特許第6708532号(P6708532)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6708532
(24)【登録日】2020年5月25日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】MEMS素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H04R 19/04 20060101AFI20200601BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20200601BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20200601BHJP
   H04R 31/00 20060101ALI20200601BHJP
   H01L 29/84 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
   H04R19/04
   B81B3/00
   B81C1/00
   H04R31/00 C
   H01L29/84 Z
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-213152(P2016-213152)
(22)【出願日】2016年10月31日
(65)【公開番号】特開2018-74427(P2018-74427A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098372
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 保人
(72)【発明者】
【氏名】荒木 新一
(72)【発明者】
【氏名】臼井 孝英
【審査官】 鈴木 圭一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−200920(JP,A)
【文献】 特開2003−207516(JP,A)
【文献】 特開2014−017565(JP,A)
【文献】 特開2016−002625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 19/04
B81B 3/00
B81C 1/00
H01L 29/84
H04R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に配置された固定電極と、この固定電極にエアーギャップを介して略平行に配置された可動電極とを備えるMEMS素子において、
上記固定電極の外周に、該固定電極と切り離し可能に接続された複数のトリミング用固定電極を設けたことを特徴とするMEMS素子。
【請求項2】
上記固定電極と上記トリミング用固定電極との間に、このトリミング用固定電極を切断するためのヒューズ部を形成し、かつこのヒューズ部に切断電流を流すための切断用電極を配線したことを特徴とする請求項1記載のMEMS素子。
【請求項3】
基板上に配置された固定電極と、この固定電極にエアーギャップを介して略平行に配置された可動電極とを備えるMEMS素子の製造方法において、
上記固定電極の外周に、該固定電極と切り離し可能な複数のトリミング用固定電極を接続し、選択された上記トリミング用固定電極を切り離すことにより、所望のプルイン電圧に設定することを特徴とするMEMS素子の製造方法。
【請求項4】
上記トリミング用固定電極と上記固定電極との間に、切断のためのヒューズ部を形成し、かつこのヒューズ部に切断用電極を配線し、
この切断用電極から上記ヒューズ部に切断電流を流すことにより、選択された上記トリミング用固定電極を上記固定電極から切り離すことを特徴とする請求項3記載のMEMS素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はMEMS素子及びその製造方法、特にトランスデューサー等の各種センサとして用いられ、感度調整が行われるMEMS素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、トランスデューサー、マイクロフォン、センサ、アクチュエータ等に、MEMS(Micro Electro Mechanical System)素子が用いられる。
例えば、電子機器に使われるトランスデューサー(マイクロフォン装置)は、携帯電話やパーソナルコンピューター、また車載器等にも搭載され、近年、益々感度の高精度化が望まれている。
【0003】
図4に、従来のトランスデューサーの構成が示されており、図4(B)は、図4(A)のB−B線(横中心線と固定電極パッド6から中心に向かう斜め線とを結ぶ線)での切断図(一部のみにハッチングをしたもの)である。図において、1は基板、2は可動電極、3は可動電極2に平行配置された固定電極、4は支持層(犠牲層の残り部分)、5は絶縁層、6は固定電極パッド、7は音孔、Gはエアーギャップである。
