(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の電磁波吸収材料は、絶縁材料及び導電材料を含有し、特に限定されることなく、次世代無線LAN、自動車レーダブレーキ、光伝送装置、及びマイクロ波通信機器などの電磁波吸収体に用いることができる。そして、本発明の電磁波吸収材料は、高周波数領域における電磁波吸収能に優れる。
【0013】
(電磁波吸収材料)
ここで、本発明の電磁波吸収材料は、絶縁材料及び導電材料を含有する。さらに、かかる電磁波吸収材料の体積抵抗率は10
-2Ω・cm以上9×10
5Ω・cm未満である。そして、本発明の電磁波吸収材料によれば、通常、20GHz以上の高周波数領域の電磁波を吸収することができる。ここで、上記性状を満たす電磁波吸収材料が、20GHz以上の高周波数領域における電磁波吸収能に優れる理由は明らかではないが、以下のように推察される。
【0014】
まず、絶縁材料及び導電材料を含有する複合材料に対して電磁波が照射されると、複合材料中において導電材料間で電磁波の反射が繰り返されて、電磁波が減衰する。導電材料が電磁波を反射するにあたり、導電材料は電磁波を吸収して熱に変換することが知られている。そこで、本発明者はまず、複合材料中における導電材料の分布状態と導電材料の電磁波吸収特性との相関関係について種々検討した。ここで、絶縁材料と導電材料とを含有する複合材料内では、導電材料間にて導電パスが形成され得る。そして、導電パスの発達に伴い、複合材料の体積抵抗率が減少しうる。かかる導電パスの発達の程度を直接定義することは困難であるが、体積抵抗率により導電パスの発達の程度を間接的に示すことができると考えられる。そこで、本発明者は、この体積抵抗率と、複合材料の電磁波吸収性能との関係について鋭意検討した結果、複合材料の体積抵抗率が10
-2Ω・cm以上9×10
5Ω・cm未満となる導電材料の分布状態では、特に20GHz以上の高周波数領域の電磁波吸収が良好であることを新たに見出した。すなわち、上記所定範囲の体積抵抗率となるような導電材料の分布状態が、20GHz以上の高周波数領域の電磁波吸収に適していることが推察される。したがって、本発明者は、電磁波吸収材料として、絶縁材料及び導電材料を含有する、体積抵抗率が10
-2Ω・cm以上9×10
5Ω・cm未満の複合材料を形成した。このようにして得られた、本発明の電磁波吸収材料によれば、上述したような理由により、高周波数領域の電磁波を非常に効率よく吸収することができる。
なお、導電パスの形成状態の制御因子の一つとして、複合材料中での導電材料の含有量が挙げられるが、同じ含有量であっても導電材料の凝集性等の特性により同じ導電パスの形成状態が得られるとは一概には言えない。したがって、導電材料として電磁波吸収材料に配合する各材料について、その特性を十分に精査した上で、適正量を配合することが好ましい。
【0015】
<電磁波吸収材料>
本発明の電磁波吸収材料は、絶縁材料及び導電材料を含み、該電磁波吸収材料の体積抵抗率は10
-2Ω・cm以上9×10
5Ω・cm未満である。さらに、体積抵抗率は10
-1Ω・cm以上であることが好ましく、10
0Ω・cm以上であることがより好ましく、10
5Ω・cm未満であることが好ましく、10
4Ω・cm未満であることがより好ましく、10
3Ω・cm未満であることがさらに好ましい。電磁波吸収材料を用いて形成した電磁波吸収材料の高周波数領域における電磁波吸収能を一層顕著に向上させることができるからである。
【0016】
[絶縁材料]
絶縁材料としては、特に限定されることなく、電磁波吸収材料の用途に応じた既知の樹脂及び充填剤を用いることができる。具体的には、絶縁材料としては、樹脂に対して、任意で絶縁性充填剤を混合した絶縁材料を用いることができる。なお、本発明において、ゴムおよびエラストマーは、「樹脂」に含まれるものとする。
【0017】
[[樹脂]]
樹脂としては、例えば、エポキシ化天然ゴムを含む天然ゴム、ジエン系合成ゴム(ブタジエンゴム、エポキシ化ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレン酢酸ビニルゴム、クロロプレンゴム、ビニルピリジンゴム、ブチルゴム、クロロブチルゴム、ポリイソプレンゴム)、エチレンプロピレンゴム(EPR,EPDM)、アクリルゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム(CO,ECO)、ウレタンゴム、ポリスルフィドゴム、フッ素ゴム、フッ素樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、セルロースアセテート、セルロースニトレート、セルロースアセテートブチレート等のセルロース系樹脂;カゼインプラスチック;大豆タンパクプラスチック;ベンゾグアナミン樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、多官能基エポキシ樹脂、脂環状エポキシ樹脂を含むエポキシ系樹脂;ジアリルフタレート樹脂;アルキド樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂;ポリプロピレン樹脂;ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂、AS(アクリロニトリルスチレン)樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂;アクリル系樹脂;メタクリル系樹脂;ポリ酢酸ビニル等の有機酸ビニルエステル系樹脂;ビニルエーテル系樹脂;ハロゲン含有樹脂;ポリシクロオレフィン樹脂;オレフィン系樹脂;脂環式オレフィン系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;不飽和ポリエステル樹脂を含むポリエステル系樹脂;ポリアミド系樹脂;熱可塑性及び熱硬化性ポリウレタン樹脂;ポリスルホン系樹脂;変性ポリフェフェニレンエーテル樹脂を含むポリフェニレンエーテル系樹脂;シリコーン樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂;ポリブチレンテレフタレート樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリフェニレンスルフィド樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂、などが挙げられる。これらは1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0018】
