特許第6710685号(P6710685)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6710685導電性透明層の製造のための銀ナノワイヤーおよびスチレン/(メタ)アクリル酸コポリマーを含む組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6710685
(24)【登録日】2020年5月29日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】導電性透明層の製造のための銀ナノワイヤーおよびスチレン/(メタ)アクリル酸コポリマーを含む組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/08 20060101AFI20200608BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20200608BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20200608BHJP
   C09D 125/08 20060101ALI20200608BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20200608BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20200608BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20200608BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20200608BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20200608BHJP
   B41M 1/30 20060101ALI20200608BHJP
   B05D 5/12 20060101ALI20200608BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20200608BHJP
【FI】
   C08L25/08
   C08K3/08
   C08K7/06
   C09D125/08
   C09D7/40
   C09D5/24
   H01B1/22 A
   H01B5/14 A
   H01B13/00 503B
   B41M1/30 D
   B05D5/12 B
   B05D7/24 302P
   B05D7/24 303C
【請求項の数】15
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-527971(P2017-527971)
(86)(22)【出願日】2015年8月11日
(65)【公表番号】特表2017-532429(P2017-532429A)
(43)【公表日】2017年11月2日
(86)【国際出願番号】EP2015068421
(87)【国際公開番号】WO2016023887
(87)【国際公開日】20160218
【審査請求日】2018年8月10日
(31)【優先権主張番号】62/037,630
(32)【優先日】2014年8月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ルーイ
(72)【発明者】
【氏名】ディーチュ,ハーフェ
(72)【発明者】
【氏名】カオ,シュエロン
【審査官】 藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−537570(JP,A)
【文献】 特開2007−157440(JP,A)
【文献】 特開2007−238859(JP,A)
【文献】 特開2010−285521(JP,A)
【文献】 特開2013−196918(JP,A)
【文献】 特表2010−503181(JP,A)
【文献】 特開2014−025100(JP,A)
【文献】 特表2013−544917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
C08F 6/00−246/00、301/00
H01B 1/00−1/24
B05D 1/00−7/26
C09D 1/00−13/00、101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ASTM D1003に準じた測定により可視光域で80%以上の光透過率を有する導電性透明層を製造するための組成物であって、
(A)水と、
(B)1μmから100μmの範囲の長さ、および1nmから100nmの範囲の直径を有し、銀、銅および金からなる群より選択される1種または複数の金属を含むナノワイヤーであって、質量分率が、組成物の総質量に対して0.01質量%から0.5質量%の範囲である導電性ナノオブジェクト(B)と、
(C)水に溶解した1種または複数のスチレン/(メタ)アクリル酸コポリマー(C)と、
を含み、
前記1種類または複数のスチレン/(メタ)アクリル酸ポリマー(C)は、
下記コポリマー構成単位(C1)およびコポリマー構成単位(C2)
【化1】
【化2】
(式中、Rは、他の各コポリマー構成単位(C1)のRから独立に、水素およびアルキルからなる群より選択され、
は、他の各コポリマー構成単位(C1)のRから独立に、ハロゲンおよびアルキルからなる群より選択され、Rは、オルト、メタおよびパラからなる群より選択される部位に位置し、
は、他の各コポリマー構成単位(C2)のRから独立に、水素、メチル、ハロゲンおよびシアノからなる群より選択され、
は、他の各コポリマー構成単位(C2)のRから独立に、
− COOHと、
− COOX(式中、Xは、アルカリ金属カチオン、アンモニウムカチオンおよび置換アンモニウムカチオンから選択されるカチオンである)と、
− CNと、
− COOR(式中、Rは、分岐および非分岐アルキル基、分岐および非分岐アルケニル基、分岐および非分岐アルキニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アラルケニル基、フルフリル基、テトラヒドロフルフリル基、イソプロピリデングリセリル基、グリシジル基およびテトラヒドロピラニル基からなる群より選択され、前記分岐および非分岐アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、ヒドロキシ基、アルコキシ基、フェノキシ基、ハロゲン基、スルホ基、ニトロ基、オキサゾリジニル基、モノアルキルアミノ基およびジアルキルアミノ基からなる群より選択される1つまたは複数の基によって置換された分岐および非分岐アルキル基を含む)と、
− CHOと、
からなる群より選択される
含み、
前記1種または複数のスチレン/(メタ)アクリル酸コポリマー(C)は、500g/molから22000g/molの範囲の数平均分子量をそれぞれ有し、
組成物の総質量に対する前記1種または複数のスチレン/(メタ)アクリル酸コポリマー(C)の総質量分率が、0.02質量%から2質量%の範囲であり、
前記導電性ナノオブジェクト(B)の総質量と前記1種または複数のスチレン/(メタ)アクリル酸コポリマー(C)の総質量との比が、1:5から5:1の範囲である組成物。
【請求項2】
カーボンナノチューブを含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
コポリマー構成単位(C2)におけるRは、他の各コポリマー構成単位(C2)のRから独立に
COOHと、
− COOX(式中、Xは、アルカリ金属カチオン、アンモニウムカチオンおよび置換アンモニウムカチオンから選択されるカチオンである)請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
1種または複数の追加の結合剤をさらに含み、
組成物の総質量に対する前記追加の結合剤の総質量分率が、組成物の総質量に対して前記1種または複数のスチレン/(メタ)アクリル酸コポリマー(C)の総質量分率以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
(A)水と、
(B)10μmから50μmの範囲の長さおよび3nmから30nmの範囲の直径を有する銀ナノワイヤー(B)と、
(C)1700g/molから15500g/molの範囲の数平均分子量を有し、質量分率が組成物の総質量に対して2質量%未満であるスチレン/(メタ)アクリル酸コポリマー(C)と、
を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載組成物。
【請求項6】
ASTM D1003(手順A)に従って測定して80%以上の光透過率を有する導電性層を基材上に製造するための方法であって、
請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物を製造または用意する工程、
基材の表面に前記組成物を塗布する工程、及び
25℃および101.325kPaで液体である成分を、前記基材の前記表面に塗布された前記組成物から、前記基材の前記表面上に層が形成される程度まで除去する工程、
