(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記組成式(A)中、前記aが10.0以上20.0以下であり、前記bが0超10.0以下である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のナノ結晶合金リボンの製造方法。
【背景技術】
【0002】
トランス、リアクトル、チョークコイル、モーター、ノイズ対策部品、レーザ電源、加速器用パルスパワー磁性部品、発電機等に用いられる磁性材料として、珪素鋼、フェライト、Fe基アモルファス合金、Fe基ナノ結晶合金、等が知られている。
【0003】
このうち、Fe基ナノ結晶合金は、珪素鋼と比較して磁心損失が小さい傾向があり、フェライト及びFe基アモルファス合金と比較して飽和磁束密度が高い傾向がある。
Fe基ナノ結晶合金として、例えば、以下の合金が知られている。
高い飽和磁束密度及び低い磁心損失を有する磁性合金として、組成式Fe
100−x−yCu
xB
y〔ここで、x及びyはいずれも原子%であり、それぞれ、0.1≦x≦3、及び10≦y≦20の条件を満たす〕又は組成式Fe
100−x−yーzCu
xB
yX
z〔ここで、x、y及びzはいずれも原子%であり、それぞれ、0.1≦x≦3、10≦y≦20、0<z≦10、及び10<y+z≦24の条件を満たす。Xは、Si、S、C、P、Al、Ge、Ga、及びBeからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。〕で表される組成を有し、平均粒径60nm以下の結晶粒を非晶質母材中に含有する組織からなり、飽和磁束密度が1.7T以上である磁性合金が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0004】
また、飽和磁束密度が1.7T以上であり、保磁力が小さく、ヒステリシス損失の小さい高飽和磁束密度低保磁力の軟磁性合金を製造する方法として、組成式がFe
100−x−y−zA
xM
yX
zにより表され、ここで、AはCu及びAuから選ばれた少なくとも1種の元素、MはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、及びWから選ばれた少なくとも1種の元素、XはB及びSiから選ばれた少なくとも1種の元素であり、原子%で、0<x≦5、0.4≦y<2.5、10≦z≦20である合金溶湯を急冷して実質的にアモルファスの合金を鋳造する段階と、その後、300℃以上の温度領域での平均昇温速度が100℃/min以上となるように熱処理する段階と、を含む軟磁性合金の製造方法が知られている(例えば、下記特許文献2参照)。
【0005】
また、高飽和磁束密度であり低保磁力であり靱性に優れた軟磁性合金を安定的に製造する方法として、組成式がFe
100−x−y−zA
xM
yX
zP
aにより表され、ここで、AはCuおよびAuから選ばれた少なくとも1種の元素、MはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、及びWから選ばれた少なくとも1種の元素、XはB及びSiから選ばれた少なくとも1種の元素であり、原子%で、0.5≦x≦1.5、0≦y≦2.5、10≦z≦23、0.35≦a≦10である合金の溶湯を、厚さ100μm以下で実質的にアモルファスの薄帯形状に鋳造する段階と、その後、300℃以上の温度領域での平均昇温速度が100℃/min以上となるように熱処理し、結晶粒径が60nm以下(0を含まず)の結晶粒がアモルファス相中に体積分率で30%以上分散した組織を有する軟磁性薄帯とする段階と、を含む軟磁性薄帯の製造方法が知られている(例えば、下記特許文献3参照)。
【0006】
また、アモルファス合金リボンを処理する方法として、a)アモルファス合金リボンを、設定された送り速度で走行路に沿って前方に送り、ピンと張り、そして案内し;b)アモルファス合金リボンを前記走行路沿いの地点で10
3℃/秒を上回る速度で熱処理を開始するための温度に加熱し;c)アモルファス合金リボンを10
3℃/秒を上回る速度で熱処理が終了するまで冷却し;d)前記熱処理中、アモルファス合金リボンが、前記熱処理後、静止状態で特定形状を取るまで一連の機械的拘束をリボンに印加し;そしてe)前記熱処理後、アモルファス合金リボンを、前記特定形状を保存する速度で冷却するステップを含む方法が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
特許文献1:国際公開第2007/032531号
特許文献2:国際公開第2008/133301号
特許文献3:国際公開第2008/133302号
特許文献4:国際公開第2011/060546号
