(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記板状部材のターゲット面側の表面は、前記スパッタリングターゲットに嵌め込んだ時に該スパッタリングターゲットのエロ―ジョン前のターゲット面とほぼ同じ高さであるか、または該ターゲット面より凹んだ位置に配されることを特徴とする、請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
前記板状部材のターゲット面側の表面粗さが、十点平均粗さRzにおいて10μm以上500μm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載のスパッタリングターゲット。
反応性ガスが供給される雰囲気下において、請求項1から4のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲットが装着されたスパッタリングカソードを用いて反応性スパッタリング成膜を行うことを特徴とするスパッタリング成膜方法。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、携帯電子文書機器、自動販売機、カーナビゲーション等に搭載されるフラットパネルディスプレイ(FPD)には、指やペンの先を表示画面に接触させて入力を行う「タッチパネル」の採用が普及している。「タッチパネル」は大きく分けて「抵抗型」と「静電容量型」があり、「抵抗型」のタッチパネルは、樹脂フィルムから成る透明基板上に成膜されたX座標(またはY座標)検知用の電極シートと、ガラス基板上に成膜されたY座標(またはX座標)検知用の電極シートとを、絶縁体スペーサーを挟んでこれら両電極シートが対向するように重ね合わせた構造になっている。そして、画面表示に従って透明基板の表面からペン等で押圧することで両電極シートが電気的に接触し、これにより当該押圧位置のX座標及びY座標が検知できるようになっている。
【0003】
他方、「静電容量型のタッチパネル」は、絶縁シートを挟んで対向するX座標(またはY座標)検知用の電極シートと、Y座標(またはX座標)検知用の電極シートとからなる積層体の上にガラス等の絶縁体が配置された構造になっており、画面表示に従って絶縁体の表面に指を近づけたときにその近傍のX座標検知電極及びY座標検知電極の電気容量が変化するため、当該指の位置のX座標及びY座標が検知できるようになっている。上記した「抵抗型」及び「静電容量型」のタッチパネルはいずれもペン等を移動させればその都度座標を認識することができるので、文字等の入力を行うことが可能な仕組みとなっている。
【0004】
上記した電極シートを構成する導電性材料として、特許文献1に記載のように従来からITO(酸化インジウム−酸化錫)等の透明導電膜が広く用いられている。この透明導電膜は、可視波長領域における透過性に優れるため電極等の回路パターンが殆ど視認されない利点を有するが、金属製の細線よりは電気抵抗値が高いためタッチパネルの大型化や応答速度の高速化には不向きな欠点を有する。
【0005】
そこで、特許文献2や特許文献3等に開示されているように、電気抵抗値が低いためタッチパネルの大型化や応答速度の高速化に適したメッシュ構造の金属製細線(金属膜)が近年のタッチパネルの大型化に伴って使用され始めている。しかし、金属製細線(金属膜)は可視波長領域における反射率が高いため、例え微細なメッシュ構造に加工したとしても高輝度照明下において回路パターンが視認されることがあり、製品価値を低下させてしまう欠点を有する。
【0006】
この透明基板側から視認される金属製細線(金属膜)の高い反射率を低減させて電気抵抗値の低い金属製細線(金属膜)の特性を生かすため、特許文献4や特許文献5に記載のように、樹脂フィルムから成る透明基板と金属製細線(金属膜)との間に金属酸化物から成る反応性スパッタリング成膜層(黒化膜とも称される)を介在させる技術が提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
先ず、本発明のスパッタリングターゲットを備えたマグネトロンスパッタリングカソードが用いられる成膜装置の一具体例として、
