特許第6709937号(P6709937)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6709937
(24)【登録日】2020年5月28日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】アワビ類育成用海底設置型網生け簀
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/60 20170101AFI20200608BHJP
   A01K 61/51 20170101ALI20200608BHJP
   A01M 29/30 20110101ALI20200608BHJP
【FI】
   A01K61/60 321
   A01K61/51
   A01M29/30
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-70547(P2016-70547)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-176082(P2017-176082A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090402
【弁理士】
【氏名又は名称】窪田 法明
(72)【発明者】
【氏名】山川 紘
【審査官】 田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−013158(JP,U)
【文献】 実開昭56−131865(JP,U)
【文献】 実開昭58−194667(JP,U)
【文献】 特開平09−289841(JP,A)
【文献】 特開平09−140289(JP,A)
【文献】 特開2000−125690(JP,A)
【文献】 米国特許第04395970(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00−61/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂地の海底に設置されている生け簀と、該海底に打ち込んだアンカーとからなり、該生け簀は、魚礁ブロック支持体と、該魚礁ブロック支持体の上に載置された魚礁ブロックと、該魚礁ブロックを上方から被覆する上部ネットとからなり、該魚礁ブロック支持体は、該魚礁ブロックを下方から支持する下部ネットと、該下部ネットの周囲を引っ張った状態で支持する支持フレームとからなり、該魚礁ブロック支持体は海底の近くに該海底から間隔をおいて設けられ、該アンカーは複数本の隅アンカーと中央アンカーとからなり、該魚礁ブロック支持体は該隅アンカーに係留・固定されていることを特徴とするアワビ類育成用海底設置型網生け簀。
【請求項2】
前記下部ネットの中央部は該下部ネットの略中央部を貫通する中央アンカーに支えられていることを特徴とする請求項1に記載のアワビ類育成用海底設置型網生け簀。
【請求項3】
海面下5〜20mに設置されていることを特徴とする請求項1に記載のアワビ類育成用海底設置型網生け簀。
【請求項4】
海面下12〜20mに設置されていることを特徴とする請求項1に記載のアワビ類育成用海底設置型網生け簀。
【請求項5】
前記上部ネットを形成している網材の目合いが4cm〜6cmであることを特徴とする請求項1に記載のアワビ類育成用海底設置型網生け簀。
【請求項6】
前記下部ネットが対角線位置にあるロープによって補強されていることを特徴とする請求項1に記載のアワビ類育成用海底設置型網生け簀。
【請求項7】
前記下部ネットが中間層と、該中間層の表面側に積層された表面層と、該中間層の裏面側に積層された裏面層とからなり、該中間層の網材の目合いは1.5cm〜2cmであり、該表面層と該裏面層の目合いは該中間層の目合いより大きいことを特徴とする請求項1に記載のアワビ類育成用海底設置型網生け簀。
【請求項8】
前記上部ネットに開口部が設けられ、該開口部に扉が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のアワビ類育成用海底設置型網生け簀。
