特許第6713595号(P6713595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6713595
(24)【登録日】2020年6月8日
(45)【発行日】2020年6月24日
(54)【発明の名称】保持装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 3/154 20060101AFI20200615BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20200615BHJP
【FI】
   B23Q3/154 A
   B23Q3/154 B
   H01F7/02 S
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-9181(P2016-9181)
(22)【出願日】2016年1月20日
(65)【公開番号】特開2017-71043(P2017-71043A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2018年7月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-201331(P2015-201331)
(32)【優先日】2015年10月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592143688
【氏名又は名称】株式会社サンアイ精機
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊地 晋也
(72)【発明者】
【氏名】吉野 泰弘
【審査官】 中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第2053177(US,A)
【文献】 米国特許第5266914(US,A)
【文献】 特許第112293(JP,C2)
【文献】 米国特許第2187240(US,A)
【文献】 実開昭52−167668(JP,U)
【文献】 実開昭57−048033(JP,U)
【文献】 実公昭60−018272(JP,Y2)
【文献】 実開昭60−080833(JP,U)
【文献】 特開2005−238387(JP,A)
【文献】 特開2012−089792(JP,A)
【文献】 特許第5716232(JP,B2)
【文献】 仏国特許発明第1029480(FR,A)
【文献】 米国特許第2972485(US,A)
【文献】 米国特許第3665355(US,A)
【文献】 欧州特許出願公開第0062508(EP,A1)
【文献】 英国特許出願公開第2211355(GB,A)
【文献】 実開昭57−162042(JP,U)
【文献】 特開昭59−172213(JP,A)
【文献】 特開平09−066432(JP,A)
【文献】 特開2003−117754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 3/00−3/154
B23Q 3/16−3/18
H01F 7/00−7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が磁性材料から成る被保持物を磁力により保持する保持装置であって、
第1の磁性体から成る磁性部材及び非磁性体から成る非磁性部材を、磁性部材が非磁性部材によって縦方向及び横方向に分断され、複数の磁性部材区画が縦横に複数列をなして形成され、かつ、非磁性部材が格子状になるように組み合わせて構成された上部プレートと、
第2の磁性体から成る下部プレートと、
磁石又は磁石の同一極に挟み込まれた第3の磁性体から成る、複数個の磁極部材と、
前記複数個の磁極部材が固定され、上部プレートと下部プレートとの間に配置された磁極固定プレートと
を具備し、
磁極固定プレートにおいて、前記複数個の磁極部材は、磁極面を上下方向に向けた状態で、同一極の磁極面が互いに隣り合わないようにして互いに間隔をあけて縦横に複数列をなして配置され、
磁極固定プレートと上部プレートとが相対的に位置変換可能であり、当該位置変換により、磁極部材が非磁性部材の格子の交点の下部に配置され、1つの磁性部材区画に対して磁極部材のS極面及びN極面が同時に接続するオフ状態と、磁極部材が磁性部材区画の下部に配置され、1つの磁性部材区画に対して1つの磁極部材の磁極面が接続するオン状態とに変換可能であり、オン状態において磁極部材から発する磁力により被保持物が上部プレート上に保持される、保持装置。
【請求項2】
少なくとも一部が磁性材料から成る被保持物を磁力により保持する保持装置であって、
第1の磁性体から成る磁性部材及び非磁性体から成る非磁性部材を、磁性部材が非磁性部材によって縦方向及び横方向に分断され、複数の磁性部材区画が縦横に複数列をなして形成されるように組み合わせて構成された上部プレートと、
第2の磁性体から成る下部プレートと、
磁石又は磁石の同一極に挟み込まれた第3の磁性体から成る、複数個の磁極部材と、
