特許第6714466号(P6714466)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6714466
(24)【登録日】2020年6月9日
(45)【発行日】2020年6月24日
(54)【発明の名称】銀粉の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20200615BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20200615BHJP
【FI】
   B22F9/24 E
   B22F1/00 K
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-156144(P2016-156144)
(22)【出願日】2016年8月9日
(65)【公開番号】特開2017-36504(P2017-36504A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2019年6月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-160013(P2015-160013)
(32)【優先日】2015年8月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507027162
【氏名又は名称】DOWAテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】堀井 一良
(72)【発明者】
【氏名】庭野 淳一
【審査官】 中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−505357(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第2006−0120559(KR,A)
【文献】 韓国公開特許第2006−0041028(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00−9/30
B22F 1/00−8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀イオン含有水性反応系に還元剤を添加して銀粒子を還元析出させる銀粉の製造方法において、銀イオン含有水性反応系に電圧を印加した後に還元剤を添加することを特徴とする、銀粉の製造方法。
【請求項2】
前記銀イオン含有水性反応系に電圧を印加する際に、銀を電解析出させないように電圧を印加することを特徴とする、請求項1に記載の銀粉の製造方法。
【請求項3】
前記銀イオン含有水性反応系を反応槽内で回転する攪拌翼によって撹拌することを特徴とする、請求項1または2に記載の銀粉の製造方法。
【請求項4】
前記撹拌翼によって撹拌される前記銀イオン含有水性反応系の流動方向を邪魔板によって変えることを特徴とする、請求項3に記載の銀粉の製造方法。
【請求項5】
前記撹拌翼と前記反応槽の内壁との間に電圧を印加することによって、前記銀イオン含有水性反応系に電圧を印加することを特徴とする、請求項3または4に記載の銀粉の製造方法。
【請求項6】
前記撹拌翼と前記邪魔板との間に電圧を印加することによって、前記銀イオン含有水性反応系に電圧を印加することを特徴とする、請求項4に記載の銀粉の製造方法。
【請求項7】
前記銀イオン含有水性反応系が、銀アンミン錯体水溶液であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の銀粉の製造方法。
【請求項8】
前記銀粒子の還元析出前または還元析出後あるいは還元析出中に分散剤を添加することを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の銀粉の製造方法。
【請求項9】
銀イオン含有水性反応系に還元剤を添加して銀粒子を還元析出させる銀粉の製造装置であって、銀イオン含有水性反応系を収容する反応槽と、この反応槽内に配置されて銀イオン含有水性反応系を攪拌する攪拌翼と、この撹拌翼と反応槽の内壁との間に電圧を印加する電源とを備えたことを特徴とする、銀粉の製造装置。
【請求項10】
