(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6708468
(24)【登録日】2020年5月25日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池の処理方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20200601BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20200601BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20200601BHJP
B09B 3/00 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
H01M10/54ZAB
C22B7/00 C
C22B1/02
B09B3/00 303A
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-78257(P2016-78257)
(22)【出願日】2016年4月8日
(65)【公開番号】特開2016-207648(P2016-207648A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2019年3月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-85432(P2015-85432)
(32)【優先日】2015年4月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】薄井 正治郎
(72)【発明者】
【氏名】岡島 伸明
【審査官】
坂本 聡生
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−227565(JP,A)
【文献】
特開2001−283871(JP,A)
【文献】
特開2001−115218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00− 5/00
B09C 1/00− 1/10
C22B 1/00−61/00
H01M10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムを含む筐体で包み込まれたリチウムイオン電池を加熱して処理する方法であって、
火炎により焼却対象物を焼却処理する焼却炉を用いて、前記リチウムイオン電池の筐体に火炎が直接的に当たることを防ぎながら、該リチウムイオン電池を加熱するに当り、
前記焼却炉内で、前記リチウムイオン電池を、該リチウムイオン電池の筐体に火炎が直接的に当たることを防ぐ電池保護コンテナ内に配置し、前記電池保護コンテナの外面に火炎を当てることで、該リチウムイオン電池を加熱する、リチウムイオン電池の処理方法。
【請求項2】
前記電池保護コンテナが、ステンレス鋼または炭素鋼のいずれかの材質からなる、請求項1に記載のリチウムイオン電池の処理方法。
【請求項3】
前記焼却炉内でのリチウムイオン電池の温度上昇を、大気雰囲気下で行う、請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池の処理方法。
【請求項4】
前記電池保護コンテナが、リチウムイオン電池の筐体内から流出したガスを電池保護コンテナの外側へと排出させるガス抜き孔を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池の処理方法。
【請求項5】
前記電池保護コンテナ内に、前記リチウムイオン電池とともに充填材を配置する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池の処理方法。
【請求項6】
前記充填材を粉体とする、請求項5に記載のリチウムイオン電池の処理方法。
【請求項7】
前記粉体をアルミナとする、請求項6に記載のリチウムイオン電池の処理方法。
【請求項8】
前記電池保護コンテナ内で、リチウムイオン電池の全体を、前記充填材内に埋設して配置する、請求項5〜7のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池の処理方法。
【請求項9】
前記電池保護コンテナの外面の火炎を当てる箇所に、断熱材を設ける、請求項1〜8のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池の処理方法。