前記複数個の磁極部材が固定され、上部プレートと下部プレートとの間に配置された磁極固定プレートと
を具備し、
磁極固定プレートにおいて、前記複数個の磁極部材は、磁極面を上下方向に向けた状態で、同一極の磁極面が互いに隣り合わないようにして互いに間隔をあけて縦横に複数列をなして配置され、
磁極固定プレートと上部プレートは、少なくともいずれか一方のプレートの回転移動により相対的に位置変換可能であり、当該位置変換により、磁極部材が非磁性部材部分の下部に配置され、1つの磁性部材区画に対して磁極部材のS極面及びN極面が同時に接続するオフ状態と、磁極部材が磁性部材区画の下部に配置され、1つの磁性部材区画に対して1つの磁極部材の磁極面が接続するオン状態とに変換可能であり、オン状態において磁極部材から発する磁力により被保持物が上部プレート上に保持される、保持装置。
【請求項3】
上部プレートは、非磁性部材が格子状になるように組み合わせて構成される、請求項記載の保持装置。
【請求項4】
磁極固定プレートにおける磁極部材間の縦方向及び横方向の間隔が、上部プレートにおける磁性部材区画間の縦方向及び横方向の間隔とそれぞれ略同一である、請求項1ないしのいずれか1項に記載の保持装置。
【請求項5】
前記磁極部材は、永久磁石、電磁石、及び永久磁石と電磁石の組み合わせから選択される少なくとも1種である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の保持装置。
【請求項6】
前記磁極部材は永久磁石である、請求項5記載の保持装置。
【請求項7】
金属材料の機械加工に用いられるマグネットチャックである請求項1ないし6のいずれか1項に記載の保持装置。
【請求項8】
切削加工用マグネットチャックである請求項7記載の保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁力により被保持物を保持する保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超精密加工などの機械加工をする際には、ワーク(加工対象)の固定が非常に重要である。一般にワークの固定には安価なバイス(万力)が用いられることが多いが、ワークが鉄系あるいは他の磁性体製のものである場合には、磁力吸着によってワークを固定するマグネットチャックを利用することができる。マグネットチャックは、ワークを設置してスイッチを切り替えるだけで誰でも同じ吸着力で基準面に平行に取り付けることが可能であること、バイスでは変形してしまうおそれのある薄い板や小物を取り付けることが可能であることなどの利点を有する。ただし、一般に横滑り方向の力には弱いという欠点がある。
【0003】
マグネットチャックには、永久磁石型、電磁石型、それらを組み合わせた永電磁石型がある。特に永久磁石型は、横滑り方向にかかる力が少ない研削加工や放電加工などに使用するのが中心である。電磁石を利用したタイプでは、強い吸着力を実現できるため横滑り方向の力にも強く、また吸着状態と脱離状態を電気的に切り替えることができるため使い勝手も良く、横滑り方向に大きな力が加わる切削加工に対応することができる。しかしながら、電磁石型では当然ながら電源が必要であり、大電流による発熱を抑えるための冷却機構も必要であることから、電気的絶縁や防水処理に細心の注意を払わなければならず、導入コストおよびランニングコストが高くなる。大電流を流し続けなければワークを吸着できないため、環境負荷が大きいことも問題である。
【0004】
機械加工用のマグネットチャックは、通常、磁性体と非磁性体を交互にストライプ状に組み合わせた構造を有している。従来のマグネットチャックでは、この磁性体と非磁性体のストライプの周期が細かく、内部の磁石の大きさとは無関係であった。1980年代には既にマグネットチャックの技術が確立していたが、マグネットチャック製品、とりわけ永久磁石型マグネットチャックの開発は、磁性体と非磁性体の周期がより細かくなる方向で進められてきた。一方、特許文献1には、従来のマグネットチャックの構成において、ストライプの周期を内部の磁石のサイズおよび磁石の間隔と一致させることで、永久磁石型マグネットチャックにおいても強力な保持力とオフ時の切れの良さを両立できる保持装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5716232号公報
【特許文献2】実開昭52−167668号公報
