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【文献】
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(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程(1)において、前記外来DNAを、前記相同配列DNAを含むプライマーで増幅した後、Topoクローニングによって、前記ドナープラスミドを作製する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のゲノム部位特異的外来DNA挿入方法。
前記動物細胞は、セーフハーバー座位にtransport inhibitor response 1(TIR1)をコードする遺伝子を含む染色体を有する請求項1〜5のいずれか一項に記載のゲノム部位特異的外来DNA挿入方法。
前記外来DNAが、プロモーター配列、転写終結配列、機能的遺伝子配列、薬剤選択マーカー遺伝子及びそれらの組み合わせから選ばれる少なくとも一つを含む請求項1〜7のいずれか一項に記載のゲノム部位特異的外来DNA挿入方法。
さらに、前記動物細胞の前記染色体が前記TIR1をコードする遺伝子に作動可能に連結された、誘導性プロモーター、ウイルス性プロモーター、ハウスキーピング遺伝子プロモーター、又は組織特異的プロモーターを含む、請求項6〜8のいずれか一項に記載のゲノム部位特異的外来DNA挿入方法。
前記誘導性プロモーターが、化学的誘導性プロモーター、熱ショック誘導性プロモーター、電磁気的誘導性プロモーター、核レセプター誘導性プロモーター及びホルモン誘導性プロモーターからなる群より選択される、請求項10に記載のゲノム部位特異的外来DNA挿入方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<<動物細胞ゲノム部位特異的外来DNA挿入方法>>
本発明の動物細胞ゲノム部位特異的外来DNA挿入方法は、次の工程(1)及び(2)を有することを特徴とする。
(1)0.1kbp〜10kbpの外来DNAの上流及び下流に、ゲノム上の挿入を行う部位と相同な配列を有する100bp〜300bpのDNAを結合したドナープラスミドを作成する工程。 (2)得られたドナープラスミドを用いたHDRによるゲノム編集により、ゲノムの目的とする部位に0.1kbp〜10kbpの外来DNAを挿入する工程
【0011】
本発明の方法において外来DNA挿入の対象となる動物細胞は、株化された動物由来細胞やES細胞、iPS細胞であればよいが、株化されたヒト由来細胞、株化されたマウス由来細胞、株化されたニワトリ由来細胞、ヒトES細胞、マウスES細胞、ヒトiPS細胞及びマウスiPS細胞から選ばれる細胞が挙げられる。このうち、ゲノム上の挿入部位と相同な配列が100bp〜300bpという短いDNAであってもHDRによるゲノム編集が効率良く進行する点から、ヒトHCT116細胞、ヒトHT1080細胞、ヒトNALM6細胞、ヒトES細胞、ヒトiPS細胞、マウスES細胞、マウスiPS細胞及びニワトリDT40細胞から選ばれる細胞がより好ましく、HCT116細胞、ヒトES細胞、ヒトiPS細胞、マウスES細胞及びマウスiPS細胞から選ばれる細胞が特に好ましい。
【0012】
ゲノム上に挿入することができる外来DNAは、タグ付加の際の付加する遺伝子自体の大きさの点、機能的発現ユニットを挿入する点、薬剤選択マーカー遺伝子を付加する点から、0.1kbp〜10kbpの長さの外来DNAであり、1kbp〜10kbpの外来DNAが好ましく、1kbp〜8kbpの外来DNAがより好ましく、1kbp〜5kbpの外来DNAがさらに好ましい。このような長さを有する外来DNAの例としては、タグ付加外来DNA、プロモーター配列、転写終結配列、機能的遺伝子配列、薬剤選択マーカー遺伝子及びそれらの組み合わせ等が挙げられる。ここでタグの中には、蛍光タグ(GFPなど)、アフィニティータグ、デグロンタグ、局在タグ等が挙げられる。また、これらのタグの下流には、種々の機能を有する外来遺伝子(機能的遺伝子)を導入することができ、例えば薬剤選択マーカー遺伝子を導入することができる。
【0013】
本発明において用いられる薬剤選択マーカー遺伝子としては、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、ヒスティディノール耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ブラストサイジン薬剤耐性遺伝子等が挙げられる。薬剤選択マーカー遺伝子を挿入することにより、該薬物を含む培地を用いて細胞を培養することで、外来DNAが導入された細胞を選択することができる。
【0014】
まず、工程(1)では、挿入しようとする0.1kbp〜10kbpの外来DNAの上流及び下流に、ゲノム上の挿入を行う部位と相同な配列を有する100bp〜300bpのDNAを結合したドナープラスミドを作成する。
【0015】
ゲノム上の挿入を行う部位と相同な配列を有する100bp〜300bpのDNAは、100bp〜300bpと短いのでPCR又はDNA合成で容易に入手することができる。すなわち、従来のHDRを利用したゲノム編集法のように0.7kbp以上もの長い相同部位のクローニングは必要ではない。オリゴDNAとしては、125bp〜300bpが好ましく、125bp〜250bpがより好ましく、150bp〜250bpがさらに好ましく、170bp〜250bpが特に好ましい。 当該DNAの配列自体は、宿主動物に関するデータベースから適宜決定することができる。DNAの配列が決定できれば、当該DNAをDNA合成で合成するか、当該DNAを増幅するための合成プライマーに相同配列を付加し、これらを用いたPCRにより増幅させて作製することができる。
【0016】
0.1kbp〜10kbpの外来DNAの上流及び下流に、前記相同性領域を有するDNAを結合させて、プラスミドにクローニングすることでドナープラスミドを作製する。用いられるプラスミドベクターとしては、対象とする動物細胞に導入可能なプラスミドベクターであればよい。そのようなプラスミドベクターとしては、例えばpBluescript、pUC57などが挙げられる。
【0017】
工程(1)のストラテジーの一例を
図1に示す。 本発明の特徴として、このようなPCRやDNA合成を利用した方法によりドナープラスミドを作成できる例を挙げることができる。
【0018】
工程(2)は、得られたドナープラスミドをゲノム編集法により、ゲノムの目的とする部位に0.1kbp〜10kbpの外来DNAを挿入する工程である。
【0019】
ゲノム編集法としては、相同組換え修復(HDR)を誘発するゲノム編集技術であればよく、例えばCRISPR−Cas9システム、TALENシステム、Znフィンガーヌクレアーゼシステムが使用できる。このうちCRISPR−Cas9システムを用いるのがより好ましい。TALENシステムは、Transcription activator-like effector nuclease(TALEN)を用いるシステムであり、TALENはカスタム化された結合ドメインと非特異的なFokIヌクレアーゼドメインとを融合させたものである。DNA結合ドメインは、キサントモナスのプロテオバクテリアが分泌し宿主植物の遺伝子転写を変えさせる蛋白であるtranscription activator-like effectors(TALE)由来の保存されたリピートからなっている。TALENシステムにより、前記プラスミドをゲノムの目的部位に挿入するには、ゲノム中の挿入部位に対するTALENを作製し、挿入部位周辺に相同性をもつドナーベクターを作製する。これらベクターを共導入することにより、目的部位が切断され、それに引き続きドナーベクターを利用したHDRにより、目的外来DNAが導入される。外来DNAに薬剤選択マーカーを持たせておくことにより、薬剤選択により外来DNA導入が起きた細胞を効率よく選択できる。
【0020】