を含む方法。
【請求項7】
前記基材の前記表面に前記組成物を塗布することが、スピンコーティング、ドローダウンコーティング、ロールツーロールコーティング、グラビア印刷、マイクログラビア印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷およびスロットダイコーティングからなる群より選択される技法によって実施される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記基材が、ガラスおよび有機ポリマーからなる群より選択される材料を含む、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記基材の前記表面に塗布された前記組成物から、25℃および101.325kPaで液体の成分を、前記基材の前記表面に塗布された前記組成物を15分以下の持続期間にわたって100℃から150℃の範囲の温度に暴露することによって除去する、請求項6から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
25℃および101.325kPaで固体である請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物の成分を含む、ASTM D1003(手順A)に従って測定して80%以上の光透過率を有する導電性層。
【請求項11】
− ASTM D1003(手順A)に従って測定して2%以下のヘイズおよび
− 4点プローブによって測定して1000オーム/スクウェア以下のシート抵抗
を示す、請求項10に記載の導電性層。
【請求項12】
− ASTM D1003(手順A)に従って測定して1%以下のヘイズと、
− 4点プローブによって測定して100オーム/スクウェア以下のシート抵抗と、
− ASTM D1003(手順A)に従って測定して90%以上の光透過率と
のうちの1つまたは複数を示す、請求項10または11に記載の導電性層。
【請求項13】
− 表面を有する基材および
− 前記基材の前記表面の少なくとも一部の上に配設された請求項10から12のいずれか一項に記載の導電性層
を含む物品。
【請求項14】
前記導電性層が、10nmから1000nmの範囲の厚さを有する、請求項13に記載の物品。
【請求項15】
− 請求項10から12のいずれか一項に記載の導電性層と、
− 請求項13または14に記載の物品と
から選択される品物の製造のために、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物を使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれ導電性透明層の製造に適した組成物、導電性透明層を製造するための方法、前記組成物の固体状成分を含むまたはこの固体状成分からなる導電性透明層、前記導電性透明層を含む物品、および前記導電性層または前記物品の製造のために前記組成物を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において使用される「導電性透明層」という用語は、(i)適切な電圧が印加されると電流の流れを可能にする能力があり、(ii)ASTM D1003に従って測定して可視域(400〜700nm)における80%以上の光透過率を有する層を指しており、例えば、US8,049,333を参照されたい。通常、前記層は、基材の表面上に配設されており、前記基材は一般的に、電気絶縁体である。このような導電性透明層は、フラット液晶ディスプレー、タッチパネル、エレクトロルミネセンスデバイス、薄膜光起電力セルの中に帯電防止層としておよび電磁波遮へい層として広範に使用されている。
【0003】
一般的に、このような導電性透明層は、(i)光学的に透明な連続固相(マトリックスとも呼ぶ)および(ii)前記マトリックス中を貫き通って延在する導電性ナノオブジェクトの導電性ネットワークを含む複合材料である。マトリックスは、1種または複数の光学的に透明なポリマーから形成される。前記マトリックスは、層内の導電性ナノオブジェクトを結合させ、前記導電性ナノオブジェクト間の空隙を充填し、機械的完全性および安定性を層に提供し、層を基材の表面に結合させる。導電性ナノオブジェクトの導電性ネットワークは、層内の隣り合った導電性ナノオブジェクト間の電流の流れおよび重なり合った導電性ナノオブジェクト間の電流の流れを可能にする。複合材料の光学的挙動へのナノオブジェクトの影響は、ナノオブジェクトの寸法が小さいため非常に小さく、この結果、光学的に透明な複合材料、すなわち、ASTM D1003に従って測定して可視域(400〜700nm)における80%以上の光透過率を有する複合材料の形成が可能になるが、例えば、US8,049,333を参照されたい。
【0004】
一般的に、このような導電性透明層は、適切な液体(好ましくは水)に溶解または分散された十分な量の
(i)1種または複数のマトリックス形成用結合剤、
(ii)導電性ナノオブジェクトおよび
(iii)任意に補助成分
を含む組成物を基材の表面に塗布し、25℃および101.325kPaで液体である成分(以下、液体状成分と呼ぶ)を、前記基材の前記表面に塗布された前記組成物から、25℃および101.325kPaで固体である塗布された組成物の成分(以下、固体状成分と呼ぶ)を含む導電性透明層が前記基材の前記表面上に形成される程度まで除去することによって製造される。導電性透明層の製造のためのこのような組成物は一般的に、インキと呼ぶ。
【0005】
US2008/0182090A1は、RFIDアンテナ等の電子回路作製用の高速印刷のためのインキとしての使用に適した組成物であって、以下の成分
(a)導電性粒子、好ましくは銀粒子、より好ましくは銀フレーク
(b)スチレン/(メタ)アクリル酸コポリマー
(c)アニオン性湿潤剤
(d)消泡剤および
(e)水
を含む組成物を開示している。
【0006】
US2008/0182090A1によれば、得られた導電性層は、3μmから7μmの範囲の厚さを有する。
【0007】
好ましくは、US2008/0182090A1による前記インキにおいて、銀粒子(a)の濃度は、組成物の約10から90%までであり、コポリマー(b)の濃度は、組成物の約2から50%までである。したがって、25℃および101.325kPaで固体である成分(以下、固体状成分と呼ぶ)の濃度は、前記インキ中で顕著に高い。US2008/0182090A1は、得られた導電性層の光学特性に関して言及していないが、インキ中の固体状成分の量が多いため光透過率はかなり低く、ヘイズはかなり高いと想定される。導電性層の製造のために基材の表面に塗布されたインキの所与の湿潤厚さにおいて、得ることができる導電性層の厚さ、したがって不透明度は、塗布されたインキ中の固体状成分の濃度上昇に伴って増大する。得ることができる導電性層の厚さおよび不透明度は、湿潤厚さの減少によって減少させることがほとんどできないが、理由として、技術的な理由で湿潤厚さに下限が存在するという点、および導電性透明層を完全に得るためには、湿潤厚さが、可能な限り前記下限に近くなければならないという点がある。
【0008】
WO2013/073259A1は、カーボンナノチューブ、グラフェンもしくはフラーレン等のナノカーボン材料の水性分散物または導電性ポリマーの水性分散物を作製するための分散剤として有用なポリスチレンスルホン酸(塩)を開示している。
【0009】
US2011/0171364A1は、カーボンナノチューブを主体としたペーストならびにそれを製造および使用するための方法を開示している。
【0010】
US2011/0097277A1は、(a)核および(b)表面であって、複数の双性ポリマーがその表面にグラフト化されているまたはその表面からグラフト化されている表面を含む、粒子を開示している。
【0011】
US2006/0167147A1は、金属含有材料または複合材料の製造のための方法であって、少なくとも1種の金属系化合物をポリマーシェルに封入し、これにより、ポリマーに封入された金属系化合物を作製し、および/または少なくとも1種の金属系化合物でポリマー粒子を被覆する工程;加水分解性または非加水分解性ゾル/ゲル形成用の好適な成分からゾルを形成する工程;ポリマーに封入された金属系化合物および/または被覆されたポリマー粒子をゾルと組み合わせ、これにより、この組合せを作製する工程;ならびにこの組合せを金属含有固形物に変換する工程を含む、方法に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】US8,049,333
【特許文献2】US2008/0182090A1
【特許文献3】WO2013/073259A1
【特許文献4】US2011/0171364A1
【特許文献5】US2011/0097277A1