【特許文献3】実開昭57−48033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の保持装置では、特許文献1にいうY方向の保持力がX方向の保持力に比べて弱い。本願発明は、電磁石に依存せずにオン状態で高い吸着力を発揮でき、且つオフ状態での磁力のキレがよく被保持物の取り外しが容易な、低コストで環境負荷も少なく様々な場面に応用できる被保持物の保持手段であって、多方面からの応力に対して従来品よりもさらに強い保持力を発揮できる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、従来の永久磁石型マグネットチャックの構成において、磁性部材を非磁性部材で縦方向及び横方向に区切って複数の磁性部材区画を上部プレート中に設け、かつ、磁極部材の磁極面が常にSとNが隣り合う配列として、2軸方向への移動や回転移動などによる位置変換によって、磁極部材が非磁性部材部分の下部に配置され、1つの磁性部材区画に対して磁極部材のS極面及びN極面が同時に接続するオフ状態と、磁極部材が磁性部材区画の下部に配置され、1つの磁性部材区画に対して1つの磁極部材の磁極面が接続するオン状態に変換される構成とすることにより、多方面からの応力に対する保持力を大幅に向上できることを見出し、本願発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、少なくとも一部が磁性材料から成る被保持物を磁力により保持する保持装置であって、
第1の磁性体から成る磁性部材及び非磁性体から成る非磁性部材を、磁性部材が非磁性部材によって縦方向及び横方向に分断され、複数の磁性部材区画が縦横に複数列をなして形成され、かつ、非磁性部材が格子状になるように組み合わせて構成された上部プレートと、
第2の磁性体から成る下部プレートと、
磁石又は磁石の同一極に挟み込まれた第3の磁性体から成る、複数個の磁極部材と、
前記複数個の磁極部材が固定され、上部プレートと下部プレートとの間に配置された磁極固定プレートと
を具備し、
磁極固定プレートにおいて、前記複数個の磁極部材は、磁極面を上下方向に向けた状態で、同一極の磁極面が互いに隣り合わないようにして互いに間隔をあけて縦横に複数列をなして配置され、
磁極固定プレートと上部プレートとが相対的に位置変換可能であり、当該位置変換により、磁極部材が非磁性部材の格子の交点の下部に配置され、1つの磁性部材区画に対して磁極部材のS極面及びN極面が同時に接続するオフ状態と、磁極部材が磁性部材区画の下部に配置され、1つの磁性部材区画に対して1つの磁極部材の磁極面が接続するオン状態とに変換可能であり、オン状態において磁極部材から発する磁力により被保持物が上部プレート上に保持される、保持装置を提供する。
また、本発明は、少なくとも一部が磁性材料から成る被保持物を磁力により保持する保持装置であって、
第1の磁性体から成る磁性部材及び非磁性体から成る非磁性部材を、磁性部材が非磁性部材によって縦方向及び横方向に分断され、複数の磁性部材区画が縦横に複数列をなして形成されるように組み合わせて構成された上部プレートと、
第2の磁性体から成る下部プレートと、
磁石又は磁石の同一極に挟み込まれた第3の磁性体から成る、複数個の磁極部材と、
前記複数個の磁極部材が固定され、上部プレートと下部プレートとの間に配置された磁極固定プレートと
を具備し、
磁極固定プレートにおいて、前記複数個の磁極部材は、磁極面を上下方向に向けた状態で、同一極の磁極面が互いに隣り合わないようにして互いに間隔をあけて縦横に複数列をなして配置され、
磁極固定プレートと上部プレートは、少なくともいずれか一方のプレートの回転移動により相対的に位置変換可能であり、当該位置変換により、磁極部材が非磁性部材部分の下部に配置され、1つの磁性部材区画に対して磁極部材のS極面及びN極面が同時に接続するオフ状態と、磁極部材が磁性部材区画の下部に配置され、1つの磁性部材区画に対して1つの磁極部材の磁極面が接続するオン状態とに変換可能であり、オン状態において磁極部材から発する磁力により被保持物が上部プレート上に保持される、保持装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、大電流に依存することなく強力な保持力とオフ時の切れの良さを両立できる、磁力による新規な保持手段が提供された。本発明の保持装置は、磁極部材として永久磁石のみを用いた場合でも、横滑り方向の力にも耐える高い吸着保持力を発揮できる。金属製ワークの固定のためのマグネットチャックとして使用する場合、従来の永久磁石型マグネットとは異なり、研削加工や放電加工だけでなく、横滑り方向に大きな力がかかる切削加工にも使用することができる。また、ワーク固定のためのマグネットチャックとしての用途を超えて、リフティングマグネットをはじめとする様々な用途に使用できる。小さい部品の固定保持以外にも、人や動物の支持、鉄骨の固定など、大きな物体の保持固定や移動運搬用にも使用可能である。保持装置全体のサイズは、使用目的や使用環境等に応じて自由に選択できる。本発明の保持装置は、永久磁石のみを使用した場合でも強い吸着力を発揮できるので、使用場所も制限がなく、液中、建物の壁の内部など、様々な場所で使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の保持装置の構造を模式的に示した分解斜視図である。
図2】2軸方向へのプレート移動によりオン・オフの切り替えが行われる態様の一例において、オン状態での非磁性部材部分及び磁性部材区画と磁極部材との位置関係を説明する図である。
図3】2軸方向へのプレート移動によりオン・オフの切り替えが行われる態様の一例において、オフ状態での非磁性部材部分及び磁性部材区画と磁極部材との位置関係を説明する図である。
