(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6713401
(24)【登録日】2020年6月5日
(45)【発行日】2020年6月24日
(54)【発明の名称】羽根車の製造方法、溶接システム及び制御装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/00 20060101AFI20200615BHJP
B23K 9/02 20060101ALI20200615BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20200615BHJP
B23K 37/047 20060101ALI20200615BHJP
B23K 9/16 20060101ALI20200615BHJP
B23K 9/167 20060101ALI20200615BHJP
B23K 9/235 20060101ALI20200615BHJP
F04D 29/62 20060101ALI20200615BHJP
F04D 29/22 20060101ALI20200615BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20200615BHJP
F01D 5/04 20060101ALI20200615BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20200615BHJP
F04D 29/60 20060101ALI20200615BHJP
【FI】
B23K9/00 501G
B23K9/02 S
B23K9/12 331G
B23K37/047 501D
B23K9/16 G
B23K9/167 A
B23K9/235 Z
F04D29/62 C
F04D29/22 H
F01D25/00 X
F01D5/04
F02C7/00 D
F04D29/60 E
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-202185(P2016-202185)
(22)【出願日】2016年10月14日
(65)【公開番号】特開2018-61983(P2018-61983A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2019年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】230112025
【弁護士】
【氏名又は名称】小林 英了
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【弁理士】
【氏名又は名称】松野 知紘
(74)【代理人】
【識別番号】100174137
【弁理士】
【氏名又は名称】酒谷 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100184181
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 裕史
(72)【発明者】
【氏名】小林 真治
(72)【発明者】
【氏名】山田 栄佐雄
(72)【発明者】
【氏名】織田 健太郎
【審査官】
竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−255172(JP,A)
【文献】
特開昭60−240385(JP,A)
【文献】
特開2004−36485(JP,A)
【文献】
特開昭55−36046(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0065490(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 − 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主板または側板に設けられた羽根の端面の溶接対象領域が略水平になるよう、前記主板または前記側板を支持するポジショナーの傾斜角及び回転角を調節する第1の工程と、
前記略水平になった前記溶接対象領域に溶接トーチを移動する第2の工程と、
調節後の前記ポジショナーの傾斜角及び回転角、移動後の前記溶接トーチの位置の組を記憶する第3の工程と、
側板を前記主板の上に配置するか、あるいは主板を前記側板の上に配置する第4の工程と、
前記記憶された溶接トーチの位置から略垂直方向に所定の距離だけ引き上げた位置に、前記溶接トーチを移動するとともに、前記記憶された溶接トーチの位置に関連付けられて記憶された前記傾斜角及び回転角になるよう前記ポジショナーを調節する第5の工程と、
移動後の前記溶接トーチが前記側板または前記主板と前記羽根とを溶接する第6の工程と、
を有する羽根車の製造方法。
【請求項2】
前記第2の工程において、前記略水平になった羽根の端面の中心付近に溶接トーチの先端を移動し、
前記第3の工程において、調節後の前記ポジショナーの傾斜角及び回転角、移動後の前記溶接トーチの先端位置の組を記憶する
請求項1に記載の羽根車の製造方法。
【請求項3】
前記移動する第2の工程において、前記溶接トーチの長軸が水平面に対して略垂直になるように前記溶接トーチの姿勢を調節し、
前記記憶する第3の工程において、前記第2の工程で調整後の姿勢も前記溶接トーチの位置に関連付けて更に記憶し、
前記溶接する第5の工程において、前記記憶された溶接トーチの位置に関連付けられて記憶された姿勢になるよう溶接トーチの姿勢を調節する
請求項1または2に記載の羽根車の製造方法。
【請求項4】