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
また、本明細書において、「ナノ結晶合金リボン」とは、ナノ結晶を含有する合金リボンを意味する。例えば、「ナノ結晶合金リボン」の概念には、ナノ結晶のみからなる合金リボンだけでなく、アモルファス相中にナノ結晶が分散されている合金リボンも包含される。
また、本明細書において、Fe、B、Si、Cu、M(ここで、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、及びWからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表す)等の各元素の含有量(原子%)は、Fe、B、Si、Cu、及びMの合計を100原子%とした場合の含有量(原子%)を意味する。
また、本明細書において、2つの線分のなす角度(具体的には、θ及びα)としては、2通り定義される角度のうちの小さい方の角度(0°以上90°以下の範囲の角度)を採用する。
【0015】
本実施形態のナノ結晶合金リボンの製造方法(以下、「本実施形態の製造方法」ともいう)は、
下記組成式(A)で表される組成を有するアモルファス合金リボンを準備する工程と、
アモルファス合金リボンを張力Fが加わる状態で連続走行させ、張力Fが加わる状態で連続走行するアモルファス合金リボンの一部の領域を、450℃以上の温度に維持された伝熱媒体に、下記式(1)を満たす条件で接触させることにより、アモルファス合金リボンの温度を350℃から450℃までの温度領域の平均昇温速度が10℃/秒以上となる昇温速度で450℃以上の到達温度まで昇温させてナノ結晶合金リボンを得る工程と、
を含む。
本実施形態の製造方法は、上記以外のその他の工程を含んでいてもよい。
【0016】
Fe
100−a−b−c−dB
aSi
bCu
cM
d … 組成式(A)
〔組成式(A)中、a、b、c、及びdは、いずれも原子%であり、それぞれ、0<a、0<b、0<c、0≦d、及び、78≦100−a−b−c−dを満足する。Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、及びWからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表す。〕
【0017】
t
c>4/σ … 式(1)
〔式(1)中、t
cは、アモルファス合金リボンの任意の一点が伝熱媒体に接触した時から上記任意の一点が上記伝熱媒体から離れる時までの時間(秒)を表す。σは、後述する式(X)によって定義される、アモルファス合金リボンと伝熱媒体との接触圧力(kPa)を表す。〕
【0018】
本発明者等の検討により、従来の方法によりアモルファス合金リボンを熱処理してナノ結晶合金リボンを製造した場合、製造されたナノ結晶合金リボンにリップル(うねり又はしわ)が発生する場合があることが判明した。
更に、リップルが発生する傾向は、上記組成式(A)で表される組成(即ち、Feの含有量が78原子%以上である組成)を有するアモルファス合金リボンを熱処理する場合に特に顕著であることが判明した。
【0019】
従来の方法に対し、本実施形態の製造方法によれば、リップルの発生が抑制されたナノ結晶合金リボンを製造できる。
従って、本実施形態の製造方法で製造されたナノ結晶合金リボンを積層させる場合(例えば、磁心を製造する場合)において、占積率の向上が期待できる。
ナノ結晶合金リボンのリップルの高さ(最高高さ)は、好ましくは1.5mm未満であり、より好ましくは1.0mm以下であり、更に好ましくは0.1mm未満(リップルが発生していない場合を含む)である。
【0020】
本実施形態の製造方法により、リップルの発生が抑制されたナノ結晶合金リボンを製造できる理由としては、以下の理由が考えられる。但し、本発明は、以下の理由によって限定されることはない。
【0021】
従来の方法においてリップルが発生する原因は、以下のように推定される。
アモルファス合金リボンを熱処理してナノ結晶合金リボンを製造する場合、熱処理のための昇温の過程、特に350℃から450℃までの温度領域を昇温する過程で、原子の移動により、原子同士の集合体であるクラスター(アモルファス合金リボンにCuが含有されている場合には、主にCuクラスター)が形成されると考えられる。そして450℃以上の温度領域において、上述したクラスターを核としてナノ結晶が成長することにより、ナノ結晶合金リボンが製造されると考えられる。以下、ナノ結晶が成長することを「ナノ結晶化」ともいう。