銀イオン含有水性反応系に還元剤を添加して銀粒子を還元析出させる銀粉の製造装置であって、銀イオン含有水性反応系を収容する反応槽と、この反応槽内に配置されて銀イオン含有水性反応系を攪拌する攪拌翼と、この撹拌翼によって撹拌される銀イオン含有水性反応系の流動方向を変える邪魔板と、この邪魔板と撹拌翼との間または反応槽の内壁と撹拌翼との間に電圧を印加する電源とを備えたことを特徴とする、銀粉の製造装置。
【請求項11】
前記撹拌翼が前記反応槽内の略中央部で回転して前記銀イオン含有水性反応系を攪拌する攪拌翼であり、前記邪魔板が前記反応槽の内壁から突出し且つ内壁に沿って延びる邪魔板であることを特徴とする、請求項9または10に記載の銀粉の製造装置。
【請求項12】
前記反応槽が底面部と側面部を有する略円筒形の反応槽であり、前記撹拌翼が前記反応槽の略鉛直方向に延びる中心軸線の回りで回転して前記銀イオン含有水性反応系を前記反応槽の側面部の内壁に沿って略円周方向に移動させる撹拌翼であり、前記邪魔板が前記反応槽の側面部の内壁から中心軸線に向かって突出し且つ所定の間隔で互いに離間して前記反応槽の側面部の内壁に沿って略鉛直方向に延びて前記銀イオン含有水性反応系の移動方向を変える複数の邪魔板であることを特徴とする、請求項9乃至11のいずれかに記載の銀粉の製造装置。
【請求項13】
前記電源が、前記銀イオン含有水性反応系に還元剤を添加する前に前記電圧を印加することを特徴とする、請求項9乃至12のいずれかに記載の銀粉の製造装置。
【請求項14】
平均粒径D50が3μm以下、BET比表面積が0.3m/g以上であり、強熱減量値が0.5%以下であることを特徴とする、銀粉。
【請求項15】
平均粒径D50を直径とした真球のBET比表面積(理論BET比表面積)に対するBET比表面積の比(BET/理論BET)が0.2以上であることを特徴とする、請求項14に記載の銀粉。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀粉の製造方法および製造装置に関し、特に、積層コンデンサの内部電極や回路基板の導体パターン、ディスプレイパネルや太陽電池の基板の電極や回路などの電子部品に使用する導電性ペースト用の銀粉の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、積層コンデンサの内部電極、回路基板の導体パターン、太陽電池やディスプレイパネル用基板の電極や回路などの電子部品に使用する導電性ペーストとして、銀粉をガラスフリットとともに有機ビヒクル中に加えて混練することによって製造される導電性ペーストが使用されている。このような導電性ペースト用の銀粉は、電子部品の小型化、導体パターンの高密度化、ファインライン化などに対応するため、粒径が適度に小さく、粒度が揃っていることが要求されている。
【0003】
このような導電性ペースト用の銀粉を製造する方法としては、銀塩含有水溶液にアルカリまたは錯化剤を加えて、酸化銀含有スラリーまたは銀錯体含有水溶液を生成した後、還元剤を加えることにより銀粉を還元析出させ、その後に乾燥する方法が知られている。このような方法において、凝集が少なく分散性に優れた銀粉を生成するために、銀塩含有水溶液にアルカリまたは錯化剤を加えて、酸化銀含有スラリーまたは銀錯塩含有水溶液を生成し、還元剤を加えて銀粒子を還元析出させた後、銀含有スラリー溶液またはその濾過中に分散剤として脂肪酸、脂肪酸塩、界面活性剤、有機金属化合物、キレート剤、高分子分散剤のいずれか1種以上を加えることにより、表面を分散剤で被覆した銀粉を生成する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
近年、導体パターンのファインライン化や電極の薄膜化がさらに進んでおり、さらに粒径が小さい銀粉が望まれている。
【0005】
このような粒径が小さい銀粉を得るために、銀錯塩水溶液を電解液で電解して、微粒銀粉を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−88206号公報(段落番号0002−0004)
【特許文献2】特開2005−220380号公報(段落番号0013)
【特許文献3】特開2007−204795号公報(段落番号0008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献3の方法では、電析した銀粒子をスクレーバにより極板から掻き落として得られた銀粉を乾燥する必要があり、生産性が低いという問題がある。また、特許文献3の方法で得られた銀粉よりも、さらに平均粒径が小さい銀粉が望まれている。