【特許文献6】US2006/0167147A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、ASTM D1003(手順A)に従って測定して80%以上の光透過率を有する導電性透明層の製造に適したインキを提供することである。さらに好ましくは、前記導電性透明層は、4点プローブによって測定して1000オーム/スクウェア以下のシート抵抗を示すべきである。さらに好ましくは、前記導電性透明層は、ASTM D1003(手順A)に従って測定して2%以下のヘイズおよび4点プローブによって測定して1000オーム/スクウェア以下のシート抵抗を示すべきである。本発明との関連において、ASTM D1003へのいかなる参照も、2013年11月に公開されたバージョンを参照している。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記および他の目的は、
以下の成分、
(A)水と、
(B)1nmから100nmの範囲の2つの外形寸法および1μmから100μmの範囲の第3の外形寸法を有しており、
質量分率が、組成物の総質量に対して0.01質量%から1質量%の範囲である、
導電性ナノオブジェクトと、
(C)500g/molから22000g/molの範囲の数平均分子量をそれぞれが有しており、
総質量分率が、組成物の総質量に対して0.02質量%から5質量%の範囲である、水に溶解した1種または複数のスチレン/(メタ)アクリル酸コポリマーと
を含む本発明による組成物によって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、(上記に規定の)本発明による組成物は、インキとも呼ぶ。
【0016】
驚くべきことに、US2008/0182090A1による上記組成物(インキ)より著しく少ない量の固体状成分を含む上記に規定の組成物は、より優れた光学特性および満足な電子伝導度を有する導電性透明層の製造に適していることが判明した。従来技術において、かなり高い濃度の導電性ナノオブジェクトを含むインキは、高い電子伝導度を確保するために好ましいとされてきた。さらに、US2008/0182090A1は、インキの乾燥に必要な熱エネルギーの低減に着目しており、したがって、かなり高い濃度の固体状成分を有するインキに限定されている。しかしながら、驚くべきことに、より優れた光学特性および満足な電子伝導度を有する導電性透明層は、(上記に規定の)本発明による組成物が使用された場合、乾燥のための熱エネルギーに関して過剰な要件を課すことなく製造することができることが判明した。
【0017】
(上記に規定の)本発明による組成物において、25℃および101.325kPaで液体である主成分は、水(A)であり、25℃および101.325kPaで固体である主成分は、上記に規定の導電性ナノオブジェクト(B)および上記に規定の1種または複数のコポリマー(C)である。(上記に規定の)本発明による組成物において、25℃および101.325kPaで固体である成分(固体状成分)の総濃度は、いずれの場合においても前記組成物の総質量に対して10質量%以下、好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0018】
ISO/TS27687:2008(2008年に公開)によれば、「ナノオブジェクト」という用語は、ナノスケールの1つ、2つまたは3つの外形寸法を有するオブジェクト、すなわち、約1nmから100nmまでのサイズ範囲のオブジェクトを指す。本発明のために使用すべき導電性ナノオブジェクトは、1nmから100nmの範囲の2つの外形寸法および1μmから100μmの範囲の第3の外形寸法を有する導電性ナノオブジェクトである。一般的に、1nmから100nmの範囲である前記2つの外形寸法は類似しており、すなわち、前記2つの外形寸法の相違は3倍未満である。前記導電性ナノオブジェクト(B)の第3の寸法の方が著しく大きく、すなわち、第3の寸法は、他の2つの外形寸法と3倍超異なる。
【0019】
ISO/TS27687:2008(2008年に公開)によれば、ナノスケールの2種の類似した外形寸法を有するが、第3の外形寸法の方が著しく大きいナノオブジェクトは一般に、ナノファイバーと呼ぶ。導電性ナノファイバーは、ナノワイヤーとも呼ぶ。中空ナノファイバーは(それらが導電性であるかに関係なく)、ナノチューブとも呼ぶ。
【0020】
本発明のために使用すべき上記に規定の導電性ナノオブジェクト(B)は一般的に、円形形状に近い断面を有する。前記断面は、1μmから100μmの範囲である前記外形寸法に垂直に延在する。したがって、ナノスケールである前記2つの外形寸法は、前記円形断面の直径によって規定される。前記直径に垂直に延在する前記第3の外形寸法は、長さと呼ぶ。
【0021】
好ましくは、本発明による組成物は、1μmから100μmまで、好ましくは3μmから50μmまで、より好ましくは10μmから50μmの範囲の長さおよび1nmから100nmまで、好ましくは2nmから50nmまで、より好ましくは3nmから30nmの範囲の直径を有する導電性ナノオブジェクト(B)を含む。
【0022】
好ましくは、(上記に規定の)本発明による組成物において、上記に規定の前記導電性ナノオブジェクト(B)の質量分率は、組成物の総質量に対して0.8質量%以下、好ましくは0.5質量%以下である。0.01質量%未満の質量分率の導電性ナノオブジェクト(B)は、導電性ネットワークを形成するのに十分でない可能性があり、この結果、そのような組成物は導電性層の製造に適さなくなるため、前記導電性ナノオブジェクト(B)の質量分率は、組成物の総質量に対して0.01質量%以上である。さらに好ましくは、前記導電性ナノオブジェクト(B)の質量分率は、0.02質量%以上、好ましくは0.05質量%以上である。
【0023】
好ましくは、(上記に規定の)本発明による組成物において、前記溶解したコポリマー(C)の総質量分率は、組成物の総質量に対して2質量%未満、より好ましくは1.8質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。0.02質量%未満の総質量分率の前記溶解したコポリマー(C)は、導電性ナノオブジェクト(B)を結合させるのに十分ではない可能性があり、この結果、そのような組成物は導電性層の製造に適さなくなるため、前記溶解したコポリマー(C)の総質量分率は、組成物の総質量に対して0.02質量%以上である。さらに好ましくは、前記溶解したコポリマー(C)の総質量分率は、0.05質量%以上、好ましくは0.1質量%以上である。
【0024】
好ましくは、(上記に規定の)本発明による組成物において、前記導電性ナノオブジェクト(B)の総質量と前記溶解したコポリマー(C)の総質量との比は、1:20から20:1まで、好ましくは1:10から5:1まで、さらに好ましくは1:5から5:1の範囲である。
【0025】
「導電性ナノオブジェクト」という用語は、ナノオブジェクトが、電子の流れを可能にすることができる1種もしくは複数の材料を含むまたはこの1種もしくは複数の材料からなることを意味する。したがって、複数のこのような導電性ナノオブジェクトは、電流を流すことができる前記マトリックス中を貫き通って延在する隣り合ったナノオブジェクトおよび重なり合ったナノオブジェクトの導電性ネットワークを形成し得るが、ただし、ネットワーク内で相互接続された導電性ナノオブジェクトに沿った電子の輸送を可能にするような個別の導電性ナノオブジェクトどうしの十分な相互接続(相互接触)が存在することを条件とする。
【0026】
好ましくは、前記導電性ナノオブジェクト(B)は、銀、銅、金および炭素からなる群より選択される1種または複数の材料を含み、またはこの1種または複数の材料からなる。
【0027】
好ましくは、導電性ナノオブジェクト(B)は、1μmから100μmの範囲の長さおよび1nmから100nmの範囲の直径を有しており、前記導電性ナノオブジェクト(B)は、銀、銅、金および炭素からなる群より選択される1種または複数の材料を含む。
【0028】
好ましくは、前記導電性ナノオブジェクト(B)は、ナノワイヤーおよびナノチューブからなる群より選択される。好ましいナノワイヤーは、銀、銅および金からなる群より選択される1種または複数の金属を含み、またはこの1種または複数の金属からなる。好ましくは、前記ナノワイヤーはそれぞれ、銀、銅および金からなる群より選択される、前記ナノワイヤーの総質量に対して少なくとも50質量%の1種または複数の金属を含む。前記ナノワイヤーの総質量に対して50質量%以上の銀をそれぞれが含むナノワイヤー(以下、「銀ナノワイヤー」とも呼ぶ)が、最も好ましい。
【0029】
好ましいナノチューブは、カーボンナノチューブである。
【0030】
ナノワイヤーおよびナノチューブの中でも特に、ナノワイヤーが好ましい。
【0031】
本発明による最も好ましい導電性ナノオブジェクト(B)は、上記寸法を有する銀ナノワイヤーである。
【0032】
上記に規定の適切な導電性ナノオブジェクト(B)は、当技術分野で公知であり、市販されている。
【0033】
銀ナノワイヤー(および他の金属のナノワイヤー)は一般的に、分散物を安定にするために銀ナノワイヤーの表面上にポリビニルピロリドンが吸着された、水性分散物の形態で市販されている。ナノワイヤーの表面上に吸着されたいかなる物質も、上記に規定の寸法および導電性ナノオブジェクト(B)の組成物に含まれない。
【0034】
好ましくは、銀ナノワイヤーは、Adv.Mater 2002年 14 No.11.6月5日、833〜837頁においてYugang SunおよびYounan Xiaにより記載された手順によって得られる。
【0035】