この場合において、クラスターのサイズが大きくなりすぎる条件(即ち、原子の移動時間が比較的長い条件)では、リボン中に位置によってクラスターの存在密度のバラつきが大きくなると考えられる。その結果、クラスターを核として成長するナノ結晶の存在密度もバラつきが大きくなる、即ち、ナノ結晶化の均一性が低下すると考えられる。
上述したリップルは、ナノ結晶の存在密度のバラつき(即ち、ナノ結晶化の均一性の低下)に起因して発生すると考えられる。
【0022】
以上の点に鑑み、本実施形態の製造方法では、350℃から450℃までの温度領域(即ち、クラスターが形成される温度領域)の平均昇温速度(以下、「平均昇温速度R
350−450」ともいう)が10℃/秒以上となる昇温速度で、アモルファス合金リボンの温度を450℃以上の到達温度まで昇温させる(即ち、この条件でアモルファス合金リボンを熱処理する)。これにより、クラスター形成のための原子の移動の時間が短くなり、ナノ結晶の核となるクラスターのサイズが大きくなりすぎる現象が抑制され、ひいてはクラスターの存在密度のバラつきが抑制されると考えられる。
また、本実施形態の製造方法では、アモルファス合金リボンの上記昇温(即ち熱処理)のために、張力Fが加わる状態で連続走行するアモルファス合金リボンの一部の領域を、450℃以上の温度に維持された伝熱媒体に、式(1)を満たす条件で接触させる。詳細には、連続走行するアモルファス合金リボンの任意の一点が伝熱媒体に接触した時から上記任意の一点が上記伝熱媒体から離れる時までの時間t
c(即ち、上記任意の一点が伝熱媒体と接触しながらこの伝熱媒体を通過する時間)を、4/σ超とする。これにより、伝熱媒体からのアモルファス合金リボンへの伝熱が十分になされ、アモルファスからナノ結晶化が十分に進行し、ナノ結晶合金リボンが得られる。しかも上述したとおり、平均昇温速度R
350−450が10℃/秒以上であることにより、ナノ結晶の核となるクラスターの存在密度のバラつきが抑制されるので、ナノ結晶化の均一性が向上すると考えられる。
本実施形態の製造方法によれば、以上の理由により、ナノ結晶化の均一性が向上し、その結果、リップルの発生が抑制されると考えられる。
【0023】
要するに、本実施形態の製造方法は、平均昇温速度R
350−450を10℃/秒以上とすることによりクラスターが成長する時間を短くしつつ、t
c(秒)を4/σ超とすることによりナノ結晶化の時間を確保することで、リップルの発生が抑制されたナノ結晶合金リボンを得る、という製造方法である。
【0024】
本明細書中において、350℃から450℃までの温度領域における平均昇温速度(平均昇温速度R
350−450)とは、450℃と350℃との差(即ち、100℃)を、アモルファス合金リボンの任意の一点の温度が350℃に達した時から450℃に達した時までの時間(秒)によって割った値を意味する。
本実施形態において、平均昇温速度R
350−450は、10℃/秒以上である。
平均昇温速度R
350−450が10℃/秒未満であると、クラスターの成長のために原子が移動する時間が長くなり、クラスターの存在密度のバラつきが大きくなり、その結果、ナノ結晶化の均一性が低下し、リップルが発生し易くなる。
平均昇温速度R
350−450は、リップルの発生をより抑制する観点から、100℃/秒以上であることが好ましい。
平均昇温速度R
350−450の上限には特に制限はないが、上限として、例えば、10000℃/秒、900℃/秒、800℃/秒、等が挙げられる。
【0025】
また、式(1)中のσは、下記式(X)で定義される、アモルファス合金リボンと伝熱媒体との接触圧力である。
【0026】
σ = ((F×(sinθ+sinα))/a)×1000 … 式(X)
〔式(X)中、Fは、前記アモルファス合金リボンに加わる張力(N)を表す。
aは、アモルファス合金リボンと伝熱媒体との接触面積(mm
2)を表す。
θは、伝熱媒体に接触する直前のアモルファス合金リボンの走行方向と、伝熱媒体と接触している時のアモルファス合金リボンの走行方向と、のなす角度であって、3°以上60°以下の角度を表す。
αは、伝熱媒体と接触している時のアモルファス合金リボンの走行方向と、伝熱媒体から離れた直後のナノ結晶合金リボンの走行方向と、のなす角度であって、0°超15°以下の角度を表す。〕
【0027】
以下、式(X)について、より詳細に説明する。
本実施形態におけるナノ結晶合金リボンを得る工程では、張力Fが加わる状態で連続走行するアモルファス合金リボンの一部の領域を伝熱媒体に接触させる。即ち、本実施形態では、張力Fが加わった状態のアモルファス合金リボンが、伝熱媒体を、この伝熱媒体との接触を維持しながら通過するようにして連続走行する。アモルファス合金リボンは、伝熱媒体を通過することにより、ナノ結晶合金リボンとなる。