【請求項9】
海底に打ち込まれたアンカーにロープを用いて係留されていることを特徴とする請求項1に記載のアワビ類育成用海底設置型網生け簀。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砂の多い海底に長期間に亘って設置しても砂に埋まり難いアワビ類育成用海底設置型網生け簀に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アイゴ、ウニ、小型巻貝などに食害、生活排水や土砂の流入、海流の変化など、様々な理由によって、海底に生えている海藻が減少又は消失し、そのまま回復しないで、海底が砂漠化し、いわゆる磯焼け状態になることがある。海底がこのような状態になると、海中から魚介類が減少するかいなくなり、魚介類が獲れなくなる。そして、このような海底を抱えている地域社会の経済状況は著しく悪化してしまう。
【0003】
現在、このような状態になった海底は日本の各地にあり、このような海底を抱えている地域社会の経済状況は著しく悪化しており、その回復が強く求められている。
【0004】
このような状態になった海底を抱える地域社会の経済を回復させるためには、このような海底を活用して、できるだけ多くの利益を生ませる必要がある。海底を活用して、できるだけ多くの利益を生ませる方法としては、一例としてアワビの養殖がある。アワビは高値で売れて、養殖者に大きな経済的利益が得られるからである。
【0005】
しかし、このような海底にはアワビの餌となる褐藻類が殆ど生えていないので、養殖アワビに餌を与えなければならないが、アワビの稚貝を放流しただけだと、アワビの稚貝が隠れる場所を求めて周囲に逃散してしまい、餌を与えることができない。
【0006】
また、このような海底にアワビの稚貝をそのまま放流したとすると、アワビの稚貝は隠れる場所が無く、天敵(タコ、ヒトデ、フグ、ベラ、カニ、伊勢海老)に食べられてしまい、成長したアワビの収獲は期待できない。
【0007】
アワビの稚貝の逃散を防ぎ、且つアワビの稚貝を天敵から守るために、ケージの中にアワビの稚貝を魚礁ブロックとともに入れ、このケージを海底に沈めてアワビを養殖することが考えられる。
【0008】
しかし、このようなケージを海底に沈めてアワビを養殖しようとすると、アワビの養殖期間が長期間に及ぶので、アワビの養殖中に、海底の砂が潮流や波で移動してきたり、海中の漂砂が少しずつ沈積して、ケージ及び該魚礁ブロックがこれらの砂に埋まり、アワビの養殖が途中で継続できなくなるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−305042
【特許文献2】特開2014−150770
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】蒲原聡、服部克也、岡村康弘、三宅佳亮、荒川順平著 「平成17年度 水産試験場業務報告 1 海面増養殖技術試験(栽培漁業グループ) (5)アラメ藻場再生緊急技術開発試験」愛知県水産試験場 平成18年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、磯焼け状態になった海底が漁業に利用されていない点、砂の多い海底に設置した生け簀で魚介類を養殖した場合、養殖中に生け簀が砂に埋まってしまい、養殖ができなくなる点、海底が一旦磯焼け状態になると、自然の力だけでは藻場がなかなか回復しない点である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るアワビ類育成用海底設置型網生け簀は、複数個の魚礁ブロックと、該魚礁ブロックを下方から支持する魚礁ブロック支持体と、該魚礁ブロックを上方から被覆する上部ネットとを備え、該魚礁ブロック支持体は、該魚礁ブロックを下方から支持する下部ネットと、該下部ネットの周囲を引っ張った状態で支持する支持フレームとからなり、該上部ネット及び該下部ネットは網材からなり、該上部ネットと該下部ネットによって該魚礁ブロック囲む空間が形成され、該下部ネットは海底から間隔をおいて設けられていることを最も主要な特徴とする。
