(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「融点」とは、示差走査熱量測定(DSC)法で測定した融解ピークに対応する温度を意味する。なお、複数の融解ピークが得られる場合は、示差操作熱量測定(DSC)法で測定されるDSC曲線における、吸熱メインピークを示す温度を意味する。
「フッ素樹脂」とは、分子中にフッ素原子を有する高分子化合物を意味する。
「ガスバリア層」とは、熱融着層、保護層および必要に応じて設けられる任意の層に含まれる材料よりも、水蒸気、酸素等のガスを透過しにくい性質を有する層を意味する。
「単位」とは、重合体中に存在して重合体を構成する、単量体に由来する部分を意味する。また、ある単位の構造を重合体形成後に化学的に変換したものも単位という。
なお、場合によっては、個々の単量体に由来する単位をその単量体名に「単位」を付した名称で呼ぶ。
【0010】
〔真空断熱材用外皮材〕
本発明の真空断熱材用外皮材は、フッ素樹脂を含む熱融着層と、金属製のガスバリア層と、樹脂製の保護層とを有する。
熱融着層、ガスバリア層および保護層は、この順に積層され、かつ熱融着層とガスバリア層とは直接接している。
強度をより向上させる等の目的で、保護層のガスバリア層と反対側の面に別の層(任意の層)をさらに積層してもよい。また、ガスバリア層と保護層との間には任意の他の層が介在していてもよい。これらの層間に介在する任意の層としては、接着促進層が挙げられる。
本発明の真空断熱材用外被材は、1枚以上を熱融着層を対向させて周縁部を熱融着によりシールすることにより、芯材を真空封入するための袋体として使用される。
【0011】
図1は、本発明の真空断熱材用外皮材の一例を示す断面図である。真空断熱材用外皮材10は、熱融着層12と、熱融着層12に隣接するガスバリア層14と、ガスバリア層14に隣接する保護層16と、保護層16に隣接する任意の層18とからなる。
【0012】
(熱融着層)
熱融着層は、熱融着層同士でのヒートシール性を有する樹脂層である。
熱融着層は、フッ素樹脂を含み、融点が160〜240℃である。
【0013】
<融点>
熱融着層の融点は、160〜240℃であり、180〜240℃が特に好ましい。熱融着層の融点が前記範囲の上限値以下であれば、比較的低い温度にて熱融着層同士でヒートシールおよび隣接する層と積層できる。比較的低い温度で真空断熱材用外皮材を製造できると、変形が抑えられ、真空断熱材用外皮材のシワや破損が抑えられる。
熱融着層の融点は、主として、熱融着層を構成する樹脂成分の融点に依存する。
【0014】
<フッ素樹脂>
熱融着層はフッ素樹脂を含む。熱融着層のフッ素樹脂の融点は、160〜240℃であることが好ましく、180〜240℃であることが特に好ましい。フッ素樹脂の融点が前記範囲であれば、熱融着層の融点を上記所定の範囲としやすい。またフッ素樹脂を含むと低温下での脆性破壊が抑制されやすい。
【0015】
熱融着層のフッ素樹脂は接着性官能基を有する。熱融着層のフッ素樹脂が接着性官能基を有すると、熱融着層にヒートシール性を発現させやすい。また、ヒートシール性が発現しやすいため、ガスバリア層との接着性も優れる。
接着性官能基は、接着性官能基を有する単量体に由来するものであってもよく、重合開始剤や連鎖移動剤に由来するものであってもよく、フッ素樹脂にグラフト重合された化合物に由来するものであってもよい。
【0016】
接着性官能基としては、カルボキシ基、酸無水物基、カルボン酸ハライド基、エポキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、チオール基、カーボネート基、アミド基、ウレタン結合、ウレア結合、エステル基およびエーテル基からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。熱融着層のヒートシール性に優れる点から、カルボキシ基または酸無水物基が特に好ましい。
【0017】
