(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ニッケル源、珪素源および炭素源を含む原料材を加熱して、1,100〜1,650℃にて、不活性ガス雰囲気下、0.5〜30時間反応させて、SiおよびNiを含有しSiのNiに対する原子比が2.08以上の組成を有する熔融物質を得て、
前記熔融物質を3時間以上の冷却時間で50℃以下に冷却してリチウム吸蔵放出材料を得ること
を特徴とするリチウム吸蔵放出材料の製造方法。
前記珪石は、純度が99.0重量%以上であって、酸化カルシウムの含有量が0.1重量%以下、酸化アルミニウムの含有量が0.2重量%以下、かつ酸化マグネシウムの含有量が0.1重量%以下である、請求項13に記載のリチウム吸蔵放出材料の製造方法。
前記金属珪素は、純度が99.0重量%以上であって、Feの含有量が0.5重量%以下、Alの含有量が0.1重量%以下、かつCaの含有量が0.3重量%以下である、請求項13または請求項14に記載のリチウム吸蔵放出材料の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、急速な電子機器、通信機器等の発展及び小型化の技術の発達に伴い、様々な携帯型の機器が普及してきている。そして、これらの携帯型の機器の電源として、経済性と機器の小型化、軽量化の観点から、高容量及び寿命特性の優れた二次電池の開発が強く求められている。
【0003】
このような小型、軽量な高容量の二次電池としては、今日、リチウムイオンを層間から放出するリチウムインターカレーション化合物を正極物質に、リチウムイオンを結晶面間の層間に充放電時に吸蔵放出(インターカレート)できる黒鉛などに代表される炭素質材料を負極物質に用いた、ロッキングチェア−型のリチウムイオン電池の開発が進み、実用化されて一般的に使用されている。
【0004】
リチウム化合物を負極として使用する非水電解質二次電池は、高電圧と高エネルギー密度とを有しており、そのうちでもリチウム金属は、豊富な電池容量により負極活物質として初期に、多くの研究対象になった。しかし、リチウム金属を負極として使用する場合、充電時に負極リチウム表面に多くの樹枝状リチウムが析出するため、充放電効率が低下したり、また、樹枝状リチウムが成長し、正極と短絡を起こしたりすることがあり、あるいはリチウム自体の不安定性、すなわち高い反応性によって熱や衝撃に敏感であるので、商用化には課題が残されていた。
【0005】
そこで、かかるリチウム金属に代わる負極活物質として、リチウムを吸蔵放出する炭素系負極が用いられるようになった。炭素系負極は、リチウム金属が有する各種問題点を解決し、リチウムイオン電池が普及されるのに大きく寄与をした。しかし、次第に各種携帯用機器が小型化、軽量化及び高性能化されるにつれて、リチウムイオン二次電池の高容量化が重要な問題として浮び上がってきた。
【0006】
炭素系負極を使用するリチウムイオン二次電池は、炭素の多孔性構造のため、本質的に低い電池容量を有する。例えば、使用されている炭素として最も結晶性の高い黒鉛の場合にも、理論的な容量は、LiC
6の組成であるとき、372mAh/gほどである。これは、リチウム金属の理論的な容量が3860mAh/gであることに比べれば、僅か10%ほどに過ぎない。そこで、金属負極が有する既存の問題点にもかかわらず、再びリチウムのような金属を負極に導入し、電池の容量を向上させようという研究が活発に試みられている。
【0007】
炭素系材料に代わる材料として、近年、最も注目されているのがSiである。その理由は、SiはLi
22Si
5で代表される化合物を形成して、大量のリチウムを吸蔵できるため、炭素系材料を使用した場合に較べて負極の容量を増大でき、結果としてリチウムイオン二次電池やキャパシタ、固体電池の蓄電容量を増大できる可能性を秘めているからである。
【0008】
しかし、Siを単独で負極材として使用した場合には、充電時にリチウムと合金化する際の膨張と、放電時にリチウムと脱合金化する際の収縮との繰り返しにより、Si相が微粉化されて、使用中に電極基板からSi相が脱落したり、Si相間の電気伝導度が取れなくなったりするなどのトラブルが発生するために、蓄電デバイスとしての寿命が極めて短いと言う問題があった。
【0009】
さらに、Siは炭素系材料や金属系材料に比べて電気伝導度が悪く、充放電に伴う電子の効率的な移動が制限されているため、負極材としては炭素系材料などの導電性を補う材料と組み合わせて使用されるが、その場合でも特に初期の充放電や高効率の充放電特性も問題があった。
【0010】
このようなSi相を負極として利用する際の欠陥を解決する方法として、Si相の少なくとも一部を、Siと遷移金属に代表される金属化合物でラップした材料およびその製造方法が、例えば、特許文献1に提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1には、リチウムを吸蔵したり放出したりすることができる相(リチウム吸蔵放出相)ではない相が初晶として析出する組成を有する母合金の溶融体を100℃/秒以上の高速で冷却するプロセスを行うことにより、充放電容量や容量維持率が高い材料が得られることが記載されている。このような高速冷却を製造過程に必要とする材料では、生産性を高めることは容易でない。
【0014】
本発明は、このような高速冷却を必要とすることなく、優れた充放電特性を安定的に有するリチウムイオン二次電池の電極材料として適用可能な、リチウム吸蔵放出材料を提供することを目的とする。本発明は、かかるリチウム吸蔵放出材料の製造方法を提供することも目的とする。本発明は、上記のリチウム吸蔵放出材料を含む電極、およびかかる電極を負極として備えるリチウムイオン二次電池を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために提供される本発明は次のとおりである。
