【実施例1】
【0019】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明は一例を説明するためのものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
<抗ノロウイルス抗体の作製>
遺伝子組換え技術で発現させたノロウイルスVLPとオイルアジュバント混和物を産卵鶏の胸筋内に接種し、接種鶏が産卵した卵の卵黄より抗ノロウイルス抗体を含有するポリクローナル抗体を抽出した。
評価試験に用いる陰性コントロール抗体は、通常飼育産卵鶏が産卵した卵の卵黄よりポリクローナル抗体を抽出した。
【0021】
<抗ノロウイルス抗体のノロウイルスVLPの組織血液型抗原(Histo-blood group antigen:HBGA)結合阻害評価試験>
ノロウイルスの感染は、ノロウイルス受容体であるHBGAへの結合が重要とされている。
ELISA法(Enzyme-Linked Immuno Sorvent Assay)を用いて抗ノロウイルス抗体のノロウイルスVLPのHBGA結合阻害を測定した。
ELISA用96ウエルプレートにA型,O型,B型の各血液型のHBGAを一晩吸着固相化させた後、PBS−Tで3回洗浄し、スキムミルクPBS−Tを分注して1時間ブロッキングし、PBS−Tで3回洗浄した。
抗ノロウイルス抗体または陰性コントロール抗体を400μg/mLから1.563μg/mL濃度まで2倍階段希釈した希釈系列抗体液とノロウイルスGII.4株VLP 1μg/mL(ノロウイルス粒子数として5.5×10
10個/mL)を等量混合し1時間反応させた各混合溶液100μLをウエルに分注して1時間反応させた後、PBS−Tで4回洗浄した。
抗ノロウイルスVLPマウスIgG標識抗体を各ウエルに分注し1時間反応後、PBS−Tで4回洗浄後、発色試薬を各ウエルに分注して30分間呈色反応させて、各ウエルに停止液を分注して呈色反応を停止させ、OD値を測定した。
【0022】
図1のグラフ(a),(b),(c)に示すように、抗ノロウイルス抗体50μgでノロウイルス5.5×10
10個相当のノロウイルスVLPのHBGAへの結合阻害がA型、O型、B型の全てのHBGAで確認された。
抗ノロウイルス抗体によるHBGAへの結合阻害はノロウイルスの非感染性に付与しており、ノロウイルスを不活化したこととなる。
【0023】
<抗ノロウイルス抗体の各遺伝子型ノロウイルスに対する有効性>
ELISA用96ウエルプレートに各遺伝子型ノロウイルスVLPを一晩吸着固相化させた後、PBS−Tで3回洗浄し、スキムミルクPBS−Tを分注して1時間ブロッキングし、PBS−Tで3回洗浄した。
抗ノロウイルス抗体または陰性コントロール抗体の2倍階段希釈液を100μL各ウエルに分注して1時間反応させた後、PBS−Tで4回洗浄した。抗ニワトリIgG標識抗体を各ウエルに分注し1時間反応後、PBS−Tで4回洗浄後、発色試薬を各ウエルに分注して30分間呈色反応させて、各ウエルに停止液を分注して呈色反応を停止させ、OD値を測定した。
陰性コントロール抗体のOD値(0.086)に対して2倍以上であるOD値0.100以上を陽性とし、陽性を示す抗体希釈液の最大希釈倍数の逆数を抗体価とした。
その結果を
図2のグラフに示す。
【0024】
ノロウイルス発症患者より検出される遺伝子型GI.4、GI.5、GII.2、GII.3、GII.4、GII.6、GII.17の各VLPに対して高い交差反応を示し、各遺伝子型のノロウイルスVLPに対して抗ノロウイルス抗体が結合することより、多様な遺伝子型が存在するノロウイルスに対して幅広くノロウイルスの感染性を不活化する効果を示した。
【0025】
<有機物存在下におけるノロウイルス不活化評価試験>
ノロウイルスの不活化に有効な消毒剤として次亜塩素酸ナトリウムをあげているが、有機物存在下では不活化効果が著しく消失する。
そこで、有機物存在下における抗ノロウイルス抗体のノロウイルス不活化評価試験を実施した。
牡蠣中腸線内容物を10%濃度として懸濁したリン酸緩衝液にノロウイルスVLPをウイルス粒子数相当として、5.5×10
10/mL、5.5×10
9/mL、5.5×10
8/mL、5.5×10
7/mL、5.5×10
6/mLの各濃度になるよう添加して調製した。
10%牡蠣中腸線内容物リン酸緩衝液にノロウイルスVLP各濃度を添加した溶液100μLを体外診断用医薬品ノロウイルス抗原キット「イムノキャッチ−ノロ」にアプライして、ノロウイルス抗原の有無の判定を行い、本キットの検出限界値を求めた。
次に、ノロウイルスVLP 5.5×10