図4-1】プレートの回転移動によりオン・オフの切り替えが行われる態様の保持装置の、上部プレート及び磁極固定プレートの構成の一例を示す模式図である。
図4-2】図4−1に示した回転移動によりオン・オフの切り替えが行われる態様の一例において、オン状態での非磁性部材部分及び磁性部材区画と磁極部材との位置関係を説明する図である。
図4-3】図4−1に示した回転移動によりオン・オフの切り替えが行われる態様の一例において、オフ状態での非磁性部材部分及び磁性部材区画と磁極部材との位置関係を説明する図である。
図5】磁極部材が磁石の同一極に挟み込まれた第3の磁性体から成る態様における磁極固定プレートの具体例を示す平面図である。
図6】実施例で試作した本発明の実施品M-Newの保持面の外観写真である。
図7図6中の枠内の領域における磁束密度分布のベクトル図である。
図8】試作品M-Newについて、図7中に示した(a)ライン上の磁束密度の3次元分布を2次元的に示したグラフである。
図9】試作品M-Newについて、図7中に示した(b)ライン上の磁束密度の3次元分布を2次元的に示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の保持装置は、磁力を利用して被保持物を保持する器具であり、金属加工に従来より使用されているマグネットチャックの原理を利用したものである。以下、図面に基づいて本発明の保持装置の基本構成を説明する。
【0012】
なお、本明細書及び特許請求の範囲では、上下、縦横、水平という語が用いられているが、これは、上部プレートを水平にして被保持物を保持する保持面を上方に向けた状態で、格子の縦縞が奥から手前に向かうように維持した状態での方向を意味している。図1中には三次元の軸が記載されているが、これで表現すれば、上下方向とはZ方向であり、縦方向とはY方向であり、横方向とはX方向であり、XY平面が水平面である。ただし、本発明の保持装置は、保持面を上方に向けた状態のみならず、横向きでも縦向きでも下向きでも、あらゆる方向に向けた状態で使用可能である。各部材の配置を明瞭にする観点から、便宜的に、保持面を上方に向けた上記の状態で上下左右方向を説明しているだけであり、こうした説明によって本発明の保持装置の使用状態が限定されるものではない。
【0013】
また、本明細書及び特許請求の範囲では「プレート」という語を用いているが、本発明では、X・Y方向のサイズと比較してZ方向の厚みが大きく、プレートではなくむしろブロックと表現した方が適切な形状である場合もあり得る。本明細書及び特許請求の範囲では、本発明の器具の構成を立体的に把握しやすくする観点から、便宜上「プレート」という語を用いているだけであり、本発明の範囲は、Z方向の厚みがX・Y方向のサイズと比較して十分に小さいものに限定されるものではない。
【0014】
図1は、本発明の保持装置の構造を模式的に表した分解斜視図である。保持装置10は、上部プレート12、磁極固定プレート14(ただし構造を一部省略して示す)及び下部プレート16を具備する。磁極固定プレート14には、複数個の磁極部材18が、縦横に複数列をなして固定されている。上部プレートの上部表面が、被保持物を吸着保持する保持面100である。なお、図1の模式図では保持装置10は全体が矩形であるが、矩形に限定されるものではなく、矩形以外の多角形や円形(例えば図4−1)などのさまざまな形状とすることができる。
【0015】
上部プレート12は、第1の磁性体から成る磁性部材122と非磁性体から成る非磁性部材124を組み合わせて構成される。磁性部材122は、非磁性部材124によって縦方向(Y方向)及び横方向(X方向)に分断され、複数の磁性部材区画122aが縦横に複数列をなすように形成される。図1に示した例では、非磁性部材124が格子状となるように組み合わされて構成されている。本明細書において、このような格子状の非磁性部材124を非磁性格子ということがある。非磁性格子の升目部分が磁性部材区画122aとなっている。上部プレート12において、磁性部材区画122aは、格子の縦縞124a(縦方向に延在する非磁性部材部分)及び横縞124b(横方向に延在する非磁性部材部分)に区切られて小矩形をなす。磁性部材区画122aは、上部プレート12の下に配置された磁極部材18と磁気的に接続する部材であり、オン状態では磁極部材18からの磁力が磁性部材区画122aを経て被保持物を吸着保持する。
【0016】
磁性部材区画122aの形状は特に限定されない。図1図3に示すように、非磁性部材が格子形状の場合には、磁性部材区画122aは長方形や正方形の矩形となるが、矩形の他に楕円形、長丸形、円形、三角形等、あるいはその組み合わせの形状を採用することも可能である。磁性部材が非磁性部材により縦横方向に分断されていればよいので、磁性部材区画122aが矩形以外の形状の場合には、複数の磁性部材区画122aの間を埋めるように非磁性部材124を配すればよい。また、上部プレート12において、全ての磁性部材区画122aを同一形状にしなくともよい。磁性部材区画122aが矩形以外の形状である場合の非磁性部材124の形状は、変形格子形状と呼ぶことができる。本発明において、単に「格子」といった場合には、そのような変形格子形状も包含される。