側板には表面に羽根の端面に沿った形状の貫通していない溝が設けられており、
前記溶接する第6の工程において、前記溝の上からA-TIG溶接で溶接する
請求項3に記載の羽根車の製造方法。
【請求項5】
前記記憶する第3の工程において、記憶する組は複数あり、
前記溶接する第6の工程において、溶接する箇所は複数あり、
前記主板または前記側板の底面を略水平にしたときに前記羽根の端面と水平面との角度が大きい部位ほど、溶接対象領域が空間的に密になる
請求項1から4のいずれか一項に記載の羽根車の製造方法。
【請求項6】
前記羽根は内周側になるほど細く、
前記溶接する第6の工程において、内周側になるほど溶接にかかる入熱量を小さくする
請求項1から5のいずれか一項に記載の羽根車の製造方法。
【請求項7】
前記側板または前記主板には、表面に貫通していない溝が設けられており、
前記配置する第4の工程において、前記側板または前記主板の裏面を下にして設置し、
前記溶接する第6の工程において、前記側板または前記主板と羽根を完全に溶け込ませて裏波を出す
請求項1から6のいずれか一項に記載の羽根車の製造方法。
【請求項8】
溶接の対象となる羽根の端面が三次元的に変化する
請求項1から7のいずれか一項に記載の羽根車の製造方法。
【請求項9】
前記移動する第2の工程において、制御装置が前記溶接トーチを支持する溶接ロボットを制御することによって、前記溶接トーチを移動する
請求項1から8のいずれか一項に記載の羽根車の製造方法。
【請求項10】
前記移動する第5の工程において、制御装置が前記溶接トーチを支持する溶接ロボットを制御することによって、前記溶接トーチを移動する
請求項1から9のいずれか一項に記載の羽根車の製造方法。
【請求項11】
溶接トーチと、
主板または側板を支持するポジショナーと、
前記溶接トーチの位置を制御し、前記ポジショナーの傾斜角及び回転角を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、羽根の端面の溶接対象領域が略水平になるよう調節された後の前記ポジショナーの傾斜角及び回転角、略水平になった前記溶接対象領域に溶接トーチを移動後の溶接トーチの位置の組を記憶部に記憶させ、
側板を前記主板の上に配置するか、あるいは主板を前記側板の上に配置した後に、前記制御装置は、前記記憶された溶接トーチの位置から略垂直方向に所定の距離だけ引き上げた位置に、前記溶接トーチを移動するよう制御するとともに、前記記憶された溶接トーチの位置に関連付けられて記憶された前記傾斜角及び回転角になるよう前記ポジショナーを調節し、
移動後の前記溶接トーチによって前記側板または前記主板と前記羽根とが溶接される
溶接システム。
【請求項12】
溶接トーチの位置を制御する溶接トーチ制御部と、
主板または側板を支持するポジショナーの傾斜角及び回転角を制御するポジショナー制御部と、
羽根の端面の溶接対象領域が略水平になるよう調節された後の前記ポジショナーの傾斜角及び回転角、略水平になった前記溶接対象領域に溶接トーチを移動後の溶接トーチの位置の組を記憶部に記憶させる記憶制御部と、
を備え、
側板を前記主板の上に配置するか、あるいは主板を前記側板の上に配置した後に、前記溶接トーチ制御部は、前記記憶された溶接トーチの位置から略垂直方向に所定の距離だけ引き上げた位置に、前記溶接トーチを移動するよう制御するとともに、前記ポジショナー制御部は、前記記憶された溶接トーチの位置に関連付けられて記憶された前記傾斜角及び回転角になるよう前記ポジショナーを調節し、移動後の前記溶接トーチによって前記側板または前記主板と前記羽根とが溶接される
制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽根車の製造方法、溶接システム及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機、ポンプなどの回転機械の羽根車を溶接によって製造する場合には、一般的に、主板と羽根(翼ともいう)を、あるいは側板と羽根を3次元的に切削し、その部材を側板あるいは主板と、流路内で羽根に沿って溶接して製造する。しかし、主板と側板の隙間が、溶接トーチが入らないような狭い隙間である場合、溶接トーチが主板と側板の隙間に入らないので、流路内で羽根に沿って溶接ができない場合がある。
【0003】
その場合、レーザーによって主板もしくは側板の表側から貫通溶接する方法(特許文献1参照)、あるいは側板の表側に翼形状の溝を加工しTIG(Tungsten Inert Gas)溶接する方法(特許文献2参照)、あるいは溝を加工せずに、主板もしくは側板の表側から貫通A-TIG(Activating flux-Tungsten Inert Gas)溶接する方法(特許文献3参照)などが取られることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−229894号公報
【特許文献2】特開昭54−97547号公報
【特許文献3】特開2008−238265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、1番目のレーザー溶接に関しては、アーク溶接と比較して設備コストが高く、接合部に高い形状精度が求められるため加工コストが高いといった問題点がある。また、溶接変形が生じた場合には、接合部精度が維持できなくなり、接合不可となる可能性がある。2番目のTIG溶接に関しては、A-TIG溶接と比較して溶け込み深さが浅い。もしTIG溶接の溶けこみ深さをA-TIGと同じようにすると入熱を多く必要とし、溶接変形が大きくなる。従って、コストや求められる形状精度の面から、主板と側板の隙間の狭い羽根車の溶接をするには、上記製造法の中では主板もしくは側板の表側からA-TIG溶接をする手法が最も適していると考えられる。