[[絶縁性充填剤]]
さらに、絶縁性充填剤としては、特に限定されることなく、既知の無機充填剤や有機充填剤であって、絶縁性を有する充填剤を用いることができる。そのような絶縁性充填剤としては、例えば、シリカ、タルク、クレー、酸化チタン、ナイロン繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維、レーヨン繊維などが挙げられる。これらは1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0019】
[導電材料]
導電材料としては、特に限定されることなく、例えば、金属、導電性金属酸化物、炭素材料、及びウィスカーが挙げられる。これらは、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、導電材料は、アスペクト比が5以上であることが好ましい。導電材料のアスペクト比が5以上であれば、電磁波吸収材料を膜状に成形した際に、導電材料の長手方向を厚み方向に対して略垂直に配向させることで、高周波数領域の電磁波の吸収能を一層向上させることができるからである。なお、導電材料の配向は、例えば、電磁波吸収材料の成形時に所定の圧力を印加することにより制御することができる。
【0020】
上記炭素材料としては、例えば、カーボンブラック、炭素繊維、及び炭素ナノ構造体が挙げられる。特に、炭素ナノ構造体としては繊維状炭素ナノ構造体や、コイル状炭素ナノ構造体が挙げられるが、繊維状炭素ナノ構造体を用いることが好ましい。さらに、繊維状炭素ナノ構造体は、カーボンナノチューブを含むことがより好ましい。導電材料としてカーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体を配合した電磁波吸収材料は、高周波数領域における電磁波吸収能が一層良好であるからである。
なお、本明細書において、「炭素繊維」は、通常、外径(繊維径)が1μm以上の繊維状の炭素材料を指し、「繊維状炭素ナノ構造体」は、通常、外径(繊維径)が1μm未満の繊維状の炭素材料を指す。さらに、本明細書において「繊維」又は「繊維状」とは、通常、アスペクト比が5以上である構造体を指す。
【0021】
[[カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体]]
ここで、導電材料として好適に使用し得る、カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体は、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)のみからなるものであってもよいし、CNTと、CNT以外の繊維状炭素ナノ構造体との混合物であってもよい。
なお、繊維状炭素ナノ構造体中のCNTとしては、特に限定されることなく、単層カーボンナノチューブおよび/または多層カーボンナノチューブを用いることができるが、CNTは、単層から5層までのカーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。単層カーボンナノチューブを使用すれば、多層カーボンナノチューブを使用した場合と比較し、薄膜性と電磁波吸収材料の高周波数領域における電磁波吸収能のバランスを更に向上させることができるからである。
【0022】
また、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることが更に好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が0.5nm以上であれば、電磁波吸収材料の高周波数領域における電磁波吸収能を更に高めることができる。また、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が15nm以下であれば、繊維状炭素ナノ構造体が柔軟であるため、電磁波吸収材料をたわませた場合であっても、繊維状炭素ナノ構造体が折れることが無く、電磁波吸収能を維持することができる。
なお、「繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)」は、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した繊維状炭素ナノ構造体100本の直径(外径)を測定して求めることができる。そして、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)は、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られたCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0023】
更に、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積は、600m
2/g以上であることが好ましく、800m
2/g以上であることがより好ましく、2500m
2/g以下であることが好ましく、1200m
2/g以下であることがより好ましい。CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が600m