【0017】
磁性部材区画122aの個数ないしは列数も特に限定されず、縦横に複数列、すなわち2列以上であればよい。図4−1に示すように、非磁性部材124の中に磁性部材122を埋め込むようにして2列の磁性部材区画122aを設けてもよい。このような態様でも、非磁性部材124の形状は略格子状ということができ、本発明における「格子」という語に包含される。
【0018】
本発明において、「非磁性体」は、全く磁力を通さない材料という意味ではなく、使用する磁性体との間で透磁率に非常に大きな差(例えば数百倍〜数千倍程度以上)がある材料であればよい。磁性体及び非磁性体は特に限定されず、この分野で公知の種々の材料を使用することができる。磁性体の具体例としては、鉄、コバルト、ニッケル及びガドリニウムの単体が挙げられるほか、鉄、コバルト、ニッケル、ガドリニウム、クロム及びマンガン等のうちの1種以上を含む化合物、マルテンサイト系ステンレスなどの素材が挙げられる。また、非磁性体の具体例としては、銅、亜鉛、スズ、鉛、アルミニウム、マグネシウム、硫黄及びチタン等の単体あるいはこれらのうちの1種以上を含む化合物(例えば真鍮、青銅など)、オーステナイト系ステンレス等のような非磁性金属;プラスチック、ポリエチレン、ビニール等の石油加工品素材;ゴム、ガラス等の非金属・非石油加工品素材;天然繊維(綿など)、天然樹脂、木材及び木材加工品(紙など)のような植物由来素材;並びに空気等が挙げられる。非磁性体として空気を用いる場合、非磁性格子は空気ギャップとして設けられる。例えば、非磁性体の薄いプレート表面に適当な間隔で磁性体を固定したものを、非磁性格子が空気ギャップである上部プレートとして使用することができる。もっとも、上記した具体例は単なる例示であり、本発明で使用される磁性体及び非磁性体は上記具体例に限定されるものではない。
【0019】
下部プレート16は、第2の磁性体から成る。この下部プレート16は、磁極部材の下方の磁極面と磁気的に接続しており、下方に向かう磁力線を磁極部材間で完結させる働きをする。第2の磁性体は、第1の磁性体と同一であってもよいし、異なっていてもよいが、製造コスト等の観点では同一素材であることが好ましい。
【0020】
被保持物を吸着保持するための磁力を保持面100上に提供する磁極面を有する磁極部材18は、磁極固定プレート14に固定され、上部プレート12と下部プレート16の間に配置される。磁極部材18は、磁極面を上下方向(Z方向)に向けて、上下のプレートと磁気的に接続するように、好ましくは上部プレート及び下部プレートに物理的に接するように配置される。ただし、磁極固定プレート14の下部面が磁性体から成る場合には、磁極面が下部プレート16に物理的に接する必要はない。磁極部材18は、縦横に複数列をなして配置され、隣り合う磁極部材18が異なる磁極面を上方に向けた状態で互いに間隔をあけて配列される。縦、横いずれの方向でも、同一極の磁極面が互いに隣り合わないように、・・・−N極−S極−N極−S極−・・・となるように交互に配列される。図中では、磁極部材18の磁極面のうち、S極面を18a、N極面を18bとして示す。
【0021】
磁極部材18の形状は特に限定されない。矩形のものを最も好ましく用いることができるが、円形や楕円形、長丸形、菱形、又はこれら以外の種々の形状のものを使用することができる。磁極部材18には、上部プレートの磁性部材区画122aと同じ形状を採用することが好ましい。矩形以外の形状の場合、磁極部材間の間隙とは、磁極部材間の最も短い間隙をいい、例えば菱形の磁極部材を用いる場合には、菱形の頂点間の距離をいう。
【0022】
磁極固定プレート14上では、磁極部材18が縦方向及び横方向にそれぞれ一定の間隔をおいて配置される。磁極部材間の間隔は、図2図4−3に示すように、上部プレート12における磁性部材区画122a間の間隔と略同一であることが好ましい。すなわち、磁極部材18間の縦方向(Y方向)の間隔が磁性部材区画122a間の縦方向(Y方向)の間隔と略同一であり、かつ、磁極部材18間の横方向(X方向)の間隔が磁性部材区画122a間の横方向(X方向)の間隔と略同一であることが好ましく、この場合、磁極部材のサイズは、磁性部材区画122aのサイズと略同一となる。特に本発明においては、磁極部材18間の縦方向の間隔及び横方向の間隔、並びに磁性部材区画122a間の縦方向の間隔及び横方向の間隔が全て略同一であることが好ましい。例えば、非磁性部材124が格子形状である場合には、磁極部材18の横方向(X方向)の間隔が上部プレート12の非磁性格子の縦縞124aの幅(太さ)と略同一であり、縦方向(Y方向)の間隔が非磁性格子の横縞124bの幅(太さ)と略同一であることが好ましく、中でも、非磁性格子の縦縞124a及び横縞124bの幅(太さ)と磁極部材間の縦方向及び横方向の間隔とが全て略同一であることが特に好ましい。寸法を合せる際には、同一とすべき寸法の間で多少の誤差が生じても、保持装置の機能すなわちオン時の強い吸着力とオフ時の切れの良さを大きく損なわない限り問題はない。略同一とは、そのような多少の誤差が許容されることを意味しており、特に限定されないが、通常±10%程度まで、例えば±5%程度までの誤差が許容される。
