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特許6707912差動伝送用ケーブル及び多対差動伝送用ケーブル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6707912
(24)【登録日】2020年5月25日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】差動伝送用ケーブル及び多対差動伝送用ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/00 20060101AFI20200601BHJP
   H01B 11/06 20060101ALI20200601BHJP
   H01B 11/20 20060101ALI20200601BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20200601BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20200601BHJP
   H01P 3/06 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
   H01B11/00 J
   H01B11/00 G
   H01B11/06
   H01B11/20
   H01B7/18 D
   H05K9/00 L
   H01P3/06
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-43491(P2016-43491)
(22)【出願日】2016年3月7日
(65)【公開番号】特開2017-162565(P2017-162565A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2018年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100099597
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 賢二
(74)【代理人】
【識別番号】100124235
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100124246
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 和光
(74)【代理人】
【識別番号】100128211
【弁理士】
【氏名又は名称】野見山 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100145171
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】石川 弘
(72)【発明者】
【氏名】杉山 剛博
(72)【発明者】
【氏名】高橋 貢
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 好昭
【審査官】 神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−086458(JP,A)
【文献】 特開2014−059957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/00
H01B 7/18
H01B 11/06
H01B 11/20
H01P 3/06
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の信号線と、
前記一対の信号線を一括して被覆する絶縁体と、
導体層と前記導体層の一方の面に形成された絶縁体層とを有し、前記絶縁体の周囲に螺旋巻きで巻き付けられたシールドテープと、を備え、
前記信号線の径が、少なくとも30AWG(American Wire Gauge)よりも細く、
差動特性インピーダンスが80Ω以上120Ω以下であり、
少なくとも12.5GHz以下の周波数帯域において、モード変換を表すSパラメータであるScd21が、−24dB以下であり、
10GHz以下の周波数帯域において、同相サックアウトが発生している、
25Gb/s以上の伝送速度に対応した差動伝送用ケーブル。
【請求項2】
前記信号線の径が、34AWG(American Wire Gauge)以下である、
請求項1に記載の差動伝送用ケーブル。
【請求項3】
前記絶縁体は、断面視で楕円形状または長円形状に形成され、その長軸方向が前記信号線の配列方向と一致し、かつ、その長軸方向及び短軸方向の中心が、前記信号線の中心同士を接続する線分の中心点と一致するように形成され、
前記絶縁体の長軸方向の長さが、少なくとも1.5mm以下であり、
前記絶縁体の短軸方向の長さが、少なくとも0.8mm以下である、
請求項2に記載の差動伝送用ケーブル。
【請求項4】