【0006】
しかし、現在使用されている溝を加工せずにA-TIG溶接をする手法では、溝埋め溶接をしないで済むため変形を抑えることができるが、側板や翼板が厚い場合には完全溶け込み溶接にならない。ポンプ羽根車のように流路を流れる対象物が液体の場合には、溶接接合面が溶接施工で完全に溶け込んでいないと、溶接接合面の隙間に液体が入り込み、隙間腐食を起こす原因となる。
【0007】
従って、溶接時には、主板もしくは側板の表側から、羽根の端面(翼端面ともいう)の溶接の位置を正確に狙わなくてはいけないが、主板もしくは側板が物理的に翼端面を覆っており、接合部となる翼端面が見えない。このため、事実上、手動溶接で溶接する翼端面を正確に狙うことは不可能であり、溶接位置がずれることで溶接接合面が溶接施工で完全に溶け込まず、溶接接合面の隙間に液体が入り込み、隙間腐食を起こすという問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、主板もしくは側板の表側から翼端面の溶接を行う場合において隙間腐食の発生確率を低減することを可能とする羽根車の製造方法、溶接システム及び制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様に係る羽根車の製造方法は、主板または側板に設けられた羽根の端面の溶接対象領域が略水平になるよう、前記主板または前記側板を支持するポジショナーの傾斜角及び回転角を調節する第1の工程と、前記略水平になった前記溶接対象領域に溶接トーチを移動する第2の工程と、調節後の前記ポジショナーの傾斜角及び回転角、移動後の前記溶接トーチの位置の組を記憶する第3の工程と、側板を前記主板の上に配置するか、あるいは主板を前記側板の上に配置する第4の工程と、前記記憶された溶接トーチの位置から略垂直方向に所定の距離だけ引き上げた位置に、前記溶接トーチを移動するとともに、前記記憶された溶接トーチの位置に関連付けられて記憶された前記傾斜角及び回転角になるよう前記ポジショナーを調節する第5の工程と、移動後の前記溶接トーチが前記側板または前記主板と前記羽根とを溶接する第6の工程と、を有する。
【0010】
この構成によれば、側板を羽根の上に配置することによって側板の上から羽根の端面の位置が見えなくても、溶接する端面の位置を記憶しているので、溶接する端面から略垂直方向に所定の距離だけ引き上げた位置で溶接することができる。これにより、溶接位置を翼端面の上方に合わせることができ、溶接位置のずれを低減することができる。このため、溶接接合面が溶接施工で完全に溶け込まない確率を減少させ、溶接接合面の隙間に液体が入り込み隙間腐食が発生する確率を低減することができる。このようにして、主板の表側から翼端面の溶接を行う場合において隙間腐食の発生確率を低減することができる。
【0011】
本発明の第2の態様に係る羽根車の製造方法は、第1の態様に係る羽根車の製造方法であって、前記第2の工程において、前記略水平になった羽根の端面の中心付近に溶接トーチの先端を移動し、前記第3の工程において、調節後の前記ポジショナーの傾斜角及び回転角、移動後の前記溶接トーチの先端位置の組を記憶する。
【0012】
この構成によれば、羽根の端面の中心を正確に狙って溶接することができる。このため、溶接の溶け落ちの危険性、及び溶接が完全溶け込みとならずに隙間腐食が発生する危険性を低減することができる。
【0013】
本発明の第3の態様に係る羽根車の製造方法は、第1または2の態様に係る羽根車の製造方法であって、前記移動する第2の工程において、前記溶接トーチの長軸が水平面に対して略垂直になるように前記溶接トーチの姿勢を調節し、前記記憶する第3の工程において、前記第2の工程で調整後の姿勢も前記溶接トーチの位置に関連付けて更に記憶し、前記溶接する第5の工程において、前記記憶された溶接トーチの位置に関連付けられて記憶された姿勢になるよう溶接トーチの姿勢を調節する。
【0014】
この構成によれば、羽根の端面に対して垂直に溶接できるため、溶接接合面が溶接施工で完全に溶け込まない確率を減少させ、溶接接合面の隙間に液体が入り込み隙間腐食が発生する確率を低減することができる。
【0015】
本発明の第4の態様に係る羽根車の製造方法は、第3の態様に係る羽根車の製造方法であって、側板には表面に羽根の端面に沿った形状の貫通していない溝が設けられており、前記溶接する第6の工程において、前記溝の上からA-TIG溶接で溶接する。
【0016】
この構成によれば、溝の上からA-TIG溶接で溶接することにより、貫通溝を加工して溶接する場合や溝をTIG溶接する場合よりも、入熱量を抑えることが可能となり、溶接変形のリスクも低減できる。更に、鉛直下向きのトーチ姿勢でA-TIG溶接することができるので、A−TIG溶接の安定性を向上させることができる。
【0017】
本発明の第5の態様に係る羽根車の製造方法は、第1から4のいずれかの態様に係る羽根車の製造方法であって、前記記憶する第3の工程において、記憶する組は複数あり、前記溶接する第6の工程において、溶接する箇所は複数あり、前記主板または前記側板の底面を略水平にしたときに前記羽根の端面と水平面との角度が大きい部位ほど、溶接対象領域が空間的に密になる。
【0018】
この構成によれば、強固に側板または主板を羽根と接合することができる。
【0019】
本発明の第6の態様に係る羽根車の製造方法は、第1から5のいずれかの態様に係る羽根車の製造方法であって、前記羽根は内周側になるほど細く、前記溶接する第6の工程において、内周側になるほど溶接にかかる入熱量を小さくする。
【0020】