一方、CRISPR−Cas9システムは、細菌や古細菌が有する、外部から侵入した核酸(ウイルスDNA、ウイルスRNA、プラスミドDNA)に対する一種の獲得免疫として機能する座位を利用したシステムである。CRISPR−Cas9システムにより、前記プラスミドをゲノムの目的部位に挿入するには、ゲノム中の挿入部位を切断するためのCRISPR−Cas9ベクター作製を行う。そのためには、目的部位にCAS9を誘導するガイドRNAをコードする発現ベクター及びCAS9発現ベクターが必要である。これらベクターをドナーベクターと共導入することにより、目的部位が切断され、それに引き続きドナーベクターを利用したHDRにより、目的外来DNAが導入される。外来DNAに薬剤選択マーカーを持たせておくことにより、薬剤選択により外来DNA導入が起きた細胞を効率よく選択できる。
【0021】
Znフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)システムは、ZnフィンガードメインとDNA切断ドメインからなる人工制限酵素を用いたゲノム編集である。一つのZnフィンガードメインは3塩基を認識するが、3〜5つのZnフィンガードメインを連結させることで、特定の9〜15塩基配列を認識するDNA結合タンパク質を設計できる。このDNA結合タンパク質に、FokIヌクレアーゼドメインを融合させることで、目的部位を切断する人工ヌクレアーゼZFNを設計する。ZFNシステムにより、前記プラスミドをゲノムの目的部位に挿入するには、ゲノム中の挿入部位に対するZFNを作製し、挿入部位周辺に相同性をもつドナーベクターを作製する。これらベクターを共導入することにより、目的部位が切断され、それに引き続きドナーベクターを利用したHDRにより、目的外来DNAが導入される。外来DNAに薬剤選択マーカーを持たせておくことにより、薬剤選択により外来DNA導入が起きた細胞を効率よく選択できる。
【0022】
本発明の方法によれば、PCRやDNA合成技術といった簡便な手段により作製したドナープラスミドを用いて、0.1kbp〜10kbpの外来DNAを効率良く動物細胞のゲノム上に部位特異的に挿入することができる。また、二つの選択マーカーを同時に利用すれば、二つのアリル両方に一度に挿入できる。さらに、タグは、C末端だけでなく、N末端にも付加できる。また、ゲノム特定部位特異的な外来DNAの安定導入、内在性遺伝子コード領域に薬剤選択マーカー挿入を行うことによるノックアウト細胞の作製ができる。
【0023】
<<動物細胞ゲノム部位特異的外来DNA挿入方法を用いて得られる細胞>>
本発明の動物細胞ゲノム部位特異的外来DNA挿入方法により、以下に示すような細胞を作製することができる。
【0024】
また、以下に示す細胞は、動物細胞であればよく、動物細胞としては、上述の<<動物細胞ゲノム部位特異的外来DNA挿入方法>>において例示されたものと同様のもの等が挙げられる。
【0025】
<第1実施形態>
一実施形態において、本発明は、セーフハーバー座位にtransport inhibitor response 1(TIR1)をコードする遺伝子を含む染色体を有する細胞を提供する。
【0026】
本明細書において、「セーフハーバー座位」とは、恒常的且つ安定的に発現が行われている遺伝子領域であり、かつ当該領域に本来コードされている遺伝子が欠損又は改変された場合であっても、生命の維持が可能な領域を意味する。CRISPRシステムを用いて、外来DNA(本実施形態においては、TIR1をコードする遺伝子)をセーフハーバー座位に挿入する場合には、近傍にPAM配列を有することが好ましい。セーフハーバー座位としては、例えば、GTP−binding protein 10遺伝子座、Rosa26遺伝子座、beta−Actin遺伝子座、AAVS1(the AAV integration site 1)遺伝子座等が挙げられる。中でも、外来DNA(本実施形態においては、TIR1をコードする遺伝子)をAAVS1遺伝子座に挿入することが好ましい。
【0027】
本明細書において、「TIR1」とは、ユビキチン/プロテアソーム系のタン
パク質分解において、E3ユビキチン化酵素複合体(SCF複合体)を形成するサブユニットの一つであるF−boxタンパク質であり、植物特有のタンパク質である。TIR1は、成長ホルモンであるオーキシンの受容体となっており、オーキシンを受容することによって、オーキシン情報伝達系の抑制因子Aux/IAAファミリータンパク質を認識して、前記タンパク質を分解することが知られている。
TIR1をコードする遺伝子としては、植物由来のTIR1をコードする遺伝子であれば、その種類は限定されない。また、由来となる植物の種類も限定されず、例えば、シロイヌナズナ、イネ、ヒャクニチソウ、マツ、シダ、ヒメツリガネゴケ等が挙げられる。TIR1をコードする遺伝子の具体例としては、例えば、TIR1遺伝子、AFB1遺伝子、AFB2遺伝子、AFB3遺伝子、FBX14遺伝子、AFB5遺伝子等が挙げられる。
本実施形態の細胞は、いずれか一種類のTIR1をコードする遺伝子を有していてもよいし、二種類以上を有していてもよい。例えば、シロイヌナズナ由来のTIR1をコードする遺伝子の配列は、TAIRウェブサイト(http://www.arabidopsis.org/)に登録されており、各遺伝子のアクセッションナンバーは、下記表1の通りである。
【0029】
TIR1をコードする遺伝子は、例えば、植物から抽出した天然のDNAでもよいし、遺伝子工学によって合成したDNAであってもよい。また、TIR1をコードする遺伝子は、例えば、エキソンとイントロンを含むDNAでもよいし、エキソンからなるcDNAであってもよい。TIR1をコードする遺伝子は、例えば、ゲノムDNAにおける全長配列またはcDNAにおける全長配列であってもよい。また、TIR1をコードする遺伝子は、発現したタンパク質が、TIR1として機能する範囲において、ゲノムDNAにおける部分配列またはcDNAにおける部分配列であってもよい。
本明細書において、「TIR1として機能する」とは、例えば、オーキシン類の存在下で、Aux/IAAファミリータンパク質を認識することを意味する。TIR1がAux/IAAファミリータンパク質を認識できれば、Aux/IAAファミリータンパク質で標識化された目的タンパク質を分解できるからである。
【0030】
[プロモーター]
本実施形態の細胞は、TIR1をコードする遺伝子の転写を制御するプロモーター配列が作動可能に連結されていることが好ましい。これによって、より確実にTIR1を発現できる。
本明細書において、「作動可能に連結」とは、遺伝子発現制御配列(例えば、プロモーター又は一連の転写因子結合部位)と発現させたい遺伝子(本実施形態においては、TIR1をコードする遺伝子)との間の機能的連結を意味する。ここで、「発現制御配列」とは、その発現させたい遺伝子(本実施形態においては、TIR1をコードする遺伝子)の転写を指向するものを意味する。
【0031】
前記プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、細胞の種類等に応じて適宜決定できる。プロモーターの具体例としては、例えば、誘導性プロモーター、ウイルス性プロモーター、ハウスキーピング遺伝子プロモーター、組織特異的プロモーター等が挙げられる。中でも、本実施形態の細胞において、TIR1をコードする遺伝子に作動可能に連結されたプロモーターとしては、誘導性プロモーターであることが好ましい。
【0032】
(誘導性プロモーター)
誘導性プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、化学的誘導性プロモーター、熱ショック誘導性プロモーター、電磁気的誘導性プロモーター、核レセプター誘導性プロモーター、ホルモン誘導性プロモーター等が挙げられる。中でも、本実施形態の細胞において、TIR1をコードする遺伝子に作動可能に連結された誘導性プロモーターとしては、化学的誘導性プロモーターであることが好ましい。
【0033】
化学的誘導性プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、サリチル酸誘導性プロモーター(国際公開第95/19433号、参照。)、テトラサイクリン誘導性プロモーター(Gatzら(1992)Plant J.2,397−404、参照。)、エタノール誘導性プロモーター、亜鉛誘導性メタロチオネインプロモーター等が挙げられる。中でも、本実施形態の細胞において、TIR1をコードする遺伝子に作動可能に連結された化学的誘導性プロモーターとしては、テトラサイクリン誘導性プロモーターであることが好ましい。