2/g以上であれば、高周波数領域における電磁波吸収材料の電磁波吸収能をさらに高めることができる。また、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が2500m
2/g以下であれば、膜成形性に優れる電磁波吸収材料を作製することができる。
なお、本発明において、「BET比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
【0024】
更に、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、例えば、後述のスーパーグロース法によれば、カーボンナノチューブ成長用の触媒層を表面に有する基材上に、基材に略垂直な方向に配向した集合体(配向集合体)として得られるが、成長後の配向集合体としての、繊維状炭素ナノ構造体の質量密度は、0.002g/cm
3以上0.2g/cm
3以下であることが好ましい。質量密度が0.2g/cm
3以下であれば、繊維状炭素ナノ構造体同士の結びつきが弱くなるので、繊維状炭素ナノ構造体を均質に分散させ、電磁波吸収材料の高周波数領域における電磁波吸収能をさらに高めることができることができる。また、質量密度が0.002g/cm
3以上であれば、繊維状炭素ナノ構造体の一体性を向上させ、バラけることを抑制できるため取り扱いが容易になる。
【0025】
また、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、吸着等温線から得られるt−プロットが上に凸な形状を示すことが好ましい。中でも、CNTの開口処理が施されておらず、t−プロットが上に凸な形状を示すことがより好ましい。繊維状炭素ナノ構造体のt-プロットが上に凸な形状を示すものであれば、電磁波吸収材料の高周波数領域における電磁波吸収能を更に高めることができる。
なお、「t−プロット」は、窒素ガス吸着法により測定された繊維状炭素ナノ構造体の吸着等温線において、相対圧を窒素ガス吸着層の平均厚みt(nm)に変換することにより得ることができる。すなわち、窒素ガス吸着層の平均厚みtを相対圧P/P0に対してプロットした、既知の標準等温線から、相対圧に対応する窒素ガス吸着層の平均厚みtを求めて上記変換を行うことにより、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のt−プロットが得られる(de Boerらによるt−プロット法)。
【0026】
ここで、表面に細孔を有する物質では、窒素ガス吸着層の成長は、次の(1)〜(3)の過程に分類される。そして、下記の(1)〜(3)の過程によって、t−プロットの傾きに変化が生じる。
(1)全表面への窒素分子の単分子吸着層形成過程
(2)多分子吸着層形成とそれに伴う細孔内での毛管凝縮充填過程
(3)細孔が窒素によって満たされた見かけ上の非多孔性表面への多分子吸着層形成過程
【0027】
そして、上に凸な形状を示すt−プロットは、窒素ガス吸着層の平均厚みtが小さい領域では、原点を通る直線上にプロットが位置するのに対し、tが大きくなると、プロットが当該直線から下にずれた位置となる。かかるt−プロットの形状を有する繊維状炭素ナノ構造体は、繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積に対する内部比表面積の割合が大きく、繊維状炭素ナノ構造体を構成する炭素ナノ構造体に多数の開口が形成されていることを示している。
【0028】
なお、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のt−プロットの屈曲点は、0.2≦t(nm)≦1.5を満たす範囲にあることが好ましく、0.45≦t(nm)≦1.5の範囲にあることがより好ましく、0.55≦t(nm)≦1.0の範囲にあることが更に好ましい。
なお、「屈曲点の位置」は、前述した(1)の過程の近似直線Aと、前述した(3)の過程の近似直線Bとの交点である。
【0029】
更に、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、t−プロットから得られる全比表面積S1に対する内部比表面積S2の比(S2/S1)が0.05以上0.30以下であるのが好ましい。
また、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積S1および内部比表面積S2は、特に限定されないが、個別には、S1は、600m
2/g以上1400m
2/g以下であることが好ましく、800m
2/g以上1200m
2/g以下であることがより好ましい。一方、S2は、30m
2/g以上540m
2/g以下であることが好ましい。
ここで、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積S1および内部比表面積S2は、そのt−プロットから求めることができる。具体的には、まず、(1)の過程の近似直線の傾きから全比表面積S1を、(3)の過程の近似直線の傾きから外部比表面積S3を、それぞれ求めることができる。そして、全比表面積S1から外部比表面積S3を差し引くことにより、内部比表面積S2を算出することができる。
【0030】
因みに、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の吸着等温線の測定、t−プロットの作成、および、t−プロットの解析に基づく全比表面積S1と内部比表面積S2との算出は、例えば、市販の測定装置である「BELSORP(登録商標)−mini」(日本ベル(株)製)を用いて行うことができる。
【0031】