好ましい実施形態において、本発明による組成物は、カーボンナノチューブを含まない。
【0036】
(上記に規定の)本発明による組成物の成分(C)は、500g/molから22000g/molの範囲の数平均分子量をそれぞれが有する、水に溶解した1種または複数のスチレン/(メタ)アクリル酸コポリマーからなる。本明細書において、「(メタ)アクリル酸」という用語は、「メタクリル酸」および「アクリル酸」を含む。前記コポリマー(C)において、各分子は、共重合された形態のモノアルケニル芳香族モノマーに由来する単位および(メタ)アクリル酸モノマーに由来する単位を含み、またはこれらの単位からなる。このようなコポリマー(C)は、1種類または複数の種類のモノアルケニル芳香族モノマーと1種類または複数の種類の(メタ)アクリル酸モノマーとの共重合によって得ることができる。
【0037】
好ましいコポリマー(C)において、各分子は、
共重合された形態の
− モノアルケニル芳香族モノマーMC1に由来する単位C1および
− (メタ)アクリル酸モノマーMC2に由来する単位C2
を含み、またはこれらの単位からなる。
【0038】
前記単位C1(モノアルケニル芳香族モノマーに由来する単位)は、化学構造
【化1】
(式中、Rは、他の各単位C1のRから独立に、水素およびアルキル(非分岐アルキル、好ましくはメチルおよび分岐アルキル、好ましくはtert−ブチルを含む)からなる群より選択され、
は、他の各単位C1のRから独立に、ハロゲン(好ましくは、塩素)およびアルキル(好ましくは、メチル)からなる群より選択され、Rは、オルト、メタおよびパラからなる群より選択される部位に位置する。)
を有する。
【0039】
前記単位C2((メタ)アクリル酸モノマーに由来する単位)は、化学構造
【化2】
(式中、Rは、他の各単位C2のRから独立に、水素、メチル、ハロゲン(好ましくは、塩素)およびシアノからなる群より選択され、
は、他の各単位C2のRから独立に、
− COOHと、
− COOX(式中、Xは、アルカリ金属カチオン、アンモニウムカチオンおよび置換アンモニウムカチオンから選択されるカチオンである)と、
− CNと、
− COOR(式中、Rは、分岐および非分岐アルキル基、分岐および非分岐アルケニル基、分岐および非分岐アルキニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アラルケニル基、フルフリル基、テトラヒドロフルフリル基、イソプロピリデングリセリル基、グリシジル基およびテトラヒドロピラニル基からなる群より選択され、前記分岐および非分岐アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、ヒドロキシ基、アルコキシ基、フェノキシ基、ハロゲン基、スルホ基、ニトロ基、オキサゾリジニル基、モノアルキルアミノ基およびジアルキルアミノ基からなる群より選択される1つまたは複数の基によって置換された分岐および非分岐アルキル基を含む)と、
− CHOと、
− NR(式中、RおよびRは、水素、アルキルおよびフェニルからなる群より独立に選択される)と
からなる群より選択される)
を有する。
【0040】
このようなコポリマー(C)は、式
【化3】
(式中、Rは、他の各モノマーMC1のRから独立に、水素およびアルキル(非分岐アルキル、好ましくはメチルおよび分岐アルキル、好ましくはtert−ブチルを含む)からなる群より選択され、
は、他の各モノマーMC1のRから独立に、ハロゲン(好ましくは、塩素)およびアルキル(好ましくは、メチル)からなる群より選択され、Rは、オルト、メタおよびパラからなる群より選択される部位に位置する)
を有する1種類または複数の種類のモノアルケニル芳香族モノマーMC1と、

【化4】
(式中、Rは、他の各モノマーMC2のRから独立に、水素、メチル、ハロゲン(好ましくは、塩素)およびシアノからなる群より選択され、
は、他の各単位MC2のRから独立に、
− COOHと、
− COOX(式中、Xは、アルカリ金属カチオン、アンモニウムカチオンおよび置換アンモニウムカチオンから選択されるカチオンである)と、
− CNと、
− COOR(式中、Rは、分岐および非分岐アルキル基、分岐および非分岐アルケニル基、分岐および非分岐アルキニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アラルケニル基、フルフリル基、テトラヒドロフルフリル基、イソプロピリデングリセリル基、グリシジル基およびテトラヒドロピラニル基からなる群より選択され、前記分岐および非分岐アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、ヒドロキシ基、アルコキシ基、フェノキシ基、ハロゲン基、スルホ基、ニトロ基、オキサゾリジニル基、モノアルキルアミノ基およびジアルキルアミノ基からなる群より選択される1つまたは複数の基によって置換されたアルキル基、アルケニル基およびアルキニル基を含む)と、
−CHOと、
−NR(式中、RおよびRは、水素、アルキルおよびフェニルからなる群より独立に選択される)と
からなる群より選択される)
を有する1種類または複数の種類の(メタ)アクリル酸モノマーMC2との共重合によって得ることができる。
【0041】
本明細書において利用される「(メタ)アクリル酸モノマー」MC2という用語は、アクリル酸およびアクリル酸塩、アクリル酸のエステルおよびアミド、アクリロニトリルならびにアクロレイン、ならびに、メタクリル酸およびメタクリル酸塩、メタクリル酸のエステルおよびアミド、メタクリロニトリルならびにメタクロレインを含む。
【0042】
が、それぞれ水素またはメチルであり、Rが、−COOHである、(メタ)アクリル酸モノマーは、それぞれアクリル酸またはメタクリル酸である。
【0043】
が、それぞれ水素またはメチルであり、Rが、上記に規定の−COORである、(メタ)アクリル酸モノマーは、それぞれアクリル酸のエステルまたはメタクリル酸のエステルである。
【0044】
が、それぞれ水素またはメチルであり、Rが、上記に規定の−COOXである、(メタ)アクリル酸モノマーは、それぞれアクリル酸の塩またはメタクリル酸の塩である。
【0045】
が、それぞれ水素またはメチルであり、Rが、−CNである、(メタ)アクリル酸モノマーは、それぞれアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルである。1種類または複数の種類のモノアルケニル芳香族モノマーMC1と、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルからなる群からの1種または複数の(メタ)アクリル酸モノマーとを、他の(メタ)アクリル酸モノマーMC2がない状態で共重合させることによって得ることができるコポリマー(C)は、好ましくない。この点に関して、コポリマー(C)の製造のためには、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルからなる群より選択される(メタ)アクリル酸モノマーを、本明細書において規定された他の(メタ)アクリル酸モノマーMC2と組み合わせて使用することが好ましい。
【0046】
が、それぞれ水素またはメチルであり、Rが、上記に規定の−NRである、(メタ)アクリル酸モノマーは、それぞれアクリル酸のアミドまたはメタクリル酸のアミドである。
【0047】
が、それぞれ水素またはメチルであり、Rが、−CHOである、(メタ)アクリル酸モノマーは、それぞれアクロレインまたはメタクロレインである。
【0048】
好ましいモノアルケニル芳香族モノマーMC1は、α−メチルスチレン、スチレン、ビニルトルエン、第三ブチルスチレンおよびo−クロロスチレンからなる群より選択される。
【0049】
適切な(メタ)アクリル酸モノマーの例として、次のメタクリレートエステル(メタクリル酸エステル)が挙げられる:メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、t−ブチルアミノエチルメタクリレート、2−スルホエチルメタクリレート、トリフルオロエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、アリルメタクリレート、2−n−ブトキシエチルメタクリレート、2−クロロエチルメタクリレート、sec−ブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート、2−エチルブチルメタクリレート、シンナミルメタクリレート、クロチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、シクロペンチルメタクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート、メタリルメタクリレート、3−メトキシブチルメタクリレート、2−メトキシブチルメタクリレート、2−ニトロ−2−メチルプロピルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、2−フェノキシエチルメタクリレート、2−フェニルエチルメタクリレート、フェニルメタクリレート、プロパ−2−イニルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレートおよびテトラヒドロピラニルメタクリレート。利用される一般的なアクリル酸エステルとして、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレートおよびn−デシルアクリレート、メチルα−クロロアクリレート、メチル2−シアノアクリレートが挙げられる。他の適切な(メタ)アクリル酸モノマーとして、メタクリロニトリル、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミドおよびメタクロレイン、アクリロニトリル、アクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミドならびにアクロレインが挙げられる。
