(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて、本発明に係る車両用窓板の具体的な実施の形態について詳述する。
【0010】
図1は、HUDを搭載した車両の概念図を示す。車両としての自動車100のフロントガラス(車両用フロントガラス、車両用窓板)10の下方部分であって、ダッシュボードの内部には、HUDユニット20が搭載されている。HUDユニット20は、凹面鏡21と、反射鏡23と、光源(ディスプレイ)25とを含む。
【0011】
光源25が表示するスピードメーターなどの像は、凹面鏡21により拡大され、フロントガラス10に虚像表示として表示される。運転者はHUDユニット20が生成する虚像表示を視認することにより(視線1)、スピードメーターなどを確認することができ、ダッシュボードに備えられた従来のメーター30を視認する際に比べ(視線2)、視線を落とす必要がない。したがって、HUDの採用により、より高い安全性を確保することが可能である。
【0012】
しかしながら、従来のフロントガラスは、フロントガラス上の各点の曲率が異なり、フロントガラス上の任意の線上のおける曲率の変化量も、線の選び方によって様々な値をとっていた。ここで、線とは、説明の便宜上Z方向に沿った線とする。
【0013】
そのため、運転者の体格などの個人差による視点の違いを考慮して、凹面鏡21の角度を何段階か変化させ、フロントガラス10上の反射位置(反射点)をZ方向に変化させた際、各段階間で像全体の変形の程度に差が生じることを、本願発明者らは見出した。すなわち従来のフロントガラスでは、体格の異なる運転者間において、視認する像全体の変形のばらつきが大きかった(以後、「巨視的なばらつき」ともいう)。
【0014】
なお、凹面鏡21の角度の切り替えは、体格の異なる運転者間に限定されない。同一運転者であっても姿勢の違いや座席位置の違いによって凹面鏡21の角度を変化させる場合もある。
【0015】
なお、反射点でのフロントガラス10の曲率が大きくなると、表示される像は拡大され、フロントガラス10の曲率が小さくなると、表示される像は縮小される。
【0016】
一方、表示される像が一定の面積を有していた場合、凹面鏡21の角度を切り替えた場合、像全体としては変形の程度が許容内だったとしても、像の面積内での各点(各セグメント)において、像の変形の程度が異なっている場合があった。すなわち、従来のフロントガラスでは、一つの像が表示される領域内においても、フロントガラス上の各点の曲率が異なっており、またフロントガラス上の任意の線上のおける曲率の変化量も、線の選び方によって様々な値をとることにより、像の変形が生じることを、本願発明者らは見出した。例えば、表示された像の領域内の、ある点では拡大され、別の点では縮小される見え方になる場合があり、像の変形の程度は各点に応じてばらついていた(以後、「微視的なばらつき」ともいう)。
【0017】
このような新たな発見を考慮し、HUDの設計にあたっては、フロントガラス上の反射位置の違いによる、像全体の変形のばらつき(巨視的なばらつき)及び像が表示された領域内での変形のばらつき(微視的なばらつき)を考慮に入れたうえで、表示される像の質を評価しなければならない。
【0018】
図2はフロントガラス10上に表示される像を模式的に表した図であり、
図2(a)では、凹面鏡21の角度を3段階変化させた際を想定した、異なる三つの格子が設定された状況を示す。実線で示した上段の格子A、点線で示した中段の格子B、破線で示した下段の格子Cの三つの格子が設定されている。これら三つの格子は、通常の運転者がHUDによる像を視認するであろう位置に予め設定されており、さらに通常の運転者についても体格の違いなどを考慮して三つの視点領域に分類した結果、三つの格子が設定されている。
【0019】
また、
図2(b)では、中段の格子Bに着目したとき、像が表示された領域内での視点の移動に伴う複数の視点P(本例ではP1〜P9の9点)が設定された状況を示す。
【0020】
フロントガラス10の曲率は、全領域で一定ではなく、デザイン形状に応じて各領域において異なる。当然ながら、三つの格子A、B、C各々におけるフロントガラス10の曲率は異なり、各視点P1〜P9でもフロントガラス10の曲率は異なる。フロントガラス10の曲率が異なることにより、像が変形すると考えられるが、その変形は最小限であることが望まれる。
【0021】
