特許第6707862号(P6707862)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6707862
(24)【登録日】2020年5月25日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 9/16 20060101AFI20200601BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20200601BHJP
   B29K 27/12 20060101ALN20200601BHJP
【FI】
   B29B9/16
   C08J3/20 ZCEW
   B29K27:12
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-855(P2016-855)
(22)【出願日】2016年1月6日
(65)【公開番号】特開2017-121720(P2017-121720A)
(43)【公開日】2017年7月13日
【審査請求日】2018年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】根本 英俊
【審査官】 ▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−280653(JP,A)
【文献】 特開昭62−018214(JP,A)
【文献】 特開2015−017161(JP,A)
【文献】 特公昭62−031444(JP,B2)
【文献】 国際公開第2013/161273(WO,A1)
【文献】 特開昭60−228543(JP,A)
【文献】 特開2000−094436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 9/00 − 9/16
C08J 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の樹脂成分に架橋剤を含浸させた樹脂組成物を製造する樹脂組成物の製造方法であって、
攪拌槽及び前記攪拌槽内のペレット材の重量を量る秤量部を備える複数の攪拌含浸装置と、前記ペレット材を前記複数の攪拌含浸装置のうち一方の攪拌含浸装置から他方の攪拌含浸装置に供給するよう切り替える自動切換装置とを用い、前記攪拌槽内に前記架橋剤と防着剤とを投入した後、前記攪拌槽内を攪拌した状態で、前記樹脂成分を含むペレット材を前記攪拌槽内に供給し、前記ペレット材に前記防着剤を添加しつつ前記架橋剤を含浸させる工程を有し、
該架橋剤を含浸させる工程は、前記一方の攪拌含浸装置の攪拌槽内にペレット材を供給している間に、前記他方の攪拌含浸装置の攪拌槽内に前記架橋剤と防着剤とを投入しておき、前記一方の攪拌含浸装置の攪拌槽内に供給したペレット材の重量が所定重量に達したとき、前記秤量部からの信号に基づいて前記自動切換装置が、前記他方の攪拌含浸装置の攪拌槽に向けてペレット材を供給するよう切り替えることで、前記他方の攪拌含浸装置の攪拌槽内を攪拌した状態で、前記樹脂成分を含むペレット材を前記他方の攪拌含浸装置の攪拌槽内に供給し、前記ペレット材に前記防着剤を添加しつつ前記架橋剤を含浸させる工程である樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂成分は、フッ素含有樹脂を含む請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記フッ素含有樹脂は、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体を含む請求項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体等の樹脂成分を有機化酸化物(パーオキシド)にて架橋させた含フッ素エラストマ等は、耐熱性、耐油性、耐薬品性を要求される電線ケーブルの絶縁被覆材料として利用されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭62−31444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のように用いられる樹脂成分は、相互粘着(互着)し易い。このため、樹脂成分に架橋剤を含浸させて樹脂組成物を製造する際に、樹脂成分の相互粘着性を起因として、安定的に樹脂組成物を製造することができなくなる可能性があった。
【0005】
本発明の目的は、相互粘着を抑制しつつ、架橋剤を含浸させることができる樹脂組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