【請求項10】
前記リチウムイオン電池の加熱の終了後、リチウムイオン電池の前記筐体で包み込まれた性状が維持される、請求項1〜9のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルミニウムを含む筐体により周囲を覆われたリチウムイオン電池を加熱して処理する方法に関するものであり、特には、加熱処理に際するリチウムイオン電池の周囲の筐体の脆化を防止して、リチウムイオン電池からのアルミニウムの除去に寄与することのできる技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
各種の電子デバイスをはじめとして多くの産業分野で使用されているリチウムイオン電池は、マンガン、ニッケルおよびコバルトを含有するリチウム金属塩を正極活物質として用い、その正極活物質を含む正極材及び負極材の周囲を、アルミニウムを含む筐体で包み込んだものであり、近年は、その使用量の増加および使用範囲の拡大に伴い、電池の製品寿命や製造過程での不良により廃棄される量が増大している状況にある。
かかる状況の下では、大量に廃棄されるリチウムイオン電池スクラップから、上記のニッケルおよびコバルト等の有価金属を、再利用するべく比較的低コストで容易に回収することが望まれる。
【0003】
有価金属の回収のために、リチウムイオン電池スクラップ等のリチウムイオン電池を処理するには、はじめに、リチウムイオン電池を焙焼することによって、内部に含まれる有害な電解液を除去して無害化するとともに、その後に破砕、篩別を順に行って、筐体や正極基材に含まれるアルミニウムをある程度除去する前工程を実施する。
次いで、前工程により得られる粉末状の正極材を酸浸出し、そこに含まれ得るリチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、アルミニウム等を溶液中に溶解させて、浸出後液を得る浸出工程を行う。
【0004】
そしてその後、浸出後液に溶解している各金属元素を分離させる回収工程を行う。ここでは、浸出後液に浸出しているそれぞれの金属を分離させるため、浸出後液に対し、分離させる金属に応じた複数段階の溶媒抽出もしくは中和等を順次に施し、さらには、各段階で得られたそれぞれの溶液に対して、逆抽出、電解、炭酸化その他の処理を施す。具体的には、まずアルミニウムを回収し、続いてマンガン、そしてコバルト、その後にニッケルを回収して、最後に水相にリチウムを残すことで、各有価金属を回収することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、先述したように、リチウムイオン電池を酸浸出する前に、リチウムイオン電池を焙焼するに当り、火炎によって焼却対象物を焼却処理する焼却炉を用いて、リチウムイオン電池に火炎を直接的に当てて加熱すると、リチウムイオン電池の外装を構成する筐体および内部のアルミ箔、銅箔が酸化・脆化する。それにより、その後のリチウムイオン電池の破砕時に、アルミニウムを含む筺体および内部のアルミ箔、銅箔が粉砕されやすくなり、ここで粉砕された筐体、アルミ箔、銅箔は、篩別にて篩上に残して取り除くことが困難になるので、篩下に回収される粉末状の正極材に多く混入し、正極材を酸浸出した際に浸出後液に多くのアルミニウムが含まれることになる。
その結果として、回収工程でアルミニウムの分離・除去のための工数が必要となり、それによるコストが嵩むという問題があった。
【0006】
この発明は、このような問題を解決することを課題とするものであり、その目的とするところは、リチウムイオン電池の加熱処理に際し、その筐体、アルミ箔、銅箔の酸化・脆化を有効に防止することができるリチウムイオン電池の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は鋭意検討の結果、焼却炉でリチウムイオン電池に火炎を直接当てると、試料が急激な温度上昇をして、筺体が酸化・脆化、および筐体が破裂して、または筐体が破裂しなくても内部のアルミ箔、銅箔が酸化・脆化して、その後の破砕にて粉砕されやすくなることを見出した。
そのため、焼却炉内でリチウムイオン電池を加熱する際に、その筐体に火炎を直接当てないようにすることで、筐体を破裂させることなく、または、筺体、アルミ箔、銅箔の酸化・脆化を抑制し、リチウムイオン電池を有効に加熱できると考えた。
【0008】