(1)SiおよびNiを含有する組成を有し、Si相およびNiSi
2相を備えるリチウム吸蔵放出材料であって、前記リチウム吸蔵放出材料のX線回析スペクトルにおけるSiのピークからシェラーの式(後述する式(i))により算出される結晶の平均直径(後述する5つのピークから算出された結晶サイズの算術平均値、Si相の大きさに相当する。)が、100nm以下であることを特徴とするリチウム吸蔵放出材料。
【0016】
(2)SiのNiに対する原子比(Si/Ni比)が2.2以上4.2以下である、上記(1)に記載のリチウム吸蔵放出材料。
【0017】
(3)前記リチウム吸蔵放出材料はFeをさらに含有する組成を有し、FeのNiに対する原子比(Fe/Ni比)は0.08以下である、上記(1)または(2)に記載のリチウム吸蔵放出材料。
【0018】
(4)NiSi相をさらに備える、上記(1)から(3)のいずれかに記載のリチウム吸蔵放出材料。
【0019】
(5)上記(1)から(4)のいずれかに記載のリチウム吸蔵放出材料を含む電極。
【0020】
(6)上記(5)に記載される電極を負極として備えるリチウムイオン二次電池。
【0021】
(7)金属珪素からなる珪素源およびニッケル源を含む原料材を加熱して、SiおよびNiを含有しSiのNiに対する原子比が2.08以上の組成を有する熔融物質を得て、前記熔融物質を3時間以上の冷却時間で50℃以下に冷却してリチウム吸蔵放出材料を得ることを特徴とするリチウム吸蔵放出材料の製造方法。
【0022】
(8)ニッケル源、珪素源および炭素源を含む原料材を加熱して、1,100〜1,650℃にて、不活性ガス雰囲気下、0.5〜30時間反応させて、SiおよびNiを含有しSiのNiに対する原子比が2.08以上の組成を有する熔融物質を得て、前記熔融物質を3時間以上の冷却時間で50℃以下に冷却してリチウム吸蔵放出材料を得ることを特徴とするリチウム吸蔵放出材料の製造方法。
【0023】
(9)前記ニッケル源が、新ニッケル、使用済スポンジニッケル触媒、および電気炉残存ニッケル珪素合金半製品からなる群より選ばれた1種または2種以上を含む、上記(7)または(8)に記載のリチウム吸蔵放出材料の製造方法。(本発明では精錬されたニッケルを「新ニッケル」という。)
【0024】
(10)前記新ニッケルは、純度が99.5重量%以上であって、S、P、Asおよびハロゲン元素の含有量がいずれも不可避的不純物レベルである、上記(9)に記載のリチウム吸蔵放出材料の製造方法。
【0025】
(11)前記使用済スポンジニッケル触媒は、純度が50〜70重量%であって、Siの含有量が30〜50重量%、かつFeの含有量が4重量%以下である、上記(9)または(10)に記載のリチウム吸蔵放出材料の製造方法。
【0026】
(12)前記珪素源は、珪石および金属珪素からなる群から選ばれた1種または2種以上を含む、上記(8)から(11)のいずれかに記載のリチウム吸蔵放出材料の製造方法。
【0027】
(13)前記珪石は、純度が99.0重量%以上であって、酸化カルシウムの含有量が0.1重量%以下、酸化アルミニウムの含有量が0.2重量%以下、かつ酸化マグネシウムの含有量が0.1重量%以下である、上記(12)に記載のリチウム吸蔵放出材料の製造方法。
【0028】
(14)前記金属珪素は、純度が99.0重量%以上であって、Feの含有量が0.5重量%以下、Alの含有量が0.1重量%以下、かつCaの含有量が0.3重量%以下である、上記(12)または(13)に記載のリチウム吸蔵放出材料の製造方法。
【0029】
(15)前記炭素源が、木炭およびオガ炭からなる群から選ばれた1種または2種以上を含む、上記(8)から(14)のいずれかに記載のリチウム吸蔵放出材料の製造方法。
【0030】
(16)前記炭素源は、S、P、Asおよびハロゲンの含有量がいずれも不可避的不純物レベルである、上記(8)から(15)のいずれかに記載のリチウム吸蔵放出材料の製造方法。
【0031】
(17)前記原料材をあらかじめ混合した状態で加熱を行う、上記(7)から(16)のいずれかに記載のリチウム吸蔵放出材料の製造方法。
【0032】
(18)前記熔融物質の平均冷却速度が0.5℃/秒以下である、上記(7)から(17)のいずれかに記載のリチウム吸蔵放出材料の製造方法。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、初回のみならず繰り返し充放電した場合であっても優れた充・放電特性を有するリチウムイオン二次電池の電極材料として適用可能な、リチウム吸蔵放出材料が提供される。本発明によれば、かかるリチウム吸蔵放出材料の製造方法、上記のリチウム吸蔵放出材料を含む電極、およびかかる電極を負極として備えるリチウムイオン二次電池も提供される。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の一実施形態に係るリチウム吸蔵放出材料は、SiおよびNiを含有する組成を有し、Si相およびNiSi
2相を備える。
【0036】
Siは、リチウム吸蔵放出相であるSi相の直接的な構成元素である。Niは、Si相を拘束するNiSi
2相を構成する元素の一種である。
図1に示されるように、熱力学的に平衡な条件では、Ni−Si二元合金においてSiの含有量が67.5原子%以上(SiのNiに対する原子比(本明細書において「Si/Ni比」ともいう。)換算では2.08以上)の場合にNiSi