10/mL濃度添加の10%牡蠣中腸線内容物リン酸緩衝液と抗ノロウイルス抗体10mg/mLリン酸緩衝液を1:1で混合し30秒後に、本キットにアプライしてノロウイルス抗原の有無の判定を行った。
同様にノロウイルスVLP 5.5×10
7/mL濃度溶液と抗ノロウイルス抗体0.01mg/mLリン酸緩衝液を1:1で混合し同様に30秒後に、本キットにアプライしてノロウイルス抗原の有無の判定を行った。
その結果を下記表1に示す。
【0026】
10%牡蠣中腸線内容物リン酸緩衝液にノロウイルスVLP懸濁させた検体において、本キットの検出感度は5.5×10
7/mLで陽性反応を示し、5.5×10
6/mLでは陰性反応を示した。
抗ノロウイルス抗体は、有機物存在下においても僅か30秒の反応時間で、抗ノロウイルス抗体10mg/mLでノロウイルスVLP 5.5×10
10/mLを、抗ノロウイルス抗体0.01mg/mLでノロウイルスVLP 5.5×10
7/mLを検出限界以下とした。
すなわち、抗ノロウイルス抗体は、有機物存在下でも瞬時にウイルスに特異的に結合しノロウイルスの抗原性をなくしたことから、ノロウイルスの感染性を不活化したことになる。
【表1】
【0027】
<貝類の体内に取り込まれたノロウイルス不活化評価試験>
食用として流通できるマガキを濾過海水でかけ流し48時間以上無給餌に置いたマガキを被験貝として用いた。
人工海水で12時間通気撹拌し十分な酸素濃度のある人工海水にノロウイルスVLPを0.01ng/mL(ノロウイルス5.5×10
5個/mL相当)濃度になるように添加してよく撹拌した後、2つの水槽に同量ずつ分けた。
各水槽に総重量が同程度になるようマガキ11個/水槽を投入し24時間飼育後、抗ノロウイルス抗体または陰性コントロール抗体を水槽に添加して通気撹拌しながらさらに24時間飼育した。
開殻して軟体部を取り出し、さらに中腸線を採材乳剤化して分析サンプルとした。
また、飼育海水及び、マガキが排泄した糞または代謝物等を回収して分析を行った。
【0028】
<貝類の体内への抗体の取り込み確認>
海水に添加した抗体を牡蠣が体内に取り込み消化器官内(中腸線)に滞留していることの確認試験として、ELISA法を用いて中腸線内の抗体量を定量した。
抗ニワトリIgGヤギIgGをELISA用96ウエルプレートに一晩吸着固相化させた後、PBS−Tで3回洗浄し、BSA−PBS−Tを分注して1時間ブロッキングし、PBS−Tで3回洗浄した。
中腸線乳剤または、抗体添加海水(飼育水)及び、検量線用の既知ニワトリIgGを適性濃度に希釈して100μLをウエルに分注して1時間反応させた後、PBS−Tで4回洗浄した。
抗ニワトリIgGヤギIgG標識抗体を各ウエルに分注し1時間反応後、PBS−Tで4回洗浄後、発色試薬を各ウエルに分注して30分間呈色反応させて、各ウエルに停止液を分注して呈色反応を停止させOD値を測定し、検量線より総ニワトリIgG抗体濃度を算出した。
その結果を下記表2に示す。
【0029】
抗体を添加した海水に24時間飼育した全ての牡蠣の中腸線内容物から抗体が検出された。
また、牡蠣から排泄された糞(代謝物を含む)からの抗体が検出され、海水中の抗体を取り込み消化器官内に滞留することが確認された。
【0030】
<貝類の体内のノロウイルスVLPの検出確認>
抗ノロウイルスVLP IgGをELISA用96ウエルプレートに一晩吸着固相化させた後、PBS−Tで3回洗浄し、SM−PBS−Tを分注して1時間ブロッキングし、PBS−Tで3回洗浄した。
中腸線乳剤または、抗体添加海水(飼育水)及び、検量線用の既知ノロウイルスVLPを適性濃度に希釈して100μLをウエルに分注して1時間反応させた後、PBS−Tで4回洗浄した。
抗ノロウイルスVLPモルモットIgGを各ウエルに分注し1時間反応後、PBS−Tで4回洗浄後、抗モルモットIgG標識抗体を各ウエルに分注し1時間反応後、PBS−Tで4回洗浄後、発色試薬を各ウエルに分注して30分間呈色反応させて、各ウエルに停止液を分注して呈色反応を停止させOD値を測定し、検量線よりノロウイルスVLP濃度を算出した。
その結果を下記表2に示す。
【0031】
牡蠣投入前のノロウイルスVLP添加海水1mLあたり、2.75×10
5(ウイルス粒子数)であり、陰性コントロール抗体を添加した海水で飼育した対照区の牡蠣11検体中8検体の中腸線からノロウイルスVLPが検出され、中腸線1gあたり4.81×10
5から1.06×10
7であった。
また、海水中に排泄された糞1gあたり2.75×10
7が検出された。
抗ノロウイルスVLP抗体を添加した海水で飼育した試験区の牡蠣11検体の全検体の中腸線及び、海水中に排泄された糞のからノロウイルスVLPは検出されず検出限界以下であった。
【表2】