前記シールドテープは、銅からなる前記導体層の一方の面に、ポリエチレンテレフタレートからなる前記絶縁体層を設けて構成されている、
請求項1乃至の何れか1項に記載の差動伝送用ケーブル。
【請求項5】
前記シールドテープは、アルミからなる前記導体層の一方の面に、前記アルミを酸化させて形成された酸化膜からなる前記絶縁体層を設けて構成されている、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の差動伝送用ケーブル。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の差動伝送用ケーブルを複数備え、
複数の前記差動伝送用ケーブルを一括してシールドしてなる、
多対差動伝送用ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動信号を伝送する差動伝送用ケーブル及び多対差動伝送用ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
差動信号を伝送する差動伝送用ケーブルとして、一対の信号線と、一対の信号線を被覆する絶縁体と、絶縁体の周囲に巻き付けられたシールドテープと、を備えたものが知られている。
【0003】
従来、絶縁体の周囲に、導体層と導体層の一方の面に形成された絶縁体層とを有するシールドテープを螺旋巻き(横巻きともいう)で巻きつけた横巻きタイプの差動伝送用ケーブルが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、絶縁体の周囲に、シールドテープを縦添えした縦添えタイプの差動伝送用ケーブルが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−17131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年の通信速度の高速化に伴い、25Gb/s(ギガビット毎秒)以上の伝送速度に対応した差動伝送用ケーブルが求められている。
【0007】
25Gb/s以上の伝送速度に対応した高速伝送用の差動伝送用ケーブルでは、高周波領域における差動損失が小さいこと、および、モード変換等の影響によるノイズ(雑音パワー)が小さいことが要求される。
【0008】
具体的には、高速伝送用の差動伝送用ケーブルの伝送性能は、受信パワーをP、受信端での雑音パワーをσとしたとき、下式(1)に示すSN比によって評価することができる。
SN比=P/σ ・・・(1)
【0009】
受信端での雑音パワーσは、各主要因により発生する雑音パワーの総和によって決まるものであり、雑音の発生要因としては、一般には、モード変換、多重反射、送受信端でのインピーダンス不整合、クロストーク等が挙げられる。このうち、製造上、特に小さくすることが難しい雑音の要因として、モード変換ノイズがある。モード変換ノイズNモード変換は、[数1]に示す式(2)により評価することができる。
【0010】
【数1】
【0011】
ただし、式(2)におけるΔfは周波数の測定点の間隔であって、f=Δfは周波数の下限値、f=KΔfは、周波数の上限値を表している。また、式(2)におけるWCD(f)は重み関数であり、以下では、単純化のために、伝送帯域内で1、伝送帯域外で0にとる。Scd21は、モード変換(差動同相変換量)を表すSパラメータである。
【0012】
25Gb/s以上の高速伝送では、従来と比較して伝送帯域が広くなるため、式(2)における周波数に関する和の上限f=KΔfが大きくなる。しかし、受信端での雑音パワーσは従来と同程度以下に抑えることが要求されるため、式(2)における|Scd21|の値は、少なくとも伝送帯域の増加分だけ従来よりも小さくする必要が生じる。
【0013】
例えば、従来の10Gb/s伝送では、モード変換Scd21を約−20dB以下に抑えることが標準的に要求されていた。これに対して、25Gb/s伝送では、基本周波数が12.5GHzと2.5倍になるので、従来と同等のSN比を維持するためには、モード変換Scd21を真値で約1/2.5に抑える必要がある。そのためには、モード変換Scd21がdB表示で約−24dB以下となるようにモード変換を抑制する必要がある。
【0014】
差動伝送用ケーブルのモード変換を小さくする方法としては、一対の信号線を絶縁体で一括被覆した二芯一括被覆構造とすることで、誘電率分布の非対称性を小さくしモード変換を抑制する方法が知られている。
【0015】
しかし、このような二芯一括被覆構造とした場合であっても、シールドテープを縦添えした縦添えタイプのシールド方式では、絶縁体とシールドテープとの間にわずかな空隙が発生し、モード変換が大きくなってしまうという問題がある。この問題は、特に差動伝送用ケーブルを小径化した場合に顕著となる。近年では、機器内で基板間を接続するインターコネクション用の細径な差動伝送用ケーブルが求められており、このような用途に用いる細径の差動伝送用ケーブルでは、縦添えタイプのシールド方式とした場合にモード変換ノイズが大きくなり易い。
【0016】