【0034】
熱ショック誘導性プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、熱誘導性プロモーター(米国特許出願第05187287号明細書、参照。)、低温誘導性プロモーター(米国特許出願第05847102号明細書、参照。)等が挙げられる。
【0035】
電磁気的誘導性プロモーターとしては、初期増殖領域−1(EGR−1)プロモーター(米国特許出願第米国特許5206152号明細書、参照。)、c−Junプロモーター等が挙げられる。
【0036】
核レセプター誘導性プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、オーファン核受容体ニワトリ卵白アルブミン上流プロモーター等が挙げられる。
【0037】
ホルモン誘導性プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、グルココルチコイド誘導性プロモーター(Lu及びFederoff,Hum Gene Ther 6,419−28,1995.参照)、MMTVプロモーター、成長ホルモンプロモーター等が挙げられる。
【0038】
(ウイルス性プロモーター)
ウイルス性プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(CMV極初期プロモーター(例えば、米国特許第5168062号明細書、参照。)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来のプロモーター(例えば、HIV長末端リピート等)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター(例えば、RSV長末端リピート等) 、マウス乳腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、HSVプロモーター(Lap2プロモーター又はヘルペスチミジンキナーゼプロモーターなど(Wagner e t al., Proc. Natl. Acad. Sci., 78, 144−145,1981.参照) 、SV40又はエプスタイン バール ウイルス由来のプロモーター、アデノ随伴ウイルスプロモーター(例えば、p5プロモーター等)等が挙げられる。
【0039】
(ハウスキーピング遺伝子プロモーター)
ハウスキーピング遺伝子プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、GAPDH(glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase)遺伝子プロモーター、β-アクチン遺伝子プロモーター、β2−マイクログロブリン遺伝子プロモーター、HPRT 1(hypoxanthine phosphoribosyltransferase 1)遺伝子プロモーター等が挙げられる。
【0040】
(組織特異的プロモーター)
組織特異的プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、黒色腫細胞又はメラニン細胞の場合は、チロシナーゼプロモーター又はTRP2プロモーター;乳房細胞又は乳癌の場合は、MMTVプロモーター又はWAPプロモーター;腸細胞又は腸癌の場合は、ビリンプロモーター又はFABPプロモーター;膵細胞の場合は、PDXプロモーター;膵ベータ細胞の場合は、RIPプロモーター;ケラチノサイトの場合は、ケラチンプロモーター;前立腺上皮の場合は、プロバシンプロモーター;中枢神経系(CNS)の細胞又は中枢神経系の癌の場合は、ネスチンプロモーター又はGFAPプロモーター;ニューロンの場合は、チロシンヒドロキシラーゼ、S100プロモーター又は神経フィラメントプロモーター;Edlundら、Science, 230:912-916(1985)に記載される、膵臓特異的プロモーター;肺癌の場合は、クラーラ細胞分泌タンパク質プロモーター;心細胞の場合は、αミオシンプロモーター等が挙げられる。
【0041】
本実施形態において、TIR1をコードする遺伝子は、該TIR1をコードする遺伝子の下流(3’側)に、mRNAの3’末端のポリアデニル化に必要なポリアデニル化シグナルが作動可能に連結されていてもよい。ポリアデニル化シグナルとしては、上記のウイルス由来、各種ヒト又は非ヒト動物由来の各遺伝子に含まれるポリアデニル化シグナル、例えば、SV40の後期遺伝子又は初期遺伝子、ウサギβグロビン遺伝子、ウシ成長ホルモン遺伝子、ヒトA3アデノシン受容体遺伝子等のポリアデニル化シグナル等を挙げることができる。その他TIR1をコードする遺伝子をさらに高発現させるために、各遺伝子のスプライシングシグナル、エンハンサー領域、イントロンの一部をプロモーター領域の5’上流、プロモーター領域と翻訳領域間或いは翻訳領域の3’下流に連結してもよい。
【0042】
本実施形態において、TIR1をコードする遺伝子は、該TIR1をコードする遺伝子の上流(5’側)又は下流(3’側)に、1つ又は複数の核局在化配列(NLS)が作動可能に連結されていてもよい。
【0043】
NLSとしては、例えば、アミノ酸配列PKKKRKV(配列番号1)を有する、SV40ウイルスラージT抗原のNLS;ヌクレオプラスミン由来のNLS(例えば、配列KRPAATKKAGQAKKKK(配列番号2)を有するヌクレオプラスミンの二分NLS);アミノ酸配列PAAKRVKLD(配列番号3)又はRQRRNELKRSP(配列番号4)を有するc−myc NLS;配列NQSSNFGPMKGGNFGGRSSGPYGGGGQYFAKPRNQGGY(配列番号5)を有するhRNPA1 M9 NLS;インポーチン−アルファ由来のIBBドメインの配列RMRIZFKNKGKDTAELRRRRVEVSVELRKAKKDEQILKRRNV(配列番号6);筋腫Tタンパク質の配列VSRKRPRP(配列番号7)及びPPKKARED(配列番号8);ヒトp53の配列PQPKKKPL(配列番号9);マウスc−abl IVの配列SALIKKKKKMAP(配列番号10);インフルエンザウイルスNS1の配列DRLRR(配列番号11)及びPKQKKR(配列番号12);肝炎ウイルスデルタ抗原の配列RKLKKKIKKL(配列番号13);マウスMx1タンパク質の配列REKKKFLKRR(配列番号14);ヒトポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼの配列KRKGDEVDGVDEVAKKKSKK(配列番号15);ステロイドホルモンレセプター(ヒト)グルココルチコイドの配列RKCLQAGMNLEARKTKK(配列番号16)等が挙げられ、これらに限定されない。
【0044】
本実施形態において、TIR1をコードする遺伝子は、該TIR1をコードする遺伝子の上流(5’側)又は下流(3’側)に、1つ又は複数の蛍光タンパク質等のマーカー遺伝子が作動可能に連結されていてもよい。蛍光タンパク質としては、例えば、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein:GFP)、黄色蛍光タンパク質(Yellow Fluorescent Protein:YFP)、青色蛍光タンパク質(Blue Fluorescent Protein:BFP)、シアン蛍光蛋白質(Cyan Fluorescent Protein)、赤色蛍光蛋白質(Red FluorescentProtein)等が挙げられる。
【0045】
また、本実施形態の細胞に、目的タンパク質をコードする第一の遺伝子と、前記第一の遺伝子の下流に連結されたMini−auxin−inducible degron(mAID)をコードする第二の遺伝子と、前記第二の遺伝子の下流に連結された薬剤選択マーカー遺伝子とを含むベクターを導入することにより、目的タンパク質の分解評価系として用いることができる。
【0046】