【0050】
縮合できる適切な架橋性官能基を含むメタクリル酸またはアクリル酸のエステルを、モノマーとして使用してもよい。このようなエステルの中では特に、t−ブチルアミノエチルメタクリレート、イソプロピリデングリセリルメタクリレートおよびオキサゾリジニルエチルメタクリレートがある。
【0051】
一般的な好ましい架橋性アクリレートおよびメタクリレートとして、ヒドロキシアルキルアクリレート、ヒドロキシルアルキルメタクリレート、およびグリシジルアクリレートまたはメタクリレートのヒドロキシエステルが挙げられる。好ましいヒドロキシ官能性モノマーの例として、2−ヒドロキシエチルアクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、6−ヒドロキシヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシメチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、6−ヒドロキシヘキシルメタクリレートおよび5,6−ジヒドロキシヘキシルメタクリレート等が挙げられる。
【0052】
本明細書において利用される「スチレン/(メタ)アクリル酸コポリマー」という用語は、2種以上の(メタ)アクリル酸モノマーと1種または複数のモノアルケニル芳香族モノマーとの混合物から得ることができるコポリマー、ならびに少なくとも1種の(メタ)アクリル酸モノマーとアクリル酸モノマーではない少なくとも1種のエチレン系モノマーと1種または複数のモノアルケニル芳香族モノマーとの混合物から得ることができるコポリマーを含む。適切なエチレン系モノマーとして、ビニルピリジン、ビニルピロリドン、クロトン酸ナトリウム、メチルクロトネート、クロトン酸および無水マレイン酸が挙げられる。
【0053】
上記に規定のコポリマー(C)に関するさらなる詳細については、US2008/0182090、US4,414,370、US4,529,787、US4,546,160、US5,508,366およびこれらの中に引用された従来技術を参照する。
【0054】
前記コポリマー(C)のそれぞれの数平均分子量は、500g/molから22000g/molまで、好ましくは1700g/molから15500g/molまで、さらに好ましくは5000g/molから10000g/molの範囲である。
【0055】
水溶性コポリマー(C)の分子は、モノアルケニル芳香族モノマーに由来する極性のない疎水性領域および(メタ)アクリル酸モノマーに由来する極性のある親水性領域を含むため、一般的に水溶性コポリマー(C)は、両親媒性である。したがって、所望の両親媒性挙動は、疎水性モノアルケニル芳香族モノマーおよび親水性(メタ)アクリル酸モノマーを適切に選択し、モノアルケニル芳香族モノマーと(メタ)アクリル酸モノマーとの比を適切に調整し、この結果、モノアルケニル芳香族モノマーに由来する疎水性単位と(メタ)アクリル酸モノマーに由来する親水性単位との適切な比を有するコポリマー(C)が得られて、コポリマーの両親媒性挙動が可能になることにより、得ることができる。水溶液中では、前記水溶性コポリマー(C)は、界面活性剤(surfactant)(界面活性剤(tenside))のように挙動し、すなわち、前記水溶性コポリマー(C)は、ミセルを形成することができる。ミセルは、溶解した両親媒性分子の会合によって形成された凝集物である。好ましくは、前記ミセルは、最大5nmの直径を有する。
【0056】
一般的な水溶性コポリマー(C)は、当技術分野において公知であり、市販されている。一般的に、このようなコポリマーは、水溶液の形態で市販されている。
【0057】
好ましい実施形態において、(上記に規定の)本発明による組成物は、上記に規定の成分(A)、(B)および(C)からなる。
【0058】
代替の好ましい実施形態において、(上記に規定の)本発明による組成物は、マトリックス形成のときに上記に規定の1種または複数のコポリマー(C)と共同で作用し、上記に規定の導電性ナノオブジェクト(B)を結合させることができる、1種または複数のさらなる成分を含む。これらの成分は、追加の結合剤と呼び、組成物の固体状成分に属する。これらの追加の結合剤は、(上記に規定の)いかなるコポリマー(C)も存在しない状況下でマトリックスを形成し、上記に規定の導電性ナノオブジェクト(B)を結合させることができる、物質の群から選択される。この追加の結合剤は、500g/molから22000g/molの範囲の数平均分子量を有するスチレン/(メタ)アクリル酸コポリマー(上記に規定のコポリマー(C))および上記に規定の導電性ナノオブジェクト(B)からなる群より選択されない。好ましくは、(組成物の総質量に対して)前記追加の結合剤の総質量分率は、組成物の総質量に対して前記溶解したコポリマー(C)の総質量分率以下である。
【0059】
本発明による組成物において、上記に規定の前記1種または複数の溶解したコポリマー(C)および前記1種または複数の追加の結合剤の総質量分率は、組成物の総質量に対して好ましくは7.5質量%以下、好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2.25質量%以下である。好ましくは、(組成物の総質量に対して)前記追加の結合剤の総質量分率は、組成物の総質量に対して前記溶解したコポリマー(C)の総質量分率以下である。
【0060】
好ましくは、(上記に規定の)本発明による組成物に含まれる前記追加の結合剤は、
(D)10nmから1000nmの範囲の平均直径を有しており、25000g/mol以上の数平均分子量を有する、水中に分散されたポリマーの粒子と、
(E)80nmから300nmの範囲の長さおよび5nmから30nmの範囲の直径を有する水中に分散された結晶性セルロースの繊維と、
(F)ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホン酸およびデキストランからなる群より選択される水に溶解した1種または複数の水溶性ポリマーと
からなる群より選択される。
【0061】
25000g/mol以上の数平均分子量を有するポリマーの前記粒子(D)は、それぞれが絡み合ったいくつかのポリマー鎖からなる、ポリマービーズである。前記ポリマービーズは、水性分散媒体中に分散相として分散されている。前記ポリマービーズは、水性ポリマー分散物(0.005質量パーセントから0.01質量パーセントまで)についてMalvern Instruments、England製のAutosizer IICによる23℃における動的光散乱法によって測定して、10nmから1000nmの範囲の平均直径、特に50nmから600nmの範囲の平均直径を有する。このような水性ポリマー分散物は、特にフリーラジカルを用いて開始する型のエチレン性不飽和モノマーの水性乳化重合によって得ることができる。好ましくは、粒子(D)のポリマーの数平均分子量は、200000g/mol以下である。さらなる詳細に関しては、US7,999,045B2およびこの中に引用された従来技術ならびに本出願と同じ出願人により本出願と同じ日に出願された特許出願「Composition comprising silver nanowires and dispersed polymer beads for the preparation of electroconductive transparent layers」を参照する。
【0062】
前記繊維(E)は、ナノ結晶性セルロースファイバーもしくはセルロースナノファイバーまたはセルロースIIとも呼ぶ。前記繊維(E)は、天然セルロース繊維の非晶性区域を崩壊させ、マイクロメートルサイズのセルロース繊維を解体して、ロッド状の剛直な結晶子にすることによって得ることができる。得られた結晶子は一般的に、上記寸法を有する。
【0063】
より具体的には、上記寸法を有する結晶性セルロース繊維(E)は、天然セルロース繊維の化学処理によってもしくは酵素処理によってもしくは機械処理によって、または異なる種類の処理の組合せ、例えば化学処理(例えば、硫酸または亜塩素酸ナトリウムを用いる)もしくは酵素処理の後に高圧均一化を行うこと、もしくは天然セルロース繊維の粉砕後に加水分解して、非晶性領域を除去することによって得ることができる。
【0064】
