特許第6708093号(P6708093)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6708093抵抗ペースト及びその焼成により作製される抵抗体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6708093
(24)【登録日】2020年5月25日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】抵抗ペースト及びその焼成により作製される抵抗体
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/20 20060101AFI20200601BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20200601BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20200601BHJP
   C08K 3/40 20060101ALI20200601BHJP
   H01C 17/065 20060101ALN20200601BHJP
【FI】
   H01B1/20 A
   C08L101/00
   C08K3/22
   C08K3/40
   !H01C17/065 130
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-205989(P2016-205989)
(22)【出願日】2016年10月20日
(65)【公開番号】特開2018-67478(P2018-67478A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年10月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】幕田 富士雄
【審査官】 土谷 慎吾
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−523489(JP,A)
【文献】 特表2011−518104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/02−1/24
C03C 1/00−14/00
C08K 3/22
C08K 3/40
C08L 101/00
H01C 7/00
H01C 17/00−17/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化ルテニウムからなる導電性粒子と、鉛を含まないガラスフリットと、有機ビヒクルと、添加剤とで実質的に構成される抵抗ペーストであって、前記添加剤として比表面積60m/g以上125m/g以下の非晶質シリカが5質量%以上12質量%以下含まれていることを特徴とする抵抗ペースト。
【請求項2】
請求項1に記載の抵抗ペーストを焼成してなる鉛フリーの抵抗体。
【請求項3】
請求項2に記載の抵抗体を有することを特徴とする電子部品。
【請求項4】
請求項1に記載の抵抗ペーストを焼成することで抵抗体を作製することを特徴とする鉛フリーの抵抗体の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚膜チップ抵抗器やハイブリッドICなどの抵抗体の材料として使用される抵抗ペースト、特に鉛を含有しない抵抗ペースト及びこれを焼成して作製される抵抗体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品の抵抗体被膜を形成する方法としては、膜形成材料を含む抵抗ペーストを用いて成膜する厚膜方式と膜形成材料をスパッタリング等することで成膜する薄膜方式が一般的に知られている。それらのうち、厚膜方式は抵抗ペーストをセラミック基板上に印刷した後、焼成することで抵抗体を形成するものであり、この方法は成膜に必要な設備が安価で生産性も高いことから、チップ抵抗器やハイブリッドICなどの電子部品が有する抵抗体の製造に広範に利用されている。
【0003】
上記の厚膜方式に用いる抵抗ペーストは、導電性粒子及びガラスフリット、並びにそれらを印刷に適したペースト状にするための有機ビヒクルから実質的に構成される。導電性粒子としては、二酸化ルテニウム(RuO)やパイロクロア型ルテニウム系酸化物(PbRu7−X、BiRu)が一般に使われている。このように導電性粒子としてRu系酸化物を用いるのは、主に導電性粒子の濃度に対して抵抗値がなだらかに変化するためである。
【0004】
また、ガラスフリットとしては、ホウケイ酸鉛ガラス(PbO−SiO−B)やアルミノホウケイ酸鉛ガラス(PbO−SiO−B−Al)など、鉛を多量に含むホウケイ酸鉛系ガラスが使われている。このようにガラスフリットにホウケイ酸鉛系ガラスを用いるのは、Ru系酸化物との濡れ性が良く、熱膨張係数が基板のそれに近く、焼成時の粘性などが適しているからである。
【0005】
上記の抵抗ペーストでは、成膜後の抵抗体の特性を改善するため、各種添加剤を含有させることが昔から行われている。例えば特許文献1には、微細化された酸化ルテニウム粉末と、PbOを有するガラスと、酸化ニオブ(Nb)とを不活性ビヒクルと共に混合して電気的特性に優れた厚膜抵抗体用の抵抗ペーストを作製する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭63−035081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、添加剤としてNbを用いた場合には、少量の添加量で特性の向上が図れるが、抵抗値も大きく変わってしまうため、抵抗値の調整が難しいという問題点があった。また、近年、環境保護に配慮して電子部品では鉛フリー化が進められており、抵抗ペーストにおいても鉛フリー化が求められている。また、上記した抵抗ペーストを材料にして作製される電子部品等はますます小型化、高性能化する傾向にあり、これに伴い抵抗ペーストには抵抗値が高くかつ電流ノイズの小さい抵抗体を作製できるものが求められている。
【0008】