本発明者らが検討したところ、二芯一括被覆構造でかつ縦添えタイプのシールド方式を採用した場合には、モード変換Scd21の値が5GHz〜10GHz付近の周波数範囲でプラトー状の最大値をとり、25Gb/s伝送の伝送帯域でモード変換Scd21を安定して−24dB以下に抑えることが困難であることがわかった。
【0017】
他方、横巻きタイプのシールド方式を採用した場合、高周波の特定の周波数領域で、差動信号が大きく減衰してしまうという問題があった。このような差動信号の信号減衰の急激な落ち込みは、差動サックアウトと呼称されている。
【0018】
さらに、横巻きタイプの差動伝送用ケーブルでは、長手方向の並進対称性がなく、かつ、シールド部分に大面積の導体層に挟まれた薄い誘電体層(絶縁体層)の曲面が存在するため、定量的な理論解析や数値計算によって特性を改善することが難しいという問題もあった。
【0019】
このように、縦添えタイプのシールド方式を採用した場合にはモード変換が大きくなり、横巻きタイプのシールド方式を採用した場合には差動サックアウトの影響により差動損失が大きくなり、差動伝送帯域が確保できないという問題があった。25Gb/s以上の高速伝送に対応した差動伝送用ケーブルを実現するために、モード変換ノイズが小さく、かつ、十分な差動伝送帯域を確保した差動伝送用ケーブルが望まれる。
【0020】
そこで、本発明は、モード変換ノイズが小さく、かつ、十分な差動伝送帯域を確保可能な25Gb/s以上の高速伝送に対応した差動伝送用ケーブル及び多対差動伝送用ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、一対の信号線と、前記一対の信号線を一括して被覆する絶縁体と、導体層と前記導体層の一方の面に形成された絶縁体層とを有し、前記絶縁体の周囲に螺旋巻きで巻き付けられたシールドテープと、を備え、前記信号線の径が、少なくとも30AWG(American Wire Gauge)よりも細く、差動特性インピーダンスが80Ω以上120Ω以下である、差動伝送用ケーブルを提供する。
【0022】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、前記差動伝送用ケーブルを複数備え、複数の前記差動伝送用ケーブルを一括してシールドしてなる、多対差動伝送用ケーブルを提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、モード変換ノイズが小さく、かつ、十分な差動伝送帯域を確保可能な25Gb/s以上の高速伝送に対応した差動伝送用ケーブル及び多対差動伝送用ケーブルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施の形態に係る多対差動伝送用ケーブルの概略の構成例を示す断面図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る差動伝送用ケーブルの概略の構成例を示す斜視図である。
図3】シールドテープの断面図である。
図4】信号線を30AWG、32AWG、34AWGとしたそれぞれの場合について、差動特性インピーダンスが100Ωとなる絶縁体の寸法を示すグラフ図である。
図5】信号線を34AWGとした本発明の実施の形態においてSパラメータの測定結果を示すグラフ図であり、(a)は差動損失Sdd21、(b)はモード変換Scd21、(c)は同相損失Scc21の測定結果である。
図6】信号線を30AWGとした比較例においてSパラメータの測定結果を示すグラフ図であり、(a)は差動損失Sdd21、(b)はモード変換Scd21、(c)は同相損失Scc21の測定結果である。
図7】信号線を34AWGとし縦添えタイプのシールド方式とした比較例においてSパラメータの測定結果を示すグラフ図であり、(a)は差動損失Sdd21、(b)はモード変換Scd21、(c)は同相損失Scc21の測定結果である。
図8】信号線を30AWGとし縦添えタイプのシールド方式とした比較例においてSパラメータの測定結果を示すグラフ図であり、(a)は差動損失Sdd21、(b)はモード変換Scd21、(c)は同相損失Scc21の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0026】
図1は、本実施の形態に係る多対差動伝送用ケーブルの概略の構成例を示す断面図である。
【0027】
多対差動伝送用ケーブル50は、束ねられた複数の差動伝送用ケーブル10と、複数の差動伝送用ケーブル10の周囲に一括して巻き付けられたシールドテープ52と、シールドテープ52の周囲を被覆する編組線53と、編組線53を被覆するジャケット54と、を有する。複数の差動伝送用ケーブル10は、シールドテープ52及び編組線53によって一括してシールドされている。
【0028】
差動伝送用ケーブル10の本数は、図1に示す例では8本であるが、特に限定されるものではなく、例えば、2本、8本、24本等でもよい。図1に示す例では、多対差動伝送用ケーブル50の断面中央に2本の差動伝送用ケーブル10が配置され、介在51を介してその周囲に6本の差動伝送用ケーブル10がほぼ等間隔に配置されている。