アモルファス合金リボンに張力Fが加わっていることにより、伝熱媒体に接触する直前のアモルファス合金リボンの走行方向、伝熱媒体に接触している時のアモルファス合金リボンの走行方向、及び、伝熱媒体から離れた直後のナノ結晶合金リボンの走行方向は、いずれも直線状となる。
但し、アモルファス合金リボンは、「伝熱媒体に接触する直前」よりも走行方向上流側においては、搬送ローラー等を経由しながら蛇行走行していてもよい。同様に、アモルファス合金リボンから得られたナノ結晶合金リボンは、「伝熱媒体から離れた直後」よりも走行方向下流側においては、搬送ローラー等を経由しながら蛇行走行していてもよい。
【0028】
式(X)において、伝熱媒体に接触する直前のアモルファス合金リボンの走行方向と、伝熱媒体と接触している時のアモルファス合金リボンの走行方向と、のなす角度θ(
図1参照;以下、「進入角度θ」ともいう)は、3°以上60°以下である。
σをより効果的に確保する観点から、進入角度θは、5°〜60°が好ましく、10°〜60°がより好ましく、15°〜50°が特に好ましい。
【0029】
式(X)において、伝熱媒体と接触している時のアモルファス合金リボンの走行方向と、伝熱媒体から離れた直後のナノ結晶合金リボンの走行方向と、のなす角度α(
図1参照;以下、「退出角度α」ともいう)は、0°超15°以下である。
退出角度αは、0.05°以上10°以下が好ましく、0.05以上5°以下がより好ましい。
【0030】
また、本実施形態において、連続走行するアモルファス合金リボンの一部の領域と伝熱媒体との接触は、アモルファス合金リボンに張力Fが加わる状態で行われる。
即ち、式(X)における張力Fは、0N超である。
本実施形態では、張力Fが0N超であり、sinθが0超であり(詳細には、θが3°以上60°以下であり)、sinαが0超である(詳細には、αが0°超15°以下である)。このため、接触圧力(σ)も0kPa超である。接触圧力(σ)が0kPa超であることにより、伝熱媒体からのアモルファス合金リボンへの伝熱が効果的になされる。
【0031】
張力Fとしては、1.0N〜40.0Nが好ましく、2.0N〜35.0Nがより好ましく、3.0N〜30.0Nが特に好ましい。
張力Fが1.0N以上であると、リップルの発生をより抑制できる。
張力Fが40.0N以下であると、アモルファス合金リボン又はナノ結晶合金リボンの破断をより抑制できる。
【0032】
式(X)中、アモルファス合金リボンと伝熱媒体との接触面積aは、ナノ結晶化をより効果的に進行させる観点から、500mm
2以上が好ましく、1000mm
2以上がより好ましい。接触面積aの上限には特に制限はないが、生産性の観点から、接触面積aの上限は、例えば10000mm
2であり、好ましくは8000mm
2以下である。
【0033】
また、アモルファス合金リボンと伝熱媒体との接触部分のリボン走行方向の長さは、アモルファス合金リボンの幅にもよるが、ナノ結晶化をより効果的に進行させる観点から、30mm以上が好ましく、50mm以上がより好ましい。
上記接触部分のリボン走行方向の長さの上限には特に制限はないが、生産性の観点から、上記接触部分のリボン走行方向の長さの上限は、例えば1000mmであり、好ましくは500mmである。
【0034】
式(X)及び式(1)中、σは、0.1kPa以上であることが好ましく、0.4kPa以上であることが好ましい。
σが0.1kPa以上であると、上述した平均昇温速度R
350−450(10℃/秒以上)をより達成し易い。また、σが0.1kPa以上であると、保磁力(Hc)低減の点でも有利である。
σの上限には特に制限はないが、上限としては、例えば20kPaが挙げられる。
【0035】
また、式(1)中、アモルファス合金リボンの任意の一点が伝熱媒体に接触した時から上記任意の一点が上記伝熱媒体から離れる時までの時間(t
c)の上限には特に制限はないが、t
cは、300秒以下であることが好ましく、100秒以下であることがより好ましく、50秒以下であることが更に好ましく、10秒以下であることが特に好ましい。
t
cが300秒以下であると、ナノ結晶合金リボンの生産性がより向上する。
また、t
cが300秒以下である場合(特に、後述するBの含有量が10原子%以上20原子%以下である場合)には、ナノ結晶合金リボンの軟磁気特性(保磁力(Hc)、飽和磁束密度(Bs)、等)を劣化させ得るFe−B化合物の析出頻度をより低減できる。
なお、式(1)を満足するかぎり、t
cの下限には特に制限はない。生産安定性の観点からみれば、t
cは0.5秒以上が好ましい。
【0036】
また、上述のとおり、本実施形態では、式(1)(t
c>4/σ)が満たされる。
本実施形態では、(4/σ)に対するt
cの比(t
c/(4/σ))が、1.1以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましい。