mAIDの詳細については、後述の<第3実施形態>において、詳細に説明する。また、前記第一の遺伝子、前記第二遺伝子及び前記薬剤選択マーカー遺伝子を含むベクターとしては、発現ベクターであることが好ましい。発現ベクターとしては特に制限されず、例えば、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13等の大腸菌由来のプラスミド;pUB110、pTP5、pC194等の枯草菌由来のプラスミド;pSH19、pSH15等の酵母由来プラスミド;λファージ等のバクテリオファージ;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、レトロウイルス、肝炎ウイルス等のウイルス;及びこれらを改変したベクター等を用いることができる。
【0047】
前記ベクターは、前記第一の遺伝子、前記第二遺伝子及び前記薬剤選択マーカー遺伝子の5’末端又は3’末端に、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、NLS、蛍光タンパク質のマーカー遺伝子等が作動可能に連結されていてもよい。
【0048】
<第2実施形態>
一実施形態において、本発明は、外来DNAの上流及び下流に連結されており、染色体上の挿入を行う部位と相同な配列を有する100〜300bpのDNAを利用して、前記外来DNAの挿入が行われた染色体を有する、細胞を提供する。
【0049】
本実施形態において、「外来DNA」としては、特別な限定はなく、上述の<<動物細胞ゲノム部位特異的外来DNA挿入方法>>において例示されたものと同様のもの等が挙げられる。
【0050】
また、本実施形態において、ゲノム上の挿入を行う部位と相同な配列を有するDNAの長さ(鎖長)としては、100bp〜300bpであり、125bp〜300bpが好ましく、125bp〜250bpがより好ましく、150bp〜250bpがさらに好ましく、170bp〜250bpが特に好ましい。
【0051】
本実施形態の細胞において、外来DNAが挿入されている染色体としては、特別な限定はなく、例えば、上述の「セーフハーバー座位」であることが好ましい。「セーフハーバー座位」に挿入されることにより、外来DNAがコードするタンパク質を安定的且つ恒常的に発現することができる。
【0052】
さらに、本実施形態の細胞において、前記染色体は、前記外来DNAの上流又は下流であって、前記100〜300bpのDNAに挟まれた領域に連結された薬剤選択マーカー遺伝子を含んでいてもよい。薬剤選択マーカー遺伝子としては、上述の<<動物細胞ゲノム部位特異的外来DNA挿入方法>>において例示されたものと同様のもの等が挙げられる。
【0053】
<第3実施形態>
一実施形態において、本発明は、目的タンパク質をコードする第一の遺伝子と、前記第一の遺伝子の上流又は下流に連結されたMini−auxin−inducible degron(mAID)をコードする第二の遺伝子と、を含む第一の染色体と、セーフハーバー座位にTIR1をコードする遺伝子を含む第二の染色体と、を有する細胞を提供する。
【0054】
本実施形態の細胞において、「目的タンパク質」は、本実施形態の細胞を用いたタンパク質分解評価系において、分解を誘導したいタンパク質であれば、特別な限定はない。また、目的タンパク質は、挿入された外来遺伝子がコードするタンパク質であってもよく、細胞に内在するタンパク質であってもよい。
【0055】
本明細書において、「mAID」とは、Aux/IAAファミリータンパク質の部分配列からなるタンパク質であって、Aux/IAAファミリータンパク質のドメインII領域のN末端側及びC末端側に少なくとも2個ずつのLys残基を含む領域からなる配列、又は該配列を2個以上連結してなる配列からなるタンパク質を意味する。
本実施形態の細胞において、mAIDをコードする第二の遺伝子を有することにより、Aux/IAAファミリータンパク質全長やドメインII領域等を使用する場合に比べて、目的タンパク質の分解誘導能が向上し、かつ細胞の死亡が抑制され、安定した目的タンパク質分解誘導性が得られる。
【0056】
一般的に、「Aux/IAAファミリータンパク質」とは、全長25KDa程度のタンパク質であり、N末端側からドメインI、ドメインII、ドメインIII及びドメインIV等を有するタンパク質である。このうち、ドメインIIだけでも目的タンパク質の分解誘導能の向上はみられず、N末端からドメインIIまでの配列でも目的タンパク質の分解誘導能の向上はみられない。
これに対し、ドメインIIのN末端側とC末端側に少なくとも2個ずつのLys残基を含む領域であって、ドメインIを含まず、ドメインIIIは一部含んでいてもよい領域からなる配列からなるタンパク質を有することにより、目的タンパク質の分解誘導能が顕著に向上する。また、当該配列を2個以上連結した配列を使用すると、目的タンパク質の分解誘導能がさらに向上する。
【0057】
Aux/IAAファミリータンパク質をコードする遺伝子としては、植物由来のAux/IAAファミリー遺伝子であれば、その種類について特別な限定はない。前記植物の種類について特別な限定はなく、シロイヌナズナIAA17遺伝子が好ましい。Aux/IAAファミリータンパク質をコードする遺伝子の具体例としては、例えば、IAA1遺伝子、IAA2遺伝子、IAA3遺伝子、IAA4遺伝子、IAA5遺伝子、IAA6遺伝子、IAA7遺伝子、IAA8遺伝子、IAA9遺伝子、IAA10遺伝子、IAA11遺伝子、IAA12遺伝子、IAA13遺伝子、IAA14遺伝子、IAA15遺伝子、IAA16遺伝子、IAA17遺伝子、IAA18遺伝子、IAA19遺伝子、IAA20遺伝子、IAA26遺伝子、IAA27遺伝子、IAA28遺伝子、IAA29遺伝子、IAA30遺伝子、IAA31遺伝子、IAA32遺伝子、IAA33遺伝子及びIAA34遺伝子等が挙げられる。
本実施形態の細胞は、いずれか一種の前記Aux/IAAファミリータンパク質をコードする遺伝子の部分配列を有していてもよいし、二種類以上を有していてもよい。例えば、シロイヌナズナ由来のAux/IAAファミリー遺伝子の配列は、TAIR(the Arabidopsis Information Resource)に登録されており、各遺伝子のアクセッションナンバーは、次のとおりである。
IAA1遺伝子(AT4G14560)、IAA2遺伝子(AT3G23030)、IAA3遺伝子(AT1G04240)、IAA4遺伝子(AT5G43700)、IAA5遺伝子(AT1G15580)、IAA6遺伝子(AT1G52830)、IAA7遺伝子(AT3G23050)、IAA8遺伝子(AT2G22670)、IAA9遺伝子(AT5G65670)、IAA10遺伝子(AT1G04100)、IAA11遺伝子(AT4G28640)、IAA12遺伝子(AT1G04550)、IAA13遺伝子(AT2G33310)、IAA14遺伝子(AT4G14550)、IAA15遺伝子(AT1G80390)、IAA16遺伝子(AT3G04730)、IAA17遺伝子(AT1G04250)、IAA18遺伝子(AT1G51950)、IAA19遺伝子(AT3G15540)、IAA20遺伝子(AT2G46990)、IAA26遺伝子(AT3G16500)、IAA27遺伝子(AT4G29080)、IAA28遺伝子(AT5G25890)、IAA29遺伝子(AT4G32280)、IAA30遺伝子(AT3G62100)、IAA31遺伝子(AT3G17600)、IAA32遺伝子(AT2G01200)、IAA33遺伝子(AT5G57420)及びIAA34遺伝子(AT1G15050)。
【0058】
本実施形態の細胞において、mAIDを構成するアミノ酸数としては、32〜80アミノ酸残基が好ましく、50〜80アミノ酸残基がより好ましく、50〜75アミノ酸残基がさらに好ましく、50〜70アミノ酸残基がさらに好ましい。
【0059】
また、mAIDを構成するアミノ酸配列としては、Aux/IAAファミリータンパク質のドメインII領域のN末端側及びC末端側に2〜5個ずつ、より好ましくは2〜4個ずつのLys残基を含む32〜80アミノ酸残基からなる配列であることが好ましい。
【0060】