結晶性セルロースの繊維(E)の水性分散物を乾燥させると、水の蒸発中に毛管作用により、セルロース繊維(E)が一緒になって密に詰められる。したがって、前記セルロース繊維(E)は、導電性ナノオブジェクト(B)を結合させるときに、前記溶解したコポリマー(C)と共同して作用することができる。さらに、前記繊維(E)の機械的安定性が極めて優れているため、前記繊維(E)は、得られた導電性透明層に機械的な強化を付与する。さらなる詳細に関しては、本出願と同じ出願人により本出願と同じ日に出願された特許出願「Composition comprising silver nanowires and fibers of crystalline cellulose for the preparation of electroconductive transparent layers」を参照する。
【0065】
適切な追加の結合剤、特に(D)、(E)および(F)として上記に規定の結合剤は、当技術分野で公知であり、市販されている。
【0066】
好ましい特定の一実施形態において、本発明による組成物は、上記に規定の成分(A)、(B)および(C)ならびに
(D)10nmから1000nmの範囲の最大寸法を有しており、25000g/mol以上の数平均分子量を有する、水中に分散されたポリマーの粒子
を含み、またはこれらの成分からなり、
さらなる追加の結合剤を含まず、
組成物の総質量に対する前記粒子(D)の総質量分率は、組成物の総質量に対する前記溶解したコポリマー(C)の総質量分率以下である。
【0067】
別の特定の好ましい実施形態において、本発明による組成物は、上記に規定の成分(A)、(B)および(C)ならびに
(E)80nmから300nmの範囲の長さおよび5nmから30nmの範囲の直径を有する水中に分散された結晶性セルロースの繊維
を含み、またはこれらの成分からなり、
さらなる追加の結合剤を含まず、
組成物の総質量に対して前記繊維(E)の質量分率が、組成物の総質量に対して前記溶解したコポリマー(C)の総質量分率以下である。
【0068】
別の好ましい実施形態において、本発明による組成物は、上記に規定の成分(A)、(B)および(C)ならびに
(F)上記に規定の1種または複数の水溶性ポリマー
を含み、またはこれらの成分からなり、
さらなる追加の結合剤を含まず、
組成物の総質量に対して前記1種または複数の水溶性ポリマー(F)の総質量分率が、組成物の総質量に対して前記溶解したコポリマー(C)の総質量分率以下である。
【0069】
好ましい実施形態において、(上記に規定の)本発明による組成物は、水溶性ではない1種または複数の追加の結合剤を含む。水溶性ではない好ましい追加の結合剤は、(D)および(E)として上記に規定のものである。このような組成物から得ることができる導電性層は、改良された水分に対する安定性を示す。
【0070】
本発明による組成物は、上記に規定の成分(A)〜(C)に加えてさらなる成分、例えば消泡剤、レオロジー調整剤、防食剤および他の補助剤を任意に含む。一般的な消泡剤、レオロジー調整剤および防食剤は、当技術分野で公知であり、市販されている。しかしながら、驚くべきことに、上記に規定の成分(A)〜(C)、および任意に上記に規定の成分(D)〜(F)のうちの1種または複数の他にいかなるさらなる成分も含有しない(上記に規定の)本発明による組成物は、より優れた光学特性および満足な電子伝導度を有する導電性透明層の製造に適していることが判明した。したがって、いかなる補助剤の添加も省略することができ、この結果、組成物の複雑さが減じ、このような組成物の製造が容易になる。したがって、好ましい実施形態において、本発明による組成物は、上記に規定の成分(A)〜(C)、および任意に、上記に規定の成分(D)〜(F)のうちの1つまたは複数からなる。それにもかかわらず、ある特定の実施形態において、(上記に規定の)本発明による組成物は、1種または複数の補助剤、特に上記に規定の補助剤を含む。
【0071】
(上記に規定の)本発明による組成物の(上記に規定の成分(A)〜(C)に加えて)任意のさらなる成分およびこのようなさらなる成分の量は、前記組成物から得ることができる層の導電性および光学特性が損なわれないように選択しなければならないと理解される。
【0072】
本発明による好ましい組成物は、上記に規定の好ましい特徴のうちの2つ以上を組み合わせた組成物である。
【0073】
(A)水と、
(B)10μmから50μmの範囲の長さおよび3nmから30nmの範囲の直径を有しており、組成物の総質量に対して0.5質量%以下の質量分率である、銀ナノワイヤーと、
(C)1700g/molから15500g/molの範囲の数平均分子量を有しており、質量分率が、組成物の総質量に対して2質量%未満、好ましくは1.5質量%以下である、水に溶解したスチレン/(メタ)アクリル酸コポリマーと
を含み、またはこれらからなる、本発明による組成物であって、
前記銀ナノワイヤー(B)の総質量と、
前記溶解したコポリマー(C)の質量と
の比が、1:5から5:1の範囲である、
組成物が特に好ましい。
【0074】
本発明による組成物は例えば、適切な量の上記に規定の導電性ナノオブジェクト(B)を水に懸濁し、適切な量の上記に規定の1種または複数のコポリマー(C)を水に溶解することによって、または適切な量のあらかじめ製造した前記導電性ナノオブジェクト(B)の水性懸濁液とあらかじめ製造した前記1種または複数のコポリマー(C)の水溶液とを合わせることによって、またはあらかじめ製造した前記1種または複数のコポリマー(C)の水溶液中に適切な量の前記導電性ナノオブジェクト(B)を懸濁することによって、またはあらかじめ製造した前記導電性ナノオブジェクト(B)の水性懸濁液中に適切な量の前記1種または複数のコポリマー(C)を溶解することによって製造することができる。好ましい実施形態において、成分(A)〜(C)および任意に(上記に規定の)さらなる成分を合わせた後、組成物に、組成物の均一化を改良するためにボールミル粉砕を施す。ある特定の実施形態において、得られた層が低いヘイズを有することを確実にするために、均一化処理を延長することが好ましい。
【0075】
本発明のさらなる態様は、ASTM D1003(手順A)に従って測定して80%以上の光透過率を有する導電性層を基材上に製造するための方法に関する。本発明による前記方法は、
上記に規定の本発明による組成物を製造または用意する工程と、
基材の表面に前記組成物を塗布する工程と、
25℃および101.325kPaで液体である成分を、前記基材の前記表面に塗布された前記組成物から、前記基材の前記表面上に層が形成される程度まで除去する工程と
を含む。
【0076】
上記に規定の本発明の方法によって形成された層は、上記に規定の本発明による前記組成物の固体状成分を含むまたはこの固体状成分からなる、ASTM D1003(手順A)に従って測定して80%以上の光透過率を有する固体導電性層であって、架橋された形態の前記1種または複数の前記コポリマー(C)を任意に含む、固体導電性層である。より具体的には、基材の表面に塗布された組成物が1種または複数の架橋性コポリマー(C)を含む実施形態において、形成された層は、架橋された形態の前記1種または複数の前記コポリマー(C)を含む。
【0077】
本出願との関連において、25℃および101.325kPaで液体である成分を、前記基材の前記表面に塗布された前記組成物から、前記基材の前記表面上に層が形成される程度まで除去する方法工程は、乾燥とも呼ぶ。通常、液体状成分は、蒸発によって除去される。
【0078】
一般に、液体状成分は少なくとも、ASTM D1003(手順A)に従って測定して80%以上の光透過率を有する導電性層が前記基材の前記表面上に形成される程度まで除去しなければならず、1種または複数のコポリマー(C)が、前記固体マトリックス中を貫き通って延在する導電性ネットワークを形成する導電性ナノオブジェクト(B)を結合させる連続固相(マトリックスとも呼ぶ)を形成する。好ましくは、前記導電性層は、10nmから1000nmまで、好ましくは50nmから500nmの範囲の厚さを有する。一般に、導電性層の厚さの下限は、塗布された組成物のナノオブジェクトの最小寸法によって決定される。
【0079】
好ましくは、25℃および101.325kPaで液体である成分は、前記基材の前記表面に塗布された前記組成物から完全に除去される。
【0080】
前記基材の前記表面に本発明による前記組成物を塗布することは好ましくは、スピンコーティング、ドローダウンコーティング、ロールツーロールコーティング、グラビア印刷、マイクログラビア印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷およびスロットダイコーティングからなる群より選択される技法によって実施される。
【0081】
好ましくは、前記組成物は、1μmから200μmまで、好ましくは2μmから60μmの範囲の厚さで前記基材の前記表面に塗布する。前記厚さは、「湿潤厚さ」とも呼び、上記に説明した組成物の液体状成分を除去する前の状態に関する。製造すべき導電性層の所与の目標厚さ(上記に説明した組成物の液体状成分を除去した後)、したがって所与の目標シート抵抗および光透過率において、湿潤厚さは、インキ中の組成物の固体状成分の濃度が低いほど、大きくなり得る。インキを塗布する方法は、特定の小さな湿潤厚さでインキを塗布することに制約がない場合、容易になる。
【0082】