所定の樹脂成分に架橋剤を含浸させた樹脂組成物を製造する樹脂組成物の製造方法であって、
攪拌槽を備える攪拌含浸装置を用い、前記攪拌槽内を攪拌した状態で、前記樹脂成分を含むペレット材を前記攪拌槽内に供給し、前記ペレット材に防着剤を添加しつつ前記架橋剤を含浸させる工程を有する樹脂組成物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、相互粘着を抑制しつつ、架橋剤を含浸させることができる樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る樹脂組成物の製造装置を示す概略構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係る樹脂組成物の製造装置の一部を拡大した概略構成図である。
図3】比較例1に係る樹脂組成物の製造装置を示す概略構成図である。
図4】比較例2に係る樹脂組成物の製造装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<発明者の得た知見>
まず、図3および図4を用い、比較例として、従来の樹脂組成物の製造装置について説明する。
【0010】
(比較例1)
ここで、電線ケーブルの絶縁被覆材として所定の樹脂成分を使用するためには、樹脂成分から金属片等の異物を除去することが求められる。このため、樹脂成分をスクリーンに通すことが必要となる。しかしながら、樹脂成分と架橋剤とを混合した状態では、発熱によって樹脂成分が早期架橋してしまう可能性がある。このため、樹脂成分に架橋剤を混合させない状態で、樹脂成分をスクリーンに通す必要がある。そこで、従来では、以下の比較例1のように、二段階で樹脂成分を混練していた。
【0011】
図3は、比較例1に係る樹脂組成物の製造装置を示す概略構成図である。
図3に示すように、比較例1の製造装置80では、まず、架橋剤821を除き樹脂成分を含む原材料811を、バンバリミキサとして構成される第1混練機830に投入して混練する。この混練工程は「A練り工程」と呼ばれている。A練り工程では、樹脂成分をスクリーンに通すことで異物を除去する。また、A練り工程では、シート状のA練り材812が形成される。
【0012】
次に、電線ケーブルの押出工程の直前に必要に応じて、A練り材812と架橋剤821とを、バンバリミキサとして構成される第2混練機840に投入して混練する。この混練工程は「B練り工程」と呼ばれている。B練り工程では、テープ状のB練り材813が形成される。このように製造されたB練り材813は、例えば、電線ケーブル製造用の押出機(不図示)に投入される。押出機では、導体(不図示)の外周を覆うように絶縁層(不図示)が形成される。そして、所定の架橋方法により、絶縁層が架橋される。これにより、電線ケーブル(不図示)が製造される。
【0013】
しかしながら、比較例1の方法では、2回の混練工程を行うため、加工費が増大する可能性があった。また、A練り材812が中間在庫となることで、棚卸資産が増大する可能性があった。
【0014】
また、比較例1の方法では、B練り材813がテープ状であるため、電線ケーブル製造用の押出機へB練り材813を投入する際に、テープ切れの監視が必要となっていた。また、サイズの異なる押出機に供給する場合には、押出機へのB練り材813の供給量を調整するため、B練り材813を再度混練してテープ幅を変える必要が生じる場合があった。
【0015】
(比較例2)
図4は、比較例2に係る樹脂組成物の製造装置を示す概略構成図である。
図4に示す比較例2のように、樹脂成分のペレット材913を形成した後に、ペレット材913に架橋剤921を含浸させる方法が知られている。
【0016】
具体的には、比較例2の製造装置90では、まず、所定の樹脂成分を含む原材料911を、混練機930に投入して混練することで、混練材912を形成する。このとき、混練材912は、自己発熱により所定温度に達するまで混練される。次に、所定温度に加熱された混練材912を造粒機940に投入して造粒することで、ペレット材913を形成する。
【0017】
ここで、ペレット材913を高温のまま秤量器960に投入すると、ペレット材913同士が相互粘着してしまう。このため、所定温度に加熱されたペレット材913を、空送ライン942を介してペレット冷却装置950に輸送し、ペレット冷却装置950によりペレット材913を冷却する。そして、冷却後のペレット材913を秤量器960に投入して秤量する。
【0018】