図1に示すような反応性スパッタリング法による連続成膜が可能なスパッタリングウェブコータ10について説明する。この
図1に示すスパッタリングウェブコータ10は、真空チャンバー11内においてロールツーロール方式で搬送される長尺樹脂フィルムFの表面に連続的に効率よく成膜処理を施す場合に好適に用いられる。
【0014】
具体的に説明すると、真空チャンバー11には、ドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の真空装置(図示せず)が組み込まれており、スパッタリング成膜の際にこれら真空装置により真空チャンバー11内を到達圧力10
−4Pa程度まで減圧を行った後、スパッタリングガスの導入により0.1〜10Pa程度に圧力調整できるようになっている。スパッタリングガスにはアルゴン等公知のガスが使用され、目的に応じて更に酸素等のガスが添加される。真空チャンバー11の形状や材質は、このような減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく種々のものを使用することができる。
【0015】
この真空チャンバー11内に、ロールツーロールで搬送される長尺樹脂フィルムFの巻出し及び巻取りをそれぞれ行う巻出ロール12および巻取ロール24、並びに該ロールツーロールの搬送経路を画定する各種ロール群が配置されている。上記各種ロール群のうち、ロールツーロールの搬送経路の略中央部に位置するキャンロール16は、モータで回転駆動され且つ内部に真空チャンバー11の外部で温調された冷媒が循環しており、これにより熱負荷のかかる成膜処理が施される長尺樹脂フィルムFを外周面に巻き付けて冷却できるようになっている。なお、キャンロール16が設けられている空間は、キャンロール16以外のロール群が設けられている空間から仕切板11aで隔離されている。
【0016】
巻出ロール12からキャンロール16までの搬送経路を画定するロール群には、長尺樹脂フィルムFを案内するフリーロール13、長尺樹脂フィルムFの張力の測定を行う張力センサロール14、及びモータ駆動の前フィードロール15がこの順で配置されている。キャンロール16から巻取ロール24までの搬送経路を画定するロール群も、上記と同様に、キャンロール16の周速度に対する調整が行われるモータ駆動の後フィードロール21、長尺樹脂フィルムFの張力の測定を行う張力センサロール22、および長尺樹脂フィルムFを案内するフリーロール23がこの順に配置されている。
【0017】
上記したキャンロール16の回転とこれに連動して回転する前フィードロール15および後フィードロール21により、長尺樹脂フィルムFは巻出ロール12から巻き出されて巻取ロール24で巻き取られるようになっている。その際、長尺樹脂フィルムFの張力バランスは、巻出ロール12および巻取ロール24のパウダークラッチ等によるトルク制御によって保たれる。また、前フィードロール15および後フィードロール21の周速度は、それぞれキャンロール16の周速度に対して調整できるようになっており、これによりキャンロール16の外周面に長尺樹脂フィルムFを密着させることが可能になる。
【0018】
キャンロール16の外周面に対向する位置には、キャンロール16の外周面上に画定される搬送経路(すなわち、キャンロール16の外周面の内、長尺樹脂フィルムFが巻き付けられる領域)に沿って成膜手段としてのマグネトロンスパッタリングカソード17、18、19および20がこの順に設けられている。これらマグネトロンスパッタリングカソード17〜20の各々は、長尺樹脂フィルムFの搬送方向における前方部分及び後方部分に、反応性ガスを放出するガス放出パイプ25、26、27、28、29、30、31、32が設置されている。
【0019】
次に、上記したマグネトロンスパッタリングカソード17、18、19および20について
図2の縦断面図を参照しながら詳細に説明する。この