【0008】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、銀イオン含有水性反応系に還元剤を添加して銀粒子を還元析出させる銀粉の製造方法および製造装置において、粒径が小さい銀粉を容易に製造することができる、銀粉の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、銀イオン含有水性反応系に還元剤を添加して銀粒子を還元析出させる銀粉の製造方法において、銀イオン含有水性反応系に電圧を印加した後に還元剤を添加することにより、粒径が小さい銀粉を容易に製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明による銀粉の製造方法は、銀イオン含有水性反応系に還元剤を添加して銀粒子を還元析出させる銀粉の製造方法において、銀イオン含有水性反応系に電圧を印加した後に還元剤を添加することを特徴とする。
【0011】
この銀粉の製造方法において、銀イオン含有水性反応系に電圧を印加する際に、銀を電解析出させないように電圧を印加するのが好ましい。また、銀イオン含有水性反応系を反応槽内で回転する攪拌翼によって撹拌するのが好ましく、この撹拌翼によって撹拌される銀イオン含有水性反応系の流動方向を邪魔板によって変えるのが好ましい。また、撹拌翼と反応槽の内壁との間または撹拌翼と邪魔板との間に電圧を印加することによって、銀イオン含有水性反応系に電圧を印加するのが好ましい。また、銀イオン含有水性反応系が、銀アンミン錯体水溶液であるのが好ましい。さらに、銀粒子の還元析出前または還元析出後あるいは還元析出中に分散剤を添加するのが好ましい。
【0012】
また、本発明による銀粉の製造装置は、銀イオン含有水性反応系に還元剤を添加して銀粒子を還元析出させる銀粉の製造装置であって、銀イオン含有水性反応系を収容する反応槽と、この反応槽内に配置されて銀イオン含有水性反応系を攪拌する攪拌翼と、この撹拌翼と反応槽の内壁との間に電圧を印加する電源とを備えたことを特徴とする。
【0013】
あるいは、本発明による銀粉の製造装置は、銀イオン含有水性反応系に還元剤を添加して銀粒子を還元析出させる銀粉の製造装置であって、銀イオン含有水性反応系を収容する反応槽と、この反応槽内に配置されて銀イオン含有水性反応系を攪拌する攪拌翼と、この撹拌翼によって撹拌される銀イオン含有水性反応系の流動方向を変える邪魔板と、この邪魔板と撹拌翼との間または反応槽の内壁と撹拌翼との間に電圧を印加する電源とを備えたことを特徴とする。
【0014】
これらの銀粉の製造装置において、撹拌翼が反応槽内の略中央部で回転して銀イオン含有水性反応系を攪拌する攪拌翼であり、邪魔板が反応槽の内壁から突出し且つ内壁に沿って延びる邪魔板であるのが好ましい。また、反応槽が底面部と側面部を有する略円筒形の反応槽であり、撹拌翼が反応槽の略鉛直方向に延びる中心軸線の回りで回転して銀イオン含有水性反応系を反応槽の側面部の内壁に沿って略円周方向に移動させる撹拌翼であり、邪魔板が反応槽の側面部の内壁から中心軸線に向かって突出し且つ所定の間隔で互いに離間して反応槽の側面部の内壁に沿って略鉛直方向に延びて銀イオン含有水性反応系の移動方向を変える複数の邪魔板であるのが好ましい。また、電源によって、銀イオン含有水性反応系に還元剤を添加する前に電圧を印加するのが好ましい。
【0015】
さらに、本発明による銀粉は、平均粒径D50が3μm以下、BET比表面積が0.3m/g以上であり、強熱減量値が0.5%以下であることを特徴とする。この銀粉において、平均粒径D50を直径とした真球のBET比表面積(理論BET比表面積)に対するBET比表面積の比(BET/理論BET)が0.2以上であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、銀イオン含有水性反応系に還元剤を添加して銀粒子を還元析出させる銀粉の製造方法において、銀を電解析出させないように銀イオン含有水性反応系に電圧を印加した後に還元剤を添加することにより、粒径が小さい銀粉を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】本発明による銀粉の製造装置を概略的に示す図である。