次に、秤量後の所定重量のペレット材913を含浸装置970に投入し、ペレット材913に架橋剤921を含浸させる。このとき、架橋剤921の含浸作業は、高温で実施した方が効率がよいため、含浸装置970は加熱される。この工程により、樹脂成分に架橋剤921を含浸させた樹脂組成物914が形成される。その後、樹脂組成物914を冷却・梱包する。
【0019】
このように、比較例2の方法では、加熱−冷却を繰り返すため、各々の過程での熱エネルギーの授受が必要となり、その過程に多くの時間を要していた。
【0020】
また、比較例2の方法では、樹脂成分が冷却しても相互粘着し易い材料である場合、秤量器960にペレット材913を投入したときに、ペレット材913が相互粘着して塊状になるため、秤量器960から排出できなくなる可能性があった。その結果、ペレット材913と架橋剤921との混合比の調整ができなくなる可能性があった。
【0021】
また、比較例2の方法では、樹脂成分が冷却しても相互粘着し易い材料である場合、含浸装置970内においてもペレット材913が相互粘着して凝集する可能性があった。このため、ペレット材913に架橋剤921を均一に含浸させることが困難となる可能性があった。
【0022】
以上のように、比較例1および比較例2の方法では、樹脂成分の相互粘着性を起因として、製造工程が複雑化したり、製造コストが増大したり、または安定的に樹脂組成物を製造することが困難となったりする可能性があった。
【0023】
本発明は、本発明者が見出した上記知見に基づくものである。
【0024】
<本発明の一実施形態>
(1)樹脂組成物の製造装置
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物の製造装置について、図1および図2を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る樹脂組成物の製造装置を示す概略構成図である。図2は、本実施形態に係る樹脂組成物の製造装置の一部を拡大した概略構成図である。
【0025】
図1に示すように、本実施形態に係る樹脂組成物の製造装置10は、所定の樹脂成分に架橋剤210を含浸させた樹脂組成物140を製造するよう構成され、例えば、混練機300と、造粒機400と、空送ライン420と、自動切換装置510と、攪拌含浸装置520a,520bと、を備えている。
【0026】
混練機300は、例えば、加圧ニーダ混練機として構成されている。具体的には、混練機300は、例えば、容器(符号不図示)内の2枚のブレード(不図示)を回転させ、容器内に投入された原材料110を混練することで、混練材120を形成するよう構成されている。また、混練機300は、外周を覆うジャケット(符号不図示)を有し、ジャケット内には、熱媒(不図示)が供給されるようになっている。これにより、混練機300に投入された原材料110が所定の温度に加熱される。
【0027】
造粒機400は、混練材120をダイス(不図示)に通してストランド状に成形し、所定の長さにカットすることで、ペレット材130を形成するよう構成されている。また、造粒機400の先端には、スクリーン(不図示)が設けられている。これにより、原材料110をスクリーンに通すことで異物が除去される。また、造粒機400は、外周を覆うジャケット(符号不図示)を有し、ジャケット内には、熱媒(不図示)が供給されるようになっている。これにより、造粒機400に投入された混練材120が所定の温度に加熱される。
【0028】
空送ライン420は、造粒機400から自動切換装置510に向けて圧縮空気によってペレット材130を輸送するよう構成されている。
【0029】
自動切換装置510は、攪拌含浸装置520a,520bのうちのいずれか一方にペレット材130を供給するよう構成されている。また、自動切換装置510は、後述する攪拌含浸装置520a、520bの秤量部550a,550bからの信号に基づいて、攪拌含浸装置520a,520bのうちのいずれか一方から他方に向けてペレット材130の供給を切り替えるよう構成されている。
【0030】
攪拌含浸装置520a,520bは、ペレット材130に防着剤220を添加しつつ架橋剤210を含浸させるよう構成されている。
【0031】