また、本実施形態の細胞において、前記第一の染色体は、前記第一の遺伝子及び前記第二の遺伝子の上流及び下流に染色体上の挿入を行う部位と相同な配列を有する100〜300bpのDNAを含んでいてもよい。ゲノム上の挿入を行う部位と相同な配列を有するDNAの長さ(鎖長)としては、100bp〜300bpであり、125bp〜300bpが好ましく、125bp〜250bpがより好ましく、150bp〜250bpがさらに好ましく、170bp〜250bpが特に好ましい。
【0061】
本実施形態の細胞において、前記第一の染色体は、第一の遺伝子及び前記第二の遺伝子の上流又は下流であって、前記100〜300bpのDNAに挟まれた領域に連結された薬剤選択マーカー遺伝子を含んでいてもよい。薬剤選択マーカー遺伝子としては、上述の<<動物細胞ゲノム部位特異的外来DNA挿入方法>>において例示されたものと同様のもの等が挙げられる。
【0062】
また、本実施形態の細胞において、TIR1をコードする遺伝子としては、上述の<第1実施形態>において例示されたものと同様のもの等が挙げられる。
【0063】
本実施形態の細胞は、TIR1をコードする遺伝子の転写を制御するプロモーター配列が作動可能に連結されていることが好ましい。これによって、より確実にTIR1を発現できる。
【0064】
前記プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、細胞の種類等に応じて適宜決定できる。プロモーターの具体例としては、例えば、誘導性プロモーター、ウイルス性プロモーター、ハウスキーピング遺伝子プロモーター、組織特異的プロモーター等が挙げられる。中でも、本実施形態の細胞において、TIR1をコードする遺伝子に作動可能に連結されたプロモーターとしては、誘導性プロモーターであることが好ましい。
【0065】
誘導性プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、化学的誘導性プロモーター、熱ショック誘導性プロモーター、電磁気的誘導性プロモーター、核レセプター誘導性プロモーター、ホルモン誘導性プロモーター等が挙げられる。中でも、本実施形態の細胞において、TIR1をコードする遺伝子に作動可能に連結された誘導性プロモーターとしては、化学的誘導性プロモーターであることが好ましい。
【0066】
化学的誘導性プロモーターとしては、特別な限定はなく、上述の<第1実施形態>において例示されたものと同様のもの等が挙げられる。中でも、本実施形態の細胞において、TIR1をコードする遺伝子に作動可能に連結された化学的誘導性プロモーターとしては、テトラサイクリン誘導性プロモーターであることが好ましい。
【0067】
また、本実施形態の細胞において、熱ショック誘導性プロモーター、電磁気的誘導性プロモーター、核レセプター誘導性プロモーター、ホルモン誘導性プロモーター、イルス性プロモーター、ハウスキーピング遺伝子プロモーター、及び組織特異的プロモーターとしては、上述の<第1実施形態>において例示されたものと同様のもの等が挙げられる。
【0068】
本実施形態の細胞を用いることにより、目的のタンパク質を容易に分解することができる。本実施形態の細胞を用いて、目的のタンパク質を分解する方法としては、まず、本実施形態のオーキシン類を作用させる。オーキシン類を作用後、15〜30分でほぼ完全に目的のタンパク質は分解される。
【0069】
オーキシン類の添加量は、制限されず、例えば、オーキシン類の種類に応じて適宜決定できる。具体例としては、1μM〜1mMであり、好ましくは20μM〜500μM培地に添加する。
【0070】
オーキシンとしては、例えば、1−ナフタレン酢酸(NAA)、インドール−3−酢酸等が挙げられる。また、この他にも、前記NAA等と同様の生理活性を有する化合物群が挙げられ、例えば、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、4−クロロフェノキシ酢酸、(2,4,5−トリクロロフェノキシ)酢酸、1−ナフタレンアセトアミド、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、4−パラクロロ酢酸等がある。例えば、代謝によってオーキシンの生理活性を有することとなる前躯体も使用できる。例えば、宿主細胞におけるエステラーゼやβ−酸化酵素によりオーキシン活性を有する物質に変換される物質が好ましい。具体例としては、例えば、インドール−3−酢酸メチルエステルやインドール−3−酪酸等が挙げられる。
【0071】
オーキシン類の添加方法としては、例えば、本実施形態の細胞を含有する培地に対して行えばよい。
【0072】
このように、オーキシン類の添加により目的タンパク質の分解が速やかに誘導できるので、オーキシン類を添加しない場合と対比することにより、目的タンパク質の影響を検討することができる。より具体的には、本実施形態の細胞にオーキシン類を添加して、発現した目的タンパク質の分解を誘導した後、前記オーキシン類を除去して、新たに発現した目的タンパク質の分解を抑制する方法、又は本実施形態の細胞にオーキシン類を添加して、発現した目的タンパク質の分解を誘導した後、オーキシン阻害物質を添加して、新たに発現した目的タンパク質の分解を抑制する方法等によって検討することができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例及び比較例等を挙げて本発明をさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0074】
[実施例1]MCM8へのGFP付加
(1)
図2のストラテジーに従って、ドナープラスミドを作製し、ゲノム上の標的部位MCM8遺伝子に外来遺伝子を挿入した。外来遺伝子としては、
図2記載のような、GFP−ネオマイシン遺伝子を用いた。
【0075】
(2)PCRの鋳型にはpEGFP−C1ベクター(クローンテック社)を用いた。GFP−ネオマイシン遺伝子を増幅させるために、以下の二つのオリゴDNAを合成した。
【0076】
5’−CATATTATTATTTGAGAGATTTATTTTAAAAGTAATATTTTGACATGTTACTTAATGGGCTAAACCTTTTGATGTTTTCTTCCAGGTTGCTGATTTTGAAAATTTTATTGGATCACTAAATGACCAGGGTTACCTCTTGAAAAAAGGCCCAAAAGTTTACCAGCTTCAAACTATGatggtgagcaagggcgaggagctgt−3’(配列番号17)
【0077】
5’−TATAATACTTTTGGGACATCATTTTTCAGAGAACAGTATTTGACTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTCTGTCTGTCTGTGCGTGCACGCATATCTTCACTGAGATGGCTTTAATCTGCAATAAACCCAGGAGGCCCTAACTTGGTGAAGTCCTaacgacccaacaccgtgcgttttat−3’(配列番号18)
【0078】
上記配列番号1及び配列番号2において、大文字部分は導入先のMCM8ゲノムとの相同性領域(175b)、小文字部分はpEGFPとの相同性部分である(25b)。
【0079】
(3)PCR
上記鋳型プラスミドおよびオリゴDNAを、PrimeSTAR DNAポリメラーゼ(タカラバイオ)を取扱説明書に準じてPCR増幅した。増幅されたDNAはおよそ3.5kbpである。
【0080】
(4)ドナープラスミドの構築
PCRで増幅したDNAをpCR BluntII−TOPOベクター(ライフテクノロジー社)に取扱説明書に準じてブラントエンドライゲーションによりクローニングした。
【0081】
(5)
図2に示すように、MCM8遺伝子のC末端コード領域を切断する。CRISPR−Cas9発現用ベクターpX330のBbsIに認識部位を与えるため下記のオリゴDNAをハイブリダイズさせて導入した。
【0082】
5’−caccGCCAGCTTCAAACTATGTAAA−3’(配列番号19)5’−aaacTTTACATAGTTTGAAGCTGGC−3’(配列番号20)
【0083】
CRISPR−Cas9のpX330プラスミド構築はNat. Protocols, Vol.8 No.11, P2281-2307(2013)の方法に従った。