図2に示すマグネトロンスパッタリングカソード40は、略直方体形状のハウジング41aと、その開口部を覆う矩形のハウジングカバー41bとからなる筐体41内に磁気回路42が格納された構造になっている。磁気回路42は、磁石42aとこれを裏側から支持するヨーク42bとで構成される。ハウジングカバー41bは、その磁気回路42と対向する面とは反対側の面に冷却板43が重ね合わされている。また、ハウジングカバー41bにおいて冷却板43と対向する面には冷却水などの冷媒が通過する冷却水路44が形成されている。なお、ハウジング41aとハウジングカバー41bとの間、およびハウジングカバー41bと冷却板43との間はOリングなどのシール材によってシールされている。
【0020】
この冷却板43において、ハウジングカバー41bに対向する面とは反対側の面に本発明の一具体例のスパッタリングターゲット45が設けられている。スパッタリングターゲット45の周縁部は段差が設けられており、この段差部に係合するクランプ46によってスパッタリングターゲット45は冷却板43に固着されている。スパッタリングターゲット45のターゲット面を除いてこれらスパッタリングターゲット45、筐体41、冷却板43、およびクランプ46の全体を包み込むようにアースシールド47が設けられており、ハウジング41aの底部は絶縁板48を介してこのアースシールド47に固着されている。すなわち、磁気回路42を格納する筐体41及びスパッタリングターゲット45は、アースシールド47に対して電気的に絶縁されている。
【0021】
かかる構造のマグネトロンスパッタリングカソード40は、前述したように真空チャンバー11内にスパッタリングターゲット45のターゲット面を被成膜物である長尺樹脂フィルムFに対向させて配置されている。スパッタリング成膜の際には、真空チャンバー11内を真空にしてからプロセスガスとしてArガスを導入する。この状態でスパッタリングターゲット45に電圧を印加すると、スパッタリングターゲット45から放出された電子によりArガスがイオン化し、このイオン化されたArガスがスパッタリングターゲット45のターゲット面に衝突してターゲット物質がたたき出され、このターゲット物質が被成膜物である長尺樹脂フィルムFの表面に堆積することにより薄膜が形成される。
【0022】
その際、スパッタリングターゲット45のターゲット面側ではポロイダル磁場が発生し、また、スパッタリングターゲット45には通常マイナス数百ボルトの電圧が印加される一方でその周辺部のアースシールド47はアース電位に保たれており、この電位差によりスパッタリングターゲット45のターゲット面側には直交電磁場が生ずる。スパッタリングターゲット45のターゲット面から放出された二次電子は、スパッタリングターゲット45のターゲット面上の直交電磁場に垂直な方向にサイクロイド軌道を描きながら運動する。この間にArガスと衝突してエネルギーの一部を失った電子は直交電磁場中をトロコイド運動し、ポロイダル磁場の中をドリフトして移動する。
【0023】
この間に電子は再度Arガスと衝突し、Ar+e
−→Ar
++2e
−で示されるように、α作用によりArイオンと電子を生成する。生成したArイオンは、シース領域に拡散すると負に印加されたスパッタリングターゲット45に向かって急激に加速される。数百eVの運動エネルギーを持ったArイオンがスパッタリングターゲット45に衝突すると、スパッタリングターゲット45はそのターゲット面がスパッタリングされてスパッタリング粒子を放出すると共にγ作用により二次電子を放出する。以上の現象がなだれ状に発生することによって、プラズマが維持される。
【0024】
スパッタリングカソード40内の磁気回路と電場によりトロコイド軌道を描きながら移動する電子は、磁力線がスパッタリングターゲット45のターゲット面と平行となる部分、即ち、磁力線と電場が直行する箇所に集中する。電子の集中により、電子とArガスの衝突が頻発するので、イオン化されたArガスによるターゲット物質のたたき出しが集中する。その結果、
図2に示すようにスパッタリングターゲット45のターゲット面の中央部と外周部を除いた領域にエロージョン(浸食)が発生し、該ターゲット面の中央部と外周部は非エロージョン領域となる。
【0025】