詳細には、図2に示すように、攪拌含浸装置520a,520bは、それぞれ、攪拌槽530a,530bと、攪拌翼540a,540bと、秤量部550a,550bと、を有している。攪拌槽530a,530bは、それぞれ、円筒状の容器として構成され、ペレット材130が自動切換装置510から供給されるよう構成されている。また、攪拌槽530a,530bは、所定温度に加熱されるようになっている。さらに、攪拌槽530a,530b内には、所定量の架橋剤210と所定量の防着剤220とが計量されて供給されるようになっている。攪拌翼540a,540bは、それぞれ、攪拌槽530a,530b内に設けられ、攪拌槽530a,530b内のペレット材130を攪拌するよう構成されている。秤量部550a,550bは、それぞれ、例えば、ロードセルとして構成されている。具体的には、秤量部550a,550bは、攪拌槽530a,530bのそれぞれを支持することで、攪拌槽530a,530b内のペレット材130等の重量を検出するよう構成されている。また、秤量部550a,550bは、上述のように、攪拌槽530a,530bのうちのいずれか一方内のペレット材130の重量が所定重量に達したときに、攪拌含浸装置520a,520bのうちの他方にペレット材130の供給を切り替えるための信号を自動切換装置510に送信するようになっている。
【0032】
攪拌含浸装置520a,520bの下には、攪拌槽530a,530bの排出口560a,560bを介して、排出ホッパ570が設けられている。攪拌含浸装置520a,520bによって、防着剤220が添加されつつ架橋剤210が含浸された樹脂組成物(樹脂コンパウンド)140は、排出ホッパ570から排出される。
【0033】
(2)樹脂組成物の製造方法
次に、本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法について説明する。以下に示す工程は、それぞれ独立して行われるのではなく、一連の工程として連続的に行われる。
【0034】
(混練工程)
まず、所定の樹脂成分を含む原材料110を混練機300に投入して混練することで、混練材120を形成する。
【0035】
本実施形態の原材料110としての樹脂成分は、例えば、相互粘着性を有する材料が用いられる。具体的には、樹脂成分は、例えば、フッ素含有樹脂を含んでいる。フッ素含有樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体が挙げられる。
【0036】
また、原材料110としては、特定金属酸化物と、ケイ酸質充填剤と、が添加される。特定金属酸化物としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、および酸化鉛のうち少なくともいずれかが用いられる。なお、1種類の特定金属酸化物を単独で使用しても良いし、2種類以上の特定金属酸化物を併用してもよい。また、ケイ酸質充填剤としては、例えば、無水ケイ酸(アエロジル)、含水ケイ酸マグネシウム(タルク)、含水ケイ酸アルミニウム(クレイ)、およびシリカのうち少なくともいずれかが用いられる。これらのなかでも、無水ケイ酸が好適である。なお、1種類のケイ酸質充填剤を単独で使用しても良いし、2種類以上のケイ酸質充填剤を併用してもよい。
【0037】
このとき、混練機300を初期温度に加熱した状態で、混練機300内に原材料110を投入する。さらに、混練機300内で原材料110を混練することで、自己発熱によって混練材120の温度を初期温度よりも高い温度に上昇させる。
【0038】
(造粒工程)
次に、混練材120を造粒機400に投入し、混練材120をダイスに通してストランド状に成形し、所定の長さにカットすることで、ペレット材130を形成する。このとき、造粒機400を所定温度に加熱した状態で、ペレット材130を形成する。
【0039】
(輸送工程)
次に、造粒機400から空送ライン420を介して攪拌含浸装置520a,520b上の自動切換装置510に向けて圧縮空気によってペレット材130を輸送し、サイクロンによって捕集することで、ペレット材130を自動切換装置510に供給する。このとき、造粒機400から攪拌含浸装置520a,520bに向けて滞留させることなく連続的にペレット材130を輸送する。これにより、輸送中のペレット材130が相互粘着することを抑制し、ペレット材130のブロッキングが発生することを抑制することができる。また、このとき、ペレット材130を冷却させることなく所定温度に加熱した状態で輸送する。これにより、ペレット材130が加熱された状態のまま、後述する含浸工程をすぐに行うことができ、ペレット材130に架橋剤210を効率よく含浸させることができる。
【0040】
(含浸工程)
次に、例えば、攪拌含浸装置520aの攪拌槽530a内にペレット材130を供給する前に、予め所定量の架橋剤210と所定量の防着剤220とを攪拌槽530a内に投入しておく。
【0041】