この構成によれば、羽根の厚みがあるところで側板が溶けなくて不完全溶接になることを回避しつつ、羽根が薄いところで側板が溶け落ちてしまうことを回避することができる。
【0021】
本発明の第7の態様に係る羽根車の製造方法は、第1から6のいずれかの態様に係る羽根車の製造方法であって、前記側板または前記主板には、表面に貫通していない溝が設けられており、前記配置する第4の工程において、前記側板または前記主板の裏面を下にして設置し、前記溶接する第6の工程において、前記側板または前記主板と羽根を完全に溶け込ませて裏波を出す。
【0022】
この構成によれば、溶接接合面の隙間に液体が入り込まないので、隙間腐食を防止することができる。
【0023】
本発明の第8の態様に係る羽根車の製造方法は、第1から7のいずれかの態様に係る羽根車の製造方法であって、溶接の対象となる羽根の端面が三次元的に変化する。
【0024】
この構成によれば、溶接の対象となる羽根の端面が三次元的に変化しても、端面毎に端面が略水平になるように調節することができるので、略鉛直下向きのトーチ姿勢で溶接することができる。
【0025】
本発明の第9の態様に係る羽根車の製造方法は、第1から8のいずれかの態様に係る羽根車の製造方法であって、前記移動する第2の工程において、制御装置が前記溶接トーチを支持する溶接ロボットを制御することによって、前記溶接トーチを移動する。
【0026】
この構成によれば、略水平になった溶接対象領域に溶接トーチを移動することができる。
【0027】
本発明の第10の態様に係る羽根車の製造方法は、第1から9のいずれかの態様に係る羽根車の製造方法であって、前記移動する第5の工程において、制御装置が前記溶接トーチを支持する溶接ロボットを制御することによって、前記溶接トーチを移動する。
【0028】
この構成によれば、記憶された溶接トーチの位置から略垂直方向に所定の距離だけ引き上げた位置に、溶接トーチを移動することができる。
【0029】
本発明の第11の態様に係る溶接システムは、溶接トーチと、主板または側板を支持するポジショナーと、前記溶接トーチの位置を制御し、前記ポジショナーの傾斜角及び回転角を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、羽根の端面の溶接対象領域が略水平になるよう調節された後の前記ポジショナーの傾斜角及び回転角、略水平になった前記溶接対象領域に溶接トーチを移動後の溶接トーチの位置の組を記憶部に記憶させ、側板を前記主板の上に配置するか、あるいは主板を前記側板の上に配置した後に、前記制御装置は、前記記憶された溶接トーチの位置から略垂直方向に所定の距離だけ引き上げた位置に、前記溶接トーチを移動するよう制御するとともに、前記記憶された溶接トーチの位置に関連付けられて記憶された前記傾斜角及び回転角になるよう前記ポジショナーを調節し、移動後の前記溶接トーチによって前記側板または前記主板と前記羽根とが溶接される。
【0030】
この構成によれば、側板を羽根の上に配置することによって側板の上から羽根の端面の位置が見えなくても、溶接する端面の位置を記憶しているので、溶接する端面から略垂直方向に所定の距離だけ引き上げた位置で溶接することができる。これにより、溶接位置を翼端面の上方に合わせることができ、溶接位置のずれを低減することができる。このため、溶接接合面が溶接施工で完全に溶け込まない確率を減少させ、溶接接合面の隙間に液体が入り込み隙間腐食が発生する確率を低減することができる。このようにして、主板の表側から翼端面の溶接を行う場合において隙間腐食の発生確率を低減することができる。
【0031】
本発明の第12の態様に係る制御装置は、溶接トーチの位置を制御する溶接トーチ制御部と、主板または側板を支持するポジショナーの傾斜角及び回転角を制御するポジショナー制御部と、羽根の端面の溶接対象領域が略水平になるよう調節された後の前記ポジショナーの傾斜角及び回転角、略水平になった前記溶接対象領域に溶接トーチを移動後の溶接トーチの位置の組を記憶部に記憶させる記憶制御部と、を備え、側板を前記主板の上に配置するか、あるいは主板を前記側板の上に配置した後に、前記溶接トーチ制御部は、前記記憶された溶接トーチの位置から略垂直方向に所定の距離だけ引き上げた位置に、前記溶接トーチを移動するよう制御するとともに、前記ポジショナー制御部は、前記記憶された溶接トーチの位置に関連付けられて記憶された前記傾斜角及び回転角になるよう前記ポジショナーを調節し、移動後の前記溶接トーチによって前記側板または前記主板と前記羽根とが溶接される。
【0032】
この構成によれば、側板を羽根の上に配置することによって側板の上から羽根の端面の位置が見えなくても、溶接する端面の位置を記憶しているので、溶接する端面から略垂直方向に所定の距離だけ引き上げた位置で溶接することができる。これにより、溶接位置を翼端面の上方に合わせることができ、溶接位置のずれを低減することができる。このため、溶接接合面が溶接施工で完全に溶け込まない確率を減少させ、溶接接合面の隙間に液体が入り込み隙間腐食が発生する確率を低減することができる。このようにして、主板の表側から翼端面の溶接を行う場合において隙間腐食の発生確率を低減することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、側板を羽根の上に配置することによって側板の上から羽根の端面の位置が見えなくても、溶接する端面の位置を記憶しているので、溶接する端面から略垂直方向に所定の距離だけ引き上げた位置で溶接することができる。これにより、溶接位置を翼端面の上方に合わせることができ、溶接位置のずれを低減することができる。このため、溶接接合面が溶接施工で完全に溶け込まない確率を減少させ、溶接接合面の隙間に液体が入り込み隙間腐食が発生する確率を低減することができる。このようにして、主板の表側から翼端面の溶接を行う場合において隙間腐食の発生確率を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本実施形態に係る溶接システム5の概略構成図である。