そして、上述した性状を有するCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、例えば、カーボンナノチューブ製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物およびキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)に準じて、効率的に製造することができる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
【0032】
なお、スーパーグロース法により製造したCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTと、非円筒形状の炭素ナノ構造体とから構成されていてもよい。具体的には、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体には、内壁同士が近接または接着したテープ状部分を全長に亘って有する単層または多層の扁平筒状の炭素ナノ構造体(以下、「グラフェンナノテープ(GNT)」と称することがある。)が含まれていてもよい。
なお、本明細書において「テープ状部分を全長に亘って有する」とは、「長手方向の長さ(全長)の60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは100%に亘って連続的に又は断続的にテープ状部分を有する」ことを指す。
【0033】
ここで、GNTは、その合成時から内壁同士が近接または接着したテープ状部分が連続的にまたは断続的に形成されており、炭素の六員環ネットワークが扁平筒状に形成された物質であると推定される。そして、GNTの形状が扁平筒状であり、かつ、GNT中に内壁同士が近接または接着したテープ状部分が存在していることは、例えば、GNTとフラーレン(C60)とを石英管に密封し、減圧下で加熱処理(フラーレン挿入処理)して得られるフラーレン挿入GNTを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察すると、GNT中にフラーレンが挿入されない部分(テープ状部分)が存在していることから確認することができる。
【0034】
そして、GNTの形状は、幅方向中央部にテープ状部分を有する形状であることが好ましく、延在方向(軸線方向)に直交する断面の形状が、断面長手方向の両端部近傍における、断面長手方向に直交する方向の最大寸法が、いずれも、断面長手方向の中央部近傍における、断面長手方向に直交する方向の最大寸法よりも大きい形状であることがより好ましく、ダンベル状であることが特に好ましい。
ここで、GNTの断面形状において、「断面長手方向の中央部近傍」とは、断面の長手中心線(断面の長手方向中心を通り、長手方向線に直交する直線)から、断面の長手方向幅の30%以内の領域をいい、「断面長手方向の端部近傍」とは、「断面長手方向の中央部近傍」の長手方向外側の領域をいう。
【0035】
なお、非円筒形状の炭素ナノ構造体としてGNTを含む炭素ナノ構造体は、触媒層を表面に有する基材を用いてスーパーグロース法によりCNTを合成する際に、触媒層を表面に有する基材(以下、「触媒基材」と称することがある。)を所定の方法で形成することにより、得ることができる。具体的には、GNTを含む炭素ナノ構造体は、アルミニウム化合物を含む塗工液Aを基材上に塗布し、塗布した塗工液Aを乾燥して基材上にアルミニウム薄膜(触媒担持層)を形成した後、アルミニウム薄膜の上に、鉄化合物を含む塗工液Bを塗布し、塗布した塗工液Bを温度50℃以下で乾燥してアルミニウム薄膜上に鉄薄膜(触媒層)を形成することで得た触媒基材を用いてスーパーグロース法によりCNTを合成することで得ることができる。
【0036】
[[導電材料の配合量]]
電磁波吸収材料における導電材料の含有量は、導電材料の種類に応じて調節することが好ましい。具体的には、導電材料が、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体である場合には、導電材料の含有量は、絶縁材料100質量部を基準として、0.01質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、10質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましい。また、導電材料が、多層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体である場合には、導電材料の含有量は、絶縁材料100質量部を基準として、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、15質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましい。また、導電材料がカーボンブラックである場合には、導電材料の含有量は、絶縁材料100質量部を基準として、50質量部以上であることが好ましく、80質量部以上であることがより好ましく、150質量部以下であることが好ましい。また、導電材料が導電性金属酸化物である場合には、導電材料の含有量は、絶縁材料100質量部を基準として、100質量部以上であることが好ましく、180質量部以上であることがより好ましく、250質量部以下であることが好ましい。導電材料の含有量を上記範囲内とすることで、電磁波吸収材料の高周波数領域における電磁波吸収能を更に高めることができ、また、電磁波吸収材料の成膜性を一層高めることができる。
【0037】
[その他]
本発明による電磁波吸収材料は、用途に応じて既知の添加剤を含有していても良い。既知の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、架橋剤、顔料、着色剤、発泡剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、軟化剤、粘着付与剤、可塑剤、離型剤、防臭剤、香料などが挙げられる。
【0038】
<電磁波吸収材料の性状>
[反射減衰量]