図1B】本発明による銀粉の製造装置の邪魔板の配置の例を示す図である。
図2A】実施例1、2および4の銀粉の製造方法における給電パターンを示す図である。
図2B】実施例3の銀粉の製造方法における給電パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による銀粉の製造方法の実施の形態では、銀イオン含有水性反応系に還元剤を添加して銀粒子を還元析出させる銀粉の製造方法において、銀イオン含有水性反応系に電圧を印加した後に還元剤を添加する。この銀イオン含有水性反応系に電圧を印加する際に、銀を電解析出させないように銀イオン含有水性反応系に電圧を印加するのが好ましい。なお、本明細書中において、「銀を電解析出させないように銀イオン含有水性反応系に電圧を印加する」とは、銀イオン含有水性反応系内のAgイオンが帯電してAgイオンがAgになるのに必要な電荷が少ない状態(または肉眼では認識困難な直径数十nm以下の大きさのAg粒子の核が生じているに過ぎない状態)を維持するように電圧を印加することをいう。
【0019】
銀イオン含有水性反応系としては、硝酸銀、銀錯体または銀中間体を含有する水溶液またはスラリー(銀イオン含有水溶液またはスラリー)を使用することができる。銀錯体を含有する水溶液は、アンモニア水、アンモニウム塩、キレート化合物などを硝酸銀水溶液に添加することにより生成することができる。銀中間体を含有するスラリーは、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどを硝酸銀水溶液に添加することにより生成することができる。これらの中で、銀粉が適当な粒径と球状の形状を有するようにするためには、硝酸銀水溶液にアンモニア水を添加して得られるアンミン錯体水溶液を使用するのが好ましい。アンミン錯体中のアンモニアの配位数は2であるため、銀1モル当たりアンモニア2モル以上を添加する。また、アンモニアの添加量が多過ぎると錯体が安定化し過ぎて還元が進み難くなるので、アンモニアの添加量は銀1モル当たり8モル以下であるのが好ましい。なお、還元剤の添加量を多くするなどの調整を行なえば、アンモニアの添加量が8モルを超えても適当な粒径の球状銀粉を得ることができる。
【0020】
銀イオン含有水性反応系を反応槽内で回転する攪拌翼によって撹拌するのが好ましく、この撹拌翼によって撹拌される銀イオン含有水性反応系の流動方向を邪魔板によって変えるようにするのが好ましい。銀を電解析出させないように銀イオン含有水性反応系に電圧を印加するために、攪拌翼と邪魔板との間または撹拌翼と反応槽の内壁との間に電圧を印加するのが好ましい。攪拌翼と邪魔板との間に電圧を印加する場合は、撹拌翼および邪魔板は、それぞれ電極として電圧を印加するために、銀イオン含有水性反応系と反応せず且つ導電性を有する金属などの電極材料、例えば、SUS、白金族、黒鉛などからなるのが好ましく、反応槽の内壁は、銀イオン含有水性反応系と反応しない絶縁材料、例えば、硝子、ポリエチレン、フッ素系樹脂などからなるのが好ましい。また、撹拌翼と反応槽の内壁との間に電圧を印加する場合は、撹拌翼および反応槽の内壁の少なくとも一部は、それぞれ電極として電圧を印加するために、上記の電極材料からなるのが好ましく、反応槽の内壁の他の部分は、上記の絶縁材料からなるのが好ましい。銀の電解析出では、電極付近に近づいたAgイオンがAgになるのに必要な電子がそのAgイオンに供給されて電極にAgが析出するが、回転する攪拌翼を電極として使用すれば、AgイオンがAgになるのに必要な電子がそのAgイオンに供給される前または供給された直後に、電極として使用する撹拌翼がAgイオンから離れるため、溶液全体のAgイオンが帯電してAgイオンがAgになるのに必要な電荷が少ない状態(または肉眼では認識困難な大きさのナノオーダーのAg粒子の核が生じているに過ぎない状態)で還元剤が投入されるので、還元剤による核発生確率を高くして(または還元剤を添加した直後のAg粒子の核の数が多くなるようにして)、還元析出する銀粒子の粒径を小さくすることができる。電圧を印加する際の攪拌翼の回転数は、反応槽の容量や撹拌翼の形状にもよるが、例えば、反応槽の容量が5Lで2枚羽根の攪拌翼の場合には300rpm以上であるのが好ましい。印加する電圧は1〜20V程度であるのが好ましく、電流は、1〜15A程度であるのが好ましく、直流でもパルス波でもよい。また、給電率(=投入電子数/銀イオン含有水性反応系中のAgイオンが全てAgになるのに必要な電子数)は、0.1〜2%程度であるのが好ましい。