【0084】
(6)CRISPR−Cas9を用いたHCT116への挿入
6ウェルプレートに増殖中のヒトHCT116細胞に、MCM8遺伝子の標的部分を切断するためのpX330を0.8μgと作製したドナーベクター1μgを混ぜ合わせ、FugeneHD(プロメガ社)を用いてトランスフェクションした。トランスフェクションに際しては取扱説明書に準じてDNAとFugeneHDを混ぜ合わせて15分放置したのち、培地に滴下した。
【0085】
(7)細胞のクローニング
トランスフェクション2日後、細胞を希釈しG418を700μg/mLを含む培地で13日間培養することで、ネオマイシン耐性になった細胞を選択するとともにコロニーを形成させた。
【0086】
(8)ゲノムPCRによる挿入の確認
各コロニーを単離後、細胞を増やしたのちにゲノムDNAを精製しPCRによるDNA挿入の確認を行った。挿入確認に用いたプライマーは
図3に示すAとB及びAとCの組み合わせを用いた。
図3に示すように、プライマーAとBの組み合わせでは、挿入が起こらなかった場合は特異的なDNA増幅は見られない(左ゲル写真WT)。一方で、期待した挿入が1アリルにでも起きると0.75kbのDNAが増幅される(左ゲル写真heterozygousおよびhomozygous)。プライマーAとCの組み合わせでは、挿入が起こらなかったアリルから場合に0.6kbのDNAが増幅され、挿入があったアリルから3.6kbのDNAが増幅される。片アリルのみに挿入されたクローンからは、0.6kbpと3.6kbp両方のDNAが増幅される(右ゲル写真heterozygous)。両アリル挿入がある場合は3.6kbpのDNAのみ増幅される(右ゲル写真homozygous)。
【0087】
(9)ウェスタンブロットによるMCM8−GFP融合タンパク質発現の確認
ゲノムPCRによりMCM8−GFP挿入が確認されたクローンから、タンパク質を抽出し、MCM8抗体およびGFP抗体を用いてウェスタンブロットを行った。GFPの付加していないMCM8は93kDaに検出される。一方で、MCM8−GFP融合タンパク質は130kDaに検出される。
図4に示すように、MCM8抗体を用いた場合、もとのHCT116細胞(WT)には93kDaのバンドが検出されるのに対し、片アリルもしくは両アリルにGFPが付加された場合140kDaのバンドが検出される。GFP抗体は140kDaの融合タンパク質しか検出しない。これらの結果から期待されたMCM8タンパク質へのGFP付加が起きたことが確認された。
【0088】
(9)用いた相同配列の長さと挿入効率との関係を表2に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
表1より、相同部位の塩基量は125bp以上の長さで、効率良く外来DNAの挿入ができることがわかる。また、MCM8遺伝子のゲノム切断用のpX330ベクター無しの場合は、外来DNAの挿入は全く起こらないことから、挿入は部位特異的ゲノムDNA切断に依存していることがわかる。
【0091】
なお、175bpのPCRに用いたプライマーを配列番号21(5’−CATATTATTATTTGAGAGATTTATTTTAAAAGTAATATTTTGACATGTTACTTAATGGGCTAAACCTTTTGATGTTTTCTTCCAGGTTGCTGATTTTGAAAATTTTATTGGATCACTAAATGACCAGGGTTACCTCTTGAAAAAAGGCCCAAAAGTTTACCAGCTTCAAACTATGatggtgagcaagggcgaggagctgt−3’)と配列番号22(5’−TATAATACTTTTGGGACATCATTTTTCAGAGAACAGTATTTGACTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTCTGTCTGTCTGTGCGTGCACGCATATCTTCACTGAGATGGCTTTAATCTGCAATAAACCCAGGAGGCCCTAACTTGGTGAAGTCCTaacgacccaacaccgtgcgttttat−3’)に、150bpのPCRに用いたプライマーを配列番号23(5’−TTAAAAGTAATATTTTGACATGTTACTTAATGGGCTAAACCTTTTGATGTTTTCTTCCAGGTTGCTGATTTTGAAAATTTTATTGGATCACTAAATGACCAGGGTTACCTCTTGAAAAAAGGCCCAAAAGTTTACCAGCTTCAAACTATGatggtgagcaagggcgaggagctgt−3’)と配列番号24(5’−TCAGAGAACAGTATTTGACTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTCTGTCTGTCTGTGCGTGCACGCATATCTTCACTGAGATGGCTTTAATCTGCAATAAACCCAGGAGGCCCTAACTTGGTGAAGTCCTaacgacccaacaccgtgcgttttat−3’)に、125bpのPCRに用いたプライマーを配列番号25(5’−CTTAATGGGCTAAACCTTTTGATGTTTTCTTCCAGGTTGCTGATTTTGAAAATTTTATTGGATCACTAAATGACCAGGGTTACCTCTTGAAAAAAGGCCCAAAAGTTTACCAGCTTCAAACTATGatggtgagcaagggcgaggagctgt−3’)と配列番号26(5’−TGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTCTGTCTGTCTGTGCGTGCACGCATATCTTCACTGAGATGGCTTTAATCTGCAATAAACCCAGGAGGCCCTAACTTGGTGAAGTCCTaacgacccaacaccgtgcgttttat−3’)に、80bpのPCRに用いたプライマーを配列番号27(5’−TTGAAAATTTTATTGGATCACTAAATGACCAGGGTTACCTCTTGAAAAAAGGCCCAAAAGTTTACCAGCTTCAAACTATGatggtgagcaagggcgagga−3’)と配列番号28(5’−GTCTGTGCGTGCACGCATATCTTCACTGAGATGGCTTTAATCTGCAATAAACCCAGGAGGCCCTAACTTGGTGAAGTCCTaacgacccaacaccgtgcgt−3’)に示す。いずれのプライマーも大文字は挿入箇所周辺ゲノムとの相同領域、小文字はPCRテンプレートとの相同領域である。
【0092】
[実施例2]ダブルノックインによるRAD21デグロン細胞の作製
(1)ドナーベクターの作製
図5に示すようにmAID(ミニAIDタグ)とClover(改変GFP)およびネオマイシンもしくはハイグロマイシン耐性遺伝子をもつプラスミドを鋳型として、RAD21遺伝子C末端コード領域と5’に180b(5’−GCTAAAACTGGAGCTGAATCTATCAGTTTGCTTGAGTTATGTCGAAATACGAACAGAAAACAAGCTGCCGCAAAGTTCTACAGCTTCTTGGTTCTTAAAAAGCAGCAAGCTATTGAGCTGACACAGGAAGAACCGTACAGTGACATCATCGCAACACCTGGACCAAGGTTCCATATTATAggatccggtgcaggcgcc−3’:配列番号29),3’に175b(5’−TCCCTCAAAGATGAAATTGACAAATTTAATGTACTGGAAAAAAATGAAGAAGGAAAAAGGCAAAGACTTTGTACAGACAAAAATCTAAGTTTTCTCAAAGGGTTCTGTGTCCCCTACACATGGGGGCAATTTGTAAGCACTAGTGAATCAAACACTAGCTATAATGCTTCTAGCTgcgcgcaattaaccctcactaaagg−3’:配列番号30)の相同領域をもつオリゴDNAをプライマーとして(大文字部分はRAD21との相同領域、小文字部分は鋳型DNAとの相同領域)、PrimeSTAR DNAポリメラーゼ(タカラバイオ)を取扱説明書に準じてPCR増幅した。増幅されたDNAはおよそ3.7kbpである。PCRで増幅したDNAをpCR BluntII−TOPOベクター(ライフテクノロジー社)に取扱説明書に準じてブラントエンドライゲーションによりクローニングすることで、ドナーベクターを作製した。