本実施形態では、t
cと(4/σ)との差(t
c−(4/σ))が、0.3以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。
【0037】
以下、本実施形態の好ましい態様について、更に詳細に説明する。
【0038】
<アモルファス合金リボンを準備する工程>
本工程は、下記組成式(A)で表される組成を有するアモルファス合金リボンを準備することを含む。
【0039】
Fe
100−a−b−c−dB
aSi
bCu
cM
d … 組成式(A)
〔組成式(A)中、a、b、c、及びdは、いずれも原子%であり、それぞれ、0<a、0<b、0<c、0≦d、及び、78≦100−a−b−c−dを満足する。Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、及びWからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表す。〕
【0040】
上記アモルファス合金リボンは、本実施形態で製造されるナノ結晶合金リボンの原料である。
上記アモルファス合金リボンは、上記組成式(A)中、「78≦100−a−b−c−d」(即ち、Feの含有量が78原子%以上であること)を満たすことにより、製造されるナノ結晶合金リボンの飽和磁束密度(Bs)が向上する。
また、従来の製造方法では、アモルファス合金リボンにおけるFeの含有量が78原子%以上であると、製造されるナノ結晶合金リボンにリップルが発生し易くなる傾向があった。これに対し、本実施形態の製造方法では、アモルファス合金リボンにおけるFeの含有量が78原子%以上であるにもかかわらず、上述したとおり、リップルの発生が抑制される。
組成式(A)中の「100−a−b−c−d」(即ち、Feの原子%)は、80以上であることが好ましい。
【0041】
上記アモルファス合金リボンにおいて、Cuは、ナノ結晶合金リボンを得る工程においてCuクラスターを形成することにより、Cuクラスターを核としたナノ結晶化を効率よく進行させる機能を有する。
かかる機能を有するため、組成式(A)中のc(即ち、Cuの原子%)は、0超である。上記のCuの機能をより効果的に発揮させる観点から、組成式(A)中のcは、0.01以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。組成式(A)中のcが0.5以上であると、ナノ結晶粒の核となるCuクラスターが合金組織内に分散した状態で形成されやすくなり、これにより、熱処理によって形成されるナノ結晶粒の粗大化が抑制され、かつ、上記ナノ結晶粒の粒度分布のばらつきが抑制される。
一方、組成式(A)中のcは、1.2以下であることが好ましい。組成式(A)中のcが1.2以下であると、Feの含有量をより多く確保することができるので、ナノ結晶合金リボンのBsをより向上させることができる。また、cが1.2以下であると、(上述した昇温よりも前の)アモルファス合金リボンの作製段階(液体急冷段階)における、Cuのクラスター形成及びナノ結晶粒の析出をより抑制できる。このため、上述した昇温により、ナノ結晶合金リボンをより再現性良く作製できる。
また、本実施形態では、ナノ結晶合金リボンを得る工程において、上記平均昇温速度及び上記式(1)を満たすことにより、cが1.2以下である場合であっても、ナノ結晶化が十分に進行する。
以上の観点より、組成式(A)中のcとしては、0超1.2以下が好ましく、0.01以上1.2以下がより好ましく、0.5以上1.2以下が特に好ましい。
【0042】
上記アモルファス合金リボンにおいて、Bは、アモルファス合金リボンを昇温させる工程(ナノ結晶合金リボンを得る工程)の前において、アモルファス状態を安定的に維持する機能を有する。アモルファス状態を安定的に維持することで、ナノ結晶合金リボンを製造する際のナノ結晶化の均一性をより向上させることができ、ナノ結晶合金リボンのBsをより向上させることができる。
上記機能を有するため、組成式(A)中のaは、0超である(即ち、Bの含有量は0原子%超である)。上記のBの機能をより効果的に発揮させる観点から、組成式(A)中のaは、10.0以上であることが好ましい。組成式(A)中のaが10.0以上であると、鋳造時のアモルファス相の形成能力がより向上し、これにより、熱処理によって形成されるナノ結晶粒の粗大化がより抑制される。
一方、組成式(A)中のaは、20.0以下であることが好ましい。組成式(A)中のaが20.0以下であると、Feの含有量をより多く確保することができるので、ナノ結晶合金リボンのBsをより向上させることができる。