発明者は本事象について考察した結果、フロントガラス上の反射位置の違いによる、像全体の変形のばらつき(巨視的なばらつき)及び像が表示された領域内での変形のばらつき(微視的なばらつき)は、
図3のグラフに示すような特殊なHUD湾曲形状のフロントガラスにより、像の変形やばらつきを抑制することが可能となることを示した。
【0022】
なお、
図3では凹面鏡21は、任意の曲率に設計されており、フロントガラス10上における反射点は一定位置であることを前提とする。また、凹面鏡21の傾きは、数段階に可変で設計されており、その傾きを切り替えることで、フロントガラス10上における反射点を切り替えられることを前提とする。
【0023】
図3の各々のグラフにおいて、横軸は本実施形態のフロントガラス10の上下方向(Z方向)における位置(高さ位置)を示し(単位:mm)、横軸の左側が下位置、右側が上位置である。
図3(a)は、フロントガラスの上下方向の断面形状を示すグラフであり、上下方向におけるおよそ中央の位置(横軸、約500mmの高さ位置)でフロントガラスの表面は最も前方(車両の前方)に突出しており、その上下ではフロントガラスの表面は、後方(車両の後方)に位置することが理解される。なお、上下方向とは、車両に取り付けられた際の天地方向とする。
【0024】
図3(b)は
図3(a)のグラフを1階微分して得られるグラフであり、
図3(c)は
図3(b)のグラフを1階微分して得られるグラフ(
図3(a)のグラフを2階微分して得られるグラフ)であり、
図3(d)は
図3(c)のグラフを1階微分して得られるグラフ(
図3(a)のグラフを3階微分して得られるグラフ)である。
【0025】
図3(b)はフロントガラスの表面の接線の角度を示しており、上下方向におけるおよそ中央の位置(横軸、約500mmの高さ位置)での表面の接線の角度を基準の0°に設定しており、その下位置(グラフの左側)では角度はマイナスであり、その上位置(グラフの右側)では角度はプラスである。
【0026】
図3(c)はフロントガラスの表面の曲率(1/R)を示しており、グラフから明らかなように、本例では曲率は下から上に向けて単調増加している。すなわちこのグラフで示されるフロントガラスは、いわば上の位置ほど表面の曲げが大きくなっている。
図3(d)はフロントガラスの表面の曲率(1/R)の変化量を示しており、グラフから明らかなように、本実施形態では曲率の変化量が一定であることが好ましい。
【0027】
なお、明細書において、「曲率の変化量が一定」とは、本願の効果を損なわない範囲でのズレは許容する解釈とする。
【0028】
発明者は、このような特殊な湾曲形状のフロントガラスであれば視点の位置の変化に関わらず、像の変形やばらつきを抑えることが可能であることを見出した。
【0029】
なお、上下方向において曲率が一定であれば(
図3(c)のグラフが水平)、視点位置によって像が変形しないとも考えられるが、
図3(c)のように、上方に近づくほど曲率が大きくなっていれば、フロントガラスを自動車の屋根に支障なく接続することができるため望ましい。
【0030】
発明者は、上記の形状を導き出すにあたり、ガラスの反射位置に関わらず、凹面鏡が単一の曲率で固定した値を持つとの前提を仮定し、この前提の下、フロントガラスの曲率の変化による像のサイズの変化を、光学シミュレーションを用いて調査した。
【0031】
図4は、凹面鏡の曲率半径を800mmに固定した状態でのフロントガラスの曲率(x)と像のサイズ(拡大率:y)の関係を示すグラフである。一次相関の決定係数であるR
2が1に近いことから、凹面鏡の曲率が一定の値において、像のサイズは、フロントガラスの曲率に対し、ほぼ正の1次相関の関係(y=2668.7x+0.4871)を持つことが理解される。
【0032】
なお、
図4では便宜上、ガラスの曲率が0.000192の場合を100%としたが、ガラスの曲率がいずれの値であっても、凹面鏡の曲率が一定の値において、像のサイズは、フロントガラスの曲率に対し、ほぼ正の一次相関の関係であることが理解できる。
【0033】
図5は、凹面鏡の曲率半径を700mm、800mm、900mmのそれぞれの値に固定した状態でのフロントガラスの曲率(x)と像のサイズ(y)の関係を示すグラフである。本図から、凹面鏡の曲率が一定の値をとる状況下では、相関関係の傾きは変わるが、像のサイズとフロントガラスの曲率との間の正の1次相関の関係が保たれることが理解される(700mm:y=3053.6x+0.4173、800mm:y=2668.7x+0.4871、900mm:y=2482x+0.5215)。凹面鏡の曲率が大きいほど、相関関係の感度は大きくなる(グラフの傾きが大きくなる)。