【0013】
ここで、該下部ネットの中央部は該下部ネットの略中央部を貫通する中央アンカーによって支えられ、該下部ネットと海底との間に間隔が形成されている。該支持フレームとしては、例えば4本のパイプを井桁状に矩形に組み、交差部を結束バンドやロープで固定したものを使用することができるが、しっかりした矩形のフレームであれば、これ以外の方法によって形成した支持フレームを用いても良い。
【0014】
また、生け簀は、海面下5〜20mとすることが好ましい。アワビの生息域は、クロアワビは海面下2〜6m、メガイアワビは海面下4〜15m、マダカアワビは海面下10〜30mと言われており、養殖対象種と生け簀の設置との選択がなされうる。一方、海面下12mより深い場所であれば、台風などで生ずる激しい波浪や潮流の影響が生け簀に及び難く、台風などで生ずる激しい波浪や潮流によって生け簀が移動又は破壊され難いからである。しかし、5〜12mでは、外洋に面していない水域で、アンカー強度を高めた設置が可能である。生け簀の設置深さは、漁業者が普通に潜水できる深さまでが好ましく、下限の深さは海面下16m、高々20mである。
【0015】
また、該上部ネットを形成している網材の目合いは4cm〜6cmが好ましい。目合いが4cm未満では、海水中の汚れや付着生物による該上部ネットの目詰まりが生じ、目合いが6cmを越えるとアワビが逃散するおそれがあるが、目合いが4cm〜6cmの範囲であれば、該上部ネット外の海水が該上部ネットを通して該上部ネット内に容易に流れ込み、該上部ネット内の海水がたえず新鮮な海水に交換され、アワビの生育環境が良好に保たれるからである。
【0016】
また、該下部ネットは、中間層と、該中間層の表面側に積層された表面層と、該中間層の裏面側に積層された裏面層とからなり、該中間層の網材の目合いは1.5cm〜2cmであり、該表面層と該裏面層の目合いは中間層の目合いより大きくしてある。中間層の網材の目合いを1.5cm〜2cmとしたのは、該下部ネットの引っ張り強度をできるだけ高め、該下部ネットを支持フレームに強く張り、重い魚礁ブロックを支持することができるようにし、且つ砂の通り抜けを可能とするためである。
【0017】
また、該上部ネットには開口部が設けられ、該開口部には扉が設けられており、漁業者が扉を開けて生け簀内のアワビを収獲することができるようになっている。
【0018】
また、生け簀の周囲の海底には4本のアンカーが打ち込まれて、生け簀の支持フレームがこれらのアンカーにロープを介して係留され、生け簀が波浪や潮流などで移動しないようになっている。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載のアワビ類育成用海底設置型網生け簀は、該下部ネット及び該上部ネットが網材からなるので、海底の砂や海中の漂砂が該下部ネット及び該上部ネットをすり抜けて移動又は降下し、下部ネットが海底から間隔をおいて設けられているので、すり抜けた砂や降下した砂で下部ネットが埋まらない。従って、生け簀を設置してから長期間が経過しても、海底を移動する砂や海中の漂砂によって生け簀が埋もれることがなく、生け簀を長期間に亘って海底に設置しておくことができるという利点がある。
【0020】
また、請求項1記載のアワビ類育成用海底設置型網生け簀は、該下部ネット及び該上部ネットが網材からなり、海中の潮流が該下部ネット及び該上部ネットをすり抜けて流れて行くので、台風などで生ずる激しい波浪や潮流があっても生け簀は波浪や潮流によって押され難く、移動し難いという利点がある。
【0021】
また、請求項1記載のアワビ類育成用海底設置型網生け簀は、該下部ネットの上方に該魚礁ブロックを被覆する該上部ネットを備え、該下部ネットと該上部ネットによって該魚礁ブロックを囲む空間が形成され、該魚礁ブロックの隙間や魚礁裏面等で生活している養殖アワビが天敵から守られるので、養殖アワビの生存率が生け簀の外にいる天敵により悪化しないという利点がある。
【0022】