【
図3】主板の上に側板を配置した場合における断面斜視図である。
【
図4】主板の上に側板を配置した場合における断面図である。
【
図7】羽根2−3の端面の溶接対象領域を示す図である。
【
図8】ある位置における主板の概略一部断面図である。
【
図9】翼端面21−1を略水平にした場合における主板の概略一部断面図である。
【
図10】
図9で翼端面21−1を略水平にした後に、溶接トーチ9の先端を翼端面21−1に移動した場合における概略図である。
【
図11】
図11(A)は、翼端面21−1の溶接対象領域に溶接トーチ9を配置した場合の一部断面図である。
図11(B)は、側板3を配置した場合の一部断面図である。
図11(C)は、溶接トーチ9を溶接するときの位置に配置した場合の一部断面図である。
【
図12】羽根車の製造方法の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
羽根車には、3次元的に羽根の形状が変化する羽根車(以下、3次元羽根車ともいう)があり、主板もしくは側板の表側からA-TIG溶接する手法を適用して3次元羽根車を接合した事例は報告されていない。3次元羽根車の溶接は、3次元的に変化する溶接線を完全溶け込み溶接で且つ溶け落ち部分がない溶接を行わなくてはならない。ここで溶け落ち部分は、入熱過多に起因する。A-TIG溶接では、完全溶け込み溶接で且つ溶け落ち部分がない溶接をするには鉛直下向きのトーチ姿勢で溶接することが望ましいが、3次元的に形状が変化する羽根では、常に鉛直下向きのトーチ姿勢で溶接することは難しい。
【0036】
3次元形状の羽根は、側板に対して羽根が斜めに接するため、断面において羽根の左右で肉薄の部分と肉厚の部分が生じる。肉薄の部分にアークが片寄った場合には溶接の溶け落ちの危険性があり、逆に肉厚の部分にアークが片寄った場合には溶接が完全溶け込みとならず液体を扱うポンプ羽根車では隙間腐食の危険性がある。よって、溶接位置を羽根の端面の中心に正確に定める必要がある。
【0037】
従って、3次元羽根車を対象に主板もしくは側板の表側からA-TIG溶接する手法を適用する際には、上記の危険性を回避するために、水平面に対して羽根の端面を平行にして、溶接トーチの先端を略鉛直下向きにして羽根の端面に対して溶接トーチの長軸を略垂直にし、かつ溶接の位置を正確に定めることが重要である。略垂直と記載したのは、溶接では前進角あるいは後退角がつけられるためである。溶接トーチの先端を略鉛直下向きにして溶接することを下向き溶接ともいう。
【0038】
本実施形態では、溶接トーチの姿勢を適切に保ちながら、主板もしくは側板の表側から溶接の位置決めの精度を向上させて溶接する方法について説明する。本実施形態では、一例として、3次元的に羽根の形状が変化する羽根車の製造方法について説明する。羽根車は、回転機械に用いられる。ここで回転機械は例えば、圧縮機、ポンプ、タービン、または送風機である。本実施形態では一例として、ポンプに用いられる羽根車を例に説明する。
【0039】
以下、本実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る溶接システム5の概略構成図である。
図1に示すように、溶接システム5は、主板1または側板3を支持するポジショナー8と、溶接トーチ9と、溶接トーチ9を支持する溶接ロボット7とを備える。ポジショナー8は、回転方向の軸と傾きの軸の2軸を有するポジショナーである。溶接ロボット7は一例として、6軸以上の軸数を有する。
図1に示すように、羽根車10は、主板1と側板3を備えており、
図1の例では、溶接トーチ9が側板3の表側に配置され、この位置で溶接が行われる。
【0040】
更に溶接システム5は、溶接ロボット7と制御線67を介して接続され且つ溶接トーチ9と制御線68を介して接続された制御装置6とを備える。制御装置6は、溶接ロボット7を制御することによって溶接トーチ9の位置を制御する。また、制御装置6は、ポジショナーの傾斜角θ及び回転角φを制御する。
【0041】
制御装置6は、溶接トーチ制御部61と、ポジショナー制御部62と、記憶制御部63と、記憶部64とを備える。
溶接トーチ制御部61は、溶接トーチ9の位置を制御する。
ポジショナー制御部62は、主板1または側板3を支持するポジショナー8の傾斜角θ及び回転角φを制御する。
記憶制御部63は、情報を記憶部64に書き込んだり、情報を記憶部64から読み出したりする。
【0042】
続いて、
図2〜
図11を参照しつつ、
図12のフローチャートに沿って、羽根車の製造方法について説明する。
図2は、主板の斜視図である。
図2に示すように、主板1には複数の羽根2−1〜2−5が設けられている、また
図2に示すように、羽根2−1〜2−5は、3次元的に変化する形状を有する。
図3は、主板の上に側板を配置した場合における断面斜視図である。
図3に示すように、側板3には、羽根2−1〜2−5の溶接する側の端面(翼端面)それぞれに沿った形状の溝4−1〜4−5が形成されている。この溝4−1〜4−5は、例えば5軸加工機によって加工されている。ここで、溝4−1〜4−5は裏面まで貫通していないため、側板3の表面側からは羽根2−1〜2−5の端面の位置を把握することができない。
【0043】