このような知見の下、この発明のリチウムイオン電池の処理方法は、アルミニウムを含む筐体で包み込まれたリチウムイオン電池を加熱して処理する方法であって、火炎により焼却対象物を焼却処理する焼却炉を用いて、前記リチウムイオン電池の筐体に火炎が直接的に当たることを防ぎながら、該リチウムイオン電池を加熱する
に当り、前記焼却炉内で、前記リチウムイオン電池を、該リチウムイオン電池の筐体に火炎が直接的に当たることを防ぐ電池保護コンテナ内に配置し、前記電池保護コンテナの外面に火炎を当てることで、該リチウムイオン電池を加熱することにある。
【0009】
この発明の処理方法は、前記電池保護コンテナが、ステンレス鋼または炭素鋼のいずれかの材質からなることが好ましい。
この発明の処理方法は、焼却炉内でのリチウムイオン電池の温度上昇を、大気雰囲気下で行うことが可能である。
【0011】
上記の電池保護コンテナは、リチウムイオン電池の筐体内から流出したガスを電池保護コンテナの外側へと排出させるガス抜き孔を有することが好適である。
【0012】
前記電池保護コンテナ内には、前記リチウムイオン電池とともに充填材を配置することが好ましい。
この充填材は粉体とすることができ、なかでも、アルミナの粉体とすることが好ましい。
【0013】
前記電池保護コンテナ内では、リチウムイオン電池の全体を、前記充填材内に埋設して配置することが好ましい。
前記電池保護コンテナの外面の火炎を当てる箇所には、断熱材を設けることが好ましい。
【0014】
そして、前記リチウムイオン電池の加熱の終了後、リチウムイオン電池の前記筐体で包み込まれた性状が維持されることが好適である。
【発明の効果】
【0015】
この発明のリチウムイオン電池の処理方法によれば、リチウムイオン電池の筐体に火炎が直接的に当たることを防ぎながら、リチウムイオン電池を加熱することにより、筐体の酸化を抑制することができるので、筺体の破裂および筐体、アルミ箔、銅箔の酸化・脆化を有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この発明の一の実施形態で用いることのできる電池保護コンテナの一例を、内部にリチウムイオン電池を配置した状態で概略的に示す透過斜視図である。
【
図2】実施例1の加熱工程での試料温度の経時変化を示すグラフである。
【
図3】実施例2の加熱工程での試料温度の経時変化を示すグラフである。
【
図4】実施例3の加熱工程での試料温度の経時変化を示すグラフである。
【
図5】比較例1の加熱工程での試料温度の経時変化を示すグラフである。
【
図6】比較例2の加熱工程での試料温度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態のリチウムイオン電池の処理方法では、アルミニウムを含む筐体によって包み込まれたリチウムイオン電池を対象とし、火炎により焼却対象物を焼却処理する焼却炉を用いて、上記のリチウムイオン電池の筐体に火炎が直接的に当たることを防ぎながら、リチウムイオン電池を加熱する。
【0018】
(リチウムイオン電池)
この発明で対象とするリチウムイオン電池は、携帯電話その他の種々の電子機器等で使用されるリチウムイオン電池であればどのようなものでもかまわないが、その周囲を包み込む筐体として、アルミニウムを含む筐体を有するものとする。なかでも、電池製品の寿命や製造不良またはその他の理由によって廃棄された、いわゆるリチウムイオン電池スクラップを対象とすることが、資源の有効活用の観点から好ましい。
【0019】
リチウムイオン電池の筐体としては、たとえば、アルミニウムのみからなるものや、アルミニウム及び鉄、アルミラミネート等を含むものがある。
なお、リチウムイオン電池は、上記の筺体内に、リチウム、ニッケル、コバルト及びマンガンのうちの一種以上の単独金属酸化物又は、二種以上の複合金属酸化物等からなる正極活物質や、正極活物質が有機バインダー等によって塗布されて固着されたアルミニウム箔(正極基材)を含むものとすることができる。またその他に、リチウムイオン電池には、銅、鉄等が含まれる場合がある。
また、リチウムイオン電池には一般に、筺体内に電解液が含まれる。電解液としては、たとえば、エチレンカルボナート、ジエチルカルボナート等が使用されることがある。
【0020】
筐体で包み込まれたリチウムイオン電池は、実質的に正方形もしくは長方形状の平面輪郭形状を有するものとすることができ、この場合、処理前の寸法として、たとえば、縦が40mm〜80mm、横が35mm〜65mm、厚みが4mm〜5mmのものを対象とすることができるが、この寸法のものに限定されるものではない。
【0021】
(加熱工程)