【0004】
このようなトランスデューサーは、可動電極2と固定電極3が平行平板型コンデンサを形成し、音圧によって可動電極2が振動して生じる静電容量の変位を検出することにより、音声を電気信号に変換する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−233059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、トランスデューサーの感度は、製造中の幾つかのバラツキ因子により変化し、トランスデューサーそのものだけではその精度を高めるのは難しい。そこで、従来では、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)側にて、抵抗やヒューズを用いて、或いはメモリトリミング、ダイオード等のザッピング等の回路構成により市場に受け入れられるレベルの感度に調整される。
【0007】
しかしながら、上記トランスデューサー(MEMS素子)を内蔵する装置では、小型化の要求があり、素子の感度調整の際には、ASIC側の回路構成でASICが少しでも大きくならないようにし、またトランスデューサーにおいても、そのサイズやコストが変わらないようにする必要がある。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ASICを大きくすることなく、MEMS素子においてもサイズが大きくなったり、コストが増大したりすることなく、感度調整を良好に行うことのできるMEMS素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1の発明に係るMEMS素子は、基板上に配置された固定電極と、この固定電極にエアーギャップを介して略平行に配置された可動電極とを備えるMEMS素子において、上記固定電極の外周に、該固定電極と切り離し可能に接続された複数のトリミング用固定電極を設けたことを特徴とする。
請求項2の発明は、上記固定電極と上記トリミング用固定電極との間に、このトリミング用固定電極を切断するためのヒューズ部を形成し、かつこのヒューズ部に切断電流を流すための切断用電極を配線したことを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明に係るMEMS素子の製造方法は、基板上に配置された固定電極と、この固定電極にエアーギャップを介して略平行に配置された可動電極とを備えるMEMS素子の製造方法において、上記固定電極の外周に、該固定電極と切り離し可能な複数のトリミング用固定電極を接続し、選択された上記トリミング用固定電極を切り離すことにより、所望のプルイン電圧に設定することを特徴とする。
請求項4の発明は、上記トリミング用固定電極と上記固定電極との間に、切断のためのヒューズ部を形成し、かつこのヒューズ部に切断用電極を配線し、この切断用電極から上記ヒューズ部に切断電流を流すことにより、選択された上記トリミング用固定電極を上記固定電極から切り離すことを特徴とする。
【0011】
以上の構成によれば、例えば複数のリング状のトリミング用固定電極を固定電極の外周に形成し、素子形成の状況に応じて所定のトリミング用固定電極を切断する。この切断は、ヒューズ部に切断電流を流したり、レーザー照射したりすることで行われ、選択されたトリミング用固定電極の切断によって、固定電極の全体の面積が変わることで、MEMS素子側で感度を調整することができる。
【0012】
MEMS素子の感度は、固定電極−可動電極間の電圧と強い相関を持ち、プルイン(Pull In)電圧、つまり可動電極(メンブレン)のスティクションする電圧(両電極が貼り付く電圧)を読み取り、一定のプルイン電圧となるように、トリミング技術を使って固定電極をトリミングすることにより、感度を所望の値に調節することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ASICを大きくすることなく、MEMS素子においてもサイズが大きくなったり、コストが増大したりすることなく、固定電極のトリミングにより感度調整を良好に行うことが可能となる。
即ち、固定電極と可動電極で構成される空気型コンデンサは、電流が殆ど流れないことから電流密度は考慮する必要がなく、微細化技術によってトリミング用固定電極を使われるテクノロジーの最小線幅にまで細くすることができ、このトリミング用固定電極を複数形成して適宜選択することで、感度を微細に調整することが可能となる。
【0014】
また、従来の固定電極の外周スペースを有効活用しながらMEMS素子側に感度調整機能を持たせ、製造工程の僅かな変更により、トリミング用固定電極やヒューズ部のパターンを製作することができ、マスク枚数を増やすこともなく、機能対コストが向上するという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例のMEMS素子であるトランスデューサーの構成を示し、図(A)は上面図(表面の絶縁膜を透視状態とする)、図(B)は断面図(B−B線切断図で一部にハッチングしたもの)である。