熱融着層のフッ素樹脂は、熱融着層のヒートシール性に優れ、かつフィルム等への成形性に優れる点から、エチレン単位とテトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)単位と接着性官能基を有する単位とを有する共重合体(以下、エチレン単位とTFE単位とを有する共重合体を「ETFE」、エチレン単位とTFE単位と接着性官能基を有する単位とを有する共重合体を「接着性ETFE」とも記す。)、TFE単位とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位と接着性官能基を有する単位とを有する共重合体、ビニリデンフルオリド単位(以下、「VDF」とも記す。)と接着性官能基を有する単位とを有する共重合体、およびビニルフルオリド単位と接着性官能基を有する単位とを有する共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。フッ素樹脂の融点を前記範囲に調整しやすい点から、接着性ETFEが特に好ましい。
【0018】
接着性ETFEは、必要に応じてエチレン、TFEおよび接着性官能基を有する単量体以外の他の単量体に由来する単位を有していてもよい。
接着性官能基を有する単量体としては、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、無水マレイン酸等が挙げられる。
他の単量体としては、フルオロオレフィン(ただし、テトラフルオロエチレンを除く。
)、フルオロ(アルキルビニルエーテル)等が挙げられる。
【0019】
接着性ETFEの具体例としては、国際公開第2006/134764号に記載の「官能基を有するフッ素樹脂」、特開2012−106494号公報に記載の「接着性官能基含有フッ素樹脂」、国際公開第2001/058686号に記載の「カルボニル基を有する含フッ素エチレン性重合体」等が挙げられる。
【0020】
<フッ素樹脂の製造方法>
熱融着層のフッ素樹脂は、重合媒体中で重合開始剤の存在下、必要に応じて連鎖移動剤を用いて重合させることにより製造することができる。
【0021】
重合媒体としては、n−パーフルオロヘキサン、n−パーフルオロヘプタン、パーフルオロシクロブタン、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロベンゼン等のパーフルオロカーボン類、1,1,2,2−テトラフルオロシクロブタン、CF
3CFHCF
2CF
2CF
3、CF
3(CF
2)
4H、CF
3CF
2CFHCF
2CF
3、CF
3CFHCFHCF
2CF
3、CF
2HCFHCF
2CF
2CF
3、CF
3(CF
2)
5H、CF
3CH(CF
3)CF
2CF
2CF
3、CF
3CF(CF
3)CFHCF
2CF
3、CF
3CF(CF
3)CFHCFHCF
3、CF
3CH(CF
3)CFHCF
2CF
3、CF
3CF
2CH
2CH
3、CF
3(CF
2)
3CH
2CH
3等のハイドロフルオロカーボン類、CF
3CH
2OCF
2CF
2H、CF
3(CF
3)CFCF
2OCH
3、CF
3(CF
2)
3OCH
3等のハイドロフルオロエーテル類が好ましく、CF
3(CF
2)
5H、CF
3CH
2OCF
2CF
2Hがより好ましく、CF
3(CF
2)
5Hが最も好ましい。
【0022】
連鎖移動剤としては、メタノール、エタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパノール等のアルコール類、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等のハイドロカーボン類、CF
2H
2等のハイドロフルオロカーボン類、アセトン等のケトン類、メチルメルカプタン等のメルカプタン類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル等のエーテル類が好ましく挙げられる。
【0023】
これらのうち、メタノール、エタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパノール等のアルコール類がより好ましく、メタノールが最も好ましい。
連鎖移動剤の使用量は、重合媒体と連鎖移動剤の合計重量に対して0.01〜50質量%が好ましく、0.02〜40質量%がより好ましく、0.05〜20質量%が最も好ましい。
【0024】
重合開始剤としては、半減期が10時間である温度(10時間半減期温度ともいう。)が0〜100℃であるラジカル重合開始剤が好ましく、20〜90℃である塩素原子を含有しないラジカル重合開始剤がより好ましく、20〜60℃であるラジカル重合開始剤が特に好ましい。重合開始剤の具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート、tert−ブチルペルオキシピバレート、tert−ブチルペルオキシイソブチレート、tert−ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル、イソブチリルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド等の非フッ素系ジアシルペルオキシド、(Z(CF