以上の観点より、組成式(A)中のaとしては、0超20.0以下が好ましく、10.0以上20.0以下がより好ましく、12.0以上18.0以下が更に好ましく、12.0以上17.0以下が更に好ましく、13.0以上17.0以下が特に好ましい。
【0043】
上記アモルファス合金リボンにおいて、Siは、アモルファス合金リボンの結晶化温度を上昇させ、かつ、強固な表面酸化膜を形成させる機能を有する。
上記機能を有するため、組成式(A)中のb(即ち、Siの原子%)は、0超である。組成式(A)中のbが0超であることにより、より高温での熱処理が可能となる(即ち、上述した昇温の到達温度をより高くすることが可能となる)ので、効率的に緻密で微細なナノ結晶組織を形成し易くなり、ひいてはナノ結晶合金リボンのBsをより向上させることができる。上記のSiの機能をより効果的に発揮させる観点から、組成式(A)中のbは、0.1以上であることがより好ましい。
一方、組成式(A)中のbは、10.0以下であることが好ましい。
組成式(A)中のbが10.0以下であると、Feの含有量をより多く確保することができるので、ナノ結晶合金リボンのBsをより向上させることができる。
以上の観点より、組成式(A)中のbとしては、0超10.0以下が好ましく、0.1以上10.0以下がより好ましく、1.0以上8.0以下が更に好ましく、2.0以上6.0以下が更に好ましく、3.5以上5.0以下が特に好ましい。
【0044】
組成式(A)において、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、及びWからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。
本実施形態において、Mは、任意の添加元素であり、Mの含有量は0原子%であってもよい(即ち、組成式(A)中のdは、0であってもよい)。
しかし、アモルファス合金リボンがMを含有する場合には、アモルファス合金リボンを昇温させる工程(ナノ結晶合金リボンを得る工程)の前における、アモルファス状態がより安定化される。その結果、ナノ結晶合金リボンを製造する際のナノ結晶化の均一性をより向上させることができ、ナノ結晶合金リボンのBsをより向上させることができる。上記のMの機能を発揮させる観点から、組成式(A)中のdは、0超が好ましい。上記のMの機能をより効果的に発揮させる観点から、組成式(A)中のdは、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましい。
一方、組成式(A)中のdは、0.5以下であることが好ましい。
組成式(A)中のdが0.5以下であると、軟磁性の低下がより抑制される。
以上の観点より、組成式(A)中のdは、0以上0.5以下が好ましく、0超0.5以下がより好ましく、0.1以上0.5以下が更に好ましく、0.2以上0.5以下が特に好ましい。
【0045】
Mは、アモルファス状態をより安定化させる観点から、上述した元素のうち、少なくともMo又はNbを含むことが好ましく、少なくともMoを含むことがより好ましい。
【0046】
アモルファス合金リボンは、上述した、Fe、B、Si、Cu、及びM以外の不純物を含有してもよい。
不純物としては、Ni、Mn、及びCoからなる群から選択される少なくとも1種の元素が挙げられる。但し、軟磁性の低下をより抑制する観点から、これらの元素の総含有量は、アモルファス合金リボンの全質量に対し、0.4質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましく、0.2質量%以下が特に好ましい。
また、不純物としては、Re、Zn、As、In、Sn、及び希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素も挙げられる。但し、飽和磁束密度(Bs)をより向上させる観点から、これらの元素の総含有量は、アモルファス合金リボンの全質量に対し、1.5質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましい。
不純物としては、上述した元素以外の元素、例えば、O、S、P、Al、Ge、Ga、Be、Au、Ag、等も挙げられる。
アモルファス合金リボンにおける不純物の総含有量は、アモルファス合金リボンの全質量に対し、1.5質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましい。
【0047】
アモルファス合金リボンは、軸回転する冷却ロールに合金溶湯を噴出する液体急冷法等の公知の方法によって作製することができる。
【0048】
アモルファス合金リボンの厚さには特に制限はないが、10μm〜30μmであることが好ましい。