本発明による電磁波吸収材料は、20GHz以上の周波数領域の電磁波を照射した際の反射減衰量が1dB以上であることが好ましく、1.1dB以上であることがより好ましく、2.0dB以上であることがさらに好ましく、3.0dB以上であることが特に好ましい。さらに、本発明による電磁波吸収材料は、15GHz未満の周波数領域の電磁波を照射した際の反射減衰量が1dB未満である、ことが好ましく、0.8dB未満であることがより好ましい。20GHz以上の周波数領域の電磁波を照射したときの反射減衰量が上記下限値以上であれば、所定の周波数領域において十分な電磁波遮断特性が得られるからである。また、15GHz未満の周波数領域の電磁波を照射した際の反射減衰量が上記上限値未満であれば、高周波数領域の電磁波を選択的に吸収できるため、周波数選択性の高い用途に好適に使用することができる。
なお、本明細書において「反射減衰量」は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0039】
[電磁波吸収材料の厚さ]
本発明による電磁波吸収材料は、膜状に成形されることが好ましい。さらに、かかる電磁波吸収材料の厚さは、1000μm以下であることが好ましく、800μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることが更に好ましく、300μm以下であることが特に好ましく、1μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。膜状の電磁波吸収材料の厚さが1000μm以下であれば、高周波数領域における電磁波吸収能を十分に高めることができ、さらに、上記範囲の厚さの膜状の電磁波吸収材料は、種々の用途に用いることができるため、汎用性が高い。
なお、膜状の電磁波吸収材料の厚さは、後述する製造方法における成形工程において任意に制御することができる。
【0040】
(電磁波吸収材料の製造方法)
本発明の電磁波吸収材料は、導電材料と絶縁材料とを溶媒に分散させて電磁波吸収材料用スラリー組成物を得る工程(電磁波吸収材料用スラリー組成物調製工程)と、得られた電磁波吸収材料用スラリー組成物から電磁波吸収材料を成形する工程(成形工程)とを経て製造することができる。以下で説明する電磁波吸収材料の製造方法において、例えば、電磁波吸収材料中の導電材料の含有量を前記範囲とすることで、容易に所定範囲の体積抵抗率を有する電磁波吸収材料が得られる。
【0041】
<電磁波吸収材料用スラリー組成物調製工程>
電磁波吸収材料用スラリー組成物調製工程(以下、単に「スラリー組成物調製工程」ともいう)では、上述したような導電材料及び絶縁材料を溶媒中に分散させることで、電磁波吸収材料用スラリー組成物(以下、単に「スラリー組成物」ともいう)を調製する。
【0042】
[溶媒]
スラリー組成物調製工程では、溶媒として、特に限定されることなく、例えば、水;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系極性有機溶媒;トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類;などを用いることができる。これらは1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0043】
[添加剤]
更に、スラリー組成物に任意に配合される添加剤としては、特に限定されることなく、分散剤などの分散液の調製に一般に使用される添加剤が挙げられる。そして、スラリー組成物調製工程にて用いる分散剤としては導電材料を分散可能であり、前述した溶媒に溶解可能であれば、特に限定されることなく、界面活性剤、合成高分子または天然高分子を用いることができる。
【0044】
ここで、界面活性剤としては、ドデシルスルホン酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
また、合成高分子としては、上記絶縁材料として列挙した樹脂以外の高分子材料、例えば、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、アセタール基変性ポリビニルアルコール、ブチラール基変性ポリビニルアルコール、シラノール基変性ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合樹脂、ジメチルアミノエチルアクリレート、変性エポキシ系樹脂、フェノキシ樹脂、変性フェノキシ系樹脂、フェノキシエーテル樹脂、フェノキシエステル樹脂、フッ素ゴムを除くフッ素系樹脂、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
更に、天然高分子としては、例えば、多糖類であるデンプン、プルラン、デキストラン、デキストリン、グアーガム、キサンタンガム、アミロース、アミロペクチン、アルギン酸、アラビアガム、カラギーナン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、カードラン、キチン、キトサン、セルロース、並びに、その塩または誘導体が挙げられる。
これらの分散剤は、1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0045】
[スラリー組成物調製工程の調製]
好ましくは、スラリー組成物調製工程では、上述した溶媒に対して、上述した絶縁材料を添加し、分散処理してなる分散液に対して、上述した導電材料を添加して粗分散液を得て、以下に詳細に説明するキャビテーション効果が得られる分散処理または解砕効果が得られる分散処理に供してスラリー組成物を調製する。
【0046】
[[キャビテーション効果が得られる分散処理]]
キャビテーション効果が得られる分散処理は、液体に高エネルギーを付与した際、水に生じた真空の気泡が破裂することにより生じる衝撃波を利用した分散方法である。この分散方法を用いることにより、スラリー組成物中において導電材料を良好に分散させることができる。