(上記に規定の)本発明による前記組成物を塗布する前記基材は一般的に、電気絶縁体である。好ましくは、前記基材は、ガラスおよび有機ポリマーからなる群より選択される材料を含み、またはこの材料からなる。好ましい有機ポリマーは、ポリカルボネート(PC)、環状オレフィンコポリマー(COP)、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ポリイミド(PI)およびポリエチレンテレフタレート(PET)からなる群より選択される。好ましくは、前記基材は、ASTM D1003(手順A)に従って測定して80%以上の光透過率を有する。
【0083】
25℃および101.325kPaで液体である成分を、前記基材の前記表面に塗布された前記組成物から(上記に説明した程度まで)除去することは、好ましくは、前記基材の前記表面に塗布された前記組成物を15分以下の持続期間にわたって100℃から150℃の範囲の温度にさらすことによって達成される。この点に関して、当業者ならば、前記温度は、基材の熱安定性を考慮しながら選択しなければならないと認識している。
【0084】
本発明による好ましい方法は、上記に規定の好ましい特徴のうちの2つ以上を組み合わせた方法である。
【0085】
本発明による(上記に規定の)導電性層を製造するための方法に関して、導電性層のシート抵抗および光学特性を最適化するために、当業者は自身の知識に基づいて、選択された基材および基材の表面に本発明による組成物を塗布するために利用できる技法の技術的特徴を考慮に入れて、インキの組成物および(インキの製造および導電性層の製造に関する)すべての方法パラメーターを適切に調整する。必要に応じて、インキの適切な組成物および/または方法パラメーターは、過度の実験を必要としない当業者に公知の試験手順によって容易に特定することができる。
【0086】
本発明のさらなる態様は、上記に規定の本発明による組成物の固体状成分を含むまたはこの固体状成分からなる、ASTM D1003(手順A)に従って測定して80%以上の光透過率を有する導電性層に関する。前記導電性層において、1種または複数のコポリマー(C)が、前記固体マトリックス中を貫き通って延在する導電性ネットワークを形成する導電性ナノオブジェクト(B)を結合させる連続固相(マトリックスとも呼ぶ)を形成する。前記導電性層は、上記に規定の本発明による方法によって得ることができる。
【0087】
前記導電性層は、架橋された形態の前記1種または複数の前記コポリマー(C)を任意に含む。より具体的には、組成物が基材の表面に塗布される実施形態において、上記に規定の本発明による方法は、1種または複数の架橋性コポリマー(C)を含み、形成された層は、架橋された形態の前記1種または複数の前記コポリマー(C)を含む。
【0088】
「光透過率」は、媒体を通って透過した入射光の百分率を指す。好ましくは、本発明による導電性層の光透過率は、いずれの場合においてもASTM D1003(手順A)に従って測定して85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
【0089】
本発明による好ましい導電性層は、ASTM D1003(手順A)に従って測定して2%以下のヘイズおよび/または4点プローブによって測定して1000オーム/スクウェア以下のシート抵抗を示す。
【0090】
好ましくは、本発明による導電性層のヘイズは、いずれの場合においてもASTM D1003(手順A)に従って測定して1.8%以下、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1.2%以下である。
【0091】
好ましくは、本発明による導電性層のシート抵抗は、いずれの場合においても4点プローブによって測定して800オーム/スクウェア以下、より好ましくは500オーム/スクウェア以下、さらに好ましくは200オーム/スクウェア以下である。
【0092】
ヘイズメーターによるヘイズおよび光透過率(ASTM D1003において、視感透過率と呼ばれており、視感透過率は、物体に入射した光束に対する物体を透過した光束の比である)の測定は、ASTM−D1003において「手順A−ヘイズメーター」として規定されている。本発明との関連において与えられたヘイズおよび(ASTM D1003に規定の視感透過率に相当する)光透過率の値は、この手順を参照している。
【0093】
一般に、ヘイズは、光拡散の指数である。ヘイズは、透過中に入射光から分離して散乱した光の量の百分率を指す。大部分が媒体の特性である光透過率と異なり、ヘイズは、しばしば、生産における重要事項であり、一般的には、表面粗さによって、および媒体中に取り込まれた粒子または組成の不均一性によって起きる。
【0094】
ASTM D1003によれば、透過において、ヘイズは、前記供試材から見通したオブジェクトのコントラスト低下の原因となる供試材による光の散乱であり、すなわち、その方向が入射ビームの方向から指定の角度(2.5°)より大きく逸脱するように散乱する透過光のパーセントである。
【0095】
シート抵抗は、薄い物体(シート)、すなわち、厚さが一様な物体の抵抗の尺度である。「シート抵抗」という用語は、電流がシートに垂直ではなく、シートの平面に沿うことを意味する。厚さt、長さLおよび幅Wを有するシートの場合、抵抗Rは、
【数1】
であり、式中、Rshは、シート抵抗である。したがって、シート抵抗Rshは、
【数2】
である。
【0096】
上記に与えられた式において、バルク抵抗Rに無次元量(W/L)を乗じてシート抵抗Rshを得、したがって、シート抵抗の単位は、オームである。バルク抵抗Rとの混合を回避するために、シート抵抗の値は一般的に、「スクウェア当たりのオーム」として示されるが、これは、正方形のシートである特定の場合では、W=LおよびR=Rshだからである。シート抵抗は、4点プローブによって測定される。
【0097】
シート抵抗およびヘイズの測定に関するさらなる詳細は、後で実施例のセクションに与えられている。
【0098】
より好ましくは、本発明による導電性層は、次の特徴のうちの1つまたは複数を示す:
− ASTM D1003(手順A)に従って測定して1%以下のヘイズ、
− 4点プローブによって測定して100オーム/スクウェア以下のシート抵抗、
− ASTM D1003(手順A)に従って測定して90%以上の光透過率。
【0099】
本発明による好ましい導電性層は、上記に規定の好ましい特徴のうちの2つ以上を組み合わせた導電性層である。
【0100】
本発明による特に好ましい導電性層は、次の特徴を示す:
− ASTM D1003(手順A)に従って測定して1%以下のヘイズおよび
− 4点プローブによって測定して100オーム/スクウェア以下のシート抵抗および
− ASTM D1003(手順A)に従って測定して90%以上の光透過率。
【0101】
いかなる理論にも拘束されることは望まないが、(上記に規定の)本発明による導電性層中では、導電性ナノオブジェクトの網目構造が、マトリックスを強化する効果を与え、この結果、環境からの影響に対する安定性および機械的完全性を前記導電性層に付与すると現在想定されている。さらに、特に有機ポリマーからなる群より選択される材料を含む基材の場合、1種または複数のコポリマー(C)の疎水性領域が、基材への強固な付着を可能にすると想定されている。
【0102】
本発明のさらなる態様は、表面を有する基材および前記基材の前記表面の少なくとも一部の上に配設された(上記に規定の)本発明による導電性層を含む物品に関する。
【0103】
好ましくは、前記導電性層は、10nmから1000nmまで、好ましくは50nmから500nmの範囲の厚さを有する。導電性層の厚さの下限は、塗布された組成物のナノオブジェクトの最小寸法によって決定される。
【0104】
前記基材は一般的に、電気絶縁体である。好ましくは、前記基材は、ガラスおよび有機ポリマーからなる群より選択される材料を含み、またはこの材料からなる。好ましい有機ポリマーは、ポリカルボネート(PC)、環状オレフィンコポリマー(COP)、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ポリイミド(PI)およびポリエチレンテレフタレート(PET)からなる群より選択される。好ましくは、前記基材は、ASTM D1003(手順A)に従って測定して80%以上の光透過率を有する。
【0105】
本発明による好ましい物品は、上記に規定の好ましい特徴のうちの2つ以上を組み合わせた物品である。
【0106】
(上記に規定の)本発明による導電性層および(上記に規定の)本発明による物品の一般的な用途は、透明電極、タッチパネル、ワイヤー型偏光子、静電容量式および抵抗膜式のタッチセンサー、EMI遮へい、透明ヒーター(例えば、自動車用途および他の用途向け)、フレキシブルディスプレー、プラズマディスプレー、電気泳動ディスプレー、液晶ディスプレー、透明アンテナ、エレクトロクロミックデバイス(例えば、スマートウインドウ)、光起電力デバイス(特に薄膜光起電力セル)、エレクトロルミネセンスデバイス、発光デバイス(LED)および有機発光デバイス(OLED)、フレキシブルウォッチまたは折りたたみ式スクリーン等の着用可能なフレキシブルデバイス(いわゆるウェアラブル機器)、ならびに、曇り防止特性、凍結防止特性または帯電防止特性を付与する機能性コーティングならびに誘電体型および強誘電体型のハプティックフィルムからなる群より選択される。しかしながら、本発明は、これらの用途に限定されず、当業者により多くの他の電気光学的デバイスにおいて使用され得る。