【0021】
還元剤としては、アスコルビン酸、亜硫酸塩、アルカノールアミン、過酸化水素水、ギ酸、ギ酸アンモニウム、ギ酸ナトリウム、グリオキサール、酒石酸、次亜燐酸ナトリウム、水素化硼素ナトリウム、ヒドロキノン、ヒドラジン、ヒドラジン化合物、ピロガロール、ぶどう糖、没食子酸、ホルマリン、無水亜硫酸ナトリウム、ロンガリットなどを使用することができる。これらの中で、アスコルビン酸、アルカノールアミン、水素化硼素ナトリウム、ヒドロキノン、ヒドラジンおよびホルマリンからなる群から選ばれる1種類以上を使用するのが好ましく、特に、安価であることからホルマリンを使用するのが好ましい。これらの還元剤を使用すれば、適当な粒径の銀粒子を得ることができる。還元剤の添加量は、銀の反応収率を上げるためには、銀に対して1当量以上にする必要がある。還元力の弱い還元剤を使用する場合には、銀に対して2当量以上の還元剤、例えば、10〜20当量の還元剤を添加してもよい。また、還元剤の添加方法については、銀粉の凝集を防ぐために、1当量/分以上の速さで添加するのが好ましい。この理由は明確ではないが、還元剤を短時間で投入することで、銀粒子の還元析出が一挙に生じて、短時間で還元反応が終了し、発生した核同士の凝集が生じ難いため、分散性が向上すると考えられる。したがって、還元剤の添加時間が短いほど好ましく、例えば、還元剤を100当量/分以上の速さで添加してもよく、また、還元の際には、より短時間で反応が終了するように反応液を攪拌するのが好ましい。
【0022】
また、銀粒子の還元析出前または還元析出後あるいは還元析出中に分散剤を添加してもよい。この分散剤としては、脂肪酸、脂肪酸塩、界面活性剤、有機金属化合物、キレート剤、高分子分散剤などを使用することができる。脂肪酸の例としては、プロピオン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、アクリル酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸などを挙げることができる。脂肪酸塩の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、バリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、鉄、コバルト、マンガン、鉛、亜鉛、スズ、ストロンチウム、ジルコニウム、銀、銅などの金属と脂肪酸が塩を形成したものを挙げることができる。界面活性剤の例としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩やポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩などの陰イオン界面活性剤、脂肪族4級アンモニウム塩などの陽イオン界面活性剤、イミダゾリニウムベタインなどの両性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテルやポリオキシエチレン脂肪酸エステルなどの非イオン界面活性剤などを挙げることができる。有機金属化合物の例としては、アセチルアセトントリブトキシジルコニウム、クエン酸マグネシウム、ジエチル亜鉛、ジブチルスズオキサイド、ジメチル亜鉛、テトラ−n−ブトキシジルコニウム、トリエチルインジウム、トリエチルガリウム、トリメチルインジウム、トリメチルガリウム、モノブチルスズオキサイド、テトライソシアネートシラン、テトラメチルシラン、テトラメトキシシラン、ポリメトキシシロキサン、モノメチルトリイソシアネートシラン、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤などを挙げることができる。キレート剤の例としては、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、セレナゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、1H−1,2,3−トリアゾール、2H−1,2,3−トリアゾール、1H−1,2,4−トリアゾール、4H−1,2,4−トリアゾール、1,2,3−オキサジアゾール、1,2,4−オキサジアゾール、1,2,5−オキサジアゾール、1,3,4−オキサジアゾール、1,2,3−チアジアゾール、1,2,4−チアジアゾール、1,2,5−チアジアゾール、1,3,4−チアジアゾール、1H−1,2,3,4−テトラゾール、1,2,3,4−オキサトリアゾール、1,2,3,4−チアトリアゾール、2H−1,2,3,4−テトラゾール、1,2,3,5−オキサトリアゾール、1,2,3,5−チアトリアゾール、インダゾール、ベンゾイミダゾールおよびベンゾトリアゾールとこれらの塩、あるいは、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、グリコール酸、乳酸、オキシ酪酸、グリセリン酸、酒石酸、リンゴ酸、タルトロン酸、ヒドロアクリル酸、マンデル酸、クエン酸、アスコルビン酸などを挙げることができる。高分子分散剤の例としては、ペプチド、ゼラチン、コラーゲンペプチド、アルブミン、アラビアゴム、プロタルビン酸、リサルビン酸などを挙げることができる。
【0023】
上記の分散剤として、疎水性分散剤を使用するのが好ましく、脂肪酸からなる分散剤を使用するのが好ましい。この脂肪酸からなる分散剤として、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸およびこれらの塩からなる群から選ばれる分散剤を使用するのが好ましい。
【0024】
銀イオン含有水性反応系に還元剤を添加して銀粒子を還元析出させて得られた銀含有スラリーをフィルタープレスなどによって濾過し、水洗して得られた塊状のケーキを乾燥、解砕および分級して、銀粉を得ることができる。乾燥は、強制循環式大気乾燥機、真空乾燥機、気流乾燥装置などの乾燥機によって行うことができ、真空乾燥機によって行うのが好ましい。また、解砕は、コーヒーミルなどの攪拌機によって行うことができる。この解砕は、粒子を機械的に流動化させることができる装置(例えば、ヘンシェルミキサ)に銀粒子を投入して、粒子同士を機械的に衝突させることによって、粒子表面の凹凸や角ばった部分を滑らかにする表面平滑化処理によって行ってもよい。
【0025】
本発明による銀粉の製造装置の実施の形態は、図1Aおよび図1Bに示すように、銀イオン含有水性反応系を収容する反応槽10と、この反応槽10内に配置されて銀イオン含有水性反応系を攪拌する攪拌翼12と、この撹拌翼12によって撹拌される銀イオン含有水性反応系の流動方向を変える邪魔板14と、撹拌翼12と邪魔板14との間(または撹拌翼12と反応槽10の内壁との間)に電圧を印加する電源16とを備えた銀粉の製造装置において、銀イオン含有水性反応系に還元剤を添加して銀粒子を還元析出させる前に、銀を電解析出させないように撹拌翼12と邪魔板14との間(または撹拌翼12と反応槽10の内壁との間)に電圧を印加するようになっている。
【0026】
この銀粉の製造装置の実施の形態では、反応槽10は、底面部と側面部を有し、銀イオン含有水性反応系を収容する略円筒形の反応槽である。撹拌翼12は、反応槽10内に略中央部に配置され、反応槽10の略鉛直方向に延びる中心軸線の回りで回転して銀イオン含有水性反応系を攪拌して、銀イオン含有水性反応系を反応槽10の側面部の内壁に沿って略円周方向に移動させるようになっている。邪魔板14は、反応槽10の側面部の内壁から中心軸線に向かって突出し且つ(所定の間隔で互いに離間して)反応槽10の側面部の内壁に沿って略鉛直方向に延びて、撹拌翼12によって撹拌される銀イオン含有水性反応系の移動方向を変える(1枚または)複数枚(図示した実施の形態では4枚)の邪魔板からなる。電源16は、銀イオン含有水性反応系に還元剤を添加する前に、銀を電解析出させないように撹拌翼12と邪魔板14との間(または撹拌翼12と反応槽10の内壁との間)に電圧を印加するようになっている。
【0027】
上述した銀粉の製造方法の実施の形態により、平均粒径D50が0.1〜3μm以下(好ましくは0.1〜2.5μm)、BET比表面積が0.3〜5m/g(好ましくは0.4〜5m/g)であり、強熱減量値が0.5%以下(好ましくは0.1〜0.5%)の銀粉を製造することができる。銀粉の平均粒径D50が0.1μmより小さいと、ファインライン化への対応は可能であるが、粒子の活性が高く、銀粉を焼成型ペーストに使用する場合に500℃以上で焼成するには適さない。一方、平均粒径D50が3μmより大きくなると分散性が劣ることになり、やはりファインライン化への対応が難しくなる。また、BET比表面積が5m/gを超えると、ペーストの粘度が高過ぎて、印刷性などが悪くなる。一方、BET比表面積が0.3m/g未満であると、粒子が大き過ぎて、ファインライン化への対応が難しくなる。