【0047】
ここで、キャビテーション効果が得られる分散処理は、溶媒の揮発による濃度変化を抑制する観点から、50℃以下の温度で行うことが好ましい。キャビテーション効果が得られる分散処理としては、具体的には、超音波による分散処理、ジェットミルによる分散処理および高剪断撹拌による分散処理が挙げられる。これらの分散処理は一つのみを行なってもよく、複数の分散処理を組み合わせて行なってもよい。より具体的には、例えば超音波ホモジナイザー、ジェットミルおよび高剪断撹拌装置が好適に用いられる。これらの装置は従来公知のものを使用すればよい。
【0048】
スラリー組成物の分散に超音波ホモジナイザーを用いる場合には、粗分散液に対し、超音波ホモジナイザーにより超音波を照射すればよい。照射する時間は、導電材料の量等により適宜設定すればよい。
また、ジェットミルを用いる場合も、処理回数は、導電材料の量等により適宜設定すればよい。例えば、処理回数としては2回以上が好ましく、5回以上がより好ましく、100回以下が好ましく、50回以下がより好ましい。また、圧力は20MPa〜250MPaが好ましく、温度は15℃〜50℃が好ましい。ジェットミルを用いる場合には分散剤として界面活性剤を溶媒にさらに加えるのが好ましい。処理液の粘度を抑えて安定してジェットミル装置が運転可能であるからである。ジェットミル分散装置としては高圧湿式ジェットミルが好適であり、具体的には、「ナノメーカー(登録商標)」(アドバンスト・ナノ・テクノロジィ社製)、「ナノマイザー」(ナノマイザー社製)、「ナノヴェイタ」(吉田機械興業社製)、「ナノジェットパル(登録商標)」(常光社製)等が挙げられる。
【0049】
さらに、高剪断撹拌を用いる場合には、粗分散液に対し、高剪断撹拌装置により撹拌および剪断を加えればよい。旋回速度は速ければ速いほどよい。例えば、運転時間(機械が回転動作をしている時間)は3分以上4時間以下が好ましく、周速は20m/s以上50m/s以下が好ましく、温度は15℃以上50℃以下が好ましい。また、高剪断撹拌装置を用いる場合には分散剤としては多糖類を配合することが好ましい。多糖類の水溶液は粘度が高く、せん断応力が強くかかりやすいため、分散がより促進される。高剪断撹拌装置としては、例えば、「エバラマイルダー」(荏原製作所社製)、「キャビトロン」(ユーロテック製)、「DRS2000」(IKA製)等に代表される攪拌装置;「クレアミックス(登録商標)CLM−0.8S」(エム・テクニック社製)に代表される攪拌装置;「TKホモミキサー」(特殊機化工業社製)に代表されるタービン型撹拌機;「TKフィルミックス」(特殊機化工業社製)に代表される攪拌装置等が挙げられる。
【0050】
なお、上記したキャビテーション効果が得られる分散処理は、50℃以下の温度で行なうことがより好ましい。溶媒の揮発による濃度変化が抑制されるからである。
【0051】
[[解砕効果が得られる分散処理]]
解砕効果が得られる分散処理は、導電材料をスラリー組成物中にて均一に分散できることは勿論、上記したキャビテーション効果が得られる分散処理に比べ、気泡が消滅する際の衝撃波による導電材料の損傷を抑制することができる点で有利である。
【0052】
この解砕効果が得られる分散処理では、粗分散液にせん断力を与えて導電材料を解砕・分散させ、さらに粗分散液に背圧を負荷し、また必要に応じ、粗分散液を冷却することで、気泡の発生を抑制しつつ、導電材料を溶媒中に均一に分散させることができる。
なお、粗分散液に背圧を負荷する場合、粗分散液に負荷した背圧は、大気圧まで一気に降圧させてもよいが、多段階で降圧することが好ましい。
【0053】
ここに、粗分散液にせん断力を与えて導電材料をさらに分散させるには、例えば、以下のような構造の分散器を有する分散システムを用いればよい。
すなわち、分散器は、粗分散液の流入側から流出側に向かって、内径がd1の分散器オリフィスと、内径がd2の分散空間と、内径がd3の終端部と(但し、d2>d3>d1である。)、を順次備える。
そして、この分散器では、流入する高圧(例えば10〜400MPa、好ましくは50〜250MPa)の粗分散液が、分散器オリフィスを通過することで、圧力の低下を伴いつつ、高流速の流体となって分散空間に流入する。その後、分散空間に流入した高流速の粗分散液は、分散空間内を高速で流動し、その際にせん断力を受ける。その結果、粗分散液の流速が低下すると共に、導電材料が良好に分散する。そして、終端部から、流入した粗分散液の圧力よりも低い圧力(背圧)の流体が、導電材料の分散液として流出することになる。
【0054】
なお、粗分散液の背圧は、粗分散液の流れに負荷をかけることで粗分散液に負荷することができ、例えば、多段降圧器を分散器の下流側に配設することにより、粗分散液に所望の背圧を負荷することができる。
そして、粗分散液の背圧を多段降圧器により多段階で降圧することで、最終的に導電材料の分散液を大気圧に開放した際に、分散液中に気泡が発生するのを抑制できる。
【0055】
また、この分散器は、粗分散液を冷却するための熱交換器や冷却液供給機構を備えていてもよい。というのは、分散器でせん断力を与えられて高温になった粗分散液を冷却することにより、粗分散液中で気泡が発生するのをさらに抑制できるからである。
なお、熱交換器等の配設に替えて、粗分散液を予め冷却しておくことでも、導電材料を含む溶媒中で気泡が発生することを抑制できる。
【0056】
上記したように、この解砕効果が得られる分散処理では、キャビテーションの発生を抑制できるので、時として懸念されるキャビテーションに起因した導電材料の損傷、特に、気泡が消滅する際の衝撃波に起因した導電材料の損傷を抑制することができる。加えて、導電材料への気泡の付着や、気泡の発生によるエネルギーロスを抑制して、導電材料を均一かつ効率的に分散させることができる。
【0057】