ここで投入される架橋剤210は、例えば、有機過酸化物(パーオキシド)からなっている。架橋剤210として用いられる有機過酸化物は、含浸工程の温度で液状であり、また有機過酸化物の引火点は、含浸工程の温度以上である。具体的には、架橋剤210としては、例えば、ジベンゾイルパーオキシドのごときジアシルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエートのごときパーオキシエステル類などのモノパーオキシ化合物、および2・5−ジメチル−2・5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3、2・5−ジメチル−2・5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン、1・4−ビス−(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)ベンゼン、1・3−ビス−(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)ベンゼン、2・5−ジメチル−2・5−ジ−(ベンゾイルパーオキシ)−ヘキサンなどのジパーオキシ化合物などが挙げられる。これらのなかでも、ジ・ターシャリーブチル・パーオキシ・ジ・イソプロピルベンゼンが好適である。なお、1種類の有機過酸化物を単独で使用しても良いし、2種類以上の有機過酸化物を併用してもよい。
【0042】
また、ここで投入される防着剤220は、樹脂成分の相互粘着を抑制する材料であり、例えば、脂肪酸塩からなっている。具体的には、防着剤220としては、例えば、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムなどが挙げられる。これらのなかでも、ステアリン酸亜鉛が好適である。なお、1種類の脂肪酸塩を単独で使用しても良いし、2種類以上の脂肪酸塩を併用してもよい。
【0043】
次に、攪拌含浸装置520aの攪拌槽530a内の攪拌翼540aを回転させることで、攪拌槽530a内を攪拌する。攪拌槽530a内を攪拌した状態で、自動切換装置510を介して攪拌槽530a内にペレット材130を連続的に供給する。そして、ペレット材130に防着剤220を添加しつつ架橋剤210を含浸させる。これにより、ペレット材130の相互粘着を抑制しつつ、ペレット材130に架橋剤210を均一に含浸させることができる。その結果、樹脂成分に架橋剤210を含浸させた樹脂組成物140を安定的に形成することができる。
【0044】
このとき、攪拌槽530a内にペレット材130を連続的に供給しながら、攪拌槽530a内のペレット材130を秤量部550aによって秤量する。例えば、秤量部550aによって秤量されるペレット材130の重量が所定重量となるまで攪拌槽530a内にペレット材130を供給する。これにより、ペレット材130、架橋剤210、および防着剤220を所定の混合比で混合することができる。
【0045】
なお、このとき、攪拌含浸装置520aの攪拌槽530a内にペレット材130を供給している間に、予め所定量の架橋剤210と所定量の防着剤220とを攪拌含浸装置520bの攪拌槽530b内に投入しておく。また、攪拌含浸装置520bの攪拌槽530b内の攪拌翼540bを回転させることで、攪拌槽530b内を攪拌した状態とする。
【0046】
攪拌含浸装置520aの攪拌槽530a内に供給したペレット材130等の重量が所定重量に達したとき、秤量部550aは、所定の信号を自動切換装置510に送信する。自動切換装置510は、秤量部550aからの信号に基づいて、攪拌含浸装置520bの攪拌槽530bに向けてペレット材130を供給するよう切り替える。このように、切れ目無く攪拌含浸装置520a,520bを相互に切り替えることで、ペレット材130が滞留することを抑制することができ、ペレット材130が相互粘着することを抑制することができる。
【0047】
一方で、ペレット材130の供給が終了した攪拌含浸装置520aでは、所定時間攪拌槽530a内を攪拌することで、ペレット材130に架橋剤210を充分に含浸させる。これにより、樹脂成分に架橋剤210を含浸させた樹脂組成物(樹脂コンパウンド)140が形成される。ペレット材130への架橋剤210の含浸が完了した後、攪拌槽530a内の攪拌翼540aの回転を停止する。そして、攪拌槽530aの排出口560aを開き、排出ホッパ570を介して樹脂組成物140を排出する。その後、樹脂組成物140を冷却・梱包する。
【0048】
なお、攪拌含浸装置520aから全ての樹脂組成物140を排出した後、攪拌含浸装置520bの攪拌槽530b内にペレット材130を供給している間に、予め所定量の架橋剤210と所定量の防着剤220とを攪拌含浸装置520aの攪拌槽530a内に投入しておく。また、攪拌含浸装置520aの攪拌槽530a内の攪拌翼540aを再度回転させることで、攪拌槽530a内を攪拌した状態とする。
【0049】