溶接する際の条件を安定化するために、溝底と側板3の裏面との距離(溝底厚さともいう)が略一定となるように溝4−1〜4−5が加工されている。このように溝4−1〜4−5を加工することによって、後から溶接で埋める必要が生じ、変形のリスクは高まってしまう。しかしながら、完全溶け込みで溶接可能な羽根2−1〜2−5の厚さおよび側板3の厚さを厚くすることができるため、隙間腐食のリスクを低減できる。また、溝底厚さが略一定になるようにしたので、羽根2−1〜2−5の厚みが略同じ範囲に渡って、略等しい電圧で溶接することが可能になる。
【0044】
図4は、主板の上に側板を配置した場合における断面図である。
図4に示すように、羽根2−1〜2−5それぞれの上方に、対応する溝4−1〜4−5が位置するように側板3が配置される。
図5は、
図4の領域R1の拡大図である。
図6は、
図4の領域R2の拡大図である。
図5に示すように、羽根2−5の端面(翼端面)21−5は、側板3の裏面と接し、
図6に示すように、羽根2−1の端面(翼端面)21−1は、側板3の裏面と接する。
【0045】
図7は、羽根2−3の端面の溶接対象領域を示す図である。
図7に示すように、溶接対象領域の位置(ティーチング位置ともいう)P1〜P10は、記憶する対象となる位置である。
図7における溶接対象領域は、説明のために簡略化して10箇所としているが、実際には溶接対象領域は20箇所以上となる場合がある。このように、翼端面それぞれについて、複数の溶接対象領域を有する。
【0046】
図8は、ある位置における主板の概略一部断面図である。主板1は、水平に配置されており、直線L1は、翼端面21−1と平行な直線を表している。
図9は、翼端面21−1を略水平にした場合における主板の概略一部断面図である。制御装置6のポジショナー制御部62がポジショナー8の傾斜角θ及び回転角φを調整することによって、翼端面21−1を略水平にする。これにより、
図9に示すように、翼端面21−1と平行な直線L2が水平面HLと略水平になる。
【0047】
図10は、
図9で翼端面21−1を略水平にした後に、溶接トーチ9の先端を翼端面21−1に移動した場合における概略図である。制御装置6の溶接トーチ制御部61が溶接トーチ9の先端を翼端面21−1に移動させるよう制御する。このとき、制御装置6の溶接トーチ制御部61は、
図10に示すように、溶接トーチの長軸方向が翼端面21−1と略スイチョウになるように溶接トーチ9の姿勢を制御する。これにより、
図10に示すように、溶接トーチ9の長軸L4が、水平面HLと水平な直線L3と略垂直になる。
【0048】
図11は、各工程を説明するための図である。
図11(A)は、翼端面21−1の溶接対象領域に溶接トーチ9を配置した場合の一部断面図である。
図11(B)は、側板3を配置した場合の一部断面図である。
図11(C)は、溶接トーチ9を溶接するときの位置に配置した場合の一部断面図である。
図12は、羽根車の製造方法の流れの一例を示すフローチャートである。
【0049】
以下、
図12のフローチャートに沿って説明する。
(ステップS101)まず、
図2に示すように、複数の羽根2−1〜2−5が設けられた主板1を形成する。具体的には主板1は、鍛造材から機械加工によって削り出されることにより、羽根2−1〜2−5が一体となって削り出される。
図2に示すように、主板1は円板状であり、主板1には中央に空洞が形成されている。複数の羽根2−1〜2−15は一例として、主板1の中心から互いに等しい角度間隔で設けられており、且つ羽根2−1〜2−5の形状は互いに略同一である。
【0050】
(ステップS102)次に、主板1に形成された空洞に不図示のセンタリング治具を装着する。
【0051】
(ステップS103)制御装置6のポジショナー制御部62は、主板1に設けられた羽根2−1〜2−5のいずれかの端面のある溶接対象領域が略水平になるよう(
図10の水平面HLに対して平行になるよう)、主板1を支持するポジショナー8の傾斜角θ及び回転角φを調節する。
【0052】
(ステップS104)次に、
図11(A)に示すように、制御装置6の溶接トーチ制御部61は、溶接トーチ9の長軸が略鉛直下向き(
図10の水平面HLに対して略垂直)になるように溶接トーチ9の姿勢を調節する。これにより、溶接トーチ9の長軸が、略水平になった溶接対象領域の端面に垂直になる。そして、制御装置6の溶接トーチ制御部61は、溶接トーチ9を支持する溶接ロボット7を制御することによって、略鉛直下向きの姿勢で、略水平になった上記溶接対象領域に溶接トーチ9の先端を移動する。これにより、略水平になった上記溶接対象領域の翼端面と溶接トーチ9の長軸を略垂直にすることができ溶接トーチ9を理想的な溶接姿勢にすることができる。このとき、翼端面へと溶接トーチ9を移動させる際に、翼端面中央付近の狙いの位置へと正確に移動させておく。
【0053】
(ステップS105)次に、制御装置6の記憶制御部63は、移動後の溶接トーチ9の先端位置、調整後の姿勢、調節後のポジショナー8の傾斜角θ及び回転角φの組を記憶部64に記憶させる。
【0054】
(ステップS106)次に、制御装置6は、全ての溶接対象領域について記憶したか否かを判定する。全ての溶接対象領域について記憶した場合、ステップS107の処理に移行する。全ての溶接対象領域について記憶していない場合、ステップS103に戻り、他の溶接対象領域についてステップS103〜S105の処理を繰り返す。
【0055】
(ステップS107)ステップS106で全ての溶接対象領域について記憶した場合、
図11(B)に示すように、側板3を主板1の上に配置する。このとき側板3の裏面を下にして設置する。側板3には、
図3に示すように、表面に貫通していない溝4−1〜4−5が設けられている。
【0056】