上記したスパッタリング成膜の場合、たたき出されたターゲット物質は、被成膜物である長尺樹脂フィルムFを被覆するほか、かかるスパッタリングターゲット45の非エロージョン領域にも付着し、パーティクル堆積物Aとなる。特に、スパッタリング成膜雰囲気中に酸素ガスや窒素ガスなどの反応性ガスを供給しながらスパッタリング成膜を行う反応性スパッタリングでは、パーティクル堆積物Aは、当該反応性ガスによってターゲットを構成する物質の酸化物や窒化物になるので、プラズマで生じたArイオンで侵食されにくい堆積物の状態で堆積する。このようにして堆積したパーティクル堆積物Aは、スパッタリング成膜中にスパッタリングターゲット45から剥離し、被成膜物である長尺樹脂フィルムFに付着したり、アーク放電の原因となる。そして、アーキングや異常放電により発生したパーティクルが長尺樹脂フィルムFに付着すると、電極等の回路パターンを形成する際に断線不良やショート不良を生じさせる。
【0026】
そこで、本発明の一具体例のスパッタリングターゲット45は、
図2および
図3に示すように、ターゲット面の中央部に位置する非エロージョン領域に溝45aが設けられており、この溝45aに板状部材49が着脱自在に嵌め込まれている。これにより、マグネトロンスパッタリングの際にスパッタリングターゲット45の非エロージョン領域に付着したパーティクル堆積物Aを板状部材49を取り外すことで容易に除去することができる。
【0027】
すなわち、非エロージョン部分に堆積した絶縁膜によるアーキングや剥離による異常放電が頻発する前に新しい板状部材49に交換することで、長尺樹脂フィルムFに付着するパーティクル量の増加を抑制することが可能となる。このように、本発明に係るスパッタリングターゲットを用いると、被成膜面である長尺樹脂フィルムの表面にパーティクル等の付着がないので、異物などが含まれない均質なスパッタリング膜を成膜できる。なお、本発明に係る板状部材を用いずに、スパッタリングターゲットの中央部の非エロージョン部分のパーティクル堆積物のみを除去することは困難であり、無理に除去しようとすると、パーティクル堆積物を除去する際にスパッタリングターゲットを汚染する恐れがある。
【0028】
非エロージョン領域は、前述したようにスパッタリングターゲットの外周部にも存在するので、中央部に設けた板状部材と同様の機能を有する部材を当該外周部に設けることも考えられる。しかし、スパッタリングターゲットの外周部であれば、例えば矩形枠形状のカバー部材を用いることでスパッタリングを阻害することなく容易に覆うことができ、これにより上記した中央部の非エロージョン領域に設ける板状部材と同様の機能が得られる。カバー部材は、クランプ46等にネジ等の結合手段で着脱自在に設けるのが好ましい。これにより、スパッタリングターゲットには中央部にのみ板状部材を設けるだけでよいのでスパッタリングターゲットの加工コストを抑えることができる。なお、スパッタリングターゲットの外周部にカバー部材を設けずに中央部にのみ板状部材を設けるだけでも、スパッタリング膜のパーティクル等の不具合が激減することを確認している。
【0029】
板状部材49のターゲット面側の表面は、スパッタリングターゲット45の溝45aに嵌め込んだ時にスパッタリングターゲット45のエロ―ジョン前のターゲット面(
図2の一点鎖線で示す)とほぼ同じ高さであるか、あるいはエロ―ジョン前のターゲット面より凹んだ位置にあるのが好ましい。換言すれば、板状部材49のターゲット面側の表面は、スパッタリングターゲット45のエロ―ジョン前の平坦なターゲット面より突出して凸状になっていないのが好ましい。板状部材49がスパッタリングターゲット45のエロ―ジョン前のターゲット面から凸状に突出していると、電場の状態が変化してアーク放電などの異常放電が発生したり、板状部材49のスパッタリングが促進され、長尺樹脂フィルムF上に成膜される膜の組成が所望の組成からずれることがあり、望ましくない。
【0030】
板状部材49は、スパッタリングターゲット45と同じ材料とすることが望ましい。スパッタリングターゲット45の材質が合金の場合は、当該スパッタリングターゲット45の合金組成を構成する一部の金属で板状部材49を構成してもよい。このように板状部材49の材質をスパッタリングターゲット45と同じ材質にしたり、スパッタリングターゲット45が合金の場合はそれらを構成する金属の一部の金属と同じものを用いたりすることで、仮に板状部材49がスパッタリングされることがあっても、長尺樹脂フィルムFの表面に成膜される膜が成膜中に板状部材49により汚染されることを防ぐことができる。なお、板状部材49は、ねじ等公知の取り付け手段でスパッタリングターゲットに取り付けてもよい。