2相およびSi相が主に形成される。したがって、本発明の一実施形態に係るリチウム吸蔵放出材料はSi/Ni比が2.08以上となる組成を有する。
【0037】
リチウム吸蔵放出材料のSi/Ni比が2.08以上であることにより、Si相およびNiSi
2相を主に含む組織が得られ、本発明の一実施形態に係るリチウム吸蔵放出材料を含む電極を負極として備えるリチウムイオン二次電池(以下、「本電池」という場合がある。)の充放電特性が良好となる。かかる充放電特性を良好にすることがより安定的に実現される観点から、Si/Ni比は、2.2以上であることが好ましく、2.4以上であることがより好ましく、2.5以上であることが特に好ましい。
【0038】
基本的な傾向として、Si/Ni比が高いほど、リチウム吸蔵放出相であるSi相の存在割合が相対的に高くなり、上記の充放電特性は良好となり、特に初回充電量および初回放電量は増大する。しかしながら、Si/Ni比が高くなると、拘束相であるNiSi
2相の存在割合が相対的に低下する。このため、Si/Ni比が過度に高くなると、NiSi
2相によるSi相の拘束が適切に行われにくくなり、繰り返し充放電した場合の容量保持率(繰り返し充放電した後の充電量/初期の充電量、単位:%)が低下する傾向がみられるようになる。容量保持率を適切に維持することがより安定的に実現される観点から、Si/Ni比は、4.2以下であることが好ましい場合があり、4.0以下であることがより好ましい場合がある。
【0039】
本発明の一実施形態に係るリチウム吸蔵放出材料は、SiおよびNiに加えて、Feなど他の元素を任意添加元素として含有していてもよい。FeはNiと同じく鉄族元素であり、Siとの反応性も高い。したがって、SiおよびNiを含有する材料にFeも含まれやすく、かかる材料からFeを完全に除去することは容易でない。上記の充放電特性を本発明の一実施形態に係るリチウム吸蔵放出材料がFeを含有する場合には、上記の充放電特性を良好にすることがより安定的に実現される観点から、本発明の一実施形態に係るリチウム吸蔵放出材料のFe含有量は、FeのNiに対する原子比(以下、「Fe/Ni比」ということもある。)が0.08以下となる量であることが好ましい。
【0040】
本発明の一実施形態に係るリチウム吸蔵放出材料におけるFe以外の任意添加元素として、Co,Cu,Ag,Au,Pt,Ti,V,Zr,Nb,Zn,T,W等の遷移金属元素、B,C,Al,S,K,Na,Ca,Mg,Sn,Geなどの元素が例示される。これらの任意添加元素の含有量は、少なければ少ないほど好ましい。Ca,Al,Mgなどは、Siとともに複合酸化物を形成し、この形成された複合酸化物に含まれるSiはリチウムの吸蔵放出機能を果たすことができない。本発明の一実施形態に係るリチウム吸蔵放出材料は、Cl等のハロゲン元素、P、SおよびAsを実質的に含有しないことが好ましい。これらの元素は、本電池に含まれる他の材料、特に金属系の材料を腐食する可能性がある。
【0041】
本発明の一実施形態に係るリチウム吸蔵放出材料を構成する相は、前述のように、リチウム吸蔵放出相であるSi相および拘束相であるNiSi
2相を含む。Si相の形状が過度に大きい場合には、拘束相による拘束が適切に行われない場合がある。したがって、Si相は過度に大きくないことが好ましい。Si相の大きさは、リチウム吸蔵放出材料のX線回析スペクトルにおけるSiのピークからシェラーの式により算出される結晶の平均直径によって見積もることができる。
【0042】
本発明の一実施形態に係るリチウム吸蔵放出材料についてX線回折測定(線源:Cu Kα)を行うと、得られたX線回折スペクトルには、Siと帰属される複数のピークが検出される。これらのピークのうち、ピーク位置の角度(2θ)がおおむね次の値となる5つのピーク(ピーク1からピーク5)について半値全幅FWHM(単位:ラジアン)を求め、下記式(i)に示されるシェラーの式から、結晶サイズτ(単位:nm)を求める。
ピーク1:56.14°
ピーク2:69.14°
ピーク3:76.38°
ピーク4:88.04°
ピーク5:94.95°
τ=k×λ/(FWHM×COS(θ)) (i)
ここで、
τ:結晶サイズ(nm)
k:シェラーの定数(0.94)
λ:X線の波長(nm)
FWHM:半値全幅(rad)
θ:ブラッグ角(rad)
【0043】
本明細書では、こうして求めた5つの結晶サイズτの算術平均値を、本発明の一実施形態に係るリチウム吸蔵放出材料におけるSi相の大きさとする。本発明の一実施形態に係るリチウム吸蔵放出材料は、上記の方法により求めたSi相の大きさが100nm以下である。Si相の大きさが100nmを超えると、本電池を繰り返し充放電した場合の容量保持率が低下する傾向が顕著となる。この容量保持率の低下をより安定的に抑制する観点から、Si相の大きさは、90nm以下であることが好ましい場合があり、85nm以下であることがより好ましい場合がある。
【0044】
本発明の一実施形態に係るリチウム吸蔵放出材料は、上記のSi相およびNiSi
2相以外の相を含んでいてもよい。そのような相としてNiSi相が挙げられる。
【0045】
本発明の一実施形態に係る電極は、上記の本発明の一実施形態に係るリチウム吸蔵放出材料を含む。上記のとおり、上記の本発明の一実施形態に係るリチウム吸蔵放出材料は、大きさが適切に規定されたSi相および拘束相であるNiSi
2相を含むため、リチウムイオン吸蔵放出を適切に行うことができる。したがって、本発明の一実施形態に係るリチウム吸蔵放出材料はリチウムイオン二次電池の電極、特に負極として好適に使用されうる。
【0046】