この加熱工程では、火炎により焼却対象物を焼却処理する通常の焼却炉を用いることが、特殊な設備を用いる場合に比して設備コストの増大を抑えることができる点で有利である。
但し、このような焼却炉内で、上述したような筐体を有するリチウムイオン電池の筐体に火炎を直接的に当てて、リチウムイオン電池を加熱すると、筺体およびアルミ箔、銅箔が酸化・脆化する。この場合、加熱工程後にリチウムイオン電池を破砕する際に、脆化した筺体、箔もまた細かく粉砕されやすくなるので、篩下に回収される粉末状の正極材に、筺体等に含まれるアルミニウムが多く混入する。それにより、後にアルミニウムを回収する作業及びコストが増大する。
これに対処するため、この発明では、リチウムイオン電池に火炎が直接的に当たることを防ぎながら、リチウムイオン電池を加熱する。たとえば、火炎の周囲から、リチウムイオン電池を一定距離で遠ざけて配置することができる。
【0022】
ここで、焼却炉内で、リチウムイオン電池に火炎が直接当たることを防止するための手法の一例として、リチウムイオン電池10を、
図1に例示するような電池保護コンテナ1内に配置し、この電池保護コンテナ1の外面に火炎を当てることにより、リチウムイオン電池10を加熱することが好適である。
この場合、電池保護コンテナ1が、その内部に配置されたリチウムイオン電池10の筺体に、火炎が当たることを防ぎつつ、火炎による熱を、所期した温度でリチウムイオン電池に伝達するべく機能するので、リチウムイオン電池の筐体の急激な温度上昇を防止するとともに、筺体、箔の酸化をも防止して、リチウムイオン電池を有効に焙焼することができる。その結果として、加熱工程の終了まで、筐体でリチウムイオン電池の周囲が包み込まれた状態が維持されて、破砕・篩別時に筐体、箔の細粒化を防止して、篩上にこれらを取り除くことを容易かつ確実に行うことができる。
【0023】
リチウムイオン電池10は加熱されると、内部の電解液が気化して筐体内からガスが流出するので、上記の電池保護コンテナ1は、リチウムイオン電池10の筐体から流出したガスをコンテナ外部に排出させるガス抜き孔2を有するものであることが好ましい。
【0024】
具体的には、電池保護コンテナ1は、ガス抜き孔2としての開口部を有し、底3付きの筒状の容器とすることができる。この場合、筒状の容器の横断面の内外輪郭形状は、図示のような真円形、長円形もしくは楕円形その他の円形の他、四角形その他の多角形等の様々な形状とすることができる。なお、電池保護コンテナ1でリチウムイオン電池10の筐体に火炎を直接当てることを防止するため、電池保護コンテナ1の、少なくとも火炎を当てる箇所は、貫通穴等の空所がない壁面とすることが好適である。
【0025】
電池保護コンテナ1の材質としては、たとえば、ステンレス鋼、炭素鋼等を挙げることができるが、これに限定されず、焼却炉の火炎を直接当てても耐え得る耐熱性材料とすることができる。
【0026】
またここでは、電池保護コンテナ1内に、リチウムイオン電池とともに、充填材4を配置することができ、この充填材4は、電池保護コンテナ1からリチウムイオン電池10への熱の伝導性を均一化することができるので、リチウムイオン電池10の全体にわたって均一に伝熱することをより確実に維持することができる。
【0027】
充填材4としては、各種セラミック粉、砂等を挙げることができるが、特に、図示のような粉体とすることが、リチウムイオン電池10の均一な加熱の観点から好ましい。
充填材4を粉体とする場合、特にアルミナの粉体とすることが好適である。これは、熱に対して安定であり、粉体であるため空気を遮断する効果があり、加熱処理後に破砕・篩別等により回収した正極材を含む有価金属を酸浸出する際には、浸出液に不純物として溶解することがないからである。
【0028】
このような粉体の充填材4は、筺体からガスが流出するリチウムイオン電池10の周囲への酸素の到達を阻害するので、加熱時の筺体の酸化をより有効に防止するべくも機能する。そのため、この場合は、焼却炉内が大気雰囲気であっても、筺体の酸化を有効に防止することができるので、焼却炉内の雰囲気を変化させるための特殊な設備を要しない。なお、電池保護コンテナ1のガス抜き孔2を、筐体から流出するガスの排出で電池保護コンテナ1内への多量の酸素の流入が阻止される程度に小さくすることによっても、筺体の酸化を防止することができる。
熱伝導性及び酸化防止の観点から、
図1に示すように、リチウムイオン電池10はその全体を、充填材4内に埋設して配置することが好ましい。
【0029】