以上のような構成を有する分散システムとしては、例えば、製品名「BERYU SYSTEM PRO」(株式会社美粒製)などがある。そして、解砕効果が得られる分散処理は、このような分散システムを用い、分散条件を適切に制御することで、実施することができる。
【0058】
そして、上述のようにして得られたスラリー組成物に対して、上述したような、電磁波吸収材料の用途に応じた既知の添加剤を任意で配合することもできる。この際の混合時間は10分以上24時間以下とすることが好ましい。
【0059】
なお、電磁波吸収材料用スラリー組成物の調製に当たり、絶縁材料を溶媒に添加してなる分散液に代えて、樹脂のラテックスを用いても良い。樹脂のラテックスは、例えば、(1)有機溶媒に溶解した樹脂の溶液を、界面活性剤の存在下に水中で乳化し、必要により有機溶媒を除去してラテックスを得る方法や、(2)樹脂を構成する単量体を、乳化重合もしくは懸濁重合して、直接ラテックスを得る方法により得ることができる。なお、必要に応じて、かかる樹脂のラテックスに対して絶縁性充填剤を配合することができる。また、ラテックスの調製に用いる有機溶媒としては、上述のようにして得られた導電材料分散液と混合可能なものであれば、特に限定されること無く、一般的な有機溶媒を用いることができる。なお、ラテックスの固形分濃度は、特に限定されないが、ラテックスの均一分散性の点から、20質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以下がより好ましい。
【0060】
なお、上述したスラリー組成物調製工程は、絶縁材料との混合に先立って導電材料分散液を予め調製する工程(導電材料分散液調製工程)と、かかる導電材料分散液と絶縁材料とを混合して電磁波吸収材料用スラリー組成物を得る工程(混合工程)との二段階に分けて実施することももちろん可能である。この場合、導電材料分散液調製工程において、上述したキャビテーション効果が得られる分散処理または解砕効果が得られる分散処理を実施して導電材料分散液を調製することが好ましい。
【0061】
<成形工程>
成形工程における成形方法は、用途や使用した絶縁材料の種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、成形方法としては、キャスト法による成膜工程や、凝固工程及び所望形状への成形工程を介した成形方法が挙げられる。
なお、以下のようにして得られる電磁波吸収材料は、導電材料が、絶縁材料からなるマトリックス中に均一に分散させた状態で含有している。そして、当該電磁波吸収材料は、電磁波吸収体として用いることができる。
なお、電磁波吸収材料には、任意に架橋処理を施してもよい。
【0062】
[キャスト法]
成形工程では、既知のあらゆる成膜方法により、上述したスラリー組成物から膜状の電磁波吸収材料を成膜することができる。具体的には、例えば、スラリー組成物を、たとえば、ポリイミドフィルムなどの既知の成膜基材上にキャストした後、乾燥させることにより、スラリー組成物から溶媒を除去する。乾燥は、既知の方法にて行うことができ、例えば、真空乾燥や、ドラフト内に静置することにより行うことができる。
【0063】
[凝固工程及び所望形状への成形工程を介した成形方法]
あるいは、公知の凝固方法、例えば、電磁波吸収材料を水溶性の有機溶媒に加える方法、酸を電磁波吸収材料に加える方法、塩を電磁波吸収材料に加える方法等によりスラリー組成物を凝固させることができる。ここで、水溶性の有機溶媒としては、スラリー組成物中の絶縁材料が溶解せず、かつ、分散剤が溶解する溶媒を選択することが好ましい。このような有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、エチレングリコール等が挙げられる。また、酸としては、酢酸、蟻酸、リン酸、塩酸等の、ラテックスの凝固に一般的に用いられる酸が挙げられる。さらに、塩としては、塩化ナトリウム、硫酸アルミニウム、塩化カリウム等の、ラテックスの凝固に一般的に用いられる公知の塩が挙げられる。
【0064】
<所望の形状への成形工程>
ここで、凝固により得られた電磁波吸収材料は、所望の成形品形状に応じた成形機、例えば押出機、射出成形機、圧縮機、ロール機等により成形することができる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例および比較例において、膜状に成形した電磁波吸収材料の厚さ、電磁波吸収性能、体積抵抗率(Ω・cm)、膜形成性は、それぞれ以下の方法を使用して測定または評価した。
【0066】
<電磁波吸収材料の厚さ>
膜状に成形した電磁波吸収材料の厚さは、マイクロメータ((株)ミツトヨ製、293シリーズ、「MDH−25」)を用いて、10点の膜厚を測定し、その平均値を電磁波吸収材料の厚さとした。
【0067】
<電磁波吸収材料の電磁波吸収性能>
電磁波吸収材料の電磁波吸収性能は、電磁波の反射減衰量(dB)を測定することにより評価した。
実施例、比較例で製造した膜状の電磁波吸収材料をポリイミドフィルムに挟んで試験体として、アルミニウム板に添付した。なお、ポリイミドフィルム単体での反射減衰量は、ごく僅かであり、測定値にほとんど影響しないものとして、無視した。すなわち、得られた測定値は、そのまま、実施例、比較例で製造した膜状の電磁波吸収材料による反射減衰量であるものとして測定した。
測定システム(KEYCOM社製、「DPS10」)を用いて、フリースペース(自由空間)法にてワンポートでのS(Scattering)パラメータ(S11)を測定した。周波数20〜110GHzについて測定を実施した。ここで、上記測定システムには、ベクトルネットワークアナライザ(アンリツ社製、「ME7838A」)と、アンテナ(部品番号「RH42S23SMA(f)7」、「RH22R23APC2.4(f)7」、「RH28S23SMA(f)7」、「RH15S10」、及び「RH10S10」)とを採用した。表1に、20GHz及び110GHzの電磁波を照射した際のSパラメータ(S11)より、下記式(1)に従って反射減衰量(dB)を算出した結果(絶対値)を示す。反射減衰量が大きいほど、電磁波吸収性能に優れる。なお、各実施例、比較例において、上記測定周波数範囲では、反射減衰量(dB)は、常に、1dB以上であり、より詳細には、上記で算出した20GHz及び110GHzのときの各反射減衰量のうちの小さい方の値を下回ることは無かった。