そのような負極を備える本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、充放電特性が良好である。しかも、好ましい一例では、繰り返し充放電した場合であっても容量保持率が低下しにくい。
【0047】
本発明の一実施形態に係るリチウム吸蔵放出材料の製造方法は限定されない。次に説明する方法により製造すれば、本発明の一実施形態に係るリチウム吸蔵放出材料を効率的に製造することができる。
【0048】
本発明の一実施形態に係るリチウム吸蔵放出材料の製造方法では、まず、ニッケル源、珪素源および炭素源を含む原料材を加熱して、1,100〜1,650℃にて、不活性ガス雰囲気下、0.5〜30時間反応させて、SiおよびNiを含有しSiのNiに対する原子比(Si/Ni比)が2.08以上の組成を有する熔融物質を得る。
【0049】
Siは酸素との親和性が高い元素であるため、珪素源にはSiの酸化物が含有されている場合が多い。そこで、本発明の一実施形態に係る製造方法では、炭素源を用いて、下記式(ii)のようにSiの酸化物(下記式(ii)では具体例として、SiO
2を示している。)を還元してSiを得る。
SiO
2 + 2C → Si + 2CO (ii)
【0050】
この還元反応を適切に進行させるため、原料材を不活性ガスの雰囲気下で溶融するまで加熱し、溶融状態を0.5〜30時間維持する。加熱温度は溶融状態となる温度である。加熱温度の具体的な温度範囲は原料材の組成により適宜設定される。通常、1,100〜1,650℃の範囲であり、1,200〜1,650℃の範囲であることが好ましい場合があり、1,300〜1,500℃の範囲であることがより好ましい場合がある。加熱手段は任意であって、電気炉が具体例として挙げられる。溶融状態の維持時間は適宜設定されるべきものであって、原料材の組成に基づいて上記式(ii)に示される反応が適切に完了する時間が設定される。
【0051】
熔融物質の組成は、Si/Ni比が2.08以上である限り任意である。得られたリチウム吸蔵放出材料の特性を良好にする観点から、熔融物質におけるSi/Ni比は、2.2以上4.2以下とすることが好ましい場合があり、2.5以上4.0以下とすることがより好ましい場合がある。
【0052】
原料材が含むニッケル源の組成は、Niを含有している限り任意である。ニッケル源は、新ニッケル、使用済スポンジニッケル触媒、および電気炉残存ニッケル珪素合金半製品からなる群より選ばれた1種または2種以上を含むことが好ましい場合がある。
【0053】
新ニッケルは、製錬されたニッケルであり、純度(Ni含有量)が99.5重量%以上であることが好ましい。そのような新ニッケルは容易に市場から入手することができる。本電池のリチウム吸蔵放出材料以外の金属系材料の腐食を抑制する観点から、新ニッケルは、S、P、Asおよびハロゲン元素の含有量がいずれも不可避的不純物レベルであることが好ましい。
【0054】
使用済スポンジニッケル触媒は、スポンジ状(多孔質)のニッケル合金からなる部材を水添反応などの触媒として使用した後のものである。使用済スポンジニッケル触媒は、純度(Ni含有量)が50〜70重量%であって、Siの含有量が30〜50重量%、かつFeの含有量が4重量%以下であることが好ましい。Siは本発明の一実施形態に係るリチウム吸蔵放出材料の必須の構成元素の1つであるから、使用済スポンジニッケル触媒がSiを含有していることは問題とならない。FeはSiと金属間化合物を容易に形成するため、使用済スポンジニッケル触媒におけるFeの含有量は少なければ少ないほど好ましい。なお、後述する実施例において示すように、触媒として使用する前のスポンジニッケルであっても、触媒として使用した後のスポンジニッケルであっても、ニッケル源としての機能は同等である。したがって、触媒として使用した後のスポンジニッケルを用いることは、貴重な資源のリサイクルとなり、好ましい。
【0055】
本明細書において、「電気炉残存ニッケル珪素合金半製品」とは、電気炉を用いてニッケル合金を製造する工程で発生する、電気炉に残存するニッケル珪素合金の半製品を意味する。かかる半製品には、NiおよびSiが含まれるため、本発明の一実施形態に係るリチウム吸蔵放出材料の原料材として好適である。NiおよびSi以外の元素が含まれてもよいが、その含有量は少なければ少ないほど好ましい。
【0056】
ニッケル源の分析方法の一例を挙げれば、次のとおりである。
純度(Ni含有量):JIS H 1151 2. 純分(Ni+Co)定量方法に準じる。
S含有量:JIS H 1151 12.2 硫化水素気化分離メチレンブルー吸光光度法に準じる。検出限界:0.0001重量%
P含有量:JIS H 1278 ニッケル及びニッケル合金中の燐定量方法に準じる。検出限界:0.0005重量%
As含有量:JIS G 1225 三塩化砒素蒸留分離モリブド砒酸青吸収光度法に準じる。検出限界:0.0005重量%
ハロゲン元素含有量:試料燃焼イオンクロマトグラフ法に準じる。検出限界:10質量ppm
【0057】
原料材が含む珪素源の組成はSiを含んでいる限り任意である。珪素源は、珪石および金属珪素からなる群から選ばれた1種または2種以上を含むことが好ましい場合がある。
【0058】
珪石はSiの酸化物を含有し、入手が容易であることから、珪素源として好適な材料の一種である。珪石は、純度(二酸化珪素の含有量)が99.0重量%以上であることが好ましい。珪石は、酸化カルシウムの含有量が0.1重量%以下、酸化アルミニウムの含有量が0.2重量%以下、かつ酸化マグネシウムの含有量が0.1重量%以下であることが好ましい。Ca,Al,Mgは、単独で、または複数種類で、Siとともに難溶性の複合酸化物を形成し、上記式(ii)の反応によりSiを得ることの阻害因子となる。