【0034】
すなわち、発明者はフロントガラスの曲率と像の拡大率が、ほぼ正の一次相関にあることを見出した。このことから、
図3に示した曲率の変化(量)が一定であるという特異な湾曲形状を持つフロントガラスにおいては、どの領域でも、視線移動した際の拡大率、変形量が同じであることを意味する。
【0035】
具体例を
図6(a)、(b)を用いて説明する。
図6(a)は従来のフロントガラスを示し、
図6(b)は
図3のフロントガラスを示す。点Bでのガラスの曲率に合わせて最適化された凹面鏡を使って、像を表示させた場合、当然点Bでは最適化された像が表示される。この状態から、凹面鏡の角度を切り替えて、点Bから下側に10mm移動させた点A、又は点Bから上側に10mm移動させた点Cに像を表示させた場合、従来のフロントガラスでは、曲率の変化量が一定ではないため、点Aと点Cの像の変形量の絶対値は異なる。そのため、例えば
図6(a)で示すように、点Cだけ大きく拡大されてしまうなどの問題が生じやすかった。
【0036】
一方、
図3のフロントガラスでは、曲率の変化量が一定であるため、点B´から点A´に切り替えた際の像の変形量の絶対値と、点B´から点C´に切り替えた際の像の変形量の絶対値とが等しい。すなわち、フロントガラス上の反射位置によっては、像が大きく変形するといった事態を抑制できる。また点Bからどれほどの距離だけ離れた位置に像を表示させると、どれほどの変形が起こるかが予測しやすい。
【0037】
以上より、
図3のようなフロントガラスとすることで、凹面鏡の角度を切り替えた際のフロントガラス上の反射位置の違いによる像の品質のばらつきを小さくすることが可能となる。
【0038】
なお、
図6の点A(A´)、B(B´)、C(C´)は、
図2(a)の格子A、B、Cの位置と対応することとしてもよい。
【0039】
また、
図7のように、HUDユニットが複数存在し、像をフロントガラス上の複数の箇所に表示させる場合を想定してもよい。
図7(a)は従来のフロントガラスを示し、
図7(b)は
図3のフロントガラスを示す。
【0040】
図7(a)のような従来のフロントガラスであれば、像701を点aから点bに移動させた際の変形量の絶対値と、像702を点cから点dに移動させた際の変形量の絶対値とは、異なっていた。
【0041】
したがって、
図7(a)に示すように、例えば、点cから点dへの異動の場合のみ、大きく変形するようなことが生じやすかった。
【0042】
一方、
図3のフロントガラスでは、曲率の変化量が一定であるため、像701を点a´から点b´に移動させた際の変形量の絶対値と、像702を点c´から点d´に移動させた際の変形量の絶対値とは、等しい。すなわち、点b´と点d´とで、同じ変形量(拡大率)となるため、運転者にとって違和感なく2つのHUDを見ることができる。
【0043】
このように、異なる複数のHUDユニットであっても、凹面鏡の角度を切り替えた際のフロントガラス上の反射位置の違いによる像の品質のばらつきを小さくすることが可能となる。
【0044】
また、
図3のフロントガラスによれば、表示される像が一定の面積を有していた場合でも、像の領域内の変形量が同じであることも導かれ、特に像の面積が大きい場合に顕著な効果が発揮される。
【0045】
具体例を
図8(a)、(b)を用いて説明する。
図8(a)は従来のフロントガラスを示し、
図8(b)は
図3のフロントガラスを示す。点D(D´)でのガラスの曲率に合わせて最適化された凹面鏡を用いた場合であって、運転者によって凹面鏡の角度が変更され、点E(E´)の位置に像が表示されたとする。
【0046】
この場合、
図8(a)に示すような従来のフロントガラスでは、像が所定以上の面積を有する場合、像の表示領域内でのフロントガラスの曲率の変化量が一定ではないため、
図8(a)に示すように、局所的に拡大率が異なり、像が変形してしまうおそれが生ずる。
図8ではその一例として、像の表示領域の下端から上端に向けて、徐々に拡大率が大きくなった像が点Eに表示された例を示す。
【0047】
一方、
図8(b)に示すように、