【0028】
また、この銀粉の平均粒径D50を直径とした真球のBET比表面積(理論BET比表面積)に対するBET比表面積の比(BET/理論BET)が0.2以上であるのが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、本発明による銀粉の製造方法および製造装置の実施例について詳細に説明する。
【0030】
[実施例1]
反応槽としての5Lのビーカーに純水3600gを入れて26℃に調温するとともに、反応槽内の略中央部に設置したステンレス製の撹拌翼を外部モータにより640rpmで回転させて撹拌しながら、32.78質量%の銀を含む硝酸銀水溶液131.67gと、28質量%のアンモニア水溶液121.43gを添加して、銀アンミン錯体水溶液を得た。
【0031】
撹拌翼を回転させたまま、撹拌翼を正極とし、反応槽内の側壁付近に互いに略等間隔に配置されたステンレス製の4つの邪魔板を負極として、図2Aに示すように、銀アンミン錯体水溶液に20秒間で電流10A、電圧10Vまで昇圧させるように電圧を印加した直後に、その電圧を保持したまま、還元剤として23質量%のホルマリン水溶液202.7gを加えて、銀粒子を析出させた。ホルマリン水溶液の添加から30秒後に、電圧の印加を停止した。その後、ステアリン酸として1.2質量%のステアリン酸溶液4.29gを添加して、得られた銀含有スラリーをろ過し、水洗して得られたケーキを75℃で真空乾燥して、得られた乾燥粉をコーヒーミルで(20秒間×2回)解砕して、銀粉40gを得た。なお、電圧の印加の際の最大の電力は100W、電圧の印加の開始から停止までに与えられた電荷は400C、給電率は1.04%である。
【0032】
得られた銀粉について、BET比表面積およびレーザー回折法による粒度分布を測定するとともに、強熱減量値(Ig−loss)を算出した。
【0033】
銀粉のBET比表面積は、BET比表面積測定器(株式会社マウンテック製のマックソーブ)を使用してBET1点法により測定した。その結果、BET比表面積は0.6m/gであった。
【0034】
レーザー回折法による粒度分布は、銀粉0.1gをイソプロピルアルコール30mLに添加し、出力50Wの超音波洗浄器により2分間分散させた後、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製のマイクロトラックMT3300EXII)を用いて測定した。その結果、レーザー回折法による累積10質量%粒径(D10)は1.1μm、累積50質量%粒径(平均粒径D50)は2.5μm、累積90質量%粒径(D90)は5.1μmであった。この銀粉では、(D90−D10)/D50=1.6であり、BET/理論BET=0.26である。
【0035】
強熱減量値(Ig−loss)は、銀粉3gを秤量(w1)して磁性るつぼに入れ、電気炉(アドバンテック社製のKM−1302)により800℃で30分強熱した後、冷却し、再度秤量(w2)することにより、強熱減量値(%)=(w1−w2)×100/w1から求めた。その結果、強熱減量値は0.42%であった。
【0036】
また、上記の強熱後の銀粉に含まれる(分散剤として使用した)ステアリン酸(StA)の濃度を、炭素・硫黄分析装置(株式会社堀場製作所製)により測定した銀粉中の炭素濃度から算出したところ、ステアリン酸濃度は0.12質量%であり、StA/BET=0.19、StA/Ig−loss=0.29であった。
【0037】
[実施例2]
図2Aに示すように、銀アンミン錯体水溶液に20秒間で電流5A、電圧5Vまで昇圧させるように電圧を印加した直後に、還元剤を加えた以外は、実施例1と同様の方法により、銀粉を得た後、この銀粉について、BET比表面積およびレーザー回折法による粒度分布を測定し、強熱減量値(Ig−loss)を算出するとともに、ステアリン酸濃度を求めた。なお、電圧の印加の際の最大の電力は25W、電圧の印加の開始から停止までに与えられた電荷は200C、給電率は0.52%である。