【0031】
板状部材49のターゲット面側の表面は、表面粗さが十点平均粗さRzで10μm以上500μm以下であることが好ましく、Rz20〜100μmがより好ましい。板状部材49の上記表面粗さRzが10μm未満ではアンカー効果が低減し、パーティクル堆積物が脱離しやすくなる。一方、上記表面粗さRzが500μmを超えると、スパッタリングカソードへの印加電圧によっては板状部材49の表面の粗面の頂点で異常放電が発生しやすくなる。例えば、スパッタリングカソードの構造やスパッタリング装置の構造にもよるが、板状部材49の上記表面粗さRzが750μmの場合、スパッタリングカソードに500V印可すると異常放電することがある。なお、板状部材49の表面粗さは、ショットブラストあるいは溶射によって調整することができる。
【0032】
次に、上記した本発明の一具体例のスパッタリングターゲットを備えた成膜装置を用いて反応性スパッタリングを行うことにより得られる積層体フィルムおよび該積層体フィルムをパターニングすることで得られる電極基板フィルムについて説明する。上記した本発明の一具体例のスパッタリングターゲットを備えた成膜装置によって、後述するように樹脂フィルムからなる透明基板の少なくとも一方の面に、透明基板側から数えて第1層目の反応性スパッタリング成膜層と、第2層目の金属層とが積層された第1の積層体フィルムや、樹脂フィルムからなる透明基板の少なくとも一方の面に、透明基板側から数えて第1層目の反応性スパッタリング成膜層と、第2層目の金属層と、第3層目の第2反応性スパッタリング成膜層とが積層された第2の積層体フィルムを作製することができる。
【0033】
先ず第1の積層体フィルムについて説明すると、例えば
図4に示すように、この第1の積層体フィルムは、樹脂フィルムからなる透明基板50と、該透明基板50の両面に乾式成膜法(乾式めっき法)により成膜された反応性スパッタリング成膜層51と、この反応性スパッタリング成膜層51の上に乾式成膜法(乾式めっき法)により成膜された金属層52とで構成されている。そして、この反応性スパッタリング成膜層51の成膜に上記した本発明の一具体例のスパッタリングターゲットを備えた成膜装置を好適に用いることができる。上記金属層52の成膜は、
図4に示すように乾式成膜法(乾式めっき法)のみで成膜してもよいし、
図5に示すように乾式成膜法(乾式めっき法)と湿式成膜法(湿式めっき法)を組み合わせて形成してもよい。
【0034】
すなわち、この
図5に示す積層体フィルムは、樹脂フィルムからなる透明基板50と、該透明基板50の両面に乾式成膜法(乾式めっき法)により成膜された膜厚15〜30nmの反応性スパッタリング成膜層51と、該反応性スパッタリング成膜層51の上に乾式成膜法(乾式めっき法)により成膜された金属層52と、該金属層52の上に湿式成膜法(湿式めっき法)により成膜された金属層53とで構成される。
【0035】
次に、
図6を参照しながら第2の積層体フィルムについて説明する。この
図6の第2の積層体フィルムは、
図5に示した第1の積層体フィルムの金属層上に更に第2反応性スパッタリング成膜層を成膜したものである。具体的には、樹脂フィルムからなる透明基板60と、該透明基板60の両面に乾式成膜法(乾式めっき法)により成膜された膜厚15〜30nmの反応性スパッタリング成膜層61と、該反応性スパッタリング成膜層61上に乾式成膜法(乾式めっき法)により成膜された金属層62と、該金属層62の上に湿式成膜法(湿式めっき法)により成膜された金属層63と、該金属層63の上に乾式成膜法(乾式めっき法)により成膜された膜厚15〜30nmの第2反応性スパッタリング成膜層64とで構成される。
【0036】
上記した