攪拌含浸装置520bの攪拌槽530b内に供給したペレット材130等の重量が所定重量に達したとき、自動切換装置510は、秤量部550aからの信号に基づいて、攪拌含浸装置520aの攪拌槽530aに向けてペレット材130を供給するよう切り替える。
【0050】
一方で、ペレット材130の供給が終了した攪拌含浸装置520bでは、所定時間攪拌槽530b内を攪拌することで、ペレット材130に架橋剤210を充分に含浸させる。これにより、樹脂成分に架橋剤210を含浸させた樹脂組成物140が形成される。ペレット材130への架橋剤210の含浸が完了した後、攪拌槽530b内の攪拌翼540bの回転を停止する。そして、攪拌槽530bの排出口560bを開き、排出ホッパ570を介して樹脂組成物140を排出する。その後、樹脂組成物140を冷却・梱包する。
【0051】
以上のように、攪拌含浸装置520aの攪拌槽530a内においてペレット材130に架橋剤210を含浸させる工程と、攪拌含浸装置520bの攪拌槽530b内においてペレット材130に架橋剤210を含浸させる工程と、を1サイクルとして、このサイクルを繰り返す。これにより、連続的に含浸工程を継続させることができ、効率よく樹脂組成物140を製造することができる。
【0052】
このように製造された架橋用の樹脂組成物140は、例えば、電力ケーブル製造用の押出機(不図示)に投入される。押出機では、導体(不図示)の外周を覆うように絶縁層(不図示)が形成される。そして、所定の架橋方法により、絶縁層が架橋される。これにより、含フッ素エラストマからなる絶縁層を有する電線ケーブル(不図示)が製造される。
【0053】
(3)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0054】
(a)含浸工程では、攪拌槽530a(または530b)内を攪拌した状態で、攪拌槽530a内にペレット材130を連続的に供給する。そして、ペレット材130に防着剤220を添加しつつ架橋剤210を含浸させる。このとき、ペレット材130は、攪拌槽530a内で防着剤220と混合されながら解砕される。そして、ペレット材130同士は、それぞれに混合された防着剤220が介在することで、相互粘着することが抑制される。これにより、含浸工程において、ペレット材130の相互粘着を抑制しつつ、ペレット材130に架橋剤210を均一に含浸させることができる。その結果、樹脂成分に架橋剤210を含浸させた樹脂組成物140を安定的に製造することができる。
【0055】
(b)輸送工程では、造粒機400から攪拌含浸装置520a,520bに向けて滞留させることなく連続的にペレット材130を輸送する。これにより、輸送中のペレット材130が相互粘着することを抑制し、ペレット材130のブロッキングが発生することを抑制することができる。また、ペレット材130を冷却させることなく所定温度に加熱した状態で輸送する。これにより、ペレット材130が加熱された状態のまま、含浸工程をすぐに行うことができ、ペレット材130に架橋剤210を効率よく含浸させることができる。
【0056】
その結果、本実施形態では、比較例1のような中間在庫を生じさせることがないため、製造コストが増大することを抑制することができる。また、本実施形態では、比較例2のような加熱−冷却を繰り返す必要がなく、各製造工程中の熱エネルギーを効率よく利用するとともに、製造工程の作業効率を向上させることができる。
【0057】
(c)含浸工程では、攪拌槽530a内を攪拌した状態で、攪拌槽530a内にペレット材130を連続的に供給しながら、攪拌槽530a内のペレット材130を秤量部550aによって秤量する。例えば、秤量部550aによって秤量されるペレット材130の重量が所定重量となるまで攪拌槽530a内にペレット材130を供給する。これにより、ペレット材130、架橋剤210、および防着剤220を所定の混合比で混合することができる。
【0058】
比較例2のように攪拌含浸装置から独立して秤量器が設けられている場合と比較して、本実施形態では、ペレット材130を秤量する際に、ペレット材130を秤量器に滞留させることがないため、ペレット材130が相互粘着することを抑制し、ペレット材130のブロッキングが発生することを抑制することができる。その結果、ペレット材130、架橋剤210、および防着剤220の混合比を安定的に調整することができる。
【0059】
(d)含浸工程では、攪拌含浸装置520a,520bのうちのいずれか一方に供給したペレット材130等の重量が所定重量に達したとき、攪拌含浸装置520a,520bのうちの他方にペレット材130を供給するよう切り替える。攪拌含浸装置520aの攪拌槽530a内においてペレット材130に架橋剤210を含浸させる工程と、攪拌含浸装置520bの攪拌槽530b内においてペレット材130に架橋剤210を含浸させる工程と、を1サイクルとして、このサイクルを繰り返す。これにより、連続的に含浸工程を継続させることができ、効率よく樹脂組成物140を製造することができる。