図2図1のトランスデューサーの一部を拡大した図である。
図3】実施例においてトリミング用固定電極の使い方とプルイン電圧の関係を示すグラフ図である。
図4】従来例のトランスデューサーの構成を示し、図(A)は上面図(表面の絶縁膜を透視状態とする)、図(B)は断面図(B−B線切断図で一部にハッチングしたもの)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1(A),(B)及び図2に、実施例のトランスデューサーの構成が示されており、図において、1はシリコン基板、2は変位可能な可動電極、3は可動電極2に平行配置された固定電極、4は支持層(エアーギャップGを形成するための犠牲層の残り部分)、5は絶縁膜、6は固定電極パッド、7は音孔(アコースティックホール)、Gは可動電極2と固定電極3の間のエアーギャップであり、固定電極3は連結ライン9で固定電極パッド6に接続される。
【0017】
実施例では、円形(その他の形状でもよい)の固定電極3の外周に3本の固定電極リング(トリミング用固定電極)10A,10B,10Cが配置され、この固定電極リング10A〜10Cは連結ライン9に接続される。この固定電極3及び固定電極リング10A〜10Cは、不純物がドープされたポリシリコンで形成されており、連結ライン9の短辺方向の両端に接続される固定電極リング10A〜10Cの部分には、リング線を連結ライン9へ向けて例えばテーパー状(弧状でもよい)に細くしたヒューズ部12が設けられる。
【0018】
そして、固定電極リング10A〜10Cが接続される連結ライン9の両端部分に、1対のポリシリコン配線13及びメタル配線14を介して1対の電極パッド15A,15B,15Cが形成・接続される。なお、固定電極3の上には絶縁膜5が施され、この固定電極3及び絶縁膜5を貫通するように音孔7が形成されている。
【0019】
以上の構成によれば、1対の電極パッド15Cから切断電流を流してヒューズ部12を焼き切ることにより、外側の固定電極リング10Cが固定電極3から切り離され、また1対の電極パッド15Bから切断電流を流してヒューズ部12を焼き切ることにより、中間の固定電極リング10Bが固定電極3から切り離され、更に1対の電極パッド15Aから切断電流を流してヒューズ部12を焼き切ることにより、内側の固定電極リング10Aが固定電極3から切り離される。このようにして、実施例では、いずれの固定電極リング10A〜10Cも切り離さない場合を含めて、固定電極の面積を変える以下の4つのパターンを選択することができる。
1.固定電極3のみ、
2.固定電極3+固定電極リング10A、
3.固定電極3+固定電極リング10A+10B、
4.固定電極3+固定電極リング10A+10B+10C。
【0020】
図3には、上記固定電極リング10A〜10Cの使い方とプルイン電圧の関係が示されており、このグラフのように、固定電極3のみ(パターン1)の場合、プルイン電圧が0Vであるとすると、固定電極3+固定電極リング10A(パターン2)の場合は、−0.9Vの近傍、固定電極3+固定電極リング10A+10B(パターン3)の場合は、−1.9Vの近傍、固定電極3+固定電極リング10A+10B+10C(パターン4)の場合は、−2.8Vの近傍となり、固定電極リング10A〜10Cを順に追加すると、プルイン電圧はほぼリニアに変化することになる。従って、トリミング用の固定電極リング10A〜10Cの設計、選択によってプルイン電圧を自在にコントロールすることができ、この結果、感度の調整が可能となり、プルイン電圧を所望の一定値として製造時のバラツキも解消することができる。
【0021】
なお、固定電極リング10のトリミングでは、可動電極−固定電極間に、切断した固定電極リング10A〜10Cのバイアスがかかることのないように、連結ライン9の両端で確実に切断する必要があり、ヒューズ部12は連結ライン9の左右対称となる2箇所に配置される。
実施例では、トリミング用の固定電極リング10を3つ設けたが、この固定電極リング10は、1つでも、4つ以上でもよく、また固定電極3が例えば楕円形となる場合は、トリミング用固定電極もその楕円形に合せた楕円リングにすることができる。
【0022】
更に、実施例では、電極パッド15A〜15Cから切断電流を流すようにしたが、上記固定電極リング10A〜10Cをレーザー照射によって切断するようにしてもよい。この場合は、従来のレーザー加工の技術を応用することができる。
【符号の説明】
【0023】
1…シリコン基板、 2…可動電極、
3…固定電極、 4…支持層、
5…絶縁膜、 6…固定電極パッド、
7…音孔(アコーステックホール)、
9…連結ライン、
10A,10B,10C…固定電極リング(トリミング用)、
13,14…配線、 15A〜15C…電極パッド、
G…エアーギャップ。
図1
図2
図3
図4