図6に示す第2の積層体フィルムでは、金属層62および金属層63を一体とする金属層の両面に反応性スパッタリング成膜層61と第2反応性スパッタリング成膜層64を形成している。その理由は、該積層体フィルムを用いて作製された電極基板フィルムをタッチパネルに組み込んだときに金属製積層細線からなるメッシュ構造の回路パターンが反射して見えないようにできるからである。なお、樹脂フィルムからなる透明基板の片面に反応性スパッタリング成膜層を形成し、該反応性スパッタリング成膜層上に金属層を形成することで得られる第1の積層体フィルムを用いて電極基板フィルムを作製した場合にも、該透明基板からの上記回路パターンの視認を防止することが可能である。
【0037】
上記したように反応性スパッタリングを行う理由は、金属酸化物から成る反応性スパッタリング成膜層を成膜する目的で酸化物ターゲットを適用した場合、成膜速度が遅くなって量産に適さないからである。このため、高速成膜が可能なNi系の金属ターゲット(金属材)を用い、かつ、酸素を含む反応性ガスを制御しながら導入する反応性スパッタリング等の反応成膜法が採られている。なお、反応性ガスを制御する方法としては、(1)一定流量の反応性ガスを放出する方法、(2)一定圧力を保つように反応性ガスを放出する方法、(3)スパッタリングカソードのインピーダンスが一定になるように反応性ガスを放出する(インピーダンス制御)方法、および(4)スパッタリングのプラズマ強度が一定になるように反応性ガスを放出する(プラズマエミッション制御)方法の4つの方法が知られている。
【0038】
上記したように、成膜装置に反応性ガスを導入する反応性スパッタリング法により反応性スパッタリング成膜層を成膜する場合は、スパッタリング雰囲気となる反応性ガスはアルゴンに酸素を導入することで得られる。このように酸素を導入することで、Ni系の金属ターゲット(金属材)を用いた反応性スパッタリング等によりNiO膜(完全に酸化しているのではない)等とすることができる。反応性ガスの酸素含有量は、成膜装置や金属ターゲット(金属材)の種類に依存し、反応性スパッタリング成膜層における反射率等の光学特性やエッチング液によるエッチング性を考慮して適宜設定すればよく、一般的には15体積%以下が望ましい。
【0039】
反応性スパッタリング成膜層は、Ni単体、または、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cuより選ばれる1種以上の元素が添加されたNi系合金から成る金属材と酸素を含む反応性ガスを用いた反応成膜法により形成される。なお、上記Ni系合金としては、Ni−Cu合金が好ましい。また、反応性スパッタリング成膜層を構成する金属酸化物の酸化が進み過ぎると反応性スパッタリング成膜層が透明になってしまうため、黒化膜になる程度の酸化レベルに設定することを要する。
【0040】
なお、上記反応成膜法には上記した本発明のスパッタリングターゲットを用いたマグネトロンスパッタのほか、イオンビームスパッタ、真空蒸着、イオンプレーティング、CVD等を挙げることができる。また、反応性スパッタリング成膜層の各波長における光学定数(屈折率、消衰係数)は、反応の度合い、すなわち、酸化度に大きく影響され、Ni系合金から成る金属材だけで決定されるものではない。
【0041】
上記金属層の構成材料(金属材)としては電気抵抗値が低い金属であれば特に限定されず、例えばCu単体、若しくは、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Agより選ばれる1種以上の元素が添加されたCu系合金、またはAg単体、若しくは、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Cuより選ばれる1種以上の元素が添加されたAg系合金が挙げられ、特に、Cu単体が回路パターンの加工性や抵抗値の観点から望ましい。また、金属層の膜厚は電気特性に依存するものであり、光学的な要素から決定されるものではないが、通常、透過光が測定不能なレベルの膜厚に設定される。
【0042】