厚さが10μm以上であると、アモルファス合金リボンの機械的強度が確保され、アモルファス合金リボンの作製段階又はナノ結晶合金リボンを得る工程におけるアモルファス合金リボンの破断が抑制される。アモルファス合金リボンの厚さは、15μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。
厚さが30μm以下であると、アモルファス合金リボンにおいて、安定したアモルファス状態が得られる。
【0049】
また、アモルファス合金リボンの幅にも特に制限はないが、5mm〜100mmであることが好ましい。
アモルファス合金リボンの幅が5mm以上であると、アモルファス合金リボンの製造適性に優れる。
アモルファス合金リボンの幅が100mm以下であると、ナノ結晶合金リボンを得る工程において、ナノ結晶化の均一性がより向上する。
アモルファス合金リボンの幅は、70mm以下であることが好ましい。
【0050】
また、本実施形態の製造方法によって製造されるナノ結晶合金リボンの厚さ及び幅の好ましい範囲は、それぞれ、上述したアモルファス合金リボンの幅及び厚さの好ましい範囲と同様である。
【0051】
アモルファス合金リボンを準備する工程は、上記アモルファス合金リボンの巻回体を準備することを含んでいてもよい。
この場合、以下のナノ結晶合金リボンを得る工程では、アモルファス合金リボンの巻回体から巻き出されたアモルファス合金リボンを、張力Fが加わる状態で連続走行させる。
【0052】
<ナノ結晶合金リボンを得る工程>
本工程は、アモルファス合金リボンを張力Fが加わる状態で連続走行させ、張力Fが加わる状態で連続走行するアモルファス合金リボンの一部の領域を、450℃以上の温度に維持された伝熱媒体に、上述した式(1)を満たす条件で接触させることにより、アモルファス合金リボンの温度を350℃から450℃までの温度領域の平均昇温速度が10℃/秒以上となる昇温速度で450℃以上の到達温度まで昇温させてナノ結晶合金リボンを得ることを含む。
ナノ結晶合金リボンを得る工程の好ましい態様の一部については、既に説明したとおりである。
【0053】
伝熱媒体としては、プレート、ツインロール、等が挙げられる。
伝熱媒体の材質としては、銅、銅合金(青銅、真鍮、等)、アルミニウム、鉄、鉄合金(ステンレス等)、などが挙げられ、銅、銅合金、又はアルミニウムが好ましい。
伝熱媒体は、Niめっき、Agめっき等のめっき処理が施されていてもよい。
【0054】
伝熱媒体の温度は、前述のとおり450℃以上である。これにより、リボンの組織において、ナノ結晶化が進行する。
伝熱媒体の温度は、450℃〜550℃が好ましい。
伝熱媒体の温度が550℃以下である場合(特に、後述するBの含有量が10原子%以上20原子%以下である場合)には、ナノ結晶合金リボンの軟磁気特性(Hc、Bs、等)を劣化させ得るFe−B化合物の析出頻度をより低減できる。
【0055】
また、本工程では、アモルファス合金リボンを450℃以上の到達温度まで昇温させる。これにより、リボンの組織において、ナノ結晶化が進行する。
到達温度は、450℃〜550℃が好ましい。
到達温度が550℃以下である場合(特に、後述するBの含有量が10原子%以上20原子%以下である場合)には、ナノ結晶合金リボンの軟磁気特性(Hc、Bs、等)を劣化させ得るFe−B化合物の析出頻度をより低減できる。
また、到達温度は、伝熱媒体の温度と同一温度であることが好ましい。
【0056】
また、本工程では、昇温後、伝熱媒体上にて、ナノ結晶合金リボンの温度を一定時間保持してもよい。
また、本工程では、得られたナノ結晶合金リボンを(好ましくは室温まで)冷却することが好ましい。
また、本工程は、得られたナノ結晶合金リボン(好ましくは上記冷却後のナノ結晶合金リボン)を巻き取ることにより、ナノ結晶合金リボンの巻回体を得ることを含んでもよい。
【0057】
<本実施形態の製造方法の一態様>
本実施形態の製造方法の好ましい一態様として、伝熱媒体を備えたインラインアニール装置を用い、上記アモルファス合金リボンを伝熱媒体に接触させて熱処理することにより、ナノ結晶合金リボンを作製する態様(以下、「態様X」とする)が挙げられる。
【0058】
図1は、態様Xにおける、インラインアニール装置の伝熱媒体と、この伝熱媒体に接触するアモルファス合金リボン(伝熱媒体との接触後はナノ結晶合金リボン)と、を概念的に示す部分側面図である。
図1に示すように、態様Xでは、ブロック矢印の方向に連続走行するアモルファス合金リボン10Aを450℃以上の温度に維持された伝熱媒体20に接触させることにより、アモルファス合金リボン10Aを連続的に熱処理する。以下、この熱処理の詳細について、便宜上、段階的に説明するが、以下の熱処理は連続的に行われるものである。