【0023】
磁極部材18は、磁石、又は磁石の同一極に挟み込まれた第3の磁性体から成る。磁石は、永久磁石、電磁石、永久磁石と電磁石を組み合わせた磁石のいずれであってもよく、被保持物の種類や使用場所等に応じて適宜選択できる。本発明の特徴は、永久磁石のみでも多方向からの応力に対する強い吸着保持力とオフ時の切れの良さを両立できる点にあるが、吸着保持力をさらに高めるために、電磁石又は永久磁石と電磁石を組み合わせた磁石を使用することは差し支えない。電磁石又は永久磁石と電磁石を組み合わせた磁石を採用すれば、被保持物が大きくて重量のある物体である場合にも十分に対応可能になる。永久磁石のみを採用すれば、吸着保持力を発揮するのに電気が不要なため、例えば水中でも保持装置を使用可能になる。
【0024】
上部プレートと磁極固定プレートの相対的な位置変換(言い換えると、磁性部材区画と磁極部材の相対的な位置変換)は、XY平面内(水平面内)での2軸方向へのプレート移動により行なわれてもよいし、プレートの中心部を軸とした水平面内での回転移動でもよい。以下、各態様について、模式図に基づき具体的に説明する。
【0025】
図2及び図3は、プレートの位置変換がXY平面内(水平面内)での2軸方向への移動により達成される態様の具体例を示す模式図である。磁極部材は磁石であり、磁性部材区画間の縦横方向の間隔と磁極部材間の縦横方向の間隔が全て同一である態様、すなわち、非磁性格子の縦縞124a及び横縞124bの幅(太さ)と磁極部材間の縦方向及び横方向の間隔とが全て同一である態様の一例を示した。磁極固定プレート14は非磁性体から成り、磁極部材が埋め込まれて固定されている。非磁性体の条件は上記した通りである。もっとも、この態様に限定されず、上述したように磁極部材間の間隙は空気ギャップであってもよい。例えば、薄いプレート上に適当な間隔で空気ギャップを設けながら磁極部材を固定したものを磁極固定プレートとして使用することができる。薄いプレートは、磁極部材から下方に発生する磁力線が下部プレートを介して磁石間で完結することを妨害しない限り、いかなる材料で作製されたものでもよい。
【0026】
オン状態では、図2に示すように、磁極部材18が、磁性部材区画122aの下部に位置する。磁極部材18は、非磁性部材124の格子の縞を跨がず、1つの磁性部材区画122aに対して1つの磁極部材(すなわち単一の極)が接続する。図2の態様では磁極部材の間隔と格子の幅(太さ)が全て同一であるため、磁極部材の間隙が格子模様と一致し、非磁性格子の真下に磁極部材の間隙が存在する配置となる。
【0027】
オフ状態では、図3に示すように、磁極部材18が格子の交点の下部に位置する。すなわち、磁極部材18が、格子の縦縞及び横縞の両者の下部に位置する。さらに言い換えると、平面視で(Z軸方向から見て)磁極部材18が非磁性格子によって4分割されるような配置となる。磁極部材がXY方向に対称な形状(例えば、矩形、円形、楕円形、長丸形、菱形など)である場合、磁極部材18が非磁性格子によって均等に4分割される配置となることが好ましい。オフ状態では、1つの磁性部材区画122aに対して、磁極部材のS極面18a及びN極面18bが同時に接続している。
【0028】
磁極固定プレート14と上部プレート12とは、相対的に位置変換可能である。図2、3に示す態様では、上部プレート12に対する磁極固定プレート14の位置がXY平面内(水平面内)で2軸方向に変換可能な構成となっており、この2軸方向の位置変換によってオン・オフの切り替えが達成される。典型的には磁極固定プレート14が可動な構成であるが、上部プレート12が可動な構成としてもよく、あるいは磁極固定プレート14と上部プレート12の両者が可動な構成としてもよい。2軸方向への位置変換は、縦方向から横方向(または横方向から縦方向)への2段階の移動としてもよいし、斜め方向への1段階の移動としてもよい。
【0029】
磁極固定プレート14の位置変換は、保持装置10の外部から該プレートの移動を制御する送り手段(図示せず)によって制御することができる。送り手段の操作部(図示せず)は、レンチで操作するナット、レバー、送りねじなど、保持装置の使用目的や使用環境等に合わせて適宜選択できる。遠隔部からの操作が求められる場合には、遠隔部のスイッチに接続した電気配線又はリモコン信号受信部を保持装置に設け、有線や無線等によって磁極固定プレート14の移動を制御することもできる。操作部の動作を磁極固定プレート14に伝達する機構そのものは、当業者であれば容易に設計できる。例えば、従来品の永久磁石型マグネットチャックでは、チャック本体側面にナットが設けられ、ここをレンチで回転させて内部の磁極固定プレート14をスライドさせるが、本発明でも基本的には同様の機構を利用することができる。
【0030】