2)
pCOO)
2(ここで、Zは水素原子またはフッ素原子であり、pは1〜10の整数である。)等の含フッ素ジアシルペルオキシド、パーフルオロtert−ブチルペルオキシド、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物等が挙げられる。
【0025】
<他の成分等>
熱融着層は、本発明の効果を損なわない範囲で、接着性官能基を含まないフッ素樹脂やフッ素樹脂以外の成分を含んでもよい。フッ素樹脂以外の成分としては、ポリアミド、アミノ基含有ポリマー、含フッ素エラストマー(VDF単位を有するフッ素ゴム、プロピレン単位およびTFE単位を有するフッ素ゴム等)およびその架橋物、樹脂粒子(ポリテトラフルオロエチレンの粒子、ポリエーテルエーテルケトンの粒子、ポリフェニレンサルファイドの粒子等)等が挙げられる。
【0026】
熱融着層中の接着性官能基を有するフッ素樹脂の割合は、熱融着層(100質量%)のうち、5〜100質量%であることが好ましく、20〜100質量%であることがより好ましく、50〜100質量%が特に好ましい。
熱融着層のフッ素樹脂に占める接着性ETFEの割合は、5〜100質量%であることが好ましく、20〜100質量%であることがより好ましく、50〜100質量%が特に好ましい。前記範囲の割合であると、ヒートシール強度の優れた熱溶着層が得られる。熱融着層のフッ素樹脂は融点が160〜240℃であることが好ましい。
【0027】
<熱融着層の厚さ>
熱融着層の厚さは、1〜200μmが好ましく、10〜100μmがより好ましく、20〜60μmが特に好ましい。熱融着層の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、ヒートシール強度に優れる。熱融着層の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、真空断熱材用外皮材の可とう性に優れる。
【0028】
(ガスバリア層)
ガスバリア層は、袋体の外部から内部への、水蒸気、酸素等のガスの侵入を抑える金属材料からなる層である。ガスバリア層を構成する金属は、金属箔であっても、後述の保護層に蒸着された蒸着膜であってもよい。
後述の保護層が接着性官能基を有するフッ素樹脂を含み、ガスバリア層と保護層とが直接接するように積層される場合、ガスバリア層は蒸着膜ではなく金属箔である。
ガスバリア層を構成する金属が後述の保護層に蒸着された蒸着膜の場合、蒸着膜が熱融着層と直接接するように積層される。
【0029】
ガスバリア層を構成する金属材料は、公知のガスバリア性の金属材料から適宜選択すればよい。
ガスバリア性の金属材料としては、ガスバリア性に優れ、かつ金属箔成形性や後述の保護層に対する蒸着の容易性の点から、アルミニウム及びステンレスからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。アルミニウムが特に好ましい。アルミニウムは、高純度アルミニウムであってもよく、アルミニウム合金であってもよい。
【0030】
ガスバリア層の厚さは、金属箔の場合6〜50μmが好ましく、6〜30μmが特に好ましい。ガスバリア層の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、ピンホールの発生を抑制でき、袋体の外部から内部へのガスの侵入が充分に抑えられる。ガスバリア層の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、真空断熱材のヒートブリッジを抑えることができる。
ガスバリア層が蒸着膜の場合、0.001〜0.5μmが好ましく、0.005〜0.2μmが特に好ましい。蒸着膜であるガスバリア層が複数存在するときは、合計の厚さが上記範囲内になるように形成すればよい。また、ガスバリア層は金属箔と蒸着膜との組合せであってもよい。前記の場合は、ガスバリア層の合計の厚さが6〜50μmであることが好ましい。
【0031】
(保護層)
保護層はガスバリア層を保護する層である。また、