また、請求項1記載のアワビ類育成用海底設置型網生け簀は、該下部ネットの上方に該魚礁ブロックを被覆する該上部ネットを備え、該下部ネットと該上部ネットによって該魚礁ブロックを囲む空間が形成され、該魚礁ブロックに着床して生育した褐藻類の幼体が藻食性魚類から保護されるので、成長した褐藻類がアワビの餌として利用され、養殖アワビへの給餌作業を減らすことができるという利点がある。
【0023】
また、請求項1記載のアワビ類育成用海底設置型網生け簀は、該下部ネットの上方に該魚礁ブロックを被覆する該上部ネットを備え、該下部ネットと該上部ネットによって該魚礁ブロックを囲む空間が形成され、該魚礁ブロックに着床した褐藻類の幼体が藻食性魚類から保護されるので、該魚礁ブロックが拠点になって藻場が回復されるという利点がある。
【0024】
また、請求項2記載のアワビ類育成用海底設置型網生け簀は、該下部ネットの中央部が中央アンカーによって支えられているので、該魚礁ブロックの重みで垂れ下がろうとする該下部ネットの中央部と海底との間に間隔を設けることができるという利点がある。
【0025】
また、請求項3記載のアワビ類育成用海底設置型網生け簀は、台風などで生ずる激しい波浪や潮流の影響が及び難い、海面下12mより深い場所に設置されていて、台風などで生ずる激しい波浪や潮流の影響が生け簀に及び難いので、台風などで生ずる激しい波浪や潮流によって生け簀が移動又は破壊され難いという利点がある。
【0026】
また、請求項4記載のアワビ類育成用海底設置型網生け簀は、該上部ネットを形成している網材の目合いが4cm〜6cmで、海水中の汚れや付着生物による該上部ネットの目詰まりが生じ難いので、該上部ネット外の海水が該上部ネットを通り抜けて該上部ネット内に容易に流れ込み、該上部ネット内の海水がたえず新鮮な海水に交換され、従って、アワビの生育環境が良好に保たれるという利点がある。
【0027】
また、請求項5記載のアワビ類育成用海底設置型網生け簀は、前記下部ネットが対角線位置にあるロープによって補強されているので、該下部ネット上の該魚礁ブロックを該下部ネットでより強固に支えることができるという利点がある。
【0028】
また、請求項6記載のアワビ類育成用海底設置型網生け簀は、3枚の樹脂ネットにより該下部ネットが形成され、該下部ネットの引っ張り強度が高められているので、該下部ネットを強く引っ張って該支持フレームに張ることにより、該下部ネット上の該魚礁ブロックを該下部ネットで強固に支えることができるという利点がある。
【0029】
また、請求項7記載のアワビ類育成用海底設置型網生け簀は、該上部ネットに開口部が設けられ、開口部に扉が設けられているので、漁業者が扉を開けて開口部から生け簀内に入り、アワビの稚貝を容易に放流し、生け簀内のアワビを容易に収獲することができるという利点がある。
【0030】
また、請求項8記載のアワビ類育成用海底設置型網生け簀は、支持フレームがアンカーに係留されているので、生け簀が台風などで生ずる激しい波浪や潮流によって煽られても、設置場所から他の場所に移動しないという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は本発明に係るアワビ類育成用海底設置型網生け簀の一例を示す斜視図である。
図2図2は本発明に係るアワビ類育成用海底設置型網生け簀の魚礁ブロック支持体に支持されている複数個の魚礁ブロックの配置状態を示す説明図である。
図3図3は本発明に係るアワビ類育成用海底設置型網生け簀の魚礁ブロック支持体の説明図である。
図4図4は海底に設置された状態の本発明に係るアワビ類育成用海底設置型網生け簀と海底との関係を示す説明図である。
図5図5は本発明に係るアワビ類育成用海底設置型網生け簀の他の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
磯焼け状態になった砂質の海底に設置したアワビ類育成用海底設置型網生け簀内でアワビを養殖して該海底をアワビ養殖に利用するという目的を、網生け簀を海底から間隔をおいて設置するという簡単な構成で、海底を移動する砂や海中の漂砂で該生け簀が埋まることがないように実現した。
【実施例1】
【0033】