【0059】
珪石の分析方法の一例を挙げれば、次のとおりである。
純度(二酸化珪素の含有量):JIS M 8852:1998 8.3 脱水重量分析・吸光光度分析併用法に準じる。検出限界:0.1重量%
酸化カルシウム:JIS M 8852: 1998 9.3 ICP発光分析法に準じる。検出限界 : 0.005重量%
酸化アルミニウム:JIS M 8852:1998 13.3 ICP発光分析法に準じる。検出限界:0.02重量%
酸化マグネシウム:JIS M 8852:1998 14.3 ICP発光分析法に準じる。検出限界:0.002重量%
【0060】
金属珪素も入手が容易であり、すでにある程度還元処理が行われている材料であることから、珪素源として好適である。金属珪素は、純度(Si含有量)が99.0重量%以上であることが好ましい。金属珪素は、Feの含有量が0.5重量%以下、Alの含有量が0.1重量%以下、かつCaの含有量が0.3重量%以下であることが好ましい。
【0061】
金属珪素の分析方法の一例を挙げれば、次のとおりである。
純度(Si含有量):JIS G 1322−1:2010 5.珪素定量方法 重量法に準じる。検出限界:0.1重量%
Fe含有量:JIS G 1322−5:2010 7.珪素分離ICP発光分光法に準じる。検出限界:0.001重量%
Al含有量:JIS G 1322−6:2010 6.珪素分離ICP発光分光法に準じる。検出限界:0.001重量%
Ca含有量:JIS G 1322−7:2010 6.珪素分離ICP発光分光法に準じる。検出限界:0.001重量%
P含有量:JIS G 1322−3:2010 6.珪素分離ICP発光分光法に準じる。検出限界:0.002重量%
B含有量:JIS G 1322−3:2010 6.珪素分離ICP発光分析法に準じる。検出限界:1質量ppm
【0062】
原料材が含む炭素源はCを含んでいる限り任意である。入手容易性が高いため、炭素源は、木炭およびオガ炭からなる群から選ばれた1種または2種以上を含むことが好ましい場合がある。
【0063】
S、P、As、Biおよびハロゲンは、リチウムイオン二次電池を構成する金属系材料を腐食させるため、炭素源は、S、P、As、Biおよびハロゲンの含有量がいずれも不可避的不純物レベルであることが好ましい。
【0064】
炭素源の分析方法の一例を挙げれば、次のとおりである。
S含有量:試料燃焼イオンクロマトグラフ法に準じる。検出限界:10質量ppm
P含有量:ICP発光分析法に準じる。検出限界:1質量ppm
As含有量:ICP発光分析法に準じる。検出限界:1質量ppm
Bi含有量:ICP発光分析法に準じる。検出限界:1質量ppm
ハロゲン元素含有量:試料燃焼イオンクロマトグラフ法に準じる。検出限界:10質量ppm
【0065】
珪素源が珪石を含む場合には、珪石に含まれるシリコンの酸化物を還元することができるように、原料材における炭素源の量は設定される。珪石の還元を安定的に生じさせる観点から、炭素源におけるCの量は、珪石に含まれるSiの3モル倍以上の量とすることが好ましい。
【0066】
原料材を構成する各材料(ニッケル源、珪素源および炭素源)を炉内で加熱して熔融物質を得る際に、均一性を高める観点から、原料材を構成する各材料あらかじめ混合した状態で加熱を行うことが好ましい。
【0067】
原料材を加熱することにより得られた熔融物質を、3時間以上の冷却時間で50℃以下に冷却することにより、リチウム吸蔵放出材料を得ることができる。後述する実施例において示すように、得られるリチウム吸蔵放出材料は、Si相およびNiSi
2相ならびにNiSi相を含む。すなわち、熔融物質からリチウム吸蔵放出材料を得るプロセスは下記式(ii)により示すことができる。
xNi + ySi → (NiSi
2)
a(NiSi)
b(Si)
c (iii)
【0068】
熔融物質はSi/Ni比が2.08以上であるから、これを冷却すれば、非特許文献1に示されるように、初晶はSi相となる。特許文献1ではリチウム吸蔵放出相であるSi相が初晶となることは、リチウム吸蔵放出相が粗大になるおそれがあることから好ましくないと位置付けられているが、冷却速度が遅い場合には、リチウム吸蔵放出相が初相であっても、優れた充放電特性を有し繰り返し充放電した場合の容量維持率が高いリチウムイオン二次電池の負極材料となりうるリチウム吸蔵放出材料を得ることができる。
【0069】
適切な組織を有するリチウム吸蔵放出材料を得る観点から、冷却過程における平均冷却速度は、0.5℃/秒以下であることが好ましい場合があり、0.3℃/秒以下であることがより好ましい場合があり、0.1℃/秒以下であることが特に好ましい場合がある。
【0070】
図2は、本発明の一実施形態に係るリチウム吸蔵放出材料の製造方法の具体的な一例を示す機器設置の概略フローシートである。以下、
図2を用いて製造例を説明する。
【0071】
まず、所定量の原料を混合機にてよく混合させてから、コンテナに貯蔵する。混合機(MX−101)で、原料を予め均質に混合した後に電気炉へ供給することが好ましい。混合が不十分であると珪素源である珪石が炭素源によって十分珪素に還元されずに不溶性の珪石のまま電気炉(本例ではアーク炉)の内部に残存してしまう。この残存物は連続運転を阻害する要因となりうる。
【0072】