図1のように保護層のガスバリア層と反対側に任意の層がある場合は、ガスバリア層と任意の層との間を接着する接着層の役割も担うこともできる。保護層が接着性官能基を有する樹脂を含むとより接着層として機能しやすい。
保護層は、熱可塑性樹脂で構成されることが好ましい。保護層に用いられる熱可塑性樹脂としては、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0032】
保護層を構成する熱可塑性樹脂の融点は、160℃以上が好ましく、160〜240℃であることがより好ましく、180〜240℃が特に好ましい。保護層を構成する熱可塑性樹脂の融点が前記範囲の下限値以上であれば、熱ラミネート時にロールに融着するなど製造上の不具合を抑制することができる。保護層を構成する熱可塑性樹脂の融点が前記範囲の上限値以下であれば、比較的低い温度にて隣接する層と積層できる。比較的低い温度で真空断熱材用外皮材を製造できると、変形が抑えられ、真空断熱材用外皮材のシワや破損が抑えられる。
【0033】
保護層はフッ素樹脂を含むことが好ましい。保護層に含まれるフッ素樹脂の融点は、160〜280℃であることが好ましく、180〜240℃が特に好ましい。フッ素樹脂の融点が前記範囲であれば、保護層の融点を上記所定の範囲としやすい。保護層がフッ素樹脂を含むと低温での脆性破壊が抑制されやすい。
【0034】
保護層に含まれるフッ素樹脂としては、上述した熱融着層のフッ素樹脂と同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様である。また、好ましい製造条件も同様である。
保護層に含まれるフッ素樹脂は、熱融着層のフッ素樹脂と同じ種類のものであってもよく、異なる種類のものであってもよい。真空断熱材用外皮材を製造しやすい点から、保護層に含まれるフッ素樹脂は、熱融着層のフッ素樹脂と同じ種類のものが好ましい。
【0035】
フッ素樹脂を含む保護層は、接着性官能基を含まないフッ素樹脂やフッ素樹脂以外の成分を含んでもよい。フッ素樹脂以外の成分としては、熱融着層に含まれる他の成分と同様のものが挙げられる。
【0036】
保護層中のフッ素樹脂の割合は、保護層(100質量%)のうち、5〜100質量%であることが好ましく、20〜100質量%であることがより好ましく、50〜100質量%が特に好ましい。
保護層のフッ素樹脂に占める接着性官能基を有するフッ素樹脂の割合は、5〜100質量%であることが好ましく、20〜100質量%であることがより好ましく、50〜100質量%が特に好ましい。
保護層のフッ素樹脂に占めるETFEの割合は、5〜100質量%であることが好ましく、20〜100質量%であることがより好ましく、50〜100質量%が特に好ましい。
保護層のフッ素樹脂に占める接着性ETFEの割合は5〜100質量%であることが好ましく、20〜100質量%であることがより好ましく、50〜100質量%が特に好ましい。
【0037】
保護層の厚さは、1〜100μmが好ましく、5〜60μmがより好ましく、10〜50μmが特に好ましい。保護層の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、外部の力からガスバリア層を保護しやすい。また
図1のように任意の層があり、ガスバリア層と任意の層との間を接着する接着層の役割を担う場合は、接着強度に優れる。保護層の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、真空断熱材用外皮材の可とう性に優れる。
【0038】
保護層が、蒸着膜からなるガスバリア層の支持層である場合、ガスバリア層の支持層として機能する保護層は樹脂フィルムである。樹脂フィルムとしては、たとえば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、エチレン−ビニルアルコール共重合体のフィルムのほか、前述したフッ素樹脂のフィルムを使うことができる。支持層として機能する場合の保護層の厚さは1〜200μmであることが好ましく、10〜100μmであることが特に好ましい。
【0039】
(接着促進層)
ガスバリア層と保護層との接着力や、保護層と任意の層との接着力を向上させるために、接着促進層を設けてもよい。接着促進層を有することで、ヒートシール性が改善され、低温でも容易に融着ができシールが可能となることから、生産性が改良できる。
【0040】