図1は本発明に係るアワビ類育成用海底設置型網生け簀の一例を示す斜視図、図2は本発明に係るアワビ類育成用海底設置型網生け簀の魚礁ブロック支持体に支持されている複数個の魚礁ブロックの配置状態を示す説明図、図3は本発明に係るアワビ類育成用海底設置型網生け簀の魚礁ブロック支持体の説明図、図4は海底に設置された状態の本発明に係るアワビ類育成用海底設置型網生け簀と海底との関係を示す説明図である。
【0034】
本発明に係るアワビ類育成用海底設置型網生け簀の一例である生け簀10は、図1に示すように、複数個の魚礁ブロック12と、魚礁ブロック12を下方から支持する魚礁ブロック支持体14と、複数個の魚礁ブロック12を上方から被覆する上部ネット16とからなる。魚礁ブロック支持体14と上部ネット16とによって魚礁ブロック12を囲む空間が形成されている。
【0035】
ここで、魚礁ブロック12は、下側(裏面側)にアワビが棲息できるような隙間が形成される形状のものが好ましく、例えば断面H状、断面コ字状又は断面L字状、不規則形状など、種々の形状のものを使用することができる。魚礁ブロック12は魚礁ブロック支持体14の上に、図2に示すように、複数個が表裏を互い違いにし、所定間隔をおいて載置されている。隣り合う魚礁ブロック12はロープ等(図示せず)により相互に連結されて、台風等の嵐で生け簀が攪乱されても、魚礁ブロック12が一カ所に集まらないようになっている。
【0036】
魚礁ブロック支持体14は、図3に示すように、支持フレーム18と、支持フレーム18に引っ張った状態で張られた下部ネット20とからなる。支持フレーム18は、長さ5mで、太さが8.5cmφのパイプ4本からなる。4本のパイプは井桁状に組まれ、交差している部分は連結金具ないし結束バンドで固定されている。
【0037】
下部ネット20の中央部には貫通穴24が形成され、下部ネット20の対角線の位置には補強ロープ26が取り付けられている。下部ネット20は、中間層と、該中間層の表面側に積層された表面層と、該中間層の裏面側に積層された裏面層とを積層一体化させたものからなる。中間層、表面層及び裏面層は網材からなり、中間層の網材の目合いは1.5cm、表面層の目合いは5cm、裏面層の目合いは5cmである。
【0038】
上部ネット16は網材からなり、上部ネット16を形成している網材の目合いは5cmである。この例の上部ネット16は箱状に形成され、箱状に形成された上部ネット16の上面と側面は一体的に形成されている。上部ネット16の上面の対角線の位置には補強ロープ28が取り付けられている。上部ネット16の上面には開口部(図示せず)が形成され、該開口部には扉(図示せず)が取り付けられている。
【0039】
支持フレーム18の四隅の各連結部の近傍には隅アンカー30が海底に各々打ち込まれている。隅アンカー30は、長さ3mで、太さが8.5cmφのパイプ4本からなり、海底に2m打ち込まれ、海底から1mが上に出ている。
【0040】
下部ネット20の中央部の貫通穴24を貫通する状態で中央アンカー32が海底に打ち込まれている。中央アンカー32は、長さ4mで、太さが8.5cmφのパイプからなり、海底に2m打ち込まれ、海底から2mが上に出ている。下部ネット20の中央部は貫通穴24を貫通する中央アンカー32によって、図4に示すように支えられ、海底22から間隔が形成されるようになっている。
【0041】
下部ネット20の補強ロープ26の一方の端部は中央アンカー32に連結され、補強ロープ26の他方の端部は隅アンカー30に連結されている。また、上部ネット16の補強ロープ28の一方の端部は中央アンカー32に連結され、補強ロープ28の他方の端部は隅アンカー30に連結されている。
【0042】
なお、上部ネット16は、図1に示すような平板な直方体の形状のものに限らず、図5に示すような、平板な直方体の上部に四角錐からなるテント状(笠状)の形状のものを載せた形状のものでもよい。このような形状の上部ネットを使用した場合、漁業者が生け簀10の中に入って作業する場合、作業がし易いという利点がある。また、支持フレーム18及びアンカー30,32の材料としては、合成樹脂又は金属を用いることができる。合成樹脂を用いる場合は強度が高いものが好ましく、金属を用いる場合はステンレスのような耐食性のあるものが好ましい。また、ステンレスアンカー杭には腐食防止用電池メタルを付けることがなお好ましい。