上記積層体フィルムに適用される樹脂フィルムの材質としては特に限定されることはなく、その具体例として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリカーボネート(PC)、ポリオレフィン(PO)、トリアセチルセルロース(TAC)およびノルボルネンの樹脂材料から選択された樹脂フィルムの単体、あるいは、上記樹脂材料から選択された樹脂フィルム単体とこの単体の片面または両面を覆うアクリル系有機膜との複合体が挙げられる。特に、ノルボルネン樹脂材料については、代表的なものとして日本ゼオン社のゼオノア(商品名)やJSR社のアートン(商品名)等が挙げられる。なお、本発明に係る積層体フィルムを用いて作製される電極基板フィルムは「タッチパネル」等に使用されるため、上記樹脂フィルムの中でも可視波長領域での透明性に優れるものが望ましい。
【0043】
上記したような第1または第2の積層体フィルムをパターニング処理して例えば線幅が20μm以下の積層細線に配線加工することで電極基板フィルムを作製することができる。例えば上記した第2の積層体フィルムから金属製のメッシュとしたセンサパネルを得る方法について説明する。なお、以下の説明では、金属製のメッシュとしたセンサパネルを電極基板フィルムと称する。具体的には、
図6に示す積層体フィルムの積層膜をエッチング処理して
図7に示すような電極基板フィルムを得ることができる。
【0044】
図7に示す電極基板フィルムは、樹脂フィルムから成る透明基板70と、該透明基板70の両面に設けられた金属製の積層細線から成るメッシュ構造の回路パターンを有し、上記金属製の積層細線が、線幅20μm以下でかつ透明基板70側から数えて第1層目の反応性スパッタリング成膜層71と、第2層目の金属層72、73と、第3層目の第2反応性スパッタリング成膜層74とで構成されている。
【0045】
積層体フィルムから電極基板フィルムに配線加工するには、公知のサブトラクティブ法により加工が可能である。サブトラクティブ法は、積層体フィルムの積層膜表面にフォトレジスト膜を形成し、配線パターンを形成したい箇所にフォトレジスト膜が残るように露光および現像し、更に上記積層膜表面にフォトレジスト膜が存在しない箇所の積層膜を化学エッチングにより除去する。化学エッチングのエッチング液としては、塩化第二鉄水溶液や塩化第二銅水溶液を用いることができる。
【0046】
このような電極基板フィルムの作製工程の観点から、積層体フィルムを構成する積層膜(反応性スパッタリング成膜層と金属層)は塩化第二銅水溶液や塩化第二鉄水溶液等のエッチング液によりエッチングされ易い特性を有するのが好ましい。また、エッチング加工された電極等の回路パターンは高輝度照明下において視認され難い特性を有することが好ましい。
【0047】
このようにして形成する電極基板フィルムの電極(配線)パターンをタッチパネル用のストライプ状若しくは格子状とすることで、本発明に係る電極基板フィルムをタッチパネルに用いることができる。その際、電極(配線)パターンに配線加工された金属製の積層細線は、積層体フィルムの積層構造を維持していることから、高輝度照明下においても透明基板に設けられた電極等の回路パターンが極めて視認され難い電極基板フィルムとして提供することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例について比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
[実施例]
図1に示すような成膜装置(スパッタリングウェブコータ)を用いて
図4に示すような積層体フィルムを作製した。キャンロール16には、直径600mm、幅750mmのステンレス製のロールを使用し、その外周面にはハードクロムめっきを施した。前フィードロール15および後フィードロール21は直径150mm、幅750mmのステンレス製のロールを使用し、その外周面にはハードクロムめっきを施した。
【0049】
各マグネトロンスパッタリングカソード17、18、19、20の上流側と下流側にガス放出パイプ25、26、27、28、29、30、31、32を設置した。マグネトロンスパッタリングカソード17、18には反応性スパッタリング成膜層用のNi−Cuターゲットを用いた。このNi−Cuターゲットのターゲット面の中央部の非エロージョン領域となる部分に、
図3に示すようにカソードの長手方向に延在する溝を形成し、ターゲット面側の表面の表面粗さが十点平均粗さRzで50μmとなるようにブラスト処理したCu製の板状部材をこの溝に嵌め込んだ。なお、板状部材のターゲット面側の表面とNi−Cuターゲットのターゲット面は同じ高さにした。一方、マグネトロンスパッタリングカソード19と20には通常の金属層用のCuターゲットを取り付けた。