反射減衰量(dB)=20log|S11|・・・(1)
【0068】
<電磁波吸収材料の体積抵抗率>
実施例、比較例で製造した膜状の電磁波吸収材料について、厚み方向の体積抵抗率を測定した。この際、10
4Ω以上10
13Ω以下の高抵抗は、二重リング法による高抵抗率計(三菱化学アナリティック社製、「ハイレスタ(登録商標)MCP-HT800」、プローブ:URSプローブ)を用いて、JIS K 6911に従って、室温での抵抗値(Ω)を測定した。また、10
-2Ω以上10
4Ω未満の低抵抗は、四探針法による低抵抗率計(三菱化学アナリティック社製、「ロレスタ(登録商標)MCP−610T」、プローブ:ASPプローブ)を用いてJIS K 7194に従って、室温での抵抗値(Ω)を測定した。
測定にあたり、まず、実施例、比較例で製造した膜状の電磁波吸収材料から、100mm×100mmの正方形状の試験片を3個切り出し測定サンプルとした。測定サンプルの中心位置にプローブを押し当て、抵抗値(Ω)を測定した。3個の測定サンプルの抵抗値(Ω)を測定し、その平均値を電磁波吸収材料の抵抗値(Ω)とした。
そして、得られた抵抗値(Ω)を常法に従って体積抵抗率(Ω・cm)に換算した。
【0069】
<電磁波吸収材料の膜形成性>
実施例、比較例で製造した膜状の電磁波吸収材料について、亀裂(膜割れ)の有無を目視で判断した。少しでも亀裂が視認された場合には、膜成形性が不良であるとして評価した。
【0070】
(実施例1〜5)
<導電材料の調製>
スーパーグロース法(国際公開第2006/011655号参照)に準じてSGCNTを調製し、導電材料とした。なお、得られた導電材料(SGCNT)を評価および分析したところ、BET比表面積計(日本ベル(株)製、BELSORP(登録商標)−max)を用いて測定したSGCNTのBET比表面積は1050m
2/gであった。また、日本ベル(株)製の「BELSORP(登録商標)−mini」を用いてSGCNTのt−プロットを測定したところ、t−プロットは、上に凸な形状で屈曲していた。また、そして、S2/S1は0.
09であり、屈曲点の位置tは0.6nmであった。そして、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した100本のSGCNTの平均直径(Av)は3.7nmであった。
【0071】
<電磁波吸収材料の製造>
[電磁波吸収材料用スラリー組成物の調製]
有機溶媒としてのメチルエチルケトン980gに対して絶縁材料としてのフッ素ゴム(デュポン社製、「Viton A500」)19gを加え、48時間撹拌してフッ素ゴムを溶解させた。
ここに、スーパーグロース法により作製されたSGCNTを、表1に示された配合量に従って添加し、撹拌機(PRIMIX社製、ラボ・リューション(登録商標))を用いて15分間撹拌した。更に、湿式ジェットミル(吉田機械興業製、「L−ES007」)を用いて、30℃にて、120MPaで5回分散処理し、電磁波吸収材料用スラリー組成物を得た。
上記で得られた電磁波吸収材料用スラリー組成物を成膜基材であるポリイミドフィルム(宇部興産社製、「UPILEX-S25」、厚さ25μm)上に12cm×12cmの枠を設け、枠内にキャストした後、ドラフト内で一晩以上乾燥させた。このようにして、電磁波吸収材料の薄膜を作製した。得られた薄膜について、成膜性、厚さ(μm)、体積抵抗率(Ω・cm)、反射減衰量(dB)を上記のようにして測定した。結果を表1に示す。
【0072】
(実施例6〜9)
実施例1で使用したSGCNTを多層CNT(Nanocyl社製、「NC7000」、個数平均直径:9.5nm、個数平均長さ:1.5μm、純度:90%、金属酸化物:10%、BET比表面積:250〜300m
2/g)に変更し、配合量を表1に示す通りに変更した以外は実施例1と同様にして、スラリー組成物、膜状の電磁波吸収材料を作製し、上記の実施例1と同様の測定及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0073】
(実施例10、11)
実施例1で使用したSGCNTを、炭素材料であるカーボンブラック(三菱化学社製、「3230B」、個数平均粒子径:23nm、BET比表面積:220m
2/g)に変更し、配合量を表1に示す通りに変更した以外は実施例1と同様にして、スラリー組成物、膜状の電磁波吸収材料を作製し、上記の実施例1と同様の測定及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0074】
(実施例12、13)
実施例1で使用したSGCNTをカルボニル鉄粉(BASF社製、「CIP EW」、粒径:3.5μm)に変更し、表1に示す配合量にて、実施例1と同様にしてスラリー組成物、膜状の電磁波吸収材料を作製し、上記の実施例1と同様の測定及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0075】
(比較例1〜8)
導電材料の種類及びの配合量を表1に示す通りに変更した以外は実施例1と同様にしてスラリー組成物、膜状の電磁波吸収材料を作製し、上記の実施例1と同様の測定及び評価を実施した。結果を表1に示す。なお、比較例2、4、6、及び8については成膜できなかったため、膜の厚さ、体積抵抗率、及び反射減衰量は測定できなかった。
【0076】
【表1】
【0077】
表1より、絶縁材料及び導電材料を含有する電磁波吸収材料からなり、体積低効率が10
-2Ω・cm以上9×10
5Ω・cm未満である実施例1〜13の電磁波吸収材料は、高周波数領域の電磁波吸収性に優れることがわかる。