【0038】
その結果、BET比表面積は0.5m/gであり、レーザー回折法による累積10質量%粒径(D10)は1.1μm、累積50質量%粒径(平均粒径D50)は2.3μm、累積90質量%粒径(D90)は4.5μmであった。この銀粉では、(D90−D10)/D50=1.5であり、BET/理論BET=0.21である。また、強熱減量値は0.48%であった。また、ステアリン酸濃度は0.15質量%であり、StA/BET=0.28、StA/Ig−loss=0.31であった。
【0039】
[実施例3]
図2Bに示すように、銀アンミン錯体水溶液に20秒間で電流10A、電圧10Vまで昇圧させるように電圧を印加した直後に、その電圧の印加を停止して還元剤を加えた以外は、実施例1と同様の方法により、銀粉を得た後、この銀粉について、BET比表面積およびレーザー回折法による粒度分布を測定し、強熱減量値(Ig−loss)を算出するとともに、ステアリン酸濃度を求めた。なお、電圧の印加の際の最大の電力は100W、電圧の印加の開始から停止までに与えられた電荷は100C、給電率は0.26%である。
【0040】
その結果、BET比表面積は0.6m/gであり、レーザー回折法による累積10質量%粒径(D10)は1.0μm、累積50質量%粒径(平均粒径D50)は2.2μm、累積90質量%粒径(D90)は4.3μmであった。この銀粉では、(D90−D10)/D50=1.5であり、BET/理論BET=0.23である。また、強熱減量値は0.42%であった。また、ステアリン酸濃度は0.12質量%であり、StA/BET=0.19、StA/Ig−loss=0.29であった。
【0041】
[実施例4]
図2Aに示すように、邪魔板を正極とし、撹拌翼を負極として電圧を印加した以外は、実施例1と同様の方法により、銀粉を得た後、この銀粉について、BET比表面積およびレーザー回折法による粒度分布を測定し、強熱減量値(Ig−loss)を算出するとともに、ステアリン酸濃度を求めた。
【0042】
その結果、BET比表面積は0.6m/gであり、レーザー回折法による累積10質量%粒径(D10)は1.1μm、累積50質量%粒径(平均粒径D50)は2.3μm、累積90質量%粒径(D90)は4.5μmであった。この銀粉では、(D90−D10)/D50=1.5であり、BET/理論BET=0.22である。また、強熱減量値は0.48%であった。また、強熱減量値は0.42%であった。また、ステアリン酸濃度は0.13質量%であり、StA/BET=0.23、StA/Ig−loss=0.30であった。
【0043】
[比較例1]
電圧を印加しなかった(給電率0%)以外は、実施例1と同様の方法により、銀粉を得た後、この銀粉について、BET比表面積およびレーザー回折法による粒度分布を測定し、強熱減量値(Ig−loss)を算出するとともに、ステアリン酸濃度を求めた。
【0044】
その結果、BET比表面積は0.3m/gであり、レーザー回折法による累積10質量%粒径(D10)は2.1μm、累積50質量%粒径(平均粒径D50)は3.7μm、累積90質量%粒径(D90)は6.8μmであった。この銀粉では、(D90−D10)/D50=1.3であり、BET/理論BET=0.17である。また、強熱減量値は0.48%であった。また、ステアリン酸濃度は0.09質量%であり、StA/BET=0.33、StA/Ig−loss=0.12であった。
【0045】
[比較例2]
還元剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様の方法を行ったが、銀の核の状態を除いて、溶液中に(肉眼で認識可能な直径100nm以上の大きさの)銀粉の電解析出が観察されなかった。
【0046】
これらの実施例および比較例の結果を表1〜表4に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
これらの結果からわかるように、実施例1〜4では、比較例と比べて、粒径の小さい銀粉を製造することができる。また、実施例1〜4では、単位表面積当たりの分散剤の含有量が少なくなり、銀の核の発生から粒成長までの間の不純物の銀粉内部への混入が少なく、(表面の分散剤と銀粉内部の不純物の総量の指標となる)強熱減量値(Ig−loss)が小さく、不純物の少ない銀粉を製造することができる。

図1A
図1B
図2A
図2B