次に、電気炉の運転手順に従い、炉の準備を完了させる。炉の準備完了後、スタートアップ手順に従い、炉の運転を通常運転温度(1,200〜1,650℃)まで昇温する。運転中は炉内の温度を1,200〜1,650℃、より好ましくは1,350〜1,500℃の範囲に保持する。通常運転を継続できる状態に到達すると、コンテナの良く混合された原料を原料ストック皿に移し、所定の速度で、必要量をアーク炉に投入し、合金を製造する。電気炉(アーク炉)の内部の状態が安定するために、通常、1〜2時間を要する。その後、さらに4〜30時間加熱反応させる。こうして、熔融物質を得る。
【0073】
続いて、得られた熔融物質を、所定時間ごとに受け皿に抜き出す。受け皿に抜き出された熔融物質を3時間以上かけて50℃に冷却することにより、塊状のリチウム吸蔵放出材料が得られる。これをクラッシャー(図示せず)にて粉砕し、その後、使用目的に応じたサイズに分級し、サイズの揃ったリチウム吸蔵放出材料を得る。作業中に発生する粉塵は、No.1ブロアー(BL−101)、No.2ブロアー(BL−102)にて吸引し、No1.集塵機およびNo2.集塵機にて除去する。集塵の塵は、フレコンに収納し、処理する。
【0074】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0075】
例えば、上記のリチウム吸蔵放出材料の製造方法では、原料材が炭素源を含有していたが、金属珪素など製錬された(還元された)珪素材料を珪素源として用いれば、炭素源を用いてSiの酸化物を還元するプロセスを行わなくてもよい。ただし、Siは酸化しやすく、リチウム吸蔵放出材料内にSiの酸化物が残留すれば、その酸化物に含まれるSiはリチウムの吸蔵放出機能を果たすことができない。したがって、熔融物質を製造するに当たり還元プロセスを行って、熔融物質内のSiを十分に還元しておくことが好ましい。
【実施例】
【0076】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
原料のニッケル源として、新ニッケル100kgに対し、珪素源として珪石306.6kg、炭素源として木炭184.0kgを用い、
図2に示した製造フローシートに記載の方法にてリチウム吸蔵放出材料を製造した。リチウム吸蔵放出材料におけるFeのNiに対する原子比(Fe/Ni比)が0.063以下となるように熔融物質の組成を管理した。他の実施例および比較例においても、リチウム吸蔵放出材料のFe/Ni比の管理は同様とした。熔融物質の冷却は、熔融状態から3時間かけて50℃に冷却することにより行われた。この場合の平均冷却速度は、0.1℃/秒であった。こうして、珪素のニッケルに対する原子比率(Si/Ni比)が3.0のリチウム吸蔵放出材料を99%の収率で得た。
【0078】
(測定例1)X線光電子分光スペクトル
実施例1により製造されたリチウム吸蔵放出材料をX線光電子分光(XPS)により測定した。測定条件は、次のとおりであった。
装置:アルバック・ファイ株式会社製「Quantera SXM ULXAC−PHI」
X線源ターゲット:Al(単色化光源)
X線ビーム径・出力:100μm・15KV,25W
Take−off Angle.:45°(分析深さ約7nm)
【0079】
測定結果(X線光電子分光スペクトル)を表1および
図3から
図5に示す。表1に示されるように、実施例1により製造されたリチウム吸蔵放出材料の表面におけるSi/Ni比(金属Siと金属Niとの比)は5.6で、表面には相対的にSiが多く存在することが確認された。
【表1】
【0080】
(測定例2)X線回折スペクトル
実施例1により製造されたリチウム吸蔵放出材料のX線回折測定を行った。測定条件は、次のとおりであった。
装置:Smart Lab(リガク社製)
線源:Cu Kα(出力:45kV×200mA)
測定モード:2θ−ω測定(集中法)
範囲:5〜150°
ステップ幅:0.01°
計数時間:0.1°/分
試料設置方法:ガラスプレートに塗布
【0081】
測定結果(X線回折スペクトル)を装置に付属しているICDD(粉末回折データベース)にある既知のNi
xSi
yパターンと照合した。
図6中に、Siによるピークを破線(頂部に■を付した。)で示し、NiSi
2によるピークを点線(頂部に◇を付した。)で示し、NiSiによるピークを点線(頂部に△を付した。)で示した。
図6(特に、76°近傍のピーク群、88°近傍のピーク群、および95°近傍のピーク群)に示されるように、Siと帰属されるピークおよびNiSi
2と帰属されるピークが検出された。また、他の小さなピークは一部NiSiと帰属されるものを含んでいた。したがって、実施例1により製造されたリチウム吸蔵放出材料は、Si相およびNiSi
2相を含むこと、およびさらに微量なNiSi結晶を含むことが確認された。なお、
図6には、55°〜58°の範囲、68°〜71°の範囲、75°〜78°の範囲、よび87°〜90°の範囲を拡大したX線回折スペクトルも示した。X線回折スペクトルにおいてSiと帰属された5つのピークについて、ピーク位置(単位:°(degree))および格子間隔の算出結果を表2に示した。
【0082】
【表2】
【0083】
(測定例3)Si相の大きさの測定
測定例2により測定されたX線回折スペクトルにおいてSiと帰属された5つのピークについて半値全幅FWHM(単位:rad)を求め、上記式(i)に示されるシェラーの式を用いて、各ピークにおけるSiの結晶サイズτ(単位:nm)を算出した(表2参照。)。求めた5つの結晶サイズの算術平均値を、実施例1により製造されたリチウム吸蔵放出材料のSi相の大きさとした。こうして求められたSi相の大きさは47nmであった。
【0084】
(実施例2)
原料のニッケル源として、新ニッケル100kgに対し、珪素源として珪石255.5kg、炭素源として木炭153.2kgを用い、