オン状態(図2)では、上部プレート12の磁性部材区画122aの真下に磁極部材18が位置し、各磁性部材区画122aに一極性の磁力が付与される。縦横(XY)方向に隣り合う磁極面は極が異なるため、保持面100上では、S極とN極が縦横いずれの方向にも交互に並んだ状態になる。この状態で保持面100上に少なくとも一部が磁性材料から成る被保持物(図示せず)が存在すると、X方向及びY方向に隣り合う磁極部材18間で、縦方向及び横方向に延在する非磁性部材部分124a及び124bを跨ぎ被保持物の磁性材料部分を経由して磁力線が完結する。これにより、被保持物が保持面100上に吸着保持される。このように本発明の保持装置では、保持面100上に磁束ループが多数発現するため、X方向とY方向の磁束によって、オン状態での横すべり抵抗性が向上され、多方面からの応力に対する保持力が強く発揮されるようになる。
【0031】
被保持物を取り外すときは、磁極固定プレート送り手段を操作し、非磁性格子に対する磁極部材18の位置(磁性部材区画122aに対する磁極部材18の位置)を変換する。オフ状態では、磁極部材18が非磁性格子124の交点の下部に配置される。すなわち、縦方向に延在する非磁性部材部分124aに沿ってその下部に磁極部材18が並び、かつ、横方向に延在する非磁性部材部分124bに沿ってその下部に磁極部材18が並んだ状態であり、1つの磁性部材区画122aに対して磁極部材18のS極面18a及びN極面18bが同時に接続する。このような配置により、磁極部材18からの磁力は、磁性部材区画122aの内部でX方向とY方向に完結しやすくなり、磁力線が保持面100上の磁性材料まで届きにくくなる。すなわち、保持装置内部で磁束が閉じ、保持面100上の被保持物に作用する吸着力が消失する。これにより、大きく厚みのある永久磁石を使用した場合でも、オフ時の磁力の切れが向上し、オン時の強い保持力とオフ時の切れの良さを両立できるようになる。なお、端部に位置する磁性部材区画では、オフ状態においてもS極及びN極のいずれか一方にのみ接続した状態となり得るが(例えば図3では右上の升目部分)、保持面の中央領域において上述した配置となっていれば差し支えない。
【0032】
図4−1〜図4−3は、上部プレートと磁極固定プレートの相対的な位置変換が、少なくともいずれか一方のプレートの回転移動により行なわれる態様の具体例を示す模式図である。
【0033】
図4−1の上段は上部プレート12の平面図、下段は磁極固定プレート14の平面図である。上部プレート12において、磁性部材122は非磁性部材124によってY方向(縦方向)及びX方向(横方向)に分断され、磁性部材区画122aの列が形成されている。磁極固定プレート14には、磁性部材区画122aと同じサイズの磁極部材18が、磁性部材区画122aと同じ間隔で整列配置されている。
【0034】
オン状態(図4−2)では、図2のオン状態と同様に、上部プレート12の磁性部材区画122aの真下に磁極部材18が配置され、磁性部材区画122aに一極性の磁力が付与される。
【0035】
被保持物を取り外すときは、磁極固定プレート14を回転移動させ、図4−3に示したオフ状態とする。図4−2の配置から、プレートの中心部を軸として磁極固定プレートを時計回りに90度回転移動させることで、図4−3に示した配置となる。この図示した例において、磁極部材18は、縦方向に延在する非磁性部材部分124aの下部に位置し、1つの磁性部材区画122aに対して磁極部材18のS極面18a及びN極面18bが同時に接続する。このような配置により、磁極部材18からの磁力が磁性部材区画122aの内部で完結しやすくなり、保持装置内部で磁束が閉じ、保持面100上の被保持物に作用する吸着力が消失する。
【0036】
なお、このような回転式の保持装置においても、磁性部材区画122aのサイズ設定や個数設定によっては、端部に位置する磁性部材区画がオフ状態においてもS極及びN極のいずれか一方にのみ接続した状態となり得るが、保持面の中央領域において上述した配置となっていれば差し支えない。
【0037】
磁極固定プレート14の回転移動機構としては、90度回転の送りと戻しによってオン・オフの切り替えを行なう構成でもよいし、一方向のみに回転可能で90度ごとにオン・オフが切り替わる構成でもよい。本態様においても、磁極固定プレート14が回転移動する構成が典型的ではあるが、上部プレート12が回転移動する構成としてもよく、あるいは磁極固定プレート14と上部プレート12の両者が回転移動する構成としてもよい。回転手段の操作部(図示せず)は、手で操作するハンドルやレバー、レンチで操作するナット、送りねじなど、保持装置の使用目的や使用環境等に合わせて適宜選択でき、遠隔部からの操作が可能な構成としてもよい。
【0038】
図5は、磁極部材18として磁石の同一極に挟み込まれた第3の磁性体を採用した場合の磁極固定プレートの具体例を示した平面図である。図5のように、複数の磁石20を同一極が向かい合うように並べ、その間に磁性体を挿入すると、該磁性体は一極性の磁石として機能するようになり、N極とS極がX方向に交互に並んだ磁極部材18の列となる。このような磁極部材列を利用したマグネットチャックは公知であり、本発明の保持装置においても利用できる。図5の例では、一極性の磁石として働く第3の磁性体の間隙が、第3の磁性体間に配置されている磁石20によって規定されている。従って、本実施態様による保持装置では、第3の磁性体を挟み込んでいる磁石の厚み(X方向の幅)が、上部プレート12の磁性部材区画122a間の横方向(X方向)の間隔と略同一であり、かつ、第3の磁性体のY方向の間隔が、上部プレート12の磁性部材区画122a間の縦方向(Y方向)の間隔と略同一であることが好ましい。