【0093】
(2)RAD21遺伝子切断CRISPR−Cas9の設計
図5に示すようにRAD21遺伝子のC末端コード領域を切断する。CRISPR−Cas9発現用ベクターpX330のBbsIに認識部位を与えるため下記のオリゴDNAをハイブリダイズさせて導入した。
【0094】
5’−caccgCCAAGGTTCCATATTATATA−3’(配列番号31)5’−aaacTATATAATATGGAACCTTGGc−3’(配列番号32)
【0095】
CRISPR−Cas9のpX330プラスミド構築はNat. Protocols, Vol.8 No.11, P2281-2307(2013)の方法に従った。
【0096】
(3)CRISPR−Cas9を用いたHCT116への挿入
今回の実験では野生型HCT116細胞とオーキシン誘導デグロン(AID)法に必要なOsTIR1が恒常的に発現する改変を施したHCT116細胞を材料とした。6ウェルプレートに増殖中の細胞を用意し、RAD21遺伝子の標的部分を切断するためのpX330を0.8μgと作製したネオマイシン及びハイグロマイシン耐性マーカーをもつドナーベクターを各0.6μg混ぜ合わせ、FugeneHD(プロメガ社)を用いてトランスフェクションした。トランスフェクションに際しては取扱説明書に準じてDNAとFugeneHDを混ぜ合わせて15分放置したのち、培地に滴下した。
【0097】
(4)細胞のクローニング
トランスフェクション2日後、細胞を希釈しG418 700μg/mLとハイグロマイシン100μg/mLを含む培地で13日間培養することで、ネオマイシンとハイグロマイシンの両方に耐性になった細胞を選択するとともにコロニーを形成させた。
【0098】
(5)ゲノムPCRによる挿入の確認
各コロニーを単離後、細胞を増やしたのちにゲノムDNAを精製しPCRによるDNA挿入の確認を行った。挿入確認に用いたプライマーは
図6に示すネオマイシン遺伝子とハイグロマイシン遺伝子を検出するそれぞれの組み合わせを用いた。
図6左のゲル写真に示すように、挿入が起こらなかった場合は特異的なDNA増幅は見られない(左ゲル写真WT)。一方で、期待した挿入が起こったネオマイシン耐性遺伝子からは0.9kbpの産物、ハイグロマイシン耐性遺伝子からは1.5kbpの産物が増幅される。多くのクローンから両方のPCR産物が検出されている(
図6左ゲル写真、各クローン)。このことは両アリルにそれぞれの耐性マーカーをもつ、タギングコンストラクトが挿入されていることを示している。
【0099】
(6)ウェスタンブロットによるRAD21−mAID−Clover融合タンパク質発現の確認
ゲノムPCRにより両アリル挿入が確認されたクローンから、タンパク質を抽出し、RAD21抗体およびmAID抗体を用いてウェスタンブロットを行った(
図6右)。また、細胞を500μMオーキシン(3−indole aceticacid)で20時間処理した細胞からも同様にタンパク質を抽出し、ウェスタンブロットに用いた。mAID−Cloverの付加していないRAD21は105kDaに検出される。一方で、RAD21−mAID−Clover融合タンパク質は145kDaに検出される。
図6右に示すように、RAD21抗体を用いた場合、もとのHCT116細胞(WT)には105kDaのバンドが検出されるのに対し、両アリルにmAID−Cloverが付加された場合145kDaのバンドが検出される。また、mAID抗体を用いた場合、mAID−Cloverが付加したRAD21タンパク質のみが検出される。さらに細胞をオーキシンで処理した場合、OsTIR1発現細胞においてRAD21−mAID−Cloverの消失が起きることから、AID法によるタンパク質分解が起きていることがわかる。
【0100】
(7)蛍光顕微鏡観察によるRAD21−mAID−Clover融合タンパク質発現の観察
図7に示すように、RAD21−mAID−Clover融合タンパク質が発現している生細胞をデコンボリューション蛍光顕微鏡で観察した。細胞をオーキシン(3−indole aceticacid)で処理する前の細胞は、OsTIR1の発現の有無に関わらず、RAD21−mAID−Cloverが細胞核内に局在しているのが観察された。500μMオーキシンで細胞を処理し、90分後に観察したところ、OsTIR1を発現する細胞においてのみ、RAD21−mAID−Cloverが消失した。この結果からも、AID法によるRAD21−mAID−Cloverの分解が起きていることがわかる。
【0101】
[実施例3]ダブルノックインによるDHC1(dynein heavy chain 1)デグロン細胞の作製
(1)ドナーベクターの作製
図8に示すようにmAID(ミニAIDタグ)とClover(改変GFP)およびネオマイシンもしくはハイグロマイシン耐性遺伝子をもつプラスミドを、BamHIを用いて制限酵素処理して、mAID(ミニAIDタグ)とClover(改変GFP)およびネオマイシンもしくはハイグロマイシン耐性遺伝子からなるコンストラクトを得た。続いて、遺伝子合成したDHC1遺伝子のホモロジーアームを遺伝子合成により作製し、pUC57のEcoRVsサイトにクローニングしたたものを作製した(GENEWIZ社)。ホモロジーアームの間にはあらかじめBamHIサイトが導入されているため、プラスミドを、BamHIにより制限酵素処理して、mAID(ミニAIDタグ)とClover(改変GFP)およびネオマイシンもしくはハイグロマイシン耐性遺伝子からなるコンストラクトを挿入し、ライゲーションさせて、ドナーベクターを作製した。得られたドナーベクターは、5’に180b(5’− -TCCAGTTTTCTTACTTTTCCCTTAAGCCACCAGTAAACCCCTCTGCTTCTGCAGGTAACCTTACCTGTCTACCTGAACTTCACCCGTGCAGACCTCATCTTCACCGTGGACTTCGAAATTGCTACAAAGGAGGATCCTCGCAGCTTCTATGAAAGGGGTGTCGCAGTCTTGTGCACAGAG−3’:配列番号33),3’に175b(5’− ACCACTCCCAACCGTCAGATTCCATTCAGCTTCCTCCAACCTCAGACCAACCACTTTCTTTTCACAAGCTCAGACCTTCCAAATATTTTAAAAATGAATAAATGTTAAATACCAACTTTCACTATTACAGAAAGGGGCAGCTAGAAAAGTTTACTCTGTGCACAAGACTGCGACA−3’:配列番号34)DHC1遺伝子に対して相同な領域を持っていた。
【0102】
(2)DHC1遺伝子切断CRISPR−Cas9の設計
図8に示すようにDHC1遺伝子のC末端コード領域を切断する。CRISPR−Cas9発現用ベクターpX330のBbsIに認識部位を与えるため下記のオリゴDNAをハイブリダイズさせて導入した。
【0103】
5’− caccgCCTCGCAGCTTCTACGAGCGGGG−3’(配列番号35)5’− aaacCCCCGCTCGTAGAAGCTGCGAGGc−3’(配列番号36)
【0104】
CRISPR−Cas9のpX330プラスミド構築はNat. Protocols, Vol.8 No.11, P2281-2307(2013)の方法に従った。
【0105】
(3)CRISPR−Cas9を用いたHCT116への挿入
今回の実験では野生型HCT116細胞とオーキシン誘導デグロン(AID)法に必要なOsTIR1が恒常的に発現する改変を施したHCT116細胞を材料とした。6ウェルプレートに増殖中の細胞を用意し、DHC1遺伝子の標的部分を切断するためのpX330を0.8μgと作製したネオマイシン及びハイグロマイシン耐性マーカーをもつドナーベクターを各0.6μg混ぜ合わせ、FugeneHD(プロメガ社)を用いてトランスフェクションした。トランスフェクションに際しては取扱説明書に準じてDNAとFugeneHDを混ぜ合わせて15分放置したのち、培地に滴下した。
【0106】
(4)細胞のクローニング