接着促進層の形成方法は、特に限定されないが、たとえば、下記の方法が挙げられる。
・ガスバリア層の表面に、保護層との親和性のある樹脂、または保護層中の接着性官能基と反応し得る官能基を有する樹脂を含むコーティング剤を塗布し、乾燥する方法。
・ガスバリア層の表面に、ベーマイト処理等の化学処理を施す方法。
・ガスバリア層の表面に、シランカップリング剤を塗布する方法。
・反応性ガスの存在下で、ガスバリア層の表面に電磁エネルギー等を加える方法。
【0041】
接着促進層の形成方法としては、保護層との相溶性に優れ、熱融着に要する時間も短縮できる点から、ガスバリア層の表面に、化学処理を施す方法またはシランカップリング剤を塗布する方法が好ましい。
【0042】
シランカップリング剤としては、加水分解性シリル基と、熱融着層または保護層におけるフッ素樹脂と化学反応や水素結合等により結合形成可能な基とを有する化合物が好ましい。加水分解性シリル基としては、アルコキシシリル基が好ましく、加水分解速度が速い点から、メトキシシランおよびエトキシシランが特に好ましい。
フッ素樹脂と化学反応や水素結合等により結合形成可能な基としては、アミノ基、エポキシ基、メタクリル基およびメルカプト基が好ましく、フッ素樹脂との反応性に優れる点から、アミノ基およびエポキシ基が特に好ましい。
【0043】
シランカップリング剤を塗布する際には、水、アルコール系溶媒(エタノール、イソプロピルアルコール等)、水およびアルコール系溶媒の混合溶媒に溶解した溶液とすることが好ましい。該溶液中のシランカップリング剤の含有量は、塗布方法や後述の後処理方法にもよるが、0.1〜15質量%が好ましく、0.1〜3質量%が特に好ましい。前記範囲の下限値以上であれば熱融着層または保護層との接着力を向上でき、前記範囲の上限値以下であればシランカップリング剤が溶解できる。
【0044】
シランカップリング剤をガスバリア層の表面に塗布する方法としては、スプレー塗布、浸漬塗布等通常用いられる塗布方法を適宜用いることができる。
シランカップリング剤を前述の溶液として塗布した場合には、塗布後に溶媒を乾燥させると同時に固化させる。乾燥前に水洗し、過剰量のシランカップリング剤を洗い流してもよい(特開2009−19266号公報)。
シランカップリング剤の塗布量は、熱融着層または保護層との接着力を向上できる点で、0.001〜0.02mg/cm
2が好ましい。
【0045】
(任意の層)
任意の層は、保護層と共にガスバリア層を保護する等の目的で設けられる層である。任意の層を有することにより、真空断熱材用外皮材の機械的強度が高まる。
任意の層は単層でも多層であってもよい。任意の層が単層の場合、ポリアミド及びポリアミドイミドの一方または両方(以下「ポリアミド等」という。)を含む層(以下「ポリアミド等含有層」という。)であることが好ましい。また、任意の層が多層の場合、保護層に接する層がポリアミド等含有層であることが好ましい。
【0046】
ポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、特殊ナイロン、これらの混合物等が挙げられる。
ポリアミドイミドとしては、下式(1)の化合物が挙げられる。式(1)において、Arはアリーレン基であり、nは繰り返し数である。式(1)におけるArは式(2)であることが好ましい。
【0049】
ポリアミド等含有層中のポリアミド等の割合は、ポリアミド等含有層(100質量%)のうち、20〜100質量%が好ましく、50〜100質量%がより好ましく、70〜100質量%が特に好ましい。ポリアミド等含有層中のポリアミド等の割合が前記範囲の下限値以上であれば、真空断熱材用外皮材の機械的強度が充分に優れる。
【0050】
ポリアミド等含有層は、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含んでもよい。
他の成分としては、公知の樹脂用添加剤、ポリアミド等以外の他の樹脂、たとえば、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン(エチレン系樹脂、プロピレン系樹脂等)、アクリル系樹脂、直鎖状の熱可塑性ポリウレタン等)等が挙げられる。
ポリアミド等含有層中の他の成分の割合は、ポリアミド等含有層(100質量%)のうち、0〜80質量%が好ましく、0〜50質量%がより好ましく、0〜30質量%が特に好ましい。ポリアミド等含有層中の他の成分の割合が前記範囲の上限値以下であれば、真空断熱材用外皮材の機械的強度が充分に優れる。