上記の充填材4を用いるか、又は用いないかに関わらず、図示は省略するが、電池保護コンテナ内を、たとえば個々のリチウムイオン電池が配置できるほどの小さな空間に区画することにより、各リチウムイオン電池への熱伝導を均一化することができ、リチウムイオン電池の均等燃焼を実現することができる。
【0030】
また図示は省略するが、電池保護コンテナの外面の火炎を当てる箇所に、金属板、セラミック製の板等からなる遮蔽板その他の断熱材を配置することができる。この断熱材は、電池保護コンテナの火炎を当てる箇所の局所的な温度上昇を防止して、リチウムイオン電池への均一な熱伝導に寄与することができる。
【0031】
このような加熱工程は、たとえば焼却炉等の所定の炉内で大気雰囲気であっても、リチウムイオン電池の筐体の酸化を防止できるので、筺体が酸化しない雰囲気を作り出すための設備等を要しない点で有利である。
【0032】
なおこの加熱工程では、はじめに、リチウムイオン電池の温度を上昇させ、その後、その温度が200℃〜400℃、好ましくは220℃〜380℃の範囲内に達したときから、たとえば10分以上、好ましくは20分以上にわたって、その低い温度範囲を維持することができる。
【0033】
(浸出工程及び回収工程)
上記の加熱工程の後、所要に応じて破砕及び篩別することにより、アルミニウムが十分に除去された粒状ないし粉状等の正極材を含む篩別物を得ることができる。
その後、この粒状ないし粉状の正極材を含む篩別物を、硫酸等の酸性溶液に添加して浸出させて得た浸出後液から、浸出後液中に溶解しているニッケル、コバルト、マンガン等を回収する。具体的には、たとえば、溶媒抽出又は中和により、はじめにマンガンを分離させて回収し、次いでコバルトを、その後にニッケルを順次に分離させて回収し、最後に水相にリチウムを残す。
【0034】
ここでは、上述した加熱工程により、浸出後液に溶解した金属に、アルミニウムがほとんど含まれなくなることから、回収工程でのアルミニウムの分離除去に要する処理を簡略化ないし省略することができる。それにより、処理能率の向上および処理コストの低減を実現することができる。
【実施例】
【0035】
次に、この発明の処理方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は、単なる例示を目的とするものであって、それに限定されることを意図するものではない。
【0036】
(実施例1)
大気雰囲気において、るつぼ炉でAl筐体のリチウムイオン電池を加熱した。るつぼ炉の電気ヒーター線からの熱が直接リチウムイオン電池に当たらないようアルミナ製るつぼの中にリチウムイオン電池を入れて加熱した。更に試料温度が急激な上昇をすることのないようヒーターの出力を調整し、550℃まで加熱した。
図2に試料温度の履歴をグラフで示す。加熱後のリチウムイオン電池は、Al筐体の膨張は見られたが、筐体が破裂等することなく原型が維持されていた。加熱処理後のリチウムイオン電池を破砕機にて破砕後、篩別して目開き1mmの篩で篩別し、篩下に正極材等を回収した。篩別物(<1mm)の品位は、Coが37%、Alが4.5%、Cuが0.7%であり、Co回収率は98%であった。篩別物の分析値と回収率を表1に示す。
【0037】
なお、ここでいう回収率は、加熱処理したリチウムイオン電池を破砕、篩別して回収した各篩別物の重量と、各篩別物を縮分した試料を酸溶解してICP発光分析装置にて分析した分析値から得た各篩別物の品位から、成分毎の金属量を算出し、この全産出物の各金属量合計に対する篩別物(<1mm)中の各金属量の重量百分率として求めたものである。
【0038】
【表1】
【0039】
実施例1では、リチウムイオン電池を加熱時に、アルミナ製るつぼに入れることにより熱源から輻射を軽減し、さらにるつぼ炉ヒーターの出力を調整することによって、試料の急激な温度上昇を回避したことにより、筺体内からガスを十分に流出させることができて、リチウムイオン電池の破裂を防止することができた。その結果として、表1に示す結果より、コバルトを高い回収率で回収しつつ、篩別物中のアルミニウム量を少なくできたことが解かる。
【0040】
(実施例2)
大気雰囲気において、るつぼ炉でAl筐体のリチウムイオン電池を加熱した。るつぼ炉の電気ヒーター線からの熱が直接リチウムイオン電池に当たらないようアルミナ製るつぼの中にリチウムイオン電池を入れ、リチウムイオン電池をアルミナ粉で被覆した。ヒーターの最大出力で加熱し、550℃まで加熱した。