まず、テンショナー(不図示)によって張力Fが加えられた状態のアモルファス合金リボン10Aを、450℃以上の温度に維持された伝熱媒体20に、進入角度θにて進入させる。これにより、伝熱媒体20にアモルファス合金リボン10Aを接触させる。
次いで、アモルファス合金リボン10Aを伝熱媒体20によって熱処理することにより、ナノ結晶合金リボン10Bを得る。詳細には、伝熱媒体20に上記式(1)(t
c>4/σ)を満たす条件で接触させることにより、アモルファス合金リボン10Aを350℃から450℃までの温度領域の平均昇温速度R
350−450が10℃/秒以上となる条件で450℃以上の温度まで昇温させることにより、ナノ結晶合金リボン10Bを得る。
平均昇温速度R
350−450、並びに、上記式(1)中のt
c及びσの好ましい範囲は前述したとおりである。
【0059】
熱処理後、ナノ結晶合金リボン10Bを伝熱媒体20から退出角度αにて退出させ、次いで室温まで冷却(空冷)する。その後、不図示の巻取りロールによって、ナノ結晶合金リボン10Bを巻き取る。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0061】
〔実施例1〕
<ナノ結晶含有リボンの作製>
軸回転する冷却ロールに合金溶湯を噴出する液体急冷法により、Fe
80.8B
14.0Si
4.0Cu
1.0Mo
0.2で表される組成を有する、幅25.4mm、厚さ23μmのアモルファス合金リボンを製造した。
X線回折及び透過型電子顕微鏡(TEM)観察の結果、アモルファス合金リボンのアモルファス相中にはナノ結晶の析出は確認されなかった。
【0062】
次に、上述した態様Xにより、伝熱媒体を備えたインラインアニール装置を用い、上記アモルファス合金リボンを伝熱媒体に接触させて熱処理することにより、ナノ結晶合金リボンを作製した。得られたナノ結晶合金リボンを伝熱媒体から退出させ、次いで室温まで冷却(空冷)した。
本実施例1における製造条件は以下のとおりである。
【0063】
−実施例1における製造条件−
伝熱媒体:ブロンズ製プレート
伝熱媒体の温度:480℃
アモルファス合金リボンに加わる張力F:3.0N
アモルファス合金リボンと伝熱媒体との接触面積a:1880mm
2
進入角度θ:5°
アモルファス合金リボンと伝熱媒体との接触圧力σ:0.28kPa(上述した式(X)に基づく算出値)。
退出角度α:5°
平均昇温速度R
350−450:20℃/秒
到達温度T
a:480℃
【0064】
上記冷却後のナノ結晶合金リボンの断面をTEMで観察したところ、上記冷却後のナノ結晶合金リボンは、結晶粒径1nm以上40nm以下のナノ結晶粒を含んでいた。また、上記冷却後のナノ結晶合金リボンにおけるナノ結晶粒相の含有量は30体積%以上であった。
なお、本実施例では、視野面積1μm×1μmのTEM像全体に占める結晶粒径1nm以上40nm以下のナノ結晶粒の面積の比率(%)を求め、この面積の比率(%)を、ナノ結晶合金リボンにおけるナノ結晶粒相の含有量(体積%)とした。
【0065】
また、ICP発光分光分析により、上記冷却後のナノ結晶合金リボンは、原料であるアモルファス合金リボンと同じ組成であることが確認された。
【0066】
<ナノ結晶含有リボンの測定>
上記冷却後のナノ結晶合金リボンについて、リップルの高さ(mm)の最大値を、ノギスを用いて測定した。結果を表1に示す。
【0067】
〔実施例2〜9、比較例1〜5〕
製造条件を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
結果を表1に示す。
ここで、接触圧力σは、張力F、接触面積a、及び進入角度θの組み合わせを変化させることによって変化させ、接触時間t
cは、アモルファス合金リボンの進行速度を変化させることによって変化させた。
接触面積aは、伝熱媒体における、アモルファス合金リボンとの接触部分のリボン走行方向の長さを変化させることにより変化させた。
【0068】
なお、実施例2〜9のいずれにおいても、冷却後のナノ結晶合金リボンは、結晶粒径1nm以上40nm以下のナノ結晶粒を含んでおり、ナノ結晶合金リボンにおけるナノ結晶粒相の含有量は30体積%以上であった。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示すように、t
c>4/σ〔即ち、式(1)〕を満たす条件で製造された実施例1〜9のナノ結晶合金リボンは、リップルが抑制されていた。
一方、t
c>4/σ〔即ち、式(1)〕を満たさない比較例1〜5のナノ結晶合金リボンには、顕著なリップルが発生した。
【0071】
2016年2月29日に出願された米国仮特許出願62/300,938の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。