(ステップS108)次に、
図11(C)に示すように、制御装置6の溶接トーチ制御部61は、溶接トーチ9を支持する溶接ロボット7を制御することによって、記憶された溶接トーチの一つの位置から略垂直方向に所定の距離Y1だけ引き上げた位置に溶接トーチ9を移動する。これにより、記憶された溶接トーチの位置を基準として溶接対象領域における翼端面から略法線方向に所定の距離Y1だけ離れた位置(溶接位置)に、溶接トーチ9を配置することができる。側板3の溝4−1〜4−5の厚さは一定になるように加工してあるので、翼端面と溶接トーチ9との距離はいずれの箇所であっても一定となる。この位置が溶接位置である。所定の距離Y1は、アーク溶接するための適切な距離であり、溶接が最も良好となる位置を予め試験等で決めておく。
【0057】
このとき、制御装置6の溶接トーチ制御部61は、当該記憶された溶接トーチの位置に関連付けられて記憶された姿勢になるよう溶接トーチ9の姿勢を調節する。それとともに、制御装置6のポジショナー制御部62は、当該記憶された溶接トーチ9の位置に関連付けられて記憶された傾斜角θ及び回転角φになるようポジショナー8を調節する。これにより、溶接の対象となる羽根の端面が三次元的に変化しても、端面毎に端面が略水平になるように調節することができるので、略鉛直下向きのトーチ姿勢で溶接することができる。その結果、
図11(C)に示すように、羽根の端面に対して溶接トーチ9の長軸が略垂直になるように溶接トーチ9の姿勢を調整することができる。
【0058】
(ステップS109)移動後の溶接トーチ9が、移動後の位置において側板3と羽根2−1〜2−5とを溶接する。側板3と羽根2−1〜2−5を完全に溶け込ませて裏波を出す。これにより、溶接接合面の隙間に液体が入り込まないので、隙間腐食を防止することができる。羽根2−1〜2−5は内周側になるほど細く、溶接する工程において、内周側になるほど溶接にかかる入熱量を小さくする。これにより、羽根2−1〜2−5の厚みがあるところで側板3が溶けなくて不完全溶接になることを回避しつつ、羽根2−1〜2−5が薄いところで側板3が溶け落ちてしまうことを回避することができる。このときの溶接はA-TIG溶接である。また、特定の羽根における溶接位置を移動するときには、溶接位置間を円弧補間で移動させることで、常に鉛直下向きのトーチ姿勢で移動することができ、移動後にそのまま鉛直下向きのトーチ姿勢で溶接することができる。これにより、トーチ姿勢を毎回調節する必要がないので、複数箇所の溶接に係る全時間を短縮することができる。略同一形状の羽根が複数枚(ここでは一例として5枚)あるので、一つの羽根が溶接終了したら、360°/羽根枚数だけ回転させ、他の羽根を溶接する。上記の溶接を羽根の枚数だけ繰り返す。
【0059】
(ステップS110)次に、制御装置6は、全ての溶接対象領域に対応する溶接位置で溶接したか否かを判定する。全ての溶接対象領域に相当する位置で溶接した場合、ステップS111の処理に移行する。全ての溶接対象領域に相当する位置で溶接していない場合、ステップS108に戻り、他の溶接対象領域についてステップS108〜S109の処理を繰り返す。
【0060】
(ステップS111)ステップS110で全ての溶接対象領域に相当する位置で溶接した場合、熱処理を行う。例えば、ゆっくりと温度を上げたのちに、ゆっくりと冷ます。これにより、残留応力を逃がすことができる。
【0061】
(ステップS112)次に、外周部分を削り出す。
【0062】
(ステップS113)次に、機械加工によって所望の形状に仕上げる。これにより、羽根車が完成する。
【0063】
この製造方法によって、3次元的に変化する溶接線であっても下向き姿勢で溶接可能になり、かつ主板1もしくは側板3の表側から正確な狙い位置で溶接可能になる。また、一つの羽根車を製造するための溶接対象領域の数は、翼の長さ、羽根車の材質によっても異なる。密にとれば取るほど正確な形状の溶接が可能であるが、時間及び/または経費との兼ね合いでポイント数が決定される。
【0064】
特に、3次元羽根車の羽根の付け根部(内周側)では翼端面21−1〜21−5の水平面に対しての角度の変化が大きいので、この区間の溶接対象領域は多くする。逆に、羽根の外周部では水平面との角度の変化が小さいので、羽根の外周部付近では溶接対象領域の数は少なくてよい。このように、主板1または側板3の底面を略水平にしたときに羽根2−1〜2−5の端面と水平面との角度が大きい部位ほど、溶接対象領域が空間的に密になる。これにより、強固に側板3を羽根2−1〜2−5と接合することができる。
【0065】
なお、本実施形態では、一例として、移動後の溶接トーチ9の先端位置、調整後の姿勢、調節後のポジショナー8の傾斜角θ及び回転角φの組を記憶したが、これに限ったものではない。溶接トーチ9の姿勢を略鉛直下向きに固定することで、記憶対象から調整後の姿勢を除外して、移動後の溶接トーチ9の先端位置、調節後のポジショナー8の傾斜角θ及び回転角φの組を記憶してもよい。
【0066】
以上、本実施形態に係る羽根車の製造方法は、主板1に設けられた羽根2−1〜2−5の端面の溶接対象領域が略水平になるよう、主板1を支持するポジショナーの傾斜角及び回転角を調節する第1の工程を有する。更に羽根車の製造方法は、略水平になった溶接対象領域に溶接トーチを移動する第2の工程を有する。更に羽根車の製造方法は、調節後のポジショナー8の傾斜角θ及び回転角φ、移動後の溶接トーチ9の位置の組を記憶する第3の工程を有する。更に羽根車の製造方法は、側板3を主板1の上に配置する第4の工程を有する。更に羽根車の製造方法は、記憶された溶接トーチ9の位置から略垂直方向に所定の距離だけ引き上げた位置に、溶接トーチ9を移動するとともに、当該記憶された溶接トーチの位置に関連付けられて記憶された傾斜角θ及び回転角φになるようポジショナー8を調節する第5の工程を有する。更に羽根車の製造方法は、移動後の溶接トーチ9が側板3と羽根2−1〜2−5とを溶接する第6の工程を有する。