【0051】
任意の層が多層であって、ポリアミド等含有層の保護層と反対側に他の層を有する場合、当該他の層とポリアミド等含有層との間に、融点が160〜240℃であり、かつ接着性官能基を有するフッ素樹脂を含む層を配置してもよい。
【0052】
任意の層の厚さは、10〜100μmが好ましく、25〜100μmが特に好ましい。
任意の層の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、真空断熱材用外皮材の機械的強度が充分に優れる。
任意の層の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、真空断熱材用外皮材の可とう性に優れる。
【0053】
(真空断熱材用外皮材の製造方法)
本発明の真空断熱材用外皮材を製造する方法としては、フィルム状に成形した各層を熱プレスする方法(熱ラミネート法);多層ダイを用いて各層の材料を溶融押出する方法(共押出法);フィルム状に成形した層の上に別の層の材料を溶融押出する方法(押出ラミネート法)等が挙げられる。これらの方法の2つ以上を組み合わせてもよい。
本発明の真空断熱材用外皮材の製造方法の具体例としては、たとえば、下記の方法が挙げられる。
【0054】
<方法(I)>
・熱融着層となるフッ素樹脂フィルムと金属箔(ガスバリア層)とを押出ラミネートして熱融着層とガスバリア層とからなる外皮材(1)を得る。
・外皮材(1)と保護層となるフッ素樹脂とを、ガスバリア層と保護層とが接するように熱ラミネートして本発明の真空断熱材用外皮材を得る。
【0055】
<方法(II)>
・熱融着層となるフッ素樹脂フィルムと金属箔(ガスバリア層)とを熱ラミネートして熱融着層とガスバリア層とからなる外皮材(1)を得る。
・保護層となるフッ素樹脂フィルムとポリアミドフィルムとを熱ラミネートして保護層と任意の層とからなる外皮材(2)を得る。
・外皮材(1)と外皮材(2)とを、ガスバリア層と保護層とが接するように熱ラミネートして本発明の真空断熱材用外皮材を得る。
【0056】
<方法(III)>
・ガスバリア層の上に熱融着層となるフッ素樹脂を押出ラミネートして熱融着層とガスバリア層とからなる外皮材(1)を得る。
・保護層となるフッ素樹脂フィルムとポリアミドフィルムとを熱ラミネートして保護層と任意の層とからなる外皮材(2)を得る。
・外皮材(1)と外皮材(2)とを、ガスバリア層と保護層とが接するように熱ラミネートして本発明の真空断熱材用外皮材を得る。
【0057】
<方法(IV)>
・ガスバリア層の上に熱融着層となるフッ素樹脂を押出ラミネートして熱融着層とガスバリア層とからなる外皮材(1)を得る。
・保護層となるフッ素樹脂とポリアミドとを共押出して保護層と任意の層とからなる外皮材(2)を得る。
・外皮材(1)と外皮材(2)とを、ガスバリア層と保護層とが接するように熱ラミネートして本発明の真空断熱材用外皮材を得る。
【0058】
<方法(V)>
・ガスバリア層の上に熱融着層となるフッ素樹脂を熱ラミネートして熱融着層とガスバリア層とからなる外皮材(1)を得る。
・保護層となるフッ素樹脂とポリアミドとを共押出して保護層と任意の層とからなる外皮材(2)を得る。
・外皮材(1)と外皮材(2)とを、ガスバリア層と保護層とが接するように熱ラミネートして本発明の真空断熱材用外皮材を得る。
【0059】
(作用機序)
本発明者らは、特許文献1の積層フィルムが、低温で使用すると、ガスバリア層と熱融着層が剥がれやすい原因を検討した。その結果、ガスバリア層と熱融着層とを接着している接着剤が、低温下で脆性破壊してしまうことを見出した。特許文献1の積層フィルムでは、アルミ箔と樹脂層とを積層するために、接着剤を使用することが必須である。
本発明では、熱融着層に接着性官能基をする樹脂を用いることにより、熱融着層とガスバリア層とを接着剤を使用することなく直接積層することができる。そのため、低温下で接着剤が脆性破壊してしまう状況を回避できる。
また、本発明では、熱融着層にフッ素樹脂を用いる。フッ素樹脂は、他の樹脂よりも低温下での伸び特性に優れ、低温下で脆性破壊しにくい。
そのため、本発明の外皮材は低温で使用しても脆性破壊しにくく、ガスバリア層と熱融着層も剥がれにくい。
さらに、保護層にも接着性官能基を有する樹脂、特にフッ素樹脂を用い、保護層とガスバリア層とを接着剤を使用することなく直接積層すると、低温下で脆性破壊してしまう状況を一層回避しやすく、より低温特性が向上する。
