えられる。非線形解析によって分子の会合定数を求めたところ、9±2Lmol−1であった。
【0036】
(2)自己集合特性2(紫外可視吸収スペクトル及び円二色性(CD)スペクトル)
化合物12のメチルシクロヘキサン中での自己集合特性を、紫外可視吸収スペクトル及び円二色性(CD)スペクトルを用いて評価した。化合物12の濃度は、0.049mMとした。
図2に、化合物12(S体)のメチルシクロヘキサン中での紫外可視吸収スペクトルを示す。図2に示すように、紫外可視吸収スペクトルの温度変化測定において、温度が下がるに従って400nm付近の吸収バンドが減少し、480nm付近に新たな吸収バンドが現れた。これは、化合物12が高温では単量体として存在し、低温では自己集合によってJ会合体を形成したことを示唆している。
図3に、化合物12(S体及びR体)のメチルシクロヘキサン中での円二色性(CD)スペクトルを示す。図3に示すように、CDスペクトルの温度変化測定において、高温ではCDシグナルは得られなかったが温度を下げていくに従ってCDシグナルが現れ、10℃から0℃に下げたところで、シグナルが反転した。更に、S体とR体とでは、図3に示すように鏡像関係となるスペクトルを与えた。これは、化合物12がメチルシクロヘキサン中においてらせん状の集積体を形成し、らせんの巻き方向が側鎖のキラリティによって制御されていることを示唆している。
また、図4に、得られた紫外可視吸収スペクトル及びCDスペクトルにもとづき、408nmでの温度に対する吸収及び円二色性の変化をプロットした図を示す。このプロットから、紫外可視吸収スペクトルの吸収が大きく変化する温度とCDスペクトルのCDが大きく変化する温度とが一致することがわかる。
【0037】
以上の結果から、化合物12はメチルシクロヘキサン中で二段階会合しており、S体の一段階目の会合では負のCDシグナルを、二段階目の会合では正のCDシグナルを示すことが分かった。
【0038】
(3)発光特性(蛍光スペクトル及び円偏光発光(CPL)スペクトル)
化合物12のメチルシクロヘキサン中での発光特性を、蛍光スペクトル及び円偏光発光(CPL)スペクトルを用いて評価した。化合物12の濃度は、0.049mMとした。蛍光スペクトルにおける検出波長は420nm、CPLスペクトルにおける検出波長は400nmとした。
図5に、化合物12(S体)のメチルシクロヘキサン中での蛍光スペクトルを示す。図5に示すように、蛍光スペクトルの温度変化測定において、温度を下げていくに従って発光強度は減少したが、0℃を境にまた増大した。なお、25℃における量子収率を測定したところ、0.0049mMのメチルシクロヘキサン溶液ではφ=0.29、0.049mMのメチルシクロヘキサン溶液ではφ=0.17であった。このことから、化合物12が凝集することによって量子収率は減少していることが分かった。なお、図6に、化合物12(S体)の0.0049mMのメチルシクロヘキサン溶液、及び、0.049mMのメチルシクロヘキサン溶液における発光の様子を撮影した写真を示す。図6中、右の写真が0.0049mMのメチルシクロヘキサン溶液、左の写真が0.049mMのメチルシクロヘキサン溶液である。
図7に、化合物12(S体及びR体)のメチルシクロヘキサン中での円偏光発光(CPL)スペクトルを示す。図7に示すように、CPLスペクトルを測定すると、30℃ではCPL不活性であったが、−10℃では集積体の形成に伴い、ピークが現れた。また、S体とR体とでは、図7に示すようにミラーイメージになった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、自己集合してらせん状の集積体を形成し、円偏光発光性を示すジチエノゲルモール化合物を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7