【0067】
この構成により、側板3を羽根2−1〜2−5の上に配置することによって側板3の上から羽根2−1〜2−5の端面の位置が見えなくても、溶接する端面の位置を記憶しているので、溶接する端面から略垂直方向に所定の距離Y1だけ引き上げた位置で溶接することができる。これにより、溶接位置を翼端面の上方に合わせることができ、溶接位置のずれを低減することができる。このため、溶接接合面が溶接施工で完全に溶け込まない確率を減少させ、溶接接合面の隙間に液体が入り込み隙間腐食が発生する確率を低減することができる。このようにして、主板1の表側から翼端面の溶接を行う場合において隙間腐食の発生確率を低減することができる。
【0068】
また、上記第2の工程において、略水平になった羽根2−1〜2−5の端面の中心付近に溶接トーチ9の先端を移動する。そして、第3の工程において、調節後のポジショナー8の傾斜角θ及び回転角φ、移動後の溶接トーチ9の先端位置の組を記憶する。これにより、羽根2−1〜2−5の端面の中心を正確に狙って溶接することができる。このため、溶接の溶け落ちの危険性、及び溶接が完全溶け込みとならずに隙間腐食が発生する危険性を低減することができる。
【0069】
また、移動する第2の工程において、溶接トーチ9の長軸が水平面に対して略垂直になるように溶接トーチ9の姿勢を調節し、記憶する第3の工程において、第2の工程で調整後の姿勢も溶接トーチ9の位置に関連付けて更に記憶し、溶接する第5の工程において、記憶された溶接トーチ9の位置に関連付けられて記憶された姿勢になるよう溶接トーチ9の姿勢を調節する。この構成により、羽根2−1〜2−5の端面に対して垂直に溶接できるため、溶接接合面が溶接施工で完全に溶け込まない確率を減少させ、溶接接合面の隙間に液体が入り込み隙間腐食が発生する確率を低減することができる。
【0070】
また、上記の構成において、側板3には羽根2−1〜2−5の端面に沿った形状の貫通していない溝4−1〜4−5が表面に設けられており、溶接する第6の工程において、溝4−1〜4−5の上からA-TIG溶接で溶接する。この構成により、溝4−1〜4−5の上からA-TIG溶接で溶接することにより、貫通溝を加工して溶接する場合や溝をTIG溶接する場合よりも、入熱量を抑えることが可能となり、溶接変形のリスクも低減できる。更に、鉛直下向きのトーチ姿勢でA-TIG溶接することができるので、A−TIG溶接の安定性を向上させることができる。
【0071】
また本実施形態によれば、今まで熟練の溶接技術者であっても手動による溶接が出来なかった構造物、特に主板と側板の隙間が狭い3次元羽根車などの溶接が可能となる。また、溶接ロボット7による自動溶接であるため、製造コストを低減することができる。
【0072】
なお、本実施形態では、3次元的に羽根の形状が変化する羽根車について説明したが、羽根の形状は3次元的に変化しなくてもよく、2次元的に変化してもよい。羽根の形状が2次元的に変化する場合には、溶接トーチの長軸方向を水平面に対して略垂直に維持すればよいので、溶接時における所望の姿勢は記憶しなくてもよい。具体的には、溶接時における所望の姿勢を除く、調節後のポジショナーの傾斜角及び回転角、移動後の溶接トーチの位置の組を記憶してもよい。
【0073】
なお、本実施形態では、制御装置6が記憶部64を備える構成としたが、これに限らず、記憶部64は制御装置6に外付けで接続されていてもよいし、ネットワークを介して接続されていてもよい。
また、本実施形態では、側板3に、溶接のための溝4−1〜4−5が設けられている例について説明したが、これに限らず、側板3は溝が設けられていない平板でもよい。溝の有無および溝の深さは、完全溶け込み継手が得られることを基準として、側板3及び羽根2の厚さで決まる。
【0074】
なお、本実施形態では、主板に羽根が設けられたが、側板に羽根が設けられてもよい。その場合、ポジショナー8は側板を支持し、主板1の裏面を下にして主板1を側板3の上に配置し、溶接トーチ9が主板1と羽根2−1〜2−5とを溶接する。またこの場合、主板1には、表面に貫通していない溝が設けられ、主板1と羽根2−1〜2−5を完全に溶け込ませて裏波を出す。
【0075】
なお、翼端面21−1〜21−5を水平にして、溶接トーチ9の姿勢を水平面に略垂直とし、且つ翼端面中央付近から略法線方向に所定の距離Y1だけ離れた位置に、溶接位置を設定する手法は、上記のように実際に溶接ロボット7を操作して設定する場合に限ったものではない。主板の3Dキャドデータから溶接対象領域の座標データが得られるので、情報処理装置(例えば、パソコン)上で実行される溶接位置設定プログラムによって溶接位置を設定する方法(いわゆるオフラインティーチング)を用いてもよい。
【0076】
なお、本実施形態では、略水平になった溶接対象領域に溶接トーチを鉛直下向きで移動したときの溶接トーチの先端位置を記憶したが、これに限らず、当該溶接トーチの位置から略垂直方向に所定の距離Y1だけ引き上げた位置(溶接位置)を記憶してもよい。
【0077】
以上、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 主板
10 羽根車
2 羽根
21 翼端面
3 側板
4 溝
5 溶接システム
6 制御装置
61 溶接トーチ制御部
62 ポジショナー制御部
63 記憶制御部
64 記憶部
67、68 制御線
7 溶接ロボット
8 ポジショナー
9 溶接トーチ