【0060】
〔真空断熱材用袋体〕
本発明の真空断熱材用袋体は、1枚以上の本発明の真空断熱材用外皮材の周縁において熱融着層同士をヒートシールしてなる。熱融着層が最も内側(芯材と接する側)に配置される。
【0061】
本発明の真空断熱材用袋体としては、1枚の真空断熱材用外皮材を途中で折り返して重ね合せ、重ね合った三辺の周縁の熱融着層同士をヒートシールした三方シールの袋体;2枚の真空断熱材用外皮材を重ね合せ、重ね合った四辺の周縁の熱融着層同士をヒートシールした四方シールの袋体等が挙げられる。
【0062】
〔真空断熱材〕
本発明の真空断熱材は、本発明の真空断熱材用袋体に減圧封入された芯材とを備える。
真空断熱材の形状は、特に限定されず、断熱対象物の施工面の形状に応じて適宜決定できる。通常、真空断熱材の形状は板状であり、施工面に対して平面状であっても、曲面状であってもよい。
真空断熱材における真空断熱材用袋体内の真空度は、優れた断熱性能が得られ、また真空断熱材の寿命が長くなる点から、1×10
3Pa以下が好ましく、1×10
2Pa以下がより好ましい。
【0063】
(芯材)
芯材としては、真空断熱材に用いられる公知の芯材を使用できる。例えば、粉体を含む断熱材材料が板状に成形されたもの、グラスウール、エアロゲルブランケット等が挙げられるが、それに限定されるものではない。粉体を含む芯材の場合は、断熱材材料としては、高強度な芯材を得やすい点から、粉体に加えて繊維が含まれていることが好ましい。また、粉体を含む芯材の場合は、断熱材材料にバインダを含ませてもよい。
【0064】
<粉体>
以下に粉体を含む芯材の場合を例にとって説明する。
粉体としては、芯材に通常用いられる公知の粉体を使用できる。具体的には、ヒュームドシリカ、多孔質シリカ、輻射抑制材等が挙げられる。粉体としては、充分な強度を有する芯材が得られやすい点から、ヒュームドシリカを含むことが好ましい。
粉体は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
ヒュームドシリカは極めて微細な粉末であるため、粒の大きさを表す指標としては通常比表面積が用いられる。
ヒュームドシリカの比表面積は、50〜400m
2/gが好ましく、100〜350m
2/gがより好ましく、200〜300m
2/gが特に好ましい。ヒュームドシリカの比表面積が前記範囲の下限値以上であれば、優れた断熱性能が得られやすい。ヒュームドシリカの比表面積が前記範囲の上限値以下であれば、ヒュームドシリカの取扱いが容易である。比表面積は、窒素吸着法(BET法)により測定される。
【0066】
多孔質シリカを併用する場合、多孔質シリカの比表面積は、100〜800m
2/gが好ましく、200〜750m
2/gがより好ましく、300〜700m
2/gが特に好ましい。多孔質シリカの比表面積が前記範囲の下限値以上であれば、優れた断熱性能が得られやすい。多孔質シリカの比表面積が前記範囲の上限値以下であれば、工業的に入手が容易であり、多孔質シリカの強度も優れている。
【0067】
多孔質シリカの平均粒子径は、レーザー回折散乱法やコールターカウンター法等により、体積基準で測定された場合において、1〜300μmが好ましく、2〜150μmがより好ましく、3〜100μmが特に好ましい。多孔質シリカの平均粒子径が前記範囲の下限値以上であれば、高い気孔率を有する多孔質シリカが得られやすく、優れた断熱性能が得られやすい。多孔質シリカの平均粒子径が前記範囲の上限値以下であれば、芯材の密度が高くなりすぎず、優れた断熱性能が得られやすい。
【0068】
輻射抑制材としては、例えば、金属粒子(アルミニウム粒子、銀粒子、金粒子等)、無機粒子(グラファイト、カーボンブラック、炭化ケイ素、酸化チタン、酸化スズ、酸化鉄、チタン酸カリウム等)等が挙げられる。
【0069】
<バインダ>
芯材を低密度にしても充分な強度が得られやすい点から、芯材の形状を維持するために断熱材材料にはバインダを含ませることができる。バインダとしては、有機バインダであってもよく、無機バインダであってもよい。なかでも、バインダとしては、熱伝導性が低く、優れた断熱性能が得られやすい点から、無機バインダが好ましい。
無機バインダとしては、例えば、ケイ酸ナトリウム、リン酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。なかでも、優れた断熱性能が得られやすい点から、ケイ酸ナトリウムが特に好ましい。