トランスフェクション2日後、細胞を希釈しG418 700μg/mLとハイグロマイシン100μg/mLを含む培地で13日間培養することで、ネオマイシンとハイグロマイシンの両方に耐性になった細胞を選択するとともにコロニーを形成させた。
【0107】
(5)ゲノムPCRによる挿入の確認
各コロニーを単離後、細胞を増やしたのちにゲノムDNAを精製しPCRによるDNA挿入の確認を行った。挿入確認に用いたプライマーは
図9に示すネオマイシン遺伝子とハイグロマイシン遺伝子を検出するそれぞれの組み合わせを用いた。
図9のゲル写真に示すように、挿入が起こらなかった場合は特異的なDNA増幅は見られない(左ゲル写真WT)。一方で、期待した挿入が起こったネオマイシン耐性遺伝子からは0.9kbpの産物、ハイグロマイシン耐性遺伝子からは1.5kbpの産物が増幅される。多くのクローンから両方のPCR産物が検出されている(
図9左ゲル写真、各クローン)。このことは両アリルにそれぞれの耐性マーカーをもつ、タギングコンストラクトが挿入されていることを示している。
【0108】
(6)ウェスタンブロットによるDHC1−mAID−Clover融合タンパク質発現の確認
ゲノムPCRにより両アリル挿入が確認されたクローンから、タンパク質を抽出し、DHC1抗体およびOsTIR抗体を用いてウェスタンブロットを行った(
図10)。また、細胞を2μg/mLのドキシサイクリン及び500μMオーキシン(3−indole aceticacid)で2、4、6、8、10、24時間処理した細胞からも同様にタンパク質を抽出し、ウェスタンブロットに用いた。
図10に示すように、DHC1抗体を用いた場合、mAID−Cloverが付加したDHC1タンパク質が経時的に消失した。一方、OsTIR抗体を用いた場合、OsTIRタンパク質が経時的に増加していた。このことから、AID法によるタンパク質分解が起きていることがわかった。
【0109】
(7)ドキシサイクリン及びオーキシンの処理による細胞数の変化
DHC1−mAID−Clover融合タンパク質が発現している生細胞を用いて、未処理、2μg/mLのドキシサイクリンのみ、又は2μg/mLのドキシサイクリン及び500μMオーキシンの処理から0時間における細胞数に対して、処理から24、48、72時間後における細胞の相対値を算出した(
図11)。
図11に示すように、2μg/mLのドキシサイクリン及び500μMオーキシンで処理した細胞では、処理から48時間後以降において、細胞の増殖が抑制されていることがわかった。
【0110】
(8)テトラサイクリン処理による有糸分裂細胞の割合の測定
DHC1−mAID−Clover融合タンパク質が発現している生細胞を用いて、未処理、1μg/mLのテトラサイクリンのみ、又は1μg/mLのテトラサイクリン及び500μMオーキシンの処理から18、42時間後における有糸分裂細胞の割合を算出した(
図12)。
また、未処理、又は1μg/mLのテトラサイクリン及び500μMオーキシンの処理から18時間後におけるDHC1−mAID−Clover融合タンパク質が発現している生細胞について、チューブリン抗体による免疫染色及びSiR Hoechstによる核染色を行い、蛍光顕微鏡で観察した(
図13)。
図12及び
図13に示すように、1μg/mLのテトラサイクリン及び500μMオーキシンで処理した細胞では、染色体の構造異常が生じ、有糸分裂細胞が蓄積することが明らかとなった。
【0111】
[実施例4]ダブルノックインによるMCM2デグロンマウスES細胞の作製
(1)ドナーベクターの作製
図14に示すようにmAID(ミニAIDタグ)、Clover(改変GFP)およびネオマイシン耐性遺伝子をもつプラスミドを、BamHIを用いて制限酵素処理して、mAID(ミニAIDタグ)、Clover(改変GFP)およびネオマイシン耐性遺伝子からなるコンストラクトを得た。続いて、遺伝子合成したMCM2遺伝子のホモロジーアームを遺伝子合成により作製し、pUC57のEcoRVsサイトにクローニングしたたものを作製した(GENEWIZ社)。ホモロジーアームの間にはあらかじめBamHIサイトが導入されているため、プラスミドをBamHIにより制限酵素処理して、mAID(ミニAIDタグ)とClover(改変GFP)およびネオマイシンもしくはハイグロマイシン耐性遺伝子からなるコンストラクトを挿入し、ライゲーションさせて、ドナーベクターを作製した。得られたドナーベクターは、5’に200b(5’− TCAGGTCTGGAGCTCTGAACCAACACAGCCCTTCCAGAGGTGAAGGCCGGCGTCTTCTCCTGCTAATGGCTCTGATGCTGTTCTTTCTCCAGGCCAGGCAGATCAATATTCACAACCTCTCTGCCTTCTACGACAGCGACCTCTTCAAATTCAACAAGTTCAGCCGTGACCTGAAACGCAAACTGATCCTACAGCAGTTC−3’:配列番号37),3’に200b(5’− ATGAGGCTCGGTCACCACGCTGAGCCTACGTCACTTCCCACTTCCACTGGGGCTTGGTGCCCTGTAGGGGTGGGAGGATGGCTTAATGCAGACCTTTACCTGTGAGCCCCTAGGCCAAGGCTGTAGCATTAAATGACTATTTATTCTTCTGCCCCCCTCTAGAGCACTCTTCTTGGCCAGACCCTCTGTCCAAGGCTCAT−3’:配列番号38)MCM2遺伝子に対して相同な領域を持っていた。
【0112】
(2)MCM2遺伝子切断CRISPR−Cas9の設計
図14に示すようにMCM2遺伝子のC末端コード領域を切断する。CRISPR−Cas9発現用ベクターpX330のBbsIに認識部位を与えるため下記のオリゴDNAをハイブリダイズさせて導入した。
【0113】
5’− caccgCGAGCCTCATTCAGACATAG−3’(配列番号39)5’− aaacCTATGTCTGAATGAGGCTCGc−3’(配列番号40)
【0114】
CRISPR−Cas9のpX330プラスミド構築はNat. Protocols, Vol.8 No.11, P2281-2307(2013)の方法に従った。
【0115】
(3)CRISPR−Cas9を用いたHCT116への挿入
今回の実験ではマウスES細胞を材料とした。6ウェルプレートに増殖中の細胞を用意し、MCM2遺伝子の標的部分を切断するためのpX330を0.8μgと作製したネオマイシン耐性マーカーをもつドナーベクターを各0.6μg混ぜ合わせ、FugeneHD(プロメガ社)を用いてトランスフェクションした。トランスフェクションに際しては取扱説明書に準じてDNAとFugeneHDを混ぜ合わせて15分放置したのち、培地に滴下した。
【0116】
(4)細胞のクローニング
トランスフェクション2日後、細胞を希釈しG418 700μg/mLとハイグロマイシン100μg/mLを含む培地で13日間培養することで、ネオマイシン耐性になった細胞を選択するとともにコロニーを形成させた。
【0117】
(5)ゲノムPCRによる挿入の確認
各コロニーを単離後、細胞を増やしたのちにゲノムDNAを精製しPCRによるDNA挿入の確認を行った。挿入確認に用いたプライマーは
図14に示すネオマイシン遺伝子を検出する組み合わせを用いた。
図14下のゲル写真に示すように、挿入が起こらなかった場合は特異的なDNA増幅は見られない(下ゲル写真1,2等)。一方で、期待した挿入が起こったネオマイシン耐性遺伝子からは1.0kbpの産物が増幅される。多くのクローンからPCR産物が検出されている(
図14下ゲル写真、各クローン)。このことは両アリルにそれぞれの耐性マーカーをもつ、タギングコンストラクトが挿入されていることが示された。
【0118】
(6)蛍光顕微鏡観察によるMCM2−mAID−Clover融合タンパク質発現の観察
図15に示すように、MCM2−mAID−Clover融合タンパク質が発現しているマウスES細胞をデコンボリューション蛍光顕微鏡で観察した。MCM2−mAID−Cloverが細胞核内に局在しているのが観察された。
以上のことから、マウスES細胞の両アリルにおいて、耐性マーカーをもつ、タギングコンストラクトが挿入されていることが示された。