図3のフロントガラスでは、上下方向どの位置でも曲率の変化量が一定であるため、像の表示領域内での拡大率が局所的に異なることはなく、どの領域も同じ割合で拡大した像が点E´において表示される。すなわち、像が表示された領域内での変形のばらつきを抑制でき、歪んだ像を視認するような事象を防止することができる。
【0048】
さらに
図3に示した特異な湾曲形状を持つフロントガラスにおいては、曲率の変化量が左右異なる位置においても一定であることが好ましい。これにより、左右方向に視線移動した場合であっても、左端、右端での像の変形量が同じになる。
図9(a)に示すような従来のフロントガラスでは、像の表示を所定の距離だけ下方向に移動させると、曲率の変化量が像の左右の位置において異なるため、像に変形が生ずるおそれがある。一方、
図9(b)に示すような、左右どの位置でも曲率の変化量が一定のフロントガラスであれば、局所的に拡大率が異なることはない。よって、凹面鏡の角度を切り替えた際、左右方向においても、フロントガラス上の反射位置の違いによる像の品質のばらつき、及び像が表示された領域内での変形のばらつきを抑制することができる。
【0049】
上述したように、フロントガラスの曲率と像の変形はほぼ一次相関関係にあるため、
図3のようなフロントガラスを用いることで、フロントガラス上のある点において凹面鏡を最適設計すれば、凹面鏡の角度の調整又は像が面積を有するか否かに関わらず、像変形を抑えることができる。以下、
図3に示した特殊な湾曲形状のフロントガラスについて、構成の詳細を述べる。
【0050】
なお、理想的には、
図3のように、曲率の変化量が一定であることが好ましいが、製造上、厳密な意味で一定とすることは極めて難しい。そのため、以下では、本願の効果を達成するために、曲率の変化量の最大値と、曲率の変化量の平均値とを、ある値以下にすることを規定する。ここで「曲率の変化量の最大値」とは、曲率の変化量の絶対値の最大値を指す。
【0051】
本明細書において、フロントガラスにHUDの像が表示される領域(以下、「HUD表示領域」という)において、反射点の変化前後における像のサイズの変化量は、少なくとも上下方向において10mmの間隔(ピッチ)ごとに区切られたセグメントごとに測定する。以後、隣接するセグメント間のサイズの変化を「局所的な変形」と呼ぶ。
【0052】
そして、運転者に歪んだ像と認識されづらくするためには、HUD表示領域において、隣接するセグメントのサイズの変化量の差を好ましくは15%以内、より好ましくは13%以内、さらに好ましくは10%以内に抑えることが望ましい。これは、実際にフロントガラス表面に表示される計器類の画像の一部分を、拡大するように段階的に変形させた複数の画像を用意し、複数人で官能評価を行った結果、歪んだ像と認識し始めた値である。
【0053】
図10はこのような概念を説明したものであり、反射点移動前に隣接する二つのセグメントの上下方向のピッチは10mmである。反射点移動後に隣接する二つのセグメントの上下方向のピッチが、それぞれ11mm、12mmになるケースについては、変化量の差は120%−110%=10%なので、このケースでは、運転車に歪んだ像と認識されづらくなる。
【0054】
一方、反射点移動後に隣接する二つのセグメントの上下方向のピッチが、それぞれ10mm(変化なし)、12mmになるケースについては、変化量の差は120%−100%=20%なので、このケースでは、運転者に歪んだ像と認識されやすくなる。
【0055】
光学シミュレーションを用いて計算した結果を
図11に示す。HUD表示領域において、フロントガラスの上下方向において、曲率の変化量の最大値が±7.6E−6mm
−2以下であれば、像の局所的な変形を15%以内に抑えることができ、運転車に歪んだ像と認識されづらくできる。さらに、曲率の変化量の最大値が±6.55E−6mm
−2以下であれば、像の局所的な変形を13%以内に抑えることができ、±5.60E−6mm
−2以下であれば、10%以内に抑えることができ、より好ましい。すなわち、像が表示された領域内での各点での変形のばらつきを抑制できる。尚、「E−数字」の部分において、数字は10の指数部を表し、「E−6」なら10の−6乗を意味する。例えば±7.6E−6は、±7.6×10
−6を意味する。
【0056】
ここで「反射点移動前」とは、凹面鏡の曲率が最適に設定されたフロントガラス上の点が反射点となっている状態を示し、「反射点移動後」とは、その点から反射位置を移動した後の状態を示す。
【0057】
図12および