図2に示した製造フローシートに記載の方法にてリチウム吸蔵放出材料を製造した。熔融物質の冷却は、熔融状態から3時間かけて50℃に冷却することにより行われた。この場合の平均冷却速度は、0.1℃/秒であった。こうして、珪素のニッケルに対する原子比率(Si/Ni比)が2.5のリチウム吸蔵放出材料を99%の収率で得た。
【0085】
(実施例3)
原料のニッケル源として、新ニッケル100kgに対し、珪素源として珪石408.9kg、炭素源として木炭245.3kgを用い、
図2に示した製造フローシートに記載の方法にてリチウム吸蔵放出材料を製造した。熔融物質の冷却は、熔融状態から3時間かけて50℃に冷却することにより行われた。この場合の平均冷却速度は、0.1℃/秒であった。こうして、珪素のニッケルに対する原子比率(Si/Ni比)が4.0のリチウム吸蔵放出材料を99%の収率で得た。測定例3と同様にして測定されたSi相の大きさは84nmであった。
【0086】
(実施例4)
原料のニッケル源として、ニッケル珪素水添触媒(水添触媒)100kg(組成:Ni53.5kg、Si43kg、Fe2.5kg)に対し、珪素源として珪石71.9kg、炭素源として木炭43.1kgを用い、
図2に示した製造フローシートに記載の方法にてリチウム吸蔵放出材料を製造した。熔融物質の冷却は、熔融状態から3時間かけて50℃に冷却することにより行われた。この場合の平均冷却速度は、0.1℃/秒であった。こうして、珪素のニッケルに対する原子比率(Si/Ni比)が3.0のリチウム吸蔵放出材料を99%の収率で得た。
【0087】
(実施例5)
原料のニッケル源として、使用済みスポンジニッケル触媒(水添回収触媒)100kg(組成:Ni63kg、Si34kg、Fe3kg)に対し、珪素源として珪石120.3kg、炭素源として木炭72.1kgを用い、
図2に示した製造フローシートに記載の方法にてリチウム吸蔵放出材料を製造した。熔融物質の冷却は、熔融状態から3時間かけて50℃に冷却することにより行われた。この場合の平均冷却速度は、0.1℃/秒であった。こうして、珪素のニッケルに対する原子比率(Si/Ni比)が3.0のリチウム吸蔵放出材料を99%の収率で得た。
【0088】
(実施例6)
原料のニッケル源として、新ニッケル100kgに対し、珪素源として金属珪素143.1kgを用い、高周波誘導溶解炉にて熔融物質を得た。熔融物質の冷却は、熔融状態から3時間かけて50℃に冷却することにより行われた。この場合の平均冷却速度は、0.1℃/秒であった。こうして、珪素のニッケルに対する原子比率(Si/Ni比)が3.0のリチウム吸蔵放出材料を99%の収率で得た。
【0089】
(実施例7)
原料のニッケル源として、新ニッケル100kgに対し、珪素源として珪石235.1kg、炭素源として木炭141.1kgを用い、
図2に示した製造フローシートに記載の方法にてリチウム吸蔵放出材料を製造した。熔融物質の冷却は、熔融状態から3時間かけて50℃に冷却することにより行われた。この場合の平均冷却速度は、0.1℃/秒であった。こうして、Siのニッケルに対する原子比率(Si/Ni比)が2.3のリチウム吸蔵放出材料を99%の収率で得た。
【0090】
(比較例1)
原料のニッケル源として、使用済みスポンジニッケル触媒100kg(組成:Ni63kg,Si34kg、Fe3kg)に対し、珪素源として珪石30.2kg、炭素源として木炭18.1kgを用い、
図2に示した製造フローシートに記載の方法にて水添用珪素―ニッケル合金を製造した。熔融物質の冷却は、熔融状態から3時間かけて50℃に冷却することにより行われた。この場合の平均冷却速度は、0.1℃/秒であった。こうして、Siのニッケルに対する原子比率(Si/Ni比)が1.6の水添用珪素―ニッケル合金を99%の収率で得た。
【0091】
(比較例2)
原料のニッケル源として、新ニッケル100kgに対し、珪素源として珪石460kg、炭素源として木炭276kgを用い、
図2に示した製造フローシートに記載の方法にてリチウム吸蔵放出材料を製造した。熔融物質の冷却は、熔融状態から3時間かけて50℃に冷却することにより行われた。この場合の平均冷却速度は、0.1℃/秒であった。こうして、Siのニッケルに対する原子比率(Si/Ni比)が4.5のリチウム吸蔵放出材料を99%の収率で得た。測定例3と同様にして測定されたSi相の大きさは130nmであった。
【0092】
(実施例8)
原料のニッケル源として、新ニッケル100kgに対し、珪素源として珪石245kg、炭素源として木炭147kgを用い、
図2に示した製造フローシートに記載の方法にてリチウム吸蔵放出材料を製造した。熔融物質の冷却は、熔融状態から3時間かけて50℃に冷却することにより行われた。この場合の平均冷却速度は、0.1℃/秒であった。こうして、Siのニッケルに対する原子比率(Si/Ni比)が2.4のリチウム吸蔵放出材料を99%の収率で得た。
【0093】
(比較例3)
原料のニッケル源として、新ニッケル2kgに対し、珪素源として珪石6kg、炭素源として木炭3.7kgを用い、高周波炉にて溶解して熔融物質を得た。得られた熔融物質を20分間にて50℃まで急冷してリチウム吸蔵放出材料を製造した。この場合の平均冷却速度は、1℃/秒であった。こうして、Siのニッケルに対する原子比率(Si/Ni比)が3.0のリチウム吸蔵放出材料を99%の収率で得た。
【0094】
(測定例4)リチウムイオン二次電池の作製および特性評価
2032型コイン電池を作成した。実施例および比較例により作製した塊状のリチウム吸蔵放出材料を粉砕機で1mmφ程度に粉砕し、遊星ボールミルを用いて得られた粉砕体をさらに粉砕して、1μmφ程度の微粉末を得た。この微粉末を用いて負極を作製した。対極(正極)として金属リチウム、セパレータとして微多孔性のポリプロピレン製フィルムを使用した。LiPF