図3に試料温度の履歴をグラフで示す。加熱後のリチウムイオン電池は、Al筐体の膨張は見られたが、筐体が破裂等することなく形を維持していた。加熱処理後のリチウムイオン電池を破砕機にて破砕後、篩別して目開き1mmの篩で篩別し、篩下に正極材等を回収した。篩別物(<1mm)の品位はCo38%、Al1.8%、Cu0.4%で、Co回収率は85%であった。篩別物の分析値と回収率を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
表2に示す結果より、実施例2では、リチウムイオン電池を加熱時に、アルミナ製るつぼに入れ、更にアルミナ粉で被覆することにより熱源から輻射を軽減したことで、るつぼ炉ヒーターの最大出力で加熱したにも関わらず、試料の急激な温度上昇を回避できたことにより、筺体内からガスを十分に流出させることができて、リチウムイオン電池の破裂を防止することができた。この実施例2でもまた、コバルトを高い回収率で回収しつつ、篩別物中のアルミニウム量を少なくすることができた。
【0043】
(実施例3)
大気雰囲気において、鉄材で作成したボートにAl筐体のリチウムイオン電池を入れて、定置型焼却炉にて加熱した。定置型焼却炉の重油バーナーからの火炎および熱が直接リチウムイオン電池に当たらないように、ボートの中にリチウムイオン電池を入れ、リチウムイン電池をアルミナ粉で被覆した。
図4に試料温度の履歴をグラフで示す。加熱後のリチウムイオン電池は、Al筐体の膨張は見られたが、ほとんどの筐体が破裂することなく形を維持していた。加熱処理後のリチウムイオン電池を破砕機にて破砕後、篩別して目開き1mmの篩で篩別し、篩下に正極材等を回収した。篩別物(<1mm)の品位はCo36%、Al3.6%、Cu1.0%で、Co回収率は92%であった。篩別物の分析値と回収率を表3に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
(比較例1)
大気雰囲気において、るつぼ炉でAl筐体のリチウムイオン電池を加熱した。電気炉の加熱能力のフルパワーで加熱し、その後更に550℃まで加熱した。
図5に試料温度の履歴をグラフで示す。試料温度は急激に上昇した。加熱後のリチウムイオン電池は、全体的に破損している状態で、一部は内部のアルミニウム箔が見えている状態であった。加熱処理後のリチウムイオン電池を破砕機にて破砕後、篩別して目開き1mmの篩で篩別し、篩下に正極材等を回収した。篩別物(<1mm)の品位は、Co31%、Al7.0%、Cu1.3%で、Co回収率は71%であった。篩別物の分析値と回収率を表4に示す。
【0046】
【表4】
【0047】
比較例1では、リチウムイオン電池の昇温過程で温度を急激に上昇させたことにより、リチウムイオン電池が破損して筺体のアルミニウム箔の大部分が酸化したと考えられ、それにより、表4に示す結果から、篩別物中のアルミニウム量が多くなったことが解かる。
【0048】
(比較例2)
大気雰囲気において、鉄材で作成したボートにAl筐体のリチウムイオン電池を入れて、定置型焼却炉にて加熱した。ボートの中に覆いをせずにリチウムイオン電池を入れたところ、定置型焼却炉での加熱に際し、重油バーナーの火炎がリチウムイオン電池に当たっていた。
図6に試料温度の履歴をグラフで示す。定置型焼却炉の重油バーナーの火炎が直接当たったことにより、試料温度は急激に上昇した。加熱後のリチウムイオン電池は、全体的に破損またはAlが溶融している状態であった。加熱処理後のリチウムイオン電池を破砕機にて破砕後、篩別して目開き1mmの篩で篩別し、篩下に正極材等を回収した。篩別物(<1mm)の品位はCo23%、Al4.3%、Cu3.9%で、Co回収率は37%であった。篩別物の分析値と回収率を表5に示す。
【0049】
【表5】
【0050】
比較例2では、重油バーナーの火炎がリチウムイオン電池に当たり、リチウムイオン電池の温度が急激に昇温したことにより、リチウムイオン電池が破損して、含有されるアルミニウムの大部分が酸化したと考えられ、それにより、表5に示す結果から、篩別物中のアルミニウム量が多くなったことが解かる。
【0051】
以上より、火炎により焼却対象物を焼却処理する焼却炉を用いた場合であっても、輻射、対流による熱源からのリチウムオン電池への伝熱を抑制する処置をとり、或いは/更に、リチウムイオン電池への酸素の到達を防ぐことによって、試料の急激な温度上昇を回避し、アルミ筐体の破損、アルミ箔、銅箔の酸化・脆化を抑制でき、それにより、加熱処理後のリチウムイオン電池を破砕・篩別して例えば<1mmの篩別物として回収する際に、正極材成分を含む篩別物を高い回収率で、かつ低いアルミニウム品位で回収できることが解かった。
【符号の説明】
【0052】
1 電池保護コンテナ
2 ガス抜き孔
3 底
4 充填材
10 リチウムイオン電池