図13は、フロントガラスの「曲率の変化量の最大値」を説明するにあたり、実際の曲率(P)、実際の曲率の一次関数での近似線(曲率の近似線;Q)、実際の曲率の変化量(R)を示す模式的なグラフである。
図12及び
図13に示すように、実際のフロントガラスにおいては、曲率及び曲率の変化量の値は刻々上下しており、曲率の近似線及び曲率の変化量の平均値を求めることにより、
図3(c)、
図3(d)に示すような単調に増加する曲率及びほぼ一定値の曲率の変化量を求めることができる。
【0058】
なお、ここで曲率の近似線とは、フロントガラス上下方向の断面のうち、HUD表示領域内の任意の断面における曲率から導かれる。例えば、HUD表示領域内の任意の断面上の曲率を、5mmごとに測定した値から求めてよい。
【0059】
図13は、曲率の変化量の最大値の概念を示している。実際の曲率は局所的に大きく上昇することがあり、対応して
図12のように実際の曲率の変化量がピークの値をとることもある。このようなピークの値を「曲率の変化量の最大値」と捉え、当該最大値を好ましくは±7.6E−6mm
−2以下、より好ましくは±6.55E−6mm
−2以下、さらに好ましくは±5.60E−6mm
−2以下に抑えることにより、像が表示された領域内での各点での変形のばらつきを抑制でき、運転者に歪んだ像と認識されづらくなる。
【0060】
また、
図3(c)、
図11、
図12に示すように、曲率の一次関数での近似線は、フロントガラスの下辺から上辺に向けて単調増加することが好ましい。これにより、曲率の変化量の変化が激しくなりにくく、運転者に歪んだ像として認識されづらくなる。
【0061】
また、
図13においては、「曲率の変化量の最大値」に注目し局所的な変形(像が表示された領域内であり、10mmで隣り合う)について述べたが、凹面鏡の角度を切り替えた際のフロントガラス上の反射位置の違いによる像の品質のばらつきを考慮した場合、少なくともHUD表示領域の全域にわたって、曲率の変化量は所定値以下に抑えられることが好ましい。そのためには、上下方向での曲率の変化量の平均値が、±1.64E−6mm
−2以下、より好ましくは±1.42E−6mm
−2以下、さらに好ましくは±1.2E−6mm
−2以下である。
【0062】
光学シミュレーションを用いて計算した結果を
図14に示す。上下方向での曲率の変化量の平均値が、±1.64E−6mm
−2以下であれば、フロントガラス上の反射位置の違いによる像の変形を15%以内に抑えることができ、運転車に歪んだ像と認識されづらくできる。さらに、曲率の変化量の平均値が±1.42E−6mm
−2以下であれば、13%以内に抑えることができ、±1.2E−6mm
−2以下であれば、10%以内に抑えることができ、より好ましい。
【0063】
図15は、曲率の変化量の平均値(S)の概念を示している。曲率の変化量の平均値を所定の値以下に抑えることにより、HUD表示領域の全域にわたって像の変形を抑えることができる。
【0064】
また、
図16に示すように、本願の一実施形態のフロントガラスにおいて、基準である上辺及び下辺を結ぶ弦から最も離れる位置である、いわゆる底点が、上下方向での中央位置(上辺及び下辺から等しい距離にある位置)より上辺の側にあることが好ましい。このような底点の位置であれば、フロントガラスを自動車の屋根に支障なく接続することができるため望ましい。
【0065】
また、HUD表示領域において左端部と右端部の曲率の差が、0.00040mm
−1以下であることが好ましい。左端部と右端部の曲率の差は0.00030mm
−1以下であることがより好ましく、0.00020mm
−1以下であることが最も好ましい。このようにすれば、左右方向に視線移動した場合であっても、左端、右端での像の変形量が低減できるため、運転者に歪んだ像と認識されづらくすることができる。
【0066】
また、フロントガラスの曲率の最大値は、HUD表示領域において0.001mm
−1以下であることが好ましい。運転者にとって像が歪んでみえにくい。
【0067】
上述した曲率、曲率の変化量の値は、少なくともフロントガラスのHUD表示領域において満足する必要があるが、HUD表示領域の外では必ずしも満足する必要はない。
HUD表示領域とは、10cm
2以上であることが好ましい。HUD表示領域が10cm
2以上であれば、運転者が像の歪みを認識しやすいので、本願の一実施形態に係る
図3のフロントガラスが好適に用いられる。
【0068】
HUD表示領域の上限は、特に限定されるものではないが、例えば、1000cm