【0043】
次に、以上説明したアワビ類育成用海底設置型網生け簀の設置の仕方とこの網生け簀の使い方について説明する。
【0044】
生け簀の設置: 支持フレーム18に下部ネット20を取り付けた魚礁ブロック支持体14をあらかじめ陸上で作成しておく。ここで、下部ネット20の対角線の位置には4本の補強ロープ26をあらかじめ一体的に取り付け、下部ネット20の中央部には貫通穴24をあらかじめ形成しておく。
【0045】
次に、生け簀を設置したい場所の海上まで魚礁ブロック支持体14を船で運び、魚礁ブロック支持体14を海中に降ろして、海底22に魚礁ブロック支持体14を敷設する。魚礁ブロック支持体14の下部ネット20の中央部の貫通穴24に中央アンカー32を貫通させて海底22に打ち込む。魚礁ブロック支持体14の下部ネット20の上に魚礁ブロック12を置く。隣り合う魚礁ブロック12をロープ又は結束バンド(図示せず)で相互に連結する。
【0046】
次に、魚礁ブロック支持体14の支持フレーム18の四隅の近くの海底22に隅アンカー30を各々打ち込む。下部ネット20に取り付けられた4本の補強ロープ26について、各一方の端部を中央アンカー32にしっかり結び付け、各他方の端部を隅アンカー30にしっかり結び付ける。
【0047】
次に、船から上部ネット16を海中に降ろし、上部ネット16を魚礁ブロック支持体14の上に載せ、魚礁ブロック支持体14の支持フレーム18に上部ネット16の下縁を連結する。上部ネット16に取り付けられた4本の補強ロープ28について、各一方の端部を中央アンカー32にしっかり結び付け、各他方の端部を隅アンカー30にしっかり結び付ける。
【0048】
中央アンカー32にはロープ(図示せず)を介して浮球(図示せず)を取り付けておく。浮球は海上を漂い、生け簀の位置を知らせる。
【0049】
稚貝アワビの放流: 稚貝アワビを放流する漁業者は船で生け簀の場所まで行く。生け簀の場所は浮球を目印とする。生け簀の場所まで行った漁業者は放流する稚貝アワビを持って海中に潜る。潜った漁業者は生け簀の出入口の扉を開け、出入口から生け簀内に入り、魚礁ブロック12の上から稚貝アワビを放流する。稚貝アワビを放流した漁業者は、生け簀の出入口から外に出て、生け簀の出入口の扉を閉め、浮上して船上に戻る。
【0050】
アワビへの給餌: アワビに給餌する漁業者は船で生け簀の場所まで行く。生け簀の場所は浮球を目印とする。浮球が取り付けられているロープを船の上に引き上げ、ロープにバケツを取り付けておく。アワビの餌として準備した褐藻類をミキサーで海水とともに破砕し、得られた褐藻類のスラリー(褐藻類の破砕片と海水とからなる液状の混合物)をバケツに入れる。スラリーを入れたバケツをロープとともに海中に降ろし、海中に降ろしたバケツを生け簀の上でひっくり返す。バケツの中のスラリーは生け簀に向かって自重でゆっくり降下し、生け簀の上部ネットをすり抜けて生け簀の内部に入り、魚礁ブロック12の上に落ちる。魚礁ブロック12の上に落ちたスラリー、すなわち褐藻類の破砕片は魚礁ブロック12の隙間に棲息しているアワビの稚貝が食べる。
【0051】
アワビの収獲: アワビを収獲する漁業者は船で生け簀の場所まで行く。生け簀の場所は浮球を目印とする。生け簀の場所まで行った漁業者は収獲用のネット袋を持って海中に潜る。潜った漁業者は生け簀の出入口の扉を開け、出入口から生け簀内に入り、魚礁ブロック12の上から魚礁ブロック12をひっくり返し、魚礁ブロック12の裏側に貼り付いているアワビを剥がし取る。アワビを収獲した漁業者は、生け簀の出入口から外に出て、生け簀の出入口の扉を閉め、浮上して船上に戻る。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、海底で生活するアワビ以外の魚介類、例えばエビ、かに、ホタテ等の養殖にも適用できる。
【符号の説明】
【0053】
10 生け簀
12 魚礁ブロック
14 魚礁ブロック支持体
16 上部ネット
18 支持フレーム
20 下部ネット
22 海底
24 貫通穴
26 補強ロープ
28 補強ロープ
30 隅アンカー
32 中央アンカー
図1
図2
図3
図4
図5