【0029】
シールドテープ52、編組線53、及びジャケット54のそれぞれの材料としては、一般的なケーブルにおいて用いられる材料を使用することができる。介在51は、例えば、紙、糸、又は発泡体からなる。発泡体は、例えば、発泡ポリプロピレンや発泡エチレン等の発泡ポリオレフィンである。
【0030】
図2は、本発明の実施の形態に係る差動伝送用ケーブル10の概略の構成例を示す斜視図である。
【0031】
差動伝送用ケーブル10は、一対の信号線11と、一対の信号線11を一括して被覆する絶縁体12と、絶縁体12の周囲に螺旋巻きで巻き付けられるシールドテープ13と、シールドテープ13の周囲に螺旋巻きで巻き付けられ、シールドテープ13を被覆する外層テープ15とを有する。
【0032】
一対の信号線11は、銅等からなる導体線であり、差動信号を伝送する。一対の信号線11は、単体の絶縁体12により一括被覆されている。すなわち、本実施の形態に係る差動伝送用ケーブル10は、二芯一括被覆構造となっている。
【0033】
絶縁体12は、断面視で楕円形状、または長円形状(長さの等しい平行な2本の直線と両直線の端部同士を接続する半円状の円弧とからなる形状、角丸長方形状)に形成され、その長軸方向が信号線11の配列方向と一致し、かつ、その長軸方向及び短軸方向の中心が、信号線11の中心同士を接続する線分の中心点と一致するように形成されている。ここでは、絶縁体12を楕円形状に形成した。
【0034】
絶縁体12は、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等の絶縁材料からなる。また、絶縁体12として、発泡ポリエチレン等の発泡の絶縁材料を用いることができる。絶縁体12としては、誘電率が1.5〜3程度のものを用いることができる。
【0035】
図3は、シールドテープ13の断面図である。シールドテープ13は、帯状の導体層13aと、導体層13aの一方の面に形成された絶縁体層13bと、を有している。導体層13aとしては、銅箔、アルミ箔等の導電性を有する帯状の金属箔を用いることができる。絶縁体層13bとしては、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の絶縁樹脂を用いることができる。なお、導体層13aである銅箔、アルミ箔等の導電性を有する帯状の金属箔の一方の面を酸化させることで酸化膜を形成し、この酸化膜を絶縁体層13bとして用いてもよい。ここでは、シールドテープ13として、銅からなる導体層13aの一方の面にPETからなる絶縁体層13bを設けた銅PETテープを用いた。
【0036】
シールドテープ13は、差動伝送用ケーブル10を基板に設けられたコネクタ等に接続する際に、導体層13aを基板のグランドに接続し易いように、絶縁体層13bが内側、導体層13aが外側となるように絶縁体12の周囲に巻き付けられる。
【0037】
外層テープ15は、可撓性を有する帯状部材からなり、例えばPET等の可撓性を有する絶縁性の樹脂層と、接着剤を含む接着層とが積層された構造を有する。また、外層テープ15は、接着層が内側、樹脂層が外側となるように、シールドテープ13の周囲に螺旋状に巻き付けられる。外層テープ15を巻き付けることにより、シールドテープ13の絶縁体12からの剥がれを防ぐことができる。
【0038】
さて、本実施の形態に係る差動伝送用ケーブル10では、信号線11の径が、少なくとも30AWG(American Wire Gauge)よりも細く、差動特性インピーダンスが80Ω以上120Ω以下、好ましくは100Ωとされている。
【0039】
絶縁体12は、信号線11の径に応じて、差動特性インピーダンスが略100Ω(100Ω±20Ω)となるように、その長軸方向および短軸方向の寸法が調整される。信号線11を30AWG、32AWG、34AWGとしたそれぞれの場合について、差動特性インピーダンスが100Ωとなる絶縁体12の長軸方向および短軸方向の寸法を図4に示す。
【0040】
本発明者らが鋭意検討したところ、横巻きタイプのシールド方式を採用し差動特性インピーダンスを100Ω(100Ω±20Ω)とする場合、信号線11の径を小さくするほど、差動サックアウトが発生する周波数を高くできることを見出した。さらに検討を重ねたところ、25Gb/s以上の高速伝送においても十分な差動伝送帯域を確保するためには、少なくとも、信号線11の径を30AWGよりも細くする(換言すれば、信号線11としてAWGの番手が30より大きいものを用いる)必要があることを見出した。
【0041】
25Gb/s以上の高速伝送において差動サックアウトによる差動損失を確実に抑制するためには、信号線11の径を、34AWG以下とすることが望ましい。本実施の形態では、信号線11として34AWGのものを用いた。信号線11の径を34AWG以下とする場合、絶縁体12の長軸方向の長さを少なくとも1.5mm以下、短軸方向の長さを少なくとも0.8mm以下とするとよい(図4参照)。
【0042】