【0050】
透明基板を構成する長尺樹脂フィルムFには幅600mmで長さ1200mのPETフィルムを用い、キャンロール16は0℃に冷却制御した。この状態で真空チャンバー11を複数台のドライポンプにより5Paまで排気した後、更に、複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて1×10
−4Paまで排気した。そして、搬送速度2m/分で長尺樹脂フィルムFを搬送させながら、ガス放出パイプ29、30、31、32から300sccmでアルゴンガスを導入し、カソード19と20については、Cu膜厚80nmが得られるように電力制御で成膜を行った。
【0051】
一方、反応性スパッタリング成膜層を形成すべくガス放出パイプ25、26、27、28からはアルゴンガス280sccmと酸素ガス15sccmとを混合した混合ガスを導入し、カソード17と18については、Ni−Cu酸化膜厚30nmが得られるように印加電圧500V付近での電力制御で成膜を行った。そして、3ロット毎に中央部の板状部材を新品に交換しながら、合計12ロットの積層体フィルムを作製した。得られた積層体フィルムをコンピューターの画像解析による画像検査装置で10μm以上のパーティクルの付着を確認したところ、平均53個/ロットのパーティクルが確認された。
【0052】
[実施例2]
Cu製の板状部材の表面粗さを十点平均粗さRzで10μmとした以外は実施例1と同様にして合計12ロットの積層体フィルムを作製した。得られた積層体フィルムにおける10μm以上のパーティクルの付着について実施例1と同様の方法で確認したところ、平均61個/ロットのパーティクルが確認された。
【0053】
[実施例3]
Cu製の板状部材の表面粗さを十点平均粗さRzで20μmとした以外は実施例1と同様にして合計12ロットの積層体フィルムを作製した。得られた積層体フィルムにおける10μm以上のパーティクルの付着について実施例1と同様の方法で確認したところ、平均55個/ロットのパーティクルが確認された。
【0054】
[実施例4]
Cu製の板状部材の表面粗さを十点平均粗さRzで200μmとした以外は実施例1と同様にして合計12ロットの積層体フィルムを作製した。得られた積層体フィルムにおける10μm以上のパーティクルの付着について実施例1と同様の方法で確認したところ、平均58個/ロットのパーティクルが確認された。
【0055】
[実施例5]
Cu製の板状部材の表面粗さを十点平均粗さRzで450μmとした以外は実施例1と同様にして合計12ロットの積層体フィルムを作製した。得られた積層体フィルムにおける10μm以上のパーティクルの付着について実施例1と同様の方法で確認したところ、平均58個/ロットのパーティクルが確認された。
【0056】
[実施例6]
Cu製の板状部材の表面粗さを十点平均粗さRz5μmとした以外は実施例1と同様にして合計12ロットの積層体フィルムを作製した。得られた積層体フィルムにおける10μm以上のパーティクルの付着について実施例1と同様の方法で確認したところ、平均130個/ロットのパーティクルが確認された。
【0057】
[比較例1]
反応性スパッタリング成膜層用のNi−Cuターゲットに従来のターゲットを用いたこと以外は実施例1と同様にして合計12ロットの積層体フィルムを作製した。得られた積層体フィルムにおける10μm以上のパーティクルの付着について実施例1と同様の方法で確認したところ、平均370個/ロットのパーティクルが確認された。
【0058】
1ロット1200mの積層体フィルムでは、10μm以上のパーティクル数は少ない方が望ましく、具体的には150個/ロット以下ならば実用上問題が発生しにくいが、100個/ロット以下がより望ましい。上記の通り、本発明に係るスパッタリングターゲットを用いた実施例1〜6では、10μm以上のパーティクル数を150個/ロット以下に抑えることができた。一方、従来のスパッタリングターゲットを用いた比較例1では、150個/ロットよりも2倍以上多い10μm以上のパーティクル数が生じていた。