バインダは溶媒に溶解してバインダ液として用いることが好ましく、水溶液がより好ましい。
【0070】
<繊維>
断熱材材料に繊維が含まれると、高強度な芯材が得られやすい。
繊維としては、真空断熱材に通常使用される繊維が使用でき、例えば、樹脂繊維、無機繊維が挙げられる。なかでも、真空下でのアウトガスが少なく、真空度の低下による断熱性能の低下を抑制しやすい点、および耐熱性に優れる点から、無機繊維が好ましい。使用する繊維の繊維長は、20mm以下が好ましい。
【0071】
無機繊維としては、例えば、アルミナ繊維、ムライト繊維、シリカ繊維、グラスウール、グラスファイバー、ロックウール、スラグウール、炭化ケイ素繊維、カーボン繊維、シリカアルミナ繊維、シリカアルミナマグネシア繊維、シリカアルミナジルコニア繊維、シリカマグネシアカルシア繊維等が挙げられる。
【0072】
<好ましい組成>
芯材として粉体を用いる場合の、芯材の好ましい組成は質量比で、ヒュームドシリカ:多孔質シリカ:繊維:輻射抑制材が、50〜90:0〜20:5〜15:5〜30が好ましい。バインダを添加する場合、バインダの割合は、ヒュームドシリカ100質量部に対して、0.1〜15質量部が好ましい。
【0073】
(真空断熱材の製造方法)
真空断熱材の製造方法は、特に限定されず、例えば、断熱材材料を成形して芯材を得る成形工程と、真空断熱材用袋体に芯材を減圧封入して真空断熱材を得る減圧封入工程と、を有する方法が挙げられる。
断熱材材料を成形して芯材を得る方法としては、公知の方法を採用でき、例えば、断熱材材料を金型に投入し、加圧して成形する方法等が挙げられる。
減圧封入工程では、例えば、一辺をヒートシールせずに開口部として残した真空断熱材用袋内に芯材を収納し、減圧条件下において該真空断熱材用袋体の開口部をヒートシールで密封した後、真空断熱材用袋体の外部を大気圧条件に戻して真空断熱材を得る。
【実施例】
【0074】
〔測定方法及び評価方法〕
(融点(℃))
走査型示差熱分析器(SIIナノテクノロジーズ社製、DSC220CU)を用いて、各材料を空気雰囲気下に300℃まで10℃/分で加熱した際の吸熱ピークから求めた。
【0075】
(低温引っ張り試験)
各実施例で得られた外被材(積層体)をJIS K6215記載のダンベル状1号の形状に打ち抜いて試験片とし、液体窒素(−196℃)に浸漬した状態で3mm/minの速度で引張り、歪みに対する応力変化を測定した。測定には、ミネベヤ株式会社製万能材料試験機テクノグラフ TGI 100kNを用いた。
【0076】
〔材料〕
(フッ素樹脂)
国際公開第2006/134764号の合成例1に記載の方法にしたがって、TFE単位/エチレン単位/3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロ−1−ヘキセン単位/ヘキサフルオロプロピレン単位/無水イタコン酸単位=44/48/0.8/8.0/0.2(モル比)、融点:190℃のフッ素樹脂Aを得た。
【0077】
(実施例)
前記方法(I)により、厚さ50μmのフッ素樹脂A、厚さ12μmのアルミニウム箔、厚さ50μmのフッ素樹脂Aがこの順で直接積層した実施例1の外皮材を得た。
【0078】
(比較例)
厚さ12μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)、厚さ9μmのアルミニウム箔、厚さ25μmのポリアミド、厚さ60μmの直鎖状低密度ポリエチレンをこの順で、接着剤を介して積層し、比較例1の外皮材を得た。
接着剤としては、ウレタン系接着剤を用いた。
ドライラミネート法により、厚さ12μmのPET、厚さ9μmのアルミニウム箔、厚さ25μmのポリアミド、厚さ60μmの直鎖状低密度ポリエチレンがこの順で積層した比較例1の外皮材を得た。
【0079】
実施例1、比較例1の積層体(各々N=2)について、低温引っ張り試験を行った結果を
図2、3に示す。比較例1(
図3)では、歪み5%前後で突然破断して応力がゼロとなったのに対して、実施例1(
図2)では、歪み5%を超えても破断せず、次第に応力が減少していき、歪み6%を超えて完全に破断した。
これは、実施例1の積層体の方が、低温時における伸び特性に優れていることを示す。実施例1の積層体が低温時における伸び特性に優れるのは、フッ素樹脂の低温伸び特性が優れ、また、接着性官能基を持っているフッ素樹脂Aを直接アルミニウム箔に積層したためであると考えられる。