【0060】
(e)本実施形態で用いられる樹脂成分は、フッ素含有樹脂を含んでいる。フッ素含有樹脂は、例えば、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体からなっている。このように構成される樹脂成分は、冷却しても相互粘着し易い材料である。本実施形態の方法によれば、樹脂成分が相互粘着し易い材料であっても、含浸工程等におけるペレット材130の相互粘着を効果的に抑制することができる。したがって、本実施形態の方法は、樹脂成分がフッ素含有樹脂を含む場合などに特に有効である。
【0061】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の一実施形態を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0062】
上述の実施形態では、攪拌含浸装置は2つ設けられている場合について説明したが、含浸工程におけるペレット材の相互粘着を抑制するだけを目的とする場合などでは、攪拌含浸装置は1つであってもよい。または、ペレット材が所定重量となった後の攪拌時間を長くする必要がある場合などでは、攪拌含浸装置は、3つ以上であってもよい。
【0063】
上述の実施形態では、攪拌含浸装置内にペレット材130を供給する前に、予め所定量の架橋剤210と所定量の防着剤220とを攪拌含浸装置内に投入しておく場合について説明したが、攪拌含浸装置内にペレット材を供給すると同時に、架橋剤および防着剤を攪拌含浸装置内に投入してもよい。または、所定重量となるまでペレット材を攪拌含浸装置内に供給した後に、架橋剤および防着剤を供給してもよい。ただし、予め架橋剤および防着剤を供給しておいたほうが、ペレット材の供給の初期段階からペレット材の相互粘着を抑制することができるため、好ましい。
【0064】
上述の実施形態では、樹脂成分としてテトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体を用いる場合について説明したが、樹脂成分として、低エチレンタイプのエチレン−プロピレン−ジエンゴム等の他の材料を用いてもよい。このような材料は相互粘着性を有し、ペレット化が困難とされてきたが、上述の実施形態によれば、このような材料であってもペレット化が可能となる。
【実施例】
【0065】
次に、本発明に係る実施例を説明する。これらの実施例は本発明の一例であって、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0066】
(1)樹脂組成物の製造
60℃に加熱した55Lの加圧ニーダ混練機として構成される混練機300に、樹脂成分としてのテトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体、無水ケイ酸、および酸化マグネシウムからなる原材料110を投入し、自己発熱により155℃に達するまで混練し、混練材120を形成した。
【0067】
次に、得られた混練材120を140℃の熱媒で加熱した造粒機400に投入し、直径が3mmのペレット材130を形成した。次に、造粒機400から空送ライン420を介して攪拌含浸装置520a,520b上の自動切換装置510に向けて圧縮空気によってペレット材130を輸送した。
【0068】
このとき、ペレット材130の相互粘着を抑制するため、攪拌含浸装置520aの攪拌槽530a内にペレット材130を供給する前に、予め、所定量の架橋剤210としてのジ・ターシャリーブチル・パーオキシ・ジ・イソプロピルベンゼンと所定量の防着剤220としてのステアリン酸亜鉛とを攪拌槽530a内に投入した。
【0069】
次に、自動切換装置510を介して、攪拌槽530a内にペレット材130を連続的に供給した。そして、攪拌槽530a内の攪拌翼540aを12rpmで回転させることで、ペレット材130に防着剤220を添加しつつ架橋剤210を含浸させた。
【0070】
攪拌含浸装置520aの攪拌槽530a内に供給したペレット材130等の重量が50kgに達したとき、攪拌含浸装置520aの攪拌槽530aから攪拌含浸装置520bの攪拌槽530bに向けてペレット材130を供給するよう切り替えた。
【0071】
一方で、ペレット材130の供給が終了した攪拌含浸装置520aでは、ペレット材130等の重量が50kgに達した後、約15分で、ペレット材130への架橋剤210の含浸を行った。これにより、樹脂成分に架橋剤210を含浸させた樹脂組成物140を形成した。