また、本実施の形態では、横巻きタイプのシールド方式を採用しているため、縦添えタイプのシールド方式を採用した場合と比較して、モード変換を抑制することが可能である。
【0043】
一般に、両信号線11のグランドに対する容量の差が大きくなるとモード変換が大きくなる。そのため、両信号線11を一括して絶縁体12で被覆した二芯一括被覆構造とすることで、モード変換を抑制することが可能になる。
【0044】
縦添えタイプのシールド方式を採用した場合には、特に細径とした場合に、製造上絶縁体とシールドテープとの間にわずかな空隙が発生し易く、両信号線11のグランドに対する容量の差が大きくなり、モード変換が大きくなってしまうと考えられる。
【0045】
これに対して、横巻きタイプのシールド方式を採用した場合には、シールドテープ13において絶縁体層13bが導体層13aに挟み込まれることで容量が生じ、この容量が、両信号線11のグランドに対する容量に対して直列に挿入されることになるため、両信号線11のグランドに対する実効的な容量差が小さくなり、モード変換が抑制されると考えられる。
【0046】
さらに、横巻きタイプのシールド方式を採用することで、差動モードのみならず同相モードにおいてもサックアウト(同相サックアウトと呼称する)が生じ、この同相サックアウトの影響により同相信号が減衰し、結果的にモード変換が小さくなっていると考えられる。
【0047】
本発明者らが検討したところ、信号線11の径を34AWG以下と細くしても、同相サックアウトが生じる周波数は比較的低い周波数(12.5GHz以下の周波数)となり、これによりモード変換Scd21を安定して−24dB以下に抑え、25Gb/s以上の高速伝送においても雑音パワーσを従来と同程度以下に抑制できることを見出した。このように、本実施の形態に係る差動伝送用ケーブル10では、少なくとも25Gb/s伝送の基本周波数である12.5GHz以下の周波数帯域において、モード変換を表すSパラメータであるScd21が−24dB以下であり、25Gb/s以上の高速伝送用途に好適である。
【0048】
信号線11を34AWGとした場合における差動損失Sdd21、モード変換Scd21、および同相損失Scc21の測定結果を図5(a)〜(c)に示す。各Sパラメータの測定には、ネットワークアナライザ(Agilent N5245A、測定帯域10MHz〜50GHz)を用いた。
【0049】
図5(a)に示すように、本実施の形態では、差動サックアウトが発生する周波数が20GHz以上となっており、基本周波数が12.5GHzとなる25Gb/s伝送において、十分な差動伝送帯域を確保できていることが分かる。
【0050】
また、図5(b)に示すように、モード変換Scd21は測定周波数範囲においてほぼ−40dB以下と非常に小さくなっており、モード変換Scd21を安定して−24dB以下に抑制できていることが分かる。図5(c)に示すように、本実施の形態では、10GHz以下の周波数帯域において同相サックアウトが発生しており、この影響により同相信号が減衰されモード変換Scd21が抑制されていると考えられる。
【0051】
ここで、比較のため、信号線11を30AWGとした場合の差動損失Sdd21、モード変換Scd21、および同相損失Scc21の測定結果を図6(a)〜(c)に示す。
【0052】
図6(a)〜(c)に示すように、この場合、横巻きタイプのシールド方式を採用しているためモード変換Scd21は抑制できているものの、信号線11を30AWGと太くしているために、差動サックアウトが発生する周波数が12〜14GHzとなっており、基本周波数が12.5GHzである25Gb/s伝送において、十分な差動伝送帯域を確保できていないことが分かる。
【0053】
さらなる比較のため、縦添えタイプのシールド方式とし、信号線11を34AWG、30AWGとしたそれぞれの場合について、差動損失Sdd21、モード変換Scd21、および同相損失Scc21の測定結果を図7(a)〜(c)および図8(a)〜(c)に示す。
【0054】
図7(a)〜(c)および図8(a)〜(c)に示すように、縦添えタイプのシールド方式を採用した場合には、差動サックアウトが発生しないが、同相サックアウトも発生しないために、モード変換Scd21が非常に大きくなっており、モード変換Scd21を安定して−24dB以下に抑制することは困難である。
【0055】
図5〜8のそれぞれの場合について、差動伝送帯域とモード変換量の評価を行った。差動伝送帯域を評価するパラメータとして、ケーブル単位長さあたりの伝送帯域内の差動損失「Sdd21≦12.5GHz」を、数2に示す式(3)によって定義した。この「Sdd21≦12.5GHz」は、差動伝送帯域が25Gb/s伝送の基本周波数である12.5GHzより狭いと非常に小さくなる。
【0056】
【数2】
【0057】
また、モード変換両を評価するためのパラメータとして、モード変換の最大値「Scd21≦12.5GHz」を[数3]に示す式(4)によって定義すると共に、雑音パワー(モード変換の積算値)「σ≦12.5GHz」を[数4]に示す式(5)により定義した。