2以下であることが好ましい。HUD表示領域が1000cm
2以下であれば、フロントガラス上の平面応力が形成された領域と重複しづらくなるため、HUD表示領域内に透視歪が存在しづらく、好適である。
【0069】
なお、平面応力が形成された領域とは、当業者であれば容易に理解できるように、軟化点付近まで加熱したガラス板を冷却した際に、ガラス板の外周縁及びその内側に形成されるものである。冷却の際、ガラス板は、外周縁から冷却され、ガラス板の外周縁にエッジコンプレッションが形成される。エッジコンプレッションの対としてガラス板の外周縁の内側にインナーテンションが形成される。
【0070】
また、HUD表示領域所は、フロントガラスの平面応力が形成された領域よりも面内中央側に存在することが好ましい。すなわち、平面応力が形成された領域とは重複しないことが望ましい。平面応力が形成された領域とは、特に限定されないが、例えば、外周縁から面内中央側に20mm未満の領域を指す。したがって、HUD表示領域は、外周縁から20mm以上、面内中央側に存在することが好ましい。これにより、HUD表示領域内に透視歪が存在しづらくなる。
【0071】
本発明のフロントガラスは、例えば一般的な合わせガラスを加工することにより得ることができる。例えばプレス成形を行う際に、成形型の成形面の形状を工夫することにより、本発明のように特殊な湾曲形状を有するフロントガラスを製造することができる。
【0072】
フロントガラスが車両に取り付けられている場合、上下方向は当然に規定され、上辺、下辺も一義的に定められる。また、一般的にフロントガラスには検査証が貼付される。検査証は、フロントガラスがJIS規格を満足することを証明するJISマークであったり、製品製造時期、ガラスの商品名などを示すもので、主に左下又は右下の位置に設けられる。検査証には、ガラス製造時点で、サンドブラストでガラスに傷を付けて刻印するタイプや、プリントするタイプのものが存在する。よって、車両に取り付けられておらず、単独で存在するフロントガラスに対し、検査証が配置されている位置に近い位置にある辺を下辺、当該位置から遠い位置にある辺を上辺と定義付けすることができる。
【0073】
尚、本発明の明細書は、フロントガラスを例として説明したが、これに限定されない。すなわちサイドガラスやルーフガラス、リアガラスであってもよい。またポリカーボネートなどの樹脂であってもよい。
【0074】
尚、本発明の明細書は、凹面鏡は、任意の一定の曲率を有することを前提としたが、凹面鏡も、曲率の変化量が一定で変化する曲率を有していても良い。
【0075】
この場合、凹面鏡の曲率の変化量において、以下であることが好ましい。すなわち、HUD表示領域において、フロントガラスの上下方向において、曲率の変化量の最大値が±22.8E−6mm
−2以下であれば、像の局所的な変形を15%以内に抑えることができ、運転車に歪んだ像と認識されづらくできる。さらに、曲率の変化量の最大値が±19.65E−6mm
−2以下であれば、像の局所的な変形を13%以内に抑えることができ、±16.8E−6mm
−2以下であれば、10%以内に抑えることができ、より好ましい。像が表示された領域内での各点での変形のばらつきを抑制できる。
【0076】
また、上下方向での曲率の変化量の平均値が、±4.92E−6mm
−2以下であれば、フロントガラス上の反射位置の違いによる像の変形を15%以内に抑えることができ、運転車に歪んだ像と認識されづらくできる。さらに、曲率の変化量の平均値が±4.26E−6mm
−2以下であれば、13%以内に抑えることができ、±3.6E−6mm
−2以下であれば、10%以内に抑えることができ、より好ましい。
【0077】
また、凹面鏡及びフロントガラスの両方の曲率が変化してもよい。この際、フロントガラスの反射点での曲率が大きくなると、凹面鏡の反射点の曲率は小さくなることが好ましい。これにより、像の変形がより抑制できる。なお、凹面鏡及びフロントガラスの曲率は、上記に限定されない。いずれか片方の反射点での曲率が大きくなる方向に変化させたとき、他方の反射点での曲率は小さくなる方向に変化させるように、組み合わせることが好ましい。
また、凹面鏡の曲率の変化量は、フロントガラスの曲率の変化量の値の1.5倍〜3倍であることが好ましい。これにより、像の変形がより抑制できる。
【0078】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。