【0107】
本発明のさらなる態様は、(上記に規定の)本発明による導電性層または(上記に規定の)本発明による物品の製造のために(上記に規定の)本発明による組成物を使用する方法に関する。
【0108】
本発明は以降、例によってさらに説明される。
【実施例】
【0109】
1. スピンコーティングによって得られたガラス基材上の導電性層の例:
1.1 追加の結合剤を含まない組成物
銀ナノワイヤー(上記に規定のナノオブジェクト(B))の水性分散物および上記に規定のスチレン/アクリル酸コポリマー(C)(Joncryl60、BASFから市販)の水溶液を、表1に示した銀ナノワイヤーの濃度および銀ナノワイヤー(B)の溶解したコポリマー(C)に対する質量比を有するインキを得るように混合する。
【0110】
インキを、様々なスピン速度(表1を参照されたい)で60秒にわたってガラス基材上にスピンコートして(Smart coater100)、相異なる湿潤厚さを有する層を生成する。次いで層を130℃で5分乾燥させる。
【0111】
オーム/スクウェア(OPS)として与えられた乾燥済みの層のシート抵抗Rshを、4点プローブステーション(Lucas lab pro−4)によって測定し、光学特性を、ASTM D1003手順A−ヘイズメーターに従ってhaze−gard plusヘイズメーター(BYK Gardner)によって測定する。結果は、表1にまとめている。
【0112】
光学特性に関して、Tは、光透過率を指し、Hは、導電性層で被覆された基材のヘイズを指す。H(基材控除済み)は、導電性層で被覆された基材のヘイズとブランク基材(導電性層で被覆されていない)のヘイズとの差異を指す。
【0113】
【表1】
【0114】
1.2 追加の結合剤を含む組成物
銀ナノワイヤー(上記に規定のナノオブジェクト(B))の水性分散物、および、追加の結合剤をさらに含む上記に規定のスチレン/アクリル酸コポリマー(C)(Joncryl60、BASFから市販)の水溶液を、表2に示した銀ナノワイヤーの濃度ならびに銀ナノワイヤー(B)の溶解したコポリマー(C)および追加の結合剤に対する質量比を有するインキを得るように混合する。
【0115】
実施例23〜28の追加の結合剤は、水に溶解したヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC、Aldrichから入手可能)、すなわち、上記に規定の追加の結合剤(F)である。実施例29〜32の追加の結合剤は、水中に分散された80nmの平均直径を有するポリマービーズ(BASF製のAcronal LR9014)の形態の25000g/molから200000g/molの範囲の数平均分子量を有する2−エチルヘキシルアクリレートとメチルメタクリレートとのコポリマー、すなわち、上記に規定の追加の結合剤(D)である。
【0116】
インキを、様々なスピン速度(表2を参照されたい)で60秒にわたってガラス基材上にスピンコートして(Smart coater100)、相異なる湿潤厚さを有する層を生成する。次いで層を130℃で5分乾燥させる。
【0117】
乾燥済みの層の(上記に規定の)シート抵抗を、4点プローブステーション(Lucas lab pro−4)によって測定し、(上記に規定の)光学特性を、ASTM D1003手順A−ヘイズメーターに従ってhaze−gard plusヘイズメーター(BYK Gardner)によって測定する。結果は、表2にまとめている。
【0118】
インキの塗布量は、すべてのスピンコーティング例において同じである。乾燥済みの層の厚さは、固定濃度のインキを使用したときのスピン速度に依存する。スピン速度が高いときの方が、基材から流れ出るインキが多くなる。したがって、スピン速度の変更を用いて、(上記に規定の)シート抵抗および光学特性を、透明導電性層の異なる用途の要件に合致するように変更することができる。スピン速度を高くすると、高い光透過率および低いヘイズを有するが、かなり高いシート抵抗を有する非常に薄い層を生成することができる。逆に、スピン速度を低くすると、低いシート抵抗を有するが、より低い光透過率およびより高いヘイズを有するより厚い層を生成することができる。
【0119】
【表2】
【0120】
2. ドローダウンコーティングによって得られたポリマー基材上の導電性層の例
銀ナノワイヤー(上記に規定のナノオブジェクト(B))の水性分散物および上記に規定のスチレン/アクリル酸コポリマー(C)(Joncryl60、BASFから市販)の水溶液を、表3に示した銀ナノワイヤーの濃度および銀ナノワイヤー(B)の溶解したコポリマー(C)に対する質量比を有するインキを得るように混合する。インキを30分ボールミル粉砕して、均一化を改良する。
【0121】
インキを、ドローダウンバーを使用してポリマー基材に塗布して(湿潤厚さt=6μm、コーティング速度v=2インチ/秒)、前記基材上に層を得る。次いで層を135℃で5分乾燥させる。実施例33および34において、基材は、ポリカーボネート光学箔(例えば、Bayer Material Scienceから製品規格Makrofol DE1−1 175μmで市販)である。実施例35において、基材は、ポリエチレンテレフタレート光学箔(Melinex453/400、Teijing Films)である。
【0122】
乾燥済みの層の(上記に規定の)シート抵抗を、4点プローブステーション(Lucas lab pro−4)によって測定し、(上記に規定の)光学特性を、ASTM D1003手順A−ヘイズメーターに従ってhaze−gard plusヘイズメーター(BYK Gardner)によって測定する。結果は、表3にまとめている。
【0123】
【表3】
【0124】
3. 基材への導電性層の付着性の測定
3.1 ガラス基材上へのスピンコーティング
銀ナノワイヤー(上記に規定のナノオブジェクト(B))の水性分散物および上記に規定のスチレン/アクリル酸コポリマー(C)(Joncryl60、BASFから市販)の水溶液を、2.5mg/mlの銀ナノワイヤーの濃度および銀ナノワイヤー(B)の溶解したコポリマー(C)に対する質量比1:2を有するインキを得るように混合する。
【0125】
インキを、3000rpmで60秒にわたってガラス基材上にスピンコートして(Smart Coater100)、層を生成する。次いで層を130℃で5分乾燥させる。
【0126】
基材への導電性層の付着性は、次のとおりのScotchテープ試験によって検査する。新しい1枚の商業用3M Scotchテープ(例えば、3Mから製品規格Scotch D.Art.Nr.11257で市販)を、導電性層の表面上に押し付け、次いではく離させる。この手順は、はく離工程の総数が10回になるように繰り返す。乾燥済みの導電性層段階の(上記に規定の)シート抵抗を、1回目のはく離工程の前および10回目のはく離工程の後に4点プローブステーション(Lucas lab pro−4)によって測定する。表4から分かるように、シート抵抗は、10回のはく離工程の完了後に著しく変化していなかった。したがって、層は、基材への強固な付着を有する。
【0127】
【表4】
【0128】
3.2 プラスチック基材上へのドローダウンコーティング
上記に記載の実施例35の導電性層には、上記に記載の付着試験を施した。剥離手順は、はく離工程の総数が8回になるように繰り返す。乾燥済みの導電性層段階の(上記に規定の)シート抵抗を、1回目のはく離工程の前および8回目のはく離工程の後に4点プローブステーション(Lucas lab pro−4)によって測定する。表5から分かるように、シート抵抗は、8回のはく離工程の完了後に著しく変化していなかった。したがって、層は、基材への強固な付着を有する。
【0129】
【表5】
【0130】
4. 結論
上記に提供の例は、(上記に規定の)本発明による組成物が、
− ASTM D1003に従って測定して80%以上、好ましい実施形態において90%以上の光透過率と、
− 1000オーム/スクウェア以下、好ましい実施形態において100オーム/スクウェア未満のシート抵抗と、
− 好ましい実施形態においてASTM D1003に従って測定して2%以下、さらなる好ましい実施形態において1.5%以下、特に好ましい実施形態において1%以下のヘイズと、
− 基材への強固な付着と
を有する導電性透明層の製造に適していることを示している。
【0131】
上記の例は、得られる導電性層のヘイズは、他のすべてのコーティングパラメーター無変更のままであることを条件にして、層の製造のために使用されるインキ中の固体状成分の濃度が上昇したときに上昇することを示している。このことは、かなり高い(しかしながら、依然として本発明による範囲の)濃度の固体状成分を有するインキをそれぞれ使用した実施例7、29および33〜35から明らかである。したがって、得られる導電性層のヘイズは、(上記に規定の)本発明の組成物に比較して著しく高い濃度の固体状成分を有するUS2008/0182090によるインキを使用した場合より著しく高いと結論付けられる。しかしながら、タッチパネルのような用途のためには、高いヘイズは不利である。