【0039】
図5の実施態様においては、磁極部材18は磁石20ではなく第3の磁性体の方であり、磁石20は本発明に言う磁極部材18ではないが、磁極部材18として使用される磁石について上述した条件が当てはまる。すなわち、この態様で用いられる磁石20も、永久磁石、電磁石、永久磁石と電磁石を組み合わせた磁石のいずれであってもよい。また、第3の磁性体の条件は、第1及び第2の磁性体と同様であり、第1〜第3の磁性体は同一でも異なっていても良いが、製造コスト等の観点では第1〜第3の磁性体は同一素材であることが好ましい。
【0040】
被保持物は、少なくとも一部が磁性材料から成るものであれば、磁力により吸着保持できるため、特に限定されない。鉄製品など全体が磁性材料から成る物体の他、非磁性材料から成る物体であっても、部分的に磁性材料から成る部位があれば本発明の保持装置で保持可能である。
【0041】
本発明の保持装置は、機械加工において金属製のワークを固定するためのマグネットチャックとして利用できる。磁極部材として永久磁石のみを用いた場合でも、横滑り方向の力にも耐える高い吸着保持力を発揮できるので、研削加工や放電加工だけでなく切削加工においても使用可能である。また、ワーク固定のためのマグネットチャックとしての用途を超えて、リフティングマグネットをはじめとする様々な用途に使用できる。小さい部品の固定保持以外にも、人や動物の支持、鉄骨の固定など、大きな物体の保持固定や移動運搬用にも使用可能である。保持装置全体のサイズは、使用目的や使用環境等に応じて自由に選択できる。永久磁石のみを使用した場合でも強い吸着力を発揮できるので、使用場所も制限がなく、液中でも使用可能である。また、たとえば建物の壁の内部に保持装置を設置し、壁に被保持物を保持固定するという用途も可能である。
【実施例】
【0042】
本発明の保持装置をマグネットチャックとして作成し、上部プレートがストライプ状である従来品のマグネットチャック(特許文献1)と吸着力の比較を行なった。
【0043】
本発明の実施品であるマグネットチャック試作品(M-New)では、磁極部材として永久磁石(480mT)を使用した。真鍮で形成したプレートに永久磁石をはめ込んで固定し、磁極固定プレートとした。上部プレートは、鉄と真鍮を格子状に組み合わせて作成し、下部プレートは鉄で作成した。永久磁石のサイズは11mm×16mmとし、上部プレートにおいて真鍮部分で区切られた四角形の鉄部分(磁性部材区画)のサイズは永久磁石のサイズと一致させた。上部プレートの格子状の真鍮部分の幅は3mmとした。
【0044】
一方、従来品の永久磁石型マグネットチャックは、ストライプのピッチが異なる下記3種類のものを用いた。
MP11(従来品1):Feピッチ11mm、CuZnピッチ2mm、磁石480mT
MP4(従来品2):Feピッチ4mm、CuZnピッチ3mm、磁石480mT
MP2(従来品3):Feピッチ2mm、CuZnピッチ1mm、磁石280mT
【0045】
図6は、本発明による試作品M-Newの外観写真である。また図6中の枠で囲んだ領域における磁束密度分布のベクトル図を図7に示す。磁束の動きは複雑な形状を示した。
【0046】
図8、9は、図7中の(a)ライン及び(b)ライン上の磁束密度の3次元分布を2次元的に示したものである。図8((a)ライン)では従来品1のMP11について同様に測定したグラフ(データ省略)と同様な傾向を示した。一方、図9((b)ライン)では、Z方向磁束密度の最大値は図8とほぼ同様の値であるにも関わらず、Y方向磁束密度がZ方向磁束密度とほぼ同様の値を示していた。
【0047】
本発明による試作品M-New及び従来品3種を用いて試験片の横すべり試験(すべり方向:X軸)を行なった。上部プレートの中央を横切るライン(bライン)上に試験片を取り付けて試験を行なった。試験片は、鉄製の材質S50Cの幅(W)10mm×奥行(D)50mm×厚さ(t)10mmの角棒状形状とし、厚さはt10mmの他にt5mm、t2mmの計3種類で検討した。結果を表1に示す。本発明による試作品M-Newの接線力は板厚10mmにおいて最も低い値を示したが、板厚2mmの場合、他のマグネットチャックのおよそ2倍の接線力を示した。
【0048】
【表1】
【符号の説明】
【0049】
10 保持装置
100 保持面
12 上部プレート
122 磁性部材
122a 磁性部材区画
124 非磁性部材
14 磁極固定プレート
16 下部プレート
18 磁極部材
18a S極面
18b N極面
20 磁石
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5
図6
図7
図8
図9