【0072】
以上の工程を、攪拌含浸装置520aと攪拌含浸装置520bとで交互に繰り返すことで、連続的に樹脂組成物140を製造した。
【0073】
(2)結果
上記実施例では、各工程において、ペレット材130の相互粘着が抑制されたことを確認した。また、樹脂組成物140には、所定の混合比で架橋剤210が均一に含浸されていたことを確認した。つまり、上記実施例では、樹脂成分に架橋剤210を含浸させた樹脂組成物140を安定的に製造できたことを確認した。
【0074】
<本発明の好ましい態様>
以下に、本発明の好ましい態様について付記する。
【0075】
(付記1)
本発明の一態様によれば、
所定の樹脂成分に架橋剤を含浸させた樹脂組成物を製造する樹脂組成物の製造方法であって、
攪拌槽を備える攪拌含浸装置を用い、前記攪拌槽内を攪拌した状態で、前記樹脂成分を含むペレット材を前記攪拌槽内に供給し、前記ペレット材に防着剤を添加しつつ前記架橋剤を含浸させる工程を有する樹脂組成物の製造方法が提供される。
【0076】
(付記2)
付記1に記載の樹脂組成物の製造方法であって、好ましくは、
前記架橋剤を含浸させる工程の前に、造粒機を用い、前記ペレット材を形成する工程と、
前記造粒機から前記攪拌含浸装置に向けて前記ペレット材を輸送する工程と、を有し、
前記ペレット材を輸送する工程では、
前記造粒機から前記攪拌含浸装置まで滞留させることなく連続的に前記ペレット材を輸送する。
【0077】
(付記3)
付記2に記載の樹脂組成物の製造方法であって、好ましくは、
前記ペレット材を輸送する工程では、
前記ペレット材を所定温度に加熱した状態で輸送する。
【0078】
(付記4)
付記1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法であって、好ましくは、
前記攪拌含浸装置は、前記攪拌槽内の重量を量る秤量部を備え、
前記架橋剤を含浸させる工程では、
前記攪拌槽内に前記ペレット材を連続的に供給しながら、前記攪拌槽内の前記ペレット材を前記秤量部によって秤量する。
【0079】
(付記5)
付記4に記載の樹脂組成物の製造方法であって、好ましくは、
前記架橋剤を含浸させる工程では、
前記攪拌含浸装置を少なくとも2つ用い、前記2つの攪拌含浸装置のうちの一方に供給した前記ペレット材の重量が所定重量に達したときに、前記2つの攪拌含浸装置のうちの他方に前記ペレット材を供給するよう切り替える。
【0080】
(付記6)
付記1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法であって、好ましくは、
前記樹脂成分は、相互粘着性を有する。
【0081】
(付記7)
付記1〜6のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法であって、好ましくは、
前記樹脂成分は、フッ素含有樹脂を含む。
【0082】
(付記8)
付記1〜7のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法であって、好ましくは、
前記フッ素含有樹脂は、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体を含む。
【0083】
(付記9)
付記1〜8のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法であって、好ましくは、
前記架橋剤は、有機過酸化物を含む。
【0084】
(付記10)
付記1〜9のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法であって、好ましくは、
前記防着剤は、脂肪酸塩を含む。
(付記11)
本発明の他の態様によれば、
所定の樹脂成分に架橋剤を含浸させた樹脂組成物を製造する樹脂組成物の製造装置であって、
攪拌槽を備え、該攪拌槽内を攪拌した状態で、前記樹脂成分を含むペレット材を前記攪拌槽に供給し、前記ペレット材に防着剤を添加しつつ前記架橋剤を含浸させる攪拌含浸装置を有する樹脂組成物の製造装置が提供される。
【符号の説明】
【0085】
10 樹脂組成物の製造装置
110 原材料
120 混練材
130 ペレット材
140 樹脂組成物(樹脂コンパウンド)
210 架橋剤
220 防着剤
300 混練機
400 造粒機
420 空送ライン
510 自動切換装置
520a,520b 攪拌含浸装置
530a.530b 攪拌槽
540a,540b 攪拌翼
550a,550b 秤量部
560a,560b 排出口
570 排出ホッパ
図1
図2
図3
図4