【0058】
【数3】
【0059】
【数4】
【0060】
差動伝送帯域とモード変換量の評価結果をまとめて表1に示す。なお、評価に使用したケーブル長は2mで統一した。「Sdd21≦12.5GHz」については、−8.0dB/m以上を合格(○)、−8.0dB/m未満を不合格(×)とした。「Scd21≦12.5GHz」については、−24dB以下を合格(○)、−24dBより大きいと不合格(×)とした。「σ≦12.5GHz」については、1.0×10以下を合格(○)、1.0×10より大きいと不合格(×)とした。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示すように、横巻きタイプのシールド方式を採用し信号線11を34AWGとした本実施の形態においては、「Sdd21≦12.5GHz」、「Scd21≦12.5GHz」、および「σ≦12.5GHz」のいずれも合格となっており、25Gb/s伝送において十分な差動伝送帯域を確保でき、かつ、モード変換ノイズを小さくできていることが分かる。
【0063】
これに対して、信号線11を30AWGと太くした場合には、「Sdd21≦12.5GHz」が不合格となり、25Gb/s伝送において十分な差動伝送帯域を確保できていないことが分かる。また、縦添えタイプのシールド方式を採用した場合には、「Scd21≦12.5GHz」および「σ≦12.5GHz」が不合格となり、モード変換ノイズが大きくなっていることが分かる。
【0064】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る差動伝送用ケーブル10では、一対の信号線11と、一対の信号線11を一括して被覆する絶縁体12と、導体層13aと導体層13aの一方の面に形成された絶縁体層13bとを有し、絶縁体12の周囲に螺旋巻きで巻き付けられたシールドテープ13と、を備え、信号線11の径が、少なくとも30AWGよりも細く、差動特性インピーダンスが80Ω以上120Ω以下である。
【0065】
このように構成することで、モード変換ノイズが小さく、かつ、十分な差動伝送帯域を確保可能な25Gb/s以上の高速伝送に対応した差動伝送用ケーブル10を実現できる。
【0066】
本実施の形態に係る差動伝送用ケーブル10は、細径であり、例えば機器内で基板間を接続するインターコネクション用途に好適である。
【0067】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0068】
[1]一対の信号線(11)と、前記一対の信号線(11)を一括して被覆する絶縁体(12)と、導体層(13a)と前記導体層(13a)の一方の面に形成された絶縁体層(13b)とを有し、前記絶縁体(12)の周囲に螺旋巻きで巻き付けられたシールドテープ(13)と、を備え、前記信号線(11)の径が、少なくとも30AWG(American Wire Gauge)よりも細く、差動特性インピーダンスが80Ω以上120Ω以下である、差動伝送用ケーブル(10)。
【0069】
[2]前記信号線(11)の径が、34AWG(American Wire Gauge)以下である、[1]に記載の差動伝送用ケーブル(10)。
【0070】
[3]前記絶縁体(12)は、断面視で楕円形状または長円形状に形成され、その長軸方向が前記信号線(11)の配列方向と一致し、かつ、その長軸方向及び短軸方向の中心が、前記信号線(11)の中心同士を接続する線分の中心点と一致するように形成され、前記絶縁体(12)の長軸方向の長さが、少なくとも1.5mm以下であり、前記絶縁体(12)の短軸方向の長さが、少なくとも0.8mm以下である、[2]に記載の差動伝送用ケーブル(10)。
【0071】
[4]少なくとも12.5GHz以下の周波数帯域において、モード変換を表すSパラメータであるScd21が、−24dB以下である、[1]乃至[3]の何れか1項に記載の差動伝送用ケーブル(10)。
【0072】
[5]前記シールドテープ(13)は、銅からなる前記導体層(13a)の一方の面に、ポリエチレンテレフタレートからなる前記絶縁体層(13b)を設けて構成されている、[1]乃至[4]の何れか1項に記載の差動伝送用ケーブル(10)。
【0073】
[6][1]乃至[5]の何れか1項に記載の差動伝送用ケーブル(10)を複数備え、複数の前記差動伝送用ケーブル(10)を一括してシールドしてなる、多対差動伝送用ケーブル(50)。
【0074】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0075】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0076】
10…差動伝送用ケーブル
11…信号線
12…絶縁体
13…シールドテープ
13a…導体層
13b…絶縁体層
15…外層テープ
図1
図2
図3
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図7
図8