本発明は上記の状況に鑑みてなされたものであり、高い抵抗値を有しながら電流ノイズを小さく抑えることが可能な電気的特性に優れた鉛フリーの厚膜抵抗体を形成することができる鉛フリーの抵抗ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成可能な鉛フリーの抵抗ペーストについて検討を重ねた結果、抵抗ペーストに特定の添加剤を含有させることによって、導電性粒子にルテニウムを含む鉛フリーの酸化物を用いると共に、ガラスフリットにも鉛フリーのものを用いる場合であっても良好な電気的特性を有する抵抗体を作製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明が提供する抵抗ペーストは、二酸化ルテニウムからなる導電性粒子と、鉛を含まないガラスフリットと、有機ビヒクルと、添加剤とで実質的に構成される抵抗ペーストであって、前記添加剤として比表面積60m/g以上125m/g以下の非晶質シリカが5質量%以上12質量%以下含まれていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鉛による環境汚染を引き起こすことなく、高い抵抗値を有しながら電流ノイズを小さく抑えることが可能な電気的特性に優れた厚膜抵抗体を作製できる抵抗ペーストを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の抵抗ペーストの実施形態について説明する。この本発明の実施形態の抵抗ペーストに用いる二酸化ルテニウムの形態については特に制限はなく、一般的な製法で得られる酸化物を使用することができる。ただし、焼成により形成される厚膜抵抗体の抵抗値のばらつきや電流ノイズをできるだけ抑えるため、当該厚膜抵抗体中の導電パスを微細にするのが望ましく、そのためには酸化物の粒子のBET径による平均粒径は1.0μm以下であるのが望ましい。
【0013】
上記抵抗ペーストを構成するガラスフリットは、鉛を含まないものであれば特にその組成に制限はない。例えば、ホウケイ酸ガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸アルカリ土類ガラス、ホウケイ酸アルカリガラス、ホウケイ酸亜鉛ガラス、ホウケイ酸ビスマスガラスなどを用いることができる。前述したように、厚膜抵抗体中の導電パスを微細にして該厚膜抵抗体の抵抗値のばらつきや電流ノイズをできるだけ抑えるため、ガラスフリットのレーザー回折式粒度分布測定によるD50(メジアン径)は5μm以下であることが好ましい。
【0014】
上記抵抗ペーストを構成する有機ビヒクルは、抵抗ペーストに通常使用されているものであってよく、例えば、エチルセルロース、ブチラール、アクリルなどの樹脂をターピネオール、ブチルカルビトールアセテートなどの溶剤に溶解したものが好適に用いられる。
【0015】
上記抵抗ペーストは、更に添加剤として比表面積60m/g以上125m/g以下の非晶質シリカを5質量%以上12質量%以下含有している。非晶質シリカは、焼成により形成される抵抗体の抵抗値を上昇させて電流ノイズを小さくする働きを有している。非晶質シリカの比表面積を60m/g以上125m/g以下に限定する理由は、比表面積が60m/g未満では電流ノイズ(dB)がマイナスになりにくく、逆に125m/gを超えると抵抗ペーストの粘度が高くなり過ぎて該抵抗ペーストの調製が困難になるからである。また、非晶質シリカの含有量を抵抗ペーストに対して5質量%以上12質量%以下とするのは、5質量%未満では電流ノイズ(dB)がマイナスになりにくく、逆に12質量%を超えても電流ノイズ(dB)がマイナスになりにくくなるからである。
【0016】
上記した本発明の実施形態の抵抗ペーストの製造法は特に制約がなく、ロールミルなどの市販の混練装置に、上記した抵抗ペーストの構成成分の所定量を秤量して装入し、混練することで作製することができる。その際、導電性粒子とガラスフリットの混合割合は、質量基準による導電性粒子/ガラスフリットの比で5/95〜50/50程度であるのが好ましい。また、抵抗体の作製法も特に制約がなく、上記した本発明の実施形態の抵抗ペーストを材料として用いて従来と同様の方法で形成することができる。例えば、上記した抵抗ペーストをアルミナ基板などの通常の基板上にスクリーン印刷法などにより塗布し、乾燥した後、ベルト炉などを用いて800〜900℃程度のピーク温度で焼成することによって、鉛フリーの抵抗体を形成することができる。
【0017】
尚、本発明の実施形態の抵抗ペーストは、上記した必須成分の他に、厚膜抵抗体の電気的特性を調整するために従来から通常使用されている例えば分散剤、可塑剤などの種々の添加剤を必要に応じて添加してもよい。
【実施例】
【0018】
導電性粒子、ガラスフリット、有機ビヒクル、及び添加剤を様々な配合割合で混合して複数の抵抗ペースト試料を調製し、それらを各々焼成することで厚膜抵抗体を形成し、その電気的特性について評価した。具体的には、導電性粒子には水酸化ルテニウムを焙焼することによって作製したBET径40nmのRuO粉末を用意した。ガラスフリットには一般的な方法で混合、溶融、急冷、粉砕することによって作製した10質量%SrO−43質量%SiO−16質量%B−4質量%Al−20質量%ZnO−7質量%NaOの組成を有するレーザー回折式粒度分布測定によるD50が1.9μmのガラスフリットを用意した。
【0019】
添加剤には比表面積がそれぞれ3m/g、30m/g、60m/g、80m/g、及び125m/gの5種類の非晶質SiOを用意し、有機ビヒクルにはエチルセルロースとターピネオールを主成分とするものを用意した。これらRuO粉末、ガラスフリット、添加剤、及び有機ビヒクルを様々な配合割合となるように秤量し、三本ロールミルで混練した。これにより試料1〜17の抵抗ペーストを作製した。
【0020】
次に、各試料の抵抗ペーストに対して、AgPdペーストを用いて電極間距離1mmの2つの電極が形成されたアルミナ基板を用意し、該アルミナ基板上において上記両電極を接続するように抵抗ペーストを幅1mmにスクリ−ン印刷し、150℃で10分間乾燥した後、ベルト炉にてピーク温度850℃で9分間焼成した。このようにして作製した厚膜抵抗体の電気的特性(抵抗値、電流ノイズ)を測定した。抵抗ペーストの組成と各ペーストによって得られた抵抗体の特性を下記表1に示す。尚、抵抗値はKEITHLEY社製のModel2001Multimeterを用いて4端子法にて測定し、電流ノイズはQuan−Tech社製のノイズメーターModel315Cを用いて1/10W印加で測定した。
【0021】
【表1】
【0022】
上記表1から分かるように、安価なRuOからなる導電性粒子と鉛フリーのガラスフリットとを用いて厚膜抵抗体を形成した場合においても、添加剤として比表面積60m/g以上125m/g以下の非晶質SiOを本発明が規定する範囲内で添加することによって、非晶質SiOを加えない場合や本発明の要件の満たさない態様で非晶質SiOを添加する場合に比べて電流ノイズを小さくできることが分かる。