6を1モル/Lの割合で溶解させたエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの1:1(体積比)の混合溶媒にフルオロエチレンカーボネイトを5重量%添加したものを電解液として使用した。
【0095】
本発明のリチウム吸蔵放出材料を含む負極を用いたリチウムイオン二次電池の充放電特性は、次のようにして測定した。ナガノ社製「BTS2005W」を用い、活物質1g当たり100mAの電流で、リチウム電極に対して0.001Vに達するまで定電流充電した。次に、0.001Vの電圧を維持しつつ、電流が活物質1g当たり20mA以下の電流値になるまで定電圧充電を実施した。充電が完了したセルは、約30分間の休止期間を経た後、活物質1g当たり100mAの電流で電圧が1.5Vに達するまで定電流放電を行った。
【0096】
充電容量は、定電圧充電が終了するまで積算電流値から計算し、放電容量は、電池電圧が1.5Vに到達するまでの積算電流値から計算した。各充放電の切り替え時には、30分間、開回路で休止した。
【0097】
充放電特性の測定結果を表3に示す。なお、容量保持率は、50回目の充電量の2回目の充電量に対する割合(単位:%)である。
【0098】
【表3】
【0099】
表3に示されるように、比較例1の水添用珪素―ニッケル合金を用いた場合には、リチウムイオン二次電池の初回充電量、初回放電量のいずれも極めて低い結果となった。これは、比較例1の合金のSi/Ni比が2.08未満であるためと考えられる。これに対し、Si/Ni比が2.08以上である実施例に係るリチウム吸蔵放出材料を用いたリチウムイオン二次電池では、初回充電量および初回放電量のいずれも400mAh/g以上となり、良好な充放電特性が得られた。特に、Si/Ni比が2.4以上である実施例(実施例1,2,3および8)に係るリチウム吸蔵放出材料を用いたリチウムイオン二次電池では、初回充電量が500mAh/g以上となった。
【0100】
また、Si相の大きさが100nm以下であってSi/Ni比が2.08以上4.2以下である、実施例1および3に係るリチウム吸蔵放出材料を用いたリチウムイオン二次電池では、容量保持率が85%以上となって、繰り返し充放電した場合の容量を適切に維持することができた。これに対し、比較例2に係るリチウム吸蔵放出材料(Si相の相当径=65nm、Si/Ni比=4.5)を用いたリチウムイオン二次電池では容量保持率が低下し、繰り返し充放電した場合の容量を維持できなかった。比較例2の場合には、リチウム吸蔵放出材料内のSi相が過度に大きく、繰り返し充放電した時にNiSi
2相による拘束が適切に行われなくなったと考えられる。
【0101】
ニッケル源とリチウム吸蔵放出材料(Si/Ni比=3.0)との関係を評価するため、実施例1,4および5の測定結果を表4に示した。
【0102】
【表4】
【0103】
表4に示されるように、リチウム源が相違しても、得られたリチウム吸蔵放出材料の特性はほとんど等しくなった。特に、使用済みスポンジニッケル触媒をニッケル源とした場合でも、新ニッケルや使用前の水添触媒をニッケル源とした場合と性能的に大差ない結果が得られたことから、使用済みスポンジニッケル触媒が、リチウム吸蔵放出材料を製造するためのニッケル源として再利用可能であることが明らかになった。
【0104】
リチウム吸蔵放出材料の製造方法、特に熔融物質の製造方法の相違が充放電特性に与える影響を評価するため、実施例1および6の結果を表5に示した。実施例1では、原料材に炭素源を含む還元法を実施して、電気炉(アーク炉)を用いて熔融物質を製造した。これに対し、実施例6では、いずれも新ニッケルおよび金属珪素を原料材とし、高周波誘導溶解炉を用いて熔融物質を製造した。
【0105】
【表5】
【0106】
表5に示されるように、熔融物質の製造方法の相違が与える影響は大きくないことが確認された。未還元の材料(珪石)を原料材の一部に含んでいても熔融物質の製造過程で還元プロセスを積極的に行う(実施例1)ことにより、還元された材料(新ニッケル、金属珪素)からなる原料材を用いて還元プロセスを積極的に行わない場合(実施例6)に比べて、得られたリチウムイオン吸蔵放出材料を用いたリチウムイオン二次電池の充放電特性が良好となることが確認された。
【0107】
リチウム吸蔵放出材料におけるSi相の大きさが充放電特性に与える影響を評価するため、実施例1および3ならびに比較例2の測定結果を表6に示した。
【0108】
【表6】
【0109】
表6に示されるように、Si相の大きさが100nm以下、好ましくは85nmであれば、良好な充放電特性が得られ、繰り返し充放電した場合でも容量を適切に維持できるが、Si相の大きさが過大になると容量保持率が低下することが確認された。
【0110】
リチウム吸蔵放出材料の製造方法、特に熔融物質を冷却してリチウム吸蔵放出材料を得る過程の相違が充放電特性に与える影響を評価するため、実施例1および比較例4の結果を表7に示した。
【0111】
【表7】
【0112】
表7に示されるように、熔融物質の冷却速度を低下させること、具体的には平均冷却速度を0.1℃/秒程度とすることにより、優れた充放電特性を有し繰り返し充放電した場合でも容量を適切に維持できるリチウムイオン二次電池の電極材料となりうるリチウムイオン吸蔵放出材料が得られ、平均冷却速度が1℃/秒程度の場合には、優れた充放電特性を有するリチウムイオン二次電池を与えるリチウム吸蔵放出材料が得られないことが確認された。